NJSLYR> ネオサイタマ炎上 - 目次

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NJSLYR> マシン・オブ・ヴェンジェンス #1

111105

第一部「ネオサイタマ炎上」より:「マシン・オブ・ヴェンジェンス」 1
posted at 13:03:25

……男はうつむき、物思いにふけっているようでもあった。男の両腕は血で汚れていた。おそらくは、彼の周囲に倒れている五人の返り血だ。五人とも既に死んでいることは明らかだ。重金属を含んだ雨が、濁った血液を洗い流していく。 2
posted at 13:06:58

死んでいる者らのうち、四人はダークスーツ姿で、一人は頭部の左半分を破壊されていて定かでないが、まるで四つ子のように、同じ髪型、同じ顔立ちをしているようだった。クローン・ヤクザなのだ。もう一人は?……ニンジャである。そして一人うつむいて死体を見下ろす男もまた、ニンジャだ。 3
posted at 13:10:19

ヒュンヒュンヒュンヒュン。巨大な推進音が接近し、上空がにわかに明るくなった。ニンジャは顔を上げた。繁華街の退廃的なネオン看板……「おなしやす」「カボス」「良く犬」「コケシマート」といった極彩色の文字群の向こう、夜空を斜めに横切る飛行船あり。ニンジャはその鋼鉄の下腹を睨んだ。 4
posted at 13:20:06

「安い、安い、実際安い」「この飛行船は広告目的であり、怪しくは無い。安心です」欺瞞の言葉を周囲に撒き散らしながら、飛行船はサーチライトを投射し、対象を探している。「……」一秒後、ニンジャは高く跳躍し、ネオン看板を蹴りながらビルの屋上へ飛び移った。そのまま駆け出した。 5
posted at 13:26:24

-------- マシン・オブ・ヴェンジェンス -------- 6
posted at 13:27:39

トレンチコートの男が近づくと、配管の陰に潜んでいた小男がのろのろと立ち上がった。トレンチコートの男は目深にハンチング帽を被り、若いのか年寄りなのか、それすら定かでない。男は両手を胸のところで組み合わせた。「ドーモ」小男も同様にアイサツを返す。「ドーモ」 7
posted at 13:35:50

アイサツ……トクガワ・エドの治世から数百年が経過した今となっても、この極東のハイ・テック国家には「義」「礼」と呼ばれる価値観が連綿と生きている。自らを卑しめ、相手を尊ぶ。この国家では何より調和こそが重んじられる。たとえそれが、薬物中毒者と売人のようなマケグミの間であってもだ。 8
posted at 13:46:05

「ドーゾ」トレンチコートが数枚の紙幣を小男に握らせる。紙幣には武田信玄がプリントされている。「ドーモ」小男は引き換えに、小さな薬包を手渡した。「イイー、とてもイイー、メン・タイが入ったヨ。ビックリしちゃうと思うヨ。バイオね、バイオの力ね」 9
posted at 13:51:23

トレンチコートの男はその場で薬包を破き、中に収められた赤い錠剤を六錠、まとめて口に含むと、ボリボリと噛み砕いた。「ハッヒャ!」ネズミめいた小男は大げさに驚いて見せた。「あなた命知らず人よ。イッキ?イッキの?それ実際効きすぎてあなた大変大変よ。千手観音見えるか?ヤバイ?」 10
posted at 13:55:49

「効かんな」トレンチコートの男は水無しで錠剤を飲み下し、無感情に言った。小男はヘラヘラ笑い、「あなた命知らずほどよ!千手観音クルじゃないか?ね?」「……これが奴らの金脈か」「え?」小男が眉根を寄せた、その時!トレンチコートの男の目がギラリと光った! 11
posted at 14:03:59

「イヤーッ!」「グワーッ!?」トレンチコートの男はいきなり前蹴りを繰り出した。顔面を蹴られ、小男はアスファルトを転がる!前歯が全て折れて無惨に散らばった!「アイエエエ!アイエエエ狂人!」すかさずトレンチコートの男は小男の首根を掴み、吊り上げる! 12
posted at 14:08:20

「何の?あなた何してるの?オーバードーズか?あなたハイか?」トレンチコートの男は答える代わりに、被っていたハンチング帽を脱いだ。その下にあったのは、赤黒いニンジャ頭巾、そして禍々しいメンポ(訳注:面頬。鼻から下を覆う金属覆面)であった!「クスリは効かぬ!」「アイエエエ!?」 13
posted at 14:17:36

「ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」小男はもがいた。「ソウカイヤの人?」『ソウカイヤ』の名前が出た瞬間、ニンジャの目は大きく開いた。小男が泣き叫ぶ。「アイエエエ!なんで私とこ来るの?私いつも頑張ってる!明朗会計、ごまかし無いよ!8時間残業よ!実際優良業者よ!ヒドい事これは!」 14
posted at 14:25:33

ニンジャは小男をなお高く吊り上げる。無慈悲!「頑張っている?頑張って中毒者を増やし、金を吸い上げ、ソウカイヤへ上納か!」「だってあなたソウカイヤでしょ!ニンジャでしょ!なぜ!?」ニンジャは泣き言を無視した。「答えろ。メン・タイの仕入れ元の所在。さもなくば殺す」「アイエエエ!」15
posted at 14:36:06

小男はイヤイヤをした。「し、知らない決まりよ。ソウカイヤのエージェントいつもあなたみたいな覆面。ニンジャね。あなたニンジャなのに何探すか?何故の?ニンジャ同士仲間割れの?」ニンジャは答えず、小男を地面に投げ捨て、背中を踏みつけた。「とぼけるな」「アイエエエ!」 16
posted at 14:49:16

「私がお前を見出すために、どれだけ綿密な下調べをしたと思っている。口先のアワレでごまかせると思うな。答えろ」「言ったら殺されるよ!お慈悲よ!」「慈悲は無い!」ニンジャが爪先に力を込める!「アイエエエエ!アイエエエエ!言うーよー!アイエエエー!」 17
posted at 14:52:12

--------- 18
posted at 14:56:28

打ち捨てられた第三埠頭の暗闇に、ぽつりぽつりと重金属の雨が降り出した。毒性の風雨に長く曝されたコンクリートは、さながらネズミにかじられたレンコンを思わせる。そこへ今、黒塗りの家紋タクシーが、ドリフトしながら姿を現す。家紋タクシーは特定のヤクザクランに仕える忠実な足なのだ。 19
posted at 15:02:17

そして、フットボールのペナルティキックめいて横一列にこれを待ち構えていたのは、スキンヘッドの黒人ヤクザ達、全部で十人だ。ユニフォームめいたスタジアムジャンパーには、漢字で呪術めく「横浜御縄談合」の銀刺繍。ただならぬ剣呑アトモスフィアが、家紋タクシーを出迎える。 20
posted at 15:10:48

彼らこそ、スキンヘッドの黒人ヤクザのみで構成されたヤクザクラン「ヨコハマロープウェイクラン」……ジェットスキーにまたがりマグロ漁船を棍棒で襲う、血も涙もない凶悪集団である。彼らの視線下、家紋タクシーはエンジンを停め、そのドアを一斉に開いた。 21
posted at 15:24:03

「……!」黒人ヤクザ達は息を呑んだ。タクシーを降りた四人はまるで四つ子のように同じ髪型、同じ顔立ち、同じサイバーサングラスをかけ、同じダークスーツを着込み、同じ家紋をネクタイに刺繍していたのだ。「ワッザ?クローンヤクザ?」リーダー格の黒人ヤクザが呟いた。 22
posted at 15:58:53

「……」黒人ヤクザ達は互いに目を見合わせる。ヨロシサン製薬が生み出した、同一遺伝子を持つクローンのヤクザ……実用化の情報は業界に流れていたが、その目で見たのは初めてだったのだ。だがリーダー格の黒人ヤクザはツバを吐き捨て、不敵に切りだした。「時間を守るのが日本人の美徳だろ」 23
posted at 16:14:16

「ドーモスミマセン」四人のクローンヤクザは一斉にオジギした。「ドーモ」「ドーモ」黒人ヤクザ達もアイサツに応えた。今にも争いが始まり兼ねない空気であるが、礼儀作法は大事だ。「……メン・タイ仕切り値どういう事だエエッ?」オジギの頭を上げながら、リーダー黒人ヤクザが凄んだ。 24
posted at 16:20:19

「仕切り値は上げさせていただきます。ロシアとの為替ですね」クローンヤクザが冷たく言った。「ザッケンナコラー!」リーダー黒人ヤクザがヤクザスラングを叫んだ。コワイ!「テメッコラー!ボーシッ!トーリー、ボーシッ!」コワイ!善良なネオサイタマ市民であれば失禁するであろう! 25
posted at 16:26:59

だが、四人のクローンヤクザは同時に肩を震わせて挑戦的に含み笑いをし、同時にサイバーサングラスを指で直すと、同時に家紋タクシーを振り返り、同時に言った。「「「「センセイ、ドーゾ」」」」 車内には運転手の他にもう一人残っていたのだ。現れたのは灰色のスーツ姿の、痩せた男である。 26
posted at 17:42:38

灰色スーツの男は素早くオジギをした。「ドーモ、エート、あなたはスミス=サン?はじめまして、アーソンです」「ドーモ、スミスです」リーダー黒人ヤクザはオジギを返した。「アーソン(放火犯罪)?ホー、ホー、ホー」馬鹿にしたように笑う。「冗談か?その名前。そのマスクは何だよ?」 27
posted at 17:49:10

「冗談ではありせんよ、スミス=サン」アーソンはこっくりと頷いた。「ソウカイヤは冗談は嫌いです。仕切り値もシリアスです」「ホー、ホー、ホー」スミスが侮蔑的に笑った。彼がアゴで命じると、部下の中で一番体格のいい黒人ヤクザが進み出た。その手に棍棒を弄んでいる。「俺も冗談は嫌いさ」 28
posted at 17:55:16

「ハッハー!ハッハァー!」体格のいい黒人ヤクザは威圧的に棍棒を振り回した。スミスが肩をすくめ、「アンドレは元野球選手だ。まあ見てやってくれよ」ニヤニヤと笑った。アーソンは眉一つ動かさない。アンドレは素振りを繰り返した。アーソンの顔のすぐ横で棍棒をピタリと止める。風圧! 29
posted at 18:05:03

「ハッハァー!ハッハァー!」また素振りだ。アーソンの顔の横で棍棒をピタリと止める。風圧!だがアーソンは微動だにしない。クローンヤクザも制止せず、じっと見守っている。黒人ヤクザ達が面白そうに笑った。「内心ビビりあがってやがる!」「ひひひ!アンドレ!ほどほどにな!」 30
posted at 18:09:27

「ハッハァー!ハッハァー!」また素振りだ。アンドレは棍棒をアーソンの顔の横「イヤーッ!」「アバーッ!?」黒人ヤクザ達の笑いが凍りついた。「アンドレ?」スミスが呟いた。……アンドレの頭はどこへ行った? 31
posted at 18:11:50

「……シューッ」アーソンは息を吐き出した。その右脚は斜め上にまっすぐ伸ばされ、静止している。彼は片足立ちの姿勢のまま、ぴくりとも動かず、スミスを睨みつけた。「え?」スミスが瞬きした。首無しのアンドレの手から棍棒が落ちた。そしてシャンパンめいて鮮血が噴き出し、大の字に倒れた。 32
posted at 18:17:04

「アンドレ?」スミスが繰り返した。答える代わりに、片足上げ姿勢のまま、アーソンは空中を顎で示した。キャッチャーフライめいて夜空をくるくると回りながら飛んでいるのは、ナムサン、アンドレの頭部である!アンドレの頭はスミスの足下に落下して、コロコロとアスファルトに転がった。 33
posted at 18:22:36

「ア……ア……」事態を悟ったスミスが、ガタガタと震え出す。さっき網膜に焼きついた光景が時間差で記憶に刻みつけられる。蹴り。アーソンの蹴りが。アンドレの首を刎ねたのだ。「ソウカイヤを」アーソンが低く言った。「ナメてはいけない。ワカリマシタカ」「アイエエエ!」 34
posted at 18:27:26

「サノバビッチ!」黒人ヤクザの一人が激昂してマシンガンを構えた。「バカ、やめ……」スミスは慌ててやめさせようとするが、恐怖でパニックを起こした彼はアーソンめがけて引き金を引く!乱射される銃弾!「ウオオー!」さらに一人の黒人ヤクザがそれに続いてマシンガンを構え引き金を引く! 35
posted at 18:31:12

「イヤーッ!」アーソンが駆け出した。銃弾が当たらない!「ワッザ……」「イヤーッ!」アーソンが乱射黒人ヤクザの懐に潜り込み、腹部にやすやすとパンチを叩き込む。「グワ、アバーッ!?」 乱射黒人ヤクザの体がいきなり松明めいて燃え上がった!死亡!ナムアミダブツ!一体これは!? 36
posted at 18:40:00

「ウオオー!」もう一人の乱射黒人ヤクザが口から泡を吹いてマシンガンを撃ち込む!だが銃弾はまるで当たらない!アーソンが潜り込む!「イヤーッ!」「グワ、アバーッ!」やはり胴体にパンチを受けたこの黒人ヤクザも松明めいて燃え上がり死亡!ナムアミダブツ!「アイエエエエ!」 37
posted at 18:47:35

スミスは失禁しながら膝をつき、地面に額を擦り付けた。ドゲザである!「ニンジャ……ニンジャ……!」スミスは失禁ドゲザしながら譫言めいて繰り返した。殴ったら燃えた……こんな芸当が出来るのはニンジャ以外に無い!あれは、ニンジャのジツだ!他の七人もスミスにならいドゲザ!当然失禁! 38
posted at 18:58:56

「これは恭順のサインか」アーソンはスミスの頭をためらいなく踏みつけた。「ハイ。ゴメンナサイ」「誰にも間違いはある。無知ゆえの増長もな。ソウカイ・ニンジャはブラフではない。実在するのだ。身をもってわかったろう」「ハイ。ゴメンナサイ」「今後ともヨロシクお願いします」「ハイ……」 39
posted at 19:32:32

……事が終わると、四人のクローンヤクザとアーソンはしめやかに家紋タクシーに乗り込んだ。「おつかれさまです」運転手は控えめに呟いた。「トコロザワ・ピラーに出せ」アーソンが後部座席に背中を沈め、厳かに言った。「ヨロコンデー」運転手は控えめに呟き、車を発進させた。 40
posted at 19:37:02

「……」アーソンはルームミラーにうつる鏡像を凝視した。運転手は目深に帽子をかぶり、淡々とハンドルを操作している。「人が変わったか?先週と違うな」アーソンが言った。「ええ。カメジは退職しました」「そうか」「ええ」ウインカーを出し、繁華街にハンドルを切る。 41
posted at 19:46:05

「おい。ルートが違うぞ」アーソンがとがめた。「バカめが」「スイマセン」運転手が淡々と謝罪した。「でもこれでいいんです」「何?」「トコロザワ・ピラーじゃないです、行き先は」車内の空気がどろりと濁る。「何だと?」アーソンが問いつめた。運転手は無感情に言った。「行き先は地獄ですよ」42
posted at 19:46:11

ルームミラー越しに、運転手の双眸がアーソンを射抜いた。「何?」「ニンジャ」ネオン看板が投げかける明かりが、帽子の下のメンポを光らせる……「ニンジャ。殺すべし」 43
posted at 19:47:15

(第一部「ネオサイタマ炎上」より:「マシン・オブ・ヴェンジェンス」#1 終わり。#2へ続く) 44
posted at 19:48:44

(親愛なる読者の皆さん:先ほどアーソンの名前が一時的に間違うインシデントが発生しましたが、巻き戻しにより回避されました。なお失敗を犯した担当者は「このようなインシデントも新規の読者に体験してもらうべきと判断した」と愚にもつかぬ事を言っているので、水牢に送りました。ご安心ください)
posted at 19:49:54

(親愛なる読者のみなさん: 本日は二本立てです。ゼン空間の準備が整いました。後ほど「デス・フロム・アバブ・セキバハラ」が開始されます。これは「シー・ノー・イーヴル・ニンジャ」から続くエピソードです。イグゾーションに敗れたニンジャスレイヤーの運命は!?お楽しみに!Wasshoi!)
posted at 19:52:43

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 22:12:59

NJSLYR> マシン・オブ・ヴェンジェンス #2

111106

第一部「ネオサイタマ炎上」より:「マシン・オブ・ヴェンジェンス」#2
posted at 17:16:08

家紋タクシーは急加速!地獄へ向かう黒いキャノンボール棺桶と化した車体は時速200キロを超えて繁華街を切り裂く。その直線上にあるのはロータリーの突き当たりに建つ「オカメ武力」ビルだ!ナムサン!ちなみにこのビルはソウカイヤが土地ころがしのために購入した、実態無き無人ビルである! 1
posted at 17:20:44

「何を……何をする!」アーソンがうろたえた。ニンジャといえどこの事態は不測だ。「ザッケンナコラー!」助手席のクローンヤクザがチャカ・ガンを運転手に突きつける。「イヤーッ!」「グワーッ!」運転手の片手が一閃、クローンヤクザの手首が切断された! 2
posted at 17:24:52

「このまま死ね!」運転手は言い放ち、爆走する家紋タクシーの運転席ドアを強引に開いて車外へ転がり出る。アスファルト上で彼は巧みな受け身をとり、無傷で膝立ちに着地。「オカメ武力」ビルに自殺突進する家紋タクシーを見送った。「アイエエエ!」事態を目撃した酔漢が悲鳴を上げ、逃げる! 3
posted at 17:29:00

カブーム!ビルに正面から突入する家紋タクシー!ビルは支柱を砕かれたか、白煙を巻き上げてつぶれてゆく。安普請か!家紋タクシー車内に残された五人は全員死亡……否!彼らは衝突の直前になんとか車外に脱出を成功させていた。だが、手首を失っていたクローンヤクザは脱出時に大きく負傷! 4
posted at 17:32:59

「貴様、どこのアサシンだ……」アーソンが突き進む。ドウン!その背後で一際派手な爆発炎上!クローンヤクザ達は既にアサルトライフルやチャカ・ガンを構えていた。「ザッケンナコラー!」一斉砲火!運転手は仁王立ちだ。銃弾の嵐の中でその運転手スーツと帽子がズタズタに破けてゆく。 5
posted at 17:40:06

破け去った制服の下から現れたのは……赤黒のニンジャ装束である!ゴウランガ!ニンジャである!当然のごとく無傷!「ニンジャ!?」アーソンが眉根を寄せた。彼もまた灰色のスーツを脱ぎ捨てていた。一瞬後、そこにはダークオレンジのニンジャがいた!二人のニンジャが対峙する! 6
posted at 17:45:10

「ドーモ、はじめまして。ニンジャスレイヤーです」先手を打ちオジギしたのはニンジャスレイヤーだ。「ニンジャスレイヤーだと!?貴様がそうだというのか」アーソンは目を見開く。そしてオジギを返した。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。アーソンです」 7
posted at 17:52:09

二者の間にのっぴきならぬ殺気が瞬時に膨れ上がる。当然、この後始まるのは凄惨な殺し合いだ。しかし、アイサツは決しておろそかに出来ないニンジャの礼儀だ。古事記にもある。クローンヤクザはすぐにでもニンジャスレイヤーを銃撃する構えであったが、アーソンの迫力がそれを許さなかった。 8
posted at 18:07:29

「まさか実在していたとは。負け犬どもがでっち上げたケジメ逃れの方便とばかり」アーソンは鼻で笑った。ニンジャスレイヤーはジュー・ジツの構えをとった。「……安心せよ。オヌシもこのあと負け犬となる。私がオヌシのカラテを破り、殺すからだ」 9
posted at 18:12:58

ネオン看板の明かりが、彼のメンポに彫り込まれた「忍」「殺」の二文字を照らし出す。なんたる恐怖をあおる字体!「……ニンジャ殺すべし」彼は死神そのものの声で宣告した!「ぬかせ!」アーソンが仕掛ける!「イヤーッ!」ジグザグに駆けながら、彼は拳を振り上げる。ダッシュストレートだ! 10
posted at 18:27:11

その名が暗示するがごとく、アーソンが得意とするのはカトン・ジツの一種。殴った相手を超自然の発火現象で燃やして殺す、残虐な暗殺技だ。アーソンは己の技に絶対の自信を持っていた。(ニンジャスレイヤー?ふざけた名前を。害虫は駆除して今度の査定の足しにしてやる!)彼は拳を突き出す! 11
posted at 18:32:07

「イヤーッ!」速い!おそるべき拳速!だがそこにニンジャスレイヤーの身体は無い!「何!」アーソンは息をのんだ。ニンジャスレイヤーは瞬時に上体をそらし、ブリッジして攻撃を回避したのだ!なんたるニンジャ敏捷性!そしてこれは攻撃の予備動作でもあった。ニンジャスレイヤーの脚が霞む! 12
posted at 18:35:39

「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは逆立ちしながらヘリコプターめいて両脚を振り回し、アーソンの顎を斜めに蹴り上げた!キリモミ回転して吹き飛ぶアーソン!「ザッケンナコラー!」「スッゾオラー!」すかさず四人のクローンヤクザがニンジャスレイヤーを銃撃!「イヤーッ!」 13
posted at 18:38:49

「グワーッ!」その瞬間なぜかクローンヤクザの一人が脳天に銃弾を受けて即死!ナムサン、ニンジャスレイヤーの素早い回し蹴りが銃弾を弾き返し、それが手近の一人に撃ち込まれたのだ!「グワーッ!」さらに一人が即死!脳天に刺さったのはスリケン!回し蹴りの勢いでスリケンを投げていたのだ! 14
posted at 18:46:04

「ザッケンナコ…」「イヤーッ!」ライフルのカートリッジを交換しようとしたクローンヤクザの首が不自然な角度に曲がり即死!瞬時に懐へ駆け込んだニンジャスレイヤーがチョップで首骨を叩き折ったのだ!「スッゾ…」「イヤーッ!」最後の一人は何もできぬうちに肘鉄で左の頬骨を砕かれ即死! 15
posted at 18:54:52

「バカな、バカな!」アーソンが呻いて立ち上がる。「何者だ貴様!目的は何だ!」ニンジャスレイヤーはツカツカと早歩きで近づく。「オヌシらニンジャは一人として生かしておかぬ」「救援がここへ向かっている!テロリストめ、死ぬのは貴様だぞ!」「ニンジャ殺すべし!」 16
posted at 19:02:36

「イヤーッ!」手負いのアーソンが捨て身めいて殴りかかる。だがニンジャスレイヤーは左手をその拳に添えるように当て、最小限の動作で逸らしてしまった。当たらねばアーソンのカトン・ジツは意味が無い!「イヤーッ!」「グワーッ!」アーソンが身体を折り曲げ、震えた。「グワ、アバッ……」 17
posted at 21:56:46

前屈みになったアーソンの背中からは、ナムアミダブツ……ニンジャスレイヤーの腕先が生えている。ジゴクめいたチョップ突きがアーソンの胴体を貫通し、反対側から飛び出したのだ!「本当だぞ、アバッ」アーソンのメンポの呼吸孔から血がこぼれる。「救援がもうこの場所へ向かってきている」 18
posted at 21:59:12

「望むところだ」「きゅ、救援を退けたとしても」アーソンの呼吸がみるみるうちに荒くなってゆく。「より強力なニンジャ戦士が……そしてダークニンジャ=サンが、貴様の存在を許さぬだろう」「私は貴様らの存在を許さぬ」ニンジャスレイヤーは腕先を引き抜いた。「イヤーッ!」「アバーッ!」 19
posted at 22:08:05

メンポと傷穴から鮮血を迸らせ、アーソンが倒れる。ニンジャスレイヤーの足元には早くも五人の敵全てがむごたらしく斃れていた。彼はまるでそれが日常見慣れた光景であるかのように、無感情な目で見下ろすばかりだ。戦闘はあっという間に終結した。だが、見よ!アーソンの言葉に嘘は無かった。20
posted at 22:14:35

ヒュンヒュンヒュンヒュン。巨大な推進音が接近し、上空がにわかに明るくなった。彼は顔を上げた。繁華街の退廃的なネオン看板……「おなしやす」「カボス」「良く犬」「コケシマート」といった極彩色の文字群の向こう、夜空を斜めに横切る飛行船あり。彼はその鋼鉄の下腹を睨んだ。 21
posted at 22:16:45

「安い、安い、実際安い」「この飛行船は広告目的であり、怪しくは無い。安心です」欺瞞の言葉を周囲に撒き散らしながら、飛行船はサーチライトを投射し、対象を探している。「……」一秒後、ニンジャスレイヤーは高く跳躍し、ネオン看板を蹴りながらビルの屋上へ飛び移った。そのまま駆け出した。22
posted at 22:18:17

キュイイイ、夜空を切り裂く不穏な稼働音。レーザー光が走るニンジャスレイヤーを補足する。ドウン!爆音を伴い、飛行船がニンジャスレイヤーを砲撃する。アンタイ・ニンジャ砲弾だ!ニンジャスレイヤーは回転ジャンプして回避。彼が一秒前に足場としていたビル屋上が爆発破砕! 23
posted at 22:24:16

ナムサン!実際これはソウカイヤの差し向けた対ニンジャ飛行船だ。ソウカイヤの本拠地であるトコロザワ・ピラーの管制部は、IRC送信されたアーソンのアラートにきわめて迅速に反応、マグロツェッペリンに偽装した兵器を発進させていたのだ!見よ!船体のマグロ外装が展開し、変形してゆく! 24
posted at 22:30:39

「この飛行船は広告目的であり怪しくは無い。デモンストレーションで頼もしさを重点し広告効果が倍増される」欺瞞的なマイコ音声をスピーカーで下の繁華街へ投げかけ、マグロの下から現れたのは……ゴウランガ!憤怒の形相の鬼瓦ツェッペリン形態だ!コワイ!「爆発で広告効果が倍増」……欺瞞! 25
posted at 22:35:07

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posted at 22:42:28

◆休憩◆貴方?筒◆ http://t.co/3Hf6zDzC ◆"LEO IMAI - Metro" ◆
posted at 22:59:16

トコロザワ・ピラー、天守閣。  27
posted at 00:58:51

ウシミツアワーのネオサイタマ夜景は、貪婪なブッダデーモンの宝石箱めいて、闇の中に七色の美を浮かび上がらせる。この幻想美は、その実、深夜まで働き続ける疲れ果てた労働者によって灯された明かりだ。この美を高所から無責任に楽しむ事が許されるのは支配階級だけだ……すなわち彼のような。 28
posted at 01:04:54

タタミ玉座でワイングラスを手に寛ぐ彼こそ、このトコロザワ・ピラーに居を構えるネコソギファンド社主、ソウカイ・シンジケートの首魁……ラオモト・カンその人である。黄金メンポと鎖頭巾、アルマーニのスーツを身につけた彼は、今宵も玉座の傍らに四人の金髪白人オイランを侍らせていた。 29
posted at 01:09:22

彼がワイングラスを口元へ運ぶと、高機能の黄金メンポはセンサーを働かせ、自動的に開閉する。膝元にしなだれかかったオイランの一人が淫靡なキモノをはだけると、豊満な胸の谷間にはオーガニック・グレープが挟まれている。彼はそれを一粒つまみ、オイランのみずみずしい唇にふくませた。 30
posted at 01:15:18

オイランはグレープの皮を唇で器用に剥き、透き通った果実を露出させると、舌の上に乗せてラオモトに差し出した。「ムッハハハハ!」ラオモトは満足げにそれをつまみ取り、ワインとともに嚥下した。そして手元にある極薄型の液晶モニタに注目した。モニタが映し出すのは機内映像である。 31
posted at 01:19:38

『ドーモ、機長のキンジマです』ものものしい高高度防護服に身を包んだキンジマが、モニタ越しにうやうやしくオジギした。そのヘルメットには雷神を象徴するオムラ・インダストリの社章が描かれている。オムラは日本の重工業分野を独占する暗黒メガコーポであり、ソウカイヤとの繋がりも深い。 32
posted at 01:25:12

『対象ニンジャ存在を捕捉しましてございます』キンジマは言った。「よいぞ」ラオモトは頷いた。キンジマの斜め後ろには目立たない存在が片膝をついている。ニンジャだ。航空ヘルメットめいたメンポをつけたこのニンジャも、やはりオムラ社章を額にいただく。ニンジャは微動だにしない。 33
posted at 01:29:57

『我が社の戦闘鬼瓦飛行船”ブブジマ”の圧倒的火力を、こんなにも早く御目にかける事ができようとは、感激の至りであります』機長はへつらった。『御身におかれましても、今宵この目覚ましい戦闘能力をご覧めされれば、必ずやマッポへの正式配備への働きかけも……』「無礼者」『アイエッ!?』 34
posted at 01:40:15

モニタ越しに一喝され、機長は恐怖のあまり痙攣した。まず間違いなく失禁しているであろう。ラオモトは言う。「これは余興だ。ビジネスの話をせよと誰が言った。そんなものはこちらがやりたい時にやる」『まったくでございます!絶対にまったく!』機長は座席から転がり落ちるようにドゲザした。 35
posted at 01:41:03

ラオモトはしかし機長の必死のドゲザなど見てはいない。彼は飲み干したワイングラスを、オイランの寄せた胸の谷間に挟み込む。グレープがつぶれ、白い乳房を紫色の果汁が汚す。ラオモトは少し離れた位置でしなを作る残る三人のオイランに手で合図した。三人はクスクス笑い、互いに愛撫を始めた。 36
posted at 01:45:15

「見せてみよ、その玩具の働きを。せいぜいワシを楽しませてくれ」ラオモトはモニタを見ずにぞんざいに言った。そして玉座脇のちょうどよい高さに置かれた重箱に満載されたオーガニック・スシをつまんだ。脂したたるようなトロマグロ・スシである。彼は一度に二つ食べた。 37
posted at 01:51:52

--------- 38
posted at 01:53:18

キュイイイイ!レーザー走査光が再び繰り出される。ニンジャスレイヤーはビルからビルへ飛び移りながら、徐々にその距離を詰めようとする。だが鬼瓦ツェッペリンはかなり頭上だ。どうするニンジャスレイヤー?そして再びアンタイ・ニンジャ砲が放たれる!カブーン!やはりギリギリで跳んで回避! 39
posted at 01:57:39

チチチチチ!さらに別種のレーザー走査光だ。数秒後、その正体が判明する。ミサイルのロックオンだ!鬼瓦ツェッペリンから一度に4発のミサイルが発射され、夜空に白い飛行軌道を残しながらニンジャスレイヤーへ殺到する!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはキリモミ回転ジャンプ! 40
posted at 02:00:44

カブーンカブーンカブーンカブーン!ミサイルはコンマ5秒後に立て続けに自爆!キリモミ跳躍時に連続で投げつけた迎撃のスリケンがミサイルを全て撃ち落としたのだ!ニンジャ動体視力をもってすれば、通常速度の追尾ミサイルなど蚊を叩き潰すより容易!「イヤーッ!」さらにスリケンを連続投擲! 41
posted at 02:03:54

チュン!チュンチュン!上空でかすかに火花が煌めき、金属音が聞こえてくる。スリケンが鬼瓦ツェッペリンに連続命中しているのだ。ドウン!発射されるアンタイ・ニンジャ砲!「イヤーッ!」ナムサン!ニンジャスレイヤーが跳躍した直後に、そのビルが爆発破砕! 42
posted at 02:07:57

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」さらにニンジャスレイヤーはキリモミ旋回しながらスリケンを連続投擲!鬼瓦ツェッペリンに火花が輝き、バチバチと弾ける。鬼瓦ツェッペリンが不安定に揺れ始める。ニンジャが投げるスリケンは単なる石ツブテとはわけがちがうのだ! 43
posted at 02:10:58

-------- 44
posted at 02:11:25

『アイエエエエ!』機長は驚いて計器類を凝視した。『これは、これは一体』「反撃を許しておるのか?」ラオモトがモニタを見た。「それだけ武装を積んでも、はぐれニンジャ一匹に克てんか。ままならんのう、オムラ=サン」『いえ!実際試作機でございますから!大丈夫です!』 45
posted at 02:15:24

「だんだんとワシの堪忍袋が暖まってきたぞオムラ=サン」『アイエエエ!?』ラオモトは膝の上に乗せたオイランの豊満な胸を揉みながら欠伸した。他の三人のオイランはラオモトの注意を引こうと口々に喘ぎ声をあげ、互いに激しく交わりはじめた。『行けッ!』機長は後ろのニンジャに命令した。 46
posted at 02:19:18

『ハイヨロコンデー』オムラのニンジャは素早く立ち上がり、機関室ドアから足早に退出した。『ラオモト=サン!』機長がすがりつくように言う『せっかくですから我が社のニンジャの働きもプレゼンテーション、あ、いや、ビジネスではなくてですね』「なんでもいいから敵を殺せ!」『アイエエエ!』47
posted at 02:22:24

-------- 48
posted at 02:24:11

今や鬼瓦ツェッペリンは遠目でもわかる黒煙を幾筋か噴き上げ、時折傾いてはバランスを取り直していた。ニンジャスレイヤーはビルを飛び移りながらいったい何十枚、何百枚のスリケンを投げただろう?そのイナズマめいた勢いは止まらない!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」 49
posted at 02:25:49

チュン!チュンチュン!さらに散る火花!ついにエンジン付近が炎を噴き上げる!……と、その時!何かが鬼瓦ツェッペリンから飛び出し、ハチドリめいて旋回しながらニンジャスレイヤーに接近してきた。ナムサン!それは機械ではない。ニンジャだ!背中にジェットパックを背負ったニンジャである! 50
posted at 02:28:28

新たな敵はニンジャスレイヤーにぴったり張り付くように浮遊しながらアイサツした。「ドーモ。クラウドバスターです」ゴウ!ジェットパックが火を吹く!ニンジャスレイヤーは走りながら額の前で両手をあわせアイサツを返す。「ドーモ、ニンジャスレイヤーです……何人来ようが、同じ事!」 51
posted at 02:38:25

(第一部「ネオサイタマ炎上」より:「マシン・オブ・ヴェンジェンス」#2 終わり。このエピソードは次回#3で完了です) 52
posted at 02:39:21

RT @lyrical_logical: 時折出てくるアカチャンは、babyのことなのですか? - ザ・ヴァーティゴ [ザ・インタビューズ] #theinterviews http://t.co/lYyXMJgM via @theinterviewsjp
posted at 09:24:20

RT @Mitchara: 「オラレ、セニョール=XXツィン。オセロトルマタドールです。¡イヤーッ!」フォローするとTLにラ・ネータ(実際)メキシコ的アトモスフェラが届きます。¡サングリエント!(サツバツ!) #njslyr
posted at 11:32:01

NJSLYR> マシン・オブ・ヴェンジェンス #3

111107

第一部「ネオサイタマ炎上」より:「マシン・オブ・ヴェンジェンス」#3 1
posted at 12:12:57

「ゆくぞ!」クラウドバスターはジェットパックを巧みに噴射してニンジャスレイヤーにまとわりつく。そして得物を抜いた。警棒?ジュッテ?否、それは激しく放電する電磁ブレードである。オムラのテクノロジーだ!ニンジャといえどこれで繰り返し殴られれば内臓を焼かれて死ぬ!「イヤーッ!」 2
posted at 12:18:45

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはチョップを繰り出しこれを迎え撃つ。二者は交錯!「グワーッ!」バチバチと電磁ブレードがスパークし、ニンジャスレイヤーは苦悶して防御姿勢を取った。手甲が煙を噴く!「これが科学だ!インダストリの勝利だぞ!」クラウドバスターが言い放つ。「イヤーッ!」 3
posted at 12:21:57

電磁ブレード第二撃!ガードは危険だ。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは流麗なブリッジでこれを回避!だがそのブリッジ姿勢をすかさずレーザー光線がトレースする!「ヌウッ」ドウン!アンタイ・ニンジャ砲による鬼瓦ツェッペリンの射撃!ニンジャスレイヤーは間一髪でバック転を繰り出し回避! 4
posted at 12:27:58

「インダストリ!」クラウドバスターが空中から斬りかかる。ニンジャスレイヤーはバック転を繰り返しこれを回避!勢い余って振り回された電磁ブレードは電飾フクスケを無残に破壊した。ニンジャスレイヤーは給水塔、避雷針と飛び移り、さらに電線に飛び移ってその上をサーフィンめいて滑る! 5
posted at 12:36:35

チチチチチ、上空からの執拗な走査レーザー照射だ。ニンジャスレイヤーは電線を滑りながら鬼瓦ツェッペリンを睨む。たちまち四発のミサイルが飛来!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは迎撃のスリケンを投擲!「インダストリ!」ナムサン、クラウドバスターの妨害攻撃だ! 6
posted at 12:46:38

「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは咄嗟にクラウドバスターの胴体を飛び蹴りし、反動で後方へジャンプした。背後にうまいビルが無い!彼は「肩こってしまう」と書かれた縦長のネオン看板に危うくしがみつく。そこへ飛来する追尾ミサイル!ひとつ撃ち漏らしていたのだ! 7
posted at 12:50:52

ニンジャスレイヤーは看板を掴む手に力をこめ、跳び上がろうと試みた……だが!「インダストリ!」降下してきたクラウドバスターが看板を電磁ブレードで殴りつけた!「グワーッ!?」ニンジャスレイヤーは看板ごと感電!クラウドバスターがヒットアンドアウェイで飛び去った直後、ミサイルが着弾! 8
posted at 13:23:36

カブーン!ネオンガラスが割れ砕け、支柱が折れて、ニンジャスレイヤーは看板ごと下の道路上へ落下!その上空をクルクルと飛行するクラウドバスター。「オムラの科学力とニンジャのカラテが合わさって勝利したのだ」彼は満足そうに呟き、鬼瓦ツェッペリンにグッドサインを送る。ナムアミダブツ! 9
posted at 13:27:06

------ 10
posted at 13:49:02

「ムッハハハハ!ムッハハハハ!」ラオモトは愉快そうに笑った。その足元では金髪オイランがひとり絶頂に達した。やや離れた場所で絡み合う他の三人もだ!「なかなか楽しめたぞオムラ=サン。あの何とかいう御社のニンジャもよく動いておったわ」『あ、ありがとう存じます!』 11
posted at 13:55:59

ラオモトが煩わしそうに手で合図すると、オイランたちははだけた淫靡なキモノを直しながら、そそくさと退出した。モニタの向こうでは機長が繰り返しドゲザした。『ありがとう存じます!ありがとう存じます!途中お見苦しい所をザザッ』スリケン攻撃の機体ダメージは大きく、画像は乱れがちだ。 12
posted at 13:58:42

「死体を回収せよ」ラオモトは尊大に言った。「シンジケートに楯突く害虫だ。全て調べ上げる」『ヨロコンデー!ザザッ……我が社のニンジャに今……ザッ……』ラオモトはモニタ横のデッキを操作し、先程と別のオイラン達による女体盛りを手配させた。夜はまだまだ長く、堕落の宴はなおも続く。 13
posted at 14:13:50

--------- 14
posted at 14:15:51

深海に沈められたバイオヒトデめいて、ニンジャスレイヤーの混濁した意識は、ニューロンの闇の中に力無く浮遊していた。爆発と落下のダメージが大きい。なんたるウカツ……弱敵という侮りがあったろうか。気が急いたか。連戦ゆえの集中力の乱れ?「「……なんと情けない男よ。実際情けない」」 15
posted at 14:19:38

半ば呆れ、半ば嘲るような皺がれた声が、ニンジャスレイヤーを責める。「「これでは話にならんぞ、フジキド」」フジキドとはニンジャスレイヤーの真の名である。彼は身をもたげた。邪悪な気配が彼のすぐそばに立っている。「「文明などという惰弱な遊びに付き合い、挙句このザマよ」」16
posted at 14:25:41

「黙れ」フジキドははねつけた。しかしニューロンに居座る邪悪存在はおかしそうに笑う。「「このワシの真のカラテあらば、あのようなカトンボに遅れを取る事は無い。あのような……クククク、あれはハチ・ニンジャクランのレッサーニンジャ……弱小クランの弱小位階……実際昆虫と同程度……」」 17
posted at 14:31:12

「黙れ、オバケめ……まだやれる。私がやるのだ」「「クククク、何をだ、こわっぱ。言うてみよ」」「ニンジャを殺す!あのニンジャを」「「よい、よい」」邪悪な声が同意する。「「ニンジャ殺すべし。全ニンジャ殺すべし」」「ニンジャ殺すべし!」「「ならば身体を貸してみよ」」 18
posted at 14:35:10

「ダメだ」フジキドは抗った。邪悪存在は笑った。「「よい。そこで寝ておれフジキド。オヌシは実際限界であろう。ワシが見本を見せてやる。このワシが」」「ダメだ!だがニンジャは殺したい……」「「そうよのう」」「ニンジャ殺すべし……」フジキドの意識が溶けてゆく。後に残ったのは、殺意。 19
posted at 14:41:20

……「イヤーッ!」「何!」空中から瓦礫を見下ろしていたクラウドバスターは咄嗟にジェットパック噴射、斜め後ろへ上昇して警戒した。そのニンジャ判断力が彼を危うく救った。直後にその場所を、垂直跳躍したニンジャスレイヤーの禍々しい右手チョップが薙ぎ払ったのだ。首を刎ねられる寸前だ! 20
posted at 14:51:46

「バカな!?あれは絶対に死んだはず!」クラウドバスターは驚愕した。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはそのまま空中で横に回転!回し蹴りをクラウドバスターに叩き込んだ!「グワーッ!?」吹き飛ぶクラウドバスター!ニンジャスレイヤーは後方へ宙返りし、ビル壁を蹴ってさらに跳躍! 21
posted at 15:00:53

「イ、インダストリ!」ジェットパック噴射で体勢を立て直したクラウドバスターは電磁ブレードで迎撃!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは裏拳を繰り出し、手甲でこれを弾き返す!バチバチと電気がスパークするが、ニンジャスレイヤーはまるで意に介さぬ!「バカな!?」 22
posted at 15:09:40

「オモチャめ!」ニンジャスレイヤーが嘲笑う。センコ花火めいた眼光がウシミツ・アワーの闇に残像を残す!「ヒッ……」クラウドバスターは気圧された。(電気のダメージは確かに通ったはず。何故だ?文明の利器なのに!)ニンジャスレイヤーは裏拳の勢いで空中横回転!回し蹴りだ!「イヤーッ!」23
posted at 15:12:30

「グワーッ!」蹴りが重い!クラウドバスターは体をくの字に曲げて再度吹き飛ぶ。「ゲボーッ!」メンポの排気口から吐瀉物が零れる。逆噴射が間に合わず、ビル壁面に背中から叩きつけられる!「グワーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは蹴りの勢いでさらに横回転!投げつけるのはロープ! 24
posted at 15:30:26

ロープの先には鋭く重い鉤爪が結ばれており、分銅めいてクラウドバスターの首筋に巻きつく!「グワーッ!?」「ヌウーン!」空中のニンジャスレイヤーは力任せにロープを引く。クラウドバスターの首が締まる!「グワーッ!?」クラウドバスターは半狂乱になり、ジェットパックを全開!垂直上昇! 25
posted at 15:46:07

夜空を高速旋回するクラウドバスター。首からは手綱めいてロープが延びている。その先端にはニンジャスレイヤー!ゴウランガ!なんたる悪夢的飛翔光景か!「どう!どう!グッハハハハ!」その危険極まりない状態にも関わらず、ニンジャスレイヤーは心底嬉しそうに邪悪な笑いを投げかける! 26
posted at 15:51:38

「グ、グワーッ!」半狂乱のクラウドバスターはしゃにむに飛行する。ニンジャスレイヤーは引きずられるように宙を飛びながら、両手でロープに微妙な力を加え、グイグイとクラウドバスターを苛んで、飛行方向を調整している。クラウドバスターの進行方向には……ナムサン!鬼瓦ツェッペリンだ! 27
posted at 15:55:30

「グワ……グワ……グワーッ!」ナムアミダブツ!クラウドバスターはそのまま鬼瓦ツェッペリンの機関室へ突入!床を突き破り、その勢いで天井部を貫通して夜空へ飛び出した!「Wasshoi!」ニンジャスレイヤーは機関室内でロープから手を離し、床を転がって、天井の穴を見上げる! 28
posted at 17:03:02

火だるまとなったクラウドバスターは狂ったように夜空をランダムに飛行!「アアアア!アアアアーッ!サヨナラ!」そして花火めいて爆発四散した!ナムアミダブツ!「愚かな!鉄屑をわざわざ宙に浮かべ死ぬとは!グッハハハハ!」ニンジャスレイヤーの光る目が操縦スタッフを睨み渡す! 29
posted at 17:07:32

「アイエエエー!?」ただでさえ炎上する機体の操作で悪戦苦闘、ラオモトの存在ゆえに脱出も決断できずにいた操縦者達は、この衝突とニンジャスレイヤーの突入で完全に心折れ、パニックに陥った。失禁しながら縦横に走り回るスタッフをまるで意に介さず、ニンジャスレイヤーはただ哄笑する! 30
posted at 17:13:30

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posted at 17:25:05

『アイエエエエ!アイエエエエ!ア、アバッ』ブツン!モニタ映像が砂嵐に変わった。「イヤーッ!」ラオモトは勢いよく立ち上がり、腰に吊るした二本のカタナ、「ナンバン」「カロウシ」を同時に振り抜いてモニタを三つに切断!仰向けの女体盛りオイランは間近で殺気を受け、しめやかに気絶した。 32
posted at 17:30:59

ラオモトは二刀流の悪鬼アトモスフィアを漂わせ、強化ガラス越しの夜景を睨んだ。彼の視線の先には、厚い煙を噴き上げ、タマ・リバーめがけゆっくりと落下してゆく炎の塊があった。「……ニンジャスレイヤー……!」 33
posted at 17:45:30

-------- 34
posted at 17:55:25

ペーン、ペロン。ペンプン!ペーン、ペロン。ペンプン!大音量のスカム・ヒップホップを紫のライトと共に海面に投げかけ、ジェットスキー集団は明け方の沖合を威圧的に蛇行する。彼らは皆、機体にノボリ旗を立て、「大きな魚」「漁業」「横浜御縄談合」などの極太ミンチョ文言が風に踊る。 35
posted at 18:02:14

乗り手は全員、スキンヘッドの黒人である。揃いのスタジアムジャンパーを着、棍棒を手に手に構えた容赦なきヤクザクラン、ヨコハマロープウェイクラン……彼らの朝は早い。上納金を払わぬモグリの漁船を囲んで締め上げ、服従させる必要があるからだ。気を抜けば芝生には雑草が混じるものだ。 36
posted at 18:11:15

何より、昨晩の出来事はクランにとって大きな試練であった。殺戮そしてドゲザが彼らの心を砕いた。ジャーメインとディーボはニンジャリアリティショック症状から覚めず、今も病床だ。耳早い漁師の中には既にあの事件を知るものがいるかもしれない。このままナメられたらお終いだ。 37
posted at 18:14:41

(どの船でもいい……なんなら俺たちの庇護下の船でもいい)イチャモンをつけて、囲んで棍棒で叩いて、クランの残虐さをこの一帯にあらためてアピールする必要がある。ナメられたらおしまいだ。リーダーのスミスは血走った目で水平線を見渡した。38
posted at 18:18:04

「オヤブン!あれを!」「ワッザッ?」スミスは部下が指差す方角を見た。ボロいボートだ。いや、イカダ?否!あれは何かの切れ端だ。誰かがしがみついている。遭難者か?「どうします?人ですぜ」「……」スミスは顎をこすって考えた。そして言った。「カネの匂いがするぜ」 39
posted at 18:24:30

スミスは率先してエンジンをフルスロットルさせた。飛沫をあげ突き進むジェットスキー!(ヤバいのは外の連中だけじゃねえ)グラついているファミリーに、リーダーの決断力を見せつける必要がある。クランの正念場だ……見る見る近づく遭難者!懐にコーベイン(訳注:小判)があるかも知れない! 40
posted at 18:29:24

スミスは遭難者にジェットスキーを寄せた。端材にうつ伏せにしがみつき、その顔は定かでない。赤黒のボロを着た、浮浪者めいた男である。ひどく傷ついている様子だった。(同業者にスマキにでもされたかよ。川から流れてきたか?ハズレだな)スミスは失望しながら、男の懐を探ろうとした。 41
posted at 18:36:17

その腕を遭難者が掴んだ。覚醒したのだ!「アイエ!?」スミスは悲鳴を飲み込んだ。掴んだ腕はマンリキのような力である!「ワッザファッ……」「どこだ」男が顔を上げた。ジゴクめいた刺すような視線にスミスの背筋が凍る!「ここはどこだ」「オールド東京湾だ」スミスは恐怖のあまり即答した。 42
posted at 18:43:09

「今から言う闇医者に。連れていけ。私を」「ハイ!」スミスは恐怖のあまり即答した。この目は……この目は昨晩のあの悪魔の目と同じ凄みだ。いや違う、その何倍も恐ろしい!「オヤブン?」部下の一人が背中越しに覗き込もうとした。「うるせェ!やっぱり、ツ、ツいてたぜ俺たちは!」 43
posted at 18:46:35

「え?」「うるせェ!詳しい話は後だ、お前らは適当にしとけ!」「え……ハイ」スミスは男の耳元で囁く。「連れて行きます。ホントすみません。だから命だけは助けてください。ヤメテ」「……」 44
posted at 18:50:53

スミスは素早く男を引き上げ、ジェットスキーの後ろに急いで載せた。そしてクランの者たちを振り返りもせず、ジェットスキーを全速で発進させた。ミラー越しに、唖然とする彼らが見えた。(クソ食らえだぜ!もうやめだ!何もかも!コワイ!インガオホー!)スミスは大粒の涙をこぼした。 45
posted at 18:54:32

もうヤメだ。ニンジャがいるならブッダもいるのだ。だからこうしてニンジャを再び遣わして、試しているのだ。スミスは一心にジェットスキーを加速する。もう足を洗う。メン・タイの違法取引もやめだ。中毒になった人達に償います。だからヤメテ。もうここには居られない。そうだ。キョートだ。 46
posted at 18:58:16

この人を言うとおり闇医者に送り届けて、全財産をリハビリテーション施設に寄付しよう、そうしたら、キョートに逃げよう。キョートでブディストになろう。ゼンを学びボンズになろう。生き方を変えるんだ。もうヤメだ、こんな事は。インガオホー。インガオホー! 47
posted at 19:00:55

……重篤なニンジャリアリティショック・フィードバックを発症した哀れなスミスは、贖罪の強迫観念に駆り立てられ、手当り次第に祈りながらジェットスキーを走らせる。ニンジャ殺しの死神を、わけもわからずその背に負って。 48
posted at 19:04:20

(第一部「ネオサイタマ炎上」より:「マシン・オブ・ヴェンジェンス」終わり)
posted at 19:05:04

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 18:22:26

ザッ、ザッザッ。少女は箒を打ち振る。「向こう三軒両隣」。狭いスペースに多くの店がひしめく日本の環境下で培われた奥ゆかしい礼儀の呼称である。すなわち、開店前に、自分の店の向かいの三軒と両隣の店先も清掃すべしという心得だ。強制ではないが、やらない店主は商店街でムラハチとなる。 1
posted at 18:26:14

しかしながら、少女はこの清掃行為をことさら強制されたものだとは考えていないし、煩わしいとも思ったことがない。それは日本人が元来持ち合わせる相互扶助の奥ゆかしさに由来する自然な感覚であるし、何より、少女はこの町が好きであったのだ。 2
posted at 18:32:42

彼女の浮かない表情には別の理由がある。清掃を終え、ゴミを捨てていた彼女に、通りかかった初老の小男が声をかける。「ドーモ、ヤモト=サン」少女は振り返った。「ドーモ、キリシマ=サン」「あいつ、どうだ?」ヤモトは無言でかぶりを振る。「鬼の撹乱だな。……ニンジャの撹乱か」「……」 3
posted at 18:44:35

NJSLYR> キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー #1

101024

(「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」 #1)
posted at 19:09:53

ブンブブブンブ、ブンブンブブンブ。ブンブブブンブ、ブンブンブブンブ。「アタリ!」「ポイント点!」BGMの電子ベースラインの上で、緑色のホログラフィック画面を電子の戦車が行き来する。ギンイチはズレた眼鏡を指で直す事すらせず、レバーとボタンに全神経を集中させる。
posted at 19:15:12

左から電子弾丸が飛来する。ギンイチは左手のレバーを素早く回転させた。電子タンクは横転しながら弾丸を回避し、さらに、撃ってきた相手へ電子弾丸を打ち返した。「アタリ!」「難しいショットでポイント倍点!」電子音声がアナウンスすると、背後のギャラリーが沸いた。「こいつ、ハンパねえぜ!」
posted at 19:18:11

ギンイチは無表情だったが、それは彼の好きなアニメ「サムライ探偵サイゴ」の味方キャラクター、常にクールな「クロコ探偵」を真似たアティテュードだった。ギャラリーが騒ぐたび、本当のところ彼は、自己実現に叫び出したいほどの歓喜を味わっている。
posted at 19:21:57

ブンブブブンブ、ブンブンブブンブ。ブンブブブンブ、ブンブンブブンブ。ギンイチは最後の敵に照準を合わせる。余裕の仕草で、ズレた眼鏡を直す。すでに敵の左右には電子地雷を設置し終えている。回避は不可能だ。右手でボタンをヒットすると、電子弾丸が飛び出し、敵戦車は電子の粒に分解し去った。
posted at 19:53:13

「アタリ!」「ポイント点!」「プレイヤー2のカチで終了です」電子音声がアナウンスした。流れ出すファンファーレ。テレーレテレテテーレテレテテテレー。ギンイチはクールに立ち上がり、クールに席を離れた。「ハンパねえな」と呟きあう声を耳にすると、ニヤニヤした笑みをこらえるのに苦労した。
posted at 19:56:40

ギンイチは満足してメタリックな店内を見渡す。ここがギンイチの帰属世界、ゲームセンター「反射神経ストーム」、はぐれた若者たちの無言の社交場であった。ギンイチはここにおいて英雄であり、最強の戦士であり、ガンスリンガーであった。
posted at 20:04:11

だが……。ギンイチは腕時計を憂鬱に確認する。予備校の時間だ。ムテキの時間は終わり、ギンイチは現実という荒野へと放逐される。
posted at 20:15:03

爆発音、アナウンス音声、必殺技を繰り出すマーシャルアーツの音声の渦に包まれながら、ギンイチは重苦しい歩みを進める。脳内でママの小言のリフレイン再生が始まる。「まずセンタ試験を突破して、カチグミになってから!それから好きな事をなさい!その後は何でも自由なんだから!あなたのためよ!」
posted at 20:30:14

「クソッ」ギンイチは無力感に打ちのめされていた。勉強なんて!……店を出る瞬間、入り口の側にあるマジックハンド・カワイイキャッチの筐体から目を上げた少女と視線がぶつかりあった。年は同じくらいだ。いや、同級生?彼女の事を見た事があったように思った。ハイスクールで。でも、そんなバカな。
posted at 20:34:05

ギンイチはクールに目をそらし、関係ないね、というそぶりでストリートに出て行った。女なんて、コリゴリさ。半年前、消しゴムを貸してくれた隣の席の女の子に、その日のうちに告白した事がある。その後の顛末は思い出したくもない。ぼくは女運を捨てて、かわりにゲームの才能を手にしたんだ。
posted at 20:37:09

センベイ駅へ向かうムコウミズ・ストリートの治安はあまりヨロシイとは言えない。ゲイシャ・ディストリクトと接するこの路地は、怪しげなポンビキやチョンマゲクラブのスカウトマン、近隣のライブハウスを根城とするパンクスが行き来する。カツアゲが怖いので、キャッシュは靴底に隠している。
posted at 20:48:59

今日は調子に乗って長居しすぎてしまったな。予備校にチコクしてしまう。ママのところに連絡がいってしまう。ヤバイ、ヤバイ。ギンイチは早足になった。
posted at 20:52:57

「イテッ!イテコラー!?」怒声がギンイチの頭を揺さぶった。しまった!通行人に肩掛けカバンを引っ掛けてしまったのだ!ギンイチはびくりとして立ち止まった。「ガキがコラー!」恐る恐る目を上げる。ああ、おしまいだ。絡んできたのはウニ状に七色の髪を逆立てたパンクスだった。
posted at 20:56:36

「アイエエエ!ごめんなさい!急いでて……」「知らねーファック!ファッキンシット!」胸ぐらをつかまれ、ギンイチは脂汗を流した。通行人は見て見ぬ振りだ。パンクスの肩の「安全ピンが好き」という毛筆風タトゥーを見て、ギンイチは恐怖のあまり気絶しそうになった。殺される。
posted at 21:00:06

「すみません……すみませ……」「ファキゴナ!すまねえーよ!」パンクスは舌を突き出した。舌にピアスをしている!ギンイチは死を覚悟した。
posted at 21:04:13

「あんた、やめなよ」甲高い声が、それを遮った。ギンイチとパンクスは声のした方を向いた。そこに立っていたのは、さっき「反射神経ストーム」で一瞬目があった少女だった。ゲイシャパンクスと女子高生の制服をハイブリッドさせた独特のファッションに、ギンイチはあらためて目を奪われた。
posted at 21:07:37

「なんだてめえファック?」ギンイチの襟首を掴み上げたまま、パンクスが凄む。少女はひるんだ様子を見せず、にらみ返す。「あたし、あんたの顔知らねーんだよね。あんたそんな格好してるけど、『ヨタモノ』来た事ねーだろ?オノボリパンクスって奴か?」「な……」パンクスは動揺した。
posted at 21:23:40

「毎日行ってるわ!うるせえ!ふざけんなファキゴナファッキンシット!」罵倒しながら、パンクスはギンイチを解放した。どん、と背中を荒々しくどやされ、ギンイチはよろけた。少女がそれを受け止める。「だいたい何だよそのウニ頭は?必死で雑誌でも勉強したのか?」「くだらねえ!もう許したるわ!」
posted at 21:31:00

肩を怒らせ、彼は足早にストリートを去って行った。「おととい来やがれっての」少女が毒づいた。肩を支えられたままになっている事を思い出し、ギンイチは慌てて身を離した。少し甘い匂いがした。「ご、ごめん、アリガト……」「いいよ。またね」ギンイチはオジギし、全力のダッシュでその場を離れた。
posted at 21:40:56

全力疾走するギンイチの心はヤバイを連呼していた。ヤバイ、ヤバイ。女の子に助けられるなんて。ヤバイ、ヤバイ。遅刻してしまう。ヤバイ、ヤバイ。かっこ悪かったなあ、ぼくは。ヤバイ、ヤバイ。あれ…あの子、「またね」って言った?ヤバイ、ヤバイ!
posted at 21:47:20

走りながら、いつしかギンイチは笑顔になっていた。ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!
posted at 21:49:06

(「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」#1 終わり。#2へ続く
posted at 21:51:00

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 23:05:06

NJSLYR> キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー #2

101025

(「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」#2)
posted at 19:58:19

「アイエエエ!」古傷だらけのいかつい大男が、情けない悲鳴を上げて這いつくばった。うずくまった大男の後頭部を、タメジマ=サンはバッファロー本革靴で容赦なく踏みつけた。「アイエエエ!」「どうするんだ、コラッ!おいコラッ!」「アイエエエ!」
posted at 20:13:31

「これじゃあ、話が進まねえじゃねえか!コラッ!業者にキャンセルかけられんのか、コラッ!できるか、コラッ!」「アイエエエ!」矢継ぎ早の罵倒を吐き出し、大男を踏みつけながら、タメジマ=サンは実際泣きたい気持ちであった。
posted at 20:17:19

この大男はこれでも元リキシ・リーグ・スモトリの腕っこきバウンサーであり、ケンカで遅れを取る事などないコワモテなのである。タメジマ=サンのビジネス遂行にあたって、これまで多大な貢献をして来た事は疑いがない。
posted at 20:22:07

タメジマ=サンは闇経済の末端にしがみつくジアゲ・ファンドの経営者であった。若き日は彼自身もまたカラテ使いバウンサーとして鳴らし、反射神経が衰えたのち、こうして人を使う立場となった。手段を選ばず、仕事を選ばず、血と汗と他人の迷惑をつみあげて、この薄汚い茶の間オフィスを築いたのだ。
posted at 20:26:20

彼は己の冴えない生まれを、過去を、茶の間オフィスの間取りを嘆いた。このドブの底から、いつか浮上してやる。そう念じ続けて、はや30年。今回のジアゲ・ビズはそんな彼の元へようやく巡って来た僥倖、ビッグディールのはずであった。
posted at 20:30:05

「それがお前……泣きながら逃げ帰っただとコラッ?」「アイエエエ!ボス、あいつら、カタギじゃねえんです、軍隊みたいな奴らが奥から出て来やがって……アイキドーだ、あれは」大男、タケゴが唸った。「もういいわコラッ!後でこってり説教したるわ!電話するから外せ、コラッ!」「アイエエエ!」
posted at 20:39:03

タケゴはフスマ型ドアーを跳ね開け、まろび出て行った。タメジマ=サンは卓上の据え置き型IRCトランスミッターを、おぼつかない手つきで操作した。……この手段はできれば取りたくなかった。後でどれだけ要求されるかわからない。
posted at 20:43:57

だが、このままではクソったれは立ち退かず、その一軒のためにジアゲ計画自体が頓挫する事になる。そうなれば後はない。全てを失う、命も失う。湾岸を死んだハマチのようにぷかぷか浮かぶ事になる。ならば選択肢は他にない。「クソッ、たかが腐れ飲み屋の分際で……」
posted at 20:46:39

タメジマ=サンは陰鬱な緑のLED投写モニタの光を見下ろした。
posted at 20:49:14

#SOUKAI_HL:TAMEJIMA:支給依頼。大変ですからどうかお願いします。スモトリでも勝てない件です。/ #SOUKAI_HL:SOUDAN :ではニンジャを出します。/
posted at 20:55:26

#SOUKAI_HL:TAMEJIMA:バー「ヨタモノ」のジアゲです。/ #SOUKAI_HL:SOUDAN :そちらの事務所にニンジャが向かいました。/ #SOUKAI_HL:SOUDAN :請求金額は後日提示されます。/
posted at 20:59:00

請求金額は後日。タメジマ=サンの背筋に冷や汗が浮き出した。どれだけ吸い上げられるか、わからない。だが仕方がない。ビッグディールだ。儲けがゼロでも構わない。マイナスでも構わない。臓器ならある。そんな事は後でいい。とにかく実績とコネクションだ、値千金だ。
posted at 21:01:12

「てめえ、どこのモンだ!?」部屋の外でタケゴの怒声がした。タメジマ=サンはビクリとした。「おい、てめえ、勝手に…あ、アイエエエ!アイエエエ!アイ…アイエエエエエエー!アイエエエ!アイエーエエー!」狂ったような悲鳴がタメジマ=サンの耳をつんざき、やがて訪れる沈黙。近づく足音。
posted at 21:07:10

フスマ型ドアーの陰から現れたのは、異様なシルエットであった。タメジマ=サンはまずハリネズミを連想した。それからイガグリを。なんだ、これは?
posted at 21:12:54

「それ」はひょろ長く痩せた人間のようだった。全身をラバースーツで覆い、身体中に細かく細かく、タタミ針を刺してある。そう、タタミ針を、全身に、余すところなく!「ドーモ、ハジメマシテ、ああー……近くにいましたので、私が来ました、ああー…」恍惚とした震え声が、針の中から聞こえて来た。
posted at 21:16:44

タメジマ=サンの全ニューロンが激しく稼働し、後悔と恐怖の信号を脳髄へ送り込んだ。こんな。こんなのが来るなんて。「あー…アゴニィです、ドーモ……いい……」針男は痙攣しながらオジギをした。タメジマ=サンはもちろん失禁していた。「タ、タ、タメジマ、です、ハジメマシテ、アゴニィ=サン…」
posted at 21:20:08

「ドーモ…私のこれは気にしないでください…私は、ホントウにソウカイ=ニンジャです、お名刺出しましょうか…ああー…」「結構です!アリガトゴザイマス!」タメジマ=サンはガチガチと歯を鳴らしながら、なんとかそれだけ答えた。
posted at 21:28:49

「ああー…詳しい打ち合わせ…シマショウ…『ヨタモノ?』」身をよじりながら、アゴニィ=サンは囁くように問うた。「そ、そうです、『ヨタモノ』です。パンクスどもが夜な夜な集まる腐れ飲み屋でして。そこの物件のジアゲにかかってるんですが、どうも抵抗が激しくてね、元スモトリもやられちまい…」
posted at 21:41:11

「元スモトリ…ああー…モシカシテ、入り口にいた…スミマセン…彼には…ちょっとひどい事してしまいました…オブジェに……」アゴニィ=サンは不吉に呟いた。さっきの悲鳴、そして沈黙。オブジェ?タメジマ=サンはツバを飲み込んだ。考えないようにした。
posted at 21:44:02

「ヨタモノには、強いヨージンボーが複数いるんですよ、アゴニィ=サン。クローンヤクザもダメで、スモトリでもダメとなれば、もうニンジャのお力を借りるしか。何とかしていただきたいんで」「オブジェ……」
posted at 21:47:13

「決行日は、店長が出て来ている日で、まあ、それでですね、そこで目にもの見せてやって、契約書にサインさせてやろうっていう、そんな考えでして」「ハイ…あ……あーダイジョブ…オブジェ!」ビクン!とアゴニィ=サンが痙攣した。
posted at 22:09:33

(「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー#2」終わり。#3へ続く
posted at 22:11:18

◆◆◆◆◆◆◆
posted at 22:13:43

【インタビュー・ウィズ・ニンジャ】 九十八年のコミックアーティスト誌より、フィル・モーゼスのインタビューを一部注釈の為にアレンジしつつ紹介いたします。
posted at 00:08:24

フィル「---非常に大雑把で乱暴な分類をすると、典型的なアメコミヒーローは、三種類に分類される。絶対正義型と復讐型、その中間である自警団型だ。絶対正義型は最もオーソドックスなもので、活動拠点は持ちつつも、積極的に外に出てゆき平和と正義のために戦う 。
posted at 00:09:40

しかしその正義とは基本的にアメリカの正義であり、特にベトナム戦争以降は、絶対正義型が単なる独善的な人物として、しばしばコミックファンから敬遠されるようになった。要するに、成熟し高年齢化、多様化してゆく読み手にとり、ノスタルジーの対象でしかない時代遅れの存在となっていったのである、
posted at 00:10:48

ここで台頭してきたのが、パニッシャーなどに代表される復讐型ヒーローだ。復讐や私怨や憎悪などを行動理念とし、時には大量殺戮さえ引き起こす。彼らはまさにアンチヒーローで、本能的にそういったものが好きなキッズ層のみならず、絶対正義型に疑問を感じ始めたマチュアな層の支持も得はじめた。
posted at 00:11:52

だが、コミックファンたちはすぐに気付いた。絶対正義型も復讐型も、結局はエゴを撒き散らしている点で、同じレベルにとどまっているという事に。ここで注目されたのが、ダークナイト・リターンズでひとつの集大成をみる、自警団型ヒーロー、バットマンである。
posted at 00:18:26

自警団型の特徴は、世界の平和や人間の善性を信じながらも、自分の正義、いや、あらゆる正義が、しょせんはエゴに過ぎないことを内省的に理解している。そして、自分が大衆の世界からみればヴィランと同じフリークに過ぎないという真実に、ヒーロー本人が気付いてしまっている。
posted at 00:19:02

それでも自警団型は行動を起こす。信念に従い、行動を起こさざるを得ない。同時に、彼らの一番の特徴は、場をわきまえていることだ。ブルースはあくまでもゴッサムシティに拘り続ける。救える人間、叩き潰せる悪の数には限りがあるし、自分のエゴを世界各地に拡散させることに自身が疑問を抱くからだ。
posted at 00:22:45

こうして、九十年代以降、自警団型は最も現代的でマチュアなヒーロー像となった。自警団型が自ら設定するテリトリーは、物理的範囲とは限らない。ヘルボーイも、シゲル・ミズキのゲゲゲと同じく、超自然の世界だけを相手にし、社会に対しては一歩身を引く。自警団型は非常におごそかなヒーローなのだ。
posted at 00:24:35

これと同時に、絶対正義型も復讐型も、自警団型と同様の自我を持ち始めた。自己矛盾に気づきながら戦う、悩めるヒーローとなっていったのだ。こうして、三つの分類は完全なものでは無くなり、スポーンのようにキッズの心を掴みつつも、三つの型をミクスチャーにしたようなダークヒーローも現れ始めた。
posted at 00:26:41

このように、アメコミヒーロー像は複雑化を続けており、個々を軽々しく分類したり論ずることは難しくなっている。それは常に、アメリカと、それを取り巻く社会の複雑化とともにあったし、これからもさらに混沌とした多様化の方向に進むだろう。
posted at 00:27:18

では、ニンジャスレイヤーはどうか? 私たちは物事をシンプルにしたかった。ネット化され監視の目が光り続け、政府や経済ではなく、大衆自身がIRCとBBSで自らの首に巻きつけようとする見えない首吊り縄を、カウンターする為である。社会は悩み進歩すべきだが、個々人がセプクしてはいけない。
posted at 00:29:19

私たちがやりたいことは、第四の型、ニンジャ型ヒーローを、ここアメリカで発明し提唱することなのだ -」 了
posted at 00:31:31

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 00:31:54

NJSLYR> キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー #3

101030

「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー#3」
posted at 00:13:26

(これまでのあらすじ: ハイスクール生徒ギンイチはゲームセンター「反射神経ストーム」でハイスコアを叩き出す事だけを楽しみに生きていた。ある日彼はムコウミズ・ストリートで似非パンクスにカツアゲされかかるが、同級生と思しきゲイシャパンク少女に助けられる。
posted at 00:18:25

折りしも、パンクス達の集うバー「ヨタモノ」をジアゲするために、末端チンピラ、タメジマ=サンは禁断の選択を下してしまった。ソウカイ・シンジケートのニンジャの力を借りる事にしたのだ。彼の元に派遣されたニンジャは嗜虐・被虐嗜好ニンジャ、アゴニィであった。)
posted at 00:21:14

ーーーーーーーーー
posted at 00:21:25

クラスはいつものようにオツヤめいて静まり返っていた。ギンイチが選択した特進クラスには、授業中に騒ぐような人間はいない。生徒が高機能ソロバンをパチパチと弾く音だけがせわしなく鳴り続けている。
posted at 00:24:42

電子戦車のレバーとボタンがこの禍々しい計算機械に置き換わっただけで、どうしてこれほど胃の腑に穴が開いたような苦しさを感じてしまうのだろう。ギンイチは自問自答した。この特進クラスに無理矢理登録したのも、もちろんママだ。ギンイチはママに反論する理論は持ち合わせていなかった。
posted at 00:26:17

「はいギンイチさん。この計算式の解はどのように求めますか」数学教師に指名され、ギンイチは我に返る。「ええ…と……」ヤバイ。ギンイチは為すすべなく多機能ソロバンを見下ろす。「はいギンイチさん。ペナルティにしておきましょう。ではヒノさん代わりに応えてください」
posted at 00:30:46

「ルート44虚無僧です」「アタリです」チャイムが鳴った。リラグゼーション効果を見込んだモクギョ・ビートが陰鬱な教室に鳴り響くと、特進クラスの生徒達は無言のまま席から立ち上がる。今日のハイスクールの授業は終了だ。皆これから予備校へ行くか、帰宅して家庭教師の個人授業を受ける。
posted at 00:33:52

廊下から眺める空は今日もタール溜まりのような黒灰色をしている。朝のニュースではいつも違った企業が違った公害スキャンダルを起こして摘発されている。きっとそのどれかのせいだろう。
posted at 00:40:01

ハイスクールは特進クラスだけではない。特進クラスのゾンビめいた連中と違って、普通科の生徒は皆、好き勝手に制服を着崩し、男女交際もチャメシ・インシデントだ。ほら、今すれ違おうとしているのが、身長7フィート近いバンザキ=サン。校内ヒエラルキーの頂点に位置するジョックだ。
posted at 00:47:19

ヤブサメ特待生、バンザキ=サンの手に入らぬものは無い。今は、左手と右手、それぞれで一人ずつのゲイシャ部女子をかき抱くようにして、ニヤニヤと話している。すれ違う際、背中に丸めたサババーガーの包み紙を投げつけられる。別に理由は無い。ジョックとはそういうものだ。
posted at 00:54:59

(あんな奴、調子に乗っていられるのは今だけだ)特進クラスのヤキジ=サンは、以前そんな風に嘲笑してみせた。(しっかり勉強してセンタ試験で認められたカチグミ・サラリマンが、将来ああいう脳みそ筋肉の連中をアゴで使うのさ。僕らが勝者なんだ)……ギンイチは素直に頷けなかった。
posted at 00:58:50

カチグミって何だろう? ヤキジ=サンも、きっとわかってはいないはずだ。親や教師の受け売りだ。ギンイチはパパの事を思う。あれがカチグミなんだろうか? 確かにギンイチの家は裕福な部類と言えた。ストリートの片隅からこちらを見上げる浮浪者たちは、まるで別世界の怪物のように恐ろしい。
posted at 01:06:49

でも、パパは毎日深夜に帰ってきては、トイレで泣きながら嘔吐している。この前、冷蔵庫のバリキ・ドリンクの奥に「ズバリ」のアンプルがしまわれているのも見てしまった。センタ試験でスゴイ級のランクをゲットしたとして、先にあるのはパパみたいな生き方なんだろうか?それはカチグミなんだろうか?
posted at 01:10:05

ロッカーで帰り支度をするまで、ギンイチはそんな出口の無い問いを反芻し続けていた。思考を中断させたのは、背後を通り抜けた甘い香りだった。昨晩のゲイシャパンク少女の記憶が一瞬にしてよみがえる。ギンイチはあわてて振り返った。
posted at 01:16:43

あの子だった。間違いない。髪型も格好も違ったが、確かにそうだった。そして目が合ったとき、彼女は少し笑ったのだ。彼女の後姿を呆然と眺めながら、ギンイチは灰色の校舎と灰色の将来設計が電子の海に崩れ流れていく様子を幻視した……。
posted at 01:20:08

ーーーーーーーーーー
posted at 01:21:05

「アタリ!ポイント倍点!ゲームセットでプレイヤー3の勝利!」
posted at 01:22:32

ギンイチはクールさをかろうじて保ちつつ、誰にも見えないように小さくガッツポーズした。これで31連勝だ。「あいつ本当にヤバイよね」「狙いが正確すぎるよね」後ろのギャラリーの呟きを味わいながら、今日もギンイチは静かに席を立つ。もう、時間だ。昨日のように遅刻の恐怖を味わいたくはない。
posted at 01:26:34

ギンイチはカバンを肩にかけると、足早に出口へ向かう。マジックハンド・カワイイキャッチの筐体の前を通り過ぎ……「今日もいた」「エエーッ!」声をかけられ、ギンイチの口から奇声が出かかった。ハイスクールとは打って変わったゲイシャパンクスタイルの彼女がいた。
posted at 12:20:10

「あんた同じ学校だったんだね。今日、特進クラスから出てくるの見たよ」少女は馴れ馴れしく話しかけて来た。「きの、昨日はドーモ」ギンイチはぎこちなく返事した。「ドーモ、私の名前はイチジクです」少女がオジギした。「ドーモ、私の名前はギンイチです」バネじかけのようなオジギになってしまう。
posted at 12:23:43

なんて事だ!向こうから話しかけられるなんて。アイサツまでしてしまうなんて。歓喜を通り越し、ギンイチは空恐ろしい気持ちにすらなっていた。まさかこれは繁華街で頻繁に行われると噂の、マイコ・ポンビキではないのか?
posted at 12:31:51

「イチジク=サンは、そのう、よくここに来るのですか」イチジクはにこやかに頷いた。「うん。あんたもね?」「はい、実際毎日です」「知ってる。奥の電子タンクでいっつも、だよね?」「……どうして話しかけてくれたですか?」ギンイチは勇気を出して切り出した。
posted at 15:57:55

「あんたがいつも着てるTシャツが気になってたんだよね」イチジクが指差す。ギンイチは自分の胸を見下ろした。毛筆タッチで「アベ一休」とプリントされている。「アベ一休のTシャツなんて、どこで買ったの?まだアルバムも出してないのに」
posted at 16:11:54

「え、いや……」ナムサン!これはママがコケシマートで適当に買ってきたものだ!アベ一休のクールな字体に惹かれていたのだが、アルバム?アベ一休とは何なのだ?モハヤコレマデか!
posted at 16:34:52

ギンイチの背中は嫌な汗でグショグショだった。しかしイチジクは知ってか知らずか、あまりギンイチへ突っ込まず、逆にアベ一休の情報をそれとなく伝えてくれた。ギンイチのプライドを優しく尊重してくれたのかもしれなかった。
posted at 16:51:52

アベ一休とはムコウミズ界隈で活動するマチヤッコ・パンク・バンドだった。代表曲は「スシを食べすぎるな」。過激な歌詞と乱闘も辞さないステージングで頭角を現したリアルパンクスなのだという。
posted at 16:55:14

「あのね、アベ一休、今夜『ヨタモノ』でゲリラ・ライブがあるんだ」イチジクは言った。それから、少し待った。「……ギンイチ=サンも行くよね。そんなTシャツ着てるんだから」アタリ!四重衝突でセプク・ポイント点!遠くから電子タンクのファンファーレが聴こえて来た。ギンイチは素早く頷いた。
posted at 17:02:04

ギンイチは決断した。きっとこんな僥倖は一生に一度、今日だけだ。予備校なんて、ママなんて、知るものか。「はい」ギンイチは繰り返した。「はい。ヨロコンデ!」店の外では重苦しくねばついた重金属雨が降り出したが、それすらも祝福のようだった。
posted at 17:07:26

(「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー#3」終わり。#4へ続く
posted at 17:56:00

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 17:56:29

NJSLYR> キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー #4

101101

「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー#4」
posted at 23:10:18

ドンブブンブボンドンブボンボボン、ドンブブンボンボボンボバブボバン。
posted at 23:13:10

狭い階段を下りた先に「ヨタモノ」のフロアはあった。
posted at 23:18:04

階段にはボンボリの照明すらなく、まるで胎内回帰のようであった。昨年流行った電子ダンジョンのようでもあった。ギンイチの到達レベルは53、もちろん反射神経ストームのトップランキングである……。
posted at 23:25:25

ズバンドボボボンボンブバンボボ、バボンババーボバンボボボバブバ。
posted at 23:31:43

「この音楽、なんですか?」入り口のノレンをくぐろうとするイチジクに、ギンイチはたまらず問いかける。激烈すぎるビートが胃痙攣を誘発するようだ。
posted at 23:33:53

「モクギョコア」イチジクは耳打ちした。ノレンをくぐると、その爆音のビートはまともに会話できないほどの音量である。「大衆を沈静するツールであるモクギョをコラージュして、体制にアンタイしてるってわけ。戦闘的皮肉ってやつよ」
posted at 23:43:41

わかったような、わからないような気分になりながら、ギンイチはヨタモノの闇ホールへ足を踏み入れた。そこはエネルギッシュな猥雑と衝動の吹き溜まりだった。
posted at 00:49:50

電子ゲーム音楽のBEEP音にしか興味を示してこなかったギンイチに、ブッダヘアーDJがスピンするモクギョコアはあまりに先鋭的だ。そのビートにあわせ、ブッダヘアーパンクスやスキンヘッドに「明日も働かない」とタトゥーを入れたパンクス、シシマル・スタイルのパンクスが、てんでに跳ね回る。
posted at 01:02:22

イチジクはギンイチの手を取りカウンターまで連れて行く。「よう、イチジク=サン。そっちのニボシはなんだい……」サングラスを埋め込んだバーテンが欠けた前歯でギンイチに笑いかける。「この子は、ギンイチ=サン。同じ学校なんだ。サイオー・グーゼンだよ」イチジクはギンイチに飲み物を差し出す。
posted at 01:06:49

舐めてみて、腰が抜けそうになる。なんて強いアルコール度数だ! ショーガツのシチゴサン・オトソしか飲んだ事の無いギークには強すぎる。しかも、素手でグラスを持っていられないほどに熱い。しかし、ギンイチは意を決した。退いてはダメだ。この夜はいつもと違うのだから。
posted at 01:25:44

「おい、このニボシ、見た目はニボシなのに、すっげえな! イッキかよ!」一息で飲み干したグラスをカウンターに叩きつけるように置いたギンイチを、バーテンが賞賛する。イチジクは手を叩いて笑った。「アベ一休Tシャツを選ぶ奴は、やっぱりちがうよね!」
posted at 01:40:11

「まあ、もう、やめとけ、死ぬからな……イチジク=サンも煽るんじゃない、」「アベ一休!」「アベ一休!」「アベ一休!」モクギョコアが唐突にフェードアウトし、パンクスがてんでに騒ぎ出した。奥のステージにLEDボンボリ照明が灯る。「アベ一休!」「アベ一休!」「アベ一休!」
posted at 01:46:36

電子的に拡大されたシシオドシの音が繰り返される中、やせ細った裸の上半身をさらした四人のマチヤッコ・パンクスがステージによじ登った。一番背が高く、一番やせている男がスタンドマイクをわしづかみにした。そして叫んだ。「アンタイセイ!」
posted at 01:54:31

ポエット! なんたる機知! このヴォーカリストは「アンタイ」と「体制」をハイブリッドし、叫んだのだ。灼熱サケに脳みそを殴られたようになりながら、ギンイチはそのヴォーカリストの危険な知性に舌を巻いた。「アンタイセイ!」「あ…アンタイセイ!」客もそれを繰り返す。「アンタイセイ!」
posted at 01:58:11

それを合図に、後方に控えるドラマーとタイキスト(訳註:太鼓を叩くパートか)が重戦車のようなリズムを乱打し始めると、オコトもそれに続く。狂ったように巨大ピックを叩きつけるたび、ディストートされたオコト轟音が<無垢>とレタリングされたアンプリファイアーから飛び出し、空気を掻き乱す。
posted at 02:04:59

「回転スシが皿に無い!おれのところに回ってこない!昨日おれは理由を知った!イタマエの近くの奴が!スシを食べ過ぎる!」「マワッテコナイ!スシガコナイ!」「コナイ!コナイ!スシガコナイ!」「スシを食べすぎるな!」「スシを食べすぎるな!」「スシを、食べすぎるな!」
posted at 02:10:50

「スシを、食べ過ぎるな!」「スシを、食べ過ぎるな!」気づけば、ギンイチは夢中になって周囲のパンクスとともに拳を天に突き上げ、声を枯らして叫んでいた。隣のイチジクと目が合った。笑いあった。
posted at 02:17:50

ステージ近くで、興奮したブディズム・パンクスとキンタロ・パンクスが殴り合いの乱闘を始めた。「アンタイセイ同士でモメゴトしてんじゃねえー!」ヴォーカリストは叫び、そこへ向けてステージ上からダイブした。大変な騒ぎになった。残る三人はまったく意に介する事無く、演奏を続けている。
posted at 02:21:50

やがて、ドラマーとタイキストが一糸乱れぬブレイクを刻み、オコティストはオコトを頭上高く持ち上げると、モッシュピットに力任せに投げつけた。アンプリファイアーからはニューロンを焼き尽くさんばかりの轟音。わずか1曲・2分半の演奏で、この日のアベ一休のライブは終了した。
posted at 02:27:23

「すっごい、すっごいね」知らないうちにステージ前のモッシュピットへ突入していたイチジクが汗だくで帰ってきた。ギンイチも水をかぶったようにびしょ濡れだ。「はい、本当にすごかったです……あれ、その人たちは?」イチジクはパンクスを三人、連れてきていた。男二人、女一人。「友達!」
posted at 02:40:55

「ドーモ、カンタロです」「ドーモ、エビジです」「ドーモ、チキコです」友人パンクスたちはギンイチに向かって順々にオジギをした。「ドーモ、ギンイチです」ギンイチはオジギを返した。三人とも、ギンイチとおそらくほぼ同じ年齢であろう。
posted at 02:45:05

「さっき会ったんだ。いつも『ヨタモノ』で遊んでるんだ、こいつらと」イチジクはにこやかに紹介した。エビジとチキコはその間、互いにべたべたと触れ合いながら、ネンゴロなさまを周囲に隠そうともしなかった。汗であっという間に酒気が抜けたギンイチは、妙な胸騒ぎをおぼえていた。
posted at 02:48:26

「アベ一休、本当すげえな」賞賛しつつ、カンタロがイチジクの肩に腕を回したとき、その胸騒ぎの理由がはっきりわかった。「メンバー、まだいますかね」エビジがフロアを見渡す。「もう帰ったみたいですよ」とチキコ。イチジクが何か言ったが、ギンイチはほとんどうわのそらだった。
posted at 02:55:56

(「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」#4、おわり。#5へつづく。)
posted at 02:57:25

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 02:57:44

(「キューブテック」誌(2001.May) に掲載された、ニンジャスレイヤー・トイのへヴィなコレクター、アダム・フィリップスに対するインタビュー)
posted at 00:19:37

アダム・フィリップスに促されてドアを開けると、まず私を出迎えたのは威圧するように設置されたシックス・フィート・ニンジャスレイヤー・フィギュアだった。いきなりこの20体限定生産のトイが出てくるとは。強烈な牽制を食らった気分だった。
posted at 00:22:11

アダムはにこやかに私を出迎えてくれた。桐製トレイに載せられて出てきたのは、チェリージャム・スシだ。にこやかにそれをつまみながら、私達はこの不遇なトイ・シリーズについての話に花を咲かせた。
posted at 00:24:16

不遇というのはつまり、今回のトピックであるニンジャスレイヤーという作品が、2001年現在において著作権をめぐっての係争の最中にあり、新たなシリーズ展開の目処が立っていないという点にある。
posted at 00:27:14

「でもまあ、僕は信じてるよ。あと10年もすればそのへんのこともきっとクリアになる。モーゼスと最近手紙を交わしたんだ。実際のところ」 アダムはさらりと原作者とのコネクションをほのめかし、さらに私を牽制する。オーケイ、オーケイ。警戒する事は無いんだ。今回、私は単なる聞き手なのだから。
posted at 00:29:24

…じゃあ、さっそく行きましょうか。「オーケー。今日はたっぷり見せるものがある。ニンジャスレイヤーに関してはぼくはヨコヅナだからね」
posted at 00:33:40

……アダム=サンはブリスターパックから出しちゃう派なんですね。 「そりゃそうだよ。トイってのは遊ぶためにあるんだ。せっかくの面白いアクションも、ブリスターの中じゃ楽しめない。保存用と遊ぶ用に二つずつ買うっていうのも、ナンセンス。それなら僕は二倍買って全部パックから出す」
posted at 00:36:54

……なるほど。ではまずはこれですね。いきなりレアなものが……。「だろ?『ワッショイ・ニンジャスレイヤー』。これはファースト・シーズンの初回分限定モノだね。腕を組んで直立不動のポーズのニンジャスレイヤーに、台座が付いてくる」
posted at 00:38:56

……で、こっちはラオモト・カンですね。「そうだね。背広バージョンのラオモト・カンだ。頭巾の灰色がスーツにマッチしていてクール。背中を押してみようか」 ……是非。 『NASEBA NARU !!!』
posted at 00:41:20

……お決まりの台詞ですね。 「それと、『MUHAHAHAHA』と『GOJYUPPO-HYAPPO!』だ。この三つの台詞をランダムでしゃべる。」 次にアダムが出してきたのは、アグラをかいたドラゴン・ゲンドーソーだ。これもまた、なかなかお目にかからないキャラクターだ。
posted at 00:45:30

……これは、手首の先が交換できるタイプですね。 「親指と中指をあわせ、ほかの指を立てた『インストラクション』の仕草ができる。このへんは、やはりおさえておきたいところだ」
posted at 00:47:27

「で、これがヒュージだね」 アダムがテーブルに置いたのは、ダイ・スリケンを両手でつかんだヒュージシュリケンのフィギュアだ。今にもそのシュリケンを投げつけるかのような躍動感。「実際、投げるんだよ。ジャイロギミックがあるんだ。このスクリューを巻き上げて…ほら!」…おっ、すごいですね!
posted at 00:50:04

「このニュービー・ニンジャが同梱だ。首が着脱可能で、ダイ・スリケンを当ててゴア・シーンを再現できるってわけだな。イカレてるだろ(笑)」
posted at 00:52:30

……ワクワクしますね。 「これも凄い。モータードクロだ。モータードクロのオプションは、これ。見てのとおり、タマゴ=スシだな。精緻なものだろ? どこの工場で作っていたんだろうな。」 ……モータードクロのスシといえば、まさか胸板が開いてスシを食べるギミックを再現? 「そのまさかだ」
posted at 00:58:23

「スシを、こうやって、入れるだろ?で、背中を押すと胸板が閉じて……」 『Mmmmmm.....Uhhhhh....Yammyyy....』
posted at 01:00:34

「タマゴじゃなくサバ・スシのバージョンも出ているが、僕もそれは入手できていない。販売期間が短すぎたな。ちなみにサバ・スシの場合は『ネガティブ、サカナのスシはやめてください』だかなんだか、そんな事を言うらしいよ」 ……忠実ですね。 「だね」
posted at 01:05:54

……ニンジャスレイヤーのトイといえば、例のバイオ・ニンジャ、ディスターブドの問題作が話題に上りますが……。「もちろんあるよ! いや、あった、か? 原型を留めてないから。あれはイカレてたな。鋳型とスライムのセットだった。『不定形にして遊んだ後は鋳型に入れて戻してください』ときた」
posted at 01:10:39

「そんなの、戻るわけ無いよな(笑)。でも僕はポリシーを曲げたくないから、ちゃんと遊んで、鋳型を使って、戻らない、そこまでやったよ。そのガッカリな体験すべてをひっくるめて、ひとつの『遊び』だから。後悔はしていない。鋳型、見る?」 …じゃ、後でお願いします。「ヨロコンデ」
posted at 01:12:52

……ナンシー・リーのシリーズの収集状況はどうなんです? 「シーッ! そんなに身を乗り出すなよ。あれは実際ヤバイんだ。ボンデージ・バージョンとゴスドレス・バージョンは地下室だ。あれは公開できない。まあ噂ほど凄くは無いよ。本当さ。だから、このライダースーツ・バージョンで我慢してくれ」
posted at 01:18:48

……ちょっとはぐらかされた感がありますが。「そのライダースーツのナンシーはディリンジャーを持たせられる。ヴォイス・ギミックがついているね。『Dodge This!』 クールだ。」
posted at 01:20:48

「どんどんいこう。これはペスティレンス。INWズンビーニンジャは人気が高いシリーズだよね。これはまたイカレたギミックでさ。頭がポンプ状になっていて、押すと口から、」 ……臭い!なんですかこれ。臭い!ちょっと! 「ヤバイだろうこれ(笑)」
posted at 01:25:09

……私に向けないでくださいよ! 「で、こっちがキャバリアー=ペンドラゴン。腰のところをこう押さえると、ツーハンデッドカタナブレードツルギを振り回し続ける。危険だろ?子供がこのフィギュアでデュエルをやりだすってんで回転速度が抑えられた。これは修正前の危険なバージョンさ」
posted at 01:29:18

「あとは、フジキド・ケンジ・ダイング。見てのとおり、死に掛けたサラリマンのフジキドを再現したフィギュアだ。僕もこれはいくらなんでもニッチ過ぎると思う。そのくせリアルだからな。痛々しいもんだよ。で、ダークニンジャなんだが、」
posted at 01:33:20

……そういえばダークニンジャが残ってましたね。「これは凄いんだよ。デス・キリの姿勢なんだが、背中を押して地面に置くと、3歩前進してベッピンをツバメガエシにするんだ。ヤリスギなぐらいに力が入っている」
posted at 01:36:29

……色々と見てきましたが、返す返す、これだけ魅力的な作品の展開が停滞する現状が惜しいですよ。これらのトイも、今じゃ全部廃盤ですからね。 「まったくだ。だからぼくは、とにかく今はね、ガシンショータンだ、今はとにかくトイを集めて、皆に知らせたいんだよね。ニンジャスレイヤーってものを」
posted at 01:42:59

「くだらない係争にモーゼズたちがケリをつけたそのときに、彼らが再び素晴らしいスタートダッシュを切れるよう、いちファンとしてしっかり準備を整えたい。とにかくその一心さ。君もそうだろう? 無理やり紙面を割いてこんな……」 ……まあまあ。
posted at 01:45:34

…私とアダムは結局その日の深夜まで、仕事を忘れてニンジャスレイヤー・トイで遊び倒した。最後のアダムの指摘は、実際、事実なのだ。私もまたキューブテック編集者の皮をかぶった反抗的なニンジャヘッズなのだ。こっそりとここにその事実を報告し、今回のインタビューの締めとしよう。…セス・ミラー
posted at 01:52:55

(「キューブテック」誌(2001.May) に掲載された、ニンジャスレイヤー・トイのへヴィなコレクター、アダム・フィリップスに対するインタビュー: 終わり)
posted at 01:53:50

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 01:54:06

(親愛なるニンジャスレイヤー読書の皆さんへ)当アカウントのプロフィールに各種アドレスや情報が集約され、より使いやすくなりました。
posted at 09:44:34

NJSLYR> キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー #5

101103

「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」#5
posted at 18:46:06

カンタロはイチジクの肩を抱きながら、ギンイチに笑いかける。「ねえ、それ、アベ一休のTシャツでしょ……」「あ、ハイ」「すごいアンテナ高いですね、さすがです」「イエ……」「どうしたの?」イチジクが、うつむいたギンイチの顔を覗き込もうとする。「イエ、ちょっと酔ってしまいました」
posted at 18:50:33

「本当に大丈夫?」「オカマイナク……」「ヨタモノは朝までやってます。朝まで騒ぎましょう」カンタロがにっこり笑った。「サケを買ってきます」カンタロはパンクスをかきわけ、カウンターのほうへ移動していった。「僕は、トイレに」ギンイチは、弱々しくイチジクに笑いかけた。
posted at 18:53:49

「トイレ、あっちだよ」イチジクの声を背中に受けながら、ギンイチはうつむき加減に出口へ向かって歩いた。痩せたキンタロ・パンクスが興奮しすぎて過呼吸になったのか、ギンイチの前で痙攣しながら倒れた。ギンイチは上の空でそれを踏みつけ、なおも歩く。モクギョコアが再びフロアに轟く。
posted at 18:57:23

ドバンブンバボボボバンブボーン、ボンボベンブンビバンブブンバボ。
posted at 18:58:29

なにを期待していたんだろう、僕は。そりゃそうだ、あんな魅力的なゲイシャパンクガールに、ボーイフレンドの一人や二人。今日この場に誘われたぐらいで、僕が特別な何かだとでも?戦車戦、アベ一休のTシャツ。そんなことで思い上がって。これじゃ昔のケシゴム事件と変わらない。
posted at 19:02:32

ドブンビブブンバンババンビバ、ブババンバブバブンブブンブブーン。
posted at 19:05:58

読者の皆さんは「ナムサン!なにをそんな大袈裟な!ちょっとしたテリヤキ・スキンシップに過ぎないじゃないか!」とあきれてしまうかもしれない。だが、哀れなギンイチにそんな余裕は無かったのだ、そんな心の「タメ」を育てる環境は、これまでの彼の短い人生には、無かったのだ。
posted at 19:09:52

ズンズブンバビンバブンブンブブ、バビブンブブンバンビビバーボバー。
posted at 19:10:50

ギンイチは戦うまえに負けていた。ミヤモト・マサシであれば、まさにこの情けない状況を前に、「敵前のスモトリ、ドヒョウ・リングを踏まず」とコトワザを詠んだことだろう。
posted at 19:12:50

ギンイチはケータイIRC端末で時間を調べた。まだ電車で帰ることはできる時間だ。調べるまでもなく、ママからのノーティスがいっぱいに入ってきている。ギンイチは防塵ブルゾンのポケットに端末機を押し込み、出口のノレンをくぐり抜けた。
posted at 19:17:47

地上へ上がる階段がまるでハリキリ処刑台へ向かう階段のように思われた。うつむき、よろよろと段を踏みしめ、上がって行くギンイチ。狭いその階段で、彼はヨタモノへ降りて行く客とすれ違った。
posted at 19:23:17

ふわりと漂ったなんともいえず不快な臭気に驚き、ギンイチはすれ違った背の高い男を振り返った。……トゲトゲ?
posted at 19:24:40

背の高い男はコートも着ずに、びくり、びくりと時々痙攣しながら階段を降りて行く。ズバリかオハギでガンガンにキメているのだろうか?「あー…あーイイ…肉…」妙な男はそのまま地下の闇に飲み込まれていった。ギンイチは今夜見たなかで一番強烈なパンクスから視線を外し、地上へ上がった。
posted at 19:30:31

(親愛なる読者の皆さんへ。本日はこの後数時間の休憩を挟み再度更新が行われます)
posted at 19:32:00

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posted at 21:35:44

「あと10分後に開始してください」。ケータイIRC端末でSOUKAI_AGONY宛てにWhisperをコマンドした後、タメジマ=サンは思わず天を仰いだ。天といっても、そこは『ヨタモノ』のスタッフ茶の間オフィスの低い天井が見えるだけだが。
posted at 21:39:49

タメジマ=サンを取り囲んでいるのは、6フィート以上の屈強な体格をもつ四人のシシマル・パンクスであった。なるほど、この4人のアイキドー使いに、今は亡き元スモトリ・タケゴは手玉に取られてしまったというわけだ。無理もない。
posted at 21:45:49

ここでタメジマ=サンがたとえばチンピラ防塵スーツの内ポケットへ手を入れたとする。その瞬間、前後左右からアイキ・パンチが繰り出され、タメジマさんは全身を複雑骨折して病院送りとなるであろうことは間違いない。
posted at 21:48:23

「オマエはバカか? 繰り返しノーを突きつけられるために、わざわざまたこうしてやってきたのか? お前のドンくさいバウンサーみたいにシコタマ殴られたいか?」 部屋の隅のチャブテーブルにあぐらをかいたまま、『ヨタモノ』オーナーは凄んで見せた。
posted at 21:56:24

「へへへ、いやあ、もう物騒なことはやめようと思いまして。危ないんで」タメジマ=サンは卑屈な笑みを浮かべて見せた。「考え直しちゃあ、くれませんかねえ? もうね、同意取れてるんです、こちらさん以外……」「カーッ!ペッ!」オーナーが痰を吐いた。
posted at 22:03:24

痰は放物線を描き、四人のシシマル・パンクスに囲まれたタメジマ=サンの額にピシャリと当たった。四人に囲まれた状態で、タメジマ=サンはハンカチに手を出すことすら許されない。恥辱!
posted at 22:04:35

オーナーは親指・人差し指・中指をくっつけ、小指と人差し指を立てて威嚇した。これは日本古来から存在する明確な敵意表現であり、キツネ・サインと呼ばれる。「オトトイキヤッガレ!」オーナーはどやしつけた。
posted at 22:08:23

「へへへ、いやいや、物騒はやめました。かわりに、後戻りできないことしちゃいまして、もうね、アンタも私も、後戻りできないんです、ええ」タメジマ=サンは笑い出した。笑いながら、泣き出した。オーナーが眉をしかめたそのときだった。「アイエエエエエーエエエエエ!」
posted at 22:11:45

表のフロアで鳴り響いていたモクギョコアが、ウギョウギョと不快なノイズを発し、ぷっつり途絶えた。その静寂を、痛ましい悲鳴が切り裂いた。パンクスの怒号があがりかけるが、「アイ、アイエエエエエエ!」さらに痛ましい悲鳴が、ざわつきを制してしまった。
posted at 22:13:55

「お前らそこで待っとけ!」言い置いて、オーナーは茶の間オフィスを飛び出した。静寂のフロア。騒ぎの発端はDJブースだ!何が起こっているかを知ったとき、オーナーの口からも悲鳴がほとばしり出ていた。「ア、アイエエエエエエエ!」
posted at 22:29:37

モクギョコアDJは回転を続けるターンテーブルの上で、蝋人形のディスプレイのごとく棒立ちになっていた。その隣、ミキサーの上に土足で立つのは、ラバースーツを着て体中にタタミ針が刺さった異様な男である。自分の体に刺さったタタミ針を一本一本抜いては、回転するDJの体に、ナムアミダブツ!
posted at 22:35:33

「お、オブジェはゆっくり作るんです、あー、あーイイ……そうして、こう、私があなたになります、あなたが私に、あーイイ……」 針まみれの男は震えながら満足げに呟いた。また一本タタミ針を抜き、DJの眉間に、ナ、ナムアミダブツ!「アイエエエエエエエエ!」
posted at 22:37:59

「オーディエンスのみなさん、動いてはいけません、ひとりひとり順番にやっていきます、とても時間がかかりますので。動いてはいけませんよ、その人が次のオブジェですね、わかりますね、あーイイ……邪魔は不可能なんです、そのう、わたしはニンジャですので……」
posted at 22:40:47

ニンジャという言葉が彼の口をついて出たとき、この場にいるすべての人間の脳裏に絶望が去来したに違いない。もはや、まったき静寂がヨタモノのフロアを支配していた。
posted at 22:43:06

地震、雷、火事、ニンジャ。命知らずのパンクスが例外的に恐れるものを言い表したジョークである。裏を返せば、それほどまでに災害的なものでなければパンクスを恐れさせることはできない、という意味でもあった。だが、今こうしてこの場を掌握しているのは、まさにそのニンジャだというのだ。
posted at 22:43:50

へその下から額まで、一直線に八本のタタミ針を突き刺されたモクギョコアDJは、静寂の中、トコロザワ・ケバブのようにターンテーブルの上でクルクルと回り続けていた。彼は既に恐怖と苦痛によって絶命していた。
posted at 22:46:27

「フザッケルナー!」裏口から飛び出してきた二人のシシマル・パンクスが、凍りついた客の間をぬって、DJブースへ殺到する。四人のアイキドー使いのうちの二人である。走りながら、二人はアイキ・パンチの構えを取った。だが、しかし!「イヤーッ!イイー!」「アイエエエエエ!」「アイエエエエ!」
posted at 22:53:43

一瞬のことであった。針男が体を震わせたと思うと、二人のシシマル・アイキドーが、びくん!と棒立ちになっていた。二人の額から臍下にかけて、8本ずつ、タタミ針が縦一直線に突き刺さっていた。ナムアミダブツ!二人はその姿勢のまま絶命していた。DJと同じ運命を、一瞬にしてたどったのだ!
posted at 22:56:44

遠く離れた相手を一瞬に絶命させたタタミ針。これはいかなるトリックか。それすなわち、ニンジャ筋力のなせる業であった。彼は己の体に刺さった針を、さながらジャンピング・チヨヤ・サボテンのように、ニンジャ筋力によって押し出し、射出したのである。
posted at 23:02:10

「フザッケルナー!」裏口から残る二人のシシマル・パンクスが飛び出し、凍りついた客の間をぬって、DJブースへ殺到する。この二人も走りながらアイキ・パンチの構えを取った。だが、同じことだ。「イヤーッ!イイー!」「アイエエエエエエ!」「アイエエエエエエ!」
posted at 23:35:16

次の瞬間には、棒立ちのタタミ針・オブジェがもう二つ増えただけだった。「あー、イイ……」針男が感極まった様子で痙攣する。「皆さんハジメマシテ、私の名前はアゴニィです。今日はここをジアゲしにきました。オーナー=サン、いましたら……どうかジアゲさせてください……」 
posted at 23:36:16

「そうです、わかりましたか、言う事をききなさいよ」裏口からタメジマ=サンがのそのそと進み出てきた。そしてオーナーにキツネ・サインをつきつけた。「さもなくばインガオホー!」だがその時、アゴニィの体が再び痙攣した。「イヤーッ!イイー!」「アイエエエエエエエエ!」
posted at 23:40:54

次の瞬間には、あわれなドチンピラ、タメジマ=サンもまた、オブジェとなって棒立ちの死体になりはてたのであった。「あー……この土地、ジアゲ、私のボスが全部いただきます……とてもイイでしょう……これ……」アゴニィが痙攣した。「オーナー=サン、お願いしますね……」ナムアミダブツ!
posted at 23:43:28

彼らを襲った突然の不条理を前に、パンクスは呼吸も忘れて、てんでに立ち尽くしていた。そして殺戮のフロアの片隅で、イチジクもまた、震えながら、サンズ・リバーの無慈悲な風景、死神の指先を、脳裏に幻視するのだった。
posted at 23:51:09

(「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」#5、終わり。#6につづく
posted at 23:52:12

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 10:23:47

NJSLYR> キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー #6

101105

「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」#6
posted at 21:54:55

RT @NJSLYR: 彼らを襲った突然の不条理を前に、パンクスは呼吸も忘れて、てんでに立ち尽くしていた。そして殺戮のフロアの片隅で、イチジクもまた、震えながら、サンズ・リバーの無慈悲な風景、死神の指先を、脳裏に幻視するのだった。
posted at 21:55:27

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posted at 21:55:42

「あー、イイ……あんまり邪魔しないで……とても困ります……ちょっとずつ消費していかないと……つまらなくて……」 アゴニィは震えながら、腰のバイオ巾着袋をまさぐる。新たなタタミ針だ。それを自らの体にブスブスと刺し始める。「あ、あ、イイ…!!」
posted at 22:03:08

血気盛んなパンクスたちも、そのさまをただ黙って見ているしか術がない。アゴニィというこのラバースーツ・ニンジャは、ほんの数分のうちに6人を殺害してみせた。しかも、そのうち4人はアイキドーの使い手だ。これにより彼は完全に「ヨタモノ」のフロアを掌握してしまったのである。
posted at 22:11:14

「ハイ、では、次は、あなたに決めました、わかりますね?」アゴニィが手近のリバースモヒカン・パンクスのアゴを右手でわしづかんだ。「ア……アイエエ……」恥も外聞もなく、そのパンクスは情けない悲鳴を漏らした。その眉間に、アゴニィは自分の体から引き抜いたタタミ針を……ナ、ナムアミダブツ!
posted at 22:15:22

「アイエエエエエエ!」リバースモヒカンパンクスは飛び出さんばかりに目を見開き、絶叫する。「イイーッ!」アゴニィは上体をのけぞらせ、感極まって痙攣した。「アーッ!あなたの苦痛! これでニンジャソウルが、とても湧いて来るんです!わかってください! さあ、二本目です!オ、オブジェ!」
posted at 22:20:07

「アイエエエエエエエ!」リバースモヒカンパンクスの絶叫が再びフロアに反響する。イチジクは顔を引きつらせ、目をそむけた。カンタロがそれを気づかい、小声でささやきかける。「大丈夫だ、きっとチャンスがある」 イチジクは青ざめ、目を閉じたままだ。チャンス? なんのチャンスが?
posted at 22:24:39

「アイエーエエエ!アイ、ア、アイエエエエエエ!」「イイーッ!」ナムアミダブツ! これ以上のマッポー地獄がどこにあるというのか! 「アイエエエエ!」耐えかねたゲイシャ・スキンズ・パンクスの一人が脱兎のごとく出口へ駆け出す。「イヤーッ!イイーッ!」「アイエエエエエエ!」
posted at 22:28:35

もちろん、それを見逃すアゴニィではない! ニンジャ筋力によって射出された八本のタタミ針がスキンズ・ゲイシャ・パンクスの首から腰にかけ 縦一列に突き刺さると、哀れ、棒立ちになって絶命した。
posted at 22:31:12

イチジクは目を硬く閉じ、両手で耳をふさいだ。いったいどうして、こんなことに!?
posted at 22:32:11

(……いったいどうして、こんなことに!?) 階段からわずかに顔をのぞかせ、「ヨタモノ」の中の様子をかろうじて伺うギンイチもまた、まったく同じ文言を脳裏に思い浮かべていた。
posted at 22:34:11

ムコウミズ・ストリートを駅へ向かっていくらか歩き、そしてやはり後悔と胸騒ぎを抱きつつ引き返したギンイチに、こんな光景は想定できようはずもない。彼はただ、最後にイチジクに一言声をかけたかった、ただそれだけなのに。それで、ふんぎりをつけ、日常に戻ろうと……。
posted at 22:37:52

「アイーアイエエエーエエエーーー!」犠牲者が4本目のタタミ針に悲鳴を上げる。ギンイチはわれに返った。どうしよう。どうにかしなきゃ。どうしたらいい? 飛び込むか? そしてサムライ探偵のようにサムライ・カラテで……ギンイチは妄想を振り払った。イヌジニだ!
posted at 22:43:46

ギンイチは奥歯を噛み締め、そろりそろりと、階段を再び上がり始めた。今この状況を外に伝えられるのは自分だけだ。イチジク=サン、どうか、どうかそれまで。「アイーアイイイイイエエエエエエエ!アイエーエエエエー!」「イイー!」
posted at 22:46:52

背後の闇に悲鳴を置き去りにしながら、ギンイチはウシミツ・アワーのムコウミズ・ストリートへ転がり出た。防塵トレンチコートを着込んだ人々が雨水を蹴り散らかしながら足早に駅の方角へ歩いている。ギンイチは路上を見渡す。そして朱塗りの瓦屋根を発見した。マッポ・ステーションだ。
posted at 22:49:30

「タスケテ!タスケテください!」両開きのフスマ式自動ドアーを開け、ギンイチは中へ飛び込んだ。デスクのスズリで墨を磨っていた若いマッポが立ち上がり、「どうしました。君ぃ、IDを見せなさい。ダメでしょう、子供がこんなウシミツ・アワーに……」
posted at 22:57:23

「その話は後で何でも聞きます!今は、お願いします、『ヨタモノ』で……」「ヨタモノ?またあそこか。ケンカか。仕方がないな。だがねェ、あそこは元来そういう所で…」マッポがしぶしぶスタン・ジュッテを手に取ったが、ギンイチはその腕を掴み、ゆさぶった。「一人じゃダメだ!殺人事件なんだ!」 
posted at 23:03:25

「どういう事か」マッポの表情が険しくなる。障子戸が開き、奥の茶の間から年配のマッポが出てきた。「殺人事件?詳しく話しなさい」「ニンジャです!」
posted at 23:07:20

「……ニンジャ……」 若いマッポは絶句してギンイチを見つめた。沈黙を経て、年配マッポが若マッポの肩を叩き、再びデスクに座らせた。「書き物、続けなさい。明日になっちまうぞ」「え……」ギンイチと若マッポは同時にその言葉をいぶかった。
posted at 23:15:54

「それはどういう……」ギンイチは年配マッポの背中に問いかけようとした。彼はもう茶の間へ戻るところだった。衝撃!何たる職務怠慢!「出動無しですか?いいんですか?」若マッポも質問するが、年配マッポが「書き物!」と叱責すると、すぐに気持ちを切り替え、再びスズリで墨を磨りはじめた。
posted at 23:20:14

「そんな!タスケテクダサイ!ニンジャがたくさんの人を殺しているんだ!早くしないと、もっとたくさんの人が……」ギンイチが言い募るが、年配マッポは険しい顔で首を振るだけだった。「ニンジャっていうのはな。まあ、いろいろ難しいんだ。そのうちわかる。残念だが、帰ンなさい」
posted at 23:29:54

ピシャリ、と音を立てて、茶の間の障子戸が閉まった。ギンイチはすがるような目で若マッポを見た。だが、もはや若マッポはその表情から人間らしさを自ら拭い去り、機械的にスズリで墨を磨るばかりであった。「帰りなさい」 ギンイチを見ずに言った。上司の命令は絶対なのだ。
posted at 23:37:45

ギンイチはよろよろとムコウミズ・ストリートをあてもなく歩く。霧のような重金属含有雨が降り出し、行きかう人々はトレンチコートの襟をかきあわせて、足早に通り過ぎていく。「重複すると不利益」と書かれたネオンサインが雨水を受けてバチバチと音を立てる。
posted at 23:53:43

上空ではどこかの企業のチャーターヘリがヒュンヒュンと音を立てて飛んでゆく。バリキ・ドリンクの空き瓶が転がってきて、ギンイチの靴のつま先に当たって、止まる。編み笠をかぶった電子浮浪者たちはマイコ・センターの看板を手に持って、雨の中、棒立ちになっている。そうして日銭を稼ぐのだ。
posted at 00:03:26

ギンイチは自問した。どうしてイチジクは自分の前にあらわれたのだろう。どうして自分は「反射神経ストーム」、あの無機質な高揚、電子タンクの残像の世界から、進んではみ出したのだろう……そして、どうして? ……だからって、どうして、こんなひどい結末を、運命は用意して、待っていたんだろう?
posted at 00:09:40

気づけばギンイチはアスファルトに膝から崩れ落ちていた。こうしている間にもあの異常ニンジャは無意味な殺戮を続けていることだろう。いずれその魔の手はイチジクに及ぶ。そしてギンイチは何もできない。それを止める手立てを持たない。今では道行く人々もまばらだ。電車が終わったからだ。
posted at 00:16:23

どの道、声をかける手立てもない。助けを求めたところで、進んで見ず知らずの人を殺人鬼から助けようとする者などいるわけがない。いたとして、あのニンジャに勝てるわけがない。……ハッポー塞がりの絶望であった。ギンイチの胸中に、次第に悲愴な決意が育ちつつあった。
posted at 00:19:50

戻ろう。「ヨタモノ」に戻って、イチジクを助けるんだ。そして殺されよう。後悔を引きずって惨めに生き続けるよりは、美しい記憶でこの人生を閉じてやろう。素敵な女の子に話しかけられて、心揺さぶられる音楽に触れた。あとは素敵な女の子のために命を投げ出して、この記憶を永遠のものとしよう。
posted at 00:24:44

雨の中、ツカツカと歩いてきた男が、うずくまるギンイチの前で立ち止まった。泥水が撥ねた。進路を妨害してしまった。「スミマセン」ギンイチはよろめきながら立ち上がった。脇に退いたが、男は行かなかった。ハンチング帽を目深にかぶった男は、低く問うた。「さっき『ニンジャ』と言ったのはお前か」
posted at 00:30:26

「アイエエ……」ギンイチは震えて後ずさった。男はさらに一歩近づいた。「お前だな。確かにお前の声だった。……『ニンジャ』。『ヨタモノ』。間違いないな」
posted at 00:35:42

「ア、アイエエ……」ギンイチはさらに後ずさった。男はさらに一歩近づいた。ギンイチの背中にモジョ・ガレットのセルフサービス屋台がぶつかり、横倒しになったが、男は意に介さなかった。「『ヨタモノ』にニンジャがいるのだな?」 
posted at 00:39:51

ギンイチはからからの喉から声を絞り出した。「タスケテください、タスケテ……僕には何にもできないんです……」涙が溢れ出した。男はハイともイイエとも言わなかった。ただ、その瞳は、ゾッとするようなマッポー的表情を浮かび上がらせていた。憎悪と……愉悦!
posted at 00:45:12

「イヤーッ!」男はバク転とともにハンチング帽と耐重金属トレンチコートを脱ぎ捨てると、そのまま頭上の「おいしい食べ物です」と書かれたネオン看板を蹴って跳び、ギンイチの視界からいなくなった。赤黒のぼんやりした残像がギンイチの網膜に一瞬焼きつき、消えた。
posted at 00:57:13

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posted at 00:59:30

「ア、アイエエエエエエ!」「アーッ!アーッ!もう、イイーッ!」アゴニィは自分の体を激しくねじって悶絶していた。「すごくイイーッ!」「アイエエエエエ!」 カンタロは4本目のタタミ針を心臓のすぐ脇に打ち込まれ、口からあぶくを噴出した。エビジは既にカンタロの隣でオブジェ化している。
posted at 01:03:56

一人殺すと、次はその一番近くのパンクスが標的となる。野蛮な喜びを味わい高揚しているのか、アゴニィが犠牲者にタタミ針を突き刺すスピードは徐々に速くなっている。カンタロの一番近くで目に涙を浮かべ凍りついているのはイチジクである!
posted at 01:08:07

カンタロに屈み込む長身のアゴニィが、ぐるりと首を動かし、イチジクを見つめた。「ああ……あなた素敵です、早くあなたの番にしたいですが、この、じらされている感じが、とてもイイーッ!」「ア、アイエエエエ!」
posted at 01:12:30

五本目のタタミ針がカンタロの鎖骨の中心に突き刺さる!「アイエエエエエエ!」 「イヤーッ!」「イイーッ!?」
posted at 01:14:11

ブルズアイ! それはさながら赤黒のボブスレイ・スレッドがまっしぐらに階段を滑り降り、入り口のノレンを潜り抜け、弾丸のごとき勢いで衝突してきたかのようであった。不意を打たれたアゴニィは側頭部に直撃を受け、不自然な姿勢で壁に叩きつけられた。
posted at 01:20:59

トビゲリ・アンブッシュを成功させた突入者は反動でバク転しながらDJブースへと跳んだ。そしてターンテーブルの上でいまだクルクルと回転し続けていたモクギョコアDJの死体を横から蹴り飛ばし、自らがターンテーブルの上に膝まづくと、稲妻のようなチョップで機材を破壊。回転を停止した。
posted at 01:25:06

「い、イイーッ!」アゴニィは素早く3連続の前転でDJブースに接近し、ブリッジの姿勢から突入者を見上げた。「すごくイイーッ!誰ですか、あなたは……」ブースのLEDボンボリが、突入者の赤黒の装束を、そして「忍」「殺」と彫金された恐ろしいメンポを照らし出した。
posted at 01:31:08

「あー……あなた、ニンジャスレイヤー=サンですね? ハジメマシテ、アゴニィです」ブリッジした姿勢のまま、アゴニィがアイサツした。「痛めつけ合いましょう、ニンジャスレイヤー=サン」
posted at 01:38:06

「ドーモ、ハジメマシテ、アゴニィ=サン。ニンジャスレイヤーです」 ターンテーブル上からニンジャスレイヤーがアイサツした。「……ニンジャ殺すべし」
posted at 01:40:04

「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」#6 おわり (#7へ続く)
posted at 01:41:17

◆◆◆◆◆◆◆
posted at 01:41:38

NJSLYR> キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー #7

101108

「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」#7
posted at 19:01:17

(前回あらすじ: 先鋭的被虐嗜虐ニンジャ・アゴニィはバー「ヨタモノ」で殺戮を開始する。イチジクを救うため、無力なギンイチはムコウミズ・ストリートを駆ける。マッポすら我関せずを決め込む絶望下、彼のもとに現れたのはニンジャスレイヤーであった。)
posted at 19:05:20

(ギンイチの切なる願いは、闇の復讐者の耳に届いたのか。イチジクは拷問殺人の現場を生き延びられるのか!?今、二人の殺戮ニンジャが対峙する!ワッショイ!)
posted at 19:08:19

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posted at 19:08:38

「イヤーッ!」膝立ちの姿勢からニンジャスレイヤースリケンを投げた。12枚のスリケンがブリッジ姿勢で待ち受けるアゴニィの体に立て続けに突き刺さる。ナムサン!異常ニンジャは避けようともしなかった!「アーッ!イイーッ!」
posted at 19:13:25

血が吹き出すが、アゴニィは歓喜に震え舌なめずりをするのだった。なんたる嗜虐!アゴニィは自ら待ち望み、ニンジャスレイヤーのスリケン連射を受けたのだ!
posted at 19:16:44

「アッ!アーッ!死んでしまう!我慢できないーッ!」ブリッジ姿勢のまま、アゴニィの痙攣がひときわ強まったかと思うと、次の瞬間、彼の体に刺さったタタミ針が360度方位に射出された!
posted at 19:20:22

「アイエエエエ!」「アイエエエエ!」「アイエエエエ!」「アイエエエエ!」「アイエエエエ!」「アイエエエエ!」「アイエエエエ!」「アイエエエエ!」「アイエエエエ!」「アイエエエエ!」「アイエエエエ!」「アイエエエエ!」
posted at 19:24:53

ひと呼吸のうちに一度に12人のパンクスが体軸に沿ったタタミ針を受け、オブジェ化して絶命した。その中にはすでに瀕死だったカンタロも含まれている。「アイエエエエ!」イチジクが床に倒れた。カンタロの体の陰になりはしたが、左ふくらはぎと左脇腹にタタミ針が深々と刺さっていた。
posted at 19:28:32

ニンジャスレイヤーはどうか!?彼は無傷だった。彼は両手を掲げて見せた。両手の人差し指と中指で、飛来したすべてのタタミ針を挟み込み、止めていたのである!
posted at 19:30:47

「あー……なるほど噂通りのウデマエ……」全身のタタミ針を飛ばし尽くしたアゴニィは(スリケンは地面に抜け落ちていた)、全身の細かい穴状の傷から血を流しながら、ぐねぐねと立ち上がった。
posted at 19:35:51

「これはとても期待しています……」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの飛び蹴りがアゴニィの延髄に叩き込まれた。「アーッ!イイーッ!」アゴニィは痙攣しながらよろめいた。懐へ飛び込んだニンジャスレイヤーは、体制を崩したアゴニィの腹部へチョップ突きを乱れ打った。「イヤーッ!」「アーッ!」
posted at 19:40:28

乱れ突きは止まらない!「イヤーッ!」「アーッ!」「イヤーッ!」「アーッ!」「イヤーッ!」「アーッ!」突きを受け続け、アゴニィの体が徐々に浮き上がる。そこへニンジャスレイヤーはトドメとばかりに回し蹴りを繰り出した。「イヤーッ!」「アアーッ!イイーッ!」
posted at 19:47:05

長身のアゴニィがワイヤーで引っ張られたように吹き飛び、ヨタモノ・パンク・バンドの公演告知、「お客が来るパンク」「デモ行進に近い」「破壊的」「スゴイ」などと無政府主義者の文言が墨書きされた張り紙で埋めつくされた壁に手ひどく叩きつけられた。
posted at 19:52:23

「あー…イイー……」ずるずると壁から降りながら、アゴニィは満足げな吐息を漏らす。「こんなに痛い事はあんまりありません……ダークニンジャ=サンに痛めつけられた日を思い出します……」あきらかに致命傷に近いはずの打撃を受けていながら、彼はさほどこたえていないようであった。
posted at 19:58:53

ニンジャスレイヤーはカラテの構えを取り、アゴニィの次の手をうかがう。単なるニンジャ耐久力では説明のつかぬアゴニィの不死身のヒントを読み取ろうという腹づもりである。
posted at 20:05:38

一歩、二歩。ニンジャスレイヤーへと歩みを進めながら、アゴニィは腰のバイオ巾着袋からタタミ針を取り出し、ブスリ、ブスリ……己の体に「再装填」を始める。「イ、イイ……」「アイエエエエ!」「アイエーエエエ!」さきの全方位攻撃を生き延びたパンクスが、割れ先にと出口へ駆け出した。
posted at 20:09:35

「あー…オブジェ…減ってしまう!」アゴニィが跳躍した。「でもイイーッ!」奇怪!空中で側転しながら、遠心力を乗せた蹴りがニンジャスレイヤーの脳天を襲撃する!「イヤーッ!」「アーッ!」
posted at 20:13:38

ニンジャスレイヤーは大振りのチョップを繰り出し、アゴニィの奇怪なカラテ蹴りを弾き返した。反動で飛び離れるアゴニィへ、スリケンを投げつける。やはりアゴニィはガードしない。「イイーッ!」
posted at 20:16:27

(親愛なる読者の皆さんへ・翻訳チームのスシが切れたので本日分は数時間後の更新再開となります)
posted at 20:18:25

「あーイイー……」ブリッジ姿勢で着地したアゴニィは鎖骨と胸板に刺さったスリケンを自らの手でさらに押し込み、愉悦に震えた。アゴニィが痙攣するたび、その周囲の空気がわずかに陽炎めいて揺れる。ニンジャスレイヤーは目をひそめた。
posted at 22:09:15

「あー……とってもいいのですが、あなたの痛みが足りませんから、そろそろお願いしたいです……アーッ!」ぶるっ、とアゴニィが強く震えると、再び無数の針がラバースーツから解き放たれた。さきの全包囲攻撃と違い、標的はニンジャスレイヤーただ一人。タタミ針全てがニンジャスレイヤーに集中する!
posted at 22:14:24

「Wasshoi!」 ニンジャスレイヤーはシャウトし、天井近くまで跳躍した。「アッ!アッ!アッアッ!」それを追いかけるように連射されるタタミ針!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは棒立ちになった手近のパンクス・死体オブジェを蹴り、逆方向に跳んだ!
posted at 22:19:09

「アッ!アッ!アッ!アッアッ!」それを追いかけるように連射されるタタミ針!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはシシマル・パンクスの死体オブジェを蹴り、逆方向に跳んだ!
posted at 22:20:15

「アッ!アッ!アッ!アッアッ!」それを追いかけるように連射されるタタミ針!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはタメジマ=サンの死体オブジェを蹴り、逆方向に跳んだ!
posted at 22:20:30

「アッ!アッ!アッ!アッアッ!」それを追いかけるように連射されるタタミ針!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはカンタロの死体オブジェを蹴り、逆方向に跳んだ!
posted at 22:20:52

「アッ!アッ!アッ!アッアッ!」それを追いかけるように連射されるタタミ針!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはリバースモヒカン・パンクスの死体オブジェを蹴り、逆方向に跳んだ!
posted at 22:21:53

「アッ!?」 タタミ針が無くなった。リロードが必要だ。その隙を逃すニンジャスレイヤーではない。ニンジャスレイヤーはスキンズ・ゲイシャ・パンクスの死体オブジェを蹴り、ブリッジするアゴニィへ跳んだ!「イヤーッ!」回転して勢いをつけた踵落としである。ALAS!なんたる見事なアクロ空手!
posted at 22:26:22

アゴニィはブリッジ姿勢の腹部へ踵攻撃をまともに受け、地面に叩きつけられた。そしてその反動で、空中へバウンドした。
posted at 22:27:43

「イ、イイイーッ!」ゆっくりと空中へ浮き上がったアゴニィが不気味に手足をばたつかせる。ニンジャスレイヤーの肩の筋肉が縄のように盛り上がった。そしてアフリカ投げ槍戦士のごとく、上体をねじってスリケンを持つ手に力を込める。ジュー・ジツの大技、ツヨイ=スリケンの構えだ!
posted at 22:34:15

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げた。スリケンはアゴニィの左足首を貫通した。「イイーッ!」
posted at 22:34:42

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げた。スリケンはアゴニィの左手首を貫通した。「イイーッ!」
posted at 22:34:58

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げた。スリケンはアゴニィの右足首を貫通した。「イイーッ!」
posted at 22:35:16

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げた。スリケンはアゴニィの右手首を貫通した。「イイーッ!」
posted at 22:35:54

スリケンが四肢を貫通し、衝撃で体を大の字に開いた空中のアゴニィに狙いを定め、ニンジャスレイヤーは体を限りなく低く沈める。跳躍の準備動作である。
posted at 22:39:24

「イヤーッ!」跳び蹴りがアゴニィの腹部を直撃した。アゴニィは大の字の姿勢で壁面に叩きつけられた。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはそこへスリケンを再び投げつける。投げるスリケンは四枚。狙いは四肢に既に刺さったスリケンである。
posted at 22:42:45

「イイーッ!?」追加スリケンは釘を打つがごとく、アゴニィに既に刺さった両手足首のスリケンを深々と壁にめり込ませた。ナムアミダブツ!瞬く間に、アゴニィは壁面に大の字になってハリツケにされていた!
posted at 22:44:39

「アーッ!動けません」アゴニィがぜいぜいと息を吐いた。逃れようともがくが、スリケンはアゴニィをがっちりとヨタモノの壁に縫いつけていた。「……苦痛がオヌシの力の源か」ニンジャスレイヤーはアゴニィのもとへ、ゆっくりと近づいて行く。その声はそれまでとうって変わり、奇妙にしわがれている。
posted at 23:09:16

「あなた……何ですか……?」荒い息を吐くアゴニィは、ニンジャスレイヤーの奇妙な変化に気づいたようだった。一歩一歩、ニンジャスレイヤーが近づく。「苦痛がオヌシの力の源か」ニンジャスレイヤーは繰り返した。「では、どうすればオヌシを殺せるか、少し考えてみるとしような」
posted at 23:14:17

アゴニィはニンジャスレイヤーの「忍」「殺」のメンポを見、それからその目を見た。その瞳を、瞳の奥の暗い輝きを覗き込んだ時、彼はニンジャらしからぬ情けない悲鳴を、初めて知る怖れの感情を、喉をからして搾り出したのだった。「アイエエエエエエエエエエエ!」
posted at 23:17:47

---
posted at 23:18:24

トミモト・ストリートを駆け戻ったギンイチは、ようやく「ヨタモノ」の通りへ辿り着いた。そして、周囲の路上で恐怖と苦痛に打ちひしがれるパンクスの群れを見い出したのであった。何人かは身体の刺し傷から血を流していた。失禁したり嘔吐するパンクスもいた。誰もが肉体か精神に重い傷を負っていた。
posted at 00:26:23

ギンイチは訝った。なにが起きているのか!?さっきの男と、なにか関連が?パンクスの中にイチジクを探すが、見当たらない。では、まだヨタモノの中だ。ギンイチはためらわなかった。「やめろ!中は…」「ニンジャ…」何人かが、階段を駆け下りるギンイチの背中に警告の言葉を投げる。
posted at 00:36:16

ノレンを潜り抜け、フロアへ飛び込む。LEDボンボリが不気味に照らすのは、サボテンのように針を生やした棒立ちの死体の数々である。それはまるで居並ぶハカイシのようであった。イチジクは? この死体の中にイチジクがいるのか? そんな! 
posted at 00:48:41

ギンイチは絶望しかけた。だがその時、暗い床の上で身じろぎした者があった。「イチジク=サン!」駆け寄ったギンイチは屈み込み、倒れた少女の上体を起こした。「ギンイチ=サン?……」弱々しい声が漏れた。生きている!イチジクの脚と脇腹にむごく刺さったタタミ針にギンイチは思わず涙した。
posted at 00:55:20

「みんな……」イチジクは呟き、そのあとの言葉を飲み込んだ。みんな死んでしまった。硬直し棒立ち姿勢のまま横倒しになっているのはカンタロの死体だった。その近くにエビジとチキコのオブジェ死体が直立している。そして、それを殺したのは、あのアゴニィというニンジャ、「ニ…ニンジャは!」
posted at 01:26:51

ギンイチとイチジクは同時に気づいた。オブジェ死体が立ち並ぶフロアの奥、あの悪魔のような残虐ニンジャが、壁面に大の字になってハリツケにされている事に。
posted at 01:28:18

そのハリツケへゆっくり近づく人影。LEDボンボリで照らされる、赤黒のニンジャ装束を着た存在……それはギンイチがムコウミズ・ストリートで助けを求めたあの男であろうか、あの、網膜に焼きついた色と同じ装束を着た、ニンジャ……ニンジャを殺すニンジャ……。
posted at 01:32:19

「ニンジャ……スレイヤー……」ギンイチの口から自然に漏れたその言葉は、まさにその赤黒のニンジャが自ら名乗る名前に他ならなかった。
posted at 01:35:32

(キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー#7 おわり。次回#8でこのエピソードは終了です)
posted at 01:37:57

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 01:38:17

NJSLYR> キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー #8

101111

キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー #8
posted at 18:16:01

(前回のあらすじ:ギンイチが発した「ニンジャ」という言葉をニンジャ聴力で聴き取ったニンジャスレイヤーは、バー「ヨタモノ」に突入。虐殺を繰り広げていた超嗜虐被虐ニンジャ・アゴニィの異形カラテを破り、スゴイ=スリケンによって、異常なニンジャ回復力を持つアゴニィの体をハリツケにする。
posted at 18:21:06

ギンイチがヨタモノに戻ると、既に決着はつかんとしていた。タタミ針を刺されたオブジェ死体にまぎれ、床に倒れたイチジクの無事を助け起こしたギンイチ。二人の無害なハイスクール学生は、ニンジャの裁きを目の当たりにする……)
posted at 18:23:39

---
posted at 18:25:02

「アイ……アイエエエエエエ!」先程までの恍惚とうってかわり、アゴニィは必死でハリツケを脱しようともがいていた。だが、深々と両手足首を貫通し壁に食い込んだスリケンはびくともしなかった。ニンジャスレイヤーはそのさまを無慈悲に嘲笑う。
posted at 18:28:24

「イタミニンジャ・クランのニンジャは苦痛をニンジャ回復力に換えるジツを持っておる。オヌシを見て思い出したわ。首だけになりながら、なおもワシから逃れんとしたイタミニンジャ・クランのグレーターニンジャをな」ニンジャスレイヤーはゆっくりと近づいた。
posted at 18:33:49

「オヌシのようなヒヨッコに、そこまでのジツはあろうものか?まあよい……」「アイエエエエエエ!」ニンジャスレイヤーはアゴニィの首の後ろへ手を伸ばす。人差し指と中指が、ナムアミダブツ!
posted at 18:40:41

「イヤーッ!」血濡れの指が頸部から引き抜かれると、暴れていたアゴニィの四肢が力を失い、ぐったりと垂れた。「もはや痛みは感じまい。なに、頭を砕いてしまえばどのみち終わりだが、それではつまらぬ」ニンジャスレイヤーはハリツケとなったアゴニィの足元に屈みこむ。手にしているのは火打石だ!
posted at 18:53:37

火打石を打ち合わせると、アゴニィの爪先に小さな火が灯った。徐々にそれは、ひどい悪臭とともにアゴニィのラバーニンジャ装束を侵食し、燃え広がる。「アーッ!グワーッ!」ナ、ナムアミダブツ!なんたる残虐!それはさながらニンジャ松明である!
posted at 18:57:50

ニンジャスレイヤーは狂ったように哄笑する!「薪をくべてやろう!ほれ!」手近のブッダヘアー・パンクスの棒立ちオブジェ死体をつかみ、ハリツケ・アゴニィの足元に投げ込んだ!「アーッ!グワーッ!」
posted at 19:00:59

「何を恐れるか!苦しみが欲しいのであろうが? 苦痛は欲しくとも、死は恐ろしいてか!なんたるハンパな覚悟!グッハハハハハ!」狂ったように笑いながら、手近のシシマル・パンクスの棒立ちオブジェ死体をつかみ、ハリツケ・アゴニィの足元に投げ込んだ!炎が燃え盛る!「アーッ!グワーッ!」
posted at 19:04:52

ナムアミダブツ!マッポーの地獄の門が今ここに開いた!体を反らせて笑い狂うニンジャスレイヤーの瞳は今、点のようにすぼまり、炎よりもまぶしく赤く光り輝いている。おお、読者諸氏はご存知あろうか、まさにそれはフジキドの自我をナラク・ニンジャが掌握したしるしである!
posted at 19:35:28

「やめてください死にたくない」息も絶え絶えのアゴニィが炎の中で呟く。ニンジャスレイヤーは哄笑した。「ブザマ!己は殺したいだけ殺すが、殺されるはごめんとな!そうよのう、そうよのう。今のオヌシはまさにインガオホー、観念してハイクを詠め!グッハハハハハ!」「グワーッ!グワーッ!」
posted at 19:41:18

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posted at 19:57:02

まさにその瞬間。遠く離れたとあるドージョー、力強く神秘的なカタカナで「ドラゴン」と刺繍された掛け軸の下、龍の刺繍を入れたニンジャ装束を着、積み重ねた座布団に正座して瞑想にふけっていた老人が、カッと目を開いた。
posted at 20:03:46

「お爺様?」近くで同様に正座していた美しい娘が、老人を振り仰いだ。老人は唸った。「なんたる邪悪!?」娘は不安気な視線を送った。娘のバストは豊満である。「邪悪?」「ユカノ!牛車を用意せい!」「こんな時間にでございますか」老人は厳しく頷いた。そして呟く。「これは一体いかなるシルシか」
posted at 20:11:38

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posted at 20:12:16

人型に燃え上がる炎、その熱と煙でぼんやりとなりながら、ギンイチはなんとかイチジクの体を支えようとした。二人は眼前の殺戮の光景に視線をしばられ、ほとんど魅入っていた。だが、このままでは炎にまかれ、一酸化炭素中毒で死に至る事は確実だ。ギンイチは己を奮い立たせた。
posted at 20:18:37

「行こう、イチジク=サン。ここから出なきゃ……」衰弱したイチジクに肩を貸し、ゆっくり立ち上がる。フロアの奥で、赤黒のニンジャは手近のオブジェ死体をつかんでは投げ、薪のようにくべている。後ずさったギンイチを、振り向いたニンジャの赤い眼光が、捉えた。
posted at 20:26:21

ニンジャは哄笑した。「生きた薪もあったか!これはチョージョー!」言うが早いか、一息で二人の眼前に跳び来たった。その手がイチジクのゲイシャパンク・ガーゼキモノシャツの襟元をつかむ!「サツバツ!」ギンイチは弾かれ、床に尻餅をついた。まるで相手にせず、というていである。
posted at 20:54:08

「ア、アイエエエ!」衰弱したイチジクがもがき、叫ぶ。ニンジャはそれを容赦なく引きずってゆく。「イ、イチジク=サン」ギンイチは震えた。
posted at 20:55:22

「イチジク=サン!」ギンイチは叫んだ。そのとき彼の心を満たしたのは、やみくもな激情、理不尽に対する悲痛な怒りだった。「イチジク=サン!」ギンイチは力を振り絞り、立ち上がった。「アアー!」そして口をついて出る、おぼえたてのシュプレヒコール!「アンタイセイ!アンタイセイ!」
posted at 20:59:00

ギンイチはニンジャの背中めがけて、拳を振り上げ、飛びかかった。「アンタイセーイ!」ニンジャはよどみなく、振り向きながらの回し蹴りを繰り出した。「イヤーッ!」
posted at 21:00:47

回し蹴りは正確にギンイチの首筋を目掛けていた。時間が止まったように思えた。とりとめのない思考がギンイチのニューロンを駆け巡った。
posted at 21:06:27

どうしてこんな事になったのだろう。身の丈以上の望みを持ったからだろうか。反射神経ストーム。空虚な電子の王様。喝采を送るが名も知らぬわずかなギャラリー。ママの叱責。泣きながら嘔吐するパパ。センタ試験。
posted at 21:07:45

日常を振り捨て、一転、身を焼くような非日常、まぶしい躍動、美しいイチジク、頭を吹き飛ばすようなライブ、そんな素敵なものを、ぼくのようなギークが求めるなんて、そんなのは過ぎた欲望だった、だからこうして罰が下り、イチジクの肩を抱くカンタロが、殺戮が、ニンジャが……違う!いやだ!
posted at 21:11:53

ぼくにだって拳はある!言葉はある!ふざけるな!こんな運命、捨ててしまえ!このニンジャを倒すんだ!イチジクを助けるんだ!ふざけるな!ふざけるな!アンタイセイ!
posted at 21:14:36

「アーッ!」ギンイチの拳はニンジャのメンポを打った。回し蹴りは当たらなかった。ギンイチの首を吹き飛ばす寸前で止まったのだ。ニンジャはよろめいた。「アーッ!」ギンイチは泣きながら叫んだ。ニンジャのメンポを力任せに打った。ニンジャがよろめく。拳の皮が破け、血が噴き出した。
posted at 21:17:39

「アーッ!」ギンイチは左の拳で殴りかかった。ニンジャはその手をマンリキのような握力でつかんだ。今度こそ、おしまいだ。イチジク=サン!
posted at 21:19:17

「ハ ヤ ク イ ケ」
posted at 21:20:17

どん、とニンジャがギンイチを突き飛ばした。ギンイチはニンジャの顔を見、衝撃を受けた。ニンジャは血の涙を流していた。小刻みに震えていた。まるで自分を押さえ込むかのように。「ハヤクイケ」絞り出すような声でニンジャが告げた。
posted at 21:22:42

ニンジャの後ろで炎が爆ぜた。炎が床材を伝ってフロア全体にひろがるのは時間の問題だ。ギンイチに訝ったり考える時間は無かった。イチジクを助け起こす。カジバチカラ!ギンイチは気を失ったイチジクをそのまま肩に担ぎ上げた。出口を目指し、イチジクを担いだまま、自分でも驚くほどの速さで駆けた。
posted at 21:29:39

走りながら、ギンイチは一度振り返った。目に写ったのは、火に包まれたハリツケ・ニンジャへ今一度向き直り、飛びかかるニンジャの姿だった。「イヤーッ!」「サヨナラ!」ジャンプしながらのチョップが脳天を粉砕、ハリツケ・ニンジャが爆発した。ギンイチは最後の力を振り絞り、階段を駆け上がった。
posted at 21:35:54

「おい、出てきたぞ!」「ナムアミダブツ!」「早く……」霞む視界の中、深夜のムコウミズ・ストリート、ギンイチの耳に幾つかの声が飛び込んできた。それきり、ギンイチの意識は遠くなった。
posted at 21:42:16

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posted at 21:57:16

そのあとギンイチが目を覚ましたのは、ヤカタ式救急車の後部ベッド、スモークシールドされた窓ガラスをぼやけた星のように行き交うネオン、背中に感じる道路のガタつき、モーター音。横で同じように寝かされたイチジクは、腹と脚に包帯を巻かれ、オヒナ人形のような白い寝顔。
posted at 22:02:13

混濁した意識が徐々にクリアになるなか、ギンイチは思考を巡らせる。救急車。こうして手厚い処置が受けられるのは、二人の属する社会階級あればこそなのだ。路上生活者やプロジェクトの人間、あるいは真にアンタイセイに身を置く人間であれば、路地に打ち捨てられるか、闇医者に献体として売られるか。
posted at 22:09:11

ママが毎日イライラして、パパが押し潰されそうになって、そうして維持するアッパーな世界に、最終的に救われたのだ。でも……。ギンイチは苦々しい気持ちを整理できなかった。今夜は余りにもひどい事が起こり過ぎた。
posted at 22:12:39

やがてイチジクが目を覚ます。彼女はまばたきをして車内の様子を把握しようと努める。そして、同じようにベッドで横になるギンイチと目があった。その目に、見る間に涙が溜まった。
posted at 22:16:17

ギンイチは何か言おうとしたが、言葉など出るわけがない。イチジクが無言でギンイチに震える手を伸ばす。涙が筋になっている。ギンイチはそれに応え、冷たい手を握り返した。二人はしばらくそうしていた。ただ苦しく、辛かった。段差を踏むたびに救急車は上下に揺れた。
posted at 22:21:04

明日から始まる生活は何だろう。どんなものだろう。今までの世界がそのまま戻ってくるはずもない。色んな事があったのだ……。
posted at 22:25:10

ギンイチの手を握ったまま、イチジクは再び眠りに落ちていた。ギンイチは思いを巡らすのをやめた。ただ眠ろう。そうすれば少なくとも朝にはなる。眠ろう。ギンイチは目を閉じた。
posted at 22:29:42

ギンイチの手の中で、イチジクの冷たい手は少しずつ暖かくなる。ギンイチはただその事だけを感じ取ろうとした。何も考えず、ただイチジクの手の温度の事だけを。ただそれだけを。
posted at 22:35:58

(「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」終わり)
posted at 22:37:14

◆◆◆◆◆◆◆
posted at 22:37:52

(親愛なる読者の皆さんへ) 翻訳時の重大なミステイクがありました事をここにお伝えし、お詫び申し上げます。キツネ・サインについてです。(続く)
posted at 13:11:00

正しくは「中指と薬指、親指を合わせ、人差し指と小指を立てる」サインです。掲載時のやり方ではキツネは作れません。どうかご注意ください。正しい日本文化を誤解させかねないミスを重く見た翻訳チームは、責任者をアバシリ研修へ送りました。重ね重ね、お詫び申し上げます。(終わり)
posted at 13:15:55

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 13:25:35

NJSLYR> ネオヤクザ・フォー・セル #1

100725

第1巻「ネオサイタマ炎上」より「ネオヤクザ・フォー・セル」
posted at 23:12:48

ネオサイタマに聳える悪の根城、トコロザワ・ピラー十三階。ここはラオモト・カンのダミー会社、ネコソギ・ファンドの事務所であり、ダーク・ニンジャ・ソサイエティのトレーニング・グラウンドでもある。窓の外では、空からの攻撃を防ぐため、数十基のサーチライトが慌しく夜空を切り裂いていた。
posted at 23:13:25

ラオモトは長さ十メートルもある高級一枚板のデスクに座り、葉巻をふかす。今日の彼の装束は戦闘服ではない。ヨロシ=サン製薬との商談があるからだ。ビジネス用のアルマーニスーツ上下に、鎖頭巾、黄金メンポという出で立ちである。それでも、全身から殺気がみなぎっていた。
posted at 23:33:28

「ラオモト=サン、新型のクローンヤクザ、Y-12ができました」ヨロシ=サン製薬の営業が、汗をふきながらしどろもどろで説明する。数億というカネが動く一大取引だ。ラオモトの機嫌を取るために、大トロ粉末を30キログラムも持参している。
posted at 23:35:08

「見てみよう、ヨロシ=サン。ワシを落胆させないでくれよ」 ラオモトは席を立ち、ヨロシ=サンと並んで、吹き抜けになっている十二階を見下ろした。十二階はアリーナ状になっており、それをぐるりと見下ろす十三階のガラス窓は、すべて強靭な防弾ガラス製となっている。
posted at 23:39:56

「あれです」  ヨロシ=サンが指差す先には、黒いスーツに身を包んだ十数人のクローンヤクザが立ち、ボーリングのピンのように整然と並んでいた。  表向きは江戸時代から続く風邪薬メーカー、ヨロシ=サン製薬は、数々の生体兵器を裏社会に流通させる死の武器商人でもあるのだ。
posted at 23:41:24

「ライオンを放せ」ラオモトがブザーボタンを押しながら命令する。  ゲイシャの描かれた巨大な障子戸が開き、中からメキシコ産の凶悪なライオンが姿を現すと、たちまちヤクザたちに飛び掛った!  並の人間なら50人がかりでも殺せない、恐るべき猛獣だ。
posted at 23:43:47

だがクローンヤクザは、全員まったく同じ動きで左の胸元からチャカを抜き、一糸乱れぬ射撃でライオンをあの世に送った。それから、まったく同じ動きでチャカを仕舞い、まったく同じ動きで乱れた髪を直し、まったく同じ動きで床にタンを吐いた。ナムアミダブツ! 何という統率力か!
posted at 23:46:12

「ムハハハハハ!」ラオモトは哄笑する。 「敵はもうライオンでも、ケーサツでも、スモトリでも同じことです」ヨロシ=サンの営業も、ネズミのような笑い声を漏らしながら自慢げに語った。「クローンならではの統一感です。Y-12は無敵です」しかし彼の笑いもここまでだった。
posted at 23:49:59

「ではヒュージシュリケンを放せ」ラオモトがブザーを押した。 何だって? ヨロシ=サンの顔が曇る。失禁し、営業スーツの前がほんのり湿る。 ゲイシャの描かれた障子戸が開き、中からバンディットに良く似たニンジャが姿を現した。直径2メートル近い巨大スリケンを紐で背負っているのが特徴だ。
posted at 23:54:53

クローンヤクザが身構える前に、ヒュージシュリケンは想像を絶するほどの素早い動きと力で、背中の巨大スリケンを投げた。ヤクザたちは一斉にチャカへ手を伸ばす。だが間に合わない! クローンヤクザは、全員同時に恐怖の悲鳴を上げた。
posted at 23:56:12

セラミック製の巨大スリケンはブーメランのような軌道を描き、ボーリングのピンのように並んだヤクザ全員の首を切り飛ばしながら、再び持ち主であるヒュージシュリケンの手元に戻った。首を失ったヤクザたちは、糸の切れた操り人形のように、全員一斉に後ろへと倒れた。
posted at 23:58:52

「ムハハハハハ! ストライク! ムッハハハハハハ!」ラオモトはセンスを広げて大笑いしていた。彼は弱者が虫けらのように死ぬのを見るのが何よりも好きなのだ。
posted at 00:07:23

「ラオモト=サン、申し訳ありません」ヨロシ=サンの営業は恐怖のあまり床に倒れて、喘息を起こしたマグロのように口をぱくぱくとさせていた。「責任をとってセプクします」
posted at 00:08:07

「いや、いい」ラオモトはセンスをぴしゃりと閉じる。「ヘータイがニンジャよりも強ければ、いつ寝首をかかれるかわからんではないか。ヨロシ=サンよ、今回も良い仕事だった」 「毎度ありがとうございます」ヨロシ=サンの営業は息も絶え絶えに立ち上がり、前をハンカチで拭いた。
posted at 00:09:24

「しかし、貴様はワシのオフィスの床を汚したため、生かしてはおかん」ラオモトがボタンを押すと、ヨロシ=サンの営業の足元が開き、人食いズワイガニの群がるプールへと真っ逆さまに転落した。営業がカニに手足を喰われるのを見下ろしながら、ラオモト・カンはこの日最高の笑い声をあげる。
posted at 00:15:35

「ヒュージシュリケンよ、アッパレだ」ラオモトがブザーを押してアリーナに声を轟かせる。「今、ワシには2つの敵がおる。ニンジャスレイヤーとドラゴンドージョーだ」
posted at 00:17:14

「ニンジャスレイヤーなる鼠には、バンディットを差し向けた。お前はアースクエイクと組み、ドージョーに放火してくるのだ」ラオモトが血も涙もない命令を下す。 「ヨロコンデー!」ヒュージシュリケンはバク転を打ちながら、障子戸の向こうに消えた。(「サプライズド・ドージョー」に続く)
posted at 00:18:45

NJSLYR> レイジ・アゲンスト・トーフ #1

101024

第1部「ネオサイタマ炎上」より 「レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード1「スシ・バー」
posted at 23:05:10

今宵もネオサイタマに髑髏のような満月が昇り、汚染物質を大量に孕んだイカスミのような黒雲がそれを覆い隠していた。色褪せたケブラー・トレンチコートを重金属酸性雨に濡らしながら、その三十がらみの下層労働者は、「や」「す」「い」「!」と書かれた無人スシ・バーのノレンをくぐる。
posted at 23:06:26

無人スシ・バーは、ネオサイタマで最も典型的なファスト・フードのひとつだ。老人たちが好む古き善き回転スシ・バーのような笑顔や暖かみは無く、かといって、若者たちが好むドンブリ・ポン社のチェーン店のような無軌道な騒々しさもない。無人スシ・バーには、人との関わりに疲れた男たちが集うのだ。
posted at 23:08:29

ここがドンブリ・ポン社の丼屋であれば、ドアを開けた途端、アンチブディズム・ブラックメタルバンド「カナガワ」が奏でるBPM350のファスト・チューンが耳に飛び込んでくるだろう。だが、この典型的無人スシ・バーには、電子合成された雅楽の音と竹筒のカコーンという音しか流れていない。
posted at 23:09:29

ケブラー・トレンチの男は、左右を見渡して席を探した。ノレンから一歩足を踏み入れれば、そこはもうカウンターで、四十人からの下層労働者やマケグミ・サラリマンたちが一列になって固定式の椅子に座っている。俗に言う、ウナギの寝床と呼ばれる横長の店構えだ。奥行きは、1メートルあるかないか。
posted at 23:10:47

店の一番奥、不潔なトイレの横にひとつだけ空席があった。客の背中に肩をぶつけながら、トレンチの男はウナギの寝床を進んでゆく。店内には「ちょっと失礼します」の一声を奨励する張り紙があるが、彼はそれを省みようとせず、オジギさえもしない。この男には、どこか捨て鉢なところがある。
posted at 23:12:58

「痛えな、あんた」夜なのにサングラスをかけたマケグミが、トレンチの袖を引っ張った。男はキリストのようにやつれた顔で振り向き、カール気味の髪の奥で、鉛色に濁った眼を光らせた。コートの袖に隠れていた旧式サイバー義手がちらつくと、恐れをなしたマケグミは一礼をしてカウンターに向き直った。
posted at 23:16:52

喧嘩をする気にもなれない……下層民同士で潰し合って何になるんだ。フェイク漆が塗られた貧相なチェアに腰を下ろしながら、トレンチの男は心の中でひとりごちた。店内に流れる「イヨォー」という乙な電子音声とツツミの音で、ささくれ立った心を慰めながら、トレンチの男は目の前の白壁と向かい合う。
posted at 23:20:49

無人スシ・バーでは、すべての席が孤立しており、横の席との間にはヒノキ板の仕切りが立っている。この板を越えて話をすることは、基本的にはマナー違反だ。客が見るのは、手元のスシと、目の前にある墨絵の描かれた白壁だけ。まさに、スシのための完璧なワビサビ空間がここにあるのだ。
posted at 23:26:50

男はサイバー義手を備えた右手をポケットの中に突っ込むと、ぎこちない動きで三枚の百円玉を取り出し、それをカウンターの上に置いた。無人スシ・バーにイタマエはいない。男は眼前の壁に開いた小さなスリットに百円玉をひとつ滑り込ませ、墨絵のトラの目が光ったのを確認してから、低い声で呟いた。
posted at 23:30:15

「タマゴだ」
posted at 23:31:14

墨絵の龍が描かれた箇所がからくり扉のように開き、何の人間味もないメカ・アームに運ばれて、皿に乗ったタマゴの握りが姿を現した。男が皿を取ると、パタンとしめやかに扉が閉じる。
posted at 23:34:42

男はカウンターに置かれた古風なショーユ瓶に目をやる。それから、義手の右手と生身の左手を交互に見比べ、結局左手でショーユ瓶を掴み、タールのようにどす黒い液体をタマゴにかけた。
posted at 23:40:36

旧式サイバー義手は力の加減ができず、繊細作業に向いていない。その上、重金属酸性雨に弱く、維持に金がかさむときている。とんだ負債を背負ってしまったものだ。男には溜息を吐く気力も無かった。何の感慨もなく、左手でタマゴ握りを口へ運ぶ。そして百円玉をもうひとつ、スリットに滑り込ませた。
posted at 23:42:46

「マグロを」
posted at 23:45:42

墨絵の壁がパカリと開き、表面が七色に光り輝くうまそうなマグロの握りが現れる。男はこれも淡々と口に放り込む。 百円玉はあと1枚しかないが、今月はあと十日もある。男は少々迷ってから、スリットにコインを滑り込ませ、低い声でつぶやいた。
posted at 23:47:40

「マグ……いや、タマゴだ」
posted at 23:48:16

男の頬は痩せこけ、瞳はかつての輝きを失っている。天然マグロの目のように淀んでいる。墨絵師として身を立てるという彼の夢は、大方ついえたところだ。彼は業界最大手のサカイエサン・トーフ工場で働きながら墨絵の研鑽を続けていたが、トーフプレス機で右手を失ってから、すべてが狂ってしまった。
posted at 23:52:14

会社の保障で右手をサイバー義手に替えられる、と事務の女が手続きを取ったところまでは、まだ救いがあった。サイバー義手で幽玄を描く墨絵師、として売り出せる目が残っているからだ。しかし、この男……シガキ・サイゼンに与えられたのは、四世代前の戦闘用サイバー義手「テッコ」だったのである。
posted at 00:03:23

それでも今の時勢、保障が無いよりはましだ。そう考えたシガキは、なんとも御人好しで愚かだった。テッコは全く力の加減ができないため、全毛筆を自らの手で折ってしまったのみならず、職場復帰した次の日にはプレス機のバルブを破壊してしまったからだ。彼は解雇の上、膨大な賠償金を背負わされた。
posted at 00:09:45

貯金は底をつき、さらにテッコの維持費もかさみだした。工場でかせぐ日銭は全て、ネオ・カブキチョにいるモグリのサイバネティック医者にふんだくられる。腎臓を片方売ったが、さほどの金にもならなかった。もう片方売ろうか、とも一時は考えたが、これ以上取るのは流石にまずいと医者に諭された。
posted at 00:11:26

当座をしのぐ簡単な方法がある。テッコを売ってしまうことだ。手術費と相殺しても、数千円の金は手元に残るだろう。メンテ代も不要になる。だが、この右手を売ることは、墨絵師としての夢を完全に放棄することをも意味していた。シガキの胸にはまだ、数千円の誘惑に抗うだけの気概は残っていたのだ。
posted at 00:31:46

そうだ、このタマゴを頬張って、次の仕事を探しに行こう。だがそう考えて席を立とうとしたシガキは、偶然にも、隣の席の二人の客がヒノキ板越しに話している会話の内容を聞いてしまったのだ。
posted at 00:33:54

「本当ですか?」「ええ本当です」そのコケシ工場労働者と思しき二人の客は、酒に酔った勢いか、ウカツにもかなり大きな声で密談を行っていた。「トーフ工場の襲撃ですか?」「はい」「誰でも参加できるんですか?」「はい」「炊き出しもありますか?」「バリキドリンクの支給があるらしいですよ」
posted at 00:42:04

シガキは反射的に席を立ち、二人の肩に手を回した。「なあ、あんたがた。俺もそのトーフヤ襲撃ってやつに参加したいんだけど、どうしたらいいんだい?」
posted at 00:43:29

「レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード1「スシ・バー」終わり。 エピソード2「バックストリート・ニンジャ」に続く。 ※注:「バックストリート・ニンジャ」はすでにツイート済です。
posted at 00:45:58

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posted at 13:10:28

NJSLYR> レイジ・アゲンスト・トーフ #2

101026

第1部「ネオサイタマ炎上」より 「レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード3「ソウカイ・シンジケート」
posted at 22:51:49

エンペラーを失って久しいカスミガセキ皇居ビルの666階で、秘密会議が行われている。参加者の大半はソウカイヤ……日本経済界を裏で取り仕切る秘密結社の連中だ。彼らと癒着する暗黒メガコーポ各社の幹部たちも、この談合に参加している。ヨロシサン製薬やオムラ・インダストリなどがその筆頭だ。
posted at 22:57:44

真暗なフロアの中心には、「殺伐」と毛筆で書かれた大円卓が据えられている。そこに掛ける参加者三十人全員の顔が、埋め込み型UNIXモニタの放つ緑色の光に下から照らされ、ユーレイのように浮かび上がる。部屋の四隅には、最新型クローンヤクザY-11がカタナを構えて剣呑な風情で立っていた。
posted at 23:13:46

円卓の中心にはボンボリ状の3D映像が投影され、刻々と移り変わる株価情報や、猥雑千万なオイラン天気予報などを、万華鏡のごとく映し出していた。しかし、このホール自体はハカバのように静かである。ここで声を発する者はいない。何故なら、IRCを使った最先端談合システムがここにあるからだ。
posted at 23:22:18

声を出せば盗聴の危険がある。録音され言質を取られても困る。だが、電子情報はいくらでも改竄が効く。よってIRC談合は、ソウカイヤに非常に好まれている。参加者は円卓にイヤホンプラグを挿し、オイラン天気予報やネンブツ・レディオなどで心の平静を保ちながら、キーボードを黙々と叩くのである。
posted at 23:31:21

#DANGOU:TANAKA@SOUKAIYA:甚大な被害を生んだ先日のクローンヤクザ工場事故について、ヨロシ=サン製薬会社殿のお考えを頂戴したく。/// タイプ速度わずか5秒! ここにいるのは、サイバー手術無しで常人の十倍以上のIRCタイプ速度を誇るスゴイ級ハッカーばかりだ。
posted at 23:51:42

#DANGOU:KATAGI@YOROSI_SAN:第三プラントが異常加熱したため、加速装置が爆発。その結果、緑色のバイオエキスがタマガワに注ぎました。が、現在は回復し再稼動しております。皆様、クローンヤクザの製品は安心です。/// タイプ速度3秒! 小さなどよめきが漏れる。
posted at 00:00:21

ヨロシサンのスゴイ級ハッカー、カタギはどよめきを聞きながら、続くセンテンスを得意気に高速タイプした。 #DANGOU:KATAGI@YOROSI_SAN:なお、この件につきまして、日本政府からは例によってお咎めなしです。ただ、浣腸保護団体がこれをしつこく嗅ぎ回っています。 ///
posted at 23:38:01

#DANGOU:TERUWO@SOUKAIYA:浣腸 /// #DANGOU:KANABUKI@SOUKAIYA:kant /// #DANGOU:TANAKA@SOUKAIYA:浣腸とは何事か! ///
posted at 23:47:10

インガオホー! 慢心が生んだ痛恨のタイプミスだ。日本語はアルファベットが一文字違うだけで致命的な意味の違いを生んでしまう、油断ならない言語なのである。カタギ=サンは不健康そうな青白い顔を、さらに青白くして狼狽した。ニューロンがチリチリし、ひきつった口の端からよだれが漏れる。
posted at 23:57:11

#DANGOU:KATAGI@YOROSI_SAN:たたた大変失礼致しました、環境保護団体の間違いです。/// #DANGOU:TERUWO@SOUKAIYA:直ちにセプクしろ! /// #DANGOU:KANABUKI@SOUKAIYA:直ちにセプクだ! ///
posted at 00:41:26

ソウカイヤたちは、鬼の首を取ったかのようにセプクの大合唱を始める。無慈悲なタイプ音がカタカタと響き渡った。カタギ=サンは「この場でセプクか、さもなくば指を数本ケジメされるだろう」と考え、失禁寸前だった。スゴイ級ハッカーにとって、指を失うことは死刑宣告にも等しい。だが、その時……
posted at 00:47:20

#DANGOU:KHAN@NEKOSOGI:まあまあ、おのおのがた、それ以上ヨロシ=サンを愚弄しないほうがいい。タイプミスなど誰にでもあること。コウボウ・エラーズというではないか。/// メッセージの横に括弧で示されるタイプ時間は……0コンマ5秒! 全員がゴクリと固唾を飲んだ。
posted at 00:54:42

いや、より重要なのはタイプ速度ではなく、そのアカウント名であった。カンという男の名がボンボリ3Dモニタに映し出されるやいなや、全員のタイプ音が一斉に止んだ。皆、神妙な顔つきで次の発言を見守る。ホールにはもはや、定期的に分泌されるクローンヤクザY-11の痰の音だけしか存在しない。
posted at 01:00:23

日本屈指のリアルヤクザや暗黒メガコーポの幹部らと肩を並べるどころか、恐怖さえ抱かせるとは。しかも、スゴイ級ハッカーを遥かに凌ぐタイプ速度。果たしてこのカンなる男、一体いかなる人物なのか? 違法サイバー手術を受けたテンサイ級ハッカーなのか? 或いは…もしかすると……ニンジャなのか?
posted at 01:12:47

「あの程度でセプクを迫るとは、まったく興ざめだ。罪を憎んで人を憎まず、というコトワザがある」アルマーニ製のスーツを着込み、鎖帷子のついたニンジャ頭巾で両目以外を覆った男が、円卓席を立ちながら肉声でぴしゃりと言った。「おのおのがた、本日の談合はこれにて閉会とさせていただきたい」
posted at 23:24:44

驚くべきことに、彼の体にLANケーブルジャックイン用のバイオ端子は見当たらない。テンサイ級ハッカーにも匹敵する、わずか0コンマ5秒の長文IRCタイプを、彼は想像を絶するほどの身体能力によって成し遂げていたのだ。タツジン! これは人間技ではない。まがうことなき、ニンジャの技である。
posted at 23:29:10

彼こそがラオモト・カン。七つのニンジャソウルを憑依させつつも自我を保つ、恐るべきニンジャ。ソウカイヤの実力行使部門ソウカイ・シックスゲイツを束ねる頭目にして、のっぴきならぬネコソギ・ファンド社の長でもある。彼を敵に回せば、その晩にでもシックスゲイツの暗殺者がデリバリーされるのだ。
posted at 23:36:51

威圧的な暴君のオーラをまとってラオモトが立ち上がるや、暗黒経済世界の大物たちは顔を青ざめさせ、先を争うように談合ルームから退室を始めた。クローンヤクザたちが、かしこまって一礼する。 今日の談合は終了だ。特に大きな成果はなかった。ヨロシ=サンに対する糾弾がうやむやになった点以外は。
posted at 23:38:18

「ラオモト=センセイ。本日は大変お世話になりました。ヤクザ工場爆発の件は水に流されました。蒸す返す無粋な輩はいないでしょう」 前歯をリスのようにむき出し、下卑た笑い顔を張り付かせながら、ヨロシ=サン製薬の幹部カタギ・シンゲンはラオモトに歩み寄った。まだ膝がかすかに震えている。
posted at 23:41:28

「ムハハハハ! 気にするな、カタギ=サン。ヨロシサン製薬にはいつも、無理な注文を通させているからな」4人のクローンヤクザとカタギ=サンだけが残った暗い談合ルームに、ラオモトの哄笑が響き渡った。「ときに、トーフヤの件だが、Y-11型ヤクザの大量購入を拒否したという話は本当か?」
posted at 00:01:28

「はい。しかもサカイエサン・トーフ社は、我々の系列企業ニルヴァーナ・トーフ社との提携を拒否し続け、国内のトーフ市場独占に向けて動いているのです」カタギはもみ手をしながら報告する。ボンボリ3Dモニタには、ここ数ヶ月でウナギ昇りとなったサカイエサン・トーフ社の株価推移が映し出された。
posted at 00:05:26

「ムハハハハ、愚かな奴らだ。インガオホーというコトワザを知らぬと見える」ラオモトは絶大な自信と狡猾な知性をうかがわせる言葉で答えた。「約束どおり、トーフヤ襲撃計画を実行に移そう。手はずは整えてある。貧民を扇動し、トーフ工場を襲わせるのだ。むろん、必要物資の協力は可能であろうな?」
posted at 00:07:40

「ヨロコンデー!」静かな殺気をたたえたラオモトの視線を受け、カタギ=サンは失禁。しかし平静を装いつつ続けた。「ズバリ成分を違法混入させた特製バリキ・ドリンクを、500ダース提供させて頂きます。これを服用した貧民たちはズバリ状態に陥り、痛みも恐れも知らぬ暴徒軍団が完成いたします!」
posted at 00:15:57

「500?」ラオモト=サンの口調が突然、セラミックカタナのように切れ味鋭いそれに変わった。たったそれだけで、周囲にいたクローンヤクザ4人が同時に失禁する。命の危機を感じたカタギ=サンは、素早く自らの過ちを認めた。「アイエエエ。大変失礼いたしました。1000ダースのタイプミスです」
posted at 00:24:00

「ムハハハ! 1000! ムッハハハハハ!」ラオモトは再び温和な口調に戻り、鎖頭巾の奥に満足そうな笑みを浮かべた。カタギはほっと胸を撫で下ろす。だが、それから数秒も経たぬうちに再びラオモトの目元から笑いが消え、今日一度も見せたことのない目……恐るべきニンジャの目へと変わったのだ。
posted at 00:31:52

「何かあったか、ダークニンジャ」とラオモトが呟く。 すると、彼の後ろに伸びる影の中に、いつの間にか見慣れぬニンジャが立て膝の姿勢で控えているのだった。 「報告いたします、バンディット=サンが戻りません」
posted at 00:35:36

影の名はフジオ・カタクラ。ラオモト・カンの懐刀であり、ダークニンジャの通り名でも知られている。彼は、かのフジキド・ケンジを一度殺したニンジャでもあるが……それはまた別の機会に語られることだろう。
posted at 00:40:13

「計画の遅れは許されん。奴が戻らぬなら、おぬしがビホルダーに密書を届けよ」ラオモトはボンボリ3Dモニタの株価情報と時計とオイラン天気予報を同時に見ながら、苛立たしげに言った。「…バンディットにはニンジャスレイヤーなる妨害者の調査も命じてあった。何か関係があるやもしれん。注意せよ」
posted at 00:48:05

「御意」と残し、ダークニンジャは再び影の中に消える。 「不安にさせたかな、カタギ=サン?」うってかわって、ラオモトが猫を撫でるように優しげな口調で言った。「襲撃計画は必ずや実行に移される。ズバリ・ドリンクを頼んだぞ」 「ヨロコンデー!」出っ歯の小男は、いそいそと談合ルームを出た。
posted at 00:59:48

談合ルームにはラオモトとクローンヤクザだけが残された。ラオモトは株価情報を注視しながらネコソギ・ファンド事務所とのホットラインを開き、ニンジャ頭巾に備わったインカムに囁く。彼の口元には、勝ち誇ったような笑みが刻まれていた。 「サカイエサン・トーフの株を、100万本ショートしろ」
posted at 01:07:59

ナムアミダブツ! 何たる謀略だろう。ソウカイ・シンジケートは、このように日本株式市場を背後からコントロールしているのだ。サカイエサン・トーフ工場はこのままラオモト・カンの陰謀によって破壊され、何十万もの罪無き人々が餓死してしまうのだろうか? 走れ! ニンジャスレイヤー! 走れ!
posted at 01:15:10

「レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード3「ソウカイ・シンジケート」終わり。 エピソード4「ウシミツ・アワー・ライオット」に続く。
posted at 01:29:44

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 01:30:32

NJSLYR> レイジ・アゲンスト・トーフ #3

101030

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード4「ウシミツ・アワー・ライオット」
posted at 20:10:02

シガキ・サイゼンと二人のコケシ工場労働者は、サカイエサン・トーフ社襲撃を呼びかけるオリガミ・メールの地図に従って、ネオサイタマ西部の雑然とした繁華街を歩く。紫や緑のけばけばしいライトが夜闇を切り裂き、中でもひときわ明るい青いライトが、オイランハウスの並ぶ通りを煌々と照らしていた。
posted at 20:16:28

またネオサイタマのどこかで銃撃戦による交通規制が起こったらしく、そこかしこでタクシー運転手の罵声が飛び交っている。重金属酸性雨は束の間止み、天頂にはドクロのごとき満月が昇っていた。そのドクロの口は、あたかもシガキたちに向けて「ナムサン」と唱えているようにも見える。
posted at 20:26:44

「トーフ工場襲撃とは、物騒な世の中になったものだ」とシガキが他人事のように呟いた。「何がおかしいものですか」とコケシ労働者「権力に対する抵抗なんてチャメシ・インシデントですよ。ストリートギャングは毎日のようにマッポと銃撃戦をくり広げて、交通渋滞を引き起こしているじゃないですか」
posted at 20:34:22

まるでオノボリのように諭されたことに対して、シガキはいささか不満を覚えながら、こう返した「待て待て、不思議なのはサカイエサン・トーフ社が標的ということだ。確かに業界最大手ではあるが……あの1個10円の激安四連トーフ“カルテット”のお陰で、どれだけの貧民が食いつないでいることか」。
posted at 22:11:51

「まあ、それはそうですが」と、ほろ酔い顔のコケシ労働者たち「今回の襲撃は何でも奪い放題らしいですから、いいじゃないですか」。 これを聞いたシガキの中に強い嫌悪感がこみ上げ、行動にこそ出さなかったものの、この無思考な連中を侮蔑した。俺もお前たちもカルテットを喰っているだろうに、と。
posted at 22:19:23

このように、シガキの中ではまだ葛藤が続いていた。本当にかつての勤め先、サカイエサン・トーフ工場襲撃に加わるべきどうか、彼は決めかねている。そもそも、そんな事が本当に起こるのかを確かめに来た、という気持ちが強い。そうこう思案しているうちに、コケシ労働者が「あそこですかね」と言った。
posted at 22:23:03

そこには地下駐車場に通じる旧式のイナリ型エレベーターがあり、手前には黒服の二人組が立っていた。背丈は同じ、体格も同じ、聖徳太子のような髭も、サングラスの傾き具合も、ポニーテールの長さも、すべてが奇妙なほど同じ。まるで双子だ。彼らは「トーフ関連」と書かれた立て札を持っている。
posted at 22:27:48

「あれ? あの人ですよ。ネオ・カブキチョでこのメールとティッシュを配っていたのは」とコケシの一人が言う「双子だったんですかね?」。 一行は、紫色のオリガミ・メールをかざしながら近づく。シガキたちは気付いていなかったが、紫色の面には小さく、交差する二本のカタナのマークが入っていた。
posted at 22:32:06

黒服たちは地面に痰を吐いた後、品定めをするように三人の労働者たちを観察する。それからエレベーターのボタンを押し、シガキらに下へ行くよう無言で促した。錆付いたドアが開き、「限界です」という間違った電子音声が鳴る。鋭いシガキは直感的に思う、「何かおかしいな」と。だがもう遅かった。
posted at 22:37:59

「わくわくしますね」「バリキドリンクも支給ですからね」とコケシたち。電脳オイランハウスや違法麻薬シャカリキ・タブレットの広告ビラがくまなく貼られたエレベーターは、紫色の電灯を頼りなく明滅させながら、閉鎖された地下三階の駐車場へと到着した。「限界です」と電子音声が鳴って、扉が開く。
posted at 22:43:09

薄暗いマグロ色の照明と湿った悪臭が、三人組を迎える。地下駐車場には既に数百もの人間が集結し、ごったがえしていた。奥を見やれば、二十台近くもの黒塗りトレーラーが、坂になった出口付近で縦列待機している。予想外の大規模さに驚き、シガキたちはエレベーターの中でしばし立ち尽くした。
posted at 22:50:11

「ザッケンナコラー!」三人に対して突然、背筋も凍るような恐ろしいヤクザ・スラングが浴びせられる。地上にいた立札持ちと瓜二つの男が、危険なサスマタをちらつかせながら、素早く列に並ぶよう身振りで促してきたのだ。 「アイエエエ…」コケシたちは震え上がり、そそくさと目の前の長い列に並ぶ。
posted at 23:14:26

捨て鉢なシガキは動じず、大股で歩きながら駐車場全体を見渡した。暗い地下駐車場の至るところに、まったく同じ顔つきの黒服たちがいた。彼らは皆凶悪な武器を持っており、キナ臭いどころの話ではない。シガキが列の最後尾に並ぶ頃、背後でエレベーターが到着し、新たな参加者たちが吐き出されてきた。
posted at 23:19:04

実は、ポニーテールに隠された黒服たちの首元には、「Y-11/SK」から始まる製造番号とバーコードが刻印されている。彼らはヨロシサン製薬によって作られた、Y-11型バイオヤクザなのだ。無垢にして無教養なるネイサイタマ市民は、クローン技術が既に実用化されていることを知らないのである。
posted at 00:15:39

支給が始まった。クローンヤクザの一人が配給役になり、1人に3本、良く冷えたバリキドリンクを手渡す。その横では、別のクローンヤクザがメモ帳に同じ漢字を繰り返し記入しながら、参加者の人数を計測していた。参加者たちはバリキドリンクの山に目が釘付けになり、そこにしか注意を払っていない。
posted at 00:28:04

だがバリキ中毒者ではないシガキは、冷静にこの地下駐車場内で起こっていることを観察していた。どうやらここに集められているのは、肉体労働者、マケグミ・サラリマン、無軌道学生、ヒョットコ、パンクス、リアルヤクザ、ユーレイ・ゴスなど、実に様々な人種のようだ。
posted at 00:30:38

シガキたちの前には、パンチパーマが特徴的な4人のブディズム・パンクスたちが列に並び、互いの胸を押し合いながらスカム禅問答に興じている。一方でシガキたちの後ろには、ブラックメタルバンド「カナガワ」のブッダ解剖Tシャツを着た8人のアンチブディストたちが並んだ。まさに一触即発の状態だ。
posted at 00:31:56

列の外では、「やっぱり帰りたい」と言い出した気弱そうなモヒカン学生がクローンヤクザ2人に両脇を抱えられて暗がりに連れて行かれ、直後にくぐもった悲鳴と打擲音が聞こえてくる。エレベーターが到着し、モヒカン学生の断末魔を代弁しているかのように、「限界です」と間違った電子音声が鳴った。
posted at 00:34:35

バリキを受け取った参加者たちは、中央に設営された集会場のような場所へと誘導され、ブラックジャック棒をしごく黒服たちに規律正しい整列を促された。ブディズム・パンクスとアンチブディストたちは、案の定流血沙汰の喧嘩を始め、サスマタを持ったクローンヤクザたちの手で引き離されているようだ。
posted at 00:46:25

コケシたちは早速、胸元に忍ばせた真鍮フラスコに中身を注ぎ、中に少しだけ残っていたバンザイ・テキーラと混ぜ合わせて呷った。ヨロシサン製薬の主力製品バリキドリンクは、一般流通こそしているものの、僅かに麻薬的有効成分が含まれており、用法用量を守らず摂取すると非常にハイな気分になれる。
posted at 00:52:22

「オットットット! たまりません! シガキ=サンも一杯やりませんか?」「あなたはどこの工場で働いてるんです? 私たちはコタツの本体に脚用コケシを四本ねじこむ、くだらない仕事をやっています」 シガキはコケシたちを無視しながらドリンクを適量飲み、この異様な場所から逃げ出す隙を窺った。
posted at 00:57:52

不意に、紫色のトレーラーが集会場に横付けされた。派手なスモークを伴って荷台が側面から開き、畳敷きの特設ステージが出現する。ドンコドンコドンコドンドン。勇ましい出陣太鼓の音が聞こえてきた。ステージの両脇に大太鼓があり、レザーボンテージに身を包んだスモトリたちがこれを叩き始めたのだ。
posted at 01:20:33

参加者たちが呆気に取られていると、ステージ上のボンボリに火が灯り、車椅子の男が浮かび上がった。男の表情はサイバーサングラスで隠されているが、黒服たちのようなヒゲはない。頭にはフードか頭巾を被っているようだ。背後の壁には「怒り」「激しい」「怒り」と書かれたショドーが3枚貼ってある。
posted at 01:39:51

「ドーモ」車椅子の男は、最新式ワウノイズエフェクトが乗ったサイバー拡声器を持って、礼儀正しくアイサツした。「初めまして、私の名前はビホルダーです。今回皆さんに集まっていただいたのは、あの憎い憎いサカイエサン・トーフ社に復讐を果たすためです。私の哀れな身の上をお話しさせてください」
posted at 19:46:11

「私は数年前までトーフ工場で働いていました。老朽化した設備のせいで、私はジェネレーター内に転落して生死の境を彷徨い、半身不随の重症を負ったのです。わずか数万円の退職金と見舞金を渡され、私は強制解雇させられました。私と同じような境遇の元トーフ労働者が、ほかに何千人もいると聞きます」
posted at 20:04:44

「しかし私は幸運でした。その数万円でトミクジを買い、当選し……運よく、本当に運よく、カチグミになれたのです。今回皆さんに配ったバリキドリンクも、私のポケットマネーから出したものです」拡声器のエフェクトはギュオーンというスペイシーなものに変わり、その扇情効果は十倍にも跳ね上がった。
posted at 20:31:27

シガキは感銘を受けた。心臓がハレツしそうなほど速く拍動する。実存の意味を失いかけていた自分という点が、不意に無数の点と繋がりマンダラとなるような高揚感。だが、おお、ナムサン! 彼は気付いていないが、その衝動の大半は、ドリンクに混入されたズバリ・アドレナリンによる化学的反応なのだ。
posted at 20:36:25

「カチグミになれて羨ましいと思っていますか? そんなことはない! ……いくら金が手に入っても、私の胸は空虚なのです。憎い! サカイエサン・トーフ社が憎い!」サイバーサングラスの液晶面に「怒り」「激しい」「怒り」という赤い電子ドットが点滅し、激しいサブリミナル効果をかもし出した。
posted at 20:41:15

ドンコドンコドンコドンドン「イヨーッ!」スモトリたちが合いの手を入れると、太鼓のビートはさらに速度を増した。急性ズバリ中毒者たちの拍動と破壊衝動も、それに合わせヒートアップする。激しく踊りだす者や、その場に倒れて、浜に打ち上げられたマグロのように口をぱくぱくさせる者さえ出てきた。
posted at 20:51:48

「サカイエサン・トーフ社は暗黒メガコーポです。彼らの激安トーフには、発癌性物質と脳縮小物質が含まれています。皆さん、何個食べましたか? 百個? あなたは千個! ナムアミダブツ! もうオシマイだ!」 これを聞いた参加者たちの脳内化学反応は頂点に達し、天を仰いで泣き叫ぶ者すら現れた。
posted at 21:00:36

ドンコドンコドンドンドンコドンコドンドン…。トレーラーの側面がゆっくりと閉じ、太鼓の音がフェイドアウトしていく。急性ズバリ中毒者たちは理性なき猛獣と化して吠え猛り、クローンヤクザのサスマタやヤリや電気ショック・ヌンチャクで追い立てられながら、黒いトレーラーに分乗し始めた。
posted at 21:06:11

各トレーラーは荷台部分が三層構造になっており、1台で百人近い人員を収容できた。酷い悪臭だ。もとは水牛運搬用のハイウェイ・トレーラーだったのだろう。錆びたタラップが軋む。チョッコビン・エクスプレス社の水牛戦車のロゴマークが、ずさんに黒スプレーされた荷台側面に、かすかに透けて見えた。
posted at 21:23:25

ドリンクをまだ1本しか飲んでいなかったシガキは、急性中毒の手前で踏み止まっていた。だがもはや、無人スシ・バーにいた頃の枯れた静けさは微塵も漂わせてはいない。彼は四つん這いの姿勢でトレーラーの荷台に押し込められながら、敗北感に打ちひしがれている。…それは、自らの墨絵の敗北であった。
posted at 21:44:35

彼の脳内では、これまで好んで描いてきたブッダや竹林やスケロクのモチーフが、炎によって焼き払われていた。その代わり、マッポをカマユデにするストリートギャングや、ジンジャ・カテドラルを爆破するアンチブディストといった禍々しくも躍動的な墨絵が、恐ろしいほど鮮明に浮かび上がってきたのだ。
posted at 22:09:16

「俺の墨絵は、無価値なボッコセイ・ハイプだったのだ!」彼は心の中で苦々しくひとりごちる。だが敗北感と同時に、ズバリ・アドレナリンの化学反応による新たな勝利の希望が沸きあがっても来た。「この衝動と義手だけは真実だ。俺はこのトーフヤ襲撃で鬼になろう。俺のテッコで全てを叩き壊してやる」
posted at 22:28:54

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posted at 23:13:57

「五十歩百歩、虻蜂取らず…」一方その頃、ピラミッドのように聳え立つカスミガセキ皇居ビルのハイテック談合ルーム内では、ラオモトが独り、ボンボリモニタの灯りの下で古文書を読んでいた。彼が崇拝する平安時代の剣豪にして哲学者、ミヤモト・マサシの兵法書だ。コトワザの大半はミヤモトが作った。
posted at 23:20:43

このマッポーの世に古文書を読める人間は少ない。それは即ち、ラオモト・カンの高いインテリジェンスを意味しているのだ。ソウカイ・シックスゲイツの恐怖の頭領は、セピア色の古文書をふと閉じ、がらんとしたホール内の暗闇に向かって言い放った。 「ダークニンジャよ、首尾はどうだ」
posted at 23:25:53

誰もいないと思われていた談合ルームの植え込み竹の影から、生きている影のようにダークニンジャが姿を現し、立て膝の姿勢をとってこう報告する。「ビホルダー=サンに襲撃決行を報せる密書を届けました。見事な扇動能力により、二千人近い暴徒がサカイエサン・トーフ工場へ向かっております」
posted at 23:27:45

「ムハハハハ! 素晴らしい!」ラオモトは交差する二本のカタナが描かれた軍配を掲げ、高笑いしながら自らの顔を扇いだ。しかしすぐに目元から笑みは消え、鋭いカタナのような目つきに戻る「だが油断はならん。ドラゴン・ドージョー、罪罰影業組合、ヤクザ天狗……ワシの邪魔をする目障りな敵は多い」
posted at 23:31:14

「そして、ニンジャスレイヤー」ダークニンジャが言う。これを聞きラオモトは満足げに頷いた。「察しが良いな、ダークニンジャよ。さすがはワシの懐刀。依然、バンディットの消息は途絶えたままだ。おぬしはビホルダー率いる暴徒軍団の周囲に影のように潜み、妨害者の出現を警戒せよ」「御意」
posted at 23:35:11

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posted at 23:36:17

「限界です」とイナリ型エレベーターの電子音声が鳴り、赤黒いニンジャ装束を着た人影が、暗い駐車場に現れる。ニンジャスレイヤーは、バンディットから奪った密書のアブリダシに成功し、この地下駐車場を突き止めていた。だが、残念ながら一足遅かったようだ。
posted at 23:40:30

そこは既にもぬけの空で、急性ズバリ中毒で心臓破裂を起こした連中や、クローンヤクザによって撲殺されたモヒカン学生の死体が打ち捨てられているだけだった。恐怖のズバリ暴徒軍団を載せたトレーラー部隊は、霧けぶるネオサイタマをしめやかに渡り、一路オハナ・バロウへと向かっていたのだ。
posted at 23:42:30

激しく揺れるトレーラーの中で、シガキ・サイゼンは吠えていた「俺は何と御人好しだったのか。俺は鬼になる! トーフヤ襲撃で目にしたすべての凄惨なものを、このニューロンに焼き付け、俺の墨絵のモチーフにするのだ。そして重役室の金庫を破壊し、最新義手を買えるだけのカネを手にしてやる…!」
posted at 23:47:43

野獣のような暴徒を満載にし、長い列を作ってネオサイタマのハイウェイを疾走する、ソウカイヤのトレーラー軍団。それを天頂から見下ろす、ぬめった霧の中に浮かぶドクロのような満月は、シガキに対して「ナムアミダブツ」と唱えているかのようだった。
posted at 23:49:58

「レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード4「ウシミツ・アワー」終わり。 エピソード5「エグジスト・イン・ジ・アイ・オブ・ザ・ビホルダー」に続く。
posted at 23:56:07

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posted at 23:56:15

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posted at 23:09:37

NJSLYR> レイジ・アゲンスト・トーフ #4

101105

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード5「エグジスト・イン・ジ・アイ・オブ・ビホルダー」
posted at 10:24:14

「5弐ドラゴン・ナリ」「2壱ギョク」「3四ライオン」「詰みました」 黒漆塗りの重役室で二人の男が革張りソファに座し、3Dアドバンスド・ショウギに興じている。18×18のヒノキ板マトリックス上に、ショウギ駒が緑の3Dホログラフで浮かび上がり、声に反応して進んだり裏返ったりするのだ。
posted at 10:30:11

「お待たせどす」刺激的なボンテージ・キモノに身を包んだ最新式のオイランドロイド2体が、かいがいしくオチョコとトクリ、それからオーガニック・スシを運んできた。「ヒョウロク=サン、お強いどすなあ」
posted at 10:42:45

「それほどでもないですよ」と、勝利したヒョウロク副課長。「いやいや強いですよ」と言いながら、心の中で「ユウジョウ!」とつぶやくサナダ副課長。二人は将来を嘱望されたサカイエサン・トーフ社の重役であり、どちらもサカイエサン一族の人間である。サカイエサン社は江戸時代からの一族経営だ。
posted at 10:56:32

歳はどちらも20代後半。二人のカチグミは各々の革張りソファに座り、オイランドロイドを横にはべらせてサケをお酌させた。「いいオイランドロイドですね」とヒョウロク。「持って帰りますか?」とサナダ。IRC中毒でニューロンをやられ、堅苦しい言葉遣いしかできなくなっているのだ。
posted at 11:17:41

「え? いいんですか?」「いいんですよ」「悪いですよ」「いいんですよ」「じゃあ持って帰ります」「ユウジョウ!」「ユウジョウ!」二人はサケに軽く酔いながらも、高度な政治的駆け引きをくり返す。
posted at 11:22:58

カチグミの世界は過酷だ。十年後、二人のうち課長のランクに昇れるのはどちらか片方だけ。だからといって露骨な派閥争いをすれば、さらに上の人間に目を付けられて制裁を加えられる。ユウジョウを忘れた者は、たちまちムラハチにされてしまう。ムラハチとは、陰湿な社会的リンチのことだ。
posted at 11:27:02

「スシも美味しいです。特にトロ」とヒョウロクが褒めると、奥にあるイタマエ・ブースから分厚い眼鏡をかけた老人が顔を出し、ノレンの下で照れ臭そうに一礼する。 ヒョウロクは上機嫌だ。「最近新しい趣味を始めましてね、サナダ=サン。墨絵なんですけど。今度個展をするんですが、見に来ますか?」
posted at 11:43:26

「墨絵とは高尚ですね」心の中でハイプと毒づきながらも、サナダ副課長はエビス顔を崩さない「どこでやるんですか?」 「カスミガセキです。一枚数十万円くらいからで売ります」 「すごいじゃないですか。政界の著名人も来ますね。私も是非行きます。ところで、どんなモチーフなんですか?」
posted at 11:53:04

「ブッダとか……あとはまあ……主にトンボですね」と、ヒョウロクはオイランドロイドの白いシリコン胸を揉みながら言った。「もっとしてください」と、アンドロイドは高度にプログラミングされた電子音声を返す。「トンボいいですね!」と、サナダも自分の横にある肌蹴た胸に手を伸ばす。その時だ。
posted at 11:59:08

ブガー!ブガー! 非常ランプが回転し、部屋の中が赤く染まる。この音はレベル2警戒態勢だ。 「外ですね、脱走でしょうか」サナダは重い腰を上げてショウジ戸を開く。防弾ガラスごしに数百フィート下のハブエリアを見下ろすと、漢字サーチライトが照らされ、押し寄せる数百人規模の人影が見えた。
posted at 12:26:05

「おや暴動ですよ」と、驚く様子もないサナダ=サン。マケグミ風情がどうあがいても、ここまで攻め込めるはずはないからだ。自分たちは絶対安全な場所にいる。 「もうそんな季節ですか」とヒョウロク=サン「そうだ、次はシューティングゲームで反射神経と無慈悲さを競いましょう」 「いいですね」
posted at 12:50:52

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posted at 12:51:22

ネオサイタマ南部、オハナ・バロウ十七番地。サカイエサン・トーフ社の巨大トーフ工場。 「健康そして安い」「大豆入りトーフ」「支配的な」などの美辞麗句が並べ立てられた大垂れ幕が灰色の壁に並び、その上には無数の煙突の群れがストゥーバのごとく傾き乱立して、黒い煙を吐き出している
posted at 14:15:46

そして今、マストドンの脚に群がる蟻のように、急性ズバリ中毒の暴徒が押し寄せてきたのだ。始めは二百人弱、しかし新たなトレーラーが次から次へと暗いハブエリアに横付けされ、理性なき猛獣と化した労働者たちを解き放つ。その人数は千を超え、ついに二千人に達しようとしていた。
posted at 14:19:20

むろん、のっぴきならぬマッポーの世だ。トーフ工場側にも備えはある。数十基の自動監視カメラと漢字サーチライト、そして暴徒鎮圧用の高密度ゴム弾を連射するAI射撃システムが、至る所に設置されているのだ。握りこぶし大のゴム弾が頭部に命中すれば、敵はほぼ確実に失明、もしくは脳挫傷に陥る。
posted at 16:13:00

だだっ広いハブエリアを、ズバリ中毒者たちが目をぎらぎらと輝かせ泡を吹きながら、まるでサバンナを暴走するサイの群れか何かのように突き進んでいた。ズバリ・アドレナリンで痛みと恐怖を感じなくなっている彼らは、ゴム弾が命中して倒れても、すぐにズンビーのように起き上がってまた動き出すのだ。
posted at 16:17:03

暴徒の大波の最前列には、右手を旧世代戦闘義手「テッコ」で覆ったシガキ・サイゼンの姿があった。頭をやられないよう、テッコで顔の前を覆いながら、彼は霧深いハブエリアを一直線に駆け抜ける。シガキは強力な自制心によってバリキドリンクの過剰服用を控え、まだかろうじて知性を保っていたのだ。
posted at 16:22:04

「これで5ポイント! まるでズンビーですね」と、重役室のリモートUNIXで射撃システムのひとつを操作しながらヒョウロクが言った「頭に命中させても動いてますよ、ナムサン!」。 「彼らがどれだけ近寄ってきても、工場エリアに続く隔壁は絶対に開きませんから、安心して楽しめます」とサナダ。
posted at 16:26:06

それは、元従業員であるシガキも薄々感じていたことだ。自動射撃システムの猛攻をかいくぐって工場前にたどり着いても、そこには分厚い隔壁が聳え立つ。トレーラーを数台同時に突っ込ませでもしない限り、あの隔壁をこじあけることは不可能だろう、と。 その時、黒い稲妻が彼の横を走り抜けた。
posted at 16:37:16

シガキの目には一瞬、車椅子に座ったニンジャ装束の男が脇を抜け、隔壁に向け走ってゆくのが見えた。だが、シガキの精神はそれを否定する……ニンジャなど存在するものか、ニンジャは空想上の怪物だ…あれはビホルダー=サンに違いない…彼の車椅子にはターボエンジンか何かが積まれているのだ……と。
posted at 16:44:40

だが、おお、ナムアミダブツ! ビホルダーの正体はまさにニンジャ、それも、血も涙もないソウカイヤのニンジャだったのである! ビホルダーのニンジャ筋力でこがれた車椅子は、「御用」の文字が刻まれた漢字サーチライトを巧みにかわしつつ、雷のような速さで隔壁前に到達した。
posted at 16:51:00

ビホルダーは胸元から偽造磁気カードを取り出し、隔壁のセキュリティ装置にかざす。見事な手際だ。次いで密書を開き、ダイダロスのハッキング能力によって入手していた暗号「レクフユノキア」を、音声認識デヴァイスに向けて唱える。プシューという派手な音とともに隔壁が開き、暴徒たちを迎え入れた。
posted at 17:15:14

ブガー!ブガー!ブガー! 暴徒接近中、暴徒接近中! レベル3警戒態勢が発動し、トーフ工場全域で非常ブザーが鳴り響く。「ザッケンナコラー!」抜き身のカタナを構えた背広姿のクローンヤクザY-10が、奥の事務所から四体ほど走り出てきて、車椅子のビホルダーに襲い掛かった。
posted at 17:46:48

だがビホルダーは慌てる様子もなく、両手をサイバーサングラスのこめかみ部に当て、透過率を50%にセットした。その刹那! 「アイ、アイエエエエエー!」「アイエエエエー!」「アイエエエエー!」「アババババーッ!」 1体のクローンヤクザが突如絶命し、残る3体もカナシバリ状態に陥ったのだ!
posted at 17:53:00

「セキュリティルームに案内しろ」とビホルダーが言い放つと、クローンヤクザらは自我無きジョルリの如く命令に従った。コワイ! 彼は目を合わせた敵を催眠状態に陥れる、カナシバリ・ジツの使い手だったのである。暴徒らに姿を見られる前に、彼はバイオヤクザを伴って暗い廊下の奥へと消えていった。
posted at 18:13:21

カナシバリ・ジツは、正確にはフドウカナシバリ・ジツという。フドウとは動かないという意味だ。アイキドーにも似たような技があり、こちらは構えとシャウトで敵を麻痺させるものだが、ビホルダーが使ったそれは、目を合わせるだけで敵の精神を破壊するという、ニンジャならではの技なのであった…。
posted at 18:29:33

「コロセー! コロセー!」一足遅れて、暴徒たちが隔壁内部に雪崩れ込んでくる。左右には先の見えない長い廊下、正面にはトーフ・パッキングエリアへと続くドア。パッキングエリア、プレスエリア、着色エリアと三区画抜けると、心臓部であるヒョウタン状の巨大なジェネレーターが見えてくるはずだ。
posted at 18:49:20

「ビホルダー=サンはどこだ? 守らねば!」シガキは息せき切りながら、暴徒らとともに正面の工場区画に突入した。何百人もの深夜労働者たちが、作業を止めずに濁った目だけを向けた。 「イヤーッ!」スキンヘッドの労働監督がサスマタを持って監視台から飛び降り、侵入者を迎え撃つべく迫り来る!
posted at 19:34:18

「上長!」とシガキは心の中で驚きとともに叫びながら、しかしこの修羅場を生き延びるべく、右手のテッコで無慈悲なチョップをくり出した。 「イヤーッ!」「グワーッ!」 サスマタは武骨な旧世代戦闘義手によってへし折られ、そのまま労働監督の首の骨までもがへし折られた。タツジン!
posted at 19:41:05

死体を見下ろしながら、シガキは呆然と立ち尽くす。元上長を殺した悔悟の念によってではない。初めて使った戦闘義手の力に驚嘆したのだ。シガキ・サイゼンの中に眠っていたカラテが、極限状態と薬物とサイバネティック義手の力によってケミストリー反応を起こし、テクノカラテとして現出したのである!
posted at 19:47:39

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード5「エグジスト・イン・ジ・アイ・オブ・ビホルダー」終わり  エピソード6「ナラク・ウィズイン」に続く
posted at 19:49:19

◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 20:30:31

(親愛なる読者の皆さんへ)インガオホー!本日は一時間以降後に夜の部の更新を予定しています。ワッショイ!
posted at 20:33:41

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 21:54:25

NJSLYR> レイジ・アゲンスト・トーフ #5

101106

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード6「ナラク・ウィズイン」
posted at 19:55:56

突入からわずか30分足らずで、サカイエサン・トーフ工場は地獄へと変わっていた。そこかしこから火の手が上がり、未精練トーフエキスが工場区画全域に撒き散らされ、あの独特の鼻を突く異臭が充満していた。脱出できたトーフ労働者らは、マストドンが蟻に食い殺される様子を映画のように眺めている。
posted at 20:00:50

黒塗りのヘリコプター数台が、ハゲタカのように不気味に上空を旋回しているが、その機体には所属先を示す記号がまったく存在しない。さらにその上空には、ソウカイ・シックスゲイツの斥候役ニンジャ「ヘルカイト」が、強化和紙とバイオバンブーで作られた四角いステルス凧で、空を自在に舞っていた。
posted at 20:05:43

ヘルカイトが撮影した映像は、まず首領ラオモト・カンのもとへとリアルタイムで送信され、そこから彼のネコソギ・ファンド社の提携企業いくつかを介して、ネオサイタマ全域へ匿名のニュース速報としてリレイされてゆく。オイラン天気予報が中断し、深刻な顔つきのオイランニュースキャスターが現れた。
posted at 20:10:34

「ナムアミダブツ、恐ろしいニュースです」キャスターの声にあわせ字幕が流れ、暴徒、破壊、サカイエサンなどの文字だけが抽出されて、扇情的なサイバーミンチョ体で画面に躍った。直後、サカイエサン・トーフ社の株価は30%以上下落。数百人以上のアナリストや投資家がセプクやケジメを強いられた。
posted at 20:19:24

「何故マッポが出動しないんだ!」「アイエエエ! IRCがハッキングされて救援を呼べません!」重役室でヒョウロクとサナダが悲鳴をあげる。彼らは知る由もなかったが、ネットワークはダイダロスのハッキングによって遮断され、マッポの偵察ヘリはヘルカイトのヤリ攻撃によって撃墜されていたのだ。
posted at 21:22:46

また、暴徒鎮圧のスペシャリストであるネオサイタマ市警のケンドー機動隊も、コケシ第七地区で先週から続くバイオスモトリ捕獲作戦に人手を割かれていた。この状況下において、本格的なマッポの到着には、あと最低でも一時間を要するだろう。それだけの時間があれば、ソウカイヤにとっては十分なのだ。
posted at 21:27:15

「イヤーッ!」機械義手が激しいピストン運動をくり出し、クローンヤクザの振るうセラミック・マサカリを砕く。 地獄と化したトーフ工場の中心部で、テクノカラテに目覚めたシガキ・サイゼンは、迫り来るクローンヤクザや敵味方の区別さえつかなくなった暴徒たちを次々とサンズ・リバーに送っていた。
posted at 21:32:11

あちこちで警報ボンボリが赤く明滅し、ブザー音が鳴り響く。苦行者じみたシガキの顔と、くたびれたケブラー・トレンチコートは、鮮烈な返り血と白いトーフエキスに染まっていた。オツヤじみた黒と灰色の世界だったトーフ工場は、いまや紅と白で塗りつぶされ、平安時代の宴のような有様だった。
posted at 21:35:58

大豆を豊富に含んだオーガニック・トーフを貪り食う暴徒たちに対し、暴徒鎮圧用ショック・ヌンチャクで殴りかかるバイオヤクザY-10たち。それをさらに背後から襲う、新たな暴徒たちの波……ナムサン! これぞまさに、古事記に予言された最終戦争の時代、すなわちマッポーの世の一側面であった。
posted at 21:38:14

死体の山の上で、シガキは大立ち回りを演じていた。「イヤーッ!」「グワーッ!」闇雲に突進してきたバイオヤクザたちが、チョップを受けて悶死し、死体の山をさらに高くする。旧式戦闘義手はしばしば動作を停止するため、シガキはそのたびに舌打ちしながらスターター紐を引き絞らねばならなかった。
posted at 21:42:22

シガキの胸のうちでは、どす黒い葛藤がイカスミ・ナルトのように渦巻いていた。彼の当初の目的はふたつ。まずは、前衛墨絵のモチーフにするための壮絶な光景をその目に焼き付けること。そして、最新の精密作業用義手を買うためのカネを略奪することであった。 だが、この有様は何であるか?
posted at 21:46:32

「「「俺は墨絵などではなく、カラテをやるべきだったのか?!」」」 おお! 頭の中で響き渡るその声を認めれば、彼はたちまち存在意義を失い、廃人と化してしまうだろう! シガキは工場で働いていた時のように心を閉ざし、マグロの眼になった。トーフをプレスするように、淡々と敵を殺戮するのだ。
posted at 21:50:23

「アイエエエエエ!」シガキは心の葛藤を痛々しい悲鳴として発しながら、テクノカラテを振るった。カラテパンチのインパクトと同時に、サイバー義手の手首に仕込まれたモーターが高速回転して四連油圧シリンダを激しくピストン運動させ、金属製のナックル部分を時速200キロの速度で何度も押し出す!
posted at 21:54:17

「ジェネレータ損傷、ジェネレータ損傷」不意に、トーフ工場全域に電子音声の警告音が流れた。「全職員は速やかに脱出してください。五秒後に全セキュリティロックが解除されます。ヨロシク・オネガイシマス」 これまで閉ざされたあらゆるドアのロックが開き、破壊に飢えた暴徒たちが気勢をあげる。
posted at 21:59:58

「マーベラス…」薄暗い中央電算機室では、何十台もの監視モニタ映像を見ながら、ビホルダーが満足そうにひとりごちた。彼がセキュリティロックの解除ボタンを押したのだ。突入時の映像記録は、すべて消去済みである。トレーラー部隊も、スクラップ工場に運ばれている。痕跡は何一つ残っていない。
posted at 22:04:35

工場区画。シガキはそこから数百フィート上、西側の壁に司令室のごとくせり出す床の間を、防弾ガラスごしに見上げていた。重役室だ。セキュリティロックが解除されているなら、上長の監視台からあの階まで直通のエレベータが使える。シガキはケブラー・トレンチコートを翻し、死体の山から飛び降りた。
posted at 22:08:25

「アイエエエ! オッ、オイシイ! オイシイけど、動けない!」「アイエエエエエ! 助けて! あっ、シガキ=サン!」 見覚えのあるコケシ労働者二人が、エレベータへと走るシガキを呼び止める。彼らはクローンヤクザにサスマタで捕獲されながらも、麻薬的にうまい大豆100%トーフを貪っていた。
posted at 22:12:30

シガキは一瞬、その場で立ち止まった。しかし再びトレンチコートを翻し、まっしぐらにエレベーターへと向かう。ひときわ大きな「アイエエエエエ!」という声が、背後で響いたような気がした。シガキは自分の魂と信念がトーフのようにプレスされて、真っ白く薄く無視質な塊に変わるような痛みを覚えた。
posted at 22:14:26

--------------
posted at 22:15:08

「屋上のヘリで逃げましょう、サナダ=サン」「待ってください、金庫の中にある大トロ粉末や、そこにあるUNIXのデータを消去しておかないと!」「とんだイディオットですね! 今すぐセプクしてほしいくらいだ!」「何ですって!」重役室では、二人のカチグミ・サラリマンが互いを罵り合っていた。
posted at 22:18:19

ズンズンズンズズポーウ、ズンズンズンズズポポーウ! 音響システムが誤作動し、サイバーテクノが重役室に鳴り響いた。それがサナダとヒョウロクのニューロンを逆撫でし、取っ組み合いの乱闘を招く。黒漆塗りの壁に何枚も貼られた豊かさの象徴、キョート旅行のペナントが不吉に傾き、はらりと落ちた。
posted at 22:26:31

イタマエの老人はすでに逃げ出した後だ。オイランドロイドたちのAIは状況が理解できず、明滅する非常ボンボリとサイバーテクノの条件反射でマイコ回路をランさせ、虚無的な笑顔でポールダンスを踊っていた。重役警護のために駆けつけたクローンヤクザ十体は、命令を待ち部屋の隅に立ち尽くしている。
posted at 22:28:49

「イヤーッ!」スケロクの墨絵が描かれた重役室のフスマが蹴破られ、シガキ・サイゼンが殴りこんできた。「アイエエエエ!」カチグミたちは恐怖の絶叫をあげる。「ザッケンナコラー!」条件反射的にヤクザ軍団がカタナを構え切りかかるが、テクノカラテの敵ではなかった。「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 22:29:53

5分も経たないうちに、Y-10は死体の山に変わっていた。刀傷だらけのコートを返り血で染め上げたシガキは、コケシコタツの横で震え上がる重役たちの前へと無言で歩み寄る。残留したズバリ成分が、黒い炎のようにくすぶっていた。スターター紐が引き絞られ、圧縮空気がテッコの側面から排出される。
posted at 22:35:31

「サカイエ家の者か」と、シガキは鬼のような声で問う。「はいそうです」とカチグミ。 「俺の顔に見覚えはあるか? プレス機の誤作動で潰された腕を、労災保障で戦闘用義手に置き換えられた者だが」と問うと、重役らは声をそろえて「覚えていない、そんなことはチャメシ・インシデントだ」と答えた。
posted at 22:37:33

「……なあ、あんたがた。一発殴らせてくれよ」と、マグロの眼でシガキは言う。 「ア、アイエエエエ……それで見逃してくれるなら」と、カチグミたちは恐る恐る立ち上がった。恐怖のあまり、サイバースラックスの股間がじっとりと濡れそぼっていた。
posted at 22:39:37

「イヤーッ!」「アイエエエ!」「イヤーッ!」「アイエエエ!」テクノカラテが重役たちの腹に叩き込まれた! ピストン運動が容赦なく内臓を破壊する! 「……あんたがた、知ってるかい? テッコは旧式すぎて、力の加減が効かないんだ。しかも、俺にあてがわれたのは、手垢の付いた中古品ときてる」
posted at 22:42:11

自分が手を失った時のように床を転げまわる重役たちを尻目に、シガキは金庫のダイヤルをテッコで破壊した。中に入っていた札束や高純度のマグロ粉末を、ポケットに突っ込めるだけ突っ込む。 「「「あと少し、心を閉ざすんだ。こんな非道は今日限りだ」」」シガキの心の中で、脆弱な人間性がうめいた。
posted at 22:54:57

シガキの眼は、ポールダンスをくり返し、彼に優しく微笑みかけてくるオイランドロイドらに注がれた。ネオ・カブキチョのサイバー医者の事務所に高価買取と書かれていた、最新型の女体アンドロイドだろうか。シガキがその2体を肩に抱えると、「もっとしてください」という電子音声が返ってきた。
posted at 22:59:31

「「「これでオシマイだ。朝焼けが訪れる前に、あの医者のところにいって、ドロイドとマグロ粉末とこの札束で、最新のサイバー義手を買おう。それでオシマイだ……。もうこんな暴力とはサヨナラだ……」」」 シガキはニューロンの中で虚しいチャットをくり返しながら、重役室を出るべく身を翻した。
posted at 23:06:07

「マーベラス、なんたる無慈悲さ!」いつの間にかフスマが開け放たれ、車椅子に乗ったニンジャ装束の男とクローンヤクザが重役室に入ってきていた。男はオーディオ機器に向かってスリケンを投げ、耳障りなサイバーテクノを止めると、静寂の中でこう言った。「あなた、ソウカイヤクザになりませんか?」
posted at 23:14:46

シガキは混乱した。唖然として、オイランドロイドを取り落とした。ビホルダー=サンはやはりニンジャ装束を着ている。ニンジャなのか? いやそんな馬鹿な。ビホルダー=サンは自分と同じく、トーフヤへの怒りに燃える元従業員だ。だが、彼は何と言った? ソウカイヤクザ? ヤクザなのか?
posted at 23:20:51

「見逃してください」シガキは突如ドゲザした。ドゲザは、母親とのファックを強いられ記憶素子に保存されるのと同程度の、凄まじい屈辱である。「私は…墨絵師を目指す、しがない労働者です。…見逃してください。…諦めたく…諦めたくないんです!」シガキの両目から、溜めていた大粒の涙がこぼれた。
posted at 23:30:34

キコキコキコ、と車椅子の音が近づいてきた。「顔を上げなさい」とビホルダーが声をかける。シガキが無様に泣きじゃくりながらゆっくりと顔をあげると、透過率50%になったサイバーサングラスと、その奥に青白く光るヒトダマのような眼が見えた。カナシバリ・ジツ!「アイエエエエ!」
posted at 23:40:05

「立て。何と身勝手かつ臆病な男だ。ヤクザにならないなら死んでもらうまで」ジョルリのように立ち上がったシガキに、ビホルダーは血も涙もない命令を下す。「貴様には、生きたリモコン時限爆弾になってもらう。プラスチック・バクチクを持ってジェネレータに飛び込み、メルトダウンを引き起こすのだ」
posted at 23:46:04

ナムアミダブツ! ジェネレータが崩壊すれば、工場どころかオハナ・バロウが丸ごと吹っ飛んでしまうぞ。シガキの脳裏には、爆死する自分の姿とともに、十二番街にあるトーフ労働者たちの安宿や、その前でいつも営業していたフライド・スシ屋台の老人の顔などが、ソウマトウのようによぎった。
posted at 23:54:01

しかし、彼の体はビホルダーのジツによって操られ、抗うことが出来ない。無念の涙だけが、ただぼろぼろとシガキの頬を流れ落ちる。クローンヤクザが重箱を開き、最新鋭のプラスチック・バクチクを取り出した。嫌だ! シガキは心の中で虚しく絶叫する。助けてくれ! 誰か! おお、ナムアミダブツ!
posted at 23:58:54

シガキの精神が崩壊しかけた、まさにその時! 外に面した重役室の防弾ガラスとショウジ戸をもろともに突き破りながら、赤黒いニンジャ装束をまとった人影が、トーフ工場の黒煙を暗黒のジュウニヒトエのように纏い棚引かせながら、勢い良く飛び込んできたのである! 「Wasshoi!」
posted at 00:07:40

前方回転とともにニンジャロープからひらりと飛び降りると、その男は背筋をピンと伸ばした姿勢でコケシコタツの上に着地し、腕を組んだ直立不動の姿勢を取った。「忍」「殺」と彫られた鋼鉄メンポから、殺気に満ちた呼気が漏れ出す。 「ドーモ、ビホルダー=サン。ニンジャスレイヤーです」
posted at 00:12:06

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード6「ナラク・ウィズイン」 #1終わり#2に続く
posted at 00:19:29

■重要■ (親愛なるニンジャスレイヤー読者の皆さん)原作者の2人からメールが届きました。「ドーモ。ここ数日で日本からの購入希望メールが殺到していることに、大いに驚き、また喜びを感じています。アリガトウゴザイマス。しかし、残念なニュースもあります。(続く) ■大事■
posted at 10:14:06

■重要■ (続き)フィリップ=サンの家のプリンターが壊れ、印刷計画の復旧目処が立っていません。我々はあの出版社と決別したため、英語版についてはガレージのアティチュードを貫くつもりです。ただ、親愛なる日本語での出版についてはこの限りではありません。ヨロシクオネガイシマス」 ■大事■
posted at 10:22:21

NJSLYR> レイジ・アゲンスト・トーフ #6

101109

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード6「ナラク・ウィズイン」 #2
posted at 22:07:57

「ニンジャ殺すべし!」 ニンジャスレイヤーはチョップの構えを取り、一直線にビホルダーへと駆け込む。だがそれを遮るように、テッコを構えたシガキ・サイゼンが立ちはだかった。さらに、ビホルダーに操られた他のクローンヤクザたちも、ニンジャスレイヤーを四方から取り囲むように動き出す。
posted at 22:11:58

「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーのチョップがシガキのくり出すテクノカラテと真正面から激突し、火花を散らす。戦闘義手がピストン運動し、チョップの腕を後方へと弾き返した。姿勢が崩れる。ウカツ! ニンジャ以外の敵に注意を払わないフジキド・ケンジの未熟さが出てしまったのだ。
posted at 22:15:24

続けざま、這い寄るコブラのようなテクノカラテがニンジャスレイヤーの股間を襲う。ナムサン! だがニンジャスレイヤーは素早い垂直開脚ジャンプで辛うじてこれをかわし、空中パンチでシガキの顔面を強打した。「グワーッ!」シガキの首が後方に180度以上回転し、たまらずもんどりうって倒れる!
posted at 22:21:59

ニンジャスレイヤーは、重役室の隅に退いたビホルダーに向かって突き進んだ! 床に散らばった札束やマグロ粉末が踏み荒らされて舞い、ボンボリ非常ライトの赤い明滅に照らされる! ビホルダーの投げるスリケンの雨をかいくぐりながら、あと20フィート! 10フィート! 5フィート! その時!
posted at 22:36:11

「イヤーッ!」ビホルダーは両手をこめかみにあて、サイバーサングラスのスモーク透過率を50%にしたのだ。青白いヒトダマをたたえた眼がニンジャスレイヤーの視線と交錯する! 「グワーッ!」カナシバリ・ジツ! フジキドはチョップをくり出す寸前で、ローマ戦士の彫像のように固まってしまった!
posted at 22:41:02

「貴様がニンジャスレイヤー=サンか」ビホルダーは涼しい口調で言う「正体を明かしてもらおう。お前の手で、そのメンポと頭巾を外すのだ」。ニンジャスレイヤーの手がバリキ中毒者のようにわなわなと震え始める。フジキドは何が起こっているのか理解できなかった。敵が使ったジツの正体すら判らない。
posted at 22:51:06

「……どうした、早くしろ」ビホルダーが次第に苛立ち始める。ジツにかけられたはずのニンジャスレイヤーは、強靭な精神力でビホルダーのジョルリとなることに抗い、手の動きを止めたからだ。フジキドの胸の中では、目の前にいるソウカイニンジャに対して黒い怒りが燃え盛っていた。
posted at 22:57:39

再び、ニンジャスレイヤーの腕がぴくりと動く。だが、それは自らのメンポを外すためではない。大きく振りかぶり、チョップをくり出すためだ! 自らの能力を過信していたビホルダーは、サイバーサングラスに手を伸ばすも間に合わない! ナムアミダブツ! 「グワーッ!」
posted at 23:00:26

だが、絶叫とともに弾き飛ばされたのは、ビホルダーではなくニンジャスレイヤーのほうであった! 何故か?! それは首をゴキゴキと回して立ち上がったシガキ・サイゼンが、ジョルリ・マスターであるビホルダーを守るために、ニンジャスレイヤーの側面から痛烈なテクノカラテを食らわせたからだ!
posted at 23:03:49

ニンジャスレイヤーの体はピンボールのように飛んでゆき、オイランポールで勢い良く三回転してから、その横にあった漆塗りコケシ箪笥に命中してこれを叩き割った。ゴウランガ! 重役たちがコレクションしていたコケシやタヌキや大きいショウギ駒が、雪崩を打ってニンジャスレイヤーの上に崩れ落ちる!
posted at 23:08:09

並の人間なら即死する量のコケシに押しつぶされながらも、ニンジャスレイヤーは麻痺が解けたことに気付いていた。再び正面から攻撃をしかけるべく、ブリッジから体を起こそうとしたその時、地獄の底から響いてくるような声が脳内で木霊する。『愚かなりフジキドよ、それでは奴の思う壺』『何だと!?』
posted at 23:15:38

『奴に憑依したニンジャソウルの正体は、コブラニンジャ・クランのグレーター・ニンジャだ。正攻法のカラテで攻めれば最後、奴は今度こそ裸眼で強力なカナシバリ・ジツを使い、オヌシは即死するであろう』『ではどうする?』『フジキドよ、オヌシの体を俺に預けろ』『断る』『仇を討ちたくないのか?』
posted at 23:18:37

ビホルダーはキコキコと車椅子をこいで位置を取り直し、クローンヤクザたちをコケシ箪笥の残骸の周囲に移動させた。「「「まさか、カナシバリ・ジツを破るとは。ラオモト=サンの機嫌を取るために、ニンジャスレイヤーを生け捕りにしようと思ったのが間違いだったか。次こそは確実に仕留めねば」」」
posted at 23:22:41

「ん、お前、何を泣いている? ズバリが切れたのか?」ビホルダーはシガキを人差し指で手招きする。ジツに操られたシガキの眼は冷凍マグロのように虚ろだが、その目からは自らの夢が潰えようとする無念の涙がいまだ流れ落ち、口はぴくぴくと引きつっていたのだ。
posted at 23:25:32

「死ぬまで戦えるようにしてやろう」ビホルダーは腰に吊ったニンジャ巾着から高濃度ズバリ・アドレナリンのアンプルと細いプラスチック製シリンジを取り出し、跪かせたシガキの首元に手早く注射した。「アイ……アイエエエエエエエ!」シガキの口から、恐怖の絶叫とも雄叫びともつかぬ声が漏れる。
posted at 23:29:25

「行け! 奴を粉砕しネギトロに変えろ!」抽象的な命令を受けたシガキは、殺人機械の足取りで動き出す。太い血管が浮き上がった左手でテッコのスターター紐を引くと、戦闘義手の排気口からはシガキの悲鳴のようにけたたましい音をたてて白い圧縮空気が吐き出された。
posted at 23:37:40

それと同時に、コケシ箪笥が天井に向かって垂直に跳ね飛ばされ、ニンジャスレイヤーが姿を現した。「サツバツ!」赤黒い血が霧と化して、彼の周囲に微かに漂った。右目の瞳孔がセンコのように細くなり、真っ赤に光っている。メンポのスリットからは、ナラクの炎のような蒸気が吐き出されていた。
posted at 23:41:49

「イイヤアアーーーッ!」ニンジャスレイヤーは落下するコケシ箪笥を大車輪のような側転で回避しながら、両手の指の間に三枚ずつスリケンを挟みこみ、猛烈な速度でこれを射出した。タツジン! 「グワーッ!」重役室にいたクローンヤクザは全員即死!
posted at 23:45:19

「イヤーッ!」シガキが頭部めがけてテクノカラテをくり出す。だが、テッコは虚しく空を切り、圧縮空気だけが白い円弧を描いた。中腰でこれをかわしたニンジャスレイヤーは、敵の突進の勢いを利用して相手の体を両肩に背負い、そのまま自分が突入してきた窓の外へと放り捨てた! 「サツバツ!」
posted at 23:53:38

「アイエエエエエエエ……」シガキの絶叫が遠ざかってゆく。ナムアミダブツ! わずか三秒間のうちに、重役室には二人のニンジャとオイランドロイドしかいなくなっていた! 「次は貴様だ、コブラニンジャ・クランの若造め」ニンジャスレイヤーは殺戮の喜びを鋼鉄メンポで隠しながらじりじりと迫る。
posted at 00:00:12

ビホルダーに驚きは無い。ジョルリの戦力など最初から期待していないからだ。 …だが何故だ? その心臓が危険を告げる鐘のように、激しく鳴り始めたのは? こめかみに当てた両手が、じっとりと汗ばむのは? 「慈悲は無いぞ、ここからは真のニンジャの世界だ」ニンジャスレイヤーが不気味に笑った。
posted at 00:08:48

「ナムアミダブツ」という威圧的な赤色LED文字が流れていた黒いグラス部分が、パカリとブツダンのように左右に開き、ビホルダーの恐るべきイーヴィル・アイがむき出しになった! 「イヤーッ!」 だがそれと同時に、ニンジャスレイヤーは後ろを向いたのだ!! 「イヤーッ!」
posted at 00:14:06

カナシバリ・ジツ、破れたり! 眼が背中についている人間はいない! これでは、眼を合わせてジツにかけることなど、永遠にできないではないか! 「ア、アイエエエエエ!」ビホルダーが恐怖におののく。しかもニンジャスレイヤーは後ろを向いたまま、ムーンウォークの姿勢で滑るように近づいてくる!
posted at 00:15:12

「アイエエエエエ!」恐怖に駆られたビホルダーは、車椅子をこいで重役室の中を逃げ惑いながらスリケンを投げつけた。だがニンジャスレイヤーは、背を向けたまま紙一重の開脚ジャンプしてこれをかわし、着地と同時に、水面を進むアメンボのようになめらかなムーンウォークで迫ってくるのだ。ミズグモ!
posted at 00:18:29

「これが真のニンジャの世界だ」いまや両目がナラク・ニンジャと化したニンジャスレイヤーは、背筋も凍るような声を発してから、逆アンダースローでスリケンを投げた。「グワーッ!」スリケンがビホルダーの左肩に深々と突き刺さり、左腕を動かすための神経と腱が容赦なく切断された!
posted at 00:21:09

「音……音か!」ビホルダーは右手で車椅子をこいで逃げながら、スリケンを投げ、停止させていたオーディオシステムを再起動させる。 ズンズンズンズズポーウ! ズンズンズンズズポポーウ!! 重役室にボリュームMAXのサイバーテクノが鳴り響き、オイランドロイドたちがポールダンスを再開する。
posted at 00:22:37

「それで逃げたつもりか」しかし、この轟音の中でも、ニンジャスレイヤーはビホルダーの位置をソナーレーダーのように正確に把握し、ぴったりと背を向けてミズグモで迫ってくるのだった。 「何故だ!」ビホルダーが失禁寸前の表情で叫ぶ。
posted at 00:24:03

フジキドは未だその正体を知らなかったが、彼の体に憑依した謎のニンジャ、すなわちナラク・ニンジャは、ビホルダーが放つニンジャソウルの痕跡を感じ取っていたのだ。敵が放つスリケンにも、微弱なニンジャソウルの痕跡が残留している。……無論、こんな芸当をやってのけるニンジャはそうそういない。
posted at 00:26:45

「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは後ろ向きのまま、ヤリのように鋭い右足の蹴りを五連発でくり出し、ビホルダーの腹と顔面をえぐった。そしてビホルダーの動きが止まった一瞬の隙をつき、大きくバク宙を決め、ビホルダーの背後を取ってハンマーのように握った腕を振り下ろす!
posted at 00:28:53

「イヤーッ!」「グワーッ!」ビホルダーの頭蓋骨が折れ、首が10センチほど陥没する。逃げようとしても、ニンジャスレイヤーのニンジャ筋力が車椅子をホールドして離さない。「……まだ殺さん。貴様は知性が高いと見えるので尋問する」。いつしか、ニンジャスレイヤーからナラクの気配は消えていた。
posted at 00:33:32

「答えるものか」「イヤーッ!」「グワーッ!」腕ハンマーが振り下ろされ、ビホルダーの頭蓋骨が粉砕された! 「私を殺してもソイカイヤが貴様を」「イヤーッ!」「グワーッ!」腕ハンマーが振り下ろされ、ビホルダーの脳の一部がトーフのように砕け散った!「…答えろ、他のシックスゲイツはどこだ」
posted at 00:36:37

「バンディット=サンは行方不明だ」「殺した」「ア、アイエエエエ……、ヒュージシュリケン=サンとアースクエイク=サンは、ドラゴン・ドージョーのアジト発見と放火を命じられている……」「何だと?」思いがけずドラゴン・ドージョーの名を聞き、ニンジャスレイヤーの声に僅かな動揺の色が見えた。
posted at 00:42:26

その隙を突き、ビホルダーは最後の賭けに出る。彼は残っていた右手をおもむろに自らの眼窩に突き刺した! コワイ! これはセプクであろうか? いや違う! 彼は自らのイーヴィル・アイをえぐり出して眼球を背後に向け、ニンジャスレイヤーをカナシバリ・ジツにかけようとしたのだ! 何たる執念!
posted at 00:44:54

「イヤーッ!」しかしニンジャスレイヤーの腕が一瞬早く動き、ビホルダーの眼球ごと右掌をめきめきと握りつぶして粉砕した。「グワーッ!」最後の望みを絶たれたビホルダーが絶叫をあげる。「さあ、尋問の続きだ。答えんならば、このまま貴様をジェネレータの中に放り込んでやるぞ」
posted at 00:49:15

「アイエエエエ……ヘルカイトはさっきまで近くを飛んでいたが、今頃は次の任務に向かっているだろう……ダイダロス=サンたちはどこにいるか分からない……これで全部だ」 「そうか、では最後に聞こう……」今すぐにでもビホルダーの首を叩き落したい殺忍衝動を堪えながら、フジキドはこう問うた……
posted at 00:54:42

「…フジキド。…フジキド・ケンジというサラリマンを、数ヶ月前にマルノウチ・スゴイタカイ・ビルで、その妻子もろもと殺したニンジャは誰だ? 彼の妻の名は…フユコ。まだ幼い息子の名は…トチノキ」 「知らない…本当だ。だが、数ヶ月前のマルノウチ抗争ならば、恐らくは、ダーク……グワーッ!」
posted at 01:03:17

ナムサン! 突き破られた防弾ガラス窓の影から、突如何本ものクナイ・ダートが投げ込まれ、そのうちの一本がビホルダーの頭を貫通したのだ! ニンジャスレイヤーは危険を察知して、素早いバク転でこれをかわしていた。 「サヨナラ!」ビホルダーが爆死する!
posted at 01:05:02

壁に張り付いて尋問されているビホルダーを発見し、ソウカイヤの秘密を守るためにこれを殺害したのは、ラオモト=カンの懐刀ダークニンジャであった。ニンジャスレイヤーは舌打ちすると、窓に張り付いた姿見えぬ謎のニンジャめがけて牽制のスリケンを投げつけてから、弾丸のように飛び掛っていった。
posted at 01:08:01

抜け目ないダークニンジャはニンジャロープで素早く移動し、ニンジャスレイヤーの突撃をかわす。そのまま二人のニンジャは、スリケンを激しく投げ合いながら、オハナ・バロウの暗闇の中へと染み込むように消えていった。
posted at 01:09:22

地上では、硬いアスファルトに全身をしたたかに打ち据えられたシガキ・サイゼンが、ネオサイタマ・シティの灰色の建造物の間を飛び回る二人のニンジャという、幻想的でメランコリックな光景をぼんやりと見上げていた。何故、彼にまだ息があるのか? 順を追って説明せねばなるまい。
posted at 01:12:02

重役室から落下したシガキ・サイゼン。凄まじい風圧を受け、傷だらけのトレンチコートが前開きになり、「ブッダが大好き」と書かれた墨だらけの薄汚いTシャツが露になった。その直後、工場の窓から吹き出た黒煙によって激しく波打った「支配的な」という巨大な垂れ幕が、彼の体を包んだのである!
posted at 01:15:38

ゴウランガ! ブッダの慈悲すら無きこのマッポーの世で、垂れ幕が落下の衝撃を弱め、彼の命を救ったのである! だが重役室で掴んだ札束も、大トロ粉末も、すべて風圧に巻き上げられて失って、シガキは硬いアスファルトに叩きつけられたのだ。サイレン音が聞こえる。ケンドー機動隊が近づいてきた。
posted at 01:18:37

ズバリの効果で痛みは無いが、骨や内臓がいくつかやられているかもしれない。シガキは死ぬだろうか? それともマッポーの世に生き残って、死よりも過酷な生を送るだろうか? それはわからない。
posted at 01:21:26

ただ、彼はトーフ工場から吐き出される墨のように黒い煙を見上げて、マッポーのごとく染め上げられた暗く幻想的な空を見上げていた。二人のニンジャが工場の窓から窓へと飛び渡り、スリケンを投げ合っていた。ドクロのような満月が霧に揺らめき、シガキに「インガオホー」と呟いているように見えた。
posted at 01:23:10

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード6「ナラク・ウィズイン」 #2 終わり (「レイジ・アゲンスト・トーフ」了)
posted at 01:24:23

NJSLYR> サプライズド・ドージョー #1

100728

第1巻「ネオサイタマ炎上」より。「サプライズド・ドージョー 1」
posted at 23:46:33

大型ハーレーを駆る巨漢のアースクエイクと、サイドカーに座ったヒュージシュリケンは、Y-12型バイオヤクザの乗ったベンツ軍団を引き連れて、ネオサイタマの北、中国地方へと向かっていた。ソウカイ・シンジケートの敵、ラオモト・カンの敵、目障りなドラゴン・ドージョーを襲撃するためだ。
posted at 23:47:24

マッポーレベル大気汚染は日本列島全域に広がっており、中国地方もやはり、昼も夜もなく暗い。救いといえば、都心部ほど強烈な酸性雨が降らないことだろう。
posted at 23:47:50

それでも彼らが走り抜けるメガロ・ハイウェイの下では、酸性雨の影響を受けて皮膚がケロイド状になった水牛たちが、招かれざる客たちのエンジン音を聞きつけ、うらめしげにモーモーと鳴いていた。
posted at 23:49:20

「そろそろインタビューが必要だな」ハイテク・ナビゲーショーン・レーダーを見ながら知能派のアースクエイクが言い、ハーレーを止める。「俺がやろう、得意分野だ」ヒュージシュリケンはサイドカーから飛び降りたかと思うと、ハイウェイの下に広がる、青色のネオンサイン眩しい女衒街へ消えていった。
posted at 23:51:04

「オイラン」「サイコウ」「ヤスイ」などの猥雑なネオンサインが明滅する暗い路地裏を、ヒュージシュリケンは威圧的に闊歩した。どこのオイランハウスにも、日本政府より力を持つヨロシ=サン製薬のロゴマークが入っている。
posted at 23:54:31

「まずい、ニンジャだ……」「なんでニンジャがこんな所にまで……」「ニンジャがこっちに来る……」女衒街のごろつきや市民たちは、直径2メートル近いセラミック製大型スリケンを背負ったニンジャ装束の男を見て、声を潜めた。笠を目深にかぶり、目を合わせないようにする。
posted at 23:55:10

「そこのお前。ドーモ、ヒュージシュリケンです」運の悪い違法ICチップ売人が、ヒュージシュリケンのインタビュー相手に選ばれたようだ。売人は声を震わせながらアイサツする、「ドーモ、カンバギ・モトオです」。
posted at 00:02:31

「カンバギ=サン、お前はドラゴンドージョーがどこにあるか知っているか?」ヒュージシュリケンは、うつむく行商人に対して威圧的に質問した。 「知りません」カンバギは誠実な男だったし、実際知らなかった。
posted at 00:04:10

ヒュージシュリケンはにこやかな顔になる。「カンバギ=サン、俺は三度の飯より拷問が好きだ。お前が売っているICチップを見ただけで、それを使った拷問を100個は思いつく」。それを聞いて、カンバギは恐怖のあまり震えた。
posted at 00:04:57

「どうだ。答えないと、まずはお前の小指を折る」 「やめてください知りません」カンバギが答える。 すると、ヒュージシュリケンは覆面の下で満面の笑みを浮かべてから、ニンジャならではの力と掛け声でカンバギの指をへし折るのだった。 「イヤーッ!」 「アイエエエエエ!」
posted at 00:07:29

「どうだ。答えないと、次はお前の薬指を折る」 「やめてください本当に知りません」カンバギが答える。 すると、ヒュージシュリケンは覆面の下で満面の笑みを浮かべてから、ニンジャならではの力と掛け声でカンバギの薬指をへし折るのだった。 「イヤーッ!」 「アイエエエエエ!」
posted at 00:16:20

「どうだ。答えないと、次はお前の中指を折る」 「やめてください本当に知りません」カンバギが答える。 すると、ヒュージシュリケンは覆面の下で満面の笑みを浮かべてから、ニンジャならではの力と掛け声でカンバギの中指をへし折るのだった。 「イヤーッ!」 「アイエエエエエ!」
posted at 00:16:59

その時、ヒュージシュリケンの胸元からブザー音が聞こえる。知能派のアースクエイクからだ。ヒュージシュリケンは億劫そうに、携帯電話のアンテナを伸ばす。 「ヒュージシュリケン=サン、ヘルカイトからの偵察情報が届いた。ドラゴン・ドージョーを発見したらしい。もう戻ってきてくれ」
posted at 00:18:14

ヒュージシュリケンは舌打ちする。ヘルカイトめ、余計な手出しを。まだ俺の独創的な拷問はこれからだというのに……ICチップすら使っていないではないか。……少なくとも、あと2本は指を折って、あの男の右腕を完全にストライクにするまでは納得がゆかん。
posted at 00:22:56

そう思って足元を見ると、カンバギ=サンの姿が無い。しかし、ナメクジの這ったような失禁の跡が、オイランハウスの谷間にある路地裏へと続いている。電話中に逃走を試みたのだ。むろん、ヒュージシュリケンはそれを知っていた。あえて逃がしたのだ。追いついて拷問を再開するために。
posted at 00:25:08

暗い路地裏は、オイランハウスや違法ICチップ工場から流れ出る排気ガスや廃液のパイプまみれだ。時折、いかにも有毒そうな青白い火花が散っている。一見煌びやかな女衒街も、裏路地に一歩足を踏み入れれば、化粧を落としたオイランのようにおぞましい。
posted at 00:26:42

その裏路地は、錆び付いたトーフ・コンテナやヨロシ=サン製薬の麻薬的風邪薬コンテナが無秩序に積み上げられて行き止まりになっていた。そこで笠をかぶった男が、絶望したようにうなだれている。ヒュージシュリケンは嗤った。逃げ切ったと思わせておいて再び捕える。サイコウの快感だ。
posted at 00:28:56

「カンバギ=サン、拷問の続きだ」ヒュージシュリケンが言い放つ。「ドラゴン・ドージョーはどこにある?」 「ドラゴン・ドージョーの場所を知ってどうする?」笠をかぶった男は、後ろを向いたまま答えた。その声は、哀れなカンバギ=サンの声ではなかった。良く見れば、背丈も違う・・・。
posted at 00:30:26

「ヒュージシュリケン=サン、はじめまして、ニンジャスレイヤーです。次はこちらがインタビューをする番だ」ニンジャスレイヤーは笠とぼろ布を投げ捨て、赤黒いニンジャ装束を露にした! (「サプライズド・ドージョー 2」へ続く)
posted at 00:32:22

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 00:38:09

NJSLYR> サプライズド・ドージョー #2

100802

第1巻「ネオサイタマ炎上」より。「サプライズド・ドージョー 2」
posted at 00:40:41

「遅い、遅すぎる……。女衒街に向かったヒュージシュリケンに、何かあったか?」サイドカー付ハーレーに跨るアースクエイクは、痺れを切らしてエンジンを空吹かす。もはやタイムリミット。ソウカイ・シンジケートに情けは無用。ドランゴン・ドージョー襲撃計画に遅れが出てはならん。…その時だった。
posted at 00:41:02

「グワーッ!」うめき声とともに、血みどろのヒュージシュリケンがハイウェイの上に前方回転ジャンプで姿を現した。瞬時に非常事態を察知した知能派のアースクエイクは、素早くハーレーを発進させて、相棒をピックアップした。Y-12バイオヤクザ軍団も、一斉に12台のベンツを発進させる。
posted at 00:41:40

「あの野郎……! あの野郎……!」ヒュージシュリケンはサイドカーに備わった救急箱の中からヨロシ=サン製薬謹製のズバリ・アドレナリンのアンプルを取り出し、慣れた手つきで左の静脈と背中に注射した。
posted at 00:41:55

中央のハーレーを護衛する護送船団のように、ベンツ軍団は時速150キロでメガロ・ハイウェイを走り抜ける。ヨロシ=サン製薬やオムラ・インダストリの尊大で虚飾的なネオンサインが、走馬灯のように現れては消えていった。
posted at 00:42:15

アースは相棒に一瞥をくれた。痛みは治まったようだが、15センチほど飛び出してしまった左目は、もうどうにもならないだろう。リー先生のサイバネティック手術を受けて、カメラアイでも埋め込むしかあるまい。
posted at 00:42:40

スリケンを得意とするヒュージシュリケン=サンには、大きな痛手だ。こいつも、もうシックスゲイツに長くは居られまい。アースクエイクはコンピューターのように冷酷に、現在置かれた状況を分析する。
posted at 00:42:47

「誰に襲われた?」とアースクエイク。 「ニンジャスレイヤーだ」とヒュージ。重金属酸性雨に肺をやられた水牛のように、ヒューヒューという声で答える。「チタン製胴当てを、チョップだけでへし折った。恐るべきジュツだ。知能も高い。狭い裏路地に誘い込まれ、大スリケンをついに使えなかった」
posted at 00:43:16

「ヘルカイトからの情報によれば、ドラゴン・ドージョーは、この先の廃インターチェンジを降りてすぐの場所だ。しかしニンジャスレイヤーが何故、ドラゴン・ドージョー襲撃を邪魔するのか? 不可解だ。偶然だろうか?」とアースはひとりごちる。ローマ時代の哲学者めいた顔で沈思黙考した。
posted at 00:43:54

横ではヒュージシュリケンが、ズバリ・アドレナリンの副作用によって、沖に打ち上げられたマグロのように口をぱくぱくさせ、体を痙攣させていた。
posted at 00:44:05

時折、悪夢にうなされてうわ言を発する子供のように、「アース、もっとスピードを……奴が来る……地獄の猟犬が、俺たちを追いかけてくる……」とくり返すが、沈思黙考に入ったアースクエイクの耳には届かない。
posted at 00:44:22

そして、アースクエイクのハーレーに備わったオムラ・インダストリ製のハイテク・ナビゲーショーン・レーダーが、ベンツ軍団の異常をキャッチした。最後尾を走るベンツが、突然隊列を乱し、あろうことかハイウェイから落下したのだ。直後、数十メートル下の沼地で、水牛たちを巻きみ火柱が上がる。
posted at 00:44:51

「何だ!?」アースがレーダーの解像度を上げ、分析を試みる。その間にも、2台目のベンツがコントロールを失い、「ビョウキ」「トシヨリ」などと書かれた中央分離帯のヨロシ=サン製薬ネオンサインに突っ込んで、そのまま炎上した。
posted at 00:45:06

「奴だ!」副作用を脱したヒュージは、体をねじってニンジャの目でハイウェイの暗闇を覗き込む。
posted at 00:45:18

謎のニンジャが、時速150キロメートルという猛烈な勢いでハイウェイを走っていた。
posted at 00:45:32

「Wasshoi!」という掛け声とともに、新たなベンツの一台の上に回転しながら飛び乗る。肉体強化された体操選手の着地のように、寸分のぶれもない。そのメンポには、「忍」「殺」と禍々しい文字が彫られている。おお、彼こそは、すべてのニンジャを殺す者。ニンジャスレイヤーに他ならない!
posted at 00:46:36

「サプライズド・ドージョー 3」へ続く
posted at 00:47:18

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 00:47:32

NJSLYR> サプライズド・ドージョー #3

100806

第1巻「ネオサイタマ炎上」より。「サプライズド・ドージョー 3」
posted at 01:20:35

(訳者注:前回までのあらすじ……ドラゴン・ドージョーに放火するため、メガロ・ハイウェイを北へ向かっていたヒュージスリケンとアースクエイクのサイドカー付きハーレー、それを護衛するY-12型バイオヤクザたちのベンツ軍団12台は、ニンジャスレイヤーに突如襲撃を受けた)
posted at 01:20:58

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは時速200キロで疾走するベンツの屋根に回転しながら着地したかと思うと、操縦席に座るクローンヤクザに向かって、おもむろに手刀を突き刺した。厚さ2センチもあるソウカイ・ベンツの車体を、ユバドーフのように容易く貫通したのだ。
posted at 01:21:18

「グワーッ!」突然天井から突き立てられた手刀が、クローンヤクザの頭蓋骨を熟れきったアボカドのように粉砕する。たちまち、頭を失った操縦ヤクザの首動脈から、緑色のクローン・バイオエキスが壊れたスプリンクラーのように噴き出し、ベンツの車内を鮮やかに染め上げた。
posted at 01:21:23

操縦ヤクザの操縦を失ったベンツは、また一台、中央分離帯のプラズマネオンサインに映し出されるオイランの顔へと飛び込んでゆき、爆発を遂げた。爆発の直前、ニンジャスレイヤーは爆炎を背に追いながら跳躍し、次のベンツへと飛び移る。
posted at 01:21:37

後ろでは、クローンヤクザたちの断末魔の悲鳴を覆い隠すように、重金属酸性雨がしとしとと振り、緑色のバイオエキスをハイウェイの下の水牛たちに届けていた。
posted at 01:21:42

「ワッショイ!」ニンジャスレイヤーが、新たなベンツの屋根に着地する。時速210キロの風が、赤黒い忍装束をばたばたと吹き流す。そのシルエットは、まるでナラクのシニガミのよう。
posted at 01:21:48

「殺せ!」ヒュージシュリケンは、クローンヤクザ軍団に単純明快な命令を下す。全ベンツのウィンドウから、一斉にクローンヤクザたちが身を乗り出した。双子のように同じ顔同じ髪型の三十人のヤクザが、まったく同じタイミングで胸元からチャカを抜き、一斉にマズルフラッシュを輝かせたのだ。
posted at 01:22:08

「ワッショイ!」ニンジャスレイヤーはその攻撃を予測していたかのように、時速220キロで走るベンツの屋根を蹴って高く跳躍した。そして体をオリンピックの高飛び込み選手のようにキリモミ回転させながら、恐るべき勢いで三百六十度にスリケンを射出したのだ。
posted at 01:22:17

ニンジャの身体能力に、ソウカイ・ベンツのスピードが合わさり、恐るべき死の回転が生み出されたに違いない。ソウカイ・ベンツ軍団は、自慢のスピードゆえに墓穴を掘ったのだ。
posted at 01:22:40

「イヤアアアーッ!」死のキリモミ回転、そしてスリケンの乱射。 「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」 7人のバイオヤクザが死んだ。
posted at 01:23:05

ニンジャスレイヤーはまるでタツマキのように、キリモミ回転ジャンプを続けながら、ベンツからベンツへと飛び渡った。跳躍するたびに無数のスリケンが乱れ飛び、着地のたびに爪先がダイヤモンド製ドリルのようにベンツの屋根をえぐって、操縦ヤクザの頭をアボカドのように粉砕するのだった。
posted at 01:23:17

「イヤアアアーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」
posted at 01:23:22

恐ろしい! ナムアミダブツ! なんたる殺戮! ワニの背中を飛び渡りながら矢を射たという、平安時代のニンジャ神話のような、恐ろしくも雅な殺戮劇が、酸性雨降りしきる夜のメガロ・ハイウェイに展開された。
posted at 01:23:39

12台のベンツは次々と脱落し、残すは、アースクエイクとヒュージシュリケンの乗るサイドカー付ハーレーの前方を守る1台のみとなった。ニンジャスレイヤーはキリモミ回転をやめ、残された一台のベンツの屋根にふわりと着地する。
posted at 01:23:50

その上にすっくと立ち、胸元で威圧的に腕を組み、ぼろぼろのマフラーのようなニンジャ布を250キロの疾風にはためかせた。 「ヒュージシュリケン=サン、アースクエイク=サン。観念せよ。お前たちは、何故ドラゴン・ドージョーの場所を探している?」
posted at 01:24:03

「馬鹿奴、答えるものか」とヒュージ。無言で拒絶を示すアース。 「ならば死んでもらう。慈悲は無い」ニンジャスレイヤーは、その場でゆっくりと回転を始め、足腰をバネのようにきりきりと収縮させた。ヘルタツマキを再びくり出すつもりなのだ。
posted at 01:24:13

ヒュージシュリケンも最後の賭けに出ようとしていた。頭の中でニンジャスレイヤーの動きを予測し、対抗策を練る。……まず、ニンジャスレイヤーの跳躍と同時に自分もサイドカーの上に立ち上がる。
posted at 01:24:29

…飛んでくるであろう三から五枚のスリケンをすべて指でつまみ、背後にそらす。万が一、六枚目が来た場合は後ろを向いて、背負っている巨大スリケンで身を守る。その後、全力で巨大スリケンを投擲するのだ。勝機はこれしかない。
posted at 01:24:57

「ワッショイ!」ニンジャスレイヤーが跳躍する。ヒュージシュリケンもサイドカーの上に立つ。五メートル上空まで上昇した死のタツマキは、予想通り、闇を切り裂いてスリケンを投げつけてくる。
posted at 01:25:16

三枚、四枚、五枚、ヒュージは人差指と中指でこれをつまみ、背後へ受け流した。六枚目。ヒュージは背を向け、巨大スリケンで身を守る。
posted at 01:25:19

予想外の七発目。ヒュージは巨大スリケンで身を守る。八発目、九発目。何故だ? これではいつまでも反撃に転じられない。ニンジャスレイヤーはいつまでスリケンを投げ続けるのだ? 
posted at 01:25:27

ヒュージが巨大スリケン越しに空を見上げると、ニンジャスレイヤーは片腕をヘリコプターの羽根のようにまっすぐ伸ばし、回転の力で空中静止を実現していたのだ。もはや反撃に転じれない。このままニンジャスレイヤーは永遠にでもスリケンを投げ続けてくるだろう。
posted at 01:25:43

「ここまでか! ナムアミダブツ!」ヒュージが辞世のハイクを読もうとしたその時、黒い風が吹いた。
posted at 01:26:00

「イヤーッ!」闇を切り裂いて、空から巨大なカイト(凧)とそれに乗ったニンジャが出現し、ニンジャスレイヤーに襲い掛かったのだ。 「グワーッ!」予想外の攻撃を受けてニンジャスレイヤーは回転のバランスを崩し、ハイウェイの下へと真っ逆さまに転落して、水牛の群れをミンチ肉に変えた。
posted at 01:26:38

「間に合ったか、ヘルカイト」野太い両腕でニンジャスレイヤーのスリケンを受け止め続けていた知能派のアースクエイクが、落ち着き払った調子でつぶやいた。「俺の発進したエマージェンシーIRCメッセージを、ヘルカイトが受信したのだ」
posted at 01:26:47

「……おのれ、またも……」死を免れたものの、ヒュージの腹の奥には、ニンジャスレイヤーとヘルカイトに対する殺意の炎がめらめらと燃えていた。 どうなる、ニンジャスレイヤー! 三人のソウカイ・ニンジャが、ドラゴン・ドージョーへと迫る! (「サプライズド・ドージョー 4」に続く)
posted at 01:27:17

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 01:27:46

NJSLYR> サプライズド・ドージョー #4

100808

第1巻「ネオサイタマ炎上」より。「サプライズド・ドージョー 4」
posted at 00:11:48

コンクリートの腐肉と錆び果てた鉄骨の骨で形作られる、殺風景なゴーストタウンを、サイドカー付ハーレーが威圧的に走っていた。ヘッドライトが闇を切り裂くと、線香を突き立てられたトーフのような、解体途中で遺棄された中層集合住宅やオフィスビルが、デジャヴのように何度も何度も繰り返し現れる。
posted at 00:16:14

あらゆる色彩や熱を失ったこの世界で、躍動的に黒光りするハーレーは、さながら、滅亡したオキナワ海底都市の調査に訪れるソナー潜水艦のように異質だ。そして、そこに乗った二人のニンジャもまた、明らかに異質な存在であった。
posted at 00:19:16

C227廃インターチェンジでメガロ・ハイウェイを下りたアースクエイクとヒュージシュリケンは、ヘルカイトからのナビ情報に従ってさらに中国地方を北上。三十数年前に遺棄された、ヒカリ=サン・シンガク学園都市の廃墟へと進入していたのだ。
posted at 00:20:18

中心部へと向かう国道沿いには、重金属酸性雨に曝されて色褪せたノボリが、まるでハカバのように何本も立てられていた。『最高の学習環境』『実際安い』などの空虚なメッセージが、ネンブツのように何度と無くアースクエイクとヒュージシュリケンの目に飛び込んできては、また消えてゆく。
posted at 00:21:39

ごく稀に、ミュータント化した野生の水牛や、酸性雨耐性を獲得したと思われる灰色の竹林が現れ、二人を驚かせた。ネオサイタマの外縁は、まさに深海世界のごとき驚異にあふれている。だが、それらに注意を払う暇は無い。ニンジャたちの目的は、ドラゴン・ドージョーを発見し、放火することなのだ。
posted at 00:25:12

ヒカリ=サン・シンガク学園都市は、数十年前のスクラップビルドで計画的に強制発展させられ殺された地方都市のひとつだ。このようなゴーストタウンは、日本列島全域に、掃いて捨てるほど存在する。住民はゼロ。あらゆるインフラも遮断されている。二十四時間常に、ウシミツ・アワーのような静けさだ。
posted at 00:28:25

#6gates:Earthquake:ヘルカイト、本当にここにドラゴン・ドージョーが? アースクエイクは、ハーレーに備わったデヴァイスを使い、上空のヘルカイトにIRCメッセージを送る。マッポーレベル大気汚染下では、衛星写真など撮影できない。アクチュアルな偵察が必要なのだ。
posted at 00:31:45

#6gates:Hellkite:エグザクトリー。俺のカイトに備わったソナーが、この廃都市から不自然なニンジャ反応をキャッチ。そのまま中心部へストレート。 サイドカーでは、七本目のズバリ・アドレナリンを注射したアースクエイクが、マグロのように口をぱくぱくとさせていた。
posted at 00:32:27

中心部にはいくつかの巨大建築物が存在し、周囲の集合住宅を睥睨していた。その中でも最も高く、現在では巨大なハカイシのように聳え立つのは、ヒカリ=サン第五十七総合大学とヒカリ=サン進学塾のツインタワービルの廃墟。
posted at 00:33:27

その横には、かつてこの都市のすべての文化中心として機能していたであろう、スーパーマーケットとジーンズショップと映画館と病院が合わさった、タケノコ・ヤスイ・ショッピングモールの無残な廃墟があった。
posted at 00:34:39

#6gates:Earthquake:あの一番大きなビルディングか? #6gates:Hellkite:ノー。中心部を突っ切り、そのまま北上してくれ。 ニンジャたちの通信に声は要らない。オムラ・インダストリによりセキュリティ対策がなされたIRCがあるからだ。過去のログも読める。
posted at 00:38:12

#6gates:Earthquake:ゴシック様式のジンジャ・カテドラルが、2時の方向に見えてきた。 #6gates:Hellkite:エグザクトリー。トリイを潜って接近しろ。 作戦目標に近づいている。手応えを感じたアースクエイクは、ハーレーをフルスロットルで前進させた。
posted at 00:38:49

「おい……おい……アースクエイク」ズバリ状態から覚醒したヒュージシュリケンは、まだ余韻が残っているのか、うわごとのように呟いた。 「どうしたヒュージ?」とアース。 「おい……おい……お前はヘルカイトを信用するのか……?」とヒュージ。 「どういう意味だ」
posted at 00:39:43

「奴は…先月シックスゲイツに加わったばかり。その時ナンバー6だったガーゴイルは、武装ヘリ作戦中に、不可解な死を……」 「ニンジャスレイヤーに殺されたのだろう」 「ナビを担当したのはヘルカイト…」 ヒュージはまたズバリ状態に入って瞳孔を開き、喘息マグロのように口をぱくぱくとさせた。
posted at 00:41:46

アースは、帝政ローマの哲人のような顔で沈思黙考に入った。ヘルカイトか、ヒュージシュリケンか、どちらを味方にすべきか。将来性の面ではヘルカイトだろう。しかし、シックスゲイツが3人も同じ作戦にあたるのが、問題の発端なのだ…。ラオモト=サンは、俺たちの誰かを始末する気ではあるまいか。
posted at 00:44:48

冷酷な算段を続けながらも、ハーレーのスピードは落ちない。平安ゴシック様式の厳しいトリイを潜る。不気味な灯篭が道の両脇に立ち並び、侵入者に無言の警告を発する。
posted at 00:48:56

その先には、高さ十数メートルほどの無骨なジンジャ・カテドラルが聳え立っていた。そしてアースクエイクは、カテドラルの障子戸の向こうに幽かにゆらめくボンボリの灯りの列を、確かに見た。 (「サプライズド・ドージョー 5」に続く。このセクションは6で完結。)
posted at 00:50:10

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 01:15:16

(翻訳チームのひとりより:親愛なる読者の皆さん、今回の連載箇所に一部、改行情報を表示できないようなツイッターブラウザーではうまく読めない箇所がありました。次回以降は改行部分を別ツイートにするなどして、改善される見込みです。今回分はもう、メンドくさいので、アップし直しとかしません)
posted at 01:19:54

NJSLYR> サプライズド・ドージョー #5

100815

第1巻「ネオサイタマ炎上」より。「サプライズド・ドージョー 5」
posted at 00:45:40

重金属酸性雨で朽ちかけたジンジャ・カテドラルの内部には、広さ五十畳ほどの、おごそかなドージョーが隠されている。このゴーストタウンには、電気も水道も無い。ボンボリと蝋燭の灯りだけが、ドージョーの北に正しく配された大仏像と、その周囲を守る24体のニンジャ神話の神々の像を照らしていた。
posted at 00:47:16

これらの像は、長い時の流れの中で無残に破壊されてきた。無数の手を持つ神、鬼を踏みしだく神など、様々な神像があるが、いずれもその頭部や手足を失い、特に酷いものは足首から下しか残されてはいない。そしてそれは、平安時代から続いた24のニンジャクランの、哀れな末路の象徴でもあった。
posted at 00:49:19

修行用の木人。自動スリケン投擲機。壁にはぼろぼろの旗が掲げられている。翼を広げた竜の姿がシンボルマークとして刺繍され、その下にはカタカナで「ドラゴン」と縫い上げられている。ここが由緒正しきドラゴンニンジャ・クランの本拠地、ドラゴン・ドージョーであることの、何よりの証拠であった。
posted at 00:50:36

強いインセンスの香りが、古く厳めしいカテドラル内に満ちている。その中心では、竜の刺繍入ニンジャ装束を纏う一人の老人が、ドラゴンの旗を背に十枚もの座布団を重ねて正座をし、深い瞑想に入っていた。彼こそはドラゴン・ドージョーの主、日本最後のリアルニンジャ、ドラゴン・ゲンドーソーである。
posted at 00:52:53

彼の前で正座をし、固唾を呑みながらじっとドラゴン・ゲンドーソーの命令を待つのは、白いニンジャ装束に身を包んだ10人のニュービー・ニンジャたち。そして、覗き窓から外の様子を伺うドラゴン・ゲンドーソーの孫娘、若くたおやかなユカノであった。ユカノのバストは豊満であった。
posted at 00:54:36

鳥居に仕掛けたブービートラップが作動し、立て続けにナリコが鳴ってからというもの、ドラゴン・ドージョー内は緊張感と静寂によって支配されていた。ナリコが作動し続けるということは、野良水牛ではなく、何か明確な悪意を持った外敵がドラゴン・ドージョーへと近づいていることを意味する。
posted at 00:55:23

命令を下すべきゲンドーソーは、目を閉じたまま動かない。しかし、ユカノもニュービーたちも、ゲンドーソーに寄せる全幅の信頼ゆえに、取り乱す気配は無かった。ナリコがさらに鳴る。第七警戒態勢。あと3段階で、敵がこのドージョーにやってくる。酸性雨に濡れた鴉が、トリイの上でゲーゲーと鳴いた。
posted at 00:57:15

(……ニンジャスレイヤーは、やはり現れなんだか……)ドラゴン・ゲンドーソーは、瞑想の中でひとりごちた。ナリコが鳴る。第八警戒態勢。(……だが、それでよいのかもしれぬ……)ナリコが鳴る。第九警戒態勢。ついにゲンドーソーは、カッと目を見開いた。「あらゆる侵入者を、生きては帰すな」
posted at 00:58:14

「イヤーッ!」第十警戒態を告げるはずだった繊細で風流なナリコの音は、しかし、南側から障子戸を突き破って突入してきた無作法な武装ハーレーの爆音と、巨漢のアースクエイクが放つ怒号によってかき消された。
posted at 00:59:41

ハーレーは後輪をコンパスのように滑らせ、タタミに焦げ痕を刻みつけながらその場でぐるりと一回転し、着地の衝撃を吸収する。ハーレーから吐き出される無骨なハイオク臭と、重金属酸性雨が蒸発するときの、あの独特の湿った悪臭が、ドージョー内に満ちるインセンスの香りを完全にかき消してしまった。
posted at 01:01:44

ハーレーはタタミの上で停止し、空吹かしのエンジン音が敵を威圧する。アースクエイクの不吉で威圧的な眼光が、座布団の上に座るドラゴン・ゲンドーソーに注がれた。そして一礼。
posted at 01:03:00

「ドーモ、初めまして、ドラゴン・ゲンドーソー=サン。ソウカイ・シックスゲイツのニンジャです。ドラゴン・ドージョーに放火に来ました」丁寧なアイサツは、敵にさらなる恐怖心を植え付ける。 「ドーモ、ソウカイ・シックスゲイツ=サン。ドラゴン・ゲンドーソーです」
posted at 01:03:07

「イヤーッ!」ドラゴン・ゲンソーソーのアイサツが完全に終わらないうちに、ヒュージシュリケンはサイドカーに搭載した煙幕弾とプラスチック爆竹の発射スイッチを、勝ち誇ったような掛け声とともに押した。たちまち、ドージョー内は猛烈な煙と騒音に包まれる。ナムアミダブツ! 何たる卑劣か!
posted at 01:05:34

「慌てるな!」とゲンドーソーが叫ぶのは、一瞬遅かった。彼の声は爆竹の騒音によって切り裂かれ、仲間の耳には届かない。思いがけぬ事態に取り乱したニュービー・ニンジャたちは、古事記にも記された伝統的なニンジャの攻撃陣、ヤジリの型で武装ハーレーの方向へと闇雲に突き進む。
posted at 01:06:44

ヤジリの型は、ボーリングのピンのように並び一点突破で突き進む、突破型の攻撃陣である。確かに、ヒュージシュリケンとアースクエイクという強力なソウカイ・ニンジャ2人を相手にするには、この攻撃陣が最適の選択肢だ。
posted at 01:07:43

だが、それはヒュージシュリケンの思う壺だった。ズバリ・アドレナリンの効き目も良く、痛みはほとんど消えている。ヒュージはハーレーから素早く飛び降り、2回後方にバク転した後、背中に背負った前長2メートルの巨大セラミック・スリケンをニュービー・ニンジャたちに投擲した。 「イヤーッ!」
posted at 01:08:52

「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」ニュービーたちの首を、巨大スリケンが次々と切断する。10人のうち9人の首が飛び、タタミに転がった。首を斬られたニンジャ達の死体は前傾姿勢のまま直立不動となり、首からスプリンクラーのように血飛沫を撒き散らす。
posted at 01:09:29

「良い援護だ、ヒュージ」とアースクエイク。だが、ヒュージシュリケンは自らの失態に呆れ、愕然としていた。……以前の俺であれば、確実にストライクを決めたはずだ。まさか、敵を1人討ちもらすとは……これが、片目を失うということか。俺は、俺の存在意義は、どこへ行ってしまったのだ……。
posted at 01:10:36

その時だ。天井から、細くしなやかな影が飛び降りてきた。 「キエーッ!」天井に張り付いていたユカノが、包丁を胸の前に両手で抱えて、一直線に降下攻撃をくり出したのだ。片目を失ったヒュージシュリケンにとって完全な死角である、左側面めがけて。
posted at 01:16:38

「グワーッ!」ヒュージの肩に包丁が突き刺さり、大スリケン投擲に必要な筋肉が完全に切断された。噴水のように血が噴き出す。 しかし、それは知能派のアースクエイクにとって、思う壺だった。すぐ隣にいたアースの野太い腕が、ユカノの足をつかんで宙吊りにする。ユカノは悲鳴をあげた。
posted at 01:20:05

アースはユカノの奇襲に気付き、あえてヒュージを囮にしたのだ。 (……ヒュージよ、お前はもうオシマイだ。最後に、俺の役に立ってくれたな)アースは忍者メンポの中で、満面の笑みを浮かべていた。ヒュージシュリケンは激痛と絶望の中で、タタミの中にうずくまり、血の染みを広げてゆく。
posted at 01:20:49

「ドラゴン・ゲンドーソー=サン、観念せよ。抵抗すれば、この女がどうなっても知らんぞ」勝ち誇ったアースクエイクの大音声が、ジンジャ・カテドラルの中に朗々と響き渡る。ドラゴン・ゲンドーソーも、愛する孫娘を人質に取られ、完全に戦意を喪失しかけた。その時だ。
posted at 01:22:03

「ワッショイ!」禍々しくも躍動的な掛け声が響き渡ったかと思うと、ジンジャ・カテドラルの天井が崩れ下ちた。そして、轟々たる重金属酸性雨とともに、赤黒いニンジャ装束に身を包んだニンジャスレイヤーが、この死闘に乱入してきたのである!
posted at 01:23:48

第1巻「ネオサイタマ炎上」より。「サプライズド・ドージョー 6」に続く。 (6でこのセクションは完結します)
posted at 01:24:22

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 01:34:12

NJSLYR> サプライズド・ドージョー #6

100821

第1巻「ネオサイタマ炎上」より。「サプライズド・ドージョー 6」
posted at 20:22:18

(前回までのあらすじ:ドラゴン・ドージョーを強襲した、ヒュージシュリケンとアースクエイク。孫娘ユカノを人質に取られ、思うように手を出せないドラゴン・ゲンドーソー。そこへ、どちらの陣営にも属さないはずのニンジャスレイヤーが突如乱入してきた)
posted at 20:25:43

「Wasshoi!!」禍々しくも躍動的な掛け声が響き渡ったかと思うと、ジンジャ・カテドラルの天井が崩れ落ちた。そして轟々たる重金属酸性雨とともに、赤黒いニンジャ装束に身を包んだニンジャスレイヤーが、この死闘に乱入してきたのである。
posted at 20:26:26

ジーザスとショーグンと6人のニンジャが描かれた荘厳なステンドグラスが、耳障りな音を立てて跡形も無く砕ける。屋根の崩落と同時に、天井裏を住処としていた百羽近い鴉たちが、慌しくドージョー内を飛び回った。
posted at 20:30:58

鴉の羽根で作られた黒い渦に抱かれながら、ニンジャスレイヤーがゆっくりと舞い降りてくる。ステンドグラスの破片が、ボンボリの灯りを反射してホタルのように輝く。その姿は、巨大な黒いフロシキを纏っているかのように不吉で、かつ神々しかった。ユカノはその危険な美しさに、思わず涙を流していた。
posted at 20:36:23

重金属酸性雨に痛めつけられた無数の黒い羽根が、ボンオドリを舞っているかのように輪舞しながら、タタミへふわりと舞い落ちる。直後、思い出したかのように、土砂降りの酸性雨とガラス片がドージョー内へと叩きつけた。同時に、ニンジャスレイヤーはドージョーの中心へと立膝状態で着地する。
posted at 20:38:34

一瞬の静寂。ジンジャ内のすべての視線が、ドージョーの中心に集まった。それからニンジャスレイヤーは、目にもとまらぬ速度でタタミを蹴り、猛烈な勢いで跳躍すると、ドリルのように空中回転して静止した。メガロ・ハイウェイで12台の武装ベンツを葬った、あのヘルタツマキをくり出そうというのだ。
posted at 20:39:49

「待て、この女がどうなっても……」アースクエイクが、宙吊りにしたユカノを盾のように突き出す。たわわな胸が揺れる。だが、ニンジャスレイヤーは意に介さない。タツマキはさらに回転を速める。
posted at 20:41:16

今、彼の体を突き動かしているのは、家族を失った苦悩せる元サラリマン、フジキド・ケンジではなく、全ニンジャの抹殺のみを望む、恐るべきナラク・ニンジャの魂だったからだ。
posted at 20:45:03

――――――――――
posted at 20:45:16

ドラゴンドージョーの死闘から時を遡ること、1時間前。メガロ・ハイウェイでヘルカイトによる奇襲を受け、高架下へと真っ逆さまに落下したニンジャスレイヤーは、そのまま死んだように昏倒していた。数十分後、ようやく意識が目覚めるも、体はまだ動かない。
posted at 20:46:23

朦朧とした意識の中で、彼は繰り返しうめいた。(((寝ている場合か……起きろ……起きろ……俺は、命の恩人であるドラゴン・ゲンドーソー=サンとユカノ=サンを助けねばならない)))と。
posted at 20:48:01

同時に、否定的な感情が彼の中でくすぶった。(((待て、俺が行って何になる。俺が一方的に好意や恩義を感じているだけだ。二人は俺に恐怖を抱き、距離を置こうとしていたではないか。俺が死ねば良いと思っているかもしれない)))と。実際、フジキドはゲンドーソーに教えを乞い、拒否されている。
posted at 20:59:55

(((恐れられて当然だ……俺はニンジャスレイヤー、すべてのニンジャを殺す者なのだから)))。だが、このままでは、ソウカイ・シンジケートの魔手がドラゴン・ドージョーに伸びてしまう。
posted at 21:06:33

(((ゲンドーソー=サンは、そう簡単にはやられないだろう。だが、無傷で済む保証もない。ユカノ=サンも! ああ、俺はあの二人を助けたい! それだけなんだ!))) 急がねば! 急がねば! だが、意識だけが焦燥を続け、傷ついた身体は微動だにしない。
posted at 21:08:12

ソウカイ・ニンジャ3人との死闘で失った体力はまだ戻らない。ケロイド水牛たちがニンジャスレイヤーの周囲に群がり、モーモーと貪欲な喉を鳴らし始めた。酸性雨耐性の新種タケノコさえも溶かす、強力な胃液をぼたぼたと滴らせながら、長い舌をぶるぶると左右に揺らす。
posted at 21:09:45

水牛の舌が、ヘドロ沼地の中に仰向けで埋まったニンジャスレイヤーの全身を嘗め回した。屈辱感と焦燥感が、ニンジャスレイヤーの胸を焦がす。そして不意に、ニンジャスレイヤーの心の内で、もうひとつの新たな声が響いた。これまでに何度もフジキドをそそのかそうとしてきた、あの怨念に満ちた声が。
posted at 21:11:03

「「「フジキド・ケンジよ、ここから先は俺に任せろ。俺の暗黒カラテの力があれば、この傷ついた肉体を動かし、ソウカイ・ニンジャどもを皆殺しにできるぞ」」」……と。時刻はまさにウシミツ・アワー。妖魔が跋扈する闇の時刻であった。いつものフジキド・ケンジならば、この声を無視していただろう。
posted at 21:16:59

ALAS! だが、何たる悲劇か! 二人の恩人を強く想うあまり、未熟なるフジキド・ケンジは、その恐るべき声に応えてしまったのだ。フジキド本人はおろか、ドラゴン・ゲンドーソーでさえもその正体を掴めなかった、正体不明のニンジャソウルの声に。
posted at 21:20:33

(((俺の体に宿る、名も知らぬニンジャよ、俺の代わりにこの体を動かしてくれ。…憎い! あのソウカイ・ニンジャたちが憎い! 殺したい! そしてすべてを終わらせて、冷たいフートンに入って、死者のごとく安らかにこの身を横たえたい!)))その瞬間、フジキドの意識は完全に消え去った。
posted at 21:24:39

ニンジャスレイヤーの右手が、死体の痙攣のように、ぴくぴくと動き始めた。ケロイド水牛の舌を素手で掴み、引きちぎる。水牛の返り血でメンポを赤く染めながら、ニンジャスレイヤーは笑い声を上げる。それはフジキド・ケンジの笑いではない。地獄の底から響いてくるような、ナラク・ニンジャの笑いだ。
posted at 21:32:19

かくしてフジキド・ケンジの精神を追いやり、肉体のコントロールを奪ったナラク・ニンジャは、ケロイド水牛の群れを一瞬でキャトルミューテーションした後、ヒュージシュリケンの残した血の痕跡を追って、音速の如きスピードでメガロ・ハイウェイを駆け抜けた。
posted at 22:07:43

余りのスピードによって衝撃波が発生し、中央分離帯で光るヨロシ=サンの電光掲示板が割れ、「暴力団追放」「緑を大切に」「お先にどうぞ」と書かれた古き善き時代の錆びきったカンバンが、障子戸のように何枚も突き破られた。その後わずか数分で、この怪物は廃インターチェンジを通過した。
posted at 22:15:30

学園都市の廃墟を疾駆しながら、ニンジャスレイヤーはメンポの奥に不吉な笑みを浮かべていた。殺人衝動を堪えきれず、哄笑が漏れる。口元からは涎が垂れ、右目は瞳孔が開きすぎ、黒い瞳がゴマのように小さくなっていた。首をへし折る感触に飢え、左手は休みなくチョップの動作を繰り返していた。
posted at 22:17:41

「「「フジキド・ケンジよ、でかしたぞ」」」ナラク・ニンジャの声が脳内でエコーした。「「「じっと精神的フートンの中で見ておれよ。三人のソウカイ・ニンジャだけではない。ドラゴン・ドージョーのニンジャたちも皆殺しだ。俺は、その返り血の中でお前を起こしてやろう!」」」
posted at 22:19:40

――――――――――
posted at 22:19:51

場面は再びドージョーへ。「サツバツ!」暴走するニンジャスレイヤーは、メンポのスリットから地獄の蒸気を吹き出し、なおも回転を速めた。危険な回転だ。鴉の羽根を巻き込み、漆黒の巨大なタツマキを形成する。「イヤーッ!」両腕が触手状の生き物のように休み無く動き、スリケンを全方向へ射出した。
posted at 22:44:08

「グワーッ!」スリケンがアースクエイクの全身に突き刺さる! 「アイエエエエエ!」スリケンがユカノの足にも突き刺さる! 「グワーッ!」倒れ伏すヒュージシュリケンの背中にも突き刺さる! 「グワーッ!」残っていた最後のニュービー・ニンジャも巻き添えを食って死んだ!
posted at 22:45:13

2メートル50の異常巨体であるアースクエイクにとって、スリケンの傷など百発喰ったところで致命傷にはならない。だが、目に突き刺されば話は別だ。
posted at 22:46:25

「グワーッ!」片目を潰されながらも、知能派のアースクエイクは冷静さを失わず、素早く作戦を変更した。敵は、女子供の人質など意に介さぬ、狂った殺戮者なのだと悟ったからだ。何の役にも立たないユカノを放り捨てて、アースは両腕で身を守った。
posted at 22:49:04

ドラゴン・ゲンドーソーは裏返した強化タタミを盾に使い、スリケンの雨を防いでいた。だが、これでは身動きも取れない。「やはり、あのサラリマンには、邪悪なニンジャソウルが憑依しておったのか……! ユカノ! 逃げよ!」ゲンドーソーが叫び、ユカノは一瞬の躊躇の後でそれに従った。
posted at 23:07:21

ここで思いがけぬことが起こる。アースクエイクが、ほんの一瞬だけ目を離した隙に、タツマキが忽然と消え失せていたのだ。渦巻状になっていた黒い鴉の羽根だけがぱっと散り、ニンジャスレイヤーの姿はどこにもなかった。
posted at 23:07:47

アースクエイクは目を暗視モードに切り替える。バイオヤクザのように、赤外線視覚装置をインプラントしているわけではない。サイバネティック手術などなくても、ニンジャたちは精神集中の力だけで、自在に自らの目を暗視モードに切り替えられるのだ。
posted at 23:09:33

アースはソナーレーダーのように気配を探る。酸性雨でボンボリの火がひとつ、またひとつと消え、ドージョー中心部は暗闇に変わってゆく。何かが向かってきた。手で捻り上げる。ただの鴉だ。また何かが向かってきた。やはり鴉。そう思った瞬間、不意に背後からニンジャスレイヤーが飛び掛ってきた。
posted at 23:13:08

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは、アースクエイクの首元めがけてカラテをくり出す。冷凍マグロの頭さえも一撃で粉砕するほどの、恐るべき殺人カラテを。だが、ニンジャの不意を打つことは容易ではない。アースは身を捻って向き合い、両腕でこれをガードした後、自慢のビッグカラテをくり出した。
posted at 23:26:26

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」暗闇の中で、二者のカラテと血飛沫が乱れ飛んだ。「イヤーッ!」「イヤーッ!」時折、ボンボリのひとつが息を吹き返して灯り、壮絶なニンジャの死闘を、タマガワ河川敷の花火フェスのように浮かび上がらせ、またすぐに消えていった。
posted at 23:27:12

「イヤーッ!」冷酷な殺人カラテをくり出しながらも、ニンジャスレイヤーの目からは血の涙が流れていた。命の恩人であるユカノとゲンドーソーの叫び声が、フジキドの魂を呼び戻し暴走を止めたのだ。だが、もう手遅れだ。((…こんなはずではなかった。あの二人を守りに来たはずだったのに…))。
posted at 23:32:25

「イヤーッ!」「イヤーッ!」一進一退の攻防が続く。…いや、ニンジャスレイヤーが力負けを始めていた。ナラク状態の彼なら、容易くアースクエイクを肉塊に変えられただろう。だが、暴走が止まり、暗黒カラテが失われた反動で、彼の体を猛烈な虚脱感と疲弊が襲い始めていたのだ。
posted at 23:33:12

「イヤーッ!」アースクエイクの痛烈なストレートが、まともにニンジャスレイヤーの腹に決まった。「グワーッ!」フジキドの体は砲弾のように三十メートル吹っ飛び、仏像の一つを粉々にする。壁に張られた「ナムアミダブツ」のスローガンが、ニンジャスレイヤーを遠回しに嘲笑っているかのようだった。
posted at 23:34:23

体が動かない。スリケンもない。孤立無援だ。 一気に勝負をつけるべく、アースはドージョーの床を軋ませながら駆け込んでくる。あの巨体で頭を踏みつけられれば、ニンジャスレイヤーとて死ぬだろう。暗黒カラテの力はもう湧き上がらない。((そうだ、俺は死ぬべきなのだ))とフジキドは思った。
posted at 23:35:45

(((守るべき相手を殺そうとするなど、人の所業ではない)))フジキドは苦悶した。(((俺はもう身も心もニンジャになってしまったのか……? あの夜、俺を、そして俺の妻子を殺したニンジャのように。……そうだ、俺は死のう。フートンが欲しい。セプクできるならしたい……)))
posted at 23:36:36

「立て、ニンジャスレイヤー=サン!」その声に無意識に反応し、ニンジャスレイヤーはネックスプリングで体を起こして、バク転を五回決めた。彼をセプクから救ったのは、戦闘体勢を整えたドラゴン・ゲンドーソーであった。
posted at 23:37:09

ゲンドーソーはアースクエイクの前に立ちはだかり、その周囲をグルグルと猛スピードで走り回って、巨漢ニンジャを翻弄した。そして叫ぶ。「よいか、ニンジャスレイヤー=サン。力に力で対抗してはならん。インストラクション・ワンだ。お前もわしと同じ動きをせよ」
posted at 23:38:09

「Wassyoi!」息を吹き返したニンジャスレイヤーは、ドラゴン・ゲンドーソーとともにアースクエイクの周囲を猛烈な速度で回転した。あまりの速さに残像が生まれる。スピードはエネルギーを、そしてエネルギーはスリケンを生み出してゆく。ニンジャスレイヤーの手にスリケンが戻った。
posted at 23:38:46

高速移動しながら、師匠と新たな弟子は心で語り合った。(((なぜ俺を助けたのです、ドラゴン・ゲンドーソー=サン。俺にリアル・ジュージュツを教えることを、あれほど躊躇していたのに)))
posted at 23:39:23

(((わしは今日、お前の流した血の涙を見、そのソウルに漆黒の影とコンジキの光を見たからだ。ニンジャスレイヤーよ、お前はキンカク・テンプルの高みに昇るべき崇高なソウルを宿している。わしがお前をそこへ導こう))) (((センセイー!!)))
posted at 23:40:12

「ゆくぞ、ニンジャスレイヤー=サン! イヤーッ!」二人はアースクエイクに向かってマシンガンのごとくスリケンを投げつけた。二人の息はぴたりと合い、アースクエイクの前後左右から同時にスリケンが射出された。一発も外れは無い。
posted at 23:40:39

「よいか! これぞ、インストラクション・ワンの極意。百発のスリケンで倒せぬ相手だからといって、一発の力に頼ってはならぬ。一千発のスリケンを投げるのだ!」ゲンドーソーが禅問答のように深いジュージュツの真理を叫ぶ。
posted at 23:41:48

「グワーッ!」アースクエイクの全身へと、無数のスリケンが突き刺さってゆく。軍隊アリに襲われたドサンコ・グリズリーのように、その巨体が黒いスリケンによって見る間に覆われてゆく。知能派のアースは、自慢の思考回路をフル回転させ、冷静に戦況を分析しようとした。
posted at 23:42:13

だが、答えは明白、勝算ゼロだ。コンピューターディスプレイのように冷淡なアースの脳裏には、今、「ナムアミダブツ」の7文字だけが表示されている。もはや打つ手無しか。
posted at 23:42:38

「ヒュージ! 起きてくれ! 俺に支援を!」アースクエイクは自尊心を捨てて無様に叫ぶが、ヒュージはタタミに伏したまま動こうとはしない。「インガ・オホー」の6文字が、アースの脳裏にタイピングされた。
posted at 23:45:05

アースクエイクの全身を、絶望が支配した。この勝機を見逃さず、ドラゴン・ゲンドーソーとニンジャスレイヤーは、巨漢の左右から同時にジャンプキックをくり出す。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 23:45:39

左右からの鋭い飛び蹴りがアースの頭部に命中し、バリキ・ドリンクのCMのように、野太い首を勢いよくねじ切って上空に飛ばした。「サヨナラ!」アースクエイクの生首は、空中で断末魔の叫びを上げて爆発する。
posted at 23:47:02

首を失った巨人の体は、ミズゲイのように高さ10メートルほどの血柱を噴き出してから、ずうんとタタミの中に沈んだ。崩落した天井では、無数の鴉たちが群れ集って、招かれざる余所者の死を見下ろしゲーゲーと鳴いていた。
posted at 23:47:46

力を使い果たし、タタミにくずおれるニンジャスレイヤー。「よくやったぞ、インストラクション・ワンは合格だ」とゲンドーソー。だがフジキドは罪悪感が蘇り「センセイ、やはり駄目です…セプクさせてください…」と呻く。ドラゴン・ゲンドーソーは静かに歩み寄り、声をかけようとした。その時だ。
posted at 23:48:51

「イヤーッ!」瀕死の状態にあったヒュージシュリケンが、最後の執念で吹き矢を吹いた。 「グワーッ!」注射針がドラゴン・ゲンドーソーの首元に突き刺さる! ヨロシサン製薬が極秘に開発していたアンチニンジャ・ウィルスが、日本最後のリアルニンジャの体内へと容赦なく侵入していった!
posted at 23:51:50

「グワーッ!」もだえ苦しみ泡を吹くドラゴン・ゲンドーソー。全身の血管がどす黒く変わり、ミミズのように表皮に浮かび上がって、皮膚を内側から突き破らんばかりに暴れ回った。 「イヤーッ!」最後の一針を、ヒュージシュリケンはニンジャスレイヤーに向かって吹き出す。
posted at 23:54:43

だが、ニンジャスレイヤーは細さ0.5ミクロンの極細毒針を見切り、それを人差し指と中指だけでつまみ、後方に受け流した。 「おのれ!よくもセンセイを!」ニンジャスレイヤーはヒュージシュリケンに止めをさすべく体を起こし、酩酊ゲイシャのようなおぼつかない足取りで歩む。
posted at 00:02:32

血を失いすぎたヒュージシュリケンは、薄れ行く意識の中で呟く。(((畜生が、スペアも取れなかったか。だが、最後にドラゴン・ゲンドーソーを道連れにしてやった。俺を囮に使いやがったアースクエイクも、良い気味だぜ……
posted at 00:03:31

だが、俺もついにここまでか。もうアンチニンジャ・ウィルス「タケウチ」の弾も切れた。せめて足が動けば、ハーレーに積まれた小型戦術核、バンザイ・ニュークを起動させ、任務を果たせるというのに。あと少しだったのに……。畜生が、俺の体はもう駄目だ……)))
posted at 00:05:33

「ヒュージシュリケン=サン、貴様はやはり、もっと早く殺しておくべきだった…」ニンジャスレイヤーは肩で息をしながらヒュージの横に歩み寄り、右足の裏をヒュージの後頭部に乗せた。そして最後の力を振り絞って足を上げる。これでオシマイにしよう。
posted at 00:06:48

「サヨナラ!」ニンジャスレイヤーが足を振り下ろしながら叫ぶ。だが、それとまったく同時に、強烈なサーチライトの光が上空から照射された。「グワーッ!」暗視状態になっていたニンジャスレイヤーの目は、突然の猛烈な光を浴びてショックを受け、一時的な盲目に陥ってしまう。ウカツ! 何たる未熟!
posted at 00:07:54

騒音が聞こえてくる。ヘルカイトによって先導されたソウカイヤの武装ヘリ軍団が、屍骸に群がるハゲタカのように襲来したのだ。6台の武装ヘリから、ドージョーに向けてガトリングガンが斉射される。一秒三十発という猛烈な射出速度のため、弾丸は雨の中で燃え上がり、ドージョーを火の海に変えていった
posted at 00:09:03

「AAARGH! いかん、ニンジャスレイヤー=サン、逃げるのだ!」精神力でウィルスの発作を一時的に抑えたドラゴン・ゲンドーソーが、激痛に耐えて立ち上がる。「イヤーッ!」五連続のバク転と側転。「イヤーッ!」そして流れるようなブリッジで、ゲンドーソーはガトリングガンの射撃をかわした。
posted at 00:09:29

「グワーッ!」ニンジャスレイヤーはまだ、両目をおさえて悶え苦しんでいる。敵はすぐに、ゲンドーソーからニンジャスレイヤーへと攻撃目標を変えるだろう。このままでは蜂の巣である。「ニンジャスレイヤー=サン! わしの声に続け! ハイ! これだ!」
posted at 00:09:41

ドラゴン・ゲンドーソーは爆発寸前の体に鞭打ち、大仏の前にある黒いタタミを叩いた。タタミがぐるりと回転し、シークレット・パスウェイが現れる。「こっちだ、ニンジャスレイヤー=サン! 急げ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーはただ、センセイの声の方向へと闇雲に走るしかなかった。
posted at 00:10:22

「ヘルカイト=サン、逃げられてしまいます」と、武装ヘリを操縦するY-12型ヤクザ。平然とヘルカイトが返す「ノープロブレム。俺たちの任務は、ドージョーの放火。ハーレーを狙え。バンザイ・ニュークを起こしてやれ」
posted at 00:11:41

師を背負ったニンジャスレイヤーは、地下下水道を時速120キロで走り抜け、ジンジャ・カテドラルから数百メートル離れたマンホールを抜けて地上へ姿を現した。ドラゴン・ゲンドーソーは、ニンジャスレイヤーを地下に導いた直後から、意識を失っていたのだ。
posted at 00:12:26

ニンジャスレイヤーがジンジャ・カテドラルの方向を向くと、クモの子を散らすように、武装ヘリ軍団が飛び去するところだった。不穏な動きだ、とニンジャスレイヤーは察する。数秒後、メガトン級の爆発がジンジャ・カテドラルの中心部から発生した。バンザイ・ニュークだ。
posted at 00:13:23

視界が揺らいだ。大気が揺れたのだ。衝撃波が来る……! 本能的に危険を察したニンジャスレイヤーは、学園都市の廃墟を全速力で駆けた。光のドームが背後からじりじりと迫ってくる。光に呑みこまれた哀れな水牛たちは、鴉たちは、タケノコたちは、一瞬にして蒸発していった。
posted at 00:14:02

走れ! ニンジャスレイヤー! 走れ! 猛爆発を背負いながら、ニンジャスレイヤーはカラテの力で走り続ける。
posted at 00:19:12

だが、戦いに次ぐ戦いの疲労が、非情にも足をもつれさせる。爆発の衝撃を逃れるためにツインタワー・ビルを垂直に駆け上っていたニンジャスレイヤーは、足を滑らせ落下した。そして二人のニンジャは、バンザイ・ニュークによって生み出された光のドームの中へと霞むように吸い込まれていったのだ……。
posted at 00:20:29

(「サプライズド・ドージョー」おわり。「アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ」に続く。)
posted at 00:22:20

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posted at 00:22:50

NJSLYR> ジ・アフターマス #1

101112

「ジ・アフターマス」
posted at 16:16:36

見渡す限り、白茶けてヒビ割れた平坦な荒野であった。雷を含んだ重苦しい雲が上空をどこまでも覆い、煤混じりのネバついた雨が降り続けていた。重金属混じりの酸性雨ともまた違う、コールタールのような雨だ。
posted at 16:22:10

上空をときおり通過するのは、なんらかの調査目的と思われる政府の飛行艇である。地上へサーチライトを投げかけながら、高速で飛び去ってゆく。不運なものは雷の直撃を受け、煙を噴き出しながら、地平線に音もなくゆっくりと沈んで行く。
posted at 16:24:55

かけらほどの命すら見えぬ不毛。これすなわち、小規模核爆弾「バンザイ・ニューク」によって引き起こされたマッポー的な光景である。
posted at 16:26:26

かつてヒカリ=サン・シンガク学園都市を形作っていた高層ビルの廃墟や灰色の竹林といったものはバンザイ・ニューの衝撃波によってあらかた舐め尽くされ、無情なサップーケイと成り果てた。
posted at 16:33:35

そのサップーケイ荒野を、機械的な歩調で歩き続ける生命体があった。
posted at 16:35:19

その生命体は……人間である。そして、ニンジャだ。赤黒のニンジャ装束を着たニンジャが歩いているのだ。肩に担いでいるのは、大きな袋……違う。ドラゴンの刺繍をほどこされたニンジャ装束である。生死が不明な老ニンジャを担いでいる。
posted at 16:38:09

いかにも。読者の皆さんのお考えの通りである。彼こそはニンジャスレイヤー、フジキド・ケンジ。生死不明の老人はドラゴンドージョーのマスターセンセイ、ドラゴン・ゲンドーソーである。
posted at 16:42:08

ソウカイ・シックスゲイツのニンジャ、ヘルカイトの指示で引き起こされたあの恐るべき爆発を、いかにして生き延びたのか。確かにあの時、二人は高層ビルから足を滑らせ、爆発の中に飲み込まれて行ったはずだ。
posted at 16:46:15

生存の謎への答えはもちろん、ニンジャスレイヤーと瀕死のドラゴン・ゲンドーソーによって咄嗟に行われた驚くべきジツであった。
posted at 16:57:56

ドラゴン・ゲンドーソーをかばいながら垂直落下したニンジャスレイヤーは爆発に取り込まれた。しかし彼の非凡なニンジャ耐久力は、数秒間の爆炎を耐えしのいでみせた。落下の勢いでニンジャスレイヤーは垂直に深い竪穴を掘り、その奥底でじっと息を潜めた。ドトン=ジツである。
posted at 17:01:27

その縦穴の中、二人は数十時間にわたり、ぴくりとも動かずに耐えしのいだのである。そのとっさの判断、いまだ未熟なフジキドの自然な発想ではありえない。落下中に行われた数秒のドラゴン・インストラクションの賜物であった。
posted at 17:07:47

ニンジャスレイヤーがまっすぐ歩く方角の先には、カゲロウのように、色とりどりの光の粒が揺れている。ネオサイタマ、霞ヶ関の高層ビル群が発する明かりが、かろうじてこの地にまで届いてくるのだ。
posted at 17:21:38

「……脱したかフジキド」担がれたドラゴン・ゲンドーソーが口を開いた。「センセイ!」僥倖!ニンジャスレイヤーは色を失った。「ご無事で……!」
posted at 17:23:39

「ムネン、わしの体内には、あの得体のしれぬ毒がいまだ巣食っておる。手足を揺らすもままならぬわい。まこと、ウカツであった」「センセイ……」
posted at 17:26:22

二者はそれきり言葉を交わさず、数時間歩き続けた。やがて再びドラゴン・ゲンドーソーが口を開いた。「よいかフジキド。ドラゴン・フォレストだ」「ドラゴン・フォレスト?」
posted at 17:29:13

「さよう。ネオサイタマのメガロ工業地区の懐に、いまだ汚されぬ鎮守の森がある。ネコの額ほどの狭い土地だ。そこには我がドラゴン・ニンジャ・クランと兄弟の契りをかわしておったアワビ・ニンジャ・クランの守護神を祀るシュラインが……ゴホッ!ゴホッ!」「おカラダに障ります!」
posted at 17:37:03

「アワビ・ニンジャ・クランの血筋ははるか昔に絶えて久しいが、だからこそ…彼奴らも注意を払う事など……ゴホッ!そこまで……そこまで辿り着けば、残るインストラクションを……オヌシを完全なニンジャに…ゴホッ!ゴホッ!」ドラゴン・ゲンドーソーは再び気を失った。
posted at 17:41:33

ニンジャスレイヤーは担いだ老人に気遣わしげな一瞥を送ると、遠い街のネオン陽炎を見やり、目を細めた。「ドラゴン・フォレスト……」
posted at 18:00:46

-----
posted at 18:00:56

「妙ダゾ。歩イテクル。アレハ?」「グラウンドゼロの方角からか?」「ソウダ。……イヤ待テ……マサカソンナ…アレハ……」「おれ、俺にも見せてくれガントレット=サン。俺のスコープじゃサッパリだ」「アレハ…?アレハ、アレハ、ニンジャスレイヤー!?」「なあ、俺にもスコープを…何だって!?」
posted at 18:05:39

ヒカリ=サン・シンガク学園都市の跡地を臨む絶壁上。イラクサの茂みからガバリと身を起こしたのは、ブキミ極まりないシルエットだった。ゴミと枯れ草をこねあわせたような、毛むくじゃらのビッグフットのような怪物的な姿が、二名。
posted at 18:10:14

その一人が背中のあたりをいじると、怪物の毛皮めいたものが内側から開き、中から枯れ草色のニンジャ装束を着た男が現れた。「ニンジャスレイヤーと言ったか?スコープを見せろ、早く!」「コラ、オレノ、ギリーニンジャ装束ヲ、カッテニ脱グノジャナイ!」「うるさい!こんなもの、着ていられるか!」
posted at 18:14:00

枯れ草色のニンジャはいまだ"ギリーニンジャ装束"を着たままのもう一人からスコープをひったくった。それを覗き込み、絶句した。「ブッダ!ありゃ本当にニンジャスレイヤーだ!」
posted at 18:17:01

「トリアエズ、ヘルカイト=サンニIRCデ報告ヲ……」「おお、そうだ…いや待て」枯れ草色のニンジャは、携帯IRCを操作しようとしたギリーニンジャ装束のニンジャを制した。「やめろガントレット=サン。ダメだ」
posted at 18:23:27

「ナゼ?」ガントレットと呼ばれた異形ニンジャは小首を傾げた。センチピードはガントレットに向き直り、「こいつは運が回ってきたってもんだろうが!考えろガントレット=サン。あのいけすかない野郎に手柄をくれてやる必要は無い」
posted at 18:39:00

「フウム」ガントレットは顎を掻きながらしばし沈思黙考した。その手に装着された無骨な特殊ニンジャ小手が、コードネームの由来であろう。ガスマスクに似た特殊メンポが禍々しい。「一理アル」
posted at 18:50:11

「だろおがぁ!」センチピードはのけぞるようにして言った。「ちょっとタコに乗るのがうまいからって、うまうまとシックスゲイツの六人に収まりやがって!若造が!」「……ヤツノ実力ハ実際タイシタモノダゾ、センチピード=サン」「俺は認めねえ!」「嫉妬ハ判断ヲ鈍ラセル」
posted at 19:13:37

「とにかく!ニンジャスレイヤーと、ドラゴン・ゲンドーソーがセットだ。アブハチトラズ!しかも奴ら、あのバンザイ・ニュークで死ななかったのが不思議なくらいなんだ。実際死にかけなんじゃねえか?」「一理アル」
posted at 19:16:19

「いいか!手柄はヤマワケだ!ヘルカイトの奴にはビタイチモンやらん!これでニンジャスレイヤーとドラゴン・ゲンドーソーを殺して、俺達がアースクエイクとヒュージシュリケンの後釜をゲット!わかるな!」「ワカル、ワカル」ガントレットは無感情に頷いた。「よおおし!」センチピードがのけぞった。
posted at 19:36:49

ひととおり感情を吐き出したのち、センチピードは驚くほど平静になった。スイッチのオン・オフがハッキリした性格であるらしい。「じゃ、行ってくるぜ。……わかっちゃいると思うが、IRC端末は使うなよ。ツツヌケだからな。ノロシを使う」「ノロシ。大丈夫カ?」
posted at 19:58:24

「ああ大丈夫だ。厄介なヘルカイトはどのみち別の仕事だ。あいつさえ出し抜けば、他に気づく奴はいない。問題無い」「ヨカロウ。行クガイイ」「オタッシャデー!」センチピードが断崖からダイブした。
posted at 20:07:17

キヨミズ!センチピードは垂直落下の勢いで、荒地の地表を打ち割り、地中へ突入した。そう、ニンジャスレイヤーがバンザイ・ニュークを、避けたのと同様のムーブメント、すなわちドトン=ジツである。
posted at 20:18:57

相棒の落下を見届けるとガントレットは再びイラクサの茂みに身を潜めた。片膝立ちになり、立てた左膝に、異様なニンジャ小手を装着した左腕を乗せる。小手は左右とも無骨だが、それぞれ役割が違うのか、別形状である。そして、スコープを特殊メンポに装着・固定。タクミ!手で支える必要が無いのだ。
posted at 20:23:49

ガントレットのスコープ視界が、はるか遠方のニンジャスレイヤーを捉える。ドラゴン・ゲンドーソーを担ぎ、真っ直ぐにネオサイタマを目指して、着実な歩みを進めている。
posted at 20:34:09

「オテナミ…ハイケン…」ガントレットは膝に乗せた左腕に、右腕を繰り返しこすりつけるようにした。両腕のニンジャ小手についているホイールが、火打石のような火花を上げて回転を始める。ジャッ、ジャッと音を立て、こすり合わせるほどに、その回転速度は増して行く。
posted at 20:36:41

ニンジャスレイヤーからある程度離れた荒野上で、最初のノロシが上がった。センチピードが地中から一度浮上し、接近の合図を出したのだ。弱々しい蒸気の筋は、知らない者には陽炎か何かとしか映るまい。
posted at 20:39:36

マウスピース型トリガースイッチを噛み、スコープの倍率を目まぐるしく変更しながら、ノロシと標的とを注視する。「3…2…」ガントレットがもぐもぐと呟く。「1…!」カウントダウンときっちり同時に、ニンジャスレイヤーの足元の大地が割れ、砂利と土埃が吹き上がった。
posted at 20:43:21

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posted at 20:45:04

「何だ!」気絶していたドラゴン・ゲンドーソーがいきなり大声を上げた。「センセイ!?」その瞬間、ニンジャスレイヤーのすぐそばの地面が裂け、砂利と埃を噴出した。何かがそこから飛び出した!「イヤーッ!」
posted at 20:46:55

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはとっさに右腕を上げ、首筋への攻撃を小手でガードした。アブナイ!ドラゴン・ゲンドーソーによる一瞬早い警告がなければ、ニンジャスレイヤーの首から上は体とサヨナラしていたかも知れぬ!
posted at 20:50:10

地中から飛び上がってのアンブッシュをしかけた敵は、クルクルと後方へ回転しながら着地した。ニンジャスレイヤーはその枯れ草色のニンジャへ向けてカラテの構えを取りかけたが……「ならぬ!まだだ!」担がれたゲンドーソーが叫んだ。「!……イヤーッ!」
posted at 20:52:59

チュン、と甲高い金属音、そして火花!アブナイ!ニンジャスレイヤーが咄嗟の水平チョップで弾き飛ばしたもの、それはネオサイタマの方角に聳える断崖から恐るべき速度で飛びきたったスリケンであった!
posted at 20:55:03

「なぁにィー!?こいつ、初撃を防ぎ切りやがっただと!」枯れ草色のニンジャが毒づいた。ニンジャが両手を振ると、両拳の先から危険な爪状武器が飛び出した。「ドーモ!はじめましてニンジャスレイヤー=サン。センチピードです」襲撃者は慌ただしくオジギした。
posted at 21:02:27

ニンジャスレイヤーはアイサツを返そうとしかかったが、断崖から射出された二発目のスリケンを弾き飛ばすのが先だった。そしてあらためてアイサツした。「ドーモ、はじめましてセンチピード=サン。ニンジャスレイヤーです。こちらはドラゴン・ゲンドーソー=センセイです」
posted at 21:05:11

「イヤーッ!」センチピードがジャンプした。両手の爪状武器が襲いくる!ニンジャスレイヤーはドラゴン・ゲンドーソーを片手で担いだ姿勢のまま、それを迎え撃たねばならない。加えて、遠方からの狙撃スリケン!
posted at 21:07:46

果たしてニンジャスレイヤーはこのあまりにも部の悪い襲撃を破ることができるのか!?ドラゴン・フォレストへの長く苦しい旅路が今、幕を開けた!
posted at 21:11:34

(ジ・アフターマス#1・終わり。#2へ続く
posted at 21:12:24

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 21:13:19

NJSLYR> ジ・アフターマス #2

101113

「ジ・アフターマス」#2
posted at 16:43:17

(前回のあらすじ: ヒカリ=サン・シンガク学園都市の廃墟と竹林を灰燼に帰した小型核「バンザイ・ニューク」をドトン・ジツで辛くもやり過ごしたニンジャスレイヤーとドラゴン・ゲンドーソー。ゲンドーソーの指示のもと、目指すはネオサイタマのメガロ工業地区に隠されたドラゴン・フォレストだ。
posted at 16:48:38

爆発から数日が経過し、ソウカイ・シンジケートのドージョー襲撃部隊は既に撤収を済ませていたが、何らかの理由で地域の警戒に当たっていたニンジャ、ガントレットとセンチピードは、生存したニンジャスレイヤー達を偶然に発見する。すぐさま開始される襲撃。生き残れるか、ニンジャスレイヤー!)
posted at 16:53:02

----
posted at 16:53:40

「イヤーッ!」ドラゴン・ゲンドーソーを担いだまま、ニンジャスレイヤーは右膝を高く上げ、襲い来るセンチピードの右手の爪状武器を蹴った。空中でバランスを崩したセンチピードは攻撃の機会を逸し、左手の追撃をあきらめた。
posted at 16:56:26

「イヤーッ!」狡猾なヒット・アンド・アウェイ戦術で再び飛び離れるセンチピードに、ニンジャスレイヤーはスリケンを投げつける。「イヤーッ!」センチピードの爪状武器が閃き、いともたやすくスリケンを弾き飛ばす。「まただ、ハイ!来るぞ!」ドラゴン・ゲンドーソーが叫んだ。
posted at 17:00:59

ギュン!鈍い金属音!ニンジャスレイヤーはかろうじて遠方から飛び来たった狙撃スリケンを三たび弾き飛ばした。「これでは防御し続ける以外にない。やつを排除せねば勝ちは拾えぬぞ!」ゲンドーソーが言った。
posted at 17:05:38

「よいか、インストラクションだ!ニンジャは地水火風の精霊と常にコネクトし、操る存在だ。これをフーリンカザンと称す!さきのドトンでお主は既にその教えの入り口に立っておる。ハイ!考えろ!」ゲンドーソーは素早く教示した。
posted at 17:08:58

「うるせえジジイだぜーっ!」センチピードが怒声で遮った。ドラゴン・ゲンドーソーのアドバイスさえ無ければ、ニンジャスレイヤーを三度は殺せていたはずである。「黙ってくたばりやがれ!」センチピードが両腕を振ると、爪状武器はさらに伸びた。二倍の長さである。危険!
posted at 17:15:29

「イヤーッ!」センチピードが爪状武器を水平に、クルクルと回転しながら襲いかかる!長さは二倍!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは素早い回し蹴りを繰り出した。いや、早すぎる。センチピードに届かない。
posted at 17:25:42

しかし、これでよいのだ。四度目の鈍い金属音!そう、ニンジャスレイヤーの回し蹴りは狙撃スリケンを弾くためのものであった。その蹴りの勢いを乗せ、さらにもう一回転、連続の回し蹴りを繰り出す。これが狙いだ。「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 17:38:24

一度目の蹴りがセンチピードにはフェイクとなっていた。届かなかった事で一瞬油断したセンチピードの顎を、二回転目の回し蹴りが捉えていた。小柄なセンチピードが吹っ飛び、地面に叩きつけられる!
posted at 17:40:57

センチピードは追撃を警戒し、スプリングキックで跳ね起きる。だが追撃は無かった。蹴りの勢いを乗せ、ニンジャスレイヤーはその場で回転し続けていた。回転速度はどんどん速くなる。まるでコマのように!
posted at 17:59:32

「何をしてやがるンだーっ!」センチピードが吠えた。そして気づいた。軸足が激しい回転で地面を削り、土埃を巻き上げているではないか。センチピードの視界がどんどん土色に霞んで行く。まさかこれは!「煙幕!?」
posted at 18:04:55

なんたる工夫!ニンジャスレイヤーは粉塵を巻き上げる事で、遠方の断崖で待機するスリケン・スナイパーの視線を見事に遮った!これで狙撃スリケンの脅威は半減である。「畜生やりやがった!」センチピードは歯噛みした。
posted at 18:16:46

「デカシタ!」担がれたドラゴン・ゲンドーソーが賞賛した。「忘れるな、これがフーリンカザンなり。地水火風の精霊を盾とせよ!」「ハイ、センセイ!」「この機を逃すな!すぐに狙撃ニンジャはこの煙幕に適応してくるぞ。一息にセンチピード=サンにトドメを刺せ!」「ハイ、センセイ!」
posted at 18:26:55

「ハイじゃねえーっ!」センチピードが逆上した。「その腐れセンセイ・ジジイもろとも、ネギトロにしてやる!」なんたる罵倒!あまりのシツレイに、ニンジャスレイヤーは眉間にシワを寄せた。センチピードが両腕を振ると、爪状武器がさらに伸びた。長さは三倍!危険!
posted at 18:36:22

「イヤーッ!」センチピードが飛びかかる。地獄のバーニング・ホイールを思わせる危険な爪状武器の縦回転で、ドラゴン・ゲンドーソーを担いだニンジャスレイヤーに迫る!「センセイ!」ニンジャスレイヤーはゲンドーソーに目配せした。「よい!やれ!」「イヤーッ!」
posted at 18:50:47

ナムサン!ニンジャスレイヤーは己のセンセイをボールのように空中へ放り投げた。重荷から自由になったニンジャスレイヤーは回転しながら迫るセンチピード・ホイールを易々とかわし、側面から地獄めいたパンチを浴びせた。「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 18:54:04

(親愛なる読者の皆さんへ:戦闘中の中断で訝しく思われた方もいらっしゃると思います。翻訳チームのスシが切れたことによる不具合です。問題解消までいましばらくお待ちください)
posted at 20:46:57

(まもなく再開されます)
posted at 21:32:27

「イヤーッ!」地面に仰向けに倒れこんだセンチピードめがけて、ニンジャスレイヤーが跳んだ。両足を揃えて落下、センチピードの心臓を強烈にストンプした。無慈悲!
posted at 21:36:13

「グワーッ!」そこへ、ドラゴン・ゲンドーソーがジャストのタイミングで落下してくる。ニンジャスレイヤーはセンチピードを踏みつけたまま、センセイをキャッチ。再び担ぎ上げた。見事な物理計算であった。
posted at 21:38:17

「畜生めーっ!」センチピードがもがいた。ニンジャスレイヤーは踏みつけた両足をねじり込んだ。「イヤーッ!」「グワーッ!」無慈悲!まさにそれはムカデ(訳註:センチピードはムカデの事)を踏みつぶすがごとし!
posted at 21:45:42

「これで……これで勝ったと思うなよーっ!」センチピードが虫の息で呪った。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはその場でジャンプし、センチピードの頭部を踏み抜いた。
posted at 21:59:10

-----
posted at 21:59:58

ナムアミダブツ!ガントレットがスコープを赤外線モードに切り替えた時には、既に勝負はついてしまっていた。もはやその場に残されていたのは、横たわるセンチピードの死体のみである。
posted at 22:02:02

センチピードの死体のみ?ウカツ!ガントレットはニンジャスレイヤーの姿を追おうとした。いない。見失った!視界が狭い!ガントレットは慌てて、特殊メンポに固定したスコープを装備解除した。「アイエエエエエ!」
posted at 22:06:23

ガントレットの口から情けない悲鳴が漏れた。スコープを外したガントレットの眼前にニンジャスレイヤーが立っていたからだ。なんたる速度!確かにガントレットは索敵のセオリーを誤り、いたずらに時間を浪費してしまった。だがドラゴン・ゲンドーソーを担いだまま、絶壁を駆け上がったとでも言うのか!
posted at 22:30:22

「ドーモ、はじめまして。ニンジャスレイヤーです。こちらはドラゴン・ゲンドーソー=センセイです」ニンジャスレイヤーが挨拶した。ナムサン!「ドーモ、ハジメマシテ、ガントレットデス」「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 22:37:09

ニンジャスレイヤーの右手がガントレットの首を鷲掴みにし、吊り上げた。ガントレットは両足をむなしくばたつかせた。ニンジャスレイヤーはガントレットを睨みつけた。「幾つか訊いておく事がある」「話スコトハ何モナイ……」「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 22:46:18

ニンジャスレイヤーのマンリキのようなニンジャ握力が、容赦無くガントレットを締めつける!「答えろ。答えるなら、カイシャクしてやる。黙っているなら、痛めつけてから殺す」「グワーッ!」
posted at 22:48:55

「答えろ。貴様らはソウカイヤのニンジャか」「コタエルモノカ…グワーッ!」ニンジャスレイヤーのニンジャ握力が強まった。「その質問は不要だ」担がれたドラゴン・ゲンドーソーが口を挟む。「そやつのメンポマスクの額を見よ。クロスカタナの意匠。それはソウカイヤのエンブレムだ」
posted at 23:03:58

「なるほど。では次だ。この地に他のニンジャはいるか」「コタエルモノカ…グワーッ!」ニンジャ握力がさらに強まる!メンポマスクのゴーグル部分のガラスが割れた!「他のニンジャはいるか」「イ……イナイ」「イヤーッ!」「グワーッ!」「本当か?」「ホント、ホントウダ!」
posted at 23:08:11

「信用できんな」「バンザイ・ニュークデ、オマエタチハ死亡シタモノト判断サレテイル」ガントレットはメンポマスクの空気孔からヒューヒューと息を漏らす。「センチピード=サント俺ハ、ヘルカイト=サンニ知ラレズ、オ前ラノ首ヲトリ、手柄ヲ得ヨウト……」
posted at 02:02:36

ニンジャスレイヤーとドラゴン・ゲンドーソーは顔を見合わせた。「……こやつの声音に嘘の響きは無い」ゲンドーソーが厳かに告げた。「ホントウダ。オレタチ2人ハ、ソモソモ別ノ暗殺任務デ、コノ場所ニ……」
posted at 02:13:08

「アバーッ!」背後の破砕音、そして絶叫に、ニンジャスレイヤーは素早く振り返った。「アバババババ、アバババーッ!」ナムアミダブツ!それは何たる異形か!
posted at 02:18:39

背後の地面を割って飛び出したのは、多足の怪物……いや!どうやらそれはセンチピードである!胸から下が消失し、肋骨の下から、金属製のムカデ状サイバネティック・多足胴体が伸びている。それは素早く地面を這い、両手の爪状武器でニンジャスレイヤーに襲いかかった!「アバーッ!」
posted at 02:22:31

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは片手でスリケンを3枚立て続けに投げつけた。「アバーッ!」センチピードは飛来するスリケンをかわし、這い進む!そのメンポはむごく砕け、既に致命傷を負っている事をうかがわせる。「道連れだニンジャスレイヤー!俺と一緒にバラバラのガンモになりやがれーっ!」
posted at 02:27:18

「Wasshoi!」ニンジャスレイヤーは再びドラゴン・ゲンドーソーの体を天高く放り投げた!そして、突然のアンブッシュで地面に投げ出され、匍匐で逃れようとしていたガントレットの首筋をつかむ!「アイエエエ!」
posted at 02:31:10

「イヤーッ!」迫りくるセンチピードに向けて、ニンジャスレイヤーは力任せにガントレットの体を投げつけた!「アバーッ!」「アイエエエエ!」両手の爪状武器でニンジャスレイヤーを捕らえようと掴みかかったセンチピードは、かわりにガントレットを受け止めていた。「なにーっ!?」
posted at 02:38:31

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは垂直に高く跳び上がった。空中で、ドラゴン・ゲンドーソーを抱きかかえる。眼下ではガントレットと組み合ったセンチピードが狂ったように叫んでいた。「畜生!畜生ーっ!ダメだーっ!」次の瞬間、センチピードの時限式自爆爆弾がタイムリミットを向かえ、着火!
posted at 02:41:53

「「サヨナラ!」」サイバネティック・ムカデ・ボディとギリーニンジャ装束、二人の異形ニンジャは断末魔の叫びを同時に発し、炎に包まれながら爆発四散した。
posted at 02:44:59

爆風が散るのを待ったかのような絶妙のタイミングで、ニンジャスレイヤーはゲンドーソーを抱えたまま、ひらりと着地した。「……ニンジャ殺すべし」ニンジャスレイヤーは低く呟いた。
posted at 02:50:25

「センセイ、ご無事で」「フジキド……見事であった、ゴ、ゴホッ!ゴホッゴホッ!」緊張の糸が切れたか、ドラゴン・ゲンドーソーは激しく咳き込んだ。ニンジャスレイヤーはイラクサの生える断崖上を見回した。
posted at 02:53:03

「奴等、こんな荒野の真ん中に徒歩で来たなどという事はありますまい。近くに移動手段があるはず……あれだ!」ニンジャスレイヤーは目当てのものに駆け寄った。「センセイ、今しばらくのご辛抱です!」迷彩シートにてカモフラージュされていたのは、小型のセスナである。
posted at 02:55:51

「操れるのかフジキド……」ゲンドーソーはニンジャスレイヤーの肩の上でゼエゼエと荒い息を吐いた。「なんとかします」二人乗りの小型飛行機の後部席へぐったりしたゲンドーソーを座らせ、自らは運転席に座る。キーがささったままだ。僥倖である。もっとも、無くてもどうにかするつもりだった。
posted at 02:59:50

「今しばらくのご辛抱です」ニンジャスレイヤーは繰り返した。ガタガタと激しく不快な振動を伴い、小型飛行機は滑るように前身をはじめた。そして、浮き上がった。稲妻を走らせる厚い黒雲と無残なクレーターを背後に、カトンボのような飛行機はフラフラと飛んだ。
posted at 03:04:16

そのおぼつかない軌跡は、一寸先すらも見えぬ彼らの未来の暗示のようでもあった。
posted at 03:05:15

(「ジ・アフターマス」 終わり)
posted at 03:05:35

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 03:05:56

NJSLYR> アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ #1

120106

第1部「ネオサイタマ炎上」より 「アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ」
posted at 22:40:05

ニンジャスレイヤー死す。ネオサイタマのニンジャ裏社会を騒がせていた謎の復讐鬼は、ドラゴン・ドージョーとともに小型戦術核バンザイ・ニュークでアノヨへ行った。 1
posted at 22:47:25

ここはネオサイタマの掃き溜め、ツチノコストリート。様々な違法行為、違法基盤屋、殺人オスモウショー、オハギ屋などが横行する、電脳メガロシティの暗黒街の一つ。電子クラクションのコーラス。猥雑なネオンサイン。今夜もソリッドな重金属酸性雨が降り注ぎ、貧民たちのPVC傘を冷たく濡らす。 2
posted at 22:57:28

その濁流の中に浮かぶ、薄汚いビルディングの一室。十階の窓の横に掲げられた「今売れています」「お安い」「オスモウだ」の電子カンバンが、重金属酸性雨に撫でられてバチバチと火花を散らす。一見するとオスモウショップ以外の何物でもないが、実はヤクザクランの事務所である。 3
posted at 23:11:30

サムライめいた鎧の上には「キルエレファント・ヤクザクラン」のショドーが厳しい書体で額に飾られている。伝統主義的なこのヤクザ事務所の中では、背広を着たグレーターヤクザのヤマヒロと、2人の無鉄砲なレッサーヤクザがソファーに座り、クリスタル机を囲んでのっぴきならぬ会合を行っていた。 4
posted at 23:19:49

「ザッケンナコラー!」ヤマヒロが暴力を剥き出しにして机を叩く「このままじゃあ、100年続いたキルエレファントは終わりだ!哀れな、痩せ細った象だぜ!ナメやがって!ソウカイヤの野郎ども!」「アイエエエエエ……」レッサーヤクザたちは恐れおののく。 5
posted at 23:27:52

ヨロシサン製薬などの暗黒メガコーポが日本社会を背後から操るこの時代。ヤクザ業界も事業統合や経営合理化が著しい。クローンヤクザの実用化により、プロパーやフリーランスの立場は悪くなる一方だ。キルエレファントは時流に乗り損ね、昔気質で人道的な経営を続けていたため、マケグミとなった。 6
posted at 23:38:40

「ソウカイヤめ!ニンジャさえ!ニンジャさえいなけりゃよォ!」ヤマヒロは嘆く「奴らときたら、俺たちを蟻か何かのように殺しやがる!俺たちは昔、弱肉強食ヒエラルキーの頂点だったんだぞ!?ちくしょうがよォ!」「あの、それなんですが」レッサーヤクザの一人が言う「相談できそうな人が……」 7
posted at 23:46:35

…その時!「ドーモ、ヤマヒロ=サン。バーグラーです。万札は用意しましたか?」ノックも無くフスマが空けられ、ソウカイヤの末端ニンジャが事務所に入ってきた!「アッハイ!」ヤマヒロが起立する。いかな末端ニンジャとはいえ、常人がニンジャと対等な立場で交渉を行うことなど許されないのだ! 8
posted at 23:49:35

「このアタッシュケースの中に万札です。一部の札束は……見てください、ボンドでくっつけられた偽札で、中がくり抜かれて、この通り高純度大トロ粉末です」「足りません」「エッ!」「今月から2倍になったんですよ」「そんな話はソウカイネットから届いていませんよ!」「私が半分もらうんです」 9
posted at 23:54:30

ナムアミダブツ!何たる非道!?だがこれも詮無し!ドラゴン・ドージョー壊滅、ネコソギ・ファンド社の躍進、そして西のザイバツ・シャドーギルドとの間に結ばれた条件付不戦条約により、ネオサイタマ周辺におけるソウカイ・シンジケートの支配体制はさらに横暴さを増していたのである! 10
posted at 23:59:27

「ウオオオオオーッ!?ダッテメッコラー!?」激昂するヤマヒロ!だがバーグラーは軽々と彼の胸ぐらを掴み上げ、そのまま壁に放り投げた!「グワーッ!」飾られていたチャワン、フクスケ、コケシなどが落ちて割れる!「「ザッケンナコラー!」」ヤクザ2人が胸元の銃に手を伸ばす!ナムサン! 10
posted at 00:03:03

「イヤーッ!」バーグラーの素早い回転カラテ蹴りが、左右のヤクザを襲った!ナムアミダブツ!ヤクザの首はティー上のゴルフボールめいて吹っ飛び、首から激しい血飛沫!そして2人は同時に後ろに倒れ、天井に向かって虚しく2発のチャカガンが発射された!サツバツ!「うちの若いモンを……!」 11
posted at 00:06:50

「まだ生意気な口を利くんですかァ?」バーグラーはヤマヒロの腹に蹴りを入れる。「アバッ!」「死なないように手加減します、安心してください。あなたは経営者ですからね」「……ゴホッ!アガッ!……あのなァ、経営者だけじゃカネは作れねえんだぞ……?」「クローンヤクザが今売れています」 12
posted at 00:11:17

ブッダ!ナムアミダブッダ!何たる卑劣なソウカイ商法か!こうして彼らは、レッサーヤクザクランにも次々とクローンヤクザを導入させていくのだ!するとマージンが末端ニンジャにも入る!恐るべきWINWIN関係である! 13
posted at 00:21:28

だが皆さん、冷静になって頂きたい。いかなこの世の栄華を誇るソウカイヤといえどバーグラーの要求は無茶苦茶である。ヤクザクランに対して2倍の税金を課しピンハネなど言語道断だ。しかし今現在、首領ラオモト・カンとシックスゲイツは温泉旅行に行っており、末端の横暴ぶりは劣悪極まりない。 14
posted at 00:29:27

「イヤーッ!」バーグラーはさらにヤマヒロの腹にカラテ蹴り!「アバーッ!?」特に理由など無い!ただ暴力を振るいたくなっただけだ!「……ちくしょオ!ブッダもオーディンもいねえのかアバーッ!?」おお、ナムサン!ニンジャスレイヤーは死んだ!もはやこのマッポーの世に、救いは無いのだ! 15
posted at 00:35:08

……だがその時!ビル10階の窓ガラスが外側から割られ、銀色の背負い式ジェットエンジンを装備した謎の人物が、キルエレファントクラン事務所へと突入してきたのだ!一体何者か!?誰が彼を呼んだのか!?ヤクザスーツにテング・オメーン!その右手には赤漆塗りのオートマチック・ヤクザガン! 16
posted at 00:41:26

「誰だ!?貴様はァ!?」バーグラーが狼狽し、謎の侵入者を指差す「そ、そのテング・オメーン、もしや、貴様は!」ソウカイニンジャの脳裏に、ある男の名が浮かんだ。ラオモト・カンですら疎む正体不明の非ニンジャ存在にして、孤独なるニンジャハンター!「……神々の使者、ヤクザ天狗参上!」 17
posted at 00:51:47

【NINJASLAYER】
posted at 00:53:44

NJSLYR> アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ #2

120111

「アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ」 #2
posted at 21:34:13

数日後。小降りになった重金属酸性雨の中、オレンジ色の鎧装束をまとった男が、サスマタ・ストリートを足早に歩く。金色の刃物が生えたその兜飾りは、怒れる象の頭部を連想させる。彼はキルエレファント・ヤクザクランを解散してフリーランス・ヤクザとなった、ヤマヒロであった。 1
posted at 21:41:42

彼のニューロンにはまだ、ヤクザ天狗の衝撃が深く刻み付けられている。天狗とは日本に古来から存在するフェアリーの一種で、赤く長い鼻を持ち、空を飛ぶという。しかしあの男は天狗ではなく、ヤクザでもなく、ヤクザ天狗であった。あの男を思い出すたびに、ヤマヒロは頭がどうにかなりそうだった。 2
posted at 21:45:51

もうやめよう、あの男のことを考えるのは。ヤマヒロは自分にそう言い聞かせた。今はまず、新たな食い扶持を探さなくてはいけない。だからこの鎧を着てきたのだ。フリーランス・ヤクザとしての強さや、有無を言わせぬ威圧感などをアッピールするのに、この伝統的鎧ほど相応しいものは無かった。 3
posted at 21:48:02

ペケロッパカルト、サイバーゴス、ブッダパンクス、無軌道学生、アンタイブディストといった社会の屑が行き交うこのサスマタ・ストリートでも、ヤマヒロの姿はひときわ目立ち、攻撃的なアトモスフィアを漂わせていた。横を通り過ぎたサイバーゴスたちが、後ろを振り返って、ヒュウと口笛を鳴らす。 4
posted at 21:56:16

ヤマヒロは餓えた獣の目で雑居ビル群を見る。ヨージンボーとして売り込める企業や組織がないかを、抜け目無く探しているのだ。グレーターヤクザである彼には、そのような臭いを嗅ぎ付ける能力が先天的に備わっている。また、それ以外の道で生きる方法を彼は知らない。彼は羊ではなく殺人象なのだ。 5
posted at 22:02:12

そして見つける。雑居ビルの2階に輝く「完全なコンタクト」「実戦的」「非暴力主義」のネオンサイン。大カンバンに輝く「ケンリュウ・ハッカードージョー」の赤と緑のミンチョ体が、重金属酸性雨を浴びてバチバチと火花を散らしていた。ヤマヒロは明滅するタングステン灯の階段を登ってゆく……。 6
posted at 22:11:27

------------ 7
posted at 22:12:12

数日前、治安があまり良好とはいえないウナギ地区の暗い路地裏。 8
posted at 22:16:13

この路地裏に3人のニンジャが潜み、裏路地を出て右手にある回転スシバーを今まさに襲撃せんとしていた。全員が目元だけを露出した黒装束に身を包み、赤いヌンチャクや銃などを装備している。だが、その身のこなしやヌンチャクさばきは明らかに素人のそれだ。 9
posted at 22:24:56

彼らはソウル憑依者ではない。ましてやリアルニンジャでもない。彼らは近頃この界隈を騒がせるニンジャ強盗団である。「ニンジャの姿で強盗すれば、相手を実際威圧できるし、顔もばれないと思う」と考えたマズダ三兄弟の長兄タロが、ジロとサブロを率いてこの実際安い悪事を繰り返していたのだ。 10
posted at 22:36:08

「バリキ飲んだな?シャカリキ決めたか?あと10秒!5、4、3、2、1!GOGOGO!」タロが拳銃とヌンチャクを掲げて駆け出す!ブラックジーンズとダウンベストにニンジャ頭巾というずさんな変装だ!「ウォーッ!アーポウ!」「ワオオオオオーッ!」後続の2人も奇声を上げながら走る! 11
posted at 22:42:29

CRAAASH!ガラスが叩き割られ突入する三兄弟!「アイエエエエ!」恐怖に凍りつくイタマエと客!コワイ!「ウォーッ!俺たちゃニンジャだ!カネを出せ!」「ワオー!レジのだけじゃねェ!客もこの袋に財布入れろや!」「アーポウ!抵抗するんじゃねえ!ニンポを使うぞ!ニンポを使うぞ!」 12
posted at 22:52:06

ブッダファック!何たる大雑把なニンジャ像か!ニンポとは、TVやコミックに出てくる偽者ニンジャが使う荒唐無稽なニンジャマジックのことである!小学生ですら、このような愚かな行動は取るまい!……だが、これが逆に利いた。イタマエや客は、この3人が完全な発狂マニアックだと思ったのだ! 13
posted at 23:01:44

見よ!PVC袋はたちまち万札やクレジット素子で満たされる!「ズラカルゾー!」タロが命じ、ジロが袋を背負う!「動くな!アーポウ!ニンポを使うぞ!ニンポを使うぞ!」サブロは余程ニンポが気に入っているらしく、両手ででたらめなミステリアス・サインを作り、イタマエや客を威圧していた! 14
posted at 23:09:34

客の中には荒事に長けたギャングスタも1人混じっていたが、この彼でさえ黙って財布を袋の中に入れた。3対1で分が悪いことも確かにある。加えて日本人は、理性ではいくら否定しても「実は本当にニンジャであの両手からニンポによる稲妻が出たらどうしよう」と無意識のうちに恐れてしまうのだ。 15
posted at 23:20:46

三兄弟は大笑いしながら回転スシバーを後にした。この行為は麻薬めいてやめられない。工場労働や単調アルバイトでは手に入らない大金とスリルと爽快感が一気に手に入るのだから。……だが、この日は違った!上空に浮かぶネオサイタマ市警のマグロツェッペリンからサーチライトが照射されたのだ! 16
posted at 23:31:23

ストリートに鳴り響くサイレン!群れを成して迫るマッポビークル!三兄弟は廃ビルに逃げ込み、階段を駆け上がった!「ハァーッ!ハァーッ!兄ちゃん、どうしよう!」「掴まっちゃうぜ!」「大丈夫だ!俺たちゃ実際1人も殺してねえ!万が一掴まっても……よくわかんねえケド、何とかなるだろ!」 17
posted at 23:44:18

三人は屋上に逃げ込んだ。息を切らしつつ耳を澄ます。錆びついた大型ファンがキイキイと軋み、パイプから漏れた水滴が小さく鳴っていた。聞こえるのはそれだけ……「逃げ切ったかァ?」……いや……少しして階下からマッポの足音が迫ってきた!「ブッダシット!逃げ場が無えよ!」激昂するタロ! 18
posted at 23:55:26

「兄ちゃん、あれだ!」隣のビルの屋上を指差すサブロ!タロは首を横に振った「ワーオ!お前はイディオットか?何メートルあると思ってんだ!」。「でもヨォ、兄ちゃん!逃げねえと掴まっちまう!映画で見たよ俺!飛べるよ!」ジロも乗り気だ。タロも飛べる気になってきた。「…よし、行くか!」 19
posted at 23:59:23

ナムサン!何たる場当たり的な行動であろうか?!皆さんも平安時代の剣豪にして哲学者ミヤモトマサシが残した「狂人の真似をしたら実際狂人」のコトワザを想起せずにはいられないだろう!だがこれも、教育や道徳や治安が頽廃しきったマッポーの世においては、チャメシ・インシデントなのである! 20
posted at 00:04:11

「GOGOGOGO!」「ワオーッ!」「ニンポ!ニンポ!」重金属酸性雨を浴びながら屋上を駆ける三兄弟!踏み込むマッポ!サブロとジロが飛ぶ!だがシャカリキを決めていないタロは恐怖に負けて飛べない!隣のビルに掲げられた大型LEDカンバンには「インガオホー」の6文字が明滅していた! 21
posted at 00:12:38

タロは両手を揚げて、怯えたハムスターのようにガチガチと歯を鳴らしながら、マッポたちのいる後ろを振り向いた。ジロとサブロがどうなったかは解らない。恐ろしくて見たくもない。タロは絶望感と無力感に苛まれていた。これまで人生の中で何度も味わってきたが、彼はそのたびに思考を停止した。 22
posted at 00:18:56

要するにタロには想像力が欠如していたのだ。マッポがこんなに本気で追ってくるとは思っていなかった。屋上まで駆け上がって、こんなに息が切れるとは思っていなかった。マッポたちが有無を言わさず自分を組み伏せ、囲んで警棒で殴りつけてくるとは思っていなかった。それがこんなに痛いとは。  23
posted at 00:23:11

「ごめんなさい許して!アイエエエエエエ!」タロは十数本の警棒で何度も打擲されながら、ブザマな悲鳴をあげた!だが凶悪犯に慈悲を見せるネオサイタマ市警ではない!意識が遠のき始めるタロ!……その時!警棒の攻撃が不意に止んだ!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」 24
posted at 00:31:39

(((誰かが屋上に乱入してきた?そんで、マッポとカラテ?そんで、マッポの首やら手足やらが吹っ飛んで……る?俺、頭おかしくなったか……?))) 何が起こっているのか、全く理解できない。タロはただ恐怖と痛みに耐えながら、丸まって震えることしかできなかった「痛ェ……痛ェよお……」 25
posted at 00:43:08

【NINJASLAYER】
posted at 00:43:27

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 11:50:07

NJSLYR> アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ #3

120116

第1部「ネオサイタマ炎上」より 「アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ」 #3
posted at 21:40:46

ポンツクポンツクオーオオーギュワンギュワワーン、オーオンオーオンギュワンギュワワーン……ボトルネック奏法めいた電子シタールの音と電子マイコ音声のコーラスが、非人間的なデジ木魚のビートに乗って流れる。立ち込めるミステリアスな煙。ザゼンめいたアトモスフィアがひしひしと感じられた。 1
posted at 21:48:50

ここは薄汚い雑居ビルの2階にある、ケンリュウ・ハッカードージョー。この階は完全に彼らのものであり、だだっ広い灰色の空間には、百枚のタタミが敷き詰められている。手前にはチャブが10個並び、それぞれ4台のUNIXが東西南北を向いて並ぶ。床には足の踏み場も無いほどのLANケーブル。 2
posted at 21:59:42

ドージョー内は薄暗く、UNIXから漏れる緑色の電子光と、壁際に立つ燭台のロウソク群が、神秘的な光の調和を生む。サイバーグラスをかけた黄色装束のハッカーたちが20人ほどチャブの前に座り、修行僧めいて黙々とキーを叩く。彼らのタイピング速度はかなり速い。皆優秀なハッカーなのだろう。 3
posted at 22:07:12

奥では数名がザゼン。その後ろの壁に掛けられるのは「ケンリュウ」「完全なコンタクトだ」などと書かれたショドー、難解なキーボード配置図、人体解剖図など。大型UNIXサーバーやメインフレームが立ち並び、その抑揚の無い定期的な非人間的動作音はそのまま、ハッカー達の息遣いのようだった。 4
posted at 22:16:02

このドージョーは、ペケロッパ・カルトのような危険思想を持つ邪教徒に比べれば遥かに無害で、一般的なものだ。彼らは実際違法行為を行うわけではないため、マッポも無闇に取り締まれない。殺人方法を学んでいるからといって、全てのカラテ・ドージョーを潰せるだろうか?要はそういうことなのだ。 5
posted at 22:27:55

「…と、このように、我々のハッカー・ドージョーでは非暴力主義を貫き、主にザゼンかハッキングを行っておるのです」白く長い髭を生やした師範ソダワ・ケンリュウは、ヤマヒロに対する施設紹介をほぼ終えるところだった「というわけでフリーランスヤクザの方に用心棒を願えれば、たいへん心強い」 6
posted at 22:36:31

「ソダワ=サン、あんたは運がいいぜ」年代物の武者鎧を着たヤマヒロは、煙草を口元に運び火をつける。独楽のようにゆっくりと前後左右に揺れるチャブハッカー達を見下ろしながら、こいつはチョロい仕事だと内心ほくそ笑んだ「任せてくれよ。俺のカラテは20段に近い。元プロパーだから顔も利く」 7
posted at 22:45:29

「まずは、一週間分前払いで報酬をもらう」ヤクザはケジメされた四本指の右手を差し出す。ソダワ・ケンリュウは眉根を微かに吊り上げると、輪ゴムで巻かれた薄汚い定額紙幣の札束を差し出した。この街で生き残るには、強者の庇護下に入る他ないのだ。しかも提示金額は高くなく実際人道的といえる。 8
posted at 23:05:34

金を懐に入れながら、ヤマヒロは鼻で小さく笑う。一週間後にでも、ツテに頼んでスモトリ崩れか何かを2~3人このドージョーに殴り込ませればいい。そこへ自分が駆けつけ、一芝居打ち、腕を捻って退散させるのだ。以降は週あたりの金額が倍になる……グレーターヤクザらしい長期的経営展望である。 9
posted at 23:14:02

「さて、帰る前に……ここのセキュリティ体制を聞いておこうか。俺が四六時中いれるワケじゃねえ。だが一度仕事を受けた身だ。あんたにもしもの事があっちゃならねえだろ」ヤマヒロが狡猾な質問をする。これは後々スモトリを送り込むための布石でもあるのだ「……安心しな、コンサル料は無料だ」 10
posted at 23:21:49

「かなり堅牢です」と長い白髭をしごきながらソダワ・ケンリュウ「ヤマヒロ=サンも見たでしょうが、入口は1つしかありません。しかもパスワード入力式のキーボード、網膜認証、ハンコ・スキャニングの3段構えで対応しています。どれかに問題があれば、殺人的な電流を流すことができます」 11
posted at 23:27:14

「ふうむ」ヤマヒロは短い顎鬚を掻きながら、少々厄介なセキュリティだな、と値踏みしていた。「何か問題点が?」とソダワ。「シミュレーションしていた。相手がダイナマイトでドアを破壊したり、クレーン車で2階に突撃してきたらどうするかを。俺はそういう過酷な世界に身を置いていたからな」 12
posted at 23:36:15

ソダワはサツバツとした暴力的光景を思い浮かべ、思わず身震いした。「俺ァ、ツチノコ・ストリートで生きてきた。あそこに比べたら、ここはまるでニルヴァーナだな」ヤマヒロの言葉の半分はハッタリだ。だがそれを息を吐くように澱みなく行うのがプロフェッショナルのヤクザなのである。 13
posted at 23:43:49

これはもう一押ししておくべきだなとヤマヒロは考え、勿体振りながら次の煙草をくわえた。「フゥーッ。まあ、そう心配しなさんな。仮にだぜ、セキュリティを突破し、誰かが侵入してきたとしよう。だが俺のカラ」「イヤーッ!」防弾フスマが突如破壊され姿を現す3人のニンジャ!ナムアミダブツ! 14
posted at 23:54:57

「アイエエエエエ!」悲鳴を上げるソダワ!チャブ前に座るハッカーたちは薬物と瞑想トリップのために反応が薄く、未だUNIXモニタを見つめてキーを叩き続けている!「ニンジャ!ニンジャナンデ!?」キーボード配置図の前で肉体鍛錬を行っていたハッカーが混乱してドージョー内を走り回った! 15
posted at 00:00:17

「イヤーッ!」グリーンエレファントがスリケンを投擲!「アバーッ!」体を45度に傾け同じ場所をグルグル走っていたハッカーが即死!「アイエーエエエ!」恐慌状態に陥ったチャブハッカーが、チャブ上で狂ったように飛び跳ねる!「イヤーッ!」ガスバーナがスリケン投擲!「アバーッ!」即死! 15
posted at 00:06:06

「殺したらハッキングできなくなるだろ?」2人の後ろから、おずおずと非ニンジャのタロが言う。「るせえなァ、兄ちゃん」ジロが気だるそうに後ろを振り返った「俺らのやることにセッキョー垂れないでよ。そろそろ殺すよ?」コワイ!弟が見せたその冷酷な目に、タロは思わず失禁しそうになった。 16
posted at 00:15:04

響き渡る悲鳴!ニンジャ達はさらに5人ほど、射的ゲームを楽しむようにハッカーをスリケン惨殺!ナムサン!何たる非人道行為か!このジゴクめいた光景を後ろから見ながら、タロは恐怖に震えていた。これは本当に弟たちなのか?彼らはあの夜死んで、何か恐ろしい別のものに入れ替わったのでは?! 17
posted at 00:23:16

「よし、ガスバーナ、もういい。殺しすぎると、ハッキングができなくなるからなァ」グリーンエレファントが制止した。しぶしぶ従う弟ニンジャ。グリーンエレファントは大股で闊歩しながら、血に餓えた猛獣の目でドージョー内を睥睨する「おい、一番偉いのは誰だ!?そこの鎧着てる野郎かァ!?」 18
posted at 00:28:56

「アイエッ!」ヤマヒロは蛇に睨まれたカエルのように身を強張らせた。「……セ、センセイ、殺って下さい」同じく恐怖で身動きできないソダワが、押し殺した声で小さく耳打ちする「……殺人カラテでお願いします!」 19
posted at 00:31:47

「あんたがハッカー=センセイか?それとももしかして用心棒?」グリーンエレファントが鋭い目でヤマヒロに近づいてくる。「カラテ……殺人カラテをお願いします…!2倍……10倍払います!仇を……!」耳元で悲痛なソダワの声!愛しい門下生が何名も殺されたが、ソダワに戦闘能力は無いのだ! 20
posted at 00:39:05

「……恐れ入りました。私とこの隣の爺さんが、ドージョーのボスです。何でもします。命ばかりは」ヤマヒロは突然ドゲザした。その顔は、恐怖と屈辱で赤子のように歪んでいた。彼はソウカイ・シンジケートが追っ手を差し向けてきたと考えたのだ。「センセイ!?約束が!?」ソダワは困惑する。 21
posted at 00:46:17

「ワオ!何だこいつ!ドゲザしやがったよ!」サブロはヤマヒロの兜を踏みつけながら笑う「殺しちゃおうか?」「やめとけ、ガスバーナ」ジロは懐からフロッピーディスク付預金手帳を取りだす「おい、爺さん!ここのハッカー全員使って、俺たちの預金通帳をカネで満タンにするんだ!今すぐやれ!」 22
posted at 00:52:57

-------------- 23
posted at 00:53:09

ズンズンズンズズキューワキュワーキュキュ!ズンズンズンズズキューワキュワーキュキュ!ハッカードージョー内に、鳩尾を殴られるほどの重低音サイバーテクノが鳴り響く。ゼンめいた神秘的アトモスフィアは無残にも引き裂かれ、雲散霧消していた。 24
posted at 00:58:22

「グワーッハッハッハッハ!グワーッハッハッハッハ!」最新鋭のUNIXサーバーに赤色LED表示される数字は、ひたすら上昇を続けていた!スゴイ!すでにジロが数えられる桁を突破している!だが彼はまだ満足していない!「もっとだ!満タンまで入れろ!グワーッハッハッハッハ!」  25
posted at 01:01:52

チャブの上に悠然とアグラをかき高笑いするグリーンエレファント。隣のチャブでは、サブロがニュービーハッカーの1人と向かい合って、殺人的な1対1のハッキング遊戯を行っていた。「ハァーッ!ハァーッ!」ニュービーは目を血走らせてUNIX画面を見つめ、死に物狂いでタイピングしている! 26
posted at 01:06:38

ジロの座るチャブの横には、正座の姿勢を取るヤマヒロとソダワ師範。乱入から現在までの10分間、彼らはこれ以上無い屈辱を味わい続けていた。「……この薄汚い嘘吐きのヤクザめ!」小声で罵るソダワ。「相手はニンジャだ。これしか、ねえんだよ。俺たち2人が生き残るには…」震えるヤマヒロ。 27
posted at 01:11:37

「アイエエエ!」ハッキング対決を行っていたニュービーが、首の後ろのバイオLAN端子から煙を吐き出し死亡した。やはりニンジャのタイピング速度にはかなわぬのか。「フゥーッ……飽きたしちょっとトイレ」「アレーッ!」ガスバーナは胸の豊満な女ハッカーを小脇に抱えてトイレに向かった。 28
posted at 01:17:27

こうした数々のマッポー的光景を、映画のスクリーンを見るような目で見ながら、タロはドージョーの隅でひとり、ヌンチャクを振り回していた。ブラックジーンズ、スニーカー、黒いダウンベスト、偽物のニンジャ頭巾……どこで何を間違ったのだろう。悪い夢をみているようだ。あの夜から、ずっと。 29
posted at 01:20:28

「……なあ解ったろ、ソダワ=サン」ヤマヒロはハッカー師範がやけを起こさぬよう、この世の道理を教え諭すように、小声で語っていた「ここはこらえるんだ。死んだら終わりだ。ニンジャには絶対に勝てない。一般人がヤクザに勝てないのと同じだ。蟻が人間に勝てないのと同じだ。食物連鎖なんだ」 30
posted at 01:23:45

「なあ、おい」突然、グリーンエレファントがチャブを下り、ヤマヒロに対して顔をぬうっと突き出した「俺のことバカにしてるだろ?」「アイエッ!?してません!」「俺に嘘ついてるだろ?だってさ、お前、ハッキングのこと何も命令してないじゃん?そこの爺さんだけいりゃ、いいんじゃないの?」 31
posted at 01:26:57

「実際そうです」ソダワが復讐心に満ちた老狐の目で言い放った「フリーランスヤクザの用心棒です!ハッキングには支障ありません!」。インガオホー!門下生を惨殺されたソダワは、やり場の無い怒りをついに爆発させたのだ!ヤマヒロは全身の血が零下まで冷え切っていくような絶望感を味わった! 32
posted at 01:31:05

【NINJASLAYER】
posted at 01:32:46

RT @sii8610: ヤモト=サン描いてる途中にジュー・ウェアで涙目なんてムネキュン・アトモスフィアがくると思ってなくてアイエエ #njslyr http://t.co/8pPugvEa
posted at 11:45:12

RT @inaecage: コインランドリーのヤモト=サン。 今回、右側から主人公が出オチしてくるというもっぱらの噂。 #njslyr http://t.co/7x1a6jZw
posted at 11:46:18

RT @aonagaree: ■無駄に大きな■ 試験的ヤモト=サン http://t.co/h4luKWkR  ■捏造重点■ #NJSLYR
posted at 11:46:32

RT @sasasa3397: ヤモト=サンとシルバーカラス=サン。今後装束の色が判明しても泣かない。 http://t.co/7DkKdhyO
posted at 11:47:18

RT @towokoG: 実際乗り遅れだぼだぼジュー・ウェアまつり #njslyr http://t.co/kloahwNR
posted at 11:48:10

RT @inumaria: 「ドーモお前ら!」 #pixiv http://t.co/Lmz16oyq  #NJSLYR とりあえずデスドレイン=サン描いた。
posted at 11:48:27

(親愛なる読者の皆さんへ:本日は「深刻なNRSから読者の皆さんを守るためのコンプライアンス作りについて」という議題で翻訳チームの緊急IRC会議が入りましたので、アイキャッチ状態で止まっている「アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ」の更新はありません。カラダニキヲツケテネ!)
posted at 22:18:32

■時々に繰り返す■ しばしばお問い合わせを頂く、当作品ニンジャスレイヤーをテーマとした同人活動、コンの当日版権についてのご案内です。ニンジャスレイヤーは、コンなどにおける同人的クリエイティビティ活動に、特に制限を設けておりません。許可取り等は不要です。(続く) ■定期な■内容だ■
posted at 12:55:00

■時々に繰り返す■ 当アカウントでTweetしているテキストそのものに関しましては、著作権を所持しておりますので、常識的な引用の範囲を超える転載やアップロードは、どうかご勘弁ください。つまり、同人活動は現在行われている感じでなんか大丈夫だと思います。(終わり) ■定期な■内容だ■
posted at 13:02:50

■時々に繰り返す■ もう一個あった。同人コンテンツ作成の際は、お願いとして、当アカウントと、公式サイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」のURLをどこかに原作出典としてご記載頂ければと思います。以上です。(今度こそ終わり) ■定期な■内容だ■
posted at 13:07:17

■※コン=コンベンション■ なお、本日の更新は二本立てを予定しております。なお、ヤクザ天狗の話は夜です。カラダニキヲツケテネ! ■今から本編更新がはじまる■
posted at 13:16:40

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 13:30:26

NJSLYR> アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ #4

120119

(第1部「ネオサイタマ炎上」より 「アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ」 #3 続き)
posted at 21:37:28

「なあ、おい」突然、グリーンエレファントがチャブを下り、ヤマヒロに対して顔をぬうっと突き出した「俺のことバカにしてるだろ?」「アイエッ!?してません!」「俺に嘘ついてるだろ?だってさ、お前、ハッキングのこと何も命令してないじゃん?そこの爺さんだけいりゃ、いいんじゃないの?」 31
posted at 21:37:49

「実際そうです」ソダワが復讐心に満ちた老狐の目で言い放った「フリーランスヤクザの用心棒です!ハッキングには支障ありません!」。インガオホー!門下生を惨殺されたソダワは、やり場の無い怒りをついに爆発させたのだ!ヤマヒロは全身の血が零下まで冷え切っていくような絶望感を味わった! 32
posted at 21:37:58

ドージョーの入口を見張るタロは、撲殺されたマグロのように澱んだ目で、鎧ヤクザとジロのやり取りを遠くから眺めていた。ハッカーを逃がさないよう、弟たちに命令されたからだ。あのヤクザは殺されるだろう……タロはまだ、人が目の前で死ぬということに対してまっとうな恐れを抱いていた。 33
posted at 21:44:09

「ハッキング完了まであと何分だ?」グリーンエレファントがソダワ師範に問う。「5分はかかります」苦々しい口調でソダワ。「よし、じゃあ、暇だし、あっちでカラテしようぜ。5分で殺してやるからよ」グリーンエレファントはヤマヒロの兜飾りを掴んで持ち上げた。無言で立ち上がるヤマヒロ。 34
posted at 21:48:28

グリーンエレファントに背中を押されながら、ヤマヒロはゴルゴダの丘に向かうジーザスのごとき悲壮さで、あるいは十三階段を登る死刑囚の如き思いで、赤い畳で囲まれたカラテゾーンへと歩いていった。脱出手段を考えたが、皆無だ。後ろからは、嘘吐きは死ねと罵るソダワの声とニンジャの笑い声。 35
posted at 21:55:35

ニンジャとヤクザはタタミ3枚離れ、カラテ距離で向かい合った。「ドーモ、グリーンエレファントです」先にニンジャが嘲笑うようなアイサツを決める。ヤマヒロはもう死を覚悟していた。あとはどう死ぬかだけだと思った。そう思うと気が晴れた。勝ち目の無い戦いだ。せいぜい華々しくやってやる。 36
posted at 22:05:22

「……ザッケンナコラー!」ヤマヒロはファイティングポーズを取り、腹の底から声を搾り出した。レッサーヤクザだった頃のハングリーさが、彼の中で蘇ったのだ。続いて威勢のいいアイサツが、ハッカードージョー内に響き渡った「キルエレファント・ヤクザクラン所属!ヤマヒロ!ドーモ!」 37
posted at 22:10:52

「グリーンエレファントだと?ガキが、ふざけた名前付けやがって。象は俺だ!ムテキの殺人象だ!スッゾコラー!」ヤマヒロは理不尽への怒りに燃えて突き進む!クローンヤクザの台頭による経営破綻!追い討ちをかけるように現れた新興組織ソウカイ・シンジケートとニンジャ!せめて、一矢報いる! 38
posted at 22:17:22

敵は彼を見下すようなノーガード姿勢。「ダッテメッコラー!」ヤマヒロは前方に駆け込みケリ・キックを放った!だが命中直前で彼の動きはぴたりと止まる!「……何だ、こりゃあ?」ヤマヒロの視線が相手の腹部に注がれた。敵の両手が、上下からがっちりと彼の足首をホールドしている。アブナイ! 39
posted at 22:24:59

「イヤーッ!」グリーンエレファントは、そのまま両手を左右に引き、ヤマヒロの片脚を軸にして強引に回転させた!ゴキリ!ヤマヒロの左足首が嫌な音を立てる!ヤマヒロの体は空中に浮き、独楽のように十二回転した!「グワーッ!」タタミに落下し、そのまま数メートルブザマに転がる鎧ヤクザ! 40
posted at 22:29:29

「手加減してるぞ、すぐ死なないようにな」ニンジャはせせら笑うように吐き棄てた「俺はヤクザが嫌いなんだ、偉そうだからな」。「……ウォーッ!ザッケンナコラー!」ヤマヒロは苦痛に顔を歪めながら立ち上がり、不屈の姿勢を誇示すべくヤクザカラテを構えた。左膝から下が無いような感覚だ。 41
posted at 22:35:40

「その態度が!ムカつくぜッ!」グリーンエレファントは激昂し、一気に間合いを詰める。半端なヨタモノとして表社会と裏社会の狭間を生きてきたマズダ三兄弟にとって、ヤクザは自分達を食い物にする天敵以外の何物でもなかったからだ!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」 42
posted at 22:38:02

「イヤーッ!」グリーンエレファントのボディーブロー!「グワーッ!」まるでアフリカ象が逞しい鼻でメイスを振り回しているかのような重衝撃!オレンジ色の胴当てに大きなヒビが入り破片が飛び散る!「イヤーッ!」「グワーッ!」右フック!兜が砕ける!「イヤーッ!」左フック!「グワーッ!」 43
posted at 22:42:17

その一方的リンチを遠くから観戦するタロは、何が起こっているのか理解できなかった。痛々しくて見ていられない。何故あのヤクザは反抗的な姿勢を貫くのか?死ぬと解っているのに?ああ、また立ち上がった。顔は赤紫色に腫れ上がり、目もろくに見えないだろう。なのに、ああ、また立ち上がった。 44
posted at 22:46:38

「……アノ、スミマセンケド」呆然と殺人劇を見つめるタロの足元に、いつの間にか、背の高い黒人ハッカーが四つん這いで接近していた。タロは驚き、ヌンチャクを構えてでたらめなカラテ姿勢を取る。「……家族ガイルノデ、タスケテヨ。カエンナクチャ。スミマセンケド」黒人はドゲザし懇願した。 45
posted at 22:52:19

「…行けよ」タロは微かに声を震わせながら、わざと余所見をした。(((ジロもサブロも見てねえし、1人くらい死ぬ奴が減ったっていいだろ……)))。黒人は信じられない、といった顔を作り、そのままドージョーを脱出した。彼自身もヤマヒロと同じように、ヤバレカバレの賭けに出ていたのだ。 46
posted at 22:59:25

「イヤーッ!」「グワーッ!」無慈悲なケリ・キックが命中!ヤマヒロの胴鎧が完全に砕け散る!ヤクザはトランキライザー銃弾を数ダース撃ち込まれたインド象のようにたたらを踏み、仰向けに倒れた!ナムサン!いくらグリーンエレファントの手加減と武者鎧の守りがあったとしても、もはや限界か! 47
posted at 23:05:27

「まだ3分もあるぞ!」グリーンエレファントはヤマヒロの兜に備わった勇壮な象の角飾りを強引に引っ張った。「ああうう……ザ……ザッケンナコラー…」打ちひしがれたヤクザの手はだらんと垂れ下がっている。彼のカラテは実際10段程度である。ニンジャに一矢報いるなど、夢のまた夢であった。 48
posted at 23:08:43

「仕方ねェ、そろそろ殺すか……ん?」殺害方法を考えていたジロの視界の隅に、UNIXに隠れながらドージョー入口へと匍匐前進する3人のハッカーの姿が!不愉快な害虫の行列でも見るように眉根を吊り上げ、その先へ視線をやると……ブッダファック!そこには別なハッカーを故意に逃がすタロ! 48
posted at 23:16:12

「てめえーッ!」グリーンエレファントはヤクザを放り棄て、荒々しく駆け寄ってきた!鼻を振り回してジャングルを暴走する巨大な緑色の象めいて!「アイエエエ!」「アバーッ!」途中にいる匍匐ハッカーたちは頭や腹を容赦なく踏み潰され即死!「アイエッ!」弟の接近に気付き、絶句するタロ! 49
posted at 23:21:27

「イヤーッ!」グリーンエレファントはタロをイポン背負いし、カラテエリアに向かって20メートル近く放り投げる!スゴイ!「アバーッ!」背中を強打し、息もできないほどの激痛に襲われるタロ!ニンジャソウル憑依から3日、ジロが兄に対して直接的な暴力を振るったのはこれが初めてであった。 50
posted at 23:24:55

ヤマヒロのすぐ横に転がるタロ。「クソ兄貴よォ、またビビりやがって…」両目に明らかな殺意をたたえたジロが、ゆっくりとマウントを取る。タロは生涯最大の恐怖に襲われ、静かに失禁した。想像力に乏しい彼は、まさか弟たちが自分を殺すはずはないと、心のどこかで無邪気に信じていたのだ。 50
posted at 23:33:15

「アイエエエエエ!アイエエエエエ!」情けない絶叫を上げるタロ!そのブザマな姿に苛立ったグリーンエレファントが、制裁のグラウンドパンチを叩き込む!「アバッ!」顎骨が軋む!粉々になった歯が数本、血の混じった飛沫となって飛び、ガマガエルめいた顔に変わったヤマヒロへと飛び散った! 51
posted at 23:37:59

「…助け……助けてくれ……」ヤマヒロの唇は悲痛な祈りを口ずさんでいた。だが、ブッダからは応答無しだ。寝ているのだろう。打つ手なしか。……だが、腫れ上がった目蓋の奥で光を失いかけていたヤマヒロの目は、ここで何の偶然か、UNIXサーバー筐体に備わる大型LED文字盤を見たのだ! 52
posted at 23:48:20

それは預金通帳がセットされた大型UNIXであった。盗み出された膨大なカネが、赤色LED数字で目まぐるしく上昇している。……その上3桁は、893!ヤクザの勝利を暗示する神秘的な獣の数字893!彼は藁にもすがる想いで、最後の希望を呼んだ!「……助けてくれ……ヤクザ天狗=サン!」 53
posted at 23:59:50

CRAAASH!!窓が突如割られ、何者かがドージョー内へと突入してきた!ヤマヒロの悲痛な叫びが彼を呼んだのか!?あるいはネオサイタマの闇を徘徊していた孤独なるハンターが、偶然にもニンジャソウルを感知したのか!?それは常人の与り知るところではない!だがいずれにせよ彼は現れた! 54
posted at 00:06:33

「ザッケンナコラー!」ドスの聞いたヤクザスラング!唸りをあげる背負い式ジェットエンジン!見よ!アクロバット回転飛行のまま、赤漆塗りのオートマチック・ヤクザガンが火を噴いた!BLAM!BLAM!BLAM!「グワーッ!?」側転回避を試みたグリーンエレファントの右肩が弾け飛ぶ! 55
posted at 00:10:05

謎の侵入者はジェットエンジンの噴射を停止し、立膝状態でタタミに着地する。ワザマエ!「おお……そのテング・オメーン!……あなたは、あなたはやはり……!」その男を指差すヤマヒロの視界は涙に曇る!彼こそは孤高のニンジャハンターにして神々の使徒!「正義の執行人……ヤクザ天狗参上!」 56
posted at 00:13:59

「ウォーッ!何がヤクザ天狗だテメェーッ!?」グリーンエレファントは狂乱したアフリカ象めいて突撃!だがヤクザ天狗の冷酷なるサイバーアイは、この未熟なニュービーニンジャの動きを瞬時に捕捉して脳内ワイヤフレームマトリックス上にトレスし、LAN直結した二挺拳銃へとIRC送信する! 57
posted at 00:21:53

「ニンジャはボーを振りかざし地を打った……」ヤクザ天狗は臆することなく論理トリガを引き、一歩も動かず重金属弾を射出!皆さんにはこの意味がわかるだろうか!?皆さんはメキシコジャングルで狂乱した象が木々を倒しながら突進してきたとしたら、銃を構えて冷静に立っていられるだろうか!? 58
posted at 00:28:46

ビスビスビス!前傾姿勢で駆け込むグリーンエレファントの体に、直径数センチの空洞がいくつも穿たれる!「ウオオオーッ!?」獣じみた咆哮をあげながらなおも突き進むニンジャ!頭部への直撃は避けているが、腹部や両脚へと次々に被弾!全裸でシベリアブリザードの逆風の中を駆けるが如き無謀! 59
posted at 00:36:51

驚異的な耐久力を誇る敵は、残った片腕を伸ばし、ヤクザ天狗の喉笛を掻ききるべく猛然と迫る!その距離はタタミ1枚!その時、ニンジャの左腿に穿たれた何個もの丸い空洞がひとつに繋がり、千切れた!「グワーッ!」穴だらけのボロ布に覆われた肉塊は体を傾け、ヤクザ天狗の右手後方へと転がる! 60
posted at 00:44:26

「……すると塵が舞い上がり、ブヨの大群が人と家畜を襲い、ニンジャはファラオの鳩尾を五度殴った」ゴウランガ!銃口から煙を立ち上らせ、謎めいたモージョーを口ずさみながら、ヤクザ天狗は悠然と振り返る!黒いヤクザスーツには傷ひとつない。一方のグリーンエレファントはまるでネギトロだ! 61
posted at 00:52:06

タロはヤマヒロの隣に座り、まるでタチの悪いツキジゴア・ムービーでも観賞しているかのように、およそ現実味の無い眼差しで、この一瞬の出来事を見ていた。……テング・オメーンの男が現れ、自分を窮地から救った。しかしその代わりに、ジロが死のうとしている。彼に解るのは、それだけだった。 62
posted at 00:56:23

グリーンエレファントにはまだ息があった。うつ伏せに倒れ、背後からのヤクザ天狗の接近を感じ取る。身を捻り、スリケン投擲を試みるが、その微かな動きを捉えたヤクザ天狗は、容赦なくオートマチック・ヤクザガンを敵ニンジャの心臓部と頭部に向かって論理トリガ連射した。 63
posted at 00:59:33

「アッ」タロは何かを言おうとした。ニューロンの中で複雑な想いがスパークした。ジロが死んでしまう。いや、死んだほうがいい。ジロはもう、自分の知っているジロではないのだ。でも、それで本当にいいのか。弟だぞ。そう迷っているうちに、グリーンエレファントは爆発四散した「サヨナラ!」 64
posted at 01:05:58

「…すまんな、本当にすまん」ヤクザ天狗は黒い焦げ跡に変わったグリーンエレファントを無表情に見下ろしていた。その低い声は、誰にも聞こえぬほど小さく厳かだった。「私は、お前達全員をジゴクへ送り返す。私があの日、お前達を解き放ったのだから…」そして彼は胸元の聖水瓶へと手を伸ばす。 65
posted at 01:14:58

ヤマヒロは何が起ころうとしているのかを悟った。ヤクザ天狗はまた、奇怪なニンジャ祓いのエクソシスト的儀式を行おうとしているのだ。禍々しい光景から目を背けようとしたその時……ヤマヒロはガスバーナの存在を思い出した。「ヤクザ天狗=サン!アブナイ!ニンジャはもう1人いる!」 66
posted at 01:18:07

「……何だと?」ヤクザ天狗は聖水瓶を投げ捨て、二挺拳銃を握り直す。だが彼が索敵のために背後を振り向こうとしたその時!トイレから出てきたガスバーナの低空トビゲリが彼の体側面に直撃したのだ!「イヤーッ!」「グワーッ!」ワイヤーアクションめいて吹っ飛ぶヤクザ天狗!ナ、ナムサン! 67 
posted at 01:24:03

(第1部「ネオサイタマ炎上」より 「アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ」 #3終わり #4へ続く
posted at 01:25:45

RT @maguroballoon: カギ=サンとヤモト=サン。翻訳者=サン!ツヅキハヤク!ヤッパイイ!!の葛藤、ヤジロベエのごとし。 #njslyr http://t.co/TtVHg2B3
posted at 21:52:44

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 14:41:20

NJSLYR> アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ #5

120121

(第1部「ネオサイタマ炎上」より 「アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ」 #4
posted at 14:41:43

タロはヤマヒロと並んで畳に座り、ぽかんとその光景を見ていた。最新鋭のLAN直結技術によって、観客である自分がアクション映画プログラムの中に放り込まれたような感覚を味わっていた。三男サブロ、いや、黒いニンジャ装束に身を包んだガスバーナが、ヤクザ天狗目掛け矢のように飛んでいった。 1
posted at 14:47:07

低空トビゲリがヤクザ天狗の左体側に命中!左腕の肉とサイバネ義肢が砕け、銃がグリップを逃れる!ガスバーナは後方へとムーンサルト回転着地!逆にヤクザ天狗はUNIXメインフレームに向かって直線的に弾き飛ばされた!アブナイ!違法サイバネで強化されているとはいえ、彼は生身の人間である! 2
posted at 14:52:40

鋼鉄トーフめいた黒いUNIX筐体が近づく!ヤクザ天狗の死を期待するかのように、ドージョー内に鳴り響いていたサイバーテクノはクライマックス的なループを迎えた!ナムサン!「……ッケンナコラー!」ここでヤクザ天狗は背中のジェットパックをIRC制御し、空中で体勢を立て直す!タツジン! 3
posted at 14:56:02

ヤクザ天狗はオリンピック水泳選手のように体を一回転させ、両足の黒いヤクザシューズの裏でUNIX筐体を蹴った。微かに軋む膝サイバネ!息を呑むように鳴り止むサイバーテクノ!前方回転の後着地し、ガスバーナに銃口を向ける!「スッゾコラー!」再びアップテンポのサイバーテクノが鳴り響く! 4
posted at 15:03:39

ズンズンズンズズキューワキューキュキュ!ズンズンズンズズキューワキューキュキュ!グリーンエレファントと同じように、無鉄砲に突き進んでくるガスバーナ。ヤクザ天狗は残された右の銃で迎撃体勢を取る。だが網膜ディスプレイには「制御不能な」の文字が明滅!先程の衝撃でIRC系に破損か!? 5
posted at 15:09:18

状況判断の時間は僅か2秒!インプラントされた演算装置が加速!UNIXタワーが立ち並ぶドージョー内でジェット飛行戦闘は危険。論理制御を失った銃でニンジャに対抗するのは自殺行為。時間を稼がねば。ヤクザ天狗はオートマチック・ヤクザガンを収め、使い込まれたドスダガーを懐から抜き放つ! 6
posted at 15:13:53

両者のカラテが激突した!サイバーアイで敵ニンジャの動きを解析しながらドスダガーを振るうヤクザ天狗。だがいかにニュービーとて、ガスバーナの肉弾戦能力は片腕のニンジャハンターを凌駕していた。攻撃をブリッジやダッキングでかわしつつ、ヘビー級ボクサー並のカラテをヤクザ天狗に叩き込む! 7
posted at 15:20:04

「イヤーッ!」肩や腕をかすめた後、ヤクザ天狗の腹部そして胸部へと重い連撃!「オゴーッ!」ヤクザ天狗は吐血し、行き場の無くなった血液と嘔吐物の一部は、オメーンの両眼の穴から血涙か何かのように漏れ出した。コワイ!網膜ディスプレイには「ジリー・プアー(徐々に不利)」の緊急アラート! 8
posted at 15:24:21

タロはまだ呆然とその光景を見つめていた。つい先程までは、この謎のテング・オメーンの男に弟2人が始末されればいい、と思っていた。彼は想像力が乏しく、自分もまた始末される可能性を思いついていなかったからだ。しかし今、戦況は明らかにガスバーナが優勢。やはり最後はニンジャが勝つのか? 9
posted at 15:29:36

ソダワは唯のハッカーだが、タイピング鍛錬によってそれなりの腕力はある。1対1のカラテではヤマヒロに勝てるはずもないが、相手が虫の息とあれば話は別だ。まずはタロを始末すべきなのだろうが、理性を失った彼の怒りの矛先は、汚い嘘吐きヤクザに向けられていた「イヤーッ!」「グワーッ!」 10
posted at 15:38:33

その時不意に、タロの視界いっぱいに拳が飛び込んできて、揺れた。怒り狂って理性を失ったソダワ師範が、彼の顔面を殴り飛ばしたのだ。ソダワはタロの横にいたヤマヒロの胸ぐらを掴んで組み伏せると、マウント状態から拳を何発も叩き込んだ。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「グワーッ!」 11
posted at 15:43:49

タロはまた、何をすべきか決断を迫られた。一瞬だ。一瞬の判断だ。ヤマヒロが死ねば次は自分がこの老人に殴り殺される、などというUNIX並みの計算高さは彼には無い。ただ彼は反射的に、もう目の前で人が死ぬのを見るのは沢山だと思った。特に、無力な者が虫ケラのごとく叩き潰されるのが。 12
posted at 15:44:19

(読者の皆さんへ:磁気嵐により通し番号ズレが発生したため、しばらく更新を中断し、修正作業を行います。担当者はケジメされました)
posted at 15:52:14

その時不意に、タロの視界いっぱいに拳が飛び込んできて、揺れた。怒り狂って理性を失ったソダワ師範が、彼の顔面を殴り飛ばしたのだ。ソダワはタロの横にいたヤマヒロの胸ぐらを掴んで組み伏せると、マウント状態から拳を何発も叩き込んだ。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「グワーッ!」 10
posted at 15:53:24

ソダワは唯のハッカーだが、タイピング鍛錬によってそれなりの腕力はある。1対1のカラテではヤマヒロに勝てるはずもないが、相手が虫の息とあれば話は別だ。まずはタロを始末すべきなのだろうが、理性を失った彼の怒りの矛先は、汚い嘘吐きヤクザに向けられていた「イヤーッ!」「グワーッ!」 11
posted at 15:53:31

タロはまた、何をすべきか決断を迫られた。一瞬だ。一瞬の判断だ。ヤマヒロが死ねば次は自分がこの老人に殴り殺される、などというUNIX並みの計算高さは彼には無い。ただ彼は反射的に、もう目の前で人が死ぬのを見るのは沢山だと思った。特に、無力な者が虫ケラのごとく叩き潰されるのが。 12
posted at 15:53:36

「ウオーッ!」タロは微かに残ったシャカリキの化学パワーに後押しされ、ソダワに背後から組み付いた。ソダワの肘打ちがタロの顔にめり込む!「グワーッ!」鼻血を噴出し倒れるタロ!カラテ攻防を続けるヤクザ天狗とガスバーナが近づき、ガスバーナは両掌にインプラントした火炎放射穴を開いた! 13
posted at 15:54:50

「イヤーッ!」ニンジャ耐久力に物を言わせ闇医者に3時間でインプラントさせた軍事用サイバネ装置が作動し、火炎が噴出!垂直ジャンプで回避するヤクザ天狗!背後にいたソダワの上半身が運悪く丸焼きに!「アバーッ!」ムゴイ!何たるアトロシティか!おお!ブッダよ!まだ寝ているのですか!? 14
posted at 16:01:26

しかしガスバーナの火炎放射は数秒は持続できる。このままでは、ヤクザ天狗も丸焼きに!?だがヤクザ天狗は咄嗟の判断で背負い式ジェットパックを作動させ、空中制止していた。そこから体を捻り、ガスバーナの即頭部に対してボレーキック!「シャッコラーッ!」「グワーッ!」停止する火炎放射! 15
posted at 16:07:23

しかしガスバーナの左腕は、ヤクザ天狗の脚を固くホールドしていた。痛烈な右肘打ちを振り下ろすガスバーナ。危険を感じ、ジェットエンジン噴射で逃れようとするヤクザ天狗。だが遅い!骨とサイバネパーツが砕ける嫌な音が鳴り、ヤクザ天狗の右膝がネコネコカワイイ・ジャンプ姿勢で破壊された! 16
posted at 16:13:20

「アバーッ!アバーッ!」上半身を松明のように燃え上がらせながらドージョー内を走り回るソダワ・ケンリュウ!彼は何が起こったのか理解できなかった。自分ではなく、手塩にかけて育てたハッカードージョーが、門下生たちが、そしてUNIX群が燃え上がっているように見え、錯乱していた。 17
posted at 16:17:42

「逃げろーッ!LAN接続解除ーッ!他の者は構うなーッ!1人でも逃げろーッ!」ソダワは絶叫しながら駆け周り、LAN直結トリップして注意力散漫になった門下生たちを正気づかせる。「アイエエエエエエ!」残留薬物で足をもつれさせながら逃げ出すハッカーたち!急激に下がり始める預金残高! 18
posted at 16:26:09

ガスバーナは目の前のヤクザ天狗をいたぶることに全神経を集中させていた。「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」ここで網膜ディスプレイに「制御下の拳銃だ」の文字。手を伸ばす!その銃をチョップで叩き落とし蹴るガスバーナ!タタミ上を滑る銃!LANケーブルが抜ける! 19
posted at 16:34:01

畳の上を滑った赤漆塗りのオートマチック・ヤクザガンが、ルーレットめいて回りながらタロとヤマヒロの前で止まる。ヤクザ天狗とガスバーナのカラテは一方的だ。彼が死んだら次に死ぬのは誰だ?余りにも状況はケオスであり、高性能将棋UNIXでさえも次のアトロシティを予測することは不可能! 20
posted at 16:44:03

【休憩時間】
posted at 16:44:20

【間もなく上映が再開します】
posted at 20:32:55

「おい、若えの」ヤマヒロがタロに呼びかけた。それは無謀な賭けだった。先程の仲間割れを見て、思いついた「その銃で、あいつら、撃てや。それしか、生き残る道は、ねえぞ。このままヤクザ天狗が死んだら、デッドエンドだ。出口無しだ。俺ァもう、目がほとんど見えねえ。ぼやけて、見えねえ」  21
posted at 20:37:49

「アイエエエエエ……オッ、俺には、無理です」タロが小さく失禁しながら即答した。自分はつくづく、死ぬ時まで偽物の半端者なのだと痛感しながら「怖くて、さっきから、手ェ震えてンです。無理です。人を殺したこともないンです。それがいきなり、こんなデカい銃でニンジャを殺せって、そんな」 22
posted at 20:41:59

しかしヤマヒロは、いける、と直感した。彼もまたソダワと同じく、何人ものレッサーヤクザを育て上げた事務所経営者であった。彼はいままでに何人も、タロのような半端者を一人前のリアルヤクザへと変えてきた。生まれながらにしてヤクザであるクローンヤクザの導入を、頑なに拒み続けながら。 23
posted at 20:45:15

「俺だって、戦いたいですよ、鎧ヤクザ=サン、あんたみたいに。でも無理なんですよ。俺、生まれた時から、負け犬の運命なんですよ。カラテもできない、運も無い、半端者なんですよ」「若えの、いいか、聞け」ヤマヒロはゼエゼエと息を切らしながら言った「人は一瞬で男になれる。変われるンだ」 24
posted at 20:53:54

「アイエエエ……」タロは一方的に殴られ続けるヤクザ天狗を見ながら、恐怖に声を震わせた。「…自分はもう、変われねえとか、変化には、長え時間が必要だ、と思ってる奴は、腰抜けだ」とヤマヒロ。我ながら皮肉な科白だと思いながら「…人は、一瞬で、変われる。良い方向にも、悪い方向にもな」 25
posted at 21:04:39

「でも」「乳臭ェガキの頃を、思い出せ。お前はある日、突然、立ち上がったろ。いきなりだ。そういう変化だ。俺は、何人ものレッサーを育ててきた。お前はいける。さっき爺さんに組み付いたろ。そういうガッツだ。ヤバレカバレだ。それが無エ奴もいる。そいつは、本物の負け犬だ。お前は、違う」 26
posted at 21:12:28

「そうだ、若えの、お前は違う。やれ、銃を握れ、撃て!」タロはヤクザの言葉に後押しされながら、赤漆塗りのオートマチック・ヤクザガンを握った。シャカリキやバリキの魔力は完全に消え去り、タロは自分自身の精神力だけでこの戦いに挑まねばならかなった。恐ろしいほど重く、大きな銃だった。 27
posted at 21:26:25

タロは赤漆塗りのヤクザガンを構えた。UNIXメインフレーム筐体を壁代わりに、磔サンドバッグ状態にされているヤクザ天狗と、こちらに背を向けているガスバーナに対して、銃口を向けた。ヤマヒロの言うとおり、まとめて撃つしかない。……あとは、この重く冷たい物理トリガを引くだけだ。 28
posted at 21:31:02

いける、とヤマヒロは確信した。こいつは殺人クエストをこなし、男になる、と。だが……おお、ナムアミダブツ!タロは銃口を下げた!泣き咽びながら、銃口を下げたのだ!「何だ?ビビッたか?お前ならやれるぞ!」「やっぱ……無理です……よ……。あいつ、ガスバーナ……俺の、弟なんです……」 29
posted at 21:36:07

「俺に貸せ」ヤマヒロが銃を渡すよう促した。タロは泣きながらそれに従った。ほとんど視界が覚束ない中で、大雑把にガスバーナとヤクザ天狗の方向に銃口を向けながら、ヤマヒロは一思いに物理トリガを…引く。「本人認証できませんドスエ」銃からは二人の茶番を嘲笑うかのような電子マイコ音声! 30
posted at 21:56:02

「アン?…何だこりゃあ?ちくしょうめ!ちくしょうめ!」ヤマヒロが引金を何度も引く。そのたびに電子マイコ音声がリピート「本人本人本人認証本人認証できませんドスエ」万事休すだ。ヤマヒロは銃を投げ捨て天を仰いだ。「……ほら、やっぱり、俺、最初から……」タロは鼻水を垂らして泣いた。 31
posted at 22:09:04

おお、ブッダ!惨すぎる!あまりにも惨すぎる仕打ち!だがこのアトロシティを止められる者はいない。ニンジャスレイヤーは死んだ!ソウカイ・シックスゲイツは温泉旅行へ!末端のパトロールニンジャたちも、今宵は幹部らの不在をいいことに、オイラン遊びや私腹を肥やすことにかまけているのだ! 32
posted at 22:18:45

「イイイイヤアアアーッ!」ガスバーナの強烈なボディブロー!「グワーッ!」ヤクザ天狗はまたオメーンの眼から血を噴出し、2、3歩よろよろと力無く前進すると、そのままうつ伏せに倒れて痙攣を始めた。「フゥー!手こずらせやがって」ガスバーナが汗をぬぐう「小便かけて焼き払ってやるぜ!」 33
posted at 22:22:32

-------------- 34
posted at 22:22:52

……その30秒前。 35
posted at 22:24:53

夜のサスマタストリートを走る、一台のクレーン車。車体にはウットコ建設のエンブレム。プロジェクト現場仕事を終えたドライバーは、急いで社屋に戻るべく、ケンリュウ・ハッカードージョー前の大通りを走り抜けようとしていた。いつも通りのつまらない仕事。いつも通りの帰り道。だがその時…! 36
posted at 22:30:54

ヘッドライトは照らし出す!道路に立つ黄色装束の黒人ハッカーともう一人の脱出ハッカー!彼らは口々に「ニンジャ!ニンジャ!」と叫ぶ!さらに入口からは、薬物中毒レミングス軍団めいて続々と逃げ出してくる新たなハッカーたち!「アブナイ!」ドライバーは急ブレーキ!ハンドルを右へ!左へ! 37
posted at 22:33:42

それだけではない。ウシミツ・アワーが近づく中、ネオサイタマの薄汚いビル街を駆け抜けるニンジャがひとり。偶然にも、ケンリュウ・ハッカードージョーの雑居ビル屋上で、灯篭を蹴り渡ろうとするところだった。道路でハッカーたちが叫ぶ「ニンジャ!ニンジャ!」の叫びを、彼は聞き逃さない。 38
posted at 22:39:03

クレーン車は操縦を失い、ハッカーを避けるために真下のビルに突っ込もうとしている!「Wasshoi!」そのニンジャは迷うことなく、クレーン部分の先端に向かって飛び降りた!その掛け声はまさか!?いや、彼は死んだはず!中国地方でバンザイ・ニュークに呑まれ、跡形もなく消滅したはず! 39
posted at 22:44:23

K-RAAAAAAAASH!クレーン車が雑居ビルに激突!クレーン部分が2階の窓、すなわちケンリュウ・ハッカードージョーに深々と突き刺さった!ガスバーナ、ヤマヒロ、タロ、そして逃げ遅れた全ハッカーが、クレーンの先端部分を見る。そこには腕を組んで直立不動の姿勢を取る、一人の男! 40
posted at 22:50:59

「ドーモ……」赤黒いニンジャ装束に身を包んだそのニンジャは、「忍」「殺」と彫られた鋼鉄メンポから憎悪に満ちた声を吐き出しながら、ガスバーナに対してアイサツを決める!……おお、彼はあの戦術核爆発を生き延びたというのか!?「……ニンジャスレイヤーです!ニンジャ、殺すべし!」 41
posted at 22:55:13

(第1部「ネオサイタマ炎上」より 「アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ」 #4終わり #5へ続く
posted at 22:55:52

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posted at 22:56:06

NJSLYR> アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ #6

120121

(第1部「ネオサイタマ炎上」より 「アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ」 #5
posted at 22:56:15

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、ガスバーナです」ただならぬ殺気を警戒した彼はヤクザ天狗への止めを諦め、ニンジャスレイヤーに対してアイサツを返す。……オジギ終了から僅かに0コンマ3秒!ニンジャスレイヤーの腕が鞭のようにしなり、電撃的速度でスリケンを投げ放った!「イヤーッ!」 1
posted at 23:01:31

これこそは、恐るべきシックスゲイツの斥候ニンジャ、バンディットをも葬った、アイサツ終了直後の必殺スリケン!だが今回は、ガスバーナが反応するのに十分なほどの距離があった。「イヤーッ!」素早く側転を打つガスバーナ!喉元を狙って投げられたスリケンは、ガスバーナの右脛へと命中!浅い! 2
posted at 23:04:50

「イヤーッ!」両手を前方に突き出し、クレーン上へと火炎を浴びせるガスバーナ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは前方回転ジャンプの後、三連続側宙!UNIXメインフレーム筐体を蹴って三角跳びを決めると、ガスバーナの背後へ回り込んだ。そしてケリ・キック!「イヤーッ!」「グワーッ!」 3
posted at 23:09:38

ガスバーナは辛うじて転倒を回避し、前方回転から側転タンブリングで体勢を整え、ジュー・ジツを構える。だがすでに、目の前にはニンジャスレイヤーが接近!「「イヤーッ!」」交錯する二者のカラテ!「すぐには殺さぬぞ、ソウカイヤ」ニンジャスレイヤーは冷酷に言い放った「痛めつけ、尋問する」 4
posted at 23:14:47

「ソウカイヤ?へっ!とんだ人違いだな。そいつは昨日、俺とグリーンエレファントで殺したぜ!イヤーッ!」ガスバーナはニンジャスレイヤーの回し蹴りをブリッジで回避し、足払いを放つ!これを辛うじてかわすニンジャスレイヤー!バンザイ・ニュークによるダメージが、未だ残っているのだろうか? 5
posted at 23:18:57

「なるほど、ソウカイヤではないか……イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは表情ひとつ変えず、ガスバーナの顔面に右の高速カラテパンチを叩き込む!「グワーッ!」のけぞるガスバーナ!「いずれにせよ殺すのみ!イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」 6
posted at 23:22:08

ヤマヒロは正座しながら、その戦いを見ていた。この新たなニンジャが何者なのか、見当もつかない。自分が死ぬのかどうかすらも。ただ、自分にできることはもうない。たとえ死ぬとしても、彼に後悔は無かった。ヤクザ天狗は、ニンジャを挟んだ反対側でうつ伏せに倒れ、動かない。死んだのだろうか。 7
posted at 23:29:17

タロはどこへ?…彼はクレーン車が突っ込んできた直後、電気ショックを浴びたかのように驚き、手近にあったチャブの下へと電撃的に潜り込んでいた。巣穴に引き篭もって嵐が過ぎ去るのを待つ無力なプレーリードッグめいて、ガタガタと震えながら、謎の赤黒ニンジャに弟が殴られ続けるのを見ていた。 8
posted at 23:33:40

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの情け容赦ないカラテ!ガスバーナも反撃を繰り出すが、ジュー・ジツで弾き返され、またカラテを叩き込まれる!「ニンジャ殺すべし!イヤーッ!」「グワーッ!」ベイビーサブミッション! 9
posted at 23:36:27

ヤマヒロ同様、タロには状況が全く理解できなかった。恐怖と混乱で、ニューロンが焼ききれそうだった。……昨日の夜、三人で略奪を働いていた時に、ソウカイヤを名乗る末端ニンジャがスカウトの話を持ちかけてきた。だがジロとサブロは、彼をなぶり殺しにしたのだ。それが原因で、こんなことに? 10
posted at 23:39:33

「イイイヤアアーッ!」腰の捻りを利かせたニンジャスレイヤーのカラテ!「グワーッ!」体をくの字に折り曲げ、ワイヤーアクションめいて吹っ飛ぶガスバーナ!タロの隠れたチャブ上を飛び越えながら、20メートル先の壁に背中を強打する!ずるずると力無く落下し、壁にもたれかかるガスバーナ! 11
posted at 23:43:50

ニンジャスレイヤーは死神めいた重く決然たる足取りで、獲物のもとへ歩み寄った。ガスバーナの四肢は破壊されており、再起は不可能。彼の戦意は崩壊していた。……血を吐きながら、ガスバーナはブザマに助けを乞う。……ブッダに?……いや、己の兄に……「アイエエエ……助けて、兄ちゃん……」 12
posted at 23:48:38

ナムアミダブツ!その声は、一瞬ニンジャソウルの支配を脱したサブロが放った純粋な叫びか?それとも彼に憑依した邪悪なニンジャソウルが、何としてでも時間を稼ぐべく用いた、狡猾な策略か?…その真意を常人であるタロは見通せない。だが彼はついに、逃げようの無い最後の決断を迫られたのだ! 13
posted at 23:55:41

タロの脳内でソーマト・リコールが始まった。この悪夢のような三日間。(((…人様に迷惑掛けちゃだめよ……兄弟仲良くしなさいよ……長男でしょ…)))母の声(((…人は、一瞬で、変われる。良い方向にも、悪い方向にもな…)))ヤマヒロの声(((…助けて、兄ちゃん…)))サブロの声! 14
posted at 00:02:44

弟たちは悪魔のような存在に変わってしまった。3日前のあの夜、本当は死んでいたのかもしれない。人の道を外れた残虐行為をいとも簡単に繰り返す。自分さえも殺そうとしてくる。……弟達は死ぬべきなのだろう。だが……だが……自らの手で、銃で決着をつける道を、彼はすでに放棄してしまった。 15
posted at 00:07:29

ならどうする?タロは乏しい想像力で必死に考えた。ニンジャスレイヤーは、この赤黒の死神は、あと数歩で自分のチャブの上を踏み越えてゆくだろう。考えろ、考えろ!タロはニューロンに奮起を促した!行動だ!本当の行動を起こさなくちゃいけない!誰の正義だろうと、知ったことか!俺の正義だ! 16
posted at 00:11:54

「ワオオオオオーッ!……WASSHOI!」自らを鼓舞する勇ましい掛け声とともに、タロは立ち上がった!チャブを横に投げ飛ばし、ネオサイタマの死神の前に立ちはだかった!「駄目だ!死ぬぞ!」遠くで見ていたヤマヒロが我を忘れて叫ぶ!ニンジャスレイヤーは反射的にジュー・ジツを構えた! 17
posted at 00:15:37

「アーポウ!近寄るな!こいつは俺の弟だ!」タロは腰に吊った紛い物のヌンチャクを不恰好に振り回した!しかし汗で手が滑り、ヌンチャクは左手へと飛んでゆく!丸腰になったタロは、ほとんど無意識のうちに両手でミスティック・サインを作った!「ニンポだ!ニンポを使うぞ!近寄れば死ぬぞ!」 18
posted at 00:20:42

ニンジャスレイヤーは無表情のまま、タロへと歩み寄った。その眼には愛する家族を失った哀しみと、全ニンジャへの黒い憎悪の炎が燃えていた。「ニンポだ!ニンポを喰らいたいのか!」タロは泣き咽びながら、でたらめなサインを作り続けていた。ニンポなど出るはずもない。無謀なヤバレカバレだ。 19
posted at 00:26:42

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの拳がタロの鳩尾をえぐる!「アバーッ!」30センチ近く浮かび上がるタロ!彼はそのまま巧みなジュー・ジツで、タロを横へと投げ飛ばした。タロはタタミに転がり、仰向けでニンジャスレイヤーを見る。痛みは少ないが、体は麻痺している。そのようにしたのだ。 20
posted at 00:32:33

ニンジャスレイヤーはタロから視線を逸らし、また無慈悲なる殺人者の目でガスバーナを睨んだ。そして歩み続ける。「俺を……殺さないのか……?」タロが声を絞り出す。ネオサイタマの死神は一瞬足を止める「……私に人を裁く権利はない」直後、スリケン投擲!「だがニンジャは殺す!イヤーッ!」 21
posted at 00:35:34

「グワーッ!」ガスバーナの両目にスリケンが突き刺さる!「イヤーッ!」さらに容赦のないスリケン!「グワーッ!」ガスバーナの喉元に深々と鋼鉄の刃が埋まり、壊れたスプリンクラーめいて鮮血を噴き出す!そして爆発四散!「サヨナラ!」 22
posted at 00:40:12

声を絞り出そうとしたが、タロにはもう力は残っていなかった。幸運なほうだ。もし彼がカラテ有段者だったら、ネオサイタマの死神は彼を一瞬でネギトロに変えていたかもしれない。サイオー・ホースだ。「……オヌシを裁く連中が来る」ニンジャスレイヤーはそう言い残し、爆煙とともに消え去った。 23
posted at 00:44:37

仰向けに横たわるタロの耳に、マッポビークルのサイレン音が聞こえ始めた。3日前のあの夜のようだ、とタロは思った。あの時止まった時間が、また動き出すのだと、彼は薄れ行く意識の中で思った。弟達はあの夜、死んだのだ。そして今、彼らに別れを告げられた。行動を取った。後悔のない形で。 24
posted at 00:50:59

ニンジャスレイヤーが消え去った直後、満身創痍のヤクザ天狗も立ち上がった。熟練のニンジャハンターである彼は、あの赤黒のニンジャがシックスゲイツ並の化物であることを一瞬で察知し、あえて手を出さずにいたのだ。真のハンターは、勝ち目のない戦いには赴かない。それが彼の正義であった。 24
posted at 00:54:14

かといって、マッポに掴まるつもりもない。神々から与えられた使命は、あまりにも崇高なものだからだ。折れ曲がった片脚でブザマに飛び跳ねながら、ヤクザ天狗は預金通帳が入ったUNIXメインフレームの前に立った。足元には「非暴力主義」のショドー額に潰されたソダワの焼死体があった。 25
posted at 00:58:01

「……」ヤクザ天狗はオメーンの奥で激痛に顔を歪ませながら、UNIX筐体のガラスを叩き割り、強引にイジェクトボタンを押下して、中に収められたマズダ三兄弟の預金通帳を引き抜く。さきほどまで数億円あった残高は、もはや数百万にまで減少している。破壊されたサイバネの修理代にやや不足。 26
posted at 01:00:59

「起きろ」ヤクザ天狗は血咳を吐きながら、ヤマヒロの胸ぐらを掴んで起こした「私を呼んだな。贖罪の戦いには、積極的ドネートが必要だ」「もうカネは……」「払えぬなら、お前を天狗の国へ連れてゆく」……階段を駆け上るマッポの靴音!ヤマヒロの返事を待たず、ヤクザ天狗はジェット噴射した! 27
posted at 01:10:47

ヤクザ天狗は逞しい片腕でヤマヒロを抱え、飛び立った!「アイエエエエエエエ!」きりもみ回転しながら、2人のヤクザは窓を突き破り、重金属酸性雨降りしきるネオサイタマの闇へと消える!マッポたちが踏み込んできたとき、そこにはもうヤクザの姿は陰も形もなかった! 28
posted at 01:14:32

「はっ……払います!カネが、あります!許して!」ヤマヒロは泣き喚いた。子供の頃聞かされた、天狗についての恐るべき民間伝承が彼を恐怖させたのか、あるいはヤクザ天狗の底知れぬ狂気を感じ取ったのか……いずれにせよ、彼は賢い判断をした。 29
posted at 01:17:22

ヤクザ天狗は姿の見えぬ追っ手をまくように夜のネオサイタマを飛び回った後、ヤマヒロには解らないどこか人気のない路地裏へとやってきた。ヤクザ天狗はそこに隠されたベンツ型のヤクザモービルへと無線IRCを発信し、運転席と助手席の屋根を自動展開させた。 30
posted at 01:20:40

「アグウーッ!」助手席に落下したヤマヒロは、苦痛に顔を歪めた。車内のスピーカーが耳障りに鳴る。あの夜、ヤクザ天狗の手によってヤマヒロのヤクザスーツの襟の中に密かに仕込まれた小型発信盗聴器が、ヤクザモービル内の受信装置とハウリングを起こしたのだ。 31
posted at 01:26:55

ヤクザ天狗は運転席に着地する。テング・オメーンの奥で、激痛に歯を食いしばった。彼もまた、先程の戦いでサンズ・リバーを渡りかけていたのだ。「カネは……」ヤマヒロが喋り、ハウリングが起こる。ヤクザ天狗はスイッチの1つを切った。まだ車内には微かな盗聴受信音が十数種類聞こえている。 32
posted at 01:31:55

ヤマヒロには自分に仕掛けられた盗聴器を含め、まだこれらの音声の意味を理解できなかったが、このビークルの中が異常な世界であることはすぐに解った。窓や壁のいたるところに、古文書の切れ端や、写真や、手書きのメモなどが貼ってある。その中にはヤマヒロ自身の写真もあった。 33
posted at 01:34:20

「続けろ、カネはどこだ……。聖戦のための寄付金は。ニンジャ殺害報酬を支払え」ヤクザ天狗は片脚でアクセルを踏み込んだ。「アッハイ」ヤマヒロは懐から万札束を取り出す。用心棒料金の前払いだ。しかし、この程度のカネでヤクザ天狗が満足するだろうか?ヤマヒロは恐怖におののいた。 33
posted at 01:37:33

「……」ヤクザ天狗は輪ゴムで巻かれた万札束を受け取り、ヤクザスーツに仕舞った「……足りんが、しばらく待ってやろう。ニンジャが出たら、また私を呼べ」「ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!」ヤマヒロは緊張の糸が切れたように、粗い息をした。「どうした?ニンジャの恐怖が残っているのか?」 34
posted at 01:41:43

「アイエッ」ヤマヒロは言葉に詰まった。目の前のヤクザ天狗に恐怖しているのだとは、とても言い出せない「……アッハイ、ニンジャが」「これを使うがよい」ヤクザ天狗は純白のオモチとセンベイを取り出して渡した「オモチを口に咥えて、センベイを額に当てるのだ。ニンジャの悪夢が浄化される」 35
posted at 01:44:13

「カネは……」「不要だ。私の個人的な贖罪行動だ……ゲホッ!ゲホオーッ!」ヤクザモービルは一段と速度を上げ、猥雑たるネオサイタマの夜を疾走した。「アッハイ……」ヤマヒロはヤクザ天狗が言うようにオモチを咥えセンベイを額に当てた。「どうだ、ピンク色の光が見えたか?」「見えません」 36
posted at 01:47:11

「そんなはずはない」ヤクザ天狗の厳しい声がヤマヒロを恐怖させた「目を閉じてみるがいい」。「……アッハイ」ヤマヒロはそれに従った。「どうだ、ピンク色の光が見えてきたか?」「……アッハイ、見えてきました……」ヤマヒロは嘘をついた。そうしなければ身に危険が及ぶ気がしたからだ。 37
posted at 01:49:14

「ニンジャの恐怖が薄れてきたか?」「……アッハイ、薄れてきました」「オモチを吐き出してみろ……よし、邪悪なニンジャソウルの影響が黒い染みとなってオモチに移った。見えるな?」「……アッハイ、黒くなっています」ヤマヒロはまたも嘘をついた。この男は完全に狂っているのだと思った。 38
posted at 01:51:07

「闇医者のところへ運ぶ」とヤクザ天狗。「カネがもう……」「ならば天狗の国に行くか?お前は優れたヤクザだ。鍛錬次第では、私のような聖戦士になれるかもしれん」「いえ、いいです……」もしやこの男は仲間を求めているのではないか?ヤマヒロはヤクザ天狗の狂気と、孤独な物悲しさを悟った。 39
posted at 01:55:38

ある意味で、このヤクザ天狗という男の行動はタロに似ているのだと、ヤマヒロは直感的に悟った。ヤバレカバレでタロが見せた、あの狂気的行動。ヌンチャクを振り回し、ニンポを叫んだあの行動。あの一瞬の狂気を、この男は、何年以上も絶え間なく続けて……完全に狂ってしまったのだろう、と。 40
posted at 01:58:14

しかしその一方で、この男の行動の端々にはまだ、一本芯の通ったフリーランスヤクザ的な信念がある、とヤマヒロは思った。それ以上のことを詮索したり想像したりするのは止めにした。自分もまた、底知れない狂気へと引きずり込まれそうな気がしたからだ……。 41
posted at 02:01:52

重金属酸性雨がヤクザモービルのフロントガラスに叩きつける有様と、ぐにゃぐにゃに歪んだネオンサインの灯りが、ヤマヒロを深い眠りへと誘った……。顔を腫らし、拘束具をはめられてネオサイタマ市警へと運ばれるマズダ・タロの乗ったマッポビークルが、ヤクザ天狗の車と偶然擦れ違った……。 42
posted at 02:06:11

……数日後。ヤマヒロとタロは、スガモ重犯罪刑務所で再開した。ヤマヒロは胸の上にいくらかのカネを置かれた状態で救急病院に捨て置かれ、ヤクザ天狗はいずこかへと姿を消した。ヤマヒロは悪夢を見続けているようだった。いつか、遠い将来、またあの男の名を呼んでしまう自分を予想しながら…… 43
posted at 02:16:36

(「アトロシティ・イン・ネオサイタマシティ」終わり 「ジ・アフターマス」へ続く)
posted at 02:17:39

(原作者ブラッドレー・ボンドのあとがきより:「サプライズド・ドージョー」既読の皆さんは、何故あの破滅的爆発をフジキドが脱出できたのか、ソウカイニンジャたちのように不思議に思っていることだろう。近い将来に我々が執筆予定の「ジ・アフターマス」では、その顛末が語られる予定だ)
posted at 02:31:00

(親愛なる読者のみなさんへ:本編最終ツイートの「再開した」は「再会した」の誤字です。しかし担当者はこの狂気的エピソードの翻訳によってあたまがおかしくなっていたと思うので、情状酌量の余地があるとみなされ、ケジメは回避されました)
posted at 02:42:18

(更新のおしらせ:「ネオサイタマ電脳IRC空間」が3ヶ月のブランクを経て更新されました。担当者は1週間前のドーナツを食べながら「毎月1回更新していたがなんか電子的妨害工作を受け反映されていない」と弁明しましたが明らかな嘘であり職務怠慢だ http://t.co/XSfFLnwQ
posted at 17:00:30

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posted at 11:19:42

NJSLYR> べイン・オブ・サーペント #1

100803

第1巻「ネオサイタマ炎上」より。「ベイン・オブ・サーペント」
posted at 13:26:47

フルタマ・プロジェクト、第一区画。陰鬱な暗黄色の空を背後に、ずさんな塗装のせいであちこちにひび割れを生じた白色の高層住宅群が立ち並ぶ。
posted at 13:37:34

ハイウェイからプロジェクト区画へのジャンクションには、輝かしいネオンで彩られた巨大な看板に「すべてのネオサイタマ市民に暖かい食事と安全を」と誇らしげな字体で書かれている。もちろん、こんな欺瞞を信じるものなど誰一人として存在しない。
posted at 13:42:33

企業体による酷薄な再開発によって土地を奪われた人々は、「カンオケ」と呼ばれる黒い窓なしのトラックに乗せられ、最低限の衣食住を保障するこのプロジェクトに押し込められる事になる。
posted at 13:57:56

しかし、それでも虐げられた人々は安堵するしかない。少なくとも彼らにはまだ屋根があるし、臓器もある。まだきっと這い上がる余地はある......そう自らにいい聞かせ、汚染された河川に隔てられたオムラ・インダストリの工場へ向かう往復バスへ、毎朝5時に乗り込むのである。
posted at 14:07:04

しかしてこの日。「カンオケ」の列をすり抜けるようにして、一台のロードキル・デトネイターがジャンクションを通過し、プロジェクトへ降りて行った。ロードキルは40年以上前に倒産したバイク・カンパニーである。その流麗かつシンプルなデザインは、このマッポーの世においてもはやオーパーツだ。
posted at 14:18:50

プロジェクト区画への外部からの出入りは厳しく制限されている。このロードキルは明らかに異物であったが、光学ゲート・セキュリティが咎める事はなかった。
posted at 14:32:46

ドライバーは女だった。黒いレザーのライダー・スーツが、しなやかなボディ・ラインを強調している。女はフルフェイスのヘルメットに触れ、ハンズフリー通話をオンにする。「ナンシーよりホゼへ。支障なく通過した、オーバー」「冗談はやめてくれよ、ナンシー」くぐもった、困惑気味の答えが返る。
posted at 14:47:00

「何度でも言うが、今やっている事はメチャクチャやばいんだぞ。お前がヘマしたら、俺だって......」「本当に感謝してるのよ、ホゼ=サン。そして、信頼もしてる」ナンシーはロードキルをドリフトしながら停止させた。
posted at 14:51:26

ホゼが通信を返す。「当たり前だ。俺の偽装には全く何の問題も穴も無い。でも、俺がどれだけ完璧にこなしたところで、君がやらかしちまったら、それでオシマイなんだからさ」「そこは信頼してもらうしかないわね」
posted at 14:58:52

フリージャーナリスト、ナンシー・リーの眼前には、代わり映えのしない白色の高層マンションが列になっていた。「14号棟だッけ?どれ?」「いま場所を送る」ヘルメットのバイザーに簡素な位置情報が点灯する。ナンシーは再びロードキルを発進させる。
posted at 15:05:46

「しかし、こんな吹き溜まりに、本当かよッて感じだな?」「そうね。だからこそ今まで気づかれずにきた、消されずにきた、でしょ」「ガセって事は無いのかい?」ナンシーは返事をしなかった。目指す14号棟にたどり着いたのだ。
posted at 15:51:17

ナンシーは柳の木の傍にロードキルを停め、フルフェイスのヘルメットを脱いだ。金髪がこぼれ落ちる。ツナミと磁気タツマキに周囲を囲まれ物理的・電子的に完全にサコクしている日本において、「ガイジン」、とくにアングロサクソンの存在は稀である。勝ち気な美貌が目的達成の予感に輝いていた。
posted at 16:50:24

「六階だ」ホゼが告げた。ナンシーは慎重に階段を上がっていく。各階の壁には住民間で情報交換を行うための掲示板が備えられている。『おいしいお肉ですか?』『安いと思います。』被写体のマイコが無機的な微笑みを浮かべる色褪せたポスターは何年も前の商品の広告で、住人の無気力、無関心を物語る。
posted at 16:56:27

「ヤンバナ・サシミ事件」。ナンシーが半年にわたる取材で情報を積み上げて居場所を特定し、今まさに目と鼻の先に迫りつつある人物は、二年前に政財界を震撼させた、かの疑獄事件のキーパーソンであった。
posted at 17:06:33

発端はある偽装事件。国内の食料品シェアの87%を握っていたヤンバナ・サシミ・プロダクト&ディストリビュート社が、十年にわたって、ハマチ粉末に違法なブリ粉末を混ぜ、あまつさえ、コクをごまかすために、危険性が指摘されるプロテインすら混入させていた事が明らかになった。
posted at 17:42:58

ヤンバナ・サシミ社は事実を隠匿するために、政府関係者に現金をばら撒き、摘発を逃れていた。しかもその献金は政府の毎年の予算に組み込まれていたのである。
posted at 17:52:36

この事実が明らかになったことで、大臣の約半数がセプクし、ヤンバナ・サシミ社は解体、国民の主要な栄養源であったハマチ粉末の供給システムが崩壊した事で、スシが食べられず餓死する人々が前年比30000%をカウントした。
posted at 17:56:11

事件に前後し、不可解な動きがあった。疑惑の中心にいた司法大臣、ダイタロウ・モジモトの潔白が最高裁の判決で確定。事件発覚後わずか4日間のスピード裁判である。そして食料品業界のシェア22位の位置にあったドンブリ・ボン社が急激な成長を遂げ、二ヶ月後には業界トップの座についたのである。
posted at 18:17:47

ナンシーはこの動きに不可解なものを感じ、動き出した。彼女の執念深い調査は、ついに、当時の捜査最高責任者であった男が突然に職を辞し、行方をくらませていたという事実、そして彼の現住所をも、突き止めたのである。彼の名はアラキ・ウェイ。彼はいったい何を知り、何を恐れて、姿を消したのか。
posted at 18:28:13

「六階についた。部屋番号は606よね?」ホゼからの返事を待つが、無言である。「ホゼ=サン?」仕方が無い。ナンシーは部屋番号を目で見て確かめ、606の扉の前に立った。表札に名前は無い。ナンシーはドアノブに手をかけ、ゆっくりとひねった。「開いている」ナンシーは呟いた。
posted at 18:44:14

ナンシーは鉄製の扉を押した。錆びた鉄が軋み、ナンシーは顔をしかめた。606は無人のようだった。工場からアラキ=サンが戻るのを待つとしよう。ナンシーはリビングへ足を踏み入れる。「!!」
posted at 18:49:59

眼前の光景に、ナンシーは凍りついた。殺風景なリビング。開け放たれたベランダの窓から吹き込む風で、ベージュのカーテンが揺れている。そして、床に倒れて動かぬ初老の男と、その傍にしゃがみ込む赤黒い人影......ニンジャである!
posted at 18:59:16

赤黒いニンジャ装束の男はナンシーを睨みつけた。ナンシーは足がすくんだ。ニンジャの顔を覆うクローム色のメンポには、恐怖を煽る字体で「忍」「殺」と彫金されている。初老の男の口からは濁った血液が一筋、床に流れ落ちている。......そんな、なぜ、こんな事が!
posted at 19:11:22

ナンシーは弾かれたように606号室を飛び出した。「ホゼ!大変よ、アラキが......」あの初老の男がアラキだ、間違いない。ニンジャがアラキを殺したのだ、よりによって、ナンシーが真実にたどり着くほんの数分前に!だが今はそれどころではない。ナンシーは廊下をダッシュした。早く!階段を!
posted at 19:34:34

ナンシーは階段を駆け下りようとした。だが、阻まれた。五階への踊り場で、早くも彼女の望みは絶たれてしまった。「カメ!」誰かが叫んだ。視界の端を、なにか縄のような影が横切った。「カミツケ!」ナンシーは足首に強烈な痛みを覚えた。ブーツを貫き、何かが彼女のくるぶしに突き刺さった。
posted at 19:52:34

途端に、意識が混濁し始めた。ナンシーは壁に手をついた。視線を下ろすと、ナンシーの足から太腿へ、黒と黄土色の網模様のヘビが這い登ろうとするところだった。このヘビに噛まれたのか?なぜヘビがこんなところに?
posted at 19:56:52

ナンシーは悲鳴を上げようとしたが、声が出なかった。体の自由がどんどん効かなくなってゆく。ナンシーは踊り場に尻餅をついた。ヘビはナンシーの体を這い進み、赤い舌で鼻先をチロチロと舐めた。ナンシーはゾッとした。そして、階段の下からは、不穏な足音がゆっくりと近づいてきた。
posted at 20:01:55

「クンクン嗅ぎ回るネズミめ」姿を現したのは、先程とは別のニンジャだった。黄緑色のニンジャ装束を着て、だらりと垂らした両腕には汚い包帯がギブスのように巻きつけられている。このニンジャの腕は爪先近くまで長さがあった。
posted at 20:12:42

「モドレ!」不気味なニンジャが命じると、ナンシーの体に巻きついていたヘビはスルスルと這い降り、そのニンジャの足元へ寄っていった。飼い主というわけか?「ドーモ。ナンシー・リー=サン。コッカトリスです」ニンジャはナンシーにレイをした。ナンシーは歯を噛み合わせて震えていた。なぜ名前を?
posted at 20:27:41

「動けないだろう。そういうドクだからな」コッカトリスはほくそ笑んだ。「ホゼ=サンはかわいそうにな、ナンシー=サン?」ナンシーの背筋を再び冷たいものが駆けた。ホゼ?ホゼと言ったのか?コッカトリスはシュウシュウと笑った。「ホゼ=サンは今頃、臓器バンクのお迎えでも待っている頃かもな?」
posted at 20:37:30

足元のヘビがコッカトリスの体を登り、首にマフラーよろしく巻きついた。「さて、ナンシー=サン。色々とお前の目的を教えてもらうが、その前に、すこうし楽しませてもらうからな?」終わりだ。なにもかも。
posted at 20:44:42

さらに、六階のほうから降りてくる足音があった。最初に出くわした赤黒い装束のニンジャだろう。コッカトリスの相棒だ。絶望を絶望で上塗りするというわけね、神様。ナンシーは笑おうとしたが、毒のせいでそれもできなかった。そして、足音の主が姿を現す。それはやはり赤黒い装束のニンジャたった。
posted at 20:48:16

ナンシーは踊り場でふたりのニンジャに挟まれた格好である。だが、赤黒のニンジャはナンシーを一瞥しただけで、すぐにコッカトリスへ向き直った。「ドーモ、はじめましてコッカトリス=サン。わたしの名前はニンジャスレイヤーです」二人のニンジャの間に緊張が走った。
posted at 20:57:14

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。コッカトリスです」コッカトリスは目に見えて動揺したようだった。「お前がどうしてここに」「ニンジャを見れば、殺すのみ」ニンジャスレイヤーは無慈悲に言いはなった。コッカトリスは首に巻いたヘビをほどき、やおらニンジャスレイヤーに投げつけた。「カメ!」
posted at 21:01:56

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは飛びかかるヘビを素早くチョップした。目にも止まらぬ速度である!空中で、ヘビは無残にも輪切りにされていた。
posted at 21:22:07

「うわさどおりの使い手か、ニンジャスレイヤー」コッカトリスの両腕の包帯がスルスルとほどけてゆく。「だが、俺と出会ったのが運の尽きよ」おお、見よ!なんという事か!コッカトリスの両腕は、生きた大蛇になっているではないか!
posted at 21:27:34

「おれをバンディット=サンやヒュージシュリケン=サンのようなサンシタと一緒にするなよ?」コッカトリスの右腕はアナコンダ、左腕はコブラである。「驚いたか。リー先生の手術に耐えるニンジャソウルの持ち主だけが、このダイジャ・バイトを修得できるのだ。つまり、俺だけだ」
posted at 21:37:08

「ソウカイヤは自己紹介を長くやるのがルールか?」ニンジャスレイヤーは構えた手の甲をコッカトリスに向け、手招きの仕草をした。「来い、コッカトリス=サン」「カミツケ!」コッカトリスが叫んだ。アナコンダの腕がニンジャスレイヤーを襲う!「カメ!」コブラの腕がニンジャスレイヤーを襲う!
posted at 21:44:24

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは、空中のコブラとアナコンダをそれぞれの手でチョップした。「グワーッ!」二匹のヘビは頭部に強打を受け、のけぞった。「マキツケ!」コッカトリスが叫んだ。のけぞったヘビは、チョップしたニンジャスレイヤーの腕にするすると巻きついた。
posted at 21:49:21

巻きついたコブラとアナコンダがニンジャスレイヤーの自由を奪う。「どうだ動けないだろう。これが俺の必勝の形だ。お前は生きながら喰われるのだ!」コッカトリスの不気味なメンポが縦に割れ、素顔があらわになった。なんと!剥き出しになった彼の歯は、残らず鋭利な牙となっている!
posted at 22:07:09

己の口元へ手繰り寄せようと力を込めるコッカトリス、そうさせまいと抗うニンジャスレイヤー。二人の間で命をかけたツナヒキが展開されていた。意識だけが自由な状態で、ナンシーはただその戦いの行方を見守るしかなかった。
posted at 22:18:35

ニンジャスレイヤーは踊り場上でじりじりとコッカトリスに引きずられつつあった。「もうすぐだ!」コッカトリスは嘲笑い、乱杭歯から毒液の飛沫を撒き散らした。「こっちへこい!」
posted at 22:22:43

そのときである!ニンジャスレイヤーの両腕に、縄のような筋肉が浮き上がった。「ワッショイ!」瞬間的なエネルギーの爆発に任せ、ニンジャスレイヤーは思い切り両腕を頭上に振り上げた。「グワーッ!」コッカトリスの両腕のダイジャが、引きちぎられた!
posted at 22:30:40

「グワーッ!」コッカトリスは階段を転がり落ち、のたうち回った。ニンジャスレイヤーの腕に巻きついたアナコンダとコブラが力なくほどけ落ち、床に横たわる。ニンジャスレイヤーは二匹の頭部を丁寧に踏み潰した。「これでシンプルになったな、コッカトリス=サン」「グワーッ!」
posted at 22:35:10

「腕が無くなって寂しいか?」ニンジャスレイヤーは呆然とするナンシーの横を通り過ぎ、階段を降りてゆく。「グワーッ!」コッカトリスは切り株のような両腕の断面から緑のバイオ血液を噴き出し、床をのたうちまわった。「ならばリー先生とやらに植え直してもらえ。先に行って待つがいい、地獄でな!」
posted at 22:44:39

「グワーッ!」コッカトリスは床をのたうちまわった。ニンジャスレイヤーは苦しむコッカトリスの頭に踵を振り上げた。「イヤーッ!」そして、無慈悲に振り下ろした。「サヨナラ!」頭部を破壊されたコッカトリスは、断末魔とともに爆発四散した。
posted at 22:55:12

壮絶極まりないニンジャ同士の殺し合いが終幕した。ニンジャスレイヤーは階段を上がり、踊り場に戻ってきた。ナンシーは己の死を覚悟した。ニンジャスレイヤーはナンシーを見下ろし、装束からキンチャク袋を出すと、中から一粒のニンジャ・ピルを取り、それをナンシーに飲み込ませた。
posted at 23:09:05

それからわずか数秒で身体に活力が呼び戻されたことにナンシーは驚いた。「あ、あなた、一体」震えながら、ナンシーは声を絞り出した。ニンジャスレイヤーは無感動に告げた。「噛まれてからさほど時間が経っていない。すぐに動けるようになるはずだ。それを待ってせいぜい遠くへ逃げるがいい」
posted at 23:16:13

「これは何?なにが起こるの?アキラ=ウォンを殺したのは?なぜニンジャが殺し合いを?」「俺はニンジャではない。ニンジャスレイヤー(ニンジャを殺すもの)だ。ナンシー=サン、探偵ごっこはおしまいにして、ネオサイタマを去れ。ソウカイ・シンジケートをみくびるな。奴らは甘くない」
posted at 23:26:31

「質問に答え....、....?」ふと瞬きしたその時、ニンジャスレイヤーは姿を消していた。「畜生!」ナンシーは毒づいた。しばらく待つと、ナンシーの両脚にも自由が戻ってきた。くるぶしの傷が心配だったが、さいわい、腱は無事のようだった。ナンシーは脚を引きずり、606号室へ戻った。
posted at 23:33:25

リビングにはアラキの死体が放置されていた。ナンシーは残された手がかりを求め、部屋を行き来した。殺風景なアラキの住居には何も残されてはいない....いや!違う!
posted at 23:38:52

リビングのタタミに残されたアラキの血の染み。それはメッセージだ!わずか三文字の、だが、なんらかの意図の元で残された、彼の死に際の暗号だ。「....タヌキ」ナンシーはその単語を口に出してみた。タヌキ。この言葉に、何かが隠されている。
posted at 23:45:26

血で書かれた暗号「タヌキ」。ニンジャスレイヤーはこれに気づいただろうか?......いや。ナンシーは唇を噛んだ。この意味をつきとめれば、いずれ彼女は真実にたどり着くはずだ。そしてそこにニンジャスレイヤーもいるはずである。ここで引き下がる訳にはいかない。
posted at 23:53:47

五分後、ナンシー・リーはロードキルに再びまたがり、ハイウェイを疾駆していた。汚染された雲は嘘のように晴れ渡っていたが、太陽もまた、曇天と同じく不快だった。病んだ太陽は、溶けかかったドクロのような不吉なシルエットをネオサイタマに投げかけるのだった。
posted at 00:09:01

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 00:11:07

NJSLYR> アポカリプス・インサイド・テインティッド・ソイル #1

100827

「アポカリプス・インサイド・テインティッド・ソイル」
posted at 12:21:43

(シーケンスあらすじ) 暗号「タヌキ」を紐解く過程で、フリージャーナリスト「ナンシー・リー」は危険な陰謀を捉えていた。ヨロシサン製薬が開発したバイオ・マッポをネオサイタマ警察が大量導入しようとしている。ナンシーはニンジャスレイヤーの協力をあおぐ。→
posted at 12:33:39

→バイオ・マッポの導入を看過すれば、ネオサイタマの治安機構すらもソウカイ・シンジケートの手中に収められてしまうであろう。ニンジャスレイヤーはナンシーとともに、オカキ工場に偽装されたヨロシサン製薬のバイオプラントに潜入する。
posted at 12:44:43

ーーーーーーーーー
posted at 12:45:48

「ゆくぞ」背後の声にナンシーは飛び上がるほど驚いた。ニンジャスレイヤーであった。「いつからそこに?」「……地図があると聞いたが。見せてもらおう」ニンジャスレイヤーは無感情な声で言った。ナンシーは色褪せたパンチ紙を取りだす。「一年前のデータだから、不正確かもしれない……」
posted at 12:57:11

ニンジャスレイヤーは十数枚に及ぶパンチ紙を三秒で確認し終えた。「なるほど、あのオカキ工場……」身を乗り出し、崖下の貧相な工場を見下ろす。ひび割れたコンクリート製の瓦屋根と、小さな煙突が一つ。入り口のノレンに書かれた「オカキ」の文字。
posted at 13:08:15

「信じがたいかもしれないけど、確かな情報なのよ…」ナンシーが説明しようとするのをニンジャスレイヤーは手で制した。「言わずともわかる。見ろ。あの巡回警備員」ニンジャスレイヤーは二人組でぶらぶらと工場の入り口近くをうろつくツナギ姿の男を指差した。
posted at 13:12:46

「NN445で武装している。湾岸警備軍に支給される装備だ。それに、やつらの顔を見ろ。双子のように似ているだろう」ナンシーはうなずいた。「クローン・ヤクザね」「そうだ。あの顔はY12型、最新のクローン・ヤクザだ。ただのオカキ工場に精鋭武装のY12、ツーマンセルを三組。ありえん」
posted at 13:19:39

入り口の二人、裏口にも二人。二階のバルコニーで、同じ姿勢でタバコを吸っている二人。計六人。全員が同じ風貌である。ニンジャスレイヤーにとってはあまりにも見慣れた顔立ちであった。彼のジュー・ジツを持ってすれば、クローン・ヤクザなど百人来ようが勝負にもなるまい。
posted at 13:23:26

しかし、貧相な工場の中に何が待っているかわからぬ以上、力に頼って正面から突っ込んで行くのは愚策である。ニンジャスレイヤーは岩肌にクサビを打ち付け、崖下にザイルを垂らした。「下りられるか」「ええ」ナンシーは頷いた。ニンジャスレイヤーは片手でザイルをつかみ、崖を蹴りながら降りて行く。
posted at 13:39:18

崖下、ナンシーが着地すると、すぐにニンジャスレイヤーはザイルを外した。特殊な力の掛け方をするだけで容易に外す事のできるザイルが、するするとニンジャスレイヤーの手に収まる。ドウグ社の「オナワ」は、マッポーの世に失われつつある職人の技を継承しつづけているのだ。
posted at 14:16:32

「ここで待て。片付ける」言うなり、ニンジャスレイヤーは身を屈めて滑る様に工場へ向かう。「オカキ」「水性」とペイントされたコンテナの陰から陰へ身を移し、入り口のクローン・ヤクザへ近づく。
posted at 14:21:00

バルコニーの狙撃ヤクザが入り口付近から視線を外した瞬間を見計らい、ニンジャスレイヤーはコンテナの陰から門番ヤクザの斜め後ろに飛び出す。(イヤーッ!)(グワーッ!)(イヤーッ!)(グワーッ!)
posted at 14:27:30

タツジン!まさに一瞬の出来事である。コブラのように滑り出たニンジャスレイヤーは右手のチョップで右の門番ヤクザのこめかみを粉砕し、そのまま跳躍すると、左の門番ヤクザの首を両脚で挟み込み、へし折った。両脚に勢いをつけ、門番ヤクザの死体を投げ飛ばす。もう片方の死体も投げ飛ばす。
posted at 14:33:48

どさり、どさり。二人の死体は、 蓋の空いたコンテナの中に間髪入れず投げ込まれた。コンテナには「燃えない廃棄」とペイントされていた。ニンジャスレイヤーは裏口の二人組を警戒しつつ、バルコニーの真下へ工場の壁伝いに移動した。休む間なく垂直に壁を登り始める。もちろん標的は狙撃ヤクザだ。
posted at 14:49:59

ニンジャスレイヤーはバルコニーに手をかけ、タバコを吸う狙撃ヤクザのすぐ下まで肉迫した。バルコニーの縁につかまったまま、手すりにしつらえられた招き猫タイプの欄干を、手の甲でコンコンと叩く。「なんだ?」「どうしましたか」「音がしました」「何ですか」「わかりません」「わたしが見ます」
posted at 15:03:50

狙撃ヤクザの片方が下を覗き込もうとする。(イヤーッ!)ニンジャスレイヤーはその首根っこを掴み、後ろへ投げ飛ばした。(グワーッ!)宙を飛ぶ狙撃ヤクザを狙ってトドメのスリケンを投げる。スリケンは狙撃ヤクザの眉間に突き刺さった。空中で絶命した狙撃ヤクザは先程のコンテナの中へ墜落した。
posted at 15:19:31

残る一人が反応する時間すら与えず、ニンジャスレイヤーはバルコニー上に侵入した。(イヤーッ!)喉元にチョップを突き刺し、絶命させた。(グワーッ!)ニンジャスレイヤーはその死体も後ろへ放り投げた。死体は先程のコンテナの中へストライクした。
posted at 15:25:18

次に、ニンジャスレイヤーは瓦屋根を伝って、裏口の二人組の頭上へ移動した。何も知らぬ最後の二人は、所在なさげに手持ちのアサルトライフルをもてあそんでいる。ニンジャスレイヤーはそこへ向かって飛び降りた。(イヤーッ!)(グワーッ!)(グワーッ!)
posted at 15:30:21

タツジン!跳び降りながらニンジャスレイヤーは空中で二度蹴りを繰り出し、正確に、それぞれの裏口ヤクザの首を一撃のもとにへし折っていた。ニンジャスレイヤーは二人の死体をまとめて引きずって運ぶと、先程のコンテナの中へ軽々と投げ込んだ。
posted at 15:33:55

「片付いたのね……」ナンシーが物陰から現れた。ニンジャスレイヤーの静かなる殺戮をあらためて目のあたりにしたショックか、その整った美貌は心なしか青ざめていた。ニンジャスレイヤーは頷いた。「裏口から侵入する。赤外線モードを使って確かめたが、オカキ工場の中に生体反応は無い」
posted at 15:58:03

二人は「デグチ」「非常識」とネオンで書かれた裏口の小さなドアを開き、侵入した。うちっぱなしの殺風景な廊下である。
posted at 16:02:11

「ここだな」二人は「給湯室」と書かれた部屋の前で立ち止まった。先程確認した地図に従えば、この部屋である。ドアは施錠されていたが、ニンジャ握力を持ってすれば障子戸に等しい。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは一息にドアノブをねじり切った。
posted at 16:16:40

そこはまったくもって普通の、標準的な給湯室であった。畳敷きの茶室があり、火鉢とコタツが置かれている。壁には「定時」と毛筆された掛け軸が飾られている。ニンジャスレイヤーは迷わず、土足で茶室に上がって行った。
posted at 16:21:14

掛け軸をずらすと、ドラゴンが刺繍された木製のダイヤルロックが現れた。「情報は今のところ正確だな」「右に回して4,6,4。そのあと左に回して3」ナンシーの言葉に従いニンジャスレイヤーはダイヤルを操作した。がちゃりと音が鳴り、茶室全体が振動し、ゆっくりと降下を始める。エレベーターだ。
posted at 16:37:50

長い長い下降を経て、茶室は不気味な機械音とともに停止する。いま茶室と接しているのは巨大なシャッターである。「もうすぐ開きます」録音されたゲイシャの声が鳴り響いた。ナンシーはニンジャスレイヤーを見た。「生体反応は?」「大量だ」ニンジャスレイヤーは眉一つ動かさず即答した。「備えろ」
posted at 17:14:37

ナンシーは入り口のクローン・ヤクザから調達したNN445アサルトライフルを構えた。手馴れた仕草である。「開きます」ゲイシャ音声が告げる。機構部からスチームを噴出しながら、大仰なシャッターがゆっくりと開いた。
posted at 17:18:22

おお、なんたる光景!あんな貧相なオカキ工場の下にこのような工場設備が隠されていようなどと、誰が予想し得たろうか?二人は今、巨大な地下プラントを天井際の渡り廊下から見下ろしているのだった。縦横に張り渡されたベルトコンベアー、10メートル四方はあろうかという水槽(ヴァット)の数々…。
posted at 17:27:37

工場は今も忙しく稼働している最中であった。白光タイプの電気ボンボリの冷たい明かりが水槽に満たされた怪しげなバイオ液に反射し、地下空間は緑色に照らされている。ヨロシサンの家紋がレリーフされた得体のしれない機械の数々が、コンベアーを流れる怪しげな物体を右へ左へ、やり取りしていく。
posted at 17:32:26

そして、おお、ナムアミダブツ!なんたる禁忌!ナンシーが震える手で指差す先を見よ、水槽の中、等間隔で並んでいるのは、裸の人間たちである。あの水槽は培養装置なのだ。二人は今まさにクローン・ヤクザの製造工場を見下ろしているのだ!
posted at 17:37:38

「なんて……なんてこと」「生体反応の正体はこれか」ニンジャスレイヤーは注意深く眼下の警備体制を確認しようとした。広大なプラントであるが、設備は完全に自動化されており、人影は無かった。機密保持の意味もあろうか。警戒しつつも、二人は螺旋状の階段を降りていった。
posted at 17:44:00

(親愛なるニンジャスレイヤー読者のみなさん:げんざい、翻訳チームのスシがきれています。この不具合がかいしょうされ次第、更新が再開されます。すくなくとも24時間以内に再開されますので、今しばらくお待ちください。ワッショイ!)
posted at 15:24:19

階段を降りきったニンジャスレイヤーとナンシー・リーは、地図上に記された別区画へ向けて歩き出す。今いる広大な区画は一年前の地図にも「ヤクザ」と記載がある。二人が目指すのはさらに奥に存在するはずの「マッポ」区画だ。
posted at 12:16:47

緑色に光る水槽の中で、裸体のクローン・ヤクザY12型が、朝礼するサラリマンのように規則正しく列を作り、直列している。目は瞑想のように閉じられ、胸には「ヨロシサン」の文字。二人は水槽を横目で見ながら先を急いだ。「でも、こうも手薄なものなのかしら」ナンシーは訝った。
posted at 12:22:08

やがて、二人は下へ向かって傾斜する通路の入り口に辿り着いた。通路の入り口にはノレンがかかり、仰々しい字体で「マッポ」「大事」と書かれている。地図にはこの先の区画の記載は無い。ナンシーはアサルトライフルを構え直した。
posted at 12:26:19

「情報が確かなら、この通路の先にバイオマッポの実験区画がある」早足で歩きながら、ナンシーは手筈を確認する。「モニタ室に入って、そこにあるコンピュータに、このUSBメモリを挿す。それでウイルスプログラムがインストールされる。同時に、『タヌキ』に関する情報を盗み取るってわけ」
posted at 12:39:50

言葉にすれば、なんとも地味な計画である。プラントの水槽を根こそぎ叩き割る事も無ければ、バンザイ・ニュークで施設ごと吹き飛ばすわけでも無い。しかし、ナンシーの目的は、もとよりこの施設の破壊ではない。彼女の目的はもっと深奥の陰謀を捉える事だ。すなわち、タヌキ。
posted at 12:44:46

ニンジャスレイヤーの協力をあおぐにあたりナンシーが提示したのもの。それはアンタイ・ニンジャ・ウイルス「タケウチ」の解毒剤である。ヨロシサンの機密情報を盗み出せば、自ずとアンプルの所在も明らかになる。ナンシーはドラゴン・センセイを気遣うニンジャスレイヤーの切なる願いを把握していた。
posted at 12:54:46

通路の突き当たりに、「とても秘密」と書かれたゲートが現れた。ナンシーはゲート脇の数字キーを素早く叩いた。4、6、4、3、8、9、3。ヨロシサンとソウカイヤのつながりを象徴する恐るべきパスワードだ。「開きます」ゲイシャ音声が響き、ゲートが重苦しい音を立てて開いた。
posted at 13:00:04

ゲートが開くと、そこは円柱状の巨大空間の底であった。天井はあまりに高いため、闇に飲まれて目視することができない。円柱の壁面には、見えなくなる高さまで、びっしりとシリンダー状の細長い水槽が並べられていた。
posted at 14:20:36

ひとつのシリンダーに一体ずつ、クローン・ヤクザとはまた違った体格の、屈強な全裸の男が収まっていた。胸にはすべからく、「ヨロシサン、マッポ」と書かれていた。「これが全部バイオマッポなの!?」ナンシーは虚空を見上げ、呆然と呟いた。
posted at 14:25:22

ナムサン!ここまで計画が進行していたとは。そしてこの数!これだけのバイオマッポがネオサイタマの治安機構に食いこめば、もはやソウカイ・シンジケートをとどめるものは無くなるであろう。待ち受けるのは暗黒の未来である!
posted at 15:21:29

「ナンシー=サン。急げ。あれではないのか」ニンジャスレイヤーが反対側のゲートを示した。ゲートには「モニタ室」「管理」と書かれている。ナンシーは緊張した面持ちで頷き、駆け出した……。 「イヤーッ!」
posted at 15:24:17

一瞬の出来事であった! 頭上の闇から一直線に落下してきたなにかが、ナンシーの身体をつかみ上げた。ニンジャスレイヤーのニンジャ反射神経は、かろうじてその正体を捉えた。落下してきた存在は、背中にくくりつけたザイルでバンジージャンプのように落下し、ナンシーを抱きかかえたのだ。
posted at 15:27:56

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げつけた。「イヤーッ!」謎の存在は軽やかにザイルを背中から取り外し、ナンシーを抱きかかえたまま、くるくると回りながら着地した。迷彩色のニンジャ装束、そして、異様な円錐形の編笠……。「ハジメマシテ。フォレスト・サワタリです」
posted at 15:32:51

「ハジメマシテ、フォレスト=サン。ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーはアイサツをかえした。「なるほど、セキュリティが薄いとは思ったが、ニンジャに護らせているわけか。フォレスト=サン。だが、俺と会ったが運の尽きだ」ニンジャスレイヤーは構えた。「ニンジャ殺すべし」
posted at 15:36:22

「噂は聴いておるぞ、ニンジャスレイヤー=サン」フォレスト・サワタリはナンシーを床に投げ捨てた。なんと!わずかな時間で彼女の肢体はザイルによってきつく縛り上げられていた。猿轡まで噛ませる念の入りようである。フォレストは笑い、背中の竹槍を取り出した。
posted at 15:41:16

「残念ながらすこしガテンが違うぞ、ニンジャスレイヤー=サン。おれはヨロシサンのセキュリティでは無い」「何だと」「むしろ、道中を掃除してやった事を感謝しろ。おれはついさっきヨロシサンを退職したのだ。このバイオ筋力とニンジャソウルがあわされば千人力。サラリマン生活ともオサラバだ」
posted at 15:56:39

ニンジャスレイヤーはフォレストに攻撃を加えるべく、ゆっくりとフットワークする。しかし竹槍を構えたフォレストに、つけいる隙は見当たらなかった。フォレストは続けた。「おれはソウカイヤにも興味はない。だが、この美女は連れ帰っておれのヨメにしようと思う。そこをどけ」「断わる」
posted at 16:01:09

「イヤーッ!」フォレストが先制した。竹槍をしごきながらの突進だ。ニンジャスレイヤーの回避方向を巧みに牽制しながら、網笠ニンジャが迫る。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは竹槍をかわしつつ、チョップで叩き折ろうとした。しかし竹はニンジャスレイヤーのチョップを受けてもびくともしない。
posted at 16:09:00

「無駄だニンジャスレイヤー=サン。バイオ・バンブーは鋼の四倍の強度を誇る」フォレストの容赦無い連続攻撃は反撃を許さず、ニンジャスレイヤーは壁際へと追い詰められていた。
posted at 16:11:25

「ワッショイ!」ニンジャスレイヤーが跳躍した。背後の壁のシリンダーを蹴っての二段ジャンプである。ニンジャスレイヤーはフォレストの頭上高くを飛び越しながら、無数のスリケンを投げつけた。タツジン!フォレストの背中は無数のスリケンを受けてハリネズミのようになるだろう!
posted at 18:48:15

「イヤーッ!」だが、見よ!フォレストは竹槍を捨て、頭の編笠を手に持つと、それを盾のように用いて、飛び来るスリケンをすべて受けてしまった。なんたる鮮やか!フォレストはスリケンが突き刺さった編笠をニンジャスレイヤーに投げつけた。
posted at 18:58:16

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは編笠をチョップで叩き落した。だがそれは囮であった!フォレストはその隙に弓矢を取り出し、引き絞っていた。「イヤーッ!」放たれた矢にはもちろんアンタイ・ニンジャ・ウイルスが塗布されている。ニンジャスレイヤーはすんでのところでブリッジし、それを避けた。
posted at 20:56:40

「決着がつかんな、フォレスト=サン。次の曲芸を見せてみろ」ニンジャスレイヤーは手招きの仕草で挑発した。「言われんでも見せてやるわ」フォレストは両手にマチェーテ(山刀)を握った。二刀流である。
posted at 21:04:15

「サイゴンを知っているか。お前にナムの地獄の一端を見せてやろう」フォレスト・サワタリはぶつぶつと呟きながら両手のマチェーテを振り回す。ニンジャ・ソウルが有する記憶と、フォレストの意識が混濁しているのだ。危険な状態であった。
posted at 23:42:54

「イヤーッ!」フォレストがしかけた。めまぐるしいマチェーテの斬撃がニンジャスレイヤーを襲う。ニンジャスレイヤーはチョップで連続攻撃をいなしつづける。皆さんはお気づきだろうか?彼は反撃の機会をほとんど捉えていないのである。このままではいずれスタミナが底をつくのではないか!?
posted at 23:47:57

だが、ニンジャスレイヤーはただいたずらに時間を稼いでいたのでは無かった。耐えに耐えながら、フォレスト・サワタリの攻撃リズムにわずかな瑕疵が生ずる瞬間を待ち構えていたのだ。
posted at 23:56:10

何度ワザアリを取ろうと、最後にイポンを取られれば、死、あるのみ。ジュー・ジツの教えはそのままニンジャの容赦なき闘いの真実でもあった。「イヤーッ!」フォレストが交互に振っていた両手のマチェーテを、同時に振り下ろした。そこに一瞬生じた「溜め」を見過ごすニンジャスレイヤーではない!
posted at 00:04:59

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの反撃はイナズマのような速度であった。振り下ろしたフォレストのマチェーテがとどくよりも早く、ニンジャスレイヤーは宙返りをしながら、フォレストの顎を蹴り上げていた。「グワーッ!」伝説のカラテ技、サマーソルトキックである。
posted at 00:09:12

空中へ跳ね上げられたフォレストの身体を、斜めに跳んだニンジャスレイヤーの追撃がさらに上へと弾き飛ばす。「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 00:12:37

追撃は終わらない。フォレストをさらに打ち上げたのち、ニンジャスレイヤーはシリンダーを蹴って、ふたたび斜め上にフォレストを弾き飛ばした。「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 00:15:36

さらにニンジャスレイヤーはシリンダーを蹴り、より上空へフォレストを打ち上げた。「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 00:17:46

ジグザグの軌道を描いて上昇するニンジャスレイヤーが、上へ上へと、フォレストの体を弾きあげていく。「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 00:21:01

この円柱状の施設を、一体何メートル上昇していったのだろうか?防御する力すら奪われ力なく宙を泳ぐフォレストの真上で、空中のニンジャスレイヤーが踵を高く振り上げ、叩きつけるように、蹴った。「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 00:37:05

フォレストは、コンクリートにめり込む程の衝撃とともに床に叩きつけられた。すこし遅れて、ニンジャスレイヤーは猫のように静かに着地した。
posted at 00:43:57

床で呻くナンシーの拘束を素早く解き放つと、ニンジャスレイヤーは促した。「カタは付いた。急げ。何が起こるかわからん」ナンシーがよろめきながらモニター室へ入っていくのを見届けたのち、今度はフォレストを見下ろした。「カイシャクしてやる」うつ伏せの頭部を踏み潰すべく、足を振り上げる。
posted at 09:11:56

「ナムサン!」ニンジャスレイヤーは容赦なく踵を振り下ろし、フォレスト・サワタリの頭部を踏み潰そうとした。そのときである!「イヤーッ!」
posted at 09:14:00

どこからか飛んできた紫色の細長い縄のようなものがフォレストの頭に巻きつき、彼の体を床から引き剥がした。トドメを刺しそこなったニンジャスレイヤーは、縄が飛んできた方向へ向き直った。ニンジャスレイヤー達が侵入してきたゲート方向、来た道である。
posted at 09:17:28

「情けねえ大将もあったもんだぜ!」毒づきながら姿をあらわしたのは、悪夢的な存在であった。体長2メートルを超す巨大なカエルにまたがったニンジャが、気絶したフォレストを小脇に抱えていた。カエルがクチャクチャと口を開閉する時、紫色の不気味な舌が見え隠れした。縄の正体はこれだ。
posted at 09:31:34

「ドーモ、ハジメマシテ。フロッグマンです」そのニンジャはカエルの上からアイサツした。さらに奥の闇から這い出て来るものがあった。床にこぼれた水銀のような質感の、スライム状の液体が滑り出てくる。ニンジャスレイヤーの眼前で液体は盛り上がり、人間のシルエットを形作ってゆく。
posted at 09:36:40

なんたる不可思議!人型に形成されたそれは、いつしか銀色のニンジャ装束を着たニンジャになっていた!「ドーモ、ハジメマシテ。ディスターブドです」銀色のニンジャがアイサツした。
posted at 09:55:37

さらにもう一人、ゲートの奥からのそのそと姿を現した。そのニンジャには腕が四本生えていた。「ドーモ、ハジメマシテ。ノトーリアスです」
posted at 10:13:34

新手の三人はどれも異様な風体であった。生き物の摂理を歪めたようなその佇まいは、このヨロシサン・バイオプラントの何らかの所業を想像させる。「ドーモ、ハジメマシテ。ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーはアイサツを返した。
posted at 10:19:22

モニタ室から出て来たナンシーは新手のニンジャを認め、その場に凍りついたように立ち尽くした。「いったいこれは……」フロッグマンがのそりと進み出た。「ニンジャスレイヤー=サン。とりあえず、今日のところはここまでにしねえか。俺たちの大将はこんな有様だ。一方、このままやればお前は三対一」
posted at 10:27:19

「オレはやってもいいぜ!」四本腕のノトーリアスが口を挟んだ。「オレのバイオ・イアイドは無敵だからな!」「だまれノトーリアス=サン!」ぴしゃりとフロッグマンが言い放った。「まあとにかく、痛み分けにしねえか。このままやればお互い無事では済まねえ。利害もねえ。俺たちは自由が欲しいのさ」
posted at 10:31:22

「何者だ、お前達は。ヨロシサンのニンジャか」ニンジャスレイヤーはカラテの構えを解かずに問うた。「そうでもあり、そうでもない。いや、そうだった、と言うべきか」フロッグマンは小首を傾げた。「俺たちは今日からサヴァイヴァー・ドージョーだ。大将と共にこの施設からオサラバってわけよ」
posted at 10:59:39

フロッグマンは背中のマキモノを広げて見せた。威圧的な筆致で「サヴァイヴァー・ドージョー」と毛筆されている。「俺たちはこのプラントのバイオニンジャ実験体だ。しかし弱者の命令を事を聞くのもバカらしい。だから退職する。自由!」「自由!」ディスターブドが復唱した。
posted at 11:20:01

「まあそんなわけで、おれたちはこれからもう一人、地下レベルで眠ってるお仲間を迎えに行かにゃならん。お前には興味がねえのだ、ニンジャスレイヤー=サン。うちの大将は、おおかたアレだろ?そこの姉ちゃんにちょっかいでも出したんだろ。続きは次に会った時でよかろう?」
posted at 11:23:42

「オレは今でもいいぜ!オレのバイオ・イアイドは…」「だまれノトーリアス=サン!目的を忘れるな。……ニンジャスレイヤー=サン、その沈黙、同意と見てイイな?それじゃあな。オタッシャデー!」フロッグマンは地面に閃光弾を投げ付けた。
posted at 11:28:25

正視できぬ光の爆発。それが収まると、フォレスト・サワタリと三人の異形ニンジャは影も形も消え失せていた。「…ともかく、仕事は済んだわ」やがてナンシーが言った。「ウイルス・プログラムが、バイオマッポやクローンヤクザの遺伝子設計図を改竄した。これでヨロシサンの計画は当面、めちゃくちゃ」
posted at 11:32:57

「それはなによりだ」ニンジャスレイヤーは言った。「約束のデータをよこせ、ナンシー=サン」一瞬の緊張があった。ナンシーは肩をすくめた。「今はデータを頂いただけ。解析はこれからよ、あたしを信用して。さっさと出ましょう、こんな場所」
posted at 11:41:44

「……」ニンジャスレイヤーはゲートへ向かって歩き出した。ナンシーはもう一度肩をすくめた後、彼に続いて歩き出した。
posted at 11:44:05

(「アポカリプス・インサイド・テインティッド・ソイル」おわり)
posted at 11:49:38

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 16:39:56

NJSLYR> ユーレイ・ダンシング・オン・コンクリート・ハカバ #1

101009

「ユーレイ・ダンシング・オン・コンクリート・ハカバ」
posted at 21:00:48

築数十年の十五平米ファミリーマンション、「ロイヤルペガサス・ネオサイタマ」の薄暗く冷たい和室で、合成綿布のフートンに包まった男が呻き声をあげていた。小さな網戸から忍び込んでくる重金属酸性雨の雨音と雨粒が、部屋に不快な湿気をもたらしている。
posted at 21:03:57

部屋の端には、天井まで積み上げられたUNIXサーバーの群が巨大なハカイシのように聳え、赤と緑のランプをホタルのように明滅させていた。その背後には、ウドンじみたケーブル類が束になっている。砂壁には若い男女と小さな子供が写った写真が額縁に入れられて、何枚も飾られていた。
posted at 21:05:46

男は裸だった。その逞しい肉体は一部が焼け焦げて黒ずみ、無数の傷跡ゆえに、まるで肉体がショウギ盤と化したかのような有様だった。男はひときわ大きな呻き声を喉の奥から搾り出し、苦しげに寝返りを打つ。「安らぎ」と毛筆体でプリントされたフートンが、まるで芋虫のように蠢く。
posted at 21:07:15

「フユコ…! トチノキ…!」彼が妻子の名を呼んだその瞬間、男の全身を覆う傷跡から血が滲み出し、その血は一瞬にして微細繊維状に編み上げられ、赤黒いニンジャ装束へと変わった。男の体は、湿っぽいフートンの中で、一瞬にしてニンジャ装束に包まれたのだ。
posted at 21:08:47

「あの時、あの時、何故俺は……!」男はフートンから右手だけを突き出し、空中で繰り返しチョップをくり出した。あまりの速さに衝撃波が生まれ、砂壁にかけられた額縁のひとつに小さなヒビが入った。
posted at 21:09:31

彼のチョップは、戦車の装甲をもひしゃげさせ、ソウカイ・ニンジャの首さえも一撃でへし折る。だが、今彼が戦っている相手は、肉体を持つ敵や鋼鉄のマシーンではない。彼の頭の中にだけ存在する、己の過去の記憶なのだ。
posted at 21:10:34

ヒビの入った額縁がタタミに落ちて転がった。写真の裏には、「フジキド家の宝」と書いてある。かすかな電子音と重金属酸性雨の雨音に塗りつぶされた暗闇の中で、男はかっと目を見開き、妻子の名を再び呟いた。彼こそはフジキド・ケンジ。今の名は、ニンジャを殺す者、ニンジャスレイヤーであった。
posted at 21:12:22

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posted at 21:12:54

ズンズンズンズズ、ズンズンズンズズ、ズンズンズンズズ、ズンズンズンズズ。非人間的で無機質なインダストリアル・テクノの重低音が、ジンジャ・クラブ「ヤバイ・オオキイ」から深夜のネオサイタマへと漏れ出してくる。
posted at 21:14:37

クラブのカンバンには、ヨウカンのように黒く真四角なサイバー調サングラスをかけたオイランの絵が描かれいる。サングラス部分は電飾仕様になっており、ミステリアスな薄笑いとともに「毎日楽しい」「実際楽しい」「金曜夜はユーレイ・ナイト」などの刹那的なメッセージを発し続けていた。
posted at 21:16:05

ここは、ネオサイタマ有数の富裕層居住地域「カネモチ・ディストリクト」の八番街。通称「カネモチ8」。平安時代には、丘の上に築かれた厳粛な霊場であったが、現在となってはネオ・カブキチョと並ぶいかがわしい繁華街のひとつへと堕している。
posted at 21:17:21

平安時代から続いたこの由緒正しいジンジャ・カテドラルも、今となっては、虚無的なカネモチ・ディストリクトの象徴と化している。ここは今から数年前に、オムラ・インダストリ系列のアミューズメント会社によって神主ごと買収され、サイバーゴス系クラブ「ヤバイ・オオキイ」へと変わったのだ。
posted at 21:18:29

ライオンの顔がプリントされたTシャツを着込み、威圧的に腕組みしたメキシコ系黒人ゴメスが、サイバー調サングラスをかけてクラブのトリイの前に立っていた。今夜は金曜だ。ユーレイ・ナイトに相応しい格好をしてこなかった愚かな客を追い返すのが、時給五百円でゴメスに与えられた仕事なのである。
posted at 21:19:33

実際、カネモチ8エリアにやってくる客の9割9分は、富裕層ではなく、富裕層と近づきになりたいと考えるカチグミ・ワナビー達だ。そういった連中の中には、暴力をもって何かを強制しないといけない無教養で無軌道な若者が、極めて多いのである。
posted at 21:20:04

「カラテ十三段」「殺人のライセンス」「日本語を理解しない」といった戦慄のメッセージが、ゴメスの顔の半分以上を覆うサイバー調サングラスの液晶面を右から左に流れ、彼の仕事を大いにやりやすくしていた。
posted at 21:20:28

トリイの前に新たなキャブが止まり、不健康そうなユーレイ・ゴスガールが姿を現す。ナチョス・ガムをくちゃくちゃと噛みながら、ゴメスは偉そうに頷き、顎をしゃくってクラブへの入場を促した。簡単な仕事だ。
posted at 21:55:34

しかし次の客の対応は、ゴメスに警察犬のような注意深さを求めた。笠をかぶり、ねずみ色のスーツの上にトレンチコートを羽織った50がらみのサラリマンが、手元のメモを見ながらトリイの前で立ち止まったのだ。その男は、トリイの向こうに聳え立つジンジャ・カテドラルを見て忌々しげに舌打ちする。
posted at 21:56:54

どう見てもクラブの客ではない。日本語のわからないゴメスにも、それは即座に判断できた。では、ネオサイタマ・シティコップの放ったマッポだろうか? そんな連絡は受けていない。よく見ると、笠の下に覗くくたびれた顔は、ほのかに赤く染まっていた。成る程、酒に酔ったサラリマンか。
posted at 21:57:35

ゴメスは逞しい胸板を強調してから、哀れなサラリマンに教え諭すように、サイバー調サングラスの液晶面を指差した。「カラテ十三段」「殺人のライセンス」「日本語がわからない」。まともな相手であれば、これを読んだだけで震え上がり、自分の間違いに気付いて立ち去るだろう。
posted at 21:58:12

「イチタロウの馬鹿め……」しかし、くたびれたサラリマンはそ呟きながらゴメスを無視し、この巨漢の横を素通りして、つかつかとトリイをくぐろうと歩き始めたのだ。ゴメスは丸太のような腕を伸ばしてサラリマンの笠をひっつかんで奪い取り、それを車道に向けてフリスビーのように放り投げた。
posted at 22:04:04

サラリマンは不機嫌そうに振り向く。ゴメスは軽い挨拶とばかりに、野太い右腕でサラリマンの顔面めがけてパンチをくり出した。サイバー調サングラスの液晶面には、まるでこの瞬間を待っていたかのように、偶然にも「ナムアミダブツ」の七文字が光る。
posted at 22:05:21

ゴメスの考えによれば、サラリマンは地面に這いつくばり、そのままゴメスに尻を蹴られてトリイの外に放り出されるはずだった。だが、ゴメスの放ったパンチは空を切り、それどころか、サラリマンがくり出した真のカラテ・パンチによって、彼のサイバー調サングラスは粉々に砕かれてしまったのだ。
posted at 22:07:48

「イヤーッ!」そのサラリマンはトレンチコートを威勢よく脱ぎ捨て、ねずみ色の背広をあらわにして、空中に三発ほどパンチと手刀を叩き込む勇ましいカラテの型を見せた。その背広の腰の辺りには、年季の入ったブラックベルトが巻かれており、この男が真のカラテ使いであることを暗示していた。
posted at 22:09:21

「さて、こんな事をしてしまっては、もう後戻りできんなあ」ひととおりカラテの型を終えると、サラリマンは地面に這いつくばるゴメスの巨体を見下ろしながら、悲壮感に満ちた調子で溜息をつく。「だが何としても、俺はイチタロウを連れて帰るぞお。鼻に輪を括り付けてでも連れ帰ってやる」
posted at 22:10:59

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posted at 22:11:12

その頃、ロイヤルペガサス・ネオサイタマの一室では、フジキドが今なお過去の亡霊と戦っていた。「俺がもし、あの時、ああしていたら……!」フジキドが苦しげに寝返りを打つと、彼の体を包んでいた赤黒いニンジャ装束は一瞬のうちに灰に変わって消え去り、傷だらけのフジキドの肉体があらわになった。
posted at 22:22:04

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posted at 22:25:37

ズンズンズンズズ、ズンズンズンズズ、ズンズンズンズズ、ズンズンズンズズ。サイバーテクノの重低音に合わせて、姿の見えないDJがネンブツのようなMCを繰り返し唱えながら、終末的なパイプオルガンを弾きならす。「ナムサン、ナムサン、ナムアミダブツ、ナムサン、ナムサン、ナムアミダブツ」と。
posted at 22:26:40

数百名を収容するジンジャ・クラブ「ヤバイ・オオキイ」のホール内は、ピンク、ターコイズ、オレンジなどのけばけばしいライトに目まぐるしく照らし出され、ホールの四方を取り巻く長大なショウジ戸には、ユーレイ・ゴスたちの影絵が刻み付けられていた。
posted at 22:30:51

無数のローソクが立てられた大燭台が天井から六つ吊られ、鎖を軋ませながら沈没寸前の難破船のように揺れて、炎の軌跡を描いていた。かつて大仏が鎮座していた北の壁にはスクリーンが置かれ、釜茹でにされるキリストや、逆さ写しのネンブツといった軽薄で悪魔的な映像が洪水のように映し出されていた。
posted at 22:33:46

ユーレイ・ゴスの服装は実に特徴的だ。男は病的なまでの細身といかり肩を強調したゴシック調のジャケットか、引き締まった筋肉をアピールする黒い網目のロングTシャツを着込んでいることが多い。
posted at 22:35:21

一方で、女はオイランじみた魅惑的な和服か、古城に佇む吸血鬼を髣髴とさせる純白か漆黒のドレスに身を包み、コルセットを巻き、桃のような胸元を強調していた。誰も彼も、最新の流行から外れない最新のユーレイ・ゴス・モードである。
posted at 22:36:15

また、ユーレイ・ゴスたちは皆、顔にオシロイを塗りたくり、死体のように目の周りを縁取りしている。また、男も女も紫や黒の口紅を塗り、ハカバの香りの香水を身に纏っている。さらに印象的なのは、皆頭にフンドシの紐を巻きつけ、その死体じみた顔を真っ白い布で覆っていることだ。
posted at 22:41:11

これは日本の伝統的な死装束であり、ニルヴァーナにおいてホトケと一体化するためにカンオケに入る死体だけにしか許されていない、神聖で厳粛な装いである。古き善き時代には、子供がちょっとでもこのような悪戯をしようものなら、祖先を侮辱するということで親に殴られたものだ。
posted at 22:42:38

だが、すべてのモラルと伝統的文化が商業主義によって破壊され蹂躙されたマッポーの世において、若者達は誰にも咎められることなく、死装束すらも何食わぬ顔で身に纏うのであった。ナムアミダブツ! なんたる背徳か!
posted at 22:43:47

しかし、もはや自分達には何一つ誇るべき美徳は無いのだというその事実を、若者達も少なからず自覚している。自分達がユーレイにも等しい無価値で虚無的な存在であることを皮肉るように、ユーレイ・ゴスたちは非人間的なビートに乗って、今夜もだらしなく踊るのだった。オーボンの夜の亡霊のように。
posted at 22:46:10

一方で、表面的なクールさにもこだわるユーレイ・ゴスたちは、すべてにおいて不吉なことを好む。このため、ジンジャ・カテドラル内で最も不吉な方角であるとされる北東の一段高くなったテーブル席「キモン」には、最も高いランクに属する客しか座ることを許されないのだ。
posted at 22:47:30

キモンに座るエリート・ユーレイの若い男6人は、ホールの中央で踊り狂う男女を見ながら、今夜の相手を物色していた。
posted at 22:48:32

「僕はあのオレンジ色の髪の男の子がかなりKawaiiだと思うね。君はどうするんだい、カーディナル・ダークソード?」と、全身をレザーボンテージで包んだマーシレス・エンジェルが問う。…もちろん、これらは一般的な日本人の名前ではない。彼らは皆本名を隠し、IRCネームで呼び合うのだ。
posted at 22:49:31

「そうだね、僕は……」漆黒のマニキュアを塗った華奢な指先を、そっと紫色の口元に押し当てながら、カーディナル・ダークソードと呼ばれた若者は気だるそうに返事をする「ウシミツ・アワーに、ブラッディ・アゲハって女の子と待ち合わせをしているんだ。そろそろ来るんじゃないかな」。
posted at 22:51:20

奇しくも時刻はウシミツ・アワー。ジンジャ・カテドラルの鐘が突き鳴らされ、不吉な音を奏でる。カーディナル・ダークソードとマーシレス・エンジェルがそろって目をやると、果たしてホールの南にあるショウジ度が開き、電子太鼓が打ち鳴らされ、新しい客がホールに姿を現した。
posted at 22:54:15

しかし、そこに現れたのは刺激的な服装に身を包んだユーレイ・ゴスガールではない。それは、ねずみ色の背広に身を包み、ブラックベルトを巻いた、明らかに異質な、酒に酔った薄汚いサラリマンであった。周囲のユーレイ・ゴスたちがサラリマンから離れ、彼は極彩色の海に浮かぶ岩のように孤立した。
posted at 22:55:29

マーシレス・エンジェルは、電子ジャーの中に入ったゴキブリを見るかのように嫌悪感をあらわにし、吐き捨てる「おいおい、ゴメスは何をやってるんだ。あの小汚い害虫をつまみ出させろ。急いでセキュリティを呼ばないと」。
posted at 22:57:23

その横で、カーディナル・ダークソードは顔を青ざめさせていた。フンドシで自分の顔が隠され、表情が読めないことを、これほど幸運に思ったことはない。何しろ、ヤバイ・オオキイに突如現れた闖入者は、他ならぬ自分の父親だったのだから。
posted at 22:59:13

ショウジ度があちこちで開き、厳しいメキシコ人のセキュリティ・チームが数名現れて、一斉に侵入者のほうへと向かう。荒事に巻き込まれたくないユーレイ・ゴスたちは、モッシュピットを作るように距離を取りながらサラリマンを囲み、そこへセキュリティたちを導いた。
posted at 23:09:06

「面白いことになってきたわ…」ホールの西でそつなく踊っていたゴスガールの1人が、黒髪オカッパのカツラを脱ぎ、フンドシを取り去る。そこに現れたのは、ソーメンのようにしなやかなブロンドと、コーカソイドの顔立ち。彼女は小型カメラを構えながら、人ごみを掻き分けサラリマンの方向へと進んだ。
posted at 23:12:22

一方その頃、ロイヤルペガサス・ネオサイタマの一室では、フジキド・ケンジが今なお過去の亡霊にうなされていた。「俺がもし、あの時、ああしていたら……!」フジキドが苦しげにフートンの中で寝返りを打つと、傷跡から血が滲み出して繊維状に織られ、彼の体を包む赤黒いニンジャ装束へと変わった。
posted at 23:15:00

「ユーレイ・ダンシング・オン・コンクリート・ハカバ」セクション1終わり。セクション2へ続く。
posted at 23:18:20

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 23:18:25

「ユーレイ・ダンシング・オン・コンクリート・ハカバ」 セクション2
posted at 18:37:44

ジンジャ・クラブ「ヤバイ・オオキイ」のホールは血生臭い修羅場と化した。非人間的なユーレイテクノのビートに乗って、厳ついメキシコ人のセキュティたちが5人がかりで1人の泥酔サラリマンを止めようと襲い掛かる。顔色の悪いユーレイ・ゴスたちが、それをカブキショウのように取り囲んで見守る。
posted at 18:58:31

この程度の乱闘は、月に1~2度ある。一種の見世物のようなものだ。だが、いつもと違う点がひとつだけ。この泥酔サラリマンは、ネズミ色の背広の上から、くたびれたブラックベルトを巻いているのだった。
posted at 18:59:30

「イヤーッ!」「グワーッ!」サラリマンがくり出すチョップによって、意気揚々と向かってきた1人目のメキシコ人のサイバー調サングラスが割られる。「イヤーッ!」サラリマンは間髪いれず、相手のみぞおちに、内臓がハレツするほどのトーキックを決めた。「グワーッ!」
posted at 19:59:31

「イヤーッ!」「グワーッ!」サラリマンがくり出すチョップによって、意気揚々と向かってきた2人目のメキシコ人の首の骨が折られる。「イヤーッ!」サラリマンは間髪いれず、相手の股間に、股間がハレツするほどのトーキックを決めた。「グワーッ!」
posted at 20:03:54

「イヤーッ!」「グワーッ!」サラリマンがくり出すチョップによって、意気揚々と向かってきた3人目のメキシコ人が死ぬ。「イヤーッ!」サラリマンは間髪いれず、4人目のメキシコ人を殺すほどのトーキックを決めた。「グワーッ!」
posted at 20:05:31

「なんだありゃあ、ロドリゴの野郎、意気地のねえ」セキュリティ控え室では、オムラ・インダストリ製のプラズマ液晶モニタを眺めながら、バンザイ・テキーラとナチョ・スシを交互に口に運び、巨漢のメキシコ人がイガラ声で呟いていた。「生きて帰ってきたら、股間にマリアの刺青を入れてやるぜ」
posted at 20:10:56

「あなたの出番ってことですよ。スコルピオン=サン。何で出動してないんですか」ショウジ戸を開けて、光沢のあるスーツに身を包んだカチグミ・サラリマンが冷や汗をかいて入ってきた。「カラテですよカラテ。あんな奴が殴りこんでくるなんて前代未聞だ。万が一、金持ちの客に被害が出たら賠償問題だ」
posted at 20:19:12

「カラテが何だ」スコルピオンと呼ばれた巨漢は、ナイフでナチョ・スシの海苔巻きを刺し、タールのようにどす黒いショーユに浸してから傷だらけの唇の中へと押し込んだ。「メキシコ重犯罪刑務所で、両手に戦闘用の鎌を持った4人のカラテ野郎に囲まれた時のことだ。オレはまだ当時14歳だったが……」
posted at 20:23:05

「シャーラップ! タイムイズマネー!」カチグミ・サラリマンが切れた。「あなたとあなたのメキシコ人傭兵団を雇うのに、ソウカイヤにいくら払ってると思ってるんですか? 時給にして、ゴメスのそれのゆうに数千倍ですよ?」
posted at 20:26:57

「わかったよ、行きゃあいいんだろ、モモタ=サン」スコルピオンは、2メートル超の筋骨隆々の巨体を揺らして、だるそうに立ち上がった。黒Tシャツからはみ出した両の上腕に、凶悪そうな蠍の刺青が見える。思い出したようにコスタリカ産の葉巻を取り出して、無骨な指で挟んだ。「その前に、火貸せや」
posted at 20:32:06

「それをひと吸いしたら行くんですよ」モモタ=サンと呼ばれた出っ歯のサラリマンは、苛立たしげに金無垢のジッポライターを取り出し、火をつけた。しかし巨漢のメキシコ人は、葉巻を差し出す代わりにバンザイ・テキーラを一気飲みし、口元からスプリンクラーのような勢いで飛沫を噴き出したのだ!
posted at 20:32:55

「アイエエエエエエ!!!」テキーラの飛沫はジッポライターの炎で猛烈な火炎放射に変わり、モモタ=サンを火ダルマに変えた。ナムアミダブツ! これぞ平安時代より伝わる殺人ジュージツのひとつ、カトン・ジツに相違ない! ではこのメキシコ人はもしや……!
posted at 20:34:55

「オレはな、武勇伝を遮られんのが、一番嫌いなんだよ」スコルピオンはTシャツを脱ぎながら、吐き捨てるように言った。「アイエエエエエ!」モモタ=サンは火を消そうと畳の上を激しく転がったが、10秒も経たぬうちに、炙られて大根オロシを添えられたマグロの切身のようにおとなしくなった。
posted at 20:35:57

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posted at 20:39:21

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」ホールでは、泥酔サラリマンの大立ち回りが今なお続いていた。だが、彼も無傷ではない。時折メキシコ人のパンチが炸裂し、サラリマンの顔を豆ダイフクのように変形させていた。鼻血の量もおびただしい。おそらく鼻骨が折れているだろう。
posted at 20:40:42

サラリマンは目的地を知っていた。彼は迫り来るメキシコ人を次々となぎ払いながら、ユーレイ・ゴスの大波を掻き分け、北東のキモン・テーブルへと向かうのだった。キモンでは、腰を抜かしたカーディナル・ダークソードとマーシレス・エンジェルだけを残し、他の全員がすでにこの場を逃げ出していた。
posted at 21:35:07

「見つけたぞぉ、イチタロウ」泥酔サラリマンは、肩で息をしながら、カーディナル・ダークソードへと歩み寄る。そして血まみれの手で、震える放蕩息子の左手を取った。「父さんの会社が買収された。父さんはクビだ。退職金は出ないどころか、前のプロジェクトのハラキリをさせられて十億の借金だ」
posted at 21:37:33

「君の本名はイチタロウ? まさかね!」マーシレス・エンジェルは、汚物でも見るような顔でカーディナル・ダークソードを見た。 「そんな名前は知らない! 僕はこんな薄汚れたネズミのことなんて知らない!」カーディナル・ダークソード、イコール、イチタロウは、この世の終わりのように絶叫した。
posted at 22:36:26

「イチタロウ、一緒に帰るぞぉ。借金を返すために、父さんと一緒にサイバー・カラテドージョーを開こう。父さんの家は、三代前までは中国地方でエビを取りながらカラテドージョーをやっていたんだ。このブラックベルトは、江戸時代から父さんの家に伝わる、由緒正しいカラテの証なんだ」
posted at 22:38:06

「お前なんか知るものか!」カーディナル・ダークソードは、紫色の唇をわなわなと震わせながら言い放った。 「イチタロウ! しらを切るのもいい加減にしろ! 父さんはお前のIRCアカウントにログインして履歴を調べて、この退廃的ジンジャ・クラブを突き止めたんだ!」
posted at 22:41:32

「僕のIRCアカウントに、無断でログインした?!」イチタロウはもはや狂乱寸前の状態であった。逆上した彼は、浜辺に打ち上げられたホンマグロのように口をぱくぱくさせながら、胸元に忍ばせたゴシックナイフを震える右手で抜き、己の父親の心臓めがけて勢い良くそれを突き出した。
posted at 22:42:40

「イヤーッ!」「グワーッ!」だが無条件反射的に、サラリマンのパンチが息子の顔面へとしたたかにめりこんでいた。「イヤーッ!」さらに無条件反射的に、内臓をハレツさせるほどのトーキックが、息子のみぞおちに突き刺さった。「グワーッ!」
posted at 22:46:43

血を吐きながら倒れるイチタロウ。カランカランと虚しい音を立て、握っていたナイフが地面に落ちる。「イヤーッ!」サラリマンはネズミ色の背広を脱ぎ捨て、空中に三発ほどパンチを叩き込む型を見せた。それから怪鳥音とともに小さくジャンプし、革靴でナイフを踏みつけ粉砕した。インガオホー!
posted at 22:56:39

「イヤーッ!」興奮したサラリマンは、そのままキモン・テーブルの上に駆け上り、ハカイシ状の椅子に座っていたマーシレス・エンジェルの顔を散々殴りつけた。「グワーッ!」
posted at 22:58:27

「イヤーッ!」キモン・テーブルの上に勝ち誇るように立ったサラリマンは、ワイシャツも脱ぎ捨て上半身裸になり、空中に三発ほどチョップを叩き込むカラテの型を決め、ユーレイゴスたちに自らの強さを見せ付けた。その時だ。彼の背後に突如、黒い影が現れたのは。
posted at 23:01:44

「イヤーッ!」その黒い影はカラテ・サラリマンを背後から軽々と持ち上げると、そのままホールの壁に向かってウドンのもとか何かのように放り投げて叩きつけた。「グワーッ!」ジンジャ・クラブの分厚い木の壁が割れるほどの衝撃。猛烈な痛みがサラリマンの全身を襲った。
posted at 23:03:55

地べたに這いつくばったサラリマンは、おぼつかない視界のまま、自分を襲った新手の顔を見ようと体を起こした。
posted at 23:06:57

その巨漢は、下半身はニンジャ装束、上半身は裸、顔にはニンジャ頭巾という服装だった。丸太のように逞しい両の上腕には、凶悪な蠍の刺青が。背中にはマリアの図案と「サンタ・マリア」というゴシック体のカタカナが。腹には「悪いスコルピオン」とカタカナで彫られていた。全身刺青まみれである。
posted at 23:09:29

「ついにソウカイ・ニンジャのお出ましってわけね」ブロンドの女は小型カメラでスコルピオンの姿を撮影しながら、手持ちの違法改造モバイルフォンのアンテナを伸ばした。それから、モバイルフォンから生えたLANケーブルを、自分の右耳の左斜め上くらいに埋め込まれたバイオLAN端子へと接続する。
posted at 23:10:42

LANケーブルがジャックインされると、一瞬にしてナンシー・リーの精神の半分はサイバースペースへとダイヴした。これによって、彼女は通常のハードタイピングの数百倍の速さでIRCチャットを行えるのだ。一般人では受けることができない、違法サイバネティック技術のひとつである。
posted at 23:13:44

サイバースペースを飛ぶナンシー・リーの精神は、ネオサイタマ市警のサイバー・マッポ課に見張られた油断ならないIRC領域を高速で通過し、トリイの形をした電子暗号的シークレット・パッセージを8個くぐり抜ける。電子暗号をひとつでも間違えれば、彼女のニューロンは瞬時に焼ききれていただろう。
posted at 23:21:04

#NS_GOKUHI:NANCY:ニンジャスレイヤー! 今すぐ応答して頂戴! オムラ・インダストリとヨロシ=サン製薬とソウカイヤの3者を結ぶニンジャと腐敗の陰謀トライアングルが、いよいよ突き止められそうなの! あなたの助けが必要よ! ソウカイ・ニンジャらしきメキシコ人を尋問して!
posted at 23:30:12

しかし、ニンジャスレイヤーからの返答はない。ナンシーは精神を半分をジンジャ・クラブのホールに置き、ユーレイゴスたちの波に飲まれながらスコルピオンとカラテ・サラリマンの死闘を盗撮しながら、残り半分の精神力で、サイバースペースを飛び回りながらニンジャスレイヤーへの呼びかけを続けた。
posted at 00:11:09

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posted at 00:11:42

その頃、都心の片隅にあるロイヤルペガサス・ネオサイタマでは、フートンに包まったフジキド・ケンジが今なお過去の悪夢にうなされていた。「俺がもし、あの時、ああしていたら……!」
posted at 00:14:22

小さな網戸から忍び込んでくる重金属酸性雨の雨音と雨粒が、部屋に不快な湿気をもたらしている。今夜もまた、ストリートギャングとネオサイタマ・シティコップのカーチェイスや銃撃戦が、そう遠くないどこかでくり広げられているらしく、けたたましいサイレン音と銃声がしばしば雨音混じりに聞こえた。
posted at 00:16:50

だが、それらの音はフートンの中で芋虫のようにうごめくケンジ・フジキドの耳には届かない。彼の心は今、一瞬にして妻子を失いニンジャスレイヤーとして生まれ変わった、あの悲劇の夜へと引き戻されていた。そしていかなる光も、いかなる音も、今の彼の目と耳には届かないのだった。
posted at 00:18:28

「あの時、あの時、何故俺は……!」フジキド・ケンジは呻く。部屋の端に聳え立つUNIXサーバー群は赤と緑のランプを忙しく明滅させ、液晶面には「ユーガッタメッセージ」とカタカナが流れている。IRCメッセージ着信を告げる小鼓の電子音も鳴っているが、それら一切は彼の目と耳に届かないのだ。
posted at 00:23:10

「ユーレイ・ダンシング・オン・コンクリート・ハカバ」セクション2終わり。セクション3へ続く。(このエピソードは、3で完結予定です)
posted at 00:24:01

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 00:24:07

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 19:07:04

NJSLYR> ユーレイ・ダンシング・オン・コンクリート・ハカバ #2

101021

「ユーレイ・ダンシング・オン・コンクリート・ハカバ」 エピソード3
posted at 00:07:11

(あらすじ)ジンジャ・カテドラルを改装して作られた背徳的なサイバーゴス・クラブ「ヤバイ・オオキイ」で、今週もまたユーレイ・ナイトが催されている。そこに乱入してきた五十代の泥酔サラリマンは、エリート・ユーレイの1人であるカーディナル・ダークソード(本名イチタロウ)の父親であった!
posted at 00:09:47

サラリマンは会社が買収されたことを息子に告げ、「ヤバイ・オオキイ」のホールで乱闘を始める。強力なカラテ・マスターである彼の前には、メキシコ人セキュリティ軍団では歯が立たない。そこへ、ソウカイ・シンジケートのニンジャにして、メキシコ人傭兵団のボスでもあるスコルピオンが姿を現した。
posted at 00:11:06

客の1人に化け、ソウカイヤとオムラ・インダストリとヨロシ=サン製薬の間に存在する癒着関係を探っていたナンシー・リーは、思いがけぬニンジャの登場に歓喜する。ナンシーはサイバースペースにダイヴし、IRC緊急信号を送るが、ニンジャスレイヤーからの返答はない。何故か?
posted at 00:13:25

ニンジャスレイヤーこと復讐の戦士フジキド・ケンジは今、うらぶれたファミリーマンション「ロイヤルペガサス・ネオサイタマ」の暗い自室で湿ったフートンに包まり、独り過去の亡霊と戦っていたからだ……。(あらすじ終わり)
posted at 00:15:03

スコルピオンに放り投げられ、壁にしたたかに叩きつけられたカラテ・サラリマンは、背中と頭からおびただしい血を流しながら立ち上がり、カラテの型を決めた。「イヤーッ! イヤーッ!」ゆっくりと迫り来るスコルピオンを威圧するためだ。だが、その気合もニンジャには通じない。
posted at 00:20:24

「カラテ野郎、よく聞きな」スコルピオンは指の骨をバキバキと鳴らしながら、キモンの隅にサラリマンを追い詰める。「オレは12から25まで、メキシコ重犯罪刑務所で過ごした。当時オレと一緒に刑務所に入ったギャング団の仲間は、3人に1人のペースで死に、5年後に生き残ったのはオレ1人だった」
posted at 00:21:52

「イヤーッ!」サラリマンは相手の話も聞かずに、ジンジャ・カテドラルの壁を蹴って三角跳びをくり出し、痛烈なジャンプキックを敵の顔面に食らわせた。 「グワーッ!」不意を突かれたスコルピオンのニンジャ頭巾が剥げ、無骨なメキシコ人の顔が半ば露になる。メキシコライオンのように凶悪な顔が。
posted at 00:25:38

「コロセー! コロセー!」ユーレイ・ゴスたちは、ブラッディなショウタイムに狂喜乱舞した。ホールに鳴り響く非人間的なサイバービートは、さらに速度を増す。大仏の代わりに据え付けられた大スクリーンには、ライブ中継されるサラリマンの顔と、「ナムアミダブツ」の不吉な赤文字が映し出される。
posted at 00:29:06

「イヤーッ!」サラリマンは、中腰の姿勢で両手を痙攣させながら前に突き出すシコの構えを取り、スコルピオンを威嚇した。テーブルの下に隠れたイチタロウは、痛みに耐えながら目をこすった。最高にダサいネズミ背広を着ていたはずの父が、カラテの鬼と化し、すぐそこでニンジャと殺し合いをしている。
posted at 00:37:02

会社をクビになったこと、自分にまで借金返済の手伝いをさせようとしたこと、そして何よりIRCアカウントをハッキングし、挙句の果てには自分に暴行を加えた父の身勝手な行動は、絶対に許せない、とイチタロウは怒りに燃えていた。
posted at 00:40:17

だがそれと同時に、目の前で死闘をくり広げている父の姿を見ていると、空虚なユーレイの胸にはおよそ不似合いな、無骨で野蛮な衝動がふつふつと湧き上がってくるのだった。おお、ナムアミダブツ! それは、あまりにも危険な英雄的衝動である!
posted at 00:49:01

血を唾とともに吐き捨てながら、スコルピオンは不敵な笑いを笑う。「カラテ野郎、オレは武勇伝を遮られんのが一番嫌いなんだよ」そして腰に吊った二本のナイフを両手で抜き、その刃を地面と水平に構えた。ナイフを持つ両腕も水平に大きく広げ、そのまま腰を落とす。この奇妙な構えは何であるか?
posted at 00:53:32

中腰の状態で、しかし一分の隙も無いまま、スコルピオンはサラリマンめがけ滑らかに迫ってくる。江戸時代に途絶えたニンジャ・クランのひとつ、サソリニンジャ・クランの構えだ。スコルピオンに憑依したニンジャ・ソウルは、恐るべき暗殺剣の使い手、サソリニンジャ・クランのゲニンだったのであろう。
posted at 00:57:37

サラリマンは間合いを保ちながら、敵の動きを観察する。「「「何という構えだ。まったく隙がない。奴はまるで巨大なハサミを広げて獲物へ迫るサソリだ。恐るべきメキシコライオンサソリだ。……しかし見切った! 右のナイフの動きはフェイントだ。奴はきっと左から攻撃を仕掛けてくるに違いない」」」
posted at 01:03:50

「イヤーッ!」意を決し、サラリマンはチョップの構えのまま突き進んだ。「アミーゴ!」それを右から迎撃する、痛烈なナイフの一撃! 「グワーッ!」サラリマンは一瞬にして、右手右足を深々と突き刺された。「グワーッ!」激痛のあまり床を転げまわる。「グワーッ!」このままでは殺されてしまう!
posted at 01:05:58

「イヤーッ!」残った力を振り絞り、ネックスプリングで立ち上がると、サラリマンはパンチの構えのまま突き進んだ。「「「次は右から攻撃をくり出してくるに違いない!」」」
posted at 01:07:38

「アミーゴ!」それを狙い済ましたように左から迎撃する、恐るべきサソリの一撃! 「グワーッ!」サラリマンは一瞬にして全身20箇所をナイフで突き刺された。「グワーッ!」激痛のあまりサラリマンは床を転げまわる。ヒノキ材の床板が血で染まる。「グワーッ!」このままでは殺されてしまう!
posted at 01:08:53

「イヤーッ!」最後の力を振り絞りネックスプリングで立ち上がると、サラリマンはジンジャ・カテドラルの壁で三角跳びを決めてから、イナヅマのようなジャンプキックをくり出した。「「「サソリのハサミは水平方向にしか動かない。ならば上から!」」」
posted at 01:11:02

「アミーゴ!」なんとスコルピオンは、オジギをするように前傾姿勢を取ってトビゲリをかわした上に、逆立ちをするように高く蹴り上げた右足の裏で彼を迎撃したのだ。恐るべきサソリの尾の一撃! 「グワーッ!」サラリマンは一瞬で全身の骨が折れた。
posted at 01:12:16

「コロセー! コロセー!」ユーレイ・ゴスたちは、さらなる流血に大興奮した。ホールに鳴り響く非人間的なサイバービートはさらに速度を増し、大仏の代わりに据え付けられた巨大スクリーンには、ライブ中継される血まみれのサラリマンの映像と、「インガオホー」の赤いカタカナが刻み付けられる。
posted at 22:50:53

#NS_GOKUHI:NANCY:何をしているの! ニンジャスレイヤー! このままでは、あのサラリマンが殺されてしまう! いくらカラテのブラックベルトでも、ニンジャが相手では勝てるはずが無いわ!/// ナンシーが絶叫する。だが、依然としてニンジャスレイヤーからの応答は無い。
posted at 22:52:09

「あなたたち、あのニンジャを止めなさい!」業を煮やして理性を欠いたナンシー・リーは、周囲のユーレイ・ゴスたちにヒステリックに怒鳴り散らす。ようやく掴みかけたスキャンダルの尻尾を、こんなところで逃がしてたまるものか。「この人数なら、時間稼ぎにはなるでしょう!」
posted at 22:53:28

しかし、ユーレイ・ゴスたちは人間的反応を示さない。彼らはバーカウンターで供されるズバリ・リキュールやバリキ・カクテルのオーバードーズによって、トリップしているからだ。彼らはサイバーテクノに合わせて踊り狂い、「コロセー! コロセー!」とネンブツのようにくり返すだけなのである。
posted at 22:56:15

キモンでは、二者の戦いが佳境に入っていた。いや、もはやほとんど一方的なリンチである。サラリマンはハンニャ・ヴァンパイアが描かれたキモン・テーブルの上に横たわり、死んだマグロのように無力だった。スコルピオンは殺人板前のように繰り返し彼にナイフを突き立て、ツキジじみた血飛沫を飛ばす。
posted at 23:10:26

スコルピオンは極度のサディストであった。重犯罪刑務所で拷問を受け不能になった彼は、ナイフで敵をいたぶることによってのみ快感を得られるのだ。傷跡だらけの唇に笑みを浮かべながら、スコルピオンは唸る。「17の時、クリスマスの夜だった。オレは壁に追い詰められ、全裸にされ、背中に刺青を…」
posted at 23:14:09

「イヤーッ!」 突如、スコルピオンの背中に繊細なゴシックナイフが突き立てられる。「グワーッ!」不意を突かれ激痛にあえぐスコルピオン。 振り向くと、そこには違法薬物シャカリキ・タブレットのオーバードーズで勇気を奮い立たせ、痛みと恐怖を克服したカーディナル・ダークソードが立っていた。
posted at 23:17:29

カーディナル・ダークソードはもう一本のゴシックナイフを抜き、切先を向けてスコルピオンを威嚇した。だが、ニンジャの前でそんなこけおどしは何の役にも立たない。スコルピオンはサソリ・ファイティング・スタイルのまま迫り、左右からのナイフの応酬で彼の全身を切り裂いた。「アイエエエエエ!」
posted at 23:32:10

肩に排気ホースを備えた戦闘服のような衣装に身を包み、テクノ・オコトを弾き鳴らすVJカンヌシが、「ナムサン」とインカムに向けて絶叫すると、その言葉がかすれた赤文字となってスクリーン上に躍る。サイバービートに合わせた真白なライトの明滅が、キモンの死闘を前衛映像作品のように照らし出す。
posted at 23:35:49

精神の半分をサイバースペースにダイヴさせたまま、ナンシーはキモンでくり広げられる殺戮ショウを盗撮し続けた。ピュリツァー賞級の凄惨な光景のはずなのに、純白のプラスチックのごとき無機質な音と映像に圧倒され、恐怖の感覚が麻痺してゆく。自分も実体無きユーレイであるかのような錯覚に陥る。
posted at 23:48:49

「マズイわ、本格的にマズイのよ…」未だニンジャスレイヤーからの応答は無い。これ以上サイバー・マッポ課の監視の目を逃れながらIRCチャットを続けるのは、テンサイ級ハッカーの腕をもってしても困難だろう。前頭葉のニューロンがチリチリいい始めた。 ……その時、誰かがぽんと彼女の肩を叩く。
posted at 23:50:18

「ドーモ、ナンシー・リー=サンですね?」 彼女が振り向くと、そこには黒尽くめのニンジャが立っていた。ニンジャ頭巾からはウドンじみた何本ものLANケーブルが延び、背中に負った銀色の通信デヴァイスに接続されている。その目元は360度を監視できる円環型サイバーサングラスに隠されている。
posted at 23:54:20

「初めまして。ソウカイ・シンジケートのネット・セキュリティ担当、ダイダロスです」と、ニンジャは機械合成音のごとき不吉な声を発した。 ナンシー・リーは背筋が凍りつくような恐怖と敗北感と死の予感を味わう。ウカツ! ここにいたソウカイ・ニンジャは、スコルピオン1人ではなかったのだ!
posted at 23:55:45

「あなたのIPアドレスを解析し、ここにいることを突き止めました。私のハッキング能力の前では、ファイアウォールなどショウジ戸も同然なのです」ダイダロスはマジックハンドのような動きでナンシーの首を掴んだ。偶然にも結び目がほどけてゴスドレスが脱げ、コーカソイドのたわわな胸が露になった。
posted at 00:05:29

「ナムサン、ナムサン、ナムアミダブツ」折しもテクノビートはフェイドアウトを始め、VJカンヌシは説教台の上で両手を後ろに組み、中性的な声でクライマックスを歌っていた。「ナムサン、ナムサン、ナムアミダブツ。ナムサン、ナムサン、ナムサン、ナムサン、ナ、ナ、ナ、ナ、ナナナナナナナナナ-」
posted at 00:34:33

その刹那! ジンジャ・カテドラルの暗い天井アーチ付近から八枚のスリケンが立て続けに射出され、ホールにいた誰の目にも留まることなく暗闇をしめやかに切り裂いて飛ぶと、ガントレットのようなサイバー入力デヴァイスを纏うダイダロスの右腕に小気味良くカカカカカカカカ、と突き刺さったのだ!
posted at 00:40:23

「アイエエエエエ!」ダイダロスは悲鳴を上げ、ナンシーの首根っこから手を引いてユーレイ・ゴスたちの波の中へと退却した。後方支援役であるダイダロスにとって、ニンジャ相手の戦闘は荷が重い。たとえ姿が見えなくとも、スリケンを使う敵がいれば、それはニンジャとみて間違いないのである。
posted at 22:40:33

ナンシーはドレスの裾で胸を押さえながら上方を見た。ステンドグラス、鐘、アーチ、どこにもニンジャの気配はない。だがよく見ると、鎖で吊られた六個の大燭台の揺れが、微かに大きくなっている。“それ”は南西のウラキモンから進入してきた。そして燭台を跳び渡り、キモンへと向かっているようだ。
posted at 22:44:55

ナンシーがキモンの上にある大燭台に目をやるのとほぼ同時に、金属の千切れる嫌な音がし、数百本以上のローソクを抱えた大燭台が落下する。ユーレイ・ゴスたちは誰一人気付かないが、ナンシーの高解像度カメラは、燭台の上で腕を組んで立つニンジャの姿を確かに捉えていた。
posted at 22:52:26

「グワーッ!」イチタロウ親子への暴力に夢中になっていたスコルピオンは、上空から大燭台が落下してくることに気付かず、その巨大な鉄塊に踏み潰された。そして……タツジン! 大燭台に乗ったニンジャによる絶妙な落下角度調節により、キモン・テーブル上の親子はその下敷きとなる運命を逃れたのだ。
posted at 22:55:05

分厚いヒノキ材とコンクリートで作られたジンジャ・カテドラルの床が陥没し、埋め立てられたハカイシの群れが、薬物汚染された土の中から顔を覗かせる。煙幕弾を撃ち込まれたかのような砂煙が立ち、キモンの一角は視界ゼロ状態となった。消えずに残ったローソクの炎が、ヒトダマのように揺らめく。
posted at 23:00:39

この落下で、さしものスコルピオンも死んだか? いや、そんなことはない。彼は間一髪で燭台の落下を察知し、床を殴りつけてヒノキ材を割り、その下に身を潜めていたのだ。煙がたちこめたことは、彼にとってむしろ好都合である。この程度の砂煙は、砂漠地帯で育った彼にとって何の障害にもならない。
posted at 23:03:24

スコルピオンは獲物を狙うライオンの眼で、燭台の上に立ち直立不動の姿勢を取る敵の姿を観察した。相手は赤黒いニンジャ装束に身を包み、口元は「忍」「殺」と彫られた金属メンポで隠されている。スコルピオンは知らないが、彼こそはすべてのニンジャを殺す者、復讐の戦士ニンジャスレイヤーであった。
posted at 23:04:46

ニンジャスレイヤーはまだ動かない。いつものフジキドならば、敵ニンジャを完全に殺すため、すぐに次の攻撃に移るはずだ。しかし、今のフジキドの眼は、キモン・テーブルに釘付けになっていた。……この良く似た顔の二人は、どうやら親子か。そしてどう見ても、もはや命を取り留める見込みは無かろう。
posted at 23:10:34

サラリマンの顔を見て、フジキドは愕然とする。彼の顔は、フジキドの部屋の壁にかけられた、結婚式の写真の中にあった。彼の名はヤマダ・ヨリトモ副係長。サラリマン時代を過していたフジキドの最初の上司にして、結婚式の仲人をつとめてくれた、大切な恩人の一人であった。何たる悲劇的再会だろう。
posted at 23:18:32

敵が心を乱しているのを見て取ったスコルピオンは、床下に身を潜めたまま、腰に吊ったバンザイ・テキーラを一気に飲み干した。そして燭台に残ったローソクの炎を利用して、カトン・ジツをくり出す。狙いは無論、大燭台の上に立つニンジャスレイヤーだ。
posted at 23:24:21

オムラ社製軍用火炎放射器も真っ青の炎が、ニンジャスレイヤーに襲い掛かる。しかしニンジャスレイヤーは、見事なブリッジで火炎を避けた。さらに三回バク転を決め、キモン・テーブルの上にひらりと着地する。フジキドの中に宿るニンジャソウルが、間一髪で危険を報せたのだ。
posted at 23:31:22

「ノープロブレッモ!」スコルピオンは両手にナイフを持ち直して床下から飛び出すと、サソリの構えでニンジャスレイヤーに迫った。サソリ・ファイティング・スタイルは無敵だ。カラテだろうがニンジャだろうが、オレのナイフで滅茶苦茶にしてやる。スコルピオンの胸には、慢心にも似た自信があった。
posted at 23:34:43

ニンジャスレイヤーはテーブルの上に片膝を付き、バズーカを撃つような姿勢を取る。それから両腕を素早く回転させ、ピッチングマシーンのようにスリケンを高速連射した。スコルピオンの弱点が飛び道具であると、一瞬にして見抜いたのだ。「イヤーッ!」
posted at 23:38:10

「グワーッ!」スコルピオンの両目にスリケンが突き刺さり、壊れたトマトジュース・ディスペンサーのように血が飛び散った。スコルピオンはメキシコ語で罵詈雑言を吐きながら、闇雲にナイフを振り回す。ユーレイ・ゴスたちが十人ほど巻き添えを喰って血祭りに上げられた。
posted at 23:39:50

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは高く飛び上がり、空中でしなやかに身をひねって上下を入れ替える。頭が下に、脚が上に。それからジンジャ・カテドラルの天井を蹴って、自由落下速度にニンジャの脚力を加え、恐るべき亜高速のスピードでスコルピオンめがけ急降下した。
posted at 23:47:49

死のドリルがスコルピオンに直撃する。「グワーッ!」スコルピオンは腹に巨大な穴を穿たれ、その場に呆然と立ち尽くす。 ニンジャスレイヤーはスコルピオンの腹を正面から突き破り、相手の背後に着地していた。床のヒノキ材は真っ黒に焦げ、その周囲にはスコルピオンの臓物が散らばっている。
posted at 23:52:07

ようやく、キモンを覆っていた煙が晴れ始める。乱れていた音響システムが復旧を開始し、VJカンヌシの声とともにサイバービートがジンジャに戻ってきた。大燭台の落下からここまで、わずか十数秒の出来事だったのだ。ニンジャスレイヤーは、その場に立ち尽くすスコルピオンの傍へと歩いてゆく。
posted at 23:54:26

「貴様はソウカイヤのニンジャだな。オムラ・インダストリに雇われた、そうだろう? そしてオムラ社は、ヨロシサン製薬と組み、ここで違法麻薬を売買している。さあ、洗いざらい喋るがいい。そうすればカイシャクしてやる」鋼鉄メンポを通して、ユーレイですら恐怖に慄くほどの無慈悲な声が漏れた。
posted at 23:56:14

だがスコルピオンは笑った。「オレはな、看守を三十人叩っ殺して、メキシコ重犯罪刑務所を脱走したんだ。そして殺人マグロの海を泳ぎきって密入国し、スラムでラオモト=サンに拾われ、ここまで上り詰めた。ラオモト=サンのためにも、お前には何も答えてやらねえよ。それに、お前はここで死ぬんだ」
posted at 00:00:58

「アディオス!」不意にスコルピオンの体が爆発し、ジンジャ・カテドラルのホールを真昼のように照らした。異常を察したニンジャスレイヤーは、スコルピオンの体が破裂する1秒前に、素早く5回バク転を決めて爆発を逃れていた。不運なユーレイ・ゴスたちが、数十人ほど巻き添えを喰ったようだ。
posted at 00:03:16

スコルピオンが放った最期のカトン・ジツは、ヒノキ材で作られたジンジャ・カテドラルをたちまち火の海に変えてゆく。数百名近いユーレイ・ゴスたちは、太陽の光を浴びたユーレイのように慌てふためき、ホールの四方にあるショウジ戸を突き破りながら逃げていった。
posted at 00:07:16

半裸のまま床に倒れたナンシー・リーの姿を認めると、ニンジャスレイヤーは風のように駆け寄り、彼女を抱え上げた。ニューロンに損傷を負ったのか? 爆風の衝撃を受けたのか? それとも極度の恐怖で失神したのか? いずれにせよ、彼女にはまだ息がある。それだけが、フジキドにとっては救いだった。
posted at 00:12:06

外からは、数十台のパトカーのサイレン音が聞こえる。ネオサイタマ・シティコップに、ナンシー・リーを渡すわけにはいかない。ニンジャスレイヤーは彼女を抱き抱えたまま高く跳躍し、ステンドグラスを割ってジンジャ・カテドラルを脱出すると、そのまま重金属酸性雨に紛れて夜の闇へと消えていった。
posted at 00:14:17

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posted at 00:14:42

三十分後。オムラ・インダストリ製のフラッシュアウト・ボムによって全酸素を失い、強制鎮火させられた「ヤバイ・オオキイ」のホール内へと、ネオサイタマ・シティコップが調査のために乗り込んでくる。逃げ遅れた数十人のユーレイ・ゴスとVJカンヌシが、イワシの群れのように重なって死んでいた。
posted at 00:20:02

先程までのテクノビートが嘘のように、ジンジャ・カテドラルは本来の厳粛な静けさを取り戻していた。天井は一部が焼け落ち、重金属酸性雨が淋しげにシトシトと降り注いでくる。濁った目を持つネオサイタマ・シティコップのマッポたちが、死体の数を指差確認して数え、その声だけが静かに反響している。
posted at 00:29:22

キモンの一角はバイオハザード・テープとコケシ・ポールで囲われ、ネオサイタマ・シティコップのマッポですら進入できない状態になっている。そこでは、明らかに異質な白衣姿の三人組が、ピンセットやシャーレを用いて実に興味深いサンプルの収集にあたっていた。
posted at 00:34:47

彼らの白衣の右肩には、ヨロシ・サン製薬から派遣されていることを示す黄色と黒の腕章が。そしてその胸元には、ソウカイヤのエージェントであることを示す……そしてソウカイヤの構成員だけしか知らない……交差する二本の刀と「キリステ」の文字を象った小さな金属製のバッジがあった。
posted at 00:38:54

彼らのリーダーと思しき長身痩躯の男は、胸に「いつもお世話になっております」「リー・アラキ先生」と書かれた、灰色のネームカードを吊るしていた。リー先生は焼け焦げたスコルピオンのものと思しき肉片を、何個かピンセットでつまんで培養シャーレに乗せ、何個かを自分の舌の上に乗せた。
posted at 00:43:34

「スコルピオン君は、いい被検体だったのだがネェ……」リー先生は、一切の感情のこもらない甲高い声で言った。「感謝したいネェ……。メキシコ人に対しても、ニンジャ・ソウルのアンセレクテッド・レザレクションは起こりうることを、彼は自らの肉体で証明してくれたのだからネェ……」
posted at 00:50:02

「ああ、まったくですわ、リー先生」オレンジ色のボブカットに黒ブチのセルフレームメガネをかけた女助手が、豊満な胸をリー先生の腕にさりげなく押し付けながら、手に持つ小型携帯扇風機を先生の手元に向けた。雑菌のシャーレへの混入と、それによるニンジャ・コンタミネーションを防いでいるのだ。
posted at 00:54:10

「フブキ・ナハタ君、シャーレはもういい。サンプルの回収は終わったよ」「あらそうですか」ナハタと呼ばれた女助手は、再びさりげなく両胸をリー先生の背中に押し当てた。「先生、あちらのテーブルの上にある焼死体は、どうしましょう?」
posted at 00:56:01

「ただの死体だろう? 私の時間を無駄に浪費させないでくれよ、フブキ・ナハタ君。私はニンジャ以外に何の興味も無いネェ……」リー先生はハンカチで鼻をかみながら言った。「あんなマケグミども、何千人集まろうと、1つのニンジャソウルの価値も持たないのだ……ン? ンン?!」
posted at 00:59:15

その時だ。おお、ナムアミダブツ! 何たる恐ろしい光景か! どう見ても完全な焼死体と思われていた、キモン・テーブルの上の死体が、突如立ち上がり、地獄の底から聞こえてくるような、怨念に満ちた禍々しい声で咆哮したのだ! 「ノロイ」と!
posted at 01:01:18

白衣姿の三人組は、恐怖に凍りついた。ホール内のマッポたちも、その場で金縛りになった。……だが、立ち上がった真黒の焼死体は前のめりに倒れ、テーブルから落ちて呆気なくバラバラに砕け散ったのである。
posted at 01:03:46

恐怖を科学的好奇心で克服したリー先生が、ゆっくりと這い寄ってその死体をくまなく調査するが、心音、体温、その他あらゆる生物学的条件に照らし合わせても、数秒前まで生きていたとは考えられない状況だった。では何故?
posted at 01:05:46

リー先生が偶然眼を落とすと、燭台の落下によって露になった無数のハカイシが眼に入った。その中のひとつに、古事記にも用いられているニンジャの暗号、スリケン・ルーン文字が刻まれたハカイシがあることを、熟練のニンジャ研究家でもあるリー先生は見逃さなかった。
posted at 01:07:29

これはもしや……死体にニンジャソウルが憑依したのでは? そう閃いた直後、ジンジャ・カテドラルにリー先生の甲高い哄笑が響き割った。ブースト手術によって常人の数倍の思考速度を持つリー先生のニューロンが、今まさにニンジャ・サイエンスのパンドラの箱を開けようとしていたのだ!
posted at 01:10:13

「ユーレイ・ダンシング・オン・コンクリート・ハカバ」 完
posted at 01:11:03

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 01:11:28

NJSLYR> キルゾーン・スモトリ #1

100823

第1巻「ネオサイタマ炎上」より。「キルゾーン・スモトリ 1」
posted at 01:43:38

廃墟と化した巨大ショッピングモール「コケシ」の暗い立体駐車場を、ケンドー型装甲服に身を包んだ2人の男が、互いの背中を守りながら進んでいた。1人の手にはショットガン、もう1人の手には小型火炎放射器が握られている。銃身に備わったスコープライトで闇を切り裂き、休み無く獲物を探している。
posted at 01:46:13

ブーンブーンブブーン。ブーンブーンブブーン。単調なベース音が特徴的な、コケシ・マートの店内BGMが、立体駐車場のスピーカーからざらついたノイズとともに微かに漏れ出している。
posted at 01:47:31

外からはネオサイタマの無機質な光が僅かに差し込んでくる程度で、この空間に光はほとんど無い。壁や柱に備わった非常ベルの赤い光や、九割がた割れ落ちた天井の蛍光灯が頼りなく明滅し、「27階」「ショウギモール」「実際安い」といった張り紙を照らす。
posted at 01:48:06

#KOKESI:NAGAMU:イカ発見。 //   #KOKESI:SATOU :どこですか? // #KOKESI:NAGAMU:黄色いスクラップカーの横に居ます。// #KOKESI:SATOU :焼きますか? // #KOKESI:NAGAMU:はい、焼いてください。 //
posted at 01:49:30

これらの文字は、彼らの網膜バイオディスプレイに蛍光グリーンのフォントで映し出されていた。彼らは最新のサイバネティック手術で、脳に無線LAN端末機能とIRCメッセージング・クライアントをインプラントしている。声も発する必要も、キーボードを叩く必要も無く、意思疎通が可能なのである。
posted at 01:50:08

#KOKESI:SATOU :イカを発見したので焼きます。 /// #KOKESI:NAGAMU:はい、焼いてください。 ///  
posted at 01:50:22

サトウ=サンと呼ばれる火炎放射器を持った男が引き金を引き、駐車スペースの1つに炎を放った。そこに置かれていた活きの良い大型イカは、猛烈な火炎放射攻撃を受けると、小型バイクほどもある体を丸めて、香ばしい匂いを発し始めた。
posted at 01:50:48

#KOKESI:NAGAMU:グッドクッキング、良い匂いですね。 ///   #KOKESI:SATOU :腹を空かせたスモトリが寄ってきますね。 ///
posted at 01:51:01

#KOKESI:NAGAMU:今日の成績はいくつでしたっけ? ///   #KOKESI:SATOU :私が6、ナガム=サンが4です。次はお先にどうぞ。 ///
posted at 01:51:05

#KOKESI:NAGAMU:いいんですか? ///   #KOKESI:SATOU :もちろんです。ユウジョウ! /// #KOKESI:NAGAMU:ユウジョウ! ///  
posted at 01:51:14

突如、ガラスの割れる音が立体駐車場内に響いた。それから、苦しそうな呻き声と、荒々しい息遣いが2人の耳に聞こえてきた。二人はイカから離れ、黒いワゴン車の影に身を潜める。ナガムはマグネット式ライトのひとつを銃から取り外し、焼かれたイカのある辺りを照らす。何者かの気配が近づいてきた。
posted at 01:51:35

暗闇の中から、ぬうっと2メートル近い全裸の巨漢が姿を現す。それは野生化したバイオ・スモトリだった。死体のように白くすべすべとした肌が、ライトの灯りに照らし出された。スモトリに残った最後の羞恥心がそうさせているのか、首から上だけはコケシ・マートの茶色い紙袋ですっぽりと覆われていた。
posted at 01:51:52

腹を空かせたバイオ・スモトリは、本能的に罠だと知りつつも、焼けたイカの放つ香ばしい匂いに抗うことができない。スモトリはイカの前にひざまづき、こんがりと焼けた足の一本を紙袋の中に入れて、もぐもぐと咀嚼し始めた。観察者から見れば、嘔吐を催すほど不快な光景である。
posted at 01:52:07

#KOKESI:NAGAMU:イヤーッ! ///  ナガムはワゴン車の上に上ると、スモトリの頭部を狙ってショットガンを発射した。狙いはわずかに頭から外れ、白いすべすべとしたスモトリの肌に、無数の黒い鉛球が突き刺さった。異臭が辺りに立ち込める。緑色のバイオエキスが床に流れ落ちる。
posted at 01:52:35

「アイエエエエエ!」スモトリは情けない声をあげた。ナガム=サンはショットガンをコッキングしさらに射撃。紙袋が焼け焦げ、スモトリの顔面に散弾が容赦なく浴びせられた。
posted at 01:52:48

「アイエエエエ……」と断末魔の呻きをもらして絶命する。ナガムは慣れた手つきで駆け下り、スモトリの両耳をセラミックナイフで切り落とし、ケンドー型装甲服の腰に吊った保存液タッパーに浸した。これでスコアは6と6。同点である。
posted at 01:53:24

#KOKESI:SATOU :ユウジョウ! /// #KOKESI:NAGAMU:ユウジョウ! ///   2人は再び、声も無く互いのチームワークを賞賛し合った。
posted at 01:53:35

彼らは所謂「カチグミ」と呼ばれるエリート・サラリマンであり、全人口の約5%未満の人種だ。この辺り一帯の無人エリアは、彼らのために用意された危険な殺戮遊戯場。先程のイカも、主催者側が配置したアイテムのひとつなのである。
posted at 01:54:19

「カチグミ」は組織の和を重んじるため、このような場においては、できるだけ均等な成績になるよう互いに気を遣わねばならない。万が一、2人のスコアの差が10:0だったら、10を得たほうは社内やネット上でムラハチにされるのである。ムラハチとは、陰湿な社会的リンチのことだ。
posted at 01:55:42

#KOKESI:SATOU :疲れましたよね? /// #KOKESI:NAGAMU:そうですね。帰りますか? /// #KOKESI:SATOU :そうしましょう。 /// #KOKESI:NAGAMU:明日は会社ですからね。 /// 彼らの言葉はつねに過剰なほど丁寧だ。
posted at 01:56:00

これはなにも、カチグミの社会組織がそのようにできているから、というわけではない。ネオサイタマにおいて、ネットワーク上の発言はすべて監視されているからである。
posted at 01:56:12

不用意に攻撃的な発言をすると、たとえそれがどんなシチュエイションであっても関係なく、サイバー・マッポに告訴されてアカウント停止や罰金、最悪の場合投獄や社会的抹殺などのペナルティを課せられてしまうのだ。
posted at 01:56:22

2人のカチグミはキルゾーン・スモトリのコケシエリアから出るべく、エレベーターへと向かい、スモトリが寄ってこないうちに素早く乗り込む。だが、バリキ・ドリンクのオーバードーズで視界がぶれていたナガム=サンは、1階のボタンを押そうとして、うっかり地下13階のボタンを押してしまったのだ。
posted at 01:59:46

(「キルゾーン・スモトリ 2」に続く。このセクションは2で完結します)
posted at 02:00:44

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 02:00:58

NJSLYR> キルゾーン・スモトリ #2

100904

第1巻「ネオサイタマ炎上」より。「キルゾーン・スモトリ 2」
posted at 16:00:18

(前回までのあらすじ)廃商業地区に作られた危険な殺戮遊戯施設、キルゾーン・スモトリ。そこで週末の余暇を過していたカチグミ・サラリマンのナガム=サンとサトウ=サンは、思いがけずコケシマートの地下十三階へと足を踏み入れてしまうのだった・・・・。
posted at 16:02:28

エレベータが地下13階に向かってまっしぐらに下降してゆこうなどとは夢にも思わぬまま、2人は今日の戦果をサイバネティックIRCで賞賛し合っていた。
posted at 16:03:38

#KOKESI:SATOU :今日狩った耳を売れば200万円くらいですかね? /// #KOKESI:NAGAMU:そうですね。インプラントしたCPUのクロックをさらに上げられますね。 ///
posted at 16:03:53

#KOKESI:SATOU :スモトリを殺すのには大分慣れましたね? /// #KOKESI:NAGAMU:そうですね。慈悲はありません。バイオ・スモトリは増えすぎてしまった害獣ですからね。 ///
posted at 16:04:47

コケシ第七商業地区は、かつて中産階級の市民たちで賑わっていたが、ヨロシサン製薬とオムラ・インダストリが共同開発したバイオ・スモトリの育成プラントが爆発事故を起こしてから、政府の命令により無人地区に指定された。市民は新たな集合住宅をあてがわれ、強制退去させられた。
posted at 16:06:44

プラントを脱走し野生化した大量のバイオ・スモトリがコケシ第七商業地区全域に放たれ、コメというコメを食い尽くしてしまったからだ。その後、ヨロシサンとオムラ・インダストリは、この地区を富裕層のための巨大殺戮遊戯施設に変えるという斬新なアイディアを思いつき、実行に移した。
posted at 16:07:46

もちろん、これらの計画はすべて秘密裏に実行されたものだ。いくらインターネットを検索しても、ヨロシサンとオムラ・インダストリ、そしてバイオ・スモトリを結びつけるような情報はヒットしない。爆発事故に興味を持ったジャーナリストもいたが、皆ソウカイヤのエージェントに始末されている。
posted at 16:11:04

あまつさえ、現在のコケシ第七地区は「バイオ・スモトリ駆除のボランティアを募り、狩ったスモトリの耳と引き換えに政府から報奨金が支払われる」という名目で運営されているのだ。殺人快楽だけでなく、自らの行動が社会貢献とエコに役立っているという自尊心をも同時に満たせるのである。
posted at 16:12:23

そんなエコロジカル・ヒーロー2人を載せたエレベーターは、コケシマート最深部である地下13階へと、叩きつけられるように到着した。ロープが老朽化していたのだろうか。鋼鉄の箱が激しく揺れると同時に、ボタン部分と階数を示す緑色のディスプレイから火花が散った。
posted at 16:16:30

#KOKESI:SATOU :ウープス! 地下13階? 1階を押したのでは? /// #KOKESI:NAGAMU:エレベーターが壊れていたのかもしれません。ベースに救援メッセージをIRCで送りましょうか? ///
posted at 16:17:17

#KOKESI:SATOU :しかし救援メッセージのペナルティは大きいですよ? /// #KOKESI:NAGAMU:では、途中まで自力でなんとかしてみましょう。///
posted at 16:27:16

エレベーターは完全に故障し、ボタンを押しても動こうとしない。半開きの状態で開閉を繰り返している。エレベーターに閉じ込められるのだけは御免だ。そこでナガム=サンとサトウ=サンは、今まで一度も足を踏み入れたことのないスモトリ汚染レベル5地区、地下13階を探索してみることにした。
posted at 16:31:58

ブーンブンブン。ブーンブブ。ブーンブンブン。「安い、安い、実際安い」のフレーズで御馴染み、コケシマートのテーマである単調なベース音が、地下13階にも不気味に鳴り響いていた。スリルは感じても、恐怖はない。いざとなれば救援メッセージを送りさえすればよいのだ。
posted at 16:33:03

ケンドー型装甲服を着た2人がエレベーターから出ると、ひんやりとした冷気の触手が彼らの体を絡め取った。床からはチーズのような黴臭い匂いがした。銃器に備わったマグライトで周囲を照らすと、どうやらこの階はかつて、コケシマートの食肉保存エリアとして使われていたらしい。
posted at 16:33:57

銀色の巨大な冷蔵庫が、さながら整列したハカイシのように際限なく並び、天井からは「国産バイオ和牛100%」「美味しい」などの垂れ幕が下がっている。天井には黄色と黒のストライプが斜めに入った肉吊りウィンチのレールが、ショウギ盤の目のように走る。
posted at 16:38:18

少し進むと、それらの冷蔵庫の間に赤い漆塗りの柵が現れて2人の行く手を遮る。黄ばんだ紙に毛筆で警告文が書かれ、柵に貼られていた。 #KOKESI:SATOU :見てください、これ。 /// #KOKESI:NAGAMU:関係者以外、立ち入り禁止? ///
posted at 16:39:32

#KOKESI:SATOU :どう思いますか? /// #KOKESI:NAGAMU:コケシマート営業時代の名残でしょう /// 2人のヒーローは柵を蹴り飛ばし、非常階段を探すべく冷蔵庫の迷宮へと足を踏み入れた。
posted at 16:47:33

人一人しか通れない狭苦しい冷蔵庫の迷路を、互いの背を守りながら、じりじりと歩く。火炎放射器のサトウ=サンが前、ショットガンのナガム=サンが後ろ。2人のユウジョウは完璧だ。どこから敵が襲い掛かってきても対処できる。…その時。
posted at 16:58:42

「ARRGH!」突如、後方の冷蔵庫のひとつが開き、顔を紙袋で隠した真っ白い肉の塊が姿を現した。バイオ・スモトリだ。癲癇を起こしたイアン・カーティスのように手をぐるぐると動かし、自らを頬に平手打ちを入れる。「ARRGH!」知性の低いバイオ・スモトリは、言葉を話すことができないのだ。
posted at 23:40:40

#KOKESI:NAGAMU:pop sumotori 1  (訳注:スモトリ1体出現)/// #KOKESI:SATOU :rgr (訳注:了解)///
posted at 23:41:18

後ろを守るナガム=サンがしゃがみ、ショットガンのトリガーを引く。続けざま、背後を振り向いたサトウ=サンが、ナガム=サンの頭越しに火炎放射器で火炎を発射する。「ユウジョウ!」2人はサイバネティックIRCチャットの中で同時に発言した。
posted at 23:41:47

「アイエエエエエ!」散弾と火炎を畳み掛けるように喰らったスモトリは、情けない悲鳴をあげ、その場にうずくまる。容赦なく、さらなる散弾と火炎が叩き込まれ、バイオ・スモトリの身体を国産バイオ和牛100%ハンバーグのように変えていった。地下13階を再び単調なベース音が支配した。
posted at 23:55:02

こんがりと焼けた耳を切り取りながら、2人のカチグミ・サラリマンはほとんど同じことを考えていた。もしかしてここは、噂に聞いたバイオ・スモトリのネスト(巣)なのではないか、と。ナガム=サンのサポートを受けながら、サトウ=サンが試みに「牛コマ」と書かれた隣の冷蔵庫のロックを外してみる。
posted at 23:56:08

おお、ナムアミダブツ……! 何たる背徳的な光景だろう。そこには、通勤電車のようにスシ詰めになった何体ものバイオ・スモトリが、皆同じ方向を向いて、背中と腹を合わせながら立っていたのだ。ひんやりとした冷気の中で、スモトリたちは心地良さそうに寝息を立てていた。
posted at 23:56:58

これはボーナス・ステージだ。鉄格子のようなケンドー型ヘルメットの奥で、狩猟獣じみた男たちの目がぎらぎらと燃える。2人のカチグミ・サラリマンたちは意気揚々と、かつ事務的に殺戮行為に取り掛かった。腰に吊った手りゅう弾を何個か冷蔵庫の中に投げ込み、蓋をする。
posted at 00:01:25

スリー、ツー、ワン、ゼロ。くぐもった爆発音。ナイスクッキング。寝込みを襲われたバイオ・スモトリたちの悲鳴が、牛コマの冷蔵庫の中から漏れ出し、すぐに聞こえなくなった。緑色のバイオエキスが蓋の下からどろりと漏れ出し、ホタルのように薄く発光してから、どす黒く変色した。
posted at 00:02:41

2人のカチグミは冷蔵庫を開き、耳を漁る。なんと素晴らしい場所を見つけたのだ。ざっと見渡しただけで1000個以上の大型冷蔵庫がある。それらすべてにスモトリがスシ詰めで入っていたとすると、得られる報奨金はとてつもない金額に昇るだろう。コケシ第七地区の害獣駆除にも大きな貢献を果たせる。
posted at 00:03:44

…その時だ。地下13階全域で、赤いパトランプが作動した。非常事態を告げる不穏なブザー音が、コケシマートのテーマソングを塗りつぶす。もしかして、何かルール違反を犯してしまったのでは? やはり、あの立ち入り禁止の柵か? 2人のカチグミは肉食獣の威勢を失い、小動物のごとく狼狽し始めた。
posted at 00:42:32

#KOKESI:NAGAMU:早く非常階段を探して逃げましょう、サトウ=サン /// #KOKESI:SATOU :pop ninja 1(訳注:ニンジャが1体出現)/// #KOKESI:NAGAMU:ninja? ///
posted at 00:44:39

ナガム=サンは、サトウ=サンが火炎放射器を突きつける方向を見た。確かにニンジャだ。両脇を大型冷蔵庫によって挟まれた無機質な銀色の回廊を、黒装束のニンジャが歩いてくる。サトウ=サンは正しい。ニンジャに間違いない。だが、何故ニンジャがここに?
posted at 00:46:33

#KOKESI:NAGAMU:どうします? 近づいてきますよ。 /// #KOKESI:SATOU :スモトリ・ニンジャではないですね? /// #KOKESI:NAGAMU:そうですね。多分殺したらいけないですね。 /// #KOKESI:SATOU :でも怖いです。 ///
posted at 00:53:24

サトウ=サンは、火炎放射器のトリガーを軽く引き絞り、威嚇を行った。それ以上近づくな、という意味を込めて。すると、ニンジャは10メートルほど離れた場所で立ち止まる。2人のカチグミがほっと息をついた直後、ニンジャは腕をムチのようにしならせてスリケンを放った。「イヤーッ!」
posted at 00:55:44

ケンドー型ヘルメットの鉄格子のような隙間を抜け、2枚のスリケンがサトウ=サンの両目に突き刺さった。「アイエエエ!」 火炎放射器の銃口が逸れる。サトウ=サンが激痛のあまり身をのけぞらせたため、すぐ後ろでバックアップの構えを取っていたナガム=サンもショットガンの銃口を逸らしてしまう。
posted at 01:00:01

黒いニンジャ装束をまとったニンジャは、その一瞬の隙を見逃さなかった。10メートルの間合いを一気に詰め、サトウ=サンの両腕を掴む。信じ難い怪力だ。まるで万力に手首を締め上げられているかのよう。特殊耐熱加工と防刃加工が施されたケンドー型ガントレットも、猛烈な圧縮の前では無力だった。
posted at 01:02:38

ケンドー型装甲服の力をフルに活かし、サトウ=サンはニンジャの力に抗おうとした。だがニンジャの握力は、1秒ごとに締め付けの力を増してゆく。ナガム=サンはショットガンで援護しようと試みるも、この狭い場所ではサトウ=サンを巻き添えにしてしまう危険性があり、おいそれと発砲できない。
posted at 01:04:35

そしてついに、ニンジャの両手は完全に握りしめられた。その中にあったケンドー型ガンとレットも、サトウ=サンの肉も骨も皮も、トマトのように無残に圧縮されてしまったのだ。「アイエエエエエ!」サトウ=サンの絶叫が響く。火炎放射器と両手首が黴臭い床に転がり、血飛沫が盛大に飛んだ。
posted at 01:07:38

間髪入れず、ニンジャはサトウ=サンの首を掴んで持ち上げ、万力のような力でこれを締め上げた。今度はわずか3秒足らずで、ケンドー型ヘルメットの鉄格子のような隙間から、ねっとりとした血とサトウ=サンの目玉が零れ落ちた。ナガム=サンは恐怖のあまり腰を抜かし、尻餅をつく。
posted at 01:10:17

ダシを取られたマグロのように、ぴくりとも身動きしなくなったサトウ=サンの体を後方に放り投げると、ニンジャは次なる獲物、ナガム=サンを見下ろした。その目は馬の目のように一面が黒目で、ナスビのような不気味な艶を放っていた。
posted at 01:12:12

「お前は何者だ。お前はサトウ=サンを殺したな。ウットコ建設グループの副係長、サトウ=サンを。今救援メッセージを送った。ただではすまないぞ。うちの建設グループは腕利きの弁護士集団を抱えてるんだ。ヤクザ・クランとも親密な間柄にあるぞ」ナガム=サンは思いつく限りの脅迫的な言葉を吐いた。
posted at 01:15:13

「ドーモ。ナガム=サン、初めまして。アイアンヴァイスです」ニンジャは意外にも礼儀正しく、あるいは無力な相手を嘲笑うかのように一礼をした。「あなた方はルール違反を犯した。ケジメをつけてもらう。ウットコ建設グループなど、我々のバックについている財力に比べれば、ダニかノミにも等しい」
posted at 01:19:34

ナガム=サンは知りえなかったが、アイアンヴァイスと名乗るニンジャの言った事は、まったくもって正しかった。彼の所属するソウカイ・シンジケートは、ヨロシサン製薬とオムラ・インダストリという日本政府をクグツのように操る2つのメガコーポと協調関係にあったからだ。
posted at 01:21:58

「イヤーッ!」もう知るものか。こいつを殺せば俺は逃げれるんだ。ナガム=サンは腰を抜かしたまま、ショットガンの引き金を引き絞った。至近距離で無数の鉛球が浴びせられ、さしものニンジャも一撃で絶命する……はずであった。
posted at 01:23:40

ナガム=サンがショットガンの弾を発射する1秒前に、その場ですっくと立ち両腕を胸の前で組んでいたアイアンヴァイスは、恐るべきジュー・ジツを使うための掛け声を発したのだ。「イヤーッ!」
posted at 01:25:48

するとどうだ。アイアンヴァイスの全身は鋼鉄のように硬くなり、ショットガンから発射された弾をひとつ残らず弾き返してしまったのである。これぞ平安時代より伝わるジュー・ジツのひとつ、ムテキ・アティチュードであった。弾丸が金属にぶつかった時の独特の異音が、冷蔵庫の回廊に響く。
posted at 01:31:36

ナガム=サンはショットガンをコッキングし、さらに発射。「イヤーッ!」 アイアンヴァイスは再びムテキ・アティチュード。「イヤーッ!」 散弾が無駄に消費され、ナガム=サンは絶望のあまり失禁した。 「さあ、ゲームオーバーだ」アイアンヴァイスの万力のような腕が迫る。
posted at 01:34:17

「Wasshoi!!」不意に、アイアンヴァイスの後方にある冷蔵庫のドアが開き、そこから赤黒いニンジャ装束を纏ったニンジャが砲弾のように飛び出した。そのニンジャは回転しながら向かいの冷蔵庫に飛び乗り、さらに反対側の冷蔵庫の上に飛び移った。最後は床に飛び降り、5回バク転を決めた。
posted at 01:39:42

「ドーモ。アイアンヴァイス=サン。はじめまして、ニンジャスレイヤーです」バク転を決め終えたこの新たなニンジャは、直立不動の姿勢を取ってそうアイサツした。「この殺戮遊技場がソウカイ・シンジケートの資金源だという情報は、どうやらクロのようだな。ニンジャ殺すべし。ここで死んでもらおう」
posted at 01:43:26

2人のニンジャは戦闘態勢に入った。思いがけず命拾いをしたのは、ナガム=サンだ。なぜニンジャ同士が戦うのか、彼にはまったくもって理解できなかったが、とりあえず自分が一時的に標的から外れたことだけは理解できた。
posted at 01:46:40

サトウ=サンはもう駄目だろう。サイバネティックIRCにも返答がない。ナガム=サンはショットガンを杖代わりにして腰を起こし、おぼつかない足取りでパトランプに照らされる銀色の迷宮を引き返し、横道に逸れた。ひとまずは、あのニンジャたちの目に付かないところへと逃げ切れた。
posted at 01:48:52

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」そう遠くない場所から、ニンジャたちの掛け声が聞こえてくる。どこかに身を隠そう。そう思ったナガム=サンは、祈るような気持ちで「剥きエビ」と書かれた冷蔵庫のドアを開けてみた。
posted at 01:50:43

そこにはやはり、ひんやりと冷えたバイオ・スモトリが詰め込まれていた。だが幸運にも、中央付近にちょうどケンドー型装甲服を着たサラリマンが入れるほどの隙間が空いているではないか。背に腹は変えられない。ナガム=サンは意を決し、スモトリの背と腹の間に身をうずめ、自ら冷蔵庫のドアを閉めた。
posted at 01:52:55

一方、少し離れた場所では、ニンジャスレイヤーとアイアンヴァイスの死闘がなおも続いていた。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが機先を制して2枚のスリケンを立て続けに投げつける。「イヤーッ!」アイアンヴァイスがムテキ・アティチュードで全身を鋼鉄化させ、それを弾き返す。
posted at 01:54:24

では、スリケンではなくチョップで首をへし折ればよい、と思うかもしれない。だが、ニンジャスレイヤーはカチグミとアイアンヴァイスの戦闘を注意深く観察していたため、このソウカイ・ニンジャが危険な握力を隠していることを知っていた。だから、接近については注意深くならざるを得なかったのだ。
posted at 01:56:03

「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーのスリケンは、片端から弾き飛ばされてしまう。このままでは埒があかない。そこでフジキド・ケンジは、新たな作戦に出た。
posted at 01:57:34

まずスリケンを投げる。するとアイアンヴァイスが鋼鉄化する。鋼鉄化したアイアンヴァイスは、一瞬の間だけ身動きが取れなくなる。ならば、それを超える速度でスリケンを投げ続ければよいのだ。
posted at 01:59:53

「「「力に力で対抗してはならぬ……速さで行くと決めたならば、あくまでも速さを貫き通すべし。百発のスリケンで倒せぬ相手には、千発のスリケンを投げるのだ……」」」師匠ドラゴン・ゲンドーソーから授かったファースト・インストラクションが、ニンジャスレイヤーの脳裏に響いた。
posted at 02:01:22

「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはピッチングマシーンのように両腕を互い違いに回転させ、0コンマ5秒毎の速度でスリケンを投げつけた。「イヤーッ!」「イ、イヤーッ!」アイアンヴァイスは鋼鉄化を解く暇がなく、身動きが取れないことに気付いた。「イヤーッ!」「イヤーッ!?」
posted at 02:04:28

ニンジャスレイヤーはついに、腕組みして直立不動の姿勢を取るアイアンヴァイスの真横まで接近した。最後のスリケンを投げ終わると同時に、右手はカラテチョップの構えを取る。そしてすぐさま、秒間10発の猛烈なチョップを、鋼鉄化したアイアンヴァイスの首に叩き込み始めた。
posted at 02:06:03

「イヤーッ!」「グ、グワーッ!」なおも鋼鉄化を続けるアイアンヴァイスだったが、ニンジャスレイヤーのチョップは止まらない。次第に、鋼鉄化した彼の首には、打ち倒される直前のレーニン像のように、致命的な亀裂が走り始めた。
posted at 02:08:16

「や、止めてくれニンジャスレイヤー! 貴様の要求に応じよう!」「慈悲はない」ニンジャスレイヤーはさらに早く、残像が発生するほどの速度でチョップをくり出した。「イヤアアアアアーッ!」「グワアアアアアーッ!」金属質の断末魔の叫びとともに、ついにアイアンヴァイスの首はへし折れた。
posted at 02:10:06

「サヨナラ!」首の切断とともに、アイアンヴァイスの全身は鋼鉄からただの肉体へと変わり、噴水のように血を噴き出して爆発四散した。血煙が晴れると、もはやニンジャスレイヤーの姿は無い。この決定的情報をナンシー・リーに提供し、師匠の命を救うためのアンプルと交換すべく、行動を開始したのだ。
posted at 02:14:01

後に残されたのは、緑色のバイオエキスの海に眠る無残なサトウ=サンの死体と、ぐちゃぐちゃのミンチ肉になった5~6体のバイオ・スモトリだけだった。明日になれば、ヨロシサンの研究員たちがモップを持ってやってきて、床に染みだけを残してすべての証拠を揉み消すことだろう。
posted at 02:16:25

冷蔵庫の中に隠れたナガム=サンは、ひんやりとしたスモトリの肉に埋もれて、いつしかまどろみの中に落ちていた。少しずつ意識が遠のいてゆく。IRCチャットにメッセージは帰ってこない。非常ブザーの音は止み、単調なベース音だけのコケシマートのBGMが、子守唄の如く冷蔵庫の中に響いてくる。
posted at 02:18:42

ナガム=サンが子供の頃、貧しい母親に連れられてやってきた、別のコケシマートの閉店セールの記憶が、走馬灯のように駆け巡った。「安い、安い、実際安い」と歌う無表情なコケシロボットたちが、重金属酸性雨にさらされながらモールの入り口で虚しく回転していた、あの夜の記憶だ。
posted at 02:21:04

死ぬ思いで貧困から脱し、母親の内臓も売って、ようやくカチグミになったというのに、最後はコケシマートで終わるのか。なんて皮肉だろう。ナガム=サンは薄れ行く意識の中で自嘲的にひとりごちた。ああ、もうどうでもいい。どのみち、社会に戻っても、今回の失態のせいで出世コースからは転落なんだ。
posted at 02:24:13

ケンドー型装甲服に身を包んだ無敵のエコロジカルヒーロー、ナガム=サンの脳裏に、懐かしい母親の歌声が響いた。「安い…安い…実際安い。コケシ、コケシ、コケシマート。今日も明日も、コケシマート。安い……安い………実際………安い………」そこで、ナガム=サンの意識はシャットダウンした。
posted at 02:26:33

(キルゾーン・スモトリ 完)
posted at 02:27:01

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 02:27:25

NJSLYR> デイ・オブ・ザ・ロブスター #1

111013

短編集「テイルズ・オブ・ジ・エイトミリオン・ニンジャソウルズ 1」より 「デイ・オブ・ザ・ロブスター」
posted at 22:38:40

ブンブブブンブーン、ブンブブブンブンブーン、ブンブブブンブーン、ブンブブブンブンブーン。湿ったベース音が、「マグロシマッテ」とミンチョ体で書かれた錆だらけのシャッターの隙間から漏れる。上空を舞うネオサイタマ市警ツェッペリンのサーチライトも、このような裏路地までは届かない。 1
posted at 22:46:21

この施設の中に、マグロは一匹も吊るされていない。マグロ倉庫に偽装したここは、ネオサイタマに本拠を持つ油断ならないヤクザ組織のひとつ、ヘルジュッテ・クランの秘密事務所なのだ。シャッターを開ければ、壁に掛けられたハンニャ面、カタナ、「暴力」と書かれたショドーが邪悪な本質を語る。 2
posted at 22:50:34

タイル張り大浴場の床に、スモトリめいた服装のリアルヤクザが8人。むせ返るようなスチームが室内を支配し、正座する彼らの額に浮かんだ緊張の汗と入り混じる。その湯気の奥にはフジサンを描いた壁があり、煮えたぎるセントウから立ち上る湯気と合わさって神秘的なアトモスフィアを醸し出す。 3
posted at 22:54:19

「ザッケンナコラー!この中に1人!」スーツを着た幹部のアザワが、LAN直結式のサイバー拳銃を持って叫ぶ「薄汚ねえマッポドッグが紛れ込んでやがる!俺たちの取引をタレ込みやがった野郎がな!」。…正座する8人のリアルヤクザたちは全員、アザワのただならぬ怒りに圧倒され押し黙っていた。 4
posted at 22:57:16

「ダッテメッコラー!?」アザワはジャケットを脱ぎ、おもむろに背を向ける。立ち上がって酒瓶を持つ邪悪なワータヌキの入墨があらわになり、恐るべき形相で手下たちを睨めつけていた。コワイ!普通人なら即座に失禁しかねないシチュエイションである。しかし……ヤクザたちは口を割ろうとしない。 5
posted at 23:03:24

アザワは正座ヤクザたちの周囲を苛立たしげに歩き回る。天井から吊るされたスピーカーからは、古ぼけたノイズと共に、このサツバツとした状況にはどこか不似合いな楽曲が漏れ出す。ブンブブブンブーン、ブンブブブンブンブーン……アカチャン……イェー……アカチャン……ブンブブブンブーン…… 6
posted at 23:13:24

「スッゾコラー!」アザワが突如発砲する!「アバーッ!」ヤクザの一人が頭を撃ち抜かれ即死!ナムアミダブツ!どろりとした血がタイルの目に沿って流れた。「……片付けろ」とアザワ。後ろに控えていた無表情のクローンヤクザ4人が死体をセントウに投げ込み、ブラシで血の痕を洗い流し始めた。 7
posted at 23:17:28

「名乗り出ねえなら順にセントウに沈めるぞ!俺はそれだって構わねえ!全員殺せば確実に裏切者も混じってるからな!」ワータヌキめいた目で威圧するアザワ。「ヤルキ=サンです、ヤルキ=サンが裏切り者です」恐怖に耐えかねたヤクザが、隣のヤクザを指差した。「ヒッ!」ヤルキは声を詰まらせる。 8
posted at 23:25:32

「ヤルキテメッコラー!!」顔を真っ赤にして怒り狂ったアザワが、ヤルキの口に銃口をねじり込む。「オボッ!」目を剥くヤルキ。両肩をクローンヤクザに掴まれ、血に染まったセントウへと強引に引きずられていく。そして力づくで投入!ナムサン!「アイエエエエエエ!」首だけ出し絶叫するヤルキ! 9
posted at 23:33:49

「誰の差し金だコラー!ネオサイタマ市警と取引したんかコラー!ブッダも怒るぞコラー!」アザワは吐き捨てながら銃口を引き抜く「答えねえと、次は論理トリガ引くぞコラー!」。「ゲホッ!ゲホーッ!大変ご迷惑をおかけいたしました!全部洗いざらい話します!今回の件はヨロシサ…」 10
posted at 23:39:04

恐るべき黒幕の名を吐こうとしたその時!いずこからともなく2枚のスリケンが飛来し、ヤルキの額と喉に深々と突き刺さった!「アイエエエエエエ!」スプリンクラーめいた血飛沫!さらにいずこからともなく2枚のスリケンが飛来し、ヤルキの額と喉に深々と突き刺さった!「アイエエエエエエ!」  11
posted at 23:42:26

「ドーモ、ロブスターです」突然フスマが開きニンジャが姿を現した。その両腕にはロブスターめいた恐るべきハサミが備わっているのだ。「ザッケンナコラー!」論理トリガを引き発砲するアザワ!「イヤーッ!」連続バク転で銃弾を回避するロブスター!ジュッテや鎖鎌を構えるクローンヤクザたち! 12
posted at 23:55:08

「まずいことになったわね……」大浴場の隅に敷かれた2畳のタタミの上でナンシー・リーは呟いた。その身体はタイトなサイバーゴススーツの上から荒縄によって複雑に拘束され、胸元などが強調されている。ハッカー兼ジャーナリストの彼女は潜入調査に失敗し、ヤクザクランに捕えられていたのだ。 13
posted at 00:06:23

流れ弾がナンシーの金髪を数本持っていく。ニューロンがチリチリと危険を告げた。拘束された手を辛うじて動かし、耳の後ろに備わったバイオLAN端子から、携帯IRC端末へとケーブルを伸ばす。「ハァーッ!ハァーッ!」荒縄が複雑に食い込み、オイランのように白いナンシーの肌を紅潮させる。 14
posted at 00:14:34

「イヤーッ!」ロブスターは前転からスリケンを何枚も投擲!「アイエエエエエエ!」次々と殺害されるクローンヤクザたち!タツジン!「ナマッコラー!」弾切れを起こしたアザワは、腰からドスダガーを抜き接近戦を挑む!「イヤーッ!」紙一重のダッキングでかわし、ハサミで首を掴むロブスター! 15
posted at 00:20:27

「アグッ!」そのまま絞首刑めいて持ち上げられるアザワ。今の一撃で脊髄を破壊されたのか、ドスダガーを握った右手はぶらぶらと力無く揺れ、言うことを聞かない。インガオホー!そのままロブスターはアザワを熱湯の中に叩き込み、首だけを出して押さえ込んだ。「熱い!アイエエエエエ!熱い!」 16
posted at 00:26:42

だが流石はヤクザクラン幹部である。アザワは熱湯に苦しみつつも、ロブスターと名乗るニンジャに食って掛かった。「誰の差し金だコラー!ヘルジッテ敵に回したらただじゃ済まねえぞコラー!」「馬鹿が。貴様らは誰彼構わず殺しすぎた。スポンサー様を怒らせたのだ。俺を派遣したのはヨロシサ…」 17
posted at 00:41:43

恐るべき黒幕の名が告げられようとしたその時!いずこからともなく2枚のスリケンが飛来し、ロブスターの額と喉に深々と突き刺さった!「アイエエエエエ!」絶叫するロブスター!さらにいずこからともなく2枚のスリケンが飛来し、ロブスターの額と喉に深々と突き刺さった!「アイエエエエエ!」 18
posted at 00:41:52

「Wasshoi!」赤黒いニンジャ装束を纏った謎のニンジャが、天井から突如出現し、空気を切り裂くような3連続回転と共に着地した。そして一瞬の隙も無いオジギを決める。「ドーモ、ロブスター=サン。ニンジャスレイヤーです」「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ロブスターです」 19
posted at 00:42:03

「ニンジャ…殺すべし」ニンジャスレイヤーと名乗ったニンジャは、低く押し殺した声でそう告げ、「忍」「殺」と彫られた鋼鉄メンポからジゴクめいた息を吐く。「そんな……ニンジャスレイヤー=サン、何故……貴様がここに…」たじろぐロブスター。その喉元からはバイオ体液が滴り落ちていた。 20
posted at 00:48:01

「イヤーッ!」ハサミを構え駆けこむロブスター!だが機先を制するようにニンジャスレイヤーがスリケンを投擲!「イヤーッ!」「グワーッ!」ロブスターの両目に突き刺さる!ニンジャスレイヤーはさらに駆け込み、脳天へカラテを叩きこんだ!「イヤーッ!」「グワーッ!」両目がエビめいて突出! 21
posted at 00:55:24

「グワーッ……馬鹿な……馬鹿な……」両目とニューロンの大半を破壊されたロブスターは、振り上げたハサミをガチガチと鳴らしながら歩き回り、セントウの中へとブザマに転落した。「グワーッ!……サヨナラ!」ヨロシサン製薬の放った恐るべきバイオニンジャは、そのまま爆発四散を遂げた! 22
posted at 01:01:10

ブガー!ブガー!ブガー!何らかの非常装置が発動したのだろう。ヘルジッテ・クランの事務所内はレッドアラート・ボンボリの光によって支配された。壁に描かれたフジサンが血のごとき赤に染まり、古事記に予言されたマッポー・アポカリプスの光景を暗示する!「爆発するわ!」ナンシーが叫んだ! 23
posted at 01:06:22

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは連続側転を決めてナンシーの横に急ぐと、ニンジャ筋力によって彼女を左腕だけで抱え上げる。一刻の猶予も無い。ニンジャスレイヤーの額に汗が滲む。右手でニンジャロープを投げ放ち、天井に先端フックをめり込ませると、大きく後ろにジャンプし反動をつけた。 24
posted at 01:12:24

「死ね!ニンジャども!死ね!」セントウの中に水死体めいて浮かんだアザワが、ワータヌキめいた形相で断末魔の叫びを放った。何たる執念か!全ての証拠を隠滅し、ニンジャを道連れにするために、彼が遠隔IRC操作で事務所の爆破装置を作動させていたのだ!「ヘルジッテ……バンザイ!」 25
posted at 01:15:47

閃光、そして爆発!紅蓮の炎に包まれるヤクザ事務所!ナムサン!あの2人もまた、ロブスターとともにサンズ・リバーへ送られてしまったのか?「……Wasshoi!」おお、見よ!間一髪!ナンシーを抱えたニンジャスレイヤーが、ロープを使った振り子運動で、爆炎を背にガラス窓を突き破った! 26
posted at 01:24:34

ニンジャスレイヤーは冷たい夜の路地裏へと着地すると、ナンシーを下ろし、荒縄を切断した。「助かったわ、ニンジャスレイヤー=サン。でも御免なさい、今回もアンタイニンジャ・ウイルスの解毒剤は……」彼女が背を向けて服の胸元を直し、振り返ると……もうニンジャの姿は、何処にも無かった。 27
posted at 01:30:54

(デイ・オブ・ザ・ロブスター 終) 27
posted at 01:31:30

NJSLYR> ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ #1

101201

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」 #1
posted at 22:15:50

「断る」ニンジャスレイヤーは、マッチャを前にして静かに言った。「ナンシー=サン、おぬしの言葉に、随分と踊らされてしまったようだ」 十二畳の茶室に、油断ならない空気が張り詰める。青いキモノを纏ったナンシーは目を落とし、バドミントンシャトル状の器具で静かにマッチャをかき回していた。
posted at 22:18:41

茶室の中央には囲炉裏とチャガマがあり、墨が燃えている。四方の鴨居にはムードのあるチョウチンが下げられ、「#NS_GOKUHI」と横書きされたショドーが漆塗りの額に入って飾られている。 この幽玄なる会議室で、ニンジャスレイヤーとナンシー・リーの二人はチャガマを挟み正座しているのだ。
posted at 22:25:09

「夜中の0時です」と、コケシ箪笥の上にある黄金ブッダ像が冷笑的な電子音声を発した。ナンシーのマッチャ音も消え、辺りを不穏な沈黙が支配する。ナムアミダブツ! 一触即発の気配!  「それは誤解だわ」ナンシーがようやく口を開く。ニンジャスレイヤーの出方を窺いながらマッチャを軽く啜る。
posted at 22:57:11

「あれもこれも、結局はタケウチ・ウィルスの特効薬には結びつかなかった。おぬしは、ジャーナリストとしての好奇心を満たすために、俺をいいように使っていたのでは?」ニンジャスレイヤーは恐ろしいほど無表情な声で問うた。 「違うわ、不運が続いたのよ」豪胆なナンシーは、皮肉めいた笑みを返す。
posted at 23:09:57

「タケウチ・ウィルスの情報は、ヨロシサン製薬が持つ秘密の中でもトップレベルに位置するわ」とナンシー。「でも今度こそは間違いない。ヨロシサン第1プラントの中にこそ、その秘密が隠されている。それを解くカギが、私のハッキング能力と『タヌキ』。でも物理的に侵入するには、貴方の力が必要」
posted at 23:12:38

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posted at 23:14:27

「「「これも虚言か。あるいは…」」」ニンジャスレイヤーことフジキド・ケンジは、暗いマンションの一室で湿ったタタミに座り、UNIX画面の前で沈思黙考していた。重金属酸性雨の雨音が窓から忍び込んでくる。茶室に座っていた彼は、IRC空間内のコトダマ・イメージであり、彼自身には見えない。
posted at 23:17:09

「もう手を貸さぬと言えば?」 タツジン! 0コンマ5秒! フジキドの指先が、精密スシ・マシーンのような無慈悲さでキーをタイプする! 「デッド・エンドよ。私もこれ以上の情報は手に入らず、あなたもタケウチ・ウィルスの特効薬は永遠に手に入らない」 コワイ! 0コンマ1秒以下の世界!
posted at 23:19:33

ニンジャスレイヤーは歯噛みした。やはりサイバースペース内で、この女と互角に渡り合うのは不利だ。 アンタイニンジャ・ウィルスに冒された師、ドラゴン・ゲンドーソーの顔が彼の脳裏をよぎる。冷静になれ。独力でヨロシサンへの電脳攻撃など不可能。やはり、ナンシーの言葉に従うしか道が無いのか。
posted at 23:32:37

ニンジャであるフジキドも、スゴイ級ハッカー以上のタイプ速度を誇る。だが彼は、その体の一部さえも、サイバネ義体によって置換してはいない。無論、ナンシーのような電脳サイバー手術は受けてはおらず、ただプリミティヴな肉体の力だけで彼女と渡り合っている。サイバースペースでは明らかに不利だ。
posted at 23:50:16

一方のナンシーはどうか。彼女はいずことも知れぬ暗い部屋でソファに座し、口を開けてよだれを垂らし、半ば白目を剥いていた。その体は、鯉の刺繍された青いキモノではなく、刺激的な黒の強化PVCレザー・キャットスーツに包まれている。サイドボードには、空になったザゼンドリンクの瓶が七本ほど。
posted at 23:57:33

灯りといえば、チャブの上に置かれたモニタが発する薄緑色の光と、そこを猛烈な速度でスクロールし切り裂く白い文字列のみ。彫の深いナンシーの顔が、ユーレイのように照らされる。彼女の右耳の斜め後ろにはバイオLAN端子がインプラントされ、そこからUNIXへとLANケーブルが直結されていた。
posted at 00:12:01

「そうね……私も手の内を明かすわ。第1プラント内には、私のジャーナリスト精神に誓って絶対に看過できない、ヨロシサン製薬の暗黒情報ファイルが存在するの。そして今度こそ間違いなく、同じ場所にタケウチ・ウィルスの特効薬も存在するわ! 手を組みましょう」 そのタイプ速度、もはや計測不能!
posted at 00:26:38

違法電脳サイバネティック手術により、彼女は思考するのと同速度でIRCタイプが可能だ。そして、このLAN直結手術を受けた人間……全ネット人口の極一部……さらにその極一部の人間だけが、サイバースペース内にコトダマ・イメージを見る。そのイメージは、誰がプログラミングしたものでもない。
posted at 00:29:21

彼女はまだ未熟であり、薬物の力が必要だ。ヨロシサン製薬が販売するザゼンドリンクは、過剰摂取によりトリップ効果を得られるため、ハッカー御用達の健康飲料として悪名高い。ザゼン成分とLAN直結によって全精神をIRC空間内に投射することにより、選ばれしハッカーたちは無限の地平を見るのだ。
posted at 00:36:24

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posted at 00:41:28

四方を清楚なショウジ戸に囲まれた茶室には、再び沈黙が流れていた。ニンジャスレイヤーは正座したまま眉一つ動かさない。 ナンシーはブッダ時計を見た。0時5分。何とか今夜のうちに第1プラントへの潜入を果たしたい。入手した極秘パスワードは、いつ更新されるかわからないからだ。 ……その時!
posted at 00:45:42

北のショウジ戸が不意に開き、黒尽くめのニンジャ装束に円環型サイバーサングラスという、異様な人影が姿を現した! ナムアミダブツ! 入室不可、発見不可の秘密茶室が、何の前触れも無くハッキングされてしまうとは! 「ドーモ、ダイダロスです。…お久しぶりですねワームども。観念してください」
posted at 01:03:15

「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」 #1終わり #2へ続く
posted at 01:04:05

◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 18:29:21

NJSLYR> ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ #2

101204

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」 #2
posted at 21:51:03

(これまでのあらすじ。アンタイ・ニンジャウイルス「タケウチ」に冒された、師匠ドラゴン・ゲンドーソー。特効薬を求め、ニンジャスレイヤーは自称ジャーナリストのナンシー・リーと、IRCサイバースペース内の茶室で秘密会議を行っていた。そこへ、ソウカイヤの刺客ダイダロスが侵入してきたのだ)
posted at 21:57:08

「ドーモ、ダイダロスです。お久しぶりですねワームども。観念してください」彼は茶室の中央に座す2人を威圧的に指差した。 だがその一瞬後、ボンテージ・キモノ姿のナンシーが、正座の状態から物理法則を無視したトビゲリをくり出したのだ! 「グワーッ!」フスマの外へと蹴りだされるダイダロス!
posted at 22:21:15

ナンシーはショウジ戸を閉め、敵の再ハッキングに備える。流石はLAN直結サイバネ手術を受けた彼女である。ダイダロスの姿を見たニンジャスレイヤーは反射的にOJIGIコマンドをタイプしかけたが、彼がOをタイプしている一瞬の間に、ナンシーはもうKICKコマンドを入力し終えてていたのだ。
posted at 22:25:27

「この茶室は発見も侵入も不可能だったのでは?」フジキドが問う。 「敵は私より上手のハッカーだわ」とナンシー。露出した美しいハーフバストが緊張で汗ばむ。「サイバースペース内に絶対は無い。すべてのリアリティはハッカーによって書き換えられうる。どうやら会議に時間を費やしすぎたみたいね」
posted at 22:34:12

「ドーモ」ナンシーが警戒していたのとは反対側のショウジ戸が開き、再び黒ニンジャ装束のダイダロスが姿を現した。「観念してください。ファイアウォールなど私の前ではショウジ戸も同然なのですグワーッ!」 再びナンシーのトビゲリ! だがナンシーの着地と同時に、別のショウジ戸がさらに開いた!
posted at 22:40:33

「ドーモ」ダイダロスが姿を現し余裕のオジギを決める。「何度やっても無駄です。ファイアウォールなど私の前ではショウジ戸も同然なのですグワーッ!」 ナンシーをサポートするように、ニンジャスレイヤーのジャンプ・カラテキックが決まる! だが次の瞬間、全方位のショウジ戸が同時に開いたのだ!
posted at 22:46:48

「「「「ドーモ、ダイダロスです」」」」東西南北から出現した4人のダイダロスは、再び胸の前で手を組み、全員同時に余裕のオジギを見せる。ナミアミダブツ! 果たしていかなるジツを使ったのか?  ナンシーは茶室の中央へ側転で移動しながら、絶望にも似た声を上げた。「……多重ログインだわ!」
posted at 22:56:14

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posted at 22:57:07

陰鬱な重金属酸性雨が、今宵もしとしととネオサイタマを濡らす。明滅するカンバンの下で、フード付きの黒い耐酸性レインコートを着た3人組が、薄汚いファミリーマンション「ロイヤルペガサス・ネオサイタマ」を見上げていた。うち一人は、その両手に無骨な無線LAN通信傍受デバイスを抱えている。
posted at 23:03:48

別の一人は、IRCトランスミッター機能付きサイバーサングラスをかけ、ダイダロスからの遠隔指令を受けていた。3人は顔を見合わせて頷くと、電子ロックされた入口のドアをブーツで蹴破り、廊下でショウギをしていた老人たちを踏みつけながら、感情なきマシーンのごとくエレベーターへと向かった。
posted at 23:09:05

3人組は指令通りエレベータに乗り込み、67階をプッシュ。動きを制限するレインコートを脱いだ。紫色の背広と、隠し持っていたアサルトライフルが露になる。クローンヤクザだ。ナムサン! ダイダロスはニンジャスレイヤーのIPアドレスを一瞬でスキャニングし、物理アドレスを割り出していたのだ!
posted at 23:17:28

目的階に到着すると、3人組はアサルトライフルを構えて臨戦態勢をとりながら薄暗い廊下を歩き、ニンジャスレイヤーの潜伏先を探す。あまり治安の良いマンションではなさそうだ。バチバチとタングステン灯が明滅し、廊下に散らばったバリキドリンクや、注射針や、タッパーや、マグロの頭などを照らす。
posted at 23:25:06

笑顔の親子が「職はありますか」「プロジェクトに参加したい」と吹き出しで訴える色褪せたポスターが打ち捨てられている。これを踏みながら廊下を歩くと、傍受デバイスが発するサイバーな緑色光が次第に強まっていった。そして3人のクローンヤクザは「ヤマダ」と表札に書かれたドアの前で立ち止まる。
posted at 23:38:58

厚さ数ミリのドアの向こうでは、復讐の戦士ニンジャスレイヤーが湿ったタタミに正座し、UNIX画面の放つ暗い光と向き合っていた。彼は全神経をモニタと指先に集中させ、現れては消えるダイダロスに対して、深刻な顔でKICKコマンドを高速タイプし続けている。やはり電脳世界の戦いは不利なのだ。
posted at 23:47:23

ニンジャスレイヤーは、すぐ近くに忍び寄るクローンヤクザの気配に気付く余裕すら無かった。彼の視線は、モニタ、キーボード、そして右手にある外付けファイアウォール装置群を交互に行き来する。無線LAN装置からUNIXの間には、スゴイテック製のファイアウォールが7台も直列接続されていた。
posted at 23:50:59

パシン! というショウジ戸が破られるような独特の音を立て、5台目のファイアウォールが破壊される。ナムサン! 敵のハッキング能力は圧倒的だ。それまでの4台も、すでにダイダロスのハッキング攻撃によって突破され、焦げ臭い匂いと灰色の煙を吐き出していた。残るファイアウォールはわずか2台!
posted at 23:56:58

ニンジャスレイヤーとナンシーは、茶室から脱出すべくコマンドをタイプし続けたが、すべて寸前で阻止されてしまう。恐らくチャットルーム内のリアリティが書き換えられているのだ。茶室内のダイダロスをすべて蹴り出さなければ、脱出は不可能。だが、茶室内のダイダロスはすでに13人目に達していた!
posted at 00:02:53

パシン! 6台目のファイアウォールが突破された。ニンジャスレイヤーは鋼鉄メンポから荒い息を吐き出しながら、膝の上に乗せた強化カーボン製キーボードを高速タイプする。だが間に合わない! パシン! 7台目が突破される! 「ナンシー=サン、例の場所で落ち合うぞ! オタッシャデー!」
posted at 00:06:51

フジキドが断末魔のごときメッセージをタイプし終えると同時に、UNIXモニタの光が中心に向かって収束。その1秒後、猛爆発を起こした。「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは地を這うワニの構えを取り、間一髪で火柱の直撃を回避。だが、同時に背後でドアが破壊され、クローンヤクザが突入してきた!
posted at 00:13:00

「ザッケンナコラー!」三人のクローンヤクザは、背筋も凍るような恐ろしい叫び声とともにライフルの引き金を引いた。凄まじいマズルフラッシュが暗闇を切り裂く。もし、ここが冷凍マグロを吊るすコンテナだったら、一瞬にして大量のネギトロが出来上がっていただろう。それほど猛烈な一斉射撃だった。
posted at 00:17:28

しばしの静寂。最後の薬きょうが廊下に落下し、カランカランと乾いた音を立てる。合成綿布フートンの成れの果てが、惨殺されたハトの羽のように部屋中を舞っていた。クローンヤクザたちはサイバーサングラスのスイッチを押し、視界を温度感知モードに切り替えてから、タタミ部屋へと踏み込む。
posted at 00:24:21

3人はクローンならではの統一感のある動きで互いの背中を守りながら、ニンジャスレイヤーの潜伏先であったタタミ部屋を踏み荒らした。UNIXは完全に破壊されている。脱出できそうな窓は無い。通風用の網戸は小さすぎ、とても大人が通れるとは思えない。どこにも、人の気配は無い。仕留めたのか?
posted at 00:27:55

少しずつ硝煙が晴れ始めた。「血痕だ」と、クローンヤクザの一人が言った。砂壁に何枚か額入りの写真が飾られており、その周囲だけ何故か壁に銃弾が命中した痕跡が無い。その代わり、いくらかの新鮮な血が、飛沫となってそれらの額にかかっていた。 「回収する」クローンヤクザの一人が写真に近づく。
posted at 00:31:55

「何の写真だ?」と別のクローンヤクザ。 「家族の写真のようだ。若い夫婦と、子供が一人……」砂壁に接近したクリーンヤクザが、その写真の映像をサイバーサングラス内に捉えようとした時、黒い影が頭上から落下してきた。床には、粉々になったコンクリートの破片。天井に大穴が開けられていたのだ。
posted at 00:35:26

「温度反応!」とクローンヤクザが声を発する前に、その赤黒い影が突き進んできた。サイバーサングラスに映った最後の映像は、「忍」「殺」と彫られた、ニンジャスレイヤーの黒い鋼鉄メンポであった。 「イヤーッ!」「グワーッ!」カラテチョップが一閃し、クローンヤクザの首を一撃でへし折った。
posted at 00:38:12

「ザッケンナコラー!」2人のクローンヤクザは、装填済みライフルの銃口を向けて同時にトリガを引く。だが無駄だった。マズルフラッシュが光る前に、スリケンが彼らの股間を破壊していたのだ。 「グワーッ!」「グワーッ!」クローンヤクザは股間から噴水のように血を流し、同時に後ろに倒れた。
posted at 00:44:19

 「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」 #2終わり。 #3へ続く
posted at 00:45:21

(親愛なる読者の皆さんへ。今回の連載分に深刻なタイプミスが有りました。クリーンヤクザはクローンヤクザのタイプミスです。緊張感のあるシーンを台無しにする、許されざるタイプミスであり、原作への大きな冒涜です。事態を重く見た翻訳担当者は、自主的にケジメを行いましたので、ご安心ください)
posted at 00:52:53

RT @alohakun: 「「ゼロ・トレラント・サンスイ」」をトゥギャりました。 http://togetter.com/li/75597
posted at 12:12:06

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 12:57:35

NJSLYR> ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ #3

101209

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」#3
posted at 22:29:16

ネオサイタマ中部、アヤセ・ジャンクション。ここはネオサイタマ湾から続く長大な運河、タマガワの終着点であり、大小無数の水路がショウギ盤のごとく張り巡らされている。ヨロシサン、オムラ、スゴイテック……日本屈指のメガコーポであれば、このエリアにドックやプラントを複数保有しているものだ。
posted at 22:34:32

ここに暮らす人口の八割が工場労働者や水運労働者、二割が知的サラリマンである。メガコーポの施設が立ち並ぶとあって、海賊行為やテロ行為も多い。プラントの排気で暗い黄土色に染まった夜空には、ネオサイタマ市警のマッポツェッペリンが何隻も飛び、威圧的な漢字サーチライトで地上を照らしていた。
posted at 22:46:44

江戸時代から続く風邪薬メーカー、ヨロシサン製薬の第1プラントは、その北西部にある。第1とはいえ、規模はさほど大きくない。マッシヴ・オスモウスタジアム12個分ほどだ。カンバンには「ユタンポ・プラント」「歴史的な」と書かれ、ここが魅力的な施設ではないことを過剰なほどアピールしていた。
posted at 22:51:34

第1プラントのE7非常水路口は、最新型トミーガンとチギリキで武装する2人の傭兵崩れによって守られている。小型の屋形船が1隻通れるかどうかの細い水路で、入口の上には「非常用」と書かれた紫色のネオンサインがバチバチと明滅していた。平時、トリイ型の柵によって非常水路は封鎖されている。
posted at 22:59:59

大型コンテナ屋形船が、廃水と重油で汚された黒い水面を割りながら非常口前の大水路を通り過ぎると、得体の知れぬウナギめいた大魚が息継ぎに頭を出した。傭兵がトミーガンの引き金を引き、魚が弾け飛ぶ。 「ナムサン! 今日もシケてるぜ、アナーキストひとり来ねえ」 「湾岸警備時代が恋しいな」
posted at 23:04:22

ナムアミダブツ! 知的サラリマンであれば、この無機質な殺戮の光景を見て、陰鬱なハイクを呼んだことだろう。だが殺人感覚が麻痺した傭兵たちには、無意味に魚をネギトロに変えることなど、チャメシ・インシデントなのである。 「アイエーエエエエエエエ!」どこからか、突如奇声が聞こえてきた。
posted at 23:09:23

Tシャツ姿の男が大型コンテナ屋形船のカワラ屋根から飛び降りたのだ。酩酊したサラリマンなどではない。彼のTシャツには「悪い政府だ」と書かれていた。コワイ! この男は恐るべきアナーキストだ! 空中で走るように足を動かしながら、両手に握った粗末な拳銃で眼下の傭兵たちへと闇雲に発砲する。
posted at 23:19:22

傭兵たちは最低限の身のこなしで銃弾を回避した後、非常口前の足場に着地した男をチギリキで滅多打ちにする。チギリキとは、長柄の日本式モーニングスターだ。「アイエエエエ!」アナーキストは一瞬にしてネギトロへと変わり、そのまま水路に蹴り落とされ沈む。インガオホー! 何たるマッポー的光景!
posted at 23:24:28

「アナーキストじゃ駄目だな」チョンマゲ頭の傭兵が、バリキドリンクを三本一気に飲み干しながら言う「湾岸警備に戻らねえか? 時給は落ちるが、スリルがあった」。「絶対に嫌だね」と、両肘から先を戦闘義手化したもう一人の傭兵が応える。彼の手は、湾岸警備時代にマグロ爆弾に持っていかれたのだ。
posted at 23:29:43

「……ん、あれは?」サイバネ義手が、ぎこちない指先で、接近してくる小型屋形船を示した。 「ああ? 出張オイランサービスだろう?」と、チョンマゲ。 確かに、その屋形船の舳先を見やれば金髪ゲイシャが座布団に座ってキセルを吹かし、耐酸性雨笠を被った船頭がバイオバンブーで舵を取っていた。
posted at 23:32:27

船の上にあるオヤドのカワラ屋根には、「ほとんど違法行為」「激しく前後する」「実際安い」と書かれた刺激的なミンチョ体ネオンが瞬く。ショウジ戸の奥からはザゼン・アンヴィエント系の電子音が漏れ、その音にあわせて金髪ゲイシャが艶めかしく細い煙を吐いた。二人の傭兵は、にこやかに手を振った。
posted at 23:35:43

「それ以上近寄るな、この先は私有地だ」チョンマゲがにやにやしながら銃を構えた。 「オイデヤス! ガガイケ専務=サンの注文よ」とゲイシャが流暢な日本語で応える。傭兵たちは彼女の大理石のように白く滑らかな肌を見て、ごくりと生唾を飲んだ。鎖国下の日本では珍しい、コーカソイド人種である。
posted at 23:40:15

「俺はこの女の胸が本物かどうか調べるから、お前は事務所に確認を取れ」チョンマゲが銃口を相方に突きつけながら言う「その手じゃ無理だろ」。サイバネ義手は渋々、壁に埋め込まれたIRC端末を操作する。ゲイシャはキモノから溢れ出しそうな胸を突き出し、傭兵のボディチェックを甘んじて受けた。
posted at 23:44:51

「いつかお前のバイオLAN端子をファックしてやる」サイバネ義手は相方に対し毒づきながら、IRC端末で事務所と連絡を取る。「確かにガガイケ=サンと思われるアカウントが、十分ほど前に出張サービスをオーダーした記録があるぜ。だから頼むから代わってくれ」とサイバネ義手は悲痛な声をあげた。
posted at 23:51:20

「残念だな、今終わったところだ」チョンマゲは屋形船に対しにこやかに通れの合図を出す。「船頭はチェックしないのか?」とサイバネ義手。「俺にそっちの趣味はない」と、チョンマゲは厳しい顔を作って相方に銃口を向ける。「オーライ」サイバネ義手は吐き捨て、ハンドルを回してトリイ型柵を下げた。
posted at 23:54:37

屋形船はしめやかに非常水路内へと進み、まんまと第1プラント内への潜入を果たした。 「専務のアカウントをハッキングしたのか」と、船頭が低く重い声で言う。笠を目深に被っていたので気付かれなかったが、その下には赤黒いニンジャ装束と、「忍」「殺」の文字が彫られた鋼鉄メンポが隠されていた。
posted at 23:58:04

「この薄汚いユタンポ・プラント内に、本当にヨロシサン製薬のトップシークレットが隠されているのか?」とニンジャスレイヤーは続ける。 「ええ、間違いないわ」と、オヤドの中からナンシーの声「敵を欺くには、まず味方から欺くべし……平安時代の哲学者ミヤモト・マサシが残したコトワザの通りよ」
posted at 00:00:20

それを裏付けるように、非常水路の壁にはズバリ中毒者の毛細血管を思わせる錆び果てたパイプが無数に並び、ユタンポにはおそよ不似合いな蛍光緑のバイオ廃水を滴らせていた。彼女はキャットスーツに着替え終え、左腕にマウントされたUNIXのキーを叩く。その中には建物内の地図が八割方入っている。
posted at 00:14:16

両の壁の下には幅1メートル弱の細い足場があり、「タイムイズマネー」「ヨロシサン」などと書かれたノボリが等間隔で立つ。その中に「業者用」というノボリがあった。「ここよ」と、オヤドの中からナンシー。ニンジャスレイヤーはバイオバンブーを突き立てて屋形船を止め、オヤドの屋根に跳躍する。
posted at 00:25:19

暗い天井に目を凝らすと、円状に走る細いスリットが見える。隠し通路だ。その横には、強化シリコンで蓋をされた小さなLAN端子。ナンシーが屋形船のデッキから、無駄のない動作でLANケーブルの末端を投げて寄越す。もう片方は、彼女の右耳の隣にあるバイオLAN端子にジャックインされていた。
posted at 00:31:22

ニンジャスレイヤーが受け取ったLANケーブルを接続すると、わずか数秒で、天井からボンというくぐもった小爆発音が鳴る。ハッキングに成功したのだ。ナンシーの目の下の隈が、やや暗さを増す。彼女は1時間前に起こったダイダロスとの電脳空間チェイスで、かなりの精神力を消耗していたのである。
posted at 00:34:11

ロックを解除された隠し通路の蓋を、ニンジャスレイヤーは業者用工具も使わず、己のニンジャ握力とニンジャ腕力だけで回転させ、数十キロもあるそれを軽々と取り外してから、非常水路の水の中に投げ捨てた。突然の衝撃に驚き、水面からバイオウナギたちが顔を突き出して、黒い瞳を不安そうに輝かせる。
posted at 00:37:01

くり貫かれたパイナップルのように、天井に垂直の道が現れる。ニンジャスレイヤーはまずナンシーの手を取ってオヤドの屋根に引き上げ、次にニンジャロープを垂らして天井の穴へと導いた。眼下では、自動操縦モードになったオイラン船が、時限爆弾の秒読みを開始しながら中央エントランスへ流れてゆく。
posted at 00:45:01

一方、そこから三百メートルほど離れた非常水路入口では、バリキドリンクの過剰摂取でハイになった傭兵2人が、今にも暴動か殺し合いを起こしそうな剣幕で睨み合っていた。 「やっぱり納得行かねえ。俺にもオイラン・ボディチェックをやらせてくれたって良かったろう? 俺の腕をバカにしてんのか?」
posted at 00:48:48

「うるせえな。解ったよ、なら、こうしようぜ」チョンマゲのニューロンが閃く「専務のお楽しみが終わって、あのオイラン屋形船が帰ってきたら、ここを出る直前に柵を締めて、動けないようにするんだ」。 「そんで……どうすんだよ? 再度ボディチェックか?」と首を傾げるサイバネ義手。
posted at 00:51:44

「ファック&サヨナラさ」チョンマゲは事も無げに言い放つ「敷地内だし、死体を沈めりゃ足はつかん」。 「サエてるな。悪くない。でも……」サイバネが何か引っかかったような顔を作る「万が一バレたらどうすんだ?」。 「捕まる前に逃げりゃいい」「仕事は?」「湾岸警備があるだろ」「サエてるな」
posted at 00:55:21

KABOOOOM。非常水路の奥から、オイラン船の爆発音が伝わってきた。「何だ?」「どうせプラント事故だろ?」 2人の傭兵が奥を申し訳程度に覗き込んだその時……チョンマゲが立っていた側の警備用足場の横に、腕を組んだ人影が不意に降ってきた。その人影は、薄緑色のニンジャ装束を着ていた。
posted at 01:06:02

「ニンジャ?」と言い終わらないうちに、チョンマゲの胴体は斜め真っ二つに切断されていた。上半身だけがずるりと滑って、水路の中にダイブする。トミーガンの引き金を引く余裕すら無かった。だが、薄緑色のニンジャは腕を胸の前で組んだままである。ナムサン! 果たして、いかなるジツで殺したのか?
posted at 01:13:06

「ニンジャ? ワッタファック?」事態が呑み込めないサイバネ義手だったが、腐っても元傭兵である。彼はニューロンに染み付いた殺人回路をフル回転させ、目の前のニンジャらしき敵を排除しにかかった。サイバー義手によって常人の10倍ほどにまで高まった腕力で、チギリキが振り下ろされる!
posted at 01:15:49

「イヤーッ!」薄緑色のニンジャは腕を組んだまま、掛け声だけを発した。腕は依然として胸の前で組んだままである。だが……おお、ナムアミダブツ! 何か鋭い刃物のようなものが一瞬だけ閃いたかと思うと、鋼鉄製のチギリキは真っ二つに切断され、さらに傭兵の首も切断されていたのだ!
posted at 01:19:54

「見たか、オレのバイオ・イアイドは無敵だぜ!」薄緑色のニンジャは、首を失ったサイバー義手傭兵の死体を水路に蹴り落としながら笑う。胸の前で組んだ腕の少し下で、何かがごそごそと蠢く。何とそれは、イアイ・カタナについた血を払って鞘に仕舞おうとする、彼の三本目と四本目の腕であった!
posted at 01:22:42

インガオホー! 彼こそは四本の腕を持つ恐るべきバイオニンジャ、ノトーリアスであった。自尊心に満ちあふれる彼は、雑魚相手にその四本の腕を全て使うまでもないという意思表明を行ったのだ! 「馬鹿者! 静止を聞かなかったのか! ここがナムだったらお前は死んでいるぞ?」別な声が聞こえた。
posted at 01:26:47

「すまねえな大将! でもこっちのほうが話が早いだろ! なにしろ、オレのバイオ・イアイドは無敵だからな!」ノトーリアスが大きな声で言う。 「無駄口を叩くな」迷彩ニンジャ装束を纏ったフォレスト・サワタリが、ぴしゃりと言う。「行くぞノトーリアス。先に別な潜入者がいたようだ、都合が良い」
posted at 01:30:49

「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」 #3終わり。 #4へ続く
posted at 01:31:40

NJSLYR> ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ #4

101213

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」#4
posted at 22:24:57

(あらすじ:IRC空間で秘密会議を行っていた復讐の戦士ニンジャスレイヤーとジャーナリストのナンシー・リーは、ソウカイヤの刺客ダイダロスから電脳攻撃を受ける。これを回避した彼らは、ヨロシサン製薬の機密情報を奪取するために、アヤセ・ジャンクションにある第1ユタンポ・プラント内に潜入)
posted at 22:27:57

(だが、その直後、新たなニンジャ2人が非常口の見張りを殺して第1ユタンポ・プラントへと侵入した。それはニンジャスレイヤーの側にもソウカイヤの側にも与さない独立ニンジャ勢力、サヴァイヴァー・ドージョーの首領サワタリとノトーリアスであった! 何故彼らがここにいるのか? その目的は?)
posted at 22:29:45

「また先をこされたぜ」四本腕のニンジャは、白い床に転がったクローンヤクザ十体の死体を見ながら不満そうに叫んだ「オレのバイオ・イアイドがなまっちまう!」。 「無駄口を叩くなノトーリアス。急ぐぞ」迷彩ニンジャ装束に身を包んだサワタリは、ヤクザ達の懐から万札を手早く回収しながら言った。
posted at 22:35:31

サワタリはここまでの道のりを振り返る。……非常水路の天井に空いた縦穴を三十メートルほど登ると、その先には強化セルロイドの真白い回廊が続いていた。天井や床の角という角は丸く、重役用にバリアフリーが行き届いていた。壁自体に照明が埋め込まれているようで、何とも現実味のない空間であった。
posted at 23:01:26

クローンヤクザ数百人体制の警備、そして綺麗な床……ここはどう見てもただのユタンポ・プラントではない。その内側に秘密施設が存在していたのだ。彼ら2人はそれを最初から知っていた。予想外だったのは、恐らくニンジャスレイヤーとナンシー・リーと思われる2人組が、一足先に潜りこんでいた事だ。
posted at 23:08:06

彼らは時折道に迷いながらも、ニンジャスレイヤーとナンシー・リーが作った血と殺戮の痕跡を、狩猟動物のごとく追っていった。トリイギロチン、電子レンジ部屋、ネギトログラインダーなどのハイテクトラップ群も、ナンシーによって破壊された後で、壁に埋め込まれたLAN端子から白い煙を吐いていた。
posted at 23:13:19

2人は、サバンナを渡るジャガーのように音も無く回廊を駆ける。しばしば、クローンヤクザの体液である緑色のエキスや、それが酸化して真赤になったものが、白い床や壁に飛び散っている。ニンジャスレイヤーの仕業だろう。万札回収のために多少の時間を費やすため、なかなか追いつくことが出来ない。
posted at 23:21:12

「大将、何故奴らがここに? もしかして奴らも、バイオ・インゴットを?」ノトーリアスが鋭い推理を行う。 「そんな筈はない。あいつらにとって、インゴットは何の価値もない、ただの緑色のヨーカンだ」サワタリは自分の疑念にも答えるかのように、強い口調で言った「インゴットはお前達のものだ」。
posted at 23:23:49

「アバーッ!」万札を回収していたノトーリアスが突如その場にくず折れ、緑色の血を吐いた。ナムサン! 血はすぐに酸化してどす黒い赤に変わる。「くそったれめ、インゴット不足の初期症状だ」サワタリが口惜しげに言う「まだ動けるか?」「何ともないぜ大将、俺のバイオ・イアイドは無敵だからな!」
posted at 23:30:24

四本腕をガクガクと痙攣させながら体を起こし深呼吸すると、いつもの自信溢れる彼に戻った。サワタリは胸をマチェーテで抉られるような苦々しい思いを味わった……そしてヨロシサンのバイオ研究員だった彼の記憶を、ナムの偽りの記憶が塗りつぶすのだった。「持ちこたえろ、もうじきイロコイが来る!」
posted at 23:35:58

サワタリ率いるサヴァイヴァー・ドージョーは、ノトーリアス他数名のバイオニンジャで構成される。彼らは皆、かつてサワタリが研究員として観察していた実験体だ。バイオニンジャ計画は、ラオモトによって廃棄されたニンジャをヨロシサンが回収し、バイオ技術で改造するという、狂気の計画であった。
posted at 23:44:37

自由を求めて研究所を脱走した彼らは、ネオサイタマ東端部に広がる耐酸性バンブー・ジャングルに身を隠し、バイオパンダなどを狩って自給自足の生活を送っていた。時折、どうしても金や物資が必要になった時や、殺人衝動に駆られた時のみ、彼らはネオサイタマ市街に下りてきて殺人や強盗を行ったのだ。
posted at 23:47:03

彼らの行動はまるで、竹林に隠れガゼルを狩る、気高きタイガーそのものだった。彼らはソウカイヤのように政治経済を支配する気など無く、サヴァイヴァー・ドージョーの名前どおり、ただ平安時代のニンジャ神話に登場するタイガーのごとく、汚染された自然の中で逞しく生きようとしていたのである。
posted at 23:52:11

だが、そんな生活の中でサワタリは不意に気付いた。バイオニンジャ達は、高純度のバイオ・インゴットを定期摂取せねば死んでしまうことを。すると彼らは、研究所にいたほうが幸せだったのでは? その重い事実に耐え切れなくなった時……彼は混乱をきたし、偽りのベトナム戦争の記憶に支配されるのだ。
posted at 23:59:31

「急ぐぞノトーリアス。ここには間違いなくインゴット製造機がある筈だ。ベトコンどもからそれを奪い取れば、ドージョーで無限にヨーカンが作れる。MOVE、MOVE、MOVE!」……だが、彼に確信は無かった。かつての彼は上級研究員などではなく、末端のサラリマン研究員に過ぎなかったからだ。
posted at 00:04:49

――――――――――――――――
posted at 00:05:10

オモチじみた真っ白い回廊で、ボーリングのピンのような規則正しい隊列を組み、Y12型クローンヤクザ10体が警備任務に当たっていた。何とも威圧的な光景だ。数秒ごとに、全員が一糸乱れぬタイミングで回れ右をし、アサルトライフルの銃口を反対側の回廊の先に向ける。クローンならではの統一感だ。
posted at 00:11:57

不意に、T字型回廊を曲がり、赤黒い装束のニンジャが全速力で駆け込んできた。その右手には、スゴイテック社製のとても長いLANケーブルの末端が。ナンシーはやや後方の壁にもたれかかり、既に意識を半分電脳世界に飛ばしている。ヤクザたちはサングラスを光らせ、一斉に同じ動きで引き金を引いた。
posted at 00:13:45

アサルトライフルが火を噴く! だが凄まじい速度に達しているニンジャスレイヤーは、床も壁も天井も関係なく螺旋を描きながら駆け抜けて銃弾を回避し、スリケンを放つ。 「イヤーッ!」「グワーッ!」 喉にスリケンが命中したクローンヤクザは、次々とアボカドジュース・スプリンクラーに変わった!
posted at 00:15:55

ニンジャスレイヤーが動きを止めて床に着地すると、螺旋軌跡を描いていた軽量LANケーブルも、ふわりと地面に舞い降りる。ケーブルが床に触れるよりも速く、ニンジャスレイヤーは次なるトラップを解除するための隠しLAN端子ソケットを壁に発見し、そこにLANケーブルの末端をジャックインした。
posted at 00:18:07

ビクン、と電気ショックを受けたようにナンシーの体と胸が揺れる。かなりのプログラム防壁が施されているようだ。ナンシーの精神はIRC空間へとダイヴする。 一方、ニンジャスレイヤーの鋭い視線は、回廊の前方からじわじわ迫ってくる網目状のレーザー光線を睨みつけていた。これが次のトラップか。
posted at 00:23:18

ふと、嫌な予感がしたニンジャスレイヤーは背後を振り向く。果たして、T字路を曲がってすぐの場所にも、赤い網目状のレーザー光線が出現していた。ウカツ! T字路前の壁の陰に隠れているナンシー=サンと分断されてしまった! いまや2人を繋ぐのは、真綿のように軽いLANケーブルのみである。
posted at 00:26:52

ニンジャスレイヤーは正面を向き直り、レーザーの発射源があると思われる壁のスリットに向けてスリケンを投げつける。だが、さしものスリケンもレーザー光線に切断されてしまう。ナムアミダブツ! ニンジャスレイヤーはLANケーブルが切断されないよう位置を微調整しながら、少しずつ後ずさりした。
posted at 00:29:00

(((急いでくれ、ナンシー=サン。前後のレーザー網目の間隔は、残り僅かタタミ5枚分だ!)))ニンジャスレイヤーは脱出経路を探った。「イヤーッ!」真っ白い壁に向けてカラテを叩き込むが、オモチ状の強化セルロイドに弾かれる。ナラク化する手もあるが、この状況下ではナンシーを殺しかねない。
posted at 00:31:26

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posted at 00:31:49

禁酒法時代の婦人服と帽子に身を包んだナンシーは、デリンジャーを胸に挿しながら、古式ゆかしい夕暮れの日本漁村にいた。ひときわ高いトリイの上に立ち浜辺を見やる。セキュリティ・プログラムを組んだプログラマの使ったコメント欄や関数名をもとに、ナンシーの脳内で描かれたコトダマ・イメージだ。
posted at 00:33:46

科学的補足を付け加えておくと、もしこの電脳IRC空間に彼女以外の者が続けてログインした場合、同じイメージを観ることになる。その部屋のリアリティは、最初に入室したハッカーが作るからだ。もちろん、後続ハッカーのタイプ速度がより速い場合、そのリアリティが書き換えられることもあるが……。
posted at 00:36:04

ジンジャ・カテドラルの鐘が鳴ると、海辺に半漁人めいた村人が姿を現し、上陸を開始。砂浜には、ブードゥーめいたイカが吊るされた邪悪な大コケシが何本も立ち並ぶ。「悪趣味なプログラマ……」ナンシーは呟きながら、トリイで鉄棒選手のように大回転を決め、斜め下にある市役所のカワラ屋根を破った。
posted at 00:37:54

「何だ君は?」市役所の一室には、詰襟の学生服を着て、腰にカタナを吊った青年がいた。その胸には、分厚い日記帳が抱かれている。チャブが扉の前に積まれ、粗末なバリケードが築かれていた。大勢の村人が、廊下から扉を破壊し、部屋に突入しようとしていた。「僕の出生の秘密がここに」青年が震える。
posted at 00:40:32

「ごめんなさい、それを頂戴ね」ナンシーはデリンジャーで青年の頭を撃ち抜き、タタミに落下する前に日記帳を奪い取ると、分厚く降り積もった埃を吹き飛ばして666ページを開いた。「解除パスワードまで悪趣味だわ……」。ナンシーは木棚から筆と半紙を掴み取り、パスワードを床で高速ショドーする。
posted at 00:44:38

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posted at 00:45:07

パン、という音ともに、壁の端子から白い煙が上がる。間一髪。レーザー光線はニンジャスレイヤーをキンタロ・スライスする直前で停止し、消えた。「ナンシー=サン、大丈夫か?」ニンジャスレイヤーが気遣う。ナンシーは憔悴しきった顔に力無く笑みを浮かべて頷き、右手で不敵なキツネサインを作った。
posted at 00:47:30

「待て、あれは?」ニンジャスレイヤーのニンジャ眼力は、自分達が駆け抜けてきた回廊の端を見通した。300メートル近い直線の先にL字路があり、クローンヤクザの死体が何体か転がっている。そこにしゃがみこむようにして、ヤクザたちの胸元を漁っているのは……サヴァイヴァー・ドージョーか?!
posted at 00:49:15

――――――――――――――――
posted at 00:49:20

一方そのころ、第1プラントの暗いセキュリティルーム内では、ガガイケ専務が激しい怒りを露にしていた。「また突破だと!? どうなっとるんだ君ィ!」「アイエエエエ! スミマセン! 敵は恐らく、テンサイ級……いや、ヤバイ級ハッカーです!」UNIXを叩く保守サラリマンが失禁しながら叫んだ。
posted at 00:50:55

「アイエエエエ! ヤバイ級ハッカーだと!」ガガイケ専務もつられて失禁する「どうするんだ君ィ! ヤバイ級ハッカーがネットワーク越しでなくLAN直結……アイエエエエ!」。「アイエエエエエ! 大丈夫です! 大丈夫です! 心臓部を守るタヌキ・メインフレームは、絶対に突破不可能ですから!」
posted at 00:55:13

その時、保守サラリマンが操作していたUNIX画面と、セキュリティルーム内の全監視モニタに、『警告:ハッキング攻撃下な』と赤いドット・ゴシック体で文字が点滅した。「「アイエエエエ!」」二人はセプクすらも覚悟して絶叫する。だが、このハッキングは、彼らにとって願ってもいない助けだった!
posted at 00:57:02

「ドーモ、ヨロシサンの皆さん」抑揚の無い電子音声めいた声が、セキュリティルームに響く。スピーカー類までハッキングされたのか。モニタ上には、円環状サイバーグラスをかけ、頭から無数のLANケーブルを生やしたニンジャが写った。「ソウカイヤのネットワークセキュリティ担当、ダイダロスです」
posted at 00:59:33

「アイエエエエ? ソウカイヤって何です?」と保守サラリマン。ガガイケ専務は部下のバイオLAN端子からケーブルを引っこ抜き、腰に吊ったショック・ジュッテの先を差し込んで、電流を『とても強い』にした。ナムアミダブツ! 「アバババババババーッ!」保守サラリマンは全身を痙攣させ即死する。
posted at 01:00:41

「ダイダロス=サン、助かりました! 我々は今恐ろしいニンジャと豊満で性的なガイジンに、ローテクとハイテクのダブルハッキング攻撃を受けているんです! このままでは爆発してしまいます!」 「大丈夫です。私がなんとかしましょう。ファイアウォールなど、私の前ではショウジ戸も同然ですから」
posted at 01:01:58

「ガガイケ=サン、あなたはキーボードに触らず、ただ見ていてください。余計な手出しをすると、あなたのニューロンが火傷しますよ」 「ヨロコンデー!」ガガイケは涙を流して喜んだ。 「さあ、ワームども、今度こそ逃がしません。……そして我が電子のヨメよ、今度こそ貴女を捕えてLAN直結……」
posted at 01:03:49

「ヨメ?」ガガイケが呟き、その声がUNIXマイクに拾われる。直後、監視モニタの一つが真っ白に光ってから爆発した。「アイエエエエエエ!」 「ガガイケ=サン、死なないうちに事務所に戻りなさい」機械じみた声を背後に聞きながら、腰を抜かしたガガイケは廊下をナメクジのように這っていった。
posted at 01:05:26

「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」#4終わり #5に続く
posted at 01:05:57

NJSLYR> ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ #5

101217

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」#5
posted at 16:53:23

(前回までのあらすじ:ニンジャスレイヤーとナンシー・リーは、ヨロシサン製薬のトップシークレットを盗み出すべく、第1プラントに侵入。だが彼らは、偶然にも高純度バイオ・インゴットを求めて潜入してきたサヴァイヴァー・ドージョーのニンジャ、師範サワタリと四本腕のノトーリアスに遭遇する)
posted at 16:55:46

(卑劣なトラップを回避しながら奥へと進むニンジャスレイヤーとナンシー。彼らを無慈悲に追跡するサワタリとノトーリアス。そこへさらに、ヨロシサン製薬を援護すべく、第1プラントのセキュリティ管理システム内に、ソウカイヤの刺客ダイダロスが遠隔ログインを果たした。まさに一触即発の状況!)
posted at 16:57:20

ニンジャスレイヤーことフジキド・ケンジは、黒いキャットスーツ姿のナンシーを仰向けに抱きかかえたまま、真白いコリドーを駆け抜けてゆく。「イヤーッ!」壁の両側からバイオバンブーのヤリトラップが突き出したが、ニンジャスレイヤーはそれを屈伸ジャンプで巧みにかわし、勢いを殺さず走り抜ける。
posted at 17:01:59

危険を承知の強行突破だ。サヴァイヴァー・ドージョーの目的は不明だが、彼らが敵であることに変わりはない、とフジキドは考えた。敵は2人。フォレスト・サワタリは、ベトコンじみた不可思議なカラテをマスターしている。無敵のバイオ・イアイドを使うという四本腕のノトーリアスも、強敵に違いない。
posted at 17:06:06

次のトラップだ。左右の壁に、斜めに切られたバイオバンブーの先端が見える。ヤリトラップが長さ10メートルに渡って続いているのだ! ナムサン! 「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはナンシーを胸の上に抱きかかえたまま、リュージュ選手のような滑らかさでスライディングを決め、これを回避した!
posted at 17:23:28

L字路を曲がる手前で、ニンジャスレイヤーは背後を一瞥する。思ったとおり、サヴァイヴァー・ドージョーの連中も、数々のトラップを容易に突破してきているようだ。江戸時代に禁止されて久しい非人道武器、マキビシを撒いてこなかったウカツさを悔いるが、足を止めている時間などもはや無い。
posted at 17:26:23

L字路を曲がってすぐの場所には、『たいへん危険』と恐ろしい警句が書かれた赤いノレンが。いよいよ施設心臓部が近い証拠だ。 「この先の地図は……無いわ」ナンシーが左腕のウェアラブルUNIX画面を見ながら言う。意を決してノレンをくぐると、100メートルほどの白い直線回廊が姿を現した。
posted at 17:37:43

これまでのコリドーとは、いささか趣が異なった。白い強化セルロイドで作られている点は同じだが、回廊の左右には白砂と石で幅三メートルほどの情緒豊かな庭がしつらえられ、オーガニック・バンブーが生えているのだ。そして回廊の突き当たりは……掛け軸が吊られた壁! まさか、デッドエンドなのか?
posted at 17:42:27

――――――――――――――――
posted at 17:51:20

警告ノレンをくぐったサワタリとノトーリアスは、状況を把握するため、しばしその場に立ち止まらねばならなかった。彼らの目の前には、ニンジャスレイヤーたちが見たのと同じ直線回廊と屋内庭園が続いていたが、突き当たりの掛け軸の下には、刺激的なキャットスーツ姿のナンシーが横たわっていたのだ。
posted at 18:53:37

「スリケンを投げてみるかい? 大将!」ノトーリアスが100メートル先のナンシーに対して無慈悲なスリケン投擲姿勢を取る。 「やめろ馬鹿者! あの美女は俺のヨメにするのだ」血気盛んな弟子を諌めながら、サワタリは中腰でじりじりと前進する。「ニンジャスレイヤーがどこかに潜んでおるはずだ」
posted at 18:56:01

左右に生い茂るオーガニック・バンブーは、サワタリの偽りのトラウマを狂おしいほど刺激する。「気をつけろ、どこにベトコンが潜んでいるかわからんぞ。俺たちはこの過酷なバンブー・ジャングルの中で、生き延びねばならん。俺があの地獄のごときナムの日々をどうやって生き延びたか、教えてやる!」
posted at 19:05:41

サワタリは手ごろなバンブーをひとつ切断し、即席のタケヤリを作った。また、腰に吊られていたバイオヒョウタンを手に取り、それをおもむろに広げると、オーカー色の編み笠が完成した。編み笠を目深に被って装備を整えたサワタリは、タケヤリをしごきながら威嚇的な奇声を発する。「ジェロニモ!」
posted at 19:14:35

サワタリが先に進み、背中合わせでノトーリアスが続く。(((どこから襲い掛かってくる、ニンジャスレイヤー?))) 胃を掴まれたような緊張感が走り、じっとりと汗が滲む。(((あの美女は明らかに囮だ。左右に広がるバンブー・ジャングルのどこかに、必ずやニンジャスレイヤーは潜んでいる)))
posted at 19:21:38

ナンシーまであと50メートル。サワタリはタケヤリの切先を左右に動かしながら、状況を観察する。ナンシーは耳の後ろからLANケーブルを生やし、その反対側は掛け軸の裏へと伸びていた。恐らくLAN直結でハッキング中のため、意識は無いだろう。ほとんど白目をむいてよだれを垂らしている。
posted at 19:35:10

(((ニンジャスレイヤーは何処だ……?))) サワタリの両目が編み笠の陰で光る。左右のバンブー庭園には、大きなコケシや灯篭もいくつか配置されているが、ニンジャスレイヤーが隠れられるほど大きなものは少ない。そうした大きな遮蔽物を発見するたびに、サワタリはタケヤリでそれらを破壊した。
posted at 19:39:21

「ジェロニモ!」サワタリのタケヤリが3個目の灯篭を破壊したが、その物陰にはやはり何も隠れてはいない。これでもう、目ぼしい遮蔽物は何一つ残ってはいない。どういうことだ? ニンジャスレイヤーはこの回廊にはいないのか? サワタリが一瞬の油断を見せた、その時! 
posted at 20:52:32

「イヤーッ!」竹と竹の間、何も存在しないはずの空間からニンジャスレイヤーが現れ、ナンシーの胸に視線を集中させていたサワタリの側面へとトビゲリ・アンブッシュを炸裂させる! インガオホー! サワタリの野生的索敵能力すらも欺いたそれは、白いニンジャフロシキを使った巧妙な潜伏であった!
posted at 21:05:56

「グワーッ!」サワタリの体は回廊に対して斜め45度の角度で吹き飛ばされ、左右の庭園に立ち並ぶオーガニック・バンブーによってバウンドしながら、ピンボールのごとく後方へと飛んでいった。最終的にサワタリの体は回廊の入口にあったノレンの下に落下し、目を剥いてぴくぴくと痙攣する。サツバツ!
posted at 21:11:09

トビゲリ・アンブッシュを決め終えたニンジャスレイヤーは、素早くバク転を3回決めて体勢を立て直す。そして両手を腰にぴったりと添え、ノトーリアスの機先を制するように、素早くオジギを決めて精神的優位に立った。「ドーモ、サヴァイヴァー・ドージョー=サン。ニンジャスレイヤーです」
posted at 22:01:14

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ノトーリアスです」ノトーリアスも電撃的なオジギを返す。そしてノトーリアスの下げた頭が上がりきるのとほぼ同時に、ニンジャスレイヤーはカラテの構えで突き進んだ! ハッキョーホー! 並の敵であれば、オジギから戦闘態勢に入る事すらできず絶命する速さだ!
posted at 22:39:59

「イアイ!」ノトーリアスのセラミック製カタナが閃く! 何と彼は、両手を胸の前で合掌してオジギしながらニンジャスレイヤーを油断させ、残る二本の手で抜かりなく腰のイアイ・カタナを握っていたのだ! 「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは間一髪でそれに気付き、タイドー・バックフリップで回避!
posted at 23:00:40

「イヤーッ!」着地と同時にニンジャスレイヤーは片膝をつき、バズーカ砲射手のごとき安定姿勢でスリケンを連射する! 「ダブルイアイド!」ノトーリアスは印象的な掛け声とともに、残る2本の腕で2本目のイアイ・カタナを引き抜く! ナムアミダブツ! スリケンは2本のカタナで次々と切断された!
posted at 23:09:46

「見たかニンジャスレイヤー=サン、オレのバイオ・イアイドは無敵なのだ!」ノトーリアスは2本の右手に1本のカタナ、さらに2本の左手にもう1本のカタナを握り、神像のごとき威圧感をもって頭上で交差させた。弾き損ねた1枚のスリケンが左腿に刺さり、緑色の血を滲ませていたが、傷は極めて浅い。
posted at 23:23:47

全く無駄の無い構えだ。ニンジャスレイヤーは攻め入る隙を見出せず、カラテの構えのまま後ずさった。 「オレのイアイドーは20段。だがバイオ・イアイドによって、その威力は30段にもなる!」ノトーリアスが手近な竹や灯篭をデモンストレーションとばかりに切断しながら、じりじりと近づいてくる。
posted at 23:29:04

(((後が無い。あと5メートルでナンシーのいる突き当りだ。好戦的なノトーリアスは、こちらを殺すためならばナンシーごとバイオ・イアイドで斬り刻んでしまうだろう。バイオニンジャとはそういうものだ。サワタリだけが人間性を保ちすぎているのだ))) フジキドは意を決し、真正面から突き進む!
posted at 23:35:30

「ダブルイアイド!」真正面から弾丸のような速度で駆け込んでくるニンジャスレイヤーめがけ、ノトーリアスは2本のカタナをXの字に振り下ろす! ナムサン! …だが、カタナは虚しく空を切った! ニンジャスレイヤーはスケルトン選手のごとき滑らかなスライディングで、股の下を通過していたのだ!
posted at 23:41:31

「ウオーッ! 何処だ?」ニンジャスレイヤーが背後に回りこんでいるという衝撃の事実に気付いていないノトーリアスは、灯篭や竹へと闇雲にカタナを振るう。「何処へ……グワーッ!!」 ニンジャスレイヤーが両手で投げた8枚のスリケンが、ノトーリアスの背中にXの字に突き刺さった。インガオホー!
posted at 23:46:04

「まだだ! オレのバイオ・イアイドは無敵だぜ!」ノトーリアスはおびただしいバイオエキスを床に撒き散らしながらも、背後を素早く振り向いて、2本のカタナを体の前で水平に構えなおした。恐るべき好戦性である。「ニンジャスレイヤー=サン、イアイドーの真髄を見せてやるぞ!」 だがその時……!
posted at 00:05:00

「アバーッ!」ノトーリアスは全身を痙攣させながら床に這いつくばり、緑色の血を吐き出した。ナムアミダブツ! 血を流しすぎたことで、再びバイオ・インゴットの欠乏禁断症状が出てしまったのだ! 「ちくしょう! サワタリの大将! 助けてくれ! 助けてくれ!」ノトーリアスは床に向かって叫ぶ!
posted at 00:07:14

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」「グワーッ! グワーッ! グワーッ!」ニンジャスレイヤーは素早く駆け寄り、無防備なノトーリアスの脇腹に連続カラテキックを叩き込んだ! 最初の2発で腎臓が幾つか破裂し、3発目でノトーリアスの体自体がサッカーボールのように天井へと叩きつけられた!
posted at 00:11:51

「ニンジャ殺すべし! サツバツ!」天井から落下してくるノトーリアスに対し、ニンジャスレイヤーは伝説のカラテ技、サマーソルト・キックをくり出す。バイオニンジャとなって以来、非人間的殺戮の限りを尽くしてきたノトーリアスが、一瞬だけ、ニンジャとなる前の顔に戻った。恐怖を知る人間の顔に。
posted at 00:16:13

ニンジャスレイヤーのカラテがノトーリアスの頭部を破壊する! それと同時に、ノトーリアスの口から断末魔の叫びが漏れた「サヨナラ!」と! 直後、行き場を失ったニンジャソウルは暴走を起こし、ノトーリアスの肉体を爆発四散させた。熟れ切ったアボカドのようなバイオエキスが、周囲に飛散する!
posted at 00:21:53

「ジェロニモ!」ノレンの下で息を吹き返したフォレスト・サワタリは、頭部から滲ませた赤い血で顔面を染め上げながら、鬼の形相で吼えた。怒りで完全に心を支配されているようだ。フジキド・ケンジは、内なるニンジャソウルによって心を支配されている時の醜態を鏡写しで見ているような感覚を覚えた。
posted at 00:26:27

タケヤリは既に破壊されており、サワタリに残された武器は腰に吊った二本のマチェーテ(山刀)のみ。2人の距離は、約50メートル。両者は大西部のガンマンのように、互いの武器に手を伸ばし、隙を窺いながら攻撃の機会を窺う。「アイエエエエ!」突如上がったナンシーの悲鳴が、決闘の合図になった!
posted at 00:32:00

追い詰められ獣と化したサワタリには、もはやナンシーなどどうでもよかった。彼は右腰に吊ったマチェーテを抜くと、素早く振りかぶり、ニンジャスレイヤーめがけて恐るべき速度で投げつけた! 回避は容易いが、この軌跡のままマチェーテが飛べば、ナンシーの頭が割られてしまうだろう!
posted at 00:34:50

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは飛んできたマチェーテの柄を左手で掴み、それを振りかぶってサワタリめがけ投げ直した! そして前進! 「サイゴン!」サワタリは間髪入れず、2発目のマチェーテを左手で投げる! そして前進!
posted at 00:36:57

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは2本目のマチェーテも同様に投げ返して前進! 「サイゴン!」サワタリも返ってきたマチェーテを投げ返して前進! 「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは再びマチェーテを投げ返して前進!  「サイゴン!」サワタリも返ってきたマチェーテを投げ返して前進!
posted at 00:39:09

二者は両手で2本のマチェーテを投げ合いながら、次第に前進の速度を速めていく。そして激突! 「イヤーッ!」「サイゴン!」ニンジャスレイヤーの左手はマチェーテを握ったサワタリの右腕を掴み、サワタリの左手はマチェーテを握ったニンジャスレイヤーの右腕を掴んだ!
posted at 00:42:14

「AAAAARRGGH!」狂乱したサワタリは目を剥き、猛獣のような吼え声をあげた。これは、サヴァイヴァー・ドージョーのニンジャたちに共通する特徴のひとつである。彼らはバンブー・ジャングルの中で野生的サヴァイヴァル生活を送る中で、猛獣のごとく淡々と人を殺す性質を養っていったのだ。
posted at 00:45:37

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはジュー・ジツを使ってサワタリの力をいなし、痛烈なカラテキックを腹に喰らわせた。「グワーッ!」サワタリはL字路の壁まで蹴り飛ばされた後、素早く身を起こして、危険を察知した野生動物のごとく退却を開始する。「覚えていろよ、ニンジャスレイヤー=サン!」
posted at 00:49:30

ニンジャスレイヤーもまた、無意識のうちにサワタリを追跡しようとしたが、すぐに思いとどまって踵を返した。全ニンジャ殺害も重要だが、今はまず、ナンシーを助けねば。そしてタケウチ・ウィルスの特効薬を見つけ出し、ドラゴン=センセイを救うのだ。自分を家族のように迎えてくれたセンセイを……!
posted at 00:52:03

ナンシーを助けるべく走るフジキドは、床に虚しく転がる2本のイアイ・カタナと、跡形もなく四散したノトーリアスの死体に一瞥をくれる。殺さねばこちらが死んでいた。インガオホーだ。…だが、子供のように無邪気に殺人を犯すバイオニンジャたちを殺した後には、いつも一抹のワビサビ感が付きまとう。
posted at 00:57:56

フジキドの脳裏には、今は亡き子トチノキの姿が、残酷なまでに無垢なノトーリアスと、どこかだぶって見えていた。 (((俺はこの先、どれだけの殺戮を経験するのだろう! その度に、俺の心はただひたすら研ぎ澄まされ、サツバツとしてゆくのか! 何たる呪い! これぞまさにマッポーの世だ!)))
posted at 01:03:13

ニンジャスレイヤーは一瞬立ち止まり、2本のセラミック・カタナを踏んでカイシャクした。(((全ての迷いを捨てろ! 俺がノトーリアスに殺されていたら、アノヨでトチノキとフユコに合わす顔が無いだろう! 感傷など捨てろ! 俺は全てのニンジャを殺す者、ニンジャスレイヤーなのだから!)))
posted at 01:10:21

ニンジャスレイヤーは、胸に手を当てて復讐の誓いを新たにした。赤黒いニンジャ装束に隠れたオマモリ・タリスマンの中には、ロイヤルペガサス・ネオサイタマの一室から持ってきた一枚の写真が納められている。今のフジキド・ケンジにとっては、復讐こそが力の源であり、バイオ・インゴットなのだった。
posted at 01:15:19

「ナンシー=サン、大丈夫か?」ニンジャスレイヤーはナンシーに駆け寄り、背を抱いた。「アイエエエエ!」その表情を見る限り、ナンシーの意識はまだ電脳IRC空間にあるようだ。「一体、IRC空間内で何が…?」鼻や耳から煙が出ていないところを見ると、まだニューロンは焼ききれていないようだ。
posted at 01:18:27

「アイ、アイエエエエエ!」ナンシーの体が激しく痙攣する。ナンシーの左腕に備わったウェアラブルUNIXのIRC画面には、恐るべき文字情報が映し出されていた。そこでは何と、多重ログインした50人を超えるダイダロスと1人のナンシーが、同じ部屋の中で激しい電脳攻防戦をくり広げていたのだ!
posted at 01:21:25

「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」 #5終わり #6に続く
posted at 01:22:08

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 22:18:50

NJSLYR> ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ #6

101218

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」#6
posted at 22:20:00

掛け軸の裏に隠されたLAN端子に自らのバイオLAN端子をケーブル直結したナンシー・リーは、電脳IRC空間内へと精神を飛翔させる。このセキュリティ・プログラムに用いられた関数名などをもとに構築されたコトダマ・イメージは、先程のレーザートラップと同じく……不吉な日本漁村であった。
posted at 22:34:30

禁酒法時代の婦人服と帽子に身を包んだナンシーは、デリンジャーを胸に挿しながら、再び古式ゆかしい夕暮れの日本漁村に現れ、高いトリイの上に佇んでいた。遥か上空には淡い月と、得体の知れぬ金色の構造物が浮かんでいる。何もかも先程と同じだ。プログラマが同じなのだろう。手早く解除できそうだ。
posted at 22:38:53

ジンジャ・カテドラルの鐘が鳴ると、海辺に半漁人めいた村人が姿を現し上陸を開始する。いわゆるカッパだ。砂浜には、ブードゥーめいたイカが吊るされた邪悪な大コケシが何本も立ち並ぶ。ナンシーは何事か呟きながら、トリイで鉄棒選手のように大回転を決め、斜め下にある市役所のカワラ屋根を破った。
posted at 22:40:07

市役所の資料室に突入したナンシーは、先程と同じく、日記帳を抱えた学生を探す。いやな波長のデジャヴを感じ、ニューロンがチリチリする。奥の暗がりに人影が見えた。先程と流れが違う。関数名が違うのか? ナンシーが不審に思いながらも懐中灯を捻ると……ナムサン! そこには何とニンジャの姿が!
posted at 22:43:41

「ドーモ、ナンシー=サン」黒尽くめのニンジャ装束、頭から生えたゴーゴンのごときLANケーブルの束、円環状のサイバーサングラス、それはまさにソウカイヤのネットワークセキュリティ担当ニンジャ、ダイダロスであった!「降伏しなさい。そして、私と一緒に電脳IRC空間でネンゴロしましょう」
posted at 22:47:55

「TAKE THIS!」ナンシーは一瞬の躊躇もなく、ダイダロスにトビゲリを喰らわせる。「グワーッ!」ダイダロスは市役所のガラス窓を突き破って落下し、そのまま無数の言葉と数字になって消滅した。LAN直結者であるナンシーのKICKコマンドは、0コンマ1秒以下の反応速度を誇るのだ。
posted at 22:52:36

(((何故、ダイダロスがここにいるの? ヨロシサンのセキュリティネットに侵入を?)))ダイダロスを蹴り出し終えてから、ナンシーは自分の今の立場がかなり危険であることを察した。LAN接続を解除すればダイダロスからは逃げられるが、それでは回廊の物理ロックをいつまでも突破できないのだ。
posted at 22:56:47

ナンシーは、回廊の物理ロック解除パスワードが書かれた日記帳を探した。資料室中には、カビの生えた分厚い書物がいくつも書棚に並び、丸いチャブにはヤカンやトックリが無数に置かれている。だが、日記帳は見つからない。緊張感で胸元に玉のような汗が滲む。その時、4つあるドアが、一斉に開いた。
posted at 23:01:26

「「「「ドーモ、ナンシー=サン」」」」ナムアミダブツ! 4つのドアから4人のダイダロスが一斉に現れ、オジギしたのだ!「「「「諦めなさい。あなたのタイプ速度では私に勝てない。これ以上、自分の精神を痛めつけるのはやめなさい。私はあなたの精神ファイアウォールを破りたくないのだ」」」」
posted at 23:03:47

ナンシーは自らのニューロンを酷使し、電脳IRC空間内を高速飛翔した。物理法則を無視したハチドリのような動きで、4人のダイダロスに痛烈なKICKコマンドを炸裂させる!「「「「グワーッ!」」」」ダイダロスは再び蹴り出され、消滅! ナンシーはキリモミ回転しながらふわりと着地する。
posted at 23:10:09

だが、彼女の表情に余裕は無い。ダイダロスの言葉が真実であること、すなわち自分がまだまだ非力であることを、彼女は痛感していたからだ。敵は明らかに、自分より上手のハッカーである。さらに、ダイダロスがニンジャスレイヤーに対して行ったようなウィルス攻撃を仕掛けてこない点も不気味だった。
posted at 23:13:36

「まるで、こちらが無抵抗になるのを待っているかのよう…」ナンシーはそう呟きながら、ふと、割れた資料室の窓から、夕暮れに染まる漁村の浜を見やった。そこでは、先程の電脳IRC空間ダイヴ時と同様に、何十体ものカッパが上陸を……いや、違う! それらは今、全てダイダロスに置き換わっていた!
posted at 23:17:36

「ドーモ、ナンシー=サン」資料室のドアから、天井の落とし戸から、本棚の陰から、チャブの下から、ぞろぞろとダイダロスが出現してきた。恐るべき多重ログイン能力! ナンシーは必死にKICKをくり出すが、蹴りだされて消滅するダイダロスよりも、入室してくるダイダロスの人数のほうが上だった。
posted at 23:20:43

「無益な抵抗は止めグワーッ!」発言したダイダロスが蹴り出され、すぐにまた新たなダイダロスが現れ発言を行う。「探していたのです、貴方のように感受性豊かなヤバイ級ハッカーグワーッ!」ナンシーのソバットで首を切断され、次のダイダロスが発言を引き継ぐ「不思議に思ったことは無いのですか?」
posted at 23:24:44

電脳IRC空間内のナンシーは、資料室の中央にへたり込み、息を切らしていた。精神力が限界に近い。ザゼンドリンクの薬物の力が無ければ、これ以上のブーストは不可能だ。資料室内のダイダロスの人数はすでに50人近くに達し、全員が同じ発言を一斉にくり出してきていた。
posted at 23:26:56

「コトダマ・イメージとは何なのか、考えたことはないのですか? 何故、誰にプログラムされたのでもないこのような電脳空間を、ヤバイ級ハッカーたちは共有し、同じ光景を、同じ物理法則を味わうことができるのか、不思議に思ったことはないのですか?」
posted at 23:30:41

「文字情報からイメージを引き出しているだけよ」ナンシーは、マジックハンドめいた手を伸ばしてきたダイダロスの頭を、回し蹴りで刈り取る。激しく血を噴出させながら、サイバーニンジャの1体が消滅。「血が出るのは、最初に部屋を立てた私が、空間の物理法則を一般的なリアリティに定義したからよ」
posted at 23:34:59

「では、常に上空に浮かぶ、あの黄金色の浮遊物体は何なのですか? 私はこれまで数々のヤバイ級ハッカーの精神ファイアウォールを破壊し、廃人にしてきました。その全員が、自らのコトダマ・イメージ空間の中に、黄金の浮遊物体を有していたのです」ダイダロスは抑揚のない機械音声のような声で語る。
posted at 23:38:20

(((これは罠だわ。狡猾な詐術で、私の精神ファイアウォールをショウジ戸のように破ろうとしているのよ)))絶対に辿り着けない黄金の浮遊物体の事を言い当てられて一瞬動揺していたナンシーだったが、すぐにいつもの冷静さを取り戻す。奴の言葉に耳を貸してはならない。今はただKICKあるのみ!
posted at 23:43:12

「諦めなさいナンシー=サン! イヤーッ!」ナンシーを取り囲む8人のダイダロスは、彼女の服を脱がせ精神的防御力を削るべく、マジックハンドめいた手を一斉に突き出した! 「イヤーッ!」その顔に不屈の表情を浮かべたナンシーは、その場で高く開脚ジャンプしてダイダロスの攻撃を回避! コワイ!
posted at 23:47:16

「TAKE THIS!」ナンシーはさらに、空中で上半身を高速で捻り、開脚した両足をバズソーのように回転させ、迫ってきた8人のダイダロスの首を一瞬にして刈り取った! 噴水ショーの如き血飛沫! ゴウランガ! 現実空間においてはニンジャスレイヤーですらも行使困難な、殺人カラテ技である!
posted at 23:50:51

「グワーッ!」8人のダイダロスは、クローンヤクザのように同時に倒れて消滅した。ナンシーは血みどろのタタミに回転しながら着地し、絶対抵抗の意志をみなぎらせた強い目で、迫り来るダイダロスたちを睨み付ける。 「生憎だけど、ドレスを剥こうとするような殿方とは、ランデブーしたくないわね」
posted at 23:55:29

「……では、しばらく気絶してもらいましょう。ニューロンが多少傷つくと思いますが……仕方ない」数十人のダイダロスは、ぞっとするほど無表情に言い放った。彼の円環サイバーサングラスに、「ナムアミダブツ」「LAN直結したい」と、相手の恐怖心を煽る言葉が赤いLEDドット文字で流れ始める!
posted at 00:03:05

かくして広さ50畳ほどの資料室を舞台に、常人を狂気へと誘うほどの壮絶な死闘が始まったのだ。ダイダロスはログイン人数を増し続け、ナンシーの服を破壊すべく高速タイプをくり出してくる。ナンシーは失禁寸前までニューロンを酷使し、次々と現れるダイダロスをKICKコマンドで殺戮していった。
posted at 00:08:25

ナンシーのニューロンを焼き切って即死させることなど、ダイダロスにとっては造作も無かった。だが彼女の持つ稀有なコトダマ・イメージ能力に強い興味を抱くダイダロスは、真綿を少しずつ喉に詰め込んで相手を窒息させるという平安時代の拷問術のような、実に繊細な方法でナンシーを攻めたのである。
posted at 00:12:16

わずか数十秒のうちに、ナンシーは半裸の状態まで追い込まれた。ダイダロスの人数はなおも増え続けている。ナンシーの胸に浮かび上がる玉のような汗が、ガラス窓から忍び込んでくる夕日に照らされ、雅に光り輝く。彼女は立膝の状態でへたり込み、もはやKICKをくり出す精神力も残っていなかった。
posted at 00:15:39

「ではファックします」ダイダロスたちが、ナンシーの両手両足をマジックハンドめいた手で掴み、大の字に引き上げる。さらなる手が伸び、ナンシーの服を掴む。「アイエエエエエ!」ナンシーは、これまでにない恐怖を感じ絶叫した! フスマが指で破られる直前のような嫌な感触が、ニューロンを走る!
posted at 00:20:23

その時だ! 「グワーッ!」部屋のあちこちで、ダイダロスが突如消滅し始めたのである! 「何だ? 何が起こった?!」思いがけない出来事に、ダイダロスはナンシーの拘束を解き、謎の侵入者を捜し求める。だがリストを見ても、この部屋には多重ログインした№1~172の自分とナンシーしかいない!
posted at 00:24:10

「グワーッ!?」そうしている間にも、ダイダロスは次々と消滅してゆく。ナンシーも息を吹き返し、ダイダロスの死体から奪ったニンジャ装束を即席の袴のように纏うと、この願ってもいない事態に乗じて、KICKコマンドを再入力し始めた。その豊満な胸は、まだ辛うじてコルセットに守られていたのだ!
posted at 00:29:46

「まさか、ニンジャスレイヤー=サン、LAN直結能力者でもない貴様が、私を欺いたのか?!」ダイダロスは、全ての入室者に対して高速でWhoisスキャンを行う。すると、No.142のダイダロスの全身が崩壊し、赤と黒の文字列に変わって再度構築され……ニンジャスレイヤーの姿に変わったのだ!
posted at 00:33:29

一体どうやって? 現実空間でナンシーの横に駆け寄ったフジキドは咄嗟の機転を働かせ、彼女の左腕にあるウェアラブルUNIXとショウジ戸の裏に隠されたLAN端子を繋ぎ、No142がKICKされた直後にキー操作でログインを果たしていたのだ。ヤバイ級ハッカーさえも欺く、見事な狡知であった!
posted at 00:38:39

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーのトビゲリ!「グワーッ!」「TAKE THIS!」ナンシーのソバット!「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「TAKE THIS!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」ダイダロスのタイプ速度がテンサイ級へ、さらにスゴイ級まで下落してゆく。
posted at 00:45:13

ダイダロスは混乱していた。敵がハッカーならまだしも、ニンジャスレイヤーなどに電脳空間内で後れを取ってしまったことで、冷静さを失っていたのだろう。それに、イゴの如く整然と01効率化された彼の思考能力は、そこへショウギ駒が攻め込んでくるような想定外の事態に、全く対応できなかったのだ。
posted at 00:51:40

「イヤーッ!「グワーッ!」「TAKE THIS!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「TAKE THIS!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」残るは1人!「サヨナラ! ダイダロス=サン!」ナンシーは胸から抜いたデリンジャーでダイダロスの頭を撃ち抜き顎を蹴り上げた!
posted at 00:53:26

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posted at 00:53:54

トコロザワ・ピラー内の電算機室で、パシン、というショウジ戸が破られるような音が鳴り、高椅子に正座したダイダロスの耳元から白い煙が噴き出した。インプラントした物理ファイアウォール装置が破壊されたのだ。無数のモニタが全方位に配された真暗い球状の空間内で彼は失神し、がくりと頭を垂れた。
posted at 00:59:22

「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」 #6終わり #7へ続く(このセクションは#7で完結します)
posted at 01:01:37

(親愛なる読者の皆さんへ。前回の連載分に深刻な誤訳がありました。『彼女の左腕にあるウェアラブルUNIXとショウジ戸の裏に隠された...』は、『彼女の左腕にあるウェアラブルUNIXと掛け軸の裏に隠された...』が正しいです。タイプ速度への悪影響を考慮しケジメは行われておりません)
posted at 11:42:34

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 15:05:00

NJSLYR> ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ #7

101222

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」#7
posted at 22:16:53

(前回までのあらすじ:アンタイニンジャ・ウィルス「タケウチ」に冒された師匠ドラゴン・ゲンドーソーを救いたいニンジャスレイヤーは、ヨロシサン製薬のトップシークレットを盗みたいナンシー・リーと共同戦線を張り、ヨロシサンの第1ユタンポ・プラントに隠された秘密施設へと潜入した。)
posted at 22:18:02

(施設を警備する数百人規模のクローンヤクザY-12軍団、油断ならぬトラップの数々、フォレスト・サワタリ率いるサヴァイヴァー・ドージョーのノトーリアス、そしてソウカイ・シックスゲイツの刺客ダイダロスを破った2人は、トップシークレットまで後一歩のところへと迫ったのだった……)
posted at 22:19:35

ナンシーがパスワードを解除すると同時に、掛け軸の吊られていた壁が突然ぐるりと回転し、2人をアドミニストレータ室へといざなった。あらゆる無駄が削ぎ落とされた、8畳ほどの小さな真っ白い部屋だ。正面の壁には、黒いオブツダンを思わせる最新鋭のUNIXメインフレームが埋め込まれている。
posted at 22:24:07

ニンジャスレイヤーは部屋の天井四隅に配備されたマニピュレータと、その先端に備わった最先端兵器ZAP銃の銃口を見て、スリケンを投擲すべきか迷った。ナンシーがそれを制する。「手を出さないで。多分、メインフレームと連動しているわ。破壊すれば、メインフレームがアクセスを受け付けなくなる」
posted at 22:28:10

「つまり?」四挺のZAP銃に会話まで監視されている気分になり、ニンジャスレイヤーは小声でナンシーに問うた。 「きっと、このUNIXのログインに失敗した者を、容赦なくZAPするためだけに存在するのよ。もし殺す気ならば、この隠し扉が回転した時点で私たちは灰になっていた筈、でしょう?」
posted at 22:29:53

「なるほど……」ニンジャスレイヤーはごくりと生唾を飲んだ。2人の動きに反応して、高級スシハンド・マシーンを思わせる精密マニピュレータが小刻みに動いている。もしZAP銃が発射されたら、自分はニンジャ反射神経で直撃を免れるかもしれない。だが、ナンシーまで助けることは、できるだろうか。
posted at 22:33:29

「さあ、最後の大仕事よ…!」ナンシーは腰にガンベルト状に吊ったザゼンドリンクを5本ほど飲み干してから、UNIXメインフレームの前に立った。いまやニンジャスレイヤーもナンシーも、互いを戦士として尊重し、また相手の力量を信頼している。どちらか片方が欠けても、計画は失敗していただろう。
posted at 22:37:34

ナンシーは迷い無く、自らの右耳の斜め上にインプラントされたバイオLAN端子と、真っ白い壁に埋め込まれたLAN端子を、スゴイテック社製のとても細いLANケーブルで直結した。IRCコトダマ空間に強制ログインが行われ、ナンシーの視界が飛ぶ。崩れる体をフジキドが支えて、床に横たえる。
posted at 22:41:31

フジキドはモニタに流れる文字列を見た。ナンシーがアドミン権限でログインを果たそうとしているらしい。『1分以内にパスを入力してください。ヒントは【タタフータリタンタカタタザンタ】です』とシステムメッセージ。「ハッカーでない己には、皆目解らぬ。ハンズアップだ。頼んだぞナンシー=サン」
posted at 22:48:48

さらに、衝撃的なシステムメッセージがフジキドの目に飛び込む…『パスワードを間違うとZAPされて死にます。1分以内にパスワードが入力されなかった場合、およびパスワードを間違えた場合、トップシークレットを守るためにこの施設は爆発します。ヨロシク・オネガイシマス』…と。ナムアミダブツ!
posted at 22:50:36

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posted at 22:51:00

そこは数百畳はある広大な和室だった。ナンシーは鯉が刺繍された青いキモノを着て、タタミに正座している。目の前には紙と筆とスズリ。左手には椅子に座るようにディスプレイされた鎧と、その背中に「1分以内に暗号」「間違うと死ぬ」と書かれた二本のノボリ。パスワードをショドーせよという意味か。
posted at 22:52:43

「このパスワードがタヌキという訳ね」 長かった。アラキ・ウェイ=サンのダイイング・メッセージから、ようやくここまで辿り着いたのだ。ナンシーは心の中で独りごちながら、スズリをする。間違うと死ぬ……彼女の手がじっとり汗ばむ。これまでのどんな修羅場と比べても、ずば抜けて高い緊張感だ。
posted at 22:58:25

ナンシーは、右手の小さなタンスに置かれた黄金ブッダ時計を見やる。制限時間はあと50秒。これを超過すると、セキュリティシステムがハッキングを警戒し、自動的にプラントは大爆発を起こすのだ。ナンシーはタイプミスをしないよう、深呼吸を行った。ザゼンドリンクが回り、筋肉が弛緩し始めた。
posted at 23:00:43

ナンシーは筆を墨に浸し、落ち着いてタヌキの「タ」をショドーする。…その時、遥か前方のカモイに掛けられた額が彼女の目に飛び込んだ。その額には毛筆で【タタフータリタンタカタタザンタ】と、謎めいたショドーが! これは何? ナンシーの心臓を、不安という鉤爪が鷲づかみにした! 残り45秒!
posted at 23:02:56

ナンシーは筆を止め、半紙をDELETEし、精神をリラックスさせるためにスズリをすり直す。本当に、パスワードはタヌキなの? そうよ、間違いはない筈! でも、あの謎のショドーは何? ナンシーの自信が揺らぎ始める。「あと30秒ですよ」という、黄金ブッダ時計の無表情な電子音声が聞こえた。
posted at 23:06:17

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posted at 23:06:38

「ナンシー=サン、時間が無いぞ……!」リアルスペースでは、痙攣するナンシーの体をニンジャスレイヤーが抱き抱えていた。壁に埋め込まれた大型の赤色LEDが、サイバースペース内の黄金ブッダ時計と同期して、残り時間30秒を告げる。部屋の天井四隅に備わったZAP銃が、2人に狙いを定めた。
posted at 23:10:17

ニンジャスレイヤーの腕の中でナンシーは白目を向き、防波堤に打ち上げられたマグロのように体をびくつかせる。頼まれていた通り、フジキドは彼女の腰に吊られたマルチタッパーの中からザゼンタブレットを取り出し、ピンク色の舌の上にそっと置いた。これ以外に、何の手助けもできない事が歯痒かった。
posted at 23:12:11

ZAP銃を破壊したりログインに失敗したりすれば、プラントは大爆発する。ユタンポエキスに引火すれば、周囲数キロが吹き飛ぶだろう。何の罪もない労働者数万人が死ぬのだ。ヨロシサン製薬は確かに卑劣だが、予想できなかった訳ではない。自分とダークニンジャの間の相違点をフジキドは自問自答した。
posted at 23:16:41

――――――――――――
posted at 23:17:01

第1ユタンポ・プラント内全域に警報が鳴り響く。廊下という廊下、会議室という会議室で非常ボンボリが赤く回転する。プラント内でユタンポ作りに精を出す深夜労働者たちも一瞬手を止め、うつろな目でぼんやりと施設内を見渡した。そして自分達には関係のないことだろうと悟り、また作業に戻った。
posted at 23:18:18

「アイエエエエ! アイエエエエ!」警報の意味を悟ったガガイケ専務は、血相を変えながら非常脱出ボタンを押す。重役室の床がパカリと開き、ピラミッドの秘密ナナメ通路めいた脱出ルートが露になる。ガガイケは猛スピードでナナメ通路を滑り、地下100m地点に築かれたシェルターへと間一髪で退避。
posted at 23:20:08

「アイエエエエ! ソウカイヤめ、ぜんぜん役に立たないじゃないか! ああ、ちくしょう! 私の勤務時間中に何でこんなことになるんだ! 爆発したら委員会にケジメかセプクを迫られるじゃないか! 私は結局、オイラン出張サービスも受けてないんだ! 誰彼構わずファックしたい気持ちだ!」
posted at 23:24:16

極限状態に追い詰められたガガイケ専務のニューロンに、素晴らしいアイディアが閃く。彼は非常用マイクを取り、経理室に放送を入れた。黒いセルフレームの眼鏡をかけた、頭の鈍そうな若い職員がそれを聞く。「経理のカオルコ=サン、緊急事態だ。その部屋の床に脱出用の穴が開くから、滑りなさい!」
posted at 23:26:50

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posted at 23:27:52

ナンシーは正座したまま、ブロンドの髪を掻きむしっていた。おお、ナムサン! 緊張で胃がまろび出そうだ。「……もう駄目だわ!」 ザゼン成分の過剰摂取のためか、ナンシーは悲観的な叫びを発した。「タヌキって書くだけなの、それなのに、それなのに、それさえもできない! 手が動かないのよ!」
posted at 23:33:22

その時突然、彼女の前にマッチャが差し出された。
posted at 23:34:08

ナンシーは驚いて左手を見る。ディスプレイされた鎧の中に浮かぶのは、ユーレイめいた半透明の男の顔! 「ホゼ=サン…?」ナンシーはそこに、かつての同志の幻を見た! この特徴的な細い目は、間違いなく彼だ。メンポに隠れてはいるが、きっとその下には、無精髭だらけの口が隠されているのだろう。
posted at 23:42:49

あと十秒。だが、ナンシーは敢えてマッチャを啜る。「ソウカイヤにくびり殺された時、あなたはさぞ怖かったでしょう。それに比べたら、私は……まだ幸運ね。有難う。恐れが“取り除かれた”わ」ナンシーは意を決し筆を持つ。ニューロンで何かがスパークした。ホゼの顔が、満足そうに微笑んだ気がした。
posted at 23:48:14

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posted at 23:50:19

フジキドの眉間から流れた汗が、鋼鉄メンポの上を滑る。あらゆる動作が爆発を引き起こしそうで、ニンジャスレイヤーはカナシバリ・ジツにかけられたかのように微動だにしていなかった。 その彼が、ようやく深い息を吐く。赤色LEDの数字は皮肉にも、爆発の0.4643秒前で停止していたのだ!
posted at 23:55:02

プシューという音と圧縮空気と共に、黒いメインフレームの中断部分が観音開きに開いて、中から冷凍されたアンプル数十本と、漆塗りの重箱に入った得体の知れぬ記憶素子の山が姿を現す。 「タヌキ・クリプティック…」ナンシーが意識を取り戻した。「直前で気付いたわ。江戸時代に使われた古い暗号よ」
posted at 23:58:59

「よくやったな、ナンシー=サン」フジキドはナンシーに肩を貸す。「私一人の力じゃないわ。ダイイングメッセージを残したアラキ=サン、そしてホゼ=サン……」「ホゼ=サン?」「何でもないわ、忘れて」疲れた顔で、ナンシーは自嘲気味に笑う「薬物反応と脳内電気が引き起こした幻覚に救われたのよ」
posted at 00:08:24

だが、2人に安寧の時はまだ訪れない。隠し扉を隔てた回廊から、数十人単位のクローンヤクザの靴音が聞こえてきた。ニンジャスレイヤーは再び殺人者の顔に変わり、隠し扉に手をかける。「ナンシー=サン、次はこちらの仕事だ。10秒で片をつける。その間に回収を」ナンシーは不敵な笑みと共に頷いた。
posted at 00:14:29

ナンシーはついに、求めていた記憶素子と対面を果たした。ヨロシサン製薬、オムラ・インダストリ、そしてソウカイヤの陰謀を暴くトップシークレットがここに。メインフレームのコンソール画面には、文字通り「タ」を全て取り除かれた「フーリンカザン」のパスワードが、誇らしげに刻み付けられていた。
posted at 00:19:06

――――――――――――
posted at 00:19:49

一方その頃、地下100メートル地点のシェルターでは、経理のカオルコ=サンが恐るべき暴威に晒されつつあった。「アーレエエエエ! ガガイケ専務=サン、やめてください! 私には上のプラントで働く夫が! アーレエエエエ!」「カオルコ=サン! 言うことを聞きたまえ! どうせ爆発するんだ!」
posted at 00:26:22

「爆発って何なんですか! やめてください!」 そういえば、先程まで回転していた非常ボンボリの動きが止まっている。ガガイケ専務はいぶかしんだ。もしかして、爆発は回避されたのだろうか? ならば、全ての責任は、ダイダロスになすりつけられるぞ。ガガイケは喜び勇んで密閉ハッチの蓋を開ける。
posted at 00:31:38

「グワーッ!?」 ハッチを空けた途端、ガガイケは腹部に猛烈な衝撃を受け、後方に弾き飛ばされた。一体何が? 困惑するガガイケが非常ハッチの前にあるノレンに目をやると、それを両手で無骨に払いのけながら、迷彩ニンジャ装束の男が姿を現した。 「ドーモ、ガガイケ専務=サン。サワタリです」
posted at 00:35:02

「アイエエエ!」思いがけぬニンジャの侵入にカオルコは失神する。ニンジャの恐怖は日本人の遺伝子レベルに刻まれているのだ。「まさかハッチの前で、私が開けるのを待っていたのか?」とガガイケ。「竹林のタイガー、暁を知らず」狂乱状態を脱していたサワタリは、血みどろの顔で冷酷なハイクを詠む。
posted at 00:43:54

「そして今の俺の心は、いまやベトコンですら失禁するほどの残酷さだ」サワタリは両手にマチェーテを構えて、床に仰向けに転がって腰を抜かしたガガイケへと迫る。「バイオ・インゴット製造機はどこだ?」 「そんなものはない」「なんだと?」 マチェーテが振り下ろされ、ガガイケの右腕が飛ぶ!
posted at 00:46:27

「アイエーエエエエエエ!」ガガイケの絶叫が響き渡り、おびただしい血がタタミに吸い込まれてゆく。サワタリは尋問を続けた。「もう一度聞くぞ、バイオ・インゴット製造機はどこだ」「ここにはありません、それは第2プラントです」「なんだと?」 マチェーテが振り下ろされ、ガガイケの左腕が飛ぶ!
posted at 00:48:38

「アイエ! アイエーエエエエエ!」ガガイケの絶叫が響き渡り、おびただしい血がタタミに吸い込まれてゆく。サワタリは尋問を続けた。「何か無いのか?」「バイオ・インゴットなら何個かあります」「なんだと?」 マチェーテが振り下ろされ、ガガイケの右足首から下が飛ぶ!
posted at 00:52:44

「アイエーェェェェェエエ!」ガガイケの絶叫が響き渡り、おびただしい血がタタミに吸い込まれてゆく。サワタリは尋問を続けた。「バイオ・インゴットはどこだ?」「そこの金庫です」「番号は?」「4643です」「よし、左足は残しておいてやる」サワタリはガガイケの股間を踏み潰して破壊した。
posted at 01:00:59

「4643……」サワタリは深刻な表情で金庫のダイヤルを回す。カチリ、と音がし、隙間から薄緑色の光が漏れ出した。「モッチャム! モッチャム!」興奮が隠し切れない。果たして中から姿を現したのは、金の述べ棒状に成型され銀色の保存シートで包まれた、数十本ものバイオ・インゴットであった。
posted at 01:10:00

「願ってもいない補給物資だ。これで、救援の到着まで戦い続けられる!」サワタリはバイオ強化フロシキを広げて、背負えるだけのバイオ・インゴットを背負い、両手にも数本ずつ握る。気絶しているカオルコを攫っていこうかと考えたが、両手が埋まっていることに気付き、諦めてシェルター部屋を脱した。
posted at 01:12:54

延々と立ち並ぶメガコーポ各社のプラント迷宮の上を、2人のニンジャが偶然にも別々の方向に向かって走っていた。一人はナンシーを抱き、解毒アンプルの一本を胸のオマモリ・タリスマンに仕舞ったニンジャスレイヤー。もう一人は、バイオ・インゴットとともにドージョーへと帰るサワタリであった。
posted at 01:16:32

ナンシーは疲れ果て、ニンジャスレイヤーの腕に背中と膝を抱かれたまま眠っていた。急性ザゼン中毒者特有の、パンダのような深い隈が痛々しい。ニンジャスレイヤーは、信念のためなら自暴自棄とすら思える行動を取るナンシーを理解できないと思ったが、自分もそう思われているのだろうとすぐに悟った。
posted at 01:20:49

プラント群を走り抜けるフジキド・ケンジは、センコのように無限に立ち並ぶ煙突群と、そこから上空へ昇るマッポー的な汚染光景を見た。それらは他者を痛めつけるべく吐き出されているのではなく、プラントそのものが、あるいは中にいる無数の労働者達があげる、無言の叫びなのではないかとすら思えた。
posted at 01:25:36

このマッポーの世に何ができるか? 家族を守りたい。だが、家族はもはや皆殺された。自分に残されているのは、この新たな家族……と呼ぶのはおこがましいだろうが、共に戦ってくれる者たちだけなのだ。だが、それすらも高望みなのだろうか。復讐だけを追い求めるべきなのか? 高望みは死を招く……。
posted at 01:30:42

ニンジャスレイヤーは風の中を走りぬけながら、魂を再びカタナのように鋭く研ぎ澄ましていった。 「Wasshoi!」 一人のニンジャがビルの屋上から屋上へと運河を飛び渡る幻想的な姿が、偶然にもサーチライトに照らされ、疲れ果てて家路につく労働者たちのニューロンへと鮮烈に焼き付けられた。
posted at 01:35:05

「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」 終わり
posted at 01:35:57

◆◆◆◆◆◆◆
posted at 18:46:14

NJSLYR> ゼロ・トレラント・サンスイ #1

100724

ニンジャスレイヤー第一話「ネオサイタマ炎上」より「ゼロ・トレラント・サンスイ」
posted at 19:48:21

(これまでのあらすじ) ソウカイ・ニンジャズの手練れ、ミニットマンとイクエイション。ニンジャスレイヤーを待ち伏せた二人のうち、イクエイションは真っ二つにされて絶命した。しかしミニットマンはパートナーの死と引き換えに、ニンジャスレイヤーの正体に迫るチャンスを掴んだのだ。
posted at 19:54:05

ぞっとするほど冷たいコンクリートの感触を全身で味わいながら、ミニットマンは十年前の「戦争」を思い出していた。
posted at 19:56:24

敵地の真っ只中で、彼の部隊は母体に裏切られた。トカゲのシッポのように、捨てられたのだ。生き残ったのは彼とイクエイションただ二人。あのときもこうして、冷たいコンクリートに身を横たえ、じっと待ち続けていた。そしていま、彼の横にイクエイションはいない。
posted at 19:59:57

ミニットマンの体を雨がしとどに濡らす。おお。おお、イクエイション。しかしこの雨は天の計らいだ。ニンジャに涙は許されぬのだから。ミニットマンは目を閉じた。脳裏に浮かび上がるのは、イクエイションの絶命の瞬間である。
posted at 20:03:03

「サヨナラ!」イクエイションはそれだけ言うのがやっとだった。ハラキリの時間すら与えられなかった。ニンジャスレイヤーの無慈悲な一撃は、バイオ・ケブラーでくまなく覆われたイクエイションの体を、脳天から爪先にかけて、両断したのだ。
posted at 20:09:52

許さぬ。そして、安らかに。....ミニットマンは顔を上げた。彼が生存したのは、イクエイションにすら明かさなかった秘密のジツ。「マッタキ」によるものだ。ニンジャスレイヤーはミニットマンを死んだものと取り違え、去ったのだ。
posted at 20:16:34

その判断の誤りを、死をもって後悔させてやろう。...ミニットマンは、うつ伏せの姿勢から、匍匐前進を始めた。コンクリートに残る生体反応を辿り、目指すは、ニンジャスレイヤーの.....アジトである。
posted at 20:19:06

ミニットマンの匍匐前進は、いまや最高速をマークしていた。彼の匍匐前進速度はチーターに匹敵するとされる。生体反応をトレスすること二十分。ついに彼はニンジャスレイヤーの後ろ姿を、とらえた。
posted at 20:22:56

「アタマ・ストリート」。屋台が所狭しと道を塞ぎ、防金属流子トレンチコートに身をつつんだ求職者が首をすぼめて縦横に行き交う大通りを、ニンジャスレイヤーはまっすぐに抜けていく。それを追うミニットマンの匍匐。
posted at 20:31:07

ニンジャスレイヤーは地下街へ降りていく。ミニットマンは距離をおいて彼に続いた。匍匐では階段を降りられないので、ミニットマンは中腰の姿勢をとった。
posted at 20:45:59

地下街通路を歩きながら、ニンジャスレイヤーはどこからかトレンチコートを取り出し、羽織った。さらにズキンの上からハンチングを被る。ミニットマンはその手際のほどに唸った。これでもう、彼の出で立ちを気にかけるものなどいなくなる。
posted at 21:23:08

逆にミニットマンは、自身の格好がいまだニンジャスーツのままである事に思い至った。衆目の中でこの出で立ちはベストとは言えない。彼は地下街の壁に寄りかかる浮浪者のボロを無慈悲に剥ぎ取った。ネオサイタマの大気に無防備に晒されれば、哀れな浮浪者は24時間以内に死ぬだろう。
posted at 21:29:32

ミニットマンの無慈悲な行いに異議を申し立てるものはいない。当の浮浪者でさえも。
posted at 21:42:31

潰れたブティックの鉄格子や、薄汚いマガジン・スタンド、違法な回路基板をおおっぴらに並べた店、蛍光色のスプレーで「バカ」「スゴイ」など、悪罵を極めた言葉をペイントされたシャッター......死んだ空気をかきわけ、ニンジャスレイヤーはサッキョー・ラインのホームへ歩いていく。
posted at 21:52:46

ニンジャスレイヤーがゲートをくぐってから一分置いて、ミニットマンも構内へと足を踏み入れた。ゴミが所狭しと床に堆積した不潔な空間であるが、この駅の利用者は決して少なくない。無気力なゾンビのようなサラリマンをかきわけ、ミニットマンはニンジャスレイヤーの尾行を続ける。
posted at 22:04:28

やがてホームに鉄の塊が走りこんできた。竣工当時は銀色に光っていたであろう電車のボディも、今やグラフィティの餌食となっている。「アソビ」「アブナイ」「ケンカ」......。重苦しいサウンドを響かせ、ドアが開く。ミニットマンはニンジャスレイヤーの隣の車輌に乗り込んだ。
posted at 22:11:23

車輌の窓から、ミニットマンはニンジャスレイヤーを監視していた。どの駅で降りる、ニンジャスレイヤー!
posted at 22:13:10

「カスガ」駅では大勢降りたが、ニンジャスレイヤーは動かなかった。「センベイ」駅でもだ。この電車はエクスプレスだ。限られた駅にしか止まらない。終点まで行くつもりか?
posted at 22:20:23

チープな電子音が「カーブ注意」を知らせた。ぐらりと車体がかしぐ。ミニットマンは吊り革に力を込めた。その一瞬のことだった。ニンジャスレイヤーは隣の車輌から忽然と消え失せていた。
posted at 22:24:16

「バカな!」だが、慌てるな。生体センサーが道を示してくれる!ミニットマンは網膜に映し出された二次元レーダーを確認した。ニンジャスレイヤーを示す赤い点はほとんど動いていない。と言う事は....「上か」
posted at 22:27:48

ミニットマンは窓枠を乗り越え、電車の側面から上へよじ登った。トンネルの壁面に走行音がごうごうと反響し、風圧が襲いかかるが、ニンジャにとって、この程度の動作はウォームアップですらない。ミニットマンは隣の車輌上の人影を見据えた。ニンジャスレイヤーは腕組みして仁王立ちになっていた。
posted at 22:40:06

復讐と功名心、そして焦りに雲らされていたミニットマンの意識も、ここへ来てついに認めざるを得なかった。ーーニンジャスレイヤーはミニットマンの尾行に気づいていた、そして、こうして.....彼を待ち伏せたのだ!
posted at 22:44:44

「ドーモ、ミニットマン=サン。ニンジャスレイヤーです」風に乗って、ニンジャスレイヤーのアイサツが届く。ミニットマンは怒りに震える手を合わせ、アイサツを返した。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ミニットマンです」
posted at 22:47:53

再戦である。ニンジャスレイヤーがおそるべき手練れである事は身に染みてわかっている。この間合いで最も注意を要するのは、スリケンをガードさせておいての飛び蹴りだ。それさえやりすごせば勝機が見える。スリケンを撃ち落とし、飛び蹴りをブリッジで避けるのだ!
posted at 22:52:42

「イヤーッ!」....来る!ミニットマンは迎撃のスリケンを構えようとした。.....それで終わりだった。ミニットマンの目の前、息がかかるほどの近さに、ニンジャスレイヤーがいた。ミニットマンの胸の中心やや左寄りに、温かい感触があった。そんな。そんなばかな。
posted at 22:58:03

ーー戦いは一瞬で決着した。ニンジャスレイヤーがミニットマンの胸から右手を引き抜く。手の中でまだ蠢く心臓を無感動に一瞥したのち、彼はそれを握りつぶした。電車がカーブにさしかかる。ミニットマンが叫んだ。「バンザイ!」電車から振り落とされながら、彼の体は爆発四散した。
posted at 23:03:17

やがて、電車はブレーキを軋ませながら徐々に速度を落とす。ヤヌタ駅。物思いにふけっていたニンジャスレイヤーはその数百メートル手前で車輌から飛び降りた。壁面に取り付けられたハシゴを迷いなく見つけだし、それを伝ってマンホールから地上に出ると、そこは自然公園の只中だ。
posted at 00:07:30

ニンジャスレイヤーの頭上には赤い満月が浮かぶ。鎮守の森の奥、彼の歩みの先には、小さな堀で囲まれた庭園がある。ネオサイタマにはおよそ不釣り合いな、神秘と静寂が支配する空間だ。ニンジャスレイヤーはゆっくりと、おごそかに歩を進める......。
posted at 00:13:53

ああ、しかし、見よ!彼の背中を!そこに小さく張り付いた金属のカケラを....!爆発四散したミニットマンのカケラである。ホタルのように弱々しい明滅を繰り返すそれは、いったい何をニンジャスレイヤーにもたらそうと言うのか......?
posted at 00:16:47

それは、偶然であったろうか。それとも、ミニットマンの怨念か、執念か。金属片は微弱な信号を何者かに発信し続ける。そして我々は、信号を受信するその男を、知っている。上空70メートル、VTOLの上に直立し、左耳に手を当てるそのニンジャを......!
posted at 00:20:51

「目標を捕捉した」感情のこもらぬ呟き。それに答えるくぐもった通信。沈黙。再びニンジャは呟く。「いや、必要無い。900秒後に交戦を開始する」無線を切ると、ニンジャはVTOLの機上から、ゆらりと身を躍らせた。
posted at 00:28:06

自然公園めがけて垂直に落下するニンジャ......フジオ・カタクラ、またの名をダークニンジャは、死闘の予感に何を思うか、メンポの奥で、静かに目を細めるのだった。 (「メナス・オブ・ダークニンジャ」へつづく)
posted at 00:35:16

NJSLYR> ゼロ・トレラント・サンスイ #2

110724

ニンジャスレイヤー第一話「ネオサイタマ炎上」より「ゼロ・トレラント・サンスイ」
posted at 15:04:04

(これまでのあらすじ) ソウカイ・ニンジャズの手練れ、ミニットマンとイクエイション。ニンジャスレイヤーを待ち伏せた二人のうち、イクエイションは真っ二つにされて絶命した。しかしミニットマンはパートナーの死と引き換えに、ニンジャスレイヤーの正体に迫るチャンスを掴んだのだ。
posted at 15:07:17

ぞっとするほど冷たいコンクリートの感触を全身で味わいながら、ミニットマンは十年前の「戦争」を思い出していた。
posted at 15:11:56

敵地の真っ只中で、彼の部隊は母体に裏切られた。トカゲのシッポのように、捨てられたのだ。生き残ったのは彼とイクエイションただ二人。あのときもこうして、冷たいコンクリートに身を横たえ、じっと待ち続けていた。そしていま、彼の横にイクエイションはいない。
posted at 15:12:54

ミニットマンの体を雨がしとどに濡らす。おお。おお、イクエイション。しかしこの雨は天の計らいだ。ニンジャに涙は許されぬのだから。ミニットマンは目を閉じた。脳裏に浮かび上がるのは、イクエイションの絶命の瞬間である。
posted at 15:14:41

「サヨナラ!」イクエイションはそれだけ言うのがやっとだった。ハラキリの時間すら与えられなかった。ニンジャスレイヤーの無慈悲な一撃は、バイオ・ケブラーでくまなく覆われたイクエイションの体を、脳天から爪先にかけて、両断したのだ。
posted at 15:21:48

許さぬ。そして、安らかに。……ミニットマンは顔を上げた。彼が生存したのは、イクエイションにすら明かさなかった秘密のジツ。「マッタキ」によるものだ。ニンジャスレイヤーはミニットマンを死んだものと取り違え、去ったのだ。
posted at 15:29:15

その判断の誤りを、死をもって後悔させてやろう。……ミニットマンは、うつ伏せの姿勢から、匍匐前進を始めた。コンクリートに残る生体反応を辿り、目指すは、ニンジャスレイヤーの……アジトである。
posted at 15:33:42

ミニットマンの匍匐前進は、いまや最高速をマークしていた。彼の匍匐前進速度はチーターに匹敵するとされる。生体反応をトレスすること二十分。ついに彼はニンジャスレイヤーの後ろ姿を、とらえた。
posted at 15:39:52

「アタマ・ストリート」。屋台が所狭しと道を塞ぎ、防金属流子トレンチコートに身をつつんだ求職者が首をすぼめて縦横に行き交う大通りを、ニンジャスレイヤーはまっすぐに抜けていく。それを追うミニットマンの匍匐。
posted at 15:44:46

ニンジャスレイヤーは地下街へ降りていく。ミニットマンは距離をおいて彼に続いた。匍匐では階段を降りられないので、ミニットマンは中腰の姿勢をとった。
posted at 15:46:57

地下街通路を歩きながら、ニンジャスレイヤーはどこからかトレンチコートを取り出し、羽織った。さらにズキンの上からハンチングを被る。ミニットマンはその手際のほどに唸った。これでもう、彼の出で立ちを気にかけるものなどいなくなる。
posted at 15:53:27

逆にミニットマンは、自身の格好がいまだニンジャスーツのままである事に思い至った。衆目の中でこの出で立ちはベストとは言えない。彼は地下街の壁に寄りかかる浮浪者のボロを無慈悲に剥ぎ取った。ネオサイタマの大気に無防備に晒されれば、哀れな浮浪者は24時間以内に死ぬだろう。
posted at 15:57:27

ミニットマンの無慈悲な行いに異議を申し立てるものはいない。当の浮浪者でさえも。
posted at 15:58:15

潰れたブティックの鉄格子や、薄汚いマガジン・スタンド、違法な回路基板をおおっぴらに並べた店、蛍光色のスプレーで「バカ」「スゴイ」など、悪罵を極めた言葉をペイントされたシャッター……死んだ空気をかきわけ、ニンジャスレイヤーはサッキョー・ラインのホームへ歩いていく。
posted at 16:02:26

ニンジャスレイヤーがゲートをくぐってから一分置いて、ミニットマンも構内へと足を踏み入れた。ゴミが所狭しと床に堆積した不潔な空間であるが、この駅の利用者は決して少なくない。無気力なゾンビのようなサラリマンをかきわけ、ミニットマンはニンジャスレイヤーの尾行を続ける。
posted at 16:05:59

やがてホームに鉄の塊が走りこんできた。竣工当時は銀色に光っていたであろう電車のボディも、今やグラフィティの餌食となっている。「アソビ」「アブナイ」「ケンカ」……。重苦しいサウンドを響かせ、ドアが開く。ミニットマンはニンジャスレイヤーの隣の車輌に乗り込んだ。
posted at 16:09:00

車輌の窓から、ミニットマンはニンジャスレイヤーを監視していた。どの駅で降りる、ニンジャスレイヤー!
posted at 16:12:11

「カスガ」駅では大勢降りたが、ニンジャスレイヤーは動かなかった。「センベイ」駅でもだ。この電車はエクスプレスだ。限られた駅にしか止まらない。終点まで行くつもりか?
posted at 16:12:52

チープな電子音が「カーブ注意」を知らせた。ぐらりと車体がかしぐ。ミニットマンは吊り革に力を込めた。その一瞬のことだった。ニンジャスレイヤーは隣の車輌から忽然と消え失せていた。
posted at 16:17:13

「バカな!」だが、慌てるな。生体センサーが道を示してくれる!ミニットマンは網膜に映し出された二次元レーダーを確認した。ニンジャスレイヤーを示す赤い点はほとんど動いていない。と言う事は…….「上か」
posted at 16:18:23

ミニットマンは窓枠を乗り越え、電車の側面から上へよじ登った。トンネルの壁面に走行音がごうごうと反響し、風圧が襲いかかるが、ニンジャにとって、この程度の動作はウォームアップですらない。ミニットマンは隣の車輌上の人影を見据えた。ニンジャスレイヤーは腕組みして仁王立ちになっていた。
posted at 16:21:57

復讐と功名心、そして焦りに雲らされていたミニットマンの意識も、ここへ来てついに認めざるを得なかった。……ニンジャスレイヤーはミニットマンの尾行に気づいていた、そして、こうして……彼を待ち伏せたのだ!
posted at 16:25:06

「ドーモ、ミニットマン=サン。ニンジャスレイヤーです」風に乗って、ニンジャスレイヤーのアイサツが届く。ミニットマンは怒りに震える手を合わせ、アイサツを返した。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ミニットマンです」
posted at 16:26:24

再戦である。ニンジャスレイヤーがおそるべき手練れである事は身に染みてわかっている。この間合いで最も注意を要するのは、スリケンをガードさせておいての飛び蹴りだ。それさえやりすごせば勝機が見える。スリケンを撃ち落とし、飛び蹴りをブリッジで避けるのだ!
posted at 16:31:41

「イヤーッ!」……来る!ミニットマンは迎撃のスリケンを構えようとした。……それで終わりだった。ミニットマンの目の前、息がかかるほどの近さに、ニンジャスレイヤーがいた。ミニットマンの胸の中心やや左寄りに、温かい感触があった。そんな。そんなばかな。
posted at 16:32:45

……戦いは一瞬で決着した。ニンジャスレイヤーがミニットマンの胸から右手を引き抜く。手の中でまだ蠢く心臓を無感動に一瞥したのち、彼はそれを握りつぶした。電車がカーブにさしかかる。ミニットマンが叫んだ。「バンザイ!」電車から振り落とされながら、彼の体は爆発四散した。
posted at 16:36:40

やがて、電車はブレーキを軋ませながら徐々に速度を落とす。ヤヌタ駅。物思いにふけっていたニンジャスレイヤーはその数百メートル手前で車輌から飛び降りた。壁面に取り付けられたハシゴを迷いなく見つけだし、それを伝ってマンホールから地上に出ると、そこは自然公園の只中だ。
posted at 16:41:51

ニンジャスレイヤーの頭上には赤い満月が浮かぶ。鎮守の森の奥、彼の歩みの先には、小さな堀で囲まれた庭園がある。ネオサイタマにはおよそ不釣り合いな、神秘と静寂が支配する空間だ。ニンジャスレイヤーはゆっくりと、おごそかに歩を進める…….。
posted at 16:43:22

ああ、しかし、見よ!彼の背中を!そこに小さく張り付いた金属のカケラを……!爆発四散したミニットマンのカケラである。ホタルのように弱々しい明滅を繰り返すそれは、いったい何をニンジャスレイヤーにもたらそうと言うのか……?
posted at 16:45:12

それは、偶然であったろうか。それとも、ミニットマンの怨念か、執念か。金属片は微弱な信号を何者かに発信し続ける。そして我々は、信号を受信するその男を、知っている。上空70メートル、VTOLの上に直立し、左耳に手を当てるそのニンジャを……!
posted at 16:49:28

「目標を捕捉した」感情のこもらぬ呟き。それに答えるくぐもった通信。沈黙。再びニンジャは呟く。「いや、必要無い。900秒後に交戦を開始する」無線を切ると、ニンジャはVTOLの機上から、ゆらりと身を躍らせた。
posted at 16:52:22

自然公園めがけて垂直に落下するニンジャ……フジオ・カタクラ、またの名をダークニンジャは、死闘の予感に何を思うか、メンポの奥で、静かに目を細めるのだった。 (「メナス・オブ・ダークニンジャ」へつづく)
posted at 16:53:22

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 16:55:19

■一周年■祝い■ 一周年記念企画その2&日本におけるニンジャスレイヤー立体造形物初販売記念重点企画として、実写版ニンジャスレイヤー「A Kind of Satsubatsu (K)Night」編をまもなく放送いたします。もちろんアナログ放送終了の影響はありません。 ■ワッショイ■
posted at 21:41:12

■テスト■IRC空間を介した画像送信実験■安全重点■ http://t.co/hYCP7cZ
posted at 21:47:29

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 21:50:09

NJSLYR> ゼロ・トレラント・サンスイ #3

120407

(ニンジャスレイヤー再放送)第一部「ネオサイタマ炎上」より:「ゼロ・トレラント・サンスイ」
posted at 21:01:35

(これまでのあらすじ:ソウカイ・ニンジャズの手練れ、ミニットマンとイクエイション。ニンジャスレイヤーを待ち伏せた二人のうち、イクエイションは真っ二つにされて絶命した。しかしミニットマンはパートナーの死と引き換えに、ニンジャスレイヤーの正体に迫るチャンスを掴んだのだ。) 1
posted at 21:03:57

ぞっとするほど冷たいコンクリートの感触を全身で味わいながら、ミニットマンは十年前の「戦争」を思い出していた。 2
posted at 21:05:20

敵地の真っ只中で、彼の部隊は母体に裏切られた。トカゲのシッポのように、捨てられたのだ。生き残ったのは彼とイクエイションただ二人。あのときもこうして、冷たいコンクリートに身を横たえ、じっと待ち続けていた。そしていま、彼の横にイクエイションはいない。 3
posted at 21:06:41

ミニットマンの体を雨がしとどに濡らす。おお。おお、イクエイション。しかしこの雨は天の計らいだ。ニンジャに涙は許されぬのだから。ミニットマンは目を閉じた。脳裏に浮かび上がるのは、イクエイションの絶命の瞬間である。 4
posted at 21:09:51

「サヨナラ!」イクエイションはそれだけ言うのがやっとだった。ハラキリの時間すら与えられなかった。ニンジャスレイヤーの無慈悲な一撃は、バイオ・ケブラーでくまなく覆われたイクエイションの体を、脳天から爪先にかけて両断したのだ。 5
posted at 21:12:04

許さぬ。そして、安らかに。……ミニットマンは顔を上げた。彼が生存したのは、イクエイションにすら明かさなかった秘密のジツ。「マッタキ」によるものだ。ニンジャスレイヤーはミニットマンを死んだものと取り違え、去ったのだ。 6
posted at 21:13:09

その判断の誤りを、死をもって後悔させてやろう。……ミニットマンは、うつ伏せの姿勢から匍匐前進を始めた。コンクリートに残る生体反応を辿り、目指すは、ニンジャスレイヤーの……アジトである。 7
posted at 21:15:14

ミニットマンの匍匐前進は、いまや最高速をマークしていた。彼の匍匐前進速度はチーターに匹敵するとされる。生体反応をトレスすること20分。ついに彼はニンジャスレイヤーの後ろ姿を、とらえた。 8
posted at 21:18:25

「アタマ・ストリート」。屋台が所狭しと道を塞ぎ、防金属流子トレンチコートに身をつつんだ求職者が首をすぼめて縦横に行き交う大通りを、ニンジャスレイヤーはまっすぐに抜けていく。それを追うミニットマンの匍匐。 9
posted at 21:22:41

ニンジャスレイヤーは地下街へ降りていく。ミニットマンは距離をおいて彼に続いた。匍匐では階段を降りられないので、ミニットマンは中腰の姿勢をとった。 10
posted at 21:23:44

地下街通路を歩きながら、ニンジャスレイヤーはどこからかトレンチコートを取り出し、羽織った。さらにズキンの上からハンチングを被る。ミニットマンはその手際のほどに唸った。これでもう、彼の出で立ちを気にかけるものなどいなくなる。 11
posted at 21:27:49

逆にミニットマンは、自身の格好がいまだニンジャスーツのままである事に思い至った。衆目の中でこの出で立ちはベストとは言えない。彼は地下街の壁に寄りかかる浮浪者のボロを無慈悲に剥ぎ取った。ネオサイタマの大気に無防備に晒されれば、哀れな浮浪者は24時間以内に死ぬだろう。 12
posted at 21:29:54

ミニットマンの無慈悲な行いに異議を申し立てるものはいない。当の浮浪者でさえも。 13
posted at 21:33:15

潰れたブティックの鉄格子や、薄汚いマガジン・スタンド、違法な回路基板をおおっぴらに並べた店、蛍光色のスプレーで「バカ」「スゴイ」など、悪罵を極めた言葉をペイントされたシャッター……死んだ空気をかきわけ、ニンジャスレイヤーはサッキョー・ラインのホームへ歩いていく。 14
posted at 21:34:21

ニンジャスレイヤーがゲートをくぐってから一分置いて、ミニットマンも構内へと足を踏み入れた。ゴミが所狭しと床に堆積した不潔な空間であるが、この駅の利用者は決して少なくない。無気力なゾンビのようなサラリマンをかきわけ、ミニットマンはニンジャスレイヤーの尾行を続ける。 15
posted at 21:39:35

やがてホームに鉄の塊が走りこんできた。竣工当時は銀色に光っていたであろう電車のボディも、今やグラフィティの餌食となっている。「アソビ」「アブナイ」「ケンカ」……。重苦しいサウンドを響かせ、ドアが開く。ミニットマンはニンジャスレイヤーの隣の車輌に乗り込んだ。 16
posted at 21:42:42

車輌の窓から、ミニットマンはニンジャスレイヤーを監視していた。どの駅で降りる、ニンジャスレイヤー! 17
posted at 21:45:50

「カスガ」駅では大勢降りたが、ニンジャスレイヤーは動かなかった。「センベイ」駅でもだ。この電車はエクスプレスだ。限られた駅にしか止まらない。終点まで行くつもりか? 18
posted at 21:46:54

チープな電子音が「カーブ注意」を知らせた。ぐらりと車体がかしぐ。ミニットマンは吊り革に力を込めた。その一瞬のことだった。ニンジャスレイヤーは隣の車輌から忽然と消え失せていた。 19
posted at 21:50:02

「バカな!」だが、慌てるな。生体センサーが道を示してくれる!ミニットマンは網膜に映し出された二次元レーダーを確認した。ニンジャスレイヤーを示す赤い点はほとんど動いていない。と言う事は……「上か」 20
posted at 21:51:08

ミニットマンは窓枠を乗り越え、電車の側面から上へよじ登った。トンネルの壁面に走行音がごうごうと反響し、風圧が襲いかかるが、ニンジャにとって、この程度の動作はウォームアップですらない。ミニットマンは隣の車輌上の人影を見据えた。ニンジャスレイヤーは腕組みして仁王立ちになっていた。21
posted at 21:54:24

復讐と功名心、そして焦りに認識を雲らされていたミニットマンであっても、ここへ来てついに認めざるを得なかった。ニンジャスレイヤーはミニットマンの尾行に気づいていた、そして、こうして……こうして彼を待ち伏せたのだ! 22
posted at 21:57:30

「ドーモ、ミニットマン=サン。ニンジャスレイヤーです」風に乗って、ニンジャスレイヤーのアイサツが届く。ミニットマンは怒りに震える手を合わせ、アイサツを返した。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ミニットマンです」 23
posted at 22:00:39

再戦である。ニンジャスレイヤーがおそるべき手練れである事は身に染みてわかっている。この間合いで最も注意を要するのは、スリケンをガードさせておいての飛び蹴りだ。それさえやりすごせば勝機が見える。スリケンを撃ち落とし、飛び蹴りをブリッジで避けるのだ!「イヤーッ!」 24
posted at 22:04:46

来る!ミニットマンは迎撃のスリケンを構えようとした。だが、それで終わりだった……ミニットマンの目の前、息がかかるほどの近さに、ニンジャスレイヤーがいた。ミニットマンの胸の中心やや左寄りに、温かい感触があった。そんな。そんなばかな。 25
posted at 22:05:52

戦いは一瞬で決着した。ニンジャスレイヤーがミニットマンの胸から右手を引き抜く。手の中でまだ蠢く心臓を無感動に一瞥したのち、彼はそれを握りつぶした。電車がカーブにさしかかる。ミニットマンが叫んだ。「サヨナラ!」電車から振り落とされながら、彼の体は爆発四散した。 26
posted at 22:08:23

やがて電車はブレーキを軋ませながら徐々に速度を落とす。ヤヌタ駅。物思いにふけっていたニンジャスレイヤーはその数百メートル手前で車輌から飛び降りた。壁面に取り付けられたハシゴを迷いなく見つけだし、それを伝ってマンホールから地上に出ると、そこは自然公園の只中だ。 27
posted at 22:11:39

ニンジャスレイヤーの頭上には赤い満月が浮かぶ。鎮守の森の奥、彼の歩みの先には、小さな堀で囲まれた庭園がある。ネオサイタマにはおよそ不釣り合いな、神秘と静寂が支配する空間だ。ニンジャスレイヤーはゆっくりと、おごそかに歩を進める……。 28
posted at 22:15:45

ああ、しかし、見よ!彼の背中を!そこに小さく張り付いた金属のカケラを!爆発四散したミニットマンのカケラである。ホタルのように弱々しい明滅を繰り返すそれは、いったいいかなる災いをニンジャスレイヤーにもたらそうと言うのか? 29
posted at 22:19:59

それは、偶然であったろうか。それとも、ミニットマンの怨念か、執念か。金属片は微弱な信号を何者かに発信し続ける。そして我々は、信号を受信するその男を、知っている。上空70メートル、VTOLの上に直立し、左耳に手を当てるそのニンジャを! 30
posted at 22:23:12

「目標を捕捉した」感情のこもらぬ呟き。それに答えるくぐもった通信。沈黙。再びニンジャは呟く。「いや、必要無い。900秒後に交戦を開始する」無線を切ると、ニンジャはVTOLの機上から、ゆらりと身を躍らせた。 31
posted at 22:27:21

自然公園めがけて垂直に落下するニンジャ……フジオ・カタクラ、またの名をダークニンジャは、死闘の予感に何を思うか、メンポの奥で、静かに目を細めるのだった。 32
posted at 22:30:25

(ニンジャスレイヤー再放送)第一部「ネオサイタマ炎上」より:「ゼロ・トレラント・サンスイ」終わり
posted at 22:33:51

■マディソンおばあちゃん■1■ 「さあどうだ!山水ってのは最後に出てくる鎮守の森のことかねえ?奥ゆかしいったらありゃしない!ミニットマンの匍匐前進、有名だ!なにしろハヤイ!階段では立つ!そして電車のグラフィティ、電子戦争、重金属酸性雨、オジギ!これぞネオサイタマだね!」 ■慈姑■
posted at 22:36:06

■マディソンおばあちゃん■2■ 「ミニットマン!瞬殺だ!匍匐前進は速いのに!ニンジャスレイヤーは容赦無し!心臓摘出だ。ゴアで刺激的、アタシャみずみずしく若返る気分!装束の上から変装を着るフジキドもこの話ぐらいかね?レアだよ!ブリッジはニンジャの重要な回避動作のひとつ!」 ■金鍔■
posted at 22:40:12

■マディソンおばあちゃん■3■ 「この話はニンジャスレイヤーの日本初のエピソードだが、恐らく原作もこの話が最初!それなのに冒頭にはあらすじ?びっくりするかね?フェフェ!これは『時系列はエピソードごとにバラバラだ』というアティテュード宣言にもなっているねえ!」 ■健康■
posted at 22:44:24

■マディソンおばあちゃん■4■ 「最初のエピソードが既に時系列の途中からスタートってんなら、もう煮るなり焼くなり好きにするしかないね!さて、このお話と、続く『メナス・オブ・ダークニンジャ』、そこからさらに多くのエピソードに展開だ!え?アカウントが?何?今日はここまで!」 ■豆餅■
posted at 22:48:35

NJSLYR> メナス・オブ・ダークニンジャ #1

100727

第一巻「ネオサイタマ炎上」より「メナス・オブ・ダークニンジャ」
posted at 14:18:24

濡れた土を踏みしめニンジャスレイヤーが歩く。ボンボリの弱々しい灯りが、ハラハラと落ちるモミジを金色に照らす。ネオサイタマにあるまじき静謐の空間。
posted at 14:21:48

この自然公園の詳細について、公的な記録は残されていない。地理的・電子的に隔離された小さな区画は、汚染された都市の只中にひっそりとうがたれた闇である。
posted at 14:24:56

ニンジャスレイヤーは、舞をまうような謎めいた動きで、ゆっくりと前進する。彼のその動きは、竹から竹へ、無数に張りわたされた「ナリコ」がためである。ナリコとは、ニンジャたちの間で伝承される危険なブービートラップだ。
posted at 14:32:27

ニンジャスレイヤーはこの地に仕掛けられたナリコは全て把握していた。目を閉じていても、彼はなんなく通過することが可能だし、この危険なトラップの真ん中で堂々と昼寝をすることもできる。
posted at 14:35:21

彼の「舞い」の目指す先に、小さな庵が、おぼつかないシルエットを現した。
posted at 14:37:06

ヒュン、と風が鳴った。ニンジャスレイヤーは左手の人差し指と中指を垂直にかざし、飛来したスリケンを受け止めた。フイウチである!
posted at 14:39:21

直後、頭上から、カタナをかざして飛び降りてくる影。ニンジャスレイヤーは振り向きながらの回し蹴りで、カタナを振り下ろす相手の腕を受け止めた。襲撃者はくるくると回りながら、ニンジャスレイヤーの目の前に着地した。
posted at 14:42:50

「ユカノ」ーーニンジャスレイヤーが呼びかけると、襲撃者は鼻から下を覆うマフラーをほどいた。目元に幼さの影を残した、美女である。
posted at 14:45:42

「今日のアンブッシュ(不意打ち)には何点もらえるかしら?」ユカノは肩をそびやかした。ニンジャスレイヤーは庵に向かって歩き出した。「おれはセンセイではない、ユカノ」「ええ、そうでしょうね」
posted at 14:50:35

「センセイのご容体はどうだ」「...あまり、よくない」「そうか」ユカノが庵の障子戸を引き開けた。ニンジャスレイヤーは腰を屈めて、ボロ家に滑り込んだ。
posted at 15:00:32

粗末な室内である。床のタタミには色褪せたダルマの絵が描かれ、壁には幾つか、マキモノがかけられている。奥の壁には棚がしつらえられ、そこには大小無数の蝋燭に火が灯されている。 部屋の中央、フトンから半ば身を起こした姿勢で、ミイラのように痩せた老人がニンジャスレイヤーを見上げていた。
posted at 15:12:01

彼こそ、ドラゴン・ドージョーのかつてのマスターにして、「ローシ・ニンジャ」の異名を持つ男、ドラゴン・ゲンドーソーである。だが今や彼は、誰がみても明らかなほどに、死と隣り合わせの状態にあるのだった。
posted at 15:16:19

「ユカノ。これを」ニンジャスレイヤーが、ササの葉の包みを差し出す。「ヨロシ=サンが秘匿していたアンプルだ。これでセンセイも、きっと持ちなおす」気丈なユカノの目に、涙がにじんだ。「フジキド....!」嗚咽をこらえ、ユカノは台所に立った。
posted at 15:23:02

「無茶を...しおって...フジキド=サン...」老人が咳き込んだ。ニンジャスレイヤーは首を振った。「たやすい事です。鉄の意志と、そしてこの」自らの胸を親指で差し、「この私に宿るニンジャ・ソウルをもってすれば」
posted at 15:38:41

「それが危ういのだ、フジキド=サン!お主に宿るそのニンジャ・ソウル、過去のなんというニンジャのものなのか、わからんのだぞ。そんな恐ろしいことは、『リザレクション』において例が無いのだ....!過信はならぬ」
posted at 15:42:44

ニンジャスレイヤーは頷かなかった。「しかし、あのとき我がもとにこの名無しのニンジャが降り来たらねば、私は妻と子の仇を討つ機会すら与えられず、雑草の如くに踏みにじられる運命だった」老人はこれには返す言葉が無かった。
posted at 15:48:11

「この力は私に与えられた宿命です、センセイ。この力で仇を討ち、ラオモトを討ち、すべての悪しきニンジャを殺す。私はそのために生かされています」ドラゴン・ゲンドーソーは何か答えようとしたが、そこへユカノが台所からチャを立てて戻ってきた。
posted at 15:54:27

ユカノはメレンゲ状に泡立ったチャで満たされた漆塗りの椀を、ドラゴン・ゲンドーソーに差し出した。「チャにアンプルが入っています、お爺様、これできっと....」「すまんな、フジキド、ユカノ......なんと口惜しきこの老体よ......」老人は震える手で、一息にチャを飲み干した。
posted at 16:00:37

そのときである。屋外で、なにかが爆発するような音が轟いた。空気が震え、不快な熱波が庵の中にまで届いてきた。
posted at 16:06:03

「ユカノ! センセイを!」ニンジャスレイヤーは障子戸を破って屋外へ飛び出した。ああ!なんという事か!竹林が燃えている!
posted at 16:13:28

燃え上がる竹とモミジの林を背後に、陽炎の中、ゆっくりと近づいてくる人影があった。ニンジャスレイヤーの心は千々に乱れた。尾けられた?なぜ!ミニットマンを返り討ちにし、尾行はすべて撒いた、発信機の類いなど....発信機!?
posted at 16:19:31

人影はニンジャスレイヤーに向かってオジギをした。「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。ダークニンジャです」「ドーモ。ダークニンジャ=サン。ニンジャスレイヤーです」オジギ終了から0.02秒。ニンジャスレイヤーは跳んだ。後悔は死んでからすればよい。今は目の前の敵を倒さねばならない!
posted at 16:25:25

「イヤーッ!」先手を打った跳び蹴りは完璧なタイミングと間合いだった。しかし、ニンジャスレイヤーは次の瞬間、なぜかうつ伏せに草の上に倒されていた。「このときを楽しみに待っていた、ニンジャスレイヤー=サン。わがカタナ『ベッピン』が、貴様の血を欲して夜な夜な泣いていたものだ」
posted at 16:32:56

ダークニンジャの手には、不穏な凄みをもつカタナがあった。そのカタナに視線の焦点を合わせようとすると、視界がぼやけた。なにかのジツをかけられているのか?ニンジャスレイヤーは首を振った。
posted at 16:36:32

「さて、あのボロ家が貴様のアジトというわけか」「答える必要はない」...ユカノ、なんとか逃げおおせてくれ。ニンジャスレイヤーはじりじりとダークニンジャとの間合いをつめた。
posted at 16:40:26

「短い間に随分と暴れたものだ、ニンジャスレイヤー=サン」ダークニンジャが感情の希薄な声を投げかけた。「ボスは貴様の正体を知りたがっている。俺を遣わすほどに。だが、ソウカイヤのクズニンジャどもを何人倒そうが、俺に言わせればなんの意味も無い」
posted at 16:47:06

ダークニンジャの刀が円を描く。ニンジャスレイヤーはそれを目で追おうとするが、視線が滑ってしまう。「本当のニンジャのイクサを見せてやろう、テロリスト」ダークニンジャが跳んだ。「イヤーッ!」「グワーッ!」(「メナス・オブ・ダークニンジャ後編」につづく)
posted at 16:51:33

「メナス・オブ・ダークニンジャ後編」
posted at 20:09:17

「イヤーッ!」「グワーッ!」不可解な一撃を左肩に受け、ニンジャスレイヤーは片膝をついた。ダークニンジャの幻惑的な太刀筋が、読めぬのだ!
posted at 20:11:49

「立て、ニンジャスレイヤー=サン。失望させてくれるなよ。これでは俺の『ベッピン』が静まらんではないか」ダークニンジャが切っ先を突きつける。...「ワッショイ!!」ニンジャスレイヤーはしゃがんだ姿勢から空高く跳ね上がり、宙返りした。
posted at 20:16:52

ニンジャスレイヤーが空中で放つ無数のスリケンを、ダークニンジャはカタナ「ベッピン」で素早く叩き落して行く。しかしニンジャスレイヤーはスリケンで勝負を決めようと考えたわけではない。攻撃を絶え間なく浴びせることで、反撃の機会を封じるのが目的だ。
posted at 20:21:02

着地したニンジャスレイヤーは土を蹴った。泥水が跳ね上がり、ダークニンジャはわずかな時間、視界を奪われた。それで充分だった。ニンジャスレイヤーが地面すれすれを駆ける。「後ろか!」ダークニンジャが吐き捨てた。
posted at 20:26:30

ダークニンジャの判断は正しかった。だが、わかっていても避けられない、それがニンジャスレイヤーのジュージツの恐ろしさである。ニンジャスレイヤーは背後からダークニンジャをがっちりと羽交い締めにしていた。「イヤーッ!」ダークニンジャを抱えたまま、ニンジャスレイヤーは垂直に跳び上がった。
posted at 20:37:48

垂直のジャンプ、その高さ、実に10メートルはあろう。頂点で頭が下になり、そのまま地面めがけて落下する。これぞ、ジュージツの禁じ手技、「アラバマオトシ」である!杭打ち機で打たれる車止めよろしく、ダークニンジャの頭部は地面に打ちつけられた。「グワーッ!」
posted at 20:54:17

転がって落下点から離れたニンジャスレイヤーは、注意深く、昏倒したかに見えるダークニンジャを見守った。
posted at 20:56:12

おお、しかし、見よ!地面をつかむダークニンジャの手に力がこもり、ぶるぶると震えたと見るや、ゆっくりとその身を起こしたではないか。その右手には、吸い付くように、かの「ベッピン」が握られている。
posted at 21:23:20

「なるほど、やるな。あまり遊んでいると殺されかねん」ダークニンジャは自分のアゴを押さえ、捻った。ゴキリ、と骨が軋む音が聞こえた。
posted at 21:49:07

今やふたりの周囲は火の海だった。もはやこの自然公園はおしまいだ。ニンジャスレイヤーは逃げたセンセイらを気にかけたかったが、このダークニンジャは恐るべき敵であった。「ゆくぞ、『ベッピン』」ダークニンジャがカタナを水平に構えた。刃が小刻みに揺れる......
posted at 21:53:38

ダークニンジャが消えた。そして、直後、ニンジャスレイヤーの胸は斜めに切り裂かれていた。数秒遅れて、彼の傷口から血が噴き出した。「これがデス・キリだ。さらば、ニンジャスレイヤー」ダークニンジャの声は,遠のくニンジャスレイヤーの意識の中でおぼろげだった。
posted at 22:02:47

ニンジャスレイヤーは地面に手をつき、なんとか堪えようとした。流れる血とともに力が抜けてゆく。「「「驚かせてくれる、デス・キリを受けてなお死なぬとは」」」ダークニンジャの声が、近づく足音が、残響する。「「「ならば、カイシャクしてやろう!」」」
posted at 22:10:56

ダークニンジャがニンジャスレイヤーの首の上で「ベッピン」を構えた。カイシャク、すなわち、首を狩ろうというのだ!ああ、もうだめなのか、ニンジャスレイヤー。屈してしまうのか!
posted at 22:25:41

「「ソコマデダ!ダークニンジャ=サン!」」火の海を圧して、叫びが飛んだ。「「なにやつ....」」ニンジャスレイヤーは声の方向へなんとか視線を動かした。そして目を疑った。そこに立っていたのは、死に装束に身をつつんだドラゴン・ゲンドーソーではないか!
posted at 22:32:39

枯葉のように痩せた老人は、拳を固く握り、しっかりと大地を踏みしめて、火の粉の中に立っていた。額には三角の布が当てられている。死を覚悟した者の出で立ちであった。「センセイ」「クスリが効いたぞ、感謝する、『ニンジャスレイヤー』!」「センセイー!」
posted at 22:37:33

「ドーモ、ダークニンジャ=サン。ローシ・ニンジャです」ドラゴン・ゲンドーソーがアイサツした。「ドーモ、ローシ・ニンジャ=サン。ダークニンジャです」ダークニンジャは驚きを隠さなかった。「あのドージョーの爆発を生き延びておったのか?」「いかにも」ドラゴン・ゲンドーソーが頷いた。
posted at 22:45:33

「これは僥倖。アブハチトラズとはこのことか。俺の手土産が二つになるというわけだ」ダークニンジャはニンジャスレイヤーを蹴り倒すと、ドラゴン・ゲンドーソーに向き直った。「甘いわ、小僧」ドラゴン・ゲンドーソーは哄笑した。「この場を生き残るのはニンジャスレイヤーただ一人よ」
posted at 22:51:18

センセイは刺し違えるつもりなのだ!ニンジャスレイヤーにはしかし、どうすることもできなかった。デス・キリの傷は深かった。彼はただ傍観するしかないのだ。
posted at 22:53:21

ドラゴン・ゲンドーソーは天に向って両手を掲げた。その手のひらに、空気が渦を巻いて、炎と共に吸い込まれて行く。それにつれて、老人の目が、口が、太陽のようなまぶしい光を発し始めた。ダークニンジャはベッピンを水平に構えた。デス・キリでいきなり決着しようというのだ。
posted at 23:11:15

「イヤーッ!」ダークニンジャの体が揺らぎ、消えた。デス・キリだ!「グワーッ!」炎と風を吸い込み、白いエネルギーの塊と化したドラゴン・ゲンドーソーの体が、デス・キリを受けて爆発した。巻き起こった放射状の風が、炎を、ダークニンジャを、ニンジャスレイヤーを吹き飛ばした。
posted at 23:20:04

どれほどの時間が経過したのだろう?ニンジャスレイヤーは己の力を振り絞り、よろめきながら立ち上がった。胸と肩の深手の痛みが、すぐに彼を現実にひき戻した。経過した時間はおそらく数分だ。しかし周囲の様子は激変していた。そこは灰色の世界だった。
posted at 09:38:27

ドラゴン・ゲンドーソーが引き起こした爆発によって、炎は跡形も無く消しとばされていた。灰色の焼け野原と、頭上の満月....。虚無である。いや、違う!前方の影はダークニンジャのそれである。
posted at 09:41:22

「ローシ・ニンジャは死んだ」ダークニンジャはベッピンを構え直した。「貴様にも引導を渡してやろう」すすを被り、背中からは蒸気を発しているが、彼にさほどのダメージは無いようだった。万事休すである。
posted at 09:44:26

ニンジャスレイヤーはファイティングポーズを取ろうとした。彼に残された力はもはやない。彼は己の無力を感じていた。妻と子を目の前で失ったあの時のように。「フユコ....トチノキ....」走馬灯のように、あの時の無念の光景が視界に重なり合う。
posted at 09:50:12

虫けらのように妻子と自分を手にかけたあのニンジャは、不気味なカタナを持っていた、不気味なカタナ...不気味な...目の前のダークニンジャがベッピンを振り上げる...不気味なカタナを...「貴様か!」ニンジャスレイヤーは叫んだ。「貴様がそうか!」
posted at 09:52:34

ダークニンジャが手を止めた。「何?」「貴様がおれの妻と子を!」「これは驚いた。おまえはあのときのサラリマンだというのか。我々に立てつくニンジャが、あのサラリマンだったと?確かに時系列は一致する.....」
posted at 10:05:47

『殺せ!殺せフジキド!己を捨てろ!仇を討ってやる!』ニンジャスレイヤーは内なる呼びかけを感じていた。
posted at 10:17:45

ニンジャスレイヤーはその呼びかけを知っていた。全てを失ったあの日、妻子を殺され、自らもまた死んで行こうとするそのときに、彼に力を与えた声。名無しのニンジャ・ソウルの声である。
posted at 11:33:44

『さあ、ワシに身を任せろ、ワシに体を貸せ!仇を討ってやる!』『ならぬ、フジキド。耳を貸すな』名無しのニンジャ・ソウルの声にかぶさるようにして、もう一つの声がニンジャスレイヤーに呼びかけた。「その声はセンセイ...!」
posted at 11:38:58

『これが最後のインストラクションだ、ケンジ・フジキド。ニンジャ・ソウルに呑まれるなかれ。手綱を握るのはおまえ自身、ほれ、このように。イヤーッ!』『グワーッ!』ニンジャ・ソウルの苦悶の叫びが脳内でこだました。やがて静寂が訪れた。
posted at 11:53:17

ニンジャスレイヤーは己の内奥から今再び湧き出す燃えるような力を感じていた。『さあ、この力でダークニンジャと向き合うがよい。これにてサラバだ、フジキド=サン。わが教え、ゆめゆめ忘れるなかれ。そしてユカノの事をたのむ』「センセイー!」
posted at 11:57:15

そしてニンジャスレイヤーの視界に現実の世界が戻ってきた。振り下ろされるダークニンジャの「ベッピン」が!
posted at 12:00:39

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはチョップでベッピンの刃を受けた。禍々しい炎につつまれたニンジャスレイヤーの手は、ダークニンジャの暗黒の剣を一撃で叩き折った!「バカなー!」
posted at 12:03:26

「地獄から戻ったぞ、ダークニンジャ=サン!」ニンジャスレイヤーは、得物を失いひるんだダークニンジャの頬に、禍々しい炎につつまれた右ストレートを叩き込んだ。「イヤーッ!」「グワーッ!」よろけるダークニンジャに、今度は左ストレートを見舞う。「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 12:08:53

そして再びの右ストレート。「イヤーッ!」「グワーッ!」左ストレート。「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 12:10:43

圧倒的であった。ダークニンジャは体制を立て直そうともがいた。ニンジャスレイヤーは身を沈め、跳躍の予備動作をとった。その構えはジュージツのそれではない。考古学者であれば、あるいはその構えを指摘する事ができたやも知れぬ。その動きは、太古の暗殺術「チャドー」の構えであった!
posted at 12:29:14

「イイイヤアーッ!」ニンジャスレイヤーが斜めに跳躍した。きりもみ状に回転しながら両脚をカマのように振り、敵の首を狩る血も涙もない暗殺技「タツマキケン」が、ダークニンジャを直撃した。「ヤラレター!」断末魔の絶叫とともに、ダークニンジャの体はハンマー投げのハンマーのように吹っ飛んだ。
posted at 12:36:24

ニンジャスレイヤーの全身を覆っていた炎は、役目を終えると跡形も無く消え失せていた。「センセイ」ニンジャスレイヤーは己の手のひらを見つめ、嘆息した。
posted at 12:39:53

しかし別れをかみしめる時間など、ありはしなかった。夜空に複数のヘリコプターの爆音が轟きわたる。ソウカイヤの何らかの支援部隊が到着したに違いない。ニンジャスレイヤーは焼け焦げた木々の陰に身を滑り込ませ、その場から消え失せた。
posted at 12:43:50

秘められた凶悪な力を引き出し、辛くも宿敵を討ち果たしたニンジャスレイヤー。だが、失ったものはあまりに大きく、謎は今まで以上に闇を深めるのであった。...悲劇を超えて今はただ走れ、ニンジャスレイヤー!(「ティラニー・ウィズイン」につづく)
posted at 12:53:02

NJSLYR> フィスト・フィルド・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ #1

100806

「フィスト・フィルド・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ」その1
posted at 17:53:48

トミモト・ストリート、22時。
posted at 17:56:25

重金属を含有する酸性雨が降りしきる夜の安宿街、明滅する巨大な「タケノコ」というネオン文字に、黄緑に照らされながら歩く男の姿があった。
posted at 18:02:13

くたびれきった防塵トレンチコートはところどころ擦り切れ、目深にかぶった毛糸帽も虫食いだらけだ。男は片足を引きずりながら、おぼつかない足取りで、水溜りをハネ散らかして歩いていく。
posted at 18:04:52

こんな時間帯に浮浪者が一人で出歩くなど、絶対に避けねばならないことである。見よ、男の後方3メートルを。鉄パイプを持った2人の武装ヒョットコが、少しずつ距離を狭めながら、男の後をつけてゆく。
posted at 18:12:40

ヒョットコは、センタ試験と呼ばれる過酷な選抜試験からドロップアウトし、家を追われた十代の浪人生で構成された、巨大なストリート・ギャング・クランである。このトミモト・ストリートも、奇怪なマスクを被る彼等の掌握下にあった。
posted at 18:19:39

彼等にはルールも良心も無い。特に浮浪者狩りは彼らの間で最もホットな競技である。日没から日の出まで、浮浪者達は遠く離れたセンベイ・ステーション周辺で時間をつぶすか、あるいはなけなしのトークンをはたいて、アニメ喫茶に避難するしか無い。この男は誰もが知るそのルールを忘れてしまったのか?
posted at 18:25:27

左のヒョットコが右のヒョットコの肩をつつき、自分の鉄パイプを指差して笑った。ナムサン、先端には電動ドリルがくくりつけられている。右のヒョットコはそれに応え、ポケットから左手を出して見せる。握っているのは拳銃だ。「ヒッヒヒ!」2人はおかしくてたまらぬのか、声を漏らして笑いあった。
posted at 18:30:12

ゆがんだ電信柱の陰まで男が歩みを進めたとき、ヒョットコはいきなり男に拳銃を発砲した。乾いた銃声が空気を震わせ、男は驚いて身をすくめ、しゃがみこんだ。狙いは外れたようだが、そんなのはおかまいなしだ。2人のヒョットコは爆笑しながら、男を取り囲む。
posted at 18:33:48

「ヒャハァー!」電動ドリルのほうが男の背中を蹴りつけた。「アイエー!」男は情けない悲鳴をあげ、ぬかるみに突っ伏した。
posted at 18:36:43

「ドリルやれよ!ドリルをよ!」拳銃のヒョットコが叫んだ。「ガッテン!」片割れが電動ドリルのスイッチを入れる。危険なモーター音が鳴り響き、回転する刃先が男の目玉に突きつけられた。「アイエーエエエエ!」男は激しく抵抗したが、拳銃のヒョットコが後ろから彼を羽交い締めにしてしまった。
posted at 18:48:52

「すっごいぜ!すっごい!」笑ながら、ヒョットコはドリルをオトコの眼球にちかづけていく。ナムアミダブツ!だがこの地獄絵図は、ネオサイタマのストリートにおいてはありふれすぎた「チャメシ・インシデント」なのだ!
posted at 18:52:59

「それぐらいにしておけ、小僧ども」道の反対側の電柱の陰から、別の男がゆらりと姿を現した。「アイエーエエエエ!」浮浪者はより一層の大声をあげた。ヒョットコたちは新手の人影を睨みつけた。
posted at 18:59:45

その男もまた、くたびれきった身なりではあった。だが、ボロボロの防塵トレンチコートの下の肉体は違う。がっしりと盛り上がった肩と太い首が作る四角いシルエットは、男がいま水溜りで震えている浮浪者とは別種の存在であることを告げて余りある。
posted at 19:10:42

「ヒャハァー!一匹増えたあ!」「ダブルスコアだ!」ヒョットコは爆笑しながら鉄パイプを振り上げた。「アイエーエエエエ!」水溜りで浮浪者が叫んだ。二本の鉄パイプが、新参の男に振り下ろされる!
posted at 19:39:08

闇の中で鳴る鈍い音。「タケノコ」のネオンサインがバチバチと光った。屈強な男は肩で鉄パイプを受け、微動だにしない。先端の電動ドリルが虚しく宙を掻いた。「あれえ?おかしいぜ?」「テストに出ないぞ!」ヒョットコたちが顔を見合わせる。
posted at 19:43:38

男の肩を粉砕するはずの鉄パイプは、まるで飴細工のように、男の肩の輪郭に沿って、ぐにゃぐにゃに歪んでいた。闇夜に男の鋭い眼光が光った。
posted at 19:51:59

ぶるる、と男の肩が震えたようだった。「イヤーッ!」ドウン、と、銅鑼を鳴らすような破裂音が轟いた。電動ドリルのヒョットコが、消えた。男は拳をまっすぐに突き出し、直立していた。「え?」もう一人のヒョットコが、路地をキョロキョロと見回した。
posted at 20:06:09

「アイエーエエエエ!」浮浪者が斜め頭上を指差した。「タケノコ」の「ケ」の灯りが消えていた。ヒョットコはそちらへ目を凝らした。「ケ」があった空間には、かわりに、「大」という字が書かれていた。
posted at 20:10:19

字が変わった?いや、そんなはずはない。あれは字ではない!四肢を広げた人間の形に、看板にうがたれた穴である!
posted at 20:16:20

「活力バリキ」ドリンクのオーバードーズで極度の興奮状態にあるヒョットコにも、おぼろげながら事情がのみこめてきた。相棒はこの男の素手のパンチを食らって、斜めに吹っ飛び、あそこにある看板に埋め込まれてオブジェになった。わかりやすい。「ヒ...ヒヒー!」ヒョットコは失禁した。
posted at 20:46:24

「アイエエエエエ!」浮浪者が叫んだ。男はヒョットコの手から拳銃を取り上げ、ルービックキューブをいじるかのようなリラックスした手つきであっという間に分解してしまった。「まだやるか、ヒョットコ=サン」男が凄みをきかせた。ヒ「ヒヒー!」ヒョットコは失禁しながら脱兎の如く逃走した。
posted at 20:49:32

男は浮浪者に肩を貸し、立ち上がらせた。「もう大丈夫だ、お客さん」「あんた、何者だ?」礼すら忘れ、浮浪者は問うた。「ヨージンボーだ、お客さん」男は低く言った。「こんな時間にウロウロして、他所から来たのかね、お客さん?」浮浪者は頷いた。「炊き出しが毎日あるって聞いたから...」
posted at 20:54:33

男はガラガラ声で笑った。「が、はは、はは!そんなうまい話、ネオサイタマのどこにもないよ、お客さん!」「アイエエ....」浮浪者はしょんぼりとうなだれた。
posted at 21:06:19

「さっきのガキども、あれはヒョットコ・クランと言って、殺人嗜好者の集まりだ。炊き出しの噂を流したのも奴らだろう。地元の人間達が奴らの人間狩りを警戒するようになったからな。他所からお人よしの獲物を調達というわけだ」男は歩き出した。「ついて来な、お客さん。寝場所くらいはあるよ」
posted at 21:13:55

安宿街の雑魚寝モテルはほとんどが灯りもつけず、扉を閉ざして静まり返っている。強盗対策である。二つめの十字路で、ヨージンボーは立ち止まった。地面のマンホールの蓋をずらし、浮浪者へ、降りるようにうながした。「行きな、お客さん」浮浪者はうなずき、はしごに足をかけようとした。
posted at 21:20:38

そのときである。浮浪者を見守っていたヨージンボーが、突然ぶるぶると震え出し、地面に両膝をついた。「どうした!調子が悪いのか!」浮浪者は命の恩人を気遣い、背中をさすろうとした。「畜生きやがった!やばい、オハギ、オハギ....」「ダンナ?」「寄るな!いけ!」男は浮浪者の手を振り払う。
posted at 21:25:00

男は震える手で、コートのあちこちのポケットを必死にまさぐった。「畜生、オハギ!オハギ、あったはず....まずい....」男は飛び出さんばかりに目を見開き、食いしばった歯の隙間からは泡をふいていた。しかし、なんとか彼は目当ての物を見つけ出した。プラスチック製のタッパーである。
posted at 21:28:15

「開けてくれ!はやく!中身を出してくれ畜生!」男は憤怒の形相で浮浪者を睨みつけた。浮浪者は慌ててタッパーの蓋を開いた。中には紫色のまるい塊が六つ、詰まっていた。「一つくれ!一つで十分だ!早く!」「すぐ出すよ!わかってくださいよ!」浮浪者は塊を一つつかむと、男の口に押し込んだ。
posted at 21:32:30

とたんに男の震えはおさまり、恍惚とした酩酊が男に訪れたようだった。「ああー、あまい、きく、きく....」しばらく男は浮浪者の事すら忘れ、快楽の波に浸っていた。「ダンナ....?」「ああ....すまんな、色々あるんだよ、男にはな、わかるだろ」
posted at 21:38:14

我に帰った男は、少し罰が悪そうに答えた。「さ、気を取り直して、下りようかい、お客さん」「アイエエ....」浮浪者が縦穴を下まで下りきったのを見届けてから、男もまた、地下へと身を投じた。
posted at 21:42:52

(#2へつづく)
posted at 21:52:47

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 21:53:18

NJSLYR> フィスト・フィルド・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ #2

100809

「フィスト・フィルド・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ」その2
posted at 13:45:55

(前回のあらすじ)夜のトミモト・ストリート、ギャングから浮浪者を助けた男は自らを「ヨージンボー」と名乗った。彼は行くあてのない浮浪者を、ストリートの地下へと案内する。
posted at 13:49:31

ーーー
posted at 13:50:11

目に刺さるようなアンモニア臭をたちのぼらせる水路を左手に、まっすぐ進む事、数分。二人は錆びた鉄の扉の前に立った。扉には奥ゆかしい字体で「お先です」と書かれている。どこか他所から持ってきたのだろ
posted at 14:33:27

「ここだ、お客さん。みんな気のいいやつだよ。しばらく居るといい」男は軋む扉を押し開き、浮浪者をうながした。オレンジ色の光が目に飛び込んでくる。「ここは『キャンプ』だ。で、俺がここの、ヨージンボーというわけさ」
posted at 14:35:46

倉庫かなにかを利用した場所であろうか、天井は高く、どこから引いてきたものか、あちこちに据えられた電気ボンボリが充分な光源となっている。思い思いに張られた、つぎはぎだらけのテント、ダンボールハウス。「村長に紹介してやる。ついて来な、お客さん」
posted at 14:39:13

二人はいちばん奥にある水牛革製のテントのノレンをくぐった。そこにはサイバネティック義手をした、太った老人が座っていた。男は老人にオジギした。「ドーモ、タジモ=サン。一人、上で困っていたのを連れてきたんだ」老人は座ったまま手を合わせた。「ドーモ、ワタナベ=サン。今日は奇遇な日だよ」
posted at 14:46:09

「奇遇な日?」「うむ」タジモ老人はうなずいた。「まあそれは後で話そう。あんた、名前は」「ドーモ、わたしはノリタ・イガキです。タッコウ・ストリートからここまで来ました」浮浪者がおそるおそるアイサツした。「それは長旅だったね。外の『R4』のテントが空いている。よかったら使いなさい」
posted at 14:51:07

「い、いいのですか」浮浪者は泣き出した。老人はにっこり笑った。「イチゴイチエの教えだよ。ずっとここで暮らしたいなら、仕事をしてもらうがね。ここでは、皆ができる事をするのさ。助け合いで成り立つコミューンなのだ。ワタナベ=サンはここのヨージンボーだ。揉め事を解決してくれるのさ」
posted at 14:55:17

「アイエエ......わたし、がんばりますよ......きっとがんばります.....」浮浪者は泣きながら老人の義手を握りしめ、もう一度深くオジギすると、よろめきながらテントを出て行った。ワタナベはそれを見届けたのち、口を開いた。「まあ、面倒見てやってくれよ。...で、奇遇とは?」
posted at 14:58:02

タジモ老人はうなずいた。「あんたが出かけてる間に、もう一人運ばれて来たのだ。今日はこれで二人だ。珍しいだろう」「ほう、それは!」ワタナベは驚いてみせた。「どんな奴ですか?」老人はテント出入口を義手で指差した。「噂をすれば、だ」
posted at 15:02:40

ワタナベは振り向いた。出入口に、背の高い男が立っていた。上半身は裸で、血の染みでまだらになった包帯をサラシのように巻いていた。肩口と胸の辺りに大きな染みがある。その箇所の出血がひどかったようだ。ワタナベはこの男の眼差しから、油断のならない凄み、絶望のような影を感じ取った。
posted at 15:18:04

「ドーモ、はじめまして。サカキ・ワタナベです」ワタナベがまずアイサツした。男もオジギした。「ドーモ、ワタナベ=サン。イチロー・モリタです」偽名だな。ワタナベは感じ取った。まあいい。「ひどい怪我だな」「タジモ=サンのおかげで、大事には至りませんでした」イチローはタジモにオジギした。
posted at 15:20:07

「モリタ=サンはすぐそこの下水のところで倒れていたのだ。今朝の事だよ。意識を失い極めて危険な状態だったが、ロン先生の処置で息を吹き返した。驚くべき生命力だとセンセイも驚いていたよ」ロン先生は元闇クリニック医師で、ワタナベと共にこのキャンプの生命線といえる存在だった。「ふうむ」
posted at 15:40:25

「ロン先生は言うておる、それでも満足に動けるようになるまで一週間はかかると。わしらはしばらくとどまるようにモリタ=サンに伝えておるのだが......」「そうはいかないのです」イチロー・モリタが口を挟んだ。「時間がないのだ。本当に恩にきます、しかしこれ以上お世話になるわけには」
posted at 15:56:56

言葉を畳み掛けようとして、モリタは苦痛に呻いた。「それ見たことか。ワタナベ=サン、あんたからも頼むよ」タジモ老人が困り果てた表情でワタナベを見た。ただごとではないな、とワタナベは心中で呟いた。「事情がどうあれ、セイてはコトをシそんじる、という言葉もあるぞ。モリタ=サン」
posted at 16:13:39

「.......」「焦りの理由を話してくれれば、なにか力になれるかも知れんぞ」ワタナベは言った。モリタは険しい顔でワタナベを見返した。そして、折れた。「人を探している。行方知れずなのだ」「家族か」家族、と耳にした時、なんらかの感情がモリタの顔をさざ波のように行き過ぎて行った。
posted at 16:32:35

「......そうだ」モリタは言葉を吐き出すように言った。ワタナベは呟いた。「家族か。......家族はいい」それから、我にかえると、モリタに言った。「モリタ=サン。とりあえず寝場所が居るな。俺のテントを使え。まずはメシでも食おうじゃないか、『お客さん』」
posted at 16:50:25

(「フィスト・フィルド・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ」その3につづく)
posted at 16:55:02

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 16:55:55

NJSLYR> フィスト・フィルド・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ #3

100816

「フィスト・フィルド・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ」その3
posted at 14:47:35

(前回のあらすじ)地下に隠された浮浪者の避難キャンプを武力で守るヨージンボー、それがサカキ・ワタナベである。いつものように避難キャンプに新顔を連れてきた彼は、村長のタジモから、イチローという男を紹介される。秘密を抱える手負いの男は、ある人を捜しているとワタナベに打ち明けた。
posted at 14:53:53

ーーーー
posted at 14:54:31

牛革とビニールを複雑に継ぎ接ぎし、カワラをニカワで貼り付け補強したワタナベのテントは、もはや立派な住居と言えた。「なにしろ地下だから、雨の心配をしなくていい」ワタナベはノレンを引き開け、モリタを招き入れた。
posted at 15:00:49

テントの中は、外見以上に驚きだった。二段式のベッド、うず高く積み上げられた書物、マキモノの類い。ワタナベはクーラーボックスからサイタマ・シュリンプ・ビールの缶を二本取り、ひとつをモリタに手渡した。モリタは断りかけたが、結局受け取った。
posted at 15:04:19

「まあ座れ、モリタ=サン。寝たけりゃ上のベッドを使ってくれ」「ドーモ」モリタは頷いた。ワタナベはニヤリと笑った。「お互いの家族にカンパイだ」シュリンプビールを缶のまま飲みながら、モリタはテント内のあちこちに張られた色褪せた写真に目をやった。
posted at 15:13:27

写真に映るのはどれも同じ人間だ。キモノを着た美しい女、そして、四歳ぐらいの子供。「おれの家族だ。妻の名はミマヨ。娘の名はオハナ」ワタナベはビールをあおった。「二人は今はロッポンギに住んでる。新しい夫とな。……それでよかったんだよ」
posted at 15:21:58

モリタはワタナベをさえぎらず、ただ耳を傾けていた。「おれは家族を顧みなかった。刑事としてネオサイタマを守る、それがおれの義務と固く信じていた。ヤクザをカラテで殴るこの手から、知らないうちに、いろんなものがこぼれていった。いろんなものが」ワタナベは手のひらを見つめた。震えていた。
posted at 15:27:19

ワタナベはタッパーからオハギをつかみとり、むしゃむしゃと食べた。ワタナベの目がぼんやりと曇った。「オハギが止められないんだよ……情けないだろう。闘争にあけくれ、オハギで疲労をごまかした。妻が娘を連れて出ていったのを知ったのも、一週間も経ってからだ」
posted at 15:36:16

「妻の再婚相手は、当時のおれの部下だ。だが……あいつなら、おれのようなクズとは違う、幸せな家庭を築けるはずだ。おれはやがて刑事ですらなくなり、探偵になり、最後にはここだ。ヨージンボーさ。なにもかも失ってな。おれは何の為に戦ってきたんだろうな」ワタナベは二本目のビールを開けた。
posted at 15:44:34

「ネオサイタマを守るため」モリタが言った。「そうだろう。ワタナベ=サン。そして今はこのキャンプを守っている。尊い仕事だ」ワタナベは驚いた顔をし、まばたきしてモリタを見返した。ワタナベは震えていた。オハギ中毒の症状ではなく、涙をこらえて震えているのだ。
posted at 15:49:24

「おれはただ、会うやつ会うやつにこんな話をして、同情をかいたいだけなんだ、モリタ=サン。情けない男なんだよ。だが……」ワタナベは目頭を押さえた。「来月は娘の誕生日なんだ。会えることになっている。それがおれの支えなんだ。……あんたも、見つかるといいな、その……」「名は、ユカノだ」
posted at 16:07:54

モリタは静かに答えた。「私のセンセイの忘れ形見で、18になったばかり。血のつながりはないが、守ってやれるのはもはや私だけだ。センセイは死んだ」「行方知れずか…心配だろうな」ワタナベは言った。「仕事柄、ネットワークは無い訳ではない。噂を集めよう。お前がここを去るまで、力を貸す」
posted at 16:32:32

ワタナベはモリタに握手の手を差し出した。モリタは握手に応じた。「家族はいい、モリタ=サン」ワタナベの言葉は自らに言い聞かせるようでもあった。
posted at 16:34:11

……翌日、日の入り。聞き込みを終え、相撲バー「チャブ」を後にしたワタナベは、自分をつけてくる足音に気づいていた。イチロー・モリタ?違う。引きずる様な弱々しい足音である。
posted at 16:45:32

相撲バー「チャブ」のバーテン、マイニチ=サンは、トミモト・ストリートのみならずネオサイタマの主要繁華街に情報のコネクションの網を張るヤリ手であった。彼はワタナベに頭が上がらない。ワタナベは彼にユカノの特徴を伝えた。マイニチ=サンの手腕は確かだ。三日もすれば何らかの目撃情報が入る。
posted at 16:52:39

ワタナベは注意深くストリートの角を曲がった。ヒョットコ・クランの報復?違う。奴等は病的に日の光を恐れている。たとえ曇りであってもだ。それは彼らの信奉する宗教と関係があるのだろう。そして何より、ヒョットコは決して一人で行動する事はないのだ。
posted at 16:56:31

何度か路地を選び、試したが、足音がワタナベをつけているのは確実だった。ワタナベはあれこれ考えるのをやめた。どのみち、ワタナベのカラテに勝てるものなどない。ワタナベは立ち止まり、言った。「何の用かね」
posted at 18:39:36

「アイエエ……!」「お前は!」ワタナベは振り返った。狭い路地、立っていたのは、彼が助けた浮浪者だった。「確か、お前は……ノリタ=サン?」「ドーモ。ワタナベ=サン。いや。インターラプター=サン」浮浪者は顔を歪め、口を開いた。濁った目がワタナベを見据えた。ワタナベはうめいた。
posted at 18:47:16

「どう言う事だ?なぜその名を知っている!ノリタ=サン!」ワタナベは叫んだ。「はじめまして、私は…私は……」浮浪者の首がガクガクと不気味に揺れた。「わたし、は、ウォーロック、です。インターラプターさん。このひと、の、カラダを、かりて、います」
posted at 18:51:25

「なんだと……」ワタナベは身構えた。浮浪者はその身をブルブルと震わせた。「チューニング、が、なかなか、はああああ、ああ、もう大丈夫です、インターラプター=サン」痙攣がおさまると、やせ衰えた顔には別人の様な凄みが宿っていた。「お会いできて光栄です、インターラプター=サン」
posted at 18:55:10

「その名で呼ぶな。カラテを叩き込むぞ」「カラテ!あのタタミ・ケンですな。見ていましたとも、この目でね!ヒョットコをハリツケに!なんともムゴいジュツでしたな。あなたの拳は錆びついていない。ボスもお喜びですよ」浮浪者……ウォーロックと名乗った正体不明の存在は歯を見せて笑った。
posted at 19:00:22

「ソウカイ・シンジケート! おれに構うな!」ワタナベは激昂していた。ナムアミダブツ!ワタナベは確かにソウカイヤの名を口にした。彼は何者なのか!一方、ウォーロックはワタナベの怒りにも少しも動じた様子はない。
posted at 19:19:15

「私がシンジケートのシックス・ゲイツに入ったのはつい先日です、インターラプター=サン。……と、言いますのも、大幅に欠員が出ましてね。あのコッカトリスも倒されました。まさにこれは緊急事態ですぞ、インターラプター=サン」「コッカトリスが!?」ワタナベは反射的にオウムがえしにしていた。
posted at 19:25:26

ウォーロックは芝居がかった仕草で人差し指を立てた。「あなたが健在だった頃のシックス・ゲイツのニンジャはあらかた殺されました。ダークニンジャ=サンすらも力及ばず、植物状態ときいております。一人の人間がそれをやったのです、たった一人の人間が!」
posted at 19:33:20

「バカなー!」ワタナベは叫んだ。「ダークニンジャ=サンが倒れたなどと……何者だ、そのテロリストは?」ウォーロックはくすくす笑った。「イチロー・モリタ=サンですよ、あなたと仲のよろしい好青年ですな」ワタナベは打ちのめされたように後ずさった。
posted at 19:38:02

「あれは偽名でしょうが、本当の名は我々も掴んでおりません。ただ、『ニンジャスレイヤー』と自称しております」ぽつり、ぽつりと雨粒が落ち、すぐに土砂降りになった。ウォーロックは続けた。「私はあなたのご存命を知り、こうしてスカウトに来ました。まさかその場にニンジャスレイヤーが……」
posted at 19:43:40

「奴を殺れというのかウォーロック=サン」ワタナベは呻いた。ウォーロックは深々とオジギした。「ボスはあなたをシックス・ゲイツへ呼び戻した後、ニンジャスレイヤーをテウチ(訳註:暗殺すること)にせよ、とお命じになるおつもりでした。一度でそれが済んでしまうとは、まさにアブハチトラズです」
posted at 19:56:44

「だが…おれはシンジケートを抜けた人間だ……」ワタナベは言葉を口から押し出した。ウォーロックは頷いた。「そのオトガメすらも白紙にして、迎え入れようというのです。なんと寛大なボスのお計らい!」ウォーロックはニヤニヤと笑った。
posted at 20:22:15

「それに、言ってはなんですが、インターラプター=サン、あなた自身今の不本意な暮らしを通して、ご自身の本当の生きる道を身に染みて実感されてらっしゃるのでは?」ウォーロックがワタナベの顔を覗き込んだ。「シックス・ゲイツ最強のニンジャ、タタミ・ケンの使い手、それがヨージンボーなど…!」
posted at 20:28:00

「言うな!」ワタナベはさえぎった。しかしウォーロックは続ける。「さらに、あなたにとって素晴らしい福音が用意されている。……オハギ、おいしいですか?インターラプター=サン」「貴様…!」「憎くて愛しい、黒い甘味……」「やめろ!」「血中のアンコをクリーンにして差し上げます」
posted at 20:36:09

「何だと」ワタナベは呆然とした。「そんな事ができるわけがない」「リー先生のラボであれば、それも容易い。あなたのいた頃とは違うのです、色々と」ウォーロックは言った。「血液を入れ替え、体細胞を……まあ、私にはよくわかりません。リー先生に直接お聞きになっては?」ワタナベは沈黙した。
posted at 20:41:29

長い沈黙であった。二人は重金属を含んだ激しい雨に打たれていた。やがてワタナベは口を開いた。「……約束を守れよ、ウォーロック=サン」「ホホホ!私は伝令に過ぎません。ですが嘘は申しておりませんよ。これで私の首もつながります。ニンジャスレイヤーの首、お待ちしておりますよ」
posted at 20:46:06

言い終えると、ウォーロックであった浮浪者は唐突に意識を失い、糸の切れたジョルリのように(訳註:人形浄瑠璃か)、アスファルトに倒れ伏した。ワタナベは握りしめた己の拳を見つめた。そのおそるべき眼差しは、殺意に赤く燃え上がるようであった。
posted at 20:50:23

……同時刻。
posted at 20:56:50

トミモト・ストリートの中心、巨大ゲームセンター「ヤング・オモシロイ」の廃墟内では、今まさに危険な宗教的儀式がたけなわであった。
posted at 21:01:04

「キング!」「キング!」「キング!」日没を迎え、まったき闇となった「ヤング・オモシロイ」の中央ホールで、半裸の男たちが声を合わせて叫んでいた。彼らはみな、センタ試験に失敗し、帰る家を失った十代の若者達である。
posted at 21:13:46

「キング」の呼び声が響き渡る中、中央に据えられた祭壇のボンボリに火が灯った。炎が巨大な人の影を映し出すと、呼び声は割れんばかりの歓声に変わる。影は両手を高く差し上げ、それに応えた。「約束の子供らよ!今宵も時が来た。オメンを被れ!」歓声。少年達は競い合ってヒョットコの面を装着した。
posted at 21:19:55

「我々は自由だ!今こそ、夜!太陽は死んだ!手にはバットを持て!」「キング!」「キング!」「キング!」「今宵の約束の地は、下水とともに暮らす不潔なネズミの巣だ!」「キング!」「キング!」「キング!」「ヨージンボーなど恐るるに足らず!」「キング!」「キング!」「キング!」
posted at 21:33:56

ドオン、と銅鑼が鳴らされた。首領は手に持った青龍刀を火に差し上げた。「ゆくぞ!」狂乱のヒョットコ集団は首領の号令下、雪崩のように「ヤング・オモシロイ」から飛び出して行った。目指すは……浮浪者のキャンプである!
posted at 21:37:49

(「フィスト・フイルド・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ」その4へ続く)
posted at 21:39:28

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 21:40:14

NJSLYR> フィスト・フィルド・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ #4

100820

「フィスト・フイルド・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ」その4
posted at 13:31:14

(これまでのあらすじ)浮浪者キャンプのヨージンボー、ワタナベは、傷付いた来訪者と心を通わせる。イチロー・モリタの偽名を用いてドラゴン・ゲンドーソーの孫娘ユカノの行方を捜すニンジャスレイヤーことフジキドは、ワタナベの心に触れ、つかの間の安息を覚えるのだった。
posted at 13:35:44

(あらすじ続き)しかし、平穏は長くは続かない。ワタナベの正体は、ラオモト・カンのソウカイ・シンジケートにおいてかつて最強とうたわれたニンジャ、インターラプターであったのだ。組織を逃走し、浮浪者の身に甘んじる彼に、シンジケートの使者ウォーロックは接近。ニンジャスレイヤー暗殺を
posted at 13:39:16

(あらすじ続き)打診するのであった。一方その頃、地上では、ヒョットコ・クランがワタナベへの報復を叫び、浮浪者キャンプ襲撃を今まさに決行せんとしていた。ニンジャスレイヤーの身に、今、二重の危機が迫る!ワッショイ!
posted at 13:41:55

ーー
posted at 13:42:56

アグラ・メディテーションを終え、二分間に及ぶ深呼吸を三度行うと、ニンジャスレイヤーは静かに立ち上がった。傷は六割癒えた。ロン先生の処置は適切であり、ニンジャスレイヤー自身のニンジャ回復力も非凡であった。これ以上の滞在は許されない。いつソウカイヤがここを嗅ぎつけるかもわからない。
posted at 13:48:32

なにより、ニンジャスレイヤーはユカノの身を案じていた。ワタナベの情報網が機能するという保証もない。旅立ちの時である。
posted at 13:50:37

ニンジャスレイヤーはボストンバッグのジッパーを開け、己の赤黒のニンジャ装束がしっかりとたたまれているのを確かめた。背後でノレンが動く気配がした。ニンジャスレイヤーはジッパーを閉じ、振り返った。
posted at 13:53:13

「……」ワタナベであった。広い肩、無骨な顔立ち、四角いシルエット。雨に濡れ、目をらんらんと輝かせ、ニンジャスレイヤーを無言で見据えている。凄惨な表情であった。
posted at 13:55:12

「どうした」ニンジャスレイヤーは問うた。己のニンジャ第六感が、ワタナベの剥き出しの闘争心、そして悲哀を感じ取っていた。ワタナベは答えた。「本来の姿に着替えるがいい、モリタ=サン。いや、ニンジャスレイヤー」「……」「おれも、着替える」
posted at 14:05:48

「ワタナベ=サン」「おれはニンジャだ、ニンジャスレイヤー=サン。ソウカイ・シンジケートのな」ニンジャスレイヤーは頷いた。「よかろう」ボストンバッグをつかみ、テントから出た。そして隣のテント、ロン先生の診療所へ向かう。
posted at 14:16:26

診療所は無人であった。ロン先生はおそらく、ツーフーを発症しているマゲヌマさんへの往診に出ているのだろう。ニンジャスレイヤーはそこで己のニンジャ装束の袖を通した。頭巾を被り、「忍」「殺」とレリーフされた恐ろしいデザインのメンポを装着する。己に憑依したニンジャソウルが身じろぎする。
posted at 14:32:08

ニンジャスレイヤーはワタナベ=サンの過去、そして現在を思い、そして振り捨てた。慈悲はない。ニンジャ殺すべし。
posted at 14:34:43

診療所テントを出ると、ワタナベもまた、着替えを終えて自分のテントから出てきたところだった。焦げ茶のニンジャ装束を着たワタナベが、ニンジャスレイヤーにオジギした。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。インターラプターです」「ドーモ、インターラプター=サン。ニンジャスレイヤーです」
posted at 14:37:52

浮浪者キャンプは静まり返っている。ただ、電気ボンボリの明かりで照らされるばかり。皆、日中の空き缶拾いに疲れ、泥の様に眠っているのだ。ニンジャスレイヤーとインターラプターは3メートルの距離を保ちながら、ゆっくりと旋回した。互いにつけいる隙をうかがっているのだ。
posted at 18:10:03

「なぜ、わさわざ正体を隠していた?インターラプター=サン。寝首をかく機会はあったろう」「ソウカイ・シンジケートへ復帰したのはついさっきだ。お前がニンジャスレイヤーだと知らされ、テウチ指令を受けたのもな。おれはシンジケートから逃げておったのだ。だが、それも終った」
posted at 18:12:58

「おまえはそれでいいのか?妻が、子が待っているのだろう?」ニンジャスレイヤーが問う。インターラプターは暗く笑った。「そうとも。家族。オハギ依存を断ち、おれはまっとうな人間に戻る。そして家族を取り戻すのだ」「まっとうな人間?違うな。お前はニンジャに戻ったのだ。無慈悲な殺人者に」
posted at 18:17:23

「言うな!」インターラプターが仕掛けた。イナズマの如き速度の蹴りである!ニンジャスレイヤーはぎりぎりのところでそれをかわした。その動きはどこかぎこちない。体が完全ではないのだ。
posted at 18:19:15

ニンジャスレイヤーはインターラプターの蹴り脚を掴み投げ飛ばした。「イヤーッ!」「グワーッ!」しかしインターラプターもさる者。空中で易々と受け身をとった彼は猫の様に着地する。ニンジャスレイヤーは着地点へスリケンを投げた。インターラプターの両腕が素早く動くと、スリケンは弾かれていた。
posted at 18:24:17

「本気を出せニンジャスレイヤー。怪我がどうした。この程度のジュー・ジツでコッカトリス=サン、ましてダークニンジャ=サンが倒せるたはずがない。本気を出すのだ。おれはシックスゲイツ最強のニンジャだ。おれは甘くないぞ」インターラプターは不敵に言い放った。
posted at 18:28:50

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは飛び蹴りを繰り出した。「イヤーッ!」インターラプターも同角度の飛び蹴りで応じる。二人は空中で交差した。着地と同時に、二人は振り向きながらの蹴りを放つ。これも同角度である。蹴りと蹴りがぶつかり合い、火花が跳んだ。
posted at 18:32:42

互角!いや、ニンジャスレイヤーはさらにもうひと蹴りを残していた! 反対の脚がビリヤードのキューのごとく突き出され、インターラプターの胸を突いた。押し出されるようにして吹っ飛んだインターラプターへ、滑るように向かって行くニンジャスレイヤー。追撃である。
posted at 18:44:16

またしても猫の如く着地したインターラプターは、迎え撃つと思いきや、奇妙な中腰の姿勢を維持していた。ニンジャスレイヤーはその姿勢になにかただならぬ気配を感じ取った。だが、攻めの手を止めるわけにはゆかぬ。インターラプターの下腹へ向け、ニンジャスレイヤーはチョップを突き出した。
posted at 18:50:01

「イヤーッ!」「フンハー!」インターラプターが叫んだ。ニンジャのシャウトとは異質な叫びだ。ニンジャスレイヤーのチョップは、中腰のインターラプターの腹筋へ突き刺さり……いや、違う!おお、見よ、なにか超自然の力によって、ニンジャスレイヤーの手は逆にがっちりと捉えられているではないか!
posted at 18:58:16

インターラプターは上半身をねじった。上体だけが、ほとんど真後ろを向いている。そして、その右腕の異様な緊張を見よ!何かがくる!ニンジャスレイヤーは防御の姿勢を取ろうとした。だが、なんたることか、体はその場にくぎづけにされている!見えない何かが、ニンジャスレイヤーを押さえつけている!
posted at 19:02:03

「ハイーッ!」インターラプターが叫んだ。振り抜かれた拳がニンジャスレイヤーの顎を直撃した。ニンジャスレイヤーの体は斜めに空中へ吹き飛んだ。一秒後、ドオンという衝撃音が放射状に発生し、近くのテントがひしゃげ、中から浮浪者が慌てて飛び出すと、ニンジャの姿を見て転がる様に逃げて行った。
posted at 19:10:53

「グワーッ!」思い出していただきたい。浮浪者キャンプは巨大な地下倉庫区画を利用しているという事を。ニンジャスレイヤーは高く吹き飛ばされたことで、天井にその身体を叩きつけられる事となった。そのダメージはいかばかりか!?垂直に落下する彼を待ち構え、インターラプターが…おお、なんと!
posted at 22:33:38

彼は落下予測地点で再び中腰の姿勢を取った。ナムアミダブツ!なんたる無慈悲!インターラプターは落下してくるニンジャスレイヤーに、今当てたばかりの打撃を再度当てようというのだ。シックスゲイツ最強を名乗るには、これほどの冷酷さが求められるものなのか!
posted at 22:36:55

「ハイーッ!」さらなる直撃、一秒後の破裂音……しかし、ニンジャスレイヤーは吹き飛ばなかった。なんと彼は空中でインターラプターの打撃をとらえ、受け流していたのだ。円を描くような動きでインターラプターの腕に巻きつき、絡めとる。まるでマイコのような流麗さであった。
posted at 22:40:44

「ワッショイ!」インターラプターの体の周囲にタスキのようにまとわりついたのち、ニンジャスレイヤーはインターラプターを天高く放り投げた。あのおそるべき打撃技の衝撃をそのままインターラプターに返す形で、投げ飛ばしたのである。「グワーッ!」天井を舐めるのはインターラプターの番だった。
posted at 22:45:30

(親愛なるニンジャスレイヤー読者のみなさん)ほんやく者のスシが切れたので、昨晩の更新はちゅうだんされていました。更新を再開いたします。ああ、窓に!窓に!ーーー
posted at 12:09:53

天井へ衝突したのち、垂直に落下するインターラプター。普段のニンジャスレイヤーであれば、そこへ空中で取りつき、「イナヅナオトシ」を決めてトドメとするところである。だがニンジャスレイヤーはそれを見送った。インターラプターは落下しながらバランスを取り、着地した。
posted at 12:13:26

「なるほど。撤回する。おまえはおそるべき使い手だ、ニンジャスレイヤー=サン」インターラプターは鼻血を拭った。「だが、なぜ情けをかけた。恥をかかせる気か」ニンジャスレイヤーは黙って浮浪者キャンプの出入り口を指差した。その直後であった。小さな扉がゆがみ、弾け飛んだ!
posted at 12:17:10

そして、ヒョットコのおメンをつけ、金属バットをかかげた武装集団がなだれこんできた。ニンジャスレイヤーのニンジャ第六感は、襲撃者の接近を察知していたのである。「なんだと!」インターラプターは叫んだ。ニンジャスレイヤーはインターラプターを見た。「お前の手のものではないようだな」
posted at 12:20:34

「当たり前だ!」インターラプターは叫び返した。「おれは数に頼るような卑怯な真似はせんぞ。第一……」「そう、第一、ここはお前の『故郷』だ。ヒョットコ・クランを呼び込むなど、ありえんだろうな」ニンジャスレイヤーは静かに言った。インターラプターは沈黙した。やがて言った。「一時休戦だ…」
posted at 12:32:36

ヒョットコたちは壁の穴から這い出すアリのごとく、地下倉庫空間に走り出る。手にタイマツを持っているヒョットコもいる。「ヤッチマエー!」
posted at 12:34:53

眠りを妨げられ、異常に気付いた浮浪者たちがテントから飛び出してくる。「ロン先生!おれだ、ワタナベだ!」インターラプターは走ってきた痩せた中年男性を呼び止めた。「ニンジャ!お助け!」「説明は後だ、ロン先生!ヒョットコは我々が相手をする。センセイは皆を起こして、反対の出口から逃せ!」
posted at 12:40:27

「わ、わかった、まさかそっちのニンジャはモリタ=サンか!?アイー!」ロン先生は恐れながらもやるべき事を理解し、駆け出した。二人のニンジャは頷き合うと、殺到してくるヒョットコ集団へ向かってジャンプした。
posted at 12:45:52

ヒョットコ達は手に手に持った金属バットで手当たり次第に手近のテントやダンボール、ボンボリを殴りつけている。その後方で満足げに仁王立ちする長身のヒョットコ首領。その荒々しさ、平安時代の悪虐ニンジャ「アケチ・ニンジャ」が私兵を率いて村々を荒らし回った地獄絵図を思い出させずにはいない。
posted at 13:17:18

騒乱のさなかへ二人のニンジャが着地すると、ヒョットコ達は驚きのあまり手を止めて静まり返った。「ニンジャ!?」「なんでニンジャが……」ヒョットコの一人が首領を振り返った。「キング!ニンジャです!こんなの聞いてない!テストに出ないよお……」首領は平然としていた。「気にするな」
posted at 13:24:19

首領は手にした青龍刀を高々と掲げた。「約束の子らよ!ニンジャはヒョットコではない!太陽でもない!だから存在しないのと同じだ!気にせずテントを焼け!浮浪者を狩れ、」ヒョットコ達は顔を見合わせた。「そ、そうか…」「さすがキング!」「キング!キング!キング!」「ヤッチマエー!」
posted at 13:38:15

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの体がコマの様に回転した。「グワーッ!」放射状に六枚のスリケンが飛び、脳天と心臓に二枚ずつスリケンを受けた三人のヒョットコが絶命し、倒れて動かなくなった。構わず、逃げ惑う浮浪者を追いかけようとするヒョットコに、インターラプターが立ち塞がる。
posted at 14:06:29

「ハイーッ!」インターラプターのタタミ・ケンの直撃を受け、水平に吹き飛んだヒョットコが、背後のもう二人を巻き添えにして、壁にめりこんだ。「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」
posted at 14:10:09

二人のニンジャはともに嵐の如き殺戮を繰り広げた。しかし、ヒョットコの数が多すぎる。首領の言葉を絶対的に信頼する彼らの異常な価値観は、ニンジャを恐怖しないようにできているようであった。やがて何人かが妨害を突破し、テントに火を放つ事に成功した。
posted at 14:14:21

燃えやすい素材でできたテントやダンボールハウスは、浮浪者が足で稼いだたいせつな家財とともに易々と燃え上がった。巨大倉庫のスプリンクラー装置が反応し、放水を開始する。火と水、発生する水蒸気で、浮浪者キャンプはたちまちマッポーの地獄絵図と化した。
posted at 14:17:25

それでも、一度の攻撃で複数のヒョットコの命を奪うニンジャ二人によって、襲撃者が全滅に至るのは時間の問題だった。己の構成員をまるで捨て石のように使う、後先を考えない首領の作戦は異様であった。「ホホホホ!」おメンの下で首領が笑った。「もうこの村はお終いだな。インターラプター=サン!」
posted at 14:28:41

「なぜお前がその名を知っている…」インターラプターが首領に向き直った。そして、思い至った。「今度はそのヒョットコ首領を乗っ取ったのか、ウォーロック=サン!?」「イグザクトリー(その通りです)、インターラプター=サン!ドーモ!」
posted at 14:33:00

「どういう事だ」最後のヒョットコを片付け、駆け戻ったニンジャスレイヤーがインターラプターに問うた。インターラプターは答える。「ウォーロックだ。ソウカイ・シックスゲイツのニンジャ。他人の意識を乗っ取るジュツを使う。本体はどこか別の場所にいる」
posted at 14:38:11

「ホホホホ、イグザクトリー。しかし仲間の情報を売るとは感心しませんよ」「黙れ!これはどういう事だ、ウォーロック=サン」「不必要だからです!」ニンジャスレイヤーへのアイサツもせず、ウォーロックはインターラプターに答えた。「このキャンプはあなたの惰弱な人間性の拠り所だ」
posted at 14:43:12

水蒸気と熱が渦巻いていた。ロン先生は浮浪者たちを逃がし切る事ができたのだろうか。「あなたはシックスゲイツのニンジャだ。かつてあなたが逃げたのも、その人間性のせい。だからそんなものは捨てていただきます。イソガバマワレ。あなたの家はここではない、ソウカイ・シンジケートなのですから」
posted at 14:50:11

「何だと……」ウォーロックはあらためてニンジャスレイヤーに向き直り、オジギした。「そして、ハジメマシテ、ニンジャスレイヤー=サン。ウォーロックです」「ドーモ、ウォーロック=サン、ニンジャスレイヤーです。ソウカイヤの外道め、そう長く生きられると思うなよ」「ホホホホ!」
posted at 14:53:56

ウォーロックはインターラプターの腰のあたりを指差した。「ところで、何かが無い事に気づきませんか、インターラプター=サン。大切なものが!」「何!グワーッ!」インターラプターは愕然とした。腰につけたオハギ入れのバイオ笹タッパーが、無残に破り取られていた。「いつの間に!」
posted at 14:59:03

「私のネン・リキは万能です。雑魚ヒョットコとの戦いに気を取られるあなたからオハギを奪い取るなど、たやすい事。ホームを失い、オハギを失った。これであなたは、晴れて心身ともにクリーンなニンジャです、おめでとうごさいます。ホホホホ……」「貴様!」
posted at 15:12:54

「そして、残念ながら、ニンジャスレイヤー=サン、あなたには、彼が隠している事実を告げねばならない!」「やめろ!」インターラプターは色を失った。彼はウォーロックへ襲い掛かろうとしたが、足がもつれ倒れてしまった。禁断症状で彼はブルブルと震え出した。
posted at 15:15:49

ウォーロックは肩をすくめ、話し出した。「彼はこんなことを言っていませんでしたか?刑事生活の苦しみから逃れるためオハギに逃げた。ロッポンギに妻と子。ホホホホ!違う、違う、違う!」「やめろ…やめてくれ……」「昔から、彼はそうやって自分を、他人をごまかしているんだそうですよ?」
posted at 15:19:31

「いいですか、ニンジャスレイヤー=サン。彼は殺人嗜好者です!刑事として働く一方、彼は夜な夜な、そのカラテで道ゆく人々をツジギリ(訳註:通り魔のこと)していた。それを嗅ぎ付けた後輩の刑事の家に押し入り、彼と妻と子を、残らず惨殺したのです!」「やめろ…やめろ…」
posted at 15:23:18

「やがて彼はニンジャとなってシックスゲイツに入った。彼の異常な闘争心を適度に抑えるもの、それがオハギなのです。幻想の中にいる彼は、そんな事すら忘れてしまっておりますが……。残念な事です、ニンジャスレイヤー=サン、しかしこれで彼は生来の殺人マシーンに…グワーッ!!」
posted at 15:27:41

ニンジャスレイヤーの飛び蹴りがウォーロックの首を直撃した。ヒョットコのおメンごと、その首から上は千切れ飛んだ。サイタマ・シャンパンのように激しく血液を噴出させ、首領の体はうつ伏せに倒れて動かなくなった。
posted at 15:30:28

膝立ちの姿勢で、インターラプターはブルブルと震えていた。「ウフフ…アア…この感じ…思い出す…」「インターラプター=サン」「ああ……いいぞ、いいぞ!」四角いシルエットの大男が、震えながら立ち上がる。目からは血の涙が流れていた。彼は笑っていた。
posted at 15:34:31

「なんとすがすがしいことか。おれには何も無駄なものが無い」インターラプターは中腰の姿勢をとった。「さあ、来い、ニンジャスレイヤー。おれのタタミ・ケンとお前のジュージツ。どちらが上か。ケッチャクをつけようじゃないか」「イヤーッ!」「フンハー!」
posted at 15:43:21

ニンジャスレイヤーはインターラプターをチョップした。ナムサン!当然の如く、インターラプターの守りの姿勢はニンジャスレイヤーのチョップをがっちりと受け止め、固定した。インターラプターの上半身が、ぐるりと裏返る。
posted at 15:45:06

「ハイーッ!……な?グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」ナムアミダブツ!一体何が起こったのか!ニンジャスレイヤーは固定されていないもう片方の手で、ぐるりと後ろを向いたインターラプターの準備姿勢、タタミ・ケンを繰り出す腕をつかんでいた。そして、ナ、ナムアミダブツ!
posted at 15:50:03

ニンジャスレイヤーは、なんたること、片手だけの力で、限界までねじったインターラプターの上半身をそれ以上にねじり込み、ねじり切ったのである!
posted at 15:52:10

無残!腰から上下がわかれて地面に落ちたインターラプターを、ニンジャスレイヤーは見下ろした。「……ニンジャ殺すべし」ニンジャスレイヤーは呟いた。感情のこもらぬ声であったが、彼は自らに言い聞かせているかのようであった。まだ息のあるインターラプターが、ニンジャスレイヤーを見た。
posted at 15:55:52

「これでよかったのだ、モリタ=サン……いや……偽名か……」インターラプターは笑おうとして、咳き込んだ。「おれは罪深い亡霊だ、おれのような人間は、こうなるサダメ……カイシャクしてくれるか、ニンジャスレイヤー=サン」ニンジャスレイヤーは頷いた。
posted at 15:58:40

「いいか、『チャブ』だ。『チャブ』に行け、ニンジャスレイヤー=サン」インターラプターは血を吐きながら告げた。「『チャブ』の、マイニチ=サンに会え。彼が、今頃、ユカノ=サンの行方、きっと、つかんでいるはず」「……」「サヨナラ!」「イヤーッ!」
posted at 16:02:53

ニンジャスレイヤーのチョップが、インターラプターの額を打った。額がひび割れ、そこから輝くエクトプラズム体が噴き出した。インターラプターのニンジャ・ソウルである。ニンジャ・ソウルはニンジャスレイヤーの頭の高さまで浮かび、爆発四散した。
posted at 16:05:45

ニンジャスレイヤーはしばらく立ち尽くしていた。やがて、彼は踵を返し、水蒸気の中へ消えていった。あとにはインターラプターの無残な死骸が残った。しかし、閉じられた瞳は、安らかであった。
posted at 16:20:26

(「フィスト・フィルド・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ」おわり)
posted at 16:21:34

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 16:21:59

NJSLYR> チャブドメイン・カーネイジ #1

100919

「チャブドメイン・カーネイジ」
posted at 17:11:46

(あらすじ:インターラプターとの死闘に辛くも勝利したニンジャスレイヤー。死に際にインターラプターが残した「ユカノの行方を知りたくば、相撲バー『チャブ』のマイニチ=サンに会え」という言葉を、彼は聞き逃しはしなかった。
posted at 17:16:14

ダークニンジャの襲撃により行方知れずとなったユカノの無事を確かめねば、ニンジャスレイヤーはあの世のドラゴン=センセイに顔向け出来ない。ニンジャスレイヤーは傷の癒えない身体をおして、相撲バー『チャブ』へ向かう。)
posted at 17:17:43

リョウゴク・ストリート、PM8。
posted at 17:22:25

ネオサイタマにおけるスモトリ興業を一手に引き受けるコロシアム・シティ、それがリョウゴク・ストリートである。
posted at 17:25:36

チャンコ072を長期に渡りドープすることで異常巨体を手にし、コロシアムで血みどろの殺し合いを繰り広げることを運命づけられた者たち。それがスモトリである。
posted at 17:30:13

チャンコ072は遺伝子異常を誘発する深刻なリスクがある。しかし残念ながらこの企業支配社会において、効率という概念は人権よりも重んじられる。ネオサイタマ郊外のジャングルには遺伝子異常の果てに知性を失い、廃棄されて野生化したスモトリ達が獣のように暮らしている。
posted at 17:41:02

リョウゴクのコロシアムでしのぎを削るスモトリ達はその手のルーザーとは一線を画する存在だ。力は権力を、金を、セックスを、ほしいままにする。中央リーグ「リキシ」のドヒョウに上がれるのはわずか64人。勝ち続ける事でその地位を手にしたリキシ・スモトリ達は、貴族同然の暮らしを送っている。
posted at 17:50:23

リョウゴク・ストリートに軒を連ねる相撲バーは、興業中は連日連夜、血に飢えた観戦者達でごったがえす。バッファロー肉とスモトリ・チョコに舌鼓を打ちながら、巨大なスクリーンで中継される相撲ファイトに歓声をあげるのだ。
posted at 18:05:34

相撲バー「チャブ」はリョウゴク・ストリートでも一番の老舗を標榜している。改築を繰り返した巨大な店構えは、誇り高く木彫りされた「お相撲」の看板に恥じない。複数のカウンターを擁した一階のホール、高級コタツが配置された二階のバルコニー席。
posted at 19:10:41

酔漢でごった返す一階ホールへ、今、入り口の両開きのドアを開けて入ってきたものがいる。目深にかぶったハンチング帽、草色のトレンチコート。むろん、その姿へ関心を向けるものなどいない。
posted at 22:24:28

トレンチコートの男は巨大スクリーンの脇を通り、第二カウンターへ歩いて行った。立ち飲みの客達でごった返すホールであったが、男は避けるそぶりすら見せず、なおかつ、誰ともぶつかることなく、スムーズに前進する。
posted at 22:29:58

男はカウンターでバリキ・カクテルをシェイクするバーテンに声をかけた。「マイニチ=サンは?」初老のバーテンは無関心な目をトレンチコートの男に向ける。「今、裏でタバコ吸っとるよ。もうすぐ休憩の交代だから、ここで待ってな。ご注文は」「トックリを」「トックリね」
posted at 22:34:29

バーテンはトックリ・サケをカウンターに置いた。トックリの口にはカボスが挿してある。男はトークンをバーテンに手渡した。
posted at 22:36:46

そのとき、店内の照明が落ち、巨大スクリーンがネオンサインとともに点灯した。ネオンサインは「お相撲」「リキシ」「闘争心」といった言葉である。「本日のセンシュラクです」マイコ合成音声が告げると、ホールが歓声で沸き立った。
posted at 22:39:52

スクリーンに大写しになった巨人はナンバー4ランカーのリキシ・スモトリ、ダイポンギである。その身長は10フィートはあろうか?筋肉と脂肪で膨れ上がった巨大な身体、そして鉄仮面が写ると、人々が狂ったように叫び出した。「ダイポンギ!」「今日こそヤッチマエー!」
posted at 22:46:04

黒光りする肉体は、鉄仮面とマワシを除けば一糸まとわぬ裸体である。胸板の「スゴイ」というタトゥーが禍々しい。これほどの巨体を作り上げるために、どれほどのチャンコ072をドープしてきたのであろうか?鉄仮面の呼吸孔から真っ白い蒸気が噴き出す。ダイポンギが睨みつける花道にライトが点る。
posted at 22:51:29

「チャブ」の店内が水を打ったように静まり返った。花道をドヒョウ・リングへ向かってゆっくりと歩いてくる人影。その背格好は常人の身長の範囲だ。6フィートといったところである。しかし、マワシひとつの肉体から滲み出す燃え上がる鋼のような質量感はスクリーン越しにも伝わってくる。
posted at 23:02:20

「畜生、あんなカラダで勝ちまくりやがって」誰かが憎々しげに毒づいた。そう、このスモトリらしからぬ男こそがナンバー1ランカー、すなわちヨコヅナ。目下102連勝中のおそるべき男「ゴッドハンド」であった。
posted at 18:14:03

ドヒョウ・リングの真上へ、鎖で吊られた鉄の棍棒が降りてくる。今回の試合のアチーブメント・ウェポンだ。試合中にあの武器を手にすれば、大きく有利を得ることができる。「両者、準備して!」ジャッジの音声が会場に響き渡る。
posted at 18:19:08

ダイポンギは前傾姿勢をとった。試合開始と同時に、その巨体によるタックルをぶつけるつもりなのだ。呼吸孔から蒸気が吹き上がり、肩の筋肉がわなないた。そのさまはまさに鋼鉄の機関車である。
posted at 18:20:51

「ハジメテ!」ジャッジが叫んだ。ダイポンギがゴッドハンドにタックルをしかけた。並の人間が受ければ全身が粉砕骨折して即死に至ることは明白な攻撃だ。しかし、おお、なんということか。ゴッドハンドは前に突き出した両手で、ダイポンギの巨体を真っ向から受け止めて見せた。
posted at 16:53:07

「ああっ…」スクリーンを見守る観衆からため息が漏れる。スモトリ最大巨体を持つダイポンギの突進ですら動かせないゴッドハンドは、まさに規格外の存在であった。ゴッドハンドの背中の筋肉が盛り上がり、少しずつダイポンギの圧迫を押し戻し始めた。
posted at 18:52:17

決着がついたのは、ゴッドハンドが押し戻したと見えた、そのわずか一秒後であった。ダイポンギの体が空中でキリモミ回転をしながら真上に吹き飛んだ。そして空中のアチーブメント・ウェポンを支える鎖とケージに叩きつけられ、ずたずたに裂けた巨体は無残な肉塊となりはてた。
posted at 18:57:23

「キマリテ、上手投げ。勝者ゴッドハンド」ジャッジの声が、静まり返った会場、そしてスクリーンを見守る「チャブ」の人々の間に響き渡った。
posted at 18:59:51

スクリーンが中継からコマーシャルに切り替わった。「かっこいい服は今にもまとまりやすい。」バイオ洗剤の寸劇コマーシャルの明るい音楽が流れるが、人々はオツヤ・リチュアルのように静まり返っていた。103連勝、ゴッドハンド。相撲の破壊者。誰も彼に勝てはしない。棄権せねば、死あるのみ……。
posted at 19:07:54

「あれじゃ、誰も相撲を見なくなっちまう。そう思わないか?お客さん」いつのまにか奥から出て来ていたスキンヘッドのバーテンダーが、トレンチコートの男に声をかけた。「あいつは強すぎるよ。まるで……」カウンターから身を乗り出す。声をひそめる。「まるでニンジャだ」
posted at 19:11:54

「チャブドメイン・カーネイジ」セクション1終わり。セクション2へ続く。
posted at 20:58:42

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 20:58:52

NJSLYR> チャブドメイン・カーネイジ #2

101016

(チャブドメイン・カーネイジ セクション2)
posted at 19:07:12

「あれじゃ、誰も相撲を見なくなっちまう。そう思わないか?お客さん」いつのまにか奥から出て来ていたスキンヘッドのバーテンダーが、トレンチコートの男に声をかけた。「あいつは強すぎるよ。まるで……」カウンターから身を乗り出す。声をひそめる。「まるでニンジャだ」
posted at 19:08:22

トレンチコートの男が身を固くした。スキンヘッドのバーテンダーは芝居がかった仕草でオジギした。クローム製のオジゾウ・ネックレスがチャリチャリと音を立てた。「ドーモ、ハジメマシテ、ニンジャスレイヤー=サン。ヒロ・マイニチです」
posted at 19:12:06

「な……」トレンチコートの男は、アイサツ返しすら忘れる程の衝撃を受けたようだった。さもありなんである。「なんだと?」「気にすることはない。あんたの偽名はなんだったかね?忘れちまったもんで」マイニチ=サンはにやりと笑った。
posted at 19:15:07

「驚くことはない。種明かしをすると、インターラプター=サンから伝書鳩を受け取ったのだ。彼があんたを襲う一時間前にな。あんたに情報をくれてやれと書かれていた。インターラプター=サンは死を覚悟していたのかもしれん」
posted at 19:17:20

トレンチコートの男……ニンジャスレイヤーは、油断ならぬ視線をマイニチ=サンに向けた。「では、おれの目的もわかっているな」「勿論。安心するがいい、情報代はツケにしておいてやるさ、あんたの噂はおれのネットワークを通じてしばしば耳に入ってるからね、凄腕だってね……」
posted at 19:20:53

「では、おれが今までどんな殺し方をしてきたか、知っているな。もったいつけるな。マイニチ=サン」「ぶ、物騒だぜ、お友だち……」マイニチ=サンはぶるぶると震えて見せた。それもまた芝居がかっている。
posted at 19:28:20

マイニチ=サンはベストの内ポケットから、フィルム状の記憶素子を取り出した。「さほど困難なビズ(仕事)じゃなかったぜ。お友達……。ここにユカノ=サンの情報がある」そして、意味ありげに付け加えた。「あんたの望むものは、そこにあるかね……」
posted at 19:40:09

ニンジャスレイヤーはマイニチ=サンの手から素子をひったくった。「どちらにせよ、真偽はすぐに確かめる。偽りならば……」「そこは信頼してくれていいぜ。俺はプロさ、 時間さえあれば、あんたと犬猿の仲のあのソウ…ソウ…ウ…ウ…」
posted at 13:33:44

マイニチ=サンがブルブルと震え出した。「ウウバァーゴボボボ!」泡状のヨダレをゴボゴボと吹き出しながら、マイニチ=サンがいきなり拳銃を取り出しニンジャスレイヤーに向けた。「イヤーッ!」反射的にカウンターの上へジャンプしたニンジャスレイヤーが、マイニチ=サンの側頭部へ回し蹴りを放つ。
posted at 13:47:10

「アバーッ!」マイニチ=サンのスキンヘッドの頭部が横なぎに吹き飛び、くるくると回転しながら宙を飛んだ。丸い頭はホールの片隅にある相撲スロット・マシンのレバーにぶつかり、極太ミンチョ体フォントが図柄となったドラムを回転させた。「お」「相」「撲」。
posted at 13:52:01

「ひゃあ!やったあ!今日は朝からこの席をキープしてたんだぜ!」そのスロットマシンの席に陣取っていた中年男が楽観的な歓声をあげた。スロットマシンからは相撲コインが際限なく溢れ出してくる。「まったく生首サマサマだよ!これで三日分の負けがチャラ……ララー!」おお、見よ!
posted at 13:57:03

その中年男もまた、マイニチ=サンのようにアブクを吹きながら、バネじかけのように席から立ち上がると、ぎこちない手つきで腰のピストルを抜き、ニンジャスレイヤーへ向けた。「イヤーッ!」「アバーッ!」脳天に、ニンジャスレイヤーの投げたスリケンが突き刺さった!
posted at 14:01:49

今度はその相撲スロットの近くのテーブル席に座っていた三人のノミカイ・サラリマンである。それぞれの額にネクタイをしめたほろ酔いのサラリマンが、一斉にその手の吹き矢を構えた。「イヤーッ!」「アバーッ!」「アバーッ!」「アバーッ!」スリケンが、サラリマンの脳天に突き刺さった!
posted at 14:14:58

「非常事態だ!」黒服が胸のIRCトランスミッターへ手を伸ばそうとするが、その手は急に震え出し、かわりに取ったのは拳銃だった。「連絡、くくく、く」「イヤーッ!」「アバーッ!」スリケンが、黒服の脳天に突き刺さった!
posted at 17:18:06

今やホールの客と従業員すべてが、思い思いの武器を手にニンジャスレイヤーに狙いを定めていた。いや、ホールだけではない。上階のバルコニーで悠々とポン酒を飲んでいたカネモチ達も同様であった。機関銃を構えた老婆すらいる!
posted at 17:29:02

集中砲火が始まった。スモトリをかたどった相撲ブランデーのボトルが、グラスが、相撲チョコの壺が、ガシャガシャと音を立て弾け飛ぶ。ニンジャスレイヤーは火線を避け、カウンターの反対側へ身を踊らせた。多勢に無勢!
posted at 17:33:20

「フーム、フム、フム、フーン、フム」ニンジャスレイヤーを包囲する群衆の後方、ふんぞり返ってその地獄図を見守る者があった。薄紫の装束。ニンジャである。「噂通り、一筋縄ではいかぬか、ニンジャスレイヤー=サン。ロートルとはいえ、あのインターラプターを殺っただけのことはあるか」
posted at 17:37:22

その背後に、ステルス装束の別のニンジャのシルエットが滲み出す。「初手はよし、だな。インフェクション=サン」「フム」「入念な準備もダイダロス=サンのハッキング技術あればこそ。奴にフーレイしておくか」「そうよのう、ヴィトリオール=サン。だがおぬしにも存分に働いてもらうぞ」「勿論だ」
posted at 18:12:49

ステルス装束のニンジャ「ヴィトリオール」は静かに頷くと、再び闇の中へ戻って行った。「フーンフム、ホーム。次の一手と行こうか」インフェクションは一人呟いた。作戦名「チャブドメイン・ギャンビット」。
posted at 18:18:42

作戦の取りかかりは情報屋ヒロ=マイニチ。彼の日頃の情報収集は、ソウカイ・シンジケートにツツヌケであった。彼は踏み込み過ぎた。そして虎の尾を踏んだのだ。ソウカイヤの情報ドメインを……もっと言うならば、電脳ニンジャ、ダイダロスが電子情報の海に撒き散らした電脳ブービートラップを。
posted at 22:08:11

ユカノという女の居場所を探るマイニチ=サンの動きは、初めは見過ごされるべき小さな波紋に過ぎなかった。だが、インターラプターの死を手がかりに、やがてその動きはニンジャスレイヤーの存在と結びつけられる事となった。
posted at 22:11:03

事が起こる6時間前に、既にダイダロスはニンジャスレイヤーが相撲バー「チャブ」へ訪れるであろう確定的な情報をつかんでいた。入念なニンジャブリーフィングを経て、この二人のニンジャ、インフェクションとヴィトリオールがチャブに派遣され、手ぐすね引いて待ち受けていたのである。
posted at 22:15:11

インフェクションは左手のひらを上に向けた。おお、なんたる不気味!ニンジャ小手の隙間からインフェクションの手のひらに這い出てきた白い多足虫は、なんであるか!?これこそは彼が体内に飼う「コントロール・パラサイト・ムシ」である!
posted at 22:20:27

賢明なる一部の読者の皆さんは、その多足虫の謎めいた名称から答えを導き出していた事だろう。そう、現在このチャブの客と従業員すべてを支配下におき、操り人形がごとく自由自在に動かしているのは、一人一人の脊髄に潜り込んだこの悪魔的な虫型バイオ神経強制操作システムの働きによるのだった。
posted at 22:26:57

インフェクション自身は非力なニンジャであるが、最大1008匹のパラサイト・ムシを同時に操作する事ができる。これは彼に憑依したニンジャソウルの適性と、リー先生が行った前頭葉バイオ手術の相乗効果だ。コントロールされた生物は精密な動きはできぬが、銃の引き金を引くくらいはやってのける。
posted at 22:38:56

さしものニンジャスレイヤーといえど、この建物にごったがえす全ての群衆が相手となれば思うように反撃も行えまい。インフェクションは注意深くカウンターの陰を注視しながら、次の一手へ向けて脳波コントロールの意識を尖らせた。少しでもその姿を露わにすれば、たちまち蜂の巣にしてやろう。そして…
posted at 18:30:50

「ハッキョホー!」「ハッキョーホー!」野太い声が店内に轟いた。なんたることか!地響きと共にインフェクションのもとへ駆け寄ってきた二人の巨漢は、オシノビでチャブにやってきていた休場中のリキシ・スモトリ、モンタロとコタロではないか!彼らもまたパラサイト・ムシの支配下であった。
posted at 19:05:19

ドヒョウ・リングにない彼らはマワシを締めておらず、かわりに黒いレザーのハーフパンツをはき、上半身は全裸である。頭部にはいかつい鉄仮面を装着しているが、口のあたりの空気孔からだらしないヨダレが滴り落ちている。
posted at 19:10:25

「フーン、フム、ホーム。こやつらを使って隠れ場所を取り上げてやるとしよう、ニンジャスレイヤー=サン。モンタロ=サン!コタロ=サン!さあ、やれ!」インフェクションがこめかみに指を当て、念じると、二体の凶暴なスモトリは獣じみた呻き声で応えた。「突っ込め!」「ノコター!」「ノコータ!」
posted at 19:16:35

二体のスモトリはニンジャスレイヤーが身をひそめるカウンターめがけて同時に突進を開始した。まさにそれはブレーキの壊れた暴走機関車である!動線上にいた数人の客が跳ね飛ばされ、あるいは踏み潰される。しかし悲鳴を上げるものはいない!
posted at 19:27:05

モンタロとコタロがカウンターに殺到する。滅茶苦茶な破壊音と震動、土煙。頑丈なオーク材がひしゃげ、飛び散り、相撲チョコと共に四散する。土煙の中、ニンジャスレイヤーは果たしてどうなったのか……!?
posted at 19:30:18

(「チャブドメイン・カーネイジ#2、おわり。#3へ続く。このエピソードは#3で完結予定)
posted at 19:31:37

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 19:32:13

NJSLYR> チャブドメイン・カーネイジ #3

101023

(チャブドメイン・カーネイジ #3)
posted at 18:55:45

モンタロとコタロがカウンターに殺到する。滅茶苦茶な破壊音と震動、土煙。頑丈なオーク材がひしゃげ、飛び散り、相撲チョコと共に四散する。土煙の中、ニンジャスレイヤーは果たしてどうなったのか……!
posted at 18:56:12

「フーン、ホム、残念、残念」インフェクションは腕組みして、晴れつつある土煙の中を見守り、嘆息した。「ま、これで終わるようなら、さそもそもこれまでかように我々を出し抜くような真似などできんからな。想定しておるわ」
posted at 19:03:13

彼がカウンターと相撲チョコの四散する残骸上に認めたもの、それは、右手でモンタロの頭部を、左手でコタロの頭部をがっちりと掴み、頭突きの突進を押しとどめるニンジャスレイヤーの姿であった!
posted at 19:05:52

「忍」「殺」と彫られたメンポ、赤黒いニンジャ装束。ニンジャスレイヤーの背中が筋力の緊張で膨れ上がる。「フンー!」「ノコッタフンムー!」モンタロ、コタロはバッファローのごとき唸りをあげ、ズシリズシリとさらなる前進と圧迫を試みる。しかしニンジャスレイヤーは動かない!
posted at 19:10:11

インフェクションはこめかみに指を当て、命じた。「殺れ!スモトリもろとも、蜂の巣だ」途端に、激烈な銃撃の嵐が再開された。しかし、おお、なんたる事か!
posted at 19:16:40

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはモンタロとコタロの仮面を鷲掴みにし、その巨体を同時に吊り上げた。そしてその巨体を肉の盾として、四方八方からの銃撃を遮った。
posted at 19:18:41

「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」
posted at 19:23:30

銃撃の雨あられを受け、血みどろのモンタロとコタロは水揚げされたハマチよろしく、じたばたと苦しんだ。しかしカウンターの残骸の上に立ってスモトリを吊り上げるニンジャスレイヤーのニンジャ握力はびくともしない。
posted at 19:29:57

二人のスモトリが絶命し、もがくのをやめても銃撃は続いた。やがてこのミート・シールドも役に立たなくなるであろうと思われたその時であった。
posted at 19:48:37

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは、モンタロの巨体を放り投げた。狙いは二階バルコニーの支柱である。巨大な肉塊が叩きつけられると、歴史ある木製の支柱にひび割れが走った。
posted at 19:52:00

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは、コタロの巨体を放り投げた。狙いは二階バルコニーのもう一方の支柱である。巨大な肉塊が叩きつけられると、歴史ある木製の支柱にひび割れが走った。
posted at 19:52:54

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは垂直にジャンプした。銃撃がそれを追うが、ニンジャスレイヤーには届かない。彼は背後の壁を蹴って斜めに跳んだ。モンタロが刻みつけたバルコニーの支柱に、飛び蹴りが突き刺さった。
posted at 19:54:59

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは支柱を蹴り、その勢いで、コタロがダメージを加えた反対側の支柱に弾丸の如き飛び蹴りを加えた。
posted at 19:59:25

ニンジャスレイヤーは六連続でバク転し、銃撃を躱しながら相撲スクリーンの真下まで後退した。バルコニーの支柱が嫌な軋み音とともに、ひび割れを広げながらかしぎ始める。「なに!?これは…」インフェクションが慌てて頭上を見上げた。天井が…バルコニーが、落ちてくる!
posted at 20:02:36

重みに耐えきれなくなった支柱がついに粉砕した。続けて、バルコニーの床がめちゃくちゃに崩れ、銃器を構えた二階のカネモチ客、コタツや相撲チョコもろともに、瓦礫となって一階のホールに降り注いだ。
posted at 20:10:22

「グワーッ!」あえなく崩壊に巻き込まれたインフェクションのか細い悲鳴を、ニンジャスレイヤーのニンジャ聴覚は轟音の中で聞き取っていた。バルコニーが完全に崩落し、彼の眼前には瓦礫と死体が残るばかりだった。かろうじて崩落に巻き込まれなかった人々が我に返り、口々に悲鳴をあげた。
posted at 20:26:23

虫の息のインフェクションは、瓦礫から這い出ようともがいた。彼のニンジャ能力はパラサイト・ムシのコントロールに特化されている。バルコニーを崩された時点で、彼のチェック・メイトだった。震える手が突き出し、周囲の木屑と相撲チョコを押しのけようとする。その手は無慈悲に踏みつけられた。
posted at 20:30:44

「グワーッ!」「ストラテジー・ゲームはおしまいだ、ソウカイヤ」ニンジャスレイヤーはインフェクションの手の甲を踏みにじった。「グワーッ!」「せいぜい這い出すがいい。その後カイシャクしてやる」「グワーッ!」
posted at 20:33:50

インフェクションは祈った。ヴィトリオール=サン、今だ、この時を逃すな。奴がワシをいたぶる今この時だ。お前のリキッド・ソードの出番だ……
posted at 20:36:23

「イヤーッ!」「イヤーッ!」叫び声と叫び声が重なった。ヴィトリオール=サンがおそらくニンジャスレイヤーの背中にアンブッシュを仕掛けたのだ。任せたぞ、ヴィトリオール=サン。インフェクションはその結末を待つ事なく、死の闇に落ちた。
posted at 20:41:07

「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの振り向きざまの回し蹴りを受け、ヴィトリオールは真横に吹き飛んだ。ステルス装束のカモフラージュ機構が衝撃を受けてバチバチと明滅する。アンブッシュに失敗した新手ニンジャは空中でくるくると回転し、着地した。
posted at 20:47:44

「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは両腕から煙を吹き上げ、苦しんだ。ヴィトリオールのカタナ攻撃を躱しつつの回し蹴りを淀みなく行ったニンジャスレイヤーであった。何が起きたのか!?飛沫である。飛沫がニンジャスレイヤーに降りかかったのだ。
posted at 20:52:34

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、ヴィトリオールです」明滅するステルス装束のニンジャの、頑丈な小手を嵌めた右手から無色の液体が溢れ出す。そしてそれが、おお、見よ!それが空中で固体化し、刃を形作ったではないか。
posted at 20:56:35

「ドーモ、ハジメマシテ、ヴィトリオール=サン。ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーはアイサツを返した。腕の火傷傷を意に介さず、ヴィトリオールのもとへ歩を進める。「イヤーッ!」ヴィトリオールが仕掛けた。右手の刃でニンジャスレイヤーの肩口に切りつける。
posted at 20:59:37

ヴィトリオールのリキッド・ソードは回避不能の必殺武器である。彼のニンジャ能力は硫酸の固形化だ。たとえ彼の斬撃を防いだとしても、砕けて飛沫となった硫酸は敵の装甲を融かし、皮膚を焼く。ニンジャスレイヤーはしかし、右腕で刃を弾き返した。なんという事を!
posted at 21:04:33

途端にリキッド・ソードは砕け、液状化した。飛沫が彼のニンジャ装束を焼き焦がす!「バカめ!初撃で学ばぬはニンジャの恥!おしまいだニンジャスレイヤー!」勝ち誇ったヴィトリオールが、新たに生成したリキッド・ソードで赤黒のニンジャ装束を突き刺す!
posted at 21:07:38

「ヤッツケター!……グ、グワーッ!?」ヴィトリオールは、信じられぬ、という目で、己の胸から突き出した血濡れの手を見下ろしていた。ニンジャスレイヤーの手だ。背中だ、背中から貫通したのだ。では彼が突き刺した重みは。リキッド・ソードが捉えた赤黒のニンジャ装束は……
posted at 21:11:44

彼の刃に刺さっているのは、もぬけの殻のニンジャ装束だった。「バ……」「ニンジャ殺すべし」背後に立ち、ヴィトリオールの心臓をえぐり抜いたニンジャスレイヤーが言い放った。上半身は裸であった。タツジン!彼は己のニンジャ器用さを発揮し、一瞬にして装束を脱ぎ捨てていたのだ!「バカナー!」
posted at 21:15:44

ニンジャスレイヤーはヴィトリオールの背中から血濡れの腕を引き抜き、くるりと踵を返した。立ち去る彼の裸の上半身から汗のように赤黒い血液が染み出し、ひとりでに織り上がって、赤黒のニンジャ装束となった。「サヨナラ!」ヴィトリオールは断末魔の悲鳴をあげ、爆発四散した。
posted at 21:18:37

瓦礫の中、ニンジャスレイヤーはゆっくりと歩を進めた。我に返った数えるほどの生き残り客が震えながら見守る中、絶命したインフェクションの頭部を踏み潰すと、そのまま彼は店外へ出て行った。濁った夜の闇の中へと。
posted at 21:22:18

(「チャブドメイン・カーネイジ」終わり)
posted at 21:22:55

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posted at 21:23:32

NJSLYR> スシ・ナイト・アット・ザ・バリケード #1

100908

「スシ・ナイト・アット・ザ・バリケード」
posted at 13:40:47

「ハッピー、マブ、ラッキーアワー。U、つきぬけろ、このネオサイタマを走るクルマ、お前の城、俺2KEWLリリックが今夜11時をお知らせ、ダイヤルを回せ、今すぐマッポー、勝ち抜け、トミクジ・サプライ、実際安い」
posted at 13:48:05

カーラジオが流すノイズ混じりのトミクジ放送をBGMに、重金属雨がフロントガラスを叩くねばついた深夜のハイウェイ、仮眠を終えたカマタイ・タキオはシートで大きくのびをした。
posted at 13:51:19

仮眠をとっても、己の脳に蜘蛛の巣が張ったような不快感は引かない。活力バリキ・ドリンクにも頼れない。これ以上の服用はハート・アタックを誘発するからだ。タキオは諦めたように首を振ると、マイコ・ポルノ雑誌を助手席へ投げ捨て、トラックを発進させた。
posted at 13:58:25

タキオはネオサイタマと中国地方を一日に二往復する過酷な甘栗運送トラッカーである。仮眠を取るか、マイコ・ポルノ雑誌を読んでいるか、マイコ・サービスセンターでマイコとファックする時以外は、常にハイウェイを走行している。
posted at 14:07:31

甘栗運送トラックの仕事は半年続けばいいほうだ。その期間、奴隷以下の過酷な労働に自らをおいて、まとまった賃金を手にして、そのカネを元手に開業するのだ。タキオもそのクチである。何しろカネを使う場所が無い、道路沿いのマイコ・サービスセンター以外には。それとて週に一度行くかどうかである。
posted at 15:21:07

もう一月ほど働けば、タキオはテリヤキ・ラーメンの屋台を開業する事ができるだろう。男なら一国一城のアルジとなれ、か。それが正しいのかどうかも、もはやわからない。流されて生きるだけだ。フロントガラスに張り付く重金属雨のように。
posted at 15:25:00

単調な直線を三十分ほど走行しただろうか。タキオは渋滞に出くわした。Oops。道路脇の電光掲示板に「少し事故です」と点灯している。最近多いな、ついてねえ。タキオは気を紛らわすために茶ガムを噛んだ。
posted at 15:29:26

ーーそれから四十分は待った。渋滞はまったく動かない。おいおい、どうなってる。タキオは舌打ちした。バリキ・ドリンクの空き瓶に茶ガムを吐き捨て、車外に出た。雨は止んでいる。車列を少し歩いて進み、下り坂の前方に目を凝らす。空がオレンジに染まっている。「なんだ、ありゃ?」
posted at 15:37:03

「暴動だとよ!」トラックの窓から男が身を乗り出し、タキオに声をかけた。「迷惑な話だぜ!」「暴動?」「ああ、暴動だ!オムラの都市開発計画で、このへんの町をダムに沈めるんだとよ。それに反対する住人がハイウェイを封鎖した」「マジかよ?」タキオは絶望的な気分になった。
posted at 15:44:46

下手をすればこのまま車中泊だろうか?スーパーバイザーのアサヒ=サンに電話しないといけない。事情が事情だけにペナルティは無いだろうが、アサヒ=サンは自分の朝食のエビに殻が残っていた事ですら嫌味の理由にできる男だった。気が重い。
posted at 15:50:24

「だが、もうちっとでカタがつくらしいぜ?」男が言った。「どうして?」「空の色、あれはな、燃えてるんだとよ。さっき俺も前まで行って聞いてきたんだ。なんでもオムラが鎮圧のために新兵器を投入するとさ」「新兵器ねえ。物騒だな」「物騒、物騒。オムラは恐ろしいからな。ナムアミダブツ!」
posted at 15:56:27

男が言い終えるか終えないかという時、闇夜をジェット機のキイイインという飛行音が切り裂いた。「何だあ?」タキオが天を仰いだ。「来たんじゃねえのか…」トラックの男は最後まで話せなかった。ズシン、グシャ、という質量音と衝撃に、タキオは吹っ飛ばされた。
posted at 16:21:33

タキオは尻餅をつき、目を白黒させながら、「それ」を見た。トラックの車両部分は、降って来た鉄の塊に押し潰され、ぺしゃんこになっていた。男も即死だろう。
posted at 16:23:17

ピピピピ、チチチチという電子音を発しながら、鉄の塊がサーチライトを点灯した。巨大な頭部が高速で回転し、周囲の状況を走査している。「着地点、座標補正、ありがとうございます、ご迷惑おかけします」不快な合成音声が聞こえた。胴体部分から蒸気を吹き上げ、ごつい脚部がボディを持ち上げた。
posted at 16:28:57

無骨な脚部はカンガルーを思わせる逆関節になっている。ひっきりなしに回転する頭部の赤いLEDが残忍そうに光る。背中にはオムラ・インダストリの家紋がレリーフされ、カタカナで「モーターヤブ」と書かれていた。
posted at 16:32:04

「モーターヤブ」は一瞬身を沈め、その脚部で潰れたトラックの車体を蹴り、大きくジャンプした。タキオは呆然と、車を飛び石のように踏み潰しながら下り坂を降りて行く鉄製の悪魔を目で追っていた。タキオが死なずにすんだのは、ほんの数メートルの落下誤差のためだ。震えが止まらない。
posted at 16:37:24

オレンジ色の空に跳ね上がっては降りる影が、他にも二つほど確認された。数分後、前方で激しい銃撃音と阿鼻叫喚の悲鳴が届いて来た。「モーターヤブ」がおっぱじめたのだ。タキオは恐怖すると共に、ああ、これで渋滞も解消されるだろう、と安堵し、そのあと、そんな自分の利己的な感情を少し恥じた。
posted at 16:41:48

ーーーーーー
posted at 16:44:04

「アイエエエエエエ!」カブラ・アキモは、すぐ隣りのサイモト=サンが一瞬にして血煙に変わった事に絶叫した。バリケードを飛び越えてきた殺戮マシーンは全くの無慈悲であった。
posted at 16:52:03

鋼鉄のボディ、カンガルーのような逆関節の脚。右腕にはサスマタを持ち、左腕はガトリング砲になっている。頭部が回転し、サーチライトでレジスタンスの顔をつぎつぎ照らす。
posted at 16:54:49

カブラ=サンは鋼鉄の悪魔に向けてアサルトライフルの引き金を引いた。バチバチと音が鳴り火花が散るが、殺人マシーンはガシャガシャと足踏みしただけだった。頭部が回転し、チチチチと走査が鳴る。「ドーモ、ハジメマシテ、モーターヤブです。今なら投降を受け付けています。オムラは寛大です」
posted at 17:00:20

「本当か!」後ろから一人、身を投げ出すように飛び出した。「やめろ、キンザミ=サン!諦めちゃいかん……」「だって、もう無理だろう?こんな!」キンザミ=サンはよろよろとモーターヤブに近づいた。「投降します!タスケテ!」
posted at 17:03:35

「ポジティブ!」モーターヤブの不快な合成音声が聞こえた。「投降を受け入れました」ガトリング砲がキンザミさんに狙いを定めた。「え……」「投降を受け入れました。ありがとうございます」ガトリング砲が火を吹いた。叫ぶ時間すら与えられず、キンザミ=サンは理不尽も血煙に変えられていた。
posted at 17:08:06

ズシン、ズシンと音が響く。もう2体のモーターヤブがバリケードを飛び越えて着地したのだ。「投降を受け付けています。ドーモ」「アイエエエエエエ!」
posted at 17:11:55

カブラ=サンは己の死を覚悟した。その時!光の尾を引きながら、ロケット弾がモーターヤブの1体に命中、爆発した。ヤマキタ=サンがRPGを構えて膝立ちになっていた。「行け!」ヤマキタ=サンが叫んだ。「カブラ=サン、早く行け!ここは俺がやる、本部に伝えろ、こいつらの事を!」
posted at 17:16:10

ナムサン!カブラ=サンは一目散に駆け出した。他の2体のモーターヤブが左腕のガトリングでヤマキタ=サンを狙う。彼は数秒後には血煙になるだろう。彼の犠牲を無駄にするわけにはいかない。カブラ=サンはバイクに飛び乗り、フルスロットルで逃走する。
posted at 17:22:29

「アイエエエェェェェ…」ヤマキタ=サンの無残な断末魔を背後に微かに聞きながら、カブラ=サンはバイクを走らせた。泣きながら。
posted at 17:26:32

ーーーーーーー
posted at 18:00:50

ハイウェイを降りて林道を下ること数十キロ。ネオサイタマ郊外の廃村「トットリ村」が、地域レジスタンスの拠点である。
posted at 18:07:53

レジスタンスの構成員は100人足らず。オムラ・インダストリという巨大企業からすれば、所詮は象にたかる蟻でしかない。絶望的な戦いであった。しかし彼らは悲壮な決意で銃をとった。
posted at 18:37:13

オムラの計画を受け入れれば、トットリ地域がまるごと水没する事になる。オムラが提示する「保障」とは、すなわち、プロジェクトへの強制収容を意味する。要介護の老人たちはトットリ地域の人口の実に八割を占める。彼らにそれが耐えられるわけがない。レジスタンスの戦いは自分のためではないのだ。
posted at 18:50:04

(老人?知りませんよ、そんな事は)自治会へ条件を提示しに来たオムラの出っ歯・サラリマンは、四角いメガネをクイクイと直しながら高慢に言い放った。(厄介払いができて、あなた方もメリットがあるでしょう?Win・Winの取引です、これは)……自治会は彼をスマキにし、オムラへ送り返した。
posted at 18:56:06

その日から、自治会はレジスタンスとなったのだ。トットリ上空を覆う磁気嵐と密林がこれまでの抵抗運動の大きな助けとなっていた。そして、アンタイ・コーポレーション組織「イッキ・ウチコワシ」の支援。
posted at 19:02:54

イッキ・ウチコワシの首領「バスター・テツオ」は、町内会の重鎮の古い友人であった。打診に応えたテツオ=サンは二人のエージェントをトットリへ送り込み、半月のうちに、自治会メンバーを訓練されたゲリラ戦士に育て上げたのである。
posted at 19:06:03

エージェントの一人はラプチャーという名の背の高い男だった。もう一人はラプチャーにつき従う寡黙な女で、アムニジアと呼ばれていた。カブラ=サンが消耗し切って深夜のアジトに帰還した時も、二人は寝ずに外の様子に目を光らせていた。
posted at 19:14:09

「スミマセン、封鎖が破られた……」カブラ=サンは泣きながら床にへたりこんだ。磁気嵐のため無線類は使えない。伝達は口頭である。「皆、やられてしまった。モーターヤブというとんでもないロボット戦士が出て来た。銃も効かない。サスマタとガトリング砲……もう、おしまいだ……」
posted at 19:20:00

「ついに出たな、モーターヤブ」ラプチャーはニヤリと笑った。「知っているのか」レジスタンスのリーダーは額の汗を拭った。寝巻き姿である。ラプチャーは頷いた。「オムラが開発中のロボ・ニンジャだ。最近ロールアウトしたという情報は掴んでいた」「なんて事だ…」リーダーは頭を抱えた。
posted at 19:24:45

「どうするんだ。奴らはきっとこのままモーターヤブでトットリに襲撃をかけてくるぞ。今までの様にはいくまい」「訓練は裏切らない」アムニジアは冷たく言った。目の下を灰色の布で覆面した彼女の瞳は、ぞっとするほどに無感情だ。ラプチャーはリーダーに言った。「皆を起こせ。ケース4で配備しろ」
posted at 19:34:05

ーーーーーーーー
posted at 19:49:37

「落ち着かねえなあ!」助手席のニンジャが大声をあげた。そう、ニンジャである。カーキ色の装束、メンポ。まぎれもないニンジャだ。異様な肥満体のシルエットであったが、よく見ると、それは身にまとうボムディフェンス・ニンジャ装束によるもので、実際の体格ではないとわかる。
posted at 20:03:19

「それにめんどくせえなあ!」ニンジャはまた大声をあげた。「まあ、そうおっしゃらずに、エクスプロシブ=サン」運転ヤクザが、おっかなびっくりという様子で答える。二人が乗る装甲ジープは林道を走り抜けていく……三体のモーターヤブに囲まれながら。
posted at 20:06:25

三体のモーターヤブはカンガルーのように逆関節の脚で飛び跳ねながら装甲ジープを護送している。跳ねるたびに、ドシンドシンと地面が鳴り、車体が揺れる。「落ち着かねえ!」エクスプロシブが繰り返した。「こんなもん、要らねえだろ?俺一人で十分だろ」「実戦データを取らねばいけないので…」
posted at 20:09:35

運転ヤクザが言った。「それにですね、ソウカイヤのヘルカイト=サン情報で、どうもトットリ側にもニンジャがいるようでして。より万全を期するためにという、本社判断でして」「そのニンジャに俺が不足を取るってえのか!」「い、いえ、万全です!本社です!もちろんあなたは強い!」
posted at 20:18:00

「まったく、イライラするぜ!」エクスプロシブが吐き捨てた。「メチャメチャにしてやるからな……トットリを地図から消してやる」トットリ村の背後には巨大ダムがそびえる。村を強襲し、そのままダムを爆破する作戦であった。だがエクスプロシブはもうすこし色々と楽しむつもりでいた。
posted at 20:23:01

「おい、生きてるか?ヤマキタ=サン」エクスプロシブは後部シートを振り返った。「ムガガガ」猿轡をかまされたレジスタンスの男が呻いた。彼の体はなんと、バクチク・ホルダーでぐるぐる巻きにされていた。なんたる無体!
posted at 20:27:49

「綺麗な花火を打ち上げてやるからな?ん?嬉しいだろ?」「ムガガガ」エクスプロシブはオムラ・インダストリ専属のニンジャである。それゆえ、社の最新テクノロジーの恩恵を授かっていた。「イチコロ」「スットコ」「カチコミ」。純金よりも高額な最新式バクチクは彼の思いのままであった。
posted at 20:31:55

装甲ジープが停止した。「では、よろしくお願いします」運転ヤクザがエクスプロシブに頭を下げた。眼前に広がるのは棚田である。その先に、レンガを固めた防壁があった。防壁を越えればトットリの村である。そしてさらにその後ろに、巨大ダムだ。空は明け方を前に、少しずつ白みはじめていた。
posted at 20:57:51

エクスプロシブはヤマキタ=サンを抱えあげた。「ムガガガ」「故郷に帰らせてやるってんだよ!喜べ!グッハハハハ!グハハハ!」エクスプロシブはヤマキタ=サンを抱えたまま駆け出した。密林を抜け、棚田をひょいひょいと渡り登っていく。その後を、鈍重なモーターヤブが跳びはねながら続く。
posted at 21:01:26

「ようし、はじめようじゃねえか!」レンガ防壁の前までくると、 エクスプロシブは槍投げ選手のように上体をねじり、蓑虫の様にバクチクを巻き付けられたヤマキタ=サンの体を……投げた!すさまじいスピードで宙を飛び、防壁の内側へ投げ込まれるヤマキタ=サン。「3、2、1、」
posted at 21:11:00

エクスプロシブは、ポン、と手を叩いた。「ハイ!」ヤマキタ=サンが爆発した。
posted at 21:13:13

ーーーーーーーー
posted at 21:15:18

ヤマキタ=サンが、爆発四散した。超爆発は明け方の闇を真昼のように照らしあげた。「アイエエエエ!」カブラ=サンは閃光に目をやられ、地面を転がった。「まずいな」ラプチャーがアジトを飛び出した。アムニジアもそれに続く。彼らが会話をして、さほどの時間が開かずの襲撃であった。
posted at 21:27:08

ズシン、ズシン、ズシン、三体のモーターヤブが塀の内側に着地した。アムニジアは手に持った照明弾を投げた。モーターヤブが前進を始めると、家々の陰に待機していたレジスタンスが仕掛けヒモを引っ張った。途端に、土の下に仕掛けてあった霞網が野球場のネットのごとく立ち上がった。
posted at 21:35:06

前進を開始していたモーターヤブの一体は止まりきれず、霞網に飛び込んで、そのまま絡め取られた。家屋の窓々から顔を出したレジスタンス達が、網を破ろうともがきながらガトリングを乱射するモーターヤブにグレネードを投げつけた。立て続けの爆発の直撃を受けては流石のロボ・ニンジャもたまらない。
posted at 21:44:37

装甲がひしゃげ虫の息となったモーターヤブの関節部に羽根飾りのついた矢が飛び来たり、容赦なく突き立った。村の火の見ヤグラで弓を構えるアムニジアの精確無比な狙撃であった。これがトドメとなったか、センコ花火のような火花を散らしたのち、そのモーターヤブは動きを停止した。
posted at 22:07:34

「いいぞ!ガンバレ!気を抜くな!」メガホンで激励の言葉を叫びながら、リーダーが走り回る。だが、モーターヤブは一体でも一軍に匹敵する殺戮マシンである。それが二体も残っているのだ。さらに二度の僥倖は期待できるのだろうか?
posted at 22:12:21

突如、家屋のひとつが砂煙をあげて根元から爆発四散した。中に隠れ、窓からライフルでモーターヤブを銃撃していた数人のレジスタンスが、根こそぎ犠牲となった。悠々とその側を歩くのは肥満したシルエットのニンジャ。エクスプロシブである。
posted at 22:19:28

たちまち他の家屋から銃撃が浴びせられる。しかしニンジャ反射神経の持ち主に通常の銃撃は無効だ。エクスプロシブはブリッジからバク転、そのまま宙を飛び、手近の建物の陰へ隠れてしまった。「ニンジャだ!」「ニンジャだと?」「どうしてニンジャが…」「アイエエ!」さらに一軒、爆発四散した。
posted at 22:23:50

数人のレジスタンスが建物から飛び出し、エクスプロシブを狙う。だが、無残!その横からモーターヤブが機銃掃射を行い、なぎ払った。皆殺しであった。
posted at 22:28:49

ニンジャの登場により、微かに見えていた勝利の二文字は手の届かない高さへ持ち去られたかのようだった。「ラプチャー=サンは?ラプチャー=サンはどこに…」リーダーが空しくさけんだ。そこへ一体、モーターヤブが襲いかかった。弾の切れたガトリング砲を廃棄し、右手のサスマタを振り上げる。
posted at 22:38:00

「アイエエエ!」リーダーはモーターヤブの刺突を横飛びに避け、倒れこんだ。地面から生える仕掛けヒモに気づき、それへ手をのばし、引いた。リーダーの足元近くで落とし穴が口を開く。サスマタでさらなる攻撃を加えんとしていたモーターヤブがその穴へ落ちかかる。しかし、ナムサン!
posted at 22:42:49

モーターヤブはただのマシンではない、ロボ・ニンジャなのだ。よろけながらも、モーターヤブは器用にバランスを取って穴の淵に踏みとどまる。今度の刺突は避けようがない!「イヤーッ!」
posted at 22:45:27

横から飛んで来たニンジャの飛び蹴りがモーターヤブの頭部を直撃した。モーターヤブは体勢を崩し、今度こそ落とし穴に転落した。飛び蹴りの主は青紫の装束を着た長身のニンジャであった。「あ、あんた」リーダーは震えた。「ドーモ、ラプチャーです」「ニンジャだったのか!」
posted at 22:49:51

リーダーを助け起こすラプチャーの足元に、バクチクの束が転がって来た。「イヤーッ!」ラプチャーはリーダーを抱えて跳び、爆発を危ういところで回避した。砂煙の中からエクスプロシブがゆらゆらと歩いて来る。「お前がニンジャか!グッハハハハ!」屋根の上に着地したラプチャーに向かって哄笑した。
posted at 22:54:17

「ドーモ、ハジメマシテ、エクスプロシブです」「ドーモ、エクスプロシブ=サン。ラプチャーです」「ほれ!」エクスプロシブはバクチクをアンダースローで投げつけた。「イヤーッ!」ラプチャーが掌を突き出した。空気が波打った。
posted at 22:58:48

奇怪!空気の波はバクチクを空中に押しとどめた。空中で虚しく爆発するバクチク。「子癪なジュツを。だが無駄だ。なぜというに」エクスプロシブが指を鳴らした。ラプチャーが足場にしていた建物が、爆発四散した!「グワーッ!」
posted at 23:03:17

「注意一秒、怪我一生。もはやこのトットリは俺の庭も同然だ。この意味がわかるな?」地面に投げ倒されてうめくラプチャーとレジスタンス・リーダーのもとへ、悠々とエクスプロシブが歩み寄る。「他人を庇うなど、愚の骨頂!ロクにチカラも見せられず退場する気分はどうだ、ラプチャー=サン?」
posted at 23:09:55

「キエーッ!」斜め後ろからの飛び蹴りがエクスプロシブを襲う。「グワーッ!」エクスプロシブは側頭部に蹴りを受け、よろめいた。カイシャクを阻止したのはアムニジアであった。「もう一人ニンジャだと?……いや、違うな」エクスプロシブはズレた顎の骨を直しながらひとりごちた。
posted at 23:58:58

「女、お前にはニンジャソウルが入っていない。ニンジャの真似事か?」エクスプロシブは冷静にバクチクを手に取った。「キエーッ!」アムニジアがスリケンを投げた。エクスプロシブに当たるはずもない。流麗なブリッジでスリケンを避けると、次の瞬間には彼はアムニジアの目の前に立っていた。
posted at 00:02:43

「設置完了!グハハハ!グッハハハハ!」エクスプロシブは哄笑した。「アイエエ!」アムニジアのたわわな胸元に、首輪の如くバクチク・ベルトが巻き付けられていた。タツジン!一瞬の事である。エクスプロシブは爆風の届かぬ距離へあらかじめ後退した。「花火を見せてもらおう!まとめてオダブツだ!」
posted at 00:13:26

「なるほど、それはなかなか面白そうではあるな」この場にいる誰のものでもない声が答えた。「ナニヤツ!」エクスプロシブは周囲を見回した。聞こえてくるのは、遠くでレジスタンスと銃撃戦を繰り広げているモーターヤブの戦闘音だけである。
posted at 01:58:26

「だが、花火になるのはお前一人で十分だ。エクスプロシブ=サン」声はエクスプロシブの背後で聴こえた。「グワーッ!」エクスプロシブは反射的に前方へ大きくジャンプし、元いた場所を振り返った。そこには新手のニンジャがいた。赤黒いニンジャ装束、「忍」「殺」のメンポ。
posted at 02:02:39

「お…お前は……」エクスプロシブは後ずさった。赤黒のニンジャは片手でバクチクを弄んでいた。女の首筋に設置したはずのバクチクである。「お前は、ニンジャスレイヤー!?」「ハジメマシテ。エクスプロシブ=サン、ラプチャー=サン。そして」そして、女に向かって言った。「ドーモ、ユカノ=サン」
posted at 02:09:15

(「スシ・ナイト・アット・ザ・バリケード」後編へつづく)
posted at 02:11:42

◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 18:51:59

「スシ・ナイト・アット・ザ・バリケード」後編
posted at 18:52:19

(前編のあらすじ:トットリ村の人々はダム計画に反対し、レジスタンスで抵抗。ハイウェイを封鎖した。しかしオムラ・インダストリは容赦のない武力解決に出た。新兵器ロボ・ニンジャ「モーターヤブ」はわずか三体で封鎖線を壊滅させ、その勢いでトットリ村の本部に侵攻した。)
posted at 18:54:55

(果敢に応戦するレジスタンス勢力と、それに力を貸すイッキ・ウチコワシのエージェント、ラプチャーとアムニジア。ゲリラ戦の甲斐あってモーターヤブは各個撃破されるかと思われたが、オムラ専属の残虐ニンジャ、エクスプロシブの参戦によって戦局は絶望的な様相を呈した。)
posted at 18:57:49

(エクスプロシブの最新式バクチクの威力になす術がないラプチャー、アムニジア。しかしそこへ乱入する第三のニンジャがあった。彼こそがニンジャスレイヤーであった。果たして、彼の目的は。ワッショイ!)
posted at 18:59:48

ーーーーーーーーーー
posted at 19:01:01

「お…お前は……」エクスプロシブは後ずさった。赤黒のニンジャは片手でバクチクを弄んでいた。女の首筋に設置したはずのバクチクである。「お前は、ニンジャスレイヤー!?」「ハジメマシテ。エクスプロシブ=サン、ラプチャー=サン。そして」そして、女に向かって言った。「ドーモ、ユカノ=サン」
posted at 19:01:30

ニンジャスレイヤーはアムニジアを見据えた。「ユカノ……?」アムニジアはこめかみを押さえ、苦しげに繰り返した。「ユカノ…その名前は……」「記憶が無いのだな。ユカノ。話は聞いている」「お前は私を知っているのか?」「そうだ」ニンジャスレイヤーは頷いた。「迎えにきたぞ」
posted at 19:04:46

「イヤーッ!」エクスプロシブが叫んだ。両手の指にシコタマ挟み込んだバクチクを、彼らに向けて投げつける。「イヤーッ!」「キエーッ!」ニンジャスレイヤーはラプチャーを、アムニジアはレジスタンスのリーダーを抱え上げ、ジャンプして爆発を回避した。
posted at 19:07:33

モーターヤブが転落した落とし穴を挟み、ニンジャスレイヤー達はエクスプロシブと睨み合った。「さあて、どうするニンジャスレイヤー=サン?」エクスプロシブは余裕ある態度で問いかけた。「ところでお前が抱えるラプチャー=サンには、さっきバクチクを仕掛けておいた」「何!」「3,2,1…」
posted at 19:10:28

「イヤーッ!」息も絶え絶えだったラプチャーが、ニンジャスレイヤーを振りほどいた。「俺はもうダメのようだ。何も話せず残念だ、ニンジャスレイヤー=サン。エクスプロシブを倒してくれ!」「ラプチャー=サン!」アムニジアが叫んだ。
posted at 19:13:40

「サヨナラ!」ラプチャーは誰もいない方向へ高くジャンプした。その瞬間、彼の体は無残に爆発四散した。「グハハハ!グッハハハハ!感傷的な眺めだな!」エクスプロシブが拍手して挑発した。ニンジャスレイヤーはエクスプロシブに向き直った。
posted at 19:19:12

「ユカノ。そのリーダーを連れていけ。他のレジスタンスを助けるのだ」ニンジャスレイヤーがアムニジアに言った。アムニジアは一瞬ためらったが、言われた通りにした。「キエーッ!」リーダーを抱えたアムニジアが飛び離れたのち、ニンジャスレイヤーはカラテの構えをとった。「ニンジャ殺すべし」
posted at 19:22:48

「 さあこい、ニンジャスレイヤー。正々堂々と……」落とし穴から無骨な影が飛び出し、着地した。それは先ほど落とし穴に転落していたモーターヤブである。なんたるしぶとさ!エクスプロシブは邪悪に笑った。「正々堂々と、二対一でお相手しよう!」
posted at 19:27:10

モーターヤブの頭部がスイカを割ったように開き、中から機関銃が展開した。ナムサン!左腕のガトリング砲の他に、こんなところに重火器を隠していたのである。どうする、ニンジャスレイヤー!
posted at 19:28:13

「Wasshoi!」ニンジャスレイヤーはくるくると回転しながら大きく跳躍した。モーターヤブの機関砲の射線がニンジャスレイヤーを追いかける。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはエクスプロシブへ向けてスリケンを投げつけた。バクチクを投げさせないためだ。
posted at 19:34:05

「オノレー!」エクスプロシブはブリッジでスリケンを避ける事にかかりきりとなり、バクチクへの点火ができずにいた。ニンジャスレイヤーはモーターヤブの頭頂部へ着地した。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは機関銃の銃身を掴み、マンリキのような力をこめた!
posted at 19:42:35

発砲直後の銃身はマグマのように熱い。しかしニンジャスレイヤーのニンジャ耐久力はそんなものを蚊ほどにも感じなかった。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは上体を極限まで反らし、機関銃の銃身を、力任せにねじり切った!
posted at 19:44:59

チチチチ、ピピピピ。電子音が悲鳴のように鳴る。「投降を認めます。オムラ・インダストリは皆さんの権利を最大限に」「イヤーッ!」「ピガガー!」ニンジャスレイヤーの掘削機のように鋭く重い直突きがモーターヤブの頭部内部に直撃した。右手で突き、左手。さらに右手。左。右。左。
posted at 19:48:13

「イヤーッ!」「ピガガー!」「イヤーッ!」「ピガガー!」「イヤーッ!」「ピガガー!」「イヤーッ!」「ピガガー!」「イヤーッ!」「ピガガー!」「イヤーッ!」「ピガガー!」「イヤーッ!」「ピガガー!」「イヤーッ!」「ピガガー!」
posted at 19:49:30

突かれるほどに、モーターヤブの鋼の巨体は下へと沈み込んでゆく。やがて関節部からは火花が上がり、ボキボキとフレームが軋む音が聞こえ始めた。「イ、イヤーッ!」エクスプロシブは呆然としている場合では無い事を思い出した。モーターヤブの脚部に飛びかかり、バクチクをセット、点火した。
posted at 19:53:44

「この鉄クズごと花火になりやがれー!」罵りながら、バクチクの設置を終えたエクスプロシブはバク転して飛び離れた。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはモーターヤブを飛び降り、巨体の周囲を回転した。まるでコマに糸を巻きつけるような按配である。エクスプロシブは指先の起爆スイッチを押した。
posted at 19:58:48

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが両腕で何かを大きく振る動作をした。なんと!ニンジャスレイヤーはモーターヤブの全身にドウグ社のザイルを巻き付け、遠心力でその巨体を、ハンマー投げのように振り回している!「バカナー!」エクスプロシブは絶叫した。「起爆、起爆はどうした!」
posted at 20:02:28

エクスプロシブは何度も親指を鳴らすが、モーターヤブが爆発する事はない。「なぜだ!」…読者の皆さんは目撃している。ニンジャスレイヤーは信じがたいスピードでモーターヤブにザイルを巻きつけながら、設置されたばかりのバクチクの信管を、コンマ数秒の速度で残らず外してしまっていたのである!
posted at 20:07:02

「……イイイイヤアーーッ!」極限に遠心力を乗せたモーターヤブ=ハンマーが、エクスプロシブに投げつけられた。「グワーッ!」逃げるすきも無く、直撃を受けたエクスプロシブはモーターヤブごと吹っ飛び、建物と鉄塊に思い切りプレスされた。「グワーッ!」
posted at 20:12:14

エクスプロシブはしかし、鉄クズに挟まれながら、虫の息で生存していた。痩身のエクスプロシブの体を肥満体に見せるほどのボムディフェンスニンジャ装束の厚みは伊達ではなかった。「そんな……こんなバカな事が…まだ何も攻撃できていないのに……」エクスプロシブは毒づきながら逃げようともがいた。
posted at 20:17:56

ニンジャスレイヤーはエクスプロシブのもとへツカツカと歩み寄る。「ロクにチカラも見せられず退場する気分はどうだ、エクスプロシブ=サン?」「盗み聞きしていたのか。卑怯者め!」自身が発したのと同じ言葉で嬲られるというあまりの屈辱に、エクスプロシブは気絶寸前であった。
posted at 20:22:15

「な、何をするニンジャスレイヤー=サン」動けずにいる自身の体へ屈みこんだニンジャスレイヤーに、エクスプロシブは必死で問うた。「決まっている」ニンジャスレイヤーはエクスプロシブの身体中に隠されたバクチクに逐一点火しているのだった。「やめてくれ!もう勝負はついたハズだ。死にたくない」
posted at 20:30:15

「親指で起爆スイッチを押していたようだが、時間が経てば押さずとも起爆するのだろうな?」「やめてくれ!何でも話す!」「あいにく聞きたい事は何も無い」「死にたくない!」ニンジャスレイヤーはエクスプロシブを見つめた。「……慈悲はない。ニンジャ殺すべし」
posted at 20:35:11

ニンジャスレイヤーは立ち上がり、その場を離れた。「サヨナラ!」エクスプロシブが絶叫し、そして、爆発した。極大の爆発の中心にあっては、ボムディフェンスニンジャ装束もひとたまりもない。エクスプロシブは跡形もなく爆発四散した。ニンジャスレイヤーは振り返らなかった。
posted at 20:38:44

ーーーーーーー
posted at 20:39:28

トットリ村の反対側へニンジャスレイヤーが駆けつけた時、すでに最後のモーターヤブは引きずり倒され、生き残ったレジスタンス達は歓喜の只中にあった。動きを停めたモーターヤブの関節という関節に、無数の飾りつきの矢が突き立っていた。ニンジャスレイヤーの姿を認めると、一同に緊張が走った。
posted at 20:43:03

「ニンジャ…」「また別のニンジャだ…」「敵なのか……」「この人は、味方だ!」レジスタンスのリーダーが人々を制して進み出た。「ドーモ、助かりました、オカゲサマでした。これで我々はまだ戦える」「スミマセン、ユカノ…いやアムニジア=サンはどこに?」ニンジャスレイヤーは礼儀正しく聞いた。
posted at 20:52:46

リーダーは火の見ヤグラを指差した。ヤグラで弓を持って警戒するアムニジアをニンジャスレイヤーが見上げると、彼女も視線を返した。しかし言葉は無い。リーダーがニンジャスレイヤーにオリガミ・メールを差し出した。「アムニジア=サンはあそこで警戒を続けるとの事です。貴方にはこれを、と」
posted at 21:03:00

ニンジャスレイヤーはキツネの形に折られたメールを開いた。毛筆でしたためられた手紙を読み、彼は感情を押し殺す。
posted at 21:06:25

「ハイケイ ニンジャスレイヤー=サン。私の名前をユカノと呼んだ貴方ですが、あいにく私には記憶が無いのです。私の帰るべき場所は、私を救い、受け入れてくれた、イッキ・ウチコワシという組織です。ラプチャー=サンとは、将来を誓い合う仲でした。ヒトメボレでした」
posted at 21:10:36

「私はこのトットリで、イッキ・ウチコワシの増援エージェントを待ちます。そして、ラプチャー=サンの喪に服します。スミマセンが、今の私は昔の私とは別人です。貴方が私にできる事は無いのです。重ね重ね、今回は助けていただき、また、ラプチャー=さんのカタキを討っていただき……」
posted at 21:13:42

ニンジャスレイヤーはオリガミ・メールを四角く畳み、懐にしまい込んだ。そして代わりに自分のオリガミを取り出し、素早く携帯毛筆で返事の手紙を書くと、亀の形に折り曲げた。「これをユカノ…アムニジア=サンに」リーダーにメールを手渡すニンジャスレイヤーの声は、虚ろで、痛々しかった。
posted at 21:16:20

リーダーはヤグラで地平線を睨むアムニジアを見上げた。「アムニジア=サン、手紙を受け取った……ヤヤッ!」リーダーはおどろき、声を失った。レジスタンスの人々は皆、驚きにざわついていた。ニンジャスレイヤーの姿は一瞬のうちに消え失せていたのである。
posted at 21:19:12

「太陽だ……」カブラ=サンが東の空を指差した。オレンジ色に滴る朝日が、フジサンの麓から、ゆっくりと昇ってきつつあった。明け方に雲が途切れる事など、一年に何度も無い。これは、吉兆だろうか、凶兆だろうか。疲れ果てたレジスタンスの人々は、言葉を失い、ただ、太陽を見やるのだった。
posted at 21:23:49

「スシ・ナイト・アット・ザ・バリケード」完
posted at 21:24:59

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 21:25:28

(親愛なるニンジャスレイヤー読者の皆さん)げんざい、ほんやくチームの半数がイギリスニンジャセンターへニンジャ研修に出かけております。これは作品のクオリティ維持のために原作者側から求められたプログラムです。げんざい更新が滞っており、たいへんご迷惑をおかけしております。
posted at 17:30:05

しかし、国内スタッフによるどりょくの結果、少なくとも48時間以内には新しいエピソードの更新が開始されるであろうことをここに報告いたします。シャカリキ!
posted at 17:32:09

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 17:10:37

NJSLYR> アット・ザ・トリーズナーズヴィル #1

110118

「アット・ザ・トリーズナーズヴィル」
posted at 17:19:41

ドルドルドドドドドドドゥクククククカカカカカ!チンチンチンチンチンチン!スタカスタサスタタタタタタタタタタ!
posted at 17:22:28

キャバァーン!「アタリ!」スットコブンブンブブンブーン、ジャラララララララ!「アタリ!四十回転、スゴイ級で予告ヤッタ!」「予告ヤッタ!」「予告ヤッタきました!」「ワー!スゴーイ!」
posted at 17:25:02

キャバァーン!「アタリ!」キャバァーン!キャバァーン!「ゴアイサツ!スゴーイ!スゴーイ!スゴーイ!」キャバァーン!
posted at 17:26:41

キャバァーン!……トゥーン!「ダメ!」「アッバー!アバババババーッ!」
posted at 17:29:18

ブッダの彫像めいた姿勢でストイックに右手の射出制御ハンドルを操作していた男が断末魔の叫びとともにのけぞり、血を吐いた。
posted at 17:33:02

銀色の遊戯台はピンボール台を垂直に立てたような形状をしており、その筐体はじつに一列90台ずつが整列している。一台につき一人が肩をすぼめて背もたれのない椅子に腰掛けたさまは、さながら養鶏施設か工場奴隷の様相だ。
posted at 17:42:28

だが、彼らは自由意志に基づいてこの場へ足を運び、手足も満足に伸ばせない空間へ、すすんで収まるのだ。彼らを駆り立てるのは、やるせない欲望、射幸心……このマッポー的な眺めは、「パーラー」と称されるパチンコ・カジノ施設すべてに共通するものなのだ。
posted at 17:50:29

「おい!どかせ!店員=サン!とっととこの負け犬をどかせよ!もうすぐこっちがアタリするんだよ!」くたびれたブルゾンを着た中年男性が迷惑そうに大声を出した。先ほど血を吐いた男が彼に寄りかかっているのだ。男は死んでいる。
posted at 17:54:26

死んだ男は1/10260000の確率で発生するボーナスゲームに挑戦中であった。8時間近くかけて積み上げたポイント倍点が、ムザンにも一瞬にして無駄になってしまった。ショック死である。アタリ中年男性の怒声は店内の極大ボリュームのBGMにかきけされ、店員の耳には容易には届かない。
posted at 18:04:13

客の焦燥感を煽り立てる目的で、BGMは400BPM以上のデステクノかファナティック・トランスを流すものと相場が決まっている。このパーラー「過アタリ経営難可能性」においてもそのメソッドは当然に履行している。
posted at 18:25:12

中年男性は激烈なビートに負けじと大声を張り上げ続けた。他の客はまったく注意を払わず、催眠的な様子でハンドルを黙々と動かしている。店員がやってきたのは五分後の事であった。
posted at 18:35:01

「エート、どうしたんで?」無表情な青年スタッフが、ずれたメガネを直しながら問いかける。「どうしたじゃないよッ!こいつ見ろよ!死んでるでしょ!はやく持ってけ!」中年男性はショック死した男の死体をゆさぶった。「エート、ワカリマシタ」
posted at 18:41:27

青年は淡々と、小型IRC端末から実体キーボードを引き出し、ノーティスを打ち込んだ。「チンタラやってんなよ!迷惑しすぎてアタリできなくなったわ!」中年男性が口から泡を飛ばして青年の襟元をつかんだ。「弁償しろよ!アタリするはずだったんだよ!」
posted at 18:53:06

「エート、デキマセン」青年は無感情に答える。その無機質さが中年男性を一層苛立たせる!「畜生ナメやがって!生活かかってンだよこっちは!遊んでるんじゃないんだよ!」襟首を掴んで、グイグイと揺さぶる。
posted at 19:17:07

そこへ、ノーティスを受けた警備スタッフが小走りにやってきた。「何やってんだこいつは。ハイ!」「アバーッ!」問答無用!スタン・ジュッテを中年男性に押し当てる!中年男性は目と口から煙を吹き出し、床に置かれた死体の上に重なって倒れた!
posted at 19:20:55

「まったく面倒くさいったら。一人一人だぞ」「エート、ハイ」戦場の塹壕めいた爆音の下、青年と警備員は倒れた中年男性の頭と爪先を持ち、運び出す。一連のトラブルは他の客からは一瞥もされる事はない、ナムアミダブツ……!
posted at 19:25:05

キャバァーン!ドルドルドドドドドドドゥクククククカカカカカ!チンチンチンチンチンチン!スタカスタサスタタタタタタタタタタ!………………
posted at 19:26:13

………………ブツン!
posted at 19:26:25

殺人的な音楽が一瞬にして無音になった。同時に、「過アタリ経営難」の広大なフロアが完全な闇に包まれる。「アイエエエ!?」「なんだ?」「アーッ!スーパーリーチが!??アバババババーッ!」
posted at 19:29:26

それまで全くの無反応で筐体に集中していた客たちが、てんでに騒ぎ出す。やがて入り口の方角から強烈なフラッシュライトが照らされた!「アイエエエ!」「なんだ!」「マッポか?ここは合法だぞ!」
posted at 19:36:00

フラッシュライトの逆光に、黒いシルエットが浮かび上がる。そこに立っているのは、ニンジャだ!
posted at 19:38:34

「ドーモ、ファシスト的な搾取構造に疑問を持たず、欺瞞的に用意された泡沫的なトランキライザー的遊戯にうつつを抜かす奴隷的存在の皆さん。私は進歩的革命組織イッキ・ウチコワシの戦闘的エージェント、フリックショットです」
posted at 19:41:11

ニンジャは素早くオジギした。店内の電源が予備電源に切り替わり、薄暗いLEDボンボリが鬼火めいて灯る。客たちは恐怖のあまり、自分のパチンコ筐体の陰に、きっちりと整列するかのように等間隔でうずくまっていた。警備員が手に手に暴徒鎮圧銃を構えて前進する。「強盗め!」
posted at 19:44:36

「只今より、この敗北主義的施設から物資を決断的に接収し、我らの革命的闘争の血肉的再生の礎へ転用する!」フリックショットはメンポ(金属製フェイスガード)に装着された拡声器から大音声で宣告した。「フザケルナー!」鎮圧銃を構えた警備員が突進する!
posted at 20:00:46

「イヤーッ!」フリックショットは両手を前方へ突き出し、親指をパシンと鳴らした。「アバーッ!」「アバーッ!」警備員のうち二人が眉間を割られて即死!仰向けに倒れる!フリックショットの親指から何かが弾丸めいて射出され、警備員の眉間を破壊したのだ。
posted at 20:07:34

「ウワアアーッ!」残る二人の警備員が恐慌に陥り、フリックショットめがけて鎮圧弾を発射した。「イヤーッ!」回転ジャンプで易々と鎮圧ゴム弾を回避したフリックショットは、再び親指をパシンと弾く。「アバーッ!」「アバーッ!」残る二人の警備員も、眉間に穴をあけて即死!
posted at 20:42:55

パチンコ客たちは、うずくまったまま息を殺して震えている。フリックショットはツカツカと店内を歩いてゆく。右手を上げて合図すると、スカーフで顔の下半分を隠したイッキ・ウチコワシ戦闘員が十人近く、慌ただしく突入してくる。「接収せよ!」「接収!」「接収!」「革命!」「闘争!」
posted at 20:48:50

戦闘員の一人がベンダー機械へ駆け寄り、小型のハッキングツールを差し込むと、パチンコ玉が排出口から流れ出した。それをボストンバッグへ貪欲に流し込む。「接収!」「革命!」
posted at 20:53:52

フリックショットは腕組みして直立。新手の警備員に警戒しながら、配下の戦闘員が無駄のない接収作業を終えるのを待つ。五分以内に作業を終え、マッポが到着する前に逃走するのだ。無論、マッポが機敏に現場へ到着したのなら、その場でフリックショットが殺す。
posted at 20:58:34

イッキ・ウチコワシは搾取構造に君臨する企業体、その尖兵たるサラリマン、その構造に疑問を抱かぬ人々に対して、何の罪悪感も持たぬ。このようなゲリラ的略奪行為は、ネオサイタマのどこかで折に触れて行われる、チャメシ・インシデントである……!
posted at 21:03:31

-------
posted at 21:04:30

同時刻!
posted at 21:07:54

トレンチコートとハンチング帽に身を包んだニンジャスレイヤーことフジキド・ケンジは、タタミが敷き詰められた円形のドージョーで、髭面の大男と対峙していた。
posted at 21:18:17

ドージョーの壁に沿って、顔の下半分をスカーフで覆面した者達がぐるりと囲むように正座し、始まらんとする戦いを見守っている。上座に座る者だけが出で立ちを異にしている。ニンジャ装束を着ているのだ。壁には神棚が備え付けられ、額縁には「決断的」というショドーが飾られている。
posted at 21:23:31

髭面の大男はナックルをはめた拳を打ち合わせ、フジキドを威嚇する。上座に座るニンジャが右手を上げて指図した。「……はじめよ!」
posted at 21:25:38

「イヤーッ!」
posted at 21:25:50

(「アット・ザ・トリーズナーズヴィル」#1 終わり。 #2へ続く
posted at 21:27:40

NJSLYR> アット・ザ・トリーズナーズヴィル #2

110124

アット・ザ・トリーズナーズヴィル #2
posted at 11:55:39

(前回あらすじ:パチンコ店を襲撃し物資を強奪する容赦なき戦闘集団。陣頭指揮を取るのはニンジャだった。彼は所属集団を「進歩的革命組織イッキ・ウチコワシ」と名乗る。)
posted at 12:01:39

(同時刻、ニンジャスレイヤーことフジキド・ケンジは、謎の円形ドージョーで謎の組織と対峙していた。目の前には髭面の大男。立会人はニンジャだ!)
posted at 12:11:02

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posted at 12:28:49

髭面の大男はナックルをはめた拳を打ち合わせ、フジキドを威嚇する。上座に座るニンジャが右手を上げて指図した。「……はじめよ!」
posted at 12:36:31

「イヤーッ!」
posted at 12:37:13

「グワーッ!」大男はきりもみ回転しながら吹き飛び、ドージョーの壁、神棚のすぐ下へ激突した。ニンジャスレイヤーは右手を前に突き出し、腰を沈めた姿勢である。ジュー・ジツの踏み込みながらのパンチ、俗に言うポン・パンチだ。
posted at 12:41:14

試合開始一秒にして、大男は失神かつ失禁し、ズルズルと壁を滑り降りてうつ伏せにうずくまった。決着である。
posted at 12:42:50

壁沿いにぐるりと囲む構成員がどよめく。上座のニンジャは立ち上がり、片手をあげて静まらせた。そしてニンジャスレイヤーへオジギした。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。私はアンサラーです。腕前を確かめさせていただいたご無礼を許してほしい。……イッキ・ウチコワシへようこそ」
posted at 12:53:54

「ドーモ」ニンジャスレイヤーはオジギを返した。アンサラーは構成員に向かって宣言する。「諸君。今この時から、ニンジャスレイヤー=サンは我が革命組織のエージェントとなった」「承認!」「革命!」「革命!」口々に、構成員が応答する。
posted at 14:17:03

アンサラーが合図すると、出入り口のショウジ戸を近くの構成員が引き開けた。その奥はそのままエレベーターになっている。アンサラーとニンジャスレイヤーはエレベーターへ乗り込んだ。下降。
posted at 14:18:57

「今の場所はトレーニンググラウンドです。まだ未熟な構成員に戦闘訓練を施す場だ」降下するエレベータ内で、アンサラーは気さくに話しかける。「我々ニンジャは戦闘能力に優れるが、所詮、一人の人間である事に代わりは無い。革命は人民によって為されるのだ。同志に優劣は無い」
posted at 14:32:12

「なるほど」ニンジャスレイヤーは己の意見を差し挟む事はしなかった。アンサラーは頷く。「なに、コメントは求めない。行き過ぎた思想統一はかえって理想を遠ざける。我々が戦うべきは企業体による支配、人間阻害だ。我々が同様の抑圧体となっては無意味だ。我々は歴史から学びつつ前進する組織だ」
posted at 14:54:50

アンサラーのメンポはレッドスティール製で、クワとハンマーの意匠がレリーフされている。「あの場ではエージェントと称したが、君のことは、言わばゲスト的な立場の闘士と理解している。君が窮屈を感じる必要は無い。君の目覚ましい働きはアムニジア=サンから十分に聞いている」
posted at 15:02:08

アムニジア……。ニンジャスレイヤーの目が細まる。 「アムニジア=サンは今どこに?」「方々を転々としているよ」アンサラーは快活に答えた。「彼女は素晴らしい闘士だ」「あのときの、ラプチャー=サンだったか……残念な事だったな」
posted at 15:09:38

アンサラーは頷いた。「我々は常に覚悟を決めて闘争に臨んでいる。ラプチャー=サンも憐れみは望むまいとも」「そうか」エレベーターは下降を停止した。地下三階。合成オコト音が鳴り、ショウジ戸が開く。
posted at 15:18:50

廊下を案内するアンサラーの背中を見ながら、フジキドは己の内なるニンジャソウルが身じろぎするのを覚える。ドラゴン=センセイの命がけの封印インストラクションをもってしても、この疼き……。ニンジャ殲滅を欲望する魂は滅びておらず、眠ってもいないのだ。
posted at 15:42:45

ニンジャスレイヤー=フジキドがイッキ・ウチコワシの門を叩いたのは、ドラゴン=センセイの忘れ形見であるユカノが理由だった。ダークニンジャの襲撃で離れ離れとなったユカノは、いかにしてかその記憶を失い、イッキ・ウチコワシの戦闘エージェントとなっていたのだ。
posted at 15:48:17

その名を、アムニジア。ニンジャスレイヤーは彼女の所在をつかみ、トットリ村のレジスタンス戦闘に関与。オムラのニンジャ、エクスプロシブを惨たらしく爆殺した。しかしアムニジアはフジキドを拒否したのであった。記憶を失う以前の自分は、永遠に失われた別の人間に過ぎないと……
posted at 15:55:13

フジキドは考える。彼にはセンセイに託された重い使命がある。「ユカノを頼む」と死に際のセンセイは言ったのだ。いまのユカノが所属するこのイッキ・ウチコワシがいかなる組織なのか、彼自身の目で見届けねばならぬ。
posted at 16:04:54

「この向こうが中央会議室だ」アンサラーが通路右のカーボンフスマを示す。「重要な議題については皆で意見を出し合い、決める。そこに身分の貴賤は無い」「首領のバスター・テツオはどんな男なのだ?」ニンジャスレイヤーは同うた。アンサラーは足を止めた。
posted at 17:23:17

「……偉大な男だよ」アンサラーは歩き出す。「ニンジャなのか?」「いずれわかるだろう」
posted at 17:25:06

二人がたどり着いたのは作戦会議室だった。「武装」「闘争」とミンチョ書きされたカーボンフスマを開けると、壁に大きくネオサイタマ地形図が張り出され、質素なチャブと掘りゴタツが幾つか置かれたエマージェンシー的な部屋である。
posted at 17:45:16

室内には三人の構成員がおり、三人とも、朱塗りされたUNIXパソコンのキーボードをスゴイ級の速度でタイピングし続けていた。アンサラーとフジキドが入室すると、三人は素早く会釈をした。「展開!」「進歩!」「成長!」
posted at 17:47:06

「ここで、日々の対企業体闘争に関しての情報収集と戦術の組み立てを行う。このような会議室は全部で四室あり、同時に作戦展開が可能だ。コブチャ精製装置も据え付けてある。コブチャは対ストレス効果があるからな」「テロ計画か」アンサラーの視線が険しくなる。「テロという呼び方は正確ではないな」
posted at 17:55:41

「そうか」「うむ。テロルはかなり注意深く扱うべき言葉だ。非難のニュアンスが含まれる。イッキ・ウチコワシは戦闘組織ではあるが、それはやむにやまれぬもので、進歩的闘争、言わば必要悪的暴力だ。闘争を忌避すれば唾棄すべき敗北主義が待つばかり。君にもわかるだろう?ニンジャスレイヤー=サン」
posted at 18:01:36

「……そうだな」しばし沈黙した後、フジキドは同意した。彼自身の手もまた、血塗られた暴力の記録そのものだ……。「君のこれまでの闘争行為は実にめざましく、驚くべきものだ」アンサラーが言う「ヨロシサンのバイオプラント破壊は我々の計画下にもあったが、あれほど電撃的に実現させてしまうとは」
posted at 18:18:48

アンサラーの口調が熱を帯びる。「君一人の力が加わるだけで、我が組織の進歩性は二倍にもなるのではなかろうか?一方で我々は、これまでの君の無計画な破壊行為……失礼……に、明確で進歩的な意味を、目的を、付与する事ができるように思う。お互いにとって、こんな素晴らしい事は無いはずだ」
posted at 18:28:34

「……」実際そうかも知れぬ、とフジキドは思った。妻子を殺された憎しみを、ニンジャスレイヤーとなったフジキドは、ソウカイヤのニンジャに対して容赦なくぶつけ続けてきた。ニンジャを痛めつけ、殺す。例外は無い。カタキだからだ。だが、それはいつ終わる?その先に何がある?
posted at 19:01:28

「そうかも知れぬ」「そうかも知れぬ?実際そうなのだ、ニンジャスレイヤー=サン。共に闘おう。ラオモト=カンを排除する日も、闘争の中で、じきに訪れる」タイピングし続けていた構成員の一人がノーティスを受信した。「受信!同志フリックショット=サンが帰還!」「確認!」「革命!」「進歩!」
posted at 19:22:20

アンサラーはフジキドをじっと見る。「……そして、抜き身のカタナのような闘争的存在である君に今、うってつけの革命的任務が用意されている。どうか力を貸してほしい」カーボンフスマが開き、銀色のニンジャが入室してきた。「ドーモ、アンサラー=サン。そちらは?」
posted at 19:34:42

「こちらはニンジャスレイヤー=サンだ、フリックショット=サン」アンサラーが紹介した。フリックショットが身構える。「なんと……?あのニンジャスレイヤー?なんたる革命!信じられぬ!」
posted at 20:15:30

フリックショットは興奮してフジキドに顔を近づけた。「これで我々の革命的努力の邁進速度は爆発的なまでに進歩するぞ!ドーゾヨロシク!」そこへアンサラーが快活に口を挟んだ。「そんな君たち二人を中心とした任務がある!ここで早速ブリーフィングに入るとしよう」
posted at 21:03:48

(アット・ザ・トリーズナーズヴィル#2、終わり。#3に続く
posted at 21:11:16

RT @nicolai_twi: [pixivタグ検索] ニンジャスレイヤー タグ検索 0件 #njslyr
posted at 23:45:53

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 22:41:06

NJSLYR> アット・ザ・トリーズナーズヴィル #3

110129

「アット・ザ・トリーズナーズヴィル#3」
posted at 17:55:44

ネオサイタマ南西郊外、「タンボ平原」時刻0900。
posted at 18:00:11

粘りつくような曇天下、広大な穀倉地帯が青々と稲穂を茂らせる。数キロごとに設置された電子分解サイロや変電施設の他に、視界を遮る建造物は存在しない。
posted at 18:07:58

このタンボ平原で収穫される穀物で、ネオサイタマのおよそ85パーセントの炭水化物が賄われる。上空から俯瞰すれば、この地で栽培される二種類の作物が、青と緑のチェスボードめいた模様を形作っている事に気づくはずだ。すなわち、バイオ米と、バイオネギである。
posted at 18:11:53

バイオ米「トマコマチ」とバイオネギ「万能」は、どちらも重金属を含有した酸性雨に耐え、かえってそれを栄養として強く育つよう繰り返し遺伝子操作された品種である。春と秋の二回、米とネギを交互に植え替える二期二毛作プランテーションの徹底が、ネオサイタマへの安定した食料供給の要なのだ。
posted at 18:18:31

コメ畑の稲穂のあちらこちらから禍々しい戦闘的シルエットを垣間見せるのはオムラの自律走行カカシだ。バイオスズメやバイオイナゴが作物を食い荒らしにかかれば、すぐさまロケットランチャーと電磁カスミ網、熱蒸気散布装置で徹底的に撃退するという寸法である。
posted at 18:25:33

高度に管理された人工的自然風景を貫くように、一直線に敷かれた鉄道レールを走行する車両がある。二両編成の輸送新幹線「ギャラクシー号」である。
posted at 22:08:06

空気を切り裂き、鳴き声めいた音を放ちながら走行する輸送新幹線がわずか二両であるのは、輸送物資の特殊性を暗に物語っている。そしてそれが、戦闘革命組織「イッキ・ウチコワシ」の注意を引く事となったのだ……。
posted at 22:12:23

輸送新幹線の進行方向、数キロ先を確認されたい。線路上に横たわるズダ袋状のそれを。穀物?イタズラ?無論、ちがう。拘束され、バイオゴザでノリマキめいたスマキにされた人間だ。
posted at 22:15:50

高速で走行する輸送新幹線は数秒で、スマキ拘束された人間に達した。この人間は、いったいいかなる経緯で、かように不本意な最期を遂げる事になったのか。その頭部には袋が被せられ、絶望の表情を知る事もできぬ……ナムアミダブツ!鉄の塊が無慈悲に轢殺!
posted at 22:34:40

スマキは圧倒的質量に押し潰されて一瞬にして血煙となり、輸送新幹線は異常を察知、急停止した。すると、どうだ!新幹線周囲のコメ畑の稲穂のあわいから、一つ、また一つとノボリ旗が立ち上がってゆくではないか!
posted at 22:35:45

ノボリ旗にはアバンギャルド書体で様々な革命的な文言がプリントされている。「イッキ・ウチコワシ」「総括」「前進し進歩することは我々の努力です」「暴力は基本的に辞さない」……なんたる意志の強さを感じさせる表現!
posted at 22:43:11

ノボリ旗のたもと、スカーフで鼻から下を覆った複数の戦闘ゲリラが立ち上がり、手に手にクサリガマめいた武器を頭上で振り回し始めた。叫ばれるスローガン。「革命!」「決断!」「行使!」
posted at 22:51:29

クサリガマめいた武器の先端はカギ爪状になっている。「投擲!」「投擲!」「投擲!」ゲリラ戦闘員は輸送新幹線に向かってクサリガマめいた武器を打ち振る。窓の強化ガラスを打ち破り、カギ爪がガッチリと車体をつなぎとめた。ガリバー旅行記めいた拘束の光景である。
posted at 22:56:20

銀色のニンジャが稲穂の間から姿を現し、 線路上に仁王立ちとなった。フリックショットである。「第二陣、行使せよ!」さらに多数のゲリラが輸送新幹線に走り寄り、割れた窓から車内に飛び込んで行く!「突撃!」「革命!」「暴力!」
posted at 22:59:47

車内から聴こえて来る喧騒、スローガン、乗員の悲鳴!「行使!」「アイエエエ!」「革命!」「アイエエエ!」「進歩!」「アイエエエ!」大人達の叫びに混じって、児童の悲鳴が聴こえて来る。「アイエエエ!」「アイエエエ!」「ママー!」「拘束!」「行使!」「ママー!」「アイエエエ!」
posted at 23:03:31

ナムアミダブツ!いったいいかなる地獄的闘争が車内で繰り広げられているのだろうか!そしてニンジャスレイヤーはどこに?……新幹線にほど近い稲穂の陰に、彼はいまだ身をひそめ、その光景を注視しているのだった。
posted at 23:06:19

……その時である。唐突に車内の喧騒が静まり返った。そしてその二秒後!「イヤーッ!」「アバーッ!」割れ窓から、くの字に体を曲げたゲリラが外へ蹴り出された!
posted at 23:10:23

「イヤーッ!」「アバーッ!」さらに一人!「イヤーッ!」「アバーッ!」さらに一人!「イヤーッ!」「アバーッ!」さらに一人!次々にゲリラ達が車外へ蹴り出される。どのゲリラも口から大量に吐血、その打撃が致命傷であることを物語っていた。
posted at 23:13:15

フリックショットが目を細めた。「……出たな」「イヤーッ!」輸送新幹線の天井が爆ぜ割れ、何者かが垂直ジャンプで飛び出す。くるくると回転し運転席の上へ着地したのはダークオレンジ色のニンジャである!
posted at 23:16:22

「ドーモ、取るに足らぬ野盗の皆さん。プロミネンスです」ダークオレンジ色のニンジャは新幹線上でオジギした。そして新幹線を取り囲むノボリ旗を見渡し、吐き捨てる。「イッキ ・ウチコワシ?……くだらんアナキストどもがコソ泥行為か。笑わせる!」
posted at 23:22:59

「ドーモ、プロミネンス=サン。私は進歩的革命組織イッキ・ウチコワシの戦闘的エージェント、フリックショットです」フリックショットが線路上でオジギした。「この敗北主義的な輸送新幹線は抑圧組織の退廃的資金源であり、同時に、忌むべきブルジョワ的退廃行為の活動機関である!」
posted at 23:56:27

「我々は電撃的情報作戦の成果として、この退廃的輸送機関が悪しきソウカイヤ組織によって意のままに操られていることを確認している。政治腐敗的賄賂、そして退廃的麻薬物質!プロミネンス=サン、お前は公共的防衛人員の擬態をしたシックス・ゲイツ構成員に過ぎない!粛清対象である!」
posted at 00:15:38

「カッハハハハ!」プロミネンスが笑った。「できるモノならやってみるがいい!フリックショット=サン、オヌシのくだらん悪名は確かにシンジケートにまで轟いておるわ。パチンコ・パーラーを乞食めいて渡り歩く情けない出来損ないのニンジャ・アナキストとな!」
posted at 00:30:16

「イヤーッ!」フリックショットが両手を前に突き出し、親指を弾いた。「イヤーッ!」見えないほどの速さでプロミネンスの腕が閃く。その指が掴み取ったのはパチンコ球である。「これがオヌシの飛び道具の正体だ!」
posted at 01:54:21

【NINJASLAYER】
posted at 09:14:31

プロミネンスが指先に力を込めると、金属製の小さな球体は炎に包まれ、一瞬にして、熱された黒い燃えカスとなった。「ウヌ……」フリックショットが呻いた。「同志フリックショット=サン!弾き出された同志たちは全員死亡!体内が焼け焦げています!」負傷者を介抱していた構成員が叫んで報告した。
posted at 09:22:07

「カッハハハ!俺の特殊カトン=ジツとオヌシの玉遊び、どちらがニンジャの武器かを決める戦いだ!」プロミネンスは勝ち誇った。フリックショットはしかし、取り乱しはしなかった。「同意しない」「何?」「進歩的革命とは、科学的方法論のもと、常に100%の成功率のもとで行動するのだ!」
posted at 09:26:38

「オヌシのくだらんアナキスト言語にはウンザリだ!」プロミネンスは両手を胸の前で交差した。いかなるジツか、その拳が赤熱する。と、その時!「イヤーッ!」斜め下から真っ直ぐに飛んできた影がプロミネンスをアンブッシュした!「グワーッ!?」
posted at 09:29:23

無論その影はニンジャスレイヤーだ!飛び蹴りがプロミネンスの首筋を直撃、そのままギロチンめいた足絡めでコメ畑へもろともに落下、叩き伏せる!
posted at 09:35:51

「イヤーッ!」プロミネンスはマウント・ポジションへの移行を妨げ、スプリングキックでニンジャスレイヤーを弾き飛ばす。ニンジャスレイヤーは回転しながら後方へ着地。そのまま稲穂の中で滑らかにオジギした。「ドーモ、プロミネンス=サン。ニンジャスレイヤーです」
posted at 09:37:42

「ニンジャスレイヤー?」一瞬アイサツを忘れ、プロミネンスはオウム返しにした。「ドーモ、はじめましてニンジャスレイヤー=サン、プロミネンスです。……シンジケートに仇なすテロリストがコミュニストの犬になりさがったのか?なんと馬鹿馬鹿しい話だ!」
posted at 09:42:23

「知る必要は無い。オヌシの生首をラオモト=サンの社長室へ送りつけるだけだ」ニンジャスレイヤーはピシャリと言い放つ。「やってみるがいい!イヤーッ!」プロミネンスが襲いかかる!
posted at 09:47:45

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの電撃的なサイドキックがプロミネンスを迎撃する。ハヤイ!「グワーッ!」予想外の反応速度で反撃されたプロミネンスはみぞおちに強烈な蹴りを喰らい、嘔吐しながら回転して吹き飛んだ!
posted at 10:17:52

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは弧を描くように側転しながら跳躍した。遠心力を乗せたジャンピング・ストンプが、這いつくばったプロミネンスの脇腹を地面に縫いつける!「グワーッ!」さらに、踏みつけた踵を力をこめて「イイイ……ヤアーッ!」ねじり込む!「グワーッ!」
posted at 10:21:21

ゴウランガ!これがニンジャのイクサである。いかに特殊なジツや特殊なニンジャ体質を誇っていようと、研ぎ澄ませた強靭なカラテの鍛錬無くば、それは飾りに過ぎないのだ。「ノー・カラテ、ノー・ニンジャ」。いみじくもドラゴン・ゲンドーソーが生前、マキモノにしたためた金言である……!
posted at 10:31:26

「グワ……こんなバカな事が……」「観念してハイクを読むがいい」内臓をすりつぶすかのような執拗な踵のねじり込みを無慈悲に行いながら、ニンジャスレイヤーは宣告する。その背後、あらためて新幹線へ押し入ったウチコワシ構成員たちは、続々とその「戦利品」を車外へ運び出してゆく。
posted at 11:37:02

虫の息のプロミネンスを踏みつけながら、ニンジャスレイヤーはその様子を横目で見守る。イッキ・ウチコワシ構成員たちは「円」と書かれた黒い巨大キンチャク袋、金塊、「大トロ」と書かれたタッパーなどを手際良くフリックショットのもとへ運んでゆく。
posted at 15:51:27

まさにそれは、この組織の名前の由来たる、古事記に書かれた最古の農民反逆「イッキ」、江戸時代の武力革命「ウチコワシ」を描いたウキヨエめいた光景であった。
posted at 15:59:47

「やはりな!どれもブルジョワ的な堕落物資!」フリックショットが厳しく言い捨てる。「ニンジャスレイヤー=サン、これが企業体の常套手段だ。プロレタリアートの奴隷的行使を容認する規制緩和策を推し進める為の賄賂や合併工作!これらの堕落物資は今この時もネオサイタマを縦横に飛び交うのだ!」
posted at 15:59:54

フリックショットは握った拳をわなわなと震わせる。「そしてソウカイヤこそ、ネオサイタマを私する搾取の尖兵……!ニンジャスレイヤー=サン、その反動分子を今すぐ殺せ!殺すのだ!」
posted at 16:17:04

物資を運び出し終えたウチコワシ構成員は、今度は乗客を外へ降ろし、一列に整列させた。「強制!」「展開!」「行使!」運転者、車掌、添乗員、そして……彼らを見たニンジャスレイヤーの目が細まる。「子供?」
posted at 16:18:17

「ママー!」「コワイー!」口々に泣き叫ぶのは幼稚園高学年の幼児たちである。子供らの、金糸の刺繍が競い合うようにふんだんに使われた幼児キモノは、その親の経済的地位を容易に推測させるものであった。
posted at 16:44:44

保育士と思われる男女数名が気遣わしげに子供たちを見やるが、ウチコワシ構成員はそのたび、手にしたサスマタで無慈悲に前を向かせてしまう。「強制!」「行使!」「排除!」
posted at 16:45:08

「ブルジョワ階級の子供らだ」フリックショットは嫌悪もあらわに説明する。「見よ、なんたる退廃的服飾!あのキモノの糸の一本一本が、プロレタリアートの不当搾取の精髄だ!こいつらは輸送新幹線のいわば偽装的用途として、ブルジョワ的な別荘地への集団旅行からの帰途であったのだ!」
posted at 16:53:17

「強制!」保育士らしき人間の一番の年配者の男性が、サスマタで押しやられ、一歩前へ出た。「どこの退廃的幼稚園だ、貴様らは!」フリックショットは問うた。「ア、アイエエエ……ヤマノテノ幼稚園です」男性は震えながら返答した。フリックショットは舌打ちした。「カネモチ・ディストリクト」
posted at 16:59:50

フリックショットは腕組みしながら、ゆっくりと年配保育士の周囲を歩き回る。「……貴様は退廃的幼稚園の管理的職員だな?園長か?名前を言え」祈るように目を閉じ、年配保育士が答える。「タイスケ・ダイタ……ふ……副園長です……」フリックショットはツバを地面に吐き捨てた。「体制的存在!」
posted at 17:23:54

「どうか子供達は…私はどうなっても構いません!」「ふ、副園長!」保育士達が駆け寄ろうとするが、すぐにサスマタで阻まれる。「強制!」「行使!」「資本主義の豚が人間の感情の真似事か?欺瞞!不愉快だ!」フリックショットは親指を副園長の額に向けた。「総括!イヤーッ!」「アイエエエ!」
posted at 17:41:43

「イヤーッ!」「グワーッ!?」
posted at 17:49:20

誰もがその瞬間的交錯を、息を呑み見守った……当の副園長すらも、人ごとの様に、その瞬間に起こった事を傍観者めいて眺めていた。
posted at 17:51:54

フリックショットは横ざまにスピンしながら吹き飛んでいた。ニンジャスレイヤーは飛び蹴りを叩き込んだ反動力で宙返りし、片膝をついて着地した。一瞬後にフリックショットが地面に頭から突っ込み、うつ伏せに倒れた。
posted at 17:58:06

「何を!?」素早く起き上がり、フリックショットは困惑しつつも攻撃姿勢を取った。こめかみに強烈な蹴りを受けた為、その右眼からは痛々しく出血している。「狂ったかニンジャスレイヤー=サン!?」
posted at 18:14:54

その場の人間が固唾を飲んで見守る中、ニンジャスレイヤーはゆっくりとジュー・ジツの構えを取る。「イッキ・ウチコワシ。その本質のほど、存分にわかった」厚い雲の切れ目から細い光が差し、メンポに彫られた「忍」「殺」の文字を照らす。「ニンジャ……殺すべし!」
posted at 18:27:11

(「アット・ザ・トリーズナーズヴィル」#3、終わり。#4に続く
posted at 18:28:58

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 23:58:28

NJSLYR> アット・ザ・トリーズナーズヴィル #4

110203

アット・ザ・トリーズナーズヴィル #4
posted at 17:46:50

(これまでのあらすじ:記憶を失ったユカノが所属する謎のアンタイセイ組織「イッキ・ウチコワシ」。ユカノを案ずるニンジャスレイヤー=フジキドは、この組織の是非を確かめるべく、単身で内部への潜入を試みた。)
posted at 17:49:21

(ニンジャスレイヤーの非凡な戦闘能力を高く評価するイッキ・ウチコワシの重鎮ニンジャ、アンサラーは、ソウカイヤを共通の敵とするニンジャスレイヤーを、ほぼ二つ返事で受け入れる。)
posted at 17:51:48

(ニンジャスレイヤーの相棒となったのはフリックショットという急進的ニンジャ。彼らは幼稚園の遠足に偽装されたソウカイヤ物資の輸送を突き止め、タンボ平原を走り抜ける新幹線に襲撃をかける。)
posted at 17:55:21

(襲撃は成功、輸送の護衛にあたっていたソウカイ・ニンジャのプロミネンスはニンジャスレイヤーに敗れ、致命傷を負う。フリックショットは反体制的な容赦なき無慈悲のもと、幼稚園教諭と幼稚園児をブルジョワと断じ、危害を加えにかかる。虐殺が始まろうとしたその時、ニンジャスレイヤーが動いた。)
posted at 17:58:37

フリックショットは横ざまにスピンしながら吹き飛んでいた。ニンジャスレイヤーは飛び蹴りを叩き込んだ反動力で宙返りし、片膝をついて着地した。一瞬後にフリックショットが地面に頭から突っ込み、うつ伏せに倒れた。
posted at 18:17:39

「何を!?」素早く起き上がり、フリックショットは困惑しつつも攻撃姿勢を取った。こめかみに強烈な蹴りを受けた為、その右眼からは痛々しく出血している。「狂ったかニンジャスレイヤー=サン!?」
posted at 18:18:03

その場の人間が固唾を飲んで見守る中、ニンジャスレイヤーはゆっくりとジュー・ジツの構えを取る。「イッキ・ウチコワシ。その本質のほど、存分にわかった」厚い雲の切れ目から細い光が差し、メンポに彫られた「忍」「殺」の文字を照らす。「ニンジャ……殺すべし!」
posted at 18:18:25

「貴様、裏切るというのか!」フリックショットがニンジャスレイヤーを責める。「まさかこのブルジョワ粛清に感傷的嫌悪でも抱いたというのか?なんと愚かな!」困惑と激昂下にあったフリックショットの声にこもった感情が、すぐにクールダウンする。
posted at 18:21:16

「……まさか貴様ほどの闘士が、くだらん敗北主義に染まった惰弱な犬に過ぎなかったとは。失望の限りだ」フリックショットは片手をあげて合図した。「進歩!」「革命!」「行使!」新幹線の乗員乗客を抑制していたウチコワシ構成員がニンジャスレイヤーを包囲するように展開する。一糸乱れぬ動き!
posted at 18:24:48

「俺を侮るなよ、ニンジャスレイヤー=サン?」親指を突き出して構え、フリックショットはニンジャスレイヤーを睨む。「俺を侮るという事は、すなわち我らがイッキ・ウチコワシを侮るという事。この場にいる同志全てが最強の戦士。組織皆戦闘員の思想が、我々を常に進歩的勝利へ導くのだからな」
posted at 18:32:48

「総括!」「総括!」「総括!」構成員が口々に叫ぶ。「自己批判せよ!イヤーッ!」フリックショットは親指を弾いた!パチンコ玉がショットガンめいた速度で打ち出される!
posted at 18:36:08

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げ返し反撃!空中でパチンコ玉とスリケンはぶつかり合い、あさっての方向へ弾け飛んだ。「イヤーッ!」ハヤイ!フリックショットはさらにパチンコ玉を弾く。今度は親指で他四本の指先のパチンコ玉を同時に射出していた。計八発が放たれる!
posted at 18:40:17

「イヤーッ!」タツジン!ニンジャスレイヤーは流麗なブリッジで、放射状に飛来するパチンコ玉を回避!「まだまだ!イヤーッ!」さらに八発のパチンコ玉が飛来する!なんたる連射技術!
posted at 18:43:17

「イヤーッ!」素早い転身でニンジャスレイヤーは追撃をかわす。「まだまだ!イヤーッ!」さらに八発!それすらも回避、いや、おお、見よ!「イヤーッ……グワーッ!?」ニンジャスレイヤーは背中から出血し、体制を崩す。ナムアミダブツ!フリックショットは正面だ。いったいいかなるジツか?
posted at 18:46:40

「侮るなと言ったはずだニンジャスレイヤー=サン!これが組織皆戦闘員の思想的戦闘術だ!」秘密はニンジャスレイヤーを包囲する非ニンジャの構成員にあった。見よ、彼らは手に手に「反射」と書かれた威圧的な金属板を盾のように構えているではないか。「跳弾だと」ニンジャスレイヤーは包囲を見渡す。
posted at 18:53:24

「マイッタカ!科学的弾道計算、搾取装置たるパチンコ玉を暴力機構として支配かつ行使する図式!俺のパチンコ=ジツこそ、まさに我が組織の反ブルジョワ思想の体現である!自己批判せよ!イヤーッ!」フリックショットがさらにパチンコ玉を射出!
posted at 18:59:53

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは側転で回避、しかしそこへ跳弾が襲いくる。「まだまだ!イヤーッ!」さらに追加のパチンコ玉が撃ち出される。さらに跳弾。ナムアミダブツ!なんたる全方位攻撃か!回避が困難な上に反撃も許されない!
posted at 19:07:56

「アイエエエエ!」流れ弾を額に受けた新幹線乗員が血を流して倒れた。一列に並べられていた乗客は悲鳴をあげ、新幹線の中へ走って行く。「早く!早く中へ!」「みんな!怖くないですからね!新幹線の中へ早く!」「内輪もめしているうちに早く!」
posted at 19:18:55

「貴様があのような堕落的ブルジョワや奴隷的退廃存在に対して抱く感傷は、くだらんぞ!ニンジャスレイヤー=サン!」パチンコ玉を連射しながらフリックショットが吠える。「反動存在は例外なく粉砕し、そのうえで進歩的革命世界観の種を蒔くのだ。それだけが唯一の世界革命手段である!」
posted at 19:24:19

「イヤーッ!」回避!跳弾!追撃!「奴等はプロレタリアートの犠牲のうえで惰眠を貪る下等存在だ!」
posted at 19:39:05

「イヤーッ!」回避!跳弾!追撃!「奴等に情けをかけ、尻尾を振って擦り寄ったところで、しょせん奴等は、貴様など頭のおかしいテロリストとして認識するのみだ!」
posted at 19:40:41

「イヤーッ!」回避!跳弾!追撃!「ニンジャスレイヤー=サン、貴様の破壊活動は思想なき暴力だ!しかも一時の感傷に容易に流される!無意味かつ社会への害悪だ!」
posted at 19:48:05

「イヤーッ!」回避!跳弾!追撃!「ゆえにイッキ・ウチコワシは貴様を危険存在としてこの場で粛清する事を、このフリックショットが決議案事後提出の形で宣言し、実行に移す!」
posted at 19:52:20

もはや跳弾につぐ跳弾で、包囲網の内側は危険なパチンコ筐体の内部さながらであった。もし仮にこの包囲網の中へナイーブなバイオスズメが迷い込んだとすれば、0.1秒後には飛び交う跳弾の嵐に巻き込まれてズタズタのネギトロと化すであろう!
posted at 19:57:38

新幹線がネオサイタマへ向けて発車した。先ほどクサリガマめいた武器で足止めをしていた構成員も手に手に「反射」の盾を構えニンジャスレイヤーを包囲していた為、新幹線は遮られる事なく加速、あっという間に見えなくなった。
posted at 20:09:53

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」フリックショットの全方向包囲攻撃は苛烈さを増し続ける。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはせわしなくチョップを繰り出し、あるいは転身、あるいはブリッジで跳弾を回避していた。だが完全ではない!既に数カ所、跳弾を受けて出血している。
posted at 20:17:36

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」フリックショットの冷酷な攻撃、際限なく投入されるパチンコ玉……これではジリー・プアー(訳注:「ジリ貧」と思われる)だ!ニンジャスレイヤーはこのまま倒れるしかないのか?……否!目を凝らして見ていただきたい。飛び交う銀色の輝きの軌跡を……!
posted at 20:21:56

注意深くそのサツバツ的な玉の流れを観察すれば、ニンジャスレイヤーが弾き飛ばす跳弾が包囲網を構成する一人の方向へ明らかに偏っている事に気づくはずだ。その構成員は他者よりも明らかに多量に殺到するパチンコ玉を盾で受けながら、よろめき始めた。跳弾の勢いに耐えきれなくなってきているのだ。
posted at 20:25:57

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」臨界点!構成員の盾がひしゃげる!「アババババババババーッ!」大量のパチンコ玉を一方的に叩き込まれ、構成員は全身から出血して倒れた!「何ーッ!?」フリックショットが呻いた。勝ち誇った演説にかまけ、不自然に気づかずにいた彼のウカツ!
posted at 20:29:44

「イヤーッ!」包囲網に開いた穴をニンジャスレイヤーは一瞬で突破、外側へ躍り出る。「イヤーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」両手で投げつけた二枚のスリケンが構成員二名の後頭部に深々と突き刺さる。即死!
posted at 20:37:34

「き、緊急!」「転回!」「防御グワーッ!」ニンジャスレイヤーへ向き直り盾を構えようとした構成員の一人が額にスリケンを受けて即死!「対応!」「対応グワーッ!」さらに一人が側頭部にスリケンを受けて即死!
posted at 20:41:18

「イヤーッ!」フリックショットがニンジャスレイヤーへパチンコ玉を射出!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは素早くそれを弾き返す。「グワーッ!」「グワーッ!」浮き足立った構成員は盾で受けられず、二人が即死!
posted at 20:43:53

「か、革命!」盾を構えた構成員は一人しか残っていない。彼は慌てて後退し、盾を向けて防御する、しかし、「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが圧倒的速度で飛び込みながら繰り出した中腰の直突き、いわゆるポン・パンチは盾を易々と破壊し貫通、構成員の下顎を吹き飛ばした!「アババーッ!」
posted at 20:48:54

「な……何だと?バカな!バカな!唯物論的に実行不可!」フリックショットが必死にパチンコ玉を連射する。しかしニンジャスレイヤーは地上にいない!「イヤーッ!」高々と跳躍したニンジャスレイヤーの飛び蹴りがフリックショットの顔面を直撃、その首が200度回転した!頸骨の鈍い骨折音!
posted at 20:53:07

「グワーッ!」不自然な方向に首がねじれたフリックショットは糸のきれたジョルリ人形めいて全身から力を失い、膝から崩れ落ちた。ニンジャスレイヤーは彼の顎を掴み、その体を吊り上げる。「死ねーッ! ニンジャスレイヤー=サン!」背後から思いがけず叫び声!
posted at 20:57:54

「イヤーッ!」片手でフリックショットを吊り上げたまま、ニンジャスレイヤーは後ろ回し蹴りを放つ!虫の息でアンブッシュをこころみたプロミネンスの顔面に蹴りが直撃、その首が200度回転した!頸骨の鈍い骨折音!「グワーッ!」プロミネンスは断末魔を残し爆発四散した!「サヨナラ!」
posted at 21:03:25

「グ、グワ……」「イヤーッ!」邪魔者を一瞬で排除すると、ニンジャスレイヤーはフリックショットをさらに力強く吊り上げる!「グワーッ!」「私の戦いは無意味な暴力……そう言ったな」ニンジャスレイヤーは冷たく確認する。「グ……そうだ……」フリックショットのメンポの呼吸孔から血がしたたる。
posted at 21:07:36

「思想なき暴力、なんとくだらぬ……その力を進歩的闘争に役立てる機会であったのに貴様はグワーッ!」ニンジャスレイヤーの手に力がこもる!「オヌシらの標榜する闘争は狂信に過ぎぬ。罪なきものの虐殺を美化しただけだ」「テロリストが偉そうにグワーッ!」ニンジャスレイヤーの手に力がこもる!
posted at 21:14:07

「説教を垂れる気など、はなから無い。資格も無い」「グワーッ!」「私は利己的な殺戮者に過ぎん。妻子の仇をうち、仇に連なるニンジャを全て殺す。それだけだ」「グワーッ!」「感傷はくだらん……そう言ったな」「グワーッ!」「私はそうは思わん。感傷こそ、人を人たらしめるものだ」「グワーッ!」
posted at 21:22:06

「私もオヌシらも、所詮は同じ穴のラクーン。単なる殺戮者だ。私はそれを知る者、オヌシらは知らぬ者。それが……」「グワーッ……!」「違いだ……!」「グワーッ……!」「そして感傷こそが、殺戮者を人たらしめる、最後の……最後の……」「……」「最後の……」「……」
posted at 22:03:06

応答が無くなったが、ニンジャスレイヤーはフリックショットの首を締め続けた。やがてフリックショットの虚ろに見開かれた眼、メンポの通気孔から、青白いエクトプラズムめいた輝き……ニンジャソウルが染み出し、空気に溶けていった。ニンジャスレイヤーはなお暫く、そうしていた。
posted at 22:09:02

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posted at 22:14:51

翌日。ネオサイタマ・シティ・プレスの三面記事に、小さな事件記録が掲載された。それは各紙が報道した新幹線強盗事件の陰に隠れ、恐らくは誰も気に留めなかったことであろう。
posted at 22:47:38

ごく短い無署名記事の全文は以下の通りである。
posted at 22:48:53

「『現代のジロチョーエモン?ネオサイタマ養護施設・孤児院各所に、時期外れのプレゼント』昨日深夜から本日未明にかけて、ネオサイタマのマタタビ児童保護施設、カケタビ養護館、メゾン・キノコ等、全12施設に、匿名の支援者からの物資が寄付された。その内容は現金、金塊、大トロ粉末等であり、」
posted at 23:01:06

「サワヤカ養護院の職員は落下してきた物資の上空を旋回する不審なセスナ機を見たと供述しているが、それ以外に有力な情報は得られていない。なお同院所長は『誰だかはわからぬが、この苦しい時期の支援、ほんとうに有り難く感謝する』と謝辞を述べている」
posted at 23:01:38

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posted at 23:02:44

バスター・テツオはネオサイタマ・シティ・プレスを戦術コタツ上に放り投げた。出入口の側で佇む女性構成員は無言で彼の仕草を目で追っていた。「フン、面白い奴ではある」バスター・テツオは無感情に呟いた。「奴とは?」女性構成員は問う。「君の昔の知り合いだよ、アムニジア=サン。昔のな」
posted at 23:07:53

「昔の事など」アムニジアは冷たく言った。「ニンジャスレイヤーへは制裁を加えねばなりますまい。裏切りと、組織に対する侮辱、言葉に尽くせません」「ある程度は想定していた。ある程度はな」「……」アムニジアは出入口のショウジ戸を引き開けた。「通信を確認して参ります」
posted at 23:13:38

バスター・テツオは急須からマグカップにチャを入れ、ゆっくりと飲んだ。そしてゼンめいて、静かに目を閉じた。
posted at 23:17:06

「アット・ザ・トリーズナーズヴィル」終わり
posted at 23:18:04

NJSLYR> メリー・クリスマス・ネオサイタマ #1

101112

「メリークリスマス・ネオサイタマ」 #1
posted at 22:54:23

世界全土を電子ネットワークが覆いつくし、サイバネティック技術が普遍化した未来。宇宙殖民など稚気じみた夢。人々は灰色のメガロシティに棲み、夜な夜なサイバースペースへ逃避する。政府よりも力を持つメガコーポ群が、国家を背後から操作する。ここはネオサイタマ。鎖国体制を敷く日本の中心地だ。
posted at 22:58:07

一週間前から重金属酸性雨は止み、灰色の雪へと変わっていた。マルノウチ・スゴイタカイ・ビルの最上階展望エリアでは、カチグミたちがトクリを傾けあっている。ビル街には「コケシコタツ」「魅力的な」「少し高いが」などとショドーされた垂れ幕が下がり、街路を行き交う人々の購買意欲を煽っていた。
posted at 23:10:27

ネオンサインの洪水を睥睨するように、ヨロシサン製薬のコケシツェッペリンが威圧的に空を飛び、旅客機誘導用ホロトリイ・コリドーの横で大きな旋回を行った。「ビョウキ」「トシヨリ」「ヨロシサン」と流れる無表情なカタカナを、その下腹に抱えた巨大液晶モニタに明滅させながら。
posted at 23:18:42

別な二機のマグロツェッペリンは、NSTV社のものだ。片方の大型液晶モニタでは、オイランドロイド・デュオ「ネコネコカワイイ」の2人が、サイバーサングラスで目元を隠しながら歌っている。もう一機のモニタでは、彼女たち二人を模した廉価版オイランドロイドのコマーシャルが流れていた。
posted at 23:24:31

アンドロイド技術の実用化により真っ先に発展したのは、医療でも介護でも軍事でもなく、大衆の脳を麻痺状態に陥らせ狡猾なエクスプロイテーションを続ける、ショウビズ産業と性産業であった。彼女らの出現によって数十万人単位の女子が夢を諦め、オイラン専門学校への転校を余儀なくされたという。
posted at 23:28:53

スゴイタカイ・ビル前の広場では、ネコネコカワイイによる突発ライブの噂を聞きつけた暴徒的親衛隊「NERDZ」たちが、バリキドリンクを手に一足早くモッシュピットを作っていた。すでに数十人単位の死傷者が出ている模様だ。上空からは、ネオサイタマ市警の漢字サーチライトも照らされている。
posted at 23:43:40

広場の片隅にひっそりと立てられたハカイシ型慰霊碑も暴徒の波に呑まれ、興奮したNERDZの1人が、その上で奇声を発しがら何度もジャンプを繰り返していた。 本来ならば今夜、ここでネオサイタマ市警による厳かな慰霊式典が行われる手筈だったが、数日前に突然キャンセルされたのだ。
posted at 23:46:43

その遥か上。下界の喧騒から隔絶された、スゴイタカイ・ビルの屋上。四方に張り出した強化御影石製シャチホコ・ガーゴイルのひとつに、およそ人とは思えぬ異様な影が、爪先立ちで微動だにせず座り込んでいる。首に巻いた長いマフラーのようなぼろ布が、激しい風を受けて斜め後方へと吹き流されていた。
posted at 23:55:03

赤黒いニンジャ装束で身を包んだその男の口元は、「忍」「殺」と彫られた鋼鉄メンポで隠されている。彼の冷たく刺すような視線は、見渡す限り果てしなく続くメガロシティへと注がれていた。 彼は耳を澄まし、風の流れを感じ、ニンジャの気配を探る。妻子の墓前に備えるための、新たなセンコを求めて。
posted at 00:01:55

「メリークリスマス・ネオサイタマ」 #1終わり #2へ続く
posted at 00:10:41

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 16:42:10

NJSLYR> メリー・クリスマス・ネオサイタマ #2

101114

「メリークリスマス・ネオサイタマ」 #2
posted at 22:22:48

ブンブンブーンブンブンブーン、ブンブンブーンブブーン。陰鬱な電子ベース音でジングルベルが鳴り響く。オハギ屋台の前で、リアルヤクザ同士が縄張りを争う。通りに面したIRCモテルの四階では、ザゼン・ドリンクでキメたスゴイ級ハッカーが喧騒を見下ろして冷笑しながら、神に定時の崇拝を捧げる。
posted at 22:42:36

スゴイタカイ・ビルからいくらか離れた下界。ここには、マッポでさえも近寄らぬ猥雑な暗黒街、ツチノコ・ストリートが広がり、無数のネオンサインと薄汚いマケグミで溢れかえっている。まともなニューロンを持つ市民ならば、高層ビル郡を繋ぐ空中トリイ回廊か、地下ショッピングモールを歩くだろう。
posted at 22:54:23

あえてこのような場所を歩むのは、下層労働者か犯罪者、あるいは追っ手をまこうする者だけだ。つば広の防塵ハットを被ったその男は、上等な黒いケブラー・トレンチコートの襟を立てて顔を隠し、ネオン街を歩いていた。時折、胸元からペットのミニバイオ水牛が顔を出し、不安そうな顔で白い息を吐く。
posted at 22:59:43

職を失ったリアルヤクザがケジメ・ショーを行っている輪の横を、男は足早に通り抜けた。右手では、檻に入ったバイオスモトリが軒先に吊るされ、キモノ姿のモヒカン女たちがショック・ヌンチャクやサスマタでこれをいたぶっている。「武田信玄」「安らぎ」と書かれたPVCノボリが無表情に揺れていた。
posted at 23:04:54

突然IRCモテルの窓が割れ、奇声とともに人が落下してきた。「ペケロッパ! ペケロッパ!」ペケロッパ・カルトのハッカーだ。頭から生えた何十本ものLANケーブルを振り乱し、FM音源めいた合成音声で叫び、のたうつ。ニューロンを焼かれたのだ。 ミニ水牛がコートの中で震え、静かに失禁した。
posted at 23:13:56

男はこれらの粗悪で猥雑なものから目を遠ざけるように、コートの襟を手でさらに高くした。サイバーサングラスで男の顔はほとんど見えないが、弛んだ頬と深い皺が本物ならば、五十は超えていよう。身につけた品はどれも、彼の地位がかなり高いものか、あるいは直前まで高いものであったことを窺わせる。
posted at 23:15:18

危険なポンビキエリアや金魚フライ屋台の間を抜けながら、男は時折振り返り、追っ手の有無を確かめる。気配無し。 空中を死体のように漂うマグロツェッペリンの映像は、堅苦しいオスモウ・ニュースへと切り変わり、ネオサイタマ市警評議員の一人が自宅で死体として発見されたことを伝えていた。
posted at 23:17:25

「死因不明」「凶器無し」「セプクの可能性も」……キャスターの口に合わせて字幕が示威的に強調される。男が空を見上げると、別のマグロツェッペリンがニュースを覆い隠し、オイランドロイド・アイドルが両足をWの字にして飛ぶ、印象深いネコネコカワイイ・ジャンプの映像をリレイするところだった。
posted at 23:20:31

やがて男の赤外線サイバーグラスは、灯篭で入口を封鎖された暗い路地を目ざとく発見。雑踏の波からするりと抜け、灯篭を巧みに越えて細い路地を進む。上出来だ、誰も気付いていない。右のビルの五階、鉄格子の付いた窓から、ボンボリ・タングステン灯の明滅が漏れ、壊れたネオンから青い火花が散った。
posted at 23:25:21

バチバチというセンコ花火のような火花に照らされ、極太ミンチョ体で「悪い政府だ」「マッポはセプク」「インガオホー」と書かれた反政府団体のネオハイクが浮かび上がる。コンクリートに転がるUNIXや旧型オイランドロイドの残骸やネズミの死体などを踏みながら、男はさらなる暗がりを求めて進む。
posted at 23:32:01

角を曲がると、白塗りの壁と灯篭が行く手を阻んだ。デッド・エンドだ。ボキリ、という骨の折れる嫌な感触が、ブーツ越しにニューロンに伝わった。何かの死体を踏んだのかもしれないし、あるいは豚足かもしれない。ミニバイオ水牛が本能的な恐怖を感じ、顔を出して不安そうにモーモーと鳴く。その時。
posted at 23:33:01

「ドーモ。ホタカ=サン」背後から不吉な声が聞こえた。 ホタカと呼ばれた男は、電気ショックを浴びたかのように体をびくつかせてから、ぎこちなく後ろを振り向いた。ボンボリ・タングステン灯が明滅し、火花が散ると、ニンジャらしき男のシルエットが浮かび上がった。
posted at 23:34:40

ホタカ=サンは無言で左の袖をまくり、最新型のサイバネティック戦闘義手を露にした。黒漆塗りのテッコV7型の継ぎ目から、薄緑色のサイバー光が漏れる。ネツケを掴んで紐を引くと、幽玄な起動音とともに圧縮空気が排出される。狼狽したミニバイオ水牛がコートから飛び降り、闇の中に走り去った。
posted at 23:37:26

――――――――――
posted at 23:48:08

ニンジャスレイヤーがニンジャロープ伝いにその路地裏へと着地した時、すでにケブラー・トレンチコートの男は物言わぬ死体へと変わっていた。口の中には豚足が詰め込まれており、一見すると急いで豚足を食べようとした男の窒息死のようにも思える。
posted at 23:50:01

だが、ニンジャスレイヤーの鋭い観察眼は、男の首動脈が小型の投擲物によって破壊されているのを見逃さなかった。死因は失血死だ。……それもおそらく、ニンジャの。しかし、ニンジャソウルを残留させたスリケンやクナイ・ダートの類は、どこにも見当たらない。果たしていかなるトリックか?
posted at 23:54:00

ニンジャスレイヤーは身をかがめ、冷静にこの男の素性を探る。イソガバマワレ……手がかりを探すことが、最終的にはニンジャに辿り着くはずだ。左手の漆塗りテッコには、ネオサイタマ市警の金色のエンブレムが光っている。几帳面な男だったようで、帽子の裏にはホタカ・ナカナカと刺繍がなされていた。
posted at 00:02:24

そしてニンジャスレイヤーは、死後硬直で硬く握り締められたホタカ=サンの右手に、ウグイス色のオリガミ・メールが小さく折りたたまれているのを抜け目なく発見した。 「.....Wasshoi!」 赤黒い影は左右の壁を交互にジャンプして駆け上り、再びネオサイタマの闇へと消えてゆく。
posted at 00:04:20

その三十分後、匿名通報を受けたネオサイタマ市警のマッポ部隊がツチノコ・ストリートの裏路地を封鎖した。度重なる夜勤と超過勤務でマグロのような目をした末端マッポたちは、マニュアルどおりに現場の指差確認を行い、ホタカ=サンの口に詰め込まれている豚足に大いに注目した。
posted at 00:15:20

「首元に何か傷が…」 若いマッポの一人がそれを指摘しようとした時、大きなオハギをくちゃくちゃと噛みながら、ツチノコ東地区担当のチーフマッポがぬうっと姿を現した。 「転んだ時に何か刺さったんだろよ……おやおや、こりゃ、ホタカの爺さんじゃねえか。今日は要人がよく死ぬぜ。ゲエエップ!」
posted at 00:28:13

「メリークリスマス・ネオサイタマ」 #2終わり。 #3へと続く
posted at 00:30:30

NJSLYR> メリー・クリスマス・ネオサイタマ #3

101119

「メリークリスマス・ネオサイタマ」 #3
posted at 20:43:59

三週間前。ネイサイタマ中枢に聳える日本最大のビル、カスミガセキ・ジグラット。 ここは政・官・民が高度な癒着を遂げた、人類史上稀に見る巨大複合施設であり、今なお増築が進んでいる。現在の最上階は700だが、不吉を忌み嫌う日本人の慣習により、4や9の数字が含まれる階や部屋は存在しない。
posted at 20:56:41

601階から上にはメガコーポのヘッドオフィス群が、301階から600階には国会議事堂などの行政施設が、51階から300階には市警本部などの官庁施設が、1階から50階にはネオサイタマ市役所が入っている。 そして今、恐るべき謀略をはらんだ密議が267階のオスモウ会議室で行われていた。
posted at 21:08:53

「クローンマッポを数万体規模で導入だと?」ネオサイタマ市警評議会の一員であるホタカ・ナカナカは、たるんだ頬を怒りで紅潮させながら、ドヒョウ・リングの上で立ち上がった。厳かにライトアップされたドヒョウ・リングと無数のショウジ戸以外何も存在しない広大な空間に、ホタカの怒声が響き渡る。
posted at 21:15:38

「アイエエエ……そんなに興奮しないでください」ヨロシサン製薬のバイオ営業部門、タカハシ=サンは小さく失禁した。 「そうだホタカ=サン、落ち着いて」パンキドー9段のイノウエ=サンが、野太い腕でホタカの肩を抱き、着席させる。彼はネオサイタマ評議会における数少ないホタカの同志の一人だ。
posted at 21:28:34

ホタカは渋々着席し、参加者の顔を見渡す。合計12人いる評議員のうち9人は、ホタカからわざとらしく目を逸らし、ドヒョウ中央に映し出される3Dディスプレイの資料を眺めながら、茶をすすりつつ大きく頷いていた。 「「「連中め、オハギでも積まれたか…」」」と、ホタカは心の中でひとりごちる。
posted at 21:36:52

右隣に座るイノウエ=サンは、言葉では冷静さを保っているが、今にもパンキ・パンチをくり出しそうな危うさに満ちている。左隣ではホタカ=サンのもう一人の同志、最高齢のノボセ=サンが無言で腕を組み、右眼を閉じていた。末端マッポ時代に失われた彼の左目は、黒い革眼帯によって覆い隠されている。
posted at 21:42:23

ディスプレイを挟んだ対面には、ヨロシサン製薬を筆頭とするバイオ関連企業三社の代表が座っていた。その中には、紫のスーツに身を包み顔を鎖頭巾で隠した男の姿もある。バイオマッポ化計画の出資者代表、ネコソギ・ファンド社のラオモトCEOだ。彼のカタナのような眼光が、場の空気を支配していた。
posted at 21:51:52

ラオモトは手元のオリガミ・メールに筆で何事かをしたため、ヨロシサンの営業に手渡す。噂によると、このラオモト・カンなる男は、ネオサイタマの暗黒犯罪社会と深い関わりを持っているらしいが、その見事な証拠隠滅の手際ゆえ、未だネオサイタマ市警はネコソギ・ファンド社の非合法性を掴めずにいた。
posted at 21:56:18

「皆さん、一年前のクリスマスを思い出してください」オリガミを読んだ営業は立ち上がり、息を吹き返したマグロのようにプレゼンを再開する「大勢のマッポ=サンが、反政府組織の起こしたマルノウチ抗争の犠牲となりました。この教訓を忘れてはいけません。遺族補償に、どれだけカネを使いましたか?」
posted at 22:01:16

ドヒョウ上の3Dディスプレイに、毛筆フォントでかなりのケタの金額が躍る。ラオモトにあらかじめ買収されていたネオサイタマ市警評議員の数名が、頭を左右に振りながら、口々に「おお、ナムサン……」「ナムアミダブツ……」などといった落胆の言葉を、わざとらしい溜息とともに吐いた。
posted at 22:05:12

「しかし、クローンマッポなら、こうです!」ヨロシサンの営業が指をぱちんと鳴らすと、3Dディスプレイの数字はゼロに変わった。「しかも、クローンマッポは賄賂で腐敗することはありません! 職務時間中にIRCをすることもありません!」 買収された評議員たちは、大きく頷きながら拍手した。
posted at 22:09:51

これに対し、ノボセ老がようやく重い口を開く。「クローンマッポ大量導入……それだけは、どうかご勘弁いただきたい。すげ替えられた数万人のリアルマッポが路頭に迷い、ヤクザかハッカーになるでしょう。コストが問題ならば、われわれマッポは手当て無しで、超過勤務でも深夜勤務でも何でもやります」
posted at 22:21:20

「そうだ、その通りだ!」ホタカ=サンとイノウエ=サンが合いの手を入れ、反対陣営よりも威勢の良い声で応戦する。モノイイ・タクティクスだ。ヨロシサン陣営と買収された評議員たちは、これに対抗すべくあれこれと意見を述べたが、三人の男たちの誰かが常に反対意見を述べ、表決の時を先送りにした。
posted at 22:24:26

「イヨオーッ!」という電子音声が館内に響き、五時を告げる。3Dディスプレイの映像は「明日もヨロシサン」と書かれたヨロシサン製薬のCMに切り変わった。今日の会議は終了だ。高潔な三人の男たちによって、クローンマッポ大量導入という暴挙は避けられた。ヨロシサン陣営が不服そうに引き上げる。
posted at 22:31:28

決着がついたわけではない。3週間後のクリスマスイブに、追加会議が行われるだろう。 「つまり、3週間後に我々3人のうち1人でも生き残っていれば…」と、イノウエは冗談めかして言う「来年度の予算編成には間に合わない。連中の敗北だ」。 「物騒だな」とホタカ「だが用心に越したことは無い」。
posted at 22:37:59

--------------
posted at 22:38:11

その三週間後。イノウエは自宅で、ホタカはツチノコ・ストリートの路地裏で、それぞれ物言わぬ死体へと変わったのだ。 しかし凶器は発見されず、有力な犯人目撃情報もない。イノウエの死因はパンキドーのトレーニング中の転倒、ホタカの死因は豚足を急いで食べようとした後転倒、と報道されていた。
posted at 22:51:59

深夜0時。雪がしんしんと降り積もり始めた。 同志2人の死を知ったノボセは、高層マンションの屋上に築かれた和風邸宅に篭り、精神統一のためにショドーを行っていた。茶室の軒先には脱出用のヘリが置かれ、また屋上階全体には、信頼できる腕っこきのマッポやデッカーが30人あまり配備されている。
posted at 23:49:19

不意に、ショウジ戸の向こうから声が聞こえた。「お父さんお母さん、見て! ネコネコカワイイ!」孫娘のムギコだ。五歳と幼いながらに、張り詰めた雰囲気を感じ、寝つけぬのだろう。ムギコが窓を開けて指差す先には、マグロツェッペリンが緑と赤のLEDライトを瞬かせながら、すぐ近くを飛んでいた。
posted at 23:56:38

孫娘の声を聞いたノボセは、スズリをする手を止める。「ナムサ」と途中までショドーされた和紙を丸めて捨てた。心が乱れたのだ。「「「刺客の狙いは、恐らくわし一人」」」。沈思黙考の末に眼を開き、赤いオリガミの裏に細筆で何かをしたためてから、彼は七本の指で神秘的な鶴を折り上げた。タツジン!
posted at 00:05:53

「私も大きくなったらネコネコカワイイになりたい!」ムギコは狂ったようにネコネコカワイイ・ジャンプを繰り返す。両親が神妙な顔でなだめるも、効果が無い。「ムギコや」ショウジ戸を開けて茶室から出てきたノボセ老は、優しさの中に厳しさを湛えた顔で言った「なれないものもあるんだ。諦めなさい」
posted at 00:11:42

「お父さん、スミマセン」ノボセの息子が礼儀正しく頭を下げた。彼は父親の地位を使うことを嫌ったため、一介のサラリマンに甘んじている。 「いいんだ、わしのせいでこんな事になってしまったんだからな」とノボセ「それより、ムギコを連れて遊びに行ってこい。今夜は楽しいクリスマス・イブだろう」
posted at 00:16:28

「いいの?」と、ムギコの顔が明るくなる。 「いいんですか、父さん?」 「信頼できるデッカーを護衛につけるから行ってこい。お前たちがいると、ショドーが乱れるゆえ」 息子夫婦がいそいそと身支度を整えている間に、ノボセ老は孫娘に鶴のオリガミ・メールをそっと渡して、また茶室に戻った。
posted at 00:20:22

「クリスマス・イブ……」タタミに正座したノボセ老は、そうショドーしながら、一年前の悪夢を回想していた。出来ることならば、死んでいった市民やマッポのために、慰霊式典をやってやりたかった。だが、この非常事態ではそうもいかない。「ゴウランガ……」気がつくと弔いの言葉をショドーしていた。
posted at 00:25:13

「駄目だ……!」ノボセ老はまた立ち上がり、それらのショドーを長い箸で囲炉裏にくべて燃やした。 舞い上がった火の粉が薄暗い三十畳の茶室を仄かに照らし、茶壷や、竹や、現役時代のケンドー機動服や、ネオサイタマ市警のマッポ数千名が整列した壮大な俯瞰図の墨絵ビヨンボなどを浮かび上がらせた。
posted at 00:34:43

ノボセ老は4本しかない右の指でスズリをする。彼はデッカー時代に1本、課長時代に2本の指をケジメで失った。ケジメやセプクはヤクザの風習と思われがちだが、高位の者なら誰もが直面する試練だ。 「サツバツ…」ノボセ老がそう呟きながらショドーすると、祖父の優しい目は消え、鋭い眼光が宿った。
posted at 00:45:59

と、まさにその時! マグロツェッペリンから大きく跳躍した灰色装束のニンジャが、ノボセ邸のカワラ屋根の上に音も無く着地したのであった!  そのニンジャの背には、オムラ・インダストリ製の小型急速冷凍装置が背負われ、そこから両手の裾の下へと細いホースが伸びている。
posted at 00:55:31

奥歯に埋めこまれたスイッチを押すと、ホースの先から冷却空気が放出される。これをニンジャ握力によって高速圧縮することにより、ダイヤモンドカッターにも匹敵する切れ味の氷スリケンが作り出されるのだ! この者こそは、ラオモトが放ったソウカイ・シックスゲイツの刺客、フロストバイトであった!
posted at 00:58:44

「「「俺の氷スリケンは射出後数秒で溶けるため、殺人に用いられた凶器は絶対に発見できない! あばよ、爺さん! あの世でハイクを詠むがいい! 貴様の死因はショドー中の転倒死だ! サヨナラ!」」」 茶室の上のカワラをそっと外したフロストバイトは、氷スリケンを生み出しながらほくそ笑んだ。
posted at 01:04:14

「Wasshoi!」 遙か上空を飛んでいたコケシツェッペリンから、赤黒い影が前方回転しながら舞い降りた。それは立膝状態でカワラ屋根の上に着地してから、ゆっくりと身を起こし直立不動の姿勢を取る。両者の間合いは10メートル弱。 「ドーモ、フロストバイト=サン。ニンジャスレイヤーです」
posted at 01:10:07

「メリークリスマス・ネオサイタマ」 #3 終わり #4へ続く
posted at 01:10:32

(親愛なる読者の皆さんへ。昨日の連載分に致命的な誤訳がありました。「ネイサイタマ」は「ネオサイタマ」が、また「3週間後のクリスマスイブに、追加会議が…」は「3週間後のクリスマスに、追加会議が…」がそれぞれ正しいです。翻訳担当者は今朝自主的にケジメしましたので、ご安心ください。)
posted at 15:39:24

◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 17:38:23

NJSLYR> メリー・クリスマス・ネオサイタマ #4

101120

「メリークリスマス・ネオサイタマ」 #4
posted at 21:18:42

「……ドーモ」フロストバイトは舌打ちしながら立ち上がり、胸の前で拳と掌を合わせて小さくオジギした。 「「「こいつがニンジャ・スレイヤー=サンか。俺の手の内はまだ知られていない筈。だが俺のインプラント記憶素子内には、ソウカイネットで調べた戦闘データがある。お前は射撃戦に弱い!」」」
posted at 21:28:10

灰色と赤黒。二人のニンジャはカラテの構えで相手の出方を窺いながら、防弾カワラ屋根の上を同心円状に横歩きし、間合いをはかった。不気味な静寂。上空を舞うコケシツェッペリンのLEDモニタに流れていた文字が「ヨロシサン」から「いつもお世話になっています」に変わった時、二者は同時に動いた。
posted at 21:30:58

フロストバイトは右奥歯のスイッチを噛み、両掌をXの字に掌握して作った氷スリケンを、イナズマのような素早さで投げつける!  「イヤーッ!」 高速回転する芝刈り機のような甲高い音を立てて、普通のスリケンよりもギザギザの多い凶悪な氷スリケンがニンジャスレイヤーに迫った! ナムサン!
posted at 21:36:19

「イヤーッ!」 ニンジャスレイヤーもほぼ同時にスリケンを投げていた。両者のスリケンが激突する! だが、何ということだ、普通のスリケンよりもギザギザが多いフロストバイトの氷スリケンは、ニンジャスレイヤーのスリケンを切断したうえに、その勢いを全く衰えさせることなく飛来したのだ!
posted at 21:39:38

鋭いニンジャ反射神経により、ニンジャスレイヤーは自らの左手の人差し指と中指を突き立たせた。スリケンを最小限の動きでかわす方法は、二本の指でスリケン中心部を回転と垂直方向に挟み、それを後方へ受け流すことである。敵の力を受け止めるのではなく受け流す……これこそがニンジャの世界なのだ!
posted at 21:45:24

ニンジャスレイヤーは蝿を挟む箸のように精密な動きで二本の指先を動かし、氷スリケンの中心部を挟み、受け流す……いや、受け流せない! 何故だ? おお、ナムアミダブツ! 氷スリケンは温度差によって指先に貼りつき、チェーンソーのごとく回転して、彼の指間を切り裂いたのだ! 「グワーッ!」
posted at 21:50:23

「氷スリケンは暗殺用だけではない! 俺はこの技で、何人ものニンジャの手を破壊してきたのだ! ニンジャスレイヤー=サン、貴様のようにスリケン受け流しに絶対の自信を持っているような、気取ったいけすかねえ野郎どもをなーッ!」 フロストバイトは勝利を確信し、さらなる氷スリケンを射出した!
posted at 21:56:08

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは紙一重でブリッジを決め、両首の頚動脈を狙って放たれた氷スリケンを回避する。タツジン! それと同時に、左手を切り裂く氷スリケンを防弾カワラに叩きつけて、どうにかこれを粉砕した。赤黒い血飛沫がスプレー状に飛び散るが、間一髪ケジメだけは免れたようだ。
posted at 22:03:30

だが、これで終わりではない! 「死ね! ニンジャスレイヤー=サン! 死ね! イヤーッ!」 フロストバイトは両手を最新型万札偽造機のように小刻みに動かし、驚くべき速さで氷スリケンを生み出しては、1秒に3発の割合でこれを射出してきたのだ!
posted at 22:04:43

「イヤーッ!」 ニンジャスレイヤーはそのまま高速ネックスプリングで体を起こしてから、華麗なタイドー・バックフリップを三回決め、股間を狙って放たれた氷スリケンをすべて紙一重で回避する。ジゴクめいた冷気が空気を切り裂きながら、頬の横わずか数ミリの場所を飛んでいった。スゴイ!
posted at 22:08:08

バックフリップから体を捻ったニンジャスレイヤーは、屋根の端に置かれたカエル・ガーゴイルの上に着地し、さらに間髪入れずにこの足場を蹴って、フロストバイトの背後に向かって矢のように鋭い角度でサマーソルト・ジャンプを決めた。空中で体を制御し、右手で恐るべきカラテチョップの構えを取る!
posted at 22:09:41

「イヤーッ!」 チョップが炸裂しようとしたその時! フロストバイトは胸の前で手をXの字に交差させた後、手首のホースを背後に向け、左奥歯のスイッチを噛んだ。「「「引っかかったな!」」」マイナス220℃の液体と蒸気が、上空のニンジャスレイヤーめがけ噴射される! 「グワーッ液化窒素!」
posted at 22:12:21

ゴウランガ! ニンジャスレイヤーは空中で素早くドリルのように回転してジャンプの軌道を変え、液化窒素の直撃を免れた。直撃を受けていれば、全身が冷凍マグロのように冷たくなって即死していたであろう。 しかし、この緊急回避のために、彼は体勢をいちじるしく崩してしまってもいたのだ。ウカツ!
posted at 22:14:28

「あばよ、ニンジャスレイヤー=サン! 貴様の死因はバク転中の不運な転倒死だーッ!」 間違いなくキンボシ・オオキイ! フロストバイトはラオモト=サンから渡されるであろう臨時ボーナスに思いを馳せながら、必殺の氷クナイ・ダートをニンジャスレイヤーの喉元に向けて投げた! ナムアミダブツ!
posted at 22:19:37

だが待て! 夜よ、聞くがいい! フロストバイトがダートを投擲する一瞬前、ウシミツ・アワーを告げる不吉な鐘が、ネオサイタマ中のジンジャ・カテドラルで突き鳴らされたのを! 液化窒素煙幕の中で立膝状態になっていたニンジャスレイヤーの右の黒目が紅く光り、センコのように細くなる! ナラク!
posted at 22:23:31

「「「ヒッサツ! 間違いなく殺ったァーッ!」」」 フロストバイトの投げた2本のダートが、ニンジャスレイヤーの眉間と股間に命中! ……と思われたその時、氷クナイ・ダートはニンジャスレイヤーの体を透過して背後の防弾カワラに当たり、灯篭に落ちるツララのごとく虚しく砕けたのだ。 「え?」
posted at 22:31:00

フロストバイトが驚きのあまり白目を剥きながら見ていると、液化窒素煙幕の中にいたニンジャスレイヤーは霞のように掻き消えた。 「え?」 代わりに、いつの間にかニンジャスレイヤーの右眼があった場所から紅い光の軌跡が描かれ、自分の顔の周りを一周して、背後に回りこんでいた。 「え?」
posted at 22:37:37

-------------
posted at 22:38:50

その頃、5メートル下の茶室ではカワラ屋根の上で発生した戦闘の騒音を聞きつけ、ノボセ老を守るべくマッポ軍団が集結していた。中央の囲炉裏横に、ノボセ老がカタナを構えて陣取る。彼のイアイドーは42段。親指小指薬指さえあれば、七本指でも何ら支障なく人を殺せる。革眼帯がじっとりと汗ばんだ。
posted at 22:49:50

サイバーサングラスをかけた古参デッカー5人が、強化カーボン製のデッカーガンを構え、背中合わせでノボセ老を囲んでいた。 サイバーIRC手術を受けている彼らは、耳の斜め後ろから生えたLANケーブルをデッカーガンと接続することにより、0コンマ1秒以下の反応速度で銃の論理トリガを引ける。
posted at 22:55:00

さらに茶室の四方を囲むように、20人余りの精鋭マッポたちがサスマタやトンファーを構えながら、固唾を呑んで状況を見守っていた。 デッカー1人の職務遂行能力は標準マッポ50人分に匹敵するとされるため、少なく見積もっても、わずか三十畳のこの空間内に300人近いマッポがいることになる。
posted at 23:00:48

ノボセ老は、カタナの柄と鞘に手を当てながら、イアイドーの構えでじっと耳を澄ましていた。先程まで聞こえていた音や絶叫が、ウシミツ・アワーの鐘の音以降、ふと止んだからだ。おかしい。まるでハカバのように静かだ。息を小さく吐いた、その時! CRAAAAAASH!! 屋根の一部が崩落した!
posted at 23:08:59

最初に動いたのは、室内の画像遷移情報をサイバーサングラスでスキャンし、遠隔IRCチャットで共有していたデッカーたちだった。両手に握ったデッカーガンの論理トリガが一斉に引かれる! サイバネティック義体すらも破壊する38口径の重金属弾頭弾が、黒い無機質な銃口から容赦なく撃ち出された!
posted at 23:15:17

BLAM! BLAM! BLAM! 上から降ってきた灰色の人影が、デッカーガンの一斉射撃を受けて激しくダンスする! 首がない? 構うものか、排除せよ! BLAM! BLAM! BLAM! BLAM! 床に置かれたタヌキ茶壷の上に落下する頃、それはほぼ原型を留めぬ肉塊と化していた。
posted at 23:19:54

「……サ、サヨナラ!!」 天井にぽっかりと空いた大穴の向こうから、悲痛な呻き声が聞こえたような気がした。その刹那、タヌキ茶壷に落下した首なし死体は、オムラ製急速冷却装置とともに爆発四散を遂げたのだ!
posted at 23:26:56

ケブラー・トレンチコートを翻し、咄嗟にノボセ老の盾となって立ちふさがっていたデッカーたちが頭を上げると、茶室内には血に染まった雪が降り始めていた。 ノボセ老がキツネにつままれたような顔で大穴を見つめていると、そこからドラゴンの形に折られたウグイス色のオリガミメールが舞い降りた。
posted at 23:31:37

ノボセ老はそれを掴み、開く。中にはホタカ=サンの肉筆と思われる滑らかな筆跡で、ホタカ、ノボセ、イノウエの三人の肖像画と名前、そして栄光あるネオサイタマ市警のエンブレムが。 「……Wasshoi!」と低く小さな声が、ドクロの目玉のように真っ黒な大穴の向こうで聞こえたような気がした。
posted at 23:35:34

「こんなことがあろうものか、いや、あろうはずもない!」ノボセは、同志二人の死を報されても決して流さなかった涙を、その両眼からこぼした。眼帯に覆われ、最早用を成さないはずの眼からも。「笑わば笑え! だがわしには、死したはずのホタカ=サンが蘇り、わしを救ってくれたとしか思えんのだ!」
posted at 23:41:56

「ニンジャ……殺すべし……!」 フジキドはすでにノボセ邸を遠く離れ、ニンジャロープとニンジャ脚力を巧みに使い分けながら、暗いビル街の屋上を駆け抜けていた。ナラクの暴走は振り払われ、その両眼は鋼鉄のように冷たい黒に戻っている。時折、その左手に結えた灰色のフロシキから血が滴り落ちた。
posted at 23:46:47

「メリークリスマス・ネオサイタマ」 #4終わり #5へと続く
posted at 23:48:06

NJSLYR> メリー・クリスマス・ネオサイタマ #5

101124

「メリークリスマス・ネオサイタマ」 #5
posted at 18:12:34

スゴイタカイ・ビル前広場では、無機質なジングル音が未だ鳴り響いていた。人通りも多い。遠くにはバクチクの音も聞こえる。 オーボン、クリスマス、ショーガツ……人生を楽しむことに引け目を感じがちなサラリマンたちも、重い宗教的意味を持つこの3日間だけは、次の日の仕事を忘れて行動するのだ。
posted at 18:21:05

イブの夜に開催されたネコネコカワイイの突発ライブは、違法薬物で興奮したNERDZの一部がステージに乱入し、2体のオイランドロイドを破壊したため、ケンドー機動隊の介入をもって後味悪く終了していた。だが、彼女らのボディや記憶はバックアップがある。今夜の惨劇は無かったことになるだろう。
posted at 18:24:10

ケンドー機動隊が撤退したビル前広場では、いつものようにスシ屋台やヤクザ・プッシャーらがどこからともなく現れ、抜け目のない商売を始めていた。黒いレインコートを着たスモトリめいた男が、直径5メートル程の赤漆色の耐酸性アンブレラを立て、その下に機材を並べて即席ラップブースを作っていた。
posted at 18:34:52

「ネオサイタマシティ、2クールリリック、バンザイイェー、俺今マサニタチツクス」彼もかつてはNSレディオのDJを務めていたが、テロ容疑で指名手配され解雇。今ではこうして、ゲリラ的に自主制作銀盤を売るのみだった。「腐ったコノ世まさにマッポー、俺追われてる今byマッポ、イェー」
posted at 18:40:05

「用済み使えねえスモトリ、捨てて導入バイオスモトリ、リョウゴクコロシアム瀕死、まさにハカイシ、怒る俺これ破壊センとし、IRCチャット、ハッ、油断しゴハット、ハッ、見ろ結果コノざまサイバー、サングラスかけ通う無人スシバー」 タツジン! カタナのように切れ味鋭いライム!
posted at 18:49:10

しかし、この危険すぎるオスモウ界批判が彼に破滅をもたらしたのだ。それに、もはや大衆は彼のことなど知らない。NSレディオでは、彼よりも若く従順なラッパーがDJを務めている。 「イェー、かつて俺目指した夢by シコ・トレーニング、でもコノ世界明日なきバイシコー・マネージング」
posted at 19:12:09

……だが、胸を深くえぐるような2COOLリリックのライムも、またその隣で屋台ブースの境目争いをしているリアルヤクザとペケロッパ・カルトの小競り合いも、そしてベース音の無機質なジングルさえも届かない……下界のあらゆる喧騒から隔絶されたスゴイタカイ・ビルの屋上で、彼は独り佇んでいた。
posted at 21:56:55

ここはまるで、センニンが住む異世界。上空に光は一切無く、汚染されたイカスミの如き黒雲だけが分厚く垂れ込める。彼方には、人類の墓標を思わせるカスミガセキ・ジグラットの影が浮かび上がる。ニンジャスレイヤーことフジキド・ケンジは、屋上のシャチホコ・ガーゴイルの背に爪先立ちで座っていた。
posted at 22:03:08

ニンジャスレイヤーは微動だにしない。まるで石像だ。動く物といえば、マフラーのように斜め上方に吹き流される赤黒のぼろ布と、左手に握られたフロストバイトの生首のみ。ニンジャの首は、この巨大なハカイシに、すなわち自らの妻子の墓標に供えるセンコだ。 彼の眼に、涙は無い。とうに枯れ果てた。
posted at 22:10:56

サツバツとした怒りを通り越し、もはや殺人マグロのごとき無表情と化したフジキドの眼には、一年前のクリスマスの惨劇が蘇っていた。 忘れもしない、マルノウチ抗争の夜だ。 あれは、スゴイタカイ・ビルの中階層にあった、中所得者層のためのセルフテンプラ・レストラン「ダイコクチョ」でのこと……
posted at 22:16:04

--------------
posted at 22:16:17

「揚げた美味しさが」「テンプラ」「DIY」などと極太オスモウ・フォントで縦書きされたノボリが、広い店内でイナセに躍っている。クリスマス装飾の電子ボンボリが、年の瀬感を演出する。 流石はクリスマス・イブ、満席だ。フジキド家の3人は、1ヶ月前から予約していたから、どうにか席を取れた。
posted at 22:27:51

「今年も、ここに来れて良かったわ」と、油の入ったカーボン土鍋を前に静かに笑う妻フユコ。「ニンジャだぞー! ニンジャだぞー!」と、椅子の上で狂ったようにジャンプする幼いトチノキ。 「やれやれ、トチノキはニンジャが大好きだな」とフジキド・ケンジ。「一体何処で、ニンジャなんて覚えた?」
posted at 22:30:12

「あなたが買ってきたヌンチャクじゃない」と、フユコは子を座らす。 「去年のクリスマスに買ったやつか」「ずっとお気に入りなのよ。それで先日、初めて、箱の絵に気付いたの」 「ニンジャー!」「静かになさいトチノキ、危ないわよ。…それに」その先は小声で言った「ニンジャなんて、いないのに」
posted at 23:12:42

「スリケン! スリケン!」トチノキは大人しくなったと思った矢先、ピッチングマシーンのように両手をぐるぐると回した。 「グワーッ! ヤラレター!」ケンジは息子の無邪気さに応じ、心臓と喉にスリケンが刺さった真似をして、大げさに苦しんで見せた。 「あなた、やめてくださいよ、恥ずかしい」
posted at 23:19:36

「ザッケンナコラー!」不意に、遠くから剣呑な怒声が聞こえた。 「……あら、ヤクザかしら」とトチノキの肩を無意識に抱くフユコ。「店外だろう、大丈夫さ」とケンジ。 店内を見渡すと、同じような境遇の家族連れや若いカップルや同僚サラリマンが、何事もなくテンプラに興じている。何も問題ない。
posted at 23:22:53

確かにネオサイタマは過酷な都市だ。生きるには辛い時代だ。だが、無茶な高望みをしなければ……メガコーポが煽る過剰消費の呪いを逃れ、バリキやズバリの罠にもはまらなければ……こうして幸せは手に入る。 願わくば、トチノキにも賢く育って欲しい。 沸き始めた油を見ながら、ケンジはそう考えた。
posted at 23:27:56

「ドーモ! 活きの良いのが入ってますよ」と、フェイク・イタマエが声をかけて去ってゆく。「ネタはあっちにあります、セルフでどうぞ!」 「ドーモ」と2人は座ったままオジギする。 「ねえ、ショーガツは?」「今日休みを取るだけでも精一杯だったんだ」「顔色、あまり良くないわよ。気をつけて」
posted at 23:35:19

「バクハツ・ジツ! カブーン!」両親の会話をよそに、トチノキは史実を無視した劇画的で記号的なニンジャポーズを取って叫んでいた。 夫婦は笑い、知らぬうちに固くなっていた表情を緩める。 「いいかい、トチノキ、本物のニンジャってのはな…」 …何を言おうとしたのだろう、もう覚えていない。
posted at 23:42:01

……ALAS! まさに、その時だった。フジキド・ケンジの運命が、完全に変わってしまったのは。
posted at 23:48:10

KA-DOOOOOOOM…! 後方でマッシヴ・ハナビの如き爆発音が上がった。全てがスローモーションに見えた。ケンジはトチノキの濁りなき瞳を覗き込んでいた。黒い小さな瞳が、ムービー・スクリーンのように拡大され、ケンジの背後から迫る猛烈な爆風と、ニンジャめいたシルエットを映し出した。
posted at 23:51:51

ああ、ナムアミダブツ!!
posted at 23:52:45

ナムアミダブツ!
posted at 23:52:58

ナムアミダブツ……
posted at 23:53:16

--------------
posted at 23:54:16

動脈血のように赤黒いニンジャ装束を纏い、フジキド・ケンジはシャチホコ・ガーゴイルの上に独り佇む。あの日から、全てが変わってしまった。もう、決して元通りにならないものがあるのだ。 重金属酸性雨で羽を傷めた鴉たちが群れ集い、フジキドの体に停まり、黙々とフロストバイトの肉を啄んでいた。
posted at 23:58:33

「「「ニンジャ殺すべし。だが、俺の供えるセンコは、本当にフユコやトチノキの魂を慰めているのだろうか。彼らは、オーボンの夜にも還らなかった。俺は、正しいのだろうか。俺は本当に、正気なのだろうか」」」 ひときわ大きな三本脚の鴉が、生首から片眼を抉り出し、顔を上げてごくんと呑みこんだ。
posted at 00:04:06

「「「なんたるマッポーの世だ!」」」フジキドは心の中で苦悶する。「「「もしかすると、俺の魂は、俺の中に憑依したあの謎のニンジャソウルと溶け合って、ひとつになっているのではなかろうか。だとしたら……いや、待て、これは何だ!」」」 ニンジャスレイヤーが不意に動いた。鴉たちが飛び去る。
posted at 00:08:22

フジキドは生首を手早くシャチホコの口に詰め込んでから、ニンジャロープとニンジャ脚力を巧みに使って屋上から飛び降りた。果たしてそれは、いかなる偶然であったのか。遥か遠く離れた地上から、ごくごく微弱な……焚かれたオーガニック・センコの香りが……奇跡的にも彼の嗅覚細胞に結びついたのだ。
posted at 00:13:08

スゴイタカイ・ビルの中階層付近まで降りた彼は、垂れ幕を吊るす突起に手を引っ掛け、そこから鋭いニンジャ視力でビル前広場を見た。そこには、マルノウチ抗争慰霊碑の前で静かに手を合わせる、ノボセ息子夫妻とムギコの姿があった。 「おお……ナムアミダブツ!」フジキドのメンポを血の涙が伝った。
posted at 00:18:25

祈り終えたムギコの父は、ノボセ老から託されたオリガミ・メールを読み返した。『ムギコや、わしにはひとつ、心残りがある。お父さんたちと遊びに行くついでに、わしの代わりにスゴイタカイ・ビルに御参りに行っておくれ。お前にはまだ何のことやら分からないだろうが、それで皆、少しは救われるのだ』
posted at 00:23:55

「さあ、もう帰ろう。風邪を引くと悪い」ムギコの父が後ろを振り向くと、彼らの護衛についていたデッカーたちは、まだ手を合わせオジギの姿勢を取っていた。無理もない、マルノウチ抗争で多くのマッポも死んだのだ、と彼は神妙な顔を作った。 「あっ、これ、カワイイ!」不意に、ムギコが声を上げる。
posted at 00:27:10

ムギコの履いていた汚染除けハイカット・ブーツに、寒さと恐怖でガタガタと身を震わせるミニバイオ水牛が擦り寄ってきたのだ。ツチノコ・ストリートを抜けて来た時に、あちこちに小さな傷を負ったようだ。 「ねえ、うちで面倒見てもいい? そう! まだ貰ってないもの、クリスマス・プレゼント!」
posted at 00:31:02

「最後まで面倒を見るかい?」「うん」「じゃあいいよ」 「やったあ! お爺ちゃんにもすぐに見せるんだ!」ムギコはPVCレザー手袋でミニバイオ水牛を抱き上げ、大きくネコネコカワイイ・ジャンプを決めて叫んだ。「メリークリスマス! ネオサイタマ!」 ミニバイオ水牛が驚き、静かに失禁した。
posted at 00:36:32

「メリークリスマス・ネオサイタマ」 終わり
posted at 00:39:14

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 17:22:22

NJSLYR> コンスピーラシィ・アポン・ザ・ブロークン・ブレイド #1

101116

「コンスピーラシィ・アポン・ザ・ブロークン・ブレイド」
posted at 15:14:20

「アカチャン。オッキク。アカチャン。」濁った合成音声広告が水面に反響し、波紋となって暗い水面を揺らす。映り込んだ緑色のボンボリ・ライトを切り裂いて、しめやかに滑るのは、サイレント屋形船の列だ。
posted at 15:23:57

ノビドメ・シェード・ディストリクト。海流の変化によって数十年後の水没が予測されているこの地は、ネオサイタマ有数のマイコ歓楽街でありながら、どこか物悲しい色彩を秘めている。張り巡らされた運河を行き来する無人操縦の屋形船が、このディストリクトの主要な移動手段である。
posted at 15:29:57

「マイコ」「今日は二倍量。」「高くはないし、色気」「ヨイデワ・ナイカ・パッション重点」。運河沿いの建物に所狭しと据え付けられたネオン看板の淫靡に爛れた文言と、扇情的なBGM。屋形船に追い立てられたバイオ鴨が、バイオネギの群生地へ飛びながら逃げて行く。
posted at 15:36:41

屋形船のショウジ戸の内側はワンルーム・マンション程度の広さの茶室となっており、黒金庫型冷蔵庫の中には、オハギ、ヤツハシといった自由につまめる嗜好品があらかじめ用意されている。中にはコタツ施設が完備されたものすらある。
posted at 15:45:03

ノビドメのサイレント屋形船でたらふくスシを食したのち、運河に沿って建てられているクルーズイン・マイコステーションへ船内からワン・ジャンプで飛び込む……世のサラリマンが「贅沢とは」という命題に対し、真っ先に思い浮かべるビジョンであった。
posted at 15:50:02

同時に、常に移動し続けるサイレント屋形船は格好の密談の場でもある。今宵もおそらくは何割かの屋形船の中で、闇経済の綱渡りが行われているに違いない……。
posted at 16:42:24

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posted at 16:56:52

「オットット、オットット」「おやおや、お足元を気をつけてくださいよ?オット、オットット」「いやいや、あなたも、オットットット」
posted at 16:58:15

メジマキ・ビニール・コープのカカリチョ・サラリマン、アメダ=サンはフラフラとシンタマ=サンに寄りかかった。二人は額にネクタイを巻き、サケとバリキで完全に出来上がっていた。二人が後にしたマイコステーション「イカ」の軒先では、マネージャーが深々と二人へのオジギ姿勢を取り続けている。
posted at 17:03:25

「できた店だ!」もうろうとしながら、アメダ=サンは「イカ」軒先を指差した。「まだオジギを崩しませんよ」「奥ゆかしい!」シンタマ=サンは頷いた。「ずっとここに立ってみましょうか?」「ダメ!下品ですよ!」「そうですね!」「そうですとも!」
posted at 17:06:19

すかさず二人は合掌しながら斜め40度に腰を曲げて笑いあった。「ユウジョウ!」相手を非難する際どいジョークは、こうしてその嫌味をすぐに中和するのがセオリーだ。カイシャ世界で揉まれた二人のカカリチョだからこその高度なコミュニケーションであった。
posted at 17:10:01

「いやあ素晴らしい店でした」シンタマ=サンはニヤリと笑った。「あんな大きなオッパイ、見た事ありますか」「いいえ!」「今度はニュービーたちを連れて来ましょう。そうすれば、きっと今よりもよく働きますよ!」シンタマ=サンは饒舌になっていた。「そうですね!」アメダ=サンは笑顔で頷いた。
posted at 17:23:35

「ほらほら、もうお迎えの屋形船が来ていますよ」シンタマ=サンが運河を指差した。アメダ=サンは目を細めた。「あの船ですか?カイシャのエンブレムが見当たらないような……」「競争です!ほら!」ホロヨイのシンタマ=サンがダッシュした。「待ってくださいよ!」「負けたほうがオゴリです!」
posted at 17:26:53

「それは困ります!」アメダ=サンも笑顔でダッシュした。「嘘です!ユウジョウ!」「ユウジョウ!」ハッ、ハッ、と息を吐きながら、二人のサラリマンは屋形船へ走る。「ヒトットビ!」よろけたシンタマ=サンを追い抜いたアメダさんは、力一杯ジャンプして屋形船に飛び乗り、ショウジ戸を引き開けた。
posted at 17:29:40

「アイエーエエエエエエ!?」
posted at 17:31:20

奇怪!ショウジ戸を開けたアメダ=サンの眼前には、上下逆さの顔があった。眉間に寄った皺が見えるほどの近さである。どんよりと酔っていたアメダ=サンの意識が一瞬でシラフに戻る。眼前の男は……ナムアミダブツ、天井からぶら下がっているのか?
posted at 17:35:56

次の瞬間、アメダ=サンは首筋をぐいと掴まれ、茶の間の中へ投げ倒されていた。「アイエーエエエエエエ!」何も知らぬシンタマ=サンが、「ヒトットビ!」やはり首筋をぐいと掴まれ、「アイエーエエエエエエ!?」
posted at 17:39:25

ピシャリ!二人のサラリマンを無理やりに招き入れた茶の間のショウジ戸が素早く閉じられた。アメダ=サンは尻餅をついたまま、室内を見回した。それは、やはり!天井からコウモリのごとくぶら下がり、腕を組んだニンジャであった。…ニンジャ?「アイエーエエエエエエ!!!」アメダ=サンは失禁した!
posted at 17:44:45

「なんだ、そいつらは」茶の間の奥で正座しているニンジャが言った。「さあてな」ピシャリとショウジ戸を閉めたニンジャが無感情に答えた。天井!戸口!奥!ニンジャが三人!「アイエーエエエエエエ!!!!」アメダ=サンとシンタマ=サンは二人でさらに失禁した。
posted at 17:47:55

「一人で十分だ」正座ニンジャが低く言った。戸口ニンジャは無言で頷いた。シンタマ=サンは失禁しながら、とっさの機転で名刺を取り出した。「ド、ドーモ、メジマキ・ビニール・コープのシンタマ・サトシです。船を間違えてしまいました。どうぞよろしく!これも縁ですから、我が社のビニールを……」
posted at 17:55:08

「ドーモ、シンタマ=サン。私はオブリヴィオンです」戸口のニンジャがオジギして名刺を受け取り、右手を差し出し握手を求める。「文字通り飛び込み営業ですな」オブリヴィオン=サンの巧みなエスプリに他のニンジャが笑った。アメダ=サンとシンタマ=サンも笑う。
posted at 18:01:16

さすがだ、シンタマ=サン!アメダ=サンは舌を巻いた。鮮やかなトークひとつで場を収めてしまった。遅かれ早かれ彼は課長になるだろう。その実力は認めざるを得ない。
posted at 18:04:37

シンタマ=サンは満面の笑みで、差し出されたオブリヴィオン=サンの手を握り返した。「イヤーッ!」「アイ……」シンタマ=サンは悲鳴をあげかけ、そして、塵状に分解されて崩れ去った。彼の安スーツとシャツ、下着が、畳の革靴・靴下の上にバサリと落ちた。一瞬の出来事である。
posted at 18:09:22

アメダ=サンは悲鳴を上げた。「アイーアイエーエエー!アイー、アイエ」その口に、シンタマ=サンの靴下が稲妻のごとき速度で詰め込まれる。「……!」
posted at 18:13:15

「質問する。頷くか首を振るかで答えろ」オブリヴィオンがアメダ=サンの目を正面から覗き込む。「お前はただのサラリマンか」アメダ=サンは力一杯頷いた。涙目で何度も繰り返し頷いた。
posted at 18:16:57

「マイコ遊びの帰りか」アメダ=サンは力一杯頷いた。「船を間違えたか」アメダ=サンは力一杯頷いた。
posted at 18:20:31

オブリヴィオン=サンは一瞬、沈黙し、それから奥で正座するニンジャを見た。「嘘は言っていない」…まごころが通じたのだ!アメダ=サンは安堵のあまり失禁しかけたが、もう膀胱は空っぽだ。
posted at 18:24:23

「では消せ」奥のニンジャが無造作に言い、オブリヴィオン=サンが頷いた。そしてアメダ=サンの頭をつかんだ。「イヤーッ!」「アイ…」アメダ=サンは塵芥に分解され、カツオブシめいたカサカサの細胞の粉となって、衣服とともに畳の上に散らばった。
posted at 18:27:43

「くだらない余興が間にはさまったが、そろそろ時間だ。始めなさい」正座ニンジャが低く言った。天井ニンジャが畳上に着地した。オブリヴィオンはショウジ戸を少しだけ開け、外の様子を伺った。「よし」勢いよくショウジ戸を開くと、彼は天井ニンジャを伴い、運河とネオンの夜の中へ滑り出た。
posted at 18:50:40

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posted at 19:13:29

「「「イイイヤァーッ!」」」
posted at 19:31:55

「「「ヤラレターッ!」」」
posted at 19:32:16

「「「地獄から戻ったぞ、ダークニンジャ=サン!!!」」」
posted at 19:33:46

「「「バカなーっ!」」」
posted at 19:35:07

「「「フジオ=サン。今はまだそのときではない」」」
posted at 19:36:17

「「「折れたる剣を……」」」
posted at 19:37:44

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posted at 19:38:14

(親愛なる読者のみなさん:たった今、IRCメッセージにて、モーゼス側から直接の修正要求が入りました。下書きノートの仮テキストを誤って掲載しているとの事です。翻訳チームの該当者は拘束されました。修正箇所はごくわずかですみます。)
posted at 21:25:25

(間もなく更新が再開されます。混乱を呼んだスタッフは明朝早々にアバシリ研修へ送られます。)
posted at 21:30:08

(更新を再開いたします。大変ご不便をおかけいたします)
posted at 21:34:48

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posted at 21:35:34

運河沿いの道をひとつ奥へ入り、 淫靡なネオン看板が表通りよりもさらに過密に交錯する路地裏へ足を進めながら、2人のニンジャはブツブツと囁きかわす。
posted at 21:36:24

2人の頭上で明滅するネオン文言は、より一層露骨かつ破廉恥だ。「上下体位OK」「回転する」「スゴスギル」「触る」……。
posted at 21:40:05

「今更こんな事を確認するのも何だが」オブリヴィオンの相棒、先ほど天井からぶら下がっていた藍色のニンジャ、ナインフィンガーが問う。「あいつが実際誰なのか、考えた事は?」「……さあな」
posted at 21:55:17

オブリヴィオンは首を振った。ナインフィンガーはなおも続ける。「二重スパイで、今回の情報をエサに、反乱分子をあぶり出そうとしているとは考えられんか?」「無いな」オブリヴィオンが冷静に答える。「それは奴にとってもリスクが大きすぎる行為だ」「……違いない」
posted at 21:57:37

ナインフィンガーは納得し、無駄口をやめた。「あいつ」、すなわち、屋形船で2人の首尾を待つニンジャは、己をゴンベモンと名乗った。ゴンベモンとはネオサイタマにおいて「ジョン・ドー」のように使われる言葉である。
posted at 22:02:41

ふざけた自称ではあったが、ゴンベモンからの提案とそれに付随する精緻な情報は、オブリヴィオン達にとってあまりにも魅力的なものだった。かように精緻な情報を持っているからには、このゴンベモン自身、ソウカイヤにおいて相当のアクセス権限を所持する上位存在であろう事は必定であった。
posted at 22:14:06

ゴンベモンが二人の元へ持ち来たったのは、ニンジャスレイヤーに敗れ植物状態となって集中治療を受けているダークニンジャの詳細な所在とセキュリティ情報……すなわち、ダークニンジャ暗殺計画であった。
posted at 22:30:17

謀反!いや違う。オブリヴィオンとナインフィンガーは、ソウカイ・シンジケートとマスターニンジャたるラオモト・カンに対して鋼のような忠誠心を持つ、生え抜きの武闘派ニンジャであった。忠誠心あればこその、殺意!
posted at 22:38:43

ラオモト・カンは出自も知れぬダークニンジャを重用しすぎている。確かに彼のカラテ、情報収集能力、知能の高さ、奥ゆかしい美徳的謙虚さ、全てが非凡であった。だが彼は完璧すぎる。プロパーではない彼があれほどの力と権限を持てば、必ず後の災いとなる……!
posted at 22:40:44

ゴンベモンの暗殺計画は、まさに渡りに船だ。ダークニンジャほどの使い手がこのまま植物状態から復活しないなどという事は万にひとつもない。であれば、今こそ千載一遇の絶好の機会である。暗殺の先にあるゴンベモンの目的は知る由も無い。しかし手段が用意された。それだけで十分だ。
posted at 22:45:50

「ここだ」オブリヴィオンが上り坂で立ち止まり、告げた。ブルーとピンクのうるさいネオンで「オジサン」とある。そのマイコステーションの隣には錆び付いた日焼けサロンの看板。「遊び人的な」とミンチョ体のレタリング。ふ、とナインフィンガーが笑う。「この地下か。わかろうはずも無い」
posted at 23:01:20

日焼けサロンはヒビ割れたコンクリートの雑居ビルでしかない。だが、ここだ。二人は確定的な殺意を胸に、朽ちかかったビルの中へ踏み込んで行った。
posted at 23:07:31

(「コンスピーラシィ・アポン・ザ・ブロークン・ブレイド」#1 おわり。#2へ続く
posted at 23:09:38

◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 23:18:05

◆◆◆◆◆◆◆
posted at 19:08:30

NJSLYR> コンスピーラシィ・アポン・ザ・ブロークン・ブレイド #2

101117

「コンスピーラシィ・アポン・ザ・ブロークン・ブレイド」#2
posted at 19:08:48

「いらっしゃいませ……」目を半開きにした老人が、強化ガラス越しにオブリヴィオン達に声をかけた。「『焼き』ですか」ガラスには雑多なチラシが貼り付けられている。「10枚1000円」「野菜」。ナインフィンガーが進み出た。「おやじ、『焼き』じゃない。『キンコ』だ。三時間」
posted at 19:14:25

しばしの沈黙。「……三時間ですと200万円。10万円ディスカウント。わかります?素子でも大丈夫です」老人が強化ガラス越しに答えた。ナインフィンガーは淀みなくクレジット素子を差し出す。「これで」「ハイ」ガラスの下の隙間からサイバネティック義手が現れ、素子をつかんで引っ込んだ。
posted at 19:18:57

「今認証してるから」「ハイ」ナインフィンガーは右手で拳を作ったり開いたりしながら無感動に答えた。オブリヴィオンはじっと無言である。
posted at 19:21:03

その道の手練れが歓楽街の奥深くを探れば、この手の店を一つか二つ、見つけ出せるものだ。屋形船のような移動密室でもなお不足な……スネに傷を持つ人々、あるいは企業の重要機密に触れるプレゼンテーション、そういった用途のために設けられた閉鎖空間。それが俗に言う「キンコ」である。
posted at 19:24:20

「いいよ、ドーゾ」老人が素子を返した。「ドーモ」ナインフィンガーは軽くオジギした。この素子も、トレスされぬようにゴンベモンが用意した今回限りのものだ。おそらくどこかの無用心なカチグミ・サラリマンの所持品をクラックしたものだろう。
posted at 19:37:33

「奥入って、エレベータね」「ドーモ」ナインフィンガーは顎で合図した。オブリヴィオンが先に立って進む。左右に日焼けカプセル室のパーティションの入り口が霊安室のように並ぶ。漏れ出る暗青色のUVボンボリに照らされた通路はユーレイめいている。
posted at 19:59:37

ユーレイ。実際、この通路はジゴクへ向かうサンズ・リバーのほとりと言えなくもない。「ヤケルー」傍のカプセルの中から恍惚とした声が聞こえてくる。この声はさながらモウジャか。そして地下のジゴクに待つのは、金棒とサスマタで死者を断罪するエンマ・ニンジャではなく、瀕死のダークニンジャだ。
posted at 20:10:22

突き当たり、エレベーターは開いた状態で待機していた。二人のニンジャは無言でそこへ乗り込む。「いらっしゃいませ」合成マイコ音声が歓迎し、エレベーターのドアが閉まった。
posted at 20:26:08

階数表示の「地下四階」の押しボタンがLEDで点滅している。これは店の指示である。このフロアのキンコを借りた事になっているのだ。だがナインフィンガーは迷わず一番下の「地下十三階」のボタンを押した。ギュグン!重苦しい軋み音を伴い、エレベーターが下降を始める。
posted at 20:59:00

ナインフィンガーは右手をキツネ・サインの形にした。なにも相棒のオブリヴィオンを挑発しようというのではない。キツネ・サインの形をとった右手の皮膚が内側から開き、歯医者道具やヨネミ・デューティー社の「ジュットク・ベンリ」を思わせる無数の細かい棒状金属ツールが現れた。
posted at 21:04:05

コマカイ!この右手のサイバネティック義手がナインフィンガーのコードネームの由来であった。地下一階、地下二階……LEDが点灯してゆく。ナインフィンガーはオブリヴィオンを見た。オブリヴィオンは頷いた。
posted at 21:11:54

「イヤーッ!」ナインフィンガーは細密サイバネティック義手を操作盤に突き刺した。突然のショックに困惑したかのように、階数表示のLEDが目まぐるしくデタラメに点灯する。
posted at 21:14:26

地下三階……地下四階……エレベーターの下降速度が一際速くなり、直後、静止した。階数表示のLEDの全部が点灯したままになった。ナインフィンガーはオブリヴィオンに頷いて見せた。「ハッキング完了だ。地下12階と13階の間だ。下降するぞ」「うむ」「お前の出番は、じきだ。もうすぐだ」
posted at 21:20:57

「任せておけ。殺る!おれのディスインテグレイト・ツカミは必殺だ!」オブリヴィオンは決然と言い放った。ギュグン!決然たる速度でエレベーターの再下降が始まった!
posted at 21:37:33

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posted at 21:53:03

「「「必要ない……」」」
posted at 22:27:27

「「「本気を出せニンジャスレイヤー……」」」
posted at 22:29:46

「「「セプクさせるまでもない」」」
posted at 22:30:11

「「「八つめのニンジャ・ソウルが……」」」
posted at 22:30:54

「「「折れたる剣を……」」」
posted at 22:34:07

「「「やめろ、やめろ、わかっておるのかカタクラ、そのベッピンには」」」
posted at 22:36:41

「「「かつてのキンカク・テンプル」」」
posted at 22:38:49

「「「ヌンジャ…」」」
posted at 22:39:25

「「「目を覚ませ、フジオ!」」」
posted at 22:39:58

「「「これは驚いた。お前はあの時のサラリマンだというのか」」」
posted at 22:41:57

「「「目を覚ませ!フジオ・カタクラ!」」」
posted at 22:42:32

「イヤーッ!」襲撃者の鋭い突きを、フートンの上のダークニンジャは素早く寝返りを打ってかわした。彼の身体中に固定されていたチューブ類が寝返りの際にブチブチと外れた。襲撃ニンジャの右手の突きはフートンを貫通し、おそらく床をうがったであろう。
posted at 22:51:50

「イヤーッ!」ダークニンジャは両脚を振り回し、襲撃ニンジャの脚を払う!朱色の装束を着た襲撃ニンジャは不意をつかれ転倒しかかる。ダークニンジャはスプリングキックでその胴体を蹴り飛ばした。
posted at 22:54:43

「グワーッ!」吹き飛びながら朱色のニンジャはバク転を三連続で決め、ジュー・ジツの構えで着地した。「イヤーッ!」フートンから斜めに飛び出しながら、冷静なダークニンジャは覚醒したばかりの自分が置かれた状況把握につとめていた。
posted at 23:01:34

目の前のニンジャはオブリヴィオン=サンだ。彼の武器はディスインテグレイト・ツカミ。つかんだ生体を振動で分解するジツだ。ここは?四角いサップーケイな部屋だ。部屋の中央のフートンにダークニンジャは寝かされ、なんらかの治療を受けていたようである。
posted at 23:07:52

オブリヴィオン=サンの背後のカーボンナノチューブ・フスマは半開きになっている。その近くにもう一人ニンジャの生体反応。ツーマンセルで現れたか。この部屋はおそらく己のために用意された治療施設……
posted at 23:16:24

「イヤーッ!」オブリヴィオンが右腕を振り上げ、再び襲いかかる。「イヤーッ!」ダークニンジャは懐へ潜り込むと、左手の甲でオブリヴィオンの上腕部を打ち、反らした。オブリヴィオンのディスインテグレイト・ツカミの手を直接に止めてはいけない。つかまれればすなわち、死だ。
posted at 23:36:59

「イヤーッ!」ダークニンジャは両手の平をオブリヴィオンの胸に当て、力強く踏み込んだ。「グワーッ!」衝撃を叩き込まれたオブリヴィオンがよろめく。本来であればここでさらに一撃加えてトドメを刺すところだが、ダークニンジャはそれを見送った。スタスタと大きく二歩後退する。
posted at 23:40:17

覚醒したばかりのダークニンジャは用心深い防御姿勢を取り、己の現在の負傷状況を読み取ろうとした。首筋に蓄積したダメージが最も大きい。首を骨折した可能性がある。ニンジャスレイヤーのあの恐るべきカラテの衝撃がフラッシュバックし、ダークニンジャは思わずうめいた。
posted at 23:45:09

敵は一人ではない。戸口にもう一人潜んでいる。トドメを焦れば横からアンブッシュされる可能性もあるのだ。「ドーモ、ダークニンジャ=サン。オブリヴィオンです」「ドーモ。オブリヴィオン=サン。ダークニンジャです」ダークニンジャは防御姿勢を崩す事を嫌い、イナズマのように素早くオジギした。
posted at 23:51:18

「後で尋問する」ダークニンジャは無感情に告げた。「誰の差し金かを話してもらおう」オブリヴィオンが一笑に伏した。「果たして今のお前にそれができるか、ダークニンジャ=サン。フートンの中でプロジェクト住まいのネタキリ老人のように無力で無防備だったお前に。悪運は二度無いと知れ」
posted at 00:05:37

ダークニンジャはオブリヴィオンの挑発に乗らず、思考を続ける。この部屋に「ベッピン」は無い。ソウカイ・シンジケートはベッピンを回収しただろうか。ではラオモト=サンのもとに?あるいは、鎮守の森に放置された可能性もある。あるいはニンジャスレイヤーの手に渡ったか?
posted at 00:17:43

(親愛なる読者の皆さん:翻訳チームのスシが切れたことによる中断からまもなく再開いたします。)
posted at 22:23:29

ダークニンジャはオブリヴィオンの挑発に乗らず、思考を続ける。この部屋に「ベッピン」は無い。ソウカイ・シンジケートはベッピンを回収しただろうか。ではラオモト=サンのもとに?あるいは、鎮守の森に放置された可能性もある。あるいはニンジャスレイヤーの手に渡ったか?
posted at 22:55:31

……いや。ただ粛々と回収するのみ。折れたるベッピンを手にしたのが協力者であろうと、敵対者であろうと。ヌンジャを知る者はこの世に数えるほどしかいないのだから。むしろ厄介なのはドリームランド埋立予定地に廃棄されてしまう事だが……ダークニンジャはそれ以上の思考は不要と判断した。
posted at 23:15:21

「ゆくぞ」ダークニンジャは防御姿勢を解除し、小刻みなステップでオブリヴィオンへ接近を開始する。ジュー・ジツの高等技術、コバシリだ。ダークニンジャの防御をいかに崩すかをシミュレートしていたオブリヴィオンが判断を切り替えた時には、既に彼はオブリヴィオンの懐であった。
posted at 23:20:04

「イヤーッ!」「イヤーッ!」オブリヴィオンが振り上げた右手を振り下ろし、ダークニンジャをつかもうとする。だが遅い!懐から繰り出されたダークニンジャのワン・インチ・パンチがオブリヴィオンの脇腹を捉えた!
posted at 23:32:48

「グワーッ!」オブリヴィオンは背後の壁まで吹っ飛んだ。浅い。さきのニンジャスレイヤー戦での負傷のせいだ。まともに受ければ口から内臓が飛び出すほどの打撃力をもつダークニンジャのワン・インチ・パンチであるが、あれではダメージが外に逃げる。しかしダークニンジャが向き直るのは戸口。
posted at 23:37:24

体を九の字に折って苦しむオブリヴィオンを一瞥し、ダークニンジャはカーボン・ナノチューブ・ショウジ戸へコバシリする。そこから室内へ突入・アンブッシュしようとしていた第二の敵対者の懐へ、一呼吸で到達していた。「な!?ハヤイ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 23:42:54

ジゴクめいたワン・インチ・パンチが突入ニンジャの腹部に命中!藍色の突入ニンジャは回転しながらオブリヴィオンの反対の壁に激突する。やはり浅い。致命傷にならず!
posted at 00:25:47

「そのニンジャ装束。ナインフィンガー=サンか。なるほど」ダークニンジャは突き進んだ。「貴様がロックを解除しつつ、直接の白兵戦はオブリヴィオン=サンというわけだな」ナインフィンガーは震えながら血を吐いた。「……ソウカイヤを私するヨタモノめ……」
posted at 00:32:40

「私怨が動機なのか?」ダークニンジャはナインフィンガーの首をつかんだ。「だが、お前達二人でイチから計画を立てたという事もあるまい。指示を出したのは誰だ?」「……」「……ボスか?」「知らぬ……」「イヤーッ!」
posted at 00:41:37

背後!予想外に早く回復したオブリヴィオンがつかみかかってきた。「イヤーッ!」ダークニンジャは右手の握力でナインフィンガーの首をへし折ると同時に、真後ろに鋭い蹴りを繰り出した。「イヤーッ!」「グワーッ!」オブリヴィオンはまともに蹴りを受けるが、その攻撃は止まらない!
posted at 01:13:20

「グワーッ! ソウカイ・シンジケート、バンザイ!」肋骨をネコソギ砕かれながら、オブリヴィオンはダークニンジャの肩を掴んだ。「もとより命など惜しくない! このまま貴様をディスインテグレイトするのみだ!」「イヤーッ!」ダークニンジャの突きが心臓を貫通した!
posted at 01:20:23

「グワーッ! ラオモト=サン、バンザイ!」朱のニンジャ装束よりも濃い血を吐きながら、オブリヴィオンは残る手でダークニンジャの顔面を掴んだ。ナムアミダブツ! なんたる執念か! 「こ、これで、これで終わり、ディスインテグレイトして……」
posted at 01:49:05

オブリヴィオンは血泡まじりの不明瞭な言葉を呟きながら、ダークニンジャを壁に押しつけた!
posted at 02:03:22

(「コンスピーラシィ・アポン・ザ・ブロークン・ブレイド」#2 終わり。#3へ続く
posted at 02:04:18

◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 02:04:29

NJSLYR> コンスピーラシィ・アポン・ザ・ブロークン・ブレイド #3

101120

「コンスピーラシィ・アポン・ザ・ブロークン・ブレイド」#3
posted at 17:45:00

オブリヴィオンは血泡まじりの不明瞭な言葉を呟きながら、ダークニンジャを壁に押しつけた!
posted at 17:46:40

ナムサン!言わばこれは王手。
posted at 17:47:50

オブリヴィオンが叫びとともにニンジャ気合いを込めれば、ジツが発動、対象はカツオブシ・ダストのようにカサカサの塵芥へ分解するのだ!「イ…イ……」ゴボゴボと血泡を吹きながら、オブリヴィオンが両手に力を込めようとする。
posted at 17:49:54

オブリヴィオンは失われつつある命をいまいちど振り起こそうとした。最後に、最後にこのダークニンジャ=サンだけは。ダークニンジャ=サンだけは道連れに。
posted at 18:18:38

シックスゲイツに属さない、ラオモト=サン直属のエージェント……出自不明……あの怪しいカタナ「ベッピン」もそうだ。あれはソウカイヤで手配したものではない。
posted at 18:20:37

自らの事はほとんど語らず、一方でソウカイヤのニンジャの事は不気味なほどに把握しきっている……不気味なほどに有能……ネコソギ・ファンド副社長の社葬の時も不在……こいつには、表に現れる「私」が無さすぎる。こいつ自身の目的が必ず存在する。
posted at 18:26:07

その目的が、必ずソウカイ・シンジケートへの災いとなって……ゴンベモンもそれを危惧すればこそ……ゴンベモン、しかしそもそも、あいつは誰だ?少なくとも「シックスゲイツの六人」の一人でなければ、ダークニンジャの所在情報など……
posted at 18:28:42

ニンジャスレイヤーのせいで「シックスゲイツの六人」は入れ替わりが早すぎる……誰だ……いや、とにかくダークニンジャを……今はダークニンジャ……こいつが災いを……災い……?根拠は何だ?
posted at 18:30:57

致命傷を受けたオブリヴィオンの思考は混濁する。根拠は……とにかくダークニンジャを殺せ……ダークニンジャを道づれに!「イヤーッ!」
posted at 18:34:12

「イヤーッ!」オブリヴィオンはダークニンジャの頭を掴んだ左手に力を込めようとする。力がこもらない?
posted at 18:37:05

「グ、グワ……?」オブリヴィオンは己の左腕の肘骨が、腕を突き破って飛び出している事に気づいた。今か?ダークニンジャが裏拳でオブリヴィオンの左腕を破壊したのか?
posted at 18:41:57

左手がダークニンジャの顔から外れ、垂れ下がった。ナムサン!では肩を掴む右手に力を!「イヤーッ!」「イヤーッ!」力がこもらない!
posted at 18:43:53

オブリヴィオンの右手がダークニンジャの肩を離れ、だらりと垂れ下がった。今や右腕の肘骨も左腕同様に、腕を突き破って飛び出している。裏拳でオブリヴィオンの左腕を破壊したのち、ダークニンジャはその手で右腕をパンチし、同様に破壊したのだ。
posted at 18:47:14

「グワ……」もはやオブリヴィオンの目はなかば暗闇であった。自由になったダークニンジャがオブリヴィオンの額を指で押した。もはや抗う力など無く、そのわずかな力によってオブリヴィオンは仰向けに倒れ、死んだ。
posted at 18:51:50

--------
posted at 18:56:38

「アカチャン。ソダッテ。アカチャン。」電子広告音声が水面を波立たせる。ホロヨイ・サラリマンが運河へ嘔吐する横を、ダークニンジャは無造作に通り過ぎる。
posted at 19:02:26

彼がゆく路地の空は淫靡なネオン看板が醜く切り取っている。「マイコ」「今日は二倍量。」「高くはないし、色気」「ヨイデワ・ナイカ・パッション重点」。月は無い。重金属酸性雨こそ降らないが、夜空を覆う雲は厚い。
posted at 19:05:01

淫靡なマイコセンターの建ち並ぶ中を歩み進んだダークニンジャは、やや広く開けた運河に出た。飛び来たったバイオ鴨の群れがジャブジャブと音を立てて着水する。道に横付けして停止する屋形船のひとつを彼は迷いなく選び取り、音もなく跳び乗ると、ショウジ戸を引き開けた。
posted at 19:18:02

「ドーモ。はじめましてダークニンジャです」茶の間の奥で正座するニンジャへ、ダークニンジャはアイサツした。「……しくじったか」正座ニンジャはシツレイにもアイサツを返さず、毒づいた。
posted at 19:26:12

「チャでもいかがですか」正座ニンジャはチャブダイの上のキュウスと、アサガオ柄の電気保温ポットを指差した。「オハギもあるしヤツハシもあります」
posted at 19:28:57

「……お前は誰だ」ダークニンジャは戸口で立ったまま問いかけた。正座ニンジャははぐらかした。「こうも容易に私を見つけられてしまうとは、お手上げです。拷問に折れるとは、あの方々もなんとも情けない限りだ」
posted at 19:34:39

「オブリヴィオン=サンとナインフィンガー=サンは戦って死んでいった。二人の足跡のニンジャソウルの痕跡をトレスしただけのこと」ダークニンジャは無感情に答えた。正座ニンジャが笑う。「ホホホ……さすがはダークニンジャ=サン、一筋縄では行かないことだ……」
posted at 19:37:59

正座ニンジャは哄笑した。「ホホホ!ホホホ!」その笑いがどんどん大げさになり、肩を震わせ、やがて不自然なほどの痙攣となった。ダークニンジャは目を細め、一瞬の判断でショウジ戸を突き破って船外へ跳び出す。正座ニンジャが電子音めいてディストーションのかかった声で叫んだ。「サヨナラ!」
posted at 19:45:29

ナムアミダブツ!自爆である!屋形船は正座ニンジャの巨大な爆発に飲み込まれた!
posted at 19:47:45

「アイエエエエ!」運河に面したマイコセンター「ドスエ」から、爆発に驚いたホロヨイ・サラリマン数人と半裸のマイコ、店員が飛び出し、路地裏へ逃げ去った。爆炎が吹き去り、片膝をついて着地したダークニンジャは、埃を払って立ち上がった。
posted at 19:53:50

ごうごうと燃え盛る屋形船が、暗い水面を不吉なオレンジに照らす。ダークニンジャは別の気配を感じ取り、そちらへ向き直った。「ドーモ。ダークニンジャ=サン」
posted at 20:03:54

路地裏から現れアイサツしたのは、8フィートはあろうかという巨躯のニンジャである。ニンジャ装束には毛筆体のカタカナで「カメ」と描かれ、頭部はシシマイめいた巨大なマスクで覆われている。「マスター・トータスです、ダークニンジャ=サン」
posted at 20:06:12

「……ドーモ、マスター・トータス=サン。ダークニンジャです」ダークニンジャは隙の無いアイサツを返した。マスター・トータスは右手に持った紫色のフロシキ包みを差し出した。「ご無事でなによりでした。ダークニンジャ=サン。無駄足になるところでした」
posted at 20:08:51

「……」ダークニンジャはマスター・トータスを睨んだ。マスター・トータスは電子的に増幅された不気味な音声で説明した。「ベッピンです。刀身と、柄。現場から回収しました。これはあなたのものです」
posted at 20:13:43

ダークニンジャは油断なく、差し出されたフロシキ包みを受け取った。その場でフロシキを取り払うと、言葉通り、折れたるベッピンの柄と刀身が現れた。刀身に平安時代の文字で刻み込まれた禍々しいハイクは他と間違えようが無い。「……ドーモ」
posted at 20:18:41

「サンダーフォージ=サンを探しなさい。ダークニンジャ=サン。彼ならばベッピンを鍛え直すことができましょう。そこらの刀鍛冶ではいけませんぞ、災いが来たります」「サンダーフォージ?聞いたことの無い刀鍛冶だが」ダークニンジャが眉根を寄せる。
posted at 20:24:46

「じきにわかります」マスター・トータスはそれだけ言い残すと「では、また!オタッシャデー!」信じ難いニンジャ跳躍力で垂直にジャンプ。マイコセンター「ドスエ」の瓦屋根の上に飛び移り、さらに跳躍、夜の闇に消えて行った。
posted at 20:29:15

ダークニンジャは折れたるベッピンを丁寧にフロシキで包み直し、自分の体にタスキがけに結んだ。燃え盛る屋形船は火の粉を曇り夜空に吹き上げている。
posted at 20:39:51

遠くからノビドメ・シェード消防隊が打ち鳴らすファイヤーベルと、「火の用心!火の用心!」という警告音が聞こえてくる。ダークニンジャは素早く身を翻し、路地裏の影へ走り去った。
posted at 20:42:19

「火の用心!火の用心!」けたたましい警告音声は、今宵、闇の中で人知れず死んでいったニンジャ達へのネンブツめいて、鳴り響いていた。
posted at 20:49:00

「コンスピーラシィ・アポン・ザ・ブロークン・ブレイド」終わり
posted at 20:49:52

◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 20:50:54

NJSLYR> オウガ・ザ・コールドスティール #1

110309

オウガ・ザ・コールドスティール
posted at 14:50:58

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posted at 14:51:26

埃と煤煙、油と錆。カバヤキ屋台のテリヤキ・ソースが焼ける匂い。タマ・リバーにかかる「絶望の橋」を渡れば、そこは潰れかかったような平屋のプレハブが迷路のように立ち並ぶオオヌギ・ジャンク・クラスター・ヤードである。
posted at 14:56:40

煤と泥で真っ黒になった子供達が獣のようにら騒ぎあいながら駆け抜ける道路の脇で、泥酔者が失禁しながらへたり込み、曇天をぼんやり見上げている。プレハブに打ち付けられた無骨なトタン看板には「アンタイセイします」「毎日集会」「立ち退きしないと思う」といった戦闘的文言。
posted at 15:00:22

それらのスローガンと競い合うように、それぞれの家屋には、粗末な電球で飾り立てられた「キチン宿」「おいしい蒲焼き」「お祭りみたい」「一日の疲れ」など、本業を示す看板が掲げられている。
posted at 15:06:54

「タマ・リバーをわたるとき、すべての希望を捨てよ」。読み人知らずのハイクが「絶望の橋」という俗称のゆえんである。食い詰め、住む場所を失い、カンオケ・ホテルにすら泊まれなくなった日雇い労働者の最後の吹き溜まりが、このジャンク・クラスター・ヤードなのだ。
posted at 15:20:36

半壊したガレージめいた食堂のオープンスペースでモジョー・ガレットを食べていた男の、目深に被ったハンチング帽と重金属耐性のトレンチコートという身なりは、この町のネイティブたちと比べれば小綺麗とすら言えた。
posted at 15:33:42

小麦粉と化学たんぱく質を水で溶いたペーストを鉄板に流し、半生の状態をヘラですくって食べるモジョー・ガレットは、安価な栄養源としてネオサイタマ下層民の間で重宝される食物である。男はトークンを鉄板の脇に置き、オジギして立ち去った。
posted at 15:41:41

住人の胡乱な視線を受けながら、ハンチング帽の男は迷路じみた路地を歩き、やがて目的の店「有限会社ドウグ」のプレハブへたどり着いた。軒先には木彫りのオメンが吊るされ、魔除けめいて通行人を睥睨していた。
posted at 15:46:30

男は軒先でしばし立ち止まった。ショウジ戸の向こうで争うような声が聞こえてくる。男は店の脇に停められた黒塗りの車両を一瞥した。
posted at 15:48:47

「何度来ようが同じだ!お前には何もやらんと言うておる!」「父さん!僕は貴方から何かを奪おうとか、そんな事これっぽっちも考えてないんです!どうかちゃんと話を……」「出ていけ!ドウグ社はワシの代で終わりだ!」「父さん!」「父さんなどと呼ぶな!オムラの人間は出ていけと言うておる!」
posted at 15:53:18

「僕は、僕はただ……クソッ!」「出ていけ!出ていけ!」パァン!音を立ててショウジ戸が開き、オーダースーツを着た若い男が飛び出してきた。ハンチング帽の男とぶつかりそうになり、「スミマセン」と謝罪した。涙声であった。
posted at 15:59:54

ハンチング帽の男は素早くそのサラリマンを観察した。サラリマンの手の甲には雷神を象徴するオムラ・インダストリの社章がバーコードと共に刻印されている。黒塗りの車両のドアにペイントされた金のエンブレムも同様だ。サラリマンは足早に車に乗り込み、発進させた。
posted at 16:10:20

少しして、中から日焼けした老人が塩を手づかみして現れた。ハンチング帽の男に気づくと彼は無言で会釈し、まず道路にその塩を撒くと、あらためてオジギした。「ドーモ、モリタ=サン。もしかして、今の見苦しいところ、見せちまいましたか」
posted at 16:34:24

「ドーモ」モリタ……つまり偽名を使っているフジキドは、奥ゆかしくノーコメントであった。老人は踵を返し、店の中へ戻って行く。「さあ中へ。出来てますから」「ハイ」
posted at 16:38:34

老人はフジキドを伴って、店内へ足を踏み入れる。黒檀の年代物のテーブルの上にはノコギリ、カンナ、象牙のスクリュードライバー等のクラフトマン・ツールが無造作に置かれ、奥には火の入った小型の炉すらある。天井近くの神棚にはカタナと盃、「安全第一」の毛筆が備えられている。
posted at 19:36:40

みすぼらしい外からの眺め、建物のロケーションとはうってかわり、建物内は厳かな日本的クラフトマンシップの精髄ともいうべき、ゼン的調和に満たされた小宇宙であったのだ。こここそが、江戸時代に創業されて以来ネオサイタマの今へ古のワザを伝えるドウグ社の本堂である……。
posted at 19:39:54

「ドーゾ」老人は黒檀の机の上に、ドウグ社の社紋がプリントされた皮袋を置いた。ズシリとした重み。袋の口から、中に詰まった金属塊が幾つかこぼれ出る。
posted at 19:42:29

フジキドはその一つを注意深く指でつかみ、吟味した。クサビ型の刃が放射状に突き出した機雷めいたフォルム……。貴方がシックスゲイツ級のニンジャであれば、あるいはそれが何であるか解るかもしれない。地面に撒いて敵の動きを封じなおかつ傷つける平安時代の非人道兵器、マキビシである。
posted at 19:52:07

「良い仕事です」フジキドは呟いた。老人は無言の誇りをたたえ、頷いた。フジキドは老人にこの武器の用途の詳細は伝えない。伝えれば巡り巡ってソウカイヤに情報をつかまれ、老人に危害が及ぶ恐れがあるからだ。老人もあれこれ詮索はしない。この取り引き相手がいかなる存在であるか、察しているのだ。
posted at 19:56:21

忍殺メンポ、カギつきロープ、スリケン。ニンジャスレイヤーを支えるツールの数々はドウグ社が信頼の元で用立てたものだ。ソウカイヤのニンジャの中にもこの老人・サブロから道具を手配するスゴウデがいるであろう。しかし顧客の秘密は絶対であった。サブロは顧客名簿を残さず、全て脳内に記憶する。
posted at 20:04:05

「お代はいつものように、前金でいただいてますからね、モリタ=サン。そのままお持ちになってくださいよ」「ハイ」サブロ老人は一瞬無言になり、「……今日はお見苦しいところを。スイマセン」フジキドは無言で耳を傾ける。この老人は話したいのであろうから。
posted at 20:10:41

「あれは私の息子でね。嫁があれを連れて逃げたのは、あれが十歳の時です。なに、私が悪いんですよ。まあそりゃいいです、そして先日、嫁の訃報を携えて私の前に現れまして……そして言うに事確欠いて、オムラだと」吐き捨てるように、「これも好き勝手やってきた私への、ブッダの罰なんでしょうねえ」
posted at 20:16:56

ドウグ社の哲学は「人の手足な」である。義手・義足職人から発祥したドウグ社は、人の営みを支え助ける事をモットーに歴史を刻んできた。産業のオートメーション化を率先して推し進め、人間の仕事を容赦なくネコソギにしていくオムラ・インダストリを彼が蛇蝎の如く憎むのも道理であった。
posted at 20:24:28

「いずれ私の体も思うようにいかなくなるでしょう。仕方の無い事です。ドウグ社は私の代で終わりだ」自嘲的に笑った。「ウチのやり方はもう、時代遅れなんでしょう。どこを見ても、サイバネ、ロボット、バリキにズバリだ。弟子もろくに取れなかった私は、ジゴクで先祖に詫びねばなりません」
posted at 20:33:12

「……」「こんなくだらない話をしちまって。私ときたら!……ですが、私の目が黒いうちは、貴方の力になります。モリタ=サン」サブロ老人はフジキドをじっと見た。「これはつまらん身の上話で、独り言です。……私ァね、ニンジャに両親と兄弟を殺されてるんです」
posted at 21:05:01

--------
posted at 21:10:35

「エー、それでは、そろそろ始めさせていただきます、ハイ」掘りゴタツ式の座席がしつらえられた大型プレゼンテーション・ルームの明かりは仄暗く、隣に座る者の顔も見えるか見えないかといったところである。集められたのは区議会議員、マッポ関係者、オムラの御用ジャーナリスト達だ。
posted at 23:04:05

スクリーンの脇でやや緊張した面持ちでマイクを握るオムラ・サラリマンは、咳払いを一つして、話し始めた。「エー、この混迷するネオサイタマ治安、自暴自棄となった末端労働者ですとか浮浪者ですとか、その手の不穏な層の人間が日々さまざまな経済活動を阻害し、市民の安全を脅かしております」
posted at 23:08:34

スクリーンには逆関節の二足歩行デザインのロボット兵器の三面図が映し出される。プレゼン・サラリマンの手元の操作にあわせ、スクリーンの左から「モーターヤブ」「実績のある効果」という文言が飛んできて所定位置に固定された。
posted at 23:15:41

「そういった治安悪化に歯止めをかけるべく、我が社のテクノロジーは常に皆様に最良に近い選択肢を提供し続けてまいりました。それはこのモーターヤブの導入効果でも明らかでございましたようにですね、ハイ」
posted at 23:18:23

続けて、少なからず誇張されたモーターヤブ導入台数と区の犯罪発生率の折れ線グラフがレイヤー表示される。上から「関係は明らか」というミンチョ文字が回転しながら降りてきて、画面に収まる。遠慮の無いマッポ関係者が失笑した。ナムサン!プレゼンテーションにおける典型的なセンスレス文字操作だ。
posted at 23:24:02

「エー、と、とにかく、このモーターヤブの成功を踏まえてですね……」「成功というが、そのロボットのずさんな人工知能。相次ぐフレンドリーファイヤーのせいでウチの殉職者もうなぎのぼりだ」先ほど失笑したマッポ関係者が口を挟む。「このままでは遺族の突き上げからもそろそろ庇いきれんぞ、君ィ」
posted at 01:38:10

「あ、それは、アイエエ……」「まあまあ」上座に座る男が助け舟を出した。ダブルのスーツを着、ニンジャ頭巾に金属製メンポを装着した尊大な男である。「そういった問題を踏まえての新提案、と考えて良いのかね?」「全くその通りでございます!」サラリマンはひたいの汗をぬぐい、勢いを取り戻す。
posted at 01:42:04

サラリマンが手元のキーボードを片手で操作すると、画面は切り替わり、左から文言が立て続けに飛んできた。「そこで新たなソリューション提案」「より賢く」「より柔軟」「もっとスゴイ」「WIN-WIN」
posted at 01:46:13

「先程のご指摘は実際、我が社も大変心を痛める問題ではありました。モーターヤブの高すぎる戦闘能力は、友軍……ともに鎮圧に当たるマッポの皆様や、市民の方々への誤射の問題もはらんでおりました。今回、それら諸問題を、このマシンが全て解決します!」
posted at 01:59:52

画面が切り替わり、新たなワイヤーフレーム三面図が映し出される。ざわついていた出席者が、その異様なシルエットを前に、水を打ったように静まり返った。
posted at 02:19:19

それは四本の脚と八本の腕を持っていた。サイズはモーターヤブよりもふた回りほど小さく、スモトリと同じくらいの背丈といったところだ。格納可能な多種多様な武装が三面図を囲むように、誇らしげに並んでゆく。スペックの数値が素早く表示され、最後に、機体のコードネームが回転しながら降りてくる。
posted at 02:24:13

「モータードクロ」。威圧的なカタカナ。その下にオムラ・インダストリの社紋が表示される。「えー、このモータードクロの革新的性能については、チーフエンジニアであるマノキノ=サンが、私にかわりましてご説明申し上げます」「ドーモ、皆さんありがとうございます、マノキノです」
posted at 02:27:23

ナムアミダブツ!壇上に上がり、マイクを受け取ったこの若いサラリマンのことを、我々は知っている。サブロ老人の店から泣きながら出て行った息子その人だ……!
posted at 02:28:42

(オウガ・ザ・コールドスティール#1 終わり。#2へ続く
posted at 02:31:42

◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 13:43:17

NJSLYR> オウガ・ザ・コールドスティール #2

110317

オウガ・ザ・コールドスティール #2
posted at 14:48:44

(前回あらすじ:最貧困階級の吹き溜まり、オオヌギ・ジャンク・クラスターヤード。ここには奥ゆかしい日本的タツジン技術を現在に伝える職人、有限会社ドウグが軒を構えている。ただひとりの社長にして従業員であるサブロ老人は、ニンジャスレイヤーのスゴイ便利ツールの数々を用立てていた。)
posted at 14:53:40

(軒先で言い争い、追い出された者あり。サブロ老人の一人息子、マノキノだ。彼はネオサイタマの搾取産業構造の頂点に立つ巨大コングロマリット「オムラ・インダストリ」の社員だというのだ。再会を拒絶された彼の目には涙が光った。)
posted at 14:57:44

(彼がチーフ・エンジニアとなって開発を進めていたのは、暴動鎮圧兵器「モーターヤブ」の後継機、「モータードクロ」である。プレゼンテーションルームに集まった関係者の前で、その悪魔的スペックが明らかにされる……!)
posted at 15:04:44

#njslyr
posted at 15:07:06

「モータードクロ」。威圧的なカタカナ。その下にオムラ・インダストリの社紋が表示される。「えー、このモータードクロの革新的性能については、チーフエンジニアであるマノキノ=サンが、私にかわりましてご説明申し上げます」「ドーモ、皆さんありがとうございます、マノキノです」
posted at 15:10:42

ナムアミダブツ!壇上に上がり、マイクを受け取ったこの若いサラリマンのことを、我々は知っている。サブロ老人の店から泣きながら出て行った息子その人だ……!
posted at 15:11:09

「この、エー、モータードクロはですね、モーターヤブよりもさらに人間に近い動きと飛躍的に賢い人工知能を備え、よりフレキシブルなミッションを行う事を可能としております。このモータードクロの採用に伴って、155の特許を新たに我が社は取得しています」
posted at 15:35:11

画面に太字のミンチョ体文字が躍る。「特許」「155」「我が社の先端技術」「実際安い」。「八本のアームと四本の脚は見事な安定性を誇ります。モーターヤブは転倒の危険を抱えており、それにともなう事故も残念ながら見られました。その点、モータードクロに転倒という概念は存在しません」
posted at 15:40:17

「倒れそうになると他の脚でカバー」「とても倒れない」「これも特許」「真似が違法」。魅惑的な文言が矢継ぎ早にスクリーンに浮かび上がり、眩しく輝く。イヨオー、という効果音が鳴り響き、和太鼓サウンドが鳴った。プレゼンテーション!
posted at 15:44:40

ダブルのスーツにメンポ姿の男が拍手を始めた。「これは革新的な話だ!良いニュースだ!」他の参加者も空気を読んで拍手に加わった。警察関係者が咳払いした。「私が一番気にしとるのは、その改善されたという人工知能だよ、君ィ。あれが実際に鎮圧に当たっている場をその目で見たことがあるかね?」
posted at 16:01:08

「と、おっしゃいますと……」マノキノは緊張した面持ちで警察関係者を見た。メンポの男は苛立たしげに机を指でコツコツと打ちながら、警察関係者を睨んだ。警察関係者は言う。「君ィ、あれはねえ、敵味方の認識もロクにできんようなロボットだよ、あのモーターヤブは。現場はマッポー的殺戮の場だよ」
posted at 17:06:49

警察関係者は続ける。「投降を受け付けん、味方を認識せず発砲、ネオン看板への手榴弾オート投擲。遺族への賠償金や年金はバカにならんよ?君ィ。カネはいいよ、オムラ=サンによしなにしてもらえばいい(当然してくれるね?)。でもねえ、イメージダウンは深刻なの!ウチの!僕は選挙に出たいの!」
posted at 20:10:49

「エー、そのあたりについては、実に万全なのです」マノキノは冷静に回答した。「なにしろ人工知能のシステムが根本から違います。これも特許ですが、人体のニューロンを利用しています。これにより、エー、数値に関する説明は避けますが……つまりですね。実物が、来ております」
posted at 20:14:05

室内がどよめいた。マノキノはスクリーンを振り返る。「ドーゾ!ご覧ください、これがモーターヤブです!」キリキリと音を立て、スクリーンが上へ巻き取られて行く。そこにはオムラの社章がレリーフされた鋼鉄製の円形ドアがあった。
posted at 20:21:34

バシュッ!蒸気を噴き出し、ロック機構が解除された。鋼鉄のドアが左右に開くと、更にその奥の二重ドアが上下に開いた。奥から重い白煙が漏れ出し、異形のシルエットは背後の光を受けて逆光として浮かび上がる。そして鳴り響く合成音声、「ドーモ、ミナサン、ハジメマシテ、モータードクロ、デス」
posted at 20:35:19

「なんと、もうロールアウトしているというのですか?」御用ジャーナリストの一人が興奮して叫んだ。「これは大スクープになります!スゴーイ!」ガシン!ガシン!蜘蛛めいて生える鋼鉄の脚は、真上から見ればXの字に見えるだろう。それをしなやかに動かし、モータードクロが室内に進み出た。
posted at 20:39:45

「オオ……」「何とこれは……」「ブッダ……」「悪魔……いや、ブッダ……?」「ナムアミダブツ……!」「ブッダエンジェル……!」出席者が口々に感嘆の声を漏らす。彼等の目の前にいるのは、まさに古事記の世界から召喚されたがごとき、悪魔めいた鉄のオニであった。
posted at 20:49:39

まずはゴリラめいた屈強な鋼の胸板を見よ。そこには威圧的な赤い毛筆体で「秩序」、さらに補足的に「敵を許さないです」と書かれている。恐るべき上半身の上に乗る頭部は、神話の戦士、ブッダを守って戦ったガーディアン・ニンジャ達の伝承を記号的に取り入れた、畏怖を呼び起こすデザインだ。コワイ!
posted at 20:58:11

八本の腕はどうか?これもまた恐るべきデザインである。無骨な鋼のシャフトやシリンダーが剥き出しで、ところどころにカギ爪が生えている。触っただけで負傷せしめることは確実だ。そして背中には恐ろしげな武器が伝説のベンケイ・ニンジャめいて大量に背負われている。殺戮の意志が形をとったようだ!
posted at 21:06:23

「ドーモ、モータードクロ、デス!」「エー、このデザインはですね、我が社の特別顧問であるそちらのラオモト=サンの意見を取り入れ、当初のものからかなり……」マノキノが不安げに、メンポの男を一瞥した。読者の皆さんはすでにご存知だろう。彼がラオモト・カン、ネオサイタマの闇の王だ。
posted at 21:11:51

「実践的に」ラオモトが低い声で補足した。「そ、そうです。当初のものより、かなり実践的に、より鎮圧対象の戦意を削ぐような外見、格闘能力に関しても相当の調整が加えられた形なのです」なるほど、その言葉に嘘はない。この場の何名かは既に、恐怖のあまり、無言の内に失禁している。
posted at 21:17:01

「ドーモ!モータードクロ、デス!」モータードクロはモーター音と共にオジギしてみせた。「なんと!完璧なアイサツだ!あ、いや……」警察関係者は思わず腰を浮かして叫んだが、すぐに咳払いして冷静を保とうとした。「どうやら人工知能の改善はしっかりやったようじゃないか、君ィ」
posted at 21:24:12

「そ、その通りです!」一番の難敵からの評価を得て、マノキノは勢いづく。モータードクロの頭部がグルグルと回転する。「マノキノ=サン!」名前を呼んだ!「マノキノ=サン!スシ、を!クダサイ!」「ああっ、これはですね仕様でして、」「スシ!スシッ!」頭部が回転速度を速める!
posted at 21:28:25

「早く!」マノキノが傍らのニュービー・サラリマンを叱責した。彼は慌てて脇のケータリング・ワゴンのフロシキを取り払った。カーボン重箱にはぎっしりとスシが詰まっている。すべて、タマゴだ!ニュービー・サラリマンはタマゴ・スシを掴むと、小走りにモータードクロの目の前に行った。
posted at 21:32:14

「スシ、スシッ!サカナは、ダメ!」腹部のハッチがスライドし、その先端のマジックハンド・カワイイキャッチを地獄でリメイクしたかのような小さなアームがスシを求めて蠕動する!サラリマンが恐る恐るタマゴ・スシをセットすると、アームがガッチリとそれを捉え、腹部に格納した!
posted at 21:49:05

途端に、関節各部が白い蒸気を噴き出し、モータードクロは満足気に腰を落とした。頭部の回転が停止する。「ウウ……ウマーイ……」そして合成マイコ音声が告げる。「正常値です」マノキノは静まり返った出席者に向き直った。「エー、これは人間由来のバイオ・ニューロンを正しく働かせるためです」
posted at 22:13:51

「バイオ……ニューロン……」御用ジャーナリストの一人が溜息を漏らした。「そうです。バイオニューロンを働かせる為に多量の糖分を必要とするのです。これをスシで補います。特殊なサプリメントを必要としません。ちなみにこの仕様も特許です」「なんと……」「まるで人間だ……」
posted at 22:24:09

「およそ2から21時間に一度、このスシ・フィード行為が必要となります。しかし繰り返しますがスシはそこらの屋台でも入手可能、どこででも運用が可能です」「オムスビでもいいのかね?」誰かが質問した。「あ、それはダメです。彼はセンシティブなのでして。マグロのスシ等での代用もダメです」
posted at 23:46:36

「考えられている……」「好き嫌いがあるのか……」「なんたる人間味!」出席者がざわついた。「さて、それではこれから皆さんに実際の技術デモをお見せすることになります」営業サラリマンが晴れ晴れと宣言した。「え?」マノキノは訝しげに彼を見た。営業サラリマンは笑顔で、退がるよう促した。
posted at 23:56:46

(デモって?)(いいから!)営業サラリマンは誇らしげに、「技術デモはこのモータードクロの初陣でもあります。皆様はここで快適な掘りゴタツに掛けたまま、オシルコを味わいながらライブ映像をお楽しみになれます!」「これから、だと?」警察関係者は驚いて言った。「聞いとらんぞ君ィ!」
posted at 00:05:26

「エ、エートですね、暴動の鎮圧というかですね、クリーンアップ作戦の実行です、ハイ」「クリーンアップだと!マッポの許可なくそんな事を?まだ採用するかどうかも決めては……」「いやはや!仕事が早くていらっしゃる!さすがオムラ=サンですな!」威圧的な声が口を挟んだ。声の主はラオモトだ!
posted at 00:08:44

「な……」警察関係者が凍りついた。ラオモトはさらに己の威圧力を上乗せすべく、立ち上がった。頭巾とメンポの間で鋭い眼光が輝き、警察関係者を睨み据える。「アイエエエ!」感受性の強い御用ジャーナリストの一人がいきなり失禁した。ラオモトの殺気に触れたのだ!
posted at 00:13:54

「なあに、心配には及びません。これは私も監修している。しっかりした計画です。あなた方がやりたくても出来なかった事を、このオムラの新技術がかわりにやる!そういう事ではないですか!」「クリーンアップ作戦とはしかし…暴徒の鎮圧といっても、今は特に目立った騒ぎは無い……いったいどこを?」
posted at 00:23:12

「オオヌギ・ジャンク・クラスターヤードです!」営業サラリマンが叫んだ。「アイエエエ!」そして失禁した。ラオモトが睨みつけたからである!帝王たる彼は、自分の話に口を挟まれるのが大嫌いなのだ。
posted at 00:33:09

ラオモトは尊大に言う、「オオヌギ地区は実際、周辺自治体にとっては目の上のガングリオンですな?ええ?」「むむ……」「そこをこのモータードクロで浄化して差し上げようというのだ。犯罪の温床とも言えるあのごみ溜めを綺麗にして差し上げる!地ならしだ!ムハハハハハ!」
posted at 01:52:36

一連のやりとりを、マノキノは真っ青になって聞いていた。浄化……?オオヌギ地区をこのモータードクロに襲わせるつもりか?では、父の住むあのドウグ社も当然……しかし、今からやるというのか?
posted at 02:01:00

「やはりそれは上に掛け合わんと……」「謎の怪物が現れ、市民を虐殺した!それでいけばよかろう」ラオモトは警察関係者を遮った。「選挙に出たいのだろう?俺様のバックアップが要らんのか?」その一言が決定打となって、警察関係者は曖昧に頷き、着席したのだった。
posted at 02:06:01

ラオモトはもはや完全にその場を掌握していた。だが、疑問を差し挟む者はいない!「では開始しようではないか!オープンナップ!」轟音が鳴り響き、天井のハッチが開く。おお、なんたることか!ハッチは建物の屋上まで貫通するシリンダー状の竪穴だ。はるか上でヘリコプターがホバリングしている!
posted at 02:10:10

「ラオモト=サン!スシを!ください!」モータードクロの頭部が激しく回転する。「シャラップ!」ラオモトは叫び、ケータリング・ワゴンへ名刺を投げた。スリケンめいて飛んだ名刺は重箱にヒットし、その衝撃でタマゴ・スシの一つが回転しながら跳ね上がり、モータードクロへ向かって飛んだ!
posted at 02:13:43

タマゴ・スシは緻密な弾道計算がされたかのように、モータードクロの腹部アームにすっぽりと収まった。タツジン!スシは一瞬にして飲み込まれる。「ウウウウウ……ウウマーイ……」
posted at 02:15:26

はるか上のヘリコプターからクレーンが投下され、真っ直ぐにプレゼンテーション・ルームへ降りてきた。モータードクロはクレーンを器用にキャッチすると、おのれの首の後ろにそれを固定した。「ミッション!を!行きます!」すぐにモータードクロの身体は引き上げられる!「ヨロコンデー!」
posted at 02:20:25

一瞬の沈黙ののち、ラオモトは尊大に腰を下ろした。「さあ、我々はここで実戦テストを楽しむとしようではないか。スクリーンを用意せい」「ア、ハイーッ!」営業サラリマンがヘコヘコとオジギし、素早くリモコンを操作した。天井と壁のハッチが閉じ、巻き上げられたスクリーンが再び降ろされる。
posted at 02:24:05

(何という……何という事だ……)マノキノは立っているのがやっとだった。(何故こんな事態に……俺のせいじゃない……俺は一体どうすれば……!)「どうした?」営業サラリマンが耳打ちした。「いえ、緊張のせいか今朝の腹痛が悪化して……」「もう君の用は済んだ。退出していいよ」「ハイ……!」
posted at 02:28:59

ざわつく席を背後に、マノキノはよろよろと退出した。廊下を小走りに走りながら、マノキノは叫び出したくなる己を必死で堪えるのだった。
posted at 02:32:51

(「オウガ・ザ・コールドスティール」#2 終わり。#3へ続く
posted at 02:34:16

(親愛なる読者の皆さん:ゴートゥーギグ!アンタイセイ!) RT @TimeOutTokyo: The Tokyo gig guide for the coming week: http://bit.ly/eo6Ggt
posted at 17:40:26

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 17:55:17

NJSLYR> オウガ・ザ・コールドスティール #3

110318

「オウガ・ザ・コールドスティール #3」
posted at 17:58:11

オオヌギ・ジャンク・クラスターヤードと外界をつなぐタマ・リバーの「絶望の橋」の上では今、一触即発の緊張状態が生み出されていた。
posted at 18:10:46

橋のこちら側ではオオヌギ地区で暮らす人々が老若男女、手に手にプラカードを持ち、険悪な面持ちで。橋の上には一台の瓦屋根付きリムジンが威圧的に停車。オムラの役員用リムジンだ。橋の向こうではカーボン盾やチョウチン、電気ジュッテで武装した者達。彼らはマッポではない。オムラの契約警備員だ。
posted at 18:16:22

オオヌギの人々が持つプラカードには、町中に貼られた闘争スローガンと同様の文言が思い思いに書き殴られている。「ヤメテ」「オムラ企業粉砕骨折」「アベ一休がアンタイセイと言うぞ」「ちょっとやめないか」。
posted at 18:25:17

張り詰めた空気下、リムジンのドアが開き、ヤクザ的なSPとともに、小柄な中年男性が降り立った。少ない髪を神経質になでつけ、バーコードめいた模様を形作る攻撃的ヘアースタイルと黒縁のメガネが目を引く。おお、なんたる事か!彼こそはオムラ・インダストリの専務、オムラ・チャールストンだ!
posted at 21:18:42

オムラ・チャールストンはチャツボの虫を見るような軽蔑的な視線を人々に向けた。「やれやれ、我が国のGNPに誤差程度の貢献しかできないゴミクズどもめが」聞こえぬ程度の小声で呟く。「オムラー!」「出てきたな!」「ここはワシらのインフラストラクチャなんじゃ!」「非道い!」
posted at 21:32:12

傍のヤクザ的SPが小型拡声器をチャールストンに手渡す。彼は片手で片耳を塞ぎながら拡声器に向かって言った。「エートあなた方、この地域、エートつまりこのジャンク・クラスターヤードですね、ここをあなた方のモノだと誤解されてらっしゃいますね?」「なんだと!」「黙れー!」「頭髪が奇妙だ!」
posted at 21:37:16

「不快なヤジにはうんざりします!」チャールストンは怒鳴り返し、拡声器がハウリングした。「いいですか、この区画の不動産は先週づけでオムラが一括して権利を全て買いあげているんです。その旨の通知はしましたね?あなた方、不法占拠なんですよ!不法!」「そんな無茶があるか!」「頭髪が妙だ!」
posted at 21:49:33

「全く困った方々です!本来ならば不法占拠で全員逮捕させるところ、我々はあえて穏やかな民事解決の手を差し伸べようとしている!プロジェクト区画に住居を用意し、働き口もある。工場だ!温かい食事と仕事!近くにパチンコまである!何が不服なのですか!理解できん!」
posted at 21:54:32

カッポーギを着た中年女性がフライパンを振り上げ、進み出た。「ここはねぇ、行き場のない連中の最後の砦なんだ!夢なんだよ!あたしゃ知ってるよ、オムラのプロジェクトに行った奴らの末路をね!死ぬまで奴隷として搾り取られるんだ!」「そうだ!」「体制!」「腐敗!」「搾取!」
posted at 22:04:17

「し、死んでも俺はここをどきやしねえぞ!」声を荒げたのは安宿の主人だ。「御用役人が許しても、ブッダが許さねえよ!知ってるぞ!無茶やりやがったら悪評が立って株価が下がるんだ!本当は何もできねえんだ!騙されるもんかよ!」「勝利!」「論破!」「頭髪!」
posted at 22:19:33

「あなた達は……」「革命!」「抵抗!」「攻撃!」「我々の……」「欺瞞!」「搾取!」「喝破!」チャールストンが何か言い返そうとすると、群集の数人が拡声器にも負けないユニゾンですぐに話の腰を折りにかかる。闘争訓練をほどこされた者達が少なからず混じっているのだ。
posted at 22:34:11

「嘘つきめ!」さらに一人進み出る。ナムサン!サブロ老人である!「そもそもワシのドウグ社社屋は江戸時代から一度も移転しておらん、正真正銘のワシの持ち家、ワシの土地だ。証書を見せるか?いつワシから買った?買っとらん。あんたの言葉は嘘まみれだ!カエレ!」「論破!」「無様!」「頭髪!」
posted at 22:52:36

「……マノキノ=サンの奴、工作失敗しておったのか?」チャールストンは拡声器をおろし、憎々しげに独りごちた。「だから営業未経験のエンジニアはいかんのだ。肉親の情などともっともらしい事を言いおって」「チャールストン=サン」ヤクザ的SPが耳打ちした。「本社から通信が」「何?」
posted at 23:05:36

SPが差し出した車載IRC通話機を受け取ると、チャールストンはわずかな時間、会話する。「そうか、よし。やりたまえ!」通話を終了したチャールストンが空を見上げると、曇天を斜めに横切る黒点があった。それは少しずつ大きくなり、爆音が次第に近づいてくる。輸送ヘリである!
posted at 23:12:35

「なんだ?」「降りてくるぞ」「バカな……オムラか?」群集が不安げに言葉を交わす。チャールストンはひきつった笑いを浮かべた。そして拡声器へ向かって叫ぶ。「よかろう!交渉決裂!最後に言っておくが、これはお前たち自身が招いた結果です!自分自身のせいです!その事実を胸に刻むがいい!」
posted at 23:19:58

(オウガ・ザ・コールドスティール #3 終わり。 #4へ続く
posted at 23:28:08

(翻訳チームより:エピソード「オウガ・ザ・コールドスティール」の翻訳文の中に、一箇所、マノキノ=サンがモータードクロに対してモーターヤブと呼ぶ重大なミステイクがある事を確認しております。翻訳担当者は「マノキノが緊張のあまり呼び間違えただけだ」と主張し、原典の提出を拒んでいます。)
posted at 10:46:22

(翻訳チームとしてはこの担当者を一時的に拘束し、真相の究明を行う一方で、今後の更新作業に支障が出ないよう引き続き尽力してまいります。なお、該当箇所の修正はめんどくさいのでしません)
posted at 10:48:47

◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 16:43:35

NJSLYR> オウガ・ザ・コールドスティール #4

110321

オウガ・ザ・コールドスティール #4
posted at 17:00:52

(「なんだ?」「降りてくるぞ」「バカな……オムラか?」群集が不安げに言葉を交わす。チャールストンはひきつった笑いを浮かべた。そして拡声器へ向かって叫ぶ。「よかろう!交渉決裂!最後に言っておくが、これはお前たち自身が招いた結果です!自分自身のせいです!その事実を胸に刻むがいい!」)
posted at 17:03:00

#njslyr
posted at 17:03:29

チャールストンとヤクザ的SPがリムジンに乗り込み、全速力で橋をバック、対岸へ戻ってゆくのを、オオヌギ住民は唖然として見つめていた。バラバラバラバラバラ、ヘリコプターのローター音は今や堪え難い騒音となり降り注ぐ。ヘリコプターのハッチが……開いた!
posted at 17:07:05

投げ落とされる複数のロープ!それを伝って全部で五人、オムラ社章つき迷彩服を着た武装サラリマンが降下してきた。彼らは素早く橋の両脇に散開し、ヘリコプターを見上げる。まだ中にいるのだ。中に。
posted at 17:16:27

と、前触れなく、ヘリの底部が両開きに開いた。質量をもった異形存在が落下、橋の上に音を立てて着地し、八本の腕が背中のキャリアカーゴに格納した武器を引き出し、構えた。すなわち、サスマタ、ジュッテ、カマ、ツルギ、斧、カタナ、ナギナタ、ハンマーである。古事記の神話戦争に由来する武器だ!
posted at 17:38:49

「な……な……なんじゃありゃあ?」食堂の主人が口をあんぐりと開けて見守った。群衆が不安げに囁き合う。「悪魔……いや、ブッダ……?」「ブッダエンジェル……」「まずいんじゃないのか……」「や、やれるわけないんだ……」「ブッダ……」
posted at 17:41:12

怪物めいたデザインの頭部が高速回転し、X字に伸びた四本の脚の関節各部が水蒸気を吹き上げる。モーター音を鳴らしながら鋼鉄の戦士はオジギめいた動作をした。「ドーモ、モータードクロ、です。現在アナタがたの投降を受け付けております。……ドーゾ!」
posted at 17:51:49

「投降って……」「あれ、オムラのロボットか」「ブッダエンジェルめいた……なんたるバチアタリ!」「しかしあれ、やる気としか思えないが……」「大丈夫さ、そんなことしたら株価が……」ビー!ビーガビー!耳をつんざくブザー音がモータードクロから放たれた!「ハイ時間切れです!戦闘を開始で!」
posted at 18:00:19

ぎこちなくも、ある程度流暢な合成音声が告げるや否や、モータードクロは一瞬身を沈め、群衆へ向かって跳躍した!「アイエエエエ!?」「アイエエエエ!?」「アイエエエエ!?」群衆は唐突に己のさらされた危険を察知し、蜘蛛の子を散らすように四方八方へ駆け出した。
posted at 18:04:45

しかし全員が奇襲を回避できたわけではない!「アババババーッ!」逃げようとして転倒した一人の労働者が無残にも背中を踏み潰され、うつ伏せに吐血して即死した。ナムアミダブツ!なんたる暴虐!「ドーモ、モータードクロ、デス。投降受付時間、終了されました」
posted at 18:14:36

「アイエエエエ!」「アイエエエエ!」「た助けてくれええ!」「アイエエエエ!」モータードクロは近くのアパートへ顔面を向けた。口が開き、そこからグレネード弾が射出される。シュポム!
posted at 18:18:38

グレネード弾が光を放ち爆発した!平屋の古い木造アパートは爆発の前にひとたまりも無い。「アイエエエエ!」焼け出された人々が中から数人飛び出し、勢いよくタマ・リバーへ飛び込んだ。「モータードクロは、戦っています」四本の脚を素早く動かし、悪魔めいたロボットはジャンク街を突き進む。
posted at 18:25:33

「展開!」「迎撃!」「攻勢!」相互に声をあげつつ、機敏な動作で何人かの若い男たちが平屋の屋根に現れた。うち一人は風にたなびく旗を掲げる。旗には「イッキ・ウチコワシ」とミンチョ書きされている。「強制!」「迫撃!」「爆破!」彼らは手にした火炎瓶をモータードクロへ投げつける!
posted at 18:30:46

イッキ・ウチコワシは企業支配の粉砕を掲げ、ネオサイタマにおけるゲリラ闘争を支援する非合法組織である。彼らは住民の重鎮的存在が今回の抵抗運動にあたって派遣依頼をかけたイッキ・ウチコワシのアジテーター戦士達なのだ。
posted at 18:42:16

複数の火炎瓶がモータードクロへ飛来!しかし、おお、なんたる事か!モータードクロがナギナタを一振りすると、火炎瓶はモータードクロに達する前に一度に全て割れ砕け、炎の塊は地面に虚しく落下した。モータードクロは彼らに向けて二発目のグレネードを発射した。シュポム!カブーム!
posted at 18:47:32

「「「「グワーッ!」」」」断末魔のユニゾンだ!爆風で吹き飛ばされ、手足をバタつかせて落下してきた戦闘員を、モータードクロは容赦なくサスマタでカイシャクしてゆく。「ドーモ、モータードクロ、デス!私は、オムラ・インダストリとは、一切関係ありません。偶然ここへ来て、戦闘しています」
posted at 18:51:32

ゴウランガ!無関係?なんたる狡猾な偽装工作!これではモータードクロの悪魔的殺戮がうやむやになってしまう可能性がある。恐るべきはオムラ・インダストリの人工知能技術である!
posted at 18:53:41

「展開!」「接近!」「白兵!」掛け声を叫びながらウチコワシ戦闘員が路地裏から飛び出した。「ヤッチマエー!」数人の屈強な労働者も手に手に角材を持ち、奇襲に加わっている。全部で八人がモータードクロを取り囲む。「イヤーッ!」モータードクロが叫び、八本の腕を打ち振った!
posted at 19:02:39

「イヤーッ!」「アバーッ!」ツルギがウチコワシ戦闘員の首を跳ね飛ばす!「イヤーッ!」「アバーッ!」カタナがウチコワシ戦闘員の首を跳ね飛ばす!「イヤーッ!」「アバーッ!」斧が屈強な労働者の首を跳ね飛ばす!「イヤーッ!」「アバーッ!」ナギナタが屈強な労働者の首を跳ね飛ばす!
posted at 19:19:08

「イヤーッ!」「アバーッ!」サスマタがウチコワシ戦闘員の心臓を貫く!「イヤーッ!」「アバーッ!」ジュッテがウチコワシ戦闘員の心臓を貫く!「イヤーッ!」「アバーッ!」カマが屈強な労働者の首を跳ね飛ばす!「イヤーッ!」「アバーッ!」ハンマーが屈強な労働者の頭を砕く!
posted at 19:22:51

ナムアミダブツ!たちまち酸鼻なマッポーのジゴク・ブラッドプールが貧民街の真っ只中に作り出されてしまった!「私はオムラ・インダストリとは一切関係がありません。あと、投降の受付は、締め切られています。ミナサン、オオヌギ・ジャンク・クラスターヤードから出て行ってください」
posted at 19:42:54

【NINJASLAYER】
posted at 23:04:13

【NINJASLAYER】
posted at 11:17:01

「アイエッ!」走って逃げていた老女が足をくじき転倒した。助け起こそうとするのはサブロ老人だ。「ちょっとしっかりしなさい。さあ」「ナムアミダブツ!ナムアミダブツ!あたしゃおしまいだよ……この町はおしまいだ……」老女は首を振って悔し涙を流す。「カツ!何をバカな!」サブロが叱責した。
posted at 11:20:56

「あんなバカバカしいロボット一つでワシらをどうにかできるなど、とんだ思い上がりだ!いいかね、ワシらは人間だ、生きておる!奴が暴れて家が壊れた?ワシらはまた作る!わかるかね!」「ア……アイエ……」老女はよろけながら立ち上がる。
posted at 11:26:35

「ドーモ、モータードクロ、デス。私はオムラ・インダストリとは無関係です。単独に行動しています」無慈悲に歩を進め、殺戮機械が二人に迫る。道すがらタバコを捨てるかのような無造作な動作で道路脇の建物にグレネードを発射、爆破する。「降伏は時間切れですから認めていません」
posted at 11:30:15

「こっちだ!さあ!」サブロは脇道へ老女をうながす。だがモータードクロの反応は素早い。「イヤーッ!」手にしたジュッテを老女へ投げつけたのだ!「グワーッ!」「アイエエエ!」サブロは老女を押しのけて庇う。彼の右の太ももにジュッテが突き刺さる!「さあ行け!逃げなさい!」「ア、アイエエ!」
posted at 11:35:33

モータードクロは駆け去る老女を無視。動けないサブロ老人に向けて、無慈悲にナギナタを構える。「降伏は……コフク、スシ!スシッスシ!」モータードクロは突如として取り乱し、頭部を回転させて叫び出した。後ろから追ってきた武装サラリマンがオカモチを持って駆け寄る。「スシはこっちだ!」
posted at 11:43:19

「まったく、どうした事だこれは」モータードクロに追いついた武装サラリマン二人は困惑気味に言葉を交わす。「データより随分スシ・フィードの頻度が高いじゃないか」「全くだ!殲滅しきれるのか、これで?」背後に焼ける家屋、目の前にサブロ老人を前にしながら、まるで罪悪感の無い平易な口調!
posted at 13:40:47

「スシッスシ!スシ!」「がっつくな!」武装サラリマンはオカモチからタマゴ・スシを取り出し、腹部アームに慎重に収める。ガション!「アイエエエ!?」「アー、ウウウウ、ウウンマーイ」「アイエエエエエエ!」ナムアミダブツ!武装サラリマンの右手首から先がスシごと失われた!
posted at 13:43:57

「サカナ、は、いらない!」腹部アームはスシだけを腹の中に格納、サラリマンの手を地面に投げ捨てた。「アイエエエエエエ!アイエエエエエエ!どうしてこんな……!」武装サラリマンは失われた手首を押さえ泣き叫んだ。インガオホー!「おい!まずい……」もう一人が注意を促す。だが!「イヤーッ!」
posted at 13:47:06

「アバーッ!?」モータードクロのカタナが手負いの武装サラリマンの首を跳ね飛ばした!「アイエエエ、や、やめ……」「イヤーッ!」「アババババーッ!!」モータードクロのツルギがもう一人の武装サラリマンを脳天から真っ二つに叩き斬った!サツバツ!「モータードクロ、は戦っています、ウマイ!」
posted at 13:51:56

ここまでか!サブロは突然アグラ・メディテーションの姿勢を取った。「哀れなガラクタめ!ならばワシを斬ってみよ!」怒りに燃える目を見開き、邪悪なロボットを睨み据える。モータードクロの頭部が回転する。「アラート、データ外状況な。手動入力を行ってください」無機質なマイコ音声が鳴り響いた。
posted at 14:05:14

------
posted at 14:09:38

「……」ラオモト・カンは営業サラリマンを無言で凝視した。その瞬間、営業サラリマンはスプリンクラーめいた勢いで再失禁し、なおかつ嘔吐した!「アイエエエ、アババーッ!」さらに吐血!無理もない!恐怖のデモリション・ニンジャの怒りを真正面から受けて、平常でいられる人間など存在しないのだ!
posted at 14:13:28

スクリーンでは後続の武装サラリマンが構えるカメラの動画がリアルタイムIRCストリーミングされている。カメラはオムラ社員二人を無残に斬り殺し、なおかつ動作を停止したモータードクロを中継しでいた。
posted at 14:15:42

「やはりロボットは時期尚早じゃないのかという気になるね、これを見ていると?どう取り繕うんだね、君ィ?」警察関係者が這いつくばる営業サラリマンに容赦なく指摘する。「アバッアバババッ」吐血!ラオモトは 眉一つ動かさず、「ま、この彼はセプクするのでしょうなあ」「アババーッ!」
posted at 00:21:11

「しかし、戦闘能力、順応性という点で見れば、実に期待通りと言えましょう。人工知能に関してもこれはベータテスト段階ですから、些細なバグをフィクスするだけの事」実際の胸中がどうあろうと、こうして話すラオモトは何もかも想定内であるかのように平静だ。ざわついていた出席者もやがて静まった。
posted at 00:25:35

「オホン、まあ、確かにこの柔軟な戦闘力はモーターヤブとは比較にならないレベルにある事は確かだがね」警察関係者は彼なりの威厳を保ちつつ引き下がった。「今回の材料がきっちり踏まえられるであろうことを期待するよ、君ィ」「アババーッ!」
posted at 00:32:47

ライブIRC映像はモータードクロが関節各部から蒸気を噴き出し頭を回転させつづける様子を引き続き捉えている。カメラを持つ武装サラリマンへ、他の二人が何がしか話しかける。協議が行われ、カメラの持ち主以外の二人がモータードクロへ足早に近づいて行く。「手動入力」を行おうというわけである。
posted at 00:40:46

老人は少しもひるまず、アグラ・メディテーション姿勢をとりつづける……
posted at 00:44:01

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posted at 00:44:51

「待ってくれ!待った!」マノキノは全力疾走に息も絶え絶えになりながら、武装サラリマン三人の背中へ呼びかけた。ハイヤーを使ってオムラ社屋からこのオオヌギ地区まで必死にモータードクロを追った彼の案ずる肉親が、なんと今まさに殺されようとしているのだ。マノキノ自身の創造物によって!
posted at 00:49:35

(親愛なる読者の皆さん:翻訳チームは半数がメキシコ研修から帰還しておらず、引き続き本隊はシビアなアップロード環境の中にあります。現在もスシの不足は深刻であり、更新のルーチンは平常時とは大きく異なった、不定期なものとなっています。)
posted at 10:35:57

(そのような状況を原因として、宵越しの継続アップロード時に【NINJASLAYER】アイキャッチが出たり出なかったり、エピソードの更新が交互でなかったり、いつにもまして更新ペースが予測しづらかったりしますが、あんまり気にしないでください。ワッショイ!)
posted at 10:39:14

「待ってくれ!待った!」マノキノは全力疾走に息も絶え絶えになりながら、武装サラリマン三人の背中へ呼びかけた。ハイヤーを使ってオムラ社屋からこのオオヌギ地区まで必死にモータードクロを追った彼の案ずる肉親が、なんと今まさに殺されようとしているのだ。マノキノ自身の創造物によって!
posted at 15:22:47

「なんだ?ウチの社員か?」撮影サラリマンがマノキノの手の社章インプラントを見て、他の二人が護身用のニードルガンを構えようとするのを押し留める。「誰ですか」「ド、ドーモ、主任エンジニアのマノキノです」荒い息を尽きながらマノキノはオジギした。「モータードクロの開発者です」
posted at 15:27:57

「開発者!これはドーモ失礼しました!」三人は素早くオジギした。「ですが、ご覧になってますか?非常事態です、社員の二人が住人もろともモータードクロに殺され、さらに何らかの不具合でシャットダウンしました」数メートル先のモータードクロの背中を指差す。
posted at 15:35:59

「見てください、あの老人を。座り込みですよ。我々が住人を排除したり建物を壊したらオムラの責任が問われてしまう。殺したいのに!どうにかしてください」武装サラリマンは平然として言ってのけた。マノキノは青ざめた。彼らの目には、この破壊行為になんの苦悩も罪悪感もないのか?だが……。
posted at 15:38:12

それは欺瞞もいいところだ。それを言うなら、真に罪深いのは開発者である我々ではないか。マノキノは自問自答した。あの恐ろしいラオモト顧問の言うがままに仕様を変更して行った私に罪悪感は、恐怖はあったのか?そんなものは麻痺させてしまっていたではないか。治安への貢献という題目にすがって!
posted at 15:41:30

「私が…やります」マノキノは武装サラリマンに頷き、進み出た。モータードクロは頭部を回転させながらマイコ音声アラートを繰り返している。「予期せぬシチュエーション下でのシステムがエラーな。アドミニストレーター=サンが手動入力を行ってください」……その足元でアグラする老人と、目が合う。
posted at 15:48:42

「父さん……」「フン、貴様か」サブロ老人はマノキノを冷たく睨んだ。「エンジニアとな。では、このくだらん冗談は貴様の蒔いた種か、ええ?もはや涙も枯れ果てた。実の息子が破滅の導き手として戻ってきたとな。これも全てワシのインガオホーよな」「父さん……」
posted at 16:03:06

「僕は……僕はこんな事になるなんて知らなかったのです」マノキノは己の言葉の空虚を噛みしめる。「僕はただ、貴方にオムラの技術指導員として就任していただいて……僕なりに貴方へ恩を返そうと……それがこんな事になってしまって……まさかこんな……この町が……」
posted at 17:13:52

マノキノの目に涙が滲んだ。「ごめんなさい……父さん……僕はただ、僕の技術を僕なりにネオサイタマに役立てたかっただけなんです……どこでこんな事になったのか、わからないんです……」「馬鹿もんが」サブロが叱責した。「馬鹿もんが。……お前の馬鹿はワシの遺伝だな」「え……」
posted at 17:39:05

サブロは少し笑ったような顔をした。「オヌシは若い。いくらでもやり直しが効く。間違えれば、正せばよい」「父さん……」マノキノは涙をぬぐった。「なにしてるんですか!」後ろで急かす武装サラリマンを睨みつけて黙らせ、 マノキノはモータードクロの背部カバーを操作した。
posted at 17:42:13

背部カバーの下から引き出されたのは、実体キーボードである。赤いスキャンレーザーがマノキノの社章インプラントを読み取る。最新式のロック機構なのだ。「アドミニストレーター権限を確認」マイコ音声が告げた。マノキノは 素早く実体キーボードをタイピングした。
posted at 17:46:09

「イ、マ、ス、グ、セ、ン、ト、ウ、チ、ュ、ウ、シ」
posted at 17:48:03

「アドミニストレーター=サンからの戦闘を中止命令。ヨロコンデー」間の抜けた機械音声が応答し、モータードクロの全関節が蒸気を吹き上げた。「え?」「何をした!」「ちょっとあなた!」武装サラリマン達が口々に叫ぶ。マノキノは力なく笑い、サブロのもとへ歩み寄ると、肩を貸した。
posted at 17:54:37

「父さん……僕は未熟です……」マノキノは呟いた。サブロは目を伏せた。……と、その時だ。ビガー、ガー!不気味なアラーム音が、戦闘停止を受け入れたモータードクロの頭部から鳴り響く!「何だ?」「イヤーッ!」「危ない!アイエエエー!」
posted at 18:59:19

マノキノはとっさにサブロを突き飛ばした。地面へ投げ倒され老人は苦しげに呻いた。マノキノは?おお、なんたることか!その背中はモータードクロのカタナの不意打ち攻撃を受けて斜めにざっくりと裂け、鮮血を噴き上げる!ナムアミダブツ!
posted at 19:10:40

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posted at 19:21:27

「……と、このように、何らかの造反があったとしても、遠隔操作IRC解除キーによって命令の再設定、再遂行が可能というわけだ」ラオモト・カンは卓上の携帯型ボタン装置を出席者に示して見せた。たった今彼が押したウルシ塗りのボタン装置を。そして冷酷にスクリーンを見やり、「さあ、試験再開だ」
posted at 19:24:25

スクリーンに映るモータードクロが七つの武器(ジュッテは投げてしまった)を構え、戦闘姿勢を取る。「ドーモ、モータードクロ、です。私は偶然ここへ来て、戦って、います。オムラは無関係」起き上がろうとする老人へ無慈悲にサスマタを振り上げる。「ん?」「なんだ?」出席者がざわついた。
posted at 19:33:06

スクリーンの映像が揺れた。画面隅の武装サラリマンの頭上になにか影めいたものが降って来て、跳ねたようだった。その影は近くのもう一人の武装サラリマンの頭めがけて飛んだ。そして、また跳ねた。「何だ?」最初の武装サラリマンの頭は?次の武装サラリマンの頭もだ。「頭が?無い?」
posted at 19:41:16

映像が激しく揺れた。カメラが落ちたのか、視界は地面に真っ直ぐに突進し、砂嵐が走る。「何だ?」「何です?」「トラブルですか?」砂嵐。そしてスパーク。ブツン…………
posted at 19:43:02

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posted at 19:45:52

ゴウランガ!三人の武装サラリマンは全員絶命した!三人の頭部は真上からの恐るべき打撃を受け、押し潰されて肩の間にいびつにめり込んでいた!「イヤーッ!」飛び石めいた連続ストンピングを終えたニンジャスレイヤーはそのまま空中で六回転し、モータードクロへ飛び蹴りを繰り出した。
posted at 19:52:25

「イヤーッ!」サスマタの柄がそれを受け、 ツルギが反撃する。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは柄を蹴って飛び離れることで反撃を回避!空中で八回転し、サブロを庇うように着地した。そしてモータードクロへ向かって力強くオジギした。「ドーモ、はじめましてニンジャスレイヤーです」
posted at 19:58:08

「ピガッ!」モータードクロはニンジャスレイヤーを覗き込んだ。「ニンジャソウル検出。あなたはニンジャです」顔面が変形し、メンポめいたマスクが展開した。おお、なんたる形相!あらわれたのは憤怒の木彫り面だ!「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン!モータードクロ、です!ゼンメツだ!」
posted at 20:58:15

「ニンジャソウル?機械の分際で」ニンジャスレイヤーはジュー・ジツの構えを取る。視界の端に、背中を斬られて倒れた若いサラリマンが映る。あのときの若者だ。血溜まりが広がって行く。致命傷であろう。ニンジャスレイヤーは無感情に言い放った。「……外道め。ネジクギ一つまで分解してくれる」
posted at 21:29:04

「オウガ・ザ・コールドスティール」#4 終わり。#5へ続く
posted at 21:46:46

NJSLYR> オウガ・ザ・コールドスティール #5

110329

「オウガ・ザ・コールドスティール」#5
posted at 13:50:55

(あらすじ:家すら持てぬ労働者の最後のヘイブン、オオヌギ・ジャンク・クラスターヤード。サイバネ・コングロマリットのオムラ・インダストリはこの区画を一括して買い上げ、住人を追い出して自社施設を建造する腹づもりであった。)
posted at 14:34:57

(オオヌギ地区にはドウグ社の土地があり、オムラはドウグ社社長・サブロの息子を利用し、土地の買い上げを図ろうとしたが失敗。折しもオムラは暴動鎮圧用途に新兵器モータードクロをロールアウト。特別顧問ラオモト・カンの監修を受けた新兵器は、スシを食べて殺戮の限りをつくす鋼の悪魔であった。)
posted at 14:49:24

(ドウグ社社長サブロの息子・マノキノは、自分が開発したモータードクロがオオヌギ地区を殲滅するべく放たれた事を、作戦決行直前に知らされる。良心の呵責に駆られ、父を案じた彼は現地へ急行、モータードクロを止めにかかるが、あえなく狂刃に倒れた。)
posted at 14:52:41

(破壊と殺戮と絶望の地と化したオオヌギ地区に、今、さらなる乱入者あり。赤黒の装束を着てモータードクロに立ちはだかったのは、ドウグ社の上得意でもあるニンジャスレイヤーである。モータードクロはニンジャスレイヤーのニンジャソウルを感知すると、真の姿を現す……!)
posted at 14:54:52

(「ニンジャソウル?機械の分際で」ニンジャスレイヤーはジュー・ジツの構えを取る。視界の端に、背中を斬られて倒れた若いサラリマンが映る。あのときの若者だ。血溜まりが広がって行く。致命傷であろう。ニンジャスレイヤーは無感情に言い放った。「……外道め。ネジクギ一つまで分解してくれる」)
posted at 15:17:15

#njslyr
posted at 15:17:26

「モータードクロは!戦っています!」邪悪な機械は四脚を巧みに動かし獲物に殺到した。「イヤーッ!」カタナ、ツルギ、カマが同時にニンジャスレイヤーを襲う!
posted at 15:19:35

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはしゃがみながら前進し、ふところへ潜り込んだ。三つの邪悪な武器は虚しく空を切る!「イヤーッ!イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤーッ!」ニンジャスレイヤーはしゃがみ姿勢のまま、おそるべきショートフックの乱打を繰り出す!「ピガーッ!?」
posted at 15:23:56

2秒間にモータードクロが受けたミゾオチ・パンチはじつに11発。鋼鉄の体が押し上げられ、わずかに浮き上がる!「イヤーッ!」「ピガーッ!」だめ押しに繰り出されたミドルスピンキックの凄まじい刺突力を受け、モータードクロはワイヤーで引っ張られたような勢いでくの字に吹っ飛んだ。
posted at 15:27:35

「マノキノ!マノキノ!!」サブロ老人はマノキノに駆け寄り、助け起こそうとした。「……お、お父さん、力至らず……なんと愚かな子供だった事か……」「息子よ!」サブロの目から涙が滲み出た。「くだらん事を言うとる場合か」「スミマセン……」マノキノの口からゴボゴボと血が流れる。
posted at 15:34:20

「モータードクロは難度の高い敵ニンジャを認識」四脚を巧みに動かしモータードクロが身を起こした。関節部から蒸気が噴き上がる。ニンジャスレイヤーの打撃は効果があったのか。無かったのか。「ゼンメツ・アクション・モード承認状況。ゼンメツ・アクション・モード展開」電子音が発声した。
posted at 15:58:06

ゼンメツ・アクション・モード!いかなるモードか?見よ!ゴリラめいた胸板の「秩序」の文字が不穏に輝くと、蒸気とともにその胸板が左右にカンノン開きした。胸板の内側、鋼の肋骨の隙間から、無骨なミニガンの銃口が複数迫り出す!「ゼンメツだ!」
posted at 16:15:37

さらに八本の腕それぞれの甲殻が開き、そこからも機関砲の銃口が迫り出す!「ゼンメツだ!」背中に背負っていた武器キャリアが変形し、肩口にバズーカ砲めいた武器が二門、出現!「ゼンメツだ!」腹部のスシ投入口が開き、可動型ガンに変形したサブアームが出現!「ゼンメツだ!」
posted at 16:29:29

「ホノオ!」モータードクロが叫んだ循環、展開したあらゆる火器が弾丸を連射開始!ニンジャスレイヤーに火線が集中する!「ゼンメツだ!ゼンメツだ!」ナムアミダブツ!ニンジャスレイヤーはブリッジからバックフリップ、側転と、目まぐるしく回避動作を繰り返す!
posted at 16:51:06

モータードクロの容赦なき火線はモーターヤブとニンジャスレイヤーが戦った際のガトリング乱射とは比較にならない瞬間火力である。ニンジャスレイヤーを追って銃弾が背後の建物をなぶると、木製の建材はあっという間に蜂の巣になり、潰れ、もうもうたる煙を噴き上げて崩れて行く!
posted at 19:00:44

ニンジャスレイヤーの回避動作は、サブロ老人とマノキノをモータードクロの狙いから逸らし、攻撃範囲から外すためのものであった。当たるようで当たらないニンジャスレイヤーのゼン・ダンスめいたステップは、その実、いつ蜂の巣にされるかわからぬギリギリの綱渡りであったのだ。
posted at 19:19:34

「モータードクロはニンジャより強いロボットです」電子音が警告した。ガトリングを乱射しながら、手にした七つの武器を構えてニンジャスレイヤーへ突進をかける。ニンジャスレイヤーは銃撃を避け、素早く側面へ回り込む。「モータードクロはとても凄いです」
posted at 20:47:10

「イヤーッ!」カマが振り下ろされる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは踏み込み、モータードクロの手首をチョップし粉砕!「ピガーッ!?」モータードクロは武器を取り落とす!
posted at 20:52:13

「イヤーッ!」ハンマーが振り下ろされる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは踏み込み、モータードクロの手首をチョップし粉砕!「ピガーッ!?」モータードクロは武器を取り落とす!
posted at 20:52:48

「イヤーッ!」ツルギが振り下ろされる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは踏み込み、モータードクロの手首をチョップし粉砕!「ピガーッ!?」モータードクロは武器を取り落とす!
posted at 20:53:44

「イヤーッ!」カタナが振り下ろされる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは踏み込み、モータードクロの手首をチョップし粉砕!「ピガーッ!?」モータードクロは武器を取り落とす!
posted at 20:55:07

「イヤーッ!」サスマタが振り下ろされる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは踏み込み、モータードクロの手首をチョップし粉砕!「ピガーッ!?」モータードクロは武器を取り落とす!
posted at 20:57:33

「イヤーッ!」斧が振り下ろされる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは踏み込み、モータードクロの手首をチョップし粉砕!「ピガーッ!?」モータードクロは武器を取り落とす!
posted at 20:59:21

「戦闘状態!」モータードクロはたたらを踏んだ。ナギナタを八本の腕で持ち直そうとする。ニンジャスレイヤーは追撃を……「!?……イヤーッ!」アブナイ!腹部のスシ・ハンドガンが待ち伏せめいて火を吹いたが、ニンジャスレイヤーは瞬時に状況判断し、ブリッジしながら後退してそれを回避!
posted at 21:03:23

「集中しますロックオン重点!対ニンジャ・ミサイル!ゼンメツだ!」さらに、肩のバズーカ砲めいたランチャー二門から、煙を吹いてミサイルが発射される!ニンジャスレイヤーは全力のスプリントでミサイルを回避するが、ゴウランガ!その二発の弾丸は空中で向きを変えて追いすがる。追尾性なのだ!
posted at 21:10:59

「イヤーッ!イヤーッ!」走りながらニンジャスレイヤーはスリケンを二枚投げた。撃ち落そうというのだ。しかし表面に「馬」とミンチョ書きされたミサイルはスリケンを弾き返してしまった。硬い!
posted at 21:19:07

ニンジャスレイヤーは全力疾走し、近くの安宿の壁を走り、そのまま屋根の上に駆け上がった。なおも飛び来たるミサイル!「イヤーッ!」一度に6枚のスリケンで再度迎撃を試みるが、やはり無駄だ。この対ニンジャ・ミサイルの弾頭は、ニンジャソウルに限りなく接近したとき、初めて爆発するのである!
posted at 21:24:48

ニンジャスレイヤーは路地の奥へ身を翻し、ジグザグに移動する。これでどうだ?ナムサン!ダメだ!二発のミサイルはその硬い弾頭で、爆発する事なく建物を貫通しながらニンジャスレイヤーへ迫って来る!
posted at 22:05:48

【NINJASLAYER】
posted at 22:49:12

NJSLYR> オウガ・ザ・コールドスティール #6

110407

オウガ・ザ・コールドスティール #6
posted at 11:33:28

(ニンジャスレイヤーは接近しながら、ほとんど無雑作にカラテを構えた。「ピガガガガガ……イヤーッ!」モータードクロの右手がイビツなカラテ・チョップを繰り出す。ニンジャスレイヤーは歩きながら左腕を掲げてそのチョップを反らした。そして右腕を、真っ直ぐに突き出した。「……イヤーッ!」)
posted at 11:35:01

「ピガガーッ!」ニンジャスレイヤーのチョップ突きはモータードクロの下腹部を深々と抉り、肘関節まで潜り込んだ。「イヤーッ!」「ピガガーッ!」ニンジャスレイヤーが右腕を引き抜く!スシ・ハンドがギュウタンのごとく根元から引きずり出される。黒い機械油とシャリとタマゴに濡れたハラワタだ!
posted at 11:39:26

「戦闘続行が難しい!モード変更があまりよくない!」モータードクロはもがき、両腕でニンジャスレイヤーの背中を殴りつける。ニンジャスレイヤーは意に介さぬ!「イヤーッ!」スシ・ハンドと消化器官が内部から根こそぎ引きずり出され、引きちぎれた!「ピガガーッ!」
posted at 11:42:30

「カラテッ!カラテッ!オムラ、オムラ!ムカンケイ!オムラ!」叫びながら回転する頭部をニンジャスレイヤーは両手で鷲掴みにした。そのニンジャ膂力で、モータードクロは無理矢理オジギめいた前傾姿勢を取らされる。「人間の真似事はおしまいだ」「オムラ、オムラ、オムラ、オムラ」「イヤーッ!」
posted at 11:46:23

「ピガガーッ!」モータードクロの頭部は人工脊椎とともに引きずり出され、引きちぎれた!黒い機械油とシャリとタマゴが撒き散らされる!「イヤーッ!」地面に投げつけたそれをニンジャスレイヤーが無慈悲に踏み潰すのと、がらんどうの体が黒煙を噴き上げ力無くくず折れるのは同時だった。
posted at 11:49:01

「サヨ……ナラ……」破壊されたモータードクロの頭部は最後に弱々しい音声を発し、それきり動かなくなった。
posted at 11:51:54

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posted at 12:00:57

オムラ・インダストリのプレゼンテーション室では、ただモニタ砂嵐の音だけが聴こえていた。ダブルのスーツと邪悪なメンポ、頭巾が特徴的なラオモト・カンは、しばらくその砂嵐を無表情に見つめていた。そして振り返った。
posted at 12:05:11

ホリゴタツにかけた出席者は全て沈黙している。半数が失神し、半数が心停止に至っている。耳や目から出血している者もいる。失神した者の何人かは、あるいはこの後に社会復帰ができるかもしれない。それには体力と幸運が必要だ。
posted at 12:09:53

怒りとともに己のニンジャソウルをむき出しにしたラオモト・カンを間近で目撃し、まともでいられる非ニンジャなど存在しないのだ。一方のラオモトは再びもとの冷酷な平静を取り戻していた。「……」出入り口に視線を送ると、そこにひざまずく影はダークニンジャである。「ドーモ。お迎えの時間です」
posted at 12:16:23

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posted at 12:27:13

風がスス焦げた空気を運んでゆく。遠くにいくつかの黒煙の筋が見え、ヒケシが鳴らすサイレンが聴こえてくる。橋を挟んで睨み合っていた地元の人間とオムラの下請けチームはどちらも解散し、一人も残っていない。
posted at 13:00:47

この広範囲な破壊行為を引き起こした存在の成れの果てである鉄屑を傍らに、サブロ老人は息子のなきがらを抱き、ニンジャスレイヤーを見上げていた。
posted at 13:13:58

「モリタ=サン」サブロは呟いた。「モリタ=サン。これは、わしの人生に下された罰であろうか……インガオホー……」ニンジャスレイヤーはしばし無言であったが、やがて答えた。「オムラ・インダストリというシステムが暴力をおこない、貴方の息子はその犠牲になった。ただそれだけだ」
posted at 13:44:51

「やれやれ」サブロはつとめて苦笑した。「この息子、いきなり帰って来たと思うたら、このザマとは。親不孝の極みよ」「……」「……だが、よく育ったものだ。よく育った」ニンジャスレイヤーは無言である。
posted at 13:50:29

「モリタ=サン」「……」「あんたの正体は知らぬ。知らぬが、何者かはわかる」「……」「頼んだぞ……これからも」サブロとニンジャスレイヤーの目が合った。やがてニンジャスレイヤーはサブロに背を向け、近くの屋根へ跳躍した。「Wassyoi!」屋根から屋根へ。彼はすぐに見えなくなった。
posted at 14:14:11

ヒケシの鳴らす半鐘が鎮魂歌めいて、サブロの頭上の焦げ臭い空に鳴り響くのだった。
posted at 14:19:09

(「オウガ・ザ・コールドスティール」終わり)
posted at 14:19:39

NJSLYR> フジ・サン・ライジング #1

101122

「フジ・サン・ライジング」
posted at 16:46:27

「ドーモ。乗客の皆様、オツカレサマデス。安全で・早く・信頼性の高い、我々オバンデス航空をご利用いただき誠にありがとうございます。まもなく添乗員が機内食を運んでまいります。ネオサイタマのネオナリタ空港への到着は7時間後……」
posted at 16:53:54

スナバ=サンは機内アナウンスと合成オコト音で浅い眠りから覚めた。狭いシートで凝った体を伸ばしながら、隣に座るモマメを見やる。明日六歳になる愛娘は、人気キャラ「モチヤッコ」のぬいぐるみを抱いたまま、静かな寝息を立てている。
posted at 16:59:57

シートに据えつけられた小型ディスプレイを操作し、なにかめぼしいオンデマンド映画は無いか探す。「お米づくりと日々」を選択する。シュンブン・カワバの最新主演作だ。シュンブンにはサイバネティック疑惑がついてまわる。それほどまでに完璧な美貌なのだ。
posted at 17:28:54

「フー……」スナバ=サンは低く溜め息をついた。ネオサイタマの大学病院に入院していた妻の腎移植手術成功の報せが届いたのは昨日のことだ。涙を流して喜び、そして安堵した。その後、張り詰めた緊張の糸は緩み、それまでこらえていた疲れがどっと押し寄せた。
posted at 17:35:11

スナバ=サンはキョート・リパブリックで三番目に古いウナギ屋の長男である。伝統と格式に縛られ尽くした己の人生を呪い、その血を恨んだことは一度や二度では無い。
posted at 17:54:10

しかし、生まれた時から決められていた妻の事をスナバは深く愛していたし、今回の手術についても、もしスナバが一介のサラリマン程度であれば願望する事すら許されなかっただろう。これからは節約しなければいけない。
posted at 17:58:09

「遠いなあ、ネオサイタマは……」スナバは独り言を漏らした。隣にカートが来たので、スナバはイヤホンを外した。「ドーゾ」カートを引いて来た白人女性の添乗員から、真空パックされた機内食を二食分受け取る。「ガンモご飯です」白人女性が笑顔で説明した。
posted at 18:13:03

ガンモとは、ニンジンを中に詰めたフライド・スシのことだ。添乗員がカートを手で示し、「それからチャワン蒸しとヤツハシ、どちらか選べますよ」「ヤツハシがいい!」モマメがいつの間にか目を覚ましていた。スナバは微笑し、「じゃあ、この子にはヤツハシで、ぼくにはチャワン蒸しを」
posted at 18:15:59

「ヨロコンデ」美しい白人女性は流麗な日本語でアイサツし、モマメに直接、やはり真空パックされたヤツハシを手渡した。チャワン蒸しは紙製の円柱状のパックに入っている。家庭では囲炉裏にかけた鉄の碗からよそうのだが、さすがに機内でそれは無理だ。
posted at 18:25:01

「それから、ええと、サケをください。この子には何かジュース……」「グレープ味があります」「じゃ、それを」添乗員は滑らかな手つきでカートから缶飲料を二つ…サケとグレープ味のジュースを取り出した。
posted at 18:43:43

スナバは機内食パックの蓋を開いた。汁気の多い米の中に小さいガンモがいくつか入っている。「熱い?」モマメが訊く。スナバは汁っぽいガンモを箸で口に運ぶ。「大丈夫だよ」「イタダキマス!」モマメも食べ始めた。
posted at 18:53:50

添乗員は前の座席へゆっくりとカートを押して行く。スナバはしばしその後ろ姿に見惚れた。ただでさえ「ガイジン」は珍しいが、美貌であるし、金髪も美しい。添乗員のスーツがよく似合い、知的かつセクシーだ。これもオバンデスの企業努力の一貫か……疲れたスナバはとりとめもなく考えた。
posted at 19:11:00

前の席の老人が不安げに口にする。「添乗員さん、わしゃ、どうも落ち着かなくて。この、鉄の塊が飛ぶっていうのがどうもね」「ご心配要りませんよ。当社は創業120年ですが、墜落事故など一度も起こしたことがありませんから」「孫の顔を見に行くんです。初孫で……」「それはよかったですね」
posted at 19:14:04

「ネオサイタマは水が悪いっていうでしょう。私はキョートに来なさいって何回も言ってるんだが。でもね、孫がかわいいんだ、これが。IRCで写真が届いたんですがね……」「それはとてもよかったですね」「でしょう、それがね、本当にかわいいんですよ」
posted at 19:22:02

なかなか添乗員を解放しない老人に心のなかで苦笑しながら、スナバは茶碗蒸しのパックを開け、プラスチックのスプーンで食べ始めた。オキアミが申し訳程度に入っており、甘い。ディスプレイではシュンブン・カワバがCG合成のコメ畑で働いている。心安らぐ、古き良き光景だ。
posted at 20:10:50

「お母さんに、運動会でシシマイ体操したこと、言おうね!」モマメが輝かせて言った。「そうだね」スナバは頷き、窓の外を見やった。…「飛行機は乱気流に近づきます。少し揺れたり、ディスプレイの映像が乱れますが、そういった自然現象ですので、問題はございません…」機内放送が流れてきた。
posted at 20:37:59

リラクゼーション効果のあるモクギョ音がうっすらと聴こえてきた。スナバはトレイを戻し、シートに深くもたれた。意外にお腹が膨れてしまった。モクギョを聴きながら映像をぼんやり見ていると、眠ったばかりだというのに、自然とまた眠くなる……。
posted at 20:40:36

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posted at 20:41:17

「何度経験しても慣れんものだ。この乱気流というやつは」忌々しげに秘書に向かって言うと、ディンタキ・カツマはアンコをかけた大豆100%トーフを箸で割り崩した。
posted at 21:06:34

ディンタキ・カツマが座すのはオバンデス航空の旅客機「サアイ11号」にたったひとつだけ用意されたファーストクラス・シートである。フスマ型ドアーでビジネスやエコノミーとは物理的に隔絶され、タタミ敷きの快適な茶の間づくりになっている。当然、フートンで寝ることができる。
posted at 21:10:09

カイヅマ・ショーユ社を一代で築き上げたディンタキ・カツマの老いた横顔には、気難しさと誇りが深い皺となって刻まれている。二口でアペタイザーのトーフを食べ終えたディンタキ=サンは、マツタケ入りのタマゴ焼きを三切れ一度に挟み取った。不作法であるが、タイムイズマネーが彼のモットーである。
posted at 21:33:54

「明日のカンファレンスは10時でよかったな?」スシを食べながらディンタキ=サンは秘書を見やった。「はいそうです」シチサン・ヘアーの秘書は黒縁の眼鏡を手の平で直した。「その後13時10分からカスミガセキ・ジグラットで官庁との打ち合わせを。移動にはヘリを使います。申し訳ない」
posted at 21:57:09

「ヘリか」大豆100%ミソスープをすすり、ディンタキ=サンは呻いた。「仕方ないな」「スミマセン」「お前は謝らんでいい」「スミマセン。その後、15時から検診です」「うむ」
posted at 22:05:30

ディンタキ=サンは昨年、肺ガンで片肺の摘出手術を行っている。彼は再発の可能性を視野にいれて経営の舵を取ってきた。タイムイズマネー。日に日にその矜恃は重みを増してゆくのだ。
posted at 22:49:56

彼と秘書のやり取りを、少し離れた位置で家具のように動かず見守るSPが二人。黒いサングラスをかけ、黒い背広を着た彼らからは油断ならぬ緊張感が放射されている。どちらもアイキドー11段以上。アサルトライフルで武装したハイジャッカーが突入してこようと返り討ちにできるウデマエの持ち主だ。
posted at 22:57:45

「スチュワーデス=サンを呼べ。膳を下げ渡しなさい」最後にチャを飲み干すと、ディンタキ=サンが秘書に指示した。「ハイ、すぐに」秘書は眼鏡を手の平で直し、紐を引いた。カコン!カコン!とシシオドシ音が反響し、すぐに添乗員が現れた。ガイジン……金髪のコーカソイド、美女である。
posted at 23:11:20

「さっきと違うスチュワーデス=サンだな」ディンタキ=サンはツマヨジで奥歯をせせった。「マイコ・サービスのほうは頼んどらんぞ」「いえ」添乗員は首を横に振った。
posted at 23:14:15

「まあよい。これを下げてくれ」添乗員はハイヒールをコツコツと鳴らしてディンタキ=サンに近づいた。隅のSPが二人同時に片足を前に出し、殺気を漂わせる。この添乗員がゲイシャアサシンであった場合、アイキドー9段で修得するジェット・ツキが即座に叩き込まれる。
posted at 23:33:59

添乗員はちゃぶ台の横で素早く片膝をつき、額の前で合掌した。平安時代から存在する伝統的な「害意無し」のアピールである。
posted at 00:33:31

「なんのつもりですか!顔をあげて下がりなさい!」秘書が眼鏡を直しながら叫んだ。SP二人も拳を構えようとした。添乗員はひるまず、「お耳に入れたい事がございます」「……よい」ディンタキ=サンは部下を留めた。
posted at 00:38:46

「スチュワーデス=サンでは無いな?わざわざ化けてまでワシに近づいたというか」「ハイ」片膝をついたまま彼女はオジギした。「分刻みのディンタキ=サンにお話しするには、この方法しか」膝立ちのスカートのスリットから太腿がのぞく。だがディンタキ=サンの表情は氷のようだった。「言うてみよ」
posted at 00:43:31

(「フジ・サン・ライジング」#2へ続く)
posted at 00:44:31

◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 20:44:06

NJSLYR> フジ・サン・ライジング #2

101123

「フジ・サン・ライジング」#2
posted at 20:44:50

「スチュワーデス=サンでは無いな?わざわざ化けてまでワシに近づいたというか」「ハイ」片膝をついたまま彼女はオジギした。「分刻みのディンタキ=サンにお話しするには、この方法しか」膝立ちのスカートのスリットから太腿がのぞく。だがディンタキ=サンの表情は氷のようだった。「言うてみよ」
posted at 20:45:21

「これを」金髪添乗員は胸元のボタンを外し、豊満な胸の谷間をあらわにした。マイコ!だがディンタキは無言であった。社長が厳しく見守る中、添乗員は自らの胸に手をやると、谷間に挟んで隠してあったマイクロ素子を取り出した。
posted at 20:50:10

「……ヤデ=サン。再生機を準備せい」「ハイ」秘書は手の平で眼鏡を直し、ダッシュボードの薄型端末を机の膳の隣に置いた。「何か面白い余興でもあるか、スチュワーデス=サン」ディンタキ=サンは無表情に言った。女は頷いた。「実際そうです」白い指で端末機の実体キーボードをヒットする。
posted at 20:54:25

「先日の温泉旅行カンファレンスを通して、あなたが内々に進めている後継者選びの件です」女は端末機を立ち上げた。「何だと」社長の声にドスが効いた。コワイ!女は冷やかに続ける。「記録を参照させていただいて」「ハ、ハッキングですぞ、君ィ!」秘書が鼻白んだ。女はスロットに素子を差し込んだ。
posted at 21:00:36

「あなたが、日頃の覚えと、なによりそのハイクを詠む非凡な速さに着目し、後継者にとお考えのキロバキ専務=サンですが……」話しながら、女が『入る』と書かれたキーをヒットする。液晶モニタに毛筆レタリングされた『初心』という文字が浮かび上がった。『見る』『色の写真』。
posted at 21:06:33

女のキーパンチ速度は非凡な速度と言ってよかった。すぐに『初心』はマイクロ素子に記録された写真を読み取り、薄紫色のスクリーンの上に、それらの画像がゆらゆらと泳ぎ始める。「これを」
posted at 21:09:17

ディンタキ=サンはうさんくさげに身を乗り出した。最初に拡大表示されたのは、キロバキ専務のよく肥った正面写真である。それから、黒塗りボディに黄色い社紋がペイントされたタクシーの後部座席に乗り込む写真。後部座席の奥にもう一人、足が見える。
posted at 21:18:39

さらに写真。黒塗りタクシーが巨大なチョウチン・ランプを据えたテンプル・レストランの門をくぐっていくところだ。ネオサイタマの有名店「タベチャ」である。一晩で最低でも200万はかかる、イチゲン・カスタマ入店禁止の老舗……
posted at 21:24:42

「こやつ」ディンタキ=サンは呟いた。タイムイズマネー、リアルビジネスを社訓に掲げるディンタキ=サンは、過剰な接待のニオイに表情を曇らせる。
posted at 21:30:57

次のコンテンツは写真ではなく映像だ。どうやって撮ったものか、荒い小型ビデオカメラによる「タベチャ」敷地内の映像が展開する。黒塗りタクシーのドアが開き、キロバキ=サンと、もう一人、知らぬ男が降りる。高床式のテンプル・ハウスへ向かう道を、ホウキを持ったスタッフが高速で掃き清めていく。
posted at 21:44:27

キロバキ=サンと並んで歩くのは誰だ? ディンタキ=サンの疑問を見透かすかのように、次のコンテンツが開く。歩いてゆくその男のダークスーツ。襟元へ向けて、徐々に画像が拡大する。金バッヂ……カタナを交差させたエンブレム!ナムアミダブツ!読者諸氏はこのエンブレムをご存知であろうか!
posted at 21:54:27

「ソウカイヤだとーッ!?」ディンタキ=サンはのけぞり、激昂した!「キロバキーッ!」タイヘン・シツレイ!呼び捨てにするほどの怒りである!「続きを!ディンタキ=サン」女が促し、再度『入る』をヒットした。再び映像コンテンツだ。
posted at 22:14:20

今度の映像は屋内。おそらくテンプルハウスの茶の間だ。四方をショウジ戸が囲み、天井には雄々しい山賊のウキヨエがでかでかと描かれている。既に宴もたけなわといったところ、キロバキ=サンは額にネクタイを巻いて、カミザに座った第三の男が差し出すオチョコにサケを注いでいる。
posted at 22:57:36

「我々の新たなユウジョウと、さらなる発展にカンパイしましょう。未来に!」サケを注ぎ終えたキロバキはへつらいの笑みを浮かべ、自分のオチョコを持ち上げた。鎖頭巾にスーツという威圧的ないでたちの男は尊大に笑った。「ムハハハハハ!ムッハハハハ!正しい選択だキロバキ=サン!」
posted at 23:07:48

鎖頭巾の男は金バッヂの男に頷いて見せた。金バッヂの男はどうやら彼の部下なのだ。男は静かに腰をあげ、ショウジ戸を引き開ける。戸の外はすぐにエンガワだ。正座して待機するチーフゲイシャがオジギし、パンと手を叩いて合図する。
posted at 23:11:32

「すべて滞りありません、ラオモト=サン」キロバキ=サンは手ぬぐいで額の汗を拭った。「フム?」ラオモト=サンと呼ばれた威圧的な男はグンカンスシをつまみながら応じる。なんと!グラム200000円で取引される高級食材、イクラキャビアのスシだ!
posted at 23:17:13

「ディンタキ=サンは私を高く買っています。特にハイクの腕をね!彼はもう長くない!次の役員会でこの私が指名される事は確実です。そうすれば、後は怒涛の大ナタを振るいますよ!私はね!」キロバキ=サンは勢いよくまくし立てた。
posted at 23:21:11

「まず、社員の半分をリストラします。そしてキョートのショーユ工場は全て売却し、すべて外注にアウトソーシングします。マルナゲ!この効率化で、一時的に株価は高騰しますよ!ブランド崩壊が表面化する前にイッキに売れば、たいへん儲かります!」「ムハハハハハ!ムッハハハハ!」ナムアミダブツ!
posted at 23:26:37

「なかなか満足させてくれるな、キロバキ=サン。ネコソギ・ファンドはおぬしに相応のポストを用意して待っておるぞ。ムハハハハハ!」「ありがたき幸せ!」キロバキ=サンは叫んだ。「あんなカビたショーユ屋なんて、現金化するのが一番だ!」
posted at 00:20:12

キロバキ=サンが感きわまっていると、チーフゲイシャがショウジ戸を引き開け、エンガワを渡ってきた十人近い新手のゲイシャを茶の間へ送り込む。「さあ!ブレイコウと行きませんか!」金バッヂが叫んだ。アソビ!
posted at 00:25:23

新手のゲイシャたちは嬌声をあげながら部屋になだれ込み、三人にしなだれかかる。「ムハハハ!英雄、色を好む!」ラオモト=サンはミヤモト・マサシの警句を引用し、右手に一人、左手に一人、ゲイシャの帯を掴むと、力を込めて引っ張った。
posted at 01:07:03

「アーレーエエエ!」媚びた悲鳴があがり、二人のゲイシャの帯がクルクルとほどかれる!ゲイシャはその勢いでコマのように回転しながら、次第にキモノをはだけ、裸体に近づいていく。ラオモト=サンは尊大に言い放った。「ヨイデワ・ナイカ!」
posted at 01:10:33

ラオモト=サンは二人のゲイシャを裸体にし終えると、手近の別の二人の帯をつかんだ。既に裸体となったゲイシャは金バッヂによって机の上に寝かされ、チーフゲイシャがそこへ機械的素早さで刺身を乗せていく。ナ、ナムアミダブツ!なんたるマッポー的酒池肉林地獄図!
posted at 01:15:22

キロバキ=サンは泥酔のていで、カメラのほうへ向き直る。「ほらほら!おまえもこっちへ来なさい、ゲイシャは皆で参加、参加!キンパツがセクシーじゃないか、ええ?」「この娘はその係じゃないんどすえ」チーフゲイシャが助け舟を出す。「ごめんなさいね」「ブレイコーなのに!」……
posted at 01:20:56

「もう十分だーッ!!!」ディンタキ=サンは鼻血を噴出させた!そして膳の盆を両手で掴むと、怒りに任せてひっくり返した。「キロバキーッ!犬にも劣る畜生めが、ワシの手を噛もうてかーッ!!」
posted at 01:24:27

「アイエエエ!」秘書が主の激怒を恐れて尻餅をつき、メガネを取り落として失禁した。女はディンタキを見据えた。「いかがですか、余興になりまして? 付け加えておくと、私の貞操は守られましたわ。あの直後に退席しましたから」
posted at 01:28:48

「十分すぎるほどの余興であったわ!」ディンタキは流れる鼻血を拭おうともせず、歯をむき出して怒った。「礼を言っておこうスチュワーデス=サン。……貴様は何者で、何のためにこれを?」
posted at 01:36:51

女は静かに、「私はソウカイ・シンジケートに敵する者とだけ。……ディンタキ=サン、明日のカンファレンスに臨むにあたって、今お見せした事実をよくお考えになって」携帯端末のディスプレイは酒池肉林の地獄図からエンガワへ抜け出す視点を流している。
posted at 01:38:31

女は『初心』を停止させようと画面を覗き込んだ。映像の終わり際、エンガワの下に膝まづいた姿勢で待機する黒装束のニンジャが一瞬映っているのを認め、女は眉をひそめた。ディンタキはいまだ怒りさめやらず、「奴め。明日は己のハイクの技量をセプクのために使うことになろうぞ」呪詛を吐き続けた。
posted at 01:43:07

「それ、できない」
posted at 01:49:07

ディンタキは背後を振り返った。「それ、できないです、ディンタキ=サン」声はファーストクラス茶の間の隅に敷かれたフートンの中からだった。SP二人がそちらへアイキドーの構えを取った瞬間、「イヤーッ!」フートンが跳ね上がり、禍々しい影が飛び出した!
posted at 01:53:03

影が目の前を横切り、反対側の壁際へ着地したとき、既にその二人のSPの命は無かった。首がぱっくりと割れ、噴水のように鮮血が噴出。天井を汚す。「スパシーバ!」影はディンタキに向かってゆっくりとオジギして見せた。ガンメタル色の……ニンジャ装束である!
posted at 01:59:00

「アイエエエエ!」秘書が腰を抜かし、再失禁した。ニンジャはゆっくりとオジギを終えると、ロシア訛りの日本語で言った。「オーチン・プリヤートナ、ディンタキ=サン。サボターです。あなたここで死ぬことになっています」
posted at 02:00:13

(「フジ・サン・ライジング」#2 終わり。#3へ続く
posted at 02:00:45

NJSLYR> フジ・サン・ライジング #3

101126

「フジ・サン・ライジング」#3
posted at 17:23:06

影が目の前を横切り、反対側の壁際へ着地したとき、既にその二人のSPの命は無かった。首がぱっくりと割れ、噴水のように鮮血が噴出。天井を汚す。「スパシーバ!」影はディンタキに向かってゆっくりとオジギして見せた。ガンメタル色の……ニンジャ装束である!
posted at 17:33:33

「アイエエエエ!」秘書が腰を抜かし、再失禁した。ニンジャはゆっくりとオジギを終えると、ロシア訛りの日本語で言った。「オーチン・プリヤートナ、ディンタキ=サン。サボターです。あなたここで死ぬことになっています」
posted at 17:33:57

「ク、クセモノ!」秘書が叫んだ。ニンジャは一歩進み出た。そして言う。「イズヴィニーチェ。いいフートンでした。ディンタキ=サン、あなた、この女性のお話きかなければ、まだ少しダイジョブでした。でも、もういけない」聞き取りづらいロシア語訛りである。
posted at 17:44:36

老ディンタキはさすが一代でショーユ・コーポレーションを築き上げた見上げた度胸、たった今おそるべきウデマエで二人のSPを殺して見せたニンジャを前に、毅然としている。「ソウカイヤか?ワシを消す算段をしておったのか」「ニェート」サボターと名乗ったニンジャは首を振った。
posted at 17:49:14

「私は念のため監視です。ダークニンジャ=サン、外でよく見ていたですね、あのときに。ゲイシャ=サン、ちょっとおかしいでしただから私、この機にハケンされましたということ。そしてディンタキ=サン見てましたら、ダークニンジャ=サンの心配通りです、接触されまして、これ、よくないですとても」
posted at 18:02:07

サボターのロシア風メンポの奥の暗い瞳に凝視され、女----添乗員に偽装したナンシー・リーは身を固くした。映像の最後に一瞬映ったニンジャ。あれが?不自然さを気づかれていた?ウカツ!
posted at 18:14:35

「スカジーチェ、バジャールスタ……」サボターはナンシーに問うた。「どうもあなた、シンジケートの周り、よくいます?でもデータベース時々不自然であなたの目撃の記録が参照されない。なんだかおかしいですね。でもあなたみたいな人の話が時々出ますし。あなた何ですか名前?」
posted at 18:20:13

BLAM!BLAM!ナンシーは答える代わりに、太腿のホルスターの拳銃を発砲した。迷い無し!おお、だが見よ、サボターを!「パンキ!」
posted at 18:56:18

サボターは両脚を前後に開脚して深く身を沈め、銃撃を難なく回避した。通常のニンジャが行うブリッジによる回避とは違う体系のカラテ動作だ。「ニェート!お話を続けねば。まずディンタキ=サンです。イズヴィニーチェ、話それてしまいました」
posted at 19:05:07

BLAM!BLAM!ナンシーが開脚姿勢のサボターへ再度発砲した。「パンキ!」だが、だめだ!驚くべき敏捷性でサボターは開脚姿勢から側転、銃撃をかわす。サボターはナンシーを警告的に指差した。「アスタナビーティシ!私のパンキドーに拳銃効かない。跳弾であなたたち不利です。まず話からです」
posted at 19:19:44

ディンタキ=サンがナンシーに銃撃をやめるよう目配せした。ナンシーは舌打ちし、拳銃を構えたままサボターを睨んだ。サボターは頷いた。「バリショーイヤ スパシーバ。時間無駄ですからね。さて、ディンタキ=サン。お話続けます」茶の間には絶命した二人のSPの血の臭いが漂う。
posted at 19:26:35

「いいですかディンタキ=サン、あなたあのまま明日のカンファレンスでキロバキ=サン社長にしてインキョすべきだったでした。そしてそのはずだったでしたね。だからよくないですねこの今のあなた。だから、この、委任状書きますあなた。モージナ?」サボターはオリガミを広げて見せた。委任状である。
posted at 21:48:04

「これ文面、あなた譲るのこと全権をキロバキ=サンに。これにハンコつきますあなた」床がぐらりと大きく揺れ、機内アナウンスが行われる。「乱気流の近くを飛んでおりますため…」サボターは窓の外の空を見やり、「この後いろいろあって、私はこの乱気流抜けたらパラシュートします。委任状持ってね」
posted at 21:54:57

ロシア風メンポの奥でサボターの目が細まった。「ハンコ出してください、ディンタキ=サン」「……断る」「イヤーッ!」サボターが両手を腰に当て、イナズマのような速度で前蹴りを繰り出した!「アバーッ!」ディンタキ=サンの秘書が顔にパンキックを受け、首ごと真後ろに折れて死んだ!
posted at 22:59:49

BLAM!BLAM!ナンシーがサボターを銃撃した。「パンキ!」サボターは両手足を大の字に開き、信じられない距離を横飛びしてそれをかわす!タツジン!パンキ・ジャンプだ!
posted at 23:02:52

「プロホー!やめなさい言っている!」サボターが叫んだ。「さあ、ディンタキ=サン、ハンコ押すしないと痛い目にあいます!」「……」ディンタキ=サンがサボターを睨み返す。「いまは私あなた殺す気ですがハンコ早く押せば助けない事無いかもしれないです。早くしなさい!」
posted at 23:13:29

(親愛なる読者の皆さん:翻訳チームがカキにあたっていたので昨晩の更新は停止していました。事なきをえましたので更新を間もなく再開いたします)
posted at 19:32:40

ディンタキ=サンはサボターを睨み、せせら笑った。「知らぬ!さあ、どうする。ワシを殺すか?殺したところでハンコは絶対に見つからぬぞ」なんたる不敵!自らの命で綱渡りを行う腹である!
posted at 20:07:18

「シトー?」サボターが暗く笑った。「なんとも意地悪いお爺さん。ロシア的ですとてもあなた。では私も隠しもの見つけごっこしましょう」サボターは懐から漆塗りの小型リモコン装置を取り出した。装置にはクロスカタナ・ロゴが描かれた円ボタンがついている。「シトー エータ?パニマーチェ?」
posted at 20:25:57

サボターはリモコンを弄んで見せた。「パニマーエチェ?わかるようにしましょうそれでは。ハイ!」サボターは円ボタンを親指で押してみせた。
posted at 20:28:58

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posted at 20:29:22

「ねえ、お父さん、雲がぐるぐるしてるね!」モマメは椅子の上で膝立ちになり、窓の外をじっと見ては時々歓声を上げた。「どうして?」「これはね、乱気流っていうんだ、すごい嵐の雲なんだよ」「あ!カミナリが光ったよ!」「怖いねえ」「こわくない!」モマメは魅せられたように稲妻を見つめている。
posted at 20:39:59

「こわくないよ!お父さん私がこわくないしてあげるからね!」スナバは苦笑した。身を乗り出し、モマメの後ろから窓の外を見やる。旅客機の翼が見える。雄々しいものだ……。
posted at 20:54:40

その翼が光を発し、機内にまで届く轟音とともに煙を吹き上げる!ぐらりと傾く機体!「アイエエエエエ!」「アーアイエーエエエエー!」「なんだ!何が起きた!」機内が騒然となった。スナバは反射的にモマメの頭をかき抱いた。
posted at 21:01:39

異常を察知し、自動的に各座席の頭上から黄色いビニールバッグが射出される。バッグにはオバンデス航空の社紋と鳥獣を擬人化した装着図、ミンチョ体で「引っ張ったり開いたりして安全度を増す」とわかりやすい説明文が添えられている。
posted at 21:09:52

「ブッダ!」スナバは叫んだ。腕の中でモマメが身じろぎした。「お父さんこわくない!こわくないよ!」
posted at 21:11:12

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posted at 21:11:59

ナンシーは悲鳴をあげ、床に膝をついた。『ただいま、飛行翼に何らかの衝撃を感知いたしましたので、確認作業中です。皆様におかれましては、表示に従って救命具をご装着いただき、どうぞ落ち着いて指示をお待ちください』張り詰めた声で機内放送が行われた。
posted at 21:19:47

「オーチン・ハラショー!」サボターが笑い、拍手した。「どうですびっくり驚きましたでしょうか?今のはたいした爆発ではありません、私も死んでしまう、いけないです」
posted at 21:21:25

「下衆め……!」ディンタキ=サンが吐き捨てた。「バリショーイヤ スパシーバ!あなた義に厚い社長=サン、そことても日本的です。無関係乗客さんあなたのため死んだら夜眠れないね?我慢比べと行きましょう。これゲームです。私あんまり難しいゲームないね。あなたギブアップしましょう早く」
posted at 21:43:00

「お客様……アイエエ!」フスマ式ドアーがノックされ、緊迫した様子の添乗員が入ってきた。そして室内の惨状を見て短い悲鳴をあげた。「下がれ!」ディンタキ=サンが叫ぶが、「イヤーッ!」サボターが投げたロシア風スリケンが添乗員の耳の隣の壁に突き刺さる!「アイエエエエエ!」
posted at 21:45:41

「あなた、何も問題見ないかった、いいですよね?」サボターが言った。蒼ざめた添乗員は無言で素早く頷く。「変な事しない。私が爆弾爆発する、あなた達いけないでしょう?」添乗員が頷く。「ウォートカはありますか?私サケは好きでない」添乗員が頷く。「では持ってきて!」「アイエエ!」
posted at 21:49:53

添乗員がまろび出て行くと、サボターはディンタキ=サンに向き直った。「乱気流を抜けるまでが時間リミットです。それまでに決めるいいですね。爆弾、翼だけでない。乗客さん達殺して行ってもいいですし。助かるしてもいいし。ゆっくり考えて。私はウォートカでも飲みながら待ちます」
posted at 22:46:02

そしてナンシーに言った。「あなたは別の用事あります。あなた生かすします、あなたに興味ある人シンジケートに多い。一緒に連れて行く。名前、仕事、教えてください。言わないでなら、個人的に体に訊くも楽しいですろう。でもそれは後の事です」
posted at 22:51:51

BLAM!BLAM!BLAM!ナンシーは発砲で答えた。「パンキ!」サボターは左側へパンキ・ジャンプしてそれをかわす!ニンジャ反射神経の前に拳銃は無力なのだ……!さらに撃とうとするナンシーの側面に回り込んだサボターがナンシーの首筋をチョップする。「イヤーッ!」「アイ……」
posted at 23:09:55

意識が混濁し、ナンシーは床にへたりこんだ。サボターは素早くナンシーの腕を後ろ手に縛り上げた。「あまり面倒をかけるいけない!さあディンタキ=サン、いかがですか?乱気流そろそろ抜けるではないか?」
posted at 23:20:17

さきの添乗員がウォッカとキャビアをワゴンに乗せ、恐る恐る戻ってきた。「ハラショー!」サボターはロシア風メンポをずらし、ウォッカのボトルをあおった。「ウォートカは祖国を思い出させます」
posted at 01:02:03

ボトルの三分の一を一息に飲むと、サボターは添乗員に凄んだ。「あなた自身の責任において、ここであった事を外にバレるいけないする事。他の人が入るさせない事。わたし幾つか爆弾しかけてます。飛行機落ちる。さっきのも私です、わかりますね?」添乗員は頷いた。そして逃げるように去った。
posted at 01:03:55

「もうすぐ乱気流を抜けます!」サボターが強く言った。「ハンコを出しなさい!」「……!」ナンシーは徐々に意識を取り戻しながら、押し問答を聞いていた。ディンタキ=サンは歯を食いしばっている。不本意な方法で己が一から築き上げてきたカイシャをソウカイヤに奪われるのだ。その決断は苦い。
posted at 01:09:21

どれほどの沈黙が経過しただろう。サボターはゆったりとキャビアをつまみ、ウォッカをあおりながら待った。やがて飛行機は乱気流を抜け、明け方の空が地平線を染める。「……わかった。ハンコだ」
posted at 01:12:32

「シトー?」サボターが聞き返した。「ハンコはここだ……」ディンタキ=サンは右手の薬指をねじった。すると薬指はキャップのように外れたではないか。ケジメしていたのだ!なかにはベッコウのハンコが収められていた。なんたるサイバネ的隠匿!
posted at 01:17:12

義指に隠されたハンコを奪い取ったサボターは、オリガミ・メール式の委任状に素早く判をついた。「スパシーバ!これでキロバキ=サンは社長なれます。これであなた、もういらない。当然、シンジケートの関与を知っているあなたがこのまま生還する、いけません」ナムアミダブツ!
posted at 01:31:29

サボターはウォッカ瓶を投げ捨て、パンキックの予備動作を取る。処刑!ディンタキ=サンは絶望的な反撃をあえて試みる事もなく、穏かな表情でナンシーを見やった。「名も知らぬスチュワーデス=サン。ワシの生は、まことに不条理な幕切れだ。だがワシは、醜い行いやダマシに手を染めず死んで行くのだ」
posted at 02:08:27

ナンシーはなかば殉教者めいたディンタキ=サンの表情に、不思議な輝きを見た。「スチュワーデス=サン。あなたが生き延びられたら、せめてあなたはワシの死に方を時々でも思い出してください。ワシは誰にも恥じることのない生を送り、誇りを胸に死ぬ。それはこのニンジャにも邪魔する事はできぬ」
posted at 02:14:44

「イヤーッ!」サボターは腰に手を当て、前蹴りを放った。ディンタキ=サンの首は折れ曲がり、180度後ろを向いて絶命した。「この国のこういうセンチメンタリズム嫌いですね」サボターは冷たく言い放った。「あなた、さっき言ったとおり生かします。でも乗客の皆さん、いけません」ナムアミダブツ!
posted at 02:21:01

「何を……?ディンタキ=サンはカイシャも命も、あなたの言われるままに差し出した。同じ飛行機に乗り合わせた、見ず知らずの乗客のために。説明のつかない責任感のために。彼はそれを『誇りのため』と言った……それを、約束を反故にするの?」ナンシーは責めた。サボターは肩をすくめた。
posted at 02:27:05

「死んでしまえば約束など意味ないです。私、好きにできる。そうでしょう?……このあと飛行機は謎の爆発を起こして墜落、ディンタキ=サンは乗客乗員もろとも事故死つまり自然死です。私とあなたはパラシュートで飛行機からダ・スヴィダーニャする。キロバキ=サンは委任状で社長なる。全て合理性」
posted at 02:34:15

ゴウランガ!なんたる外道輪廻!サボターは何の罪悪感もないのである!彼は窓の外の曙を見た。「おや!もうすぐ富士山の上空でないですか?ウキヨエ的な美、実にハラショーです。乱気流も抜け、いつでもこの飛行機を吹き飛ばしてダ・スヴィダーニャできます……シトー?」サボターはナンシーを見た。
posted at 02:42:06

「地獄の猟犬がつきまとう……」ナンシーはサボターを睨み、呪うように呟いた。「あなたが許される事はない」サボターは首を傾げた。「シトー?あなた、賢い女性思ってましたが、この国のシャマニズム毒されているですか?くだらない事ですよ。インガオホーですか?ハッハ!……ん、シトー・ターム?」
posted at 02:48:14

サボターは窓の外の空を二度見した。この旅客機のすぐそばを、大きな鳥のような影がよぎったからだ。ナンシーはその影をよりはっきりと目にしていた。もちろんそれは鳥ではない。それは……セスナ機だ。
posted at 02:51:43

「シトー・ターム?パニマーエチェ!?」サボターは不審そうに窓の外を凝視した。今やそのセスナ機は旅客機と並んで飛行している。翼の片方には「忍」、もう一方には「殺」。黒い太陽のモチーフの中に、金色で恐ろしい文字が描かれている。
posted at 02:58:36

セスナからはロープめいたものが伸び、旅客機のどこかに引っ掛けられているようだ。どうやってそんな事を……?「シトー?」サボターはナンシーを見た。ナンシーはかぶりを振った。しかし彼女にはわかっていた。どういう理由によってか、「彼」は現れたのだ。この富士山の上空に。ニンジャを殺す為に。
posted at 03:04:56

サボターは窓に顔をくっつけて、セスナの様子を伺おうとした。なにか影が飛び出し、セスナから旅客機の尾翼へ渡って行ったように見えた。「何か知っているのですか?シトー・ターム?」ナンシーを見る。彼女は無言だった。ただ冷笑した。サボターは再び窓の外を見る。「一体……アイエエエエエ!?」
posted at 03:11:03

サボターは悲鳴をあげた。彼は窓の強化ガラス一枚を隔て、逆さまにぶらさがった顔と対面していた。その顔は、セスナの禍々しい意匠と同じ「忍」「殺」と彫られたメンポに隠されていた。「地獄の猟犬がつきまとう」ナンシーは冷たい声で、繰り返した。「許される事はない」
posted at 03:16:26

(「フジ・サン・ライジング」#3 終わり。#4へ続く
posted at 03:17:43

RT @alohakun: 「「レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード2 「バックストリート・ニンジャ」」をトゥギャりました。 http://togetter.com/li/72554
posted at 13:04:32

RT @alohakun: 「「メリークリスマス・ネオサイタマ」 #1」をトゥギャりました。 http://togetter.com/li/72801
posted at 13:04:53

RT @alohakun: 「「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」 #1」をトゥギャりました。 http://togetter.com/li/73081
posted at 13:05:16

RT @alohakun: 「ニンジャスレイヤー・トイのへヴィなコレクター、アダム・フィリップスに対するインタビュー」をトゥギャりました。 http://togetter.com/li/72992
posted at 13:05:32

RT @obiektXIV: 「ロスのエレメンタリー・スクールではNINJA SLAYERの熱狂的なファンがNINJARDって呼ばれてたっけ。一緒に昼休みにごっこ遊びなんかしたもんだよ。俺は本当はダークニンジャ役が良かったんだけど、いつもモスキートみたいな端っぱをやらされてたもんさ」 #NJSLYR
posted at 13:07:42

RT @alohakun: 「ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」」をトゥギャりました。 http://togetter.com/li/73867
posted at 19:53:49

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 21:45:50

【インタビュー・ウィズ・ニンジャ】 『ナショナル・ストーリーテリング』誌による貴重な記事、執筆者のひとりフィリップ・ニンジャ・モーゼズ(訳注:当時のペンネームはマクドガル・ニンジャだが、翻訳の都合上フィリップに統一)に対してのインタビュー(2000年)
posted at 21:51:42

――ブラッドレー=サンから貰ったオリガミ・メールをもとに、我々はサンフランシスコの郊外にある廃モテルを訪れた。
posted at 21:53:27

--カリフォルニアの燦燦たる日差しの下、指定された部屋で待っていると、ジーンズにTシャツ姿の男が、割れた窓から突然飛び込んできて礼儀正しくオジギしたのだ。ああ、これはフィリップ=サンだ、と我々は直感した。彼はそのままカラテを続けながら、にこやかにインタビューに応じてくれた。
posted at 21:58:50

――てっきりニンジャ装束で現れるものと。「それなんだ。それこそが、真っ先に僕たちが伝えたかった事さ。皆、ニンジャといえばあの格好を思い浮かべるだろう? 皆、物事の表面ばかり見る。もっと本質的な、いわゆる魂というものに着目して欲しい。それこそがニンジャソウルだ。イヤーッ!(側転)」
posted at 22:05:31

――なるほど、深い意味があるんですね。ところで意外にも、初版執筆時、お二人は日本を訪れたことがなかったとか? 「逆にそれが良いケミストリーを生み出した。僕たちはそれをブラムストーカー・エフェクトと呼ぶ。彼が東欧を実際に訪れていたらドラキュラは駄作になっていたかもしれないよ(笑)」
posted at 22:14:18

――お2人の役割はどのように分担されているのでしょうか? 「これも一言ではいえないね。その時々で全く違うから。ただ、最初の頃に使っていたメソッドは……まず僕が基本的なストーリーラインを提示し、そこにブラッドレーがリアルな日本描写や考証を追加する、という形だった(中段回し蹴り)」
posted at 22:21:34

「僕ももちろん日本文化の造詣は深いし、凄く愛している。ムーヴィー、コミック、ノヴェル、ミュージック、ニンテンドー、メガドライヴなんかをね。そう、僕のバックグラウンドは、ややサブカルチャー寄りなんだ。一方、ブラッドレーは漢字の読み書きもできるし、ショドーやチャドーもかなり上手い」
posted at 22:24:51

「そういうわけで、日本の歴史、伝統文化、古事記、ハイク、神秘的な言語である日本語やカタカナが深く関わるシーン……これらについては、主にブラッドレーが担当した。ただし、このキャッチボールは1回じゃ終わらない。その後僕がエディットし、さらにブラッドレーが、と何度も繰り返される」
posted at 22:31:03

――まさに化学反応! 「その通り。彼にはもう会ったね? 君たちが感じた通り、ブラッドレーは哲学家であり夢想家だ。一見、ローマの哲人のように理路整然としていそうで、時に凄くスピリチュアルなんだよ。彼の中では東洋の美徳と西洋の美徳が渾然一体となっている。イヤーッ!(レッグスイープ)」
posted at 22:34:29

「僕は、彼よりもう少し理詰めの男さ(笑)。コンピュータ工学を学んでいたからね。サイバーパンク的な要素は、主に僕の担当だよ。あいつは機械オンチなんだ(笑)。全く違う二人だから、その間に起こるケミストリーは凄い。どちらかが体系化しようとするともう片方が脱構築し、世界を広げ続けるんだ」
posted at 22:37:21

――あなたにとって、サイバーパンクとは? 「一言で表現すると“再生産が可能な神話”だと思う。コナンのような擬似神話作品も素晴らしいけど、過去をベースとした神話は、時代を超える普遍的な力を持ちつつも、ひとたび完成するとそこでストップしてしまう。イヤーッ、イヤーッ!(ダブルパンチ)」
posted at 22:42:09

「一方で、サイバーパンクは十年も経つと全てのものが古びてしまう。もちろん中には、その古びた感じが逆に良い味を出す神話的作品も存在するよ。ここで大事なのは、サイバーパンクなら、十年に一度リメイクが可能ってことさ。基本的な物語の骨子を保ったまま、無限に再生と進化を続けられると思う」
posted at 22:44:29

「つまりそれは、壮大な反復だ。ニンジャスレイヤーは、ミニマルテクノ的な反復の美学によって構築されている。ハイクと同じだね。数段落単位の反復が、ページ単位、エピソード単位の反復へ、そしていずれは再生する神話的な反復へと達し……ニンジャソウルは螺旋を描いて高みへと昇るだろう(恍惚)」
posted at 22:46:38

――次の話題に。あなたはしばしば解説内で“ニンジャスレイヤーはゴシック・サイバーパンクだ”と述べていますが、どういう意味なのでしょうか? 「2つある。まずは、古典的なサイバーパンクの文法を踏襲していること。次に、ニンジャとは吸血鬼のようなゴシック・ロマンの対象ということだ」
posted at 22:50:06

――ゴシック・ロマンにも造詣が深いのですか? 「ああ、僕は古今東西のエンタテイメントに精通しているからね(笑)。僕はコンピュータ・プログラミングを使って、サイバーパンクと18世紀ゴシック・ロマンの間にあるメカニズムの共通点と相違点を発見したんだ。ナムサン!(バックナックル)」
posted at 22:52:20

――つまり? 「どちらも反近代の精神に則っている。また、現代の有りふれた殺風景を、一方は陰鬱なディストピアやサイバーガジェットに、一方は中世ゴシック的で不吉なアンヴィエントに置換している。どちらもアンタイセイの幻想なんだ。おっと、これ以上は長くなるからまた別の機会にしよう(笑)」
posted at 22:55:44

――ところで、ゲーム、特にRPGがお好きだとか? 「ああ、僕らはダンジョンズ&ドラゴンズの世代だからね(笑)。その影響は隠せないだろう。RPGは確かに、ニンジャスレイヤーのコスモロジーを構成する要素の一つになっている。でも、あくまで要素の一つさ。ナムアミダブツ!(金的パンチ)」
posted at 23:05:05

――ニンジャスレイヤーをRPG化してみては? 「出版するつもりはないけど、個人的には少し試したことがある。今年9th Level社から発表されたNINJA BURGER RPGをベースに、ハウスルールを乗せて遊んだんだ。NINJA BURGERはホチキス綴じのパンクなPRGだよ」
posted at 23:19:20

「プレイヤーは、同名のファストフード・チェーンのニンジャ配達員になって、バーガーを客に届ける。全く、酷いジョークだよ(笑)。このゲームでは体力だけでなく名誉も重要だ。キャラクターシートには指が10本書いてあって、不名誉なことをするたびにケジメするんだ。ここは結構リアルにできてる」
posted at 23:23:33

「ここにハウスルールを乗せ、世界観をニンジャスレイヤーにふさわしくシリアスにした。プレイヤーはソウカイ・シンジケートのニンジャになって、要人を暗殺したり破壊工作を行ったりするわけだ。ニンジャスレイヤーは敵として出てくる。そして、遭遇したプレイヤーはほぼ間違いなく殺される(笑)」
posted at 23:26:14

――ゲームの話になったので、回収騒ぎの原因になったアン●ーハルク事件について… 「すまない。それについては何も語りたくない。……ただ、誤解を招かないように一つだけ言っておこう。ブラッドレーには、名前の決まっていないニンジャを、何でもアン●ーハルクにする悪い癖があった。それだけだ」
posted at 23:33:10

「……待てよ、もしかして君たちは、僕にアン●ーハルクの話をさせるために、ゲームの話題に誘導したんじゃないだろうな? ウカツ! インタビューは終わりだ! 終わり終わり! 駄目だ、写真は駄目だ! それを寄越せ! こうしてやる! イヤーッ! イヤーッ!! イヤーッ!!! サヨナラ!」
posted at 23:38:52

――こうして彼は、カメラとレコーダーをカラテで破壊した後、割れたガラス窓から逃げていったのだ。窓から外を見ると、彼は相当疲れていたようで、息を切らしながら金網を乗り越えるところだった。だが幸いなことに、我々もテープも生きていたので、こうして原稿を書くことができた次第である。(了)
posted at 23:40:19

NJSLYR> フジ・サン・ライジング #4

101202

「フジ・サン・ライジング」#4
posted at 18:30:07

(これまでのあらすじ)オバンデス航空の旅客機内では恐るべき応酬が行われていた。後継者に予定していた男がソウカイヤの傀儡である事をナンシー・リーの直訴によって知らされたディンタキ社長は激怒する。
posted at 18:32:45

しかし油断なきダークニンジャは既に手を打っていた。彼が機内に潜入させたロシア人ニンジャ「サボター」は恐るべきパンキドーの使い手だった。SPを殺害しナンシーを縛り上げたサボターは、旅客機の爆破をちらつかせ、ディンタキ=サンを強要。後継者委任のハンコを入手する。
posted at 18:36:26

ディンタキ社長の遺志もむなしく、サボターは社長を無情に殺害したのち、証拠隠滅のため旅客機を結局のところ爆破することをなんのためらいもなく宣言。サボターの卑劣非道に憤るナンシーの呪詛が届いたか、旅客機の窓には並行して飛ぶセスナ機、そして、逆さまに顔を出した「忍」「殺」のメンポ……!
posted at 18:40:16

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posted at 18:46:07

サボターは悲鳴をあげた。彼は窓の強化ガラス一枚を隔て、逆さまにぶらさがった顔と対面していた。その顔は、セスナの禍々しい意匠と同じ「忍」「殺」と彫られたメンポに隠されていた。「地獄の猟犬がつきまとう」ナンシーは冷たい声で、繰り返した。「許される事はない」
posted at 18:46:35

「アイエエエエ!アイエエエエエ!アイエエエエエ!ニンジャ!ニンジャ……スレイヤー!?」サボターはバク転して窓から飛び離れ、左足を上げ右手を前につき出した姿勢の「パンキ第一防御の構え」を取った。「シトー!なぜこんなところに!」
posted at 18:50:31

逆さに顔を見せた赤黒のニンジャはすぐに窓から見えなくなった。次の瞬間、振り子のように繰り出された両脚が窓の強化ガラスを一撃で粉砕、殺気の塊が機内へ飛び込んできた!とたんに、気圧差でファーストクラスの調度や秘書の死体、SPの死体が外へと吸い出される!
posted at 18:56:06

「Nooo!」縛られたナンシーは必死でそれらと運命を同じくされる事から逃れようともがいたが、力及ばず!ナムサン、吸い出されかかる!しかし侵入ニンジャは片手でナンシーの体を掴み、抱きかかえた!「ニ、ニンジャスレイヤー=サン」ナンシーは震えながら赤黒のニンジャの顔を見上げた。
posted at 19:02:47

自由な方の手で、赤黒のニンジャは侵入時に持ち込んだバイオ強化フロシキを拡げ、割れた窓の枠に沿って無数のスリケンを投擲。難なく穴を塞いでしまった。タツジン!スゴイ級のダイク・アーキテクトにも無理な処置である!
posted at 19:07:11

「ウワサにたがわぬ命知らずですねあなた!ソウカイ・シンジケートに楯突くイジオーット。ここは高度何メートルですか?あんなセスナで?スマー・サショール(狂っているのか)!?」パンキ第一防御の構えを持ち前のニンジャ平衡感覚で維持しつつ、サボターがまくし立てた。
posted at 19:16:56

赤黒のニンジャはナンシーを床に下ろし、冷徹にオジギした。「ドーモ、ハジメマシテ。ニンジャスレイヤーです」サボターはしかし、パンキ第一防御の構えは崩さない。シツレイ!彼は日本的な礼儀作法を本質的に軽蔑しているのだ!「オーチン・プリヤートナ、ニンジャスレイヤー=サン。サボターです」
posted at 19:21:55

「ニンジャ殺すべし」ニンジャスレイヤーは即座に言い放った。「どうして私がここに?それはオヌシを殺す為だ。だがオヌシを絶望させる為に、もう一つ教えてやろう」そして、足元にポラロイド写真を投げつける。太ったサラリマンが後ろ手に縛られ、膝をついた写真だ。
posted at 19:37:18

「ア、アイエエエ!?キロバキ=サン!?エータ カーク ジェ!」写真を見たサボターは動揺のあまり、パンキ第一防御の片足立ちのバランスを崩しそうになった。「イヤーッ!」すかさずニンジャスレイヤーがジャンプからの回し蹴りを放つ!
posted at 19:43:33

「パンキ!」ナムサン!またしてもパンキ・ジャンプだ!大の字に両手足を開いたサボターは横跳びに蹴りをかわす!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはすかさずスリケンを投げる!「パンキ!」「イヤーッ!」さらにスリケンを投げる!「パンキ!」「イヤーッ!」さらにスリケンを投げる!「パンキ!」
posted at 19:47:30

「イヤーッ!」「パンキ!」「イヤーッ!」「パンキ!」「イヤーッ!」「パンキ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げては側転し、サボターはそれをそのつどパンキ・ジャンプで避ける。その応酬は果てしなく続くかと思われた。ニンジャ持久力に「スタミナ切れ」という概念は通常、存在しないのだ。
posted at 20:37:08

しかし!「グ、グワーッ!?」パンキ・ジャンプの着地時にサボターは体制を崩し、床を転がった!「グワーッ!」おお、見よ!サボターのロシア風足袋の裏には禍々しいトゲの塊が刺さっている。これぞ平安時代のニンジャが用いやがて失われた道具…地面に撒いて機動力を封じる非人道武器「マキビシ」だ!
posted at 20:44:57

「チョ、チョルト!」サボターは痛みにのたうちまわった。「チョルト・バジミー!シトーエータ?」タツジン!ニンジャスレイヤーはスリケンを投げながら、抜け目なくこの非道な武器を床に撒いていったのである。さながらゲイシャ・スパイダーが松の木の枝あいに巣を張るが如く……!
posted at 20:58:32

「ソウカイヤのにわかニンジャがこの奥義を知らんのも無理はない」ニンジャスレイヤーは冷たく言った。ナンシーはその言動に言い知れぬ不安を覚え、メンポの奥のニンジャスレイヤーの目を見た。だがキユウ・アングザイエティだった。あのセンコ花火のような狂った目ではない。理性の光があった。
posted at 21:03:33

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはカラテ的なストンピングでサボターを仕留めにかかった!「パ、パンキ!」サボターはマキビシ地帯から離れるように床を横にゴロゴロと転がる。パンキドーの特殊回避動作、ワーム・ムーブメントである!
posted at 21:06:43

脳天を踏み砕かれる寸前で、サボターはニンジャスレイヤーのストンピングを避けた。シブトイ!そのままゴロゴロと丸太のように高速で床を転がり、寝たままの姿勢で陸揚げ直後のマグロのようにジャンプすると、フートンの向こう側へと滑らかに着地した。
posted at 21:10:36

「クラースヌィースニェクパイシオット!」サボターは毒づき、嵐のようにロシア風スリケンを投げつける!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは膝を抱えた姿勢で前転ジャンプし、連射されるロシア風スリケンを避けた。そのままカカト落としでサボターの脳天を狙う!
posted at 21:19:43

「パンキ!」サボターは稲妻のような速度で前後に開脚して姿勢を下げると、フートンの端を掴み、頭上へ投げた。フートンは柔らかい遮蔽物となって、振り下ろされるニンジャスレイヤーのエリアル・カカトを包み込んだ!「パンキ!」とっさにサボターはワーム・ムーブメントで部屋の角へ退避する!
posted at 21:30:11

「フバーチット!」サボターが叫んだ。「もう十分です。こんなくだらないカラテ比べ、私付き合うしません。旅客機ごと、あなたおさらば、私さよならする!」サボターは再び起爆装置を取り出した!
posted at 22:45:22

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げた。サボターはニンジャスレイヤーをまだまだ侮っていたのだ、早撃ちのガンマンめいたその投擲速度は瞬きよりも速く、ボタンを押し込もうとするサボターの親指に命中、吹き飛ばした!「グワーッ!」ケジメ!投げ出された起爆装置が宙を飛ぶ。
posted at 22:51:10

「イヤーッ!」もう片方の手が時間差で投げたスリケンが、空中の起爆装置をさらに弾き飛ばした。サボターが失敗ジャグラーめいて、起爆装置を掴み損ねる。「イヤーッ!」さらに今度はニンジャスレイヤー自身が跳ぶ!空中回し蹴りがサボターより一瞬速く起爆装置を捉え、部屋の反対の角へ弾き飛ばした。
posted at 22:57:24

そしてその時、ナンシーは自らを後ろ手に拘束していたニンジャロープをついに切断した。窓ガラスの破片を使ったのだ。遊んでいる暇はない。ナンシーはこの瞬間において自分自身に与えられた役割を、ニューロンが焼けるほどに強烈に理解している。彼女は弾かれたようにフスマ式ドアーへ駆けた。
posted at 23:06:43

「ストーイ!」フスマ式ドアーへ手をかけたナンシーの背中めがけ、サボターがロシア式スリケンを投げつける!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはペナルティキックを止めるゴールキーパーめいて、射線上へダイブした。そして、伸ばした手の中指と人差し指で、危険なスリケンを挟み取った。タツジン!
posted at 23:17:50

ニンジャスレイヤーはダイブから前転で着地、ジュー・ジツの構えでサボターに向き直った。「気が散って仕方がないようだが、オヌシの相手はこの私だ」そしてナンシーに目配せした。ナンシーは素早く頷き、フスマ式ドアーを引き開けると、ファーストクラス客室を飛び出した。
posted at 23:29:22

「カシマール……」サボターは再びパンキ第一防御の構えを取った。二人はディンタキ=サンの死体--吸い出されずにいた--を挟んで睨み合った。「あなた一体なにが目的ですか……既に何人あなたがシンジケートのニンジャ殺したかわからないです……なんで邪魔する……」
posted at 23:46:40

ニンジャスレイヤーは無感情な目でサボターを見据えた。「わかる必要は無い。死ね」
posted at 23:51:29

(「フジ・サン・ライジング」#4 終わり。#5へ続く
posted at 23:53:05

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 21:50:09

NJSLYR> フジ・サン・ライジング #5

101206

「フジ・サン・ライジング」#5
posted at 12:59:48

(前回あらすじ:フジサン上空。目的を達成、旅客機を爆破し乗客もろともの証拠隠滅をはかろうとするソウカイヤのロシア人ニンジャ「サボター」のもとへニンジャスレイヤーが突入。サボターはパンキドーの特殊回避動作でニンジャスレイヤーの攻撃をかわし続け、戦闘は膠着状態へ陥るかと思われた。)
posted at 13:06:37

(しかしサボターのパンキ回避動作はニンジャスレイヤーの特殊サブウェポン「マキビシ」によって破られる。卑劣にも旅客機の爆破で戦闘を強制終了せんとするサボター。しかしここでもニンジャスレイヤーが一枚上手であった。タツジン級のスリケン投擲で起爆装置を弾き飛ばしたニンジャスレイヤー。)
posted at 13:09:51

(折しもナンシーは己の拘束を解除。ある決意を胸に、二人のニンジャが死闘を繰り広げるファーストクラス・ルームから飛び出した。)
posted at 13:13:19

---
posted at 13:16:17

「カシマール……」サボターは再びパンキ第一防御の構えを取った。二人はディンタキ=サンの死体--吸い出されずにいた--を挟んで睨み合った。「あなた一体なにが目的ですか……既に何人あなたがシンジケートのニンジャ殺したかわからないです……なんで邪魔する……」
posted at 13:16:36

ニンジャスレイヤーは無感情な目でサボターを見据えた。「わかる必要は無い。死ね」
posted at 13:17:04

「イヤーッ!」サボターがロシア風スリケンを投げつけた。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがスリケンを投げ返した。スリケンは空中でぶつかり合い対消滅!
posted at 13:23:05

「イヤーッ!」サボターがさらにロシア風スリケンを投げつけた。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーもスリケンを投げ返した。スリケンは空中でぶつかり合い対消滅!
posted at 13:24:11

スリケンの投げ合いは見る見るうちに速度を増し、二者の間で火花が激しく飛び散りはじめた。応酬の中、二者はちらちらと床の隅に転がるものを見やる。無論それは起爆装置である。
posted at 13:28:10

サボターは隙さえあればその起爆装置を拾い上げ、なんとしてでも旅客機を爆破する腹づもりだ。ニンジャスレイヤーもその意図を承知している。スリケンの投げ合いは苦しい持久戦であった。
posted at 13:33:29

「チョルトバジミー……」サボターのこめかみを汗の粒が流れ落ちる。右手親指をケジメされた状態でニンジャスレイヤーのタツジン的なスリケン攻撃と渡り合うのも限界だ。彼は賭けに出た。
posted at 13:37:32

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがスリケンを投げた瞬間、「パンキ!」サボターは床に大の字になって這いつくばった。その速度、コンマ二秒!スリケンが背後の調度品に立て続けに突き刺さり、鋭い音を立てる。サボターはそのまま素早い匍匐前進で起爆装置へ突進する!
posted at 13:44:39

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはアンダースローでスリケンを投げつけた。匍匐前進するサボターの無防備な脇腹に鋭利な刃が突き刺さる!「グワーッ!ハラショー!」しかしサボターはダメージに耐え、起爆装置をつかみ取っていた。ウカツ!
posted at 13:48:29

スリケンはサボターの体内で砕け、腎臓に重篤なダメージを与えた。しかしサボターはパンキ呼吸法で当座の苦しみを封じ込めた。彼は起爆装置を掴んだままワーム・ムーブメントでゴロゴロと転がり、間合いをとって立ち上がった。「サチューストブユバム!」無事なほうの親指でスイッチを押す。起爆!
posted at 13:58:13

-----
posted at 15:25:56

ズドム!ビジネスクラスに閃光が走り、白い粉塵が立ち込めた。スナバはモマメをかばい、座席の下に身を屈めた。ビジネスクラスの方向から断末魔の悲鳴がてんでにあがる。「アイエエエエエ!」「アーアイエエエ!」「アバーーッ!」アビキョウカン!
posted at 15:29:45

機体が大きく揺らぐ。スナバはうろたえ、吐き気をこらえた。「パパ!パパ!コワイ!」モマメが一層強くスナバにしがみついた。「コワイけどモマメは泣かないよ!」こんな幼子が、眉間にシワを寄せて泣くのをこらえている。スナバは目に涙をためた。恐怖からではない。
posted at 15:39:02

「アイエエエエエ!」「アーッ!」「アイエエエエエ!」「ゲボーッ!」叫び声、嘔吐音の地獄の中、スナバはシートの陰から顔を出し、爆発の方向を伺った。白い粉塵に覆われ、歪んだシートに死体が寄りかかっている。しかし爆発の規模は小さい。機体に穴が空いたりはしていないようだった。
posted at 15:43:33

「ドーモ機長です!ただいま原因不明の爆発が!でも飛行は問題ありません!どうか落ち着いて!できるだけ落ち着いて!暴れてはいけない!」機内アナウンスが鳴り響く。乗客は恐慌の一歩手前で留まり、救命具を身につけ、震えていた。ALAS!日本人のオネストな遺伝子あらばこその適切な態度!
posted at 15:48:45

「パパ……」モマメは嗚咽をかみ殺していた。「えらいぞ、モマメ=サン、えらいぞ!」スナバは娘の手を強く握った。「ブンブクチャガマの歌を歌おう、小さくな」「うん」ブンブンブクブク……モマメが小声で歌い出す。スナバは窓の外を見た。フジサンだ。曙の太陽を受けるその威容が涙を誘う。
posted at 16:04:12

スナバは絶望的に考えを巡らす。では下に広がるのは樹海ジャングルだ。強制着陸もままならないのではないか。いや、仮にもし不時着し生きながらえたとして、どうしてバイオゴリラやバイオニワトリの襲撃を避けながら人里まで辿り着けるだろう?恐らく、運命は……いや、だめだ!
posted at 16:09:07

スナバはモマメの手を握り、ビジネスクラスから漂いくる粉塵と血のにおいを意識から締め出した。そして、ベッドから身を起こした妻の弱々しい笑顔を思い浮かべた。『手術がうまくいったら、ジョルリを見に行こう。そしてスキヤキを食べよう。約束です』スナバの言葉に、困ったように頷く妻を。
posted at 16:38:03

生きて帰る、必ず迎えに行きます、モマメと一緒に。そして上手にシシマイ体操を踊るモマメを見ましょう。約束です。約束です。
posted at 16:40:33

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posted at 16:40:58

ナンシーは機関室のカーボン・フスマを引き開けた。ロックに悩まされることはない。サアイ11号の認証システムは潜入時に完全掌握しているのだ。「アイエエ!き、君、何を……君、だれだね?」副機長が驚いてナンシーを見た。「黙って。集中して」
posted at 16:46:30

「な、何をするんだね君ィ!」コンソール脇にしゃがみ「普段は開けない」と厳格なゴシック体で書かれたダイヤルロック式のカバーを開放したナンシーを副機長が咎める。操縦桿と格闘する機長はしかし、ピシャリと言った。「オミ副機長サン!やらせなさい!何かあるのだ。疑うな!ただ最善を尽くせ!」
posted at 16:57:24

「話がわかるわね」ナンシーは無感動に言った。カバーを開けて表れた機内LANジャックにケーブルを挿し、もう一方の先端を、自分の右耳の後ろに開いたバイオLANジャックに接続した。
posted at 17:02:42

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posted at 17:04:26

ナンシーは殺風景な業務用茶の間の姿を取った電子コトダマ空間に着地した。掛け軸には「機内LANを動かしたり管理する」と毛筆されている。目の前のチャブ台には重箱が置かれている。ナンシーはチャブ台の前で素早く正座し、重箱の蓋を開けた。
posted at 17:09:17

重箱の中にはさらに重箱が入っている。その蓋を開けると、さらに重箱。ナンシーは素早くタタミに這い、チャブ台の裏を確認した。ブルズアイ!重箱はダミーで、チャブ台の裏に張り付いた半紙が本体だ。ナンシーは迷わずこれを剥がした。
posted at 17:12:37

すると、室内に五つ、ボンボリめいた鬼火が浮かび上がる。鬼火の中に複雑なロシア文字が泳ぎ回っている。機内LANを利用して、起爆装置と爆弾とを連動させているのだ。ナンシーの読みは当たった。
posted at 17:16:52

サボターがリモコン型のIRCトランスミッターのスイッチを押すと、機内の何処かに設置された受信機が信号を受け取る。受信機は機内LANシステムをハッキングしており、それを通路がわりにして、LAN接続された爆弾にIRCで「/ignite」の命令を送る。すると、カブーム!だ。
posted at 17:22:52

五つの鬼火はチャブ台の裏から伸びた燃える縄で互いに結ばれている。五つのうち三つはオレンジに燃えており、残る二つは灰色だ。
posted at 17:30:19

この鬼火がすなわち爆弾のアカウントだ。起爆する順序はあらかじめ決められているようだ。爆弾は徐々にクリティカルなものになっていく。最初は単なる脅しで、翼に設置された爆弾。次は客室。さっきの揺れはそれが爆発したのだ。おそらく複数の乗客が巻き込まれ死んだはずだ、ナムアミダブツ。
posted at 17:34:23

そして次は……。「!……イヤーッ!」燃える縄を伝って光が走るのを確認したナンシーは、物理法則を無視した速度の仮想キックで燃える縄を切断した。行き場を失った光が中途で立ち消える。切断された縄がすぐさま自動修復を開始した。ここからがナンシーの正念場だ!
posted at 17:41:19

ナンシーが畳を強く叩くと、空中に三つのコケシbotが出現した。それぞれが鬼火に突進していく。ナンシーは己のニューロンがスパークする感覚を味わう。複数のコケシbotをログインさせるのは彼女にとって初めての試みで、負担も大きい。だがそれ故、サボターの急ごしらえの起爆アカウントなど……
posted at 17:48:54

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posted at 17:50:24

(「フジ・サン・ライジング」#5 終わり。#6へ続く
posted at 18:17:05

(親愛なる読者の皆さん:ニンジャスレイヤー次回の更新は、明日、二本立てを予定しています。今夜の更新はありません。ナムアミダブツ! http://www.youtube.com/watch?v=TDoNX0lRL1g
posted at 22:18:05

◆◆◆◆◆◆◆
posted at 14:48:19

NJSLYR> フジ・サン・ライジング #6

101209

「フジ・サン・ライジング」#6
posted at 14:50:43

(前回のあらすじ:旅客機内で死闘を繰り広げるニンジャスレイヤーとロシア人ソウカイヤ・ニンジャ、サボター。スリケンの応酬の果て、サボターは己の腎臓と引き換えにリモコンを奪取、第二の爆弾が起爆する。)
posted at 14:55:35

(この爆発によってビジネスクラスの人間が死傷。一方ナンシーはかろうじて飛び続ける旅客機の機関室へ突入、機内LANに生体接続・侵入を試みた。起爆システムにアクセスしたナンシーであるが……)
posted at 14:59:09

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posted at 14:59:40

ナンシーが畳を強く叩くと、空中に三つのコケシbotが出現した。それぞれが鬼火に突進していく。ナンシーは己のニューロンがスパークする感覚を味わう。複数のコケシbotをログインさせるのは彼女にとって初めての試みで、負担も大きい。だがそれ故、サボターの急ごしらえの起爆アカウントなど……
posted at 15:11:52

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posted at 15:12:10

「ファンタースチカ!」サボターは手を叩いて喜んで見せた。「今のわかりますね?ビジネスクラス、カブームです!あなたその勝ったつもり気に入らない私です。ええ?ニンジャスレイヤー=サン。計画が破綻これとても残念です、だから私徹底的にやります。この旅客機ごとクズ鉄ネギトロ、ロシア的に!」
posted at 15:18:17

サボターは挑発的にニンジャスレイヤーに背中を見せて言った。「これわかるですろうか?このニンジャ装束パラシュート内蔵の仕組みするしてる。あなたそれ無いね、ハイ次はエコノミークラスです、ウラー!」起爆!
posted at 15:21:27

……起爆!
posted at 15:21:56

……起爆!……?
posted at 15:22:17

「シトー?シトースタボイ!?」起爆!起爆!サボターは何度もスイッチを押し込む。無反応である。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはすかさずスリケンを投げつけた。「グワーッ!」無事だったサボターの左手親指が吹き飛んだ。ケジメ!
posted at 15:25:17

起爆装置が転がり落ちた。ニンジャスレイヤーはケジメされた両手親指付け根から鮮血をしたたらせるサボターへ突き進んだ。「ご自慢の爆弾は上手くいかなかったようだな」「パ、パンキ……」サボターはパンキ第一防御の姿勢を、「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 15:48:13

ニンジャスレイヤーの稲妻のような側面蹴りがサボターの横面に叩き込まれた。サボターは派手に回転しながら吹き飛んだ!「グワーッ!」しかし、おお、見よ!彼とてやはり一流のニンジャ!吹き飛ばされながら、彼は床に手をつき側転した!「パンキ!」
posted at 16:08:59

そのまま窓の強化ガラスを……飛び蹴りで突き破る!「イヤーッ!」ナムサン、自殺行為か!サボターは窓枠にしがみつき、そのまま旅客機の外側を伝って天井へよじ登り始めた!ニンジャスレイヤーはサボターの思惑に思い至り、素早く後を追う!
posted at 16:17:17

再びファーストクラスの調度が気圧差で外へ吸い出される中、ニンジャスレイヤーはサボターに続いてガラスの割れた窓枠を乗り越え、機外へ身を乗り出した。サボターは飛行する旅客機のボディをよじ登って行く。なんたるニンジャ握力!
posted at 16:20:47

ニンジャスレイヤーは室内からディンタキ社長が吸い出されて空の彼方に飛んで行くのを一瞥した。ナムアミダブツ!「起爆装置だめなら直接吹き飛ばすするばかりですこれが!」サボターはボディをよじ登りながら、下から追うニンジャスレイヤーに言葉を投げかけた。
posted at 16:24:20

やがて、サボターとニンジャスレイヤー、 二人のニンジャは、高速飛行する旅客機の巨大な背の上で直立し、向かい合ったのである。ニンジャ眼下では、地平線を赤く染める日の出とフジサン!
posted at 16:27:28

ニンジャスレイヤーはサボターの視線を追い、尾翼に接着された小さな四角い機械装置を見た。ニンジャスレイヤーはサボターと尾翼の間に立っている。なるほどあれが爆弾だ。サボターは直接あれを破壊する腹づもりというわけか。
posted at 16:31:45

「どのみちオヌシはここまでた、サボター=サン」ニンジャスレイヤーはジュー・ジツの構えをとり、素早くサボターへ近づいた。サボターは両足で旅客機の背を踏みしめ、両手のひらをニンジャスレイヤーに向かって構えた。パンキ第三防御の姿勢である。
posted at 16:36:04

「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの飛び込みチョップとサボターのパンキ・パンチが交錯した。「グワ……」サボターのロシア風メンポの呼吸口から血がこぼれた。腎臓のダメージは深刻である!
posted at 17:00:02

「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの膝蹴りを、サボターのパンキ裏拳が相殺する。「グワ……」ふたたびサボターは血を吐いた。腎臓のダメージがとにかく深刻なのだ!
posted at 17:04:22

よろけてたたらを踏んだサボターは、パンキ・サマーソルトキックを打った。「イヤーッ!」しかしニンジャスレイヤーは苦し紛れのカウンター狙い攻撃にはかからない!「観念してハイクを詠め、サボター=サン」ニンジャスレイヤーは無慈悲に言い放った。
posted at 17:07:25

「わたしアナタこと侮ってました、認めます」距離を取ったサボターは震えながら言った。「だが私侮るさせるしない。計画もう知らない。ダークニンジャ=サンにあなた死亡のニュースかわりに届けるします。そして是非この旅客機も爆破するします必ず」彼は震える手で懐から注射器を取り出した。
posted at 17:12:30

「!!……イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げ、注射行為を阻止しようとした。「パンキ!」サボターは前後開脚してスリケンを回避!己の首筋に薬物を注入する。無論その薬物はズバリだ!
posted at 17:20:45

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはさらにスリケンを投げる。「パンキ!」サボターはパンキ開脚姿勢からワーム・ムーブメントへ移行、転がってスリケンを回避!しかも、転がりながら二本目のズバリを首筋に注射した!
posted at 17:25:49

「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが繰り出す飛び込みチョップを、サボターは活力みなぎるパンキ・パンチで相殺した。先程とは別人の力強さである。「イヤーッ!」続けて繰り出したパンキックが、ニンジャスレイヤーを弾き飛ばす!「グワーッ!」
posted at 17:40:26

「フショーフ、パリャートケ…」サボターはさら一本、首筋にズバリを注射!腎臓のダメージもケジメのダメージも、薬物のブーストがフジサンのビジョンの向こうに吹き飛ばす。ナムアミダブツ、だがそれは確実に致死量!「ウガシャーイチェシ!イヤーッ!」サボターのジャンプ・パンキックが襲いかかる!
posted at 17:46:25

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは電撃的なチョップでパンキックを迎え撃つ。そのまま二者は乱打戦になだれ込んだ。見よ!高速飛行する旅客機上において、まさにそれは慣性の法則とニンジャ重心コントロールの極めて高次元のチョーチョーハッシ!スゴイ!
posted at 17:53:11

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
posted at 17:54:37

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posted at 17:55:05

「お父さん!パパ!ねえパパ!」モマメが窓の外を繰り返し指差した。「あ、危ないからあんまりうごいちゃダメだ!」「でもパパ!あれ!ねえ!見て!パパ!」
posted at 18:02:19

モマメが指差す先をしぶしぶ確かめようとしたスナバは、いったい自分と娘はいかなる幻を見ているのかと訝った。旅客機の翼の上に二人の……そう、二人。人間だ!……二人の人間が飛び移り、お互いに激しくカラテ技をぶつけあっている。二人はそれぞれ、ニンジャの……装束を……
posted at 18:06:57

「パパ!ニンジャだよ!ニンジャ!」「モマメ=サン!シーッ!静かに!そんなわけが無いだろう……!一緒に目をつぶって、ブンブクチャガマを……」「アイエエエエエ!」前の席の老人が絶叫した。「あれはなんだ、ニンジャか!?」「ニ、ニンジャ!」「ここからじゃ見えないぞ……」
posted at 18:09:39

客席がどよめいた。窓際の人間は窓ガラスに顔を押し付ける。「どうか、どうか皆さん落ち着いて!機は問題なく飛行できております!ビジネスクラスの消化作業も完了して……」添乗員が早足で通路を歩きながら、毅然とアナウンスする。
posted at 18:29:46

スナバは呆然と、翼の上で繰り広げられる神話的なニンジャの戦いと、フジサン、日の出の太陽を見つめていた。その光景はまるで何かの啓示のようであった。極限状態下に現れた謎めいた美を前に、スナバは目を覆い、号泣した。
posted at 18:34:05

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posted at 18:36:29

「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの裏拳がサボターの右胸を直撃した。ニンジャスレイヤーは敵の肋骨を数本まとめて砕いた手応えを感じ取った。だがサボターの動きが鈍ることは無い。致死量のズバリは過剰なアドレナリンを分泌させ、サボターを不死の殺人機械めいた存在と化したのだ。
posted at 18:41:02

「イヤーッ!」サボターが直線的なパンキックを繰り出す。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはブリッジでそれをかわす。「イヤーッ!」サボターは翼の上からボディへ再度ジャンプした。そして尾翼へ向かって猛然とダッシュする!
posted at 18:49:46

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーもボディへ再び飛び移った。ダッシュするサボターに全速で追いすがる。走りながら、その背中へスリケンを連射!「イヤーッ!」「パンキ!」サボターはワーム・ムーブメントへ移行、スリケンを避け、そのまま旅客機の背をゴロゴロと高速で横回転しながら尾翼を目指す!
posted at 18:54:38

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは殺人スライディングを繰り出し、転がるサボターを狙う!「パンキ!」サボターはぎりぎりのところでワーム・ムーブメントをジャンプ解除、側転して殺人スライディングを回避!そのまま繰り返し側転しながら尾翼へ迫った!
posted at 19:00:21

サボターは尾翼にしがみついた!爆弾を手動で操作し、信管作動にかかる!ナムアミダブツ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスライディング姿勢で滑りながら、おそるべき速度でスリケンを連射した。狙いは尾翼の爆弾である!絶妙なコントロールによって、尾翼との接合部を破壊しようというのだ。
posted at 19:12:06

「イヤーッ!」サボターは尾翼にしがみつきながら、爆弾に備わった実体キーボードを展開し、キーを弾いた。「イ」「マ」「ス」「グ」だが、親指がケジメされた状態に不慣れであった為か、ズバリの高揚ゆえか、不完全な日本語故か……「バ」「ク」「ハ」「シ」……痛恨のミスタイプだ!
posted at 19:17:32

「チョルト!チョルト!チョルト!チョルトバジミー!」サボターは悶絶した。その直後、「イヤーッ!」雨あられと飛びきたったニンジャスレイヤーのスリケンが、接合部を破壊!爆弾は空の彼方へ置き去りにされていった。
posted at 19:20:17

「ボージェ・モイ!カシマール!」毒づきながら尾翼から滑り降りたサボターに、ニンジャスレイヤーが突き進む。「観念せよ!」「ニェー・ポニョ!」
posted at 19:30:57

ナムアミダブツ!なんたる往生際の悪さ!恐るべきはズバリのオーバードーズとニンジャ瞬発力の相乗効果である。いや、何よりそれは、死に際に発揮される超自然の力……カジバ・フォースであろうか!?サボターは弾かれたようにニンジャスレイヤーをかわし、再び駆け出す。目指すは機首、操縦席だ!
posted at 19:35:51

「イヤーッ!」
posted at 19:37:34

-------
posted at 19:37:44

「ンアアアッ!」ナンシーは後ろへ弾き飛ばされ、現実の世界……操縦席の傍らへ帰還した。ホワイトアウトした視界が急速に回復、身震いするような重力の感覚が戻ってくる。ナンシーは鼻血を拭い、気力を振り絞って立ち上がる。
posted at 19:42:28

「どうなったの?今は?」機長に問いかける。機長はナンシーを見ず、操縦桿と格闘しながら答える。「爆発はあれ以降は起こっていない。君が何かしたのか?」「それならいいのよ」ナンシーはこめかみを指で押し、頭痛を追い出そうとした。
posted at 19:48:24

ナンシーが操るコケシbotは爆弾の起爆アカウントを三個同時にセッションから強制切断、無力化した。どうやらうまく行ったのだ。サボターは歯噛みして悔しがっているに違いない……サボターは……「アイエエエエエエエ!」副機長が絶叫した。
posted at 19:51:06

ナンシーは顔を上げた。そしてフロントガラスを挟んですぐ前に、視界を遮るように着地したガンメタル色のニンジャ装束におののいた。サボターは血まみれだった。いかなる戦いが繰り広げられたのか。では、ニンジャスレイヤーは……まさか……!?
posted at 19:54:31

サボターが腕を振り上げた。パンキ・パンチでフロントガラスを破壊するつもりだ。そうなれば……「イヤーッ!」
posted at 19:57:50

ナムサン!その瞬間、サボターの背後に降り来たったニンジャスレイヤーがサボターの頭を両手で掴み、なんの躊躇いもなく、力任せに捻ったのだ!サボターの首だけが真後ろを向き、途端に、糸のきれたジョルリ人形よろしく、ぐったりと絶命した。
posted at 20:08:31

ニンジャスレイヤーはサボターの死体を機首から蹴り落とすと、ナンシーを一瞥した。ナンシーはなんとか笑顔を作り、無言で頷いてみせた。ニンジャスレイヤーは頷き返した。そして、「Wasshoi!」叫びと共に跳躍。フロントガラスの視界から消えた。
posted at 20:13:16

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posted at 20:14:11

「ドーモ。乗客の皆様、オツカレサマデス。安全で・早く・信頼性の高い、我々オバンデス航空をご利用いただき誠にありがとうございます。まもなくネオナリタ空港へ到着します。着陸時には……」
posted at 20:21:29

機械的なアナウンスの後、やや上気した放送が続く。「ドーモ、機長です。なんとか……なんとか皆さんを送り届けることがかないました。皆さんのおかげ……しかしながら、たくさんの方が、今回尊い命を奪われたことを……」
posted at 20:25:59

惨たらしい爆発と消化の跡をさらすビジネスクラス席を視界の端にとどめながら、スナバはぼんやりと、モマメの手を握っていた。もうすぐネオサイタマが見えてくるはずだ。「シシマイ体操、きっとうまくできるよ」何時の間にか目を覚ましていたモマメが明るく言った。その明るさが救いだった。
posted at 20:36:57

今回の恐ろしい爆破テロは、地上にニュースとなって届いているのだろうか。術後の妻が心配していはしないか。早く会いたい。そしてジョルリを見て、スキヤキを……「もう怖くないよ、お父さん、ね、怖くないから、泣いちゃダメだよ、恥ずかしいでしょ」「そうだね、そうだね…」スナバは鼻をすすった。
posted at 20:41:00

「えらいわね、お嬢さん」添乗員が声をかける。スナバは慌てて目をこすった。金髪スチュワーデス=サンだ。スナバとモマメに、優しく微笑みかける。「チャをどうぞ。温まります。ヤツハシもあります」「ヤツハシ食べたい!」
posted at 20:46:31

モマメが元気良く言った。金髪スチュワーデス=サンは笑い、スナバも困ったように笑った。「あ」落ち着かないモマメは、ヤツハシを持ったまま窓の外を見やった。「パパ!飛行機だよ!」スナバと金髪スチュワーデス=サンはそちらへ目をやった。赤黒のセスナ機が一瞬視界をよぎり、飛び去っていった。
posted at 20:49:25

「フジ・サン・ライジング」終わり
posted at 20:50:08

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 22:25:50

NJSLYR> グランス・オブ・マザーカース #1

110310

グランス・オブ・マザーカース
posted at 13:55:03

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posted at 13:55:24

ノビドメ・シェード・ディストリクトの快楽運河は不夜の砦であり、この夜もまた、酔漢やオイラン、マイコの矯声や、呼び込み人、スカウトマンの粘ついた声が飛び交うネオンの混沌であった。
posted at 13:59:45

「アカチャン!オッキク、ダシテー」「バリキトカ!」けたたましい広告音声は水面に波紋を広げ、降り立つバイオカモがバイオネギの中へと分け入っていく。
posted at 14:01:58

「10枚千円!」「チキビ!」「ヤルネー」屋形船は拡声器で扇情的な文言を投げつけ、夜空に緑のレーザーアートでタカシマダ・オイランが淫靡に絡み合う様を描いていく。
posted at 14:04:59

その緑の明かりから身を隠すように、脇道へ足早に入ってゆく人影がひとつ。ハンチング帽とトレンチコートを着た男は、やや荒く息を吐きながら、影の深いところを選んで進むのである。
posted at 14:09:51

よく太ったネズミがゴミ箱の中から飛び出し、男を睨んで走り去った。はるか上空ではバラバラというヘリコプターの通過音。無機質なビルは高く、切り取られた空は狭い。
posted at 14:12:40

「あんた」呼びかけられた声に男は足を止める。声は脇道のさらに脇、うねくり曲がる獣道めいた路地からであった。男の全身から、それまで押さえ込んでいた殺気が解き放たれた。
posted at 14:15:02

「あんた、お悩みだね?」路地の闇から老いた声が届く。「騙されたと思って、占わせてみないかい」男……ニンジャスレイヤー=フジキドは、一瞬の躊躇ののち、路地の奥へ決然と歩き出した。先程の戦闘の目撃者であれば、捨ておけぬ。ニンジャであれば即座に殺すつもりであった。
posted at 14:19:44

「そうカッカしたものじゃない……アタシがきっと、あんたの悩みを取り除く助けになれるはずさ、きっとね、アッヒヒヒ!」「どこだ」フジキドはうねくる路地を足早に突き進んだ。首の後ろにチリチリとした感覚がある。あまりにも馴染み深い感覚だ。ニンジャソウルの存在を感じ取っているのだ。
posted at 14:26:13

「ようぞ来た、ようぞ来なすったね」闇の中に、汚い衣類を山のように重ね着した巨大な老婆の姿が浮かび上がった。「お疲れだろう、あンたときたら血の匂いを振り撒いて、地獄の猟犬かい。いつものように無残に殺したのかい?アッヒヒヒ!」老婆は耳障りに笑った。ニンジャスレイヤーはカラテを構えた。
posted at 14:37:40

「物騒だよ!」老婆は言った。「アタシはあンたと事を構えたくないンだ、間違えちゃいけないよ……」ニンジャスレイヤーは頭上に眩しく輝く月が現れた事に気づいた。金色で四角い月が。……四角い月?
posted at 14:56:03

ニンジャスレイヤーは周囲を見回した。何かがおかしい。ここはノビドメ・シェード・ディストリクトの路地裏であり、彼を囲むこの壁は雑居ビルのコンクリートであるはずだ。ニンジャスレイヤーは黒く滑らかな壁に触れた。すると、見よ!緑色の格子模様が波紋めいてスパークし、壁面を散っていったのだ。
posted at 19:59:34

「これは!」いつのまにジツにかけられたのか!天を仰げば、黒い空を緑色の流星群が流れ、金色の構造物は厳かにゆっくりと回転する……!「アッヒヒヒ!案ずる事は無いンだよ!」老婆の声がエコーし、ニューロンに滑り込む。
posted at 20:02:23

「おのれ計ったか。だが幻覚ごときに屈する私ではない……ソウカイヤのニンジャめ、まずは名を名乗るがいい!」「ファー、ファー、ファー、ソウカイヤとは何ぞや、ソウカイヤとは!」老婆の笑い声が反響した。「アタシャ、ソウカイヤでもなければ、ここは幻覚でも夢でも無いよ!」
posted at 20:22:10

老婆は10フィートを越す巨体である。その肩にカラスが飛び来たり、留まる。「ドーモ、アタシャ、バーバヤガっていうンだ。あンたの中の邪悪を占ってやりたかったのさ。今あンたが見ているのは魂の地平、真実の地平!見えるだろ、アタシが見えるようにしてやってるンだ。ここはアタシが管理する地さ」
posted at 21:41:34

「ドーモ、バーバヤガ=サン。ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーはオジギで応えた。「オヌシの言っている事は何一つわからんぞ!」「アッヒヒ!わからンのは仕方のない事だよ!才能が要るんだ!あるいは訓練がね!」
posted at 23:07:53

バーバヤガは人差し指をニンジャスレイヤーに向けた。指はぐいぐいと非現実的に伸び、ニンジャスレイヤーの鼻先に突きつけられる。「あンたの中の邪悪の名前を教えてやろう。そ奴の名前はナラク・ニンジャだ」 「何?」「このアタシでも多くは知らない存在さ、用心するがいいよ、アッヒヒヒ!」
posted at 23:19:51

(親愛なる読者の皆さん:ご無事でしたでしょうか。翻訳チームのハイテクオフィスは余震、火の元、デマ、ゴウランガに注意して、安全の確保をなさってください)
posted at 15:16:20

(親愛なる読者の皆さん:ご無事でしたでしょうか。翻訳チームのハイテクオフィスは無事です。余震、火の元、デマ、ゴウランガに注意して、安全の確保をなさってください)
posted at 15:19:07

モーゼス、ボンドより:「今回の災害に関し、私たちは大変な心痛を抱え、案じております。だがしかし日本の皆さんの心の芯の強さと美徳とお互いを敬う高潔な精神は、この災害に必ずや打ち克つことができると信じています。どうか相互不信に陥ることなく、デマや扇動に惑わされず、愛とリスペクトを」
posted at 17:22:03

(親愛なる読者の皆さん:ドーモ、翻訳チームです。我々はこの状況下でのエンターテインメントの力を信じています。エンターテインメントとは心であり、心とは人を人たらしめるものです。翻訳環境の整い次第、アップロードをなるべく早く再開できるよう努力致します。ワッショイ!……ワッショイ!)
posted at 11:05:56

(深愛なる読者の皆さんへ:翻訳作業再開までの間、眠れない夜には、フートンに包まって過去ログとBGMのケミストリーによるリラクゼーション効果を試してみてください。一日中ニュースをつけっ放しにしているとサツバツとしてくるものです。読みきれていないエピソードがあればこの機会にぜひ)
posted at 11:55:12

【NINJASLAYER】
posted at 14:07:39

(グランス・オブ・マザーカース#1つづき)
posted at 14:08:55

バーバヤガは人差し指をニンジャスレイヤーに向けた。指はぐいぐいと非現実的に伸び、ニンジャスレイヤーの鼻先に突きつけられる。「あンたの中の邪悪の名前を教えてやろう。そ奴の名前はナラク・ニンジャだ」 「何?」「このアタシでも多くは知らない存在さ、用心するがいいよ、アッヒヒヒ!」
posted at 14:10:55

「オヌシは何者だ!何の目的で私にこんな真似をする」「だから、占いだよ、お若いの。ふさがれた目を開いてやろうと思ッたのさ。あンたが今こうして触れている世界。今はアタシがあンたを連れてきて、見せている。それをアタシの力無しでも認識できるように、ニューロンを開いてやろうというのさ」
posted at 14:14:09

ニンジャスレイヤーは突きつけられた指を跳ね除けようとした。だが不思議な距離間の錯覚めいて、指に触れる事ができない。「狙いはなんだ、バーバヤガ=サン。なぜそんな事をする」老婆のニヤニヤ笑いが消えた。「……いずれ、必要だからさ」
posted at 15:16:29

「必要?」「いずれ、あンたの中のナラク・ニンジャによって、あのキンカク・テンプルを00101010101010000」老婆の話は砂嵐めいたノイズの爆発によっていきなり遮られた。「おや000101001この邪魔は00101000いけないね、」黒い壁のあちこちに緑の亀裂が入る。
posted at 15:21:23

亀裂の向こうには格子状の緑の光の小宇宙が無限に広がる。「これは00001001001001」バーバヤガの顔の左半分が閃光とともに爆発する。「邪魔者0010010010」バーバヤガは不自由そうに口を動かす、「話は後だ、アタシはまたどうにか0010身を守れ、とにかく00000」
posted at 16:08:56

「なんだと?」ニンジャスレイヤーは詰め寄ろうとする。バーバヤガの腹から緑のパルスが噴出する。「いいかいあンたは実体ごとここへ来10010だからあンたを縛るものは何も無い、同時にそれはリスク00110仮にハッカーどもにKickでもされればあンたは消00101気をつけ101また後、」
posted at 16:37:49

閃光とともにバーバヤガがノイズとなって爆発四散した!「グワーッ!」いまやニンジャスレイヤーは緑の亀裂が駆け巡る暗黒の谷底に、独り、取り残されていた。頭上では四角い黄金の構造物がゆっくりと回転している。
posted at 18:34:36

ニンジャスレイヤーは考えを巡らせる。彼は先程ノビドメ・シェード・ディストリクトにおいて、マイコセンター「アハン風味」一帯をガス攻撃しようとしたソウカイ・ニンジャ「コラプション」の企みをナンシー・リーとの共闘で未然に防いだ。コラプションはニンジャスレイヤーに首をはねられ死んだのだ。
posted at 18:42:21

コラプションが無残に爆発四散したのち、ニンジャスレイヤーはしめやかにこの地域を後にしようとしていた。その時に……。
posted at 18:45:05

-------
posted at 18:46:11

140秒前!
posted at 19:02:47

コラプションが設置したマスタードガス・ボンボリ全ての機能停止とネットワーク切断を確認し終えたナンシーは、ネットワークをログオフすべく、痕跡偽装の作業にかかろうとしていた。サイバネ端子からLANケーブルを引き抜くにはまだもう一仕事あるのだ。
posted at 19:07:54

幾分リラックスしかかったナンシーはそのとき不意に、啓示めいた胸騒ぎを覚えた。ニンジャスレイヤーのIDへ意識を傾ける。「……なぜ?」跳ね返って来たping反応は、ニンジャスレイヤーがネットワーク上にログインしたままである事を知った。いや、正確にはログオフしたのち再ログインしている。
posted at 19:42:03

そして何より不可解なのは、pingを返すニンジャスレイヤーのIPアドレスである。「888.888.888.888」……こんなアドレスは存在し得ないのだ。IRCクライアントの不具合なのか?
posted at 20:34:42

ナンシーはニューロンをブーストし、電撃的速度で自身のハッキングの痕跡を偽装し終えた。その所要時間、11秒!なんたるタイピング速度!これは通常時の彼女の四倍の手際である!そして彼女はニンジャスレイヤーのアカウントへ向けて追跡のジャンプを試みる!
posted at 20:46:50

0001010100011011010110
posted at 20:47:48

ナンシーはニンジャスレイヤーの目の前にjoinした。彼女は全身に吸い付くような銀色のスーツを身につけた姿をとった。見慣れた赤黒い装束のニンジャスレイヤーはナンシーの存在を素早く認識した。ナンシーは二人を囲む暗黒の谷を見渡した。「これは……どういう事?」
posted at 20:52:36

「ナンシー=サン?」ニンジャスレイヤーは眉根を寄せた。「どうやってここへ」「どうッて……」ナンシーは訝った。彼の言動からは、彼女が見る電子コトダマイメージを彼もまた見ているという事が伺える。
posted at 20:58:20

IRC事象を可視化した電子コトダマイメージを知覚できるのは、生体LAN端子を持ち超人的なタイピング速度を有する上位のハッカーのみだ。キーボード・タイピングとニューロンのスパークが相互に影響し、脳内に展開する電子的イメージ……その地平を見るほどのタイピング速度は、彼には無いはず。
posted at 21:04:26

「あなた、これが見えているの?」「この不可解な世界か」「どこからアクセスを」「アクセス?……私はノビドメ・シェード・ディストリクトを移動中だった。そこへバーバヤガと名乗る老婆が現れ、ここへ連れて来られた。ナンシー=サンこそ、どうやってここへ来たのだ」
posted at 21:13:49

「バーバヤガ……?」ナンシーは首を傾げた。ニンジャスレイヤーは何かおかしな精神状態にあるのか?だがしかし彼個人にもたらされた単なる幻覚やトラップでは、彼の「存在しないIPアドレス」の説明がつかない。「そのバーバヤガとやらが、あなたをここへ?」「……そうらしいがな。まるでわからぬ」
posted at 21:22:26

「イチから説明するっていうのは、だいぶ骨なんだけど……」ナンシーは言葉を選びながら、「可視化されたネットワークに、今あなたは触れている。理由はわからないけど、あなたは今IRCにログインしているのよ」「……。では、そのように考える事にする」ニンジャスレイヤーは冷静に言った。
posted at 22:03:31

「そうなると、私は現在どこからアクセスしているのだ」「それが……」888.888.888.888……「わからないの。多分……これを多分というのもおかしな話だけど……『どこでもない』」「どこでもない?」「そう。アクセス元は、無い」
posted at 22:09:16

そのときだ!「イヤーッ!ーッ!ーッ!」黒い壁の亀裂から、人型のノイズが飛び出した!砂嵐ノイズで全身を覆うかのようなそれは空中で不自然に方向転換すると、ニンジャスレイヤーへ何ら躊躇なくトビゲリ・アンブッシュを仕掛けた!
posted at 22:24:53

「!?イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは驚くべき反応速度で突然のキック攻撃に対応、身を沈めてかわしながら蹴り返す!「グワーッワーッーッーッ!!」ノイズ人間は体をくの字に曲げて吹き飛びながら消滅した!ナンシーは驚愕した。彼女を遥かに上回る反応速度ではないか。
posted at 22:28:53

だが、今の襲撃者は一体?ナンシーがwhoisコマンドを実行する時間すら与えず、新手のノイズ人間が二体出現した。さらに、より輪郭のはっきりした存在が近くの地面からせり上がってくる!身にまとうその砂嵐は、ニンジャ装束か?「ドーモーモーモーモ、私はインクィジターターターターターター」
posted at 22:49:51

砂嵐ノイズのニンジャ装束は幻惑的にそのテクスチャーを変え続ける。「インクィジター」がオジギを行う間にも、亀裂の向こうから次々とノイズ人間が這い出してくる。電子コトダマ空間で今、理解を超えた何かが起ころうとしている……!
posted at 23:14:50

(「グランス・オブ・マザーカース」#1 終わり。#2へ続く
posted at 23:18:20

(親愛なる読者の皆さん:本日はニンジャスレイヤーの更新があります。なお、安全な地域の方々は活発に経済活動を行うことがひとつの支援です。積極的に外食し、イベントに行き、ワッショイ!ゴウランガ!)
posted at 10:46:25

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 14:48:08

NJSLYR> グランス・オブ・マザーカース #2

110718

「グランス・オブ・マザーカース #2」
posted at 14:32:05

(参照:有志による#1のハイ・テックなまとめ http://togetter.com/li/111442
posted at 14:34:30

(前回あらすじ:ノビドメ・シェードでソウカイ・ニンジャ「コラプション」を無慈悲に殺害したニンジャスレイヤーは、その帰途、奇妙な感覚に襲われる。バーバヤガと名乗る老婆との接触は何者かによって妨害され、気がつくと彼は謎の電子的渓谷に落とされていた。)
posted at 14:42:30

(とまどう彼と合流したのはコトダマ電子アカウント体のナンシー・リーだ。彼女がニンジャスレイヤーに、彼がどういうわけかアクセスポイントの存在しない状態でネットワーク上にいる事実を告げた時、さらなる異変が訪れる。ノイズをニンジャ装束めいて身にまとうその存在はインクィジターと名乗る!)
posted at 14:46:48

「ドーモ、インクィジター=サン。ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーは素早くオジギした。すなわちojigiコマンドである。「01000110亞ファファ0100殺011薇麝00%10」インクィジターはクスクス笑いながら不明瞭な言葉を発した。
posted at 15:13:01

亀裂から這い出した人型のノイズは十体に及ぶ。それらがヌメヌメとインクィジターの周囲に集まってくる。「00%01鵐01塵00010」……不穏だ!咄嗟にナンシーは空中へ飛び上がり、斜めに蹴りを繰り出す!「イヤーッ!」「グワーッワーッワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッワーッワーッ!」
posted at 15:35:55

蹴りつけた敵の身体をバネに、そのまた近くの敵へ飛び蹴りを繰り出す!「イヤーッ!」「グワーッワーッワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッワーッワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッワーッワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッワーッワーッ!」ゴウランガ!一瞬にして六体のノイズ人間が爆発四散した!
posted at 15:45:13

コトダマ空間におけるサイバー飛び蹴り!およそ非現実的な身体能力、当然それは現実の物理法則下のものではない。これはすなわち彼女の恐るべきタイピング速度を示している。「001011塵0ファファファ00インインインクィジターはゆるゆるゆる許さないです」インクィジターがクスクス笑う。
posted at 15:49:06

「イヤーッ!」「「「「グワーッワーッワーッワーッワーッ!」」」」ニンジャスレイヤーがタツマキめいて回転し、無数のスリケンが残る四体に突き刺さる!爆発四散!「0001101011」「何者だ!」ニンジャスレイヤーは独りクスクス笑い続ける不気味なノイズ・ニンジャにジュージツを構えた。
posted at 15:53:33

「インインクインクィジター01001喙0ククク10011秘密を0010111アマ齦ノイワト01001譱01011」インクィジターが人差し指をナンシーに向ける。「イヤーッ!」「ナンシー=サン!」ニンジャスレイヤーは一瞬の判断で二者の間へ立ち塞がった。BLAM!「グワーッ!?」
posted at 15:59:37

指先から発せられた光線がニンジャスレイヤーのかざした左腕を捉える!左腕はノイズ化して瞬時に消失した!「ニンジャスレイヤー=サン!?」ナンシーはうろたえた。kickコマンドか?異様な光景である。「大事ない!」ニンジャスレイヤーはインクィジターへ飛びかかった。「イヤーッ!」
posted at 16:03:22

右腕を突き出したニンジャスレイヤーの身体は魚雷めいて回転しながらまっすぐにインクィジターの身体に突き刺さり、貫通した!「グワーッ!」胸の中心に大穴を空けたインクィジターがもがく。「イヤーッ!」さらにナンシーが間髪いれず飛び蹴りを繰り出す!「グワーッ!」
posted at 16:10:58

インクィジターの頭がナンシーの蹴りを受けて千切れ飛んだ!ボディが爆発四散し、サッカーボールめいて飛んだインクィジターの頭は黒い渓谷に叩きつけられる。するとどうだ!渓谷はガラスに石を投げたように粉々に砕ける!視界の全てが割れ砕ける!
posted at 16:18:32

地面すらもどうように砕け散って彼方に消えると、ニンジャスレイヤーとナンシーは落下し、おぼつかない足場に着地した。「実際安壑」と書かれた、浮遊するネオン看板である。UNIXのモジバケ現象を思わせる不気味な齟齬にナンシーは不安をおぼえる。足場の下はどこまでも続く緑色の輝く海だ。
posted at 16:28:49

「これはどういう事だ?」ニンジャスレイヤーはナンシーを見た。「当然、私にもわからない」ナンシーは答えた。「ただ、下の海には落ちないほうが賢明ね。ああいう単純で巨大なイメージに飲み込まれるのは避けるべき。コトダマ空間における基本メソッドなの」「成る程。それでわかった事にしておこう」
posted at 16:34:08

ニンジャスレイヤーは上を見上げた。はるか上空に輝くのは、ゆっくりと自転する金色の立方体だ。現在の足場から少し離れたやや上に別の足場がある。やはり宙に浮く看板である。「おマミ」というポップ書体ネオンだ。そのまた少し離れたやや上に、さらに「おマミ」。「おマミ」「おマミ」……。
posted at 16:46:06

「導きに従うンだよ」老婆の声がニンジャスレイヤーのニューロンに木霊した。「上って行きな。さッきはすまなかッたね。ああも早いとは思わなンだ」「……」「インクィジターは番人なンだ。目を光らせている……仕方ない、このせッションは中止したいね、まずは頑張ッて帰りな」
posted at 16:52:06

「帰るだと?」ニンジャスレイヤーは虚空にむかって言った。返事は無い。「なに?」ナンシーは訝った。「いや」ニンジャスレイヤーはかぶりを振り、次の看板へ飛び移った。「進むしかあるまい」「そうね」
posted at 17:26:42

二者は「おマミ」の看板を飛び石めいてどんどん跳び移って行った。緑の海ははるか下へと遠ざかってゆく。足場はやがて看板から巨大なフクスケに変わった。フクスケは遥か遠くまで連なっている。狂ったような光景だ。そのずっと先に、微かにトリイが見える。宙に浮く島にトリイが建っているのだ。
posted at 17:33:02

「あれか」両者は顔を見合わせた。そしてフクスケからフクスケへジャンプを繰り返す。気の遠くなる道筋……「傷はどうなの?」ナンシーは問う。ニンジャスレイヤーは己の左腕を見た。肘から先が消失し、切断面は砂嵐状に霞んでいる。「妙な感覚だ。痛みは無い。感覚は元のままだ。指先まで感じる」
posted at 22:47:33

「私もそんな状態になるケースは見た事が無い」ナンシーは言った。「ここにいるあなた、何から何まで妙よ」「この世界はIRCネットワークを可視化したものと言ったな?」ニンジャスレイヤーが問う。「ええ」「私は入り込んでしまったと?その……UNIXのキカイの中に?」
posted at 23:02:08

ニンジャスレイヤーの声は神妙だった。ナンシーは答えに困りながら、「私にもワケがわからないと言うしか無い……当然ながらUNIXデッキに接続した本来の私は、この姿とは別に……現実世界にある。だってここはイメージの世界なんだから」「そのイメージの世界に私は……つまり身体ごと……」
posted at 23:16:13

「オオオオオオ!」背後で轟々たる叫び!二者は跳びながら振り返った。緑の海が高く盛り上がる!雲をつくような巨大な人型に!「オオオオオオ!オオオオオオ!」緑の水で出来た巨人は二者が渡って来た看板やフクスケを払い落としながら追ってくる。それら足場は巨人の親指ほども無い!
posted at 23:23:45

「インインイインインインインインインクィジターターターターターターターターターターター!」巨人が唸り叫び、ニンジャスレイヤーに手を伸ばす!ナムサン!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは背後へスリケンを投擲!四枚のスリケンが手のひらに突き刺さる!「グワーッワーッワーッワーッワーッ!」
posted at 23:29:49

巨人……おそらくはインクィジター……がひるむ!ニンジャスレイヤーとナンシーは跳び移る速度を加速!フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!
posted at 23:36:25

「オオオオーンンン」ふたたび巨人の手が迫る!ナムサン!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは再び背後へスリケンを投擲!四枚のスリケンが手のひらに突き刺さる!「グワーッワーッワーッワーッワーッ!」フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!
posted at 23:39:47

トリイは?まだ先だ!だが確実に近づいてはいる!「私は警告された」跳びながらニンジャスレイヤーは言った。「なに?」「つまり、私はオヌシと違い『ここにいる』。オヌシがここで仮にあれに倒されたとしよう、すればオヌシはUNIXデッキの前で目覚めるわけだな?」
posted at 23:58:41

「そう簡単でもないわ、無事で帰れるとは限らない、ニューロンが焼けたり……でもまあ、戻りはするわね。貴方が言いたい事はわかる」「そうだ。私がここで死んだりハッカーにkickされれば、私と言う存在が消滅する。どうやらそういう事だ」「……難儀ね」「戻らねばならん。『外』に」「そうね」
posted at 00:02:10

「オオオオーンンン」またも巨人の手が迫る!ナムサン!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは再び背後へスリケンを投擲!四枚のスリケンが手のひらに突き刺さる!「グワーッワーッワーッワーッワーッ!」フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!フクスケ!
posted at 00:03:54

「間に合わぬか……!?」ニンジャスレイヤーは絶望的に前方のフクスケを睨んだ。背後の巨人はまたも彼らに迫ろうとしているのだ……と、その時だ!「お乗り!」しわがれた声が天上から降って来たと思うと、前方のフクスケを吹き飛ばしながら、巨大なカラスが急降下して来た!
posted at 00:08:37

「万事休す……」ナンシーは呻いた。これは『前門のタイガー、後門のバッファロー』の故事と同様だ!だがニンジャスレイヤーは賭けた。カラス!バーバヤガが手なずけていた動物だ。そして今の声!「ナンシー=サン。カラスだ。カラスにつかまれ」「本気?」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは跳んだ!
posted at 00:14:13

「オオオオーンンン!」インクィジターの手の平がナンシーに襲いかかる!「ナムサン!」ナンシーはニンジャスレイヤーに続いて跳躍!二人は巨大なカラスのそれぞれの足首につかまった!「ガーッ!」カラスが叫ぶ!迫るインクィジターの手の平!だがカラスの加速が先んじた!
posted at 00:17:27

「010聰00蕚1010%%0001000熬1……」唸る巨人を引き離しながら、二者をぶらさげた巨大カラスはぐんぐん加速する。流れ去るフクスケは緑のグリッドの上空を飛び交う白いパルスに還元され、赤いトリイがいよいよ口を開けて、あらたなチャネルへ突入せんとする彼らを迎え入れる……!
posted at 01:58:50

グランス・オブ・マザーカース #2 終わり。#3へ続く。(このエピソードは不定期頻度更新です)
posted at 01:59:51

RT @mogefjp: 「忍殺日記♯3」ドーモ、レッサーモデラー、モゲです。WF新作「ニンジャスレイヤー=サン」原型に一区切り。これからシリコン型です。実際ギリギリ。 #njslyr http://twitpic.com/5sjcqv
posted at 12:39:16

RT @mogefjp: 大きさ比較で350ml缶と。各関節可動、ニンジャアクションに必要な可動域は確保。カラーレジン組み立て済み一部塗装で頒布予定。#njslyr http://twitpic.com/5sjefo
posted at 12:39:39

RT @mogefjp: 同時に、ミニバイオ水牛「モウタロウ=サン」ストラップも頒布予定。#njslyr http://twitpic.com/5sjf3t
posted at 12:39:43

RT @mogefjp: 7/24のWFでは「8-25-05 茂毛工房」にて画像のフルアクションニンジャスレイヤー=サンとモウタロウ=サンストラップの頒布を行います。時間も無いのであまり数は持ちこめないと思う。 #njslyr http://twitpic.com/5tkkal
posted at 07:30:42

RT @mogefjp: 組み立て済み、最低限の塗装済みで9000円。組み立て済み可動ガレキの相場から言えば、実際安い。モウタロウ=サンは300円。モウン。 #njslyr http://twitpic.com/5tkmbk
posted at 07:30:56

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 07:52:24

NJSLYR> グランス・オブ・マザーカース #3

111226

「グランス・オブ・マザーカース」 #3
posted at 14:33:40

◆0100101◆ #1: http://t.co/UpNkpHC2 ◆0100101◆ #2: http://t.co/qOYYWPej
posted at 14:36:14

01011101001101
posted at 14:37:05

トリイ・ゲートをくぐったナンシーとニンジャスレイヤーが目の前に見たのは、サルガッソーめいて屋形船や軍艦が重なり合う、荒廃したリアス式の海岸だった。海岸線はそれにしてもあまりにもドット幾何学めいてギザギザであり、不自然さを感じさせた。やはりここもコトダマ空間なのだ。 1
posted at 14:40:37

「次はこれか。いい加減にしてくれという気になってきたが」ニンジャスレイヤーは未来めいて輝くボディスーツを着たナンシーを見やった。ナンシーは肩を竦める。「私もログアウトしたいところ。そろそろ、外していい?」「構わん。オヌシに関わりのない問題だ」「言ってみただけよ」 2
posted at 14:44:56

ニンジャスレイヤーは頭上の黄金の立方体を見上げた。「常にある」「そうね」ナンシーは頷いた。「ネットワーク接続者の間でも、あれの正体は謎で。近づけないの。一説には、プロテクトされたまま廃墟化した巨大なサーバー……戦前のイスラエルとか。軌道上に打ち棄てられた宇宙ステーションとか」 3
posted at 14:51:32

「不思議なものか」「そう、不思議なもの」ナンシーは笑い、「正体がわからない。だから、あれを崇めるカルトめいたハッカークランもある。ゴールデンドーンという集団で、教祖のハッカーはニンジャを自称してる」「初耳だな」「殺しに行く?居場所がわからないけど」ナンシーは冗談めかして言った。4
posted at 15:01:13

二人を導くように、何もない地面に足跡が生まれ、ギュッ、ギュッと音を立てて、伸びてゆく。(よくやった。足跡はサインだ)バーバヤガの声が夜空にタイプされた。(あの先に帰る道がある。すまないことをしたよ)「何が目的だ」ニンジャスレイヤーは剣呑に言った。 5
posted at 15:09:19

(目的は済ンでる。鈍感なあンたの目、既に開かれた。この世界が見エるだろ。インクィジターは予期せぬオマケだわ。だから、あとは帰すだけ)「……」ニンジャスレイヤーは歩き出す。ナンシーも続いた。(そこの嬢ちャんは、見込みがある。ま、あンまり憶えちャいないだろう。あンたも、嬢ちャんも)6
posted at 15:16:11

二人は足跡に沿って歩き続ける。(ここはあンた達の実時間に対して、斜めに交差している。過去、未来、インガオホー、あンたたちからすれば、歪ンでいる。だから憶えられない)「彼女には今、見えていないのか、オヌシの存在が」(あンたの文脈に添わせて答えるなら、正しくは見えてない)「……」 7
posted at 15:29:32

「見ろ、ナンシー=サン」ニンジャスレイヤーは足を止めた「トリイだ」「そうね」地平線に揺らぐ、トリイのシルエット。近づけば相当に大きいはずだ。二人は無言で歩き続ける 。 8
posted at 15:36:26

……体感時間で20時間は歩いたに違いない。疲れもなく、腹も空かない。トリイはまだまだ遠いが、半分ほどの行程を消化した。黄金の立方体は常に上空でゆっくりと自転を続ける。その冷たい輝き。左手の暗い海。どこまでも無限に折り重なる廃船。 9
posted at 15:38:15

「目を開いたと言ったが、なぜそんな事を私に?なぜ私だ」(必要だからだ、後々ね)「なぜ」(説明しても、無駄なンだよ。さッき言ったように、どうせ忘れてしまう。そして、今話しても、今のあンたには、意味がない)「……」 10
posted at 15:42:58

さらに20時間歩いた二人は、巨大なトリイが建つ丘を前にしていた。丘には天然めかした階段が這い、トリイに導いている。「この丘を登り、トリイをくぐれば、ネオサイタマという事だ」「よかったじゃない」ナンシーは微笑した。「おかしな夢を見たわ」「……ナンシー=サン」「何」「あれは?」 11
posted at 15:46:09

ニンジャスレイヤーは空を指差す。白く輝く光が流星めいて落下してくる。真上から。ここに!「ナンシー=サン。これもチャメシ・インシデントか」「違う!」ナンシーが首を振った時、一瞬の速度で到達したそれは、二人の目の前、丘の階段の中途を直撃し、0と1のパルスを撒き散らして破壊した! 12
posted at 15:54:30

「00101011」「何が……」「インクィジター?」ニンジャスレイヤーは破壊された階段を見上げ、ナンシーをかばうように前に出た。降ってきたものはぼやけた輪郭を徐々に人型に近づけ、苦しむように震えながら、もんどり打って、階段から二人の目の前の地面に転がり落ちた。 13
posted at 15:57:30

「0001110ああ!01011ああ01011あ!」震える人型の光が、二人の方向へ手を差し伸べた。口めいたものが動き、人語を発音した。「0101101……ニンジャスレイヤー=サンか?……あと……そこにいるのはナンシー=サン……あああ!」 14
posted at 16:00:49

「何だと」ニンジャスレイヤーは警戒した。「なぜ名を知る?」「01あああ!あああ!うまく0010いったか?おれは?身体が0100101身体はどこだ」「ナンシー=サン!」「わ、わからない!」ナンシーは首を振った「誰かのアカウント……存在しないアドレス!今のあなたみたいに!」 15
posted at 16:05:52

「俺……010俺の身体001011俺00」光る人型の輪郭の背中が爆ぜ、崩れながら手足を地面についた。「0100」ナムサン!彼らを包囲するように、複数のノイズ人影が地面から生えてくる!「バーバヤガ=サン!バーバヤガ=サン!どこだ!」ニンジャスレイヤーは叫んだ。「何だ!これは!」16
posted at 16:12:16

「ドーモーモーモーモーモ、インクィジターーターターターターターターターターター」ノイズ人影は一斉にオジギ!「イヤーッ!」ナンシーが両手を振り上げ、banコマンドが書かれた人魂を空中に複数召喚する!だがインクィジターが速い! 17
posted at 16:15:13

「イヤーッ!」数体のインクィジターが同時にナンシーに飛びかかり、チョップ突きを繰り出して、その身体を貫く!「ンアーッ!」ban人魂はインクィジター数体に命中し消滅させる!さらに多くの新手が生ずる!これでは「焼いたスシに水をかけても戻らない」のコトワザ・インシデント! 18
posted at 16:22:12

「0100ヤバ0101イ00畜生0ヤバイ」光の人影は立ち上がろうともがく!かなわぬ!銀の光が血飛沫めいて噴き出し、飛沫は0と1に還元されて消滅する!「ヤ01011バイ0010」「バーバヤガ=サン!」襲いくるインクィジターを手当り次第に破壊しながらニンジャスレイヤーが叫ぶ! 19
posted at 16:25:41

「バーバヤガ=サン!どうにかせよ!」「イヤーッ!」インクィジターがその背中に掴みかかる!だが、おお、その時だ!「01001110101110111」ニンジャスレイヤーの背中を護るように新手の人影が地面から生え、稲妻めいた回転攻撃でインクィジターを弾き飛ばした!ゴウランガ! 20
posted at 16:30:29

(ニンジャスレイヤー=サン!そいつを遣わした!共に戦え!)バーバヤガの言葉がニューロンを打ち鳴らす!出現した人影はキツネオメーンを被った風変わりな姿を取る!そしてオジギした!「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。シルバーキー=サン。インクィジター=サン。ケジメニンジャです」 21
posted at 16:35:50

「シルバーキー?ケジメニンジャ?誰だ!こやつらは!」アイサツも忘れ、ニンジャスレイヤーは叫んだ。(知る必要は無い!今のあンたが知らない奴らさ!だがその小僧を救え!千載一遇の……時間軸に対して斜めに交差……特異……)「イヤーッ!」複数のインクィジターが飛びかかる! 22
posted at 16:43:21

「イヤーッ!」ケジメニンジャはコマめいてジャイロ回転しながら旋回、襲い来る複数体のインクィジターを両手のドス・ダガーで瞬時にケジメ破壊!「イヤーッ!」素早く我に返ったニンジャスレイヤーも電撃的なキックを繰り出し、次々にインクィジターを破壊!さらに生ずる新手のインクィジター! 23
posted at 16:48:20

「俺0は!俺001はやったの010か?ニンジャスレ001イヤー=サン!01ナラ00クは?」シルバーキーと呼ばれた光の人影が苦しみながら問うた。「イヤーッ!」それを破壊すべく掴みかかる複数のインクィジター!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは立ちはだかり、これを回し蹴りで粉砕! 24
posted at 16:53:35

「ドーモーモ、インクィジターターター」彼らを包囲して更なるインクィジターが地面から生えてくる!ニンジャスレイヤーは絶望的に身構える。コトダマ空間におけるイクサは物理的なカラテは当然無意味、純粋なタイピング速度の勝負であるが、彼らのように実体無き存在にとっては精神力が全てだ。 25
posted at 17:00:49

「ナンシー=サンは!無事なのか!」(逃がした)素早くバーバヤガが応答した。(自分の心配をするンだ。そしてそこで消えかかッてる小僧の!奴のアイデンティティは今、奴のニンジャソウルがかろうじて繋いでる。無茶をしてる!インクィジターは奴を許さない、このままじャ保たないよ)26
posted at 17:07:57

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」インクィジターが人間魚雷めいた頭突き飛行で次々にシルバーキーめがけ襲いかかる!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはブンシンするほどの非現実的速度でチョップを繰り出し、これを撃ち落としてゆく! 27
posted at 17:13:58

「イヤーッ!」ケジメニンジャもまたジャイロ回転で旋回し、立て続けに飛来するインクィジターの頭突き特攻を弾き壊してゆく!タツジン!彼はニンジャソウルを持たない。これは彼自身が記憶するカラテをコトダマ空間で再現したものだ。「ドーモーモーモーモーモ」さらに出現するインクィジター! 28
posted at 17:19:02

「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーとケジメニンジャは激烈な高速電子コマンドカラテで押し寄せるインクィジターを撃墜し続ける!彼らに護られながら、徐々に崩れゆく人型の光!「お……俺はシルバーキー、俺は!俺はシルバーキー!俺はシルバーキー!俺は!俺はシルバーキー!」29
posted at 17:24:27

「グワーッ!」ケジメニンジャがインクィジター一体の撃墜に失敗!ケジメニンジャの肩が爆発崩壊に巻き込まれ、0と1に還元される!「イヤーッ!」そこへ襲いかかるインクィジターをニンジャスレイヤーは瞬時にインターラプトし破壊!「イヤーッ!」今度はシルバーキーへ向かう者らを瞬時に破壊!30
posted at 17:27:47

「いかんな、俺はこコマデダ」ケジメニンジャが呟いた。上半身の左半分が拡散消滅した無残な姿である。ニンジャスレイヤーは電子カラテを繰り出し残敵を殲滅!「ドーモーモーモーモ、インクィジターターターターターター」さらに出現するインクィジター……ナムサン!ナムサン! 31
posted at 17:30:52

「俺は、くそっ、俺はオレはやったか?ニンジャスレイヤー=サン、やったか?俺は……」シルバーキーの身体の三分の一は既に分解拡散、体内でコロナめいて燃える存在が露出している。シルバーキーのニンジャソウルだ!「俺は俺は……」「イヤーッ!」インクィジター達の頭突き特攻! 32
posted at 17:35:10

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはそれらを壊す!壊す!壊す!壊す!壊す!「イヤーッ!」……そしてケジメニンジャが!消えかかるシルバーキーめがけ跳躍した!無事な右腕を伸ばし、シルバーキーの輪郭と、そのニンジャソウルをかき抱く! 33
posted at 17:38:53

「010001011101俺は0010111011」ケジメニンジャの体内にシルバーキーのニンジャソウルは吸い込まれ、銀色の輪郭が糸のようにほぐれ、渦巻いて、ケジメニンジャの身体の崩壊部からその奥へ、入り込んでゆく!「ドーモーモーモーモーモ」インクィジターがさらに出現! 34
posted at 17:42:16

「010001001001俺は0010110100101」さらなる襲撃に身構えるニンジャスレイヤーの傍に、ケジメニンジャが立つ……いや、シルバーキーが?様々な色に脈打つ不安定なニンジャ装束を着たそのニンジャが、ニンジャスレイヤーの首根を掴んだ。「01000110101」 35
posted at 17:47:47

「イヤーッ!」一斉にインクィジターが頭突き特攻を繰り出す!「010」だが、ゴ、ゴウランガ!?時間が静止したように、それら全てが!空中に静止したではないか!ニンジャスレイヤーは見た、己の首根を掴むそのニンジャが、片手を前に突き出し、掌を広げ、不可思議に押しとどめるさまを! 36
posted at 17:51:29

「ああああ!俺は!」ニンジャは言った、そしてニンジャスレイヤーを掴んだまま飛び上がった!空中で旋回し、丘の上のトリイ・ゲートへ飛行!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」追いすがろうとする無数のインクィジターが彼らに続く!そして……くぐり抜ける! 37
posted at 17:55:23

「俺は!この!ああ!このニンジャソウル!俺は!俺は!俺は!俺はシルバーキー……シルバーキー……シルバーキー……シ0101110111011011」 38
posted at 17:57:10

0100010001000100010001010101 (39)
posted at 17:57:27

「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは背中から地面にしたたか叩きつけられた。時刻は夜!空は曇天、そこに黄金の立方体は無い。三機のコケシツェッペリンが横切り、横腹に設置されたスクリーンにはオスモウ映像が流れる……見慣れた世界だ。ネオサイタマだ。身体を起こす。どこかのビルの屋上だ。 40
posted at 18:04:26

眼下のネオサイタマ夜景を見下ろす。サラリマン達の血を吐くような過剰労働で作り出された七色の光を。懐からIRC通信機を取り出す。無線LANが来ている。時刻表示を確認する。現実に戻ったか。ナンシーはオンライン。彼はノーティスを送信。すぐにojigiコマンドが返る。無事か。 41
posted at 18:13:25

彼は背後を振り返る。トリイ・ゲートがある。ビルの屋上にトリイ。ごく稀にそういった物件は存在する。地権者が太古のサムライゴーストの霊的被害を恐れて設置するのだ。トリイの奥には何の変哲もないジゾ石像が収められたミニマムシュラインがあり、スシが備えられている。 42
posted at 18:28:23

「……」トリイ・ゲートに手をかざした。何も起こらない。くぐったが、やはり何も無い。彼はたった今の異常な旅の体験を記憶に留めようと試みた。しかし既に名は思い出せない、あの恐るべき敵の名、己の名を呼んだ者の名、ニンジャの名。彼は無力感を覚えたが、その理由ももはやわからなかった。 43
posted at 18:32:56

「アカチャン!」「あなたバイオレプリカ指のモニター募集ですよ」「若い、ヤルヨネー」「ワースゴイ、ナンカスゴーイ、ケモビール、ダヨネー」「重点的にこのアタッチメントで液晶が倍に見える」「これは凄いエキサイトメントだ」……けたたましい広告音声がにわかに彼を包み込む。目を閉じる。 44
posted at 18:39:29

(「グランス・オブ・マザーカース」終わり ) 45
posted at 18:40:16

RT @ebishi: #njslyr ガンドー=サンのファンアートなくないかと思って描いた こんな感じかは分からない http://t.co/F17YYAmZ
posted at 00:43:41

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 15:06:03

NJSLYR> ア・カインド・オブ・サツバツ・ナイト #1

110208

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「ア・カインド・オブ・サツバツ・ナイト」#1 #njslyr
posted at 22:44:24

重金属酸性雨がしとしとと降り、ツチノコストリートのシンボル的存在である武田信玄の像を静かに腐食させる、ごくありふれたネオサイタマの夜だった。ストリートギャングとヤクザの抗争が基盤屋地帯で起こり、サイバー神輿を担いだペケロッパ・カルトのデモ隊が巻き込まれて不幸な死傷者を出していた。
posted at 22:49:19

見世物好きな下層市民らの視線と、上空を飛ぶネオサイタマ市警マグロツェッペリンの漢字サーチライトがストリートに注がれる横で、ニンジャ装束に身を包んだ男がネオン街の上を人知れず飛び渡っていた。男の目はズバリ中毒者のごとく血走り、見えない猟犬を恐れるかのように、しきりに後方を振り返る。
posted at 22:59:16

男の名はレオパルド。ソウカイヤの末端ニンジャだ。レオパルドはオイランハウスが詰まった50階建てビルの屋上を走り抜け、燈篭を蹴って、隣のビルの壁へと飛び移る。彼は両腕に長いダイヤモンドチタン製の爪を装備しているため、垂直に切り立った壁でも野生のレオパルドのように巧みに登れるのだ。
posted at 23:07:40

「ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!」レオパルドの息は荒い。ニンジャとは思えないほど乱れている。背中をさらすのは危険であり、できるだけ速く壁を登り切りたいのであろう。彼の焦燥感を嘲笑うように、灰色の壁から生えたオイラン看板がカトゥーンめいた吹き出しで『寂しい秋な』と警句を発していた。
posted at 23:22:57

「ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!アアーッ!」焦る気持ちが、レオパルドの手元とバランスを狂わせる。壁に爪跡を残しながら、彼はぶざまに2メートルほど滑り落ちた。直後、カカカカッという鋭角な音! 一瞬前までレオパルドの背中があった場所に、四枚のスリケンが突き刺さる! サイオー・ホース!
posted at 23:30:35

「呪われろ、呪われろ!」レオパルドは小さく毒づきながら、壁を蹴って飛び降りる。敵はまだ自分を追ってきているのだと解った。日本において4は死を意味する不吉な数字であり、4枚のスリケンには冷徹な殺しのメタファーが込められている。冷や汗が一瞬遅れて掌ににじみ、胃が鉛のように重くなった。
posted at 23:40:19

レオパルドは空中で巧みに身をひねり、燈篭のあるビル側の壁に爪で張り付いた。2つのビルの間には、タタミ3枚分程度の距離がある。さらに壁を蹴って反対側のビルへ。また壁を蹴って元のビルへ。爪と脚力を活かした連続ジャンプで、垂直に切り立ったコンクリートメガリスを素早く飛び降りてゆく。
posted at 23:49:28

「奴は……奴は何者なんだ……もしかして……もしかして……!」20階付近で、反対側のビルに手頃なガラス窓を発見したレオパルドは、飛び込み選手のように勢い良くダイブする。ダイヤモンドチタン製の爪によって、強化ガラスはショウジ戸のごとく軽々と破られた。
posted at 23:59:52

「アイエエエエ!」突然のニンジャの侵入に驚き、部屋の主が悲鳴を上げる。暗い室内には、全面にLANケーブルが渡されていた。100本はある。ケーブルの色も、青や赤や白など様々だ。おそらく、部屋の主はハッカーだろう。観察と状況分析を一瞬で行いつつ、レオパルドは前転で着地の衝撃を殺した。
posted at 00:04:46

割れたガラス片が床に落ちるよりも速く、レオパルドは男に駆け寄る。ダイヤモンドチタン製の爪をUNIXモニタの放つ緑色の光でぎらつかせながら、脅迫を行った。「高速IRC端末を出せ」「アイエエエエ!」男はパニックに陥り失禁するばかりだ。「速くしろ、出さねば殺す!」「アイエエエエエ!」
posted at 00:09:31

男は恐怖のあまり何も喋れないらしく、6本指のひとつで机の上を指さす。やはりこの男はハッカーだ。タイピング速度を増すため、危険なサイバネ手術を行って指を1本増やしているのだ。机の上にはレオパルドの期待通り、違法改造が施されたスゴイテック社製の最新型IRCトランスミッターがあった。
posted at 00:16:41

「上出来だ」レオパルドは左腕に備わったダイヤモンドチタン製の爪で、ハッカーの心臓を突き刺す。「アイエーエエエエ!!」ナムアミダブツ! レオパルドはIRC端末を引ったくると、セキュリティロックのかかったドアを蹴破って部屋を脱出した。
posted at 00:26:32

レオパルドは片手で高速IRC端末を操作しながら、粉塵の降り積もった廊下を駆け抜ける。ここは廃雑居ビルのようだ。重犯罪刑務所の独房棟のごとく、中央部分は階段と吹き抜けになっており、天井は崩落している。時折漢字サーチライトの光が空から差し込み、ハイクめいた神秘的なシルエットを描いた。
posted at 00:38:01

風のように廊下を抜け、重金属酸性雨の雨粒に濡れた階段を駆け下りながら、レオパルドはIRC端末でソウカイ・ネットのデータベースにログインする。自分を追ってきている敵が何者なのか、これで確かめることができるはずだ。
posted at 00:45:16

(特徴……奴の特徴……!)レオパルドは30分前の出来事を思い出す。ニュービーである彼は、エリート部隊であるシックスゲイツからマルナゲされたケチな調査任務をこなすため、スゴイタカイ・ビルの屋上へと向かったのだ。そこで見たのは……ソウカイヤ所属とは思えぬジゴクめいたニンジャであった。
posted at 00:48:16

雨の中で互いを認識した後、赤黒いニンジャ装束をまとった敵は、不気味なほど静かにオジギをした。そして「ドーモ」とアイサツし、名を名乗った……はずだ。だが、彼は敵の名を聞いていない。ウシミツ・アワーの鐘と同時に、敵の片眼が赤く光った。それを見た彼は恐怖に呑まれ、逃げ出していたからだ。
posted at 00:55:21

#SOUKAI_NET:SYSTEM_BOT:いつもお世話になっております/// #SOUKAI_NET:LEOPARD:ニンジャ検索重点/// #SOUKAI_NET:SYSTEM_BOT:ニンジャの特徴を入力してください、よろしくお願いします///
posted at 01:03:41

#SOUKAI_NET:LEOPARD:赤黒いニンジャ装束、極めて高い身体能力、猟犬のごとき執念深さ、「忍」「殺」と彫られたメンポで口元を隠している/// #SOUKAI_NET:SYSTEM_BOT:検索中です、よろしくお願いします///
posted at 01:07:07

なかなか検索レスポンスが返ってこない。だが、もう助かったも同然だろう。レオパルドは階段を駆け下りながら、安堵を覚えていた。敵がソウカイヤ所属のニンジャでないと解れば、ソウカイ・ネットを介して救援を要請できるはずだ。あの忌々しいシックスゲイツの連中が、これほど頼もしく思えるとは。
posted at 01:11:24

……その時! 崩落した天井部分から、赤黒い影が稲妻のごとき速度で飛び降り、暗い廊下を駆け抜けるレオパルドの前に立ちはだかった。そのニンジャは改めてオジギをし、呪わしき名を名乗る。それと全く同じ名が、驚きのあまり床に取り落とされたIRC端末にも、検索結果として確かに表示されていた。
posted at 01:21:28

「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」敵は鋼鉄メンポのスリットから蒸気のような息を吐き出しつつ、無慈悲な声で言い放った。違法薬物シャカリキ・タブレットの摂取で昂ぶったレオパルドのニューロンが、自分がネオサイタマの死神と向かい合っていることを理解するまで、さほど時間はかからなかった。
posted at 01:27:37

「ア・カインド・オブ・サツバツ・ナイト」#1終わり #2に続く
posted at 01:28:36

◆投票◆ 特別企画「ニンジャ人気投票」実施中! 1人につき3ニンジャまで投票可能。非ニンジャでもOK。 タグ「#njvote」を書いてツイートしてください。抽選で一名様に「明日も働かない」Tシャツを進呈予定。 投票期限は2月13日いっぱいです。 ◆ #njvote
posted at 13:53:10

◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 13:54:09

(前回あらすじ:スピリチュアリスト、アンドウは、夜な夜な廃テンプルへロウソクを備えにいく神秘的生活を営んでいる。彼はアーマゲドンの到来を幻視し、不安の中で暮らしていた。)
posted at 13:56:34

(折しも、悪魔的研究者・リー先生の悪魔的研究施設から移送中のゾンビーニンジャ「ジェノサイド」がスタッフを殺戮し逃走するアクシデントが発生。リー先生が捕獲に奔走するなか、さして注意も払われずにいたもう一体のゾンビーニンジャが「ウィルオーウィスプ」だ。)
posted at 13:59:23

(ウィルオーウィスプはフラフラと無人の移送車両から抜け出し、夜の街へ消えていく……)
posted at 14:00:12

NJSLYR> ア・カインド・オブ・サツバツ・ナイト #2

110212

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「ア・カインド・オブ・サツバツ・ナイト」#2 #NJSLYR
posted at 21:36:22

(あらすじ:ソウカイヤの末端ニンジャであるレオパルドは、組織の者ではない謎のニンジャによって追跡を受ける。廃ビルへと逃げ込み、追っ手をまいたかと思った矢先、崩落した天井から追跡者が出現。赤黒いニンジャ装束を纏った追跡者は……ニンジャスレイヤーと名乗った!)
posted at 21:41:16

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。レオパルドです……」ソウカイヤのニンジャは、反射的にアイサツを返す。崩落した天井から時折忍び込む漢字サーチライトの光が、むき出しになった鉄骨や足場をアバラ骨のように浮かび上がらせる。2人のニンジャはジュー・ジツの構えを取り、静かに向かい合った。
posted at 21:45:16

凄まじく張り詰めたテンション。死の静寂が辺りを覆う。不法居住者たちの誰かが、ビルの音響システム室を占拠しているのだろう……聖人を殺せと歌うアンタイブディズム・ブラックメタルバンド『カナガワ』のおそるべき冒涜チューンが、錆び付いた大型換気ファンの回転音に混じって微かに聞こえてきた。
posted at 21:47:40

『…第49章/魂は飛翔するブディズムの暗黒征服時代へ/とても淋しいキョート山脈の冷たい雨が俺の不死なる肉体を冷やし/恐れいった水牛達が悲嘆の鳴き声を上げる中/目玉を咥えたハシボソガラスは高く飛ぶ!/血濡れのマサカリを振り下ろし/聖徳太子の首を切断せよ!/俺はその血を祭壇に捧げ…』
posted at 21:50:27

『……ロード・ブッダの首を切断する!』 錆びたマグロナイフ同士を擦り合わせるような、耳障りなブラックメタル・ヴォイスが絶叫をあげた時、偶然にも大型換気ファンが重金属酸性雨を浴びてバチバチと火花を散らす。それが合図だった。二つのニンジャの影が同時に飛ぶ!「イヤーッ!」「イヤーッ!」
posted at 21:57:29

地上階でブランケットにくるまり眠っていた若い不法居住者らが、カタナのように鋭い掛け声を聞いて目を覚ます。彼らは眼をこすりながら吹き抜け部分の廊下を見上げるが、ニンジャの動きは眼にもとまらない。二者は空中でイナズマのように交錯した後、2秒前まで相手が立っていた位置へと着地した。
posted at 22:10:07

両者とも、すぐに前方宙返りを決め、体を捻って後ろを向き、再び相手と向かい合う。ジュー・ジツの構えを取り、互いのダメージと力量を一瞬にして推し量る。ニンジャスレイヤーの袖がわずかに切り裂かれた一方で……レオパルドが両腕に装備していた爪は、ジャンプパンチで破壊されていた! タツジン!
posted at 22:23:06

「馬鹿な!」レオパルドが眼を剥く「ダイヤモンドチタン製の爪だぞ!?」。ニンジャスレイヤーは殺人機械のように猛然とダッシュし、流れるようなカラテを叩き込んだ! コワイ! ガードを易々と抜け、ランスキックが命中!  「イヤーッ!」「グワーッ!」レオパルドのアバラ骨が無惨に破壊された!
posted at 22:28:06

もはやカラテの差は圧倒的。ベイビー・サブミッションにも等しい。レオパルドは廊下から吹き抜けへとダイブし、野生のネコ科猛獣のように回転して地上階のコケシマート跡地に着地する。敵は化け物だ。逃げるしかない。薬物の力で痛みは感じないが、肺から聞こえる嫌な音がレオパルドを不安にさせた。
posted at 22:32:15

「Wasshoi!」赤黒い影が飛ぶ。廊下の手すりを蹴ってナラク・アビスの死神のように跳躍し『ビョウキは気分の問題』、『新鮮なトーフ』、『実際安い』と無機質な極細ゴシック体で書かれたカンバンを連続で飛び渡り、遺棄されたトーフディスペンサーの回廊を走り抜けるレオパルドの前に着地した。
posted at 22:38:28

「ドーモ、レオパルド=サン。ニンジャ……殺すべし!」ニンジャスレイヤーは一切の慈悲を見せることなく、カラテをくり出してきた。レオパルドもカラテで応戦する。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」再びガードを突破され、レオパルドの左腕がカラテチョップで切断される!
posted at 22:47:27

「グワーッ! グワーッ!」肘から先を失ったレオパルドは鮮血を撒き散らし、もんどり打ってトーフディスペンサーに激突する。スモトリを模したディスペンサーのレバーが偶然にも引かれ、腐って粘液状になったトーフがレオパルドの左腕の傷に注がれた。「アイエエエエ! アイエエエエエエエエエエ!」
posted at 22:49:42

「カイシャクしてやる」ニンジャスレイヤーは低く重い声を発しながら近づいてくる。カイシャクとは、動けなくなった敵に残虐な絶命攻撃を加えるクー・デ・グラースの一種だ。何としても回避せねば。レオパルドは残された力を振りしぼる。体を起こして短く駆け込み、カラテ・ドロップキックをくり出す!
posted at 22:55:03

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーもUNIXのごとき反応速度でこれに応じ、斜め45度のポムポム・パンチで撃墜を試みる。ナムアミダブツ! レオパルドの股間が破壊されてしまうぞ! だがその瞬間、レオパルドは空中で体勢をひねり、突き出されるニンジャスレイヤーの拳を両の足の裏で……蹴った!
posted at 23:06:59

「イヤーッ!」パンチの物理的破壊力を膝のスプリングで吸収するのみならず、その力をジャンプ台代わりに使い、レオパルドの体は斜め後方にキャノンボールのごとく吹き飛んだ! ゴウランガ! これぞレオパルドの切り札! 彼がニンジャソウルの憑依によって得たのは、常人の3倍近い脚力であった!
posted at 23:10:12

「ウオオオォーッ!」時速300キロを超える凄まじい速度! レオパルドの体はコケシマートの窓を突き破り、そのまま夜のネオサイタマに消え去った。「ウカツ!」ニンジャスレイヤーは呟き、再び追跡を開始する。不法居住者らは唖然とした顔で囁き合った後、毛布を被って覚束ない眠りに戻るのだった。
posted at 23:24:18

(「ア・カインド・オブ・サツバツ・ナイト」#2終わり #3に続く
posted at 23:25:00

(親愛なる読者の皆さんへ:公式ブログのエピソードまとめが更新されました。「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」と「アット・ザ・トリーズナーズヴィル」の2エピソードが完結しています。トゥギャッターまとめを行ってくれている有志の方々、いつもありがとうございます)
posted at 00:29:07

◆投票◆ 特別企画「ニンジャ人気投票」実施中! 1人につき3ニンジャまで投票可能。非ニンジャでもOK。 タグ「#njvote」を書いてツイートしてください。抽選で一名様に「明日も働かない」Tシャツを進呈予定。 投票期限は本日23:59まで。 ◆ #njvote
posted at 14:17:42

◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 15:34:38

NJSLYR> ア・カインド・オブ・サツバツ・ナイト #3

110218

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「ア・カインド・オブ・サツバツ・ナイト」#3 #NJSLYR
posted at 22:21:18

(あらすじ:ソウカイヤの末端ニンジャであるレオパルドは、組織の者ではない謎のニンジャによって追跡を受ける。廃ビルへと逃げ込み、追っ手をまいたと思った矢先、崩落した天井から追跡者が再び出現。敵はニンジャスレイヤーと名乗った。レオパルドは片腕を失いながらも、なんとか廃ビルを脱出し…)
posted at 22:25:26

ここは薄暗い高層マンションの一室。その雰囲気は異様だ。この部屋には、廊下もリヴィングもキッチンも無い。がらんとしたワンルームに、4ダースほどのタタミが敷かれている。一面に深いオーガニック・センコの香りが染み付き、足を踏み入れた者は思わずオジギせざるをえない神聖さだ。
posted at 22:32:28

廃テンプルの建っていた場所にマンション建設計画が持ち上がり、本堂がその一室に押し込められたのだろうか。燭台で作られた道の先には紫のカーテンが張られ、ツーハンデッドソードを握る戦闘的ブッダ像が厳しい顔を覗かせていた。その上には、「インガオホー」と書かれたショドーが額に飾られている。
posted at 22:42:07

部屋の中央には、江戸時代に鋳造されたと思しき青銅製の大きな鐘が、寂しげに佇んでいる。丸いリベットまみれの鐘の側面には、鹿、フェニックス、ドラゴン、鯉といった聖獣の姿とともに、この寺院の名「ヘルソード・テンプル」を意味する荘厳な漢字が、礼儀正しく上から下へとモールドされていた。
posted at 22:55:29

鐘に背を預けて座り込み、肩で息をするニンジャの姿。レオパルドである。ネオサイタマのビル街の暗闇を逃げ続けた彼は、偶然にもこの廃テンプルを高層マンションの中階部に発見し、鉄格子のはめられた窓を破壊して侵入した。ソウカイヤから支給された応急キットを使い、今しがた止血を終えたばかりだ。
posted at 23:01:04

ズバリ・アドレナリンを注射したおかげで、レオパルドは腕を切断された痛みを感じずに済んでいる。だが、いかなる薬物を使っても、彼の心臓を鷲づかみにした恐怖の鉤爪を振り払うことはできない。「忍」、「殺」。ライトを浴びた鋼鉄メンポと、そこに刻まれた文字が、彼の脳裏にフラッシュバックした。
posted at 23:04:47

「ハァーッ! ハァーッ!」レオパルドの息は荒い。目は飛び出しそうなほどに剥かれ、血走っている「ハァーッ! ハァーッ! ニンジャスレイヤー! ちくしょうめ! 奴は狂っている、奴は狂人だ……!」。このように恐怖を言葉にしなければ、自分が発狂してしまうのではないかと彼は不安になった。
posted at 23:09:01

「そうだ……スシ……スシを……」レオパルドの片腕が、腰に吊ったバイオ笹タッパーに伸びる。その中には、無菌状態で保存された素晴らしいマグロのスシが4個。割られた窓から忍び込んでくるネオンの薄明かりだけを頼りに、レオパルドはそれを掴み、口に運ぶ。手が恐怖でがたがた震え、コメが崩れた。
posted at 23:12:57

震える手で3個目のマグロを口の中に押し込み、咀嚼し掛けた時……ドア越しに微かな物音が聞こえた。並の人間であれば、とうてい聞こえなかっただろう。だがレオパルドの持つニンジャ聴力は、それをキャッチしてしまうのだ。(((まさか、ニンジャスレイヤー)))恐怖のあまり、スシを吐き捨てる。
posted at 23:23:52

レオパルドは素早く鐘の背後に身を隠した。それから鐘の表面に耳を当て、ニンジャ聴力を研ぎ澄ます。廊下の物音が壁、床、そして鐘を通じて、高性能ソナーのように鮮明に聞伝わってくる。部屋のドアの前から、心臓の音が3つ。レオパルドは安堵した。少なくとも、ニンジャスレイヤーではないだろう。
posted at 23:35:50

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posted at 23:37:13

ヘルソード・テンプルのドアの前には、サイバーウェアに身を包んだ2人の男と1人の女が立っていた。そのうちの1人、左腕のプロテクターに小型ノートUNIXをマウントした男は、右耳の後ろに備わったバイオLAN端子から特殊ケーブルを延ばし、インターホンの露出ソケット部へと直結させている。
posted at 23:41:39

『あと45秒で防壁突破。攻撃準備いいか?』と、男のサイバーサングラスにLED文字が流れた。セラミック・カタナを握るもう1人の男のサイバーサングラスにも、『ラジャー』と赤い文字が流れる。『この部屋で限界ね』と、札束や素子の詰まったボストンバッグを抱えるサイバー・オイランウェアの女。
posted at 23:47:53

彼らは俗に「ハック&スラッシュ」と呼ばれる、高層集合住宅ばかりを狙う小規模な武装集団の一つだ。電子錠を突破するハッカー、家人を始末するスラッシャーがパーティの最小構成であるため、そのように呼ばれるようになった。このパーティはどうやら、交渉役を果たすオイランを加えた3人編成らしい。
posted at 23:54:21

ボン、というくぐもった爆発音がインターホン内部で鳴り、ドアの電子錠が解除された。同時に、ドアノブに貼り付けられたコケシ型デヴァイスが細い金属棒を伸ばして回転させ、物理錠を解除する。ハッカーとスラッシャーが勢い良く室内へと雪崩れ込み、オイランはドアの外に立って出張サービスを装う!
posted at 00:01:53

スラッシャー役を務めるヤマダの精神状態は、今日行った計3回の一家皆殺しを経ても、まだまだフラットだった。彼は今日、18歳のセンタ試験学生から、上は70前後の老夫婦まで、合計8人を殺している。スラッシャーの役目は、冷静さを失うような殺人狂にはつとまらない。冷酷な屠殺者が必要なのだ。
posted at 00:15:32

だが、冷静なヤマダでさえも、この状況には一瞬困惑せざるを得なかった。ナムアミダブツ! まさか押し入った先が廃テンプルだったとは! 『今日は潮時だ、そうだろう?』と苦笑いを作るヤマダ。だが、ハッカーの考えは違った。『金目のレリックがあるかもしれん。太古のカタナや、スクロールなどだ』
posted at 00:25:12

『ナムサン! お前一人でやれよ!』とヤマダ。『ああ、俺はアンタイ・ブディストだからな』とハッカーのツヨシ。室内が安全であるとわかったツヨシは、土足で戦闘的ブッダ像に向かって進み、その足元に置かれた大型オファリング・ボックスの中をライトで照らした。コワイ! 何たる冒涜的行為か!
posted at 00:32:48

ツヨシはサイバーグラスの暗視機能で中身を調べるが、札束や素子どころか、コインすら入っていない。ブッダ像が持つ、燃え上がる炎のようなツーハンデッドソードも漆塗りの木製で、大した金にはならなそうだ。ツヨシは唾を吐きながら、背後を振り返る。ドアの近くにいたはずの、ヤマダの姿が無かった。
posted at 00:39:20

ツヨシは慌てて、サイバーグラスのサーチモードをONにする。グラスの液晶面に緑色のサークルが現れ、タタミの上に転がったヤマダの死体を発見。さらに、ヤマダの首筋に刺さった小物体を自動ズーム。『分析結果:スリケンです』と表示された直後、鐘の背後に隠れた片腕のニンジャが飛び掛ってきた。
posted at 00:46:14

「アイエ…!」ツヨシには悲鳴を上げる余裕も無かった。「イヤーッ!」レオパルドは折れた爪でツヨシの体を胸から股間まで上下に切りつける。ケブラーブルゾンが切断され、中に着ていたアンタイブディズム・ブラックメタルバンド『カナガワ』のブッダ解剖Tシャツも切断され、ツヨシの肉も切断された。
posted at 01:07:40

「俺を脅かしやがって……!」すでにショック死したツヨシの襟元を掴み上げ、オファリング・ボックスに頭を突っ込ませる形で残酷なカイシャクを行った後、レオパルドはタタミに座り込んで呼吸を整えた。タッパーを開き、残っていた最後のスシを口に運ぶ。忍び込むネオン光が、マグロを七色に光らせた。
posted at 01:19:14

びくびくと痙攣するツヨシとタナカの死体をぼんやりと見ながら、レオパルドは考えた。(((いつから俺は、こうなってしまったんだ。もしかして俺は、あの夜に死んでいたんじゃないだろうか?)))皮肉なものである。彼もかつては、そこに転がるタナカと同じ、スラッシャーとして身を立てていたのだ。
posted at 01:23:54

(((ちくしょう、ちくしょう……ニンジャになれば全てが解決すると思っていたのに……この世界の王になれると思っていたのに……!)))レオパルドは最後のスシを味わいながら苦悶した。そしてツヨシの血がタタミの上を流れるのを見ながら、彼は回想する。ニンジャソウルに憑依された、あの夜を。
posted at 01:36:06

【NINJASLAYER】
posted at 01:37:38

【NINJASLAYER】
posted at 22:25:28

レオパルドにはもう1年以上も前の事のようにも思えるが、実際には今から約1ヶ月前の出来事だ。ハッカー2人、スラッシャー1人、スモトリ1人の構成で、ここと良く似たマルノウチ界隈の高層マンションをアタックしていた。ニンジャになる前の彼の職業は、スラッシャー。武器はカタナだった。
posted at 22:38:29

ペケロッパ・カルト出身の優秀なハッカー2人が、奇怪なジャーゴンを唱えながらドアの電子錠をハックした。直後、四人は部屋の中へと殺到したのだ。室内には、黒い革張りのソファー、クリスタル製のテーブル、壁にはぎらぎらとした鋭い輝きを放つカタナ、大型金庫、その上にはタヌキの置き物が……。
posted at 22:47:10

すわ、ヤクザ事務所か? 4人の直感を裏付けるように、豪奢なヒノキ材テーブルの後ろには、『キング・オブ・ゴリラ』と威圧的なカタカナで書かれたショドーが、悪趣味な金縁の額に入って飾られていた。キング・オブ・ゴリラといえば、ネオサイタマでも有数の暴力的ヤクザ・クランだ。
posted at 22:50:52

だが不思議なことに、敵の気配は無い。何らかの理由で、ヤクザたちが全員出払っているのか? それとも休業日なのか? どちらにせよ、僥倖である。営業日のヤクザ事務所にアタックをかけていれば、返り討ちにあっていただろう。さらに今、自分たちはヤクザ事務所の金庫を開けるチャンスすら得たのだ。
posted at 22:56:04

事を急ごう。ヤクザたちが不意に帰ってくる前に、金目のものを全て盗み出すのだ。ハッカーの1人は金庫の物理カギ解除を試み、もう1人のハッカーは直結するためのLANポートを探した。スモトリとスラッシャーもドアや窓の外を警戒しながら、机の引き出しを開けにかかった。その時である!
posted at 23:01:13

「金庫物理カギ、解…じょ…? アバ…アババババババーッ!」金庫の前にいたハッカーが、絶叫とともに卒倒した! 三人が驚き振り向くと、タヌキの置き物の頭が左右に割れ、ガスが噴出していたのだ! すぐにガスは部屋中に満ち、四人は電流プールに放り込まれたマグロのように横たわり痙攣していた。
posted at 23:06:23

明らかなトラップだった。暴徒鎮圧用のガスであろう。意識ははっきりしているが、体がまったく動かない。冷や汗だけが流れる。十分後、事務所のドアが開き、10人程の人影がどかどかと入り込んできた。ヤクザかと思ったが、違った。片腕がダイヤモンドチタン製義手のデッカーと、数名のマッポだった。
posted at 23:09:41

マッポたちからノリベ=サンと呼ばれるそのデッカーは、近くにいたスモトリの頭を踏みつけながら、スプレーをかけられた瀕死のコックローチに説教をたれるような口調で、こう言った。「ヤクザクランの事務所だと思ったか? 残念だったな、ここはネオサイタマ市警の第49課が作ったトラップルームだ」
posted at 23:14:37

「やれ、無力化しろ、虫どもはまだ動いているぞ」と、デッカーは嘲笑うように言い放った。過剰夜勤で死んだマグロの目をしたマッポたちが、自動人形のように動いて四人を囲み、腰に吊った警棒やジッテやマッポブーツの爪先で徹底的な暴力を加えた。(((アイエエエエ!)))四人は声も出せなかった。
posted at 23:18:44

「ハァーッ! ハァーッ! ノリベ=サン、こいつスモトリです! 蹴っても痛みを感じません!」マッポの一人がそう報告すると、ノリベは冷たく言い放った。「お前の銃をこいつの手に握らせろ」「ヨロコンデー!」マッポが倒れたスモトリの手に銃をあてがうと、ノリベはデッカーガンのトリガを引いた。
posted at 23:23:19

「…やめてください、許して…逮捕してください……」飛び散ったスモトリの脳漿を浴びて顔面蒼白におちいったペケロッパの1人が、声帯ではなく掌にインプラントしたスピーカーから電子音声で訴えた。「残念だったな」ノリベはペケロッパの腹を蹴りつけながら言う「スガモ重犯罪刑務所は満員だぜ!」。
posted at 23:36:50

「アイエエエエエエエ!」ペケロッパ・ハッカーの掌から、平淡な電子音声の悲鳴が漏れる! それを合図に、他のマッポたちも暴行を再開した。この当時はまだレオパルドではなくヨモダと呼ばれていたスラッシャーも、自分の肋骨がへし折れ、内臓が破裂し、頭がトーフのようになっていくのを感じていた。
posted at 23:41:59

次第に視界が真っ白になり、何も聞こえなくなり、意識が遠のく……。その時だ。不意に、ヨモダの全身が強烈な電気ショックを浴びたかのように、仰向けの姿勢のまま数十センチ跳ねた。驚いたマッポたちが、蹴りを入れる強さを増す。だが、ヨモダは不思議と恐怖を感じなかった。激痛も消え去っていた。
posted at 23:46:26

次第に、感覚が戻る。まずは視覚。何もかもが鮮明に見えた。目に精密ズームカメラをインプラントされたかのように、自分を見下ろし蹴り続けるデッカーの網膜に映る自分の顔、さらにその自分の顔の網膜までもがズームアップされた。次に聴覚が戻った。室内の全心音と、ペケロッパの心停止が聞こえた。
posted at 23:51:03

残りの感覚が全て戻る。より強く、より鋭敏になって。それから、心臓が燃えるように熱くなり始めた。自分の胸の中に、姿見えぬ同居人が宿ったかのように感じられた。全身に力が満ち始めた。目の前にいる全ての敵を殺せるという自信が湧いた。ガスにやられたはずの指先に力を入れる。すると、動いた。
posted at 23:53:49

他の3人を全て始末し終えたデッカーが、アビスのような銃口を突きつけながら、頭の横に近づいてきた。マッポたちが一斉に蹴りをやめ、手を後ろに組んで休めの姿勢を取る。「犯罪者どもに明日は無い」49課のおそるべきフォールン・デッカーは、ナルシスティックな決め台詞とともに、トリガを引いた。
posted at 23:58:21

ヨモダの目には、トリガを引こうとする敵の指の筋肉の動きが見えた。「イヤーッ!」胸の奥底から、カラテめいた掛け声が突然沸きあがってきた。と同時に、神経ガスにやられたはずのヨモダの体は素早く右に側転して銃弾を回避し、ブレイクダンスめいた動きで周囲のマッポを蹴散らしたのだ! タツジン!
posted at 00:02:12

ヨモダは確信した。理由は全くもって不明だが、自分は伝説の半神的存在、ニンジャになったのだと! そして彼が得たのは、数々のニンジャ的基礎能力に加えて、常人の3倍を超える脚力! ネックスプリングから素早く身を起こし、デッカーガンの再射撃を回避する! それから窓へと駆け、ダイブした!
posted at 00:07:12

そのまま隣のビルの屋上に飛び渡ったヨモダは、重金属酸性雨が降りしきる夜のネオサイタマをレーザービームのように駆けた。それから不意に、顔を隠したい衝動に駆られ、サイバーブルゾンの中に着ていたTシャツを脱ぎ、覆面のように顔を覆った。襟の部分から目を出し、袖を縛った。ニンジャだった。
posted at 00:11:59

彼は体中に打撲痕を作り、顔中から血を流しながらも、笑っていた。「ニンジャだ! 俺はニンジャになったのだ!」と。全身に無限の力がみなぎっていた。彼の胸は、何人でも人を殺し、万札をいくらでも奪えるという自信に満ち溢れた。それどころか、この世界の王になれるのではないかとすら思えた。
posted at 00:13:10

……それから四日間、ヨモダは思うがままに殺し、奪い、スシを喰った。無敵の存在に生まれ変わった事を、彼は確信した。だが五日後、彼の自信は打ち砕かれた。奪ったばかりの大トロ粉末アタッシュケースを抱えてビル街の屋上を走っていた彼の前に、三人のソウカイ・ニンジャが姿を現したからだ。
posted at 00:18:44

ソウカイニンジャの1人は、トラッフルホッグと名乗った。彼らはソウカイヤの野良ニンジャ抹殺チームであり、ヨモダにソウカイヤへの忠誠か、さもなくば死を迫ったのである。「忠誠を誓うならばソウカイ・シンジケートのバックアップを得られるぞ。トレーニング施設やイントラネットも使い放題だ」と。
posted at 00:20:54

トラッフルホッグ以外のニンジャが明らかに自分よりも強大であると察知したヨモダは、おとなしくドゲザし忠誠を誓った。実際、残りの二人はシックスゲイツであったため、直感は正しかったといえよう。だが(((トレーニングを積み、いずれ寝首を掻いてやるさ)))という彼の考えはいささか甘すぎた。
posted at 00:24:38

ソウカイヤのニンジャとなったヨモダに待っていたのは、スラッシャーとなる前のサラリマン時代よりも過酷な日々であった。じわじわと迫り来るカロウシか、ラオモトやシックスゲイツによるカイシャクか、という点ではどちらも死と隣り合わせだが、ソウカイ・シンジケートはよりサツバツとしていたのだ。
posted at 00:27:00

ラオモトの前に連れ出され、忠誠の証としてドゲザをし、レオパルドというコードネームを与えられた夜の事を、彼はいまだに覚えている。ラオモトの全身から発散される殺気と、七つのニンジャソウルの前に、彼の魂は圧倒され、恐怖し、誰に強いられるでもなく、ひとりでにドゲザしていたのだから。
posted at 00:29:01

レオパルドは、このラオモトという男には一生かかっても、どんなにシツレイな手を使って襲ったとしても、絶対に勝つことが出来ないだろうという歴然たる力の差を味わったのだった。ニンジャとなり、俗悪な暴力と憎悪の世界から脱出したかと思えば、さらにその上に暴力と憎悪の世界があったのである。
posted at 00:33:33

そして、ラオモトよりも遥かに恐ろしい恐怖として彼のニューロンに巣食ったのが……「忍」……「殺」……!
posted at 00:35:14

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posted at 00:35:37

「アイエーエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」回想から現実に引き戻されたレオパルドは、頭を左右に激しく振りながら悲鳴を上げた。不意に、ドアが外側から開かれる。レオパルドは恐怖に凍りついた。集中を乱していたせいで、敵の接近に気付かなかったのだ。
posted at 00:38:14

それはニンジャスレイヤーではなかった。「アレエエエエエーッ!」オイランが後ろから誰かに蹴り飛ばされ、ふらふらと廃テンプルの中に入ってきたのだ。オイランが床に倒れ、胸の谷間に隠した小型銃を引き抜いて後方を振り返った瞬間、ドアの向こうからデッカーガンが発射され、オイランの頭が弾けた。
posted at 00:43:10

「無力化しろ」聞き覚えのある声が、廃テンプルに響く。その声に続いて、高性能緑色ライト付きサスマタを構えた10人ほどのマッポが、土足のままタタミの上に乗り込んでくる。「アイエエエ? ノリベ=サン、犯罪者が倒れて死んでいますよ?」マッポたちは指差し確認を行いながら不思議そうに言った。
posted at 00:48:14

「仲間割れか? 奴らには良くあることだが」デッカーガンを油断無く構えたノリベが、気だるそうな声を出しながらテンプルに入ってくる。「首の辺りに何か刺さっています。これは……鉄の……トゲトゲとした……スリケ、アバーッ!」報告中だったマッポの額に闇の中からスリケンが飛来し、突き刺さる!
posted at 00:53:10

ノリベの号令のもと、マッポたちは一斉にサスマタを投げ捨て、腰のホルスターからマッポガンを抜く! スリケンが飛んできた方向めがけ、闇雲に銃を乱射した! ツーハンデッドソードを持った戦闘的ブッダ像が破壊される! 闇の中から新たなスリケン! 1人、また1人とマッポたちが死んでゆく!
posted at 00:55:09

「アイエエエエエエ!」ついに最後のマッポが倒れ、残るはフォールン・デッカーのノリベだけとなった。ノリベは高性能サイバーサングラスに備わったスキャニング機能を作動させ、鐘の上に立つニンジャ装束の男を認識する。そこから飛来する四枚のスリケンを、デッカーガンの射撃でたやすく破壊した。
posted at 00:57:54

「ドーモ……ノリベ=サン、レオパルドです」鐘の上に立つニンジャは、屠殺者のように無表情な声で言った。「俺を知っているのか?」ノリベは尊大な態度でそう返し、レオパルドの移動パターントレスを行いながら、デッカーガンのトリガを引いた「だが俺は犯罪者の名前などいちいち覚えておらんぞ!」。
posted at 01:03:58

--------------
posted at 01:05:45

数分後、レオパルドが破壊した窓からヘルソード・テンプル内へと、赤黒い影がしめやかに着地する。ニンジャスレイヤーであった。割られた窓から微かに忍び込んでくるネオン街の灯りが、フューネラル・ボンボリのような陰鬱さで、廃テンプル内を照らす。タタミの上には、十数個の死体が転がっていた。
posted at 01:14:03

中央部に、向かい合って倒れるレオパルドとデッカーの姿が見えた。レオパルドはデッカーガンのゼロ距離射撃を受け、右膝から下が無かった。頭部の無いデッカーは、サイバネ義手を付け根付近から切断され、時折バチバチと火花を散らしていた。デッカーは絶命していたが、レオパルドにはまだ息があった。
posted at 01:22:48

レオパルドはぼんやりと天井の木目を目で追いながら、ソウカイヤの救援を待っていた。同時に、助けなど来るはずも無いことを予感していた。何しろ、ニンジャスレイヤーに遭遇したときから現在まで、小型救援IRCメッセージ発信機の電源は、常にONだからだ。使い捨てられたのだと薄々気付いていた。
posted at 01:26:31

ニンジャスレイヤーが視界に入る。不思議と、恐れはもう無かった。胸の奥に憑依したはずのソウルは、「忍」「殺」の恐怖によって去勢されたかのようであった。あるいは、もはや自分には存在価値など無いことを、レオパルドが悟ったのが原因だろうか。ネオサイタマの死神は、慈悲の天使のように見えた。
posted at 01:30:09

「見逃してくれといったら、どうする?」もはや動く力すら残っていないレオパルドは、試みに聞いた。「駄目だ。全ニンジャを殺す」と、その狂人は答えた。「もう殺しはしない、と言ったら?」「常人が蟻を殺すように、ニンジャは人を殺す。いずれ、また、必ず殺すのだ」と答えた。
posted at 01:32:47

「見てきたような言い草だ」とレオパルドが、血の咳混じりに言う。彼の肺は、ニンジャスレイヤーのカラテと、デッカーの戦闘義手によって、両方とも破壊されていたのだ。「いかにも、見てきた。人の心がニンジャソウルの前に屈するのを」ニンジャスレイヤーは苦々しい口調で付け加えた「ジゴクを」と。
posted at 01:36:25

「カイシャクしてやる」とニンジャスレイヤー。レオパルドの視界いっぱいに、彼の足の裏が広がった。それが少しだけ遠ざかり、カイシャクのためのタメが作られる。「ハイクを詠め」ニンジャスレイヤーが冷酷に告げる。「寂しい秋な……実際安い……インガオホー」。デッカーの義手がバチバチと鳴った。
posted at 01:41:31

「ニンジャ、殺すべし」フジキドの足が容赦なくストンピングされ、レオパルドの頭部を破壊する。「サヨナラ!」という叫び声と共に、レオパルドの肉体は爆発四散を遂げた。フジキドは、胸に嫌な昂揚感を覚えて舌打ちする。魂の同居人であるナラク・ニンジャの影響が、間違いなく及んできているのだ。
posted at 01:42:47

数十分後、住民の通報を受けて2人組のデッカーとマッポ・アシスタントたちが到着する頃、ヘルソード・テンプルには十数個の死体と、人型に焼け焦げたタタミだけが残されていた。それ以外は、何も、何も残らなかった。
posted at 01:44:38

ネオサイタマではごくありふれた、サツバツとした夜だった。割られた窓の外では、しとしとと重金属酸性雨が降り続いていた。誰にも見られることなく、動脈血のように赤黒いニンジャの影が、ビル街の暗闇を飛び渡っていた。昂ぶりすぎた殺忍衝動を、淋しい秋の夜風で冷ますかのように、速く、速く……。
posted at 01:47:23

(「ア・カインド・オブ・サツバツ・ナイト」 終わり)
posted at 01:47:49

NJSLYR> ア・カインド・オブ・サツバツ・ナイト #4

110724

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「ア・カインド・オブ・サツバツ・ナイト」(実写ダイジェスト版)
posted at 21:50:43

重金属酸性雨降りしきるネオサイタマ。その闇を駆け抜けるニンジャ装束の男がひとり。眼はズバリ中毒者のごとく血走り、見えない猟犬を恐れるかのようにしきりに後方を振り返る。彼の名はレオパルド。ダイヤモンドチタン製の鉤爪を操るソウカイニンジャだ。 http://t.co/fSkO1XD
posted at 22:00:31

「ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!」レオパルドの息は荒い。ニンジャとは思えないほど乱れている。「奴は•••奴は何者なんだ•••もしかして•••もしかして•••!」 http://t.co/osH1wBX
posted at 22:06:22

•••その時!崩落したビルの天井から、赤黒い影が稲妻のごとき速度で飛び降り、暗い廊下を駆け抜けるレオパルドの前に立ちはだかった! http://t.co/aEUczCs
posted at 22:14:59

「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」敵は鋼鉄メンポのスリットからジゴクめいた蒸気を吐き出しつつ言い放つ。レオパルドは、自分が今まさにネオサイタマの死神と向かい合っていることを理解した。 http://t.co/tZKKtjO
posted at 22:21:27

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、レオパルドです」 http://t.co/27cqiIc
posted at 22:24:24

「イヤーッ!」レオパルドがダイヤモンドチタン製の鉤爪でカラテを繰り出す!ナムサン!首を狙う一撃!だがニンジャスレイヤーは紙一重のブリッジでこれを回避!「イヤーッ!」 http://t.co/YZYURNU
posted at 22:30:06

ニンジャスレイヤーはブレイクダンスめいた動きから素早く体を起こし、三連続のバク転と側転の後、ひねりを加えた痛烈な蹴りを放つ!「イヤーッ!」あれは伝説のカラテ技、ローリングソバット!右足がレオパルドの顔面をしたたかに打ち据える!「グワーッ!」 http://t.co/JFqy1aA
posted at 22:36:58

中略 http://t.co/XuIkG59
posted at 22:41:35

◆おしらせ◆ 実写放送の負荷に耐えかねて翻訳チームのUNIXが爆発寸前です。ノイズが入りましたが気にせずもう少々お待ちください◆安全重点◆
posted at 22:55:22

「ハイクを詠むがいい、レオパルド=サン」ネオサイタマの死神は慈悲の天使のように見えた。「寂しい秋な、実際安い、インガオホー」「ニンジャ殺すべし!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの足が頭部を破壊する!「サヨナラ!」レオパルドは爆発四散を遂げた! http://t.co/hvyXpIN
posted at 22:58:23

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「ア・カインド・オブ・サツバツ・ナイト」(実写ダイジェスト版) 終わり
posted at 22:59:52

(親愛なる読者の皆さんへ:今回はNJSLYRアカウント始まって以来の試みということで、UNIX爆発を回避するための中略措置など、アクシデントがあったことを陳謝いたします。また、ノイズのせいにして誤植ケジメを免れようとしたタイピング担当者は、囲んで警棒で叩かれたのでご安心ください)
posted at 23:07:15

(なお、今回の実写版に使用したのは公式トイではなく、翻訳チームが持っていた適当な無改造ニンジャトイですのでご安心ください。レア物のため翻訳チームも所有しておりませんが、実際の公式トイには忍殺メンポが存在し、ノボリは存在せず、またニンジャスレイヤーの装束もほとんど黒に近い赤です)
posted at 23:12:19

■一周年■重点■ 再放送と実写放送という2つの新たな試みでお送りしてきた、ニンジャスレイヤー日本ツイッターアカウント開設1周年企画も、これにて全プログラムが終了となります。大変お世話になっております。明日も良いニンジャ・アトモスフィアを!WASSHOI! ■重点■■終了■
posted at 23:19:07

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 19:45:23

NJSLYR> デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ #1

101228

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#1
posted at 22:29:18

ズッタンズタタン、ズッタンズタタン、ビュイーン、ビュビュイーン、ビュビュイーン、ビュビュイーン。薄暗いガレージ内に置かれた8基のスピーカーから、エレクトロ・ダークポップ『ブッダコスモス』のギンギンに歪んだ電子音イントロが流れた。励起された魂が、今にも大宇宙に飛び立ちそうな勢いだ。
posted at 22:31:24

上半身は裸、下半身には青いスリムジーンズを履き、無骨なエンジニアブーツに裾を突っ込んだ銀髪の男が、ガレージの隅に敷かれた冷たいフートンの中で覚醒し、頭を抱えふらふらと立ち上がる。小型青色ボンボリの現実味のない光に誘導されるまま、Hの字型の錆びた柱に備え付けられた電話機へと向かう。
posted at 22:37:48

「……仕事? どっちの? ……ヤクザ? ああ、運びか。そりゃあ、受けるさ。いつものように、クライアントの情報をIRC転送してくれ。で、支払いは…? ブッダ! 1億円だと? いちお……アバーッ!」男は猛烈な眩暈に襲われてその場にくずおれ、床に備わった下水溝めがけて黄色い胃酸を吐く。
posted at 23:15:44

ぶらぶらと揺れる黒い受話器の向こうから、ツーツーという電子音が聞こえた。男は混濁した頭をもたげて立ち上がり、ダッシュボードに置かれたサケで、アスピリンを喉の奥に流しこむ。空のサケ瓶、テキーラ、バリキドリンク、カキノタネサーバー、工具、オートマチック拳銃……これがおよそ彼の全てだ。
posted at 23:21:44

男は顔を洗って髭を剃り、短い逆モヒカンの髪を立て直す。フォールン・サムライめいたヘアスタイルだ。スタイリング・スプレーの粒子が、バイオLAN端子から侵入して前頭葉を刺激した。彼の偏頭痛の原因は、ほぼ判明している。左眼に埋め込んだサイバネティック・アイの内部が、錆びてきているのだ。
posted at 23:43:35

男は数年前までフリーランスのヤクザを生業としていたし、今でも依頼があれば荒事を引き受けているが、クローンヤクザの導入やリアルヤクザ・クランの相次ぐ壊滅といった影響を受け、そちらの仕事を取るのは厳しくなってきている。目下、彼の主たる収入源は運び屋……それも死体専門の運び屋だ。
posted at 23:46:11

ガレージに掲げられた表札の名前は、ミフネ・ヒトリ。だが、その名で呼ばれる事は滅多にない。皆、彼をデッドムーンと呼ぶ。その名の由来は、彼の背中に刻まれた不吉なタトゥーにあった。花札の中で最も不吉とされる札、デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイの図柄が、彼の背中に彫られているのだ。
posted at 23:53:45

「ショウタイム」デッドムーンは、柱に備わったブレーカーを起こす。ガレージの天井に吊られたスポットライトが照り付ける。油圧式チャブに乗せられ黒い布で覆われた彼の愛車がゆっくりと回転し、その横では『満FULL』と書かれたネオンアートが、バチバチと火花を散らしながら曲に合わせ明滅した。
posted at 00:10:48

鯉が描かれた黒い布が取り去られ、彼の武装霊柩車がその姿を現す。メイン車体は流線型を基調とした伝説のクラシック・スポーツカー「ネズミハヤイDIII」。その上に、平安ゴシック様式の刺々しい小型シュラインが乗る。その全容はさながら、オキナワ水没都市で発見される奇怪な深海生物を思わせた。
posted at 00:23:54

メイン車体も小型シュラインも、鏡面加工クロームシルバーに塗装されており、彼女はバッドムーンの顔をその磨き上げられたボンネットに映して、今夜のアイサツをした。日本文化において、シルバーは死を暗示する色だ。彼女はさしずめ、陰鬱な死の香りを纏ったゴシカルな未亡人に喩えられよう。
posted at 00:36:03

油圧チャブの回転が止まり、ガレージが開いて発車準備が整う。左のヘッドライトについた小さな擦り傷が、デッドムーンを沈んだ気持ちにさせた。金さえあれば真っ先に直してやるところだが、実際ここ数週間、仕事はいっさい入ってこなかったのだ。しかし、そんな惨めな生活とも今日でサヨナラできる。
posted at 00:43:36

違法カキノタネを奥歯で噛みしだき、燃え上がるような残滓をバンザイ・テキーラで流し込んだデッドムーンは、チューブ付ブルゾンを地肌の上に羽織る。左のこめかみに指を当てると、サイバネティック・アイから赤外線が照射され、武装霊柩車の両のドアが逆モヒカンのように斜めに開いて彼を迎え入れた。
posted at 00:56:19

重いハンドルを握ったデッドムーンの両手首から、圧縮空気が吐き出される。彼は両腕をサイバネ義手に置換しているのだ。「一億か……どこのヤクザクランの偉いさんが死んだのやら」。アクセルペダルが踏み込まれ、銀色の武装霊柩車はネオサイタマを覆う重金属酸性雨の闇の中へと吸い込まれていった。
posted at 01:05:46

「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#1終わり #2へ続く
posted at 01:07:14

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 14:01:04

NJSLYR> デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ #2

110106

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#2
posted at 22:24:35

数日前。マルノウチ・スゴイタカイ・ビルの屋上にて……。
posted at 22:29:59

フジサンの地下に広がるレアアース強制採掘所を浸水させ、都心第7コケシタワーをへし折るなどの猛威をふるったタイフーン『ヒミコ』は、この日未明にようやく日本を通過。実に数ヶ月ぶりの不似合いな青空が、ネオサイタマ上空に広がっていた。ヒミコが重金属酸性雨の黒雲を拭い去っていったのだ。
posted at 22:35:43

空の半分以上はもはや、工業地帯から立ち上る排煙によって黒く染まり始めている。後一時間もあれば、空は再びマッポーのごとき暗黒に覆われ、ネオサイタマ市民の心をやすらぎと陰鬱さで包み込むだろう。誰も澄み切った青空など求めていない。自分の姿すら覚束ない薄暗がりこそが、彼らには必要なのだ。
posted at 22:45:43

スゴイタカイ・ビル屋上。四方に張り出した強化御影石製シャチホコ・ガーゴイルの一つに、ニンジャが爪先立ちで座っていた。彼こそはフジキド・ケンジ。ソウカイ・シンジケートのニンジャに妻子を殺され、自らも瀕死の重症を負ってニンジャソウルに憑依された、復讐の戦士ニンジャスレイヤーである。
posted at 22:47:51

彼はまるで石像だ。ヒミコの激しい愛撫を受けた昨夜も、ニンジャスレイヤーは微動だにしなかった。今、十数羽の鴉が彼の体に停まり、久方ぶりの青空に対し威嚇的な鳴き声を発しているのも、この鳥達が彼を生物と認識していないからである。これは心を静め気配を消す、チャドーの鍛錬の一環でもあった。
posted at 22:54:22

「スウーッ! ハアーッ! スウーッ! ハアーッ!」ニンジャスレイヤーは、深く長い呼吸を一定のリズムで続けている。太古の暗殺術チャドーを極めんとする者は、まず瞑想と呼吸の鍛錬を積まねばならない。また、標高の高い場所で行うことによりリラクゼーション効果も高まり、傷の回復速度も速まる。
posted at 23:02:27

「スウーッ! ハアーッ!」彼はこのところほぼ毎晩のように、スゴイタカイ・ビルの屋上で瞑想を続けながら、ビル街の中に蠢くニンジャソウルの動きを感じ取っていた。ニンジャの気配を察知したらすぐさまビルを降りて追跡を行い、どこまでも追い詰めて殺す。それが自らに課した復讐の使命なのである。
posted at 23:04:29

ニンジャスレイヤーは、この屋上が自分の支配領域であることを、ソウカイ・シンジケートに隠そうとしなかった。利点は2つある。1つは、黙っていても向こうから殺すべきニンジャがやってくることだ。実際、初めは毎日のようにアサシンが送り込まれてきたが、ここ2週間、敵の攻勢は止んでいる。
posted at 23:08:42

もう1つの利点は、ソウカイヤの目をスゴイタカイ・ビルに向けさせることで、複数ある他の潜伏場所から敵の注意をそらせることであった。まさに「泥棒がばれたら家に火をつけろ」という、平安時代の哲学者にして剣豪ミヤモト・マサシの残したコトワザの通りである。
posted at 23:13:34

「スウーッ! ハアーッ!」フジキドは瞑想を続けながら、ネオサイタマ上空の青空を眺める。朝まで屋上に留まっていたのは、これが初めてだ。もしや自分はすでに死人であり、フジサンから昇る朝陽を浴びれば灰となって消えるのではないかと、無意識のうちに他愛もない疑念を抱いていたのかもしれない。
posted at 23:23:24

朝6時。ネオサイタマ中のジンジャ・カテドラルで一斉に鐘が突き鳴らされる。その響きが木霊のように、スゴイタカイ・ビルの屋上まで伝わってきた。……おお、ブッダ! いつになく澄み渡った清浄な空気が、厳粛な鐘の音をはらんで揺れる。厳かな石の洗面台に張られた水に、静かに広がる波紋のように。
posted at 23:31:23

その鐘の音を聞き、ニンジャスレイヤーの意識は瞑想から覚める。少しずつ、全身の感覚を取り戻してゆく。ふと彼は、自らの体に停まった鴉たちの異変に気付いた。つい先程左肩に停まった三本脚の鴉が、いつになく荒々しい声でゲーゲーと鳴き、他の鴉たちにくちばしで攻撃を加えているではないか。
posted at 23:36:02

ニンジャスレイヤーは数時間ぶりに体を動かした。ニンジャの石像に停まっているとばかり思っていた鴉たちは、一斉に彼の体から飛び立つ。フジキドの手は、素早い動きで三本脚の鴉の体を掴んでいた。口を開かせると、思ったとおり釣針が刺さっている。タマガワかどこかで飲み込んでしまったのだろう。
posted at 23:40:00

ニンジャスレイヤーはオハシのように精密な動きで指を動かし、錆びた釣針を手際よく引き抜く。三本脚の鴉は重金属酸性雨で傷めた黒羽を羽ばたかせながら、漆黒に染まり始めた空へふらふらと飛んでいった。さあ、自分も人目につかぬうちに隠れ家へ帰ろう。フジキドがそう考えた時、不意に背後から声が!
posted at 23:45:58

「ドーモ」という礼儀正しいアイサツが、背後のかなり近い場所から聞こえた。ナムアミダブツ! 相手はこちらの後ろを取って圧倒的有利に立った上に、余裕のアイサツまでも繰り出してきた! これに対してニンジャスレイヤーは、素早く背後へ振り返った上に、まずアイサツを返さねばならないのである!
posted at 23:55:53

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは雷のような速さで、後方へとタイドー・バックフリップを決め、背後に立っていた敵の頭上を飛び越えた。タツジン! 着地の隙を消すためにブレイクダンスめいた素早い動きをくり出してから、さらにバク転をもう一度決めてオジギ。「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」
posted at 00:01:27

「ニンジャスレイヤー=サンと言うのですかな?」と、敵は拍子抜けするほど静かな声で答え振り返る。柳の木の下をたおやかに駆け抜けるアンテロープのように穏やかな声だ。すぐにニンジャスレイヤーは自らの過ちに気付いた。これはソウカイヤのニンジャなどではなく、屋上の清掃に現れた老人であると。
posted at 00:07:56

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。スガワラノ・トミヒデです」黒いレインコートを着て、重金属酸性雨よけのフードを被っていた長身の男は、礼儀正しくオジギを返した。そして雨がすっかり止んでいたことを思い出し、ニンジャ頭巾めいたフードを脱ぐ。年の頃50から60の、白髪の老人であった。
posted at 00:21:29

「スガワラノ=サン、お願いしたいことがある。自分はここを今直ぐにでも立ち去ろう。霧のように掻き消えよう。だから、私とここで会った事は忘れてほしい。どうだろうか?」フジキドは問うた。竹ぼうきを持った老人は答える「鴉はブッダではありません」と。ナムアミダブツ! これはゼンモンドーだ!
posted at 22:06:02

「なるほど、後ろから見ていたと……」ニンジャスレイヤーは、何故自分が老人の気配を察知できなかったのか、何となく理解できた気がした。老人は答える「大丈夫、通報したりしませんよ。あなたは悪い人には見えない。このマッポーの世に、薄汚い哀れな鴉の喉から釣針を抜いてやるような人だ」と。
posted at 22:13:13

「……ドーモ」と、フジキドは感謝の意を伝えるために、再び深いオジギをした。老人の物腰に影響されたのか、自然と語気は穏やかになり、彼の背筋は伸びた。長らくサツバツとした殺人の世界に生きてきたフジキドの心は、澄み渡った青空と思慮深い老人との出会いによって、久々に洗われたようであった。
posted at 22:23:10

「では、自分はこれで……」フジキドが跳躍の姿勢を取りかけると、老人は静かに笑ってこう語りかけた。「お急ぎで無ければ、少しこの老いぼれと話の相手をしてくれませんか? 大丈夫、他の清掃員が来るまで、たっぷり2時間以上ありますよ。私はあなたの願いをひとつ聞くから、これでおあいこだ」
posted at 22:37:53

かくして2人は、屋上階にある休憩室で小さなコケシベンチに座りながらしばし語らうこととなった。作業員しか使わない休憩室は薄汚く、配電盤からはバチバチと火花が散り、壁には寝転んだブッダがコミック的な吹き出しで「ビョウキ、トシヨリ、ヨロシサン」と語る扇情的ポスターが何枚も貼られていた。
posted at 22:45:23

「どれにしましょう?」と、老人はヨロシサン製薬のドリンク自販機に百円を入れる。「生憎持ち合わせが……」とフジキドが言いかけると、スガワラノは財布からもう一枚百円玉を取り出しスリットに滑り込ませた。ポンポンポポンという鼓の音と共に自販機のフスマが開き、何種類かのドリンク瓶が現れる。
posted at 22:49:49

バリキドリンク、ザゼンドリンク、コブラ8、タノシイドリンク……様々なドリンク剤が並んでいる。ヨロシサン製薬の滋養強壮ドリンク剤には麻薬様成分が含まれておりオーバードーズは危険だが、1日1本ならば何も問題はない。「ではザゼンで」とフジキド。「奇遇ですね、私もザゼンだ」とスガワラノ。
posted at 23:01:54

ストローでザゼンドリンクを吸い上げながら、フジキドは先程から気になっていた事を、横に座っている老人に尋ねた「怖くないのですか? ニンジャが隣に座っているというのに」。老人は静かに答える「この歳になると、大概の事では驚かなくなるものです。それに、悪い人ではないと解っていましたから」
posted at 23:11:34

日本においてニンジャは神話的存在であり、その恐怖は日本人の遺伝子レベルに刻み込まれている。市民の間では、ニンジャは吸血鬼と同じくフィクションの産物だ。万一、ニンジャに遭遇したら……それはほとんどの場合、死を意味する。それは本物のニンジャか、或いはニンジャの格好をした狂人だからだ。
posted at 23:16:00

そんなニンジャが隣にいるというのに、スガワラノ老人は嫌な顔一つしない。この温かみが、家族を失い、師匠ドラゴン・ゲンドーソーを失い、殺人の上に殺人を重ねて凍りつき始めていたフジキドの心臓を大いに癒したであろう事は、疑いようがなかった。センセイは至る所に居るのだ、とフジキドは思った。
posted at 23:21:31

「見てください、私の家族です」とスガワラノは胸ポケットから携帯IRC端末を取り出す。写真データが選ばれ、数十年前の日付の色褪せない画像が映し出された。スガワラノ・トミヒデと妻、そしてまだ幼い男の子が写っている。「この頃が一番幸せだった。妻はすぐ他界し、息子は家を飛び出しました」
posted at 23:25:30

「ではもう息子さんとは連絡も取っていない?」「いえいえ、話すと長くなるのですが……実のところ、息子はセンタ試験に失敗してから、キョート・リパブリックに行くといって家を飛び出し、数年間音信不通でした。でもその後、キョートのムラサキシキブ化粧品で働いているという電話がありまして」
posted at 23:29:20

「ムラサキシキブ化粧品といえば、カチグミではないですか」「ええ、そうらしいですね。それ以来、時折お金が私の口座に振り込まれているんです」「できた息子さんだ」「本当はね、お金よりも……一緒に暮らしたいと思ったこともあるんですが、それが仕事の邪魔になってはいけないと思い、諦めました」
posted at 23:33:59

その後彼らは、しばし当たり障りの無い世間話をした。外を見ると、ネオサイタマの空はもう、いつもの黒雲で覆われていた。ニンジャスレイヤーは休憩室の時計を見ながら、最後に一つ、こう質問する。「何故あなたは、こうも穏やかで、殺気の欠片もないのか? もしや、チャドーを実践しているのでは?」
posted at 23:44:33

「ハッハッハ、私にはチャドーなんていう高尚な趣味はありません。茶壷一つ持ってないですよ」老人は屈託無く笑った。太古の暗殺術チャドーは江戸時代に禁止され、そのメンタルトレーニングであるザゼンとオチャの要素だけが残った。スガワラノ老人が言っているのは、こちらの一般的なチャドーの事だ。
posted at 23:47:14

「そうですか、自分の思い違いでした……。さて、スガワラノ=サン、今度こそお別れです」ニンジャスレイヤーは立ち上がって別れのオジギをする。他の清掃員が来るという時間まではまだまだあるが、油断はならないからだ。「ニンジャスレイヤー=サン、いつもこの時間に屋上にいるのですか?」と老人。
posted at 23:52:04

実際、スガワラノ=サンとの会話は心温まるものだった。それに、この老人からは学ぶべき点が多そうだ。だが、慈悲無き殺戮者である自分が、このような安寧に浸ってもいいのか? 何か良からぬインガオホーが起こるのでは? そうだ、フジキドよ、答えは一つだ。 「……いいえ。ではオタッシャデー!」
posted at 00:03:54

「オタッシャデー」と老人がオジギを返し、顔を上げると、もうニンジャスレイヤーの姿はどこにもなかった。窓の外では、陰鬱な重金属酸性雨がしとしとと降り始めていた。
posted at 00:05:42

--------------
posted at 00:07:00

次の日、午前6時。マルノウチ・スゴイタカイ・ビル屋上にて。
posted at 00:11:09

黒いレインコートを着たスガワラノ老人は、いつもより2時間早く屋上に姿を現した。彼は、タイフーンが過ぎ去った後にここから素晴らしい青空が臨めることを知っていたから、昨日は午前6時にここに来たのだが、今日は違う。今日、彼が午前6時にここに来たのは、ニンジャスレイヤーに会うためだった。
posted at 00:15:39

おそらく彼は、キョートに居るという息子とニンジャスレイヤーを重ね合わせていたのだろう。ゆえに、彼は今日もニンジャスレイヤーに会えるのではないかという淡い期待を抱いて、ここに姿を現したのだ。だがどれだけ探してみても、屋上には鴉たちしかいない。昨日ニンジャを見たのが、夢のようだった。
posted at 00:19:55

「やはり、ニンジャスレイヤー=サンは居ないか…」と、老人は溜め息混じりに呟く。 「……ニンジャスレイヤー=サンだと?」おお、ナムアミダブツ! 何たる理不尽! 数十メートル離れた上空に、偶然にもその声を聞きつけた者がいたのだ! ソウカイ・シックスゲイツの斥候、ヘルカイトである!
posted at 00:26:18

巨大な凧を操るニンジャは、獲物を狙うイーグルのごとく急降下をくり出す!「イヤーッ!」「アイエーエエエエ!」おお、ナムサン! 老人の体がニンジャロープで吊り上げられる! 異変を感じて鴉たちが喚いた。悲鳴が遠くなった。持ち主を失った竹ぼうきが、燃え尽きたセンコのようにぱたりと倒れた。
posted at 00:40:34

「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#2終わり #3へ続く
posted at 00:41:50

NJSLYR> デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ #3

110109

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#3
posted at 22:27:15

武装霊柩車を駆るデッドムーンは、指定された場所へと向かっていた。重金属酸性雨がフロントガラスにまとわりつき、銀色のワイパーがそれを左右に振り払う。デッドムーンは愛車の制御システムとの間でLANケーブル直結を行っており、雨のまとわりつくアンニュイさまでもがニューロンに伝わってくる。
posted at 22:30:14

「一億か……」熟練の霊柩車ドライバーである彼にとっても、相当でかいヤマだ。彼は感情をフラットにする方法を武装霊柩車ドライバーの師匠ゲバタから学び、殺人機械のように淡々と運びをこなしてきたが、それでも今回は金額が金額だ。音楽と酒を少し足さねばなるまいと考え、ラジオのスイッチを捻る。
posted at 22:32:11

するとハードコア・ヤクザパンクバンド『ケジメド』の高速チューンが流れ出した。フロントマンのタケシは両手の中指以外をケジメしていることで若者に人気がある。「アーッ?未来!未来!未来!もう無い?未来!未来!未来は今!未来!未来!未来!もう無い?未来!未来!アーッ?アーッ?アーッ!!」
posted at 22:35:12

耳の奥をナイフで切り刻まれるような、性急で生々しい音が車内に響いた。運転が乱れる。「ブッダファック……!」デッドムーンは小さく舌打ちし、さらにスイッチを捻って、レトロなエレクトロ・ダークポップ・チャンネルを探し当てる。
posted at 22:40:48

ズッタンズタタン、ズッタンズタタン、ビュッイーン、ビュビュイーン…。心安らぐ電子音とBPMだ。それでいてロケット発射秒読みのような緊迫感がある。真の男はこれを聞かねばならぬ、と彼は常々考えていた。ダッシュボードに置かれたテキーラを呑み乾す頃、指定された廃コロシアムが視界に入った。
posted at 22:45:26

ウォーミングアップのように、デッドムーンは廃コロシアム前のトリイ下で愛車ネズミハヤイを素早くドリフトさせ、クロームシルバーに塗装されたカワラから重金属酸性雨の雨粒を振り払った。無線IRCチャンネルが自動ログインを促し、そのまま前進するようクライアントからの短いメッセージが入る。
posted at 22:49:44

4個のヘッドライトを照らすと、廃コロシアムの中央に築かれた土俵の残骸付近に、黒いスーツを着てマシンガンで武装した数名の屈強なヤクザたちと、それに護衛される白衣を着た医療関係者らしき男女が見えた。デッドムーンは土俵際で愛車を止め、左右のドアと、柩を納めるためのバックドアを開ける。
posted at 22:55:37

デッドームーンが親指で車体後方の移動式シュラインを指示すると、クローンヤクザたちが数人がかりで真っ黒い鋼鉄製の柩を担ぎ、シュラインの中の畳の上に収めた。デッドムーンは、誰が死んだかには興味を持たない。それが武装霊柩車ドライバーのプロフェッショナルとしての掟の一つだからだ。
posted at 22:59:05

「クライアント様は誰だい?」デッドムーンは、無人スシバーの案内音声のように平坦で無感動な声で聞いた。「センセイは思考実験で忙しいから、私がやるわ」胸元が強調された白のPVC白衣を着たオレンジボブカットの女性が、漆塗りオボン状のIRCトランスミッターを持って土俵から降りてきた。
posted at 23:07:49

「手付金は100万、素子でいい?」「ああ」「確認なさい」デッドムーンは受け取った素子を、サイバネ義手のスロットにはめ込む。網膜内に緑色のドットで『百万』の文字が映し出された。「残りは成功報酬か?」「ええ、テンプルで渡されるわ」女はデッドムーンの露出した胸板を見て淫靡な笑みを作る。
posted at 23:16:41

「潜在敵を全て教えてくれ」とデッドムーン。武装霊柩車の仕事は、敵対するヤクザクランなどの攻撃をかわしながら、病院やヤクザの家からテンプルまでクライアントの遺体を安全に運ぶことだ。奥に作られた医療設備を見る限り、この連中は真のクライアントの中継ぎをしているモグリの医者か何かだろう。
posted at 23:24:47

「潜在敵は1人よ」「1人だと? 1人に一億を払うというのか?」デッドムーンは怪訝な顔を作る。「相手は、1人でヤクザクラン数個分に匹敵する殺し屋なの。…うちのヤクザを1人、武装霊柩車の助手席に載せてもらうわ。敵の詳細はそのヤクザから聞きなさい」「了解だ」深入りはしない、それが掟だ。
posted at 23:28:40

「目的地は?」「これよ」女はオボン状IRCトランスミッターの3D画像機能を操作する。オボンの縁が、PVC白衣に隠された豊満なバストに呑みこまれた。緑色のワイヤフレームで、ネオサイタマ南西部の道路網が3D表示される。「ダルマ・テンプルに、今日のウシミツ・アワーを目処に入棺しなさい」
posted at 23:37:41

「経由したいテンプルや、希望のルートはあるか? フジサンの麓まで行って戻るオプションもあるが?」「無いわ。時間が迫っているから。ちなみに、プログラムが弾き出した最速ルートはこれよ」ボブカットの女が細い指先でオボンタブレットを操作すると、上に浮き出した3D画像に推奨ルートが現れた。
posted at 23:41:57

「全く駄目だ。狙撃を受けやすいビル街が20ヶ所以上ある」デッドムーンはかぶりを振って、自らの指でタブレットの表面をなぞり、別ルートを提示する。「俺ならここを通る。建造中止になったグラントリイ・ブリッジだ。時間も短縮できる」「いいわ、好きになさい。ミスター・プロフェッショナルさん」
posted at 23:46:18

デッドムーンは愛車ネズミハヤイの運転席に納まり、一足先にドアを閉める。女の強すぎる香水が鼻腔に残り、偏頭痛をうながし、彼をいらいらとさせた。少し待っていると、助手席に件のヤクザが乗り込んできた。左の顔面1時から4時までの部分が存在せず、サイバネティック・カメラが埋め込まれている。
posted at 23:51:56

(監視役というわけか? 1億ともなれば、不思議な話ではない。さて、ネオサイタマ湾のグラントリイ・ブリッジで陰気なヤクザとドライブを楽しみながら、たった一人の潜在敵というやつを聞かせてもらおうじゃないか…) デッドムーンはアクセルを踏み、二度と引き返せない死へのドライブを開始した。
posted at 23:59:45

「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#3終わり #4へ続く
posted at 00:10:37

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 14:11:50

NJSLYR> デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ #4

110111

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#4
posted at 23:33:36

数日前。トコロザワ・ピラーの七階にて……。
posted at 23:36:16

磨き上げられた御影石の床に、赤いLEDライトの数字が反射する。部屋の壁にはくまなく大型モニタと束ねられた高速LANケーブル類が並び、刻々と変動する株価が中継される。最新技術の粋が集められたこの部屋は、しかし宇宙ステーションなどではない。ここはネコソギ・ファンド社のホールの一つだ。
posted at 23:39:48

今、50畳ほどもあるこの部屋には、高級スーツを着込み分厚い眼鏡をかけた面接官5人と、このカチグミ企業就職を目指す3人の大学生がいる。さらに、面接官たちの後ろには一段高くなったリフト式タタミが浮かび、チェアマンであるラオモト・カンが江戸時代の武将のごとく威圧的に座っているのだった。
posted at 23:44:50

「ヨロシサン製薬は創業何年ですか」面接官が出題する。「ハイ」とクルーカットの学生がボタンを押し、回答権を得た。「どうぞ」「江戸37年です。風邪薬メーカーとして創業しました。私は大学でアメフトをやっています」「アタリです」面接官らは顔を見合わせ、手元のキーボードで何事かを入力する。
posted at 23:47:42

「これで問題はぜんぶ終了です」面接官が言った「点数は全員横並びなので、ここからはサツバツタイムです。皆さんがどれだけネコソギ・ファンド社に対して熱烈な忠誠心を発揮できるかアピールしてください。ハイ、では月給25万円からスタート」。3人の学生らはゴクリと唾を飲んだ。……一瞬の静寂!
posted at 00:03:52

「24万円です」ボブカットの学生がボタンを押して言う。面接官たちが手元のキーボードで何事かを入力する。「23万円です」とクルーカット。「22万円です」とチョンマゲ。皆、手に汗握り、目を血走らせ、心臓は破裂寸前だ。時折横に目配せし、互いを威嚇する。さながらバクチを打つヤクザのよう。
posted at 00:05:43

紫色のラメスーツを羽織り、黄金のヘルムとメンポで顔を隠したラオモトは、江戸時代の武将の如き威厳で腕を組み、成り行きを高みから見下ろしている。ソウカイ・シンジケートの首領でもある彼は、弱者が虫ケラのように死ぬのを見ることと、弱者らが共食いを行う光景を見ることが、何より好きなのだ。
posted at 00:08:52

「20万円です」とクルーカットが一気に勝負に出た。見事な手際だ。彼は知的な笑みを禁じえない。他の2人は、やられたといったジェスチャーを見せる。これ以上下げると、ネオサイタマにおける平均的な企業初任給を割ってしまうだろう。そんなことは、カチグミ大学出身の彼らにはプライドが許さない。
posted at 00:12:02

しばし静寂が支配する。面接官らがカタカタとキーボードを鳴らす。その肌はつやつやと綺麗だ。流石はカチグミの面接官、よく食べ、よく寝ているのだろう。焦燥感に負け、追い詰められたネズミ達が動き出す。「19万円です」と唇を噛み締めながらチョンマゲ。「18万円です」と泣きながらボブカット。
posted at 00:14:26

この無慈悲なるサツバツタイムの面接は、ラオモト・カンその人によって考案され、現在では数々の系列企業でも用いられるようになった。「ムハハハハ……」ラオモトは右肘を赤漆塗りの枕に預けながら、タイガーの描かれた扇子で優雅に体を扇いでいる。その眼はカタナのように細く、全く表情を読めない。
posted at 00:17:31

クルーカットは呆然としていた。20万円で買ったと思ったが、読みが甘すぎたのだ。「17万円です」「16万円です」さらにレースは続く。クルーカットはニューロンをフル回転させた…((ネコソギ・ファンドは今後急成長を見込まれている金融会社だ。数年耐え切れば、カチグミ的な給料になるはず))
posted at 00:19:12

「ウオーッ! ネコソギファンド・バンザイ!!」クルーカットはボタンを叩き、その場で立ち上がってバンザイの姿勢を取った。これには一同呆気に取られ押し黙り、彼の発言を見守るしかない。場の流れは完全に彼のものだ。パン、パン、パン、という気だるげな拍手が上から聞こえた。ラオモトだ。
posted at 00:20:31

「ムハハハハ、威勢の良い若造だ……」ラオモトの眼光が突如、抜き身のカタナのように鋭くと光る「それで、いくらまで落とす?」。クルーカットは膝を震わせながら叫んだ「この通り、指十本、10万円です!」。ナムサン! 狂気の沙汰だ! 「アイエエエエ!」他の2人の学生もその場で絶叫する。
posted at 00:22:34

「ムッハハハハハ! 面白い、貴様を採用だ」ラオモトは閉じた扇子でぴしゃりとクルーカットを指した。「ヨロコンデー!」クルーカットはその場で涙を流しドゲザする。実のところ、ラオモトにとってこの採用試験は余興にすぎない。ネコソギ・ファンド社はあと2年以内に計画倒産させる予定なのだ。
posted at 00:25:43

「では次の3人どうぞ」面接官が顔色一つ変えず、機械音声のような声で呼び出す。東西の自動フスマが開き、3人が退場して新たな3人が部屋に入ってくる。「問題です。ドンブリ・ポン社の上場時の株価は……」面接官が問題を読み上げていると、ラオモトの胸元でIRCブザーが鳴った。リー先生からだ。
posted at 00:27:11

「後は好きにしろ」ラオモトは扇子を捨ててリフトを下ろし、ホールを出る。サングラスをかけたクローンヤクザ軍団が並ぶ重役用廊下を抜け、高速エレベーターで49階へと向かう。トコロザワ・ピラーは、最下層部がネコソギ・ファンド社のオフィス、中階層以上がソウカイ・シンジケートの施設である。
posted at 00:32:35

ライオンの吼え声を模した電子音声が鳴り、エレベーターが止まる。黒地に紫色のラメ加工、その上に金箔でソウカイ・シンジケートのロゴマークがあしらわれたドアが圧縮空気を排出しながら開き、ラオモトと護衛のクローンヤクザ4人を、リー・アラキ先生の秘密ラボへと迎え入れた。
posted at 00:38:09

ズンズンズンズズポーウ! 不吉なサイバーテクノが鳴り響く。そこは天井、壁、床までが眩しいほどに真白い、広大な強化プラスチックの世界だった。輪切りにされ透明樹脂版で挟まれた死体が、オブジェの如く並ぶ。銀色の医療器具と透明なチューブと血肉の赤が、背徳的なグロテスクさを醸し出している。
posted at 00:41:32

薄汚い白衣のリー・アラキ先生。PVC白衣を着てギークじみた分厚いセル眼鏡をかける若き医学者、長身痩躯のトリダ・チェンイチ助手。胸元が強調されたPVC白衣とPVCナース帽、そしてオレンジ色のボブカットが印象的な女助手フブキ・ナハタ。日本有数の頭脳を持つ3人が、ラオモトを待っていた。
posted at 00:45:32

【NINJASLAYER】
posted at 00:53:44

NJSLYR> デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ #5

110115

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#4-2
posted at 20:49:40

ズンズンズンズズポーウ! 不吉なサイバーテクノが鳴り響く。そこは天井、壁、床までが眩しいほどに真白い、広大な強化プラスチックの世界だった。輪切りにされ透明樹脂版で挟まれた死体が、オブジェの如く並ぶ。銀色の医療器具と透明なチューブと血肉の赤が、背徳的なグロテスクさを醸し出している。
posted at 20:52:27

薄汚い白衣のリー・アラキ先生。PVC白衣を着てギークじみた分厚いセル眼鏡をかける若き医学者、長身痩躯のトリダ・チェンイチ助手。胸元が強調されたPVC白衣とPVCナース帽、そしてオレンジ色のボブカットが印象的な女助手フブキ・ナハタ。日本有数の頭脳を持つ3人が、ラオモトを待っていた。
posted at 20:52:48

ラオモトが黄金メンポから重々しい声を発する。「わざわざ呼びつけたからには、例の計画に進展があったのだろうな?」「イヒヒーッ! そうなんですよ」長い前髪から片目だけを覗かせたリー先生は、甲高い声で答えた。いつもは機械よりも冷静かつ無慈悲なことで知られるリー先生が、酷く興奮している。
posted at 20:58:47

「ついに、ズンビーニンジャ誕生の瞬間をお見せできるのです! こちらへ!」リー先生の口から衝撃的な言葉が漏れた。ブッダ! 彼はついに不死の謎を解く手がかりを掴んだと言うのか? 興奮を隠し切れぬリー先生は、史上初めて音楽に出会ったチンパンジーのような奇怪な歩き方になってしまっていた。
posted at 21:06:42

リー・アラキ先生とはいかなる人物なのかについて、改めて手短に説明せねばなるまい。彼はヨロシサン製薬からソウカイヤに派遣された科学者であり、シックスゲイツの肉体改造や重傷者の治療、および口に出すのもはばかられる数々の違法実験についての責任者を任されていた。
posted at 21:12:41

彼は世界随一のニンジャサイエンス研究者であり、憑依したニンジャソウルを人為的に分離し、別の人間へ移動させる驚異のメソッドを開発した。この『ヨクバリ計画』を発案し彼に研究を命じたのは、ラオモト・カンである。ラオモトはこの技術を用い、自らの肉体に複数のニンジャソウルを憑依させたのだ。
posted at 21:14:45

首尾よく七つのニンジャソウルを得たラオモトは、後続の者が現れないように『ヨクバリ計画』に関する全施設を破壊するよう命じた。しかしリー先生はこれに反対し、『ヨクバリ計画』を発展させ、死体にニンジャソウルを憑依させて蘇らせる『イモータル・ニンジャ計画』の開始をラオモトに提案したのだ。
posted at 21:18:57

組織内で、ラオモト・カンに異議を申し立てられる者はいない。実際この時、無慈悲な絶対君主であるラオモトはリー先生を殺すべきかどうか迷った。しかし、リー先生の言葉を信ずるならば、この計画が成就すれば自分は不死のニンジャになれるのだ。これはラオモトにとって、あまりに魅力的な提案だった。
posted at 21:26:02

かくしてリー先生は、巨額の予算を得てイモータルニンジャ計画に着手した。潤沢な予算を実証するように、このフロアでは白衣を着用したクローンヤクザ数十人が黙々と奴隷的作業を続けている。テーブルを見れば、IRC端末搭載型遠心分離機、マイクロピペット、キムワイプス等の高級器具が並んでいる。
posted at 21:37:04

「イヒヒーッ! あれです!」分厚い防弾ガラスの前に立ったリー先生は、助手たちに命じてフスマを開けさせ、先の部屋にある奇怪な装置を指さす。それは水牛人形がジゴクを巡る平安ゴシック様式の古い木製メリーゴーランドであり、水牛人形のうち2つは、サイバーな円筒形カプセルで置換されていた。
posted at 21:57:49

ラオモトはさほど驚きもしなかった。リー先生の悪趣味さを、彼は以前から良く知っていたからだ。これは日本人の科学者が研究室にカミダナやトリイを飾るのとはわけが違う。この装置は、リー先生の歪んだゴシック趣味と狂気的なユーモア精神が作り出した、何の宗教的意味もないグロテスクな装置なのだ。
posted at 22:05:18

「片方のカプセルに、ニンジャソウルを持つ被検体を投入します! イヒヒーッ!」リー先生がボタンを押すと、メリーゴーランド装置の右手側にあるフスマが開き、ホッケーマスクを被る白衣のバイオスモトリ4人に両手両足を掴まれた、ぶざまなニンジャが姿を現した。
posted at 22:10:45

「ヤメロー!ヤメロー!」両手両足を掴まれたニンジャは激しく抵抗するも、バイオスモトリの怪力にはかなわない。彼の名はセントリー。ソウカイ・シンジケートの末端ニンジャだったが、ラオモトの不興を買ったのだ。『入口』と大きく縦書きされたカプセルの上蓋が開き、セントリーは中に投げ込まれた。
posted at 22:23:03

「次に、新鮮な死体をもう片方のカプセルに入れます!」リー先生がボタンを押すと、メリーゴーランド装置の左側にあるフスマが開いた。拘束具を着せられ、洗脳用サイバーサングラスをかけた長身の老人が、ふらふらと姿を現す。その両脇を、白衣のクローンヤクザ2人が抱えていた。
posted at 22:29:56

「洗脳は完了したのか?」ラオモトが問う。「か、完璧です。あ、あの爺さんの記憶は完全に書き換えられ、ニ、ニンジャスレイヤーへの憎悪に、も、も、燃えています!」トリダがどもりながら答える。「ムハハハハ! こんな所であの老いぼれが役に立とうとは、まさにサイオー・ホースよ!」
posted at 22:35:21

「アバババーッ! おのれーッ! ニンジャスレイヤーッ!」老人は泡を噴きながら叫ぶ。おお、ナムアミダブツ! 彼こそはスゴイタカイ・ビルの屋上でニンジャスレイヤーと束の間心を通わせた、スガワラノ・トミヒデ老人だったのだ! 一体何故、罪無き彼がゾンビーニンジャなどにならねばならぬのか!
posted at 22:43:10

ニンジャスレイヤーの一味と思われヘルカイトに誘拐されたスガワラノ老人は、トコロザワ・ピラー内で尋問を受けたが、この老人はただの屋上清掃員であり、肝心の情報は何も知らないことが発覚。期待を裏切られ怒り狂ったラオモトはヘルカイトに減給のペナルティを課し、老人を絞め殺そうとした。
posted at 22:49:49

そこへリー先生から、ニンジャスレイヤーと関わりのある人間をサンプルとして提供してもらえないか、という協力要請の連絡があったため、スガワラノ老人は無慈悲にも被検体に選ばれてしまったのである。サツバツ! 何たる無法! 何たる非道か!
posted at 22:52:56

ピポピポピポリピピピポピポリピポピー。洗脳サイバーサングラスからはニューロンを責め苛む電子音が発せられ続け、「ニンジャスレイヤーが悪い」「インガオホー」等の赤色LED文字が、液晶面を右から左へよどみなく流れる。ブッダ! これではどんなに強靭な意志力を持つ人間でも洗脳されてしまう!
posted at 23:11:55

「イヒヒーッ! ではフブキ君、やりなさい。その被検体に、特製のズンビーエキスを注入しようネェ!」リー先生は興奮しながら防弾ガラスを叩く。その瞳が狂気でぎらぎらと輝いていた。防弾ガラスの向こうでは、フブキ・ナハタが紫色液体をおさめた注射器の針を老人の腕にあてがい、無表情に注射した。
posted at 23:19:39

クローンヤクザたちに脇を抱えられた老人は、ぐったりとうな垂れる。防弾ガラス前に置かれたUNIX画面には、老人の心拍数などがリアルタイムで計測されていたが、それらは全てゼロになって、被検体の完全なる生命活動停止を告げた。『出口』と書かれたカプセルの蓋が開き、新鮮な死体が投入される。
posted at 23:24:34

「イヒヒーッ! ラオモト=サン、ではいよいよ、イモータル・ニンジャ・ワークショップ(INW)を作動させますネェ!」リー先生はUNIX端末のキーを高速タイプする。するとフロア中の電気の90%が落ち、メリーゴーランドがジゴクめいた機械のごとくゆっくりと回転を始めた。
posted at 00:11:16

「ウオーッ!ヤメロー!ヤメロー!」カプセルに放り込まれたセントリーは叫び声をあげてカプセルを内側から叩くが、トランキライザーを注入され弱まった彼に、この強化ガラスを破壊することはできない。『入口』カプセルの上蓋に備わった無数のパネルやケーブル類から、有害な電磁波が照射され始めた。
posted at 00:16:21

窓の外、ネオサイタマの空を多い尽くす黒雲にはいよいよ雷光が走り、薄暗い研究室の内側へとその青白い閃きを忍びこませてきた。ただならぬ雰囲気。フロア内の作業机で、ズンビーエキスをシャーレにストリークし続けていた数十人のクローンヤクザたちも、一斉に手を止めてINW装置の方向を見た。
posted at 00:21:31

狂ったメリーゴーランドの形を取るINW装置はいよいよ回転速度を増し、上部に備わったライトから、紫や緑やオレンジ色などの雅な光を明滅させ始めた。カプセルに備わった小型UNIXの緑色の文字が、滝のようにスクロールする。水牛人形が荒々しく上下し、時折ロデオマシンめいて180度回転する。
posted at 00:25:45

「アーッ! アーッ!」興奮きわまったリー先生は防弾ガラスの前から装置の部屋へと駆け込み、乱暴にフスマを開ける。そしてフブキ・ナハタ女史の制止も聞かずに、荒れ狂う水牛人形のひとつに飛び乗って叫んだ。「イヒヒーッ! イェーハー! イェーハー! 被検体第1号、レベナント!」
posted at 00:29:56

「ヤメロー! ヤメロー! アッ! アバババババーッ!」セントリーの頭が止まる寸前のコマのように激しく揺れたかと思うと、直後、カプセルの内側は一瞬にして赤色に染まった。カプセル上部に備わったケーブル類を通り、目には見えぬニンジャソウルが隣のカプセルへと移動してゆく。ナムアミダブツ!
posted at 00:32:31

「アイエエエ!」ロデオ水牛から振り落とされ床に転落したリー先生は、ゆっくりと体を起こして身をもたげ、目の前で止まった『出口』カプセルを見る。すると……おお、何たる冒涜か! 死んだはずのスガワラノ=サンが立ち上がり、老人とは思えぬ怪力でサイバーサングラスを破壊し、瞳を光らせたのだ!
posted at 00:38:21

「ムハハハハ! ニンジャスレイヤーよ、貴様に好意を抱いた老人がゾンビーニンジャと化して襲い掛かってくるのだ! ソウカイ・シンジケートの無慈悲さを知るが良い!」ラオモトは哄笑した。INW装置は静かに停止し、フロア内の電気が復旧を始める。白衣のヤクザたちはまたストリークに戻った。
posted at 00:42:09

リー先生のチームとクローンヤクザたちは、ゾンビーニンジャ第1被検体レベナントにニンジャ装束を着せ、計測装置などを装備させてゆく。そこへふと、ラオモトのボディガードである特殊カスタマイズ型クローンヤクザの1体が、ラオモトに耳打ちをした。IRC通信が届いているようだ。
posted at 00:44:15

「モニタを出せ」とラオモトが言うと、そのクローンヤクザは背広を脱ぎ、ノート型UNIXがインプラントされた背中を露にする。ラオモトはLAN直結者ではない。それどころか、彼はサイバネ手術自体を弱者の行為として嫌っており、またハッキングを神聖視することもなかった。
posted at 00:50:02

彼にとっては、シックスゲイツも、リー先生も、ズンビーニンジャも、ハッカーも、クローンヤクザも、全て自らの手駒に過ぎないのだ。王者はただ君臨するためだけに存在する。LAN直結などという不安定極まりない技術を用いたハッキング行為など、使い捨て可能な犬にやらせればよいと彼は考えていた。
posted at 00:53:29

ゆえにラオモトは、目の前で死体がズンビーと化す衝撃的な光景を見ても、そこに何ら科学的感動を覚えることはないし、余韻を引きずることもない。彼はすぐに、いつもの冷酷非情なカタナのごとき眼に戻り、次なるビジネスに手を染めるのだ。
posted at 00:58:59

「ダークオニ・クランのヒロシ=サンか……」ラオモトは冷酷な支配者の表情で、クローンヤクザの背中から生えたキーボードを叩く。モニタにはソウカイ・シンジケートのビジネス・パートナーからのIRCメッセージが写っていた。彼は日本有数のリアルヤクザ・クランの総帥であり、大きな経済力を持つ。
posted at 01:01:58

#SOUKAIYAKUZA_HOTLINE:HIROSHI@DARK-ONI:ドーモ、ラオモト=サン。デッドムーンという運び屋を消して欲しい。奴はダークオニ・クランのメンツを何度も潰した。5億、いや10億円出すから、偽の仕事を依頼し、その中で奴を殺してくれ。奴のメンツを潰したい。
posted at 01:11:38

「ヤクザの運び屋……武装霊柩車ドライバーか」ラオモトの中で、何か良からぬビジネスアイディアが閃きかける。ズンビーニンジャ、武装霊柩車ドライバー、ニンジャスレイヤー、そして先程ネコソギ・ファンド社の会議室で見たサツバツタイム面接の光景が、彼のニューロンの中で化学反応を起こした。
posted at 01:14:02

「ムッハハハハハハ! これだ!」ラオモトの頭の中で完全無欠のビジネスプランが構築されてゆく。「ニンジャスレイヤーを廃テンプルにおびき寄せ、そこにレベナントを乗せた武装霊柩車を突撃させるのだ! デッドムーンはニンジャスレイヤーに殺させればよい。これぞ一石二鳥! ムッハハハハハハ!」
posted at 01:24:01

「フブキ君、被検体の自我と知能はどうかネェ?」防弾ガラスに仕切られた実験室の中では、リー先生らがレベナントの調査を行っていた。リー先生はもう興奮から醒め、その反動のようにいつもよりさらに無表情で冷淡な声になっている。フブキ・ナハタは、リー先生のこの危険な二面性に惹かれているのだ。
posted at 01:26:59

「生前の記憶ほぼゼロ、自我レベルゼロ、知性ゼロですわ、リー先生」フブキはUNIX画面を見ながら、手早くカルテに記入を続ける。「そうか、まだINW計画の完全な成功にはほどとおいネェ……洗脳の甲斐あって、私の声に反応するのはいいが、これでは目の前の敵を殺すくらいしかできないネェ……」
posted at 01:32:00

トリダ助手はバイオスモトリにモップを渡し、床に散らばったクローンヤクザの死体を片付けさせていた。カプセルから出した直後、リー先生の声で制止命令が下されるまでのわずか数秒間で、レベナントは2体のクローンヤクザを一瞬で殺戮したのである。「ん、これは?」トリダは床に落ちた紙を見つける。
posted at 01:34:24

オリガミ・メールかとも思ったが、違った。トリダは知るべくも無かったが、それはスガワラノ老人が小さく小さく折り畳み、尋問の時にも決して誰にも発見されないように隠し持っていた、彼の家族写真であった。老人がカプセルに入れられる直前、それが最後の最後で床に落ちたのだった。
posted at 01:37:16

「トリダ君、何だねそれは?」リー先生が、くしゃくしゃになって血まみれになった写真を手に取る。そこには若きスガワラノ・トミヒデと彼の妻、そしてまだ幼い息子の写真が写っていた。写真の裏には名前が書いてある。息子の名はスガワラノ・ヒトリ。黒く短い髪を、快活な逆モヒカンにして立てていた。
posted at 01:39:33

「爺さんの写真でしょうか?」とトリダ。「だとしたら、何だね?」とリー先生。「何でもないです。ただの排気されるべきゴミです」とトリダ。「その通りだネェ。こんなものには何の価値もないからネェ。写真で死体が生き返るなら話は別だけどネェ」とリー先生は言い放ち、それを医療用ゴミ袋に捨てた。
posted at 01:42:13

「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」 #4-2終わり #5へ続く
posted at 01:43:32

NJSLYR> デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ #6

110121

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#5
posted at 20:53:21

「ギュギューン、ギュギュイーン……カウンダウン……ファイヴ、スリー、ツー、ワン……ブッダコスモス、ユーアーインザスペース」……武装霊柩車のレディオからは、スペイシーなダークエレクトロ・ポップが流れてくる。まるで銀色の弾丸宇宙シップが孤独な銀河を漂っているかのようなアトモスフィア。
posted at 20:56:04

ネオサイタマ湾岸に架かる長大な吊橋、グラントリイ・ブリッジ。建造途中で放棄されてから数年が経過しており、この死んだ橋を渡ろうとする市民はいない。このルートを選択したのは実際正解だ。デッドムーンはそう考えながら、ダッシュボードに忍ばせた違法カキノタネを口に運び、奥歯で噛みしだいた。
posted at 21:10:02

全長100キロ。橋を支える主塔部分は巨大なトリイを模しており、200mおきに闇から姿を現す。「広告部分重点」「実物ならば可か」「忠雄と宏」……各トリイの中央に埋め込まれた額には、建設計画を主導していたタダオ&ヒロシ重工の空虚なメッセージが黄金ショドーで刻まれ、静かに朽ちかけいた。
posted at 21:32:12

この光景には強力な催眠効果があるに違いない、とデッドムーンは心の中で毒づきながら、違法カキノタネで眠気を飛ばす。フロントミラーに一瞥をくれると、死んだ月のごとく血の気のない、不健康そうな自分の顔が見えた。トーフ・プロテインとトレーニングで筋肉は逞しいが、深い隈は隠しきれないのだ。
posted at 21:36:07

「クライアント=サン、そろそろ今回の運びの潜在敵について教えてくれないか?」デッドムーンは左の助手席に座るヤクザを見た。このヤクザの顔の左半分には、高性能デジタルカメラが埋め込まれている。ウィーンというフォーカス音だけを発し、その特注型クローンヤクザは無言でデッドムーンを見た。
posted at 21:41:48

「……」無言。まただ。カメラヤクザはデッドムーンをじっと見るだけで、何も答えようとはしない。デッドムーンとカメラヤクザは一言も言葉を発さないまま、しばし重苦しい時間を過した。「広告部分重点」「実物ならば可か」「忠雄と宏」……トリイのメッセージだけが不気味に繰り返されるのみだった。
posted at 21:46:38

不意にカーオーディオから警告ブザー音が鳴り響き、非常ボンボリが激しく明滅を始める。「ブッダファック、一体何だよ……」デッドムーンが首にLANケーブルを刺すと、脳内ディスプレイに周囲のソナー情報が映し出された。数キロ先、橋の車道に無数の車両反応! ナムアミダブツ! 予想外の事態だ!
posted at 22:05:39

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posted at 23:06:31

それは全くの偶然であり、不運であった。同じくグラントリイ・ブリッジ上、デッドムーンたちよりも西に数キロの地点では、ダークオニ・ヤクザクランの第四ヤクザバイク連隊が宗教儀式めいた集会を行っていたのである。その数、約100人。
posted at 23:06:59

しとしとと重金属酸性雨が降りしきる中、ヤクザバイカーたちは航空整備士めいたライダー服を身にまとい、橋の上に即席で築かれた土俵の周囲で正座していた。路肩にはずらりと違法改造バイクが並び、車体には金棒、サスマタ、包丁、カタナといったおそるべき武器の数々を持つオニのペイントが見える。
posted at 23:09:26

土俵の上に立つ連隊長モタロウが、マイクを使って数名の名前を呼ぶ。『ダークオニ』とミンチョ体で縦書きされた赤いノボリが、土俵の四方で不気味に揺れていた。顔を蒼ざめさせたヤクザバイカー8人が、死刑執行囚めいた足取りで土俵に上り、ドゲザの姿勢を取る。
posted at 23:16:30

「ザッケンナコラー! スッゾコラー!」モタロウは血も凍るような恐ろしい怒声を飛ばしながら、両手で握ったテクノカタナを高く掲げる。グリップを握ってスイッチを押すと、テクノカタナの刀身部分がドリルめいた高速回転を始めた! ナムサン! 土俵の下で正座するヤクザたちの間にも緊張が走った!
posted at 23:22:08

「インガオホー!」連隊長モタロウが、規律違反者たちに対してテクノカタナを振り下ろそうとしたその時! 東の方角から銀色の物体が、ジゴクめいた四基のヘッドライトを動かしながら、時速300キロメートルで猛接近してきたのだ! ナムアミダブツ!
posted at 23:28:27

接近してくる車の正体は解らぬが、このままでは土俵を直撃することは間違いない……「イヤーッ!」流石はヤクザクランの連隊長、モタロウである。彼は危機を察するやいなや、持ち前のカラテで疾走し、勇ましい掛け声と共に素早く土俵から飛び降りたのだ。
posted at 23:32:22

土俵の下で正座していたヤクザたちも、ワンテンポ遅れて立ち上がり、路肩へと退却する。モタロウによってカイシャクされるのを待っていた8人のドゲザヤクザたちが、何かおかしいことに気付いて恐る恐る顔を上げると……彼らの視界は武装霊柩車が放つ猛烈なヘッドライトの光によって完全に奪われた!
posted at 23:36:29

「アイエーエエエエエ!!!!」8人のヤクザの絶叫が、深夜のネオサイタマ湾上で響き渡る! コワイ! デッドムーンの武装霊柩車はスピードを緩めるどころかさらにアクセルを踏み込み、猛烈な速度で土俵へと突っ込んだ! クロームシルバーの車体は土俵の側面スロープを登り、勢いよくジャンプする!
posted at 23:43:37

8人のヤクザたちは天をあおぎ、水揚げされたマグロめいて口をパクパクとさせていた。デッドムーンの武装霊柩車はまるでロケットのごとく彼らの頭上を飛び越え、天頂に浮かぶ満月に吸い込まれるかのようにゆっくりと飛翔しながら、百メートル先の橋上道路へ確かなグリップ力で着地を果たす。タツジン!
posted at 23:49:20

このような曲芸めいたドライビングも、武装霊柩車乗りにとってはチャメシ・インシデントである。並の運び屋であれば、ジャンプなどという手は使わず、土俵周囲のヤクザを轢き殺して進んだかもしれない。だが強いプロフェッショナル意識を持つデッドムーンは、明確な敵以外を殺そうとはしないのだった。
posted at 23:54:01

「酔ってないか、クライアント=サン?」デッドムーンは涼しい顔で助手席に問う。クローンヤクザは、ジャンプの直前に目の前に出現したショック吸収バーに掴まるようデッドムーンに促され、着地の衝撃に耐えていた。彼はデッドムーンのほうを見てカメラをフォーカスさせると、また無言で正面を向いた。
posted at 23:58:24

しかし、デッドムーンが見せたプロフェッショナル意識はヤクザたちの命を救うどころか、皮肉にもダークオニ・ヤクザクラン第四連隊全員の怒りを焚きつけてしまったようだ。連隊長モタロウの号令のもと、すぐさま全員が違法改造バイクに乗り込み、ニトロブースターを使って背後へと急接近してきたのだ!
posted at 00:01:34

「間違いねえ! 奴は武装霊柩車乗りのデッドムーンだ! 殺せ!」儀式を邪魔され怒りに燃えたモタロウは、狂犬めいた表情で「ナムアミダブツ」「ダークオニ」と書かれた違法改造バイクを駆っていた。彼の命令は即座に、連隊内全員のバイクに備わる小型液晶IRCモニタへと無線電波でリレイされる。
posted at 00:07:57

モタロウは、ダークオニの幹部陣がデッドムーンを憎んでいることを知っている。1年前、ライバル関係にあるデスオイラン・ヤクザクランの組長が死に、その運びを彼が請け負った。ダークオニはデスオイランに屈辱を与えるべく数個連隊でこれを妨害したが、デッドムーンを止めることはできなかったのだ。
posted at 00:24:41

「モタロウ=サン、止めてください!」「そうです、あのデッドムーンって奴は不吉すぎますぜ! ブードゥーめいてやがる!」モタロウの直情的な行動を止めるべく、側近達がIRCメッセージを送ってくる。これに対しモタロウは、ぞっとするほど恐ろしい表情で返事を返した「お前ら、ちょっと来い……」
posted at 00:27:46

重金属酸性雨を切り裂きながら先頭を走るモタロウのバイクの右横に、2人の側近のチョッパーバイクが近づいてきた。するとモタロウは、おもむろにテクノカタナの刀身を回転させ、この臆病なヤクザバイカーたちに攻撃を加えたのである! 「インガオホー!」
posted at 00:30:32

「「アイエエエエエエ!」」高速回転するテクノカタナの刀身が軽く触れただけで、ヤクザバイカーたちの肉体は、ジュースミキサーにかけられたトマトのように血飛沫を撒き散らしながら爆ぜた! ナムサン! コントロールを失った2台のバイクは橋から転落し、海面に叩きつけられて激しい爆発を起こす!
posted at 00:33:19

「ザッケンナコラー! 解ったか!」モタロウは返り血で顔をオニのように赤く染め上げながら、他の連隊メンバーたちに対して素早いIRCメッセージを送信した。「これが臆病者の末路だ!今頃あいつらは、冷たいネオサイタマ湾で、黒目がちな殺人マグロどもと楽しくやってるだろうぜ!」
posted at 00:39:57

連隊長の言葉で戦意をみなぎらせたヤクザバイカーたちは、さらに危険な第二段階ニトロを吹かして、稲妻のようなスピードで武装霊柩車を追う。上空から見ると、まるで船を襲う殺人マグロの群れのように、毒々しいネオンサインを輝かせた数十台以上のヤクザバイクが武装霊柩車の後方へと接近していた。
posted at 00:48:13

BLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!! ヤクザバイクに搭載された小型マシンガンが、銀色の武装霊柩車めがけて一斉に火を噴く! ゴウランガ! だが、デッドムーンは眉ひとつ動かさない。防弾加工が施された武装霊柩車の車体やタイヤを、この程度の銃撃で破壊することはできないのである!
posted at 00:52:22

「ザッケンナコラー!」ヤクザバイクが武装霊柩車の左右から迫る! ナムサン! だがデッドムーンは顔色ひとつ変えず、ハンドルに備わった攻撃ボタンを押す! 小型シュラインのカワラ屋根からマシンガンの銃口がいくつも現れ、ジゴクめいた一斉射撃で両側面のヤクザを蜂の巣にした! 「グワーッ!」
posted at 00:53:37

「テメッコラー!」新手のヤクザバイクが武装霊柩車の左右から迫る! ナムサン! だがデッドムーンは顔色ひとつ変えず、ハンドルに備わった攻撃ボタンを押す! シャーシの下腹部から大型バズソーが出現し、両側面のヤクザバイクを一瞬で切断した! 「グワーッ!」
posted at 00:54:40

「ザッケンナコラー!」さらに新手のヤクザバイクが武装霊柩車の左右から迫る! ナムサン! だがデッドムーンは顔色ひとつ変えず、ハンドルに備わった攻撃ボタンを押す! 小型シュラインから何本ものバイオタケヤリが突き出し、両側面のヤクザを一瞬で串刺しにした! 「グワーッ!」
posted at 00:55:54

「スッゾコラー!」新手のヤクザバイクが武装霊柩車の左右から迫る! ナムサン! だがデッドムーンは顔色ひとつ変えず、ハンドルに備わった攻撃ボタンを押す! 防弾タイヤのホイル部分からダイヤモンド・カマが出現して回転し、ローマ式チャリオットのごとく両側面のヤクザを粉砕! 「グワーッ!」
posted at 00:57:24

「ブッダコスモス……ウィーアーインザスペース……」武装霊柩車のレディオから流れるダークエレクトロ・ポップに合わせ、デッドムーンは無表情に鼻歌を歌っていた。ドアの外で起こっている殺戮に比べ、快適な車内はまるで別世界だ。ネズミハヤイに搭載されたAIが、マッチャとオカキを2人に振舞う。
posted at 01:03:20

その時『実際あぶない』という警句がフロントガラス右下のLEDディスプレイで明滅した。「アブナイデスヨ」という女性的な電子合成音がオーディオから流れる。「解ってるぜ、レディー」デッドムーンはサイバネ義手でハンドルを握り直し、アクセルを踏み込む。そして助手席に「また車酔いに注意だ」。
posted at 01:07:59

そこは、グラントリイ・ブリッジの切れ目だった。ここでタダオ&ヒロシ重工の資金が尽きて倒産し、工事も頓挫したのだ。この先、300メートル先に築かれたグラントリイ・ブリッジの西端部まで、道路は無い。真っ黒いヘドロに満たされた、アビスのごときネオサイタマ湾が広がっているだけだ。
posted at 01:11:28

「グワーッ!」ダークオニのヤクザたちは橋が途切れていることに気付き急ブレーキをかける。それが逆に大混乱を招き、連鎖的にクラッシュして次々と爆発炎上するか、あるいは横滑りのまま転落した。「ザッケンナコラー!」連隊長モタロウは勢いよくジャンプしたが、150メートルが限界だった。
posted at 01:16:52

では、デッドムーンの駆る武装霊柩車、ネズミハヤイはどうか? おお、平安時代に生きたコトワザの巨匠ミヤモト・マサシよ、アノヨからご照覧あれ! 銀色の車体の側面にはセスナ機めいた翼が生え、死せるヤクザの魂をヴァルハラへと運ぶ、凛としたヴァルキリーのごとき美しさで空を舞っていたのだ!
posted at 01:26:02

数秒の無重力体験……下降……そして無事着地。ネズミハヤイのタイヤがわずかに左右にぐらつくが、この程度の衝撃で破壊されるほどヤワな車ではない。強烈なグリップとサステインの力で、すぐにコントロールを取り戻した武装霊柩車は、何事も無かったかのように平然と港湾倉庫地帯を駆け抜け始めた。
posted at 01:30:33

「どうだい、クライアント=サン。酔ってないだろうな?」デッドムーンは助手席に問いかける「あと数分でウシミツ・アワー。そしてダルマ・シュラインに到着だ。…結局、今回の運びの潜在敵ってのは、最後まで現れないんじゃないのか? まさか、さっきのダークオニ・クランのイカレ野郎じゃあるまい」
posted at 01:34:28

「……敵の名は、ニンジャスレイヤー」ついにカメラヤクザはその重い口を開いた。デッドムーンが問う「ニンジャスレイヤー? 知らん名だな。そいつが本当に、1人でヤクザクラン数個分に匹敵するというのか?」「そうだ。IRCで今入った情報によると、奴はダルマ・シュライン内部で待ち伏せている」
posted at 01:40:44

「ブッダファック! そいつは斬新な攻め方だな!」デッドムーンはニューロンがちりちりするのを感じた。通常、武装霊柩車を使った死のゲームは、棺桶が目標のテンプルに到着した時点で終了となる。そのテンプルには、クライアント側のヤクザが十分な兵隊を集めて守りを固めているのが通常だからだ。
posted at 01:43:34

「どうしたらいいんだ? クライアント=サン」「名誉にかけて、この棺桶はウシミツ・アワーまでにテンプルに運ばなくてはいけない。テンプルに突撃し、ニンジャスレイヤーを殺すのだ。安心しろ、ものの数分で増援も到着する」「オーケイ、了解だ。1億の仕事だからな、そのくらいの歯ごたえが欲しい」
posted at 01:46:16

その時、デッドムーンは背筋にぞくりと冷たい汗が走ったのを感じた。彼は自らの耳を疑う。まるでニンジャスレイヤーという言葉に呼応したかのように、武装霊柩車の後ろに積まれた鋼鉄の棺桶の中から、不吉なうめき声と、蓋を力任せに叩くような音が、微かに漏れ出してきたような気がしたからだ!
posted at 01:51:12

「ウッ……」デッドムーンは持病の偏頭痛に顔を歪めながら、助手席に居るクローンヤクザに問う「クライアント=サン、今後ろで、何か物音が聞こえなかったか?」と。するとカメラヤクザは、ぞっとするほど機械的な笑顔の表情を作り「武装霊柩車ドライバーが、幽霊を信じるのか?」と言い放ったのだ。
posted at 01:54:26

「まさか…俺はプロフェッショナルだぜ」デッドムーンは頭痛をこらえながら、ネズミハヤイに備わった心音スキャニング装置を作動させる。反応ゼロ。後方の小型シュライン内における生体反応は皆無だ。「すまないな、クライアント=サン。俺のニューロンはだいぶ錆びついてきてるようだ。忘れてくれ」
posted at 01:57:52

ああ、何たるマッポー的運命か! 彼はソウカイヤにはめられたことも、棺に入っているのがゾンビーニンジャ被検体1号レベナントであることも知らぬのだ! デッドムーンはカキノタネで頭痛を消し飛ばし、再びプロフェッショナルな武装霊柩車ドライバーの顔に戻って、アクセルペダルを強く踏み込んだ。
posted at 02:00:49

「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#5終わり #6へ続く
posted at 02:01:43

◆◆【重要で大事】◆◆ 親愛なる読者の皆さんへ ◆◆【感謝をする】◆◆
posted at 10:51:14

◆【スゴイ】◆ 皆様のサポートのおかげで、先鋭的サイバーパンクニンジャノベル「ニンジャスレイヤー」日本版は無事軌道に乗り、日々そのニンジャ世界を拡大させつつあります。数ヶ月前に60人だったフォロワ数は現在約900、独自に測定した推定読者数は11万人に迫ります。 ◆【ヤバイ】◆
posted at 10:51:51

◆【スゴイ】◆ ここへ至る道のりは決して平坦ではありませんでした。翻訳ミスによるケジメ、ダイダロスめいたスパムアカウント多重フォローを48時間にわたってスパム報告し続けた静かなる防衛戦、ケジメ……。それを乗り切れたのも皆様の暖かいサポートの数々のおかげなのです。 ◆【ヤバイ】◆
posted at 10:56:11

◆【スゴイ】◆ 当アカウントは@での個別返信を行わないというハガネ的なルールが設定されておりますが、日頃いただく大変ありがたいコメントの数々により翻訳チームの翻訳モチベーションは主に最大近くヤバイです。ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。 ◆【ヤバイ】◆
posted at 11:00:09

◆【スゴイ】◆ そして今回、物理フォロワー数893人を突破した事を記念し、「ニンジャスレイヤー・ローンチ・マツリ企画」として 「ニンジャ人気投票」 を行います。 ◆【ヤバイ】◆
posted at 11:14:09

◆【ニンジャ人気投票】◆ ◇方法:文中に #njvote と併記し、投票ニンジャ名をツイート(ハッシュタグの前後にスペースを忘れずに!) ◇書くニンジャは三人まで ◇スゴイ級技術でツイートを読み取るのでコメント付記しても大丈夫 ◇#njslyrを併記すると、より良い ◆投票◆
posted at 11:18:04

◆【ニンジャ人気投票】◆ ◇期間:今から2011年2月13日の23:59まで ◆ #njvote
posted at 11:26:55

◆【ニンジャ人気投票】◆ ◇ノベルティ:投票頂いた方の中から1名様を厳正な抽選で選び、「明日も働かない」Tシャツをプレゼント予定(辞退ok)。送料は当方負担。日本国内のみ。モーゼズ=サンから現物が未着につき発送時期未定。段取りは当選者へ直接に通知。 ◆ #njvote
posted at 11:33:13

◆【ニンジャ人気投票】◆ ◇これまでに登場したニンジャの確認には、当アカウントの「お気に入り」欄が便利です。そこに記載のないニンジャや非ニンジャでも大丈夫です。 ◇投票期間中は折に触れて告知を掲載することがありますがご容赦ください。 ◇ワッショイ! ◆ #njvote
posted at 11:43:46

RT @alohakun: #njvote #njslyr 「ニンジャスレイヤー「ニンジャ人気投票」」をトゥギャりました。 http://togetter.com/li/91870
posted at 14:54:41

◆【ニンジャ人気投票】◆ ◇追記:本編未登場の名鑑のみのニンジャ、言及のみのニンジャ等でも大丈夫です。 ◆ #njvote
posted at 17:15:33

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 20:58:00

NJSLYR> デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ #7

110123

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#6
posted at 20:58:32

建造途中で遺棄された、グラントリイ・ブリッジの西端部。その周囲に広がる港湾エリアと倉庫エリアを抜けてしばらく進むと、廃墟と化した無人地帯に行き当たる。かつてタダオ&ヒロシ重工が、グラントリイ・ブリッジ完成後に商業施設を誘致すべく大規模なジアゲ活動を行った一帯だ。
posted at 21:01:33

無人地帯の中心部には、枯れススキが裏寂しげに風に揺れる、丸い小さな丘が一つ。その上には江戸時代から続くダルマ・テンプルと大仏が佇み、重金属酸性雨に浸食された無数のハカバを見下ろしていた。現在、ダルマ・テンプルにはカンヌシもレッサーボンズもおらず、朽ちるままとなっている。
posted at 21:06:41

汚染された黒雲によって窒息寸前の満月が落とす青白い光の下で、ダルマ・テンプルへと続く石段を静かに駆け登る一人の男。その体は赤黒いニンジャ装束に覆われ、口元は「忍」「殺」と刻まれた鋼鉄メンポで隠されている。五個目のトリイをくぐると、ようやく本堂がニンジャスレイヤーの前に姿を現した。
posted at 21:10:29

頂上に達した彼は、耳を澄まし、周囲に伏兵がいないことを確かめると、キツネ・スフィンクスに挟まれた石畳の道を抜けてエントランスへ向かう。誰もいないはずの本堂の内部には、不気味な電子ボンボリの灯りが赤く揺れていた。酸性雨にも耐える見事な一本松が、警告を発するようにざわざわと揺れた。
posted at 21:16:45

ニンジャスレイヤーは、ここで待ち受けるものがソウカイヤの罠であることを知っている。知りながら、あえて一人でこの決戦の場に赴いたのだ。意を決して正面エントランスのフスマを空けると、テンプル内部には厳かなフューネラル的儀式の準備が万端に整えられていた。
posted at 21:24:03

数日前、彼がスガワラノ老人と出会った日の夜。妙な胸騒ぎを覚えたフジキドは、夕刻の訪れとともにスゴイタカイ・ビルの屋上へ登った。そこに残されていたのは、スガワラノ老人の物と思しき竹ぼうきが一本。偽名を使って清掃員らに聞き込みを行うと、やはりその日から老人が姿を消したことがわかった。
posted at 21:28:06

フジキドの心は打ちのめされた。ネオサイタマの空を再び覆いつくした黒雲が、彼の胸にも垂れ込めてきているかのようだった。あの時の気の緩みが、一時の油断が、何の関係もない老人を……いや、ニンジャであることも省みずに一人の人間として好意を持ってくれた老人を、危険に追いやってしまったのだ。
posted at 21:32:22

スガワラノ老人の行方を追うのは、ニンジャスレイヤーの持つ情報網だけでは不可能であった。しかし3日後、マキモノを持ったソウカイヤのニンジャが、スゴイタカイ・ビルの屋上で佇むニンジャスレイヤーの前に現れたのだ。
posted at 21:34:38

スリケンのみでこのニンジャを殺したフジキドは、マキモノを奪い取り、それを開く。『ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。スガワラノ老人を救いたければ、今日のウシミツ・アワーに、ネオサイタマ南西部にあるダルマ・テンプルを一人で訪れよ。ムハハハハハハ!』ラオモト・カンの達筆が踊っていた。
posted at 21:38:09

ニンジャスレイヤーの胸の内には、再び憎悪の炎が燃え上がっていた。彼はこの怒りを燃料とし、いかなる罠が待ち構えていようとも突破する覚悟を決めて、単身ダルマ・テンプルへと向かったのだ。
posted at 21:39:55

だがこれは、いかなる罠か? 百畳近い畳敷きのテンプル内に、敵の気配は無い。紫の花で造られたハナワや、白紙のショドーなどが壁沿いに並び、正面にはデコレーション・ケーキじみた様子で無数の白い花や黄金ブッダが飾られている。その中央に供えられているのは、ニンジャスレイヤーの遺影だった。
posted at 21:47:54

何たるアンタイ・ブディズム的光景か! しかもタタミは赤と黒の二色があり、マスゲームめいた精緻さで「死」の文字を描いている! さらに天井に吊るされたスピーカーからは、ネンブツ・レディオ局の有線放送が流れてくるのだ! コワイ! 常人であれば発狂はまぬがれないであろう恐怖の空間である!
posted at 22:39:41

「今日が己の命日と言いたいか……!」フジキドは大股でデスタタミに踏み込んだ。だが罠の発動する気配は無い。柱にかけられた大時計に目をやると、ウシミツ・アワーまではあと十分ほど。待つとしよう。必要以上の怒りを抑えるためにも。フジキドはデスタタミの中央に座し、チャドーの呼吸を開始した。
posted at 22:43:48

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posted at 22:46:32

デッドムーンが駆る武装霊柩車は、いよいよ港湾エリアを抜け、ダルマテンプルのある無人エリアへと到達していた。3Dナビゲーション情報によると、目的地まではあと3分足らず。偏頭痛は去り、先程よりもニューロンがよく働いた。「……皮肉なもんだな」とデッドムーンは呟く。
posted at 22:53:53

「どうした?」とカメラヤクザが問う。「何でもない」とデッドムーンはレディオのボリュームを上げ、心の中で独りごちた。((このエリアはナビなんか無くても走れるさ。この辺りの寂れた住宅地は、かつてどうしようもなく無力なガキだった俺が住んでいた、忌々しい街じゃないか。ブッダファック!))
posted at 22:57:05

「丘が見えたら石段を駆け上れ。正面エントランスから突っ込め」ヤクザは一切の感情が篭らない平坦な口調で言う。「フスマを突き破れと?」デッドムーンが驚いて問いただす。「そうだ。テンプルを制圧したニンジャスレイヤーに奇襲を仕掛けろ」カメラヤクザが不気味なフォーカス音を発しながら答えた。
posted at 23:02:43

「その情報はどこから来ている?」とデッドムーン。「無線IRCだ」とヤクザ。「提供しろ」「駄目だ。これ以上の情報は運び屋には渡さん」。デッドムーンは舌打ちした。だが、クライアントの意向は絶対である。「戦闘が始まったら余計な口を出すなよ、クライアント=サン。ここからはプロの仕事場だ」
posted at 23:06:37

速度をいささかも緩めぬまま、武装霊柩車ネズミハヤイは石段を疾駆した。そしてトリイ。丘の頂上。エントランスから漏れる電子ボンボリの光。カメラヤクザの前に、ジェットコースターめいた衝撃吸収バーが再び現れた。「しっかり掴まっておいてくれよ、クライアント=サン!」
posted at 23:10:25

時速200キロで迫るクロームシルバーのボディが激突し、重厚なフスマが木っ端微塵に粉砕された。カメラを内蔵した4基のヘッドライトが、別々の生き物のようにターゲットを捜し求める。敵はすぐに発見された。直結LANケーブルを介して、デッドムーンのニューロンにも瞬時にその映像が転送される。
posted at 23:15:18

敵はテンプルに敷き詰められたタタミの中央で正座し、エントランス側に背を向けている。ニンジャ装束を着ているので、恐らくこれがニンジャスレイヤーだろう。どうする? 銃か? 火炎放射か? いや、背後を向いて正座姿勢ならば、轢き殺してネギトロにできる! …ここまでの思考、僅かコンマ4秒!
posted at 23:20:31

分厚いタイヤでタタミを焼き焦がしながら、デッドムーンの武装霊柩車は一直線にニンジャスレイヤーへと突き進んだ! カメラヤクザもニンジャスレイヤー轢死の決定的瞬間を捉えてトコロザワ・ピラーのラオモト・カンに映像をリレイすべく、インプラントされたデジタルカメラのフォーカスを絞る!
posted at 23:23:08

「スゥーッ! ハアーッ! スゥーッ! ハァーッ!」おお、ナムサン! 正座して目を閉じたままチャドー呼吸を繰り返すニンジャスレイヤーは、背後から接近してくるクロームシルバーの捕食獣に気付かないのか? 死の激突まであとタタミ10枚、5枚、3枚! 「スゥーッ! ハァーッ!」
posted at 23:25:58

「…ブッダコスモス……ユーアーインザスペース…」デッドムーンはレディオから流れてくるエレクトロ・ダークポップを口ずさみながら、ニンジャスレイヤーが正座していた場所を……通過する! 何故だ? 手応えが無い! フロントガラスに血飛沫も飛び散っていない! ニンジャスレイヤーは何処へ?
posted at 23:32:25

「……ジャーニージャニーウィズブッダ……」デッドムーンは曲を口ずさみながら、急ブレーキをかける。タタミが燃え尽きえぐれてゆく。動揺は無い。ネズミハヤイのカワラ屋根に備わったカメラが敵の行方を捉えていたからだ。激突直前、ニンジャスレイヤーは正座の姿勢のまま上空へとジャンプしていた。
posted at 23:37:46

ニンジャスレイヤーは空中で体を開き、オリンピックの飛び込み選手のように全身を複雑に捻りながら下降しつつ、同時にスリケンを投げる! タツジン! だがこれに対しデッドムーンは、ハンドルに備わった逆ニトロスイッチを押す! 車体前部のロケットブースターが火を噴き、時速200キロでバック!
posted at 23:42:08

ナムアミダブツ! 下降の軌跡を描いていたニンジャスレイヤーの着地点めがけ、武装霊柩車が猛バックで迫る! さらにデッドムーンは武装霊柩車に備わった武装システムのボタンを次々と押した! タケヤリ、マシンガン、バズソー、サスマタ、ダイヤモンド・カマが展開され、ニンジャスレイヤーを襲う!
posted at 23:45:02

ニンジャスレイヤーの投げたスリケンは、防弾加工が施されている武装霊柩車には通用しなかった! ナムサン! ニンジャスレイヤーは猛バックで迫る武装霊柩車の攻撃をかわすべく空中で身を捻ったが、彼のわき腹をサスマタピストンが深々とえぐり、その体を弾き飛ばしたのだ! 「グワーッ!」
posted at 23:51:47

ニンジャスレイヤーの体は壁に叩きつけられ、そのまま「一同」とショドーされたハナワの下敷きになる。「…ブッダロケット……ダイビンイントゥ・ブラックホール…」デッドムーンはニンジャスレイヤーに止めを刺すべく、曲を口ずさみながら武装霊柩車をカーブさせた。カメラヤクザの体が激しく揺れる。
posted at 23:57:44

武装霊柩車は壁沿いに車体を寄せ、壁と平行に高速で走り出す。そのホイールからはダイヤモンド・カマが再出現し、ローマ式チャリオットめいた回転を見せた。耳をつんざくほどの高速回転音が鳴り響く! このまま壁沿いに走り、ハナワの残骸ごとニンジャスレイヤーをネギトロに変えるつもりなのだ!
posted at 00:06:18

快適な武装霊柩車の車内には、耳障りな高速回転音など聞こえてこない。「……ギュッイーン……ギュギュイーン……」リピートされていたダークエレクトロ・ポップが、ギンギンに歪んだアウトロを演奏しているところだった。ネズミハヤイのAIが、車内の2人にオシボリを振舞う。よくできたレディーだ。
posted at 00:09:57

キュイイイイイーン! 凄まじい回転音を立てながら、武装霊柩車はハナワの残骸を粉砕しつつ時速200キロオーバーでその横を通過する! 切り裂かれた無数の白い花が、殺戮されたハトの羽のように巻き上げれられる! 木材や鉄も、跡形もなく切り裂かれて飛び散る! だが、そこに血飛沫は……無い!
posted at 00:14:26

「ブッダファック! 奴はニンジャか?!」デッドムーンは絶句した。ニンジャスレイヤーは、カマが生えた前輪と後輪の間、すなわち助手席の真横を、武装霊柩車と同速度で並走していたのである! タツジン!
posted at 00:22:49

「イヤーッ! イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは超人的身体能力と反射神経を駆使し、ネズミハヤイの真横を並走しながら、助手席部分の防弾窓ガラスにカラテを叩き込む。彼の下半身部分は目にも留まらぬ速度で走り続けているが、上半身には全くブレが無い。僅か2発で、強化ガラスにヒビが入り始める。
posted at 00:27:00

「ブッダファック!」想像を遥かに超える事態に動揺したデッドムーンは、ハンドルに備わった攻撃ボタンを闇雲に押す! 小型シュラインのカワラ屋根からマシンガンの銃口が現れ、ニンジャスレイヤーを狙う! だが、ニンジャスレイヤーは一瞬早くスリケンを投げ、銃口を破壊していた! タツジン!
posted at 00:31:08

「ブッダファック!」デッドムーンはハンドルに備わった攻撃ボタンを闇雲に押す! シャーシの下腹部から大型バズソーが出現し、ニンジャスレイヤーのすねを狙う! だがニンジャスレイヤーは小さなジャンプでこれを回避し、真上から支点部分を踏みつけてこれを破壊した! タツジン!
posted at 00:32:47

「イヤーッ! イヤーッ!」カラテはついに助手席部分の強化ガラスを打ち砕く。胸元からチャカを抜いて応戦の構えを見せたクローンヤクザだったが、ニンジャスレイヤーのチョップによって一瞬で頭を砕かれる。さらに間髪入れず、投げ込まれたスリケンが、デッドムーンの左こめかみに突き刺さった!
posted at 00:37:37

「アイ、アイエーエエエエエエエエ!」デッドムーンの視界内で火花がスパークする。一瞬で意識が飛び、視界が真っ白に変わる。ブッダは迎えに来ない。愛車ネズミハヤイとの間で交わされるping通信だけがネンブツめいてニューロン内を駆け巡る中、全ての感覚が失われてゆく。
posted at 00:41:39

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは素早いバク転を3回決めながら、武装霊柩車から離れる。デッドムーンが意識を失ったことにより、ネズミハヤイのAIは一瞬混乱を起こし、激しい蛇行運転を見せた。その後スピードを衰えさせた武装霊柩車は、テンプル内の北にあったDJブースに突っ込み、停止。
posted at 00:47:42

激突の衝撃で武装霊柩車のロックが外れ、鋼鉄の棺桶が投げ出される。それは激しくもんどりうってタタミの上を転がり、無数の白い花がデコレーション・ケーキめいて飾られた祭壇の前で、ようやく止まった。DJブースにあったライティング制御装置が偶然動作し、テンプル内の全ボンボリの灯りが落ちる。
posted at 00:52:37

「ムハハハハハ! ニンジャスレイヤー=サン、見事だ!」テンプル内に突如、ラオモトの声が響き渡る。天井に据えられたスピーカーからだろう。「今日は貴様の勝ちだ。敬意を表し、こちらも約束を守ってやろう! その棺の中にスガワラノ老人が入っているぞ、ムハハハハハハ!」
posted at 00:56:11

ニンジャスレイヤーは、立膝の状態から歯を食いしばって立ち上がった。武装霊柩車のサスマタにえぐられたわき腹から、まだ出血が続いているのだ。それでも彼は進まねばならない。棺桶の中に老人。予想しうる最悪の状況がフジキドのニューロンを責め苛んだ。「おのれ……ソウカイヤ……!」
posted at 01:03:02

ニンジャスレイヤーは棺を縛り付けている鎖をカラテで断ち切り、鋼鉄製の重い蓋を掴んで放り投げた。棺の中に一面に、真白いリリーの花が敷き詰められている。そこに目元だけ見えるのは、灰色のニンジャ装束を着たニンジャ……いや、ニンジャ装束を着せられたスガワラノ老人の物言わぬ死体であった!
posted at 01:06:36

「ああ、スガワラノ=サン! 何ということを!」ニンジャスレイヤーは悲痛な声を発しながら、スガワラノ=サンの胸に手をやる。棺を開ける前から予想はしていたが、やはり心音は無い。体色も鉛色に変じている。口元を覆うニンジャ頭巾を軽く除けると、そこにはやはりスガワラノ老人の顔があった。
posted at 01:08:37

「スガワラノ=サ……グワーッ!」再びその名を呼ぼうとしたその時……フジキドは突然の苦痛に絶叫をあげ、また自らの目を疑った。リリーの花の山に隠されていたスガワラノ老人の手が突然音もなく動き、その手首に結び付けられていた鋭いダートが、フジキドの右腕に深々と突き立てられたからである。
posted at 01:16:16

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは殺戮者の本能によってフジワラノ老人の首を360度回転させた後、間髪入れず10回バク転を決め、さらに5回側転を行って棺桶から離れた。柱時計がウシミツ・アワーを刻み、テンプルのDJブースに備わった装置が、テンプル内外の全スピーカーへと鐘の音を伝える。
posted at 01:22:25

おお、何たる背徳か! ニンジャ装束を着たスガワラノ老人の死体はゆっくりと体を起こし、無言のまま紫色の目を開いたのだ。彼は両手で首を360度再回転させ、何事も無かったかのように棺から出る。ナムアミダブツ! 彼はゾンビーニンジャ被検体1号レベナントへと、身も心も変わり果てていたのだ!
posted at 01:27:40

(親愛なる読者の皆さんへ:翻訳チームよりお知らせです。磁気IRCノイズにより、1ツイートが飛ばされた状態で話が進んでしまったので、これより皆さんの見ている電子空間は10分前へと復旧ジャンプが試みられます)
posted at 01:51:58

「ムハハハハ、ニンジャスレイヤー=サンよ、そいつはもはやスガワラノ=トミヒデではない」高圧的なラオモトの声が、遠くトコロザワ・ピラーよりリレイされる「そいつは忠実なるソウカイヤの下僕にしてゾンビーニンジャ被検体第1号、レベナントへと生まれ変わったのだ! ムハハハハハ!」
posted at 01:57:36

スガワラノ老人、いやレベナントは、錆び付いた体に油を差すかのように、素早いカラテパンチをその場で4発くり出す。恐るべき速さだ。さらにサマーソルト・キックからバク転を決め、ブレイクダンスめいた動きで着地の隙を消すと、ネックスプリングで起き上がってニンジャスレイヤーに向き直った。
posted at 02:04:50

「ドーモ、スガ……いや、レベナント=サン、ニンジャスレイヤーです」フジキドの目から優しさが消え去った。サツバツ! 彼はまだこの生き地獄のなかで生きねばならぬ。使命があるのだ! 「アバー……ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、レベナントです」レベナントはオジギをし、戦闘姿勢を取る。
posted at 02:05:31

「レベナントが喋っただと!?」遠く離れたトコロザワ・ピラーの宴会室でラオモトらと共に大型ディスプレイを眺めていたリー先生は、驚きの表情を隠せなかった。「ありえませんわ! 被検体1号の知性、記憶、自我レベルは共にほぼゼロのはず!」フブキ・ナハタはUNIXを叩き、データを解析する。
posted at 02:05:58

ニンジャスレイヤーとレベナントはタタミ5枚の距離で向かい合い、互いに間合いを取りながら、じりじりと同心円状で横歩きを繰り返した。一瞬の隙が死を招く。ナムアミダブツ! 果たして、ニンジャスレイヤーは、ラオモト・カンが仕掛けたこの卑劣きわまりない罠を脱することができるのであろうか!?
posted at 02:11:01

「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#6終わり #7へ続く
posted at 02:11:27

(親愛なる読者の皆さんへ:ヤバイ級ハッカーによる電脳攻撃により、翻訳チームのIRCに不具合が起こり、「スガワラノ」とタイプされるべきところが一部「フジワラノ」となっていました。また、1ツイートが飛ばされ、巻き戻しが生じました。今回はタイプミスではないため、ケジメは回避されました)
posted at 02:17:54

◆【スゴイ】◆ 親愛なる読書の皆さんへ。ドーモ、翻訳チームです。今回、物理フォロワー数が893人を突破した事を記念し、「ニンジャスレイヤー・ローンチ・マツリ企画」として 「ニンジャ人気投票」 を行っています。 ◆【ヤバイ】◆
posted at 10:31:54

◆【ニンジャ人気投票】◆ ◇方法:文中に #njvote と併記し、投票ニンジャ名をツイート(ハッシュタグの前後にスペースを忘れずに!) ◇書くニンジャは三人まで ◇スゴイ級技術でツイートを読み取るのでコメント付記しても大丈夫 ◇#njslyrを併記すると、より良い ◆投票◆
posted at 10:32:56

◆【ニンジャ人気投票】◆ ◇期間:現在受付中、2011年2月13日の23:59まで ◇追記:本編未登場の名鑑のみのニンジャ、言及のみのニンジャ等でも大丈夫です。 ◆ #njvote
posted at 10:33:59

◆【ニンジャ人気投票】◆ ◇ノベルティ:投票頂いた方の中から1名様を厳正な抽選で選び、「明日も働かない」Tシャツをプレゼント予定(辞退ok)。送料は当方負担。日本国内のみ。モーゼズ=サンから現物が未着につき発送時期未定。段取りは当選者へ直接に通知。 ◆ #njvote
posted at 10:34:45

◆【ニンジャ人気投票】◆ ◇これまでに登場したニンジャの確認には、当アカウントの「お気に入り」欄が便利です。そこに記載のないニンジャや非ニンジャでも大丈夫です。 ◇投票期間中は折に触れて告知を掲載することがありますがご容赦ください。 ◇ワッショイ! ◆ #njvote
posted at 10:35:44

◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 11:54:52

NJSLYR> デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ #8

110126

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#7
posted at 22:43:57

(前回までのあらすじ:ダルマ・テンプルに呼び出されたニンジャスレイヤーの前に現れたのは、武装霊柩車ドライバーのデッドムーン。この第一の刺客を倒したフジキドの前に、真の刺客が姿を現す。それは武装霊柩車に積まれた棺の中に潜んでいたゾンビーニンジャ、レベナントであった)
posted at 22:46:05

(何と、ニンジャスレイヤーと親交のあったスガワラノ老人は、ソウカイヤの科学実験によってゾンビーニンジャに変えられていたのだ! 卑劣にも、この戦いの模様はトコロザワ・ピラーへと中継され、ソウカイヤの首領ラオモト・カンや、狂気の科学者リー先生のもとへリアルタイムで届けられている!)
posted at 22:51:14

ニンジャスレイヤーとレベナントは、互いにジュー・ジツの構えを取りながら、タタミの上を同心円状に回る。攻め込む隙をうかがっているのだ。一瞬の静寂。両者の見えないカラテがスパークする。そして動いた。ニンジャスレイヤーは流れるような動きで、バズーカを発射するかのごとき立膝の姿勢を取る!
posted at 22:53:02

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの腕がムチのようにしなり、とても危険なスリケンがレベナントの眉間に命中! だが敵はものともせず突き進んでくる! 「アバー」手首に結んだクナイが、ニンジャスレイヤーをえぐった!「グワーッ!」ニンジャ装束と肉を切り裂かれたものの、バク転で致命傷を回避!
posted at 22:58:07

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの腕が再びムチのようにしなり、致命的なスリケンがレベナントの心臓に命中! だが敵はものともせず突き進んでくる! 「アバー」手首に結んだクナイが、ニンジャスレイヤーをえぐった!「グワーッ!」ニンジャ装束と肉を切り裂かれたものの、側転で致命傷を回避!
posted at 22:59:52

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの腕が再びムチのようにしなり、油断ならないスリケンがレベナントの股間に命中! だが敵はものともせず突き進んでくる! 「アバー」手首に結んだクナイが、ニンジャスレイヤーをえぐった!「グワーッ!」ニンジャ装束と肉を切り裂かれたがブリッジで致命傷を回避!
posted at 23:01:41

「これは注目です! ゾンビーニンジャの使うネクロカラテは、まさに無敵なのです!」トコロザワ・ピラーにリレイされる画像情報を見ながら、リー先生はラオモトに対して冷静な科学的見解を示す。「ゾンビーニンジャは絶対に痛みや恐怖を感じません。普通のニンジャには取れない行動が取れるのです!」
posted at 23:03:01

「ムハハハハハ!」ラオモトはフブキ・ナハタ女史を横にはべらせ、その豊満なシリコン胸を手慰みにしながら哄笑した。卓上黄金マイクのスイッチを入れ、ニンジャスレイヤーを嘲笑う。「ムハハハハハ! 友人の手にかかって死ねるとは一石二鳥だな、ニンジャスレイヤー=サン? ムッハハハハハハー!」
posted at 23:06:14

「イヤーッ!」「アバー」「イヤーッ!」「アバー」テンプルでは、ニンジャたちの高速カラテが火花を散らしていた。チョップとチョップがぶつかり合う! ニンジャスレイヤーの高速レッグスイープをレベナントがジャンプでかわし、レベナントの高速ソバットをニンジャスレイヤーがダッキングでかわす!
posted at 23:12:09

並のニンジャ相手なら、必殺のカラテで一気に勝負をつけられる。だが、レベナントは心臓を破壊されようとも、平然と反撃してくるかもしれない。できることならば、スガワラノ=サンを一撃でアノヨに送りたい。……ニンジャスレイヤーの心は乱れていた。多くの事を考えすぎていたのだ。それは死を招く!
posted at 23:18:40

「アバー」「グワーッ!」ナムサン! ついにソバットが命中! ニンジャスレイヤーは素早くジュー・ジツのディフェンス姿勢を取ったが、その上からでもかなりのダメージだ。足の裏の摩擦熱でタタミを焼き焦がしながら、中腰姿勢のニンジャスレイヤーの体は数メートル後ろに押される。ナムアミダブツ!
posted at 23:26:12

レベナントの怪力は想像を絶するものだった。何故、死体であるゾンビーニンジャにこのような力があるのか? その答えはニューロンにあった。人間は脳によって筋肉にリミットをかけ、実際の筋肉量に比して数パーセントの力しか使えなくしている。さもなくば、自らの肉体自体がダメージを負うからだ。
posted at 23:30:35

ニンジャソウル憑依者の場合、この数値は爆発的に飛躍し、筋肉の持つポテンシャル能力の数十パーセントまでを安定して引き出せる。いわゆるニンジャ筋力だ。だが、読者の皆さんは死んだカエルの筋肉に電極を差したことがあるだろうか? そして、その破壊力を試したことは? …答えは100%なのだ。
posted at 23:32:51

「イヤーッ!」「アバー」ニンジャスレイヤーのチョップが腕で弾かれる。骨にヒビが入るも、レベナントは苦痛を感じない。まるでノレンを殴っているかのような手ごたえの無さだ。「アバー」「グワーッ!」逆にレベナントのクナイダート・パンチがニンジャスレイヤーの腹をえぐり、壁まで弾き飛ばした!
posted at 23:34:49

ニンジャスレイヤーは背中から壁にたたきつけられ、切り裂かれた無数の白い花のベッドの中に落下した。視界が揺らぐ。ウカツ! あのクナイ・ダートには、何らかの毒薬が塗りこまれていたのかもしれぬ。(((だがナラクの力は借りぬぞ!)))ニンジャスレイヤーは立ち上がり、カラテをふりしぼった!
posted at 23:37:05

「アバー……」レベナントは紫色の目を輝かせながら、両手首に結んだクナイダートを胸の前で交差させ、威圧的にニンジャスレイヤーに近づいてくる。そして、ちょうつがいの外れた顎をがくんと開き、おもむろに言葉を発した。「アバー……死よりも悲惨なものは何か……?」ブッダ! またもや禅問答だ!
posted at 23:40:14

「レベナントがまた喋った!?」遠く離れたトコロザワ・ピラーの宴会室でラオモトらと共に大型ディスプレイを眺めていたリー先生は、驚きの表情を隠せなかった。「ありえませんわ! ありえませんわ! 知性など!」ラオモトに抱かれたフブキ・ナハタは、ノートUNIXを叩きながらデータを解析する。
posted at 23:41:28

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは飛び掛った。ジゴクのオニめいた素早さで。首元を狙ったクナイをダッキングで回避し、そのままタックルを仕掛ける。敵を押し倒し、マウンティング・ポジションを奪う。迷いは無い。彼は禅問答の答えを身をもって知っていたからだ。それはリヴィング・ヘルであると!
posted at 23:47:11

「イヤーッ!」「アバー」「イヤーッ!」「アバー」右、左、右、左! ツキジじみたマグロ撲殺機械のように無慈悲に叩き込まれるニンジャスレイヤーのカラテパンチが、レベナントの顔面を破壊してゆく! フジキドの眼に涙は無い。それはもう枯れ果てていた。変わりに血の涙が彼の両眼から流れている。
posted at 23:52:35

「何故だ! レベナントは何故反撃をくり出さない!」ラオモトはフブキ・ナハタを投げ捨て、解析データの記されたパンチングシートを読むリー先生の襟首を掴んで問い詰めた。「し、信じられませんネェ……」リー先生が驚きに満ちた口調で言う「レベナントの筋肉が、理性によってリミットされています」
posted at 23:54:02

「サツバツ!」フジキドはひときわ大きく右腕を振り上げ、レベナントの頬にカラテパンチを叩き込んだ。レベナントの首が360度、いや1080度猛烈な速度で回転し、赤紫色のゾンビエキスを撒き散らしながらねじ切れる! 「サヨナラ!」断末魔の叫びと共に、レベナントの腐った肉体は爆発四散した!
posted at 23:55:16

畳の上に転がったレベナントの首へと素早く近づく。一刻も早くカイシャクし、スガワラノ老人のソウルを腐った肉体の檻から開放するためだ。フジキドが意を決して右足を上げると……おお、ナムアミダブツ! 両眼の潰れた生首は安らかな声を発したのである!「アバー……ニンジャスレイヤー=サン」と!
posted at 23:58:43

ニンジャスレイヤーは過ちを犯した門弟のように足をゆっくりと下ろし、両手でレベナントの生首を大切にかき抱いた。「アバー……ニンジャスレイヤー=サン……目が見えないが、あなたはそこにいますか?」 ああ、それは、邪悪なニンジャソウルの支配から解放されたスガワラノ老人の静かな声であった!
posted at 00:00:57

「ドーモ、スガワラノ=サン……私はここにいます」ニンジャスレイヤーはサツバツとした静けさで答えた。「ゲホッ、ゲホーッ! ドーモ……私は今どんな格好かも解りませんが……今着ている清掃服の胸ポケットに、写真が入っています。どうぞ、見てみてください。小さく折り畳んでしまいましたが……」
posted at 00:03:55

フジキドは何と答えるべきか迷った。そして嘘をつくことにした。「見つけましたよ、スガワラノ=サン。これは何ですか?」「アバー……、あの日、IRC端末で、私の家族の小さな画像をお見せしたでしょう……。あれの写真ですよ。写真のほうが細かいところまでよく見えると……ゲホッ、ゲホーッ!」
posted at 00:05:33

「とても良く見えます、奥さんと……息子さんですね」フジキドの視界は血の涙と毒の作用でぼやけていた。「アバー……そう。息子の……ヒトリは……キョートの……ムラサキシキブ化粧品に……いつも仕送りを……優しい子で……これで……あいつの負担を減らせる……。次は……あなたの……写真を……」
posted at 00:07:27

「親父よ、久しぶりだな」突然、背後から低く平坦な声が聞こえた。フジキドが振り向くと、左眼に仕込まれたサイバネ義眼から火花を散らし血を垂らすデッドムーンが、ユーレイじみた青白い顔で立っていた。印象的な逆モヒカンと、スガワラノ老人に良く似た彫りの深い骨格。フジキドは、全てを理解した。
posted at 00:11:38

デッドムーンはサイバーブルゾンを車内に脱ぎ捨てており、真白い背中に彫られたデッドムーン・オン・ザ・レッドスカイの不吉なタトゥーが露になっていた。そして、この場では誰一人として読むことはできなかったが、その絵の下には小さく、しかし力強いゴシック体で『家族が大事』と彫られていたのだ。
posted at 00:21:15

「アバー……ヒトリ……キョート…」生首が声を発した。「今日は仕事が休みでな」と、ぞっとするほど不吉な顔でデッドムーン。「アバー……ドーモ……」「親父よ、あんたのお陰で俺は、誇りある仕事に就いてるぜ。ありがとうよ」そう言うと、彼はジーンズからぶっきらぼうに銃を抜き、トリガを引いた。
posted at 00:27:09

「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#7終わり #8へ続く(このエピソードは#8で完結します)
posted at 00:27:51

◆投票◆ 特別企画「ニンジャ人気投票」実施中! 1人につき3ニンジャまで投票可能。非ニンジャでもOK。 タグ「#njvote」を書いてツイートしてください。抽選で一名様に「明日も働かない」Tシャツを進呈予定。 投票期限は2月13日いっぱいです。 ◆ #njvote
posted at 11:05:44

◆投票◆ 追記)投票内容の訂正を行いたい方は「訂正票」と明記して再ツイートしてください。なお、IRCサーバー熱暴走による誤集計の危険を回避する為、訂正に関しては期間を限定し、2月13日00:00〜23:59の24時間、お一人様一度のみの受け付けと致します。 ◆ #njvote
posted at 12:51:17

RT @fm7743: 描いてしまいました。カイシャクしないでー! オイランドロイド・デュオ「ネコネコカワイイ」はスゴイ級カワイイ #pixiv #NJSLYR http://t.co/KnVL6iL
posted at 23:49:51

(親愛なる読者の皆さんへ:本日のアップロードを開始します。本日はスシの在庫が少ない事やUNIXボトルネック的事案によりアップロードの間隔にバラつきが生じ非連続的となる可能性が高いです。ご了承ください)
posted at 17:52:01

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 17:54:08

NJSLYR> デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ #9

110201

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#8
posted at 00:00:05

(前回までのあらすじ:ダルマ・テンプルでスガワラノ老人の成れの果て、ゾンビーニンジャ被検体1号レベナントを辛くも破ったニンジャスレイヤー。生首となったスガワラノ老人と最後の会話を行っていたニンジャスレイヤーの背後から、武装霊柩車ドライバーのデッドムーンが現れる)
posted at 00:02:45

(デッドムーンと彼の武装霊柩車は、ニンジャスレイヤーとの戦いで敗北を喫している。デッドムーンは自らの正体がスガワラノ老人の一人息子スガワラノ・ヒトリであることを明かし、瀕死の父に礼の言葉を投げかけた。そしてデッドムーンは腰からオートマチック銃を抜き、静かに引き金を引いたのだった)
posted at 00:05:25

「アバー……ヒトリ……キョート…」生首が声を発した。「今日は仕事が休みでな」と、ぞっとするほど不吉な顔でデッドムーン。「アバー……ドーモ……」「親父よ、あんたのお陰で俺は、誇りある仕事に就いてるぜ。ありがとうよ」そう言うと、彼はジーンズからぶっきらぼうに銃を抜き、トリガを引いた。
posted at 00:05:51

銃声が薄暗いダルマ・テンプルに響く。フジキドは動かなかった。死ぬつもりはなかったが、デッドムーンには自分を撃つ正当な権利があると考えたからだ。だが、彼の体に銃弾は触れもしなかった。代わりに、フジキドのかき抱いていたスガワラノ老人の生首が、紫色のゾンビエキスをぶちまけて弾け飛んだ。
posted at 00:08:13

「アバー……」という安らかな断末魔の声とともに、レベナントの生首は木っ端微塵に破壊された。生き地獄を味わうスガワラノ老人のソウルに対し、デッドムーンがカイシャクを行ったのだ。ニンジャスレイヤーは驚きと敬意に満ちた目でデッドムーンを見た。
posted at 00:11:30

「あんたは撃たん。俺はプロフェッショナルだ。スピーカーから聞こえてくる声で全て理解した。俺は偽の仕事を与えられ、はめられたんだ。俺はアブで、あんたはハチさ」何たる冷徹さ、そして判断力か! 車内で注射した各種薬物の力を借りているとはいえ、デッドムーンの精神力は驚くべきものであった。
posted at 00:17:41

「ドーモ、ヒトリ=サン……」ニンジャスレイヤーは言葉に窮した「すまない。己のウカツのせいで…スガワラノ老はソウカイヤに捕えられたのだ」。デッドムーンは皮肉な笑みを返した「俺はもうミフネ・ヒトリですらない。ただのデッドムーンだ。あんたもその類なんだろう? ニンジャスレイヤー=サン」
posted at 00:26:12

その時! ダルマ・テンプル内の四隅に置かれた灯篭がメカニカル展開し、高性能プラスチック爆薬が激しく破裂した! 火花が狂ったように回転し、ヒノキ木材の壁を燃やす! 続けざま、丘の下にスタンバイしていた100人のクローンヤクザ軍団が、テンプルに向けてマシンガンの一斉射撃をくり出した!
posted at 00:32:53

「くだらん茶番だ!」トコロザワ・ピラーの宴会室で映像を確認していたラオモトは、レベナントの敗北とアブハチトラズな状況に怒り心頭し、近くに置かれた黄金シシマイを拳で叩き割った。マイクのスイッチを押し威圧的な声で吐き捨てる。「サヨナラ! 余興は終わりだ、ユーオールマストサッファー!」
posted at 00:37:20

トコロザワ・ピラーの宴会室は死の静寂に静まり返る。暴君ラオモトの怒りは、ニンジャスレイヤーとデッドムーンに対して浴びせられただけでは済むまい。ニュービーニンジャたち数十名は正座の姿勢のまま凍りついていた。何の脈絡も無くセプクを言い渡されるかもしれない。暴君とはそういうものなのだ。
posted at 00:40:15

粉々に砕かれた黄金シシマイを目の前にして、フブキ・ナハタは恐怖のあまり静かに失禁する。だが余人ならばいざしらず、リー先生だけは、ラオモトへの恐怖を科学的興味で克服していた。「……これは素晴らしい研究結果ですネェ……。ゾンビーニンジャは、生前の記憶や知性を保っていたのです……」
posted at 00:42:42

「ムウ?」ラオモトはリー先生に大股で歩み寄る。彼の力をもってすれば、小指ひとつでこの科学者を死んだマグロに変えられるだろう。だがリー先生はまくし立てた。「つまり、ラオモト=サンの死後も、その自我を保った状態で復活させられるのです! 今はまだ不完全ですが、いずれ必ず実現できます!」
posted at 00:43:36

「フウム……ム…ムハ……ムッハハハハ! 豪胆さに免じて許そう、リー先生よ」ラオモトは宴会室のニンジャらに強者の威厳を存分に見せつけたことで満足を覚えた「では俺様もひとつ、科学的見解を示してやろう。今後被検体には善人など使うな。ニンジャと同じくらい卑劣で無慈悲な極悪人を選ぶのだ!」
posted at 00:45:27

かくしてラオモトは退室し、トコロザワ・ピラーの宴会室はニュービーニンジャらの安堵に満ちた顔で溢れる。一方、ダルマ・テンプルはバクチク装置の作動からわずか数十秒で火炎地獄と化していた。丘の上のテンプルは赤々と燃え、低く垂れ込めた月がデッドムーン・オン・ザ・レッドスカイを成していた。
posted at 00:51:24

ホタルめいた火の粉が飛び交う。天井まで火が回り、飾られていたショドーやダルマが次々と落下してきた。クローンヤクザ軍団は丘の下から威嚇射撃を続けている。ニンジャスレイヤーは毒を飛ばすため座ってチャドー呼吸を行い、デッドムーンは薬物で覚醒しきったニューロンを使いハイクを詠んでいた。
posted at 00:58:44

「逃げないのか?」ニューロンの中でハイクをひとりごちながら、デッドムーンは不思議そうにニンジャスレイヤーに問うた。「毒が回ってきたようだ。そちらこそ、逃げないのか?」とフジキドは返す。「ショウタイムは終わりさ。ネズミハヤイはもう動かない」デッドムーンは他人事のように言った。
posted at 01:06:17

クラッシュ時に自動注射される各種薬物の力により、デッドムーンは全身の痛みを感じることもなく平然と振舞っていた。それどころか、彼の思考力はフジサンの頂上を吹き抜ける風のごとく澄み渡っていた。その思考力が、彼に冷酷な事実を突きつけていたのだ。もはや脱出不能のデッドエンドであることを。
posted at 01:09:37

「何故動かない?」とフジキドが訊いた。「大仏に突っ込んでフレームが曲がった上に、足を取られている」とデッドムーン。「私が押してみよう」とフジキド。「押して動く訳が無い。何トンあると思ってる?」「私はニンジャだ、押してみよう」と、フジキドは力強く繰り返して言った「私はニンジャだ」。
posted at 01:15:15

BLAMBLAMBLAM!!!! 「ザッケンナコラー!」本堂に対するマシンガンの制圧射撃はなおも激しさを増し、クローンヤクザの怒声が不協和音を奏でる。そして後方から到着したバズーカ部隊の砲撃が容赦なくダルマ・テンプルを責め苛み……ナムアミダブツ! ついに本堂は大爆発を遂げたのだ!
posted at 01:28:43

だが、テンプルが紅蓮の火柱を上げて大爆発を起こす直前……その本堂の奥深くから重く静かな、しかし断固たる決意を秘めた掛け声が聞こえた! 「Wasshoi!」と! 直後、武装霊柩車のモニタから「脱出不能」の文字が消える! ニトロエンジンが火を噴く! 4つのヘッドライトが闇を切り裂く!
posted at 01:32:42

飛んだ! 満身創痍のネズミハヤイは、再びクロームシルバーの翼を広げ、デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイを成す丘の上空を旋回したのだ! それは死の翼を持つ夜の怪物! ニトロエンジンの轟音! 乱射されるマシンガン! バズソーとダイヤモンド・カマ! タケヤリ! クローンヤクザの絶叫!
posted at 01:37:07

毒で半ば意識を失ったニンジャスレイヤーは、ネズミハヤイの小型シュライン部分に死んだように身を横たえてしがみつき、武装霊柩車が飛ぶ独特の感覚を味わっていた。彼の横では、腕だけになったスガワラノ老人が棺もなく佇んでいた。殺戮を終えたデッドムーンは、武装霊柩車を夜の闇へと溶け込ませた。
posted at 01:41:04

チャドー呼吸を繰り返して毒を飛ばしながら、ニンジャスレイヤーはおぼろげな思考を続けていた。デッドムーンを一人の戦士として理解し、敬意を払いもする。確かに彼は敵ではない。だが自分とは絶対に相容れぬ者だ。デッドムーンも恐らく、誰一人とも相容れぬだろう。だからネズミハヤイを選んだのだ…
posted at 01:44:10

追っ手を振り切ったと考えたデッドムーンは、レッカーに連絡を入れるべく、廃倉庫のシャッターを突き破って強引にネズミハヤイを隠した。恐らくソウカイヤやダークオニ・ヤクザクランは、もう今日は彼に攻撃を仕掛けてこないだろう。運びの仕事は終わったからだ。
posted at 01:46:44

「ブッダファック……何が一億だよ」全身を酷い痛みが支配し始めたのを感じた。薬物が切れ始めているのだ。猛烈な眠気が襲う。LANを直結したまま後ろのドアを空ける。ニンジャスレイヤーはいつの間にか姿を消していた。彼は静かに、腕の横で死体のように身を横たえ、レッカーの救援を待つのだった。
posted at 01:51:12

「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」 終わり
posted at 01:51:56

◆投票◆ 特別企画「ニンジャ人気投票」実施中! 1人につき3ニンジャまで投票可能。非ニンジャでもOK。 タグ「#njvote」を書いてツイートしてください。抽選で一名様に「明日も働かない」Tシャツを進呈予定。 投票期限は2月13日いっぱいです。 ◆ #njvote
posted at 15:34:42

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 17:46:01

NJSLYR> ネクロマンティック・フィードバック #1

110205

「ネクロマンティック・フィードバック#1」 #njslyr
posted at 17:41:21

「アイエエエエ!」トンカツ・スシ店舗の輝くネオンが、這いつくばった男の青ざめた相貌を責め立てるかのように照らし出す。恰幅のいいトンカツ・スシ店主は、腕組みして哀れな男を睨みつける。「いい加減にしろよ、このヨタモノめェ……」
posted at 17:45:02

「しっ、し、死後裁きに遭う!アーマゲドンは明日だぞ!最後の聖餐をふるまえ!」青ざめた男は震えながら店主へ人差し指を突きつけた。「アーマゲドン!アーマゲドン!」「うるせーッ!」店主は男の脇腹を蹴りつけた。「アイエエエエ!」「オラッ、塩まいとけ!塩!」
posted at 17:48:06

店主はカリカリと怒鳴り散らしながら店内へ帰って行く。後を任されたニュービー店員が怖々、打ちひしがれた男に話しかける。「あンたさぁ、しょうがないですよ、迷惑ですよ、これは。もうやめたほうがいいですよ」「アーマゲドン……アーマゲドン……」男は泣き出した。
posted at 18:05:45

繁華街ストリートの雑踏は負け犬を冷たく一瞥、あるいは空気のように全く無視して、右へ左へと歩いて行く。夜空を切り裂くショッキングピンクのネオン看板「ヤッコ」「ワタベさん」「電話しない?」……。
posted at 18:08:22

ネオサイタマ路上で規定事実めいて繰り返されるチャメシ・インシデントをあらためて記憶に刻みつける者など、一人たりとも存在しない。マッポーの社会において、通り一遍の無力な狂信は個性の主張にすらならないのだ。
posted at 18:10:59

「じゃあもう、やめてね、うちのテンチョ=サン、次はきっと金属バットだから」「アイエエエエ……でも本当なんです……アーマゲドンが……」やれやれ、とニュービー店員は肩をすくめると、裏口へ消えていった。男は起き上がる気力もなく、四つん這いで泣き続ける。
posted at 18:17:45

ニュービー店員はすぐに戻ってきた。そして、手に持ったバイオ笹タッパーを差し出す。「あのね、これでかんべんしてください。期限切れ廃棄のオニギリです。当たり前ですがトンカツは入ってないよ。あと、次来てももうあげないから。これが最初で最後、わかりますか?」
posted at 18:23:31

男は震える手でタッパーを受け取る。「せ、聖餅、聖餅……!」そして素早く後ずさると、「よ、よいか裁きの日は明日なんだ!アーマゲドン!アーマゲドン!」ニュービー店員を力強く指差し、踵を返して走り出した。脇道から出てきた家紋タクシーの前に飛び出し、罵声を浴びながら、雑踏に紛れる。
posted at 18:27:13

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posted at 19:00:14

ワンルームマンションの鉄扉を体重をかけてなんとか開くと、男、アンドウ・コウタロウは踵の潰れた靴を脱ぎ捨て、タタミの上にフラフラと転がり込んだ。手にした笹タッパーを開き、オニギリをがっつく。「グフッ!ウフッ!」咀嚼しながら彼は泣いていた。泣きながら、食べた。
posted at 19:03:33

室内は異様であった。天井から無数の木彫りのブッダ像が吊り下がり、部屋のキモンの方角の壁際には無数のローソクが山のように飾りつけられている。その上には神棚と、「裁き裁かれる」と毛筆書きされたカケジク……。何も知らずにこの部屋を訪れた者は絶句することだろう。
posted at 19:06:49

ダンゴ工場でモチ・プレッサーを操作する職に就いていたごく平凡なアンドウが「インスパイアされた」のは三ヶ月前のことだ。答えはキモンと反対方向の壁際に貼られた一枚の写真にある。二十歳前後の女性、どことなく彼に面影の似た……花嫁姿で、ハカマ姿のハンサムな若者と並んで写真に写っている。
posted at 19:17:52

不幸な事故であった。出産と同時に妻は他界、彼は娘を一人で育て上げた。そして娘は、朴訥な青年と結ばれ、三ヶ月前、晴れやかに結婚式を執り行ったのである。暴走トレーラーが式場を出た新郎新婦に突っ込んで、何もかもを奪い去ったその瞬間、アンドウは天から降ってくる輝く存在を幻視したのだ。
posted at 19:25:33

「ナムアミダブッダ……ナムアミダブッダ……」オムスビを食べ終えたアンドウは、独自にインスパイアされたチャントを唱えながら、ロウソクにマッチで火を灯していく。「アーマゲドン……アーマゲドン……恐ろしい……」
posted at 20:02:14

アンドウは口の中でもごもごとチャントをひとしきり唱えた後、ロウソクの一本を素手で掴み、燭台に突き刺した。それを持って、鍵もかけずに、再びマンションから外へ出ていく。
posted at 20:45:27

これはアンドウの毎日の日課である。数ブロック離れた場所にある廃テンプルへ、「聖別された」ロウソクを備えに行くのだ。啓示を受けたアンドウは、常よりも熱のこもった表情で、小走りに儀式の場を目指すのであった。
posted at 20:49:09

路地は暗いが、そこまで治安の悪い地域でも無い。明らかに何も持たない貧相な男を狙う者はいない……しかもそれが目に熱をたたえた狂者とあっては、なおさらのことだ。
posted at 20:56:00

アンドウはぶつぶつとつぶやき続ける。夢にあらわれた啓示についてだ。「イーグルとカラスが食らい合う炎の夜……血の使徒が現れ、滅びの日を告げるであろう……罪人は再生し現世を食らう……血の使徒は燃える剣を突き刺し、やがて朝は死を洗い流し、聖杯に光は満たされり……アーマゲドン!」
posted at 21:02:53

アンドウは墓地に分け入って行く。石や合成大理石製の墓石は、スキー板めいたノロイ・ボードでデコレートされている。ノロイ・ボードには今や誰も正確な意味を知らぬ古事記時代のノロイ文字が書かれている。ネオサイタマにおいても、墓地の様式は日本の一般的な慣習下にある……。
posted at 21:12:16

墓地の奥にある廃テンプルの恐ろしいシルエットを、アンドウはためらいなく目指して行く。もはや彼にとってこのテンプルを参拝することは習慣なのだ。やがて天井のところどころ失われた腐れ木造建築のテンプルがアンドウを見下ろす。
posted at 21:15:46

アンドウは足元のチェストに屈みこんだ。錆び付いた銅の金具で補強された木箱に刻まれているのはコインスロットである。アンドウはポケットから汚れた硬貨を取り出し、律儀に投入した。チェストの内蔵スピーカーがくぐもった合成音声を返す。「ゴクローサマデシタ!」
posted at 21:26:31

「堕落した者たち……地から蘇る……アーマゲドン……救いたまえ……」もぐもぐ繰り返しながら、アンドウはテンプルの玄関先から吊り下がった汚いロープをつかみ、揺さぶった。ロープにくくりつけられた真鍮のベルが陰鬱なメロディを奏でる。リンゴーン、リンゴーン。
posted at 21:30:24

アンドウはしばらく無心にロープを振り続けていたが、唐突に玄関のショウジ戸へ駆け寄り、引き開ける!テンプルの中はがらんどうの一室であり、奥には粗末なステンドグラスがある。どこか禍々しさを覚えさせる、「血の使徒の降臨」の浮世絵がモチーフである。
posted at 21:43:36

アンドウは跪き、手に持った燭台の火を、ステンドグラス直下の火鉢に落とした。火鉢に刺さった無数のセンコが催眠的な煙を立ち上らせる。「マッポー・アーマゲドン……燃える剣、救いたまえ、アーマゲドン!」
posted at 21:46:05

【NINJASLAYER】
posted at 18:01:55

「キエーッ!キエーエーッ!」阿片窟めいた不気味な室内に、素っ頓狂な絶叫が飛んだ。口から泡を飛ばして怒り狂っている白衣の男は誰あろうリー・アラキ、ソウカイヤの潤沢な資金を思うままに使用して狂気の研究に邁進する悪魔的センセイである。
posted at 18:34:00

室内に充満する薄緑の煙はいかなる物質であろうか。オシロスコープを表示する無数の液晶モニタから煙たい空気中へ、コロイド効果でレーザー光線めいた光の帯が放たれている。天井に飾られた額縁には「対人請求」「不如意」といった魔術的文言が踊る。
posted at 18:37:44

「大変な事だねェ!困った事だ!あれはじつに、傑作なんだよ、ナハタ君!いけないねェ!」リー先生が絶叫しながら椅子ごとグルグルと高速回転するのを、オレンジのボブカットの女性は豊満な胸で割って入り、胸の谷間で頭を挟み込むようにして止めた。「いけませんわ、いけませんわ、先生」
posted at 18:54:42

「ナハタ君、モニタを!」オレンジボブカットの巨乳白衣助手、フブキ・ナハタは乳房でリー先生の頭を挟んだまま素早くリモコンを操作し、柱に吊り下げられた巨大モニタの表示を切り替えた。ゴチック体の蛍光緑色の文字で、でかでかと「消失」と表示されている。
posted at 19:06:21

「なんたるザマだ!大損失!たまらない!」リー先生はフブキ・ナハタから身をもぎ離し、再度、椅子ごと高速回転を始めた。「アーン、いけませんわセンセイ」「次の報告はまだかねェ?」「あら、今きましたわ、IRCのほうに今」「早く早く早くしなさい!」
posted at 19:11:47

フブキ・ナハタは撫でるような卑猥な手つきで卓上のデッキを操作した。小型モニタのIRCセッションを目で追い、舌なめずりする。「あらあら、うふふふ、トリダ=サン、どうやら死んでしまったみたいなんですの」「おやまあ!」リー先生は椅子から飛び上がり、フブキ・ナハタを押しのけた。
posted at 19:26:26

「奴が……奴の手にかかれば、そりゃあそうだろうねェ!」腹心の助手、トリダを案じるというよりは、喜色をにじませた早口である。「ジェ~ェノサイド!まったくこれは参ったねェ!なになに、早く早く!」リー先生のタイピング速度が加速する。「いいぞ、絶対に逃すなよ!」
posted at 19:30:11

一心不乱にタイピングを続けるリー先生の肩に豊満な胸を乗せ、フブキ・ナハタはモニタを後ろから覗き込んだ。「カンオケにはもう一体いませんでした?なんとか言うゾンビー被検体……」「あン?」「そっちはいいんですの?」「誰だそれは!構わん構わん!ジェノサイドを確保するのが大、大、大先決!」
posted at 19:36:46

「トリダ=サンはどうするんですの?もったいないわ。あの方、アタクシのことお嫌いでしたけど」「そりゃねェ、死んでいたとしたらもちろん回収するとも!とにかくジェノサイドだ!はい!はい!はい!」「もう一体は……」「捨て置きなさい!たいしたものじゃないだろう!」
posted at 20:01:14

リー先生はキーボードが壊れる程の勢いで激烈にタイピングを続ける。フブキ・ナハタは思い出したようにリモコンを柱モニタへ向けた。「メニュー」「モード」「ライブラリ」「インターコンチネンタル」といった電子的カタカナがひとしきり流れた後、ワイヤーフレームの人体が表示される。
posted at 20:04:17

フブキ・ナハタは被検体の身長・体重データと、そのコードネーム「ウィルオーウィスプ」を一瞥し、小首を傾げた。それからあくびを一つして、モニタをoffにした。
posted at 20:08:23

-----
posted at 20:12:05

一級研究員・アンビ=サンは背中の激痛に呻き声を上げ、覚醒した。身を起こした。夜だ。そしてここは?周囲を見渡す。国道だ。アンビ=サンは右手に何かつかんでいる事に気づいた。……棒?「アイエエエエ!」違う!欠損した人体だ。肘から先だ。
posted at 20:26:24

誰のものだかわからぬ腕を投げ捨てると、それは地面の別の欠損人体にぶつかった。「アイエエエエ!」一体これは?周囲を見渡す。「アイエエエエ!」欠損人体はそこかしこに転がっている!「アイエエエエ!」
posted at 20:28:47

アンビ=サンのショック状態の脳に気絶直前の記憶が戻ってきた。護送車両のカンオケが内側から開かれ、「奴」が飛び出した。ガードヤクザは十分な人数、用意されていた。しかし「奴」は……「奴」のバズソーは、取り押さえにかかるガードヤクザを、まるで洗濯機のように……「アイエエエエ!」
posted at 20:32:51

ニューロンが送り込む忌まわしい映像に悲鳴を上げ、アンビ=サンは尻餅をついた。後ずさると傷ついた背中が護送車両に触れた。激痛!「アイエエエエ!」足元を見やると、チーフ研究員のトリダ=サンの死体だ。首が無い!「アイエエエエ!」いや、そこの草むらに頭が!「アイエエエエ!」
posted at 20:35:57

アンビ=サンは発狂しかかったが、すぐに思い至った。私は殺されなかったのだ!サバイブしたのだ!バンザイ!そうだ、この事実を喜ぶべきだ!この静寂!「奴」は行ってしまったのだ!あのふざけた二刀流バズソーから運良く逃れることができたのだ、だいたい誰がバズソーを車内に……とにかく助かった!
posted at 20:40:43

ビーッ!ビーッ!護送車両の荷台でアラームが鳴っている。おそらくラボからの連絡だろう。遅かれ早かれ救援が到着するだろう、まずは無事を知らせなければ。アンビ=サンはステップを駆け上がった。開いたカンオケが二つ、それから散乱する欠損人体。血みどろの計器類。ぞっとしない光景だ。
posted at 20:47:28

ビーッ!ビーッ!計器に据え付けられたIRCトランスミッターが鳴っている。アンビ=サンは急いでそれを手に取った。「……ええ、ええ、おっしゃる通りで、いえ、私は恥ずかしながら気を失っておりまして、そのおかげでどうにか……ええ、ええ」
posted at 20:50:47

夢中で状況報告するアンビ=サンは思い至らずにいた。カンオケが二つとも開いていたという事実の意味するところに。よって、背後で身をもたげた存在に注意など向けようが無かった。
posted at 20:53:19

「はい、はい、ええ、位置情報をもう少し細かくして送信しますから……」「アバー」「そうだ、武器を使います、バズソーです!私以外は全員殺されました!」
posted at 21:06:57

……今の声は、何だ?……アンビ=サンは受話器を持ったまま、ゆっくりと振り返った「アイエエエエ!?ア、アイエエエエ!アイエーエエエエ!アバーッ!アババババババババババ、アバババババーッ!!!」
posted at 21:09:43

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posted at 21:19:42

「アバー、おれはウィルオーウィスプ=サン。アバー」ウィルオーウィスプは独り言を呟きながら、のしのしと歩みを進める。その死んだボディを覆うパラシュート布素材の特殊布はニンジャ装束めいて巻きついていた。ある種のニンジャ本能が、身につけた衣類をニンジャ装束状にするようである。
posted at 21:22:49

おぼつかない足取りで、しかし存外早く歩く彼の周囲には、青白い光の玉が複数まとわりついていた。見たものを発狂せしめるに十分な、おそるべきヒトダマめいた炎である。いや、実際それはヒトダマなのだろうか?
posted at 21:26:52

「アバー、おれはウィルオーウィスプ=サン。アバー、ドーモ、アバー」ウィルオーウィスプは同じアイサツを繰り返しながら、国道脇の斜面を降り、深夜のシャッター通りへ足を踏み入れた。ウシミツ・アワー、行き交うものは無い……幸いにも。
posted at 21:29:48

「ネクロマンティック・フィードバック#1」おわり。#2につづく #njslyr
posted at 21:33:54

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 22:42:35

NJSLYR> ネクロマンティック・フィードバック #2

110211

「ネクロマンティック・フィードバック#2」 #njslyr
posted at 14:00:40

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posted at 14:03:25

「ケシコ!フユキ君!アーッ!」アンドウは絶叫し、その自分の叫び声で目を覚ました。ステンドグラスの「血の使途」がアンドウを見下ろしていた(このステンドグラスはアンドウの自作である)。「夢か……す、救いたまえ……!ナムアミダブッダ、ナムアミダブッダ……!」
posted at 14:06:00

アンドウは反射的にチャントを唱え始めた。眠るたびに彼は、死んだ娘と婿の映像の夢を見るのだ。彼は必死に祈るのだった。目の前には日の消えたロウソク。破れ窓からはバイオスズメの鳴き声が聞こえてくる。廃テンプルでそのまま夜を明かしてしまったのだ。
posted at 14:21:09

今日は彼にとって重要な一日である。アーマゲドンが起こる日なのだから。彼は啓示を唱え始めた。
posted at 14:39:22

「イーグルとカラスが食らい合う炎の夜……血の使徒が現れ、滅びの日を告げるであろう……罪人は再生し現世を食らう……血の使徒は燃える剣を突き刺し、やがて朝は死を洗い流し、聖杯に光は満たされり……アーマゲドン!」
posted at 14:41:42

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posted at 14:42:05

ハンドルを片手で操作しながら、シンゴは無言で部下のタバタに手を差し出す。タバタはセンベイ・クランチを手渡す。「ついてねぇな、ええ?」センベイ・クランチをまずそうに噛み、シンゴは若いタバタに毒づいた。「デスネー」タバタは欠伸をこらえた声で同意する。
posted at 14:48:19

「結局30分しか仮眠は取ってねぇわ、今日はうちのクソ坊主の運動会だわでよ」「デスネー」「離婚されちまうな、俺は」「デスネー」「現場は政府エージェントが横取りで、俺らにゃ手柄もねぇときた」「デスネー」
posted at 14:52:58

「しかしまぁ、朝飯にステーキ食いたくなっちまう光景だったよな?何人死んだんだ、ありゃあ。派手にやりやがったもんだよな」「デスネー」「おかしなクルマだったな?……奴ら、調べるな、手を付けるなときた。俺たちゃ交通整理係じゃねえんだぞ、と」「デスネー、あ、そこ右に曲がってください」
posted at 15:21:46

覆面デッカー・ビークルは混みいった路地を器用に進んで行く。「あーここだ、ここです。行きましょうシンゴ=サン」タバタは脇道の封鎖テープを指差した。「ロクに止めるとこのねぇ場所でくたばりやがってなぁ」シンゴが毒づいた。
posted at 15:26:02

シンゴとタバタはここトコシマ地区のデッカーである。昨日深夜に国道沿いで起こった大量殺戮事件は普段から血なまぐさい事件がチャメシ・インシデントであるネオサイタマをして震撼せしめるほどの規模であり、彼らは夜の間ほとんどそれに関する確認作業に追われ続けていた。
posted at 15:35:27

おそらくはバズソーによって、林業めいて切断された無数の死体が散乱する光景は酸鼻を極めた。しかし被害者の詳細すら、今のシンゴ達は知り得ていない。政府エージェントが現場に現れ、地域デッカーによる情報収集を禁じたからだ。
posted at 15:38:42

デッカーとてサラリマンである。上からの一方的な命令にたてついていては面倒を抱え込むばかりで何の得にもならない。シンゴもタバタもそこはわきまえている。しかし仮眠の暇すらないまま新たに起こった別の殺人事件とくれば、さすがに閉口するしかない……。
posted at 15:42:27

「ドーモ、保全ドーモ。トコシマ・デッカーです。どんな感じだい」シンゴは「外して保持」と書かれた黄色いテープを踏み越え、オジギした。制服マッポがオジギを返す。「ドーモ。あちらです、二人ですね。手袋をお願いします」「ハイ、ハイ……」
posted at 15:54:50

ねばねばした路地裏、ゴミ捨て場のそばで動かなくなっているのは二体の黒焦げ遺体である。近くで散乱するゴミ袋も同様に焼け焦げている。「やれやれ、こりゃあ昼飯にスシ・バーベキューが食いたくなるな」「デスネー」タバタが遺体に屈みこむ。「あー、サラリマンかな。ホロ酔いで帰宅中かな、これは」
posted at 15:58:53

タバタが遺体のポケットからIDカードの入った手帳を発見した。「機械で解析しないとわからないですね、焦げちまって」フン、とシンゴは鼻を鳴らす。「火炎放射器でも使ったのか?」クンクンと嗅ぎ、「油がねぇぞ油が」「デスネー」「鑑識=サンは?」「向かってます」マッポが答える。
posted at 16:02:44

「もういいや、任せちまおうぜ」シンゴは欠伸をした。「デスネー」バイオカラスが遺体を狙っているのか、上空を旋回している。「気に入らねぇなぁ」「デスネー」「……気に入らねぇ」
posted at 16:07:20

残念なことに、シンゴの「気に入らねぇ」出来事は、このあと立て続けに発生することになる……。
posted at 16:29:34

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posted at 16:31:23

「アイエエエ!」デリバリースシ・チェーン「ソニック・シャリ」のデリバリーバイクが横転し、ガードレールに激突したのは、道路の真ん中で棒立ちになった男を避けたためである。デリバリー桶がひっくり返り、路上にスシが散乱する。
posted at 18:53:58

「い、痛え、畜生……」フルフェイスのヘルメットを被ったデリバリーガイはひび割れたフェイスガードを手で押さえ、呻いた。「大丈夫かいアンタ!」電柱で配電盤をいじっていた作業員が滑り降り、デリバリーガイへ駆け寄る。「急ぎすぎたンじゃないのかい?」「ひ、人が……」
posted at 18:58:43

「人?」作業員が振り返ると、確かに道路の真ん中に立つ人影がある。「……なんだ、ありゃあ?」作業員は訝しんだ。人影の周囲に、青白い光の玉が漂っているのだ。昼の光の下でもその不気味な明かりははっきりと見えるのだ。「おーい、大丈夫か、あんた?」「アバー」
posted at 19:19:29

人影は作業員とデリバリーガイの方へゆっくりと振り返った。そしてぎこちないオジギをする。「アバー、ドーモ。ウィルオーウィスプです。アバー」作業員は名状しがたい恐怖にとらわれた。その人影がニンジャ装束を着ているように見えるからだ。そして青白い炎もどうやら目の錯覚ではない……。
posted at 19:23:26

「……え?」作業員は訝しんだ。青白い炎の一つが、作業員に向かって飛んできたからだ。「え……」直後、炎は作業員に一瞬にして引火した。ヒューマン・トーチ!「アイエエエエー!?」デリバリーガイは絶叫し失禁した。作業員は無言だ。叫ぶ間もなく死んだのだ!
posted at 19:27:33

「た、助けて!アイエエエ!」デリバリーガイは逃げようともがくが、左脚を骨折しており動くことままならぬ!「アバー、ドーモ、ウィルオーウィスプです。アバー」驚くほどの速さで、ニンジャ装束の男はデリバリーガイの目の前まで来ていた。その周囲を旋回する青白い炎!
posted at 19:30:00

「アバー」「アイエエエ!」デリバリーガイは絶叫した。ニンジャ装束の奥の目は焼き魚めいて白濁している!次の瞬間、デリバリーガイも作業員と同様に青白い炎の柱となり、人間松明として一生を終えた。ナムアミダブツ!
posted at 19:33:22

「アバー、ドーモ」ウィルオーウィスプと名乗ったニンジャ装束の存在は四つん這いになり、路上に散らばるスシを食べ始めた。「アバー」その周囲でセンコ花火めいた光がバチバチと輝く。……すると、どうだ!
posted at 19:38:53

一瞬にして炭化した死体と化した二人の体から青白い炎の塊が染み出し、浮かび上がって、他の火の玉の隊列に加わったではないか!コワイ!
posted at 19:40:38

新たに道路を走行してきた軽自動車が、路上の様子に気づいて急ブレーキをかける。「なんだぁ、どうしました?気分が悪いの?」運転者は窓から顔を出し、ウィルオーウィスプに呼びかける。「アバー、ドーモ、ウィルオーウィスプです、アバー」白濁した瞳が、新たな犠牲者を見据える……。
posted at 19:51:09

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posted at 19:53:25

「イーグルとカラスが食らい合う炎の夜……血の使徒が現れ、滅びの日を告げるであろう……罪人は再生し現世を食らう……血の使徒は燃える剣を突き刺し、やがて朝は死を洗い流し、聖杯に光は満たされり……アーマゲドン!ナムアミダブッダ!」
posted at 21:23:26

アンドウは呟きながら、トコシマ地区の陰鬱な裏路地をあてもなく練り歩く。夜が近い。彼の心を満たすのはやり場の無い焦燥感だ。
posted at 21:42:58

【NINJASLAYER】
posted at 16:58:24

アンドウは涙をこらえた。彼の精神は狂信の只中にあったが、同時に、そんな彼自身を客観的に見下ろす自我も同時に存在した。悲しみだけでは、彼は狂いきることができなかったのだ。不幸な事であった。
posted at 17:01:07

アンドウは手塩にかけて育てた娘の幸せが一瞬にして理不尽に奪われた瞬間を認識するまいと努力した。彼は必死に自分自信を狂気の中へ駆り立てた。でたらめの宗教とチャント、思いつきの予言を書きなぐり、まず、自分自身にそれを信じ込ませようとした。
posted at 17:03:22

彼は繁華街をフラつき、説法をしてまわっては、暴力を受け、ものを投げられ、疎んじられた。アンドウはハナから自分のデタラメの宗教が受け入れられるとは期待していなかった。他人を必死で布教してまわり、ナムアミダブッダと唱える事で、自らの正気を消し去りたかったのだ。
posted at 17:15:16

「血の使徒?アーマゲドン?ウフフ……」アンドウは立ち止まり、震える手のひらを見つめ呟く。私は何をやっているんだ…そんな自嘲が口をついて出かかる。しかしアンドウは思考を振り払い、再び叫び出す。「アーマゲドン!アーマゲドンだ!なぜ信じない!」通行人が、やれやれ、という顔で見返す……。
posted at 17:18:37

アンドウはさらに薄暗い路地裏へ歩き進む。既に夜だ。今夜は長い。アーマゲドンだからだ。アンドウは祈り続けるだろう。「……え?」アンドウは前方の闇に目を凝らした。ぼんやりと鬼火めいた青白い炎が闇の中を漂っているのが見える。
posted at 17:56:25

人が数人……こんな何もない路地裏で立ち話を?アンドウは訝った。どちらにせよ、説法の機会だ。アンドウは狂信者なのだ、相手を選んではいけない。……と、立ち話をしているかに見える彼らの一人が青い火柱になった!「アババババーッ!」ここまで届く断末魔!
posted at 18:20:48

「アイエエエエ!?」集団の二人が悲鳴をあげ、残る一人から逃げようとするが、ゴウランガ!「アバババーババー!」「アバーッ!」ヒュンヒュンと舞う鬼火が彼らの体に引火、たちまち同様の人間松明となる!ゴウランガ!
posted at 18:30:53

アンドウは凍りついたように動けず、ガタガタと震えながら、その一部始終を……最後の男が鬼火をまとわりつかせながら脇道へ歩き去って行く様子を呆然として見つめていた。歪んだ口の端からヨダレがこぼれる。「ア、アイエエエ……ア、ア、アーマゲドン……」アンドウは地面にへたり込んだ。
posted at 18:42:59

(「ネクロマンティック・フィードバック」#2 終わり。#3へ続く
posted at 21:08:35

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 21:36:07

NJSLYR> ネクロマンティック・フィードバック #3

110213

「ネクロマンティック・フィードバック #3」 #njslyr
posted at 15:35:16

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posted at 15:35:39

「おい……おい……何件目だ、これで?」ハンドルを操るシンゴは憔悴もあらわに、落ち窪んだ目で前方を睨む。「夜だぞ、何時間労働だ畜生……」「デスネー。これで五件目です、五件」タバタはテリヤキ・ニギリを頬張り、シンゴにも差し出した。「ブッダ!マヨネーズ抜きかよ!」「デスネー」
posted at 15:38:53

犠牲者が黒焦げの死体となって発見される「バーナー殺人事件」の被害者はこの一日で15人を超えた。まだまだ増え続ける勢いだ。デッカー、マッポは非番のものも動員して警戒に当たっているが、いかんせん腰を上げるのが遅かった。
posted at 15:42:49

「……タバタ=サン、これ何本に見える」シンゴは片手でハンドルを操作しながらもう片方の手でピースサインをした。「エート、二本ですね?」「……」シンゴは立てた指でタバタの目を突いた。「アイエエ!」「気に入らねえよなあ」「デスネー……」
posted at 15:45:36

覆面デッカー・ビークルはT字路に差し掛かる。「ここを左……シンゴ=サン!あれは?」タバタが指差したときには、もうシンゴはドアを開けて飛び出していた。手にはデッカーガン。彼が走っていくのは、車の入れない細い路地裏だ。「シンゴ=サン!」タバタも車を止めて後を追う。
posted at 15:56:40

ナムサン、二人のデッカーはなにを見たのか?路地裏の闇で燃え上がる青い炎と、断末魔の悲鳴だ!事件現場へ向かう途中、思いがけず、逃走中の犯人とさらなる犯行現場を捉えたのではないか?ブルズアイ!「ドーモ、止まりなさい、手を上げて!」シンゴはデッカーガンを構え、叫びながら前進する。
posted at 16:24:31

酸鼻!燃え上がっていたのはやはり人間だった。黒焦げの遺体と化した犠牲者が、シンゴとタバタの目の前で、ぐったりと路地の配管パイプにもたれかかって事切れる。「動くなよ!」シンゴはデッカーガンのロックを解除した。赤いレーザーサイトが、うつむいて佇む不審人物に照準を定める。
posted at 16:28:29

「アバー」不審な人影の周囲に青白い炎が鬼火めいて浮かび、まとわりついた。シンゴは眉根を寄せた。いかなる自然現象か?何らかの科学兵器を通り魔的に人体実験する「テクノ・ツジギリ」の類いかも知れぬ。この地区の経済状況は良好であり、そういった犯罪が起こることは通常考えられないのだが……。
posted at 18:03:27

「アバー、ドーモ、ウィルオーウィスプです、アバー」かくんと首を揺らし、不審な人影が一歩シンゴへ踏み出す。シンゴは銃身のフラッシュライトをオンにした。ライトが照らし出す姿は、「……ニンジャ……?」「アバー」BLAM!BLAM!BLAM!シンゴは迷いなくデッカーガンの銃弾を叩き込む。
posted at 18:14:02

「シンゴ=サン?」タバタもデッカーガンを構えながら、「いいんですか、ちょっと」「馬鹿野郎!」BLAM!BLAM!BLAM!さらに発砲!シンゴの極限的本能が、やるかやられるかの危機を察知したのだ。「始末書なら俺がいくらでも書いてやる!やれ!」BLAM!BLAM!BLAM!
posted at 18:16:37

「アバー、アバー」ウィルオーウィスプと名乗った不審者は思いがけず速い動作で壁から壁へ三角跳びを繰り出し、銃撃を回避!「畜生!」BLAM!BLAM!BLAM!シンゴとタバタは執拗に発砲するが、なんたる動物的回避能力か!「ニンジャだと?まさか……ふざけるなよ……」「シンゴ=サン!」
posted at 18:21:58

タバタがリロードに手間取るシンゴの体を突き飛ばした。「な…」「アババーッ!」その直後、飛来した鬼火はタバタの背中に着弾、青く燃え上がる!「タバタ!!」「アババーッ!」シンゴはデッカーガンを乱射!BLAM!BLAM!BLAM!「アバー」銃弾がウィルオーウィスプの肩を撃ち抜く!
posted at 18:28:51

「アバー」白濁した瞳がシンゴを一瞥した。と、ウィルオーウィスプは身をひるがえした!炎をまとわりつかせた影は、壁を蹴りながらあっという間に路地裏の角を曲がって消えて行く!「タバタ!!」「アバババババー!」シンゴは自身のコートを脱ぎ、燃え上がるタバタの背中に叩きつける。「クソーッ!」
posted at 18:38:40

「…アイエエエ……」青い火は消し止めたが、タバタは虫の息であった。タバタのコートは黒く焦げ、肉が焼けるにおいが立ち昇る。シンゴはタバタを助け起こす。「おい、タバタ!聞こえるかタバタ=サン!」「……」「タバタ!返事しろ!おい!」「……」「救護班は呼んだ!おい!」「……デスネー……」
posted at 18:48:14

「馬鹿野郎……!」「デスネー、ご無事でなにより……」消えいるような声で呟くと、タバタは脱力し、意識を失った。「タバター!!」救急車のサイレンが近づいてくる……
posted at 18:52:45

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posted at 19:05:45

「アーッ!もーッ!」リー・アラキは悔しさのあまりブリッジめいてのけぞった。柱の巨大モニタには「全員が死んでしまった」というゴチック体の表示。「アーンいけませんわ、頭を打ったら貴重な脳細胞がいけませんわ」フブキ・ナハタはリー先生の頭を豊満な胸でクッションめいて受け止める。
posted at 19:16:56

「ジェノサイドがいなくなってしまうぞ!あいつときたら手加減を知らん、これはやりすぎですねェ……!」「まったくですわね」フブキは乳房でリー先生の頭を挟みながら同意した。「スタッフもリクルートしないといけませんわね」「それはヨロシサンあたりから引っ張ってくればいいねェ!トリダ君は?」
posted at 19:28:49

「回収完了しましてよ」フブキは手元のデッキを操作し、小型モニタのIRCレポートを覗き込む。「あら、ボディはキレイに残っていますわ、首の切断で済んで、よござんしたわね」「そりゃ結構!イヒヒーッ!」
posted at 19:31:55

「……あら」デッキを操作するフブキの手が止まる。「なんだねフブキ君?」「情報提供ですわ。これ、……あら、アラー……」「何?なんだね!もったいつけてはいかんねェ!」リー先生は頭を挟むフブキの乳房を両手で揉みしだいた。「アーン、先生、これ、例のゾンビーニンジャじゃありませんこと?」
posted at 20:46:48

「例の?あの、なんとかいうゾンビーか?」「ウィルオーウィスプですわ。トコシマ地区で暴れていますの、ね?青白い炎だとか、焼け焦げだとか」「ウィルオーウィスプ!」リー先生は跳ね起き、乱暴にフブキを押しのけると、モニターに顔を押し付ける。「な、なななんと!これはウィルオーウィスプ!」
posted at 21:03:51

リー先生は素早くキーボードをタイピングし、パンチシートをプリントアウトする。貪るように確認!「まままっ、まさしくこの手口はウィルオーウィスプに注入したオバケ・ニンジャソウルの特性!なんたる事か!死後72時間以上経過してからの覚醒だと!?しかもこの短時間でこれだけの……」
posted at 21:07:20

「どうされますの?」フブキがリー先生にもたれかかる。リー先生は痙攣しながら笑い出した。「イヒヒーッ!ヒョウタンからオハギ!これはいけませんねェ!ジェノサイド、あれは現時点では手に負えん、別の手段を考える!まずはウィルオーウィスプを回収だ!シンジケートに連絡を!」「もうしましたわ」
posted at 21:13:24

「さすがだ!!フブキ君!」リー先生は感極まり、勢いよくフブキ・ナハタのラバー白衣のボタンをむしり開いた。豊満な乳房が完全に露わとなる!「アーン!」「ご褒美をくれてやる!」「アーン!」リー先生がフブキを押し倒す!
posted at 21:19:03

--------
posted at 21:19:30

もぬけの殻となった対策室で唯一人、長机に行儀悪く腰を下ろす中年男が一人……シンゴ・アモである。背中を丸めた彼はホワイトボードの殴り書きを暗い湖めいた瞳で睨みつける。ニュービー・マッポが入室し、ボードの字を消しにかかるが、「カエレ!」シンゴが一喝すると、静かに失禁して退出した。
posted at 21:36:53

署に帰ったシンゴを待っていたのは、バーナー殺人事件捜査本部の一方的な解散の知らせである。深夜に起こった大量殺人事件と同様、唐突な幕切れの通告……上層部の政治的判断だ。シンゴのような兵隊には預かり知らぬ、理不尽な権力が介入したのだ。
posted at 22:04:10

だが……シンゴはホワイトボードの殴り書きを睨みつける。アンコ入りセンベイ・クランチを噛みながら。「タバタ……待っとれよ」殴り書きは、バーナー・キラー、「ウィルオーウィスプ」と名乗ったあのニンジャめいた殺人鬼の、これまでの犯行地図だ。
posted at 22:52:25

五分程そうしていただろうか。シンゴはようやく立ち上がると、クマの浮かんだ落ち窪んだ目で前方を凝視、署の廊下を歩き出す。すれ違う同僚は気まずい視線を送るだけで、彼に声をかけはしない。それはそうだ。かける声など、ありはしない。
posted at 22:57:42

シンゴは太った体を揺すり、地下の武器庫へ続く階段を降りる。「ドーモ」管理室の老人に冷たくアイサツし、シンゴは武器庫のカーボンフスマを開いた。「来ちまったかあ、止めても仕方ないのかねえ」管理人の老人が頭を掻いた。「……」「タバタは可哀想だったよ、だがねえ」「……」
posted at 23:09:34

比較的治安の良好なトコシマ地区であっても、武器庫は充分に危険な場所である。暴徒鎮圧兵器や突入用重火器だけでなく、凶悪犯の使用した偏執的武器やヤクザから押収した凶器までが、どういうわけか納められている。シンゴはバイオバンブー製の陳列ラックの奥へ歩いていく。
posted at 23:15:24

「おい、シンゴ=サン、本気なのか?」手にした武器を見た管理室の老人が問う。「本気だとも」シンゴは平静に言った。
posted at 23:18:41

ウィルオーウィスプ。一度殺人を行った地域で再度の犯行は起こしていない。一定の距離間隔を確保しつつの犯行。トコシマ地区をまんべんなく巡回するかのように。まだ手のついていない地域は多くない。後はデッカーの勘だ……。
posted at 23:24:09

「だが、そんな……何を相手にする?」「……ニンジャだよ」
posted at 23:24:57

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posted at 23:26:46

「ネクロマンティック・フィードバック」 #3終わり #4に続く
posted at 22:49:26

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 22:50:12

◆ヤクザ記念◆ 親愛なる読者の皆さんへ。昨日はセクションの終わりが入るべきところが横線になってしまうという文字化け現象が起こり、大変混乱させてしまったことをお詫びいたします。 ◆人気投票結果◆
posted at 22:54:32

◆ヤクザ記念◆ 現在、翻訳チームは薄黒いタタミ部屋に集合し、UNIXとチャブを使って投票結果を集計中です。なお、この集計作業には有志ニンジャヘッズの方のトゥギャッターまとめが大いに役立っており、翻訳チーム一同オボンに乗ったスシを食べながらむせび泣いております。 ◆人気投票結果◆
posted at 22:57:37

◆ヤクザ記念◆ 集計結果はおよそ1時間以内に発表される見通しです。原作者であるブラッドレー・ボンド=サンとフィリップ・ニンジャ・モーゼズ=サンも、この結果に強い興味を抱いており、将来的にスピンオフ短編を執筆する際の参考にする、とのコメントを寄せてくれています。 ◆人気投票結果◆
posted at 22:59:44

◆ヤクザ記念◆ いよいよ集計結果が発表されます。なお、今回の集計中にUNIXが処理限界を超えて爆発したため、バリキドリンクとスシを十分量摂取した翻訳チームの手によるローテク集計が行われました。このため、投票結果にノイズが混じる可能性がありますが、ご了承ください。 ◆人気投票結果◆
posted at 23:55:41

◆ヤクザ記念◆ 1票 キャバリアー ナラク・ニンジャ アーマゲドン ゴメス タマゴ(スシ) イチジク オブリヴィオン ディンタキ ナガム ミニバイオ水牛 イッキ・ウチコワシ構成員 タバタ ディテクティヴ リー先生 マタドール アガタ・マリア (続く)  ◆人気投票結果◆
posted at 23:59:15

◆ヤクザ記念◆ 1票(続き) ブルーブラッド ウォーロック シンタマ ストライダー ネコソギ・ファンドに採用されたクルーカット ムギコ フォーティーナイン レオパルド  ◆人気投票結果◆
posted at 00:02:13

◆ヤクザ記念◆ 2票 アースクエイク チュパカブラ ガントレット フロストバイト ガンスリンガー ミヤモト・マサシ フリックショット ネズミハヤイ ◆人気投票結果◆
posted at 00:04:48

◆ヤクザ記念◆ 3票 ビホルダー ミニットマン ヘルカイト バジリスク フォレスト・サワタリ ネコネコカワイイ ◆人気投票結果◆
posted at 00:07:55

◆ヤクザ記念◆ 4票 ノトーリアス  5票 ヒュージシュリケン 2COOLリリック ヤクザ天狗 ドラゴン・ゲンドーソー ナンシー・リー  6票 ダークニンジャ ギンイチ スガワラノ・トミヒデ 7票 サボター ラオモト・カン  8票 ビーハイヴ  11票 アゴニィ ◆人気投票結果◆
posted at 00:15:37

◆ヤクザ記念◆ ナムアミダブツ! コアなニンジャヘッズの投票により、下位にはかなりマイナーなキャラが名を連ねました。  http://j.mp/elOcy3  で検索を行えば、登場エピソードがすぐに見つかり大変便利です。この先はいよいよ上位5位の発表になります! ◆人気投票結果◆
posted at 00:23:17

◆ヤクザ記念◆ 第5位 14票 シガキ・サイゼン 非ニンジャであるシガキが堂々のランクインです。登場エピソードは「レイジ・アゲンスト・トーフ」。最初期に書かれたエピソードの1つであり、彼とともに無人スシバーからネオサイタマにダイヴしたニンジャヘッズも多いのでは。 ◆人気投票結果◆
posted at 00:30:49

◆ヤクザ記念◆ 第4位 15票 ダイダロス ナンシーとの電脳戦が記憶に新しい、ソウカイヤのネットセキュリティ担当、ダイダロスが4位につけました! 彼は複数のエピソードに登場しますが、「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」が最初のクライマックスとなっています。 ◆人気投票結果◆
posted at 00:38:52

◆ヤクザ記念◆ 第3位 17票 インターラプター 深刻なオハギ中毒を抱えた哀しきニンジャ、インターラプターが3位に。彼の登場エピソード「フィスト・フィルド・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ」は、古参ニンジャヘッズの間で最初期の伝説的名作として語り継がれています ◆人気投票結果◆
posted at 00:45:06

◆ヤクザ記念◆ 第2位 21票 デッドムーン 非ニンジャの彼が、何と2位に! 「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」は先日完結したばかりで、その効果もあったのでしょうか? しかし、英語版短編集#1には彼のスピンオフが収録されており、実際高い人気を感じられます。 ◆人気投票結果◆
posted at 00:53:25

◆ヤクザ記念◆ 第1位 25票 ニンジャスレイヤー 栄えある第1位は、ニンジャスレイヤーことフジキド・ケンジ。ネオサイタマの闇を駆け抜ける復讐の戦士が見事に1位を獲得です。Wasshoi! 様々な側面を見せる主人公として、幅広いニンジャヘッズから支持を集めました。◆人気投票結果◆
posted at 00:59:26

◆ヤクザ記念◆ 親愛なる読者の皆さん、投票ありがとうございました。第1回ニンジャ人気投票の結果発表は、これにて終了いたします。この結果はIRC速報によって原作者の2人にもリレイされています。では次回、ヨロシサン記念杯でまたお会いしましょう。オタッシャデー! ◆人気投票結果◆
posted at 01:04:35

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 14:35:15

NJSLYR> ネクロマンティック・フィードバック #4

110217

「ネクロマンティック・フィードバック」 #4 #njslyr
posted at 14:35:51

「ナ、ナ、ナ、ナムアミダブッダ……!ナムアミダブッダ……!」
posted at 14:37:27

既に外は闇!廃テンプルは無数のロウソクで煌々と照らされ、ステンドグラスを前にドゲザチャントを続けるアンドウの影は四方八方に伸びていた。
posted at 14:39:10

おそるべき反自然存在がマッポーのわざを用いて哀れな市民の命を奪う瞬間を目の前でまざまざと目撃したアンドウの心は、いつにもまして引き裂かれていた。これはアーマゲドンの始まりに他ならない!その一方で彼の残りわずかな理性が困惑する。どうして妄想が現実に?と……。
posted at 14:47:32

(私はとうとう狂ってしまったのだ)(狂う?狂うって何がだ!アーマゲドンは現実に今夜起こることだ、そうだろう!)(あれは私が思いつきで書き殴ったビジョンにすぎない、こんなはずじゃないんだ!)(あれは預言だ!預言が正された!)(バカな!)「ナムアミダブッダ!ナムアミダブッダ!」
posted at 14:49:36

窓から吹き込んだ風でロウソクの炎が暴れる。「アイエエエ!」アンドウは恐怖のあまり七転八倒した。ステンドグラスの「血の使徒」と目が合う。「アイエエエ!」コワイ!路地で目撃したあの反自然存在が血の使徒だというのか?「罪人が、罪人が蘇る……マッポアマゲドン!ナムアミダブッダ!」
posted at 14:57:59

と……そのときだ!アンドウは唐突に気づいた。窓の外の闇にちらつく輝きに。アンドウは窓際へよろめきながら近づき、外の闇を見る……彼が見たのは、廃テンプルを囲む墓地を不気味に照らす無数の青白い炎……!「ア、ア、アイエエエエーエエエ!?」
posted at 15:28:09

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posted at 15:35:13

「捕獲対象の名称はウィルオーウィスプです」運転ヤクザが助手席に座る深緑のニンジャに告げる。そう、ニンジャである。彼の名はブラックヘイズ。任務を受諾したのは200秒前だ。急を要する任務であるため、ブリーフィングはこうして移動中の車内で行われる事になった。
posted at 18:08:30

「INWのゾンビー」ブラックヘイズは呟く。「どんなジツを使うのだ」「INWが情報をまとめてあります。ウィルオーウィスプに宿ったニンジャソウルはオバケ・ニンジャといいます」「名付きなのか?大丈夫なのか」「さあ。わかりません」運転ヤクザは正直に答えた。
posted at 18:13:11

ヒュン。ヒュン。定期的に頭上を通過する道路灯が催眠的なリズムを作る。「わかりませんと来たか」「ハイ。しかしウィルオーウィスプの知能は高くないようです。オバケ・ニンジャのジツですが、電磁力の一種を用いるとの事」「もっと戦闘で役立つような説明をしろ。センタ試験でもやらせる気か」
posted at 18:17:00

「ハイ。説明が続いています。ウィルオーウィスプはある種の電磁力によって、人体、とくに死体の体内のリン成分に働きかけ、抽出して操作するのだという事で」「悪趣味なことだ」
posted at 18:21:32

「人体の腐敗を促進し、その腐敗ガスとリンを用いて発火させ、その炎をなんらかのサイコキネシス的な力で自在に操作するのだそうです」「要するにカトン・ジツの変わり種か」「私もINWからの情報をお伝えしただけですので」「フン」ブラックヘイズはメンポに葉巻を差し込み、吸った。
posted at 18:37:30

「今朝頃から、犠牲者の体に放火する通り魔事件が連続で起こっています。全てこのウィルオーウィスプの仕業で、シンジケートを通してマッポに圧力をかけてあります。後はブラックヘイズ=サン、貴方がスギウラヤ古墓地へ向かい、そこへ現れるウィルオーウィスプを捕獲します」「なぜ現れるとわかる?」
posted at 18:42:33

「習性、だそうで」運転ヤクザが淡々と答えた。「死体からヒトダマを抽出するにあたって、地中にその素材が大量に存在する墓地は、いずれウィルオーウィスプが必ず訪れる場所だそうでして。そしてひとたびそこへ辿り着けば、自身の意志でそこから離れる事はないと」「なるほど」
posted at 18:49:36

運転ヤクザはナビゲーション装置を確認した。「トコシマ地区のインターチェンジで降ります。40分前後で到着しますので戦闘準備をお願いします」ブラックヘイズは紫煙を吐き出した。ソウカイヤ・リムジンの強力な空調装置があっという間にそれを吸引する。「準備?俺はプロだ、常にエマージェントだ」
posted at 19:13:43

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posted at 19:28:24

RT @S_Bloodstone: #njslyr twitter小説「ニンジャスレイヤー(@njslyr)」のウィルオーウィスプ描いてみた。 「アバー、おれはウィルオーウィスプ=サン。アバー、ドーモ、アバー」 http://twitpic.com/40oo4w
posted at 19:33:13

「アーマゲドン……ア、ア、アイエエエエエ……」アンドウはもはやなすすべ無く、涙と鼻水を垂らしてガタガタと震えながら、ステンドグラスの下でうずくまっていた。
posted at 20:26:44

外は不気味に明るい。無数のヒトダマがこのテンプルを取り囲んでいるからだ。「世界はもう終わってしまったのだ……わ、私の預言のせいだ!」アンドウは独り慟哭した。テンプルの全周囲にヒトダマ。彼の精神状態では世界中がこの有様と考えるのも無理からぬ事だった。
posted at 20:29:50

「血の使徒が現れ、滅びの日を告げるであろう……罪人は再生し現世を食らう……」アンドウは呟く。周囲のヒトダマはまさに、現世を食らいに現れた罪人に他ならぬ!そして滅びの日を血の使徒が告げにくるはずだ、今すぐにも、最後に残ったアンドウのもとへ、「ドーモ」「アイエエエエエ!」
posted at 20:44:55

ショウジ戸を突き破ってテンプルへ飛び込んで来、ギクシャクとオジギしたのは、まさにあの時アンドウが路地裏で目撃した存在そのものであった!「アイエエエエエエエ!」アンドウは声を枯らして叫んだ。「アバー。ドーモ、ウィルオーウィスプです。アバー」「アイエエエエエ!アイエエエエエエエエ!」
posted at 20:49:02

「アバー」ウィルオーウィスプはアンドウへ、何かを乞うかのように片手を差し出した。無論それは何かを乞うたわけではない。直後にウィルオーウィスプの背後の闇から青白い炎がひとつ、飛び来たった。「アイエエエエエエエエ!」「アバー。ドーモ。ヤケルー」炎がアンドウへ向けてゆっくりと飛ぶ!
posted at 20:57:43

ドウン!その時である!衝撃波を背後から受けたウィルオーウィスプが前へ吹き飛び、床に叩きつけられるように倒れた!「アイエエエエエエエエ!」新たに外の世界からエントリーして来た男をアンドウは恐怖とともに凝視する。恰幅のよい中年男性を!
posted at 21:01:08

アンドウへ向けて飛来していたヒトダマはコントロールを失い、あさっての方向に逸れ、天井の穴から外へ飛び出して行った。「ドーモ、あー……」中年男性はアンドウを見て首を傾げる。「あんた、この界隈の有名人じゃないか、アンドウ=サン。今夜もお勤めか。まあいい、悪いが手帳を見せる暇はない」
posted at 21:04:53

中年男性、すなわちトコシマ・デッカーのシンゴは、モーターめいたシルエットの無骨極まりない武器を構えていた。オムラのエンジニアであればすぐにそれが何なのか察したであろう。ショックブラスターである。
posted at 21:08:22

衝撃波を打ち出し、空気の圧力で対象を殺傷するマッポー的兵器・ショックブラスター。この個体はかつてヤクザクラン「キング・オブ・ゴリラ」が対立組織事務所の構成員45名を一時間で皆殺しにした際に使用された凶器である。
posted at 21:20:09

シンゴはこの恐るべき武器を、単なる破壊的感情のおもむくままに選び取ったのではない。つまり…「アバー、ドーモ、ウィルオーウィスプですアバー」ウィルオーウィスプは転がりながら立ち上がり、シンゴへ向けてオジギした!腐臭がテンプル内のロウソクの臭いと混じり、白濁した瞳がシンゴを認識する。
posted at 21:26:28

ドウン!シンゴは有無を言わさず二発目のショックブラスターを発射した。しかしウィルオーウィスプは側転して衝撃波を回避!ゴウランガ!ゾンビーでありながらまるで劣化を感じさせぬニンジャ瞬発力!
posted at 21:29:00

「アバー」屋外からヒトダマがテンプルへ飛び込み、シンゴのもとへ飛来!だがシンゴは落ち着き払ってショックブラスターを再度発射する。ドウン!目標はヒトダマだ!衝撃波を受けた青い炎は一瞬にしてかき消える。読者の皆さんはご存知だろうか、発破の衝撃を利用した鎮火作業を。あの原理と同じだ!
posted at 21:33:02

さらにヒトダマが飛び込む。ドウン!かき消される!「アイエエエエエ!」アンドウは尻餅をつき、絶叫した。「アバー」ウィルオーウィスプが両手を突き出しシンゴへ殺到!ドウン!シンゴは落ち着き払ってショックブラスターを発射!ウィルオーウィスプの体が再度弾き飛ばされる!
posted at 21:35:37

「フン、なるほどニンジャの頑丈さってやつか、ええ?」ゆっくりと起き上がるウィルオーウィスプへ、シンゴは面白くもなさそうに言い放つ。「たいした頑丈さだ。それともあれか、お前さん、ゾンビーか何かか」「アバー」
posted at 21:43:49

シンゴはショックブラスターの側面のダイヤルを操作する。ショックブラスターは焦点を絞る事で効果範囲を狭めるかわりに衝撃波の殺傷力を増すことができる。彼はダイヤルを「点」にセットした。「アバー」ウィルオーウィスプがスプリングキックで起き上がる。シンゴはショックブラスターを、
posted at 22:48:11

「イヤーッ!」天井を破砕し、新たな侵入者がウィルオーウィスプとシンゴの間に落下して来た!「何だと?」一瞬ためらったシンゴを、新手の侵入者はジャンプパンチで襲う!「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 22:52:35

シンゴはとっさにショックブラスターを掲げて防御を試みた。結果的にそれが彼の命を救った。なぜなら新たな侵入者はニンジャであり、ジャンプパンチがシンゴの脳天に直撃すれば、彼の頭はトマトめいて飛び散ったであろうから。かわりに犠牲になったのはショックブラスターだ!
posted at 22:55:18

「アイエエエ!」アンドウが叫び、尻餅姿勢で壁際に後ずさった。ショックブラスターは深緑のニンジャのパンチ一撃で吹き飛び、鉄屑に成り果てた!さらにニンジャは振り向きながらの裏拳をウィルオーウィスプに繰り出す!「イヤーッ!」「アバー」ゾンビーニンジャはバックステップで裏拳を回避!
posted at 22:58:41

「ドーモ皆さん。私はブラックヘイズです。オジャマシマス」深緑のニンジャは電撃的な素早さで三者に対しそれぞれオジギした。そのメンポからは葉巻が突き出ており、ロウソクの臭いと腐臭の混じるテンプルの空気へ紫煙の臭いを混ぜる。
posted at 23:04:57

BLAM!BLAM!BLAM!シンゴがデッカーガンを抜き、素早く発砲した。だが、ナムサン!ブラックヘイズはブリッジで銃弾を回避!ブリッジ姿勢を取りながら彼は言った。「見たところデッカーのようだな。悪いがこっちも仕事でな。あんたの獲物を横取りさせてもらうぞ」
posted at 23:15:52

「ふざけるな!」BLAM!BLAM!BLAM!シンゴはニンジャを恐れずさらに発砲した。しかし、やんぬるかな、ショックブラスターあらばいざ知らず、ノーマルな武器はニンジャに通じはしない。ブラックヘイズはブリッジからバック転を繰り出し、さらに壁を蹴って、銃弾を完全回避!
posted at 23:18:54

そして……ゴウランガ!次の瞬間、シンゴの背中が青く燃え上がった!「グワーッ!」ウィルオーウィスプがテンプル内へさらにヒトダマを呼び寄せていたのである。新手の侵入者に注意を傾けていたシンゴには避けようがない。インガオホー!
posted at 23:54:49

「イヤーッ!」壁を蹴ったブラックヘイズは空中でウィルオーウィスプ目がけて右手を突き出す。するとどうだ!黒いネットが手のひらから展開し、ウィルオーウィスプを絡め取った!「アバー?」タツジン!これこそが、彼のコードネームの由来たるヘイズネット・キャプチャー・ジツなのだ!
posted at 23:59:19

「グワーッ!グワーッ!」シンゴは苦悶して床を転げ回る。彼はコートの下に耐熱胴衣を着込んでいた。しかしそれだけで防げる炎ではないのだ……!着地したブラックヘイズは冷たくシンゴを見下ろした。「災難と思って諦めろ。そして残念ながら目撃者の抹殺指令も出ている。恨みは無いが死んでもらおう」
posted at 00:03:05

今やテンプル内には沢山のヒトダマが入り込んで来ていた。テンプルは当然ながら日本的建築の常として木製だ。しかし不思議とヒトダマがテンプルに引火する事は無い。ヒトダマの化学的性質なのか、ウィルオーウィスプのコントロールによるものか、ただ人間を執拗に焼き殺す残虐なジツなのである。
posted at 00:11:20

「アバー」ウィルオーウィスプの全身に絡み付いたネットをブラックヘイズは締め上げにかかる。「アバー」ウィルオーウィスプはもがくものの、脱出はかなわぬ。四肢の自由が奪われればコントロールも効かぬか、浮かぶヒトダマがブラックヘイズに襲いかかる事はなかった。
posted at 00:14:15

【NINJASLAYER】
posted at 10:31:59

「アイエエ……」アンドウは逃げ出す事すら発想できず、失禁しながらテンプル内のマッポー光景をただただ見守るばかりである。終末を迎えた世界に次々にアーマゲドンの神々が降臨してくる。アンドウは自問した。これは自分の妄想が引き起こした結果なのか。あるいは全て幻で、自分は完全に狂ったのか。
posted at 10:37:38

狂ったのならそれもよい。このまま狂気の夢の中で朽ち果てる事が出来れば、愛する娘の最期の光景など思い出す事もあるまい。「ああ、だめだ、だめだ……」アンドウは呟き、泣きながら笑った。「神様、こんなときも私はあの子の事を思い出さずにはいられぬ、いや、こんなときだからか……ははは……」
posted at 10:40:15

「狂人め。面倒は嫌いだがお前も殺さねば」ウィルオーウィスプを拘束し終えたブラックヘイズは、アンドウを見下ろしながら悠々と葉巻で一服する。シンゴはうつ伏せに倒れたまま、ぐったりと動かない。テンプルの天井付近を漂う無数のヒトダマ。外の闇……!「アーマゲドン……」アンドウは嗚咽した。
posted at 10:46:54

その時だ!「イヤーッ!」血の使徒のステンドグラスが割れ砕け、そこから飛び込んで来た者があった!「アイエエエエエ!?」アンドウは気絶せんばかりに驚愕した。全身を血で染めた荒ぶる存在!ステンドグラスに描かれた「血の使徒」が実体を備え、降り立ったのである!
posted at 11:01:33

「ち、血の使徒だ!ほんものの!」アンドウは感極まって叫んだ。「あなたがそうなのか!あなたが!アーッ!アーッ!」「なにをバカな」ブラックヘイズは落ち着き払って新たな侵入者を見た。「……やれやれ、面倒だ。聞いてないぞ、こいつの事は……」
posted at 11:27:20

新たな侵入者……血の色を思わせる赤黒い装束で身を包んだそのニンジャは、テンプル内の混乱へ無慈悲な視線を走らせた。そしてアイサツした。「ドーモ、はじめまして皆さん。ニンジャスレイヤーです」
posted at 13:26:45

「ち、ち、血の使徒……!」アンドウは震えながらニンジャスレイヤーを指さした。「本当だった……ビジョンは何もかも本当なんだ!」「チッ、黙れ、神がかりめ」ブラックヘイズは言い放ち、メンポの音声認識IRCトランスミッターを操作する。
posted at 13:31:37

「アー、モシモシ、面倒が発生だ。対象は捕獲したが、問題が二点。デッカーが居合わせた。無力化したが、増援可能性を確認してくれ。それからもう一点。大変な面倒だ。……ニンジャスレイヤーだ」ブラックヘイズは目の前の敵を睨みながら、「そうだ。こいつも殺るならインセンティブは追加扱いだぞ」
posted at 13:41:49

ニンジャスレイヤーはブラックヘイズの通信中、腕組みの姿勢で奥ゆかしく待機する。「……チッ、了解した。それでいい。通信を終了する」ブラックヘイズは会話を終え、あらためてニンジャスレイヤーへオジギした。「ドーモスミマセン、はじめましてニンジャスレイヤー=サン。ブラックヘイズです」
posted at 13:46:26

「ドーモ」ニンジャスレイヤーは再度の会釈で応える。「ソウカイ・ニンジャだな?」「そう考えてくれて結構だ。貴様もこのウィルオーウィスプ狙いか?」葉巻を地面に投げ捨て、ブラックヘイズはカラテを構えた。「有名人に会えて光栄だ、ニンジャスレイヤー=サン」「……よかろう。ニンジャ殺すべし」
posted at 13:53:52

(ネクロマンティック・フィードバック #4 終わり。#5へ続く
posted at 13:55:18

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 22:20:52

NJSLYR> ネクロマンティック・フィードバック #5

110221

「ネクロマンティック・フィードバック」 #5
posted at 12:42:24

(これまでのあらすじ:一人娘を結婚式の事故で失い、自らを狂気においやったアンドウ。彼がデタラメに創作した「血の使徒」「罪人の魂が蘇るアーマゲドン」の妄想と重なり合う現実の出来事が、今、目の前で展開する。正気の部分を捨てきれずにいた彼は混乱に陥った。)
posted at 12:47:47

(彼が祈りを捧げていた廃テンプルに今、四人の戦闘者が集う。死体からヒトダマを抽出し操るゾンビー・ニンジャ、ウィルオーウィスプ。彼に復讐を誓い組織の命令を無視したデッカー、シンゴ。ウィルオーウィスプ回収をリー先生に命じられたニンジャ、ブラックヘイズ。そして、ニンジャスレイヤーだ!)
posted at 12:52:54

「ドーモ」ニンジャスレイヤーは再度の会釈で応える。「ソウカイ・ニンジャだな?」「そう考えてくれて結構だ。貴様もこのウィルオーウィスプ狙いか?」葉巻を地面に投げ捨て、ブラックヘイズはカラテを構えた。「有名人に会えて光栄だ、ニンジャスレイヤー=サン」「……よかろう。ニンジャ殺すべし」
posted at 13:05:34

「アバー」ヘイズネットで捕縛されたウィルオーウィスプが床で身じろぎする。拘束は手際良く行われており、動くことはかなわない。「ウ……ウ……」起き上がることができないのは、背中を焼かれたシンゴも同様だ。ブラックヘイズとニンジャスレイヤー、対峙する二人はそれを無視し、互いを注視する……
posted at 13:12:31

「個人的な興味で聞くが」ブラックヘイズが問う。「なぜ貴様はシンジケートとコトを構える、ニンジャスレイヤー=サン?貴様は犬のように追われ、遅かれ早かれ惨めに死ぬのだ。……それはつまり今夜というわけだが」暗く笑い、「貴様の戦いは無意味で無軌道極まりない。ニンジャを殲滅するつもりか?」
posted at 13:23:39

「そうだ」ニンジャスレイヤーは即答した。「オヌシらは皆殺しにする。そこで動けずにいるニンジャも当然、殺す」二者は円を描くように摺り足で動き始める。「フン、殺すも何も、そのウィルオーウィスプは既に死体だぞ。ゾンビーだからな」「ゾンビーも殺す。これまでも何人か殺った。こいつも殺す」
posted at 13:29:55

「殺し続けた先に何がある?その憎悪の源は何だ?知りたいものだな」「先など無い。なにも無い」ニンジャスレイヤーは答えた。「オヌシは無駄話が好きなようだな」メンポに彫られた「忍」「殺」の文字が天井を漂うヒトダマの青い光を受けた。ブラックヘイズは笑う。「そうとも。俺はおしゃべりなんだ」
posted at 13:59:03

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが初手だ!カラテチョップがブラックヘイズの肩口を狙う。「イヤーッ!」ブラックヘイズはくるりと回って身をかわし、側頭部を踵で蹴ろうとする。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの回し蹴りが踵蹴りを打ち返す!「フン!」ブラックヘイズはバック転で間合いを取る!
posted at 14:03:41

ニンジャスレイヤーはすぐさま突進で追いすがる。しかしブラックヘイズは両手を開き前方へ突き出す、「そして俺は面倒が嫌いでな!」その手のひらから黒いキャプチャーネットが展開した!ナムサン!
posted at 14:15:06

「イヤーッ!」なんたるハイ・ジャンプ!ニンジャスレイヤーは垂直に跳び上がってキャプチャーネットの包囲を逃れる!しかしブラックヘイズが手首を振ると、展開したネットはすぐに脱落、瞬時にリロードしたのち、空中のニンジャスレイヤーへ今度は直線的なネットを射出した!「イヤーッ!」
posted at 14:24:27

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは身体をねじってキャプチャーネットをギリギリのところで回避。そのままスリケンを三枚投げ返した!「イヤーッ!」ブラックヘイズは片手の指先で二枚のスリケンを挟み取り、残る一枚はダメージの少ない肩口で受ける!「さあ来い、ニンジャスレイヤー=サン!」
posted at 14:37:32

「イヤーッ…グワーッ!?」そのまま飛び蹴りで襲撃しようと試みたニンジャスレイヤーの身体が、不可解に空中でバウンドした!空中で捉われるニンジャスレイヤー! ゴウランガ!これはいかなるジツか!?「キャプチャー完了だ」ブラックヘイズは肩に力を込め、スリケンを体外へ押し出す。
posted at 15:28:57

「血の使徒が!血の使徒が天を舞っている!アイエエエエ!なんたる光臨!」アンドウは感極まり、泣きながら空中でもがくニンジャスレイヤーにドゲザした。「ナムアミダブッダ!アーマゲドン!アーマゲドン!」「少し黙れ。貴様から殺してもいいんだぞ」ブラックヘイズがうんざりと言った。
posted at 15:34:16

ニンジャスレイヤー……フジキドは、自分を絡め取ったモノから逃れようとなおももがいた。しかし、もがけばもがくほどそれは彼の身体を強固に苛む。彼を拘束しているのはサイコキネシスの類では無い。あくまでもそれはテクノロジーの産物、透明なヘイズ・ネットであった!
posted at 17:51:42

黒いヘイズネットは伏線であった。彼は黒いネットに注意を集中させ、同時に、透明かつ極細のネットを、フジキドが感づかぬよう展開していたのだ。彼が片手をスリケン・キャッチに使わずあえて肩を危険に晒したのはその為だ。片手で透明なヘイズ・ネットを張り巡らせていたのだ。
posted at 17:56:14

フジキドはおのれのウカツを悔いた。思えばブラックへイズというコードネームも、ヘイズネットの色を黒に限定せしめるミスリードであったのでは?ワザマエ!だが今更そんな事を悔いても意味はない。フジキドはなおももがく。ネットは彼のニンジャ装束に食い込み、身体に細かい切り傷を創りはじめた。
posted at 18:02:28

「無駄だ、無駄だ」ブラックへイズは懐から葉巻を取り出し一服した。「暴れて破れるようなネットなら、始めから使わんよ」「イヤーッ!」「そこでのびているデッカーの増援も気がかりだ。まずは貴様だニンジャスレイヤー=サン」「イヤーッ!」「この葉巻は爆弾だ。古典的なジョーク。これで殺す」
posted at 18:15:07

ブラックへイズが一服した葉巻をダイヤルを操作するようにいじる様子を、フジキドはもがきながら睨んでいた。「イヤーッ!」葉巻型爆弾の火力にフジキドは耐えられるか?万事休すか!「イヤーッ!」
posted at 18:21:45

「ハイクはこの葉巻が爆発するまでに勝手に読め」ブラックへイズは葉巻を投げつけた!「イヤーッ!」そのとき!ブチブチと嫌な音を伴い、フジキドの右腕が深く裂けた!
posted at 19:12:06

「何!」驚愕の叫び声をあげたのはブラックへイズだ。装束が破れ血に塗れた右腕で、フジキドは飛来する葉巻をつかみ、起爆前に粉々に握り潰したのだ!ナムアミダブツ!なんたるニンジャ握力!「右腕を脱しただと」ブラックへイズはしかし、うろたえはしない。「だが運命を変えるほどではないな」
posted at 19:19:37

フジキドの下でブラックへイズは再び葉巻を用意する。今度はケースから残りの葉巻すべてを出す。確実の上に確実を期そうというのだ!
posted at 19:21:37

「イヤーッ!イヤーッ!」フジキドはもがき続ける。だがヘイズネットの抵抗は硬い。右腕は奇跡であったのか!?「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」
posted at 19:23:21

(((フジキド……)))
posted at 19:24:09

フジキドはニューロンを染みのように汚す不快な声を感じた。「イヤーッ!?」(((フジキド……)))
posted at 19:25:45

不快な声は憔悴するフジキドのニューロンに、電撃的な速度で腫瘍めいて広がっていく。フジキドは困惑した。「イヤーッ!?」(((ワシとオヌシは一蓮托生、ユメユメ忘れるなかれ)))
posted at 19:29:20

フジキドはもはや認めざるを得なかった。この声は彼をあの日ニンジャたらしめた邪悪な魂……常にその心を乗っ取ろうと試み、やがてドラゴン・ゲンドーソーに封印されるに至った悪しきニンジャソウルの呼び声である。
posted at 19:33:44

「イヤーッ!?」しかし、ドラゴン=センセイのインストラクションを経て、フジキドはそのニンジャソウルを自ら圧倒し、屈服させたのではなかったか?(((そう邪険にするものでない。ワシが幾らでも力を貸してやる)))「イヤーッ!」
posted at 19:35:32

ブラックへイズが素早く葉巻爆弾のスイッチをいれて行く。「これで終わりだ、ニ」(((よいかフジキド。ワシはオヌシの味方だ。誰よりもオヌシの事を考えている。そもそもオヌシを死の淵から救い、あまつさえ力を与えたのは誰だ?わかるな?あのしみったれの老いぼれではないぞ、フジキド)))
posted at 20:24:12

「「「オヌシの道具に今一度成り下がるつもりなどない。失せろ」」」(((ここで死ぬのか?ワシに言わせれば、あんなカイコ・ニンジャ・クランのニンジャなど、コワッパも同然ぞ!よいか、)))「「「だまれ。失せろ!」」」(((話を聞け!フジキド!ワシとて滅ぶのはゴメンなのだ)))
posted at 20:29:09

ニューロンに寄生する邪悪な声が、困ったような、諭すような響きを帯びる。(((オヌシが死ねばワシも爆発四散するばかりだ。ワシはかつてオヌシをジョルリ人形と見なしておった……認めよう、正直に。だがワシは眠りの中で見てきた。オヌシがニンジャどもを無慈悲に殺してゆくさまを)))
posted at 21:03:16

「「「……」」」(((ワシとオヌシは目的を同じくするものだ。眠りの中でワシは学んだ。ワシらは主従ではなく仲間だ、運命を同じくする兄弟だ。力を合わせようではないか)))「「「何を企んでいる」」」(((ここを生き延びる事だ、そしてより多くのニンジャを殺す事だ)))
posted at 21:11:09

「「「……オヌシに体は貸さぬ」」」(((そうだとも!わかっておるとも!ワシは適切に助言し、教え導いてやる。インストラクションだ!それも、オヌシが望んだ時だけだ。ワシはオヌシに害を為したりはせぬ)))
posted at 21:16:37

……フジキドは訝った。この殊勝な態度はブキミである。何事かを後々に為さんと企んでいる事は明白だ。だが……
posted at 21:22:23

「「「……ならば助言とやらをしてみよ」」」フジキドは命じた。(((無論だ!)))邪悪な声がニューロンを駆け巡る。
posted at 21:25:22

フジキドの視界は灰色にぼやけ、世界はほとんど静止して見える。自分自身のニューロン内での対話は現実時間の一秒にも満たない。
posted at 21:28:25

(((フジキド。オヌシがニンジャソウルの痕跡を辿り、狩り殺さんとしていたあの死人ニンジャ。いまブザマに寝ているあれだ。あれはオバケ・ニンジャだ。ワシはあれと闘ったことがある……だがそれはよい。奴のヒトダマ・ジツを利用せよ。フーリンカザンだ)))
posted at 21:32:44

ナラク・ニンジャの邪悪な声がニューロンを駆け巡り、やがて飛び去り、灰色の視界に色彩が、時間の流れが戻ってくる。「…イヤー=サン」ブラックへイズは葉巻の束をニンジャスレイヤーに向かって投擲しようとした。ニンジャスレイヤーは黒いヘイズネットに絡み取られた床のゾンビーニンジャを見た。
posted at 21:44:19

「アバー。アバー」いまだそのゾンビーニンジャは捕縛を逃れようともがき続けている。ニンジャスレイヤーはナラク・ニンジャの「インストラクション」に沿って、滑るように右腕を動かした。ブラックへイズが葉巻爆弾の束を投げる!
posted at 21:48:41

【NINJASLAYER】
posted at 01:40:02

【NINJASLAYER】
posted at 15:58:05

死の一歩手前、ニンジャスレイヤーの右手がつかんだのは、自らの「忍」「殺」と書かれたメンポ(フェイスガード)であった。チタン合金製のそれを己の顔から素早く取り外すと、ブラックヘイズのいないあさって方向へ、フリスビーめいた横回転で投擲した!「苦し紛れか!」ブラックヘイズが断定する!
posted at 16:02:18

葉巻型爆弾はブラックヘイズのニンジャ精密さによって、ニンジャスレイヤーの右手が届かぬ足元付近のネットに絶妙に引っかかった。これでは解除不能!「さあ、爆発の瞬間までにハイクを詠むがいい。狂った殺戮嗜好者の貴様にそのような知性があるのならばの話だが」
posted at 16:10:38

「ニンジャみな殺すべし……慈悲は無い……お前も殺す、インガオホー」「何……?」ブラックヘイズはニンジャスレイヤーの口をついて出たハイクに眉をひそめた。異様で醜く、定型を外れたハイクだ。そして辞世のテーマが何一つ含まれていない事を訝った。
posted at 16:24:17

ブラックヘイズの視界外で、回転するメンポは斜め急角度にカーブした。床スレスレを高速で飛ぶ回転メンポの進路には、もがくウィルオーウィスプが!「アバー」「チッ、何かマズイ」考えを巡らせるブラックヘイズへ、ニンジャスレイヤーは右手で牽制のスリケンを投げる!「イヤーッ!」「クソッ!」
posted at 16:37:17

ブラックヘイズはスリケンを回避せざるを得ない。メンポは床にロウをしたたらせて燃えるキャンドルを一直線に切断しながら、ウィルオーウィスプの体を拘束する黒いヘイズネットにぶつかり、弾き返された。ナムサン!プロフェッショナル用途の強度!
posted at 16:42:08

「これが貴様の最後のあがきか、ニンジャスレイヤー=サン」ブラックヘイズは肩をすくめた。「腹いせにウィルオーウィスプを解放しようなどと無駄な……」切断された無数のキャンドルが低空を舞う。「無駄な……」それらキャンドルの幾つかが、ヘイズネットの上に横倒しに落下する。「…バカなーッ!」
posted at 16:46:57

「アバ、アバー、アバーッ」ネットを炎が伝い、ウィルオーウィスプがひときわ激しく暴れ出す。その狂乱と炎によるネットの劣化、二つの要因によって、「アーバーッ!」ネットはついに引き裂かれた!両腕を天井へ突き上げるウィルオーウィスプ!天井に集まっていたヒトダマがまとめて落下する!
posted at 17:13:56

さらに、おお、おお、ゴウランガ!ヒトダマの群れは中空でニンジャスレイヤーを拘束する透明のヘイズネットに次々に引火!ヘイズネットをすりぬけたヒトダマは狂ったように廃テンプルを飛翔する!わずか一呼吸、数秒のうちに、廃テンプルはマッポーの炎熱地獄と化した!
posted at 17:18:02

透明のヘイズネットが熱で溶け、ニンジャスレイヤーの四肢が即座に自由を取り戻す。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは落下しながらサッカーボールを蹴るように葉巻型爆弾を窓の外めがけて蹴り飛ばす!直後に爆弾が起爆!KABOOOM!その時間差は一秒にも満たない!
posted at 17:34:00

「何だ、これは。大混乱だな」ブラックヘイズはヒトゴトのように呟く。彼は上を見上げる。荒れ狂うヒトダマの炎はテンプルの天井へ燃え移った。ウィルオーウィスプのジツが制御を失っているのだ!「イヤーッ!」燃えながら落下してきた梁を回転ジャンプで避け、彼はそのまま屋外へ飛び出す!
posted at 17:47:23

ニンジャスレイヤーはどうか?彼は落下中に電撃的な状況判断を下していた。床でうつ伏せになったデッカー、シンゴへ駆け寄り、右肩に担ぎ上げると、飛び回るヒトダマを大胆に避けながら、今度は壁際のアンドウへ突進する!
posted at 17:54:13

「アイエエエエ!ナ、ナ、ナムアミダブッダ!ナムアミダブッダーマゲドン!アムダブッダブツ!アイエエエエ!」「息を止めろ!」左肩に錯乱したアンドウを担ぎ上げる!「アバー!」青白い炎の塊が複数、ニンジャスレイヤーの背中に追いすがる。「イヤーッ!」両肩に重荷を担いだまま、窓の外へ脱出!
posted at 17:59:26

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posted at 18:48:56

「ム……」シンゴの意識を揺り起こしたのは、冷たい土の上に降ろされた感覚だった。彼がまず見たのは上空の星一つ無い夜空だ。サウナマシンめいた暑い空気。すぐに痛覚が戻る。背中に走る刺すような激痛に顔をしかめ、シンゴはなんとか半身を起こした。そしてすぐに自分が置かれた状況を把握した。
posted at 18:59:10

彼は囲まれていた。闇に。そして、闇の中に無数に浮かぶ青白いヒトダマに。
posted at 19:07:41

絶望的な心持ちでどうにか立ち上がる。すぐそばに座り込む狂信者のアンドウがシンゴの背中の方向をぼんやり見つめている。暑い空気は背後からだ。シンゴは呻き声をあげ振り返る。
posted at 19:10:08

熱の源はさっきまで彼らのいた廃テンプルだ。崩れかかったぐずぐすの木造建築は超自然の青い炎に不気味に包まれ、自重に耐えかね、さながら巨大キャンプファイヤーめいて、滅びのときを迎えんとしていた。そしてその炎を逆光として対峙するのは、二人のニンジャである。
posted at 19:16:02

シンゴはもはや、状況を分析する事を諦めた。何かが起こり、巻き込まれ、この時へ至った。たくさんだ。「私の弱い心がこれを呼び寄せたんだ、私は、アーマゲドンなどとバカな事を。これは不甲斐ない私に課されたブッダの裁きです」座り込むアンドウが涙声で呟いた。
posted at 19:27:48

「そんなワケがあるか」シンゴはデッカーガンに弾薬を込め始めた。「まあ、それならアンタもせいぜい反省して仕事でも探すがいいさ。全て終わったらな。生きて出られたらな……」そして、逆光の中で対峙する二人のニンジャが、交錯した。
posted at 19:32:42

「「イヤーッ!」」
posted at 19:35:41

(「ネクロマンティック・フィードバック」#5 終わり。 #6へ続く
posted at 19:37:49

(親愛なる読者の皆さん:更新がない事を訝られている方も多いと思われます。これは、翻訳チームの幹部がメキシコニンジャセンターへ研修に派遣された人員不足と病気の蔓延が重なった為です。現在Aレベルのエマージェンシー扱いで復旧に勤めております。ご不便をおかけして申し訳ございません。)
posted at 18:04:32

NJSLYR> ネクロマンティック・フィードバック #6

110302

「ネクロマンティック・フィードバック」#6
posted at 13:58:24

そして、逆光の中で対峙する二人のニンジャが、交錯した。「「イヤーッ!」」
posted at 14:01:13

ニンジャスレイヤーとブラックヘイズ、二者のチョップとチョップがぶつかり合い火花を散らす。「「イヤーッ!」」さらに膝蹴りと膝蹴りがぶつかり合い相殺!
posted at 14:16:06

「イヤーッ!」一瞬早くブラックヘイズが残る手で水平チョップを繰り出す。コロナビールの瓶を切断するカラテ・デモンストレーションよろしく、首を狩ろうというのだ。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは滑らかにブリッジしてそれを回避!
posted at 14:18:55

「まだだ!イヤーッ!」ALAS!振り抜いたブラックヘイズの手の平から黒いネットが射出される。これを投網のように打ち振ってニンジャスレイヤーを再度捕獲しようというのだ!
posted at 14:33:40

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはブリッジしたまま素早く逆四つん這い走行を繰り出し、ギリギリで投網を回避した!タツジン!そのまま勢いをつけ、バックフリップして立ち上がった。「同じジツで私を出し抜けると思うなよ」ニンジャスレイヤーはブラックヘイズを指差し、宣告する!
posted at 15:00:17

「フン、では工夫でもするか。面倒な奴め」ブラックヘイズは平静に答え、両手からヘイズネットを射出、それぞれでレンガ大の瓦礫を絡め取った。「イヤーッ!」アブナイ!振り回される瓦礫がヨーヨーめいた伸縮する軌道を描いてニンジャスレイヤーを襲う!
posted at 15:06:44

並のニンジャであれば瓦礫を手で受け、ガードしようとしたことだろう。ブラックヘイズの狙いもそこであった。だがそれは悪手!瓦礫の目的は打撃ではなく先端の重りだ。動きを止めれば二本のネットは容易に相手をスマキにしてしまうのだ。ニンジャスレイヤーのニンジャ洞察力はそれを喝破していた。
posted at 15:12:20

ニンジャスレイヤーの採った行動はいかに?彼は逆に間合いを詰めにいった!「イヤーッ!」側転である!挟み込むように繰り出された瓦礫ネットよりも速く、ブラックヘイズへ向かって二度側転!「工夫が要るのは貴様だな!」ブラックヘイズが不敵に笑う。
posted at 15:22:49

ブラックヘイズは即座に両手首のネットの接続を外し、飛び込んでくるニンジャスレイヤーを包み込むように第三のヘイズネットを展開する腹づもりであった。ナムサン!確かにこれでは廃テンプルでの失敗の二の舞だ!「イヤーッ!……何だと?」ブラックヘイズは訝る。ネットが手首から外れない!
posted at 15:38:25

「イヤーッ!」次の瞬間、ニンジャスレイヤーはブラックヘイズの視界から消えた。地面である!側転から超低空のスライディングタックルに移行したニンジャスレイヤーは、一瞬の隙を突いてブラックヘイズの真下へ潜り込み、空中へ蹴り上げた!「グワーッ!」
posted at 15:46:03

ナムアミダブツ!なんたるタツジン的なスライディング攻撃カラテ!ニンジャ反射神経を持つ者ならば見えたことだろう。ニンジャスレイヤーはまず滑走しながらブラックヘイズの足首を払って転倒させ、その直後に、転倒しかかるブラックヘイズの背中を垂直に蹴り上げたのである!
posted at 15:52:38

そして、見よ!空中へ打ち上げられるブラックヘイズの両手首、ネット射出装置にそれぞれ食い込んだクナイ・ダートを!ニンジャスレイヤーは二度の側転の最中にそれらを投擲し、射出装置に寸分違わず命中させていたのである!これではネットを脱落できないのも道理!
posted at 16:01:05

「イヤーッ!」空中のブラックヘイズへ、ニンジャスレイヤーは地上からスリケンを投げ続ける。実にその数、40連射!マトアテ!「イヤーッ!」ブラックヘイズもさる者、手首から伸ばしたままの瓦礫ネットを高速で振り回し、スリケンの嵐を防御!両者一歩も譲らずの構えだ!
posted at 17:19:31

「噂通りの使い手か!面倒な奴だ!イヤーッ!」空中でスリケンの連射を防ぎ切ったブラックヘイズが反撃に出る。ネットを打ち振ると、それまでしっかりと絡めとられていた瓦礫が解き放たれ、ニンジャスレイヤーへ射出された。遠心力が十分に乗って危険!「イヤーッ!」それが二発!
posted at 17:43:29

ニンジャスレイヤーは中腰で立ち、飛来する瓦礫を待ち構える。何らかの策があるのだ。だがその時、両者にとって思いがけず、その二つの瓦礫弾は空中で青く燃え上がり、爆発四散した!「「グワーッ!?」」
posted at 18:11:56

不意の爆発に見舞われ、二人のニンジャは地面に投げ倒された。ナムアミダブツ!言わずもがなそれはウィルオーウィスプのヒトダマ・ジツである!見よ!青く燃え上がる廃テンプルの焼け跡を中心に、邪悪なプラネタリウムめいてヒュンヒュンと夜空を切り裂いて旋回する無数のヒトダマを!
posted at 19:21:15

「ア……アアー!アアー!」もはや意味のある言葉を口にする気力すら無く、アンドウは頭を抱えて地面に伏せた。その上を飛び交うヒトダマ!周囲を囲む墓地に埋葬された死者すべてからウィルオーウィスプが抽出したヒトダマ達だ。
posted at 19:28:25

ニンジャスレイヤーは頭を振ってなんとか起き上がる。そこへ追い討ちとばかりに飛来するヒトダマを横跳びに躱し、彼は廃テンプル跡の巨大な火柱を見やる……「アバーッ!俺は、俺はウィルオーウィスプ=サン!アバーッ!」炎の中から絶叫が轟きわたる。
posted at 20:32:40

「やれやれ、ここまでだ」離れた場所へ吹き飛ばされていたブラックヘイズが立ち上がる。インカム型IRC送信機を操作し、二言、三言、指示らしき言葉を呟いたのち、ニンジャスレイヤーへ向き直った。
posted at 20:43:57

「これ以上貴様とやっても時間の浪費にしかならんようだ。ウィルオーウィスプの戦闘能力も事前情報と違いすぎる。引き際だ」「何?」はるか上空からヘリコプターのローター音が降ってくる。「俺は降りる、と言うことだ。せいぜい貴様のカラテであのウィルオーウィスプを止められるか、やってみろ……」
posted at 20:47:25

「イヤーッ!」返答がわりにニンジャスレイヤーはスリケンを投げた。ブラックヘイズが左手を振ると、ヘイズネットは易々とスリケンを絡め取った。ブラックヘイズの頭上へ、ヘリコプターからのロープが落下する。
posted at 20:51:28

「サラバ!貴様の生存は期待せんでおこう!」ブラックヘイズがロープをつかんだ瞬間、その体は垂直に天高く跳ね上がった!「オタッシャデー!」
posted at 20:52:21

「オノレーッ!」天を仰ぐニンジャスレイヤーのもとへ複数のヒトダマが飛来する。転がってその炎を避けながら、ニンジャスレイヤーは瞬時に判断を、気持ちを、執着を切り替えた。彼は弾かれたように真っ直ぐに駆け出す。進路は廃テンプルの火柱だ!
posted at 20:59:21

もはや廃テンプルには骨組みすら残らず、ただおぞましい光のわだかまりが炎を夜空に吹き上げるばかりである。そしてその中から今、ゆっくりと人型の炎が身を乗り出し、全速で殺到するニンジャスレイヤーへオジギした……「アバー、俺はウィルオーウィスプ=サン!アバーッ!」
posted at 21:02:37

恐竜めいた前傾姿勢で一直線に走るニンジャスレイヤーめがけ、たてつづけに周囲のヒトダマが殺到する。しかし彼は青い爆発の中を無傷で駆け抜けていく。なんたるニンジャ脚力!「ニンジャ!」そしてそのままの勢いで跳躍した。「殺すべし!」
posted at 21:33:02

カンフーめいたニンジャスレイヤーの飛び蹴りが、もはや人型の炎と化したウィルオーウィスプの頭部にためらい無く叩き込まれる。「アバーッ!」蹴りをまともに受けたウィルオーウィスプは廃墟のくすぶる炎の中に倒れ込む。着地際のニンジャスレイヤーを狙い、さらなるヒトダマが飛来する。
posted at 21:37:20

ヒトダマが飛来するたび、ニンジャスレイヤーは無駄のない最小限の動きでそれを躱す。赤黒のニンジャ装束は青白い光が飛び交う闇にマイ・ダンスめいた軌跡を描いてゆく。「なんたる神聖!」遠方で眺めるアンドウが落涙する。だがそれは当人にとってみれば死線を前にした際どいやり取りの連続なのだ!
posted at 23:10:08

【NINJASLAYER】
posted at 14:58:45

ヒトダマが飛来するたび、ニンジャスレイヤーは無駄のない最小限の動きでそれを躱す。赤黒のニンジャ装束は青白い光が飛び交う闇にマイ・ダンスめいた軌跡を描いてゆく。「なんたる神聖!」遠方で眺めるアンドウが落涙する。だがそれは当人にとってみれば死線を前にした際どいやり取りの連続なのだ!
posted at 14:59:45

「アバー、ドーモ、俺はウィルオーウィスプ=サン、ドーモ!」ヒトダマの回避を強いられるニンジャスレイヤーを前に、炎の塊が再び起き上がる。テンプルの廃材にくすぶる炎を取り込み、その輪郭は一回り大きい!
posted at 15:06:55

「アバーッ!」いまや墓地を漂っていた全ヒトダマが一点を目指していた……ニンジャスレイヤーを!ニンジャスレイヤーは嵐の如き踏み込みでウィルオーウィスプの真正面に立ち、腰を落としたポン・パンチを繰り出す!「イヤーッ!」「アバーッ!」
posted at 15:10:19

ウィルオーウィスプが後ろに吹き飛ぶ。飛来する無数のヒトダマを振り切り、ニンジャスレイヤーは嵐の如き踏み込みで吹き飛んだウィルオーウィスプの着地点へ追いすがると、再度ポン・パンチを繰り出す!「イヤーッ!」「アバーッ!」
posted at 15:13:29

ウィルオーウィスプが吹き飛ぶ。包み込もうとする無数のヒトダマを振り切りながら、ニンジャスレイヤーは嵐の如き踏み込みで、なおも起き上がるウィルオーウィスプへ再度ポン・パンチを繰り出す!「イヤーッ!」「アバーッ!」
posted at 15:16:16

ウィルオーウィスプが二、三歩後ろへよろめく。倒れず、踏みとどまった。いまやウィルオーウィスプの燃える体は9フィートを超えているように見える。ニンジャスレイヤーはさらなるポン・パンチを繰り出す!「イヤーッ!」「アバー、ドーモ」
posted at 15:20:17

ウィルオーウィスプは腹部に打撃を受けながら踏みとどまった。そして燃える手でニンジャスレイヤーの両肩をつかんだ。「アバー」「グワーッ!?」振りほどこうともがくニンジャスレイヤーの頭上、背中へ無数のヒトダマが降りかかる!ニンジャスレイヤーの体が青く発火した!「グワーッ!」
posted at 15:22:03

おお!なんたることか!ニンジャスレイヤーの燃える背中へ、際限なくヒトダマはたかり続ける!「グワーッ!」「アバー、ドーモ、アバー」「グワーッ!」ウィルオーウィスプは両肩をつかんで離さない。このままではニンジャスレイヤーといえど焼き魚めいた黒焦げの死体に変わり果てるのも時間の問題だ!
posted at 15:42:33

その時だ!BLAM!BLAM!BLAM!ウィルオーウィスプの燃える頭部が真横から殴られたような衝撃を受けてねじれた。「アバー、」BLAM!BLAM!BLAM!「ア、バ、」BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!
posted at 15:48:41

「とっととくたばれバケモノめ」発砲しながらゆっくりと近づく中年デッカーの鬼の形相が炎の照り返しを受けた。装填された弾丸が撃ち尽くされ、デッカーガンの弾倉が地面へ落下する。もう片方の手には鋭利で無骨な武器が握られている。マチェーテ?否、それは割れ砕けたステンドグラスの巨大な破片だ!
posted at 15:58:40

「アバー」首だけを回し、ウィルオーウィスプが新たに現れた敵を視界に収める。ジゴクめいた虚無的な瞳に見据えられても、シンゴはひるまない。怒りと憎悪が彼の心にヒトダマのごとくくすぶり燃えているからだ。
posted at 16:23:44

シンゴは弾の切れたデッカーガンをいきなりウィルオーウィスプの燃える顔面へ投げつけた。避けようともせず、銃身は顔面に当たり鈍い音を立てる。「アバー」まるで効かないのだ!だがシンゴの狙いはそれではない。憎き敵の脇腹から心臓にかけて、下から上、彼はステンドグラスを深々と突き刺す!
posted at 16:31:59

「アバーッ!」ウィルオーウィスプが身悶えした。たちまち、その巨体を覆う青い炎がステンドグラスの破片を伝わり、シンゴに引火した!「グワーッ!」ナムアミダブツ!またひとつ新たな人間松明がそこに!「アイエエエエエ!おしまいだあ!」アンドウが慟哭する!
posted at 16:43:34

もはや万事休す……いや、見よ!ウィルオーウィスプの両手の力が緩み、火だるまのニンジャスレイヤーが動いた!「イ……イヤーッ!」彼が摑んだのは、心臓を突き抜けて突き出したステンドグラスの破片である。力任せにそれを反対側に引き抜く!「イヤーッ!」「アバーッ!?」
posted at 16:48:08

「イ…イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはコマのように身体を回転させ、引き抜いた刃を横薙ぎに払った。「アバーッ!」手負いとは思えぬ敏捷性でウィルオーウィスプが間合いの外へ跳び離れ、それを躱す。だがニンジャスレイヤーは動きを止めない。「イヤーッ!」コマ回しじみた回転の速度が増してゆく!
posted at 16:52:30

ニンジャスレイヤーのコマ回転が等比級数的に速度を上げる。背中を焼いていた青い炎が不可思議な遠心力作用で肩、腕を伝い流れ、刃の切っ先へ移ってゆく。それだけではない。周囲をいまだ飛来するヒトダマまでもが彼の竜巻めいた回転に引き寄せられ、刃の先へ、同様に集まってゆくではないか!
posted at 17:02:41

「アバーッ!」ウィルオーウィスプの身体を覆う炎もまた、目の前のニンジャスレイヤーのタツマキ回転へ引き寄せられていった。炎の衣が剥がされると、そこに立っているのは黒く焼け焦げたボロに身を包んだゾンビー・ニンジャである。一方、燃える刃の回転は今や極限に達せんとしていた!
posted at 17:13:18

「ち、血の使徒!」アンドウが叫んだ。「ビ、ビジョンが成就した!何もかも! 血の使徒は燃える剣をその手にもて、そして朝日が罪を、罪を……朝日が!」アンドウは東の空を指差した。朝日!
posted at 17:14:57

「イヤーッ!!!」ニンジャスレイヤーが青く燃える刃を、投げた!「アバ……」高速回転する刃がウィルオーウィスプの胸板を割り、切り裂き、そして「……アバーッバババババーッ!」真横に切断した!切断面に青い炎が燃え移り、一瞬にして、二つに別れたボディを焼き尽くす!「アーババババーッ!」
posted at 17:20:11

「ヌウッ!」回転を終えたニンジャスレイヤーはがっくりと片膝を突き、ダメージに耐える。ウィルオーウィスプはどうか。分断された身体はあっという間に炭化し、明け方の風に吹かれるまま、ホタルめいた青い光の粒とともに、バラバラに散ってゆく……!
posted at 18:01:54

燐光に混じって、「サヨナラ」という言葉がニンジャスレイヤーの耳に届く。己の自我を持たぬままに殺戮を繰り返したゾンビーの、それが最後の呟きであった。
posted at 18:04:48

「あ……ああ!アーマゲドン!」アンドウはニンジャスレイヤーの前に飛び出し、いきなりドゲザした。ニンジャスレイヤーは訝った。アンドウは必死で地面に額を擦り付け、嗚咽を漏らす。「血の使徒よ、答えたまえ!これは世界の終わりなのでしょうか?貴方はなぜ私の妄想から現世へ生まれ出でたのか?」
posted at 19:28:52

「知らぬ」赤黒の黙示録ニンジャは言い捨てた。「私はオヌシの妄想ではない。そこの男にはまだ息がある。くだらぬ世迷い言を言う暇があるなら、その男を医者へでも連れてゆけ」そして朝日の方角へ歩き出した。
posted at 19:32:46

「私は!」アンドウが去りゆく後ろ姿に叫ぶ。「私には未来も希望も無い!娘は死んで、生きる意味を失ったのです!私はどうすれば……?辛いのです!辛くて……」アンドウは涙を拭った。影は立ち止まり、少し振り返った。「私に訊くな」それだけ言い残すと、すぐに彼は見えなくなった。
posted at 19:41:36

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posted at 21:48:34

【NINJASLAYER】
posted at 13:28:50

「ネクロマンティック・フィードバック」エピローグ
posted at 13:29:21

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posted at 13:29:36

ダイヌンガ小道の安宿を抜け、通りの多い道路を横切ると、高架下のワン・トークン・ノミヤ屋台村に辿り着く。サッキョー・ライン鉄道のエクスプレスが分刻みのダイヤを死守すべくひっきりなしに通過する騒音と震動の中、サラリマンやブルーカラー労働者はこの屋台村で、無言でオチョコを傾けるのだ。
posted at 13:36:23

高架が続く限り、薄ら潰れた屋台村の列も伸び続ける。重金属酸性雨をかろうじて凌ぐべく。「焼き物」「おマミ」「カシワ・モチ」「人間味」「木の温もり」。屋台が掲げる思い思いのノレンの並びは、色褪せ錆びたブードゥーめいたマンダラである。
posted at 13:40:40

立ち飲み屋台「そでん」。バイオスズメめいて鈴なりに並ぶサラリマンの背中にまぎれ、その男もまた、誰とも言葉を交わす事なくショチューを飲み続けている。
posted at 13:46:09

よくよく見れば、その男の身なりは異様だ。ズタズタに傷ついた黒マントは牧師めいている。もしそれが本当に牧師のもので、しかも略奪品だとすれば、文字通り、神をも恐れぬ所業といえよう。ツバ広の帽子もおかしな組み合わせだ。
posted at 13:50:12

帽子の下は重病人めいて、汚れた包帯をグルグルと乱雑に顔面に巻きつけている。いかにも浮浪者といった様子であるが、そんな疑いを無言で晴らすかのように、男のショチュー・グラスの横には、カジノめいて500円トークンが縦に積み重ねられていた。
posted at 13:55:59

「オヤジ……オヤジもう一杯……」不審な男が枯れた声で呟き、積んだトークンから一枚差し出した。猛烈な酒臭さが温泉ガスのように白い気体となって、乱杭歯が並ぶ口から噴き出た。両隣のサラリマンは鼻白んだが、シツレイにあたるので、無言であった。
posted at 14:00:54

「あいよ……」マツリ・ハッピを着た店主はサイバネ義手でショチュー・ベンダーを操作し、透明な高濃度アルコール液でグラスを満たした。「おいしいハンペンは要らないの?」「……要らぬ……」グラスを受け取る手の指にも汚い包帯が巻きつけられている。
posted at 14:04:13

その時であった。「オヤジ、返済ぃ」「アイエエエエ!」男の右隣で飲んでいたサラリマンが後ろへ吹っ飛んだ。突如現れた巨人に、後ろから首根っこをつかまれ投げ飛ばされたのである。一目でスモトリ崩れとわかるその巨人は身を屈めてノレンに首を突っ込んだ。「金ェ!」
posted at 14:12:14

「アイエエエエ!?イタダ=サン!?」店主は叫んだ。「なぜ!まだ返済日に十日もあります!」スモトリ崩れは丸太めいた腕を伸ばし、カウンター越しに店主の襟首を掴んだ。「それはそっちの都合だろうがあ!今金を出せったら、出すんだよぉ!」「アイエエエエ!そんな無理です!」
posted at 14:16:09

スモトリ崩れの腕には金属製のパイプが巻きついている。スモトリで、しかも、サイバネ手術済みだ!コワイ!「ザッケンナコラー!じゃあ何分待たせるんだ、今すぐ言ってみろ!」「アイエエエエ!」
posted at 14:18:00

「わ、私は商談がありますので」浮浪者風の男の左隣で飲んでいたサラリマンはトークンをカウンターに置き、腕時計を見ながらそそくさと屋台から立ち去った。浮浪者風の男はペースを落とさずショチューを飲み続ける。スモトリ崩れは浮浪者風の男の目と鼻の先に顔を近づけた。「タフガイ気取りかあ?」
posted at 14:22:02

包帯の隙間から、男はスモトリ崩れを睨んだ。「お、お代はいいから帰ってね、アブナイから」首を掴まれたままの店主が震え声で言う。「ザッケンナコラー!スッゾコラー!」「アイエエエエ!」スモトリに一喝され、店主が失禁した。「お?金だぁ金」スモトリは積まれたトークンを無造作に掴み取った。
posted at 14:25:44

「結構あるなコラ!」スモトリ崩れはトークンを自分のガマグチ・ウォレットに根こそぎ収納した。「じゃあこれで三十分待ってやるから腎臓売ってこい。それで150万円払え」「アイエエエエ!」「あー?タフガイコラ、文句アッカコラー?」スモトリ崩れはニヤニヤしながら男に再度、顔を近づける。
posted at 14:29:43

チュン!金属が跳ねるような音が鳴った。スモトリ崩れの顔の中心、鼻があったあたりが、白い円になった。「……え?」みるまにその円の表面に大量の赤い粒が浮かび上がる。鮮血だ。真っ赤な断面図である。「アバ……?」
posted at 14:34:22

チュン!チュン!金属音がさらに二度鳴る。「アバ……」スモトリ崩れは己の両手を覗き込もうとした。無い。手首から先が。断面になっている。
posted at 14:36:20

チュン!チュン!「アバ……」スモトリ崩れが見守る中、再度の金属音。今度は両腕の肘の先が消失していた。血とオイルが断面からこぼれ落ちる。「アイエエエエ!?」店主は床に座り込み失禁した。浮浪者風の男は仁王立ちになりスモトリ崩れを睨む。スモトリ崩れは恐怖し、雨の中を後ずさった。
posted at 14:39:37

「ムカつく野郎だ……」男はスモトリ崩れに向かって一歩踏み出した。「てめぇムカつく野郎だ……ナニサマだ……言ってみろよ……」僧服めいた黒マントの裾から、ガチャリと落ちたものがある。バズソーだ。回転する血みどろのチェーンソーが二つ。バズソーには鎖がついており、鎖はマントの中からだ。
posted at 14:51:27

「俺がてめぇに何をした……黙って飲んでりゃ、いい気になりやがって……」「アバ、アバフガ、アバッ」顔面と両腕から血を吹き出し、スモトリ崩れは何か言おうとした。おそらくは謝罪だ。ガマグチ・ウォレットをまさぐるが、肘から先を消失しており、もがいただけである。
posted at 14:55:51

「俺は!」チュン!チュン!男が腕を振ると、チェーンが跳ね、くくりつけられたバズソーがヨーヨーめいた軌道でスモトリ崩れに飛んだ!巨体の両肩から先が一瞬で切断!「俺はジェノサイド!」「アバフガーッ!」「俺はジェノサイドだ!」「アバババーッ!」「俺は!」「アババババババーッ!」
posted at 14:59:45

バズソーがヨーヨーめいた軌道でスモトリ崩れの両膝を切断!「俺はジェノサイドだ!」「アバババーッ!アバババババーッ!」「死ね!俺はジェノサイドだ!死ね!俺はジェノサイド!」バズソーが四肢の欠損したスモトリの首を跳ね飛ばした!「アバババババーッ!」
posted at 15:03:53

役目を終えたバズソーの回転が止まり、鎖を巻き取られてマントの中へ戻っていった。無残な欠損死体と成り果てたスモトリ崩れを無慈悲に踏みつけ、ガマグチ・ウォレットを拾うと、その男・ジェノサイドは屋台を振り返る事もなく、重金属雨の降りしきる中へ消えて行った。
posted at 15:13:10

「アイエエエ……」店主、隣接する屋台のサラリマン……惨劇の目撃者達は同時に悲鳴を漏らし、同時に失禁するのだった。
posted at 15:13:54

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posted at 15:32:45

重金属雨の降りしきるトコシマ区の外れ。四つの区をまたぐ自治体の死角に、その巨大な葬儀施設は存在する。黒光りする鬼瓦と煤煙を吹き上げる巨大なエントツ。入り口の門に飾られた「男」「女」「ブッダ」と書かれたノレンをかきわけ現れた喪服姿の中年男の姿があった。
posted at 15:54:18

トコシマ区のデッカー、シンゴである。彼は顔の半分を包帯で痛々しく覆っている。手もそうだ。ぎこちなくタバコを吸い付ける。吐き出す紫煙はネオサイタマの重苦しい雨の中へ揺らいで溶けていく。
posted at 15:57:24

「やれやれ……タバタよお……」シンゴはタバコを地面に落として踏んで消し、吸殻を拾って、道路脇のポスト型灰皿へ捨てた。
posted at 16:13:59

「こうも殉職続きじゃあ、オレの仕事が増えちまうよ……」迷った末に、結局次の一本を手にする。マッチで火をつけ、吸う。ヒトダマめいた青い火に顔をしかめる。
posted at 16:17:24

「デスネー」コウモリ傘を差した若いデッカーがシンゴの横に立った。「寂しい話ですよね。カミヤマ=サンは僕の最初のセンパイだったんです」タバタである。
posted at 16:26:16

シンゴは舌打ちした。「おまえはしぶとい事だよなあ、生意気によ!」「デスネー、でもそれはシンゴ=サンもですし、アイエエ!」シンゴがタバコの火をタバタの手の甲に押し付けたのである。「行くぞ、車出せ」
posted at 16:27:49

「僕はともかく、よく助かったもんですよ、本当に。センセイあきれてましたよ。まああの、なんとかいう名前の神懸かりの……」「アンドウだ」「そうアンドウ=サン。あの人にアタマ上がらないんじゃないですかシンゴ=サン」「それで言うならお前は俺にアタマが上がらねえんだぞ」「デスネー」
posted at 16:31:54

左様。瀕死のシンゴを病院へ運んだのは、ニンジャスレイヤーの去り際の言いつけを守ったアンドウである。その後彼はシンゴの口利きで、そのままその病院の清掃員として雇われた。神秘的な発言ひとつせず、黙々とモップを動かすアンドウの姿を、入院中のシンゴはよく見かけた。
posted at 16:38:40

「早く車出せよ!タバタ!」「デスネー、今日の現場はオイランハウスですしね!」デッカー・ビークルにドタドタと走るタバタの背中を苦虫を噛み潰した顔で睨んでいたシンゴは、くわえていたタバコを落としそうになった。道路を挟んで右側のアパートの屋上から左側のビルへ、何かの影が飛び移ったのだ。
posted at 16:45:52

人?シンゴが見守る中、さらにもう一つの影が続けて屋上を飛び移った。人だ。シンゴは思わず数メートル走った。「何です?」デッカー・ビークルの窓からタバタがシンゴを見る。「……いや」シンゴは足を止めて首を振り、デッカー・ビークルに乗り込んだ。
posted at 17:07:24

ビークルへ乗り込むシンゴは、あの時の言葉……あの時ウィルオーウィスプに向かっていった謎のニンジャと同じ声を聞いたように思った。「ニンジャ殺すべし」というあの声を。おそらく空耳では無いのだろう。シンゴはビークルのドアを閉め、タバタに言った。「いいぞ、行け」
posted at 17:14:49

「ネクロマンティック・フィードバック」終わり
posted at 17:15:56

NJSLYR> ラスト・ガール・スタンディング #1

110408

ラスト・ガール・スタンディング
posted at 17:32:11

<「日刊コレワ」の三面記事>
posted at 17:35:58

【怪奇?死んだと思ったら生きていた!】もはや非常事態宣言レベルの年間自殺者数を抱える我が国において、またしても悲痛な事件である。キョート・リパブリックのとある進学校で校舎屋上から飛び降り自殺をはかったXXが、下で掃除をしていたYYにぶつかったのである。なんたるいたましい偶然!
posted at 17:40:49

二人の高校生は頭蓋骨と脳幹に損傷を負い、もはやいかなるサイバネティクスを用いても蘇生は不可能と思われた。だがしかし、ボンズが病院に到着した時、二人は同時に意識を取り戻し、翌日には揃って退院したというのだ。なんたる奇跡!だがしかし、こんな痛ましい事態を引き起こさぬ為には政権交代だ。
posted at 17:45:19

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posted at 17:46:11

彼女ヤモト・コキは流水に浸されたような奇妙な時間感覚にとらわれ、目の前で起こっている出来事をまるでスローモーションのように認識していた。二人の男が奥でクラスメートのアサリを押さえつけ、制服を剥ぎ取っている。ヤモトは壁際で尻餅をついている。左頬を殴られて口の中を切り、出血している。
posted at 18:05:02

アサリに乱暴しているのが二人。倉庫の出入り口に立って外を見張っているのが一人。全部で三人だ。皆、体格がよく、一人はオチムシャ・ヘアーだ。ヤモトの思考は乱れる。前後の記憶が曖昧だ。ここはどこ?何故こうなった?アサリは必死で抵抗するが、馬乗りになった男は容赦無くその顔を殴る。
posted at 18:09:56

助けなきゃ。助ける?どうやって?助けられるとも。どうやって?アタイは何でもできる。どうやって?アタイの力。シ・ニンジャの力。さあ使え。私の力。存分に使え。さあ使え。どうやって?考える必要なんて無い。さあ。これでさようならだ。今から私はアタイだ。さあ。サヨナラ。
posted at 18:14:31

左頬の痛みが引いて行く。ヤモトは暖かい力の流れが下腹部から全身へ流れて行く感覚を味わう。快い、だが同時に、ぞっとする感覚を。ヤモトは立ち上がろうとする。びっくりするほど体は軽い……
posted at 18:16:56

「イヤーッ!」「アバーッ!?」
posted at 18:17:40

ヤモトはアサリを見下ろすオチムシャ・ヘアー男の背後へ跳んだ。回転の勢いを乗せた肘打ちがそいつのコメカミに叩き込まれると、反対側のコメカミが風船のように裂け割れ、砕けた頭蓋骨や脳漿が噴出した!「アバババババ、アババババーッ!」
posted at 18:21:43

ヤモトは己の力に戦慄した。なんだ?これは?アサリにのしかかってパンツを下ろしていた男がヤモトを見る。「……え?」「イヤーッ!」「アバーッ!」ヤモトの蹴りが男の首を直撃、引きちぎれてふきとび、べシャリと音を立てて壁の染みとなる!「アイエエエエ!」アサリが絶叫した。
posted at 19:40:05

「スッゾコラー!」騒ぎに気づいたもう一人が殺到する。状況をよくわかっていないのか、ヤモトを脅そうと、得物のバタフライナイフを取り出し突きつける。「ザッケンナコラー!」鼻先をかすめる刃をヤモトは人差し指と中指で挟み、受け止めた。「な……なんだ?こいつ?」もがくが、ナイフは動かない。
posted at 19:43:28

「イヤーッ!」ヤモトはもう一方の腕で、男の肘を打った。「グワーッ!?」男の腕はあらぬ方向へ折れ曲がり、肘骨が飛び出す!ヤモトは男の手からバタフライナイフを奪い取ると、男の鼻面を斜めに切り下ろす!「イヤーッ!」「グワーッ!」切り上げる!「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 19:47:11

「イヤーッ!」切り下ろす!切り上げる!切り下ろす!切り上げる!「アバババババ、アババババ、アバババババ、アババババーッ!」
posted at 19:48:26

顔面を細切れにされた男はショック死して仰向けに引っくり返った。ヤモトはバタフライナイフを振り回した。カシャン!カシャン、カシャン!カシャン!まるで扱い方をずっと昔から知っていたかのようだ。噴き出すアドレナリンにおののく。酸鼻な血の匂い。これをアタイがやったのだ……!
posted at 19:54:55

「ヤ、ヤモト=サン?」アサリがよろめきながら立ち上がった。殴られて顔を腫らし、服も破られている。ヤモトはアサリを力強く抱きしめる。「ドーモ、アサリ=サン。もう大丈夫。帰ろう」「ヤ……ヤモト=サンは大丈夫?」「大丈夫。ところで、ここはどこ?」
posted at 19:59:08

--------
posted at 19:59:49

こうしてヤモト・コキは転校二日目にして下校中に激しく負傷し、二週間の入通院を余儀なくされた。ネオサイタマのマッポー的治安状況を鑑みれば、学級委員のアサリともども、命拾いしただけでも僥倖とされた。
posted at 20:41:43

強姦殺人目的のヨタモノに襲われたところへ別のシリアルキラーが乱入し、二人は命からがら逃げ出した。マッポにはそのように捉えられている。
posted at 20:42:32

ヤモトは一人で黙々と朝食のヒジキ・トーストを食べ、着替えると、装甲仕様のバスに乗ってハイスクールへ向かう。バスの装甲はものものしい。治安のよくない区域を通るので、投石や火炎瓶に備える必要があるのだ。
posted at 20:55:49

車内で一番後ろの座席に座るのは、同じハイスクールの制服を着た男子生徒だ。アフロヘアーでティアドロップ・サングラスをかけている。異様ななりである。無言でじっと見てくるその男子生徒へ視線を合わせないように、ヤモトは外の景色に集中する。
posted at 21:22:22

「ヤモト=サン!」停留所で乗り込んできたアサリが声をかける。口元にあざが残り、憔悴しているが、つとめて明るく振る舞っている。「オハヨウゴザイマス。ヤモト=サン、もう大丈夫?」「ドーモ、アサリ=サン」ヤモトは笑顔を向けた。「あなたこそ」「私、今日からなの」「アタイもだよ」
posted at 21:28:31

ヤモトはアサリを嬉しく思った。アフロヘアーの注視を意識せずにすむのは有難い。なによりヤモトはアサリのことが好きだった。学級委員の義務感もあろうが、転校したばかりのヤモトにつとめて親切にしてくれている。繁華街にも連れ出して……それが二週間前の酷い事件の原因にもなってしまった訳だが。
posted at 21:33:05

極限の状況を共有したことで、ヤモトとアサリのつながりはより強くなったに違いない。ユウジョウ!つとめて他愛の無い会話をしばらく交わしたのち、「アサリ=サン」ヤモトは耳打ちした。「何?」「一番後ろの席のあれ、誰だかわかる……」アサリはアフロヘアーを見やり、ぎょっとして「知らない!」
posted at 22:47:57

「ずっとアタイを睨んでるでしょ」「ええー……」アサリはこわごわ横目で見ながら、「あんな恐いヤンク、うちの学校で今まで見たこと無いけど……あなたみたいに、転校生かもしれないね……」ぼそぼそと小声で会話するうち、バスはハイスクール正門前に停留する。
posted at 22:51:50

「アタバキ・ブシド・ハイスクール」。巨大な校長彫像と進学スローガンのノボリが生徒を出迎える。「遅刻をしない」「テスト重点」「皆勤賞」。真鍮のダルマが校舎屋上から校庭を睥睨する。
posted at 23:00:47

授業中、ヤモトは殆ど上の空であった。あの日の恐るべき暴力衝動、シ・ニンジャという単語の意味、自分に向かって語りかけ、そしてサヨナラと言い残し消滅した声。そういったものの正体は結局わからずじまい、二週間が経っても答えが出ないままだ。
posted at 23:16:40

あの日発揮した人間離れした運動能力はヤモトから去らず、あれ以来、ヤモトの奥底に内在している。今ここで窓ガラスを飛び蹴りで蹴破り、そのまま校庭へ前転しながら飛び降りる事も、やろうと思えば問題無くできるだろう。まるで呼吸するように。
posted at 23:21:39

「ではここの一節を、コセキ=サン。ドーゾ」「ハイ。『武士は食事しないとヨウジの値段が高騰してよくない』です」「だいぶできています」センセイの質問、それへの応答は遠くで聞こえる。
posted at 23:54:34

「シ・ニンジャ」がヤモトの体に宿ったのは、きっとあの日より前だ。今のヤモトが手当り次第に物や人を壊して回らないのは、そうしたくないから。つまり、以前からこの力はヤモトの中にあり、収納されていたのだ。必要となった時に引き出されたのだ。……では、いつから。ヤモトには心当たりがある。
posted at 00:06:02

驚くほどに晴れたあの日のキョート・リパブリック、太陽の光を受け、ゆっくりと降ってくる影。校舎屋上から落下した男子生徒。それをなす術無く見上げていた自分、暗転する意識、恐怖。
posted at 00:10:05

あのときヤモトの中に、何かが入り込んだのだ。そしてそれが故にヤモトは生きながらえた。そして飛び下りた男子生徒も。飛び下りた男子生徒も……生き延びた……?
posted at 00:24:25

(ラスト・ガール・スタンディング #1 終わり。 #2へ続く#njslyr
posted at 00:30:38

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 15:56:33

NJSLYR> ラスト・ガール・スタンディング #2

110411

「ラスト・ガール・スタンディング #2」 #njslyr
posted at 11:52:12

(女子高生ヤモト・コキは転校まもなく繁華街で暴漢に襲われる。死の危険に際して、彼女の奥底に眠っていた名付きのニンジャソウル「シ・ニンジャ」が覚醒、暴漢を惨殺。二週間の入院を経て登校した彼女に待ち受けるものは何か?)
posted at 11:56:23

「ザッケンナコラー!」「スッゾコラー!」窓の外で罵声。ヤモトは我にかえった。「シャッコラー!」「ナマッコラー!」「アッコラー!」ヤクザ・スラングとヤンク・スラングを織り交ぜた恫喝の文句だ。コワイ!授業中であるが、生徒は先を争って席を立ち、窓にかじりつく。
posted at 12:25:42

「アイエエエ!君たち!授業の途中ですよ!」「おい、見ろよ!」「誰だあいつ……」「あれだよ、転校生……」「抗争?」「髪型が……」「大丈夫なの?」口々にさえずり合う生徒たち。「君たち!席に戻って!」「だってセンセイ、他校の奴らですよ、いっぱいだよ」「アイエエエエ!?」
posted at 12:29:28

ヤモトはアサリの隣に立った。アサリはヤモトを見て、「ほら、あれ、朝の」校庭を指差した。ナムサン!他校の制服姿のヤンク三十人超が校門を突破、そして生徒の一人と対峙している。後ろ姿であるが、そのアフロヘアーはあまりにも特徴的だ。
posted at 12:33:35

ヤンクとは、反社会的な高校生が学校単位で組織する危険な武装自警クラン構成員の総称である。日本において、公教育制度の成立とともにその存在はあった。戦後混乱期が生徒に自衛を要請したのである。今となっては、見ての通り、社会秩序を乱すばかりの集団だ……。
posted at 12:39:36

「ダオラー!」「ナンオラー!」ヤンクはリベットを打った制服をてんでバラバラに着こなし、その半数が違法改造されたスクーターにまたがっていた。もう半数は、そのスクーターの後ろに乗って移動してきたのだ。違法な二人乗り行為である!
posted at 13:03:56

スクーターにはサムライめいた巨大な旗が大量に設置されていて、丸みを帯びた書体でピンクの威圧的スローガンが書き込まれている。「毎日暇している」「負けぬ」「恐怖」「大漁」「勉強する変わりにケンカだ」「ホームラン」。頭目と思われるスモトリ級の巨漢が釘バットを振り上げた。「ダーラー!」
posted at 13:08:26

お互いにアイサツは済ませたのだろうか?「とっとと始めるぜ。メシの時間だ」アフロヘアーは腰に手を当て、挑発した。「ザッケンナコラー!」頭目は釘バットをためらいなくアフロヘアーへ振り下ろす。ナムサン!だが、おお、見よ!彼の頭がトマトめいて潰れると誰もが予想したが、そうはならなかった!
posted at 13:33:38

「イヤーッ!」アフロヘアーは片手で釘バットを掴み、遮ったのである。ヤモトの首筋を、ざわざわした感触が駆けた。「ナンオラー?」「スッゾコラー?」ヤンク達はお互いに顔を見合わせ、あるいはわけもわからず叫んで威嚇した。頭目は釘バットを持ったままブルブルと震えている。
posted at 13:38:25

ヤモトは自分がバタフライナイフを止めた時の感触を思い出していた。頭目は釘バットを引くこともできないのだ。「お前ら、死ぬんだぞ」バットを掴んだまま、アフロヘアーが不敵に言う。校舎の会話が教室のヤモトの耳に入るのはなぜか。無論それはヤモトに備わったニンジャ聴力のためだ。
posted at 13:42:15

「あいつ…!」「どうしたの?」アサリがヤモトを不安げに見つめる。あいつ、何かやるつもりなのか、ここで?ヤモトの胸騒ぎが強まる。あのアフロヘアーは自分の同類だ。ヤモトはこの正体不明の直感に疑問を持たなかった。実際その直感はアタリである。ヤモトは彼のニンジャソウルを知覚しているのだ。
posted at 14:12:10

「スッゾコラー!」取り巻きのヤンク軍団は興奮し、スクーターを空吹かしする。カミナリめいた騒音が教室の窓ガラスを震わせる!「ヘイヘイ!ヘイヘイ!」ヤンクのスクーターが数台、睨み合う頭目とアフロヘアーの周囲をグルグルと走行し始める。学校の管理者は見て見ぬ振りを決め込んだか、無反応!
posted at 14:20:59

ヤモトは衝動的に窓を蹴破って校舎へ飛び降りそうになった、そして思い留まった。そのときだ!「あれは!」「何だ?」「手品?」「コワイ!」生徒達がざわめいた。その時にはもう、全てが終わっていた……まさに一瞬の出来事だった。
posted at 14:30:30

それは白いコロイド光だった。全てのヤンクの頭部、鼻や口から、白い光の筋がアフロヘアーのかざした左手へ向かってまっすぐに伸び、集束したのだ。クモ糸か何かのようなそれが見えたのは一秒にも満たない。直後、旋回していたバイクはコントロールを失い転倒、スピンしながら地面を滑った。
posted at 14:33:56

がくり、がくり、がくりがくりがくり!ヤンク達は主を失ったジョルリ人形めいて、くずおれ、倒れ、スクーターから滑り落ち、倒れ伏した!頭目とて例外ではない!30人のヤンクが横たわる中、アフロヘアーただ一人が立っていた。「ヘッ!」彼が侮蔑的な笑いを吐き捨てたのをヤモトは聞き取った。
posted at 14:40:53

校門の外、数台の装甲ビークルがサイレンを鳴らしながらドリフトし、停止した。学校管理者の通報を受けたマッポが到着したのだ。「あー君!そのまま、そのまま!動くと私たちは君を撃つかもしれない!そのままだぞ!」拡声器から轟く警告。ジュッテや鎮圧銃を手に手に構えたマッポが次々に降りてくる。
posted at 14:50:24

ヤモトは教室を飛び出していた。「ヤモト=サン!?」「気分が悪いの」アサリに短く答え、階段を駆け下り、廊下を走る。上履きのまま玄関を走り出ると、校庭では大人しくマッポに囲まれたアフロヘアーが今まさに連行されようとしていた。地面には倒れて動かないヤンク達……
posted at 15:20:25

「殺したの!?」ヤモトは叫んだ。アフロヘアーはヤモトを見返した。口元のニヒリスト的な笑みが一瞬だけ消えた。「さあ歩け!」チョウチンを持ったマッポがアフロヘアーの背中をどやしつけた。「痛え、被害者ですよ俺は」アフロヘアーはのんびりと答える。「チッ、話は署で聞く!歩け」「ハイ、ハイ」
posted at 15:28:08

【NINJASLAYER】
posted at 13:18:34

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posted at 13:48:10

「オイッ!ショーゴー・マグチ!」スチール・ショウジ戸の覗き穴が開き、ドスのきいた声が呼びかけた。ショーゴーは1ユニットしかないタタミの上で膝を折って寝ていた。隣にはカワヤ式の便座がある。「ショーゴー!聞こえねえか!お迎えだぞ!一生そこにいてえのか!」
posted at 16:08:28

「まだここに来たばっかりじゃん」ショーゴーはアフロヘアーをいじりながら起き上がった。「まあいいや。だから俺は無実だって言ったろ、勝手にあいつらが心臓発作でさ」「黙れ!」「お迎えって、誰だよ」「……」ショウジ戸の向こうが沈黙する。
posted at 16:12:04

返答の代わりにスチール・ショウジ戸が開いて、照明の光が留置室に入ってきた。室外へ出ると、廊下では看守ともう一人、スーツ姿の男が待っていた。「ドーモ。ショーゴー=サン」スーツ姿の男がショーゴーにオジギした。「私の名はウミノです。探すのにちょっと難儀しました。お会いできて嬉しいです」
posted at 16:33:51

「誰よアンタ」ショーゴーはアイサツを返さず、アフロヘアーをいじりながら態度悪く言った。現代的退廃高校生態度!一瞬の気まずい沈黙があったが、ウミノはにっこり笑った。「君の身元引受人ですよ。まあ、君が望むならあのまま大量殺人事件の容疑者になるのもいいが」
posted at 16:42:44

ショーゴーはアフロヘアーをいじりながら言った。「なんかアンタ気に入らねえ。じゃあ俺、このままここで容疑者になるわ」「ま、待った!待った!」ウミノは笑顔のまま慌てて、「本当に害意は無いんですよ、ここではちょっとね、色々言うのがはばかられてねェ」看守へ気遣わしげな視線を送る。
posted at 16:45:28

「言やいいじゃん」ショーゴーは看守に向けて手をかざした。「ア……アババーッ!?」看守の口から白い光が伸び、ショーゴーの手のひらに吸い込まれる!直後、看守は白眼を剥いて床に倒れた!ナムアミダブツ!「どうだ、これで。邪魔者、いなくなったぜ」ショーゴーは薄笑いをウミノに向けた。
posted at 16:51:21

ウミノの反応はショーゴーの予想外だった。それまでの笑顔がかき消え、酷薄な目つきがあらわられたのだ。「チッ。狂犬め」カタナを交差させた意匠の金のバッヂが不穏に輝いた。「教育が要るか?大人をなめるなよ」「何だと」「イヤーッ!」
posted at 16:56:41

「イ、グワーッ!?」ショーゴーは反射的にウミノへ「力」を用いようとしたが、まるで遅かった。手をかざそうとした時には既に顎をイタリア靴の爪先で蹴り上げられ、天井に頭部をぶつけて落下!アフロヘアーがクッションとなったが顎は蹴りを受けて外れ、発声ができぬ!「フガ、フガフガッ!」
posted at 17:00:28

「ガキめ。ケチなニンジャソウルひとつで世界の王になったつもりだろうが、想像力ってもんを働かせろ。な?」ウミノはショーゴーの背中をイタリア靴で踏みつけた。「ゴジュッポ・ヒャッポ。お前は俺らの世界じゃヒヨッコなんだよ。で……」ウミノはジッポーでモノホシ・タバコに着火し、灰を落とす。
posted at 17:21:30

「グワーッ!」アフロヘアーに灰を落とされ、ショーゴーがもがく。ウミノは無慈悲に言った。「お前のせいで予定が前後したが、選択の時間だ。いいか、お前はニンジャだ。俺たちにとって価値がある。お前次第だ。俺とシンジケートに来るか、それともここで死ぬか。今すぐ決めな」
posted at 17:29:18

ショーゴーはうつ伏せのまま苦労して顎を嵌め直した。「ザ、ザッケンナコラー!」「聞こえねえな!」イタリア靴で背中を踏みつけながらウミノは無慈悲に言う。「あらためてアイサツしてやるよ。ドーモ、ショーゴー=サン。俺はソウカイ・シックスゲイツのニンジャ、ソニックブームだ」「ニンジャだと」
posted at 18:41:07

「そうだよガキィ!」ソニックブームが威圧する。「俺もお前もニンジャだ!お前がケチなケンカした事がシンジケートの耳に入ったんだよ、残念だな!遊びは終わりだぜ!」「グワーッ!」踏みつける!「……お前、いつニンジャになった?そう昔でもねえだろう。不注意なんだよ、お前は!」「グワーッ!」
posted at 19:23:00

ソニックブームが足に力を込める!「グワーッ!グワーッ!」苦しむショーゴーの薄れゆく意識に、「あの時」のビジョンがフラッシュバックする。屋上から見上げた眩しい太陽、バイオセミのけたたましい鳴き声。飛翔……
posted at 19:37:02

(ラスト・ガール・スタンディング #2 終わり。#3へ続く
posted at 19:45:10

NJSLYR> ラスト・ガール・スタンディング #3

110416

「ラスト・ガール・スタンディング #3」 #njslyr
posted at 15:46:59

(あらすじ:シ・ニンジャに憑依され、超人的な運動能力を身につけた女子高生ヤモト・コキ。彼女に対し何らかの執着をにおわせるもう一人の転校生ショーゴーは、彼目当てに校内へ乗り込んできた30人のヤンクを謎のニンジャソウルによって殲滅する。)
posted at 15:50:10

(己のニンジャソウルを理由に不敵な態度を取るショーゴーであったが、彼のもとへ身元引受人を名乗って現れたニンジャ、ソニックブームによって、その自信は粉々に打ち砕かれる。無慈悲なソニック・カラテに、ショーゴーは完敗。ソニックブームは彼にソウカイ・シンジケートへの所属を強制した)
posted at 15:54:19

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posted at 16:22:18

ヤモト・コキは体育館の壁を背に、十人弱のジョック(ヤブサメやケマリ、アメリカンフットボール等のカチグミ・スポーツ系男子高校生)に包囲されていた!
posted at 16:25:52

「で、どれぐらいやっちゃえばいいのよ、アキナ=サン」壁めいた肩幅のケマリ部主将が、オイラン・メイクのどぎついチアマイコ部のアキナへ下卑た笑顔を向ける。アキナは鼻を鳴らした。「二度と調子に乗れないようにしてよ。もう学校に来れないぐらいに!あたしがしっかり撮影するから!」
posted at 16:30:35

「ヨロコンデー!俺はこいつみてぇな平らな胸の女の子が好きなんですぜ!」ヤブサメ部の男が赤ら顔でヤモトを指差す。ヤモトはほとんど無表情にヤブサメ部の男を睨み返した。「その顔が気に入らねえんだよ!」アキナが罵った。「後で、泣きながら『許してください』って言うのを撮影してやる!」
posted at 16:34:37

じり、と包囲ジョックが一歩踏み出した。ヤモトは己の中で殺気が膨れ上がるのを自覚した。だがその時脳裏に浮かんだのは、先週連行されていったアフロヘアーの転校生、ショーゴーの事である。あの後あいつはどうなっただろう。とにかく同じ顛末はゴメンだ。ヤモトはアサリの不安気な顔を思い浮かべる。
posted at 16:40:07

それにしてもどこで彼らの不興を買ったものか。ヤモトはぼんやりと記憶を辿る。シ・ニンジャと邂逅したあのひどい夜以来、ヤモトは恐怖という感情を持ったことがない。当然、金髪のチアマイコ・ハニービー達に遠慮をすることも考えない。きっと知らないうちに些細なことが積み重なったのだろう。
posted at 16:52:16

ショーゴーが三十人のヤンクに囲まれることになった理由も、きっと今のヤモトと同じようなものだろう。『あいつもアタイと同じなのだ。』理屈ではなく、直感がそう確信させていた。あいつはああなる前はあんな髪型はしていなかったのではなかろうか。あいつは多分……まさか……「ザッケンナコラー!」
posted at 16:56:06

「!」ヤモトは不意をつかれそうになった。アメリカンフットボール部の男がタックルをしかけてきたのである。ヤモトは反射的に右膝をアメリカンフットボール部の男へ繰り出す。「イヤーッ!」「アバッ!?」一撃でそいつの下顎は砕け、前歯が散弾めいて飛び散った。「え?何?」「イヤーッ!」
posted at 16:58:43

「アバッグワーッ!」ヤモトにシツレイな口をきいたヤブサメ部の男は側頭部にヤモトの回し蹴りを受け、鼻と両目から出血しながらキリモミ旋回してダウン!「なんだこの女!おい!」「カラテ?」「アキナ=サン!聞いてないぞこれは!」「あ、あたしだって知らない!」集団に動揺が走る。
posted at 17:03:33

ヤモトはジョックたちを牽制しつつ、気絶する二人へ視線を走らせた。大丈夫だ。息はある。「……アタイはここでやめておきたいんだけど」ヤモトは言った。ケマリ部の主将は緊張した面持ちでアキナを一瞥した後、進み出た。ボクシングの構えだ。「ザ、ザッケンナコラー!」
posted at 17:21:39

主将はステップワークでジグザグに近づき、ヤモトへパンチを繰り出す。「シュッシュッ!」オンナの手前、情けない真似はできないという事か。ヤモトはこの男を憐れんだ。パンチを難なくかわしたヤモトは主将に密着し、脇腹へ十分に加減したフックを叩き込んだ。「イヤーッ!」「アバババーッ!」
posted at 17:27:33

主将は内臓に激しい衝撃を受け、嘔吐しながら失禁!そのままうつ伏せに倒れ伏す。ナムアミダブツ!吐瀉物を素早く避けたヤモトは集団を今一度冷たく睨んだ。「アタイはここまでにしたいんだけど、まだやる?」「ア、アイエエエ!」アキナは失禁し、180度踵を返すと全力疾走して姿を消した。
posted at 17:33:42

「まだやる?」ヤモトが繰り返した。「やらねえ!」「やらねえ!」「やらねえ!」「やらねえ!」「やらねえ!」残るジョックは全員同時にホールドアップした。気絶していたヤブサメ部の男が震えながら起き上がり、ドゲザめいてオジギした。「スミマセン、どうかこの事はご内密に、どうか」
posted at 17:45:39

女子高生一人を集団で囲んだ挙句、手も足も出ずに撃退された事が知れれば、ジョックの権威は地に落ちる。それはセプクに等しい。「……いいよ」ヤモトは無感情に言った。「もう二度とやめてね」「ヨッ、ヨロコンデ……」ヤブサメ部の男が額を地面に擦り付けるのを無視し、彼女は校舎へ戻って行った。
posted at 18:10:05

「ヤモト=サン!」正面玄関から息を切らせて駆けてきたのはアサリである。アサリはヤモトを見るなり涙ぐんだ。「ヤモト=サン、大丈夫?さっき呼び出されたって……運動部の人達に連れていかれるのを、皆が見たって……」ヤモトは微笑み、アサリの肩に手を置いた。「何もされてないよ。大丈夫です」
posted at 20:16:29

アサリは声を殺して泣いた。ヤモトはアサリの背中をさすってやりながら、これでは自分が慰める側で、役割が逆だ、と呆れた。「アサリ=サン、それより、アタイに用事があったんでしょう。ごめんなさい、すっぽかす事になっちゃって」「ま、まだ大丈夫です」アサリは涙を拭って笑顔を作った。
posted at 20:32:22

「お願いがあったんです」二人で廊下を歩きながら、アサリはおずおずと切り出した。「ヤモト=サン、とても奇遇ですけど、前の学校でオリガミをやっていたと、センセイから今日聞きました。……私もなの」「オリガミ?」ヤモトは驚いてオウム返しにした。
posted at 20:43:35

かつての日常が記憶の沼から思いがけず浮上したような感覚に、ヤモトは目眩を覚えた。そう、アサリの言う通り、ヤモトは以前の高校でオリガミ部に所属しており、高校総合トーナメントにも出場した事がある。
posted at 21:31:43

あの事件をきっかけに、ヤモトを取り巻く環境は何もかも破綻し、変貌した。屋上から彼が降ってきたあの時に。だがあれはきっかけにすぎなかったのだ。既にヤモトの家庭は何もかもおかしかったのだ。オリガミはヤモトに現実の閉塞を忘れさせ、かりそめの力を貸してくれた。ヤモトは夢中で打ち込んだ……
posted at 21:45:58

「ヤモト=サン?」「あ、ハイ、いいよ、勿論いいよ」ヤモトは即答した。アサリはオリガミ部に所属しており、部員が四人しかいないのだという。大会に出るためには五人必要なのだ。ヤモトは二つ返事で快諾した。アサリは歓声をあげて礼を言ったが、感謝したいのはヤモトのほうだった。
posted at 21:54:43

もっと自分は色々なモノゴトを取り戻していかないといけない。ヤモトは心の中で呟いた。転校してきたヤモトには何もなかった。そのまま虚無的でい続けなければいけない理由など、思えば何もありはしないのだ。アサリはそれを気づかせてくれるかけがえの無い友達だ。ありがとう。心の中で呟いた。
posted at 22:41:18

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posted at 22:50:54

「そして、ここを谷折りして、この切れ目から空気を吹き込むと完成です」ヤモトは緊張のためにいくぶん震える声で説明し終えると、出来上がったタコのオリガミを机の上に置いた。机には既に作製し終えたドラゴン、ゴリラ、イーグルのオリガミがある。これで四聖獣が揃った。
posted at 23:04:40

放課後のオリガミ室、アサリと他の部員、ブナコ、マチ、オカヨは、ヤモトが作り終えた精緻な四つのオリガミを前に、沈黙した。やがて一斉に叫んだ。「「「「ワー!スゴーイ!」」」」
posted at 23:08:12

「どうしてそんなに速いの?」「これ、下手したらヤモト=サン一人で優勝できるんじゃないの?」「美的!」「スゴーイ!」取り囲まれて褒めそやされ、ヤモトは戸惑った。
posted at 23:42:32

だがそれは嬉しい戸惑いであった。かつてヤモトのオリガミは孤独であった。現実からの必死な逃避だったからだ。しかし今は違う。こんな事が自分の身に起こっていいのだろうかと、やがて罪悪感めいた気持ちすら湧いてくるのだ。自分にそんな権利があるのだろうかと。
posted at 23:45:41

……翌日、その罪悪感はあまりにもあっさりと現実のものとなり、ヤモトに襲いかかった。あまりにもあっさりと。
posted at 23:49:44

(ラスト・ガール・スタンディング #3 終わり。#4へ続く
posted at 23:50:58

RT @8go8: ドーモ、モータードクロを描かせていただきました。 http://p.tl/a/atQc by 8go8 #drawr #njslyr
posted at 00:12:54

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 00:27:39

NJSLYR> ラスト・ガール・スタンディング #4

110418

「ラスト・ガール・スタンディング」 #4
posted at 14:03:38

両親と妹が自分を置いて失踪し、昼夜を問わずヤミキン・ファイナンスのバウンサーがアパートへ恫喝に訪れるようになった時。日常に何の楽しみも持たず、友人もおらず、勉強もできず、スポーツをせず、好きなアニメ・コンテンツも無かったショーゴーは何一つ取りうる行動を持たなかった。一つを除いて。
posted at 14:15:42

その日のキョートの空は雲ひとつない快晴で、たいへんな暑さであった。四方に配置されたクロームのシャチホコ・スタテューが鈍く日光を反射する。校舎屋上に立つと、バイオセミの鳴き声が不快な湿気を伴ってまとわりつくようだった。ショーゴーは遺書は書かなかった。見せる相手がいないからだ。
posted at 14:21:39

淡々とフェンスを乗り越えたショーゴーは、容易く下へとダイブした。落下は瞑想めいた時間であった。死角から落下地点へ、ゴミ箱を抱えた一人の女子生徒が歩き出てきた瞬間までは。「危ない!」と叫ぶ間などありはしなかった。さらに恐ろしい事に、激突しても意識は途絶えなかった。
posted at 14:30:29

天地が反転し、ジゴクめいた激痛が、致命傷を負ったショーゴーを責め苛んだ。両脚は折れ、 感覚の失われてゆく手で自分のカリアゲ頭に触れると、温くトーフめいた感触、そして隣でうつ伏せになって動かない、長い黒髪の少女、広がる血の沼、声は出ず、名状し難い恐怖が彼を捉える。死ねない!
posted at 14:34:49

アイエエ……アイエエ……。声が出ないショーゴーは喉の奥で悲鳴を上げた。アイエエ……アイエエ……アイエエ……パンク……アイエエ……アイエエ……ニンジャ……パンク……ニンジャ……ドーモ……ドーモ……「……?」ショーゴーは意思に反して混じる言葉を訝った。パンク?ニンジャ?
posted at 14:41:33

ドーモ、ショーゴー=サン、俺様はパンク……ニンジャ……ファックオフ……ファッキンニンジャ……死んだらおしまいだぜ……ファキゴナファッキンファック……(誰だ?)……俺様はパンク・ニンジャ……今からお前は俺様……お前は死なないぜ……死んでたまるか……そう簡単に……(やめてくれ!)
posted at 14:45:49

ファキゴナファッキンファキンブラッツニンジャ……(やめてくれ!死にたいんだ!苦しいんだ!)……苦しい?ファッキン苦しいだと?なら止めてやる……止めてやる……お前は俺様……今からお前はニンジャ……
posted at 14:47:57

(やめてくれ!助けて!)
posted at 14:48:35

「イヤーッ!」ザゼン姿勢のまま垂直に飛び上がったショーゴーのジャンプパンチは、クローンヤクザの顔面を正確無比に撃ち抜いた。「グワーッ!」ワイヤーで引っ張られたように回転しながら吹き飛んだクローンヤクザは、一列に並ぶ控えのクローンヤクザ10人をドミノ倒しめいて巻き添えにクラッシュ!
posted at 14:52:20

「イヤーッ!」さらに振り向きながら繰り出したショーゴーの回し蹴りは、反対側のクローンヤクザの顔面を正確無比に撃ち抜いた。「グワーッ!」ワイヤーで引っ張られたように回転しながら吹き飛んだクローンヤクザは、一列に並ぶ控えのクローンヤクザ10人をドミノ倒しめいて巻き添えにクラッシュ!
posted at 14:54:30

「イヤーッ!」さらにショーゴーは壁際で体育座りをしていたクローンヤクザ25人に向けて両手をかざした。「グワーッ!」控えのクローンヤクザ25人の口から白いコロイド光が絞り出され、ショーゴーの手の平に吸い込まれる。全身を駆け巡るズバリ注射めいた強壮感覚!25人のクローンヤクザは絶命!
posted at 14:58:00

ここはトコロザワ・ピラーのトレーニンググラウンド・フロアである。もはやショーゴーに用意されたトレーニング・ボットとしてのクローンヤクザは全滅、しかしショーゴーは無限に湧いてくる力と暴力衝動を持て余していた。「嫌な事を思い出しちまったぜ!」
posted at 15:02:00

ショーゴーはアフロヘアーを掻きむしった。ソウカイ・シックスゲイツが用意したザゼン・トレーニング・カリキュラムが、無意識下に押し込められていたあの日の記憶を、今まさに完全に引き出したのだ。「パンク・ニンジャか」ショーゴーは呟き、両手を握ったり開いたりを繰り返した。
posted at 15:08:03

ショーゴーはクローンヤクザ達が倒れ伏すトレーニング・グラウンドを見渡す。タタミ、複数の木人やルームランナー、ケンドー・アーマー、神棚といった一般的な施設のそれはもちろん、重ラバー製のダルマ・サンドバッグや肺活量訓練のための井戸、電気の流れる危険なバーベルがある。
posted at 16:24:46

鏡張りの壁面には「ゴジュッポ・ヒャッポ」「成せばなる」「辞めどきがつかめない」「高級感」といった自己啓発的な文言が仰々しくアーティスティックにペイントされている一方、天井には八つの目を見開くブッダデーモンの禍々しいフレスコ画が描かれ、トレーニーを決して油断させない。
posted at 16:36:59

別室には致死的なスパイクが落下地点に設置されたアスレチック・トラックや、重油のプール、カマユデ、その他、口に出すのをはばかられる程の残虐な苦痛をもたらすニンジャ訓練用障害物が多数設置されている。まるで大首領ラオモト・カンの奔放なサディズムを忠実に反映させたかのように。
posted at 16:49:38

「くだらねえ」ショーゴーは吐き捨てた。力づくで連れてこられたこの訓練場で、彼は過酷なザゼン・トレーニングを強制された。己のニンジャソウルを馴染ませ、同時に身体能力を鍛錬するのだ。この過程を経たニュービーは己のニンジャ新陳代謝によって短期間のうちに冷酷なカラテ戦士の体を手に入れる。
posted at 16:58:32

いずれこんなふざけた組織はブチ壊してやる。ショーゴーは苛々と思考した。ニンジャの力を手にした彼は、自殺を試みる前の自分とはまるで違っている。彼の頭部の傷は他者の生命力を奪って急速に治癒し、カリアゲだった彼の髪はぐんと伸びて今の状態になった。そして憤怒と、生きる意志が湧いた。
posted at 17:57:30

気に入らないものを排除する力がいきなり手に入ったのだ。ここに自分が生きる意味が隠されている。ショーゴーはそう思った。それを抑圧するソウカイヤは、だから、敵なのだ。利用するだけして、あのソニックブームや、ラオモトを排除するだけの力を身につけたら、すぐにでも……
posted at 20:47:27

「ドーモ、ショーゴー=サン。どうやらギリギリ仕上がったな、エエッ?」思考を断ち切ったのはヨタモノめいたドスを効かせた声である。ソニックブームだ。自動フスマを開いて入室した彼は金糸入りのニンジャ装束に身を包み、手にマキモノを携えている。「今日も役立たずのままだったら殺してたぜ」
posted at 20:51:07

「チッ、ドーモ」ショーゴーは渋々オジギした。ソニックブームはあの日以来、彼のメンターとなっている。時折トレーニングの様子を見に来ては、罵りを残して帰って行くのだ。「もうアンタだって殺せる」ショーゴーは言った。「やってもいいぜ」「ハッ!」ソニックブームは一笑に付す。
posted at 20:53:46

彼は手にしたマキモノを開いて見せた。そこにはミンチョ体で「スーサイド」というカタカナが書かれている。「これがお前の名前だ。俺様がゴッドファーザーだ。ありがたく思えよ」ソニックブームは鼻を鳴らした。「スーサイド。自殺。お前を言い表すならこの単語しかねぇからな、エエッ?」
posted at 20:57:52

ソニックブームの挑発に、ショーゴーは不思議と腹が立たなかった。ある意味、真実だからだ。今までのショーゴーには、自殺を試みた事ぐらいしか特筆すべき事項が無かったのだから。だがこれからは違う。何もかも奪って、おのれの衝動のままに生きてやるのだ!このアフロヘアーを網膜に刻みつけてやる!
posted at 21:07:12

「それじゃとっとと行くぜ、スーサイド=サン。エエッ?初ミッションだ。お前は俺様の邪魔にならねぇようにして、せいぜい貢献しろよ?」ソニックブームがシャープかつ威圧的なメンポを装着した。一方スーサイドはニンジャ装束を着ない。上半身が裸、下はバッファロー革のズボンにエンジニアブーツだ。
posted at 21:17:12

これは彼のニンジャソウルが何故かニンジャ装束を受け付けない為である。(スーサイドを診た研究者は「こんな事は万に一つの確率」と首を捻ったものだ。「リー先生が戻られ次第、もっと念入りに検査を行います」。)ソニックブームは嘲笑ったが、スーサイドは気にしなかった。
posted at 21:27:10

ソニックブームはスーサイドの肩をどやし、懐からポラロイド写真を取り出して見せた。被写体を目にしたスーサイドの背筋をアドレナリンが駆けた。ソニックブームは冷酷に、「ターゲットはこのニンジャだ。お前もよくよくご存知じゃねえのか?エエッ?」「ニンジャだと?こいつが?」
posted at 21:46:06

「お前のあの情けない自殺騒ぎをシンジケートは調べた。ニンジャソウル憑依の状況は必ずリサーチするんだよ」ソニックブームは続けた。「巻き添えになったこのガキも生き延びている。ご丁寧にこいつもニンジャになって、転校だ」「ニンジャだと?こいつが?」スーサイドは繰り返す。
posted at 21:55:41

「なんの因果か、二人して同時にニンジャにとりつかれた挙句、ネオサイタマの同じハイスクールに転校とはなぁ?」ソニックブームは笑った。「こいつもお前同様、やらかしたんだよ。お前よりは上手く切り抜けちゃいるが、それでアシがついた。しかもお前同様、こいつの人生もカラッポだ。傑作だぜ!」
posted at 22:04:29

スーサイドはソニックブームを睨んだ。だが、拳は振り上げなかった。「……知った事じゃねえ」彼は言い捨てた。「ハハハッ!よおし行くぜ!ついて来い!」ソニックブームは哄笑し、廊下を足早に突き進む。スーサイドは無表情に後を続く。彼は自身の心中から、被写体を……ヤモト・コキを、締め出した。
posted at 22:17:13

(「ラスト・ガール・スタンディング」 #4 終わり。#5へ続く
posted at 22:20:09

RT @nicolai_twi: 海外のサムライコスプレに謎の日本語「女に不自由」「をたく」「おとこのこ」 http://t.co/gfe8QNp via @lbqcom #NJSLYR 扇情的なミンチョ体がノボリにはためいた
posted at 08:32:57

RT @taishi308: 見た目はキワモノ・・。でも演奏を聞いたら腰を抜かす。そんなギタリスト(動画) : ひろぶろ http://t.co/1g7JFOZ via @hiroburocom もう最近のマイブームでニンジャスレイヤーのBGMにしか聞こえねーよ!本人もリスペクトされてるようにしか見えねーよ!
posted at 00:58:55

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 07:29:12

NJSLYR> ラスト・ガール・スタンディング #5

110422

「ラスト・ガール・スタンディング」 #5
posted at 07:30:22

(スーサイドはソニックブームを睨んだ。だが、拳は振り上げなかった。「…知った事じゃねえ」彼は言い捨てた。「ハハハッ!よおし行くぜ!ついて来い!」ソニックブームは哄笑し、廊下を足早に突き進む。スーサイドは無表情に後を続く。彼は自身の心中から、被写体を…ヤモト・コキを、締め出した。)
posted at 07:31:25

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posted at 07:31:45

「タラバー歌カニ」という相撲フォントのネオン看板、そこから生えた稼働する生々しいカニの脚の巨大模型を、ヤモトを加えたオリガミ部の五人は立ち止まって見上げた。にこやかに笑顔を交わす。ヤモトにとって、カラオケ・ステーションへ行くのは生まれて初めての経験である。
posted at 07:35:25

「今度は大丈夫だったね」アサリが笑った。そう、かつて繁華街の路地裏へ連れ込まれて大変なことになったのは、やや危険な地域を通ってカラオケ・ステーションへ行こうとした為であった。今回はその仕切り直しの意味合いもある。より安心なルート、安心なカラオケ・ステーションが選ばれた。
posted at 07:39:34

「でも、今回こうして参加人数も増えたし、かえってよかったよね、ヤモト=サン」アサリは冗談めかして言った。「サイオー・ホースな!」ブナコが口を挟むと「コトワザ!カワイイ!」オカヨが息のあった合いの手を入れた。「カワイイ!」他の皆が陽気に繰り返す。
posted at 07:47:23

カラオケ・ステーション「タラバー歌カニ」へ向かうギリシアめいた広い屋外階段の左右には様々な露店が建ち並ぶ。飴やタイヤキ、ライトゴス・ファッション・ブランド「憤怒」の路面店、バイオ金魚……パステルカラーのネオンが夜をはかない色彩でライトアップし、メカホタルの光の粒が飛び交う。
posted at 07:55:06

行き交うのはヤモト達と同様、制服姿を思い思いにカワイイアレンジした近隣の女子高生たち。ファッション、甘味、社交。このストリートはティーン少女の欲求に、いびつなまでに完璧に応える。祭りめいた階段の頂きでライトアップされるタラバー歌カニの姿はさながらシャボン玉めいた幻想の御殿である。
posted at 09:35:07

「ヤモト=サンはどんな歌を歌うの?」露店で買ってきた人数分の生姜チュロスを奥ゆかしく配りながら、マチがたずねる。ヤモトが答えあぐねていると、すぐにアサリがフォローを入れる。「行けば楽しいよ、カニもあるし!」「カニ!カワイイ!」
posted at 09:54:58

「歌って!食べて!」と書かれたタラバー歌カニのノレンをくぐった五人は、受付を済ませると、瀟洒なエントランス・ロビーでしばし待つ。ロビーには数台の相撲スロットマシンと、小型のマジックハンド・カワイイキャッチがある。
posted at 10:08:46

すぐに店側の準備が整い、五人はエレベーターに案内され、個室505号室に通された。薄暗い室内にはチャブテーブルとイケバナ、液晶モニターが設置されている。さらに部屋の奥にはノレンで覆われた、謎めいた配膳用の小窓がある。
posted at 10:19:42

この小窓こそ、「タラバー歌カニ」をカラオケチェーン店のシェアトップに立たせしめた画期的なシステムの秘密である。各カラオケ室は階の中心から放射状に設置されており、すべて、この小窓が各階中央のカニ配膳室に接続されている。
posted at 10:51:04

小窓の脇にある「蟹」ボタンを押すと、中央の配膳室からコンベアーベルトによって即座に、加減良く茹でられたタラバーカニの脚が送り込まれる。しかもこのカニは食べ放題、ボタンは押し放題なのだ。クローン・タラバーカニの危険性は厳重な管理で最小限に抑えられている。なんたる画期的なシステム!
posted at 10:55:21

「ヤモト=サン、それ押しすぎ!」アサリが笑った。キャバァーン!キャバァーン!キャバァーン!時間差で蟹ボタン受領効果音が鳴り響く。「いっぱい来ちゃうよ!」ヤモトは慌てて「音が鳴らなかったから、つい」「じゃあ私も!」オカヨが笑い転げながらボタンを連打する。キャバァーン!キャバァーン!
posted at 12:11:58

「やめなよ!」五人は笑い転げた。やがて「イヨォー」という音声とともに小窓のコンベアーから大量のカニが流れてくると、五人はさらに笑い転げた。こうした騒ぎは何が理由でも楽しく、笑いを誘うものなのである……。
posted at 12:14:53

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posted at 12:23:25

ブンブブンブブンブブブンブブーン。カラオケ用の電子的なビートとシンセ加工されたギター的サウンドに載せ、ブナコは振り付けを交えて歌う。「アー、良い天気メンテナンス、電気でまた会いますー」イヨォー、とカブキ・ヒットの合いの手、「ラブ、ラブメンテナンス重点、ラブメンテナンス重点」
posted at 13:09:39

ハイティーンの間で人気が高まっている新人エレクトロポップ・バンド「デンチモナ」のシングル「ラブメンテナンス重点」は昨日カラオケにIRC配信されたばかりの新曲だ。ブナコは満足げにオジギを決めた。「カワイイ!」カニをつまみながら、皆で喝采する。
posted at 13:33:46

「次、私だ!」マチが陽気に言って立ち上がった。モニターに映るのは満開の桜だ。続いて曲名とアーティスト名「ラブ王侯(タケヨ)」。ブンブンシュシューン、ブンブンシュシューン。イントロが流れ出す。「歌いたい曲がなかなか見つからないよね」曲ブックをめくりながら、アサリが囁く。
posted at 14:11:34

「そうだね」ヤモトは囁き返した。アサリはヤモトに気を使ってくれているのかもしれなかった。いや、きっと他の皆も。ヤモトは、せめて今後の部活動で一生懸命オリガミを折ることで、皆の気遣いに応えていきたいと、決意めいて考えるのだった。マチが歌い出した。「王侯のような精神生活ー」……。
posted at 14:15:29

ヤモトは出入り口のガラスに透けるシルエットに凍りついた。そのシルエットには見覚えがあった。「……ちょっとトイレに」アサリを心配させぬよう笑顔で囁き、ヤモトは立ち上がる。他の三人にも小さくオジギし、彼女は部屋を滑るように出た。「…ドーモ」男の方からアイサツしてきた。ショーゴーから。
posted at 14:19:49

ショーゴーはアフロヘアーにサングラス、ボトムは黒革でエンジニアブーツを履き、上半身は素肌のうえに耐汚染ジャケットという出で立ちで、およそ高校生離れした姿だった。思えばショーゴーを見たのは彼が警察に連行されたあの日以来だ。しかも、こうして口をきくのは、初めてだ。
posted at 14:32:40

「ドーモ、ショーゴーです」彼は再度アイサツした。「……ドーモ、ヤモトです」ヤモトはオジギを返した。二人はカラオケ・ステーションの廊下で睨み合う。部屋の中からマチの歌が聴こえる「王侯~、あなたとの生活、精神はまるで」「アタイに用なんでしょ」「……そうだ。わかるんだな」
posted at 14:48:38

「わかる。あの時、目が合ったよね」ヤモトは呟いた。「アンタが、あのヤンクをみんな殺した」「……俺はわからなかった」ショーゴーは低く言った。「お前もニンジャになっていたなんて」ショーゴーの妙な雰囲気を察し、ヤモトの中で張り詰めた戦闘意志がやや揺らいだ。「どういう事?」
posted at 15:40:32

ショーゴーはしばらく黙っていた。やがてサングラスを外した。凶暴ないでたちにそぐわぬ悲しげな表情でヤモトを見た。「俺はただ、お前に、」『ポーン!五階です』廊下の曲がり角の先からエレベーターの電子マイコ音声が聞こえてきた。「ブッダファック」ショーゴーは舌打ちした。「時間切れかよ」
posted at 15:53:29

ショーゴーはサングラスを掛け直した。「今から話す事、わかる限りわかってくれ。いいか、俺はニンジャになっていた。で、あの日シンジケートにスカウトされた。拒否権はねえんだ。シンジケートはお前がニンジャになった事も知った。スカウトに来る。今、来てる。でもお前は俺と違う、お前には、」
posted at 16:02:06

「スーサイド!スーサイド=サン!待ちくたびれて眠くなっちまうぜ!ガキは居たか!」ドスを利かせた声が曲がり角から聞こえて来た。そしてすぐに、声の主であるところの男が姿を現した。金糸を織り込んだニンジャ装束とシャープなメンポを装着したニンジャが!
posted at 16:07:10

「おお?居たかスーサイド=サン?そいつだ、そいつ」ニンジャはヤモトに気づくと恫喝的にオジギした。「ドーモ、ヤモト・コキ=サン。俺様はソウカイ・シックスゲイツのニンジャ。ソニックブームです。そっちのアフロが舎弟のスーサイド=サン。ヨロシクなぁ!」
posted at 16:10:43

粗暴なニンジャは馴れ馴れしくヤモトに話しかける。「どこまで説明を受けた、ニンジャの姉ちゃん?エエッ?」「……だいたい話した」ショーゴーが苦々しく答える。ソニックブームは鼻を鳴らした。「お迎えに来たんだよ、俺達はな。お前を一人前のニンジャにしてやる。一人前のソウカイ・ニンジャにな」
posted at 16:21:28

ヤモトは後ずさった。ソニックブームはおどけた調子で手招きする。「そう怖がりなさんな?このスーサイドだってなぁ、シンジケートのおかげで初めて生きる価値ってもんが生まれたんだ。それをお前にもくれてやるってンだよ、社会に貢献!わかるか?エエッ?お前のような……親殺しのガキにもな!」
posted at 16:26:48

ヤモトは血液が逆流するような感覚を味わった。卒倒しかかるのをやっとの事でこらえた。気づけば笑っていた。諦めの笑いだ。『過去が今、私の人生を収穫に来た』……どこかで読んだ本に書かれていたハイクだ。
posted at 16:44:22

ドアを隔てたカラオケルーム505号室からは、何も知らないアサリたちの歌声、嬌声が聞こえてくる。……同じだ、とヤモトは思った。家の外へ締め出され、隣家の窓の向こうの暖かい明かりを羨んだあの頃と、同じ光景だ。アタイの居場所は変わらなかったのだ。
posted at 17:18:39

「シンジケートは何でも知ってるぜ、運命に身を任せな!エエッ?悪いようにはしねぇよ……」ソニックブームは笑う。そして血走った目が急にすぼまり、猫なで声が再び恫喝に変わる。「断る理由はねェよな。OKするか死ぬかだ。もっともその場合、殺す前に楽しませてもらう。俺様はどっちでもいいんだ」
posted at 17:24:07

「ヤモト=サン」ショーゴー……スーサイドが囁いた。「俺はただ一言謝りたかった。あの時、すまなかった。俺のせいだ。俺のせいでお前……すまなかった」「え……?」「イヤーッ!」振り返りざま、スーサイドは背後のソニックブームへ回し蹴りを繰り出した!
posted at 18:48:21

「イヤーッ!」ソニックブームは熟練のニンジャ反射神経でこれを見切り、ブリッジで蹴り足を回避!「スーサイド!てめェ、スッゾオラー?」「ヤモト=サン!行け!とにかく行けッ!」スーサイドは叫んだ。「イヤーッ!」「イヤーッ!」二者の両手がガッキと組み合い、力比べが始まった。「俺が殺る!」
posted at 18:55:00

「ザッケンナコラー!テメェのジツがニンジャソウルに効かねえ事は身に染みてわかってンだろうが!」ソニックブームが両手に力を込める!「俺様にとってテメェはただのカラテ小僧なんだよ!」「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」スーサイドが震えながら押し返す。耐汚染ジャケットの背中が裂ける!
posted at 19:02:49

「イヤーッ!ザッケンナコ……イヤーッ!イヤーッ!?」ソニックブームの恫喝めいた叫びに訝しさが混じる。スーサイドが押し返しているのだ!その両手が白い輝きを帯びている!「イヤーッ!イヤーッ!」「テメェコラーッ!テメェ、イヤーッ!?……グワーッ!?」ソニックブームがひるむ!
posted at 19:11:04

「ニンジャソウルを吸うのか!?コイツ!」「早く!早く行け!」スーサイドがヤモトを見た。「行けよ!いつまで持つかわからねえ……イヤーッ!」スーサイドがソニックブームに押し勝った!鯖折りめいて抱え込み、壁に叩きつける!「グワーッ!」さらに曲がり角の奥めがけて投げつける!「グワーッ!」
posted at 19:19:13

ヤモトは505号室を急いで開いた。「火事だ!」一瞬、目をパチクリとさせた四人であったが、ヤモトの表情からただならぬ雰囲気を察すると、すぐに立ち上がった。「早く!逃げて!階段はあっちだ!」戦闘が起こっている曲がり角の逆方向へ四人を促す。「ヤモト=サン?」アサリがヤモトを見た。
posted at 19:24:12

ヤモトはアサリの肩に触れた。「大丈夫……早く!」背後でかすかにスーサイドの「グワーッ!」という叫びが聴こえた。ヤモトは四人と共に非常階段を駆け下りる!
posted at 19:27:36

3階、2階……そしてエントランス・ロビーだ。「お客様、会計がまだ……」「火事です!早く逃げて!」「アイエエエエ!?」ヤモトは四人について店外へ出る!その時だ!「……グワーッ!」頭上で絶叫が聴こえた。落下して来る声の主は……スーサイド!
posted at 19:36:21

割れた窓ガラスと共に落下して来たスーサイドは、五人のすぐ側の地面に激突した!「アイエエエエ!」ブナコが悲鳴をあげる。アサリはヤモトに駆け寄る。「この人……ショーゴー=サン?」
posted at 19:43:45

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posted at 21:19:20

スーサイドは起き上がろうとしたが果たせなかった。自分を覗き込む同級生たちを、霞む視界で捉えようとした。ヤモトの友達たちを。あれは同じクラスの、確かオカヨだったか。……名前はどうでもいい事だ。
posted at 21:22:16

スーサイドは手を伸ばした。同級生たちへ手の平を向ける。スーサイドは自分の体が冷えていくのを感じる。脊椎を損傷しているやも。致命傷か?……失われつつある己の生命を維持するために、彼女らの生命を吸うのだ、パンク・ニンジャが与えた極めて利己的なジツ……アブソープション・ジツ……
posted at 21:29:43

スーサイドはしかし、その手を下ろした。血を吐き出しながら「ヤモト=サン、お前は俺とは違う。友達がいるし、これから先の事も考えられる。だからダメだ、ソウカイ・ニンジャなんて、くだらねぇ」……さっき言えなかった言葉を言おうと試みたが、ほとんど声にならなかった。彼の意識は途絶えた。
posted at 21:40:50

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posted at 21:41:46

「ショーゴー=サン」ヤモトは大の字で動かないスーサイドを呆然と見下ろした。誰かが悲鳴をあげた。
posted at 22:04:17

ヤモトはアサリの腕をつかんだ。「逃げて。皆で」「ショーゴー=サンは?それに火事とか……」「逃げて。アタイに任せて」「でも」ヤモトはアサリをかき抱いた。そして額と額をつけた。「大丈夫。また明日ね。また明日会おう!」そして背後のカラオケ・ステーションを振り返る。
posted at 22:10:38

アサリはヤモトに従った。他の三人を促し、坂道を駆け下りていく。ヤモトはタラバー歌カニの「歌って!食べて!」のノレンを凝視する。やがてそのノレンをかきわけ現れたのはソニックブームである。ニンジャはヤモトを認めると目に喜色を浮かべ「逃げなかったのか?見上げた度胸じゃねえか、エエッ?」
posted at 22:19:10

ヤモトはカバンを地面に投げ捨て、仁王立ちの姿勢をとった。その後オジギした。「ドーモ、ソニックブーム=サン。ヤモト・コキです」カバンからオリガミ用の和紙がこぼれ出た。風に煽られ、和紙がヤモトの周囲を舞う。それらがひとりでに折りたたまれ、ツルやイーグル、エイや飛行機の形をとる!
posted at 23:40:31

「やる気か、エエッ?」ソニックブームはせせら笑った。「サイキックか?ガキのくせしやがって」そしてカラテを構えた「だがサイキックのニンジャなんてのはな、ソウカイヤにもザイバツにも、幾らでもいるんだ。今も昔もニンジャはカラテを極めた奴が上を行く。身をもってわからせてやろうじゃねえか」
posted at 23:58:19

ヤモトはソニックブームを冷たく睨み、人差し指を突きつけた。「……やってみろ!」
posted at 00:09:06

(「ラスト・ガール・スタンディング」 #5 終わり。#6へ続く
posted at 00:10:11

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 23:13:32

NJSLYR> ラスト・ガール・スタンディング #6

110427

「ラスト・ガール・スタンディング」 #6
posted at 10:23:05

ヤモトが人差し指を突きつけると、周囲に浮かぶオリガミがソニックブームめがけ追尾ミサイルめいて襲いかかった!「くだらねぇ!イヤーッ!」ソニックブームが中腰姿勢から中空にパンチを繰り出す。スパン!破裂音が鳴り響き、オリガミは見えない衝撃を受けて一度に弾け飛んだ。
posted at 10:28:59

ナムサン!速すぎるパンチは衝撃波を生じさせ、ただ一打ちでオリガミをまとめて撃墜したのである。これこそがソニックブームの得意技、ソニックカラテだ!「見たか!ガキめ、これがニンジャのイクサ……」ソニックブームは勝ち誇るにはまだ早いことに気づく。
posted at 10:33:02

ヤモトの周囲には次から次へ、ハゲタカやイカなど思い思いの戦闘的形状に折りたたまれたオリガミが浮かび上がり編隊に加わってゆく。「こいつ……」ソニックブームは目をみはった。「行け!」ヤモトは命令した。途端にそれらのオリガミがソニックブームへ突撃!
posted at 10:39:55

「イヤーッ!」見えないパンチが再び閃き、破裂音とともにオリガミが弾け飛ぶ!しかしヤモトのオリガミはそれを上回る速度で際限なく作り出されていく。「行け!」三度めのオリガミ攻撃だ!「ザッケンナコラー!イヤーッ!」更なるソニックカラテパンチ!だが飛来オリガミ全ては撃墜しきれない!
posted at 10:50:53

「イヤーッ!」ソニックブームは回転しながら跳躍して生き残ったオリガミを回避。ヤモトの目が桜色のニンジャソウルを燃やす!オリガミは急旋回・上昇してソニックブームを追尾!「イヤーッ!」ソニックブームはカラオケステーション「タラバー歌カニ」の壁を蹴ってさらに回避!
posted at 10:55:19

ソニックブームはそのまま隣の建物のベランダへ着地する、しかし追いすがったトンボ型オリガミが背中に着弾、小さく爆発した!「グワーッ!」「行け!」さらにオリガミの第四波だ!
posted at 11:11:31

「イヤーッ!イヤーッ!」ソニックブームはソニックカラテパンチに加えソニックカラテ回し蹴りを繰り出し、二連続の衝撃波で追撃を相殺した!だがヤモトの周囲にはさらなるオリガミが折りたたまれてゆく!
posted at 12:15:53

「オトナをナメるなよ……スッゾオラー!」建物の天井へ駆け上がったソニックブームは肩の携帯ノロシ装置を起動した。たちまち光り輝く紫色の煙が夜空に噴き上がる。ナムアミダブツ!これは待機中の手下クローンヤクザへ向けた一斉攻撃の合図!
posted at 12:36:52

ソニックブームはヤモトに憑依したニンジャソウルの想像以上のポテンシャルに困惑した。背中の傷は想定外の事態の証拠だ。訓練を経ずにこれほどのサイキック能力を発揮するなどレッサーニンジャ、グレーターニンジャではまずあり得ず、スーサイドに匹敵する名付きのアーチニンジャ級の可能性がある!
posted at 13:01:15

ゆえに彼はヤモトの分析を行った上であらためて己のソニックカラテをぶつける判断をとった。そのために捨て石めいた役割を担うのは配下のクローンヤクザ達である。これこそ、冷徹に成熟した組織の思考!
posted at 13:10:08

「ザッケンナコラー!」「ザッケンナコラー!」「ザッケンナコラー!」ただちに店々の間や坂の階段を駆け上がってくるダークスーツとサングラスの集団。全員が同じ姿勢でヤモトへ殺到!クローンヤクザだ!
posted at 13:20:42

ヤモトは両手を上げた。「行け!」オリガミの群体が一斉にクローンヤクザへ襲いかかり、爆発した!「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」
posted at 13:29:25

だが多勢に無勢!さらなるクローンヤクザが路地から出現!ヤモトはカバンを見下ろす。もはやオリガミを作るための和紙がアウト・オブ・アモーだ!ヤモトは「オメーン」とカタカナ看板を掲げた店の横の路地へ身を翻した。追いすがるクローンヤクザ達!
posted at 13:33:00

「ザッケンナコラー!」行く手を塞ぐクローンヤクザが拳銃を懐から取り出し構える。「イヤーッ!」ヤモトはウサギめいた俊敏さで死角へ潜り込み、手にしたバタフライナイフをクローンヤクザの腕の付け根に突き刺した。「グワーッ!」
posted at 13:36:31

ヤモトはひるんだクローンヤクザのベルトの鞘からカタナを抜き取ると、突進してきたもう一人のクローンヤクザに斬りつけた!「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 13:39:03

「ザッケンナコラー!」「ザッケンナコラー!」さらに二人が突進してくる。「イヤーッ!」ヤモトは軽くジャンプし、激烈なキックを繰り出して一人の首の骨を折る!「グワーッ!」その勢いで回転しながらカタナを振り抜き、もう一人の首を切断!「グワーッ!」
posted at 13:41:15

「ザッケンナコラー!」「ザッケンナコラー!」今度は後ろだ!追いすがるクローンヤクザへ、ヤモトは振り向きざまにカタナを投げつけた。「イヤーッ!」カタナがクローンヤクザの胸板を貫通!「グワーッ!」
posted at 13:43:57

もう一人がヤモトのセーラー服を掴む!「イヤーッ!」ヤモトはその腕を取り、背負って投げる!「グワーッ!」石畳に脳天から叩きつけられたクローンヤクザは頭をトマトめいて砕かれ即死!
posted at 13:46:35

「ザッケンナコラー!」露天の屋根にアサルトライフルを構えたクローンヤクザが出現!ヤモトはクローンヤクザの死体から新たにカタナを 抜き取り、自分の身長よりも高く跳躍!「イヤーッ!」「グワーッ!」カタナがアサルトライフルヤクザの両肘から先を切断!
posted at 13:49:11

「ザッケンナコラー!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「ザッケンナコラー!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「ザッケンナコラー!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「ザッケンナコラー!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「ザッケンナコラー!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 14:05:50

なんたる修羅場インシデント!そして、おお……見よ!殺戮に没入するヤモトの顔を!彼女の目はニンジャソウルで桜色の光の軌道を輝かせ、その首にはいつしかスカーフめいた不吉な布がなびく。謎の原理で構築されかけたメンポが鼻から下を覆いつつある!
posted at 14:09:58

曲がりくねる細い路地を駆け抜けると、そこは退廃的ホテル街だ。(差し迫った状況下であるが、ここでホテル街というものについて読者諸氏に説明せねばなるまい。これは男女が性的行為を行う際に利用する、ほとんど日本独自の集合モーテル・システムである。当然、制服姿の未成年は場違いである)
posted at 14:36:01

「十本」「力一杯」「エーゲ海の風」「常にサービスタイム店舗」といったネオン看板のわい雑な森を、バイオ血液にまみれたヤモトは意に介する事なく駆け抜ける。「ア、アイエエエ!」それを目撃したカップルが、出てきたホテルへ失禁しながら逃げ戻る!
posted at 15:09:42

「ドッソイオラー!」「ドッコラー!」ヤモトの前後の道を塞ぐ形で、新たな敵が姿を現す。ナムサン!スモトリ崩れの巨大ヤクザだ!「イヤーッ!」ヤモトは前方のスモトリヤクザに跳躍しながら斬りかかる!「ドッソイグワーッ!」カタナがスモトリの胸板の脂肪を切り裂く、だが致命傷ではない!
posted at 15:15:02

ヤモトはカタナを振り抜きにかかるが、刃は黄色い脂肪と血にまみれ、くわえこまれてしまった。やむなくヤモトはカタナを捨て、再度跳躍してスモトリの横面に蹴りを叩き込む!「イヤーッ!」「ドッソイグワーッ!」だが致命傷ではない!
posted at 15:17:39

「ドッソイ!ドッソイオラー!」危険!背後のスモトリヤクザが着地したヤモトに突進しながらの頭突きを見舞った!「ンアーッ!」防御が間に合わず、ヤモトはまともに頭突きを受けて吹き飛び、電柱に激突する。ウカツ!
posted at 15:20:25

「ドッソイオラー!」「ド……ドッソラ」二体のスモトリヤクザは手に手にナックルダスターを装着し、ヤモトへ慎重に接近する。うち一体は重篤なダメージを負っているためやや動きが鈍い。ヤモトは首を振りながら起き上がった。「ドッソラー!」無傷のスモトリヤクザが先陣を切る。打ち下ろすパンチだ!
posted at 15:55:07

「イヤーッ!」ヤモトは丸太めいて振り下ろされた腕を躱し、そのまま肥満した身体を蹴り上がる!「ドッソイ?」「イヤーッ!」延髄へ、鞭のような蹴り!「ドッソイグワーッ!」「イヤーッ!」さらにチョップ!「ドッソイグワーッ!」だが致命傷ではない!ナムアミダブツ!ヤモトの身体能力の限界か!
posted at 16:02:44

「ド……ドッソイオラー!」相棒の肩にしがみついて攻撃を繰り返すヤモトへ、もう一体の手負いのスモトリヤクザがパンチを繰り出す。「イヤーッ!」ヤモトはとっさにバク転で飛び離れ回避!勢い余ったナックルダスターはヤモトが取り付いていたスモトリヤクザの顔面にめり込んだ。インガオホー!
posted at 16:27:50

「ドッソイオラー……」フレンドリー攻撃を受けたスモトリヤクザは鈍く倒れた。もう一体のスモトリヤクザは自分の身体に刺さったままのカタナを煩わしげに引き抜く。脂まみれのカタナを投げ捨て、ナックルダスターを打ち合わせながらヤモトへ迫る!
posted at 16:36:51

「ドッソイ!」「イヤーッ!」ナックルダスターのパンチをヤモトは地面を転がって回避した。ヤモトのいた場所の石畳が砕ける。なんたる破壊力!ヤモトは転がりながら、地面の脂まみれのカタナを再び手に取った。イケナイ!既にそのカタナはナマクラの極みだ!だがヤモトは意に介さずカタナを構える!
posted at 17:40:57

鈍重な肉の塊が、脂肪を震わせながらゆっくりと迫る。ヤモトは周囲の時間がゆっくり流れる感覚を味わう。ヤモトは戦うことに躊躇を覚えない。シ・ニンジャのニンジャソウルがヤモトに力を与え、恐怖心を消し去った。そしてヤモトには今、戦う意味が、生きる意味がうまれていた。
posted at 18:44:49

ヤモトはスーサイドの死に顔を、そしてオリガミ部の皆を。そしてアサリの笑顔を思い浮かべた。((アタイは死ぬわけにはいかない。敵を全員倒してアタイは帰る。アサリのところへ帰る))ヤモトの目が再び桜色の光を宿した。((帰る?どうやって?これだけの事をして、どうやって今までの生活を?))
posted at 19:02:56

ヤモトは疑問を振り払う。スカーフめいた布がヤモトの顔の下半分に巻きつき、覆い隠す。金属的な硬質さを備えたそれがヤモトのメンポだ!((戦うんだ。戦って敵を倒す。帰るんだ))ヤモトは脂まみれのカタナを左手の平でなぞる。不穏なニンジャソウルがカタナを洗い、血脂は蒸発して危険に輝いた!
posted at 19:15:39

「ドッソイオラー!」スモトリヤクザが殴りかかる!ヤモトはその正面に躍り出た。「イヤーッ!」下から上へ、切れ味を取り戻した危険なカタナで切り上げる!刃はスモトリの皮膚を、脂肪を、肉を、肋骨を断ち、心臓を真っ二つに切り裂いた!「アバババババーッアバババーッ!」
posted at 19:19:05

腰から上をざっくりと断ち割られ、スモトリヤクザは無残なY字シルエットの死体となって仰向けに転倒した。ナムアミダブツ!ヤモトはそのまま振り返らず退廃ホテル街を走り抜ける。「ザッケンナ……グワーッ!」「ザッケ……グワーッ!」路地から襲いかかるクローンヤクザを切り捨て、走る!
posted at 19:26:24

退廃ホテル街を抜けたヤモトは、うらぶれた飲み屋屋台街にさしかかる。編笠をかぶった客達、「そでん」「お肉」「ラード」といった屋号が書かれた屋台のノレン。この先へ行けば……この先に……この先に何が?ヤモトは足を止めた。
posted at 19:43:56

「駆けずり回って良い運動になったか、エエッ?」前方から歩いてきた金糸ニンジャ装束のソニックブームがカラテを構えた。「忌々しいオリガミ無しでどこまでやれるか見てやろうじゃねえか」「ニ、ニンジャ?ニンジャアイエエエエ!」ニンジャ存在に気づいた屋台の店主や客が道路へまろび出て走り去る。
posted at 19:49:11

「もう一度誘ってやるよ。シンジケートに来いよ、ヤモト=サン」ソニックブームがせせら笑う。「ソウカイヤがお前のニンジャソウルを有効利用してやるってンだよ。何の役にも立たず、何の存在理由もねぇお前をよ」「嫌だ!」ヤモトは叫んだ。「アタイは空っぽじゃない!」
posted at 20:11:35

ソニックブームの目が冷徹に細まった。「じゃあ、死にな!イヤーッ!」ソニックブームの右腕が霞んだ。ブーム!破裂音と共に衝撃波がヤモトを吹き飛ばす!ソニックカラテ・パンチだ!「ンアーッ!」ヤモトはカタナを構えて踏みとどまる。だが冷徹なソニックブームは即座に追撃に出る!「イヤーッ!」
posted at 20:19:27

突進しながらのソニックカラテ前蹴りが衝撃波を巻き起こす。ブーム!「イヤーッ!」ヤモトは横に飛んでそれを回避!「イヤーッ!」今度はソニックカラテ後ろ回し蹴りだ。ブーム!範囲の広い衝撃波がさらにヤモトを襲う!
posted at 20:24:50

「イヤーッ!」ヤモトはバックフリップを繰り出して追撃回避!衝撃波は背後の屋台をバラバラに破壊した。ナムアミダブツ!なんたる危険なカラテ!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」今度はソニックカラテジャブだ!小刻みな突きが弾丸めいた衝撃波を撃ち出す。ブームブームブーム!
posted at 20:27:05

ヤモトは地面を蹴り、その反動でソニックブームめがけて飛び込む!「イヤーッ!」カタナで横ざまに切りつける!「イヤーッ!」ソニックブームの左腕が霞む。ソニックカラテ裏拳だ!ブーム!カタナは真ん中から脆くも砕け、飛び散った。「イヤーッ!」勢いを乗せた回し蹴りの追撃もブリッジ回避!
posted at 20:45:26

「イヤーッ!」ブリッジ姿勢からバネ時掛けのように戻りながらの両手チョップがヤモトを襲う!ソニックカラテチョップだ!ブーム!ニンジャ反射神経で辛くも防御姿勢をとったヤモトであるが、衝撃波は容赦なくヤモトにダメージを与える!「ンアーッ!」制服の両肩が裂け、白い肩に切り傷!
posted at 21:16:14

「イヤーッ!」さらなる追撃がヤモトを襲う。中腰になりながらのジェット・ツキだ!「ンアーッ!」未熟なヤモトはこれを防ぎきれない!腹部に打撃を受け、くの字に折れ曲がったヤモトは吹き飛んで屋台を破壊!「う……」起き上がろうとするヤモトの黒髪をソニックブームは掴む。「スッゾオラー!」
posted at 21:22:00

「う……」「これがカラテの差って奴だ!エエッ?」ヤモトの髪を引っ張って無理やりに立ち上がらせると、ソニックブームは嘲笑的に顔を近付けた。「サイキックごときで調子に乗りやがってクソガキが。スーサイドは死んでもわからなかったが、テメェはどうかな、エエッ?」「う……」
posted at 21:31:02

ヤモトの顔からメンポが外れ、地面に滑り落ちる。その瞳に燃えていた桜色の火はもはや無い。「シンジケートってのは、とことんやるんだぜ」「う……!」ソニックブームはヤモトを締め上げる。彼は真性のサディストであり、こうした一方的な暴力と悪罵に性的な愉しみすら見出していた。
posted at 21:46:15

「親殺しのクズが、ユウジョウ?笑わせンな」ソニックブームはヤモトの頬を張った。「ウッ!」「テメェのようなクズが生きる道はソウカイヤのニンジャ以外にねぇんだよ、エエッ?謝ってみろよ?テメェがした事を!オトモダチに隠している事をよ?」だが、ヤモトは震えながら見返す、目に涙を溜めて!
posted at 21:55:55

「い、嫌だ……」「ヘッ」ソニックブームはヤモトを崩れた屋台へ放り捨てた。「気に入らねえ。もう少し俺様の好きにいたぶって、後はリー・アラキにでもくれてやる。お前、死んだ方がマシだったぜ、きっとな」屋台街の店主や客は皆、脱兎のごとく逃げてしまっている。マッポ?来るわけがない……
posted at 22:08:11

夜の屋台街は不気味に静まりかえっている。聴こえるのは、遠くの通りで鳴っているコマーシャル音声や電車の走行音。そして、「ズルッ!ズルズルッ!ズルズルッ!」
posted at 22:13:28

「……アン?」ヤモトの頭を踏みつけようと進み出たソニックブームは足を止めて耳を澄ませた。「ズルズルッ!ズルズルーッ!」近くの屋台からだ。ソニックブームはノレンの奥に二本の脚を見る。ということは、愚かにもこのニンジャ同士の戦闘下で逃げなかった者が一人いたという事だ。「ズルズルー!」
posted at 22:19:43

屋台のノレンには「オスシソバ」と極太ミンチョ書きされている。「おいコラ、ウルッセーゾコラー!スッゾオラー?」ソニックブームは緊張感を削ぐソバすすり音を咎めた。わざとらしいほどにうるさい音である。彼はまた、ニンジャを近くに知りながら逃げない不敵さを不快に思い、かつ、警戒心を抱いた。
posted at 22:26:06

ノレンが翻り、スシ・ソバのドンブリと箸を手に持ったまま、その男は街灯の下に姿をさらした。それを目にしたソニックブームは絶句した。ニンジャだったからだ。それも、赤黒のニンジャだったからである。赤黒の。
posted at 22:31:22

既にスシ・ソバを完食したと思しきそのニンジャの顔には、特徴的なメンポが装着されている。ソウカイヤのニンジャの間で一人として知らぬものの無い意匠、悪夢の具現。禍々しい書体で「忍」「殺」のレリーフを施された、おそるべきメンポが。
posted at 22:36:32

「テメェ……テメェはニンジャスレイヤー!テメェいつからそこに……」ソニックブームは狼狽した。赤黒のニンジャはドンブリを手に持ったままオジギした。「ドーモ、はじめましてソニックブーム=サン。ニンジャスレイヤーです。おちおち食事もできんな、この街は」
posted at 22:42:41

(「ラスト・ガール・スタンディング」 #6 終わり。#7へ続く
posted at 22:47:39

◆◆◆◆◆◆◆
posted at 22:48:05

NJSLYR> ラスト・ガール・スタンディング #7

110427

「ラスト・ガール・スタンディング」 #7
posted at 22:48:30

「ふざけるな!」ソニックブームは喚いた。そしてイライラとオジギする「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ソニックブームです。テメェ、どうしてここに!そして何故俺を知っている!」「状況判断だ」ニンジャスレイヤーは言い捨てた。
posted at 22:51:24

「あのノロシ。街中を走り回るクローンヤクザ。あれだけ騒いでおきながら私に理由を求めるとは、おめでたい奴よ」ニンジャスレイヤーは無感情に言った。「オヌシの情報を得るのも容易だ。……オヌシらソウカイ・ニンジャは所詮、狩られる獲物でしかないという事を理解した方がいい。ニンジャ殺すべし」
posted at 23:04:37

「ザッケンナコラー……」ソニックブームはカラテを構えた。「テメェこそ、のこのこ俺様の前に現れて、生きて帰れると思うなよ。テメェの首はバカバカしいほどの金額のインセンティブがついてるぜ。俺様のソニックカラテを、そのツラに嫌と言うほど叩き込んでやる」
posted at 23:12:43

ニンジャスレイヤーもまたカラテを構えた。そして右手の平を上向け、手招きした。「……やってみろ!」
posted at 23:35:02

「イヤーッ!」ソニックブームが中腰からのパンチを繰り出す。ブーム!ソニックカラテパンチだ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは身長の三倍の高さをジャンプして衝撃波を回避する。そのままソニックブームの脳天へ踵を打ち下ろし攻撃!「イヤーッ!」
posted at 23:49:49

「ザッケンナコラー!」ソニックブームは両腕をクロスさせて踵落としを防御した。ニンジャスレイヤーはその反動を活かして後ろへ跳ね、回転しながらスリケンを四連続投擲!「イヤーッ!」「スッゾオラー!」ブーム!ソニックブームは両腕を交互に振り回し、衝撃波でスリケンを破壊した!
posted at 00:04:42

「ドグサレッガー!」ソニックブームは上級ヤクザスラングを吐きながらニンジャスレイヤーへ向かって突き進む。コワイ!「イヤーッ!」ソニックブームのソニックカラテ前蹴りだ!ブーム!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは側転して衝撃波を回避!
posted at 00:55:10

「スッゾオラー!イヤーッ!」ブーム!ソニックカラテ裏拳だ!ニンジャスレイヤーは素早く回避動作を切り返し、スライディングで衝撃波を潜り抜けながら、ソニックブームの大腿を蹴りにいく!「イヤーッ!」「グワーッ!」筋組織断裂!だがソニックブームのニンジャ耐久力はそれに耐える!
posted at 01:09:59

「ザッケンナコラー!イヤーッ!」ブーム!ソニックカラテ膝蹴りが襲いかかる!ニンジャスレイヤーは飛び込み前転で衝撃波を回避、そのまま体をねじってバックフリップ三連続をきめて間合いを取った。この勝負、互いに譲らずだ!
posted at 01:14:48

((フジキド……フジキド……))ソニックブームと睨み合うニンジャスレイヤーは己の内なる声を感じる。ナラク・ニンジャの胎動を。((コヤツはカゼ・ニンジャ・クランのグレーターニンジャ。この程度の弱敵をあしらえぬようでは、やはりワシに体を預けるべきでは?))((黙れ))
posted at 01:53:46

((オヌシにインストラクションをくれてやろう。よいか、カゼ・ニンジャ・クランのソニックカラテを封じたくば、ワン・インチ距離で常に戦え。さすれば衝撃波恐るるに足らず。実際この戦術でソニックカラテの技の殆どを無力化された事でカゼ・ニンジャ・クランは大きく落ちぶれた……愉快……))
posted at 01:59:07

ゴボゴボと濁った笑いでニューロンを汚しながら、ナラク・ニンジャの意識は再び水面下へ沈んで行く。時間の感覚が戻る!「イヤーッ!」ソニックブームの右手が霞んだ。ソニックカラテ右ストレートである!ブーム!ニンジャスレイヤーは再び高く跳躍して回避を試みる。「イヤーッ!」「スッゾオラー!」
posted at 02:09:37

ソニックブームは空中のニンジャスレイヤーめがけソニックカラテ対空ポムポムパンチを繰り出す。ゴウランガ!回避動作を学習しての対策的攻撃だ!ブーム!衝撃波が空中のニンジャスレイヤーを襲う!
posted at 02:14:43

【NINJASLAYER】
posted at 02:16:09

【NINJASLAYER】
posted at 14:45:50

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは空中からスリケンを五枚同時に投擲、衝撃波にぶつけて相殺!完全に打ち消すことはできずそのニンジャ装束のあちこちに裂傷が生まれるが、そんな事を気にするフジキドではない。見事彼はソニックブームのワン・インチ距離に着地した!
posted at 14:48:41

「ザッケンナコラー!」ソニックブームはソニックカラテを繰り出せず苛立った。この距離で衝撃波を出せば己にも同等かそれ以上のダメージが降りかかるのだ。だがソニックブームは独自の訓練を積んだソウカイ・シックスゲイツのニンジャ。ナラク・ニンジャの知る過去のニンジャ戦士とイコールではない!
posted at 14:51:25

「イヤーッ!イヤーッ!」ナムサン!危険なショートフックだ!ニンジャスレイヤーは掌を素早く動かし、丁寧にその打撃をいなしていく。「イヤーッ!」「イヤーッ!」右手!「イヤーッ!」「イヤーッ!」左手!「イヤーッ!」「イヤーッ!」さらに右手!「イヤーッ!」「イヤーッ!」さらに左手!
posted at 14:53:52

ゴウランガ!まさにそれはミニマルな木人拳めいた最大接近距離打撃の応酬!外からみればそのやり取りはたいへん細かく地味であったが、目まぐるしい攻撃そして防御の構築美めいた小宇宙!「イヤーッ!」「グワーッ!」そして、両者足を止めての打ち合いを制したのはニンジャスレイヤーだ!
posted at 14:57:36

「ザッ……ケンナコラー!」顔面にコンパクトな裏拳の一撃を受けたソニックブームは仰け反りながらチョップを繰り出す。ニンジャスレイヤーはそれを滑らかに反らし、残る手の人差し指と中指でソニックブームの両目を強襲する!「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 15:01:19

ナムアミダブツ!無慈悲!目潰しを受けたソニックブームはよろめき、たたらを踏む。「グワーッ!スッゾオラー!」流れる血の涙!しかしニンジャスレイヤーはこの一撃で眼球を摘出ないしそのまま脳を破壊するつもりでいた。傷が浅い!
posted at 15:04:31

「ザッケンナコラー!イヤーッ!」ソニックブームはワン・インチ距離からジェット・ツキを繰り出す!覚悟の一撃だ!ブーム!「グワーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは回転しながら吹き飛び、屋台に突っ込んだ。ソニックブームとて無事ではない、その拳は自身の衝撃波で裂け、血が噴き出した!
posted at 15:12:03

「イヤーッ!」屋台の残骸からニンジャスレイヤーが跳ね起きた。打ち合うたびにソニックブームの方にダメージが蓄積しているのは明らかだ。両者のカラテの差が徐々にはっきりとしてきている……!
posted at 16:37:14

「ザッケンナコラー!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ソニックブームは小刻みにソニックカラテジャブを繰り出す。拳から血が噴き出し、危険な衝撃波がニンジャスレイヤーを立て続けに襲う!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」実力差を埋めるべく短期決戦の構えなのだ!
posted at 17:05:03

だが……ニンジャスレイヤーのジュー・ジツは既にソニックブームのソニックカラテに適応し始めていた。「沢山撃つと実際当たりやすい」というのは有名な江戸時代のレベリオン・ハイクであるが、現実はそうはいかぬものだ。特に、ニンジャのイクサにおいては……!
posted at 17:32:33

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ブームブームブーム!背後で屋台や椅子やチョウチンが炸裂する。ニンジャスレイヤーは最小限の動きで衝撃波をかわしつつ接近する。「なぜだ!なぜ当たらない!ザッケンナコラグワーッ!」傷ついていたソニックブームの右腕の筋組織がさらに裂け、鮮血が噴き出す!
posted at 17:45:46

「既に勝負あったということだ」ニンジャスレイヤーは歩きながら冷たく宣告する。「さっきの捨て身の一撃で私を仕留められなかったオヌシの負けだ」赤黒の装束で目立たぬが、その脇腹には血のシミが拡がり、地面に滴っていた。「ザッケンナコラー……」「ハイクを詠め、ソニックブーム=サン」
posted at 17:51:33

「ス、スッゾオラードグサレッガコラー……!」マントラめいたヤクザスラングを呟きながら、ソニックブームは最後の捨て身の一撃を試みんとした。中腰になり、構えるはソニックカラテ中段ストレートである。「ザッケンナザッケンナコラー……!」
posted at 17:58:52

しかしその時だ!斜め後方からの強烈な寒気と圧力が突風めいて押し寄せ、ソニックブームは集中を破られた。よろめいて思わずその方向を見やる。ニンジャスレイヤーも同様にそちらに目をやった。
posted at 18:00:46

ヤモト・コキである!仁王立ちでソニックブームへ向いた彼女の瞳にはいま再び桜色のニンジャソウルの光が宿る。しかし彼女に意識はあるのだろうか?そしてその頭上には、おお……ゴウランガ……ゴウランガ!屋台から剥がされた巨大なカーボンビニールシートが宙に浮き、旗のように翻る……!
posted at 18:11:12

「テメェまだやる気か……テメェ……なんだそりゃ……オリガミじゃねぇぞ……」ソニックブームは色を失った。前方にニンジャスレイヤー、後方に、倒したはずのヤモト・コキ、その恐るべきオリガミ・ジツは今カーボンビニールシートを折り曲げ、ひとつの巨大な具体的形状を作り上げようとしている!
posted at 18:22:49

「ザ……ザッケンナコラー!」ソニックブームはオリガミ・ジツを阻止すべく、仁王立ちのヤモトに飛びかかった。しかし!「イヤーッ!」「グワーッ!?」ニンジャスレイヤーが投げつけたドウグ社のカギつきロープがその脚に絡みつき、引き戻す!「グワーッ!?」「オヌシの相手は私だ」
posted at 18:26:26

「ザッケンナコ……」「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーはロープをニンジャ腕力で思い切り手繰り寄せる!ドウグ社の巻き上げ機構が加味され、ワイヤーアクションめいてソニックブームの体が宙を飛ぶ!そこへニンジャスレイヤーが、「イヤーッ!」「グワーッ!」 蹴りを叩き込む!
posted at 18:52:37

「グワーッ!」非情!強烈なサイドキックをまともに受けたソニックブームはフリッパーで打ち返されるピンボールの球めいて跳ね返り、地面に叩きつけられる!そして空中ではいよいよ、カーボンビニールシートが無慈悲なオリガミ・シルエットを完成させつつあった……フェニックスの姿を!
posted at 18:56:49

「ウ……ウオオオオオオーッ!」ソニックブームは無意味な叫び声を上げた。逃れられぬ死を前に彼の胸中を満たすのは、ヤクザバウンサー時代、ニンジャ時代、彼の身勝手な嗜虐心のおもむくままに、虫けらのごとく無残に殺めてきた弱者達の死に際の顔……!
posted at 18:59:53

ヤモト・コキは荘厳ですらある動きで、這いつくばるソニックブームを指差した。「……行け!」巨大なフェニックスのオリガミがソニックブーム目掛けて真っ直ぐに滑空する。インガオホー!
posted at 19:05:30

「サ……サヨンナラー!」ソニックブームの叫びは、激しい閃光と爆音を伴うニンジャソウル爆発に掻き消される!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは垂直に高く跳躍し、四方八方へ吹き飛んだ屋台の残骸を回避。ヤモトの目の前に着地した。
posted at 19:13:13

ニンジャ三人を交えての乱闘の結果、無残に破壊された夜の屋台街で、ニンジャスレイヤーとヤモト・コキは対峙した。ヤモトの目は消耗によりやや虚ろで、そこには既にニンジャソウルの光は無い。制服はボロボロで、左上腕の出血を右手で押さえている。
posted at 19:27:29

「……ドーモ。ニンジャスレイヤーです」フジキドは淡々とオジギした。ヤモトはニンジャスレイヤーを見返した。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ヤモト・コキです」その表情はなかば処刑台へ向かう殉教者めいて悲愴であった。
posted at 19:48:36

「あれをすべて、オヌシ一人でやったのか」フジキドが問う。道中、殺戮されたクローンヤクザの死骸を指した問いである。「アタイがやった。攻めてきたから」ヤモトは頷いた。そして力なく付け加える。「……もう無理みたい」「そのようだな」
posted at 19:53:49

((……殺せフジキド、このこわッぱを。コヤツに憑いておるのはシ・ニンジャだ。ワシはコヤツをよう知っておる。消耗し切った今ならば、こんな容易い仕事は無いぞ……さあ、くびり殺せ……))ニューロンの彼方からナラク・ニンジャの声が届く。
posted at 20:02:15

((黙れ))フジキドは撥ねつけた。ナラクが狼狽える((なにをバカな!?復讐を遂げよ!))((復讐?この娘を殺すことがか))((……全てのニンジャを殺せ!))((オヌシは考え違いをしている。私はオヌシの欲望ではなく私の目的を果たすのだ。この娘はソウカイヤに連なるものでは無い))
posted at 20:51:49

ドクン!フジキドの右目から血の涙が流れ出す!((失望させるなフジキド!全てのニンジャを殺さぬか!殺せ!))ゲンドーソーの封印、さらにウィルオーウィスプとの戦いにおける精神的制圧を経てなお、いまだに残るこれほどの暴威!フジキドは血の涙を拭う。そしてヤモトに言った。「行け!」
posted at 21:05:49

((なんたる堕落!堕落の極み!かつてのオヌシはさような生温い手抜かりと無縁であった!))((黙れ))フジキドはニューロンを侵すナラクの触手を振り払う。((手抜かりなど無い。これまでも、これからも))((生かせばいずれ禍根を残すぞ、見ておれ))((ならばその時に殺すだけだ))
posted at 22:25:07

ヤモトは後ずさり、そして、もう一度無言でフジキドにオジギした。そのあと素早く踵を返し、駆け去って行った。後に残されたフジキドは際限無く赤い涙を流す右目を押さえ、震えながら膝をついた。もう片方の手が地面にチョップを叩きつける。繰り返し……狂ったように。
posted at 22:31:48

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posted at 22:38:27

<「日刊コレワ」の三面記事 >
posted at 22:47:30

【怪奇失踪!つなぐ点と線】学園治安崩壊の魔の手はあなたの街にも忍び寄る。キョート・リパブリックのとある進学校で校舎屋上から飛び降り自殺をはかったXXが、ネオサイタマのアタバキ高校に転校。そこで他校ヤンク生徒と暴力事件を起こし収監されたというのだ。なんたる事件と隣り合わせの人生!
posted at 23:00:19

しかも驚くべきことに、XXの飛び降り自殺行為に巻き込まれ負傷、奇跡的な回復を遂げたYYも、同じアタバキ高校に転校していたのである。これが偶然なのだと誰が信じようか?どちらも複雑な家庭環境を背景に持ち、身寄りは無く、そして震撼すべきは、XX収監の翌週に、YYは失踪したのである。
posted at 23:06:48

この二つの事実を結ぶのは何か!?ひとつ言えるのは、こんな恐ろしい出来事を起こるがままにして恥じない政府の無能である。あなたの家をヤンクから守るには、いますぐ内閣総辞職して政権交代だ。
posted at 23:09:17

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posted at 23:12:13

ドンツクドンドンスププンブブーン。ドンツクドンドンスププンムムーン。「正義~、どこにでもある正義~」
posted at 23:16:07

アサリは憂鬱な電子フォーク音楽を流すラジオをリモコンでOFFにした。部屋にはダークビジュアルロック「マゲノスミティ」のモノクローム・ポスターがアサリを見返し、棚の上にはイーグルのオリガミが飾られている。
posted at 23:21:49

あの日、ヤモトが折ってみせた四つのオリガミの片割れだ。アサリはそれを手に取り、胸に当てる。無言で嗚咽する。
posted at 23:35:06

そのときだ。コン、コン。ベランダのサッシ窓が鳴った。アサリは寝巻きの袖で涙をぬぐった。コン、コン。音は控えめに、だが、繰り返し鳴る。
posted at 23:44:18

アサリは一瞬それを恐れた。だがすぐに思い当たった。ショウジ戸を引き開ける。
posted at 23:48:07

「アイエエエ!」アサリは思わず叫んだ。悲鳴ではない。歓喜である。そしてガラスのサッシのカギを外し、引き開けた。ここが三階である事など、どうでもいい。「ドーモ」ベランダのヤモトに、アサリは臆面無く抱きつくのだった。「ヤモト=サン!ヤモト=サン!生きてた……生きてた……!」
posted at 23:53:54

「アタイは大丈夫」ヤモトは優しく言った。「今日はアイサツに来たんだ」「アイサツ?ねえ、お茶を入れるよ、入って」ヤモトはしかし、静かに首を振る。「今ここで長居すると辛くなるから、お茶はいい」アサリは無言で頷いた。事情はまるでわからないが、ヤモトが別れを告げに来た事は直感していた。
posted at 23:59:51

「すぐに会いに来れなくてごめん」ヤモトは言った。彼女はしばらく言葉を探していた。やがて続けた。「アタイ、一緒にいたら、アサリ=サン達に迷惑をかけてしまう。あの時のカラオケも、本当は火事じゃない。アタイにも詳しい事はわからない。でも、アタイは……行けないんだ、一緒にいたら」
posted at 00:07:12

アサリは涙をこらえてヤモトの話を聞いた。アサリにもヤモトの身に降りかかった異常な出来事を薄々理解することはできていた。あの日、繁華街で、アサリを守るためにヤモトが男達を殺害したその一部始終を、彼女ははっきりと見ていたのだ。
posted at 00:17:47

だから、アサリは無理に引き止めてヤモトを悲しませまいとした。それでも、「……もうずっとサヨナラ?」アサリは聞かずにいられなかった。ヤモトは首を横に振り「きっと帰ってくる。アサリ=サンに何かあったら、どこからでも駆けつける」そう言って、アサリの手を取った。「サヨナラ。ユウジョウ!」
posted at 00:32:04

アサリはとうとう涙を流した。だが笑顔を作り、答えた。「ユウジョウ!」ヤモトはアサリの手を最後にもう一度強く握ると、ベランダから軽々と手すりに飛び移り、夜風にセーラー服をたなびかせた。「……イヤーッ!」隣の建物へ向かって、彼女はその身を踊らせた。
posted at 00:37:37

ヤモトが夜の闇にかき消え見えなくなった後も、アサリはベランダに出たまま、しばらくそうしていた。
posted at 00:45:22

(「ラスト・ガール・スタンディング」 #7 終わり)
posted at 00:45:41

NJSLYR> スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ #1

120114

第一部「ネオサイタマ炎上」より:「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」 7
posted at 16:54:55

「じゃあ、もう一回、もう一回だよォ」モヒカン男は泣きながら人影に 言った。人影はかぶりを振った。「残念だが、それは無理だ」「エッ?」「ショック銃のインジケータのLED表示が赤いだろ」「ウン……」「再充電しなけりゃダメだぞ」「アッへ!そうか!アリガト!」「礼はいいよ」 8
posted at 16:57:37

人影は呟き、銃を構えた。モヒカンのそれとよく似たショック銃だ。「奇遇だな。俺のこの銃、お前のそれの後継つうか、まあ、そんなだよ。羨ましいだろ」「えーッ!?」モヒカン男は叫んだ。「ナンデ?」「いいだろう」「ほしい!」「ああ、やるよ。……中身をな」……キャドゥーム! 9
posted at 17:00:58

「アバーッ!」モヒカン男の上半身が電光に包まれ、一瞬にして焼け焦げた。即死だ。「……」人影は闇の中から現れ、モヒカンの死体を蹴った。懐からカメラを取り出し、焼け焦げた死体に向けて繰り返しシャッターを切った。合掌した。「ナムアミダブツ」電灯に照らされる人影は……ニンジャだ。 10
posted at 17:05:22

「アイエ!」脇道から微かな悲鳴。ニンジャは素早くそちらを睨む。「見てません」薄汚いなりのマイコだ。「許して。見てないの」「そうか」ニンジャは答えるかわりにショック銃をマイコに向け、引き金を引いた。光らぬ。「エネジィ……」悲しげな合成ガイド音が鳴った。ニンジャは舌打ちした。 11
posted at 17:09:29

「これだからな」ニンジャはぼやき、腰の鞘からカタナを抜いた。柄本にカタカナで小さく「ウバステ」と刻印されている。「アイエエエ!」マイコは逃げ出した。「イヤーッ!」ニンジャは駆けた。カタナを一閃、泣き顔のマイコは首を切られ死んだ。ニンジャは眉をしかめ、呟く。「ナムアミダブツ」 12
posted at 17:14:31

ニンジャはカタナの血を払い、鞘に戻した。「だが綺麗な一撃だ。よほど良い」物言わぬ死体を見下ろし、瞑想的に呟く。よほど良い……何よりも?当然、マイコの返事は無い。死んでいるからだ。眠るように。 13
posted at 17:23:42

ニンジャは装束のステルスをオン、路地を駆け、やや広い通りに抜けた。「スパシーバ!スパシーバが新しい。ごアイサツ」「アカチャン!」「長い。……長い」広告ビジョンの大音量音声がたちまちに空気を支配する。行きかう人々は前だけを見て、PVCコートに跳ねる雨が白い。 14
posted at 17:28:52

ニンジャはアイドリングするビークルのもとへ歩き、ドアを開けて滑り込んだ。「ご苦労様です。シルバーカラス=サン」運転席の男がゼンめいて頭を下げた。引きつった笑顔に整形した顔は不気味の一言、笑い皺は暗号めいている。「車を出せ。笑い爺=サン」「ハイヨロコンデー」 15
posted at 17:33:54

ビークルは荒々しくも的確な運転でハイウェイへ抜け、ネオン看板の光は走行灯の白黒へ様相を変える。シルバーカラスは新型ショック銃を後部座席に放った。「ダメだ、これは。エネルギー効率がまるでダメ、しかも減り具合が安定してない、何発目でアウトになるかもわからん、アラートも出ない」 16
posted at 17:42:32

「そりゃヒドイんですか」笑い整形の男はよくわからぬ受けこたえをした。「ああヒドイ」シルバーカラスは苛立たしげにタバコを取り出し、吸った。「場合によっては実際死ぬ」「撃つ人がですか?」「他に誰が死ぬんだ」「いけませんね」 17
posted at 17:45:21

「危険手当てを三倍で重点しろ」「三倍ですか」「三倍だ。仮に敵がニンジャなら、俺はさっきので死んだ。ふざけたモノをよこすなと伝えろ。……採取データは10時間以内にIRC送信する」「わかりました」18
posted at 17:49:41

窓の外の夜空を見やると、ハイウェイを走行するビークルに並ぶように、コケシツェッペリンが浮かぶ……側面のビジョンには、浜辺で餅をつくスモトリの広告映像が流れる。「リゾートで、おいしいお餅ですね。あなたを癒したい」窓ガラスを通してまで聴こえてくる広告音声。「リゾート……」 19
posted at 18:02:50

……「……リゾート?」シルバーカラスの顔の横で、くすぐるような女の声。腕枕されるノナコが、シルバーカラスを覗き込む。「そんな事言ったか?俺が」「言った」ノナコは笑った。ノナコ……シルバーカラスの気に入りのオイランだ。「今?」「今。どんな夢見てたの」「ああ……」20
posted at 18:06:40

シルバーカラスは言葉を濁した。ノナコは彼の胸板に頬をつけた。「ほんとは疲れてンでしょ」「……」シルバーカラスはタバコを探した。箱は空だ。彼は舌打ちした。「ノナコ」「何?」「俺は死ぬんだとよ。長くないんだと」「エー?」ノナコは笑った。シルバーカラスも笑顔を作った。 21
posted at 18:10:03

-------- 22
posted at 18:15:50

「ネオサイタマ。コンフリクト。コンフリクトに備えよう。今はザザッ」違法電波の差し込みが朝の酸性雨ノーティス放送を数秒間だけジャックした。いつもの事だ。鏡に向かってシルバーカラスは髭を剃り、頬を手で押さえ、舌を出して表面の色を確かめた。目袋を引っ張り、粘膜を見た。 23
posted at 18:23:42

振り返ると、床の間には「不如帰」のショドーが飾られ、焦げ茶の壺にはバイオ水仙が刺さっている。高級ではあるが実際狭い彼の部屋に奥ゆかしく作られた、ごく小さなゼンだ。「……」彼はカウンター型のテーブルに置かれたメモを手に取る。書かれているのはネオサイタマのアドレスだ。 24
posted at 18:30:10

シルバーカラスはメモを手に、しばし物思いに沈んでいた。タバコの箱を手に取る。やはり中は空だ。彼は舌打ちした。「キョートよりも古いものがあります。それは本当です。我が社には」コマーシャルを流すテレビをオフ、外出着に着替えると、彼はカタナを掴んで自室を後にした。 25
posted at 18:42:14

……メモを手にしたシルバーカラスの目の前には、四角く狭い駐車場があった。液晶パネル付きメーターが明滅。彼の足労を嘲笑うかのようだ。寒い風が吹き、彼は帽子を深く被り直した。「あンだァ?」道路を挟んだ向かいのキオスク、「や」「す」「い」のノレンを上げて、店主の老婆が顔を出した。 26
posted at 18:51:44

「金なら返さねえぞヤクザがァ」老婆は凄んだ。シルバーカラスは向き直った。「ヤクザじゃなくて残念だったな」「あンだァ」「婆さん……どうした、ここ。この」背後の駐車場を指し示す。「イアイがあったろ。イアイのドージョーが」「……金なら返さねえぞヤクザがァ」 27
posted at 18:56:47

「ドージョー……イアイのセンセイは。タオシ・ワンツェイはどこに」シルバーカラスは辛抱強く、曖昧な老婆に問うた。「くたばったのか?」「知らねえ」老婆は目を閉じて答えた。シルバーカラスは肩を竦めた。「婆さん。タバコ……『少し明るい海』あるか」「売ってねえ」「そうか」 28
posted at 19:01:35

------------ 29
posted at 19:08:04

「ドーモ」『笑い爺』が接近するシルバーカラスを認め、車内でオジギした。助手席に乗り込むと恭しくアタッシェケースを差し出し、目の前で開いて見せる。「セスタスガン。例によって仮称で」ガントレット状の装備である。「殴りつけると火薬の機構が働いてですね、こう、ゼロ距離射撃します」 30
posted at 19:21:14

「次から次へと」シルバーカラスは 呆れたように呟き、素早くそれを右手に装着した。手を開閉して、具合を確かめる。「殴れば自動です。安全装置は解除したうえで。普段は暴発しないように安全装置があるんですと」「そうか」シルバーカラスは興味薄げに生返事をした。 31
posted at 19:24:51

「……またヤガネ・ストリートか?」シルバーカラスがビークルの進路に気づき、眉根を寄せた。「ハイそうです」と『笑い爺』。「ハイってな、二週間も経って無いぜ。ここでやってから」「そうですよね?」エージェントはよくわからぬ受け答えをした。「まあ、他よりはいいんで。今のシーズン」 32
posted at 19:32:11

「チッ」シルバーカラスは舌打ちした。「面倒を抱えるのは俺だ」「殺せばイイでしょ。マッポでも何でも。あなたニンジャなんだから」笑い顔整形した男は不気味に無表情だ。ソウカイヤのクロスカタナ・エンブレムを示し、「私は優秀ですし、後ろ盾もバッチリ、グッドビズ」「……」 33
posted at 19:37:15

然り。ネオサイタマの闇に恐るべきビジネスあり。サイバーツジギリ、あるいはテクノツジギリと呼ばれるそれだ。兵器、武器、時には毒素や病原菌を、貧困市民相手に通り魔めいて人体実験する行為……当然ながら、現行犯であれば射殺も許される重犯罪だ。それがシルバーカラスの生業である。 34
posted at 19:46:56

ソウカイヤと繋がりの深いエージェント『笑い爺』は、複数のメガコーポをクライアントとして抱える。彼は企業名を秘した新兵器をツジギリストに貸与、殺しを行わせて、データを買い取るのだ。ツジギリストは複数存在するが、シルバーカラスの確かなワザマエは、他を圧して余りある。35
posted at 19:51:58

ツジギリと言っても、無差別に殺すばかりではない。特殊な対象を指定される事もある。それはスモトリであったり、男女が定められていたり、カラテカでなければならなかったり、武器を持つ者であったり。あるいは……ニンジャ。 36
posted at 22:36:52

ツジギリストには何人か、ニンジャもいる。だが、それを相手とするとなれば話は別だ。ニンジャ相手に、リスクを一定の水準に抑えて効率的にツジギリできる者となると、シルバーカラスだけだ。ゆえにシルバーカラスは『笑い爺』に対しても、大きな顔ができる。 37
posted at 22:39:37

「で。今夜のグッドビズは。適当に殺せばいいかよ」「そうもいかないですね」『笑い爺』は車載UNIX端末を操作しながら言った。「格闘戦でのアドバンテージを確認しないといけないですからね。ま、あなた元々避けたがるですけど、女や老人はダメ。最低でも成人男性、カラテカならボーナス」 38
posted at 22:47:57

「カラテカでボーナスか」シルバーカラスは虚無的に呟いた。懐に手を入れ、思い出して『笑い爺』を見た。「タバコ無いか」「吸うわけ無いですよね私が。やめてください」シルバーカラスは舌打ちした。上着のフードを被り前を閉めるとそれはニンジャ装束に変形。メンポが自動装着された。 39
posted at 22:56:34

……「フンフンッ!」「フンフンッ!」「フンフンッ!」左拳、右拳と交互に規則正しい正拳を繰り出しながら、タダシイは規則正しいカラテジョギングの最中であった。「フンフンッ!」「フンフンッ!」「フンフン、イヤーッ!」「グワーッ!」通りすがりの浮浪者を殴りつけ、走る! 40
posted at 23:07:38

「フンフンッ!」「フンフンッ!」「フンフンッ!」左拳!右拳!「フンフンッ!」「フンフンッ!」「フンフン、イヤーッ!」「グワーッ!」通りすがりのゴスを殴りつけ、走る!「フンフンッ!」「フンフンッ!」「フンフン、イヤーッ!」「グワーッ!」通りすがりのプッシャーを殴りつけ、走る! 41
posted at 23:11:41

「フンフンッ!」「フンフンッ!」「フンフンッ!」左拳!右拳!「フンフンッ!」「フンフンッ!」「フンフン、イヤーッ!」「グワーッ!」通りすがりの家出ナードを殴りつけ、走る!タダシイの瞳は今夜もチャンピオンシップへの夢に燃えていた。当然であるがカラテカの暴力を止める者はいない。 42
posted at 23:15:07

「フンフンッ!」「フンフンッ!」「フンフンッ!」左拳!右拳!「フンフンッ!」「フンフンッ!」「フンフン、イヤーッ!」「グワーッ!」通りすがりのヤンクを殴りつけ、走る!「フンフンッ!」「フンフンッ!」「フンフン、イヤーッ!」「グワーッ!」通りすがりのDJを殴りつけ、走る!43
posted at 23:20:36

「フンフンッ!」「フンフンッ!」「フンフンッ!」左拳!右拳!「フンフンッ!」「フンフンッ!」「フンフン、イヤーッ!」「グワーッ!」通りすがりの先ほどとは別のゴスを殴りつけ、走る!「フンフンッ!」「フンフンッ!」左拳!右拳!「ドーモ、そこのあんた」「イヤーッ!」 44
posted at 23:24:50

タダシイは正拳を繰り出した。人影はそれを無造作に手のひらで受け止めた。「ドーモ。ドーモ。殴らせてくれよカラテカ=サン。シルバーカラスです」「イヤーッ!」タダシイは逆の手で正拳を繰り出した。「イヤーッ!」シルバーカラスは殴り返した。カウンターだ!カブーン!「アバーッ!?」 45
posted at 23:30:36

ナ、ナムサン!タダシイの顔がマグナムで撃たれたかのような有様で破砕し、即死した!これがセスタスガン!シルバーカラスが相手を殴った衝撃でトリガーが引かれ、手首のあたりにある銃口が火を噴いたのだ!ムゴイ!タダシイは実際横暴であった、だが考えて頂きたい。ここまでされる謂れは無い! 46
posted at 23:36:02

「……!」シルバーカラスは衝撃力にたたらを踏んだ。「手首の銃口、殴り方を間違えりゃ、こっちの拳が吹っ飛ぶ」彼はレコーダーに向かってうんざりと報告した。「ナムアミダブツ」無惨な死骸に手を合わせ、彼は踵を返した。『もう一人ぐらい殺してください』通信機から要請だ。「OKだ」 47
posted at 23:41:08

さらに奥へ進む。「オカメ」と書かれたネオン看板。先日のツジギリで若い男を殺めたのはここだ。排水溝のすぐ脇に、誰がそなえたものか花束がある。「……」彼はそれを横目に走り抜ける。角を曲がると、丁度そこにヤクザだ。「こいつでいいか。ドーモ、シルバーカラスです」彼はオジギした。 48
posted at 23:50:32

「ア?」ヤクザはすごんだ。「ニンジャの真似かコラ?」「殴らせてくれよ。お前も殴ってこい」シルバーカラスはカラテを構える。「じゃないと仕事が終わらんのだ」「スッゾコラー!」ヤクザが殴りかかる!「イヤーッ!」殴り返す!カブーム!……ナムアミダブツ!まさに一方的殺戮……! 49
posted at 23:56:35

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posted at 23:58:20

数時間後のシルバーカラスはコインランドリーにいた。……色々とツイてない。色々と。彼はランドリー内のベンチに腰掛け、陰鬱に、テレビモニタに映るトゥーンを眺めていた。 51
posted at 00:18:12

自室のハイ・テックなランドリーも、壊れてしまえばドラム缶と変わらない。彼はテレビモニタから目を離し、壁の「頑張れば当たる」と書かれた番号クジのポスターを眺めた。それから、回っている衣類……血汚れを落とした上着を。その後、ベンチの反対側の端に座っている少女を見やった。52
posted at 00:36:54

年の頃ハイスクール程度。おかしな時間にいるものだ。どこか憔悴したその少女は、黙ってコインランドリー備えつけのウキヨエ・コミックを読んでいる。「……」少女が顔を上げた。シルバーカラスは目をそらした。ランドリーはまだ回っている。少女を再度見た。彼女は彼の事を見たままだった。 53
posted at 00:53:07

(第一部「ネオサイタマ炎上」より:「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」#1 終わり。#2へ続く) 54
posted at 00:54:34

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 10:48:57

NJSLYR> スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ #2

120115

第一部「ネオサイタマ炎上」より:「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」 #2
posted at 10:50:03

「……ドーモ。あー……」シルバーカラスは会釈した。「カギ・タナカです」カギ・タナカは彼の使う偽名だ。マンションもこの名前で借りている。「ドーモ」少女も会釈を返す。「ヤモト・コキです」二者は自然に名乗った。異常な事ではない。他人同士、同席すればアイサツ有り。日本の奥ゆかしさだ。 1
posted at 10:57:47

長い黒髪の少女は耐酸性雨ブルゾンを着ている。だが、その下は制服だ。シルバーカラスは訝しんだ。こんな夜中に。ランドリーの中で回っているのはどうやら私服。「俺もいいですか」シルバーカラスはヤモトの隣にあるマガジン・スタンドを示した。「どうぞ」ヤモトは頷いた。2
posted at 11:16:28

彼は毒々しい見出しが踊る「日刊コレワ」を手に取りかけ、やめて、「スポーティファイ」誌を手にとった。ヤモトから離れて座り、パラパラとめくる。記事はあまり目に入って来ない。この時間に制服で何を?その手のサービスマイコ?否、そんなアトモスフィアは無い。そして大きめのリュックサック。 3
posted at 11:25:58

(ま、家出娘ってところか。大丈夫なのかね)彼は雑誌に視線を戻す。だが、そのとき彼のニューロンに走った感覚は警戒だった。彼のニンジャ嗅覚、ニンジャ第六感といったものが、この少女のアトモスフィアにそぐわない、微かなイクサの痕跡めいた何かを伝えてきたのだ。 4
posted at 11:39:56

己のコートの下のカタナの重みを感じながら、シルバーカラスは問う。 「この辺りにお住まいで?」「いいえ、一人暮らしの叔母の家に遊びに来たのですが、到着と入れ替わりで、叔母が病気で入院してしまって。服を洗いたくて」スラスラとした、だがやや無理のある答えが出てきた。「そうですか」5
posted at 11:59:05

「乾燥も終わったドスエ」「乾燥も終わったドスエ」ほぼ同時に二台のランドリーがマイコ音声を鳴らした。二人は顔を見合わせた。ヤモトがくすりと笑った。シルバーカラスはそそくさと洗濯物を手提げ袋に詰め込みアイサツした。「じゃあまあ、どうも。この辺は治安悪くないが、気をつけて」「ハイ」 6
posted at 12:07:11

コインランドリーを出たシルバーカラスは家の方角を見やり、思い直して、反対方向へ歩き出した。2、3分歩き「実際安い」とミンチョ書きされたタバコ・ベンダー機に辿り着く。彼は「少し明るい海」を探した。無情な「売り切れ」のランプが灯っている。他の銘柄を購入すべきか逡巡し、結局やめた。 7
posted at 12:12:05

かわりに彼は「香味コヒ結構」とプリントされた缶入りのコーヒーを購入した。ケモ砂糖と人工香料で味つけされた、舌がしびれるほどに甘い液体を飲みながら、彼はゆっくり、元来た道を戻る。コインランドリーを横目で見ると、ベンチには相変わらずヤモトが座っていた。彼は通り過ぎた。 8
posted at 12:26:25

「苦甘い」シルバーカラスはコーヒーを半分も飲み切れず、中身が入ったままのそれを道端に投げ捨てた。前方から肩を怒らせた男が歩いて来た。シルバーカラスは脇にのいた。男は舌打ちし、肩を怒らせたまま、真っ直ぐに歩き去る。シルバーカラスは振り返り、男がコインランドリーに入るのを見た。 9
posted at 12:26:33

「ヤバイか、あれ」シルバーカラスは独りごち、頭を掻いた。予感はその数秒後に的中した。争うような物音と男の怒声、少女の叫びが、通りのここまで聴こえて来たのだ。「可哀想にな」彼は呟き、マンションの方角へ歩き出した。あの男は隠しようもなくニンジャだ。つまり少女が標的。ワケありだ。10
posted at 12:31:43

となると、あのヤモト・コキも彼が感じたとおりニンジャで、それも、ここ最近で物騒な事をやらかしている類いだ。返り血のついた服でも洗ったか?逃亡?わざわざ年端もいかぬ一般市民の少女を殺害するためにニンジャが出向くわけがない。あの真っ直ぐな足取り。緊張した面持ち。 11
posted at 12:42:53

シルバーカラスはその手の厄介事に首を突っ込むタチではない。あの手の事はネオサイタマではチャメシ・インシデント、厄介事は己のビズで既に十分過ぎるほどに十分だ……。 12
posted at 12:46:16

----------- 13
posted at 12:47:03

ヤモトは新たな接近者の気配……ニューロンがヒリつく敵意……を己のニンジャ第六感で知覚し、その男がコインランドリーにエントリーするより先に身構えていた。ガラス自動ドアが開き、男が戸口に立った。男が上着を脱ぎ捨て、一瞬でニンジャ装束姿になった!「ドーモ。ナッツクラッカーです」 14
posted at 12:55:27

男のオジギが場を支配する!ヤモトはアイサツを返した。「……ドーモ。ヤモト・コキです」「驚いているか?ソウカイヤをナメてはいけない。ここまで逃げ延びた事自体がミラクルではあるのだ」ナッツクラッカーは凄みをきかせた。「イヤーッ!」ヤモトは先手を打って飛びかかった! 15
posted at 13:11:48

「イヤーッ!」「ンアーッ!」ナッツクラッカーは素早い踵落としでヤモトのアンブッシュを撃ち落とした。メンポが変形し、奇怪なトラバサミめいた鋼鉄の歯を剥き出しにする!ナッツどころか岩石すら砕くであろう危険な噛みつき攻撃の予感がヤモトを恐れさせる! 16
posted at 13:17:36

「今の情けないカラテでお前のワザマエは十分わかった。見た目相応のガキだ、お前は」ナッツクラッカーが言った。「子鹿めいて無力なガキ!こんなガキがソニックブーム=サンやバイコーン=サンを殺った?嘘だな。誰だ協力者は」「……!」ヤモトは立ち上がる。そこに蹴り!「イヤーッ!」 17
posted at 13:25:06

「ンアーッ!」ヤモトは蹴り飛ばされ、壁際のランドリーに叩きつけられた。「ゴホッ!……ゴホッ!」「貴様のジツのデータも当然ソウカイヤは取得している。要するにカラテミサイルの変形か?ガキめいたオリガミのミサイル?ハッ!」ナッツクラッカーが詰め寄る。「この狭い室内では出せんなァ?」18
posted at 13:28:40

ナムサン、敵はヤモトのジツを想定済と言ったか?確かにコインランドリー内ではヤモトのオリガミ・ミサイルは自殺行為にしかならぬ。なんたるフーリンカザンのメソッドにのっとったナッツクラッカーの狡猾!ヤモトは袋のネズミであった。「まず命乞いをしろ」ナッツクラッカーは冷たく言った。 19
posted at 13:34:17

「そして協力者の名を吐け。ガキのお前はわけもわからず無謀なイクサを続けているんだろうが、社会は許さん。ソウカイヤに楯突く不安分子は、ガキも追い詰めてカラテだ」「……!」ヤモトの目に涙が滲んだ。「黙るな。命乞いをしろ」ナッツクラッカーの目が光る。「身体に訊いてもいいんだぞ」 20
posted at 13:40:09

ナッツクラッカーは脅すようにガチガチと鋼の歯を打ち鳴らした。「お前のように平坦な胸のガキは趣味ではないが、愉しむ事はできる!そして情報もいただく!つまり、グワーッ!?」ナッツクラッカーの口上は遮られた。その胸、ちょうど心臓のある場所からカタナの切っ先が生えていた。 21
posted at 13:44:15

「……つまり?」ナッツクラッカーのすぐ後ろに、先程のカギ・タナカが立っていた。カギ・タナカはナッツクラッカーの頭を掴み、咄嗟の噛みつき攻撃を封じて、冷たく問いかけた。「つまり、背後からのアンブッシュにまるで警戒を振り向けない?」「アバッ!?アバッ……!?」 22
posted at 13:47:37

恐るべきは背中から心臓をひと突きにしたそのワザマエ。ナッツクラッカーは致命傷を負い、急速に死にかかっていた。「ア、貴様……」「ソウカイヤ関係のニンジャか……面倒は嫌なんだよ」彼は片手で懐からダガーナイフを引き抜き、ナッツクラッカーの首の横を刺して、ねじった。「アバーッ!」 23
posted at 13:52:57

ヤモトには知る由も無いが、この刺突はトドメのカイシャクであると同時に、ソウカイ・ニンジャ一般にサイバネインプラントされているIRC通信機を速やかに破壊する為のものであった。タツジン!カギ・タナカはナッツクラッカーの首を掴み、コインランドリーの外へ投げ倒した。 24
posted at 13:56:56

「サ、サヨナラ!」ナッツクラッカーは叫んで爆発四散した。「……ハイ、サヨナラ」カギ・タナカは呟き、向き直った。「あ……」ヤモトは震えながらカギ・タナカを見上げた。「礼はまだいい」カギは遮った。「取り敢えず、お前さんも祈ってくれ。この後俺に面倒が起こらんようにだ」25
posted at 14:13:06

「貴方、ニンジャ」「そりゃそうだろ。アー待て、嫌な感じがする」カギはヤモトに近づき上着を掴んだ。ヤモトは身を硬くした。カギはヤモトの上着のジッパーを引き開けると、裏側を手で探り、小指の爪ほどの機械装置を引き剥がした。「発信機だ。音声の送信は無い。プライバシー尊重で良かったな」26
posted at 14:26:30

「え……それって、居場所が今まで……」「そうだ。俺はその手の電磁波をわかるようにしてる。仕事柄」カギは面白くもなさそうに言い、表を走り抜けたヨタモノのバイクに向かって、見事なコントロールで投げつけた。「で、何をやらかしてきたんだ、お前さんは」カギがヤモトを見た。 27
posted at 14:34:30

---------- 28
posted at 14:41:27

「コレ、コレですね、この黒い丸がいっぱい影みたいにこう、かかってますでしょ、ね」出っ歯のドクターは指示棒でレントゲン写真を指し示しながら甲高い声で説明する。「まあ、ここまで来ると、オタッシャ重点なんですねえ」ドクターは残念そうに溜息を吐いた。「ダメか」「そうなんですよ」 29
posted at 14:53:15

ドクターは頭を掻いた。「ニンジャでもダメなものはダメだという事が最近解って来ました、ハイ」白衣の襟元にはクロスカタナのバッヂとヨロシサン社章が光る。「それともリー先生に」「ご勘弁こうむる」シルバーカラスは遮った。「どれくらいもつのかね、俺は」「ニンジャのデータは少ないです」 30
posted at 14:57:45

「半年もつか?」「いえ、残念ながらで」出っ歯ドクターはメガネを手で直した。「マネーあるんでしょ?ニンジャなら。好きな事して暮らしたらどうです?」「そりゃどうも」「それかボンズですね。罪の意識とかありますか?いいんじゃないですか?そういう余生とか……或いは、やり残した事とか」 31
posted at 15:07:37

……「……また夢ェ?」ノナコが言った。シルバーカラスは天井を見つめていた。「いや、寝てない」「やり残した事がどうって」「ああ。実際言ったんだ。寝言じゃない」シルバーカラスは首を横向けた。ノナコは彼の目をじっと見た。シルバーカラスは無感情に呟く。「何だろうな」「何って?」 32
posted at 15:59:46

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posted at 16:04:28

「ニンジャってのはよ」シルバーカラスは言葉を探しながら、「所謂ニンジャ洞察力、ニンジャ記憶力ってのか……生身の人間の学習セオリーとはだいぶ違う」ヤモトはやや緊張した面持ちで聞いている。ジュー・ウェア姿で、手には木剣。「……何やってんだろうなァ、俺は」「え?」34
posted at 16:13:58

ヤモトが着ているのはシルバーカラスの部屋の備蓄ジュー・ウェアで、やや大きいが、誰も袖を通していなかったものだ(日本の一般的な家庭では、ジュー・ウェアは来客用も含め、数着が常備されているのが普通だ)。彼も同様にジュー・ウェア姿である。「実際、何年ぶりだ……」「え?」 35
posted at 16:17:30

二人がいるのは主の無いアドバンスト・ドージョーであった。ビル街の中にこうした物件が放置されているのがネオサイタマだ。おそらくオーナーはドージョー設立から日を待たず、死ぬか夜逃げするかしたと見えて、タタミはまだ新しく、壁の「イアイ」「カラテ」「ヤツケテ」のショドーも劣化が無い。36
posted at 16:24:21

「話を続けるか。俺たちニンジャにはニンジャ洞察力やら何やらがあるから、とにかく集中して基本のムーブメントを覚えりゃいい。水門が閉まった湖に雨が降っても、川には水が流れない。基本カラテは水門を開くカギだ。わかるか」「……多分」ヤモトは頷いた。 37
posted at 16:29:56

「ところでソニックブームを倒したってのは?本当か?お前が?」シルバーカラスは訊いた。ヤモトは無言でかぶりを振った。「だろうな。色々あるんだろ。知らないニンジャじゃ無いが、ジツだけで勝てる相手のワケが無いぜ」シルバーカラスは詮索せず言った。 38
posted at 16:49:56

「お前はカラテが無いからナッツクラッカーのようなニンジャにもナメられる。実際お前さん、俺が気まぐれを起こさなきゃ、あそこで死んでいたろ。恩に着せてるんじゃない。今のお前さんが戦いながら逃げ続けるなんてのは夢物語だ。責めてるんでもない!ただの事実だ。おい涙ぐむな」「……!」 39
posted at 16:54:58

「俺のカラテはイアイドーだ。剣を使う。だが全てのドーは同じカラテ・ムーブメントをまず覚える。おい、やっぱりその木剣、一回置け」シルバーカラスは教え慣れない様子で、自分が持たせた木剣をタタミに置かせた。「まず、カワラ割りだ。上から下へ拳を突き下ろす。ニンジャになら簡単だ」 40
posted at 17:02:56

シルバーカラスは片膝を突き、「上から」拳をゆっくりと下ろし、「下へ。……」ヤモトに、真似るよう目で指示する。「上から。下へ」「ああ、多分それでいい。……上から。下へだ。拳を。そう」「上から。下へ」「そうだ。調子狂うぜ。こっちの話だ。そうだ、上、下。そうだ……」 41
posted at 17:16:03

……「イヤーッ!」「イヤーッ!」ヤモトが叩きつける木剣を、シルバーカラスは斜めに受け流した。ヤモトはくるりとその場で回り、振り向きながら木剣を突きに行く。シルバーカラスは瞬時にしゃがんでこれを躱し、足払いをかける。「イヤーッ!」ヤモトは側転してこれを躱す。 42
posted at 17:19:18

「イヤーッ!」タタミを蹴ってヤモトはシルバーカラスへ再接近、激しく木剣を打ち込んだ。シルバーカラスは息ひとつ乱さずにこれを自剣でいなしてゆく。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ドージョーのショウジ戸を透かし、暮色がタタミを染める。 43
posted at 17:22:10

「イヤーッ!」「イヤーッ!」……「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!」……「イヤーッ!」「イヤーッ!」…… 44
posted at 17:31:45

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posted at 17:48:41

「ヒートリー、コマキタネー」「……アカチャン!」「ミスージノ、イトニー」オレンジの光が揺れる黒い水面。反響する広告音声のゼンめいた不思議な調和。ノビドメ・シェードの美しく貪婪な夜景を産業ビルの屋上から一望するシルバーカラスであったが、彼自身驚くほどに心は動かなかった。 46
posted at 18:01:13

「アカチャン……」「オッキクネー」「バリキトカ!」光のさざ波はどこか遠い世界めいており、広告音声はどこか油断ならぬサンズ・リバーの呼び声めいている。シルバーカラスはザゼンタブレットを嚥下し、スナイパースリケン投擲用のガントレットを黙々と装着する。 47
posted at 18:08:07

『屋形船から降りてくるホロヨイ・サラリマンを、そこからスリケンで狙撃して適当に殺してください』「これは暗殺か?」『笑い爺』の通信に答えるシルバーカラスの声は剣呑であった。『ま、実際グレーですね』「グレーなんてものは無い。暗殺なら完全に違う料金体系でいただく。ケチはダメだ」 48
posted at 18:13:51

『まあそれは取り越し苦労というもので、貴方そんな狙撃なんてたいして経験無いでしょ。投げまくって誰か一人でも殺してください』『笑い爺』は無礼に断定した。『元は、天才的な狙撃ニンジャの発明した品です。故人ですが、権利を取得した某が改良を加えてその形に。使い易いらしいです』49
posted at 18:22:14

「使い易い?」シルバーカラスは屋上の縁に寝そべり、腕先を伸ばして固定した。ガントレットに埋め込まれたホイールを高速回転させ、そこへスリケンを挟み込む。ギュン!加速機構によって驚くべき勢いで射出されたスリケンが、屋形舟のチョウチンを破壊した。「ははは」彼は乾いた笑いを笑った。 50
posted at 18:58:45

何度か試し撃ちをしてバランスを確かめると、彼はタイミングよく屋形舟から降りて来た罪無きホロヨイ・サラリマンを狙った。「だいたい覚えた」ギュン!加速機構に乗ったスリケンが遥か先のサラリマンに着弾!サラリマンの片足が噴き飛んだ!色を失うサラリマン達!……ギュン!……ギュン! 51
posted at 19:09:20

サラリマンを殺すのに彼は六投擲を要した。一人がむごたらしく死に、仲間の一人も肩にひどいダメージを受けて倒れ込んでいる。「……ナムアミダブツ」『オッケーです』笑い爺が通信して来た。『ではですね、死体のところまで行って、至近で写真を撮ってください』「何だと?俺がか?」『ハイ』 52
posted at 19:13:07

「今から俺が行くのか?これからマッポが集まってくる」『ハイ』「面倒が過ぎる」『やってください』「別動…」言いかけ、やめた。「ああ、了解した。だがボーナスは覚悟しろ」『ハイオタッシャデー』シルバーカラスはうんざりと首を振って起き上がり、屋上から垂直に飛び降りた。「イヤーッ!」 53
posted at 19:16:47

(第一部「ネオサイタマ炎上」より:「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」 #2 終わり。#3へ続く
posted at 19:18:06

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 21:39:33

NJSLYR> スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ #3

120118

第一部「ネオサイタマ炎上」より:「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」 #3
posted at 13:41:24

(サラリマンを殺すのに彼は六投擲を要した。一人がむごたらしく死に、仲間の一人も肩にひどいダメージを受けて倒れ込んでいる。「……ナムアミダブツ」『オッケーです』笑い爺が通信して来た。『ではですね、死体のところまで行って、至近で写真を撮ってください』「何だと?俺がか?」『ハイ』)
posted at 13:41:50

(「今から俺が行くのか?これからマッポが集まってくる」『ハイ』「面倒が過ぎる」『やってください』「別動…」言いかけ、やめた。「ああ、了解した。だがボーナスは覚悟しろ」『ハイオタッシャデー』シルバーカラスはうんざりと首を振って起き上がり、屋上から垂直に飛び降りた。「イヤーッ!」)
posted at 13:44:59

「アバッ……アバ……コナチ=サン?ナンデ?アバ、私動けないナンデ?」負傷したサラリマンは、体のあちこちを損壊した同僚、コナチの死体を前に、呟いた。通行人が屋形船を遠巻きにしている。同船した取引先のサラリマンやサービスオイランは走って逃げ去った。もういない。「……ナンデ?」 1
posted at 13:51:10

「さあな。理由は俺やアンタにはわからん。ブッダがゲイのサディストだからかもな」負傷サラリマンに低く答える声があった。負傷サラリマンは顔をあげ、悲鳴をあげた。「アイエエエ!ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」「イヤーッ!」「アバーッ!」ナムアミダブツ!カタナが一閃、首が飛んで即死! 2
posted at 13:54:15

シルバーカラスはカタナの血を払って鞘に収め、いまだ惨状をわけもわからぬままに遠巻きにする通行人、計四人を、スリケン投擲で素早く殺害した。非情!「ナムアミダブツ」彼は呟き、スナイパースリケンの被害者の死体を素早くカメラに収めた。彼は眉根を寄せた。死んだサラリマンの社章。厄介だ。 3
posted at 14:00:17

死んだサラリマンはタケダチック・アガキ社の社員だ。同社は護衛にニンジャエージェントを所持している事が闇社会で知られている。このサラリマン達にそれなりの地位があるなら、バイタルサイン喪失信号が同社のニンジャエージェントに伝わった可能性は高い。彼らの現在の所在地如何では…… 4
posted at 14:07:31

「御用!御用!」マッポのサイレン音が接近してくる。シルバーカラスは溜息を吐いた。「イヤーッ!」彼は躊躇無しにノビドメ運河へ身を踊らせた。 5
posted at 14:17:13

ゾッとする冷たさの水の中を岸沿いに泳ぐこと数分、やがて「御用!御用!」のサイレン音は聴こえなくなる。撒いた。彼がそう感じた直後、水中めがけ投擲されたスリケンが、泳ぐ彼の身体をかすめた。(来たか) 6
posted at 14:28:23

「イヤーッ!」シルバーカラスは素早く岸に手をかけ、アンブッシュめいて跳躍、地上へ飛び出した。「!」運河沿いの倉庫の屋上にニンジャあり。シルバーカラスの行動に不意をつかれ身構える。「イヤーッ!」シルバーカラスは跳躍中に空中回転、スリケン二枚を投げ返す。「グワーッ!」肩に命中! 7
posted at 14:34:16

シルバーカラスは敵ニンジャの立つ倉庫屋根の反対の縁に着地、素早くオジギした。「ドーモ。シルバーカラスです」敵ニンジャもアイサツを返す。「ドーモ。バズキルです」彼は短いダガーナイフを抜いた。歯科医めいたモーター音が鳴る。刃が高速震動しているのだ。「貴様、ヤナマンチ社の走狗か?」8
posted at 14:51:31

ヤナマンチ社?「だったらどうする?タケダチック・アガキのサラリマン・ニンジャ殿」シルバーカラスは小首を傾げた。バズキルが飛びかかった。「死ね!」震動ダガーで斬りつける!「イヤーッ!」シルバーカラスは嫌な予感を覚え、カタナの刃ではなく鍔で受けた。鍔が見る見るヒビ割れる!9
posted at 15:01:41

「昔にテストしたぜ、その震動機構」シルバーカラスは呟き、押し返した。「イヤーッ!」「グワーッ!?」瞬時に込められた剛力にバズキルがよろめく。その一瞬で十分だった。「イヤーッ!」シルバーカラスは自剣ウバステを斬りおろす!「グワーッ!」ナムサン!斜めにバズキルの上体切断!10
posted at 15:07:41

「サ、サヨナラ!」バズキルは爆発四散!だがその時!「イヤーッ!」「グワーッ!?」下から投げつけられた金属の鉤つきロープがシルバーカラスの左足首に巻きつく!「イヤーッ!」「グワーッ!?」ZZZT!シルバーカラスは感電し苦悶!新手のニンジャのアンブッシュだ! 11
posted at 15:15:09

「どうだ俺様のショックアームの味は!ヤナマンチめ」シルバーカラスは下からの攻撃者をかろうじて視認した。敵ニンジャの右手首から先が金属ロープになっており、それがシルバーカラスに巻きついているのだ。鉤と思えた先端部はサイバネアームであった。「ドーモ、エレクトリックイールです」 12
posted at 15:20:21

「イヤーッ!」シルバーカラスは己のニンジャ意志力を動員し、キアイでこの鋼鉄ロープを叩き切った。「何!」「イヤーッ!」シルバーカラスは地面へ飛び降り、エレクトリックイールの頭部へジゴクめいた空中踵落としを繰り出す。「グワーッ!」エレクトリックイールは避けきれず肩に打撃を受ける!13
posted at 15:25:34

よろめいたエレクトリックイールにシルバーカラスはさらに踏み込む!「イヤーッ!」「グワーッ!?」ウバステの柄頭で鳩尾を突かれ、エレクトリックイールは苦悶!「イヤーッ!」さらに回し蹴り!「グワーッ!」吹き飛び、運河に転落!「グワアバ、アッバーババーッバーッ!?」ナムサン!感電死!14
posted at 15:31:19

「ナムアミダブツ、その武器を使うには場所が悪いぜ旦那」シルバーカラスは呟き、「クソッ」毒づいた。短時間でロープをカタナで切って逃れたものの、感電のダメージは実際無視できない。「御用!御用!」再びサイレンの接近……今度は水面の方向からも聴こえてくる。武装屋形船だ! 15
posted at 15:47:10

「おい、聴いてるよな。ニンジャ二人に襲われた。ふざけたセッティングのせいだ。ボーナス最重点しろ」シルバーカラスは笑い爺に通信した。『スナイパースリケンで殺せばもっと良かったのに』笑い爺は悪びれもせず言った。『まあ、わかりました』「……」シルバーカラスは駆け出した。 16
posted at 15:52:23

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posted at 15:54:51

「カギ=サン!?」「何だ起きてんのか。子供は寝てる時間だ」「その傷!」シルバーカラスはヤモトを制し、「タバコあるか?無いよな」後ろ手にドアを閉めた。「仕事さ。ホワイトカラーじゃ無いんでな。それより、今後お前さんがどうするかを……」彼は洗面所に真っ直ぐ向かい、吐いた。血を。 18
posted at 17:28:28

ヤモトは蒼白だった。「ああゴホッ、この血だよな?」シルバーカラスは口をぬぐい、蛇口を全開にした。「傷とこれは関係無い。だから大丈夫だ」「何も大丈夫じゃないよ!」「ああ、つまりこれは戦闘の負傷じゃないし、負傷はこの血より大した事の無いダメージだから、相互に大丈夫……」 19
posted at 17:36:05

「病院に行かないと!」「行ってンだよ!うるせえな!」シルバーカラスは叫び返し、詫びた。「すまん」「……」ヤモトの目に涙が浮かぶ。「おい泣くなよ。謝ってる」「そうじゃなくて!カギ=サン!」「俺は風呂だ。それとも一緒に入るか?……もう寝ろよ」彼は洗面所からヤモトを閉め出した。 20
posted at 17:49:50

シルバーカラスは服を脱ぎ、デッカーガンの銃瘡とエレクトリックイールの火傷跡を確かめた。弾丸は抜けている。火傷も今は激しく痛むが、アグラ・メディテーションを行えばニンジャ耐久力の活性化で数日のうちに治る。問題は喀血だ。彼は鏡に向って無理に笑顔を作った。「成る程、こうなるか」21
posted at 17:58:36

彼は咳き込み、唸った。相当なショックを受けていた。遠くにおぼろげに揺らいでいた死神の影が、突如、実在のものとなって、彼の心臓をわし掴んだのだ。あと何ヶ月?いや、あと何日残っている?せめてあと一週間は欲しかった。一時的にヤモトの寝泊まりする部屋を借り、教えるつもりだった。 22
posted at 18:14:08

無慈悲な殺人鬼が慣れぬ善意なぞ発揮したインガオホーか。そもそもこの行いが善意などと言えるのかもわからぬ。単なるエゴ、切羽詰まった見苦しい足掻きと見れば、そうも見えよう。「いきなり、やり残した事って言われてもよ。ブッダ殿」彼は呟いた。……床に放った携帯端末のLEDが光った。23
posted at 18:23:20

彼は端末を拾い上げた。笑い爺からのノーティスだ。彼はメッセージを目で追った。「クソくらえだなァ、おい」メッセージの内容はソウカイ・シンジケートからのミッション。今回はツジギリでは無い。明確に殺害対象が決まっている。ターゲットは近隣に潜伏中の女ニンジャ。つまり、ヤモト・コキ。 24
posted at 18:39:55

【NINJASLAYER】
posted at 18:44:13

■なんたる事か■鰤■ なんらかのIRCインシデントにより今日のヤクザ天狗更新は無くなりました。ごあんしんください。 ■焦らしてはいない■
posted at 21:40:07

「いや、だからさ!イクラをね?イクラを、え?なに?え、ちょ……え?俺?ナンデ?」
posted at 21:59:21

「俺に投げないでよ!いやそれは無いですよ、無い話です。だって俺さっき風呂場の写真とか撮られたし……え?もうつながってるの?」
posted at 22:01:10

「……。……ドーモ、ザ・ヴァーティゴです!エート、代役です!何をすればいいんでしょうか!フニャフニャしたドラゴンのミーミー?ああ、あいつはとある聖遺物を使って追い払った。詳細は秘密だ!とにかくこれで数百年は大丈夫さ!」
posted at 22:06:49

「あれ?もうトレンド入ってるじゃない。ま、俺がトレンドだからね。ザはつけてほしかったけどね。ザがつくニンジャとつかないニンジャで、同じ名前でも強さが違うゲームがあったろ?」
posted at 22:08:14

RT @rilyuuguu: ザ・ヴァーティゴ(=サン)で再度トレンド入りしてますよ! #njslyr
posted at 22:12:17

「お、ザがついた?やったね!」
posted at 22:12:49

「よし、じゃあ、俺は何をして間をもたせればいいのかな?ヘッズの皆さんからのハガキめいたリプライに答えればいいのだろうか?ノーアイデアだぜ!イクラも……食べてない」
posted at 22:15:52

RT @404lux: ザ・ヴァーティゴ=サンはイクラを解凍している途中だったところを連れ出されたんでしょうか? #njslyr
posted at 22:16:51

「そう、イクラをミディアムレアで解凍してスシにしてもらおうと思ってたんだ。」
posted at 22:17:40

RT @0463brake: @NJSLYR ザ・ヴァーディゴ=サンの趣味ってなんですか?結構好みなのでオミアイしてくれませんか?
posted at 22:20:25

「俺自身はこんななりだけどさ……人間の顔した人がいいな……ごめんよ」
posted at 22:21:02

……君ね。 RT @asa2ki: 思わずそれはイクラなんでもひどいってリプライしようとした自分を誰も責められまい。そう、ニンジャ以外は #NJSLYR
posted at 22:22:34

RT @MarryWithMerry: @NJSLYR 「ニンジャに目立つ必要があるか?」という名言を述べた何とか言う奥ゆかしいニンジャがいた気がしますが実際ザ・ヴァーティゴ=サンは奥ゆかしさ対決したら彼に勝てますか? #NJSLYR
posted at 22:23:22

「あいつには冗談が通じなさそうだから……怖いんだ。」
posted at 22:24:13

RT @kinoakito: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン。ニンポとジツの違いがいまいち良く解りません。簡単に解説していただけないでしょうか?
posted at 22:26:45

「ニンポは指先からラーメンみたいな稲妻が出るんじゃない?」
posted at 22:27:12

RT @mikoto_pulchra: @NJSLYR ザ・ヴァーティゴ=サンが一番幸せを感じるのはどんなときですか?
posted at 22:28:46

「最近だと、そうだなあ、暗月侵入して一人で二人やっつけた時さ!」
posted at 22:29:33

RT @Q_Bee_: .@NJSLYR 最近、どのアニメを見ても「ああ、アクエリオンってのはニンジャだな」「シンフォギア、これもニンジャだね」「ラグランジェもやはりニンジャか」と感じるようになって来ました。やっぱ全てはニンジャだったんですね!
posted at 22:32:45

「そうですよ。」
posted at 22:33:01

RT @DeadFoool: @NJSLYR 半神のオネエチャンとは仲良くなれましたか?
posted at 22:33:42

「え?一人イイ感じになったことあるよ。本当だぜ!でも親父が怖いんだ。もうちょっとでなんか草花の由来とかにされちゃうところだったんだ。」
posted at 22:35:03

RT @thenonread: @NJSLYR 初めての質問でドキドキしすぎて、何質問していいか解らなくなった。ザ・ヴァーティゴ=サンが今まで戦って、こいつ強かったなってニンジャは誰ですか?
posted at 22:35:28

「攻撃が効かないニンジャがいた。しかも戦闘中にスシを頼む。詳細は秘密だ」
posted at 22:38:49

RT @Oddeye0522: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン。来月のバレンタインデーと再来月のホワイトデーってニンジャのアイサツ的アトモスフィアがあると思うのですが、あっ、クリスマスに我々の質問に答えてくれるぐらいだからザ・ヴァーティゴ=サンには関係無い話でグワーッ!
posted at 22:39:58

「……えっと、チョコレートは大好きなんだ。」
posted at 22:40:35

RT @mintsigaret: @NJSLYR ザ・ヴァーティゴ=サン、「前後したい」ってどういう意味ですか?夜も更けてきたのでおしえてください。
posted at 22:41:25

「しーっ!もう少し大人になればわかるさ。備えよう。」
posted at 22:41:50

RT @FroisL: @NJSLYR ザ・ウ゛ァーティゴ=サン、こんばんわ! センタ試験を終え、いよいよ入試を控えた受験生たちに応援メッセージをお願いします! #njslyr
posted at 22:42:48

「当日は、時間にはよゆうをもって出ような!周りの奴らなんて関係ないぜ、単にお前自身が満点取れば受かるんだからな。ソロプレイさ。ガンバレヨ!」
posted at 22:44:52

ドーモ、devi2k=サン。ザ・ヴァーティゴです。 RT @devi2k: いまPCの電源入れたら、忍殺がえらいことに・・・あ、アイサツしないと・・・ @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン、私はdevi2kです。  #njslyr
posted at 22:46:51

RT @hagane16: @NJSLYR こんばんわ、ザ・ヴァーティゴ=サン。D&Dとかお好きみたいですがディアブロ2とかお好きですか?私はネクロで死体を爆発四散させるのが大好きです。
posted at 22:48:08

「あのゲームも懐かしいな。俺はバーバリアンでフレンジーしてたな。」
posted at 22:48:44

RT @yawe: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン! シルバーカラス=サンは重い病気を患っているようですね。ニンジャは病気とは無縁と思っていたので驚きです。もしかして、ヴァーティゴ=サンも連日徹夜でゲームをして体を壊すようなことがあったりするんでしょうか?
posted at 22:49:51

「ゲームには命がけで臨んでるから、大丈夫さ!」
posted at 22:50:54

RT @hige_zaru: @NJSLYR ザ・ヴァーディゴ=サンのオススメの映画を教えてください #njslyr
posted at 22:51:17

「よしマジに答えよう。コナン・ザ・グレート(続編は見るなよ)、アウトロー、ガルシアの首、ヒルズ・ハブ・アイズ、悪魔のいけにえだ。後ろの二つはエグいから無理はするな。」
posted at 22:54:01

RT @seventhcalm: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーディゴ=サン、ナナギです。はじめまして。質問ですが、オーガニック・スシを食べられるお店はネオサイタマにはどれくらいあるのでしょうか、あとや実際高いとは言いますがマケグミサラリマンには一生食べられないものなんでしょうか。
posted at 22:56:45

「ドーモ、ナナギ=サン。オーガニック・スシは、無いことはない。サラリマンでも覚悟を決めて頑張れば食べられる。だがキツイ。一方ラオモト=サンなんかは毎日食ってるよな。」
posted at 22:58:45

RT @20amari1: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン。こうしてヘッズとIRC通信リアルタイム交流をしていらっしゃいますが、実際タイピング速度はどれくらいでしょうか。テンサイ級やヤバイ級でしょうか。 #njslyr
posted at 22:59:54

「フリック入力です。」
posted at 23:00:12

RT @user_san: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン。今風邪ひいてて辛いんですが、早く治す方法はありますか?
posted at 23:00:42

「治りかけた時にゲームとかしないことだな。」
posted at 23:01:12

RT @sst8024: @NJSLYR アタシ今体温何度あるのかなー?
posted at 23:02:27

「なんだって……!?(ダメだ!うまい話に乗れば絶対囲んで警棒で叩かれる)」
posted at 23:03:24

RT @2Mou_Saku: @NJSLYR ドーモ、ヴァーティゴ=サン。質問なんですが最近の回転スシバーで流れているハンバーグ等のネタ枠ネタはネオサイタマやキョートにも存在するのでしょうか?
posted at 23:04:26

「聞いて欲しいんだが、この前、キャバァーンして流れて来たトロ・スシがだな、シャリの横にネタが落ちた状態だったんだ。流れる速度が速過ぎたんだ。」
posted at 23:06:31

RT @_MRC_F20: @NJSLYR 今酔っ払って電車で帰宅するのが辛いです。解決策を教えてください。
posted at 23:08:06

「酔っ払いといえば、酔っ払って自転車に乗っていて、自転車を無くしたっていう人がいるらしい。自転車に乗っていて、自転車を無くした。ミステリーだな。」
posted at 23:10:13

RT @genjitsu_na: @NJSLYR ドーモ。大変お世話になっております!ザ・ヴァーティゴ=サンのオススメのiPhoneアプリがあれば教えてください。
posted at 23:10:27

「『カロリー管理』。」
posted at 23:12:34

RT @asadaame: @NJSLYR テツノオノください。 #njslyr
posted at 23:13:09

「筋力が85要るけどいい?」
posted at 23:13:27

「メンポの質問が多いな!俺のやつ?俺はここにこう、この顔にそのまま口が空いて、食べます。他のニンジャは開閉機構がついてるはずだ。」
posted at 23:19:33

RT @robespierresan: @NJSLYR そういえばオーガニックスシもネタはマグロ粉末を固めた物なのでしょうか、それとも粉末に加工される前のマグロなのでしょうか #NJSLYR
posted at 23:19:56

「オーガニックのやつは粉末じゃない。ホンモノさ。すごいだろ。」
posted at 23:20:40

RT @hounin: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン。ホウニンです。寒い日が続いて朝起きるのが実際つらいです。おすすめの目覚まし法ってありますか?
posted at 23:22:21

「枕元にミカンを置いて、起きたら食べるとかは?」
posted at 23:23:31

RT @nezumi_a: @NJSLYR ドーモ、ヴァーティゴ=サン。スシネタを始め海産物が沢山登場していますが海洋汚染とかどうなんですか?始終重金属酸性雨が降りプラントは廃液垂れ流しで大丈夫そうに見えないのですが
posted at 23:26:08

「バイオ的に適応しているから毒物が無毒化されたりして平気なんだろうな。そう思わなきゃ食えないよね。怖くて。」
posted at 23:27:06

RT @TD_Voris: @NJSLYR ドーモ、ヴァーティゴ=サン。忍殺楽しんでおります。ところで唐突ですが、あの後ミーミーはどうなったのでしょうか?
posted at 23:28:35

「ドーモ、ワルん太=サン。ミーミーには実際ひどい目にあわされたよ。やつを追い払う例の聖遺物を探すために、すごい冒険をしたんだ。地下深くの自動販売機で売られていた。」
posted at 23:31:31

RT @vespiking: @NJSLYR ソウカイヤのスパイニンジャが「まさかあのキョート城が〜」って言ってるシーンがありましたが、キョート城って一般的には観光名所みたいな所なんですか? #NJSLYR
posted at 23:34:08

「その通り。」
posted at 23:34:43

RT @teakinoko: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン。ニンジャソウルは同性の「人間」にしか憑依しないんですか。例えば・・・亀とか、あるいは亀のニンジャとかいないんですか? #NJSLYR
posted at 23:36:58

「いやに亀にこだわるな。まさか……。ああ、動物のニンジャは、犬がいるらしいじゃん。いつ出てくるんだ、あれは?」
posted at 23:37:53

RT @kj0shua2112: @NJSLYR やはりニンジャも食べすぎると肥満重点、スモトリ・ニンジャと化してしまうのでしょうか?
posted at 23:38:37

「まあだいたい、そいつがなりたいと思う体型になるんじゃないかな。you are what you eatという言葉があって……あんまり関係なかった。」
posted at 23:39:47

RT @zeelandia9: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン。ゼーランディアです。ジュー・ウェアが、ジャージめいているのかそれともジュドーの服めいているのか、私、実際気になります
posted at 23:43:22

「ドーモ、ゼーランディア=サン。ジュー・ウェアは柔道着だな。」
posted at 23:43:57

RT @ArcadiaRaryn: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン。レイリンです。忍殺の一般人はことあるごとに失禁していますが、失禁を抑える効果のある薬などは存在しますか?
posted at 23:44:46

「ドーモ、レイリン=サン。あの世界の連中が頻繁に失禁してるわけじゃないんだ。本当だ。失禁するほどの事が起きちまうんだ。」
posted at 23:46:14

RT @nigizou: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン。ニギゾウです。ヴァーティゴ=サンは色々な世界を冒険してきたそうですが、他の世界にもニンジャはいましたか?
posted at 23:47:41

「ニンジャという名前で呼ばれてない場合はあったよね。」
posted at 23:48:15

RT @doooomster: @NJSLYR 一部のニンジャは自分のソウルから装束を生成出来るようですが、その他のニンジャは何処で装束を入手するのですか?ニンジャ道具を扱うドウグ社のように、ニンジャ装束専門の装束を取り扱う秘密の専門店があるのでしょうか?
posted at 23:49:20

「ソウル生成型、変形機構型、装束に着替える型、普段着型がある。組織に与えられたり武器屋で買ったり、色々だな。ニンジャの使用に耐える武器や装備を扱う店もあるだろう。そいつらがニンジャ相手に商売するつもりなのかはわからんが。」
posted at 23:52:12

RT @miyagah: @NJSLYR ドーモ、ヴァーティゴ=サン。ミヤガーです。伝説的なポエット、マツオ・バショーをご存知ですか?彼は実際ニンジャだったという説がありますがなにか秘密めいたことがあるのですkああっ窓に、窓にー!?
posted at 23:53:04

「モーゼズは芭蕉ニンジャ説を当然信じてる。」
posted at 23:53:44

RT @479S12643W: @NJSLYR グラディエイター=サンが武器禁止のシャドー・コンのチャンピオンだったのは、素手でも強かったということでしょうか?
posted at 23:53:57

「ああ、獅子やバイオスモトリと戦う時とか武器有りなんじゃないかな。あのトーナメントが素手ルールだったという可能性が高い。」
posted at 23:54:51

RT @gentleyellow: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン。派手な演出として用いられる効果音「キャバーン!」は、実際どんな効果音なんでしょうか。マリオのコインみたいな甲高い音ですか?
posted at 23:58:07

「コインの音というよりはシューティングゲームでクレジット入れた時の音か、もしくはガーランドのリロード音を派手にしたような音か、うーん、どっちだと思う?」
posted at 23:59:12

RT @SuperOozE: @NJSLYR ヤクザの皆様方はチャカ・ガンとヤクザガンの2種類の銃を主に使っているようですが、どのように違うのでしょうか?
posted at 23:59:32

「マッポガンとデッカーガンぐらいは違うはずだ。」
posted at 23:59:55

RT @greentsune: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーディゴ=サ…イヤーッ!! お前の死因はトビゲリ・アンブッシュを食らったことによる爆死だーッ! #NJSLYR
posted at 00:01:02

「猫だ……」
posted at 00:01:27

RT @nokkaranoumu: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン。ノッカラノウムです。我々の世界の日本史上のダイミョー・ケン=ジツ使い「ヤギュー・クラン」はニンジャ「ウラヤギュー・クラン」としても有名ですが、ネオサイタマではヤギュー・クランについて何らかの史料や伝承は存在しますか?
posted at 00:01:54

「ヤギュー・ウォンジのこと?あいつに関しては、あ、イクラが届いた。」
posted at 00:02:31

RT @hosidukuyo: @NJSLYR ドラゴン・ドージョーには10名ほどニュービーがいましたが、あれはドラゴン=センセイ同様のリアルニンジャなのでしょうか。またドージョーにいたので全員なのでしょうか。 #njslyr
posted at 00:04:02

「リアルニンジャになろうとしてトレーニングしていた一般人かね?」
posted at 00:04:26

RT @KejimeSatubatu: @NJSLYR ザ・ヴァーティゴ=サンが古代ローマカラテの実力者として挙げておられたファランクス=サンもやはりあっけない最期でした。ヘッズはみんな古代ローマカラテの実力を疑っております。スパルタカス=サンは信じても良いのでしょうか?
posted at 00:05:03

「ちょっと待つんだ……俺はあの時、「ファランクス=サンやスパルタカス=サンを知ってる?」って聞いただけで、それ以上の事は何も言っていない……!つまり、どうとでも取れるということ……!」
posted at 00:07:06

RT @honoka45: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン!繁華街で出てくるバイオ金魚や、ロード・オブ・ザイバツが膝に乗せてるバイオ三毛猫って、すごくお高いペットな印象ですが、もしかして私たちが見慣れた赤白とか、白黒茶色とは違う色だったりするんでしょうか?
posted at 00:08:12

「違うだろうな。独自の変化が施されているはずさ。」
posted at 00:08:42

RT @yacan_jp: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン。ザ・ヴァーティゴ=サンでもヤクザ天狗=サンには関わりたくない感じですか?
posted at 00:09:26

「まあほら……小便スピリタスはまあほら……まあ……うん……」
posted at 00:10:00

RT @ishiitakeru: @NJSLYR 日本語には「ドージョーの余地が無い」という言い回しがありますが、このドージョーはどのドージョーのことなのでしょうか。  #njslyr
posted at 00:11:28

「そのドージョーは同情のドージョーではないでしょうか。」
posted at 00:11:54

RT @Escape440_PHONE: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン。シルバーカラス=サンの愛刀であり後にヤモト=サンの手に渡ったウバステは、名鑑では「何の変哲もないカタナ」とありますが、切れ味や強度は実際どの程度のものなのでしょうか?ただのカタナではニンジャのイクサに耐えきれないと思うのです。
posted at 00:12:10

「これは、普通のカタナで耐えられるんだ。うまく言えないんだが、ニンジャ同士のイクサっていうのはそういうものなんだ。」
posted at 00:12:55

RT @geb_seg8: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン! コピーメンポを作って装備してみましたが、存外視界が良くて驚きました。今の装束に付け加えてみたい装備品などはありますか?
posted at 00:13:16

「額からビームとか?」
posted at 00:13:33

RT @atslave: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン。ネオサイタマではブディズムが一般的な宗教として浸透しているようですが、他の宗教というのは存在しないのでしょうか?また、メテオストライク=サンが唱えていたところのマッポーカリプスには裏付けとなる伝承があるのでしょうか?
posted at 00:16:04

「他の宗教はもちろん色々あるよ。キリスト教とかもあるさ。同じだな。」
posted at 00:16:41

RT @NuMaUo: @NJSLYR フォレスト・サワタリ=サンがバイオトウガラシが入っていないとクレームをつけていたペペロンチーノソバですが、忍殺世界にも洋風な料理はあるんですね。作り方を知っていたら教えて下さい。
posted at 00:17:40

「うん。同じさ。ハンバーグやカレーもあるよ。ペペロンチーノソバは、パスタのかわりにソバを使えば出来るよ。」
posted at 00:18:22

RT @GonyT: @NJSLYR もうすぐ節分の季節ですが、やはりオニも本当はニンジャなんですか? #njslyr
posted at 00:19:42

「そういう事になるだろうな。」
posted at 00:19:55

RT @kasaiji: @NJSLYR ドーモ、ザ・ヴァーティゴ=サン。自分は幼少の頃よりエレベーターに自分一人だと変顔の状態を保ったまま目的の階まで上るというスリル溢れる遊戯をよく行いますが、フルフェイスメンポを御着用のザ・ヴァーティゴ=サンはこの遊び、よくやられませんか?
posted at 00:20:35

「マジかよ、俺そんな危険な賭けはできないよ。きっとお前さんが知らないだけで何人かはその顔を目撃してる!」
posted at 00:21:49

RT @hige_zaru: @NJSLYR そう言えばザ・ヴァーディゴ=サンは普段はどんな格好してるんです?ピンクのジャージとかピンクのスーツとか? #njslyr
posted at 00:22:56

「俺は常にこれさ。」
posted at 00:23:11

NJSLYR> スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ #4

120123

第一部「ネオサイタマ炎上」より:「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」 #4
posted at 11:20:16

「待て」暗緑色の装束を着たニンジャが、後続する大柄な銅色のニンジャを制した。「ターゲットのニンジャソウル痕跡がここで二手に別れている」暗緑色のニンジャはソウカイ・シンジケートのサードアイ。銅色は賞金稼ぎのニンジャ、ソードダンサーだ。 1
posted at 11:28:08

どちらも装束の合わせ目にソウカイヤ側のチームである事を示すクロスカタナのエンブレムを装着し、メンポの奥の瞳に冷たい殺気を宿している。特にソードダンサーのメンポはオセアニアの呪術仮面めいて、フリーランスの殺し屋ニンジャらしい極めて恐ろしいアトモスフィアを放っていた。 2
posted at 11:37:23

「ソウル痕跡が二手?」ソードダンサーは振り返った。「同じ女が二つに別れたと?」「違う」サードアイは機械的に否定した。「そんなジツの情報は無い。可能性としては『クマのメソッド』だ。雪道をしばらく進んで、自分の足跡に沿って戻り、別方向へ行く。クマは追跡逃れの為にこれをよくやる」 3
posted at 11:56:39

「どうする。時間があるまい」ソードダンサーが言った。「どっちの痕跡が新しい?」「いや、どちらも判断し難い」サードアイは答えた。嘘だ。彼は嘘をついた。「二手に別れるとしよう。俺はこっちだ」サードアイは脇道を親指で指差した。「……」ソードダンサーがサードアイを凝視した。 4
posted at 12:02:42

「含みがあるな」とソードダンサー。「俺がそっちへ行く」「含みなど無い」とサードアイ。「だが言い争う時間も無駄だ。そうしてくれ。俺はこっちを攻める」彼は大通り方向へアゴをしゃくった。「情報はIRCで共有だ」「よかろう」ソードダンサーは頷いた。「シルバーカラスとはどこで合流だ?」 5
posted at 12:18:06

「ノーティスにロクに連絡をよこさん。独断して割り込みキンボシでも企んでいるのかもな、バカな奴め」サードアイは答えた。「所詮は小娘一匹。奴の現れるより先に首級を上げてオシマイだ。……無駄話は終わりだ。行け」「うむ」ソードダンサーは頷き、脇道へ飛び込んだ。6
posted at 12:39:42

サードアイは目を細めた。(せいぜい無駄足を踏め、野良犬め)会話の中で、ソードダンサーが脇道を選択するように誘導したのだ。正解のルートは大通りである。実際のところ、サードアイの強力なジツは、ターゲットの足跡を概ね捕捉できているのだ。 7
posted at 12:44:58

ソウル痕跡は告げる。廃ドージョーからこの道を進んできたターゲットは、その時、もう一人、別のニンジャと共に居た。恐らくは、それが謎の協力者だ。彼ら二人で脇道を抜けた。その数時間後に、ここへ戻ってきている。今度は彼女一人。一人で大通り方向へ進んで行った。この痕跡はまだ新しい。8
posted at 12:51:48

サードアイのニンジャ情報処理能力が推測した状況はこうだ……廃ドージョーから出たターゲットと協力者は一旦、アジトへ帰った。協力者はアジトに残り、ターゲットが一人で出掛けた。買い出しか、別の協力者とのコンタクトか。協力者は今もアジトに居る。そいつがナッツクラッカーを殺したはずだ。 9
posted at 12:57:01

ソードダンサーが脇道の先で協力者に遭遇する可能性は高い。協力者はあのニンジャスレイヤーかも知れぬ、とサードアイは考えていた。リスクが高過ぎる。なにしろシックスゲイツを次々に殺す狂人だ。不安要素にはソードダンサーをぶつけておいて、自分がキンボシを獲る。(これがマネジメントだ) 10
posted at 13:03:34

サードアイは大通りをしめやかに駆ける。残業帰りのサラリマン、クラブを移動するDJ、道端に座り込んで道路を眺める泥酔者や浮浪者には、彼の姿は色つきの風にしか見えない事だろう。あなた方も日頃そのようにして、オペレーション中のニンジャ存在を知覚できずにいるのだ。それは幸運な事だ。 11
posted at 13:25:13

サードアイは今や痕跡だけではなく、ターゲットのニンジャソウル存在それ自体を感知していた。かなり近い。「イヤーッ!」彼は大通りをひととびに跨ぎ、タマ・リバーの堤防へ進入した。彼は背中のニンジャソードを抜いた。さあ、どこから斬ってやろう……「?」彼は目を見張った。あの光。 12
posted at 14:11:28

ターゲットは河川敷にいた。距離がある。だが目が合った。闇の中で桜色の眼光が煌めき、サードアイを射抜く。華奢な少女の輪郭が、その眼光と同じ色に薄ぼんやりと光っているように思えた。待ち構えていたのか?追っ手であるサードアイを?「ドーモ」彼のニンジャ聴力は少女のアイサツを捉えた。 13
posted at 14:17:46

「ヤモト・コキです」少女がアイサツを終えると、桜色の光が複数、彼女の頭上に渦を巻いて浮かび、編隊を組んだ。オリガミ・ミサイル!サードアイは素早くアイサツを返す。「ドーモ、ヤモト・コキ=サン。サードアイです」そして試作サイバネ機構のスイッチを入れた!「効かぬぞ、それは!」 14
posted at 14:23:02

----------- 15
posted at 14:24:17

「開くドスエ」マイコ音声が鳴り、しめやかにエレベーターのカーボンフスマが開いた。ソードダンサーは進み出た。オセアニア呪術仮面風のメンポはジャングル奥地に秘められたモージョーを思わせ、人の情けなど一片も持ち合わせぬ悪魔めいている。実際彼はニンジャであり、そう遠い存在でもない! 16
posted at 14:31:25

シューッ。シューッ。メンポ呼吸孔から獰猛な吐息が漏れる。このマンションを視界内に捉えたあたりから、サードアイより劣る彼のニンジャ野伏力によってもソウル痕跡の読み取りが可能となった。それほどニンジャが近い。彼は廊下をしめやかに進み、鉄扉のひとつの前に立った。「カギ・タナカ」。 17
posted at 14:40:03

「シューッ……」ソードダンサーはドアノブに手をかけた。クリック音。「ん」 18
posted at 14:45:01

KRA-TOOOOOOOOOOM!その瞬間、マンション「さなまし」B棟303、カギ・タナカの住む部屋は、内側から爆発したのである!ベランダ窓が、鉄扉が吹き飛び、中から爆炎を吐き出した!「グワーッ!?」 19
posted at 14:58:54

ソードダンサーは炎に包まれ中庭に落下!だが彼もひとかどの油断ならぬニンジャ戦闘者、空中で二回転の後、膝立ちに着地した。ナムサン!そこへ上から襲いかかるニンジャ・アンブッシュ!「イヤーッ!」「なにィーッ!?」 20
posted at 15:02:22

ソードダンサーは腰後ろに交差させた鞘からふた振りのカタナを引き抜き、アンブッシュ者の斬撃を弾き返した。「イヤーッ!」飛び離れるそのニンジャのステルス機構が解け、鈍色のニンジャ装束が闇に出現した!「貴様は?シルバーカラス=サンだと!?」「ドーモ。ソードダンサー=サン」 21
posted at 15:10:49

「ドーモ、気でも狂ったかシルバーカラス=サン!?」ソードダンサーはやや変則的なアイサツを返した。「狂ったのか!?」「ああそうだ。俺は狂ったのさ」シルバーカラスは無感情に答えた。「タバコ無いか。『少し静かな海』。無いよな。あるなら、いただこうと思ってな。お前の死体を漁って」 22
posted at 15:20:47

「ドーモ、気でも狂ったかシルバーカラス=サン!?」ソードダンサーはやや変則的なアイサツを返した。「狂ったのか!?」「ああそうだ。俺は狂ったのさ」シルバーカラスは無感情に答えた。「タバコ無いか。『少し明るい海』。無いよな。あるなら、いただこうと思ってな。お前の死体を漁って」 22
posted at 15:27:12

「サードアイ=サン!応答せよ!裏切りだ!」「IRCか?無駄だ。今の爆発、粉塵にチャフが混じってる。試験品の余りを黙って拝借した事があってな。秘密だぜ……怒られるからな。コストが見合わず、実用化される事は無かった」「なぜだシルバーカラス=サン」「狂ったのさ。老い先短いんでな」 23
posted at 15:31:03

「……」ソードダンサーは奇怪なメンポの奥で瞬時に脳内コンセントレーション儀式を行い、平常心を取り戻した。彼のニューロンの中、コンマ1秒にも満たない速度で、オセアニア・パーカッションと呪術ダンス光景のイメージ・モージョーが展開し、ザゼンめいて彼を鎮めたのだ。「……ならば殺す」 24
posted at 15:34:28

「イヤーッ!」シルバーカラスが懐のナイフを投げた。「イヤーッ!」ソードダンサーはカタナで撃ち落とす。「イヤーッ!」シルバーカラスが間髪いれず自剣で斬りつける。ソードダンサーは二刀流だ。もう一方のカタナでこれを難なく受け流す!「イヤーッ!」そしてナイフを弾いたカタナで攻撃! 25
posted at 15:38:24

「イヤーッ!」シルバーカラスは身を捻じって回転、座るような姿勢で横薙ぎのカタナを回避した。そしてソードダンサーの脛に斬りつける!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ソードダンサーは一方のカタナでこれをガード、もう一方のカタナでシルバーカラスの脳天をかち割ろうと試みる!「イヤーッ!」 26
posted at 15:48:08

「イヤーッ!」ハヤイ!シルバーカラスはガードされたカタナを素早く戻し、頭を狙う斬撃を側面から打って弾き逸らした。さらにしゃがみ姿勢からいきなり跳び上がり、奇襲めいて飛び蹴りを叩き込む!「イヤーッ!」「グワーッ!」奇怪なメンポに蹴りを受けたソードダンサーは仰向けに転倒! 27
posted at 15:56:46

「キィエーッ!」ウインドミル回転斬撃を繰り出して追撃を牽制しながら、ソードダンサーが立ち上がった。そのメンポがバッカリと割れて地面に落ちた。中からオレンジと黒の染料で極彩色にペイントされた顔が現れる。ノロイ!「イアーッ!」ソードダンサーが跳んだ! 28
posted at 16:04:04

「イア!イア!イア!イアッ!」ソードダンサーは空中から二刀を用いて四度斬りつける!ゴウランガ!なんたる苛烈な二刀流カラテのワザマエか!だがシルバーカラスはただ一振りの小ぶりのカタナ「ウバステ」と己のニンジャ動体視力をもって、これに対する!「イヤーッ!」 29
posted at 16:10:49

「グワーッ!?」シルバーカラスはカタナを振り抜き、その背後にソードダンサーが着地した。一瞬後、斜めに斬撃を受けて鮮血を噴き上げたのはソードダンサーだ!敵の攻撃をかいくぐり、研ぎ澄ませた一撃をここぞという機会に見舞う。これぞイアイドーなり!ゴウランガ! 30
posted at 16:30:22

「イア!イア!イアーッ!」ソードダンサーは決して浅くない己の身体の傷を顧みず、バックフリップ!センシ!「イア!」アクロバティックに斬りかかる!「イヤーッ!」シルバーカラスは振り向きながら斬る!「グワーッ!」着地点を捉えられ、胸を斬られてよろめくソードダンサー!「イヤーッ!」 31
posted at 16:33:09

ナムサン、さらに踏み込んだシルバーカラスは懐からダガーナイフを引き抜き、脇腹から斜め上、えぐるように突き刺す!「グワーッ!」さらに膝頭をハンマーめいて踵で蹴り砕く!「グワーッ!」ソードダンサーがカタナを取り落とし、四つん這いに!「ハイクを詠め!ソードダンサー=サン!」 32
posted at 16:36:47

「ア、アバッ……に、二刀流、イアイドーに勝てなかった、生まれ変わったら勝つ」「イヤーッ!」ハイクを詠み終えたソードダンサーの首を、シルバーカラスは一撃で切断した。綺麗な一撃だ。「サヨナラ!」ソードダンサーは爆発四散した。 33
posted at 16:39:50

「ナムアミダブツ、」シルバーカラスは手を合わせかけたが、果たせなかった。彼はメンポを開き、おもむろに喀血した。「ゲホッ!ゲホーッ!」彼もまた膝をつき、さらに血を吐いた。「ゲホーッ!ゲボーッ!」彼は何度も吐きながら、薬を探ってもがいた。 34
posted at 16:45:43

-------------- 35
posted at 16:45:53

オリガミ・ミサイルが弧を描いて旋回し、挟み込むようにサードアイに突入する。だが彼はうろたえず両手を広げた。「ヌゥーン!」するとどうだ!両肩からアンテナめいた装置が伸び、キィィィンと耳障りな音が水面を波打たせた。オリガミ・ミサイルは狙いをそれ、互い違いに交差して墜落!無効だ! 36
posted at 17:17:44

「驚いたか」サードアイはニンジャソードを構え直し前進する。「キネシスとて結局は物理学!俺のニンジャソウル感応力とインダストリが合わされば、俺のカラテは実際三倍近い凄さになる。これは実際ソウカイヤの中でもかなり強い」だがヤモトの戦意はまるで萎えていない!「その顔!気に入らん」 37
posted at 17:27:58

ヤモトは己のカタナを構えた。もとはクローンヤクザの持ち物だ。鍔が無く扱いにくいドス・ソード。ドス・ダガーよりは長いがカタナに比べれば短い。おぼつかない得物だ。サードアイが嗤う「お前には俺に勝るものが何も無し!斬ってやるぞ!」だが彼女の表情は決断的であった。「……やってみろ!」38
posted at 17:39:30

「ジツ無き小娘など!」サードアイが一気に間合いを詰め、斬りかかる!(……まず動きの軌跡が描かれ、その後、遅れてカタナが通る。カタナの角度を、目線を、足の向きを読め。ネイチュアは多弁だ)ヤモトは敵の切っ先の軌道に己のニンジャ動体視力を傾けた。「イヤーッ!」 39
posted at 17:45:49

彼女は鈍化した時間の中に投げ込まれた。白刃が流れる。黒髪がなびく。ヤモトは首を傾げるようにして切っ先を躱す。サードアイが驚きに目を見開く。間合い。斬るには近過ぎる。ヤモトはドス・ソードの柄頭でサードアイの脇腹を打った。……「グワーッ!?」サードアイが吹き飛ぶ! 40
posted at 17:50:26

ヤモトは踏み込んだ。(……ニンジャの死因の四割はトドメのタイミングの読み違いだ。反撃に遭って死ぬ。カラテを忘れるな。ザンシンせよ)……「イヤーッ!」着地するサードアイの牽制めいた斬撃が襲いかかる。ヤモトはその切っ先範囲のやや外側で踏みとどまり、これを避けた。 41
posted at 17:54:46

「イヤーッ!」ヤモトは土を蹴った。「グワーッ!?」サードアイがひるむ!「バカな!手馴れてやがるのか?」(……イアイの一撃は綺麗な一撃だ。綺麗な一撃は、待っていても来ちゃくれない。お膳立てをしろ。お前自身でやるんだ)……ヤモトはくるくると回り、サードアイの側面を取る! 42
posted at 17:59:59

ヤモトは己の首筋にチリチリする熱を感じた。回りながら膝を曲げて身を沈めた。「イヤーッ!」彼女の頭が一瞬前にあった場所を斬撃が通っていった。血中をニンジャアドレナリンが駆け巡る。(……アブナイの意味を知れ。電車に轢かれれば死ぬが、ホームから出なければ轢かれない。わかるか) 43
posted at 18:06:28

ヤモトは下から上へ斬り上げる。「イヤーッ!」サードアイは欲深な一撃を当て損ねた直後。この攻撃を回避しきる事ができない。まずは一手。ヤモトの手に敵を斬る感覚が伝わる。生々しい手応えであるが、そこに苦痛や感傷は無い。まして快楽も無い。彼女は淡々と刃を滑らせた。「グワーッ!」44
posted at 18:55:45

「……!」ヤモトは驚いていた。長期間の訓練や修行ではない。ヤモトがカギ・タナカに授けられたのはインストラクションだ。端的なインストラクションによって、ヤモトはカラテの方法を理解し、戦い方のルールを知った。世界は変わった。彼女は今、これまでの無知と無駄を省みさせられていた。 45
posted at 19:07:24

(……奥ゆかしさだ。奥ゆかしさを知れ。これで終わりじゃない。ここから始めるんだ。お前自身が。カラテのドーを知った、ただそれだけで慢心すれば、そこまでだ)……ヤモトは頷いた。負傷したサードアイはバック転を繰り出し、飛び離れる。「イヤーッ!」クナイ・ダートが投げつけられる。 46
posted at 19:22:00

ヤモトはこの苦し紛れの反撃の軌跡を、鈍化した時間の中で完全に捉えていた。まるでレーザーポインターの道をなぞってくるかのようだ。彼女は半身になり、二本のダートを最小限の動きで躱す。サードアイがこのダートを伏線に斬りかかって来るからだ。来た。「イヤーッ!」ヤモトはやや身を沈めた。47
posted at 19:30:47

ここだ……この瞬間だ。ここにイアイがある!ヤモトは踏み込み、敵のカタナを躱し、すれ違いざま、得物を振り抜く!「イヤーッ!」……「グワーッ!?」 48
posted at 19:34:20

鈍化した時間感覚が元に戻る!サードアイは胸を斜めに深々と斬り裂かれ、天高く鮮血を迸らせてクルクルと激しく回転!「アババッ、アババ、バカなーっ!?キキキ、キンボシがーッ!?」苦悶し倒れ伏すサードアイ!激しく痙攣!「シッ、シルバーカラス=サン!シルバーカラス=サンまだか!」 49
posted at 19:38:48

サードアイは地面に血の染みを拡げながら、IRC通信機に向かって叫んだ。「位置情報!位置情報行ってるのに!ケチなツジギリ屋の役立たずがーッ!早く!俺が俺が死ぬ!アバババーッ!」50
posted at 19:40:53

「イヤーッ!」斜めから飛来したダガーナイフが、死にゆくサードアイの首を深々と貫く!「アバーッ!?サヨナラ!」カイシャク!サードアイはトドメを刺され爆発四散した!「病人を急かすもんじゃねえ」ヤモトは弾かれたように声の方向を見やる。土手をゆっくりと降りてくる新手のニンジャ有り! 51
posted at 19:47:40

ヤモトの周囲を再び、桜色の光に包まれたオリガミ達が舞う。「ドーモ。初めまして。ヤモト・コキです」彼女はアイサツし、新手の敵を睨んだ。「ドーモ。ヤモト・コキ=サン。シルバーカラスです」鈍色のニンジャはアイサツに応えた。そしてカタナを抜いた。「見せてもらおうか。ワザマエを」 52
posted at 19:55:28

(第一部「ネオサイタマ炎上」より:「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」 #4 終わり。#5へ続く)(#5の更新は本日数時間後に開始します)
posted at 19:59:04

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 21:59:57

NJSLYR> スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ #5

120123

第一部「ネオサイタマ炎上」より:「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」 #5
posted at 22:01:01

(ヤモトの周囲を再び、桜色の光に包まれたオリガミ達が舞う。「ドーモ。初めまして。ヤモト・コキです」彼女はアイサツし、新手の敵を睨んだ。「ドーモ。ヤモト・コキ=サン。シルバーカラスです」鈍色のニンジャはアイサツに応えた。そしてカタナを抜いた。「見せてもらおうか。ワザマエを」)
posted at 22:02:59

シルバーカラスはカタナを水平に構えたまま、静かに、だが恐るべき威圧アトモスフィアを発しながら、徐々に間合いを詰めてくる。オリガミはひとりでに鶴やイーグルの形に折られ、彼女を中心に渦を巻いて乱舞する。彼女の瞳が桜色の火を帯びた。 1
posted at 22:11:30

爆発四散したサードアイのニンジャソードは空中へ跳ね上げられていたが、くるくると回りながらヤモトめがけて落下して来た。ヤモトはそれを掴み取った。その刀身が松明めいて、桜色の光を薄く帯びた。 2
posted at 22:15:55

「……このシルバーカラスは卑しいニンジャだ」シルバーカラスは間合いを詰めながら言った。「戦い方も知らぬ罪なき市民を、鳥でも撃つように殺めて来た。イクサではない。ツジギリだ。誇る物など何も無い殺しだ。ただ己のカネの為に殺してきた。無益なカネの為にな」「……」 3
posted at 22:24:47

ヒュン、ヒュン、時折、ヤモトの周囲を旋回するオリガミの中から幾つかが編隊を離れ、シルバーカラスへ飛び込んでゆく。シルバーカラスは火の粉でも払うかのように、無造作に、カタナで、あるいはもう一方の素手で打ち払う。オリガミ・ミサイルは爆発の機会すら逸し、撃ち落とされて墜落するのだ。 4
posted at 22:28:09

「仕事に。作業にしてしまえば、恐れも罪の意識も感じない」シルバーカラスは続ける。「楽なものさ。これまでに何百人殺して来たかわからん。そのほとんどが、死んだところで治安機構も問題にせぬような弱者だ。効率が大事なんだ」「……」ヤモトはニンジャソードを構えた。「俺にかかって来い。娘」5
posted at 22:37:18

ヤモトはシルバーカラスの足運びに合わせ、一定の間合いを保つようにした。乱すな。心を乱すな。カギ・タナカの教えを。相手の切っ先を、軌道を。ネイチュアを読み取れ。心を乱せばおしまいだ。敵の狙いはそれなのだ。……シルバーカラスが踏み込む!「イヤーッ!」ハヤイ! 6
posted at 22:41:15

ヤモトは大きく横へ跳んでこれを躱す。彼女は畏れた。タツジン。さっきのサードアイとは格が違う相手だ。オリガミ・ミサイル達が、とっさに間合いを取るヤモトへのシルバーカラスの追撃を防ぐべく、ツブテめいて次々にシルバーカラスへ飛び込んでゆく。「意味の無い攻撃だ」シルバーカラスが呟く。 7
posted at 22:47:21

彼は残像が見えかねぬ速さでカタナを小刻みに動かし、飛来する全てを切り捨てた。無感情な目をヤモトに据え、なおも近づく。ヤモトの周りのオリガミから桜色の光が失せ、同時に地面へ落下した。意図しての事だ。使えない。今のこのイクサでは。「そうだ。カタナだ」シルバーカラスが低く言った。8
posted at 22:51:24

「カタナを振るえ」「イヤーッ!」ヤモトが仕掛ける!シルバーカラスは自剣の鍔でヤモトのニンジャソードを受けた。圧力!ヤモトは押し潰されそうになる。彼女の目が見開かれた。「イヤーッ!」呼吸の隙間を縫うように、彼女はくるりと回転し、この圧力を逃れた。シルバーカラスの側面を取る! 9
posted at 22:54:56

「イヤーッ!」横薙ぎの一撃。シルバーカラスは身を沈めて躱す。ヤモトはその動きを予期していた。脛を斬りにくる斬撃をも。ヤモトは己のカタナを振り抜いた時には既に次の予備動作に入っていた。足元を薙ぐシルバーカラスのカタナを側転で躱し、着地と同時に斜めに斬り下ろす。「イヤーッ!」10
posted at 22:59:48

「イヤーッ!」シルバーカラスはそれを自剣の鍔で弾き、前蹴りを放つ。「イヤーッ!」ヤモトは後ろへ跳ばず、その蹴りの動きを悟り、わずかに身を逸らして回避した。シルバーカラスの目が笑った。「イヤーッ!」ヤモトはシルバーカラスの軸足を蹴って転ばせようとした。 11
posted at 23:04:28

「イヤーッ!」シルバーカラスはその場で跳躍して回避すると、身体を捻って地面に手をつき、逆さになりながらヤモトを蹴った。「ンアーッ!」ヤモトは不意を打たれ、横から蹴られて地面を転がった。転がりながら起き上がると、既にシルバーカラスは目の前だ。大上段から振り下ろされるカタナ。 12
posted at 23:06:37

「イヤーッ!」ヤモトは地面を蹴ってシルバーカラスの懐へ飛び込む。その顔のすぐ横を死の刃が通り過ぎる。彼女の黒髪が幾筋か断たれ、桜色の光を帯びて宙を舞った。彼女はニンジャソードを振り抜く。シルバーカラスは振り下ろしたばかりの刃を跳ね上げ、これを防いだ。「なぜ泣く。バカめ」 13
posted at 23:13:25

「イヤーッ!」ヤモトが強引に自剣を再度撃ち込んだ。シルバーカラスは造作なくウバステの鍔で受け止める。「イヤーッ!」ヤモトは再び振り上げ、撃ち下ろす。やはり同じだ。鍔で受ける。「イヤーッ!」再三の撃ち込みだ。これも当然、鍔で受ける。「折れるぞ」シルバーカラスは閉口して言った。 14
posted at 23:18:36

だが、ヤモトは撃ち込みを止めない。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」振り上げ、振り下ろすたびに、彼女の目から涙が溢れた。シルバーカラスは繰り返し受けた。「なあ、やめろ、せっかくの、最後の、なんだ」彼は弱々しく笑った。やがてヤモトの手からニンジャソードが零れ落ちた。15
posted at 23:25:42

「時間が来ちまうよ」シルバーカラスは肩を竦め、カタナを下ろす。ヤモトは彼にカタナ持たぬ手をぶつけた。繰り返しぶつけた。シルバーカラスは後ろへ倒れ、尻餅をついた。ヤモトはシルバーカラスとともに倒れ込み、繰り返し、震える手で叩いた。やがて彼の胸で、声をあげて泣いた。 16
posted at 23:33:06

「俺の事がわかっちまったらインストラクションにならねえんだよ」シルバーカラスは言った。「殺し合いをしねえとよ」「そんなの無理だよ。カギ=サンだってわかるよ。当たり前だよ」ヤモトは嗚咽しながら声を絞り出した。「できないよ」「できねえか」「できないよ」「そうか」 17
posted at 23:40:24

彼は震える手で、嗚咽するヤモトの背中をさすった。「虫の良すぎる話だったな。お前まだ子供だってのに」ヤモトは泣き続けた。「結局タバコが吸えねえままになったか。インガオホーだな」シルバーカラスは掠れ声で呟いた。「悔いはまあ、そのぐらいだ。お前のおかげだ。黙ってジゴクに行くさ」18
posted at 23:49:27

……二人はその後、どのくらいの時間、そうしていただろう。幾つか言葉はかわしたに違いない。だが、さほど長い時間ではない。やがて、二人のうちの一人が……ヤモトが起き上がった。彼女は己の涙を拭った。そして追っ手から逃れるべく、その場を足早に去った。そうするしか無かった。 19
posted at 23:57:47

--------------- 20
posted at 23:59:12

数日後、アケガネ駅のホーム、耐重金属ジャケットのフードを目深に被った少女がいた。名をヤモト・コキ。彼女の腰に吊るされたカタナの鞘には(マッポーの世、武器を持った少女は稀ではあるが異常ではない)「ウバステ」と刻まれている。もとはシルバーカラスというニンジャの愛刀であった。 21
posted at 00:07:21

彼女が背負うリュックサックの中には、着替え、制服、日用品の類いに加え、高額のクレジット素子が入っている。彼女自身知らぬ間に、カギ・タナカが……シルバーカラスが押し込んだカネである。彼女の髪は長かったが、今は肩のところで切られている。 22
posted at 00:14:11

「電車が到着ドスエ。轢かれると多大な迷惑が重点」マイコ音声の警告が騒がしい。ヤモトはぼんやりと電車を待っていたが、何かを察知、改札階段の方向を振り返った。ダークスーツを着てサイバーサングラスを装着した三人の男が慌ただしく駆け上がってくる。三人は三つ子のようにそっくりだ。 23
posted at 00:19:12

ヤモトの瞳に桜色の光が微かに宿る。ホームの反対側には既に電車が来ている。「イヤーッ!」ヤモトは躊躇せず、その電車めがけて高く跳躍した。彼女が屋根に着地するとほぼ同時に、その電車は走り出した。三人のダークスーツ男はそれに気づくと、懐からチャカ・ガンを取り出し、撃ち始めた。 24
posted at 00:22:05

「ザッケンナコラー!」当然、当たる筈も無い。クローンヤクザ達はあっという間に見えなくなる。ヤモトは電車の屋根の窪みに座り、上着のポケットから小さな箱を取り出す。ラベルは『少し明るい海』。彼女はそのタバコをくわえると、自分の身体を風避けに、慣れない手つきでライターで火をつけた。25
posted at 00:26:38

吸い込もうとしたが、無理なものはニンジャであろうがやはり無理で、彼女は激しく咳き込んだ後、火を押し消した。そしてタバコの箱をポケットにまたしまった。被っていたフードが風で跳ね上げられ、その髪があらわになった。 26
posted at 00:30:04

(第一部「ネオサイタマ炎上」より:「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」終わり)
posted at 00:30:26

RT @warainaku: ケジメ!上げ直し、ヤモト=サンとカギ=サン  #njslyr http://t.co/HuAAHidg
posted at 01:11:36

RT @mizorogi: http://t.co/QcqLXD1v ラストがあまりにフォトジェニックだったので描いた #njslyr
posted at 01:19:45

RT @honoka45: 今のタイミングでヤクザ天狗は憚られるので、大人しく「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」ラストシーン #njslyr http://t.co/g3HX1ati
posted at 01:35:16

RT @ima_new: 起き抜けに読んだ忍殺が涙腺を攻撃して来たので落書きしました #njslyr http://t.co/VYukWw2z
posted at 11:34:37

RT @junki_ono: ヨモギ=サンの事考えてたら眠れないので描きました 雑で申し訳ない ipodで描いたから許して! http://t.co/S34oDWtn #njslyr
posted at 11:34:50

RT @oikea: 取り急ぎ、慣れない手つきでタバコに火をつけようとするヤモト=サンを。 #njslyr http://t.co/sjqWi8T9
posted at 11:37:12

◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 11:42:31

その闇サイバネ施療院で起こった出来事は、配慮無き描写がはばかられる程のマッポー的地獄図であった。逃走死刑囚ゴトー・ボリス、今の名はデスドレイン(愚かな名だ)、彼がその施療院で行った無意味かつ恥知らずな陵辱と破壊、不条理な殺しについては、出来るだけ無味乾燥な筆記を心がけたい。 1
posted at 11:59:51

彼は引き連れて来た瀕死の男の処置をサイバネ医師に依頼した。……依頼?強要?とにかく、やらせた。瀕死の男は両腕を失っていた。彼はゴトー同様の凶悪犯であり、大規模な破壊行為を行ったかどで服役中であったが、ゴトーが彼の刑務所を襲撃し、脱獄した経緯がある。彼はランペイジと名乗っていた。2
posted at 12:11:58

端的に記すと、この施療院には4人の男女のスタッフが勤めていたが、諸々の手術の後、全員死んだ。医師も死んだ。施療院の二階には医師の家族が住んでいたが、死んだ。医師の三人の子のうち一人、14才の娘は、事件の後、行方が知れない。私はこれ以上を語る筆をもたず…… 3
posted at 12:17:17

「へへへははははは!何だそれェ!はははははは!」デスドレインは戸口をくぐって現れた相棒の姿を見るなり、身をのけぞらせて爆笑した。「へへへへへへ!頭がおかしいのかお前!その腕!どうすンだよォ!」「壊すのさ」ランペイジはデスドレインの目を真っ直ぐに見返した。「もっと壊す。壊せる」 4
posted at 12:21:27

「バカだ!お前!へへへへ!」デスドレインは手を叩いて笑った。拘束衣型ニンジャ装束をはだけた彼の上半身(顔にもだ)には、ケルト戦士の戦刺青めいて、恐るべき傷跡が残されている。彼のそれは刺青ではなく無残な刀傷なのだ。 5
posted at 12:42:38

「お前そんなンで、いよいよ後戻りできねェなあ。いいよいいよ」デスドレインは言った。「アイエエ」彼が椅子にしている裸の女が呻いた。「ア?家具は喋らねえぞ?」デスドレインは立ち上がり、女の髪を掴んだ。その手から黒いタール状の物質が伝い、女の顔を塞いだ。女は苦しんだのちに事切れた。 6
posted at 12:59:48

「死んだら家具にもなれねえな。失敗だ」デスドレインは呟いた。「へへへへへ!」「……後戻りも何もないさ」ランペイジは殺しを無感情に眺めたのち、答えた。そして、部屋の隅で膝を抱えて座る少女を見やった。少女の目は澱んでいた。「あれも殺すのか」 7
posted at 13:04:13

「いや。あれは殺さねェ。上玉だ。それにな……」デスドレインは答えた。「おーい、マーもパーも死んで悲しいなァー。へへへへ」デスドレインは少女に言葉をかけたが、少女は無反応だ。デスドレインはランペイジに視線を戻し、「あれには、入ってンだよな。わかるんだよ」 8
posted at 13:07:51

「娘は……娘はどうか」ランペイジの出てきた手術室から片足を引きずって現れた医師を、デスドレインは見た。血で汚れた床を黒い暗黒物質が流れ滑り、即座に医師を捉えた。身体に絡みつき、首を吊り上げる。「アバッ、アバッ」「アバッ!アバッ!へへへへ!」デスドレインは口真似をした。9
posted at 13:16:30

「娘はどうか、娘だけは」「ダメだな。やっぱり殺すぜ。お前の後に」「……!……アバッ!」医師は絶望の中で、首の骨を折られて死んだ。デスドレインはランペイジに言った。「面白ェから、嘘ついちまった」「これでここも用済みだ。離れよう」とランペイジ。「連れて行くのか、あれを」 10
posted at 13:20:25

「そうだよ」とデスドレイン。ランペイジは反対した。「何も出来んぞ、あれは。ソウルが入っている?どのみち寝ているのだろう。生身の人間と変わらんぞ。子供だ」「面倒見りゃいいよ。あいつ自身が。それか、お前が」デスドレインは即答した。「連れて行くんだよォ」 11
posted at 13:27:04

「……」ランペイジは少女を見た。「立てるか。立て」彼は命じた。意外にも少女は頷き、立ち上がった。「な?問題ねェだろ。じゃあお望み通り、オサラバしようぜ。スシが食いてェよ」「……」ランペイジは壁に向き直った。そして腕を振り上げた……ナムサン!異形のサイバネ腕を! 12
posted at 13:35:25

それはテッコをはじめとする一般的なサイバネ義手とは明らかに異質な代物だ。いや、むしろ義手などと比較すべきでは無い。比較対象はクレーンやブルドーザーだ。無骨な鉄塊と言ったほうがよい。円柱状の腕部と、何もかも潰し砕くような、稚拙な指マニピュレーター! 13
posted at 13:40:05

その無骨な腕部がために、ランペイジのシルエットの横幅は以前の二倍以上に見える事だろう。しなやかに引き締まった彼の身体に、この腕は残酷なまでにアンバランスであった。だがこれこそが彼の望みであったのだ。「……イイヤァーッ!」彼はいきなり壁を殴りつけた。壁一面を一撃で粉々に粉砕! 14
posted at 13:44:28

「おほッ!壊すだけだなァ、その腕!」デスドレインが笑った。「壊すだけだ」ランペイジは頷き、外の路地を眺めた。時刻はウシミツ・アワー。「行くぞ」「なァ、あのよォ」デスドレインがランペイジの肩を掴んだ。「楽しかったよな、あの衛星レーザーよォ?」……ランペイジは微笑んだ。 15
posted at 13:49:25

NJSLYR> バイオテック・イズ・チュパカブラ #1

110407

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「バイオテック・イズ・チュパカブラ 」#1 #NJSLYR
posted at 21:09:51

中国地方の五割を覆う、広大なタマチャン・ジャングル。ここは重金属酸性雨耐性を獲得したバイオバンブーとバイオパインから形作られる、陰鬱でサツバツとした密林だ。時刻は昼下がり。見えない太陽が傾き出した頃。どこか遠くから、オツヤじみた物悲しい水牛の鳴き声が聞こえてきた。モウン、と。
posted at 21:16:40

極彩色のLANケーブルと猥雑なネオンサインに彩られる灰色のメガロシティ、ネオサイタマ……そこから遥か北に広がるこの密林を、トーフのごとく無機質な一台の車が駆け抜けてゆく。錆びたワイパーが重金属酸性雨を切り刻む。運転席にはスーツを着た金髪の女性。助手席にはニンジャ。
posted at 21:25:02

「この一帯はまだ電波塔が生きてるわ」とナンシー。右耳の後ろにインプラントされたバイオLAN端子には、白いアンテナ付きのトランスミッターが挿入されている「地域マップにアクセス。この先三百メートル地点に農場」。助手席に座るニンジャスレイヤーは腕を組み、呼吸を整え、周囲を警戒していた。
posted at 21:27:50

今にも朽ち果てそうな小さな橋を渡り、「雇用の問題」と書かれたコケシ・トーテムの脇を抜けて走ると、不意に密林が開けた。旧世紀の郊外型スーパーマーケットと思しき空間が二人の前に広がる。アスファルトの大半はバンブー・スプラウトによって地下から突き破られ、ビルディングは廃墟と化していた。
posted at 21:38:01

「ブッダ……! まただわ」静かにブレーキを踏みながら、ナンシーが吐き捨てるように言う「数十頭は殺されているかしら」。「調べてみよう」ニンジャスレイヤーはシートベルトを外し、ドアを開ける。民間人との接触を考慮に入れ、その赤黒いニンジャ装束をダスターコートとハンチング帽で隠した。
posted at 21:46:58

「酷すぎるわ」赤い傘をさして車を降りたナンシーは、頭を横に振りながら溜息を漏らした。おお、ナムアミダブツ! 何たる光景か! 現在は農場として使われていると思しきその駐車場跡一帯には、40頭余りの水牛たちが、打ち上げられたマグロのように横たわっていたのだ。ツキジめいた凄惨さである。
posted at 21:56:57

「手口は同じだ」ニンジャスレイヤーはアスファルトに方膝をつき、そのうち3頭の死体に特徴的な傷痕を発見した。この3頭だけは腹がさばかれ内臓が抜かれている。血は一滴も残されていない。「狂ったイタマエの仕業だろうか? とてもそうは思えない。こんな事ができるのは……ニンジャだけだ」。
posted at 22:10:10

ニンジャスレイヤーとナンシーは目を合わせ、同時に呟く。「「チュパカブラ……」」と。チュパカブラとは、メキシコの伝説的な獣の名だ。そしてそれは、タマチャン・ジャングル界隈で水牛ミューティレーション行為を繰り返す正体不明のニンジャに対して、二人が与えたコードネームでもあった。
posted at 22:57:49

「ザッケンナコラー!!」「スッゾコラー!!」不意に怒声が飛んだ。編笠を被った三人の農民が建物から駆け出してきて、タケヤリとカービン銃を組み合わせた恐るべき武器を構えるところだった。ニンジャスレイヤーは反射的にスリケンを投擲しようとしたがこらえ、ナンシーをガードする立ち位置を取る。
posted at 23:17:26

【NINJASLAYER】
posted at 23:44:17

(親愛なる読者の皆さんへ:津波警報が発令されていることを考慮し、リアルタイム連載を一時中断しております)
posted at 23:52:32

(まもなく連載を再開します)
posted at 01:03:21

「ドーモ! 私たちはネオサイタマ新聞社の特派員です!」ナンシーは首から下げたジャーナリスト・パスをかざし、身分を証明する。NSNWのロゴが輝かしい。ハッキングによって作成した偽造品だ。「どうか興奮しないでください! 私たちは反ブッダの運動家ではありません!」
posted at 01:05:10

「アイエエエエエ……」「安心した」「アンタイ・ブディストじゃないのか」農民たちは銃口を下ろし、ナンシーたちに近づいてきた。緊張に引きつっていた顔が、わずかに緩む。「特派員=サン、ご覧の通りの有様です。オーガニック水牛たちが次々に残酷な殺され方をしているんです」
posted at 01:10:30

「ドーモ、特派員のイチロー・モリタです」ニンジャスレイヤーが偽名を名乗る「これは一体、誰の仕業なのです?」。「ドーモ、タバキ・トヨタです」眼帯をつけた農民のリーダー的存在が返す「建物の中で話しましょう」。姿の見えない敵を威嚇しているかのように、鋭い眼光を松林の中に向けながら。
posted at 01:22:16

--------------------
posted at 01:30:18

同日同時刻。そこから数十キロ離れた、タマチャン・ジャングル南端部。
posted at 01:38:33

小高い丘に建つ古風な温泉宿「ニルヴァーナ」の前に、ものものしい雰囲気で3台の車が止まった。見事な松の木の下で、2台の覆面SPパトカーに前後を守られた防弾高級車のドアが開く。思っていたよりも肌寒い風が、暖房の効いた車内に忍び込んできた。「寒いね!」と少女の声が漏れる。
posted at 01:53:49

「ありがとうございました」運転席から降りた若い男が、覆面SPパトカーの精鋭デッカーたちに対して、奥ゆかしいオジギを行う「ここまでくれば、私たちだけで大丈夫です」。「お気をつけて」「ごゆっくり骨休めを」私服で正体を隠したネオサイタマ市警のデッカーたちは110度の最敬礼で返した。
posted at 02:05:58

続いて助手席から彼の妻が、左の後部座席からはペットのミニバイオ水牛を抱いた幼いムギコが、最後に右の後部座席からは和服を着てカタナを腰に吊った老人が姿を現す。数々の修羅場を生き抜いた男だけが持つことを許されるタツジンめいたオーラを、老人は静かに発散させていた。
posted at 02:14:15

「……ムギコや、はしゃぎすぎて転ばぬようにな」 娘を優しく諭す彼こそは、かつてニンジャスレイヤーに命を救われたネオサイタマ市警の重鎮、ノボセ老であった。彼らは日本人ならば誰しもが持つワビサビ的な想いに駆られ、ネオサイタマの喧騒を離れて、一家で温泉宿を訪れていたのだ。
posted at 02:20:26

「転ばないよ!」ムギコは少々ムッとしたような調子で言うと、重金属酸性雨避けの厚底ブーツで砂利道を蹴り、フロントへと駆けていった。そしてミニバイオ水牛を両手で高く抱き上げてクルクルと回りながらネコネコカワイイ・ジャンプを繰り返し、楽しげに語りかけるのだった「一緒に温泉に入ろうね!」
posted at 02:25:47

もしかするとこの時、彼は自分の身にただならぬ脅威が迫っていることを、動物的な第六感によって感じ取っていたのかもしれない。あるいは単に、ネコネコカワイイ・ジャンプに驚いて目が回っただけなのかもしれない。彼は喉の奥から搾り出すようにか細く、モウン、と鳴いてから、静かに失禁したのだ。
posted at 02:30:08

「バイオテック・イズ・チュパカブラ」 #1終わり #2に続く
posted at 02:31:01

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 17:29:01

NJSLYR> バイオテック・イズ・チュパカブラ #2

110409

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「バイオテック・イズ・チュパカブラ」#2 #NJSLYR
posted at 16:01:17

(あらすじ:タマチャン・ジャングルで奇怪な水牛ミューティレーション事件が多発。調査に乗り出したニンジャスレイヤーとナンシーは、そこに謎のニンジャの関与を疑い、これをチュパカブラと呼称する。調査中に2人は現地の農民たちと遭遇。報道特派員を名乗り、インタビューを開始するのだった……)
posted at 16:02:06

廃墟と化したコケシマート。かつては賑わっていたであろう回転スシバーのタタミ席に座り、五人の農民達に対するインタビューが始まった。少し離れた場所では、ヘッドギアを被った四頭の水牛たちが大きな車輪を回し、覚束ない電気を起こしている。タングステン・ボンボリが明滅し、時折火花を散らした。
posted at 16:13:40

彼らはネイティヴな農民ではない。工業プロジェクトの失敗によってこのエリアが過疎化し、やがてタマチャン・ジャングルに飲み込まれたのは、今から僅か十数年前のことである。彼らはUNIXを溶かして鍬と鋤に変えた、テクノ・ピューリタンの入植者なのかもしれない。だが、今はどうでもいいことだ。
posted at 16:19:27

「では、お話を聞かせてください」ナンシーはハイテク電子レコーダーにLAN直結を行ってからスイッチを入れ、白いインロウ型の小型マイクを農民達に向ける。報道特派員イチロー・モリタに変装したニンジャスレイヤーも、それらしく振舞うべく、DJめいた大仰なヘッドホンをかけてメモを取っていた。
posted at 16:34:23

農民たちは寡黙だった。リーダー的存在であるタバキ・トヨタが、右眼を覆う眼帯に手を当てながら、最初に重い口を開いた。「数週間前から始まったんです。地図を見てください。ここだけじゃなく、エリア一帯で水牛たちがミューティレートされ始めました。マッポは忙しくてなかなか来てくれません」と。
posted at 16:47:54

「正体は何なんです?」イチロー・モリタの偽名とハンチング帽で正体を隠したニンジャスレイヤーは、核心にせまる鋭い質問を投げかけた。「謎です」とタバキ。「アンタイ・ブディストかもしれません」と農民の一人がつぶやいた「水牛は生贄にされたんです」。モリタは『反ブッダ?』とメモを取る。
posted at 16:59:26

「死体の近くに反ブッダ的な魔方陣は描かれていましたか?」とマイクを向けるナンシー。「いいえ、でも、奴らがジャングルで儀式をするのは有名なんです。以前、バイオパインに人形が打ち付けられていたことも…ナムサン!」。「では水牛と儀式の関連は無いのですね」ナンシーは冷静に農民を論破した。
posted at 17:08:05

「では正体は何なんでしょう?」改めてイチロー・モリタは核心にせまる鋭い質問をした。「怪物ですよ」とタバキ。「私は凶暴化したバイオパンダだと思います」と農民の一人が冷や汗とともに呟いた「それも、かなり大きくて素早い」。モリタは『素早いバイオパンダ』とメモを取る。
posted at 17:14:26

「バイオパンダの声を聞きましたか?」と農民にマイクを向けるナンシー。「いいえ、でも、“奴”は外科手術メスのように鋭い爪を持っているらしいんです。バイオパンダも……持っているじゃないですか。鋭い……爪を」。「それは早計だと思うわ」とナンシーは冷静に分析した。
posted at 17:32:08

「正体はニンジャなのでは?」モリタが鋭い提言をした。「ニンジャではないと思います」とタバキ。「アイエエエ……UFOだと思います」と農民の一人が言った「宇宙人の作り出したおそるべきクリーチャーが……アイエエエエ……アイエーエエエエエ!」。農民は絶叫しながら、どこかに走って消えた。
posted at 17:48:23

「確かにクリーチャーという表現は正しいかもしれない」農民のリーダーであるタバキ・トヨタは、安シガレットをヨウジで吸いながら、苦々しい口調で言った「奴は光る眼を持っていますから」。「実際に見たことがあるのですか?」ナンシーが問う。「ええ、奴は俺の右眼を持っていきましたよ」とタバキ。
posted at 18:07:58

重要な証言だ。イチロー・モリタ特派員はヘッドホンをおさえて頷きながら、ハイテク電子レコーダーの「重点」ボタンを押す。「交戦したのですか?」とナンシー。「1週間前の夜、見張りに立っていた時です。突然、茂みの中を“奴”が走ってきた。俺はショットガンを撃ったんです。まったく、闇雲にね」
posted at 18:12:55

「……敵は、応戦してきませんでしたか?」モリタは人差し指を立てて、斬新な推理を伝えた「スリケンめいたものを投げる……などして」。「いいえ」とタバキ「しかし、奴はいやな臭いがしました。それから、素早くて……手か足の先に鋭い爪がついていました。それを使って、俺の眼をえぐったんです」
posted at 19:12:00

「ショットガンは効いたのですか?」ナンシーが的確な質問をする「命中の手ごたえは?」。「ありました」とタバキ「数メートル向こうに飛んでいって……どさりと落ちる音がしました。でも、“奴”は何事もなかったかのように高く跳躍して、バイオバンブーを蹴り渡りながら、飛び掛ってきたんです」
posted at 19:17:59

「敵は何色の装束でしたか。ここは重要ですよ」モリタは重点ボタンに指をスタンバイさせながら質問した。「服を着ていたかどうか……アーッ! アッ! アーッ! アイエエエエエエエエ!」冷静さを保っていたタバキが突然絶叫する! ナムアミダブツ! あの夜のトラウマがフラッシュバックしたのだ!
posted at 19:31:26

「ザッケンナコラー! 俺のかわいい水牛たちを! 何年かけたと思ってるんだ! スッゾコラー!」悪夢を追い払うために、タバキは脇に置かれたズバリを手に取り、自分の腕に注射した。しばし、荒い息使いだけが録音される。「……フゥー、遥かにいいです」タバキは平静を取り戻し、頭をかきむしった。
posted at 19:45:51

瞳孔が開き、ぎらぎらと覚醒して、落ち着かない虫のように動き回っていた。「そういえば、俺のランニングについた血が緑色だった気もします。あるいは紫。少し光っていた気もします。次の日には赤に変わっていました」タバキは浜に打ち上げられたマグロのように畳に身を横たえ、苦しげに語るのだった。
posted at 20:12:03

「ありがとうございました……インタビューを終了しましょう」ナンシーが沈痛なおももちで言った。農民たちは、得体の知れぬ恐怖と怒りのせいで発狂寸前なのだと解ったからだ。これ以上彼らを責めさいなんではいけない……ジャーナリストの良心が彼女にそれを気付かせたのだろう。
posted at 00:20:22

それはニンジャスレイヤーも同じだった。ナンシーが止めねば、彼のほうから終了を提案していただろう。愛する者をある日突然理不尽に奪われる悲しみは、水牛であろうと妻子であろうと同じことだ。……全員が無言になる。発電車輪の上に置かれたテレビからは、ノイズ交じりのオスモウ中継が流れていた。
posted at 00:38:59

畳の上でもがくタバキを見ながら、ニンジャスレイヤーは心の中でひとりごちる……一歩間違えば、彼のようになっていただろう。いや、もしかすると己も既に、どこか狂っているのかもしれない……と。タバキの苦悩を感じ取った彼は、顔を伏せて血の涙を流していた。やり場のないカラテが爆発寸前だった。
posted at 00:51:58

「ドーモ」全員が正座してオジギし、インタビューは完全に終了した。「御礼です」と、ナンシーは素子マネーを取り出して、チャブの上に置いた。ヨロシサン製薬系列ダミー会社の口座をハッキングして抽出した、結構な額のマネーだった。
posted at 00:55:23

二人は湿った靴音を響かせながら出口へと向かう。攻撃的なヒップホップ・ハイクが乱雑なスプレーでしたためられた、大きなシャッター。そこに背を預けるように、カービンタケヤリを構えた一人の農民が座り込んでいた。先ほど、錯乱して飛び出していった男だ。
posted at 01:14:06

「ドーモ、モリタ=サン、ナンシー=サン。お話したいことがあるんです」男は雨に打たれ、落ち着きを取り戻していた。彼は周りに仲間がいないことを確かめてから、歯をかちかちと鳴らしながら語る。「実は、恐ろしくて、恐ろしくて、まだタバキ=サンにも報告していないことが……」
posted at 01:17:24

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「バイオテック・イズ・チュパカブラ」#2終わり、#3へ続く #NJSLYR
posted at 01:21:05

RT @bootdale: #NJSLYR_Fanzine アイエエエ 雲雀さえずる ニンジャかな 【鑑賞】雲雀がさえずる和やかな春の日に、雲雀の声に耳を傾けていると、わずかな音色の変化からニンジャの到来が感じられる。聴覚的に繊細な情緒を感じさせる句。 http://twitpic.com/4itgn3
posted at 12:54:12

NJSLYR> バイオテック・イズ・チュパカブラ #3

110415

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「バイオテック・イズ・チュパカブラ」#3 #NJSLYR
posted at 22:21:57

(あらすじ:タマチャン・ジャングルで奇怪なキャトルミューティレーション事件が多発。調査に乗り出したニンジャスレイヤーとナンシーは、そこに謎のニンジャの関与を疑い、これをチュパカブラと呼称する。2人は現地の農民たちにインタビューを開始。一方その頃、同じジャングル内の温泉旅館では…)
posted at 22:27:06

夕暮れ近く。健康に良くないガスが充満する、温泉旅館ニルヴァーナの露天岩風呂。寂しげな風が吹いて松の枝を揺らし、見事なサンスイのハーモニーを奏でる。時折、湯の中から大きなコケシ・オートマトンがいくつか姿を現し、おごそかなレーザー光線を発射していた。
posted at 22:38:43

誰もが思わず心躍り、ハイクを詠みたい衝動に駆られるだろう。だがムギコは独り、緑色の湯に肩まで浸かって、鼻から顎を覆う漆塗りガスマスクから溜息を漏らしていた。「恐れ入ります」「動物禁止な」とミンチョ体で縦書かれたノボリがはためき、ミニバイオ水牛の入浴を無言のうちに拒んでいたからだ。
posted at 22:45:21

「せっかく連れてきたのになぁ……」ムギコは、とげとげしい大岩の上にライトアップされた赤いトリイを、ぼんやりと眺め上げた。その根元では、ミニバイオ水牛のモウタロウが、湯気に紛れて楽しげに8の字旋回を続けている。バイオ動物であるモウタロウは、ムギコとは根本的に違うクリーチャーなのだ。
posted at 22:51:41

あの子は成長した、ムギコは独りでも大丈夫だ。ノボセ老は深く頷きながら、岩露天風呂の様子をうかがうフスマをぴしゃりと締めた。彼に残された隻眼はたちまち、温かい祖父の眼差しから、ソードマスター・ツジゲッタンのように鋭い古参デッカーの眼差しへと変わる。「……では話を聞かせてもらおうか」
posted at 23:05:41

タマチャン・ジャングル・レンジャーマッポ隊の2人がチャブの前に正座する。「アイエエエエ……。ノボセ=サン、温泉旅行を邪魔してすみません」「水牛を連続で殺害して内臓と体液を抜く、異常アニマルネクロフィリア犯罪者らしき存在が、近頃このタマチャン・ジャングルを騒がせているのです!」
posted at 23:11:37

コワイ! 連続殺害事件とは! 幽玄なタイガーを描いた墨絵ビヨンボの陰で、ノボセ息子夫婦の表情がこわばる。「大丈夫です、この温泉は現場から遠く離れていますし、周辺には水牛もいません。しかし、ジャングル中心部はひどいものですよ! 農民や無関係な市民も被害を受けていますよ!」とマッポ。
posted at 23:53:11

「それで、何をしろと?」ノボセ老はマッチャを啜りながら問う。「事件解決まで、ご家族の方はこの宿から出ないでください。ただ、ノボセ=サンは……可能であれば……明日、調査にご協力いただけないでしょうか。このような異常性犯罪者にどう対処すべきか……我々はノウハウに欠けているのです」
posted at 00:03:21

「スゥーッ、ハァーッ」ノボセ老はチャドーの呼吸を整えながら、静かにマッチャを啜った。そして目を閉じ沈思黙考する。「死んだら終わり」「困っている人を助けないのは腰抜け」……平安時代の哲人ミヤモト・マサシが遺したアンヴィヴァレントな2つのコトワザが、彼の胸を去来する。まるで禅問答だ。
posted at 00:11:22

(((わしはまだ死ぬわけにはいかぬ。ネオサイタマの影の巨悪を暴き、法の裁きを下さねばならんのだ。だが…))) 伝説的デッカー、ノボセ・ゲンソンの答えを待ち、レンジャーマッポ達は息を飲む。老人は目をかっと見開いて膝を叩いた。 「…明日ではなく、今から動こう」「「ヨロコンデー!!」」
posted at 00:17:06

------------------
posted at 00:17:43

ナンシーは独り、吸血ヒルが潜むタマチャン・ジャングル奥地を進む。車に積み込んでいた重金属酸性雨除けのレインコートとロングブーツが、思わぬところで役に立った。車のタイヤは農場に駐車している間に何者かによってパンクさせられていたため、そこから1キロ先の川辺で乗り捨てざるを得なかった。
posted at 00:19:58

竹林に混じって立つ古い電柱から、ノイズ混じりのミニマルテクノと呟き声が聞こえてくる。ハッカー教団の電波を拾ったスピーカーが、虚しいプロパガンダを続けているのだろうか。下栄えに覆われた微かなアスファルトの痕跡、朽ち果てたノボリや自販機が、かつてここが国道だったことを暗示していた。
posted at 00:26:45

(((タイヤをパンクさせたのは誰なの? 農民たち? でも、あの鋭い切断痕はまるで水牛の腹の傷跡のようだったわ。まさか、私たちの追っているチュパカブラが?)))ナンシーはIRC空間内でひとりごち、ログを遺した。(((チュパカブラの正体は何なの? ニンジャ? 本当にそうかしら?)))
posted at 00:33:15

その時だ! 「ウオー! ウオー!」突然、竹林から巨大なバイオパンダが姿を現し襲い掛ってきた! ナムアミダブツ! だがナンシーは反射的にショットガンを腰溜め射撃する! 「アババーッ!」バイオパンダはワイヤーアクションのように吹っ飛び、返り血がナンシーの白いPVCコートを染め上げた!
posted at 00:44:24

だが、タマチャン・ジャングルの恐ろしさはこんなものではない! 「ウオー! ウオー!」さらにもう一頭のバイオパンダが、ナンシーの死角となる密林から姿を現し、おそるべき爪を剥き出しにして飛び掛った! ナムサン!
posted at 00:46:59

「イヤーッ!」竹林の上から声が聞こえたかと思うと、続けざまに三枚のスリケンが放たれた! 隙間わずか1センチほどの竹と竹の間を抜ける、信じ難いほどの精密投擲である! 「アバババババーッ!」三枚のスリケンはバイオパンダの両目と股間に突き刺さり、瞬時に失禁かつ絶命させる! タツジン!
posted at 00:50:50

「Wasshoi!」ニンジャスレイヤーが竹林の上から3回前方宙返りで着地する。偵察に出ていた彼が、時宜を得て戻って来たのだ。「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」「アバーッ!」ニンジャスレイヤーは、ニンジャらしい無慈悲なキックで、ナンシーが傷を追わせたもう一匹の猛獣を絶命させた。
posted at 00:58:47

「悪くないわ」ナンシーは返り血をぬぐいながら、平然と言った。ダイダロスとのIRC電脳空間での死闘をくぐり抜けてからというもの、彼女は日に日に逞しくなっているようだ。常にザゼンドリンクをオーバードーズしているかのような、恐ろしい冷静さが身についてきた。
posted at 01:09:48

「こちらも悪くない」と、常に喉を責めさいなんでいるかのようなニンジャスレイヤーの不吉な声が、鋼鉄メンポの奥から聞こえた。「この先に、あの農民が言っていた通りの特徴を備えた廃工場がある。チュパカブラの秘密を解く鍵が、そこに隠されているに違いない」
posted at 01:14:03

ニンジャスレイヤーとナンシーは、猛獣の襲撃に注意を払いながら、国道跡を進んでいった。その数百メートル後方……錆び付いた自販機の陰に隠れて彼らを観察する、奇怪な影! 前傾姿勢で二足歩行するこの謎の存在は、人間とは思えぬ俊敏さで竹を飛び渡り、迂回しながら廃工場へと先回りするのだった!
posted at 01:24:38

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「バイオテック・イズ・チュパカブラ」#3終わり #4へ続く #NJSLYR
posted at 01:25:09

NJSLYR> バイオテック・イズ・チュパカブラ #4

110417

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「バイオテック・イズ・チュパカブラ」#4 #NJSLYR
posted at 00:28:41

(あらすじ:タマチャン・ジャングルで奇怪なキャトルミューティレーション事件が多発。調査に乗り出したニンジャスレイヤーとナンシーは、そこに謎のニンジャの関与を疑い、これをチュパカブラと呼称する。2人は農民たちから得た情報を元に、ジャングル奥地に遺された廃工場へと辿り着くのだった…)
posted at 00:30:42

「活力バリキ!!」「実際安い!!」……虚飾的な標語とともに、ドリンク剤を持った半裸のスモトリとオイランが笑う。今にもサイレン塔からブルーズが聞こえてきそうなほどレトロなヨロシサン製薬の看板が、工場の壁に掲げられていた。看板に浮いた激しい錆は、化粧を落としたマイコを思わせる。
posted at 00:46:15

「ぱっと見は、数十年前に遺棄された、ヨロシサン製薬のドリンク工場だ」正門前に立ったニンジャスレイヤーは、微かに残ったタイヤの跡を手で触れて調べる。「当時の推定従業員数は5000人。閉鎖により一帯は過疎化……やがてジャングルに呑まれた」ナンシーがカメラを回しながら言葉を続ける。
posted at 00:53:26

「そこへ何者かがやって来た…」ナンシーは放置された数台の黒塗りバンを映す「農民たちの噂が真実だとするならば、およそ1年前に。そしてドリンク工場は、彼らの手で謎の生体兵器工場に作り変えられた。夜な夜な謎の吼え声や怪光が漏れ、そして数週間前に……爆発」カメラは崩れ去った西区画を映す。
posted at 00:58:36

「電気やシステムはまだ生きている」ニンジャスレイヤーは、正門の柱の上に置かれた2台のダルマ・ガーゴイルを指差した。殺人レーザー発射装置が隠されていたダルマの両目にスリケンが突き刺さり、バチバチと火花を散らしている。先ほどの偵察時に、ニンジャスレイヤーがこれを破壊していたのだ。
posted at 01:02:16

2人は初代ヨロシ=サンの銅像が建つ正面玄関から侵入を試みる。『お世話になっております』ナンシーのLAN直結ハッキングによってロックが解除され、ノイズ交じりの電子マイコ音声が鳴った。人気のないエントランスが姿を現し、割れた巨大金魚鉢や「タイムイズマネー」と書かれたショドーが見える。
posted at 01:11:20

「何、この臭い……?」ナンシーが顔をしかめた。奥の廊下からだ。ナンシーは懐からサイバーマグライトを取り出し、耳の後ろに備わったバイオLAN端子とLANケーブルで直結する。かなりの光量のライトが壁を照らし、そこを長く住処としていた吸血コウモリたちを追い払った。
posted at 01:15:57

サイバーマグは、漢字サーチライト技術を応用した、スゴイテック社のハイテク機器だ。ガラス部分に有機液晶が仕込まれ、LAN直結者から転送された文字やイメージを壁にプロジェクトする。この程度の暗闇はニンジャにとって何の苦でもないが、建物内の地図が表示されるのはフジキドにも有難かった。
posted at 01:21:11

2人は異臭が漂う廊下へと進む。頭痛を覚えたナンシーは、懐から小型ガスマスクを着用せざるを得なかった。そしてサイバーマグの文字を『重点』に切り替え廊下を照らす。「ナムアミダブツ……!」そこに見えたのは、惨殺された水牛の死体の列だった。比較的最近にミューティレートされたものばかりだ。
posted at 01:27:51

「これを追おう、ナンシー=サン。チュパカブラのところに連れて行ってくれるかもしれん。ニンジャ、殺すべし……」ニンジャスレイヤーが先頭に立って、バリキドリンク工場内の廊下を歩く。壁に並んだパイプからは時折得体の知れない液体が漏れ出し、配電盤からは火花が散っていた。
posted at 01:35:01

水牛の死体は、何十メートルも続いていた。途中で、バリキドリンク自動販売機同士の細い隙間に、ニンジャスレイヤーが何かを見つけ、おもむろに引きずり出す。それは惨殺された職員の死体だった。白衣を着て、胸にはヨロシサンのバッジを付けている。比較的新しい。死んで数週間といったところだろう。
posted at 01:42:13

「この装置は何?」ナンシーは、職員の死体が背負っている無骨な装置に強い興味を抱いた。ランドセルのように背負う形をしており、本体は角ばった銀色。パトランプとスピーカーグリル、そしてスーパーのレジで使うようなコード付端末が備わっている。大量生産されたものではなく、試作品の類だろう。
posted at 01:45:56

「皆目見当がつかん」と、ハイテクに疎いニンジャスレイヤーが答え、先を急ごうとする「今は捨て置こう、ナンシー=サン。ニンジャを殺さねば」。「待って……すごく、気になるの。LAN直結用のプラグがあるわ。マニュアルが読めるかも。5秒だけ待って、一瞬よ」
posted at 01:49:44

そう言い終わらぬうちに、彼女は自らのLANケーブルを謎の背負い型計測装置に直結していた。赤い起動スイッチを押すと、膨大な情報が一瞬にしてナンシーのニューロンを駆け巡る。急いだせいで、頭がくらくらとして鼻血が出る。「大丈夫か、ナンシー=サン?」「……これはニンジャソウル測定器だわ」
posted at 01:55:24

「ニンジャソウル……測定器だと?」フジキドは耳を疑う。ナンシーはスーパーのレジで使うようなコード付計測具を彼にかざし、手元のトリガを引いた。『ハイ、513メガカラテです』背中の赤いパトランプが回転して、スピーカー部から無表情な電子マイコ音声が漏れる。ナムサン! 何たる冒涜的技術!
posted at 02:03:47

「そんな機械などに頼らなくても、私はニンジャソウルを感じ取れる。チャドーの精神集中を行えば、それこそ風の流れを感じ取るように」ニンジャスレイヤーはそこで口をつぐんだ。自分が少々冷静さを失っていることに気付いたからだ。
posted at 02:08:30

「確かにそうだわ」ナンシーが静かに言う「でも、これで明らかになったこともある。あなたの言うとおり、ここにはニンジャがいるわ。そして、この職員たちはそれを発見しようとしていた。恐らくは、ヨロシサンのバイオテック実験によって生み出された、何か恐るべきニンジャを」
posted at 02:16:34

それから二人は無言のまま、再びドリンク工場の廊下を歩く。ナンシーの計測器は、数十キロカラテほどの微弱なニンジャソウルを検出し続けていたが、それが隣にいるニンジャスレイヤーの影響なのか、あるいはチュパカブラの痕跡なのかはわからなかった。時折意味不明にパトランプが明滅した。
posted at 02:21:52

「課長室」と書かれた部屋の前で、水牛の死体の列は終わっていた。計測器の値は徐々に強まっているが、端末をニンジャスレイヤーの方向に向けたときほどに強力な反応が起こることはなかった。「開けるぞ」と、メンポの奥からニンジャスレイヤーが静かに囁いて、勢い良くキックを入れる「イヤーッ!」
posted at 02:27:30

【NINNJASLAYER】
posted at 02:28:38

CRAAASH!! 鶴の描かれたフスマが破壊され、ナンシーがすかさず最大光量にしたサイバーマグの光で課長室の内臓部をえぐり回す。静寂。安らぎ。ニンジャスレイヤーは、スリケン投擲の動作のまま止まっていた。敵の気配は無い。測定器の値も数百キロカラテから上昇していない。
posted at 13:36:17

二人は警戒しながら、ハカバのように暗い課長室に潜入した。「しめた、有線端子だわ」ナンシーが掛け軸の裏に小さな穴を発見し、LAN直結とシステムハックを試みる。十秒後、ブーンという音とともに、建物内全体の電灯が灯り、どこか遠い場所からタービンや大型排気ファンの作動音が聞こえ始めた。
posted at 13:48:17

電灯が灯った課長室の光景は、あまりにマッポー的だった。床には無数の基盤や水牛の骨が散乱し、壁にはトレーニング用の木人や黒いニンジャ装束が吊るされている。課長机の下には、笹を敷き詰めた粗野な寝床と、液体入りの薬瓶。壁に掛けられたヨロシサン歴代社長の写真は顔が赤く塗りつぶされていた。
posted at 14:07:10

「チュパカブラはどこだ?」ニンジャスレイヤーは抜け目ないジュー・ジツの構えを取りながら部屋の中を探索する。「どうやら居ないようね」ナンシーが計測器をあちこちにかざしながら言う「これまでの証言をもとにすると夜行性の可能性が高いわ。狩りに出かけたのかも…」。言い終わろうとしたその時!
posted at 19:26:06

トゥルルルルルルル!! トゥルルルルルルル!! 課長机の上に置かれていた電話が不意に鳴った。二人は声を潜め、課長机をはさんで目を合わせた。(((私が取ろう)))とニンジャスレイヤーがジェスチャーを伝える。(((できるだけ引き伸ばして)))とナンシーもジェスチャーでこれに答える。
posted at 19:28:39

「ドーモ、研究員のヒデヨシです」ニンジャスレイヤーが受話器を取る。機転を利かせ、死体の胸バッジに書かれていた名前を拝借したのだ。「ドーモ、ヒデヨシ=サン。本社のオダワラです」受話器の向こうから冷酷そうな声が聞こえた。スピーカーモードに切り替え、ナンシーもそれを聞く。
posted at 19:38:26

「タイムイズマネー! 何故何日間も電話に出なかったんだね君はァ!?」オダワラの怒りがぶちまけられる。日本企業においては、現状把握や問題解決よりもまず、原因と責任の追求が行われる。オダワラはおそらく重役だ。「大変恐れ入ります」ニンジャスレイヤーはサラリマン時代のノウハウを駆使した。
posted at 19:49:00

「ニンジャの件はどうなっているのか!?」と甲高い声でオダワラ。「大変申し訳ございません」「とんだイディオットだな、君は! 君では話にならん! 爆発事故に巻き込まれたチャベタ所長は発見されたのか?!」とヒステリックな声でオダワラ。「恐れ入りますが席を外しておりますので伝言をどうぞ」
posted at 20:21:40

「一刻の猶予もない。マッポが動き出したとの報告もある。我々は今、Y-13ヤクザ部隊を率いて君らの研究所に向かっている。一時間以内に着くだろう。証拠を隠滅するのだ。これはセンタ試験ではないぞ。マッポには勿論だが、このクローンニンジャ計画を絶対にソウカイヤに知られてはならん。以上だ」
posted at 21:12:17

「ドーモ、オツカレサマデシタ」「ドーモ、オツカレサマデシタ」ニンジャスレイヤーは、相手の顔も見えないのにオーセンティックなオジギを行い、受話器を置いた。手が微かに震えている。鋼鉄メンポで覆い隠していたサラリマン時代の記憶が、一瞬蘇ったのだろう。愛しき妻子、フユコとトチノキの顔が。
posted at 21:15:20

「時間がないわ、二手に分かれて情報収集しましょう」とナンシーが提案する「万が一チュパカブラが接近してきても、このカラテ検知器があれば大丈夫だわ」。「わかった、ではこちらは爆発で倒壊した西区画を調べよう。地図によれば、地下研究施設への入口があるはずだ。ナンシー=サン、油断するなよ」
posted at 22:25:02

--------------
posted at 22:28:12

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは四連続バク転で、レーザー光線トラップを軽やかに回避した。そのまま一瞬たりとて動きを止めず、壁に一列に埋め込まれたダルマめがけてスリケンを投擲する。ダルマが爆発する頃には、彼はもう前を向いて矢のように駆けていた。
posted at 22:33:14

西区画に近づくにつれ、警備システムが危険になってゆく。こんな健康ドリンク工場は考えられない。間違いなくこの先に恐るべき秘密が待ち構えているのだ、と彼は確信する。直後、天井からディスコボール状のマシンガン発射装置が出現! 「イヤーッ!」無慈悲なジャンプパンチでこれを破壊し突き進む!
posted at 22:37:11

ナンシーと別れてから、ニンジャスレイヤーは一秒たりとて前進を止めていない。彼女がハッキングによって得た見取り図からすると、もうじき地下への入口だ。そのとき、天井からディスコボール状のマシンガン発射装置が2個出現! 「イヤーッ!」無慈悲なダブルジャンプパンチでこれを破壊し突き進む!
posted at 22:43:32

ついにニンジャスレイヤーは、銀行金庫的なドアによって封印された地下施設への入口を発見。「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」警戒色に塗り分けられた大型ハンドルを、ニンジャ筋力で強引に回す! 圧縮空気が漏れ出し、分厚い鋼鉄製の隔壁が撲殺されたマグロのようにだらしなく口を開けた!
posted at 22:50:03

階段を降りる時間も惜しい。ニンジャスレイヤーは飛び込み選手のように両膝を抱えながら、斜め前方への空中回転で一気に距離を稼ぐ!「Wasshoi!」そして着地! マフラー状の布をなびかせながらさらに駆ける! もっと速度を! 亡霊の如き悪夢を振り払うのだ! スゴイタカイ・ビルの悪夢を!
posted at 22:54:33

「……何だここは?」崩落した廊下を諦め、壁を破りながら闇雲に突き進んだニンジャスレイヤーは、突然、開けた暗い場所に出た。一瞬、足が止まる。
posted at 23:09:38

重犯罪刑務所の独房棟のように、左右に三階層の階段と廊下が並び、ショウジ戸で封印されていた。タタミ1枚分ほどの個室らしきものが、この空間内に数十個存在するのだ。天井の非常ボンボリがバチバチと火花を散らし割れる。ショウジ戸の奥で青白い光が明滅し、数十個の人影が浮かび上がった。
posted at 23:12:05

ニンジャスレイヤーは不吉な胸騒ぎを覚えながら、最も近くにあるショウジ戸の前に立つ。そして勢い良く引き開けた! おお、ナムアミダブツ! そこには見覚えのあるクローン培養プラントが置かれ、ニンジャ装束を着た人影が正座したままうつむいていたのだ! 肉はもう無い! 骨だけの死体である!
posted at 23:16:35

「奴らめ、クローンニンジャと言っていたか……?」ニンジャスレイヤーはいいしれぬ怒りに心を支配され、隣のショウジも、さらに隣のショウジも開け放った。そこにはやはり、骨だけになったクローンの死体がニンジャ装束を着て、奇怪な溶液の中に正座の姿勢のまま浮かんでいたのである! コワイ!
posted at 23:18:47

その時、奥の小部屋から物音が聞こえた! さてはチュパカブラか? ニンジャスレイヤーは右手でスリケンを握り、左手でチョップの態勢を取り、攻防一体の構えで駆け込む! だが意外にも、小部屋からは弱弱しい悲鳴が漏れ聞こえてきたのだ! 「アイエエエエ……誰か、誰か……!」
posted at 23:22:13

小部屋は何らかの制御室のようだった。壁に埋め込まれた大型UNIXがグルグルと何十個ものテープを回し、パンチドシートを吐き出している。点滅するボタンパネルからは時折火花が散っていた。「アイエエエ……ここです……」その声の主は、片方の足首を倒壊したガレキに潰された研究員であった。
posted at 23:25:02

ニンジャスレイヤーは研究員の上に馬乗りになり、襟首を掴み上げて質問する。「この施設は何だ? 手短に説明してもらおう。クローンニンジャ計画とは何なのだ?」「アイエエエ! ニンジャ! ニンジャアバーッ!」研究員は初め恐慌に陥っていたが、加減して平手打ちを入れると、おとなしくなった。
posted at 23:29:13

「時間がない、答えれば助ける」鋼鉄メンポの奥から情け容赦ない声が漏れた。「アイエエエ…」胸のバッジにタケシタと書いたその研究員は、泣きながら答える「計画は失敗に終わりました。ニンジャの体組織をもとにクローンを作成することはできたのですが、ニンジャソウルの複製は不可能だったのです」
posted at 23:36:09

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posted at 23:36:42

『クローンニンジャ計画には、我が社にとって2つの利点がある……』ナンシーは課長室の机の引き出しに隠されていたマキモノ・ダイアリーを解読していた。記録者はチャベタ所長。『……ひとつは、ソウカイ・ニンジャによる支配のくびきを脱せること。もうひとつは、人類に新たな脅威を提供できること』
posted at 23:42:13

『我が社のキャッチフレーズ、“ビョウキ、トシヨリ、ヨロシサン”を思い出して戴きたい。我々は毎年インフルエンザを造り、抗体を販売してきた。延命治療を発展させ、老人ホームビジネスを展開してきた。だが人々は恐怖に鈍感になってゆく。もはや誰も重金属酸性雨を恐れない。新たな脅威が必要だ』
posted at 23:44:59

『それがニンジャだ。まだ技術的課題は大きいが、私が先日発明したカラテ測定器を応用することで、ニンジャソウル検出が可能になるだろう。クローンニンジャをウィルスのように放ち、ポータブル・ニンジャソウル検知器を販売する。キャッチフレーズはこうだ“隣の部屋にニンジャがいるかもしれない”』
posted at 23:51:00

数週間後、突然所長の筆致が乱れ始める。『ブッダ! 我々は恐ろしい怪物を作り出してしまった!人間、ニンジャをも超える!おぞましいクリーチャー!原因はおそらく、コンタミした高濃度バイオエキス!緑色の肌!光る目!水牛が大好物!暴走バイオテック! バイオテック! イズ! チュパカブラ!』
posted at 00:01:02

さらに数日後。『ようやく奴をネギトロに変えた直後、新たな事態が起こった。コンタミした高濃度バイオエキス濃縮タンクが爆発寸前なのだ。廃棄しておくべきだった。私が欲目を出したせいだ。爆発が起これば生命維持ラインが遮断され、クローンが全滅してしまう……いや、それだけならまだいい……』
posted at 00:10:14

『万一、何体ものクローンがコンタミ高濃度バイオエキスを浴びたら……もはや対処不能だ。怪物たちが研究所の外に解き放たれてしまう。……私が行くしかない。私が今から地下に降り、バイオエキス濃縮タンクを緊急停止させるのだ。理論上はやれるはずだ。それを信じよう。私は科学者なのだから……』
posted at 00:15:03

マキモノ・ダイアリーの記入はここで終わっている。だが、何か嫌な予感を覚えたナンシーがさらに引っ張ると、そこから後にも、何か奇怪な文字らしきものが書かれているのがわかった。筆跡は所長のものとは思えなかった。それが延々、延々、続いていた。
posted at 00:19:24

「何よ、これ……」それはカタカナのようにもアルファベットのようにも見えるが、エジプト象形文字のようにも見えた。彼女の脳内にインプラントされた辞書素子のどこにも存在しない文字だ。見ているだけでニューロンが病んでいきそうな禍々しさを感じる。「一体これを書いたのは誰…?」
posted at 00:21:44

突然、ブレーカーが落ちた。部屋の四隅の青白い非常ボンボリだけが点灯する。ニンジャソウル測定器のパトランプが猛烈な勢いで回転を始めた! 「ハイ、500キロカラテ、800キロカラテ、20メガカラテ、100メガカラテ…」と電子マイコ音声! ナンシーの心臓が破裂しそうなほど鼓動を速める!
posted at 00:47:50

「ニンジャスレイヤー=サン?」とナンシーは闇の中に呼びかけた。答えは返ってこない。その時不意に、ナンシーのニューロンの中で全てがクリアになった。ここが今、誰の部屋なのかを、彼女は思い出したのだ。ウカツ! しばしば情報収集に夢中になってしまう彼女の悪い癖が、こんな所で仇になるとは!
posted at 00:51:40

「ニンジャスレイヤー=サン!?」ナンシーは絶叫にも近い声をあげる! それに応えるように、人間の発声器官によるものとは思えない奇怪な声が聞こえてきた! マキモノに書かれていた意味不明の文字列を発音したとしたら、おそらくそのように聞こえるであろうと考えられる、奇怪な声が!!
posted at 00:55:38

((何故チュパカブラがこのマキモノに文字を書くの?! 自分の呪われた出生を知るため?! 知性はあるの?! 何故ニンジャソウル反応があるのよ!?))ナンシーのニューロンが恐怖のあまり混乱を始める! 左手に計測器、右手にサイバーマグライトを持ち、壊されたフスマの辺りを照らした!
posted at 00:57:55

……意外にも、課長室の入口には何もいない。ナンシーは軽く息を吐く。だが、ニンジャソウル計測器の値は上昇を続ける一方だ! 恐ろしいほど無表情な電子マイコ音声が「ハイ、100メガカラテ、200メガカラテ、400メガカラテ」と告げる。近づいてきているのだ。だが何処から?!
posted at 01:01:28

…ナンシーはテクノロジーに頼るのをやめ、耳を澄ました。何故もっと早くそうしなかったの?と思いながら…。おお、ナムサン! チュパカブラの声は、天井伝いに近づいてきていたのだ! サイバーマグを最大光量にして斜め上方を照らす! 「アイエエエエエエエ!!」ナンシーの絶叫が廃工場に響いた!
posted at 01:06:14

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「バイオテック・イズ・チュパカブラ」#4 終わり #5に続く  #NJSLYR
posted at 01:07:07

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 14:01:38

NJSLYR> バイオテック・イズ・チュパカブラ #5

110423

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「バイオテック・イズ・チュパカブラ」#5 #NJSLYR
posted at 23:14:30

(あらすじ:タマチャン・ジャングルで水牛ミューティレーション事件が多発。調査に乗り出したニンジャスレイヤーとナンシーは、ヨロシサン製薬のクローンニンジャ研究所を発見。所長のマキモノを読んでいたナンシーのもとへ、何者かが忍び寄る……。謎のUMAニンジャ、チュパカブラであろうか!?)
posted at 23:19:57

「アイ、アイエエエエエエエエエエエ!」ナンシーは絶叫しながら、最大出力のサイバーマグで斜め前方の天井を照らす! 天井を這い進んでくる奇怪な灰色の影! ニンジャ装束か? あるいはぼろ衣か?! いずれにせよ、ナンシーのニューロンは恐怖のあまり、それを正しく認識することは出来なかった!
posted at 23:31:04

だが、ナンシーに危害は及ばなかった。同時に、人間のものともニンジャのものともつかぬ奇怪な叫び声が上がったのだ! 最大光量にひるんだのか、灰色の影はどさりとナンシーの前方3メートルの場所に落ち、一瞬のたうち回った後、バイオモンキーのように飛び跳ねてナンシーの視界から消えた!
posted at 23:38:34

「ハァーッ! ハァーッ!」ナンシーは目を剥き、今にも心臓を吐き出しそうなほど息を荒げていた。胸の谷間が緊張でじっとりと汗ばむ! 室内は依然として暗い。灯りは手元のサイバーマグだけ。ナンシーはサイバーマグを持つ手にカラテ探知器の端末を持ち、左手で腰に吊ったオートマチック拳銃を抜く。
posted at 23:41:30

(((やはり敵は夜行性のニンジャね。恐らく、同じ手は二度通用しないはず。次は銃弾を!)))ナンシーは冷静に次の作戦を練る。だが彼女の手は恐怖に呑まれ、小さく揺れ始めていた。精神と肉体のバランスが崩れている。両手が塞がっていなければザゼンを服用できただろうが、この状況では不可能!
posted at 23:51:15

左手から物音! 「ヒッ!」ナンシーが息の詰まるような声を吐きながら部屋の隅を照らすが、敵の影はない。その代わりに、放り投げられたと思しき水牛の頭蓋骨がカランカランとなっていた。「フェイント? そんな!」ナンシーは右手の暗闇へと素早くライトと銃口を向けなおす! だが遅い!
posted at 00:01:42

BLAM! BLAM! BLAM! サイバーマグライトが飛び掛ってくる影を照らすと同時に、ナンシーはほとんど無意識のうちにオートマチック銃のトリガーを引く! ナンシーは肩口から腰までを斜めに斬りつけられたうえに体当たりを喰らい、もんどりうって倒れた!
posted at 00:11:28

ナムサン! ナンシーは死を覚悟した! だがサンズ・リヴァーにはまだ早い! チュパカブラは銃声に驚いたのか、ナンシーから飛びのいて、再び部屋の闇の中に姿を消したのだ。切り裂かれて床に落ちたのは、PVCコートとスーツのみ。出血は頬と肩口からごく僅か。スポーティなブラの色は銀だった。
posted at 00:19:27

「ハァーッ! ハァーッ!」部屋の隅を背にしたナンシーは、再び銃とライトを構え敵の位置を探る。カラテ反応はあるが場所が定まらない。まるで、無数の冷凍マグロが吊るされた暗いコンテナを舞台に、凶悪なチェーンソーを持ったツキジ・ブッチャーと死のハイド&シークを繰り広げているようなものだ。
posted at 00:27:49

恐怖でニューロンがチリチリいい始めた。カラテ探知機のパトランプが狂ったように回転する。『重点! 重点!』と電子合成された絶叫マイコ音声が鳴った! 『500メガカラテ突破! 重点!』 対角線上の部屋の隅に、背中の丸まった人影と発光する奇怪な眼! ナンシーは闇雲に銃のトリガを引いた!
posted at 00:35:53

「CHULHULHULHULHULHULHU!!」チュパカブラが発する、超自然的な金切り声! BLAM! BLAM! BLAM! ナンシーが放つ銃弾の雨! だが前傾姿勢を取ったチュパカブラは、ナンシーの放った弾丸全てを、反復横飛びめいた非人間的高速ステップで回避した! コワイ!
posted at 00:47:08

カラン、カランと最後の一発の薬莢が課長室の床板に落ちて転がった。「CHULHULHULHULHU!!」全身をぼろ衣かニンジャ装束のようなもので包んだチュパカブラは、ナンシーの努力を嘲笑うかのようにその場で高速反復横とびを繰り返す! そしてナンシーめがけて一直線に駆け込んできた!
posted at 00:55:43

0010101010111101……。極度に分泌されたアドレナリンが、ナンシーの疲弊したニューロンをブーストする。全てがスローモーションに見えた。それから奇妙な現象が起こった。脳内に、視覚とは異なる別の映像が浮かんだ。部屋の中心を軸にして、見えないカメラが回転しているかのような。
posted at 01:07:21

(((何? とうとう私のニューロンが焼き切れたの? 酷使したものね、薬物に、直結に)))スローモーションでチュパカブラが駆け込んでくる。カメラが回転。絶叫する自分の顔が見える。回転。チュパカブラが着ているのは、ぼろぼろになった白衣のようだ。胸に薄汚れたバッジらしきものが見える。
posted at 01:13:07

さらにカメラは回転。ナンシーは弾切れにもかかわらずトリガを引き続けている。(((私、何をしているの? 攻撃をかわさなくちゃ)))しかしニューロン内の思考だけが超高速で行われ、彼女の肉体はまるで言うことをきかない。マッポー的タイムラグに見舞われたサイバーIRCショウギのように重い。
posted at 01:21:18

ナンシーの心……いや、ニューロンに、もはや恐怖は無かった。彼女は悟っていたからだ。まるで能天使から力天使となるように、自分が今ハッカーとして新たな位階へ昇ろうとしていることを。だが、おお、ナムアミダブツ! それとほぼ同時に、自らのニューロンが怪物の手で破壊されんとしていることを!
posted at 01:50:16

そう思うと、ナンシーのニューロンは泣いていた。恐怖のためではなく、口惜しさのために。(((嫌よ! 認めないわ! 死にたくない! 死ぬわけにはいかない! まだ私には成すべきことがあるのよ!)))
posted at 02:01:20

だが肉体は動かない。脳内映像だけが無慈悲なスローモーションと回転を続ける。ああ、ナムサン! 覚醒しかけた力の使い方も解らぬまま死ぬのか? 絶望が彼女のニューロンを支配しかけた、まさにその時! 鋼鉄メンポの鋭い輝きが闇を切り裂き、課長室に赤黒いニンジャ装束の男が飛び込んできたのだ!
posted at 02:04:39

「Wasshoi!!!!」課長室の戸口から現れたニンジャスレイヤーは、パトリオットミサイルめいたトビゲリを繰り出し、ナンシーに飛びかかるチュパカブラを撃墜した! ゴウランガ! 弾き飛ばれ壁に叩きつけられた怪物は、苦痛の呻き声を洩らす!「CHULHULHULHULHUUUU!」
posted at 02:14:19

「ドーモ、チュパカブラ=サン、ニンジャスレイヤーです」課長机の上に着地したニンジャスレイヤーが敵にアイサツを繰り出す。すると、素早く立ち上がったチュパカブラも、奇声とオジギで反射的にこれにこたえた! ナンシーは息を呑む。チュパカブラがニンジャソウル憑依者である新たな証拠の一つだ!
posted at 02:23:18

「イヤーッ!」気勢とともにニンジャスレイヤーの右腕がムチのようにしなり、目にも止まらぬ速さで2枚のスリケンが射出される! だがチュパカブラは、ニンジャスレイヤーの放ったスリケン全てを、反復横飛びめいた非人間的高速ステップで回避した! コワイ!
posted at 02:25:26

【NINJASLAYER】
posted at 02:35:20

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの殺人的カラテ! だがチュパカブラも素早いバク転とカラテでこれに応戦。両手でトーキックを上下から掴み、コマを回すように激しく左右に引いた! 「グワーッ!?」ニンジャスレイヤーの体が浮き、水平状態で回転する! バランスを崩しながら片膝立ちでの着地!
posted at 22:58:16

「CHULHULHULHULHUUU!!」チュパカブラは獲物を狩るバイオモンキーのようにパウンスし、組み付いてくる! 「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの肩に激痛が走った! ニンジャ頭巾に隠された長い嘴のような器官が、ニンジャスレイヤーの左肩に突き刺さり、血を吸い上げていたのだ!
posted at 23:08:36

インガオホー! 組み伏せられた不利な態勢から、ニンジャスレイヤーは右のパンチを敵の顔面に向けて放つ! チュパカブラは悠々と反応し、命中の直前でその手首を掴み上げる! だがニンジャスレイヤーは流れるような動きで、親指のバネの力を使い、中指の先端を敵の顔面に叩き込んだ!「イヤーッ!」
posted at 23:19:54

「CHU!!」チュパカブラの左眼球がトーフのように破壊され飛び散る。体が仰け反り、ニンジャスレイヤーの肩口から嘴が抜かれた! 怪物はそのまま前方に大きくジャンプして、課長室の戸口へと逃げ去ってゆく。ニンジャスレイヤーはブレイクダンスじみた動きから、ネックスプリングで立ち上がった。
posted at 23:28:42

「ナンシー=サン、廊下にいる研究員と脱出してくれ。私はチュパカブラを追う!」バク転から勢いを付けて転前方宙返りをして課長机の上に乗ったニンジャスレイヤーは、ナンシーが気丈な顔でうなずくのを確認すると、そのまま大車輪のような三連続側転で課長室を出て、逃げたチュパカブラを追った!
posted at 23:37:11

ニンジャスレイヤーは非常ボンボリに照らされた廊下を駆けながら、スリケンを投擲する。だが敵はスーパーボールのように上下左右を飛び跳ねるため、移動ルートを予測できない。流れ弾は、工場のかつての賑わいを偲ばせるショドーや集合写真、色褪せたバリキボーイの等身大ポップなどを破壊するのみ。
posted at 23:54:49

「CHULHULHU!!」チュパカブラはショウジ戸を何枚も破壊しながら逃げ回り、ガラスを突き破って工場外へと飛び出した。すでに陽は暮れ、サイレン塔からは錆び付いた定時放送が流れている。ニンジャスレイヤーもそれを追い、重金属酸性雨が降りしきるタマチャン・ジャングルへと消えた……。
posted at 00:09:19

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posted at 00:10:01

一方その頃。廃工場から南に数十キロ離れた温泉旅館ニルヴァーナでは、食事を終えたムギコがミニバイオ水牛のモウタロウとフートンに入っていた。『品質』と大きくショドーされた、高級羽毛フートンだ。「随分早いのね」と戸口の母親。「疲れちゃったの」とムギコはあくびを返す「ね、モウタロウ!」。
posted at 00:15:37

「車の移動が長かったからね」戸口に立つ父親は、廊下に置かれた屋外有毒ガスモニターの数値が安全域にあるのを確認しながら言った。「じゃあムギコ、先に寝ていなさい。お父さんとお母さんは、温泉に入ってくるから」。2人は部屋の電気を落とすと、桶と簡易ガスマスクを持って露天風呂に向かった。
posted at 00:19:38

「モウン」。モウタロウは嬉しそうに鳴きながら、隣にいるムギコの頬をべろべろ舐めた。いつも部屋の隅に置かれたミニ牛小屋で寝ている彼は、久々のスキンシップが嬉しいのだろう。だが、ムギコの様子がどこかおかしい。彼女はぱちりと目を開け、四つん這いで静かにフスマに向かった。
posted at 00:28:49

「よし、いない」ムギコはフスマをそっと締め、四つん這いのままテレビの前に向かった。ポケットから100円玉を何枚か取り出し、スリットに入れる。キャバァーン!キャバァーン!クレジット投入音が鳴り、暗い和室をテレビの蒼ざめた光が照らした。モウタロウが不思議がって彼女の後ろに近づく。
posted at 00:33:18

ムギコはTV本体に備わったボール状装置を回し、チャンネルを変える。チャンネルが多すぎ、ボール状でなければ全番組をカバーできないのだ。オイラン天気予報、サムライ探偵サイゴ、バイオ生物根絶を訴える過激派団体の電波ハッキング放送……違う、違う、急げ、急げ。ムギコの掌に冷汗がにじむ。
posted at 00:39:49

育ちの良いムギコは、家でのTV視聴を厳しく制限されてきた。実際、暗黒メガコーポの過剰消費プロパガンダに汚染されたネオサイタマのTVプログラムは、どれも酷いものだ。だからといって禁止されると、学校で話題が合わず、ムラハチの危険性が高まる。ムギコはそうした恐怖に怯えていたのだ。
posted at 00:51:44

先週も危うくボロをだすところだった。ムギコは思い出して身震いする。オイランドロイド・アイドルデュオ『ネコネコカワイイ』の最新プロモビデオについて級友たちが語っている輪に入ったはいいが、その映像をまだ観た事がなかったのだ。
posted at 00:56:51

ムギコは確かにネコネコカワイイの大ファンだったが、ムラハチを恐れてもいた。ムラハチとは陰湿な社会的リンチである。学校でムラハチにされたら、それが死ぬまでずっと続くのではないか……ムギコもまた、そういったありふれた恐怖に怯えていたのだ。
posted at 01:05:09

ついに目的のチャンネルを発見する。だが画面には、有料コンテンツを知らせる文字が。キャバァーン!キャバァーン!ムギコは惜しみなく100円玉をスリットに投入した。ノイズが晴れネオサイタマ・ヒットチャート番組が映し出される。「今日のゲストはネコネコカワイイです!!」「ワー!スゴーイ!」
posted at 01:07:59

ズンズンズンズズポポポポーウズンズンズンズズポポポポーウ電子的なサンプリング音声のイントロが鳴り、いよいよ新曲『ほとんど違法行為』がスタートする。ヘキサゴン型の浮遊ステージに乗ったオイランドロイド2人のシルエットが映る。「ワー!スゴーイ!」観客はすでに熱狂の渦だ。
posted at 01:10:56

タコ型巨大マシーンがスモークを吐き出し、ついにショウジドが開け放たれる! キーボードとサンプラーの前に立つ2人の姿が見えると思った瞬間……ここで異常が起こった! ムギコのTV画面にダルママークが出現し、ネコネコカワイイの姿を覆い隠したのだ。ナムアミダブツ! 性的コンテンツ保護だ!
posted at 01:13:31

キャバァーン!キャバァーン!ムギコは必死に100円玉をスリットに流し込み、性的コンテンツ解除ボタンを叩く。するとダルママークが消滅し、サイバーサングラスをかけたネコネコカワイイ2人の顔のアップ画像がついに映った! 「カワイイヤッター!!」ムギコは興奮し、狂ったようにジャンプする!
posted at 01:16:05

「モウタロウ、ごめんね! 今忙しいから寝ておいて!」ネコネコカワイイの性的なオイラン衣装を見て頬を紅潮させたムギコは、息を荒くしながらがら立ち上がり、新曲のダンスの練習を始めた。急がなくては。タイムリミットは両親が帰ってくるまでだ。「5万円ー」ついに歌唱パートが始まった!
posted at 01:19:36

「モウン、モウン」何度鳴いても振り返ってくれない。彼女は一心不乱にオジギやステップやネコネコカワイイジャンプを繰り返すのみ。モウタロウは落胆した様子でフートンに戻る。すると、微かに隙間の空いたフスマが目に入った。興味を抱いたのか、彼はそれを押し開け、トコトコと廊下に出るのだった…
posted at 01:28:06

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「バイオテック・イズ・チュパカブラ」#5終わり #6へ続く #NJSLYR
posted at 01:29:13

NJSLYR> バイオテック・イズ・チュパカブラ #6

110429

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「バイオテック・イズ・チュパカブラ」#6 #NJSLYR
posted at 19:53:26

(あらすじ:タマチャン・ジャングル奥地に建つバリキドリンク廃工場の正体は、ヨロシサン製薬のバイオ研究所であった。謎のUMAニンジャ「チュパカブラ」と交戦状態に入ったニンジャスレイヤーは、救出した研究員の生き残りをナンシーに託し、タマチャン・ジャングルの闇へと消えていったのだが…)
posted at 19:58:03

テーッテテレレレッテテッテレッテーテレッテレー、テテレレレッテレッテレッテーーーーーーーピロリロピロリロピロリロピロリロ……。錆び果てたスピーカーから、ザラザラとした8bit系音楽が洩れる。電源復帰した工場内のネットに、ペケロッパ・カルトのプロパガンダ電波が忍び込んだのだろうか。
posted at 20:19:56

遠くから聞こえてくる微かなクランク音とタービンの回転音が、物悲しい8bitのBGMに混じってナンシーたちの心を掻き乱した。「古き善き時代。むろん私は知らないが」研究員タケシタは足の痛みを堪えながら廊下を歩く「テクノロジーは未発達でも、人間はより人間らしい生活をしていたはずだ」
posted at 20:29:15

「果たしてそうかしら。知らない過去を美化しているだけではないの? 誰しもタケダ・シンゲンやハンニバルを名将と信じて疑わない。そんなものよ」タケシタに肩を貸しながら歩くナンシーの言葉には、いつになくニヒルな冷たさがあった。廊下に転がる水牛の死体のせいで、脱出が手間取っていたからだ。
posted at 20:34:45

「いずれにせよ、行き過ぎた科学は怪物を生み出してしまったんです」タケシタはうめく「…チュパカブラを」。「その観点から行くと、私も怪物の一種だわ」ナンシーはやや自嘲的な笑みをこぼした。「何か言いましたか?」「…何でもないわ。それよりあなた、ニンジャソウル測定器の原理は知ってる?」
posted at 21:53:03

「あのデータは所長の脳内素子にしか存在しないのです。所長は恐らく、もう生きてはいないでしょう」。「そして最後の1個も、さっきの戦いで壊されてしまったわけね」とナンシーは溜息をついた。あの技術さえあれば、生身の人間である自分でもニンジャに対抗できるのではないかと考えてい たのだ。
posted at 23:13:12

ザザーザリザリザリ……。プロパガンダ放送にノイズが入り、ジャジーな音に乗って、レトロなコマーシャルソングが鳴り始めた。「バリキボーイ、バリキボーイ、空を飛ぶ。バリキボーイ、バリキボーイ、力が強い……」かつて世界がずっとシンプルでミニマルだった時代の、信じがたいほど安直な歌だった。
posted at 23:16:11

「僕たちはハイテクを捨ててあの時代に戻るべきなんです……もうフートンに入って寝たい……」タケシタは水牛につまづきながら言った。ペケロッパ・カルトの洗脳放送効果は随分と高いようだ。「愚痴は後で聞くわ。インタビューと一緒にね。今は急ぎましょう、ヨロシサンのヤクザ軍団が近づいているわ」
posted at 23:54:23

『ブガー大変お世話になっておりますブガー』 突如、スピーカーに割り込んでくる電子マイコ音声とブザー音! エントランスの近くまで辿り着いていたナンシーは、窓から外の様子をうかがった。おお、ナムサン! 粗野なエンジン音と、威圧的な漢字サーチライトの光が工場に近づいてくるではないか!
posted at 00:02:03

こうなってしまっては、脱出は難しい。窓やエントランスから出れば、漢字サーチライトに照らされて射殺されるだろう。一時的に隠れてやり過ごすしかない。でも、何処に? ナンシーはエントランス付近を素早く見渡し、隠れ場所にふさわしい遮蔽物がないかを探した。
posted at 00:03:49

(((受付の机の下? まさかね、子供の隠れんぼじゃないのよ。……あった、これだわ…!)))獲物を狙うイーグルのように鋭い彼女の観察眼は、エントランスの片隅に打ち捨てられた、レトロなバリキドリンク着ぐるみを発見した。手足と顔が出るタイプだ。これを着て座りこみ後ろを向けば完璧だろう。
posted at 00:09:43

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posted at 00:11:59

「部長、着きました」運転ヤクザの無機質な声が発せられる。黒塗りにされた3台の武装バンが、廃工場の駐車場に止まった。ルーフの上には「制圧」の二文字を照らし出す四基の漢字サーチライトと、最新型のマシンガン、そしてタケヤリが備わっている。ヤクザの一個中隊にも対抗できるほどの戦闘能力だ。
posted at 00:18:41

「…総員、展開せよ!」クローンヤクザよりも冷酷で無機質な声が、助手席から発せられた。ヨロシサン製薬バイオテック部のオダワラ部長だ。オーダーメイドの3ピーススーツに、ナチスめいた丸いアイグラス付きガスマスク。ヨロシサンの社章が入った黒い規格帽。両腕は最新鋭の機械義手。重役の風格だ。
posted at 00:26:10

オダワラ部長が武装バンから降りる。重金属酸性雨に濡れた冷たい泥水が、強化PVC製の黒いロングブーツにはね飛んだ。激しい怒りと苛立ちを表すように、右手に持ったグンバイに力がこもる。それに続いて、武装バンの後方のドアが開き、Y-13型クローンヤクザたちが1体、また1体と姿を現す。
posted at 00:33:21

サッキョー・ラインの満員電車からあふれ出るサラリマンのごとく、クローンヤクザたちは際限なく吐き出されてくる。全員右足から地面に降り立ち、同じ歩幅で進む。クローンならではの統一感だ。左手にはチャカ、右手には鋭い輝きを放つチタン・カタナ。整然と列を成し、エントランスへと向かう。
posted at 00:40:40

四人のクローンヤクザを前衛に配しながら、オダワラは薄暗いエントランスに足を踏み入れる。「営業中」とショドーされた古い立て看板が、無言のうちに彼らを迎えた。50畳ほどの空間。朽ちたデスクが散乱し、部屋の隅にはバリキドリンク着ぐるみ。「くだらんノスタルジアだ」オダワラは吐き捨てる。
posted at 00:50:34

「ザッケンナコラー! スッゾコラー!」前衛に立っていたクローンヤクザたちが動く。暗闇の中に人影を発見し、取り囲んだ。タケシタである。「アイエエエエエ……部長……」床にへたり込んだタケシタは、複雑な思いで上司を仰ぎ見た。全く表情の見えない、赤いレンズを。
posted at 00:58:58

「とりあえず君、ドゲザしたまえ」オダワラ部長が冷たく言い放つ。「ヨ、ヨロコンデー!」タケシタが何の躊躇もなくドゲザを行う。「プラントは、壊滅かね?」「はい、もう駄目です、使い物になりません」「そうか……」シュコー、シュコー。オダワラ部長のガスマスクから、不愉快そうな息が漏れ出す。
posted at 01:04:57

「地下プラントへ案内します」恐怖のあまりどもりながら、タケシタ研究員が言った。横目でちらちらと、部屋の隅に置かれたバリキドリンク着ぐるみを見ながら。((ナンシー=サン、あなた方は僕の命の恩人だ。生きて逃げて欲しい。この事件を闇に葬らせてはいけない。どうか記事にしてください!))
posted at 01:13:17

「いや、その前にだね…」オダワラ部長は胸ポケットから、葉巻カッターめいた携帯式ケジメ器具を取り出した「私の怒りが収まらないから、君、ちょっとケジメしてくれたまえ」。「アイ、アイエエエエ!」タケシタは失禁する。「何をモタモタしているんだね。タイムイズマネー!私の時給は君の何倍だ?」
posted at 01:19:19

「アイエエエエエ!」「仕方ない、私がしてあげよう」オダワラ部長は、機械義手の有無を言わさぬ力でタケシタ研究員の腕をつかみ、まるでサラミソーセージを切るような気軽さで人差し指をケジメした。「アイ、アイエーエエエエエエ!!」ナムアミダブツ! 血飛沫がオダワラ部長のガスマスクにはねる!
posted at 01:26:35

「アイエーエエエ! アイエーエエエ!」タケシタは生まれて初めてのケジメの激痛に耐え切れず、床を転げまわった。「ところで君、何か隠してるんじゃないのかね? 私はイディオットではないよ。伊達にヨロシサン製薬で部長を努めてきたわけじゃない。君のような低所得者の考えることはお見通しだ」
posted at 01:30:23

(((すみません、ナンシー=サン、ニンジャスレイヤー=サン、僕はもう駄目です。早く楽になってフートンに入りたい……)))タケシタは無念そうに涙を流しながら、もごもごと口を動かした。「バ、バリキ……」「何だって? 聞こえないな。もう一本ケジメかね?」
posted at 01:36:40

「そ、そこの、バ、バリキボーイの等身大ポップの後ろに、ニ、ニンジャが!」「ニンジャだと!? ソウカイヤに嗅ぎつけられていたのか!?」オダワラの声色が変わる。グンバイを使って、クローンヤクザたちにバリキボーイ等身大ポップの包囲をうながした。その時だ!
posted at 01:39:47

部屋の片隅に置かれていたバリキドリンク着ぐるみが突然立ち上がり、ソードオフ・ショットガンの一撃をクローンヤクザたちの背後からお見舞いした! ナンシーだ! (((ありがとう、タケシタ=サン!))) 「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」3体のクローンヤクザが即死し肉片に変わる!
posted at 01:43:52

「敵だ! 総員、三倍量ズバリせよ!」オダワラ部長はこめかみに備わった拡声器ボタンを押し、無慈悲なる命令を下す。「「「ヨロコンデー!!!」」」」数十体のクローンヤクザが一斉にチャカを胸元に仕舞い、注射器を取り出して、各々の首元に三倍量のズバリ・アドレナリンを注入した! コワイ!
posted at 01:48:59

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」クローンヤクザたちが注射を行っている隙をつき、ナンシーはソードオフ・ショットガンを勇ましくポンプさせながら連射した!「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」クローンヤクザの体が次々と切断され、緑色の返り血でナンシーの顔と着ぐるみを染め上げる!
posted at 01:52:27

「敵は一人だ! 殺せ! 殺せ!」オダワラ部長も胸元からモーゼル型拳銃を抜いた。注射を終えたクローンヤクザたちも、電気ショックを浴びたような痙攣を一瞬だけ見せてから、カタナを構えて斬りかかる。ナンシーは朽ちたデスクの間を素早く移動しながら、クローンヤクザをネギトロに変えていった。
posted at 01:56:12

「スッゾコラー!」カタナを上段に構えながら、クローンヤクザがデスクの上を駆け抜け、ナンシーの背後に迫る! アブナイ! だが彼女のニューロン内映像は、再びサードパーソン・シューティング的視点に切り替わっていた! 後ろを振り向くこともなくショットガンを発射する!「グワーッ!」即死!
posted at 02:03:17

(((だいぶコツが掴めて来たわ)))ナンシーは、ニューロンが研ぎ澄まされてゆくのを感じる。動きづらいバリキドリンク型着ぐるみを着ている不利を全く感じさせない動きだ。斜め後方で銃を構えるオダワラ部長の動きを察知し、素早くしゃがみこむ。その弾が前方から突撃してくるヤクザに命中する。
posted at 02:07:38

弾が切れた。ナンシーは頭を失いゆっくりと倒れかけるヤクザの胸ポケットからチャカを引き抜き、斜め後ろから迫ってくるヤクザの脳天を打ち抜く。さらに後ろ向きのまま、流れるような動きでその胸ポケットに手を差し込み二挺目のチャカを引き抜く。次いで左右から迫ってくるヤクザを同時に撃ち殺した。
posted at 02:14:48

だが、あまりにも多勢に無勢だ。敵はまだ何十人となく控えている。疲労のせいか、薬物不足か、あるいはまだ精神集中の方法を完全につかめていないのか、徐々にナンシーの脳内からサードパーソン・ビューが失われてゆく! チューニングがわずかにずれたAMレディオのように!
posted at 02:17:03

「スッゾコラー!」突然、予想外の位置からクローンヤクザの叫び声が聞こえた。ナンシーは慌てて背後を振り向く。床だ! 腹部をショットガンで切断され絶命したはずのクローンヤクザの上半身が、三倍量ズバリの力によって床を這い進み、ナンシーの細い足首に手を伸ばしていたのだ! インガオホー!
posted at 02:20:25

「アァーッ!」ナンシーは思わず悲鳴を漏らし、バランスを崩す! ウカツ! バリキドリンク型着ぐるみの動きにくさが、こんな所で仇になろうとは! うつぶせに倒れるナンシー! クローンヤクザが一斉に駆け寄り、囲んでカタナを振り下ろす! イカを集団撲殺したというニンジャ神話のように無慈悲!
posted at 02:30:25

「シャッコラー!」「テメッコラー!」「アイエエエエエエエエエエエエ!」切れ味鋭いカタナが次々とナンシーの背中に振り下ろされる! 弾力性に富んだバリキドリンク型着ぐるみの質感がカタナの衝撃を吸収しているため、まだナンシーの肌に刃は触れていないが、恐らくそれも時間の問題だろう!
posted at 02:34:25

ゴウランガ! もはやこれまでか?! ニンジャスレイヤーはチュパカブラを追跡しているため、救援は期待できない。床にはいつくばり、モーゼルの銃口を向けられたタケシタ研究員は、哀れなナンシーを見ながら哭き、なすすべもなくブッダに祈った! かつての神であるバイオテックではなく、ブッダに!
posted at 02:39:09

エントランスのガラスが盛大に割れ、ドラゴンの咆哮のごときエンジン音とともに、3台のヤクザバイクが乱戦の中へと突入してきた! ライダーたちの顔はいずれも編笠に隠されている! 天井すれすれまで高くジャンプしたリーダー格の男の顔が、サーチライトに照らされた! シケモクに眼帯! タバキ!
posted at 02:46:46

「スッゾスッゾスッゾコラーーー!!」おそるべきヤクザ・スラングとともに、農民たちはカービンタケヤリを低く構え、十字軍騎士団のようにクローンヤクザを串刺しにしてゆく! カービンのトリガーを引き、突き刺さった死体を弾き飛ばしながら、ナンシーの足を掴む上半身ヤクザを重厚な車輪で蹂躙!
posted at 02:51:48

【NINJASLAYER】
posted at 02:55:16

四つん這いになって立ち上がろうとするナンシーの目の前から、床を這い進んでくる新たな上半身ヤクザ! ナムサン! だがそこへ、タバキのまたがった武装バイクが視界の右から猛スピードで突っ込んできて踏み潰し急ブレーキをかける!「グワーッ!」即死! バイオエキスがナンシーの顔を染め上げる!
posted at 13:38:56

「大丈夫か?」タバキは左手でバリキドリンク着ぐるみのフタ部分を掴み上げ、ナンシーを助け起こす。そこへ流れ弾!「堕亜久怒煮」と極太オスモウ・フォントで彩られた強化樹脂リアガードを貫通し、モーゼル銃の弾丸がタバキの左肩に命中する!「グワーッ!」
posted at 13:46:19

「この低所得者たちを殺せ! ありったけの武器を使え!」オダワラ部長は左手のモーゼル拳銃で農民たちを射撃しながら、右手でこめかみの拡声器ボタンを押し絶叫する。「ヨロコンデー!!」火炎放射器を構えた新たなクローンヤクザたちが、武装バンからエントランスへとなだれ込んできた!
posted at 13:51:02

「ザッケンナコラー!」タバキは不屈の戦闘精神を誇示するかのように、アクセルをふかした。「武田信玄」「シークアンドデストロイ」と強化樹脂リアガードにプリントした他の二人も、絶妙のコンビネーションでタバキを援護する。ブッダ! 彼らは元ダークオニ・クランのヤクザバイカー兵士だったのだ!
posted at 13:59:44

「ナマッコラー!」エントランスを旋回するバイカーたちを火炎放射器の炎が襲う!タバキは身をかがめてこれを回避したが、一人のバイカーが真正面から直撃を喰らい、マグロのタタキのようになって転げ落ちた!「グワーッ!」別のバイカーがタケヤリで火炎放射ヤクザを背中から突き刺す!「アバーッ!」
posted at 14:07:12

「アババババーッ!」火炎放射ヤクザは背中から串刺しにされたままバイクと並走し、炎を狂ったように四方八方に撒き散らす!「アバーッ!」「アバババーッ!」地面を這っていたクローンヤクザの上半身や下半身が炎に包まれてゆく! インフェルノ! コワイ! 古事記に予言されたマッポーの一側面だ!
posted at 14:12:24

「アッ?! アバッ!?」三倍量ズバリを注射していたクローンヤクザの何人かが、頭を抑えて苦しみ始めた。ズバリの副作用だ! 「アーッ、アバババババババーッ!!!」水揚げされたマグロのように床に転がって痙攣する! ナンシーがそれを手際よく射殺し、ブーツの踵で頭を踏み潰してゆく!
posted at 14:18:40

「アイ……アイエーエエエ!」オダワラ部長は恐怖の叫び声をあげた。戦士ではない彼の精神にとって、この狂気的キリングフィールドはあまりにも有害!「バリキボーイ、バリキボーイ、空を飛ぶ!バリキボーイ、バリキボーイ、火は平気!」CMソングが絶叫と銃声に混じり、彼の精神崩壊に拍車をかける!
posted at 14:24:11

「ARRRRGH!」オダワラは絶叫を拡声器で放ちながら、モーゼル拳銃を闇雲に発砲し、工場外へ逃げ出そうとする。カチ、カチ、弾切れも気付かない。クローンヤクザを掻き分けながら、なりふり構わず走り抜ける。そこへ全身血みどろのナンシーが立ちはだかり銃口を向けた!「FREEEEEZE!」
posted at 14:30:59

「ARRRRGH!」オダワラは足を止めず、右のこめかみ部分に備わった小型レーザー射出装置を押す。「ンァーッ!!」ナンシーの白い腕が焼かれ、チャカを取り落とした! ナムサン! 部長はその隙をついてタックルをしかけ、ナンシーを組み伏せると、そのまま立ち上がって工場外へと脱出!
posted at 15:18:23

「車を出せ! 急げ!」オダワラ部長は運転ヤクザに命令を飛ばす。だがその時、1台の武装サファリジープが漢字サーチライトを照らしながら、ジャングルの闇の中から現れた! レンジャーマッポ部隊だ! ルーフの上には和服を血で染めたノボセ老人が立ち、バイオパンダの生首が四方に据えられていた!
posted at 15:22:26

「警察」の二文字が漢字サーチライトとなってオダワラ部長を捕える! 「アイエエエエエエエエエ!」想像を絶するほどの恐怖! 最後まで残っていた精神の壁が突き崩されるのを感じながら、オダワラは糸の切れたジョルリのように、武装バンの横にへたりこんだ。全て終わりだ。会社に何と説明しよう。
posted at 15:25:13

「動くな、警察だ!」カウボーイハットを被ったレンジャーマッポたちが、提灯を掲げながらオダワラ部長を素早く取り囲み、警棒で叩いた!「何が起こっている、答えろ!」「……バ、バリキ」「何だと? 聞こえないぞ!」「…バリキボーイ、バリキボーイ、空を飛ぶ……」オダワラ部長は歌い続けていた。
posted at 15:31:30

同じ頃、エントランスでも戦闘は終了していた。ザー、ザリザリザリ……「バリキドリンクは用法用量を正しく守ってお使いください」……ループしていたCMソングが終わりを告げる。焼け焦げた肉の異臭と、盛大に撒き散らされたバイオエキスが、タケシタに絶え間ない嘔吐をもたらしていた。
posted at 15:36:10

ナンシーとタケシタそして生き残ったバイカーは、破壊されたバイクに背を預けて血を吐くタバキを沈痛な面持ちで囲んでいた。タバキの腹部には何本もカタナが突き刺さり、まだ生きているのが不思議なくらいだ。「ザッ……ケンナコラー……ゲホゲホーッ!」「何故こんな無茶をしたの?」ナンシーが問う。
posted at 15:39:50

「……ナンシー=サン、隠していたが、俺たちゃネオサイタマ市街から逃げてきたヤクザなんだ。毎日のように続く殺し合いと、稼いだ金を次から次へとサイバネ手術とオイランハウスにつぎ込むだけの生活に疲れ、このジャングルに逃げ込み、バイオLAN端子をハンダで埋めて農民になった……ゲホーッ!」
posted at 15:42:39

タバキは血を吐き、歯を食いしばりながら続ける。ナンシーはそれを止めなかった。止めたところで、もう長くはないことが明らかだったからだ。「……あれから十年。可愛い水牛たちとつつましく農業を営み、ハイテックから開放されたと思っていたら、これだ。悔しい! 俺は悔しいんだ! ゲボーッ!」
posted at 15:45:25

「だからって自殺行為に走ったの? あの時渡した素子には、かなりの金が入っていたのに」「…仲間の一人が持って逃げた。おそらくネオサイタマ市街に。馬鹿な奴だ。…そういうわけなんだ、ナンシー=サン。俺たちにはもうこれしか残ってなかった。それに、いくら金を払っても、家族は帰ってこない」
posted at 15:51:13

「タバコくれ…」タバキが消え入りそうな声で言う。「ハイヨロコンデー!」バイカーの一人が泣きじゃくりながらシケモクを取り出し、タバキの口に咥えさせライターを擦った。最初の煙が立ち上った直後、シケモクは力なく口元から落ちて血だまりの中で爆ぜ、その火を失った。そしてタバキも死んでいた。
posted at 15:55:39

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「バイオテック・イズ・チュパカブラ」#6 終わり #7に続く #NJSLYR
posted at 15:57:31

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 15:57:39

NJSLYR> バイオテック・イズ・チュパカブラ #7

110430

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「バイオテック・イズ・チュパカブラ」#7 #NJSLYR
posted at 15:58:05

「モウン……」温泉旅館ニルヴァーナの薄暗い廊下を、ミニバイオ水牛のモウタロウがトボトボと歩く。ムギコに遊んでもらえない失望は、部屋の外への興味で数分間だけ打ち消されたが、人気のない旧館に迷い込んだ彼の心は、すぐに不安感に塗りつぶされたのであった。
posted at 16:13:16

ボームボームボームボームボーム……。年代ものの柱時計が鳴る。傘つきのタングステン・ボンボリがバチバチと明滅して、カモイにかけられた恐ろしいハンニャやテングのマスクを照らす。ザザー、ザリザリザリザリ……館内放送のレディオが混線し、反バイオ過激派団体のアジテーションに変わった。
posted at 16:17:12

「……バイオ生物は地球の癌なのです!ブルジョアのために作られたミニバイオ動物を御覧なさい!飼育するのにどれだけの自然破壊が必要だと思っているんですか!ミニバイオ動物を見つけたら囲んで警棒で叩く!囲んで警棒で叩く!囲んで警棒で叩く!囲んで警棒で……」洗脳的なフランジャー音声が続く。
posted at 16:27:28

「……モウン」モウタロウは不安そうに鳴いた。彼は人間の言葉を理解しない。少なくとも理論上はそのようになっている。かろうじて反応できるのは自分の名前くらいだ。だが、この旧館の不気味な静けさに恐怖を感じたのか、それともレディオ放送の意味を感じ取ったのか、彼はいつになく不安そうだった。
posted at 16:31:12

ムギコのところに帰ろう。ムギコに抱っこしてもらおう。モウタロウはそう考えて、今来た道を後戻りし始めた。だが、旧館の廊下はまるで迷路のように入り組み、彼を奥へ奥へと迷い込ませる。「…モウン」モウタロウは鳴いた。彼はか弱い生き物だ。ネコと遭遇しただけでも、致命的な命のやり取りになる。
posted at 16:38:21

と、見覚えのあるL字路。壁にかけられた印象的なヒョットコ・マスク。このまま進めば帰れるかもしれない。モウタロウが勇気を振り絞ってL字路の角に向かおうとした時……その先からギシッ、ギシッと、床板の軋む音が聞こえてきた。ムギコだろうか? とモウタロウは考えた。
posted at 16:42:07

「……モウン?」その場に立ち止まり、モウタロウは鳴いた。すると、L字路の向こうの見えない場所から「……モウン(嘆く)」という言葉が帰ってきた。ムギコの声ではない! いや、それどころか人間の声ですらない! 直後、バチバチと電灯が明滅し、前方の壁に長く奇怪な影絵が映った! ナムサン!
posted at 16:48:09

モウタロウは後ずさりした! ギシッ、ギシッという音とともに、謎の影が近づいてくる! 前かがみの二足歩行、丸まった背中、両手に備わった刃物のように長い爪、口から生えた蚊のような吸血器官、額の角、背中に垂れ下がる触手めいたもの……チュパカブラだ! 逃げろ! モウタロウ! 逃げろ!
posted at 16:51:37

ガガーン! ガガガーン! ショウジ戸の外で激しい雷が鳴り、青白い光が廊下を照らす!  「モウーン! モウーン!」 哀れ、モウタロウは腰を抜かし、もはや一歩も動けなくなってしまった! 指先の刃物を擦り合わせるカシャカシャカシャという音が、L字路の向こうから聞こえてくる!
posted at 16:55:34

その時、不意にモウタロウの真後ろから声が聞こえた。
posted at 16:57:19

「ドーモ、チュパカブラ=サン……いや、チャベタ所長=サン。ニンジャスレイヤーです。やはりまだ言葉を話すだけの知性は残っているようだな」 ガガーン! ガガガーン! 激しい雷光に照らされたその姿をモウタロウが見上げると、「忍」「殺」と彫られた鋼鉄メンポが冷徹な輝きを放っていた!
posted at 17:07:21

ニンジャスレイヤーはモウタロウを後ろから持ち上げ、タンスの引き出しの中に入れた。そしてジュー・ジツの構えを取り、ゆっくりとL字路へ向かう。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、チュパカブラです」暗闇の奥から声が聞こえた。それを合図に両者は駆け込み、L字路の角でカラテを激突させる!
posted at 17:08:58

「モウン」引き出しから前足と顔だけを出していたモウタロウは、あまりにも激しいニンジャ同士の戦いに恐怖し、すぐに頭を引っ込めてタンスの奥に隠れた。正解だ。直後、無数のスリケンが乱れ飛び、タンスに突き刺さり、上に乗っていたコケシを破壊したのだから。
posted at 17:11:19

「「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」」激しいカラテが火花を散らす! チュパカブラの吸血器官がニンジャスレイヤーの腕を貫通したが、もう片方の手が切れ味鋭いカタナのようなチョップを繰り出し、これを根元から切断した! 「グワーッ!」よろめくチュパカブラ!
posted at 17:17:59

好機を見逃すニンジャスレイヤーではない!「イヤーッ!」両腕がムチのようにしなり2発のスリケンが喉と股間に命中する!「グワーッ!」バイオエキスが飛び散る!さらに頭をつかみ強制オジギの姿勢を取らせたまま顔面を蹴り上げる!スパーン!スパーン!スパーン!「グワーッ!グワーッ!グワーッ!」
posted at 17:20:12

チュパカブラはのけぞって浮き上がりながらも、空中で姿勢を制御しバク宙に切り替え、壁と天井をスーパーボールのように飛び回る。「私は死ぬわけにはいかん!バイオテックの怪物チュパカブラとして、人間どもを恐怖に陥れ続けるのだ!」チュパカブラの鋭い爪がニンジャスレイヤーに迫る!
posted at 17:24:04

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが狙い済ました斜め45度のポムポム・パンチを繰り出し、チュパカブラのダイビング攻撃を撃墜! タツジン! 艦載対空砲のごとき破壊力! しかも、負傷したチュパカブラの口元を狙う無慈悲な一撃だ! 「グワーッ!」チュパカブラの体がのけぞる!
posted at 17:27:37

好機を見逃すニンジャスレイヤーではない!「イヤーッ!」両腕がムチのようにしなり2発のスリケンが眼と口元に命中する!「グワーッ!」バイオエキスが飛び散る!さらに頭をつかみ強制オジギの姿勢を取らせたまま顔面を蹴り上げる!スパーン!スパーン!スパーン!「グワーッ!グワーッ!グワーッ!」
posted at 17:28:09

強制オジギの姿勢を取らせたまま、ニンジャスレイヤーは言い放つ。「オヌシはもはや人間ではない。チャベタ研究所長でも、汚染バイオエキスを浴びて生まれた悲劇の怪物チュパカブラでもない。オヌシはただのニンジャだ。どこまでも利己的な、ニンジャだ! ニンジャ、死すべし! イヤーッ!」
posted at 17:31:11

スパーン!スパーン!スパーン! 強制オジギのまま、チュパカブラの顔面に容赦ないキックが叩き込まれる! 眼に刺さっていたスリケンが蹴り込まれ、スーパーボールのように頭蓋内を切り裂く! 「イイヤアーッ!」ひときわ大きなカラテキック! チュパカブラの頭が飛び爆発四散した!「サヨナラ!」
posted at 17:37:57

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posted at 17:45:24

「モウタローウ! ごめんね、モウタローウ!」ムギコは泣きじゃくっていた。父と母に付き添われながら、旅館中の廊下を探し回る。彼女は自分のずるさが嫌だった。最初にモウタロウがいなくなったのに気付いた時、脳裏をよぎったのは、「お父さんとお母さんになんて説明しよう」だったからだ。
posted at 17:56:42

しかし懐中電灯を持って廊下を歩き回るうちに、モウタロウが感じたであろう不安感に思いを馳せ、自然と涙が出てきた。モウタロウと初めて出会ったクリスマスの夜から今までのことが、いっぺんに頭に蘇って、思い出のひとつひとつが涙になってこぼれてきた。彼女は優しい子なのだ。
posted at 17:58:48

「……モウン」小さな鳴き声が、廊下の先から聞こえた気がした。「聞こえた?!」ムギコが両親に聞く。「いや」「聞こえなかったわよ何も」。ムギコは反論する「聞こえた!」そして懐中電灯を持ってL字の廊下を駆けた。床にこぼれた緑色のネバネバしたものを踏み越え、タンスの引き出しを照らした。
posted at 18:03:48

「モウン?」「いた、モウタロウ! カワイイ! 引き出しに入って出れなくなったのね!」ムギコは泣きながらモウタロウを抱き上げた。緊張の糸がいっぺんに緩み、ムギコはその場にへたり込む。彼女は鼻水を垂らしながら泣きじゃくった。もう少しで、一番近くにいる友達を失ってしまうところだった。
posted at 18:08:08

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posted at 18:10:14

およそ十五分後。バリキドリンク廃工場前の駐車場では、ノボセ老が携帯IRC端末を使い、マグロツェッペリン部隊を至急タマチャン・ジャングルへと向かわせるようネオサイタマ市警に指示していた。武装バンに残っていたクローンヤクザとの死闘で、数名のレンジャーマッポが負傷したからだ。
posted at 18:14:42

全く不可解な事件だ、とノボセ老はひとりごちた。生き残ったのはわずかに、ヨロシサンの重役一人、研究員一人、農民一人、それからジャーナリストらしき女一人。しかも、この女はつい先ほど、着ぐるみとパンチドテープの束だけを残して忽然と姿を消した。まるでニンジャにさらわれたかのように唐突に。
posted at 18:21:21

ざっと見たところ、生き残った者たちの中にも、エントランスにある死体の中にも、今回の連続水牛ミューティレーション事件の犯人と思しき怪物はいない。休暇は返上、ネオサイタマに戻って取調べだ。
posted at 18:24:06

いつものように、ヨロシサン製薬は無関係を決め込むだろう。先ほども、オダワラ部長などという人間は存在しないとの返答があった。だが、もしかすると、このパンチドテープがネオサイタマの闇の秘密を明らかにしてくれるかもしれないと、ノボセ老は直感的に感じ取っていた。
posted at 18:28:00

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posted at 18:28:10

重金属酸性雨が降りしきるタマチャン・ジャングルを、ニンジャスレイヤーは音もなく駆け抜けていた。疲労困憊し、意識を朦朧とさせるナンシーの背中と膝の下を抱えながら。「……実際、あのパンチドテープには、これまでに調べ上げたソウカイヤとオムラとヨロシサンの陰謀がおさめられているのよ……」
posted at 18:38:48

「ノボセ老は確かに信頼できる。腐敗しきったネオサイタマ市警の中でも、数少ない人格者だ」とニンジャスレイヤー。「…だが、私は彼らに何も期待などしていない。私は孤立無援で、敵はニンジャだ。マッポやデッカーが介入できる戦いではない」「…解っているわ。…でも、私にも私の戦い方があるのよ」
posted at 18:43:04

ニンジャスレイヤーは何も言い返さなかった。お互いのポリシーには踏み込まぬ。それが一番なのだ。「チュパカブラは死んだの?」「ああ、爆発四散した」「脳内素子は?」「粉々だろうな」「……そう」しばしの沈黙。「……私も、テクノロジーが産み落とした怪物なのかしら?」不意にナンシーが訊いた。
posted at 18:47:23

「私に訊くな」ニンジャスレイヤーが無表情に返す「少なくともニンジャではない」。「あなたはニンジャを殺し続けるの?」「そうだ」「…きっと、その先には破滅しかないわ」「行き着くところまで行く」 自分もそうだ、とナンシーは思った。そして人類もそうなのだ、と彼女のニューロンは悟っていた。
posted at 18:58:15

ニンジャスレイヤーはバイオパインを滑らかに駆け上がり、林冠の海を渡る。汚染大気の切れ間から覗く病んだ月が、ナンシーの目に不気味なほど美しく映った。ハイクを詠みたいほどに。 ノスタルジアの疫病はカルトの武器だ。もはや退路無し。私は現在と未来にのみ生きよう。彼女はニューロンに誓った。
posted at 19:14:38

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「バイオテック・イズ・チュパカブラ」終わり
posted at 19:15:30

>機構
posted at 21:01:19

>重点
posted at 21:02:56

>namuamidabtz
posted at 21:03:28

** 確立している機構第一話最後エピソード
posted at 21:06:54

** 接続上から下まで激しく
posted at 21:07:18

地方もてなし:/根/
posted at 21:08:19

** 最適にしていく
posted at 21:09:12

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 21:09:57

NJSLYR> ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション #1

101212

「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」
posted at 18:22:41

コメダ・ストリートを女一人が出歩くのはなかなかにタフだ。ましてそこに住むとなれば、危険のほどは言うまでもなかろう。しかしながらアガタ・マリアはどうにかこうにか、安アパート「エトワール・コメダ」で三年目の賃貸契約の更新を行うに至った。
posted at 18:36:05

ネオサイタマにおいて、企業体に属さず親族との繋がりも無いアガタのような人間がまともな部屋を借りる事は不可能である。彼女の前に立ち塞がるのは「保証人制度」という強固極まりない相互管理システムだ。
posted at 18:49:18

賃貸契約を結ぶためには、誰かしら、堅実な生活基盤を持つ人間が身内にいなければならない。今のアガタには頼るべき家族は無く、サラリマンIDのバーコード刺青も無い。フリーランスのアガタがどれだけカネモチであろうと、選択肢はこのコメダ界隈のような、胡乱な地域におのずと限られてしまうのだ。
posted at 18:59:06

アガタはたすき掛けにしたショッピング・バッグを両手でしっかりと抱え、夜を迎えようとするコメダ・ストリートをうつむき加減に小走りで歩く。
posted at 19:19:28

半開きのゴミ箱からよく太ったネズミが飛び出し、道路の反対側の排水溝に潜り込む。頭を上げると、建物から建物へ渡されたタコ糸にステテコやカッポーが干され、その隣にとまった数羽のバイオカラスがキョロキョロとエサを伺っている。
posted at 19:24:01

アガタはカラスにバッグの中身を感づかれないよう気をつけながら、アパート焼け跡の横を通り過ぎる。その建物は先週に全焼し、放置されている。住人が違法にワライタケを栽培しており、マッポによる手入れの際に証拠隠滅をはかって建物ごと燃やしてしまったのだ。
posted at 19:38:57

逮捕された住人の罪は数十倍になったが、コメダ・ストリートの価値観とはそういうものだ。後先考えないのである。
posted at 19:40:59

アガタは37才であるが、幾重にも防塵カーディガンや防重金属酸性雨コートを重ね着し、貧相な老婆のシルエットを工夫して作っている。そうでもしないと、例えば……今まさに焼け跡の陰からじっとアガタを見つめている性犯罪サイコの餌食になってしまうだろう。
posted at 19:56:36

「安普請と?」とポップ体で書かれたネオン看板の店を通り過ぎると、ようやくエトワール・コメダにたどり着く。入り口付近で獣のようにじゃれあっている子供たちを油断無く睨みつけながら、アガタは素早くアパート内に入る。アコーディオンドアのエレベーターを操作し、八階へ。
posted at 20:00:44

エレベーターの上昇の中で、アガタはほっと胸を撫で下ろす。今日はサバマートのタイムサービスで想像以上の収穫があった。危険を犯してこの時間に遠出した甲斐があったというものだ。コメダ地域には宅配スシもなかなか近づかない。買い置きの食料は生命線である。
posted at 20:09:33

「八階につきました」ディストートした合成音声が告げ、アコーディオンドアが開いた。アガタの部屋は807号室である。「……!」自分の部屋の扉の前に立つ人影に気づき、アガタは緊張した。すでに日は暮れ、壁に設置された小型ボンボリの蛍光ライトが、男の長身を黄緑色に照らしている。
posted at 20:52:29

アガタは離れた位置で少し様子を見ようと考えたが、男がアガタに気づいてしまった。男は無言でアガタを見つめた。ハンチング帽を目深にかぶり、バッファロー革のトレンチコートを着ている。
posted at 21:08:32

「あのう……私に何か」アガタは恐る恐る聞いた。右手をコートのポケットに入れ、護身用スタン・ジュッテを探る。男はしばらく沈黙していた。蛍光ボンボリに蛾がたかり、音を立ててはぜる。
posted at 21:14:30

と、男は素早くオジギし、「ドーモ。807号室の方ですか」その手に持った厚みのある封筒を掲げて見せる。「あなた宛の郵便物が誤配されていましたので。808号室のイチロー・モリタです。先週に入居しました」
posted at 21:23:20

「あら、ドーモ、はじめましてイチロー=サン。アガタ・マリアです」アガタはオジギを返し、封筒を受け取った。「これは失礼しましたわ、私ったら。ありがとうございます」「……いえ、私が留守がちなものですから。今までアイサツできず」お互いに謝罪する。奥ゆかしい!
posted at 21:54:02

【NINJASLAYER】
posted at 20:17:46

「あら、ドーモ、はじめましてイチロー=サン。アガタ・マリアです」アガタはオジギを返し、封筒を受け取った。「これは失礼しましたわ、私ったら。ありがとうございます」「……いえ、私が留守がちなものですから。今までアイサツできず」お互いに謝罪する。奥ゆかしい!
posted at 20:18:40

「では、オタッシャデ!」男は再度素早くオジギしたのち、808号室の軋む金属扉を開けて自室に退散した。アガタはほっと一息ついた。恐ろしいサイコやヨタモノの類では無さそうだ。去り際、廊下に鉄サビのような匂いが一瞬漂ったが、アガタは気に留めなかった。
posted at 20:26:57

807号室のドアを開け、ブーツを雑に脱ぎ捨てて、アガタは狭苦しい住処へ帰還した。台所と茶の間しかない。茶の間が作業場である。台所のカゴに買い物袋の成型ジャガイモを移し替える。これだけあればしばらく芋モチには困らない。アガタは機械的な手つきでリモコンを操作し、テレビの電源を入れた。
posted at 20:34:28

「ラッシング重点!ハントでポン!」「ワー!スゴーイ!」司会者のタイトル・コールに合成音声の合いの手が被さる。アガタはそれを横目で見ながら、鉄瓶を電気コンロにかけ、湯を沸かす。冷蔵庫には締め切りスケジュールをメモした紙が複数貼られている。
posted at 20:41:41

「ほらほら、あんまり持ってると、重くなりすぎてしまいますよ?」「困ります!アー!持てなくなります!」「さあ、あと12秒だ!」……ハハハ、とアガタは乾いた笑いをテレビに投げかける。重ね着していた上着を押し入れのクローゼットに押し込み、沸いた鉄瓶の湯でクズユを作る。
posted at 20:46:43

封筒を開けると、オイランがテンプラをかじるどぎつい表紙の本である。「ネオサイタマ・アンリアル・ビストロガイド」の献本だった。この本のコラムの挿絵をアガタが描いたのだ。「ふうん、ようやく出たんだ」アガタは呟いた。ギャラの支払いまでに半年以上待たされたが、そこそこ楽しかった仕事だ。
posted at 21:06:16

「ハイ!それはきっと、大根工場でしょう!」「きっとはいけません、カワノ=サン。憶測はダメですよ!」「えーと、じゃあ、大根工場!」「アタリ!」「ワー!スゴーイ!」……ハハハ、とアガタは乾いた笑いを口に出し、クズユを飲んだ。
posted at 21:10:53

窓の外、下のストリートで衝突音が轟き、悲鳴が届く。「アイエエエエ!」おおかた、三輪バイクがゴミに足をとられて転倒するなりしたのだろう。コメダではチャメシ・インシデントだ。アガタはテレビをぼんやり眺めたまま、窓から顔を出して確かめることもしない。
posted at 21:20:30

転居したての頃はそれこそ毎日ひどくショックを受けていたものだが、実際慣れるものだ。毎日振るわれる恫喝と暴力、強要に比べれば、治安などたいした悩みではないという事に数週間で思い至ったのである。
posted at 21:25:32

「……アー、イケナイ」アガタはひとり呟いた。テレビのボリュームを上げ、記憶イメージの連想を締め出そうと勤める。つばを吐き散らし怒鳴る口…タンクトップと筋肉質な肩…「オイチョコ・カルタチョコ新発売!」「ネコさん歩いてきます!」増幅されたコマーシャルの音声に集中するのだ、もっと……。
posted at 21:38:06

そのとき玄関ブザーが鳴った。アガタはテレビの音量を下げ、戸口へ向かう。ブザーが鳴り続ける。この時間になんだろう?郵便の再配達?いや、それならついさっき、隣の人から受け取った。ええと、モリタ=サンだったか。別の配達業者?セールス訪問?
posted at 22:02:53

アガタは覗き穴から覗いた。作業帽をかぶった男だ。やはり配達業者?「ハイ、なんでしょうか」ドア越しにアガタは問いかける。「お届けものです」もぐもぐと不明瞭な声音が返る。「何の届け物です?」「さあ、ちょっと大きいですね、あの、早く届けたいんです、ノルマが……」作業帽の男が訴える。
posted at 22:12:17

アガタはため息をつき、ドアノブに手をかけた。疲れていたのが判断を鈍らせたのかもしれない。それとも、何かの避けがたい巡り合わせだったのかもしれない。先程の唐突なフラッシュバックも、なにかの報せだったのかもしれない。……この二分後、アガタは、そんなとりとめのない後悔をする事になる。
posted at 22:18:44

(「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」#1、終わり。#2へ続く
posted at 22:20:19

(親愛なる読者のみなさん: 今夜の更新は二本立てとなっております。ニンジャスレイヤー占い等をしながら更新をお待ちください。インガオホー!)
posted at 22:22:55

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 22:24:36

NJSLYR> ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション #2

101215

「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」#2
posted at 12:34:43

アガタはため息をつき、ドアノブに手をかけた。疲れていたのが判断を鈍らせたのかもしれない。それとも、何かの避けがたい巡り合わせだったのかもしれない。先程の唐突なフラッシュバックも、なにかの報せだったのかもしれない。……この二分後、アガタは、そんなとりとめのない後悔をする事になる。
posted at 12:36:23

「ハイハイ、ドーモ……」アガタはドアを引き開けた。「ドーモ!」途端に、差し込まれる毛むくじゃらの腕!「待たせやがって!!!とっとと開けろよ、マリアァァァ!」「アイエエエエ!」
posted at 12:40:24

室内に押し入るなり、男は空っぽのダンボール箱をアガタに投げつけた。そして作業帽も。酷薄な三白眼と薄い唇が露わになる。ナムアミダブツ!アガタはこの男を知っている!「ダイゴ=サン!?どうしてここが……」
posted at 12:45:47

「テメェ、表札の名前がどうしてゴトーじゃなくてアガタなんだ!?探させやがってどういうつもりだぁ!」「ア、アイエエエ……」ダイゴは後ろ手にドアのカギをかけ、アガタの肩をどやすと、土足でズカズカと入り込む!
posted at 12:59:16

「や、やめてよ!」抵抗するアガタの頬を、ダイゴはいきなり拳で殴りつけた。「ザッケンナコラー!」滑らかなヤクザ・スラングだ。コワイ!「アイエエエエ!」アガタは床にくずおれた。口の中が切れ、血の味が広がる。ダイゴは作業着を乱雑に脱ぎ捨てた。タンクトップと屈強な肩の筋肉が現れる。
posted at 13:04:10

「そういうワケだからな、マリアァァァ!今から俺はここに住むんだから、丁重にもてなせよ?さっさとサケとスシをデリバリーしろ」「アイエエエ……」「ザッケンナコラー!返事は『ハイ』だろうがぁ!」ダイゴは籠の成形ジャガイモをぶちまけ、手近のチャワンを窓ガラスに投げつけ、叩き割った。
posted at 13:08:20

アガタが震えていると、ダイゴは今度は目に涙をため、涙声になる、「お、おれはお前がいなきゃ、ダメなんだよ、どうしてあんな……帰ったら、お前がいなくて、部屋が……畜生、畜生……さびしかった……よかった、見つかって……」毛むくじゃらの腕で目をゴシゴシやりながら、号泣する。
posted at 13:21:27

アガタは恐ろしいダイゴの号泣を見て、胸の奥が苦しくなる。不思議と憐れみの気持ちが湧いてくるのだ。だがそれは危険な条件反射、偽りの共感にすぎない。この偽りの共感が、かつてのアガタを縛り続けたのだ。アガタは自分の感情に抗おうとした。
posted at 13:28:52

--------
posted at 13:30:15

808号室。
posted at 14:21:59

茶の間の調度はチャブ台と写真立て、ノートPC、ジャンク屋から手配したファイアーウォール装置のみである。生活の匂いが微塵も無い、実にサップーケイな室内であった。それはフジキド・ケンジのサツバツとした心情風景の反映でもあろうか。
posted at 14:26:29

自らの手で負傷の応急処置を済ませ、鎮痛剤のアンプルを注射し終えたニンジャスレイヤーことフジキドは、壁に「平常心」とショドーされた半紙を貼り付け、アグラ・メディテーションの姿勢を取っていた。
posted at 14:47:35

肋骨に受けたダメージは、二人目のニンジャのアンブッシュ攻撃だ。ブラックバードと名乗ったそのニンジャは、攻撃を成功させてから、わずか15秒しか生きられなかったのであるが……。
posted at 14:57:13

目当てのものは既にナンシーへ送信してある。いずれ解析の結果が届くだろう。明日か。明後日か。そのときをラオモトの命日とする。今は一切の無駄な動きを廃し、体細胞を一つでも多く回復する事だ。
posted at 15:01:25

フジキドは己の中の邪悪なニンジャソウルの意思力を常に知覚している。かつてはそのニンジャソウルの為すがままであった。ドラゴン・ゲンドーソー=センセイのファイナル・インストラクションを経たフジキドは、徐々に、ニンジャソウルの力を引き出し己のコントロール下に置く術を身につけていった。
posted at 15:11:12

それはしかし不安と不快を伴う成長であった。正体不明の邪悪なニンジャソウルを己の支配下に置くほどに、フジキドは人から離れ、ニンジャスレイヤーという別個の生き物になりつつあるのかもしれない。獣に堕すれば復讐ならず。高潔な精神を保つのだ。フジキドは「平常心」のショドーを凝視する。
posted at 15:17:01

フジキドのニンジャ聴覚は、当然、壁を隔てた807号室で今まさに行われているマッポーの暴力の行使を、余すことなく聞き取っている。しかし、フジキド--ニンジャスレイヤーには、そこへ関わっていく理由など何一つ存在しないのだ。
posted at 15:23:18

情にサスマタを突き刺せば、メイルストロームへ流される。平安時代の武人にして哲学者、ミヤモト・マサシのコトワザが、ニンジャスレイヤーの胸中に去来した。
posted at 15:36:22

------
posted at 16:11:20

アガタが宅配チェーン「奉公・良い」にスシとサケを震え声で注文するのを、ダイゴは三白眼で口を開けて睨みつけていた。「今度から、命令されたらさっさとやれよ、な?」「ハイ……」アガタは呻いた。背中を蹴られ、顔も何度か殴られた。ひどい顔をしているに違いない。
posted at 19:08:48

「なんだよ、文句あンのか?」「イ、イイエ、ありません」アガタは力いっぱい否定した。「じゃあ、今から俺たちが暮らすうえでのルールを作るからな。お前が家から出ずにスムーズに仕事ができるようにな。ここだ、ここに、紙に書いて貼って置こうな、ルールを。早く筆を持ってこい」
posted at 19:13:34

アガタは足をすくませた。震えてしまって力が入らない。「ザッケンナコラー!」ダイゴが即座に激昂した。平手で頬をはたかれ、アガタは倒れこんだ。髪をつかまれる。「筆を持ってこい!筆を!」「アイエエエエ、や、ヤメテ……」ダイゴは笑い出した。
posted at 19:17:47

「早く筆とインク……そうだ、おい、インクでお前の額にイレズミしてやる、そうすりゃ二度と逃げる気も起こらねえだろうな!インクを持ってこい!」「アイエエエエ!」ナムアミダブツ!
posted at 19:20:44

ブザーが鳴った。ダイゴは舌打ちし、アガタの背中を突き飛ばした。「宅配か?早いじゃねえか、エエッ?」ブザーが繰り返し鳴らされる。「どちらさんで!」ダイゴは怒鳴った。
posted at 19:25:54

「ドーモ。スシです、ええ、お届けの」「あー、ハイ、ハイ」ダイゴはドアのカギを外し、半開きに、「イヤーッ!」「アバーッ!」
posted at 19:30:35

勢いよく開いた鉄扉が、ダイゴの鼻面をしたたか打ち据える!室内へゆらりと入り込んだハンチング帽の男は落ち着き払ってアイサツした。「ドーモ、スシを忘れてきてしまいました。あと、サケも忘れてきてしまいました。申し訳ありません」
posted at 19:36:08

「ザッケンナコ」「イヤーッ!」「アバーッ!」ハンチング帽の男の右ストレートがダイゴの顔面に叩き込まれた!ダイゴは後ろへ吹き飛び、床でうずくまるアガタの頭上を飛び越え、窓ガラスに激突した。
posted at 19:39:55

アガタは突然の非現実的な出来事に目を白黒させ、闖入者を見上げた。「 808号室……モリタ……サン……?」「ドーモ。先程はシツレイしました」ハンチング帽の男はオジギしてみせた。
posted at 19:46:40

(「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」#2 終わり。#3へ続く
posted at 19:48:18

NJSLYR> ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション #3

101219

ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション #3
posted at 15:07:03

(これまでのあらすじ:マッポーレベル・ダウンタウン「コメダ・ストリート」の安アパート「エトワール・コメダ」807号室で孤独に暮らすイラストレーター、アガタ・マリアは、彼女を執拗に追ってきたダイゴという男に激しい暴力を受ける。)
posted at 15:12:07

(彼女の窮地に思いがけず現れたのは隣室808号室に最近引っ越してきたイチロー・モリタという男だった。読者の皆さんは知っている。彼こそはフジキド・ケンジ、すなわちニンジャスレイヤー。)
posted at 15:15:24

(偽名を使い住居を転々としながら、彼は宿敵ラオモト・カンを王手する機会をついに捉えつつあったのだ。襲撃決行を数日後に控え、いらぬ騒動を禁物とする彼は、一度は隣室の無法に無視を決め込もうとしたのであるが……)
posted at 15:18:49

「ザッケンナコ」「イヤーッ!」「アバーッ!」ハンチング帽の男の右ストレートがダイゴの顔面に叩き込まれた!ダイゴは後ろへ吹き飛び、床でうずくまるアガタの頭上を飛び越え、窓ガラスに激突した。
posted at 15:22:56

アガタは突然の非現実的な出来事に目を白黒させ、闖入者を見上げた。「 808号室……モリタ……サン……?」「ドーモ。先程はシツレイしました」ハンチング帽の男はオジギしてみせた。
posted at 15:23:10

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posted at 15:28:47

ダイゴの後頭部がぶつかった窓ガラスには蜘蛛の巣状にヒビが入っている。フジキドはこれでも十分に手加減をしていた。ニンジャパンチ力そのままに殴りつければ、ダイゴの首から上は吹き飛んでいたはず。そうとは知らぬダイゴは「テメエ、マリアの男かコラッ!」出血した歯茎を剥き出しにして凄んだ。
posted at 15:29:15

「ドーモ。私はスシの宅配です。スシを忘れましたが」フジキドは再度オジギした。ダイゴは逆上し、手近のイスを掴んで殴りかかった。「ザッケンナコ」「イヤーッ!」「アバーッ!」フジキドの右拳が、ダイゴの顔面に再パンチ!
posted at 16:06:49

ダイゴは再度、後ろへ吹き飛び、今度は窓ガラスを後頭部で突き破ってしまった。「アバーッ!」フジキドは素早く室内へ歩を進め、朦朧としているダイゴのタンクトップを掴んで引き寄せる。「ロウゼキはいけないので、第三者として止めさせていただきたいと考えます」フジキドは顔を近づけた。
posted at 16:12:09

「カーッペッ!」ダイゴは血の混じった痰を至近距離のフジキドに向かって吐き捨てる。アブナイ!しかしニンジャ反射神経を持ってすれば、この程度の挑発を無効化することはベイビー・サブミッション!フジキドは最小限の首の動きでそれをかわす!
posted at 16:15:10

「イヤーッ!」「アバーッ!」フジキドの頭突きがダイゴの鼻面を砕いた!さらに彼はひるんだダイゴの右腕を後ろへねじり、不自然な方向へ力を加え、ナムアミダブツ!「イヤーッ!」「アバーッ!」右肘を骨折!
posted at 16:18:33

「アーッ!アーグワーッ!」ダイゴはおかしな方向を向いた右肘を押さえ、台所をのたうちまわった。アガタは短く悲鳴を上げ、後ずさった。「テメエ、家庭内の問題に口を挟むのかコラッ!」ぜいぜいと息を吐きながらダイゴが叫ぶ。フジキドはダイゴの髪を掴んで立ち上がらせる。そしてアガタを見た。
posted at 16:25:10

「要らぬ事をしてしまいましたか、 アガタ=サン?」アガタは震えながら首を振った。「いいえ……ア……アリガトウゴザイマス」「追い出しますか?」アガタは無言で頷いた。「マリア……覚えておけよ……」ダイゴが呻いた。「イヤーッ!」「アバーッ!」フジキドの再頭突き!
posted at 16:50:56

「実際のところ、私はアガタ=サンの隣人だ。二度とここへ来ないと約束するまで、このまま攻撃を加え続ける。約束しろ」「ザッケンナコ、アバーッ!」再頭突き!「約束しろ」「地獄へ、アバーッ!」再頭突き!「約束しろ」「わ……わかった」ダイゴは力無く同意した。
posted at 16:57:06

フジキドはダイゴを片手で吊り上げ、窓を引き開ける。そしてダイゴの体を窓から突き出した。「アイエエエ!」遥か下の地面!ダイゴは失禁した。「こ、殺さないで」アガタは言った。フジキドは短く頷いた。そしてダイゴに言った。「戻ってくれば、今度はコンクリートをめがけて落とす」彼は手を離した!
posted at 17:01:38

「アイエエエエ!」八階の高さから落下したダイゴの体はシダレヤナギの木にぶつかり、そこから、積み重なった生ゴミの山へ転げ落ちた。満身創痍となった彼が這々の体で路上を逃げて行くのを見下ろし、フジキドは割れた窓を閉めた。「ガラスは弁償します」
posted at 17:04:44

「ほ、本当に助かりました」アガタが立ち上がり、頭を下げた。前髪が乱れ、額にかかっている。口を切り、頬を腫らしているが、美しい女性であった。フジキドは淡々と台所を横切った。「他人のプライバシーには踏み込みません。サヨナラ」「あのう!」アガタが呼び止める。
posted at 18:54:41

「お茶とヤツハシでもいかがですか、モリタ=サン?」「いいえ結構です」フジキドはかぶりを振った。ドアノブに手をかけたフジキドに、「……どうか」アガタは震え声で訴える。「お願いです、30分で構いませんから……情けない話ですが、まだ恐ろしくて……」
posted at 18:59:08

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posted at 19:06:22

【NINJASLAYER】
posted at 15:43:10

「やっと重いモノが動いてポイント三倍点です、さあチャンスですよ!」「もちろんチャレンジです!」「チャレンジを受け付けます、さあ……答えは」「チマキ!」「……アタリ!」「ワー!スゴーイ!」「鬼瓦15枚が三倍点で加算、ヤマドメ=サンなんと逆転優勝だ!」「ワー!スゴーイ!」
posted at 15:48:27

けたたましく騒ぐスタジオの音声は、違法電波を撒き散らすトラックが川向こうのハイウェイを通過する度にゆがむ。アガタの横顔は映像の照り返しを受けて電子的だった。
posted at 15:50:49

フジキドがアガタに乞われ、しばしその心を通わせたのは、一年以上にわたって続くサツバツに倦み疲れ、情けを求めた彼の弱さであったろうか。それとも、ナラクに堕ちようとする彼の魂を救い踏みとどまらせる人間性の灯火だったであろうか。フジキド自身にも、それはわからないだろう。
posted at 16:22:29

アガタはフジキドに、とりとめなく己の身の上を語った。マイコセンターでの日々、転がり込んできたダイゴが当初は情け深い男であったこと、浮世絵を必死で身につけ、最終的にセックス・ビズから足を洗ったこと。その後訪れた暴力の日々。
posted at 16:26:06

アガタの生涯は逃走と背中合わせであった。取り立てヤクザからの逃走、両親の虐待からの逃走、マイコセンターからの逃走、ダイゴからの逃走。逃げ続ける日々の中で彼女に誇りを与え、人間性を保たせたのは、浮世絵だった。
posted at 16:29:26

アガタにサンプル本を手渡されたフジキドは厳かにページをめくり、「素晴らしいです」と言った。それは本心からである。彼女が語った半生の煩悶や希望が筆圧にこめられていたように思ったのだ。アガタは照れたように笑って、何も言わなかった。
posted at 16:45:11

フジキドはアガタの浮世絵を通し、己の心の中に感受性の泉が枯れずにいたことを思いがけず発見したのである。沈黙の中で彼はアガタに秘かに感謝し、合唱した。
posted at 16:52:43

チャブの上の皿には手付かずのヤツハシが置かれたままである。「今後ともオタッシャデー!」テレビ番組のエンドロールが流れ、ドンブリ・ポン・チェーンのCMが始まる。「スゴイ・オイシイ!ケミカル的な風味が極力少ないうえで、食糧としてのリーゾナビリティだ!」高圧的なナレーション。
posted at 16:57:49

その高圧さに、フジキドは筆頭株主であるラオモト・カンの遺伝子を読み取る。ドンブリ・ポンの収益はほとんど全て、ネコソギ・ファンドへ……社主のラオモトの懐へ流れ込む。彼自身の私欲と邪悪な目的の資金となるのだ。だがそれもあと数日で終わりだ。フジキドが……ニンジャスレイヤーが終わらせる。
posted at 17:02:12

「長居し過ぎました。おもてなしありがとうございました」フジキドはオジギして立ち上がった。「お礼を言うのは私です」アガタも奥ゆかしくオジギした。フジキドは素早く台所を横切り、再度オジギして、まだ何か言いたげなアガタの部屋を退出した。フジキドは彼女と目を合わせるのを避けた。
posted at 17:25:47

廊下に出ると、フジキドは数分前に届いた携帯IRC端末のノーティスを素早く確認する。巧妙に偽装されたID「ycnan」、ハマチ粉末の発注文書。これはナンシーからの暗号だ。フジキドは架空の明細表に目を走らせ、そこからロケーションと日時を読み取る。
posted at 17:32:49

これはナンシーが張り巡らせた遠大なオイラン・スパイダー・ウェッブの終着点だ。もはや彼女の電子トラップを見破るタイピング速度の持ち主はソウカイ・シンジケートには存在しないだろう。「ゴアイサツサマ生命」執行役員からのカンファレンスのオファーをラオモトは受諾した。偽装されたオファーを。
posted at 19:16:14

これはラオモトにとって、半年かけて進めてきた買収工作が実った事を示す値千金のオファーだ……こうして偽装されたモノでなかったならば。ナンシーはたった一通の電子ノーティスを送信する為に、この国内第二位の金融機関のシステムをほぼ完全に掌握してしまっていた。現執行役員は実際、彼女なのだ!
posted at 19:21:59

指定の日時は明日、昼13:00。場所はゴアイサツサマ生命本社ビル5階、ケンタウロスの間……
posted at 19:27:35

携帯端末から顔を上げたとき、フジキド……いや、ニンジャスレイヤーは、その瞳にマッポーの炎を宿した殺人者の形相となっていた。
posted at 19:31:09

(「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」#3 おわり。#4へつづく
posted at 19:32:20

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 22:15:00

NJSLYR> ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション #4

101223

「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」#4
posted at 18:46:44

あらすじ:ダイダロス亡きネットワークに張り巡らせたナンシー・リーの壮大な偽装工作は、ついに宿敵ラオモト・カン暗殺の時を手繰り寄せる。浮世絵イラストレーター、アガタと孤独をわかちあったニンジャスレイヤーは、その余韻に浸る間もなく、再び殺戮の中へと身を投じる……
posted at 18:54:16

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posted at 18:56:42

バンダ環状線を滑る様に走行するそのリムジンバスは、トレーラーよりも長い。ルーフパネルは黄金の瓦屋根になっており、交差したカタナのエンブレムがそこかしこにレリーフされているだけでなく、その四隅には、ドラゴン、ゴリラ、タコ、イーグルという平安時代の四聖獣の像が睨みをきかせていた。
posted at 19:05:35

ルビー色の車体は五重のパール塗装で、これには特殊な漆塗りの技法が用いられている。ガラス窓はすべて真っ黒にシールドされており、それはこのリムジンの前後左右の車両も同様だ。
posted at 19:08:12

いかにも。この車両こそは、トコロザワピラーから日夜ネオサイタマを睥睨し、非情な買収工作を繰り返して権力の頂点に立つ存在、ラオモト・カンの送迎車に他ならぬ。
posted at 19:13:50

バズーカ砲の砲撃すら受け付けぬリムジンの中では、邪悪なメンポとニンジャ頭巾を身につけたスーツ姿の男が、タマムシ色の半裸めいたドレスを着た三人のオイランに、かわるがわるウメボシ・マティーニの酌をさせている。
posted at 19:22:31

スーツの男は、いうまでもなく、ラオモト・カンである。彼がマティーニを傾けるたび、メンポは精緻なメカニズムによって展開し、飲食を可能にする。タクミ!
posted at 20:02:47

この日ラオモトはいつにもまして上機嫌であり、雄大であった。「ムハハハハ!ムッハハハハ!」彼はオイランの一人の胸を揉みながら、アルコール度数97パーセントのウメボシ・マティーニを再度オカワリした。対面ではオブシディアン色のニンジャ装束の男が無言で着席している。ダークニンジャだ。
posted at 21:24:17

「俺様の見立てでは、もう1クォーターは必要になろうかという見通しであったわ。金融機関はソクシンブツじみた古老社会だからな。ゆえに、今回の内部クーデターはまさに二階からボタモチ!タイムイズマネー!ムハハハハハ!」「ハイ」ダークニンジャは無感情に同意する。彼はオイランを寄せ付けない。
posted at 21:43:29

「何か気がかりでもあるのか、ダークニンジャ=サン」ラオモトはオイランを突き飛ばし、身を乗り出す。ダークニンジャは無感情に答える。「……風向きが」「ポエット!ムッハハハハ!」ラオモトは笑った。「だがオヌシの詩情は侮れぬものよ、ダークニンジャ=サン」
posted at 21:53:41

ダークニンジャはシールドされた窓ガラスを通して、環状線の上空を飛ぶガラスの群れを睨んだ。
posted at 23:17:06

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posted at 23:17:25

ラオモトのリムジン編隊の数台後ろを行くワカメ輸送機カーゴの上にぴったりと寝そべり、追跡する者があった。ニンジャスレイヤーである。
posted at 00:11:24

後続車両のルートがリムジン隊から外れるたび、ニンジャスレイヤーは最小限の動きで別車両のルーフへ飛び移り、追跡を維持。やがてリムジン隊は料金所に差し掛かるが、まるで当然の様にゲートを無視する。彼等は無礼講なのだ!
posted at 00:20:01

一般車両はそうはゆかぬ。「正しく支払うべき」とミンチョ体で書かれたフラッグが行く手を厳しく塞ぎ、コインスロットが注意深く、運転席の窓ガラスの高さにあわせて迫り出してくるのである。
posted at 00:22:56

ニンジャスレイヤーは取り付いた車両の支払い行為におめおめ付き合ってはおられぬ。ブレイコウしたリムジン隊が遠ざかるのを指をくわえて見送るかわりに、彼は支払いを済ませてゲートを通過した別車両へ、素早く飛び移った。
posted at 00:25:22

一般道を走行しながら、リムジンを囲む四台のオムラ自動車製高級セダン「ハヤテウルフ」のうち二台が隊から離れ、ウインカーもそこそこに、脇道へ消えていく。ゴブギ配達チェーンのアルミ荷台に寝そべりながら、ニンジャスレイヤーはそれを一瞥する。
posted at 00:51:08

ニンジャスレイヤーは訝る。腕の携帯IRC端末から実体キーボードを引き出し、素早くタイプした。
posted at 00:55:12

#GOISAZ:morita : リムジン隊が二台切り離した。何か情報は。/// #GOISAZ:ycnan : わからないがGAMEはリムジン内、変わりなし///
posted at 00:55:29

やがて車はマルノウチ地区へ差し掛かる。前方にはスゴイタカイビルの威容。ニンジャスレイヤーの心はざわつく。……フユコ。トチノキ。仇はもうすぐだ。
posted at 01:02:56

ゴアイサツサマ生命は、平安ゴシックの建築様式を用いたデカダンなスタイルの社屋で知られる。ニンジャスレイヤーは後続車両から飛び降り、リムジン隊が「裏口」と書かれた巨大なノレンの下がる地下駐車場エントランスへ吸い込まれていくのを見届けた。
posted at 01:26:45

ニンジャスレイヤーは背中のフロシキ包みを解くと、中からハンチング帽とトレンチコートを取り出し、一般人に偽装した。そして生命保険の見直しへ訪れたカスタマーめいた足取りで正門へ向かう。「ゴアイサツサマ生命はとても皆さんを大事にする」と書かれた巨大なノレンをくぐり、ロビーを横切る。
posted at 01:35:11

#GOISAZ:morita : 到着し、ロビー。/// #GOISAZ:ycnan : 差し向けます///
posted at 01:41:03

すぐにゴアイサツサマ生命のチョンマゲ社員が迎えに現れた。非合法手段で一時的に執行役員権限を取得しているナンシーの指示だ。チョンマゲ社員は目の前の客の身分を疑るような目線を完全には隠しきれていないが、それでもプロである。丁寧で奥ゆかしい口調でニンジャスレイヤーを促す。「こちらへ」
posted at 01:45:15

「ドーモ」ニンジャスレイヤーは彼と共に廊下を進み、奥のエレベーターへ乗り込んだ。「五階」と書かれたスイッチに社員が触れると、上昇が始まった。エレベーターはガラス張りで、マルノウチの社屋群、天へ突き出すスゴイタカイビル、そして地平に霞むカスミガセキ・ジグラットが遠望できる。
posted at 01:54:43

上昇のGを感じながら、ニンジャスレイヤーは己の殺意を純粋なものへ研ぎ澄ませていった。五階。ラオモトは目と鼻の先にいるのだ。そしてダークニンジャも。彼はケンタウロスの間のすぐ外で、しめやかに控えているだろうか。あるいはラオモトとともに室内か?
posted at 02:15:54

エレベーターが停止した。五階についたのだ。チョンマゲ社員がエレベーターの中に残ったまま、ニンジャスレイヤーに深々とオジギした。「ではオタッシャデー!」ニンジャスレイヤーは軽く会釈すると、ツカツカと廊下を歩み進んだ。
posted at 02:20:15

#GOISAZ:morita : GAMEは既に着席か?///
posted at 02:22:50

数メートルごとに墨絵が飾られた薄暗い廊下を歩きながら、ニンジャスレイヤーはナンシーにノーティスを送る。……返事が返らない。何かあったか?ニンジャスレイヤーが不審に思いかけた時にようやく返って来た。
posted at 02:25:06

#GOISAZ:ycnan : 着席済。D_ninはGAMEの隣。共に室内です///
posted at 02:26:12

ニンジャスレイヤーは「ケンタウロスの間」に辿り着いた。一切の音を通さない観音開きのカーボンナノチューブフスマを前に、彼はコンマ1秒の速度で深呼吸した。この扉を隔てた向こうで、むざむざと呼び出されたラオモト・カンが、現れることのないゴアイサツサマ執行役員を待っているのだ。
posted at 02:30:09

ニンジャスレイヤーはゆっくりとフスマドアを引き開けた。だだっ広いケンタウロスの間……ガラス張りの壁面、大型チャブテーブルの向こうで、着席したひとりの男が逆光を受けている。
posted at 02:33:25

ひとりの男。ひとり。ニンジャスレイヤーは室内に電撃的な速度で視線を巡らせ、クリアリングした。天井。壁面。テーブル下。いない。逆光の中イスに腰掛けている、ただひとりラオモトその人を除いては!ニンジャスレイヤーのニンジャ第六感がニューロンに警鐘を送り込む!ダークニンジャはどこだ?
posted at 02:52:03

イスにかけたラオモト・カン……であるはずの男……が、逆光の中、ニンジャスレイヤーに向き直った。そして笑った。
posted at 03:10:01

「ムハハハハ、ムハハハハ、ムハハハハ、ムハハハハ、ムハハハハ、ムハ、ハ、ハ、」……その稚拙な電子音声にすべての悪しき想定が被さり、ニンジャスレイヤーは窓ガラスへ向けて全力疾走した!「イヤーッ!」
posted at 03:12:20

直後、ニンジャスレイヤーの視界は一瞬にしてホワイトアウトした。轟音と閃光。衝撃。すべてのガラスが粉々にはじけ飛び、粉塵がものすごい勢いで溢れ出した。
posted at 03:16:47

----
posted at 03:16:59

ゴアイサツサマ生命社屋の道路を挟んだ向かいのビル、サツタ石油社屋の屋上で、その致命的爆発を見下ろす四つの影があった。
posted at 03:19:27

「ド派手に始まったじゃねえか……」「お前らには悪いが、俺がブルズアイしてやるぜ。競争だ」「失敗は連帯責任だ、チームワークですよ、わかりますかあなた」「シュッ!シュシュッ!」四つの影は言葉をかわしながら、競いあうように次々とビル屋上から下へめがけてダイブした。
posted at 03:22:36

(「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」#4 おわり。 #5へ続く
posted at 03:24:01

(親愛なる読者のみなさん:「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」において、一箇所、『合掌』を『合唱』と誤記した箇所が発見されました。当然ながらフジキドは歌いません。投稿unixシステムの誤字セキュリティホールに遺憾の意を示すとともに、皆さんにお詫び申し上げます)
posted at 12:19:41

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 12:25:26

NJSLYR> ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション #5

101224

ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション #5
posted at 12:26:16

(あらすじ:ゴアイサツサマ生命の 執行役員を騙ってラオモトを呼び出し、奇襲をしかけ暗殺する。これがナンシーとニンジャスレイヤーが練り上げた作戦であった。ラオモトのリムジンが到着した事を目視確認したニンジャスレイヤーは、自らも社屋に潜入。)
posted at 12:28:15

(ナンシーの工作の助けにより、たやすく目的の会合場所「ケンタウロスの間」に辿り着いたニンジャスレイヤーであったが、そこにラオモトはおらず、かわりにハリボテめいた電子ロイドが虚ろに笑うばかりであった。どこで計画が漏れたのか!?)
posted at 12:32:44

(疑う時間すら与えられず、ニンジャスレイヤーは爆発にエンガルフされた!さらに、この爆発にあわせ、向かいのビル屋上から不穏な四人の人影が降下を開始!ニンジャスレイヤーの命運やいかに?クリスマス下の読者諸氏よ、チキン・アンド・ケーキ気分にはまだ早い!刮目せよ!ワッショイ!)
posted at 12:37:11

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posted at 12:49:34

「……グワーッ!」ニンジャスレイヤーは煙に包まれながらキリモミ旋回して落下、地表のコンクリートへ叩きつけられた!道路を走行していたクロガネ家紋タクシーが急ブレーキを踏むと、後続車両がタクシーに追突、その後続車両がさらに追突した!
posted at 12:53:07

さらに、事故をよけようとしてハンドルを切った対向の灯油トレーラーが横転、爆発炎上!「アイエエエ!」運転者が黒焦げになり、 空中へ跳ね飛ばされる!片側三車線の社屋前道路は一瞬にしてマッポー火炎地獄と化した、ナムアミダブツ!
posted at 13:03:21

ニンジャスレイヤーはよろけながら立ち上がった。なんたることか!頭上ではゴアイサツサマ生命社屋の五階が完全に崩壊し黒煙を吹き上げ、一方、この地上では、走りくる車両が次々とレミングの集団自殺めいた衝突事故を起こして爆発炎上を繰り返している。
posted at 13:08:51

「ニ、ニンジャ、ニンジャ、ニンジャアババババーッ!」タクシーからまろび出て来た黒焦げの運転手が転倒し、絶命した。ニンジャスレイヤーは自分が受けたダメージをニンジャ自律神経によってトレースした。内臓、関節、骨ともに損傷は無い。一体何が起きた?なぜ罠が張られていたのか?
posted at 13:11:54

だが彼が現状を分析する時間は十分には与えられなかった。陽炎の中から二人の人影が進み出て、オジギしたからだ。どちらもニンジャ装束であった。
posted at 13:14:27

「ドーモ、はじめましてニンジャスレイヤー=サン。ワイアードです」8フィート超の巨体ニンジャがアイサツした。装束には大きく「磁」とミンチョされている。「ドーモ、はじめましてニンジャスレイヤー=サン。テンカウントです」痩身のニンジャがアイサツした。両拳が鋲打ちボクサーグローブである。
posted at 13:40:18

ニンジャスレイヤーがオジギを返そうとした時、さらに一人のニンジャが背後に現れた。格子模様のニンジャ装束で、背中に巨大な機械を背負っている……ドラム式の大口径ガトリング・ガンだ。「ドーモ、はじめましてニンジャスレイヤー=サン。ビーハイヴです」
posted at 14:17:33

ビーハイヴは腰を90度に折って最オジギをする。いきおい、背中のガトリング・ガンの銃口がニンジャスレイヤーを向く。その時!「イヤーッ!」「グワーッ!?」な、なんたる卑劣非道か!その姿勢からビーハイヴはガトリング・ガンを発砲したのである!もはや言葉も出ぬほどのスゴイ・シツレイだ!
posted at 14:53:12

「イヤーッ!」そのまま全弾を撃ち尽くす勢いで、ビーハイヴのガトリング砲撃がニンジャスレイヤーに叩き込まれる!よもやアイサツ姿勢からの攻撃が行われるとは予測だにしなかったニンジャスレイヤーはまともにアンブッシュを受けた!「グワーッ!」
posted at 14:56:26

「これが俺の必勝のカラテだ!思い知ったかニンジャスレイヤー=サン!」ビーハイヴがオジギ姿勢のままで勝利の雄叫びを上げる。ワイアードとテンカウントは射線上からステップアウトし、この恥知らずな戦術に味方ながら戦慄した。
posted at 14:59:53

不意をうたれたニンジャスレイヤーはしかし、なかば無意識的な回避動作によってガトリング・ガンのダメージを最小限に留めていた。それは先の爆発トラップにおいても同様である。長く激しい闘いの経験が非凡なニンジャ防御力に結実しているのだ。……と、さらに頭上から一人!「イヤーッ!」
posted at 15:30:33

「Wassyoi!」ニンジャスレイヤーはバク転で天空からのアンブッシュを回避した。それはまさにギリギリのタイミングであり、一呼吸遅ければ、彼の脳天はヤリが貫通してキリタンポめいた惨殺死体になっていたはずだ。アブナイ!
posted at 15:34:22

天から降って来たのは、特殊なスプリングを装着したゲタを履き、空力を重視した鋭角的な頭巾をかぶったニンジャである。危険なヤリを抱え込むようにしながら、ニンジャスレイヤーへオジギする。「ドーモ、はじめましてニンジャスレイヤー=サン。アルバトロスです。イヤーッ!」
posted at 15:38:05

ニンジャスレイヤーのアイサツを待たず、アルバトロスは信じがたいジャンプ力で再び天空へ跳び上がった。一方的なアイサツはかなりシツレイだ!
posted at 15:40:06

「まだまだ行くぜーっ!」ビーハイヴはガトリング・ガンのリロードを終え、再びニンジャスレイヤーを砲撃開始!「イヤーッ!」側転を繰り返しながらニンジャスレイヤーは弾丸の嵐を回避する。背後の立ち往生した自動車の一台がガソリンタンクに砲撃を受け、爆発炎上した。
posted at 15:45:50

「シュッ!シューシュシュ!」不可思議なボクシングめいた呼吸法を行いながら、斜め後方から接近したテンカウントがキドニーブロウを繰り出す。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは後方への回転チョップで拳を受け止め、素早くジャンプしてタクシーのルーフへ飛び乗った。
posted at 15:50:44

それまでニンジャスレイヤーがいた場所へ、アルバトロスがヤリと共に落下してきた。アブナイ!「惜しい!イヤーッ!」アルバトロスは再び天空へ跳び上がった。ニンジャスレイヤーはタクシーのルーフから隣の車へジャンプしつつ、スリケンでビーハイヴに反撃する。「イヤーッ!」
posted at 15:53:48

「イヤーッ!」それまで動かずにいたワイアードが初めて戦闘に加わった。リロード中のビーハイヴを庇うように割り込んだワイアードの胸に、ニンジャスレイヤーのスリケンが吸い込まれる。無傷である!「オレのマグネ=ジツに金属は無意味だ!」
posted at 15:56:39

ニンジャスレイヤーは無数のスリケンを散らすように多方向へ投げながら、車から車へジャンプを繰り返し、ビルとビルの隙間の路地へ飛び込んだ。「ウカツ!追いなさい!」再び落下してきたアルバトロスが叫ぶ。
posted at 16:04:28

「逃がさいでかーッ!」ビーハイヴはオジギ姿勢のまま道路を横切ってスプリントした。なんたる速度!ワイアードとテンカウントがすぐその後を追う。アルバトロスは再び天空へ跳び上がった。
posted at 16:06:40

----
posted at 16:34:36

「待てイ!待てイ、ニンジャスレイヤー=サン!」高揚し叫び声をあげながら、ビーハイヴは危険なオジギ姿勢のままで薄暗い路地裏を突き進んだ。ここはマルノウチのサラリマン向けレストラン区域であり、路地裏には汚いポリバケツやトーフ屑、ユバ等が散乱している。
posted at 16:58:01

ガトリング・ガンを背負ったビーハイヴが機関車めいた勢いで駆け抜けると、ラーメン・レーションの廃棄物をかじるバイオハツカネズミが小さく鳴きながら建物の隙間へてんでに逃げ込んだ。
posted at 17:02:41

「どこだーッ!」ビーハイヴは叫んだ。オフィス街とはうってかわった薄暗さ・薄汚さは、見える場所だけ綺麗にすれば良いというマッポー的価値観の産物のようでもあった。表ではサラリマンたちがスシやトーフ、スブタなどに舌鼓を打っているのであろう。ビーハイヴの胸中になぜか憎しみが湧き上がる。
posted at 17:11:14

「臆病者ーッ!蜂の巣にしてくれるぞーッ!」ビーハイヴは逆上して叫んだ。自慢のオジギ・ガトリングがシンジケートの査定機構に「礼儀を知らぬ」と断じられてしまったが為に、ビーハイヴはソウカイ・シックスゲイツのアンダーニンジャに甘んじている。彼はその評価を不当と感じていた。
posted at 17:55:03

体面や礼儀ばかり重んじる偽善者どもめ。ビーハイヴは毎夜乱暴にマイコを抱きながら、己の不遇を嘆き、憎しんだ。ニンジャスレイヤーを殺し、有無を言わせず成り上がってやる!……このマルノウチの路地裏と表通りの対比は彼の憎むタテマエ社会を連想させ、彼のトラウマ的な怒りを喚起するのだった。
posted at 18:01:29

「どこだーッ!」ビーハイヴが叫び、ガトリング・ガンを建物の背中に向けて無益に撃ち散らす。バイオコウモリがポリバケツから複数飛び立った。ブキミ!「どこだーッ、ニンジャス……」「イヤーッ!」「グワーッ!?」背後に打撃を受け、ビーハイヴはよろめいた。巨大な武器のせいで背後が死角なのだ!
posted at 19:00:56

「う、うしろキサマ……」「イヤーッ!」「グワーッ!」さらに背中に打撃を受ける!慌てて振り返るも、敵の姿は既に無い。ビーハイヴはうろたえた。気に食わぬ相手を自慢のオジギ・ガトリングの初見殺しで葬ってきた彼は、いざ戦端が開かれると経験不足を露呈させてしまったのである。
posted at 19:12:09

「どこにいるーッ!」パニックに陥ったビーハイヴは、オジギ姿勢で背中のガトリングを無駄撃ちしながら回転した。弾丸はエアパイプに着弾し、そこから水蒸気が勢いよく噴き出す。ニンジャスレイヤーは見当たらぬ!「クソーッ!卑怯だぞ!姿を見せいーッ!」
posted at 19:15:51

「卑怯てか!語るに落ちたな、ビーハイヴ=サン!」路地裏に笑い声が反響する!「インガオホー!礼儀を知らぬニンジャなど、所詮はサンシタ。オヌシの乱れたカラテがそれを証明しているのだ!」「どこだーッ!」ビーハイヴがガトリングを乱射する!ニンジャスレイヤーの姿は現れぬ!
posted at 19:20:30

やがてガトリング・ガンの弾薬が切れる。ヒュンヒュンとむなしい音を立ててガトリング・ドラムは回転するばかりだった。「リ、リロードだ……」「イヤーッ!」うろたえたビーハイヴの前に、バク転しながらニンジャスレイヤーがエントリーした。「ドーモ、ビーハイヴ=サン。ニンジャスレイヤーです」
posted at 19:31:56

ニンジャスレイヤーはアイサツした。弾薬カートリッジの交換に手間取るビーハイヴを弄ぶかの様な、ゆっくりとしたオジギであった。「お、おのれ!くらえーッ!」リロードが成った。ビーハイヴはガトリングを意気揚々とニンジャスレイヤーへ、「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 19:45:56

ガトリング乱射のためにオジギ姿勢を取る事は、敵のもっとも蹴りやすい位置へ自分の頭を持っていく行為に他ならない。ニンジャスレイヤーは待ち構えたかのようなサマーソルト・キックをビーハイヴのオジギに合わせて繰り出したのだ!したたか蹴り上げられたビーハイヴは顎先を複雑骨折しつつ転倒した!
posted at 19:52:31

「グ、グワーッ!」ビーハイヴは血を吐き、手足をバタつかせてもがいた。「う、動けない!?」いかにも!仰向けに倒れたビーハイヴは、背中のガトリング・ガンが重過ぎるが故に、ひっくり返されたウミガメめいて独力では起き上がる事ができないのである!「グワーッ!グワーッ!」
posted at 21:09:19

「さあ、まずは一人だ」ニンジャスレイヤーは冷酷に、もがくビーハイヴの周りを歩き回る。「た……助けてくれーッ!テンカウント=サン!ワイアード=サン!」助けは来ない!インガオホー!功を焦るがあまり、独力先行したビーハイヴは他の暗殺ニンジャを大きく引き離してしまったのだ。
posted at 21:13:03

「オヌシにさほど恨みは無いが、ソウカイヤのニンジャである以上、殺す以外の選択肢など無い」ニンジャスレイヤーは言い放った。「礼儀を軽んじたオヌシの愚が、このような恥の中での死を招いたのだ。後悔しながら地獄へ落ちるがいい」「ア、アイエエエ……」
posted at 21:18:56

ニンジャスレイヤーはおもむろに右足を振り上げ、仰向けのビーハイヴを強烈に踏み付けた!「イヤーッ!」「グワーッ!」一度ではない。繰り返される激しいストンピングは、あまりにも容赦なくビーハイヴの肉体を貫き、破壊してゆく。
posted at 21:21:52

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「グワーッ!グワーッ!グワーッグワーッグ、グワーッ!グワーッ!グワーッワーッ!グワーッ!グワーッ!グワーッ!グワーッ!グワーッ!グワ、グワーッ!」
posted at 21:24:48

「グワーッ……。……」やがて、ガトリング・ガンの残骸まじりのもの言わぬ死となったビーハイヴを見下ろしたニンジャスレイヤーは、接近しつつある複数の足音をニンジャ聴力で聞き取った。
posted at 21:28:07

彼の目は苦悩に細まる。なぜ暗殺計画はラオモトにツツヌケであったのか。追跡中に別れた二台の車両。次第に不自然となっていったナンシーからのIRCメッセージは何を意味するのか。彼女が裏切ったか?
posted at 21:30:31

馬鹿な!己を恥じよフジキド!彼女は高潔で決断的な戦士である。互いに幾度も死線をくぐり抜けてきた彼女が裏切るなど、万に一つも無い。……となれば……「無事でいてくれ、ナンシー=サン」ニンジャスレイヤーはうつむき、喉から絞り出すように呟いた。
posted at 21:33:51

追跡の足跡はいよいよ近い。ニンジャスレイヤーは闇の中に溶け込み、彼らの襲撃を待ち構える。真のニンジャの戦さを……見せる時だ。
posted at 21:35:54

(「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」#5 おわり。#6へ続く
posted at 21:37:20

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 18:33:40

NJSLYR> ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション #6

101227

「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」#6
posted at 18:34:43

(前回あらすじ: ラオモト・カン暗殺は失敗に終わり、フジキドは爆発トラップに巻き込まれる。そこへすかさず襲いかかったのは4人のニンジャ。ビーハイヴ、アルバトロス、ワイアード、テンカウントだ。)
posted at 18:43:37

(ビーハイヴはオジギ・アイサツの姿勢からガトリング砲で攻撃するという卑怯極まりない外道ニンジャであったが、ニンジャスレイヤーは路地裏へ彼一人を誘い出し、容赦なく殺害した。残る襲撃ニンジャは3人。水面下で一体何が動いているのか。ナンシーは今どこに!?)
posted at 18:46:12

----
posted at 18:46:34

「見ろ、ワイアード=サン!」先行したテンカウントが叫んだ。ワイアードもスプリントしてその場へ駆けつける。裏路地の汚い路上にズタズタに引き裂かれて横たわるのはビーハイヴの死骸であった。「ナムアミダブツ!」「分断工作か、コシャク……!」
posted at 18:48:27

「どこだニンジャスレイヤー=サン!シューッシュッシュシュ!」テンカウントは毒づき、その場でシャドー・ボクシングを始めた。彼なりのコンセートレーション・コントロール方法だ。ワイアードはそれを横目に見つつ、アルバトロスへ携帯IRC端末でメッセージを送る。
posted at 18:51:00

#ASSASSINATION:wired : beehive_sanが死亡/// #ASSASSINATION:albatros : ナムアミダブツ/// #ASSASSINATION:wired : 敵を見失った。解析求む///
posted at 18:56:06

アルバトロスは現在、ビルの屋上で索敵行為を担当している。彼のニンジャソウルが与えた力は超人的なジャンプ力である。上空からのヤリ・アンブッシュが彼の必殺の攻撃であるが、ニンジャスレイヤーが路地裏に入ってしまった時点で、その旨みは失われてしまっていた。
posted at 19:01:32

ワイアードは歯噛みする。4人がかりで襲撃すればニンジャスレイヤーといえどたやすくネギトロめいた死体に変わる公算であった。しかし現実は違った。敵はあまりにも鮮やかに包囲を突破し、まるでワイアードたちを逆に待ち構えているかのようだ。……落ち着け……追っているのは我々だ!
posted at 19:05:47

#ASSASSINATION:albatros : その一帯から離れた形跡無し/// #ASSASSINATION:wired : では見つけ出して交戦する///
posted at 22:09:27

「シューシュシュ!シュッ!」「オイ!テンカウント=サン!」ワイアードはテンカウントのシャドーボクシングを静止する。「なんだ!邪魔をするな!シュッシューシュシュ!」「言いたくないが、それが俺の邪魔になるのだテンカウント=サン」ワイアードは地面に片膝をついた。
posted at 22:12:18

「チッ、いったい何だワイアード=サン」両拳を打ち合わせながらテンカウントがワイアードのもとへ戻ってくる。ワイアードは地面の染みを指さした。「血痕だ。ニンジャスレイヤーのものだ。ニンジャソウルが残留している。やつめ、ビーハイヴ=サンのガトリングを受けて無傷では済まなかったのだ」
posted at 22:15:03

「ほほう」テンカウントはその場で小刻みにフットワークを踏む。ワイアードは気が散ったが、実際テンカウントが操るボックス・カラテの腕前はワイアード自身も個人的に一目置いている。ワイアードは続けた。「アルバトロス=サンの話では奴はまだこの区画にいるとの事だ……見ろ!血痕が続いているぞ」
posted at 22:22:23

点々と残る血の染みは、ポリバケツや廃看板、廃パイプの山をぬって、とあるスシバーの裏口、地下機関室への階段へと続いていた。二人のニンジャは頷きあい、注意深く地下への入り口へと足を進める。
posted at 22:25:45

スシ・バーやドンブリ・スタンドで必ず採用されている回転コンベアーシステムを駆動するのは、区画ごとに設けられた地下機関室である。複数の店舗が動力源を共有する画期的なシステムが実現されたことにより、複雑な食のオートメーションはあっというまに普及したのだ。
posted at 22:32:46

実際、この国のレストラン街の地下十数メートルでは、そうした機関システムが地下迷宮めいて広大に入り組み、クランクシャフトや油圧シリンダーを激しく稼働させているのである。
posted at 22:43:13

「奴め、フクロのネズミだな」テンカウントがハイクめいた暗喩で呟く。「油断するな」ワイアードがたしなめる「この地下機関室は複数のスシ・バーに通じている可能性が十分ある。別の出口から逃げられたら面倒だ。見つけ次第ケリをつけるのだ」
posted at 22:47:26

ワイアードは素早く、しかし慎重に、暗視モードでクリアリングを行っていく。禍々しく巨大なプレス装置が地下空間の中心付近に鎮座している。ブリやハマチ、トロの粉末をスシ・ネタに成型する機械である。
posted at 22:52:53

このマルノウチのレストラン街では工場からスシの成型物を入荷せず、この場でわざわざブリやハマチの粉末を成型しているのだろう。そうやって鮮度を保つというわけだ。カチグミ・サラリマンの肥えた舌に対応するための涙ぐましい努力だ。
posted at 22:53:23

「いるぜ……感じるぜ……」テンカウントが一歩進み出た。小刻みにフットワークしながら、「シューシュシュ!」闇の中にシャドーを繰り出す。ワイアードは壁の電源レバーを引き下ろした。ヒューンと計器類が唸り、電気ボンボリが点灯する。電気灯りの下に直立しているのは……ニンジャスレイヤーだ!
posted at 23:39:20

「ドーモ、テンカウント=サン。ワイアード=サン。ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーはあらためてアイサツした。メンポに施された恐ろしい「忍」「殺」のレリーフが恐怖を煽る。「ドーモ。テンカウントです」「ドーモ。ワイアードです」
posted at 01:41:03

「イヤーッ!」ワイアードが素早くスリケンを投げた。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは流麗にブリッジしてそれをかわす!「イヤーッ!」そこへステップインしてゆくのはテンカウント。ローブローがニンジャスレイヤーを狙う!「シューシュシュ!」「イヤーッ!」ブリッジからのバク転でかわす!
posted at 01:45:21

「シュシュ!シューシュシュ!」テンカウントは素早いステップワークで瞬時にニンジャスレイヤーへの距離を詰めた。速い!バク転で稼いだ間合いはあっという間に縮まった。「シューシュシュ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはテンカウントのコンビネーション・ブローをチョップで受け流す。
posted at 01:48:45

「俺を忘れるなニンジャスレイヤー=サン。イヤーッ!」テンカウントのコンビネーションを受け流すニンジャスレイヤーへワイアードがスリケンを投げた!「イヤーッ!」隙をついたニンジャスレイヤーの当て身がテンカウントを吹き飛ばす。そのまま彼はスリケンを指で挟み取り投げ返した。「イヤーッ!」
posted at 01:52:38

「イヤーッ!」ワイアードが叫び返す。見よ!ニンジャ装束の「磁」の文字が黄色く脈動すると、ニンジャスレイヤーの投げ返したスリケンはワイアードの胸板へ吸い込まれて固着したではないか!「俺にスリケンは効かんのだ、これがマグネ=ジツよ!」
posted at 01:56:18

「シュシュッ!シューシュシュ!」テンカウントのコンビネーション・ブローが襲いかかる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは地面すれすれまで身体を沈めてパンチを避けると、斜めに仰向いた姿勢から蹴りを繰り出し、テンカウントの太腿を蹴った。「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 02:00:57

タツジン!テンカウントのボックス・カラテがボクシング由来のジュー・ジツである事を見破り、ボクシングにとっての死角すなわち腰下から攻撃したのである。攻防一体!ニンジャスレイヤーは両手を地面について寝ながら前進、さらに蹴った。「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 02:03:10

テンカウントは寝ながら近づいてくるニンジャスレイヤーに攻めあぐねる。そこへさらに蹴りを一撃!「イヤーッ!」「グワーッ!」大腿筋に深刻なダメージを受け、テンカウントがよろめく。しかし再びワイアードがスリケンを立て続けに投擲、ニンジャスレイヤーの追撃を封じ込める!
posted at 02:06:54

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはブレイクダンスめいた逆さ回し蹴りを繰り出した。テンカウントは足首を払われ回転しながら転倒、飛来したスリケンも同時に跳ね返された。立ち上がったニンジャスレイヤーは再度、スリケンを投げ返した。「イヤーッ!」
posted at 02:09:51

「そしてこれがマグネ・アーマーだ!イヤーッ!」ワイアードはバンザイの姿勢で突進した!「磁」の文字が黄色く脈打ち、やはりスリケンは彼の胸板に張り付いてしまう。ワイアードはバンザイしたまま、ニンジャスレイヤーへ体重の乗った体当たりを食らわせた!「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 02:14:06

ニンジャスレイヤーは吹き飛び、作業棚に激突した。陳列されていたハマチ粉末のパックとダルマが転がり落ちる!「そしてこれがマグネ・ツキだ!イヤーッ!」ワイアードが右手を振り上げ追撃にかかる!ニンジャスレイヤーは軽い脳震盪にかかり、もうろうと首を振った。ナムサン!
posted at 03:11:10

【NINJASLAYER】
posted at 03:12:38

(親愛なる読者のみなさんへ:先ほどなんらかの誤字が発生しましたが、読者の皆さんのノーティスと、スゴイ級ハッカーのすみやかな処置により自動的に修復されたとの報告が入りました)
posted at 03:16:27

(親愛なる読者の皆さんへ:公式ファンサイトのエピソードリンクミスが一箇所ありましたが、このたびFIXされました。安心してお楽しみください。教えていただいた方にチーム一同たいへん感謝いたしております。ワッショイ!)
posted at 21:36:35

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 22:28:12

NJSLYR> ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション #7

101229

「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」#6 つづき
posted at 14:02:47

ニンジャスレイヤーは吹き飛び、作業棚に激突した。陳列されていたハマチ粉末のパックとダルマが転がり落ちる!「そしてこれがマグネ・ツキだ!イヤーッ!」ワイアードが右手を振り上げ追撃にかかる!ニンジャスレイヤーは軽い脳震盪にかかり、もうろうと首を振った。ナムサン!
posted at 14:03:33

マグネ・ツキが振り下ろされる!ニンジャスレイヤーは横転して辛くもそれを回避した。マグネ・ツキは背後のコンベアーベルト制御装置に突き刺さり、火花を散らした。引き抜いたワイアードの右腕には鉄板やネジ類が貼りついている。磁力をまとったパンチなのだ!
posted at 14:08:26

ガコン、と音が鳴り、コンベアーベルトが動き出す。なんらかのエラーで計器類が起動したようだ。地下機関室内を巡回するコンベアーベルトは、サカナ粉末に魚貝由来調味料スープを加えてペースト状にしたスシ原型を成形してネタ状にする工程のためのものである。
posted at 14:14:00

「マグネ・パンチ!イヤーッ!」ワイアードが再度右腕でパンチした。拳にはボルト類やひしゃげた鉄板が付着し危険!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは腕の内側を手のひらで弾き、拳を反らす。8フィート超の身体が繰り出すパンチにニンジャスレイヤーはよろめき、後退してベルトコンベアーに乗った。
posted at 15:06:12

「マグネ……クソッ、やれ、テンカウント=サン」ワイアードは追撃を諦めた。ニンジャスレイヤーはコンベアーベルト上で体勢を立て直す。コンベアーの行く先ではプレス装置が蒸気を吐き出しながら上下に開閉を繰り返す。そのさまはまるでバイオ・アリゲイターの顎だ!
posted at 15:10:25

「ヨロコンデー!」太腿にズバリを注射し身軽さを取り戻したテンカウントが再エントリーした。回転しながら彼もまたコンベアーベルトに飛び乗る。「シューシュシュ!」身軽なステップワークから繰り出す素早いパンチが、徐々にニンジャスレイヤーをプレス装置へ追い詰め始めた!
posted at 15:15:03

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがチョップを繰り出すが、「シューシュシュ!」ボックス・カラテの科学的に洗練されたフットワークは容易くそれをかわす。お返しのジャブが二発、撫でるようにニンジャスレイヤーのメンポを打つ。プレス装置が近づく!
posted at 15:31:45

「シュッ!シュシュ、シューシュシュ!」ニンジャスレイヤーはガードにかかりきりだ。「いいぞテンカウント=サン!」ワイアードは高揚した。おれの援護射撃で、勝利を確実なモノとする!彼は右腕をニンジャスレイヤーに向けて突き出した。「これがマグネ=スリケンだぞ!イヤーッ!」
posted at 16:49:14

ワイアードの右腕に貼りついていたボルト類が弾き飛ばされ、ニンジャスレイヤーを襲う!「グワーッ!」テンカウントにかかりきりのニンジャスレイヤーはガード不能!これぞ、特殊オーダーメイド・マグネット装束の磁力コントロールを利用したマグネ・スリケンなのだ!
posted at 16:52:07

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはテンカウントの打撃を受け流しながら、苦し紛れにスリケンをワイアードへ投げ返す。ワイアードは笑った。「説明してやったのに愚かな奴!俺にスリケンは効かんのだ!」たちまち「磁」の文字が輝き、スリケンはむなしくワイアードの胸板に貼りついた。
posted at 17:21:37

コンベアーベルトは無情にニンジャスレイヤーをプレス機へ刻一刻と追い込んでゆく。ワイアードは勝ち誇って叫ぶ、「スシバーの本日の特別メニューはお前のボディだな、ニンジャスレイヤー=サン!……?」その時だ!「グワーッ!?」おもむろにワイアードは強い力で前に引っ張られ、転倒した!
posted at 17:26:42

「な、何が起きた!?」ワイアードはもがいた。そして、ついさっき己の胸板に強固に付着した飛び道具がスリケンでは無い事に気づいたのだ!それはニンジャロープの鉤爪状の先端部だった。しかもドウグ社製である!
posted at 17:32:18

鉤爪からはザイルが伸び、それをニンジャスレイヤーは片手で手繰り寄せようとしている……テンカウントのパンチをもう片手でガードしながら!「な……なんだとーッ!?」ワイアードは抵抗する……引きずられる!
posted at 17:35:17

「何をしているワイアード=サン!」テンカウントが驚いて叫んだ。ワイアードは呻いた。マグネ反発が可能なのはニンジャ小手の箇所のみだ。胸部のマグネ装置は構造上、吸い寄せる事しかできない仕組みである。マグネ装置自体のスイッチを切らねば!だがスイッチの場所は構造上、背中にある!
posted at 17:42:16

「せ、背中……マズイ……」「イヤーッ!」呆気に取られた一瞬の隙を突いて、ニンジャスレイヤーの裏拳がテンカウントの鼻面を砕いた!「グワーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは両手でニンジャロープを振りかぶる。ワイアードの巨体が宙を飛んだ!「グワーッ!?」
posted at 17:46:39

ワイアードはコンベアーベルト上に叩きつけられた。「グワーッ!」「ワ、ワイアード=サン!?」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンをテンカウントに投げた。テンカウントはスリケンを回避し、やむなくコンベアーベルトから飛び降りる。
posted at 17:50:12

ニンジャスレイヤーの後方40センチまでプレス機の顎が迫る!「Wassyoi!」ニンジャスレイヤーはギリギリのところで前転ジャンプし、プレス機を回避!コンベアーベルトには、うつ伏せに叩きつけられたワイアードが残された。「マ……マズイ!」
posted at 17:52:51

ワイアードはもがくが、起き上がれない。ナムアミダブツ!ワイアードのマグネ装束がコンベアーベルトの金属部とマグネ接合し、がっちりと捉えてしまっているのだ!「せ、背中のスイッチを……!クソーッ!テンカウント=サンーッ!」
posted at 17:56:38

「死ぬまでそこで観戦しておれ!」ニンジャスレイヤーはワイアードに向かって無情に言い放つと、テンカウントを相手取って怒涛のチョップ攻撃を繰り出した。これではテンカウントはワイアードを助けに入る事はできぬ。インガオホー!
posted at 17:59:58

「背中……背中……!」ワイアードはもがきながら、次第に接近するプレス機を恐怖とともに垣間見た。コンベアーベルトを空しく殴りつけるが、無情な機械は動きを停めなかった。バクン!バクン!プレス機が迫る。身体の三分の一をサイバネ改造したワイアードであろうと、これでは……
posted at 18:05:25

ワイアードの胸中に今回の暗殺ミッションのニンジャブリーフィングがソーマト・リコール(※訳註:走馬灯か)する。様々な要因からシックスゲイツのアンダーニンジャに甘んじる彼らの前に現れた謎のニンジャの巧言のもと、彼ら八人はカケジクに血判を押し、四人はニンジャスレイヤーへ、もう四人は……
posted at 18:21:10

「グワアアーッ!!!サヨンナラー!」
posted at 18:22:25

ニンジャソウル爆発とプレス機による粉砕が生み出す炸裂音を背後に、ニンジャスレイヤーとテンカウントは手数の応酬を続けていた。「イヤーッ!」「シューシュシュ!」「イヤーッ!」「シュッ、シュシュ!」
posted at 18:37:14

ニンジャスレイヤーの胸中には焦りがあった。できる限り早く襲撃者を排除し、ナンシーの安全を確かめねばならない。事態は最悪の方向に向かっているのではなかろうか?
posted at 19:08:01

ニンジャスレイヤーは再び必勝の戦術をとる。身を沈め、仰向けになりながらの蹴りだ!「イヤーッ!」「シューシュシュ!」ナムサン!テンカウントの適応能力は非凡であった!彼は繰り出される蹴りをジャンプして避けると、降下しながらの肘打ちでニンジャスレイヤーを襲う!「グワーッ!」
posted at 19:27:37

ニンジャスレイヤーはこの奇襲攻撃を受け、額から血を噴き出す!ボックス・カラテの試合であれば即退場のダーティーファイトであるが、これはニンジャの戦さである。自分自身の動きを先入観で暗示的に縛っていたテンカウントの甘さを突いたニンジャスレイヤーの戦術は、今ここに破られたのだ。
posted at 19:33:44

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはしゃがみ姿勢からのチョップ突きを繰り出して追撃を封じると、四連続でバク転して間合いをとった。テンカウントのステップワークがすぐさまニンジャスレイヤーに追いすがる!
posted at 19:37:17

「シュッ、シュシュ、シューシュシュ!」ジャブ、ストレート、フック、アッパーカットの順に繰り出すベーシックなコンビネーションが繰り返され、やがてニンジャスレイヤーは壁際まで追い詰められていた。ナムサン!「終わりだーッ、ニンジャスレイヤー=サン!!」右ストレートが襲いかかる!
posted at 20:04:12

ニンジャスレイヤーは小首を傾げるような繊細な回避動作で、これを躱す。「グワーッ!?」ミシリ、と嫌な音が鳴り、テンカウントが悲鳴をあげた。背後の壁である!ニンジャスレイヤーの巧みな間合いコントロールが、テンカウントに壁を殴らせたのだ!
posted at 20:10:15

「イヤーッ!」ひるんだテンカウントの腹部にニンジャスレイヤーの容赦無いパンチが刺さる!「グワーッ!」さらに、追撃のチョップが頚部を打ち据える!「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 20:15:40

さらに右ストレートが砕かれた鼻面に叩き込まれる!「グワーッ!」左ストレート!「グワーッ!」右ストレート! 「グワーッ!」
posted at 20:17:52

テンカウントのこれまでの流麗なフットワークのキレは既に無い。彼は打たれるままに打たれていた。これは先程の大腿部のダメージが原因である。ニンジャスレイヤーの容赦無い三連続の蹴りは、ズバリのアドレナリン効果では到底ごまかしきれないほどにテンカウントの筋組織を破壊していたのだ。
posted at 20:20:38

テンカウントはたたらを踏み、上体を後ろへねじって、命をかけた絶望的なパンチの予備動作を取る。「ニ、ニンジャスレイヤーッ!」ニンジャスレイヤーはゼンめいた瞑想的な動作でジュー・ジツを構え直した。「……ニンジャ殺すべし」
posted at 20:26:27

「「イヤーッ!」」テンカウントが渾身の右ストレートを繰り出した。次の瞬間、テンカウントの眉間には、ニンジャスレイヤーの左手指先が第二関節まで埋め込まれていた。コブラめいたチョップ突きが、右ストレートにクロスするように放たれていたのである。
posted at 20:40:52

「ナムサン」ニンジャスレイヤーは突き刺さった指先を引き抜く。テンカウントはよろけながら二歩後退。「サ……サ……サヨナラ!」その直後に爆発四散した。
posted at 20:50:44

ニンジャスレイヤーは既に踵を返して地上への階段へ向かって駆けていた。再び静まり返った地下機関室は、さながら、ニンジャの亡骸を収めたカタコンベのようであった。
posted at 20:57:08

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posted at 21:09:09

ビル屋上から眼下へ一瞬たりとも油断無い視線を投げながら、アルバトロスは憔悴していた。ワイアード、テンカウントともに応答が無いままだ。そも、四人のニンジャによる必勝の包囲を破られた事がケチのつきはじめであった。連携が上手くゆかなかったのは、ブリーフィングに時間の余裕が無かった為だ。
posted at 21:13:20

指揮官「ゴンベモン」は電撃的に今回の作戦を決行した。たしかに、ボスとダークニンジャ=サンとニンジャスレイヤー、彼らがひとつところに集まる機会を準備不足を理由に見送るなど、愚の骨頂だ。指揮官の決断をアルバトロスは支持する。しかし……。
posted at 21:28:58

アルバトロスの思考は乱れる。他の四人はうまくやっただろうか?そもそも、最初の爆破トラップでニンジャスレイヤーにほとんどダメージが無かった事が彼を落胆させた。あれではボス達も……第一、ゴンベモンとは一体誰なのだろうか?
posted at 21:29:10

正体不明のあのニンジャは、アルバトロスら八人の功名心や現状への不満を巧みにアジテートしてみせた。あの時アルバトロスが感じた勇壮はどこへやら、今となっては、募るのは後悔と疑念である。恐らくワイアード=サンとテンカウント=サンは……「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」「アイエエエエ!」
posted at 21:44:42

「ド、ドーモ、アルバトロスです」アルバトロスはかろうじてアイサツした。「なぜここが!?」「状況判断だ!」ニンジャスレイヤーは言下に言い捨てた。この瞬間、アルバトロスは己の敗北を確信した。勝てるわけが無い相手だ。殺される!
posted at 21:52:00

「イヤーッ!」アルバトロスは垂直に高く跳躍した。せめて、せめて一矢報いて死ぬべし!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが何か投げつけた。次の瞬間アルバトロスは地面に叩きつけられていた!「グワーッ!」這いつくばったアルバトロスは自分の足にニンジャロープが巻きついている事に気づいた。
posted at 21:56:17

攻撃の機会すら奪われ打ちひしがれるアルバトロスの背を、ニンジャスレイヤーは無慈悲に踏みつけた。「ア、アイエエエ……!」「……オヌシを尋問する」
posted at 22:05:02

(「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」#6 おわり。 #7へ続く
posted at 22:06:16

NJSLYR> ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション #8

110102

(「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」 #7)
posted at 15:45:19

時間は前後する……。
posted at 15:47:21

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posted at 15:59:50

『フジキドはダイゴを片手で吊り上げ、窓を引き開ける。そしてダイゴの体を窓から突き出した。「アイエエエ!」遥か下の地面!ダイゴは失禁した。「こ、殺さないで」アガタは言った。フジキドは短く頷いた。そしてダイゴに言った。「戻ってくれば今度はコンクリートめがけて落とす」彼は手を離した!』
posted at 16:02:40

『「アイエエエエ!」八階の高さから落下したダイゴの体はシダレヤナギの木にぶつかり、そこから、積み重なった生ゴミの山へ転げ落ちた。満身創痍となった彼が這々の体で路上を逃げて行くのを見下ろし、フジキドは割れた窓を閉めた。「ガラスは弁償します」』
posted at 16:13:49

シダレヤナギの枝で羽を休めていた二羽のバイオスズメは、突然降ってきて枝にバウンドした人間に驚き、ギャアギャアと叫びながら、体長1フィート近い体を羽ばたかせた。
posted at 16:39:37

飛び立ったバイオスズメめがけて、すかさず汚れた空の上からバイオコンドルが降下する。鋭利なニッパーめいたクチバシが、太ったスズメをくわえこもうとする。バイオスズメは攻撃的に抵抗する!
posted at 17:05:39

猛禽的な叫び声をたがいに上げ、まろびながら、二羽と一羽は汚濁した川向こうへと飛んだ。その先にはソメン・ヌードルの屋台がある!
posted at 17:17:13

「グワーッ!?」「なんだ!」「ヤクザか!」「バレたか!?」並んでソメン・ヌードルをすすっていた二人のデッカーは、防塵ノレンの中に飛び込んできた鳥たちに色めきたった。「う、撃て!撃て!」「クソーッ!」一人が屋台を横倒しにする!
posted at 17:28:35

「アイエエエエ!お客さんわかってくださいよ!仕事にならないよ!」屋台シェフが中腰になって泣き叫んだ。「だまらっしゃい!賠償するわ!」デッカーは無慈悲に叱りつけ、横倒しの屋台の陰からデッカーガンを数発、威嚇射撃した。
posted at 17:32:54

「ザッケンナコラー!」威嚇射撃をききつけ、道路を挟んだ「スゴイコワイクラン」とネオン看板を掲げたヤクザ・ブランチから、三人のガードヤクザが飛び出してきた。二人のデッカーは交互に絶え間ない発砲を行う。ガードヤクザはアサルトライフルで応戦!
posted at 17:40:25

「撃て!撃て!」「RPG!」「グワーッ!」「撃て!撃ちつくせーッ! 」「グワーッ!」「ビンゴだ!」「アイエエエ!十分ですよ!わかってくださいよ!」
posted at 18:03:17

ナムサン!ヤクザの二人は既に倒れ、一人が絶望的に応戦するばかりだ。火力の差は歴然である。「ザッケンナコラグワーッ!」そのヤクザもデッカーガンの集中砲火を受けて死のダンスを踊る。でたらめな方向へ乱射されるアサルトライフル。アブナイ!
posted at 18:08:10

乱射された銃弾が道路に面したアパートの三階の窓を突き破る。「ペケロッパ!?」窓際でアンティーク・コンソールのキーボードを乱打してIRCにインしていたペケロッパ・カルトの側頭部に銃弾が着弾。「ペ、ペケロッパー!」激しく痙攣したのち、サイバー狂信者はキーボードに突っ伏して絶命!
posted at 18:16:29

【NINJASLAYER】
posted at 20:37:01

(ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション#7つづき)
posted at 20:15:17

「撃て!撃て!」「RPG!」「グワーッ!」「撃て!撃ちつくせーッ! 」「グワーッ!」「ビンゴだ!」「アイエエエ!十分ですよ!わかってくださいよ!」
posted at 20:17:17

ナムサン!ヤクザの二人は既に倒れ、一人が絶望的に応戦するばかりだ。火力の差は歴然である。「ザッケンナコラグワーッ!」そのヤクザもデッカーガンの集中砲火を受けて死のダンスを踊る。でたらめな方向へ乱射されるアサルトライフル。アブナイ!
posted at 20:17:42

乱射された銃弾が道路に面したアパートの三階の窓を突き破る。「ペケロッパ!?」窓際でアンティーク・コンソールのキーボードを乱打してIRCにインしていたペケロッパ・カルトの側頭部に銃弾が着弾。「ペ、ペケロッパー!」激しく痙攣したのち、サイバー狂信者はキーボードに突っ伏して絶命!
posted at 20:18:08

キーボードに突っ伏したペケロッパ・カルトの痙攣する額が、デタラメなキー入力をIRCプライベート空間へ送信する!
posted at 20:20:15

#hentaisugoidemand:X68kojimichi: SjjjjOUKjjjjjAjjjjjjjjjjI///
posted at 20:25:36

電脳IRC空間にペケロッパのポストが飛んだ二秒後、ソウカイ・シンジケートのフルタイム監視システムは、この偶然打ち込まれた文字列を掬い上げていた。ゴウランガ!読者の皆さんも、注意深くこのポストからノイズを取り除いてみていただきたい。この、あまりにも偶然極まりない啓示を……!
posted at 20:28:54

「SOUKAI」!強力無比なソウカイ・シンジケートの監視あいまい検索スクリプトは、偶然の文字列からキーワードを抽出し、すぐさまそれをアドミニストレイター権限を持つニンジャへノーティスしていた。むろんそれは言わば誤報である、しかし……!
posted at 20:41:09

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posted at 20:52:53

「あー、ドーモ、あー、こちらトラッフルホッグです」小太りのニンジャはペケロッパ・カルトの死体を足でひっくり返し、トランシーバー型IRC送信機に報告を行った。「ハイ、ハイ、誤報です。ハイ。あんまり無いケースですね。銃で撃たれて死んだ際に、キーボードを押しちまったんですな、これは」
posted at 20:58:21

トラッフルホッグはアパート廊下の人気に注意しつつレポートする。「外でヤクザとデッカーがドンパチやってたみたいですね。流れ弾で、へへへ、運のねえ兄ちゃんですぜ。シンジケートとの関係はねえです。たまたまです。ええ、自然科学のいたずらで。依頼でもスパイでもねえです。帰りま……ん?」
posted at 21:02:32

トラッフルホッグは眉間にシワを寄せた。「いえ、お待ちを」窓ガラスを開け、集中した。彼はその状態で約二分、クンクンと鼻を鳴らし続けていた。「どうも気のせいじゃねえぞ、これは」
posted at 21:05:02

この斥候ニンジャ、トラッフルホッグの自慢は特異なまでのニンジャ嗅覚である。彼がこの場に派遣されたのは、単に近隣で手の空いた他のソウカイ・ニンジャがいなかったからであるが、なんたる巡り合わせか、ここで彼は、彼にしか感知できなかったであろうものを嗅ぎ取っていたのである。
posted at 21:12:50

「……いえ、ニンジャソウルですよ。川向こうだ。ええ、ええ、トレースできますよ、ええ、ええ、ハイ、ハイ、ええ……ヨロコンデー!」トラッフルホッグは切電し、窓から下の路地めがけてダイブした。トラッフルホッグはスカウトされたばかりの新人ニンジャだ。初の特殊任務に彼の胸は踊った。
posted at 21:18:26

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posted at 22:22:33

その正方形の部屋には窓もショウジ戸も、フスマも無い。四方の壁には、しかるべき方角にそれぞれ、ドラゴン、ゴリラ、タコ、イーグルの巨大なレリーフが互いに睨みを効かせている。外界から隔絶された特異なゼン・キューブで、一人のニンジャがアグラ・メディテーションを行っていた。
posted at 22:28:29

ニンジャは紐のように痩せて小柄であり、その装束は角度によって様々な色彩をとった。彼は目を閉じていたが、眠っているわけではない。目蓋の裏にサイバネ移植された有機液晶モニタを通して、遠隔地の斥候ニンジャと交信しているのだ。
posted at 22:33:17

ダイダロスが廃人と成り果てた今、彼のフドウノリウツリ・ジツはソウカイ・シンジケートのネットワークの基幹部分にまで侵食を果たしていた。彼を身咎める者はいなかったし、実際、それだけの権限も信頼もあった。
posted at 22:46:37

彼、ウォーロックは、ネオサイタマに潜伏するソウカイ・シックスゲイツのニンジャのリアルタイム所在地を、アンダーニンジャ一人一人に至るまで、つぶさに把握していた。彼のイメージする電子コトダマ空間は寂れきった動物園であり、その案内板は巨大なネオサイタマ交通図だ。
posted at 22:51:26

道路地図の表面に張り付き、てんでバラバラに移動する小さなオハジキが、ニンジャたちのシンボル・アイコンだ。トラッフルホッグが感知した地域にシンジケートのニンジャはいない。つまり……そこにいるのは。
posted at 23:21:56

ザイバツのスパイ?「イッキ」のエージェント?その可能性もゼロではない。なにしろ「彼」がこの二年弱で随分と派手に暴れたおかげで、多くのベテラン・ニンジャが失われた。ネオサイタマのソウカイヤ秩序は穴だらけにスイスチーズ・インシデントして、外敵の侵入を許しがちだ。そう、「彼」のせいで。
posted at 23:32:22

ベテランのニンジャが次々に壮絶な死を遂げるなか、ラオモトはそれでも余裕の姿勢を崩す事はなかった。彼は次々に新たなニンジャを組織に組み入れていったからである。ウォーロックもそのクチであり、ニンジャスレイヤーの出現・殺戮行為と、ウォーロックの出世は強く結びついていた。
posted at 23:38:57

ダイダロスのこともそうだ。彼がああなって半年も経とうか?ウォーロックは最大の監視者の脱落の後、ゆっくりと陰謀の糸を巡らせて行ったのである。「実際あなたを他人とは思えないのです、ニンジャスレイヤー=サン……ダークニンジャ=サンと同じにね……」ウォーロックはひとり、ほくそ笑んだ。
posted at 23:44:23

「ドーモ、到着しましたぜ」音声から文字へ変換されたトラッフルホッグのIRCノーティスが網膜に映り、ウォーロックを我に返す。「ニンジャソウルの源はこの安アパートの八階の部屋ですぜ。今は私は路地から見上げています、どうしますか」
posted at 23:52:23

ウォーロックはなかば確信していた。十中八九、ニンジャスレイヤーのアジトだ!……偶然に偶然が重なりドミノ倒しのように導き出された発見の奇跡、その天文学的な有り難みを、ウォーロックは知り得ない。
posted at 00:07:15

ニンジャスレイヤーもまた同様である。これは、神のみぞ知る運命のイタズラであった。きっかけとなったのはニンジャスレイヤーがアガタにしめしたひとかけらの善意である。あのとき彼がダイゴを窓から投げ捨てた事が、巡り巡って最悪の形でインガオホーしたのだ。
posted at 00:10:19

情にサスマタを突き刺せば、メイルストロームへ流される。ミヤモト・マサシはニンジャスレイヤーを「それ見たことか」と笑っているだろうか?彼のひとかけらの善意がまねいた結果を?
posted at 00:16:39

「ドーモ、カギを壊して部屋に侵入しました。もうニンジャソウルの主は移動した後のようですぜ。まだ十分追えますが、追いますか?しかしなんとまあサップーケイな部屋ですぜ。PCがあるきりだ」トラッフルホッグは淡々と屋探しを開始している。ウォーロックはしばし考え、決めた。
posted at 00:19:58

「よくやりましたね、あなたは役に立ちました」「へえ?」トラッフルホッグが聞き返す。ゼン空間の中でウォーロックはひとり笑った。「ホホホホ!貴方のイドをいただきます!イヤーッ!」ウォーロックは自らの意識をトラッフルホッグへ滑り込ませた。フドウノリウツリ・ジツである!「グワーッ!?」
posted at 00:24:48

一瞬ののち、ウォーロックはサップーケイなアパートの一室に自らを見出だしていた。トラッフルホッグの小太りの体にコネクトした自らの五感。歪んだ笑みが漏れる。
posted at 00:28:54

フドウノリウツリ・ジツの真髄は、その名の通り、意識の乗っ取りだ。これは使用条件が厳しく限定された特殊なジツである。トラッフルホッグは未熟なニンジャであったが故に、ウォーロックの精神侵入を許してしまった。トラッフルホッグの意識はその瞬間に粉々に砕け、既にこの世には存在しておらぬ。
posted at 00:34:45

「さてそれでは、はじめさせていただきますよニンジャスレイヤー=サン」ウォーロックはPCの前で正座し、物理ハッキングを開始した……!
posted at 00:39:46

(「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」#7 終わり。#8へ続く。)
posted at 00:40:54

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 22:23:53

NJSLYR> ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション #9

110110

ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション #8
posted at 14:13:19

(これまでのあらすじ:ニンジャスレイヤーとナンシーによるラオモト・カン暗殺計画は失敗に終わった。何故?その答えは一日前に遡る。ニンジャスレイヤー=フジキドが隣人アガタを助けた善意が引き起こした偶然の連鎖がインガオホーし、ソウカイ・ニンジャ、ウォーロックの知るところとなったのだ。)
posted at 14:18:28

(鼻が利くソウカイヤのニュービーニンジャ、トラッフルホッグの自我を破壊して体を乗っ取ったウォーロックは、ニンジャスレイヤーの秘密PCへの物理ハッキングを試みる。この後に、なにが起こったのか。ナンシーはどうなったのか。読者の皆さんは目撃せねばならぬ!ゴウランガ!)
posted at 14:26:07

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posted at 14:28:39

「さてそれでは、はじめさせていただきますよニンジャスレイヤー=サン」ウォーロックはPCの前で正座し、物理ハッキングを開始した……!
posted at 14:35:08

電源スイッチを入れると、安物のモニタ上に緑のベクタースキャンが飛び交い、やがて「塩梅」の電子毛筆体フォントを形作った。ウォーロックは眉一つ動かさずに、抜かりなくホームポジション上へすべての指を配置した。
posted at 14:47:30

「塩梅」がログインパスワードの入力を求めるよりも速く、ウォーロックはタイピングを開始した。タツジン!これは質問に先んじて質問する物理ハッキングのメソッド「ゼン・ドライブ」であり、ウーンガン・タナカ=サンが体系化したものだ。
posted at 14:51:35

ウォーロックが「塩梅」に要求したのは8ケタの掛け算だ!危険!ニンジャスレイヤーの秘密PCでは処理が追いつかない。「デキマセン」の文字がモニタに表示されかかるが、ウォーロックは容赦なく無意味な質問を矢継ぎ早に浴びせかける。
posted at 14:55:02

ダイダロスが廃人となった今、シンジケートで突出したタイピング速度を持つものはいなくなった。ウォーロックは最速の部類に位置する数人のニンジャの一人である。容赦ないゼン・ドライブが秘密PCを責め立てる。やがてモニタから白い煙が吹き上がった。「ホホホホ!可愛いものですね!」
posted at 15:04:51

ウォーロックが乗り移ったトラッフルホッグの首筋にはLAN端子がサイバネ増設されている。これは僥倖であった。浮浪者や下級サラリマンの体を乗っ取った場合、LAN端子増設は行われていなかったであろうから。
posted at 15:10:54

ウォーロックは左手で8ケタの掛け算を矢継ぎ早に要求し続けながら、右手で素早くケーブルを首筋に挿し、煙を吹き上げるPCに直結した!
posted at 15:12:19

「ホホホホ!ホホホホホ!さあ見せていただきますよニンジャスレイヤー=サン!ホホホホホ!」明滅する0と1の渦が網膜モニタを洗う感覚に恍惚としながら、ウォーロックは「塩梅」内の電子コトダマ空間へダイブした!
posted at 15:32:10

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posted at 15:37:26

「エキサイティングは興奮する」。傾いた巨大ネオン看板には力強いゴシック体でそう書かれ、その寂しげな風情で、この廃映画館がかつてはネオサイタマの人々に興奮と憩いを提供していた過去を伝えている。無駄に広い駐車場の亀裂まみれのコンクリートに周囲を囲まれたこの建物はさながら陸の孤島だ。
posted at 15:47:47

窓ガラスのほとんどが割れ砕け、調度も荒らされ尽くした廃墟であったが、壁沿いには電源ケーブルがヘビめいて這い、ところどころに配置されたヨタモノ除けのブービートラップ類や小型ボンボリが、この建物がいまだ打ち捨てられてはおらず何らかの用途としていまだ生きている事を示していた。
posted at 17:03:04

ナンシーはPCモニタから顔をあげた。あくびをひとつつき、凝った背中を伸ばす。ナンシーはこの廃映画館の管理人室を借用し、計器類を持ち込んである。今回の暗殺作戦にあたっての暫定の観測基地だ。
posted at 17:09:49

廊下へ出ると、壁に空いた大きな穴から、駐車場や廃棄された車、ビル街、朝まだきの曇天が見える。ナンシーは陰鬱な光景を前に、湯気の立つコンブ・カフェをすする。
posted at 17:18:42

事前に打てる手は打った。長い、長い道のりであった。数時間後、すべてが始まり、終わる。リアルタイムでニンジャスレイヤーをサポートするのが自分の仕事だ。それまで仮眠でもとって、酷使したニューロンを休めねばならない。
posted at 17:32:59

「……なに?」
posted at 17:59:14

壁の穴から垣間見える廃駐車場に滑り込んできたオートバイの影に、ナンシーの胸はざわついた。
posted at 18:06:28

この廃映画館に機材を持ち込むにあたり、ナンシーはあらかじめネットワーク上に偽の情報リークを行ってある。マッポの中隊が武装してハリコミを行っているという内容だ。よって、一定以上の規模の組織はあえてこの場所へ踏み込まない。情報弱者のヨタモノはブービートラップで十分だ。
posted at 19:59:35

オートバイから降りた人影はただのヨタモノだろうか?こちらへ来るだろうか。ならば、ブービートラップを発動してご退場いただくことになるだろう。だが、この胸騒ぎは?ナンシーは訝った。嫌な予感、としか言いようがない。ナンシーは壁の穴から身を離し、管理人室へ戻ろうと……「!!?」
posted at 21:03:29

振り向いた彼女の眼前に音も無く立っていたのは、ニンジャである!マンリキめいた握力によってナンシーは首筋をつかまれ、床から浮き上がった!「アイエエエ!?」「ドーモ、y,c,n,a,n =サン……読み方はわからんが!ハッハ!」「アア……!」ナンシーはもがいた。ニンジャ、何故……!
posted at 21:17:26

「ドーモ、私はバジリスクです」ナンシーを吊り上げたまま、ニンジャはアイサツした。ウロコめいた硬質のニンジャ装束。奇怪なデザインのメンポからのぞく邪悪なルビー色の視線がナンシーを射抜いた。「残念ながら、お前の企みはツツヌケだ。クンクン嗅ぎ回るネズミめ!」「離し、離して……!」
posted at 21:37:31

「ハハッハハ!か弱い!なんたるか弱さ!これがニンジャスレイヤーのアキレス腱か!ハッハハハ!」バジリスクが笑う。指先の力を少し緩め、ナンシーに呼吸を許す。「さあ。まずは名を名乗れ。ブロンド女と言えど、戦さの礼儀は知っておろう」「ペッ!」返答のかわりにナンシーはツバを吐き掛けた。
posted at 21:57:36

バジリスクの首は異常な柔軟性をしめし、ぐにゃりと曲がってナンシーのツバを回避した。「ハハハッハハハ!実に強気!ではお前がどんな声で鳴くのかを一日かけてじっくり確かめてやろう」再び首筋をつかむ手に力がこもる!「ア……ア……」
posted at 22:02:44

「一日も時間はありませんよ、バジリスク=サン」新手である。廊下を歩いてきたのは小太りのニンジャだ。もがくナンシーを吊り上げたまま、バジリスクの赤い眼光がそちらへ向いた。「名乗れ」「ホホホホ、おわかりでしょう」小太りのニンジャはもったいぶった滑稽なオジギで答える。
posted at 22:06:56

「フン!」バジリスクは鼻を鳴らした。「そのボディもお前の不可解なジョークの一環か?」「ニンジャの体を乗っ取れる事などそうそう無いものです!それだけ、このボディの持ち主がサンシタだったとも言えますがね、残念ながら!ホホホ!」
posted at 22:11:23

「負け犬の八人は?」バジリスクは単刀直入に聞いた。小太りのニンジャは笑いやめた。「10分以内にここへ集まります。ミッション開始までさほど時間が無い。……その女が例の『ycnan』とやらですか。ニンジャではないのですね」「そうだ。ニンジャではない。か弱いものよ」
posted at 22:15:33

ナンシーは二人のニンジャの会話を絶望とともに聞いていた。計画は頓挫したのだろうか。何故?「負け犬の八人」……?二人のニンジャはあけすけに会話している。つまり、この後ナンシーが解放される事はありえず、遅かれ早かれ、必ず命を奪われるという事だ。
posted at 13:48:55

「この女。尋問はどうする」バジリスクが言う。小太りのニンジャが首を振った。「たいして聞きたい事もありません。聞いている時間もない」「殺すか?」「……いや、使い道はまだあるやも。拘束しておきましょう」「フン……」
posted at 14:00:58

バジリスクの赤い目がナンシーを覗き込んだ。「おれを見ろ。女」ナンシーは身をよじって目をそらそうとした。しかし体はすでに言う事を聞かない。バジリスクの眼光がナンシーを捉え、彼女の視界は赤く染まった。手足の感覚が失われ、舌が痺れ、やがて彼女はなすすべも無く、床に投げ落とされていた。
posted at 14:04:42

「種明かしをすれば、ニンジャスレイヤー=サンのアジトをハックさせていただきました」小太りのニンジャがナンシーを見下ろした。視界は赤く、音はノイズまみれだが、目を動かし耳で聞く事だけはできる。そういうジツなのか、あえてバジリスクがそうしたのかはわからない。
posted at 14:45:28

「ゴアイサツサマ生命。今日の昼ですか。よくぞあの用心深いボスを乗せたものです。さぞかし大変な下準備をされた事でしょうね?」ナンシーは歯を食い縛ろうとしたが、麻痺した体ではそれすら許されなかった。「ですが、そう悲観したものでもない」小太りのニンジャはしゃがみこんだ。
posted at 14:52:12

「……!」「あなたがたの計画は我々がそのまま遂行させていただます。若干のアレンジを上乗せしてね!無論、ニンジャスレイヤー=サンもその場で葬られる事になります。これぞまさに、アブハチトラズだ!」小太りのニンジャはバジリスクを見た。バジリスクはうなずいた。「……アブハチトラズ」
posted at 14:56:18

(一体どういう事?)ナンシーは訝った。彼らはソウカイ・シンジケートの手のものではないのか?そのはずだ、現にこの小太りのニンジャは、ラオモトの事をボスと呼んでいる。なぜ彼らが暗殺計画を引き継ぐのか?「おわかりでしょう、ゲコクジョです」小太りのニンジャは屈託無く告げる。
posted at 15:00:33

「ボスは実に素晴らしい統治者だ。ボーナス査定や温泉旅行にも気を配っている。だが、あるとき私は自問自答し、ひとつの結論に至った……私のニンジャソウルをもってして、シンジケートをまるまる頂くのが手っ取り早いとね!」「……私達、だ。おれとお前の二人だ」バジリスクが横から訂正する。
posted at 15:19:00

「その通り」小太りのニンジャは素直に頷いた。「ニンジャスレイヤー=サンはこの二年で随分と暴れたものだ。『シックスゲイツの六人』も、入れ替わりが激しくていけません。部下の忠誠心を繋ぎ続けるのも難しくなろうというものですな」他人事のように言う。
posted at 15:25:00

「……来たぞ。負け犬どもだ」バジリスクが廊下の闇を見やり、告げた。「ホホホ!よろしい。美しい方。あなたはここで我々と高みの見物です。ニンジャスレイヤー=サンとボス、ダークニンジャ=サンがネコソギされ、新秩序が生まれる瞬間を体験するのですよ、みずからの死の直前にね!ホホホホホ!」
posted at 16:38:07

(ニンジャスレイヤーのアジトが割られ、PCが直接に物理ハッキングされたという事?そこから今回のやり取りのログが……しかし、あれほど用心深く振舞ってきた彼を、どうやって……?)ナンシーの思考は乱れた。赤く染まった視界が徐々にぼやけ、意識が遠のく。大勢のニンジャが廊下を歩いて来る……
posted at 19:45:02

-----
posted at 19:54:17

前後した時間は再び戻ってゆく……
posted at 19:59:09

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posted at 19:59:58

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワ、グワーッ!」「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「グ、グワーッ!グワアアーッ!アーッ!ア、アイエエエ!」「イヤーッ!」「わ、わかった話す、ニンジャスレイヤー=サン、頼む」「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「アイエエエエ!」
posted at 20:10:43

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posted at 20:15:40

頭上の眩しい光がナンシーの意識を激しくノックした。驚いて跳ね起きる。ナンシーは自身がカナシバリ・ジツにかけられていた事を思い出す。動ける。ジツが解けたのか?ナンシーは自分の手を見つめる。「いや、そうじャない。あンたは依然、渦中だよ」
posted at 20:20:04

背後から老婆の声がした。ナンシーは振り返る。そして自分が置かれた場所の非現実的な光景を唐突に認識した。全方向、どこまでも伸びてゆき、フラットな地平線を形作る大地。大地にはゴミが敷き詰められている。まるでゴミの砂漠だ。どことなくドリームランド埋立地の光景を想起させるが、広大すぎる。
posted at 20:48:35

頭上の眩しい光は太陽ではなかった。病んだ太陽は地平線の上で、じくじくと黒いフレアをにじませている。頭上の輝きは黄金の構造物から発せられている。ナンシーにとって、その構造物はあまりにも見慣れたものだ。コトダマ空間において、常に目にしている、あの……
posted at 20:52:25

「あンたは、いまだ縛られているンだよ」色とりどりのボロを重ね着した不気味な老婆がナンシーの前に立った。その背丈、10フィートはある!ナンシーは後ずさった。「ここはコトダマ空間?でも、私はログインしていない」「ログイン?ファー、ファー、ファー」老婆はゆっくりと笑った。
posted at 21:06:44

「今日はあンたにアイサツにきたンだよ、お嬢ちャま。ドーモ、バーバヤガ、です」老婆はオジギした。背中にとまる数匹のカラスがギャアギャアと叫んだ。「ドーモ、バーバヤガ=サン。私はycnanです」ナンシーは注意深くアイサツを返す。コトダマ空間ゆえ、ycnanもスムーズに発音される。
posted at 21:15:34

「ファー、ファー、ファー」バーバヤガが笑う。「あンたの生き急ぎッぷりが、あたしャ好きなンだよ、お嬢ちャま。あンたの『肉の檻』、今ずいぶン大変なようだけれど、なンとか切り抜けて、また会いに来るといいよ」
posted at 21:27:49

老婆が片手を上げると、天空から巨大なボロ屋台が落下してきた。屋台のノレンには「ゴンダ」と楷書書きされている。屋台からは鋼鉄製の脚が生えており、それが膝を折って、バーバヤガを屋台の中に迎え入れる。ナンシーは言葉を失い、そのさまを見守った。
posted at 21:36:11

老婆が入り込むや、巨大な屋台は天空へ轟音とともにジャンプした。風に乗って老婆の声が届く。「あンたは、有望だよ、ここで死ぬンじャないよ……ファー、ファー、ファー」
posted at 21:38:32

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posted at 21:39:31

ナンシーは覚醒した。管理人室だ。何時間経った?デスクのそばを興奮した面持ちでグルグルと歩き回る小太りのニンジャがまず目に入った。視界は赤く、体の自由はきかないままだ。
posted at 22:23:34

「クソッ……クソッ……クソッ……こんなバカな事が……こんなハズは……」小太りのニンジャは歩き回りながら毒づいていた。扉が開き、バジリスクが入室する。「車を回した。頃合いだ」小太りのニンジャが叫ぶ。「奴らの腕は確かなのだ!それぞれに四人ずつ、抜かりはない、ありえないんです!」
posted at 22:29:30

「さっさと引き払うぞ」バジリスクは吐き捨てるように言い、ナンシーを荒っぽく担ぎ上げた。「記憶素子は抜き取ったか」「ええ、ええ、私は取り乱してなどおりませんよ。行きましょう」「フン」ナンシーを担いだまま、バジリスクは階段を早足で降りて行く。もう一人もそれに続く。
posted at 22:35:05

ナンシーを担いだバジリスクと小太りのニンジャは、廃駐車場に停めたオートバイと装甲車に向かって歩いた。ナンシーは時刻を類推しようとしたが、意識はぼやけ、不完全な視界。不可能だった。
posted at 22:38:52

「おれがお前のバイクを使う。お前はこの女と装甲車だ」バジリスクがいきなりナンシーを小太りのニンジャに向かって投げた。「ええ、ええ」小太りのニンジャはナンシーを受け止め、装甲車のドアを開けて、そこへ放り込む。(レディの扱いを心得ない奴らね)なす術の無いナンシーは心中で毒づく。
posted at 22:42:40

クルマとオートバイはエンジンをスタートさせ、廃駐車場を出ると、ハイウェイをめざして爆走する。装甲車両の助手席、シートベルトで固定され、五感のほとんどを奪われたナンシーは、まるで夢の中を滑っていくような心持ちであった。
posted at 22:46:35

ナンシーは働かない頭で状況把握につとめた。あの廃映画館を拠点にした事はニンジャスレイヤーにも伝えていない。つまり、彼の助けをアテにはできないかもしれない。用心が仇となったのだ。
posted at 22:49:45

装甲車両とバジリスクのオートバイはともにハイウェイに入り込んだ。車両を運転しながら、小太りのニンジャはオートバイのバジリスクと音声変換IRCで連絡を取り合っている。
posted at 22:54:05

「ええ、ええ、このまま埠頭まで。そうです。ええ、信頼していますとも。まだ将棋はオーテしていない。そうです!」無理な追い越しをかけながら、二台はさらにスピードを上げる。
posted at 22:57:39

「このエマージェンシーさえ切り抜ければ、まだまだやりようはある。たとえ八人全てが倒されていようとも……ええ、なにしろ私は不死身だ!そしてあなたのイビルアイはかつてのビホルダー=サンの比ではない!そもそもニンジャスレイヤーにせよボスにせよ、我々を追って来るわけが……発想すら……」
posted at 23:04:13

「なにーッ!!」突如、小太りのニンジャは急ブレーキをかけ、ハンドルを目一杯に切った。あやうく装甲車両が横転しかかる!ナンシーは前方の状況を垣間見た……燃え盛る車が積み上げられ、バリケードのように行く手を塞いでいる!
posted at 23:07:41

『奴だ……ガガッ……奴だ……』小太りのニンジャのヘッドセット型IRC通信機からバジリスクの音声が漏れる。ナンシーは見た。積み重なった車の上に真っ直ぐに立つ存在を。「バカな!バカな!」小太りのニンジャは取り乱し、ハンドルを殴りつけた。「早すぎる!オカシイ!」
posted at 23:14:02

フロントガラスの向こうで、その人影はオジギした。ナンシーの目に涙が浮かんだ。オジギしながら、その人影はこう言っていたに違いない。……「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」と。
posted at 23:16:31

(ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション #8 おわり。 #9につづく
posted at 23:18:03

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 23:26:19

NJSLYR> ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション #10

110112

「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」 #9
posted at 14:57:04

(前回あらすじ:ニンジャスレイヤーのアジトを暴き、秘密PCのIRCログのIPアドレスからナンシーの隠れ家を特定したウォーロックは、ラオモト暗殺計画を乗っ取り、ラオモトとニンジャスレイヤーを一網打尽にすべく、謎のニンジャ・バジリスクとともに行動を開始。)
posted at 15:01:33

(彼の策は、ゴアイサツサマ生命にラオモトとニンジャスレイヤーを集めて爆破、さらにそこへ八人の裏切りニンジャを差し向けて各個トドメを刺すと言う恐るべき電撃的作戦であった。)
posted at 15:09:38

(しかし、なんたる戦闘センス!ニンジャスレイヤーは四対一の劣勢を、ゲリラ戦に持ち込む事で覆してみせた。……ビーハイヴ。ワイアード。テンカウント。アルバトロス。一人一人、返り討ちに遭い、カラテの露と消えたのだ。)
posted at 15:14:59

(バジリスクのイビルアイ攻撃を受けたナンシーが意識を取り戻したとき、状況は一変していた。八人の暗殺ニンジャの一人たりとも応答が無く、ウォーロックはバジリスクと共にハイウェイで逃走を開始。そして、そこへ立ちはだかったのは……)
posted at 15:19:40

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posted at 15:24:15

バジリスクは1200ccオートバイをドリフトさせ、燃え盛るクルマのバリケードを避けて停止した。IRCインカムに呟く「奴だ、ウォーロック=サン。ニンジャスレイヤーだ」ルビー色の眼光がバリケードの上に直立したニンジャを見上げた。「俺が奴を殺す」
posted at 15:28:14

バリケード上のニンジャがゆっくりとオジギする。「ドーモ。はじめましてバジリスク=サン。ニンジャスレイヤーです」「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。バジリスクです」バジリスクはオートバイのペダル上で立ち、オジギを返した。「どうやって俺たちを知った?ニンジャスレイヤー=サン」
posted at 15:33:09

ニンジャスレイヤーは手に持っていた何かを、バジリスクの足元へ投げてよこす。ナムアミダブツ!生首だ!空力ニンジャ頭巾を被ったニンジャの生首である。両目はえぐり出されて既に無く、からっぽの眼窩と視神経が剥き出しになっている!
posted at 15:36:53

「これが答えだ。アルバトロス=サンを拷問し、状況判断したまでだ」ニンジャスレイヤーは淡々と言った。「オヌシもこのようにする。ニンジャ殺すべし」
posted at 15:39:46

ニンジャスレイヤーの「忍」「殺」のメンポが、炎の照り返しを受けて禍々しく輝く!並のニンジャであれば戦意を喪失し、失禁しながらセプクするほどの威圧感である。だがバジリスクは迷いなく攻撃に転じた!「イヤーッ!」アフリカ投げナイフめいた邪悪な特殊スリケンが放たれる!
posted at 15:47:11

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは燃え盛るクルマのバリケードから回転ジャンプし、アフリカ投げナイフめいた邪悪なスリケンを回避した。そして一度に六枚のスリケンを投げる。そのターゲットはバジリスクではなく装甲車両だ!
posted at 15:54:12

カカカカカカ、と音を立て、装甲車両の装甲ボンネットにスリケンが深々と突き刺さる。「先に行け!奴は俺が殺す!」バジリスクはインカムに叫んだ。ウォーロックの装甲車両は煙をあげながら急旋回し、無人ハイウェイを逆走にかかる!
posted at 15:56:52

「イヤーッ!」バジリスクはアフリカ投げナイフめいた邪悪なスリケンを再び投げつけた。微妙な時間差とカーブのかかったタツジン的な投擲である。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはバジリスクへ接近しつつスリケンを投げ返し、アフリカ投げナイフめいた邪悪なスリケンを弾き飛ばす!
posted at 15:59:27

なぜスリケンを指で挟み取らず、自分のスリケンを投げ返す回避方法を取ったのか?ニンジャスレイヤーはタツジン的なニンジャ反射神経とニンジャ洞察力により、バジリスクのアフリカ投げナイフめいた邪悪なスリケンに毒が塗られている事を見抜いたのだ。
posted at 16:13:22

互い違いに複数の歪んだ刃が飛び出したアフリカ投げナイフめいた邪悪なスリケンは、平安時代、とくにトカゲ・ニンジャ・クランに好まれた武器だ。トカゲ・ニンジャ・クランはコブラ・ニンジャ・クランと義兄弟関係にあり、ドク・ジツに特化したカラテが恐れられていた。
posted at 16:19:59

ニンジャスレイヤーは複雑極まりない文化的背景を踏まえ、この危険な敵との戦闘方法を検討しているのである。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが仕掛けた。飛び蹴りだ!
posted at 16:27:04

「イヤーッ!」バジリスクはオートバイをウイリーさせ、ニンジャスレイヤーに体当たりを試みた。1200cc、ヘルヒキャク社の最新モデル、アイアンオトメの黒光りする車体が襲いかかる!
posted at 17:19:44

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは素早く前輪のホイールを蹴って体当たりを回避、バク転して飛び離れる。「イヤーッ!」バジリスクのアイアンオトメがニンジャスレイヤーを轢き殺しにかかる!
posted at 17:22:37

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはアイアンオトメのフルスロットル加速に匹敵する速度でバク転を繰り返す。「逃げ回るだけかニンジャスレイヤー!轢殺してくれる!」バジリスクが車体を再度ウイリーさせた!
posted at 17:25:05

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはバク転しながら燃え上がるクルマ・バリケードのぎりぎりまでバジリスクを誘い、垂直ジャンプで激突させようとした。しかしバジリスクのバイク・テクニック、冷静!ドリフトしながら彼は燃える廃車の車体を蹴って方向転換する!
posted at 17:48:58

「このままマッポが来るまで時間稼ぎでもするつもりか?くだらんぞニンジャスレイヤー!」エンジンを轟かせながらバジリスクが挑発する。
posted at 17:52:50

ニンジャスレイヤーは三角跳びで手近の街灯の上へ跳び移り、バジリスクを見下ろした。バジリスクは続ける。「世の中には二種類の人間がいる。ニンジャとクズだ!そしてニンジャは二種類に分かれる。命令を遂行する飼犬!あるいは殺しを愉しみ、命を食って生きる真の戦士だ!」
posted at 17:58:09

「貴様は俺と同じ殺戮嗜好者、真の戦士であるはず。ニンジャスレイヤー=サン、俺にとってこんな嬉しい事は無いのだ!死ね!」バジリスクがバイクをフルスロットルし、ニンジャスレイヤーがスズメめいてとまる道路灯めがけ真っ直ぐに突進する!
posted at 18:07:33

ゴウランガ!バジリスクの巧み極まりない操車術のもと、アイアンオトメは垂直に道路灯の柱を駆け上る!「イヤーッ!」バジリスクは一瞬にして道路灯の頂上まで上がりきると、片足だけをフットレストに引っ掛け、身を投げ出してニンジャスレイヤーにナイフで斬りつけた!ハコノリ!「グワーッ!」
posted at 18:22:14

バジリスクのナイフはウネウネと波打った特異な形状だ。当然、毒が塗られているはず。ニンジャスレイヤーは想定外の奇襲攻撃をのけぞりながら躱すも、道路灯からは足を踏み外し転落!ナムサン!
posted at 18:35:15

「イヤーッ!」驚異的なバランス感覚で再びシートに座り直したバジリスクは、落下するニンジャスレイヤーめがけ、アイアンオトメごと支柱から飛び降りた。なんたる曲技!「潰れて臓物を撒き散らせ!ニンジャスレイヤー=サン!」
posted at 18:54:51

猫のように着地したニンジャスレイヤーは、カギつきニンジャロープを道路灯の支柱めがけて素早く投げつけた。「イヤーッ!」カギはガッチリと柱を噛んだ!鉄の塊に押し潰される寸前、ニンジャスレイヤーの身体は支柱へ吸い寄せられるようにして横に跳んだ。ニンジャロープの機械式巻き上げ機能だ!
posted at 19:11:35

ニンジャスレイヤーはそのまま両手で支柱を掴むと、新体操の鉄棒選手めいた回転で反動をつけ、着地したばかりのバジリスクめがけてドロップキックを繰り出す。「イヤーッ!」「グワーッ!」不意を突かれたバジリスクは頭部に遠心力の乗った蹴りを受け、アイアンオトメから転がり落ちた!
posted at 19:24:00

「ムッ……ウムッ……」首を振りながら起き上がるバジリスクへ、ニンジャスレイヤーは油断無いジュー・ジツの構えでジリジリと近づく。「さすがだニンジャスレイヤー=サン……」バジリスクは朦朧と呟く。ドロップキックのダメージが抜けていないのだ、いや違う!「!?イヤーッ!」「カーッ!」
posted at 19:28:44

ニンジャスレイヤーは反射的にブリッジした。一瞬前まで彼の上半身があった空間をルビー色の光線が貫いた。光線の源はバジリスクのイビルアイだ!卓越したニンジャ第六感が無ければ、ニンジャスレイヤーはなんらかの致命的なジツを受けていたのだ!
posted at 19:34:36

「カーッ!」「イヤーッ!」再度のイビルアイ光線が、ブリッジ姿勢のニンジャスレイヤーを襲う!ニンジャスレイヤーはタイドー・バックフリップを繰り出し、光線を避ける!
posted at 19:45:55

距離を取りジュー・ジツを構え直しながら、ニンジャスレイヤーは、かつてビホルダーと戦い葬った日の事を思い出していた。ビホルダーもまた恐るべきイビルアイの使い手であったが、彼の眼力は視線を避けるムーンウォーク接近によって破る事ができた。バジリスクのこれはしかし、性質が違うようだ。
posted at 19:50:59

「フン、考えているなニンジャスレイヤー=サン」バジリスクは酷薄に笑う。「手の内を明かしてやる。俺のイビルアイは相手の視線なぞ意に介さぬ。俺が睨んでやれば、それまでだ。目が眩む者、あるいは四肢が痺れる者。あるいは細胞が硬直し、あるいは血流が止まり死に至る者。決めるのは俺だ」
posted at 20:12:11

ニンジャスレイヤーはわずかずつ間合いを詰める。何らかの兆しの動作があれば瞬時に回避動作を取る腹づもりだ。「……そして、このイビルアイはそうそう濫用できるジツでもないのだ。ゆえに、イヤーッ!」バジリスクはいきなりアフリカ投げナイフめいた邪悪なスリケンを両手で投げつけた!
posted at 20:17:51

【NINJASLAYER】
posted at 21:27:55

【NINJASLAYER】
posted at 22:02:00

ニンジャスレイヤーはわずかずつ間合いを詰める。何らかの兆しの動作があれば瞬時に回避動作を取る腹づもりだ。「……そして、このイビルアイはそうそう濫用できるジツでもないのだ。ゆえに、イヤーッ!」バジリスクはいきなりアフリカ投げナイフめいた邪悪なスリケンを両手で投げつけた!
posted at 22:02:33

「!!」イビルアイに注意を傾けていたニンジャスレイヤーの一瞬の反応差がウカツ!半身になってアフリカ投げナイフめいた邪悪なスリケンをかわすが、微妙なスピンによって飛行の軌跡が歪み、ニンジャスレイヤーの脇腹をかすめる!「グワーッ!」
posted at 22:05:26

「イヤーッ!」バジリスクが飛び込む。ジャンプして一気に間合いをつめながらの蹴り上げが、ひるんだニンジャスレイヤーの顎をとらえる!「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは道路を転がり、アイアンオトメにぶつかった!
posted at 22:08:20

「イヤーッ!」さらにバジリスクは追撃した。刀身にうねりのついた邪悪なナイフを突き刺しにかかる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは裏拳で切っ先をそらし、バジリスクの首元を掴むと、倒れ込みながら後ろへ投げ飛ばした。アイキドーの禁じ手として知られるカタパルト・スローだ!
posted at 22:14:58

「ハッハハハハ!」空中でくるくると回転しながらバジリスクは笑った。お返しとばかりに、アフリカ投げナイフめいた邪悪なスリケンが飛来する。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは側転してそれをかわし、己もスリケンを投げつける。
posted at 22:18:57

空中から垂直落下したバジリスクは、アイアンオトメのシートにスムーズに着席した。「ハッハハハハ!」ニンジャスレイヤーは側転からバク転を六連続して間合いをとり、腰を落とした構えをとる。「スウーッ!ハァーッ!」
posted at 22:27:02

バジリスクはうねりのついた邪悪なナイフを投げ捨てた。アイアンオトメのエンジンをふかしながら、背中に負っていた短いニンジャソードを鞘走らせる。格納形態のニンジャソードは、彼が真横に刃を振り抜くと、音を立てて二倍の長さになった。その刃はやはりウネウネと波打っている!
posted at 22:39:30

「カイシャクしてやろう、ニンジャスレイヤー=サン」空ぶかしでアイアンオトメが唸り、そのマフラーが地獄めいた黒煙を吐き出す。「ここで貴様を殺し、ラオモト・カンの命も必ずいただく。貴様もラオモトも、俺たちの踏み台に過ぎんのだ。貴様は地獄でそれを見ておれ」「スウーッ、ハァーッ!」
posted at 22:51:17

息を深く吸い、吐くたび、腰を落として構えたニンジャスレイヤーの肩は小刻みに震えた。「スウーッ!ハァーッ!」燃えるクルマ・バリケードを背にしたバジリスクのシルエットが陽炎に揺れる。「スリケンの毒の味はどうだ、ニンジャスレイヤー=サン。満足に動けまい」「スウーッ!ハァーッ!」
posted at 22:58:07

「終わりだ!イヤーッ!」フルスロットル!バジリスクがアイアンオトメで突進する!手にした波状刃ニンジャソードの先端が道路のアスファルトを擦り、火花が飛び散る!「スウーッ!ハァーッ!」ニンジャスレイヤーは全身が震えるほどに深い呼吸を繰り返し、さらに腰を落とす!
posted at 23:04:11

「イヤーッ!」「Wassyoi!」
posted at 23:05:25

オートバイの突進から繰り出された波状刃ニンジャソードの長大な攻撃軌道を、ニンジャスレイヤーはのけぞりながらの跳躍で出迎えた……背面跳びである!
posted at 23:16:12

刃が走り抜けたその軌跡は、ニンジャスレイヤーの背面、わずか1センチ下である!空中で上下逆さまになったニンジャスレイヤーは走り抜けるバジリスクの首筋へ両手を伸ばす。捉える!
posted at 23:20:23

「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 23:22:03

ニンジャスレイヤーは体をひねって着地した。走り去るアイアンオトメ。バジリスクの手から波状刃ニンジャソードが落ちる。バジリスクの上半身がぐらりと傾く。
posted at 23:24:48

……と、バジリスクの首筋から赤い花弁のように血液が噴き上がった。そのままアイアンオトメから転落し、アスファルトをバウンドする。遅れて、操縦者を失ったアイアンオトメが転倒し、滑って行く。
posted at 23:27:30

読者の皆さんの中にグレーターニンジャ並みのニンジャ動体視力を持つものがいれば、その一瞬の交錯を目届ける事ができたかもしれない。ニンジャスレイヤーは両手をバジリスクの首筋に絡みつかせると、そのまま、バジリスクの首を中心に二回転した。二回転である。
posted at 23:35:31

ニンジャスレイヤーの指先は、回転しながらバジリスクのウロコめいたニンジャ装束の首回りを切り裂き、首の筋肉を切り裂き、頸動脈を切り裂いていた……!
posted at 23:38:12

「グッ、グワ、ニンジャスレイヤーグワーッ…グワーッ……!」激しく血液を噴き出しながら、バジリスクはなおも起き上がろうとする。存命!だがそれもニンジャスレイヤーの想定内だ。そもそも彼は首を切断するつもりだった。身中の毒ゆえか、バジリスクのニンジャ耐久力ゆえか、不完全な結果となった。
posted at 00:05:32

ニンジャスレイヤーはとどめを刺すべく、大股でバジリスクへ接近する。致命傷だ。長くはない。「なんという男だニンジャスレイヤー=サン、ゴッボ!」異形メンポの通気孔から血がこぼれる、「四人の刺客を葬り、なおかつ手負いの身でありながら、この俺を……罪罰影組合における俺は……ゴッボッ!」
posted at 00:15:38

「……ハイクを詠むか?バジリスク=サン」接近しながらニンジャスレイヤーが問う。バジリスクは起き上がろうとして仰向けに倒れ、震えながら再度、上体を起こした。「ゴボッ、ハイクなど、未練がましい犬の所業よ!そしてゴボッ、貴様の情けは」バジリスクがニンジャスレイヤーを睨む!
posted at 00:20:26

「情けは……情けは慢心だ!死ねニンジャスレイヤー!カーッ!」バジリスクの赤い眼光がニンジャスレイヤーを直撃した!イビルアイ!ナムアミダブツ!
posted at 00:23:28

「グワーッ!」ショットガンで撃たれたように仰け反り、仰向けに地面に叩きつけられたのは……バジリスクである!
posted at 00:25:26

ニンジャスレイヤーは、己の顔の前に掲げたアイアンオトメのミラーを投げ捨てた。蹴りを受けてアイアンオトメにぶつかった時に、素早くもぎ取っていたのだ。
posted at 00:29:15

ミラーが反射した己のイビルアイ光線をまともに受けたバジリスクは、大の字でアスファルトに横たわっていた。硬直し、ひび割れ、コンクリートめいた半有機体の無残な死骸となったバジリスクを一瞥すると、ニンジャスレイヤーは横倒しのアイアンオトメに向かって歩いた。
posted at 00:34:06

車体を起こし二度キックを入れると、アイアンオトメは凶暴な唸りをあげて息を吹き返した。背後に燃え上がるクルマ・バリケードとバジリスクの死骸を残し、黒光りするオートバイにまたがったニンジャスレイヤーは、無人のハイウェイを全速で駆け抜けていった。
posted at 00:38:16

(「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」 #9 おわり。 #10へつづく
posted at 00:41:41

NJSLYR> ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション #11

110114

「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」 #10
posted at 16:46:56

「バジリスク=サン!バ……バジリスク=サン!」ウォーロックはIRC音声変換インカムへ向かってほとんど絶叫していた。それに伴い運転もまた荒っぽいものとなる。装甲車両は最寄りのインターチェンジをブレイコウ突破し、アンダー産業道路のトラックの車列をぬって場違いに走行していた。
posted at 16:52:27

「あ……」助手席のナンシー・リーが震え声で囁く。カナシバリ効果が薄れつつあるのだ。「……貴方の大事な相棒、ど、どうやら今頃サンズ・リバーを渡っているようね」「イヤーッ!」「ウウッ!」運転しながら、ウォーロックは容赦なくその左頬を殴りつけた。
posted at 16:58:20

「黙りなさい!バジリスク=サンが死んだとしても、貴方がこれから辿る運命よりは幾分マシです!」ウォーロックはナンシーに顔を近づけた。運転が乱れ車両がスピンしかかる。「クソッ!」ハンドルを切り、ジグザグに走行しながらトラックを避けて行く。憤慨したクラクションが後ろから複数飛んでくる。
posted at 17:06:31

「あ……あなたの運命はどうなのかしらね?失敗続きの名無しのニンジャ=サン」ナンシーが冷笑した。「イヤーッ!」「ウウッ!」「私は女に興味は無い。だから大事にはしません。わかったか!?黙れッ!」
posted at 17:13:04

「あらそう、そりゃよかったわ」ナンシーはせせら笑う。「もう一人の相棒=サンのほうが私の好みに合いそうだしね。死んでしまったようで残念ね」「イ……」ウォーロックは拳を震わせたが、殴りはしなかった。「……せいぜい強がっていなさい。今だけです」
posted at 17:25:31

ナンシーはダッシュボードへ血の混じったツバを吐いた。カナシバリこそ解けかかっていたが、彼女は後ろ手に手錠で拘束されている。
posted at 17:26:14

アンダー産業道路の左手が開け、グロテスクなパイプを建物から建物へ心臓めいて張り巡らせた工業地帯と、背後の陰鬱な海が見えてくる。車両は速度を上げながら、「ベイサイド」とデジタル表示された表示板の下をくぐり抜けた。
posted at 17:30:58

装甲車両がひた走り、目指すのは……倉庫群に囲まれた、埠頭のヘリポートである。
posted at 17:37:08

------
posted at 18:05:43

黄金の瓦屋根をルーフパネルに装着した長大なリムジンが滑るように進み出、灰色の海を臨んでしめやかに停止した。ドラゴン、ゴリラ、タコ、イーグル……平安時代の四聖獣の像が、黄金の瓦屋根から四方を睥睨する。
posted at 18:10:51

音もなく助手席のドアが開き、まず降りてきたのはダークスーツとオールバックの黒髪、埋め込みサングラスの男だ。ヨロシサンの上級エンジニアであれば、これがカスタムクローンヤクザY-13Rである事を見抜いただろう。その右耳は痛々しく千切れ、周囲が血に染まり、焼け焦げている。
posted at 18:20:09

次に、後部ドアが開き、バイオレッサーパンダの毛皮コートを玉虫色のドレスの上に羽織ったオイランが、全部で三人。よろめきながら降り立つ。
posted at 18:29:54

リムジンバスが停車したのは円形の巨大ヘリポートの縁であり、リムジンバスの停車位置からヘリポートの中心部へかけて、待機していた大勢のクローンヤクザY-12型が、臙脂色のカーペットを敷きながら、二列に整列した。
posted at 18:39:50

全員が無言である。三人のオイランがガタガタと震えているのは海風のせいではない。ここへ到着するまでにくぐり抜けた恐怖と、それ以上に恐ろしい、いまだ車内にいる存在が理由である……。
posted at 18:45:00

クローンヤクザY-13Rとオイランたちが脇へのき、その男が車内から、彼以外の何人たりとも足をつけてはならぬカーペット上へ降り立ったとき、張り詰めた空気がぐにゃりと歪んだかと思われた。銀河的なダーク・ラメ・スーツとニンジャ頭巾、鬼のようなメンポ。……ラオモト・カンである。
posted at 19:01:48

ガバッ、と音を立て、カーペットに沿って整列したクローンヤクザY-12が一斉に45度の最オジギをした。クローンならではの一糸乱れぬ行動であった。一瞬の沈黙があった。
posted at 19:05:09

「……。イヤーッ!」ラオモト・カンの両手が閃いた。それぞれの手には抜刀したカタナが握られていた。一瞬遅れて一番手前の二人のクローンヤクザの首が胴体から離れ、ゴトリと落下。切断面から同時に緑の鮮血を噴出し、同時にドゲザめいた姿勢でうつ伏せに倒れ、同時に絶命した。ゴウランガ……!
posted at 19:14:35

「ア、アイエエ……」オイランが歯噛みしながら悲鳴を漏らす。ボドボドと流れ出す緑の血液は空気に触れると赤く酸化し、カーペットと同色になった。ズシリ。ラオモトが一歩踏み出した。列になったクローンヤクザ全員が一瞬にして正座した。
posted at 19:17:38

ズシリ。ラオモトがもう一歩踏み出す。正座したクローンヤクザが一斉に懐からドスを取り出した。ズシリ。さらに一歩。クローンヤクザは一斉にドスで自らの下腹部を切り裂いた!セプク!
posted at 19:36:25

ラオモトに笑みは無い!セプクしたクローンヤクザの首を両手のカタナで順々に刈り取りながら、ヘリポート中心へ伸びたカーペットを前進する。そこにヘリは無い。クローンヤクザ達のセプクの理由はそれだ。タイムイズマネーをモットーとするラオモトはアンパンクチュアルを決して許さないのだ!
posted at 19:42:29

しかも、ヘリコプターの迎えが来ていないのは現場で待機していたクローンヤクザ達の責任ではなく、なにより恐ろしいのは、ラオモト自身がその事を重々承知なのである。ナムアミダブツ!なんたる日本的犠牲道徳のあり方!
posted at 21:14:59

臙脂のカーペットは殺戮のハナミチと化し、ラオモトはヘリポート中心付近で無言のまま直立するのであった。海上を貨物船が通過し、陰鬱なサイレンが鳴り響く。
posted at 21:17:43

「……」ラオモトは首を巡らせ、倉庫群の方角を見やった。護衛カスタムクローンヤクザY-13Rは主人の邪魔にならない距離を保ちつつ、その方角へアサルトライフルを構えた。
posted at 21:21:19

「シバラク、シバラク!」倉庫の陰から姿を現したのは小太りのニンジャである。後ろ手に手錠をかけられたレザースーツ姿のコーカソイドの女を引きずり、ヘリポートへ近づいてくる。
posted at 21:25:16

カスタムクローンヤクザY-13Rが無言で銃口をニンジャに向けた。オイランたちはラオモトのもとへ小走りに近づき、刀を濡らすクローンヤクザのバイオ鮮血を必死に舐めとり始めた。
posted at 21:28:24

「ドーモ、ラオモト=サン、私はトラッフルホッグです」小太りのニンジャは片膝をついてアイサツした。手錠につながるロープをグイと引くと、女は呻き、よろめいた。その左頬には殴られた跡がある。
posted at 21:31:11

「ドーモ、トラッフルホッグ=サン」轟くような低音でラオモトが返す。足元ではオイランたちが必死でカタナに舌を這わせている。「その見苦しい女をどうするのだ?」「この女が、あれでございます」グイグイとロープを引っ張りながらトラッフルホッグが説明する。女は猿轡を噛まされ、話す事ができぬ。
posted at 21:34:42

「この女こそ、今回ラオモト=サンをゴアイサツサマ生命ビルにおびき出して御命を狙ったネズミにございます!」トラッフルホッグがまくし立てた。「この女、ソウカイ・シンジケートの反乱分子と謀って、ラオモト=サンを襲撃させたと推察されます!」
posted at 21:46:48

「なるほどそうか」ラオモトは無感動に言った。カスタムクローンヤクザY-13Rはラオモトに目配せした。ラオモトは頷き、アサルトライフルの銃口を下ろさせた。「続けろ、トラッフルホッグ=サン」
posted at 21:50:24

【NINJASLAYER】
posted at 23:17:46

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 19:46:18

翻訳チームよりお知らせです。最近エピソード内に【NINJASLAYER】というアイキャッチが出現することにお気づきでしょうか。これは、翻訳担当者がリアルタイム翻訳連載中にスシ切れを起こして停止し、そのまま1日以上ツイートが止まるという現象を回避するために導入された新システムです。
posted at 19:50:38

しかし、本アカでは2エピソードを交互に連載しているため、しばしば「#3終わり」などが入らず【NINJASLAYER】の後に別エピソードに移り、ログが追いにくくなるというエラーが発見されました。ナムアミダブツ! 今後、親愛なる読者のみなさんの混乱を回避するために、対策を講じます。
posted at 19:56:53

なお、本日の連載「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」のセクション#4-2は1時間以内に開始予定です。本来はセクション#5としたほうがわかりやすいのですが、原書のセクションの切れ目を忠実に守るためなので、なにとぞご了承ください。ワッショイ!
posted at 19:58:37

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 20:49:17

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #1

110430

第一話「ネオサイタマ炎上」最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」 #1 「ライク・ア・ブラッドアロー・ストレイト」
posted at 21:11:02

(直前エピソード参照: 「ストレンジャー・ストレンジャー・ザン・フィクション」 http://togetter.com/li/81948
posted at 21:13:35

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posted at 21:14:42

ピラミッド型に積まれたダルマと列を為すカドマツ、そして荘厳な名付き巨大フラワーアレンジメントが防衛機構めいて飾り立てるは、当然ながら、きたるネオサイタマ知事選挙候補者の事務所だ。
posted at 21:17:11

「汚職を憎む」「私は安心」「ありあまる信頼」「ひとり五票入れる価値が実際ある。しかし実際一票なのは惜しい」「利益を約束(法律の範囲内で)」 お決まりの選挙スローガンを書き記したショドーが壁一面に貼り出され、すべてのダルマの左目には黒目が無い。
posted at 21:20:09

上空の夜空をものものしいヘリコプター編隊が斜めに横切る。「ネオ利益」と書かれたノレンをかきわけ、事務所の中から夜風のもとへ現れたのは、白いスーツ姿の長身男性だ。
posted at 21:22:05

首のあたりまである白髪めいた金髪を後ろへ撫でつけ、浅黒い肌、彫像めいた眉目秀麗なその男は、眉間に深い皺を刻み、年齢を類推しがたい超然とした雰囲気を漂わせている。目を開くとその瞳は灰色で謎めき、胸元から取り出した携帯IRC通話機はオブシディアン一枚板のよう。
posted at 21:32:35

「ドーモ、シバタ=サン」事務所へ訪れた支援者が男にオジギした。そのままノレンをかきわけ入っていく。シバタは携帯IRC通話機を指でなぞった。「……ドーモ。ああ、……ああそうだ。問題は起こらない。どう転んでも、長い目で見れば上手くいくようになっている。そう。そのまま進めるように」
posted at 21:40:53

シバタは短い通話を終え、携帯IRC通話機を胸にしまった。そして曇天の夜空を見上げた。
posted at 21:42:11

「シバタ=サン、センセイは?」さきほどの支援者がノレンの奥から顔を出し、尋ねた。「ええ、もう少ししたら、センセイと映像通話がつながりますよ」シバタはにこやかに答えた。「スシでもお食べになってください」
posted at 21:46:36

「スシ!スシですよ!そうそう!アワビチャン!」支援者は緩んだ笑顔で再び中へ入っていった。その背中を一瞥したシバタの視線は恐ろしく虚無的で、それを見たものはそれだけで失禁したことであろう……。
posted at 21:52:52

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posted at 21:53:11

フジキドは電子パルスが流星群めいて無限に流れ続ける空の下にいた。
posted at 21:59:22

ゆっくりと回転する金色の四角い立方体の下、青一色の不自然な地面はなんの遮蔽物も無く、まっすぐの地平線を形作る。見渡すかぎり何も無い。フジキド自身と、彼の前に立つ、凶悪な哄笑を張りつかせた邪悪な黒い姿。ただそのふたつ以外は。
posted at 22:02:41

「なんと情けない、情けない事よフジキド。わしにまかせておれば、今頃オヌシは敵の首級をその手に握っておったであろう」黒いシルエットは哄笑した。その笑いは音ではなく、ぞっとする寒気めいた感覚となってフジキドのニューロンを逆撫でする。
posted at 22:07:27

フジキドはナラク・ニンジャの狂気に耐えた。「力を貸せ」「力を?」ナラク・ニンジャは芝居がかった疑りの声で返した。「力など幾らでも貸してやる!幾らでも!昔からずっとそう言い続けておるぞ?もっと早う言えば、今頃オヌシは敵の首級を……」
posted at 22:14:02

「だが意志は渡さぬ。ただ力を貸せ。私のために」「虫のよい話だ!なんたるワガママ!」ナラク・ニンジャは心底あきれ果てた、という様子で激しく笑った。「観念してインガオホーせよ、フジキド!ワシに体を渡せば、なにもかも滅ぼしてやるでな!そこのフートンで寝ておれ!」「ダメだ」
posted at 22:17:18

「そんな無法は通らぬぞ、フジキド!」「これからその無法を通すのだ」フジキドは不吉なナラク・ニンジャの影へ向かって躊躇せず歩み寄る。「オヌシ……!」「イヤーッ!」
posted at 22:19:50

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posted at 22:21:54

フジキドは跳ね起きた。隣室のアガタがフスマを開けた。「大丈夫?よかった、あなた目を覚まし……ヒッ!」アガタは息を呑んだ。メディ・キットによる応急処置が施されたフジキドの体中から血が噴き出した。
posted at 22:28:56

噴き出た血は超自然的な力によってフジキドの周囲で渦を巻く。アガタが声も出せず震えて見守る中、血は赤黒のニンジャ装束をあっという間に織り上げ、フジキドの体を包んでいた。アガタはその場にへたり込んだ。「ア……アアア……アイエエ」「私はどれくらい寝ていた?何時間?何日だ?」
posted at 22:30:32

「モリタ=サン……?」アガタはフジキドの偽名を呼んだ。フジキドは己の体を見下ろし、「なるほど」無感情に呟く。「アガタ=サン。すまぬ。私だ。時間を知りたい」アガタは震えながら、「バイクに運ばれたあなたは、丸一日、さっきまで……眠っていた……今はウシミツ・アワー……」
posted at 22:39:08

「24時間か」フジキドはフートンの横に厳かに置かれていた「忍」「殺」のメンポに気づいた。アガタが取っていてくれたのだ。「では、アガタ=サン、私のこの姿を?」アガタはやや気持ちを落ち着かせ、頷く。「貴方はボロボロだった。それと同じ装束を着て。装束は塵になってしまったけど」「そうか」
posted at 00:24:18

フジキドはもうろうとしながらバイクから抱え上げられ処置を受けた記憶を少し思い出した。「感謝の言葉もない、アガタ=さん。本当に助かった」フジキドは短くオジギし、「……おかげでまたこうして戦える」「モリタ=サン」アガタは涙した。「悲しいです」「何がですか?」「……いえ」
posted at 00:29:00

ピー!鉄瓶のケトルが鳴る。アガタは隣の台所へ戻って行く。「お湯を沸かしていたの」フジキドはメンポを手に取り、装着した。アガタのいる台所からテレビの音声が聴こえてくる。「エー、こうして、締め切り前日に電撃的に立候補を表明したラオモト・カン候補ですが……」
posted at 00:58:54

「知事選」フジキドは呟いた。テレビ音声は続ける。ラオモトの肉声だ。「私は経済界の実際的な視点にもとづき、これまで言わば屋台骨としてネオサイタマの発展に尽力させていただいた。周囲の人々からの政界進出の勧めを断り続けるのも心苦しい。それゆえ立候補を決めた。やるからにはシッカリやる」
posted at 01:05:25

フジキドは電撃的速度で台所へ飛び込み、画面を凝視した。ダブルのスーツとニンジャ頭巾をつけた尊大な男が主婦と握手し、子供をにこやかに打き抱える。アガタは無言でフジキドの目を見た。そしてアガタは察した。このラオモト・カン候補者が、彼のこの……この恐ろしい何かの、発端であるのだと。
posted at 01:13:10

彼の目には極限の殺意と憎悪があった。そして焦りが。「私は何も知らない」アガタは呟いた。「でも、あなたは行くのね?……今すぐに?」「今すぐにだ」彼は即答した。
posted at 01:16:39

アガタは台所テーブル上のキーを取り、フジキドに渡した。「バイクのキーです」「ありがとう」「他の品々もここに」アガタはフロシキ包みを取った。「アガタ=サン。すまない」「……謝るなんて。私の方こそ、感謝しなくちゃいけないわ。何もかもを」アガタはつとめて優しく笑った。
posted at 01:20:50

「あなたが何者で、何をしに行くのかもしらない私が、こんなことを言っても白々しいだけだけど」アガタは言った。「どうか気をつけて」「……」フジキドは無言でアガタを見た。そして、素早くオジギすると、フロシキつつみを手に取り、ドアを開けて退出した。あっという間に。
posted at 01:24:42

アガタは淡々とクズユを作り、飲んだ。それから声を殺して泣き出した。
posted at 01:29:35

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posted at 01:30:08

「ハローワールド。アイアンオトメ=デス。レディーゴー」キーを挿し込むと、無機質な合成音声がニンジャスレイヤーを歓迎した。黒光りする車体はそれ自体が無慈悲で華麗なパンサーめいた肉食獣のようだ。ライトが点灯し、インジケータに「大人女」の漢字が浮かび上がった。
posted at 01:35:10

ニンジャスレイヤーは即座にシートにまたがり、キックを入れる。ゴアアアア!ゴアアアアア!地獄の猟犬めいた唸り声がニンジャスレイヤーに応える。かつてこのバイクの主はバジリスクという邪悪なニンジャだった。このバイクは今後、今まで以上に殺戮のただ中を行き、血に塗れてゆくことだろう。
posted at 02:12:18

ニンジャスレイヤーはナンシーの身を案じた。生死もわからぬ。あれから24時間以上の経過。事態は刻一刻を争う。それだけではない。ラオモト・カン。選挙が行われれば彼が知事の座を勝ち得るのは自明だ。彼は勝ちイクサのためにどんな手段も取るであろう。……ゆえに、今だ。今しかない。
posted at 02:15:34

ニンジャスレイヤーはアイアンオトメを速度の中に解き放った。その走行痕は炎だ。彼は一直線にハイウェイを目指す。目的地はトコロザワ・ピラー。勝算など考えはしない。行く手を阻むもの全てを排除する。ニンジャを殺す。そしてラオモトを、ダークニンジャを葬る。考えるのはそれだけだ。
posted at 02:19:18

(第一話「ネオサイタマ炎上」最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」 #1 「ライク・ア・ブラッドアロー・ストレイト」#1-1 終わり。「ライク・ア・ブラッドアロー・ストレイト」#1-2へ続く。)
posted at 02:22:21

RT @bootdale: #NJSLYR_Fanzine ノトーリアス=サン。四本の腕を生やしたバイオ・ニンジャ。色々ポーズを取らせてみたアクションフィギュア風。 http://twitpic.com/4rhvh9
posted at 11:32:06

RT @inumaria: ネコに襲われるモウタロウ=タン http://t.co/5Osx2x0 #NJSLYR
posted at 11:34:47

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 12:41:07

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #2

110501

第一話「ネオサイタマ炎上」最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」 #1 「ライク・ア・ブラッドアロー・ストレイト」2
posted at 12:43:12

「アイエエエエ!アバババババーッ!」カブーム!検問所の爆発閃光を背後に残し、アイアンオトメにまたがったニンジャスレイヤーはますます速度を上げる!
posted at 12:48:08

予想通り、ラオモトはニンジャスレイヤーの再襲撃を警戒し、インフラを私する権力を駆使して防衛網を張り巡らせている。検問所もシンジケートの思うがままだ。検問所でアサルトライフルを持ち警戒するクローンヤクザ数人をニンジャ視力で遠方から確認したニンジャスレイヤーは無慈悲であった。
posted at 12:54:11

ウシミツ・アワーの夜空を飛行する24時間マグロツェッペリンは巨大なプロパガンダ掛け軸を垂らし、大衆へラオモト・カンへの投票行為をリコメンドする。赤ん坊を抱き上げた欺瞞的な肖像の上にネオン文字が明滅する。「革新と安心」「まずカネモチが潤えば貧者に大量再配分できてウィン・ウィン関係」
posted at 13:00:05

ハイウェイの眼下、ビル屋上に設置されたオーロラビジョンの映像もやはりラオモトだ。普段はオイラン映像や天気予報であるが、それらをカネで押さえる事など、ラオモトにとっては余りにも容易い。「かように、ネオサイタマ市民の安全は日々脅かされております。無能政府!」ラオモトの音声が轟く。
posted at 13:07:38

「剛腕を振るってオムラ・インダストリを働かせ、素晴らしく治安強化!市民の安全!」拳が斜めに突き出すイメージ映像、「改革」の二文字。「企業減税断行!しかも財源確保!あるところにはあるので健全化!」拳が斜めに突き出すイメージ映像、「健全化」の文字。
posted at 13:13:08

ニンジャスレイヤーはさらにアイアンオトメの速度を加速させる。後方から二台、鬼瓦で武装した装甲車がニンジャスレイヤーと同様に加速。背後に張り付いてくる。瓦屋根天井のハッチが開き、クローンヤクザがミニガンを構えて迫り出した!
posted at 13:16:43

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはほとんどノールックで背後にスリケンを投擲。一台の掃射ヤクザの脳天にスリケンが突き刺さり即死!「ザッケンナコラー!」残る一台の掃射ヤクザがミニガンの乱射を開始する。マズルフラッシュが夜のハイウェイを激しく照らす!
posted at 13:19:47

ニンジャスレイヤーはアイアンオトメをドリフトさせ急ターンをかける。ナムアミダブツ!このままでは装甲車と正面衝突だ!「アッコラー!?スッゾオラー!?」掃射ヤクザは狼狽えながらミニガンでアイアンオトメを破壊しようと試みる。ニンジャスレイヤーは小刻みに蛇行し銃撃を回避!タツジン!
posted at 13:51:36

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは衝突寸前で車体をウイリーさせ、急ブレーキした装甲車のフロント部を滑走して跳ね上がった。「ザッケ……アバババーッ!?」そのままウイリー姿勢で落下してきたアイアンオトメが掃射ヤクザをミニガンごと押し潰す!さらにそこで車体を旋回!「アバババババーッ!」
posted at 14:09:17

隣の装甲車の砲座から死んだ掃射ヤクザが投げ落とされ、ハッチの中から新たな掃射ヤクザが現れた。「ザッケンナコラー!」「イヤーッ!」すかさずニンジャスレイヤーはミニガンの銃口めがけスリケンを六連射「ザッケ……アバババーッ!」カブーム!砲身にスリケンを押し込まれたミニガンは暴発し爆発!
posted at 14:13:31

ニンジャスレイヤーはアイアンオトメをジャンプさせ、再びハイウェイに着地した。二台の装甲車はグリップを失い、相互に側面衝突して追跡を脱落する。「市民病院など過去の遺物!私は納税者の皆さんを守ります。治療を受ける資格のない無産階級者の危険……」ラオモトのスピーチ映像は繰り返される。
posted at 14:24:11

プァーン!クラクションが鳴り、前方の箱トラックが徐々に速度を落としてアイアンオトメの前にはりついた。コンテナのシャッターには「度胸」とミンチョ書きされている。シャッターが上へ引き上げられていく。数十人のクローンヤクザがアサルトライフルを構え、ニンジャスレイヤーを狙っている!
posted at 14:41:05

「イヤーッ!」ゴウランガ!バイオペンギンを喰らい尽くすバイオクジラのごとく、アイアンオトメは一瞬の躊躇すらなく、コンテナ内へジャンプして飛び込み、アサルトヤクザ隊に上から襲いかかる!「ザ……グワーッ!」「グワーッ!」「アバババババーッ!」「アイエエアバー!」ゴアアア!ゴアアアア!
posted at 14:46:18

ナムアミダブツ!なんたる無慈悲!アサルトライフルを撃つ時間すら与えられず、コンテナ内は血に飢えたマシンの質量殺戮の舞台と化した!「アバババババーッ!」「アバ、アババババババババ!」アイアンオトメが跳ね散らかす血反吐とペースト状の肉片でコンテナ内が真っ赤に染まる!
posted at 15:04:03

血みどろのコンテナ内でニンジャスレイヤーはアイアンオトメのエンジンを唸らせる。この集団には少なからずクローンヤクザのみならず生身ヤクザも混じっていたのだ。だがニンジャスレイヤーは敵に対してなんの憐れみも抱かぬ。
posted at 15:10:15

旋回してコンテナから飛び出すと、おそるべきターンを決めてトラックを一気に追い抜き、運転席で仰天する運転ヤクザへスリケンを投擲!「イヤーッ!」「グワーッ!」サイドガラスを貫通したスリケンに眼球から脳を破壊された運転者は即死!アイアンオトメに抜き去られたトラックは横転し炎上する!
posted at 15:14:16

「働かざるもの食うべからず。勤勉な市民の皆さんの努力を、不満ばかり言っている者らの怠慢で台無しにするなど、まこと遺憾なこと。社会保障事業は抜本的に見直し……」ラオモトのスピーチは続く。バラバラバラバラ!上空の爆音は戦闘ヘリだ。ソウカイヤがいよいよニンジャスレイヤーを排除にかかる。
posted at 15:23:54

スポスポスポスポ!スポスポスポスポ!上空からのグレネード掃射だ。ニンジャスレイヤーは激しい爆発を意に介さず、スピードを上げて走り抜ける!「イヤーッ!」その前方で突如、白いヘイズ・ネットが展開!ニンジャスレイヤーは車体をほぼ横倒しにスライディングさせてネットをくぐり抜ける!
posted at 15:46:51

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン」前方でアイアンオトメに速度を合わせる装甲車の屋根瓦上で仁王立ちするニンジャから、風に乗って名乗り声が届く。深緑のニンジャ装束とそのメンポをフジキドは覚えている。忘れようはずもない。「ブラックヘイズです。ゴキゲンヨ!」
posted at 16:14:52

「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーは走行するアイアンオトメ上で一瞬立ち上がり、オジギ動作を行った。「ブラックヘイズ=サン。確かにそんな名前のニンジャがいたようにも思う。情けなくシッポを巻いて逃走したニンジャが」
posted at 16:49:10

「手厳しいな」ブラックヘイズは笑った。「俺はプロフェッショナルなんだ。だが、貴様こそよく生き延びたものよ、あの面倒なゾンビーニンジャを相手に。その後も大暴れだな、ええ?……バジリスク=サンを殺ったニュースにも驚いたぞ。そのヘルヒキャクのバイクは奴の遺品よな」
posted at 16:54:31

「くだらんお喋りは止めにしたらどうだ」ニンジャスレイヤーは無感情に遮った。ブラックヘイズは肩を揺すって笑い、特殊メンポに葉巻を挿し込み着火する。「ま、そう焦らんでも、ギャランティー分は働かせてもらうさ。始めるとしよう」
posted at 17:02:08

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが先手を打った。アイアンオトメ上で立ち、ブラックヘイズへ向けてスリケンを5連射!「イヤーッ!」ブラックヘイズが装甲車の上で腕を振ると、黒いヘイズネットが手首から展開してスリケンをまとめて絡め取る。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはそれを無視!
posted at 17:16:48

絶え間のないスリケン投擲がブラックヘイズに襲いかかる!「イヤーッ!イヤーッ!」ブラックヘイズのヘイズネットが繰り返しそれを絡め取って行く。膠着状態か!いや違う!
posted at 17:26:32

「返してやろう!イヤーッ!」ブラックヘイズがヘイズネットを打ち振ると、絡め取られていたスリケンがニンジャスレイヤーへまとめてクラスター爆弾めいて飛び散った!危険!
posted at 17:33:19

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはアイアンオトメを急加速、車体をウイリーさせ、それを盾替わりにブラックヘイズの装甲車へ突進する。特殊カーボンナノチューブ製のタイヤはパンク知らずだ!
posted at 21:51:58

「そしてこれでチェックメイトだ!イヤーッ!」ブラックヘイズがもう片方の手を突き出す。装甲車へ突っ込むアイアンオトメの前方に黒いヘイズネットが展開!ナムサン、絡め取られてしまうぞ!「イヤーッ!」アイアンオトメが転倒!横倒しの車体が道路を滑る!
posted at 21:54:35

「終わりかニンジャスレイヤー=サン……何?」ブラックヘイズは目を見張った。アイアンオトメにニンジャスレイヤーの姿無し。ではどこだ!頭上!「イヤーッ!」「バカな!グワーッ!」ニンジャスレイヤーの跳躍からのクロスチョップを防ぎきれず、ブラックヘイズはニンジャスレイヤーに打ち倒された!
posted at 22:14:33

いかなるワザマエか、ニンジャスレイヤーはあえてアイアンオトメを転倒させ、地面を滑るその車体を蹴って自らは高く跳躍、車体はネットの下を潜らせたのである。ブラックヘイズの判断を凌駕するその戦闘センス!
posted at 22:16:47

装甲車の屋根瓦上でニンジャスレイヤーはブラックヘイズのマウントポジションを取った。「慈悲は無い。イヤーッ!」右手でパウンド!「イヤーッ!」ブラックヘイズがガード!「イヤーッ!」左手でパウンド!「イヤーッ!」ブラックヘイズがガード!
posted at 22:19:29

「イヤーッ!」右手でパウンド!「イヤーッ!」ブラックヘイズがガード!「イヤーッ!」左手でパウンド!「イヤーッ!」ブラックヘイズがガード!「イヤーッ!」右手でパウンド!「イヤーッ!」ブラックヘイズがガード!「イヤーッ!」左手でパウンド!「イヤーッ!」ブラックヘイズがガード!
posted at 22:20:01

「イヤーッ!」右手でパウンド!ブラックヘイズのガードが破られる!「グワーッ!」「イヤーッ!」左手でパウンド!ブラックヘイズのガードが破られる!「グワーッ!」「イヤーッ!」右手でパウンド!「グワーッ!」「イヤーッ!」左手でパウンド!「グワーッ!」
posted at 22:21:33

「クソッ!振り落とせ!」ブラックヘイズがインカムで装甲車の運転ヤクザへ指示を出す。「イヤーッ!」右手パウンド!「グワーッ!」「イヤーッ!」左手パウンド!「グワーッ!」
posted at 22:23:38

ブラックヘイズの指示を受け、装甲車が激しい蛇行運転を開始した。「ウヌッ!?」ニンジャスレイヤーのマウントが緩む。「イヤーッ!」「グワーッ!?」ブラックヘイズは右脚を抜き、ニンジャスレイヤーの胸を蹴りつける。しかしニンジャスレイヤーは離れない。片手でその脚を抱え込む!
posted at 22:30:10

「面倒な奴……!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはブラックヘイズの脚を抱えたまま、もう片方の手で道路へドウグ社のカギ付きロープを投擲。目標は路上を横倒しで滑るアイアンオトメの車体だ。
posted at 22:33:26

ロープのカギはアイアンオトメの装甲に噛みつき、捲き上げ機構で車体を転倒状態から引き上げた。アイアンオトメのエンジンは回転したままである。たちまちアイアンオトメは無人状態で走行を再開!
posted at 22:34:15

「イヤーッ!」ブラックヘイズが右脚を振りほどき、両脚のスプリングキックで反撃!「グワーッ!」そのまま立ち上がる。「イヤーッ!」ブラックヘイズはニンジャスレイヤーへチョップを繰り出す。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは手の甲でチョップを弾く。そして顔面を殴りつける!「グワーッ!」
posted at 22:38:33

よろけたブラックヘイズの腹部に、ニンジャスレイヤーはショートフックを叩き込む。「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーはドウグ・ロープを瞬時に巻き戻した。そしてその鈎をブラックヘイズの左腕へ素早く巻きつける。「貴様」「ブラックヘイズ=サン。これからジゴク・ドライブの時間だ」
posted at 22:46:01

「貴様ッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは装甲車上から下のアイアンオトメへ跳躍し、見事にシートへ着席した。エンジンに活を入れ、一気に加速する。「グワーッ!」引きずられたブラックヘイズが装甲車から転落!ニンジャスレイヤーは自分の腕に巻きつけたロープの片端を決して離さぬ!
posted at 22:51:19

「グワーッ!……グワーッ!……グワーッ!」加速するアイアンオトメの10フィート後方で、ロープにつながれたブラックヘイズの体が道路にバウンドし続ける。「グワーッ!……グワーッ!……グワーッ!」
posted at 22:52:59

ブラックヘイズは懐中ナイフを取り出し、巻きついたロープに斬りつける。しかしドウグ社のロープは刃を受け付けない!「ダメか、グワーッ!……グワーッ!……グワーッ!」ブラックヘイズの体が道路上をバウンド!
posted at 22:55:45

「そのままゆっくり死んでおれ!」ニンジャスレイヤーは後方のブラックヘイズへ叫ぶ。「グワーッ!……グワーッ!……グワーッ!……仕方あるまいグワーッ!」路上をバウンドしながら、血まみれのブラックヘイズは懐中ナイフを肘関節に押し当てる。「面倒な事だ、忌々しい」
posted at 22:58:35

無慈悲に高速で引きずられながら、ブラックヘイズは己の左腕の肘から先を、懐中ナイフで……「イイイイ…イヤーッ!」ナムアミダブツ!肘先をまるごとケジメした!ナムアミダブツ!ゴウランガ!あっという間にニンジャスレイヤーの後方へ、ブラックヘイズは置き去りだ!
posted at 23:03:16

「この勝負はくれてやるニンジャスレイヤー=サン!」かすかにブラックヘイズの声が届く。殺し損ねたか?だが今更引き返しカイシャクしに行くヒマは無い。ニンジャスレイヤーはロープを巻き上げ、その先端に巻きついたままのブラックヘイズの左腕の肘から先を拘束解除、路上へ振り捨てる。
posted at 23:06:30

「健康な人間にとって無駄なので、施設は売却……」ラオモトのスピーチが遠ざかる。前方にアーチ橋が接近。この橋を渡ればトコロザワだ。ブラックヘイズをフレンドリー攻撃しないよう戦線離脱していた戦闘ヘリがしつこく戻ってくる。スポスポスポスポ!スポスポスポスポ!グレネードをばら撒く!
posted at 23:23:41

速度を保ったタツジン的蛇行運転で爆発を潜りぬけ、ニンジャスレイヤーはアーチ橋にさしかかる。空中のヘリコプターを睨んだニンジャスレイヤーは、道路からアーチ橋のアーチに乗り上げた。そのまま加速、橋アーチをアイアンオトメで駆け上る!
posted at 23:26:47

「イヤーッ!」アーチ橋の頂点付近、十分な高度を稼いだニンジャスレイヤーは、アイアンオトメからジャンプ!ヘリコプターへ飛びついた!「アイエエエエエエ!?」ヘリ操縦ヤクザがコックピット・ガラスに張り付いたニンジャスレイヤーを前にして失禁!
posted at 23:29:17

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーのチョップがコクピット・ガラスを叩き割る!「アイエエエエ!」ヘリ操縦ヤクザが引き続き失禁!「イヤーッ!」「アバーッ!」ガラスを割って侵入したニンジャスレイヤーの水平チョップがヘリ操縦ヤクザの首を切断!
posted at 23:31:43

斜めに空を切って墜落するヘリが、アーチ橋を滑り降りてなお直進する無人アイアンオトメと交錯した。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはコクピットから跳躍しアイアンオトメに再び戻り、加速して引き離す。背後でヘリコプターが河川敷に激突、爆発炎上して煙を吹き上げる!
posted at 23:35:50

アイアンオトメにまたがり、全ての追跡者と障害を排除してトコロザワの貪婪たる都市風景に滑り降りていくニンジャスレイヤーは、まるで古事記に記されたヨモツ・ニンジャの血の矢の伝説そのものだ。月から地上へ放たれ、障害物全てを無残に破壊してヒルコ・ニンジャを殺した呪いの矢……。
posted at 23:43:03

その矢が向かうは、トコロザワ・ピラー。曇天に投げかけられる「制空権」「権力」「財界」の漢字サーチライト。ライトアップされた不吉な天守閣の威容が、今、サツバツたる速度で侵入を試みるニンジャスレイヤーを睨み下ろす!
posted at 23:46:17

(第一話「ネオサイタマ炎上」最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」 #1 「ライク・ア・ブラッドアロー・ストレイト」-2 終わり。#1-3へ続く)
posted at 23:47:38

RT @8go8: ドーモ、8go8です。ヘルヒキャク社製の最新モデル[アイアンオトメ]1200ccを描かせていただきました。紙芝居風。ワッショイ! http://p.tl/a/d7Bp by 8go8 #drawr #njslyr
posted at 23:51:20

RT @hayano: (科学者列伝)1939年の今日5/2 飯島澄男先生御誕生.カーボンナノチューブの発見で2009年度文化勲章.Natureに1991年に掲載された,カーボンナノチューブ発見の論文はこちら→http://bit.ly/iBdUxN
posted at 07:30:55

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #3

110502

第一話「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」 #1 「ライク・ア・ブラッドアロー・ストレイト」-3
posted at 12:25:13

トコロザワ・ピラー前広場はハイウェイにおける激烈な抵抗と打って変わって人っ子一人おらず、しんと静まり返っていた。ニンジャスレイヤーは一年中満開のバイオ桜の中をアイアンオトメで走り抜ける。桜並木が開け、トコロザワ・ピラーの威容が姿をあらわす。
posted at 12:50:14

窓は外からだと壁との判別がつかず、滑らかな巨大オベリスクめいている。特殊なガラスなのだ。大仰で広い大理石階段を上がった先にビルの正門がある。まず目を引くのは正門を守るかのように設置された巨大なミヤモト・マサシ像だ。ラオモト・カンが敬愛する哲学者にして戦闘者。
posted at 13:00:14

通常の人間の1.5倍の縮尺で作られた鋼の彫像。右手に持ったカタナを天に向け、左手のカタナは地面を指す。そしてゲタを履いた足でディーモンの頭を踏みつけている。ディーモンはしかめ面で涙を流し、この屈辱に耐えている。ディーモンを踏む英雄は江戸時代に好まれたモチーフだ。
posted at 13:05:41

ニンジャスレイヤーはアイアンオトメを無造作に停止させ、気休めのステルス機構をアクティブにして捨て置くと、単独で階段を昇りだした。正門は巨大な自動回転式のドアーである。ゴウン、ゴウン、重苦しい稼働音とともに、回転ドアーはウシミツアワーの今も動き続けている。
posted at 13:39:24

オムラ製のこの自動回転ドアーにタイミングよく入り込み通過するのは簡単ではない。「挟まれ防止センサーが働き安全」とうたわれているが、実際にはネオサイタマで年に100人近くがこの拒否的暴力システムに押し潰され、ネギトロめいて命を落とす。サラリマンには度胸と反射神経が要求されるのだ。
posted at 13:44:01

この時間でこの自動回転ドアーを稼働させている意図は何であろう。敵はニンジャスレイヤーを誘っているのやも知れぬ。……ゴウン……ゴウン……人間阻害社会の象徴めいた巨大機械を目指し、ニンジャスレイヤーはツカツカと歩みを進める。鉄の塊が迫る、アブナイ!
posted at 13:51:56

ゴウン……ゴウン……「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは回転ドアの回転方向と逆を向き、迫る強化ガラスをチョップで叩き割った!「イヤーッ!」さらに一枚!「イヤーッ!」さらに一枚!「イヤーッ!」さらに一枚!
posted at 13:56:02

すべてのガラスをブチ割ったニンジャスレイヤーは、回転ドアの支柱を激しく殴りつける!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」みるみる歪んで、軋み出すドア機構!さらに殴りつける!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」
posted at 13:59:20

----(親愛なる読者の皆様)---- 只今、翻訳パラグラフの欠落が原作者より指摘されました。原因者はケジメされます。復旧作業を行います。誠に申し訳ありません。
posted at 14:08:56

「……」ニンジャスレイヤーは回転ドアーを睨みつける。ウシミツアワー。この時間にドアーを稼働させている意図は何であろう。当然、社内にはウシミツ残業サラリマンは沢山いるはずだ。しかし通常、規定を超す残業は違法とされる為、形式上はこのビルに労働者が残っていないタテマエにせねばならない。
posted at 14:18:11

ゆえに深夜の残業サラリマンは社屋からやや離れた場所の下水道に通じる洞窟めいた専用通路を通り、マンホールをしめやかに出入りするのが常なのだ。フジキドの脳裏にあの陰鬱な日課がよぎる。
posted at 14:29:05

平常時動いていないものが動くこの不自然……ニンジャスレイヤーを誘っているのであろうか?彼はしかし、躊躇なく歩みを進める。ゴウン……ゴウン……回転ドアーは重苦しく動き続ける。
posted at 14:43:10

これ程の質量が動く中へタイミング良く入り込む?危険はないのか?貴方の疑問は全く正しい。オムラ社製のこの機構は「挟まれ防止センサーが働き安全」と謳っている。実際にはネオサイタマで年100人近くがこの暴力的機構に絡んだ事故で命を落とす。フジキドの同僚にも一人いた。彼にも妻子があった。
posted at 14:56:27

ゴウン……ゴウン……人間阻害社会の象徴めいた巨大鋼鉄回転体の懐へ、ニンジャスレイヤーはツカツカと歩みを進める。ゴウン……ゴウン……背後からガラス扉が迫る、アブナイ!「イヤーッ!」
posted at 15:11:29

ニンジャスレイヤーは180度背後へ向き直り、真後ろまで迫っていた強化ガラスをチョップで叩き割った!強化ガラスが砕け散る!さらに一枚!「イヤーッ!」強化ガラスが砕け散る!さらに一枚!「イヤーッ!」強化ガラスが砕け散る!さらに一枚!「イヤーッ!」強化ガラスが砕け散る!
posted at 15:14:21

すべてのガラスをブチ割ったニンジャスレイヤーは、今度は回転ドアの支柱を激しく殴りつける!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」みるみる歪んで、軋み出すドア機構!さらに殴りつける!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」
posted at 15:15:37

ギギッ、ギギギ、ギギゴゴゴ!ついに自動回転ドアーは呻きながら停止した。これはラオモト、そしてラオモトに連なるラオモト的価値観全てに向けた、彼なりの宣戦布告だ!ニンジャスレイヤーは無人の受付ロビーへ足を踏み入れる。天井の巨大電子ボンボリに明かりが灯る!
posted at 15:20:09

出迎え合図は円形のロビーを囲むように扇状に配置されたエレベーター。立て続けにキョートめいた到着マイコ音声が鳴る。「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」「一階ドスエ」
posted at 15:25:11

ニンジャスレイヤーは眉一つ動かさずジュー・ジツの構えをとった。……ポン!電子音が鳴り、一斉にエレベーターのカーボンショウジ戸が開く!そこから一斉に躍り出る数えきれぬ人数のクローンヤクザ!「「「「「「「「「「「「「「ザッケンナコラー!」」」」」」」」」」」」」一斉にチャカを構える!
posted at 15:32:04

パン、パン、パン。乾いた拍手が無言のロビー空間にこだまする。「ムッハハハハハ!ムッハハハハハ!」正面エレベーターの方向だ。古事記に記された海割り伝説めいて、チャカを構えたクローンヤクザが左右に退き、声の主とニンジャスレイヤーの視線が結ばれる。
posted at 15:38:39

「……」ニンジャスレイヤーは無言だ。ジュー・ジツの構えを維持し、全方向からの攻撃に引き続き備える。「ムッハハハハハ!ムッハハハハハ!よくぞオメオメと現れたなニンジャスレイヤー=サン!あのオイランめいたコーカソイド女によほどご執心と見える!チンチン=カモカモか!ムッハハハハハ!」
posted at 15:42:29

声の主、ニンジャスレイヤーと睨み合うのはヒョロリと背の高いニンジャである。オニめいたメンポは通常と逆で、鼻から上を覆うが歪んだ笑みを浮かべた口は隠さない。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン!我輩は『ラオモトの声』である!ムッハハハハハ!」
posted at 15:56:52

「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」「ドーモ」ニンジャスレイヤーと『ラオモトの声』は同時にオジギした。「道化め」「ムハハハハ!我輩は『ラオモトの声』だ!」
posted at 16:22:05

「今宵は天守閣にあらせられる我がボスからありがたきお言葉をことづかっておる。ニンジャスレイヤー=サン、今すぐドゲザし、ソウカイ・シンジケートに忠誠を誓え!さすれば寛大なボスはケジメ無しでお前をシックスゲイツに迎え入れるとの事!ムハハハハハ!」
posted at 16:25:42

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを『ラオモトの声』めがけ投げつけた。「アイエッ!やめろ!」『ラオモトの声』は慌ててブリッジしてスリケンを回避!「まったく交渉もクソもない狂犬とはこの事だな!あのナンシーとかいう女にもその調子で犬めいて毎晩サカっておったか!ムハハハ!」
posted at 16:30:49

ナンシー?ニンジャスレイヤーの心臓が一瞬鼓動スピードを速めた。彼女の名前は巧妙に隠され続けてきたはず。まだ未熟だったナンシーを補足したコッカトリスはその場でニンジャスレイヤーに殺され、その後ナンシーはハッキングして情報を全て消し去っていた。なぜ彼女の名が再び?理由は自明だ。
posted at 16:36:15

「どうした、ニンジャスレイヤー=サン?なぁに案ずる事は無い。あのコーカソイド女の肉体は今頃ラオモト=サンが思う存分ねぶり尽くしておられるに違いない!あの女、よがり狂って自身とお前の秘密を洗いざらいブチまけるだろう!その後は我輩に下げ渡して貰うのだ!ムハハハハハ!」「イヤーッ!」
posted at 16:43:41

「アイエッ!」問答無用でニンジャスレイヤーから投ぜられたスリケンを慌ててブリッジ回避し、『ラオモトの声』は喚く。「バカども!奴がスリケンを投げてきたらちゃんと盾にならんか!あとでケジメだ!……ニンジャスレイヤー=サン。ドゲザせんのなら、せいぜい苦しんで死んでもらおう。やれ!」
posted at 16:46:30

「「「「「「「「「「「「「ザッケンナコラー!」」」」」」」」」」」」」クローンヤクザが同時に撃鉄を起こす。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはその場でコマめいて高速回転した。「「「「「「「「「「「「「グワーッ!」」」」」」」」」」」」」
posted at 16:58:18

ゴウランガ!ニンジャスレイヤーは一度の回転で何枚のスリケンを投げたのか?大量のクローンヤクザ達が首からバイオ血液を吹き出し絶命して倒れる!「ザ、ザッケンナコラー!」「アッコラー!」クローンヤクザ達がうろたえながらニンジャスレイヤーへ発砲しようとした時、既に彼はそこにはおらぬ!
posted at 17:03:36

「イヤーッ!」「グワーッ!」クローンヤクザ人混みの一画、間欠泉めいて数人が血を噴きながら空中へ跳ね上げられた。「ええい、そこだ!かかれ!クソッ!」『ラオモトの声』が喚く。
posted at 17:22:12

彼のニンジャ注意力は姿勢を低くしてクローンヤクザの中へ紛れ込んだニンジャスレイヤーを捉えているが、クローンヤクザはダメだ!「イヤーッ!」「グワーッ!」ふたたび間欠泉めいて数人のクローンヤクザが血を噴きながら空中に跳ね上げられた。「そこだ!クソーッ!」
posted at 17:23:40

慌ただしくそこかしこを指差しながら『ラオモトの声』は喚き散らした。だが間に合わない!「グワーッ!」「グワーッ!」「ザ、ザッケンナコラー!」「やめろ乱戦下でチャカは……」「グワーッ!」「ザ、ザッケンナコラー!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 17:29:05

統率された指揮系統環境がひとたび乱されるとクローンヤクザは脆い!でたらめな方向に発砲するクローンヤクザのフレンドリー射撃が相次ぎ、ますます乱戦の状況は悪化する。「イヤーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」グワーッ!」まただ!三体のクローンヤクザがひときわ高く跳ね上げられた!
posted at 17:38:57

「イヤーッ!」見よ!恐るべきニンジャ敏捷性によって、ニンジャスレイヤーは空中に跳ね上げられた三体のクローンヤクザの死体を飛び石めいて蹴りながら天井へ飛び上がる! 「そこだ!撃て!今なら撃てーッ!」「ザッケンナコラー!」「スッゾオラー!」発砲の嵐!
posted at 17:43:12

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは竜巻めいて空中で蹴りを繰り出す。天井から吊り下がる巨大ボンボリの支えが砕けた。これが彼の狙いであった!「「「「「「「ザッケンナコラー!?」」」」」」巨大ボンボリは下のクローンヤクザ集団へ重苦しく落下する!「「「「「「グワーッ!」」」」」」
posted at 17:48:40

巻き上がる破片と粉塵の中から、ゆっくりとニンジャスレイヤーが進み出る。「ア……ア……アイエエ……?」『ラオモトの声』は失禁しながら後ずさりした。歩きながらニンジャスレイヤーは無慈悲に言った。「あと何人残っている?かかって来させるがいい」
posted at 17:53:08

「アイッアイエエエエエエー!」『ラオモトの声』は背後の中央エレベーターめがけて逃走した。カーボンショウジ戸が開き、『ラオモトの声』は中に駆け込んで「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの全力疾走飛び蹴りがその背中に突き刺さった!
posted at 17:56:21

ニンジャスレイヤーはエレベーターの壁に叩きつけられた『ラオモトの声』に続いてエレベーターに乗り込んだ。そして「閉」ボタンを押した。「ドーゾ、お客様、何階か言ってください」「アイエエッ……アバッ……助け」「イヤーッ!」無防備な顎に右ストレートを叩き込む!「グワーッ!」
posted at 18:01:36

殴られた『ラオモトの声』の背中がエレベーター内壁に再度打ち付けつけられる。さらに左ストレートが無防備な顎に叩き込まれる!「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 19:07:27

「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」右ストレートが叩き込まれる!「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」左ストレートが叩き込まれる!「た、助けてくれ」
posted at 19:09:28

「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」右ストレートが叩き込まれる!「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」左ストレートが叩き込まれる!「助けて!」
posted at 19:09:55

「……。……何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」右ストレートが叩き込まれる!「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」左ストレートが叩き込まれる!「言う、言う……天守閣だろう……言う……」
posted at 19:10:44

「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」右ストレートが叩き込まれる!「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」左ストレートが叩き込まれる!「か、隠し階があるのだ、本当だ、このエレベーターを操作する……」
posted at 19:11:35

「……。……何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」右ストレートが叩き込まれる!「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」左ストレートが叩き込まれる!
posted at 19:11:46

「ナ……ナンシー……ナンシー=サンか?悪かった、我輩は居場所を知らん、本当だ」「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」右ストレートが叩き込まれる!「何階ですか?イヤーッ!」「グワーッ!」左ストレートが叩き込まれる!
posted at 19:14:06

「もうゆるしてくれ……本当なんだ、操作盤に秘密がある」「イヤーッ!」「グワーッ!そこを使って一気に15階のトレーニンググラウンドまで上がるんだ、そこから」「イヤーッ!」「グワーッ!そこから別エレベーター……上がシンジケート領域なのだ、少なくともナンシーさんは……そこより上……」
posted at 19:17:30

ニンジャスレイヤーは手を止めた。「……やれ」「アイエエ……」壁際から解放された『ラオモトの声』は操作盤に手を延ばし、階数ボタンを順番に押した。8,9,3,8,9,3,8,9,3。マイコ音声がアナウンスする。「直通ドスエ」エレベーターが上昇を開始する……
posted at 19:22:33

上昇の重力が急激にかかる。相当な速度なのだ。操作盤は11階までしか無い。 「頼む……」ズルズルと座り込んだ『ラオモトの声』が息も絶え絶えに言う。「我輩……お、俺はただのメッセンジャーに過ぎないのだ……許してくれ……」ニンジャスレイヤーは腕組みして見下ろした。「そうか」
posted at 19:28:39

「ここから先は……ニンジャの世界……天守閣に続くフロアーは……シックスゲイツの六人が……」「……」ポーン!マイコ音声がアナウンスする。「トレーニンググラウンドドスエ。成せばなる!」
posted at 19:32:07

カーボンショウジ戸が厳かに開く。その先は闇。ニンジャスレイヤーはゆっくりとエレベーターから進み出る……その直前で彼は振り返った。「イヤーッ!」「グワーッ!?」『ラオモトの声』の脳天にチョップを振り下ろし、頭蓋骨と脳を無慈悲に粉砕した。ナムアミダブツ!
posted at 19:36:35

「……ニンジャ殺すべし」闇の中へ踏み出すニンジャスレイヤーの背後で、『ラオモトの声』は爆発四散した。「サヨナラ!」闇が一瞬照らされる。ここは……崖、か?
posted at 19:40:05

闇はすぐに再び照らし出された。今度は天井の巨大ボンボリによって。ニンジャスレイヤーはトレーニンググラウンドの光景を見渡した。「……よかろう」
posted at 19:41:38

(第一話「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」 #1 「ライク・ア・ブラッドアロー・ストレイト」-3 終わり。#4に続く
posted at 19:43:08

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #4

110505

第一話「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」 #1 「ライク・ア・ブラッドアロー・ストレイト」-4
posted at 13:06:37

ニンジャスレイヤーは巨大ボンボリで照らし出された空間を見渡した。今いる場所はごく狭いバルコニーめいた足場となっている。手摺は無く、もしニンジャスレイヤーがニュービーであり暗闇を果敢に飛び出していたら、真っ逆さまに転落していた事であろう。
posted at 13:20:53

広大な空間の向こうには同様にバルコニー状の足場があり、ショウジ戸がある。ショウジ戸の 上には額縁入りのショドーで「続き」と書かれている。眼下はトゲが無数に生えた剣呑な床だ。トゲには白骨化した死体が幾つか引っかかったままになっている。
posted at 13:27:46

ニンジャスレイヤーはカギつきロープを対岸の額縁に向かって投擲した。ニンジャ腕力で投げられ長距離を飛んだカギは、ガッチリと額縁をくわえ込んだ。数度強く引いて手応えを確かめると、こちらがわのショウジ戸の上にある額縁「初心」に反対側を固定した。これでロープが張り渡された格好になる。
posted at 14:05:08

ニンジャスレイヤーは躊躇なくロープにぶらさがり、素早く両手を交互に動かして渡り始めた。あの「続き」のショウジ戸の先がトレーニンググラウンドの本番で、この崖を渡れない者には参加資格無しとでもいう事だろうか?なんとバカバカしい通過儀礼であろう。
posted at 14:26:30

半ばまで進んだ時である。滑らかな壁に突然、四角い銃眼が複数開き、ヤリがせり出した。ニンジャスレイヤーは特段、驚く事もなくロープを渡り続ける。このくらいの妨害は当然行われるであろう事はわかっているからだ。
posted at 15:06:25

赤いレーザーポインターがニンジャスレイヤーをスキャンした。ドシッ!ドシッ!音を立ててヤリが続けざまに発射される。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはぶら下がりながら蹴りを繰り出し、リズミカルにヤリを弾き飛ばす。右!左!右!左!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
posted at 15:47:01

ガシャン!追加の銃眼が開く。ナムアミダブツ!新たにせり出してきたのはミニガンだ!掃射を受ければ無傷では済むまい。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはロープを中心にぐるりと回転し、ロープの上にサーカスめいて直立した。ニンジャ平衡感覚のなせる技だ!ミニガンの容赦ない射撃が開始される!
posted at 15:50:34

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはロープの上を風のように駆け抜けた。タツジン!銃弾が追随するがニンジャスレイヤーはその一歩先をゆく。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはロープ上から対岸へ向かって回転しながら跳躍、着地と同時に壁のミニガンへスリケンを投げて破壊した。
posted at 15:53:10

この程度の妨害はニンジャスレイヤーにとってウォームアップにすらならぬのだ!カギつきロープを外し、ロックを解除すると、向こう岸のカギも巻き取られて彼の手に収まった。ショウジ戸を引き開ける。第二のエレベーターだ。迷いなく中へ進む。
posted at 16:03:54

今度のエレベーターは直通ボタンひとつだ。そこに併せてトレーニンググラウンドのガイドとおぼしきウキヨエが設置されていた。この設備は数フロアにまたがるようであるが……「アスレチックフロアドスエ」合成マイコ音声が告げる。ニンジャスレイヤーは踏み出した。
posted at 17:07:24

やはりここもバルコニー状の狭い足場で、下はお決まりのスパイクグラウンドだ。「イヤーッ!」エレベーターから降りた瞬間、ニンジャスレイヤーを頭上から何者かが襲う!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは前転しながら飛び出し、頭上からの謎の攻撃を回避した。アブナイ!崖から落ちるぞ!
posted at 17:15:12

「イヤーッ!」そのままニンジャスレイヤーは素早くジャンプし、手近の……壁から横向きに生えた円柱状の足場に飛び移った。円柱はかかった重みのままにグルグルと回転しニンジャスレイヤーの安定した着地を拒む。引き続きアブナイ!円柱は前へ前へ、飛び石めいて生えている。飛び移るしかない!
posted at 17:19:09

「イヤーッ!」自転する足場から足場へニンジャスレイヤーは壁沿いに飛び移った。対角には安定したバルコニー状の足場がある。そこまで足場が続く。このフロアは広く、対角はまだまだ遠い!「イヤーッ!」背後から飛来する飛び道具を空中のニンジャスレイヤーはチョップで弾き返す。
posted at 17:32:47

ニンジャスレイヤーが弾き返したのは小型のマチェーテだ。この武器には見覚えがある!ニンジャスレイヤーを追って足場をジャンプしてくる異様なニンジャの事を、彼は知っている!「イヤーッ!」追ってくる異様なニンジャは再度小型のマチェーテを投擲した。「イヤーッ!」再度弾き返し、足場を蹴る!
posted at 17:43:57

ニンジャスレイヤーは難しい立ち回りを強いられていた。防御時にバランスを崩せば足場で滑り、眼下のスパイクグラウンドへ真っ逆さまだ。だが、なぜあのニンジャがここに居る?ジャンプを繰り返しながら、ニンジャスレイヤーは追跡者を一瞥する。円錐形の編笠を被った迷彩ニンジャ装束の男を。
posted at 17:58:31

「アイサツも無しか!フォレスト・サワタリ=サン!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げ返した。「イヤーッ!」敵は空中で大振りのマチェーテを振り回し、スリケンを撃ち落とした。「これはアンブッシュの範疇だ、ニンジャスレイヤー=サン。ジャングルでは常に敵に囲まれている!」
posted at 18:04:17

「ジャングル?相変わらず様子のおかしい男だ」ニンジャスレイヤーは舌打ちした。「イヤーッ!」次の足場へ飛び移り「なぜオヌシがここに?サヴァイヴァー・ドージョーはどうした。ソウカイヤの犬になりさがったか?」「それはこっちのセリフだぞニンジャスレイヤー=サン!」フォレストが吠える。
posted at 18:10:41

「おまえこそ、このトレーニンググラウンド内でサバイバルしているおれを排除しに来たのだろうが!イヤーッ!」「イヤーッ!」スリケンと小型マチェーテがぶつかり合い弾け飛ぶ。ニンジャスレイヤーは次の足場へ飛び移った。もう対岸は近い。さらに跳躍!壁へ向かってだ!「イヤーッ!」
posted at 18:19:01

ゴウランガ!ニンジャスレイヤーは垂直の壁を走った!パルクールのタツジンめいた動きはまさにニンジャの本懐である!「イヤーッ!」そのまま彼は壁を蹴ってバルコニーに着地、苦労して足場を飛び移るフォレスト・サワタリへ容赦なくスリケンを連続投擲した!「イヤーッ!イヤーッ!」
posted at 18:25:04

「サイゴン!」フォレストはマチェーテ二刀流となり、五連続で投げつけられたスリケンを弾き返した。「ウヌ、グワーッ!」足元がおろそか!円柱状の足場で滑り、落下しかかる!「サイゴン!」彼は咄嗟の機転を効かせて壁にマチェーテを突き立て、ぶら下がった。「よ、よしこれだ!そこで待っておれ!」
posted at 18:31:18

フォレストはマチェーテを交互にザクザクと壁に突き刺し、ロッククライミングめいてニンジャスレイヤーのいる足場を目指してくる。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げた。「イヤーッ!」フォレストは片方のマチェーテでぶら下がりながら、もう片方でスリケンを弾き返す。「やめろ!」
posted at 18:34:57

「ソウカイヤの犬でないなら、なぜここにいる。イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げた。「やめろ!イヤーッ!」フォレストは登りながらマチェーテでスリケンを弾き返す。「フン、宝はやらんぞ。俺はこの戦場で一週間サバイバルした。救援の到着があと一ヶ月延びようと耐える事ができる」
posted at 18:45:30

「宝だと?相変わらず盗っ人めいた事をしておるのか。イヤーッ!」スリケン投擲!「やめろ!イヤーッ!」フォレストは登りながらスリケンを弾き返す。「フン、何とでも言うがいい。ソウカイヤは何やらゴタついておったが、お前が原因か。捕虜めいた人間を連れている奴も……んん?となるとあれは」
posted at 18:55:12

「イヤーッ!」「やめろ!イヤーッ!……となるとあれは日頃お前とつるんでいるコーカソイド女か?遠目にはわからなかったが……なるほど!これで合点が行く!おれにとっても僥倖だ!」フォレストは倍速で壁を登り出した。コワイ!「宝がポイント倍点だ!あの女はおれのヨメにするのだからな!」
posted at 19:06:15

ビーッ!警告音が鳴り響いた。合成マイコ音声が告げる。「中間ポイントに長く休み過ぎています」……ニンジャスレイヤーの足場が壁に収納され始めた!
posted at 19:26:31

ニンジャスレイヤーは舌打ちし、次の足場を見た。なるほどこのアスレチック空間は、壁沿いに、いわば四角い螺旋を描いて、壁から生える足場が徐々に上へ続いて行くというわけだ。角に到達するたび、この中間ポイントとやらが設置されている……。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは飛び移った。
posted at 19:40:45

「ジェロニモ!」フォレストがマチェーテの柄の上に飛び乗り、そこから、収納されていく足場へ飛び移った。さらにニンジャスレイヤーを追ってジャンプ!「あの女はおれのものだ!」
posted at 19:57:10

新たな足場は狭く長い上り勾配である。先を見ると、何かが複数、転がって来る。スパイクが飛び出した大きな鉄球だ!巻き込まれればネギトロとなる事は確実!そして後ろからはフォレスト・サワタリ。狂ったニンジャではあるがカラテは強い。片手間で相手をして殺せる敵でない事は確かだ。
posted at 20:12:07

フォレストがマチェーテを投げながら追いすがる。「このトレーニンググラウンドに潜伏したおれは突入の糸口を掴むその日まで、ハンモックで休み、携帯レーションやサバカレー・カンを一日一度だけ摂取してサヴァイヴしてきた!おまえごときの生半可な覚悟でこの領域を突破できると思うな!」
posted at 20:32:05

生半可な覚悟だと?フジキドの冷徹な心に憤怒の火が灯る。しかし、おお、前方に注意せよ!背丈ほどもあるスパイク鉄球がニンジャスレイヤーの前方に迫る!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは回転跳躍してそれを飛び越す。ナムサン!さらなる鉄球が複数転がって来る!
posted at 20:40:47

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは回転跳躍してそれを飛び越す。ナムサン!さらなる鉄球が複数転がって来る!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは回転跳躍してそれを飛び越す。ナムサン!さらなる鉄球だ!「イヤーッ!」
posted at 21:05:08

次々に転がって来る鉄球を飛び越え、時に背後のフォレスト・サワタリと飛び道具で応酬し、ニンジャスレイヤーはあっという間に次の中間ポイントに到達した。今度は何だ?道が無い!
posted at 21:35:00

ビーッ!「中間ポイントに長く休み過ぎています」ふたたびマイコ音声だ!「イヤーッ!」フォレストが追いついてきた。「バカめ!ここはこうするのだ!イヤーッ!」フォレストはニンジャスレイヤーを追い抜き、虚空へダイブした。ナムサン!キヨミズ!
posted at 21:40:53

フォレストは壁にしがみつき、体を支えた。「どうだ!お先にシツレイ!女はいただくぞ!」ニンジャスレイヤーは収納されていく足場上で壁の状態を注視した。そして読み取った。微かな凹凸が壁面に線状に仕込まれている。これを使って壁伝いに進めと言うのか。ウカツ!
posted at 21:46:43

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーも足場からジャンプし、壁の微かな切れ込みに指を差し込んだ。フォレストは猿めいたニンジャ握力を駆使してどんどん進んでゆく。ニンジャスレイヤーも負けてはいられない!
posted at 21:53:27

「イヤーッ!」「イヤーッ!」もしも離れた位置に定点カメラがあれば、壁にヤモリめいて張り付いた二人のニンジャが、お互いに蹴りを繰り出して妨害しあいながら徐々に斜め上方向に進んでゆくさまを目撃できることだろう!
posted at 21:56:23

「イヤーッ!」「イヤーッ!」蹴りの応酬!上へ!上へ!「イヤーッ!」「イヤーッ!」蹴りの応酬!上へ!上へ!「イヤーッ!」「イヤーッ!」蹴りの応酬!上へ!上へ!やがてバルコニーに差し掛かる。最終地点と見え、そこにはショウジ戸がある。
posted at 22:31:35

「おれの勝ちだニンジャスレイヤー=サン!」フォレストは壁の凹みにしがみついた姿勢から斜め上方向にジャンプし、バルコニー状の足場に飛び移った。ショウジ戸を引き開けエレベーターのボタンを押した。「サラバ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが閉まりかけのエレベーターに滑り込む!
posted at 22:39:08

エレベーターが急上昇を開始!狭いエレベーター内でニンジャスレイヤーとフォレストは対峙する。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがチョップを繰り出す。「イヤーッ!」フォレストもチョップで反撃!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは立て続けに攻撃、フォレストにマチェーテを抜かせない!
posted at 22:44:34

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがフォレストのキドニーめがけてフックを繰り出す! 「イヤーッ!」フォレストは裏拳でフックを弾き、ニンジャスレイヤーへ目潰しを繰り出す!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは危うくそれをかわし、ショートアッパーを繰り出す!
posted at 22:54:15

「イヤーッ!」フォレストは半身になってアッパーを回避、水平チョップでニンジャスレイヤーの首を狙う!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは身を沈めてそれをかわし、ミゾオチにチョップ突きを繰り出す!「イヤーッ!」フォレストはその手首を打って突きを反らす!
posted at 22:58:03

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはショートフックで脇腹を狙う!「イヤーッ!」フォレストはそれをガード、ショートフックで脇腹を狙う!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはそれをガード、再度フォレストの顎めがけてアッパーを繰り出す!ポーン!「バトルフィールドドスエ!」「グワーッ!」
posted at 23:06:23

エレベーターの到着に一瞬の注意を取られたフォレストはニンジャスレイヤーのアッパーを顎に受けてのけぞる。ショウジ戸が開く!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは回し蹴りをフォレストの腹部にヒットさせた。「グワーッ!」フォレストはエレベーター外へ蹴り出される!
posted at 23:09:22

蹴り出されたフォレストは廊下を滑った。このフロアは先程までと違いオフィスの廊下めいている。フォレストは笑いながら起き上がった。「バカめ!おまえとの戦いなど、おれには二の次、三の次!宝と女はいただくぞ!」踵を返し、フォレストが駆け去る。曲がり角をまがり視界から消えた!
posted at 23:19:17

【NINJASLAYER】
posted at 00:01:18

【NINJASLAYER】
posted at 13:48:37

またしてもウカツ!ニンジャスレイヤーは全力疾走でフォレスト・サワタリの後を追う。角を曲がると開け放たれたカーボンフスマだ。躊躇なく入り込む。鏡張りの広大な空間がそこにあった。ここがバトルフィールドとやらか?フォレストはどこに?ニンジャスレイヤーはニンジャ注意力を張り巡らせる。
posted at 13:56:12

この広大な空間内には四角いタタミ・リングやドヒョウが複数ある他、鏡張りの壁沿いには打撃戦練習のための木人や、ルームランナー、ケンドー・アーマーが並ぶ。ソウカイ・ニンジャ達がスパーリング訓練を行う場所であろうか。床には洗いきれない血のシミがそこかしこにある。
posted at 13:59:52

「ゴジュッポ・ヒャッポ」「成せばなる」「乱打戦」「辞めどきがつかめない」「プロテイン」……それら文言が書かれた壁には沢山のカーボンフスマがある。ここからさらに別のトレーニング施設へ通じているのだろう。厄介な事だ!天井を見上げると禍々しいブッダデーモンのフレスコ画と目が合った。
posted at 14:15:58

「スゥーッ!ハァーッ!」ニンジャスレイヤーはやおら中腰姿勢を取り、チャドー呼吸を行った。フォレスト・サワタリが残したニンジャソウル痕跡を読み取ろうとしたのだ。もともと多くのニンジャ達が日頃から利用する空間であったが、ごく新しい、微弱なニンジャソウル痕跡を感知する事に成功した。
posted at 18:27:13

フォレストはこのトレーニンググラウンドフロアにおけるサヴァイヴァル行為をしきりに自慢していた。出入りするソウカイ・ニンジャの注意をぬって、野伏めいて潜伏していたわけだ。地形の把握はもとより、あの全力疾走、目指すべきルートになんらかの見通しがあっての事だろう。
posted at 18:38:09

この広いバトルフィールド内にカーボンフスマ戸は十以上ある。フォレストの痕跡が続くその中の一つに、ニンジャスレイヤーは迷わず突入した。フォレストは危険なニンジャだ。下手をすればナンシーの身は今以上、最悪以上に最悪な危険にさらされかねない。フスマを引き開けると細い廊下だ。彼は駆ける。
posted at 19:01:40

前方にノレン!「上へ業務用エレベータ」とミンチョ書きされている。ニンジャスレイヤーはノレンをくぐった。「グワーッ!」聞こえてきた悲鳴はフォレストのものだ。ニンジャスレイヤーは立ち止まった。これは!
posted at 19:11:07

彼は四角い竪穴めいた巨大な吹き抜けを前にしていた。足場は水泳の飛び込み競技めいた心もとない出っ張りだ。彼は下を見た。ゴウランガ!50フィート近く下に水面が見える。この竪穴の底はプールなのだ。水面はライトアップされている。水のプールではない。重油のプールである!
posted at 19:16:47

ニンジャスレイヤーは顔を上げた。正方形の金網状の床が宙に浮かんでいる。床の四隅は鎖で吊られ、その鎖は上方の闇に消えている。チャリチャリチャリチャリ。鎖が巻き上げられる音が響き、足場は徐々に上がってゆく。ロウ・ファイなリフト式エレベーターだ。
posted at 19:23:49

「グワーッ!」悲鳴が再度聴こえ、金網上のフォレストが吹き飛ばされて転倒するのが見えた。フォレストは首を振りながら立ち上がる。何者かと戦闘中のようだ。下からではそれ以上の状況は確認できない。いや、躊躇の時間は無い!エレベーターはゆっくり上昇していく。取り残されてはならぬ!
posted at 19:28:56

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは跳躍し、エレベーターの縁にしがみついた。チャリチャリチャリチャリ、鎖で吊られた不安定な足場が身じろぎする。ニンジャスレイヤーはエレベーター上によじ登った。そして対峙する二者を見定める。一人はフォレスト・サワタリ。対するは……この鋼の巨体は!
posted at 19:32:28

「チッ、しぶとい奴め!」フォレストは竹槍を構え、乱入してきたニンジャスレイヤーを睨んだ。「見敵、新たなエナミーを発見。アイサツ・モード重点。ドーモ、モータードクロ、デス」ニンジャスレイヤーへ電子音で応えたのは四本の脚を備えた鋼鉄のマシーンだ!
posted at 19:36:14

かつてニンジャスレイヤーが戦闘したモータードクロは悪夢めいた八本の腕を持ち、それぞれに神話由来の武器を装備していた。だがこのモータードクロの腕は二本。巨大な腕の先はスパイク付きの鉄球になっており、ゴリラめいた胸板には「秩序」「量産型試験機体」とミンチョ書きされている。
posted at 19:39:50

「ニンジャソウル検知!この敵もニンジャ判定ポジティブ!ゼンメツゼンメツゼンメツだ!」ドッシ!ドッシ!四脚で接近、量産型モータードクロがいきなりニンジャスレイヤーに殴りかかる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは鉄球パンチを側転して回避!「キカイにアイサツなど要るまい!」
posted at 19:50:38

「ニンジャスレイヤー=サン!」竹槍を構えたフォレストが呼びかける。「今はおまえの相手をしておられぬ。続きはこのソ連の新兵器を片付けてからだ。ここは戦場だぞ!」「よかろう」ニンジャスレイヤーは頷き、カラテを構えた。「ゼンメツ!ゼンメツだ!イヤーッ!」鉄球パンチが襲いかかる!
posted at 19:56:11

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは鉄球を避けると、振り下ろされたその巨大な腕を蹴ってジャンプ、怪物的意匠の頭を飛び蹴りした。「イヤーッ!」「ピガーッ!」モータードクロがよろめき、四本の脚で踏みとどまる。なんたる安定感!「イヤーッ!」そこへフォレストが竹槍で追撃!
posted at 20:00:13

「ピガーッ!」鋼の四倍の強度を誇るバイオバンブーで脇腹を突かれ、モータードクロがよろめいた。黒いオイルが流れ出す。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがゴリラめいた胸板にジャンプパンチ!「ピガーッ!」モータードクロがよろめく!さらにゴリラめいた胸板にジャンプパンチ!「ピガーッ!」
posted at 20:04:59

「イヤーッ!」「ピガーッ!」「イヤーッ!」「ピガーッ!」ニンジャスレイヤーは繰り返しジャンプパンチを浴びせ、モータードクロをエレベーターの縁へ追い込んでゆく!「ゼンメツゼンメツだ!」胸部プレートが展開、ミニガンが迫り出す!「サイゴン!」ダッシュしたフォレストがヤリを突き出す!
posted at 20:08:54

「ピガガガ!ピガガガーッ!」フォレストの追撃によってついにエレベーターから押し出されたモータードクロは、虚空へ銃弾を乱射しながら落下!はるか下方で重油のプールがその鋼鉄のボディを飲み込む音が聴こえた。ドブン……!「よし邪魔者は片付いた、次はおまえがプールを泳ぐ番……」「待て!」
posted at 20:12:51

ニンジャスレイヤーは頭上の闇を睨んだ。「イヤーッ!」転がり避けたその地点に、巨体が落下してきた。新手のモータードクロだ!「まだ……何!イヤーッ!」フォレストもまた側転して避ける、そのポイントにさらに一体が落下!新たに現れたるは二体!ナムアミダブツ!なんたる量産型!
posted at 20:15:44

「ドーモ、モータードクロです、ニンジャソウル検知!ゼンメツゼンメツゼンメツ」「ゼンメツゼンメツゼンメツだ!」「イヤーッ!」すか さずニンジャスレイヤーがゴリラめいた胸板にジャンプパンチ!「ピガーッ!」「イヤーッ!」さらにゴリラめいた胸板にジャンプパンチ!」「ピガーッ!」
posted at 20:27:24

「ゼンメツだ!」もう一体がニンジャスレイヤーを横から殴ろうとする。だがフォレストは竹槍を突き出し阻止!「サイゴン!」「ピガーッ!」脇腹にヤリを刺すと、片手で道具袋からボーラ(分銅つき投擲ロープ)を取り出し、ニンジャスレイヤーがジャンプパンチを続けるもう一体の脚めがけて投げつける!
posted at 20:33:29

「ピガガガ!ピガガガ!」ナムサン!ボーラはロープ両端の分銅の重みでモータードクロの脚二本をひとまとめにしてしまった。バランスが崩れる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがゴリラめいた胸板にジャンプパンチ!「ピガーッ!」「イヤーッ!」さらにゴリラめいた胸板にジャンプパンチ!
posted at 20:40:36

「ピガガガ!ゼンメツだ!」フォレストに脇腹を刺された一体の胸板プレートが展開、ミニガンが迫り出す!ニンジャスレイヤーへ向かって銃弾を乱射!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは地面を転がってそれをかわす。射線上に位置したもう一体がフレンドリー射撃を受け、エレベーターを転がり落ちた!
posted at 20:44:39

「イヤーッ!」フォレストはマチェーテを取り出し、モータードクロの懐に潜り込んで腹部に突き立てる。「ピガガガ!」機械油やタマゴ、シャリが噴出!「イヤーッ!」さらにマチェーテを取り出し、ミニガンに横から突き立てる。「ピガガガガガ、ガガガ!」ミニガンが暴発!火を吹いた!「ピガガーッ!」
posted at 20:58:43

ニンジャスレイヤーはモータードクロへ向かって全速力でダッシュ!「イイイ……イヤーッ!」飛び蹴りが頭部を一撃で粉砕・切断する!「ピガ、ピガガガッ!ガーッ!」モータードクロは頭部を吹き飛ばされ、火花を散らして活動を停止した!
posted at 21:29:00

フォレストは破壊されたモータードクロからマチェーテを引き抜き、二刀流を構えてニンジャスレイヤーに向き直った。「さあ、これでソ連の援軍は片付いた!決着をつけてやるぞニンジャスレイヤー=サ……ン?」フォレストは訝しげに自分の胸を見下ろした。「……?」「……!」
posted at 21:32:02

血濡れの腕がそこから生えていた。「何……アバッ……?」フォレストがもがいた。彼の背後に立つ影がニンジャスレイヤーを見た。ニンジャスレイヤーは臨戦姿勢だ。一瞬その目が見開かれ、そして憎悪の炎が宿る。「……!」
posted at 21:36:18

「こいつ、心臓が左右逆か」新手のニンジャは無感情に言った。「アバッ……何だと……アバッ……」フォレストは前傾姿勢で苦労してその腕から逃れた。鮮血が噴き出す。「バカな……おれがベトコンにここまで接近を許すはずが無い……バカな……アバッ……」
posted at 21:39:21

「アバッ……イヤーッ!」フォレストは決死の振り向き攻撃を繰り出した。両手のマチェーテを打ち振る!「イヤーッ!」新手のニンジャは僅かに踏み込んだ。フォレストの体がワイヤーで引っ張られたように吹き飛ぶ!「グワーッ!」
posted at 21:51:33

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは飛び込んだ。ポン・パンチ!「イヤーッ!」新手のニンジャは前方へ高く跳躍、ニンジャスレイヤーを飛び越して背後に着地した。「グワーッ!」吹き飛んだフォレストは金網床でバウンドし、転げ落ちる。右手が床の縁を掴む。
posted at 22:05:09

フォレストは必死でエレベーターにぶら下がる。ニンジャ握力は胸の傷から噴き出す血とともに失われてゆく。「ま、待っておれ……アバッ……必ずおれはおまえらにホーチミンの宝を……アバッ……アバッ……、……アバッ」……その手が離れた。
posted at 22:10:25

ニンジャスレイヤーは視界の奥で金網床から力無く落下するフォレストを一瞥し、目を細めた。そしてあらためて敵ニンジャにアイサツした。黒いニンジャ装束のその男に。「ドーモ。ダークニンジャ=サン。ニンジャスレイヤーです。ここで会ったが百年目」
posted at 22:14:27

ダークニンジャはオジギを返し、ジュー・ジツを構えた。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ゴブサタしています」はるか下で重油がフォレストを呑み込むドブンという音が小さく聴こえた。チャリチャリチャリチャリ。エレベーターを巻き上げる鎖が停止する。
posted at 22:20:42

ニンジャスレイヤーはダークニンジャの背後に竪穴の出口の通路を見る。ダークニンジャの手が幻惑的に動く。燃えるような憎悪と殺意がニンジャスレイヤーの視界を染め、全ニューロンを駆け巡る……!
posted at 22:38:16

(第一話「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」 #1 「ライク・ア・ブラッドアロー・ストレイト」終わり。 #2「ダークニンジャ・リターンズ」に続く。)
posted at 22:48:43

RT @osa03: http://twitpic.com/4uhy64 - 一応Y12型のつもりですw
posted at 23:19:11

RT @sargatanash: #NJSLYR【一日一食】サイゴン!フォレスト=サン描いたよ【婚活】 http://twitpic.com/4uk2fp
posted at 23:19:27

RT @edoyahanmyo: フォレスト=サンも食べていたサバカレー、たまに作るが実際うまい 自宅で作る時はトマト味のカレーにサバ・カンヅメを入れてダイコンやコンニャクなどの食材と煮込むのだが、サバミソとトマトがなぜか大変合う #njslyr
posted at 00:49:53

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 18:52:27

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #5

110508

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」 #2 「ダークニンジャ・リターンズ」#1
posted at 18:52:55

ズゥン、と激しくネコソギ・ファンド社のメインオフィスが揺れた。上の階でヨコヅナ・ダンプカー同士が正面衝突したかのような衝撃。地震か?クルーカットのニュービー社員は驚き、サングラスを取って辺りを見渡す。
posted at 19:00:13

広大なメインオフィスの壁は大型LED板でぐるりと覆われ、ネオサイタマの上場企業名、刻一刻と変わる株価、そして三角や丸などの意味深なマークが赤く明滅している。ウシミツ・アワーも近いというのに、数十人以上のサラリマンが残っていた。そして誰一人この震動に動じず、黙々と仕事をしている。
posted at 19:03:10

(((カチグミの俺としたことが、うっかり動揺しちまったぜ……)))クルーカットはデスクの上に置いたサングラスをかけなおし、愛用のバンブー・ソードを握った。彼の頭髪はバイオ植毛によってブロンドに変わっている。日本人の金髪遺伝子所有者は稀であり、交渉時に威圧感を高める効果があるのだ。
posted at 19:07:33

「さあ、ビジネスを再開しようぜモドリ=サン」クルーカットの前には、磨き上げられた高級御影石の床に四つん這いの姿勢を取る、モドリ基盤コーポレーションの社長がいた。ネオサイタマのハイテク企業を陰で支える、家内制手工業会社のひとつだ。モドリ社はネコソギ・ファンドに多大な負債がある。
posted at 19:19:59

「すみません、もう払えません」モドリ社長が怯えた豚のように哀れな声をあげる。「ザッケンナコラー! 成せば成る! 知らんのか! 成せば成るを!!」クルーカットは、敬愛するCEOラオモト・カンのお気に入りのコトワザを、社長の耳元で叫んだ。コワイ!モドリ社長のスラックスが湿る!
posted at 19:26:40

「アイエエエエ!」絶叫するモドリ! クルーカットの心は全能感に満ち溢れていた。三十も年上の社長を跪かせているのだから当然だ。畳み掛けるように、重厚なバンブー・ソードでモドリの尻を打擲!「成せば成る!!」スパーン!スパーン!スパーン!「ンアーッ!!」ナムアミダブツ! 何たる無法か!
posted at 19:40:18

ズゥン、と再びメインオフィスが揺れる。今度はクルーカットも身じろぎしない。冷酷なビジネスマンとして、モドリ社長と交渉を続けた。「ラオモト=サン、バンザイ!」クルーカットの狂信的な叫び声と打擲音、そしてく悲鳴がオフィスに響いた。他の社員はインカムでこのノイズをシャットオフしていた。
posted at 19:43:59

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posted at 19:45:06

ズゥン! 十メートル超の高さから床に叩きつけられたのは、今回はニンジャスレイヤーの番であった。500畳の広大なセレモニールームが震動し、落下点から同心円状に強化タタミがバタバタと跳ねる。「グワーッ!」仰向けにのけぞったニンジャスレイヤーの体が、三メートル近くバウンドした。
posted at 19:58:06

「ムハハハハ! ダークニンジャ=サン、始末せよ!」セレモニールームの壁全面に貼られた大小様々の薄型ディスプレイに、哄笑するラオモトの顔が大写しとなり、次いでその右手が映った。処刑を命ずる古代ローマの暴君のごとく、突き出した親指を……下にする!
posted at 22:26:52

「イヤーッ!」命令を受けたダークニンジャは、超人的スピードでニンジャスレイヤーの落下点へと駆け込む。そして両脚を開いてタタミを強く踏みしめ、手刀の形を取った右手を床の近くまで引いてタメを作った。落ちてくるニンジャスレイヤーの心臓部に狙いを定め、貫くつもりだ!ナムサン!
posted at 22:32:32

だが、むざむざ串刺しにされるニンジャスレイヤーではない!額と胸に手を当ててバランスを取りながらぴんと全身を伸ばし、オリンピック高飛び込み選手のごとく空中で巧みに身をひねった!タツジン!一瞬にして形勢逆転し、高所の戦闘効果を得る!「イヤーッ!」そのまま下の敵に向けてスリケンを乱射!
posted at 22:37:50

「チィーッ!」ダークニンジャは両手の人差し指と中指でスリケンを逸らす。それから素早く戦況分析を行い、危険を察知すると、五連続のバク転を決めて落下地点から離れた。まさに紙一重! 一瞬後にニンジャスレイヤーが前方回転からのダブルカカト落としを決め、落下地点の強化タタミに大穴を穿つ!
posted at 22:42:07

「ヌウウウウーッ!」ディスプレイの中のラオモトは、不満そうな声を黄金メンポから洩らしつつ、手に持ったグンバイをへし折った。この二者は、互いに決定的打撃を与えられぬまま、かれこれ三十分近くも戦っているのだ。
posted at 22:55:33

ニンジャスレイヤーとダークニンジャは、タタミ5枚分の間合いを保ちながらジュー・ジツの構えを取り、同心円状に横歩きをしつつ互いのダメージを値踏みした。両者とも、わずかに息が上がり、ニンジャ装束の下には痛々しい痣がいくつも隠されているが、未だ致命傷は負っていない。
posted at 23:00:00

「あのニンジャソウルの力は使わんのか?」ダークニンジャが問う。会話から隙を作るのはニンジャの常套手段だ。「不要。己のカラテとチャドーのみでオヌシを倒す」とニンジャスレイヤー「そちらこそ、あの刀を何故抜かぬ? 懐の中に隠してあるのは先刻お見通しだ。微かな…ニンジャソウルを放つ刃を」
posted at 23:05:07

ダークニンジャは些か驚いた。確かに彼の懐には、カーボンケースに納められた妖刀ベッピンの破片が隠されている。だが彼が驚いたのは、この刃の正体を言い当てられたことではない。以前は直線的なカラテだけが武器だったはずの相手が、ごく短期間で不気味なほどの懐の深さを得ていたことに驚いたのだ。
posted at 23:12:37

「貴様のごとき野良ニンジャなど、ベッピンを使うまでもない!前回のような手加減はせぬぞ!」ダークニンジャは『突撃するタイガーの構え』から一気に駆け込んだ!「イヤーッ!イヤーッ!」左右から繰り出される猛烈なストレート!凄まじい破壊力!ニンジャスレイヤーは防御に徹するしかない!
posted at 23:21:07

「ラオモト=サン、ビデオ対談の時間が迫っております。あと2分30秒を切りました」。高度会話機能と広角カメラアイを持つY-13P型クローンヤクザが、天守閣のフスマをノックした。ニンジャスレイヤーとダークニンジャが戦っているセレモニールームから、300メートル以上高みの安全圏である。
posted at 23:36:31

「ヌウウウーッ! 手早くそのネズミを始末するのだぞ!」ラオモトはマイクを切り、革張り椅子から立ち上がると、デスクに置いたウメボシ・マティーニを呷った。「フジオのうつけめが……。だが、ゲンドーソー亡き今、1対1の戦闘でフジオがニンジャスレイヤーにおくれを取ることもあるまいて……」
posted at 23:37:43

「お急ぎください、あと2分10秒、5秒……」クローンヤクザは廊下を歩き、グリーンスクリーンと照明機材が整ったスタジオルームのフスマを開けて待機する。三十秒後、清廉潔白を強くアッピールする純白のアルマーニに身を包んだラオモトが部屋に入ってきて、鎖頭巾を整えなおしつつ椅子に座った。
posted at 23:44:42

セレモニールームでは一進一退の攻防が続いていた。両者の実力はほぼ同じ……コトワザで言うところのドングリ・コンペティションである。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」上下中と繰り出される三連続回し蹴りを回避したニンジャスレイヤーは、相手の着地の隙をつき、痛烈なポン・パンチを繰り出す!
posted at 23:53:21

「イイイヤアーッ!」「グワーッ!」痛烈なインパクト!ダークニンジャはとっさに両腕でガードしたが、それでも立っていられず後方に回転しながら三十メートル近く吹き飛ばされる!どうにかバランスを取って足を下に向け踏ん張ると、急ブレーキを踏んだタイヤ痕のように、摩擦熱でタタミが焦げ付いた!
posted at 23:57:57

(((クウッ!何たる強烈なカラテ……!チャドーの呼吸が組み合わされているのか?!)))ようやくガードの衝撃から開放されるダークニンジャ。視線を戻すと、ニンジャスレイヤーはタタミを蹴って大きく跳躍し、右手を限界まで振りかぶったチョップの構えを取って飛び掛ってきていた!「サツバツ!」
posted at 00:06:24

「甘く見るな…!」ダークニンジャはニンジャスレイヤーの着地点を予測し、素早い前転で背後に潜り込む!カマのように鋭いチョップがタタミを切り裂き、線維がはらりと舞う。またもや紙一重!だがこれこそがニンジャの戦いなのだ!「イヤーッ!」ダークニンジャの低空ジャンプキックが背後から命中!
posted at 00:16:01

「グワーッ!」ニンジャスレイヤーはスケルトン選手じみた姿勢で前方に弾き飛ばされてゆくが、またもやニンジャ運動神経で身をひねり、タタミをクッション代わりに使うジュー・ジツの回避動作を取る! さらに浮き上がったタタミを掴み、スリケンのごとく力任せに投げつけた!「イヤーッ!」
posted at 00:19:18

(((タタミだと!?バカなー!)))このような攻撃は、ニンジャの伝統的戦法には含まれていない。フジキドが即興で編み出した、全く新たなカラテであった。スリケンとは異なり、指先で回避することは不可能!ジャンプキックの着地で姿勢を崩したダークニンジャには、ガードすることしかできない!
posted at 00:21:43

CRAAAAASH! ダークニンジャの両腕に衝突したインパクトで、タタミが無数の線維へと崩壊する! まるでブリザードの中に立たされているかのように、視界が覚束ない! 立膝の姿勢のまま身構えるダークニンジャに対して、背後からニンジャスレイヤーが迫る! 確固たる復讐の意志とともに!
posted at 00:25:27

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」 #2 「ダークニンジャ・リターンズ」#1終わり #2へと続く
posted at 00:29:25

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #6

110511

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」 #2 「ダークニンジャ・リターンズ」#2
posted at 22:37:07

視界がワープ航法を行った宇宙船めいて加速し、ダークニンジャにのみフォーカスされる。宿敵の背後へと突き進むフジキドの心は、のっぺりとした憎悪に支配されていた。非常にフラットで、黒いトーフのような怒りだった。モニタからラオモトの顔が消えたのも幸いしていた。目の前の敵に集中できる。
posted at 22:44:17

凄まじいスピードで走っているのに、夢の中のように全てがゆっくりと動く。ニューロンが加速しているのだ。一撃でカイシャクするために、右腕に全神経を集中させる。ガードにより身動きが取れなくなっているダークニンジャの背まで、あとタタミ10枚、5枚、1枚……!
posted at 22:49:02

その時、ニンジャスレイヤーの研ぎ澄まされた聴覚に不吉な音が飛び込んできた。キイイイィィィィンという、常人ならばキャッチできないであろう極めて微弱な震動音。ニンジャスレイヤーは直感した……それは極限まで磨き上げられたカタナだけが動かずして発することを許される、空気を切る音であると!
posted at 22:54:20

「イヤーッ!」咄嗟にニンジャスレイヤーは飛んだ!首元に必殺カラテを叩き込む絶好のチャンスを捨て、ダークニンジャを飛び越えるように前方回転ジャンプを決めたのだ! 直後、ダークニンジャを中心に描かれる紅い円弧!ダークニンジャの手には、素手で握られた折れたる魔剣ベッピンの刃!タツジン!
posted at 23:07:08

ニンジャスレイヤーは着地の隙を作ることなく、即座に背後を振り返ってジュー・ジツを構える。敵との間合はタタミ5枚。右すねのニンジャ装束が切り裂かれている。横一文字に刻まれた深さ数ミリの微かな傷から、思い出したように血が垂れた。一瞬でも判断が遅ければ、先に首を切り裂かれていただろう。
posted at 23:14:00

「……ベッピン?」声を洩らしたのは、10インチ弱の折れたる刃を不思議そうに見つめる、ダークニンジャの側であった。彼はほとんど無意識のうちに胸元から魔剣の破片を取り出し、反撃を繰り出していたのだ。刀身を握る掌から、つつと鮮血が流れる。キイイィィィンとベッピンが再び空気を切り裂いた。
posted at 23:23:18

二者は互いの出方を探るように、同心円状にじりじりと横歩きを,見せた。タタミ7枚、10枚……徐々に距離が開いてゆく。いわゆるゴジュッポ・ヒャッポの状態である。両者ともに次の一手を出しあぐねている証拠だ。
posted at 23:31:02

(((ベッピンよ、お前を振るって戦えというのか?)))ダークニンジャの心を、珍しく驚きと迷いが支配していた。確かに、目の前にいる敵はかつてベッピンを叩き折った張本人だ。だが…(((……だが、折れたる妖刀よ、鍛え直さねばお前はあまりにも脆すぎるのだぞ。粉々に砕かれでもしたら…)))
posted at 23:39:00

ニンジャスレイヤーが動いた。「Wasshoi!」全ての迷いを断ち切るような勇ましい掛け声とともに、タタミを強く蹴って一直線に駆け込む!ダークニンジャも一歩遅れて駆け込んでくる!距離が一気に詰まる!
posted at 23:43:17

ベッピンが鳴動し、周囲の空気がうねる!ニンジャスレイヤーの視界がぶれ……ダークニンジャの姿が消えた!前回彼に重傷を負わせた必殺技、デス・キリだ!(((惑うな!!)))ニンジャスレイヤーは直感だけを頼りに闇雲に走り抜けチョップを繰り出す!「「イヤーッ!」」2人のニンジャが交錯した!
posted at 23:48:44

一瞬の静寂! 二者は互いに背を向けたまま、タタミ10枚の距離でぴたりと制止した。「グワーッ!」ニンジャスレイヤーが方膝をつく。右肩口から左わき腹にかけてを、ベッピンの刃で切り裂かれていたのだ。ナムサン!噴き出した赤黒い血はすぐさま糸のように編み上げられ彼のニンジャ装束を修復する。
posted at 23:57:53

キイイイイィィンとベッピンが鳴った。血がタタミにポタポタと落ちる。抜き身の刀身を握るダークニンジャの傷は、すでに骨にまで達しようとしていた。ダークニンジャの目は、ベッピンの刀身につけられた新たな傷跡に釘付けになっている。ニンジャスレイヤーのチョップが、刃の峰を砕きかけていたのだ。
posted at 00:13:03

「ダークニンジャ=サン、それはベッピンの望みではありません」「ダークニンジャ=サン、新たな主に仕えるべき時が来ました」不意に、何処からともなく2つの新たな声が聞こえる。ダークニンジャの左右に小さなつむじ風が巻き起こり、2人のニンジャがふわりとタタミに舞い落りた。
posted at 00:27:28

「ドーモ、ダークニンジャ=サン。マスター・トータスです。私は未来を見ます。余り遠くまでは見えませんが」左に現れたのは、シシマイめいたマスクを被る8フィート超の巨躯のニンジャである。装束には白い毛筆体のカタカナで「カメ」と繰り返しショドーされ、フロシキのようなマントを羽織っていた。
posted at 00:33:10

「ドーモ、ダークニンジャ=サン。マスター・クレインです。私は過去を見ます。余り遠くまでは見えませんが」右に現れたのは、これまたシシマイマスクを被る8フィート超のニンジャ。装束には「ツル」と繰り返しショドーされ、フロシキじみたマントを羽織っている。全ての色がトータスの反転だった。
posted at 00:35:12

【NINJASLAYER】
posted at 00:43:36

【NINJASLAYER】
posted at 22:21:35

「クウッ!」ニンジャスレイヤーは鋼鉄メンポの奥で歯を食いしばり、激痛に耐える。そして後ろを振り返り、ダークニンジャの両脇に立つ異様なニンジャたちを見た。初めて見る手合いだ。新手のソウカイニンジャか?こうなることを予想はしていたが、多対一でダークニンジャを相手にするのは至難の業!
posted at 22:26:21

(((力を貸してやろう)))ナラク・ニンジャが囁く(((前回勝ちを拾えたのは、誰のお陰だと思っているのだ?)))。(((失せろ)))フジキドは不屈の精神力でニューロンの同居者を彼方へと追いやった(((オヌシの力など要らぬ!)))。そして駆けた!標的はただ一人、ダークニンジャ!
posted at 22:28:27

己の妻子、フユコとトチノキを淡々と殺害した憎き敵!怒りという名の薪が魂の炉にくべられる!フジキド・ケンジの全身に力がみなぎる!彼は両腕をYの字大上段に構え、左右どちらから振り下ろされるか分からない恐るべきチョップの姿勢で駆けた!暴走するサッキョー・スーパーエクスプレスのように!
posted at 22:35:48

「「下郎よ下がりおれ、出る幕ではないぞ」」マスター・クレインとマスター・トータスが両腕を前方に突き出して、ダークニンジャを守るように立ちはだかった。ウィジャ盤を操作するかのような不気味な手つき。8フィート、いや、背筋を伸ばすと9フィート近くあるようにすら思える、尖塔のごとき威容!
posted at 22:42:59

ニンジャスレイヤーは止まらない!目の前に敵が立ちはだかるならばカラテあるのみ!だがその時、クレインとトータスの両腕を包んでいた重厚なテッコの指先全てがパカリと開き、中から無数の極小スリケンが射出されたのだ!「「イヤーッ!」」スポスポスポスポスポスポスポ!射出音が空気を切り裂く!
posted at 22:55:43

「グワーッ!?」ニンジャスレイヤーはフットワークと両腕の動きで回避を試みるが、数が多すぎる!コイン大の極小スリケンがガードをすり抜け、次々とニンジャスレイヤーの体に突き刺さった!インガオホー!
posted at 23:02:11

近づけば近づくほどスリケンの弾幕密度は厚くなる!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはたまらず突撃を中断し、四連続の側転とバックフリップを決める!だがマスター・クレインとマスター・トータスの指先は、最新鋭自動照準装置を上回る正確さと無慈悲さでロックオンを続けるのだ!スポスポスポスポ!
posted at 23:05:41

次第にニンジャスレイヤーの動きが鈍り始める。手足が言うことを聞かない。「グワーッ麻痺毒!」気付いた時にはもう遅かった。ニンジャスレイヤーは壁に寄りかかるように、よろめきくずおれる!コックローチに殺虫剤で止めを刺すように、動かなくなったフジキドへさらに斉射!スポスポスポスポスポ!
posted at 23:09:22

何たる戦闘能力か!マスター・クレインとマスター・トータスは、その場から一歩も動いてはいないのだ!フジキドが痙攣し始めたのを見計らうと、二人は顔を見合わせてシシマイめいた歯をカタカタと鳴らし、指先のフタをパタンと閉じた。そしてダークニンジャへと向き直る。
posted at 23:12:59

「さあ急ぎましょう、ダークニンジャ=サン」「あなたはサンダーフォージ=サンの居所を掴んだ、しかし何故行動を起こさないのですか?」トータスとクレインが語りかける。「キョートはザイバツの支配下にある」妖刀から目を離さぬダークニンジャ「それに、鍛え直すにはベッピンと同等の金属が必要だ」
posted at 23:20:57

「グワーッ!グワーッ!グワーッ!グワーッ!」何やら得体の知れぬ陰謀めいた話を続ける3人から10メートル以上も離れた暗がりで、ニンジャスレイヤーは瀕死のマグロのように全身を痙攣させていた。麻痺毒は余りにも強力で、異常緊張した筋肉が全身の骨を砕かんばかり。このままでは実際死ぬだろう。
posted at 23:33:49

「おのれ……おのれ……!」フジキドの視界がぼやける。喉の筋肉も異常緊張し、ひゅうひゅうとアビスを吹く風のごとき音を発し始めた。妻子の仇を目の前にして、なすすべも無いのか!何たる無力!このままではカスミガセキ抗争の夜の再現だ!(((……嫌だ!それだけは!フユコよ!トチノキよ!)))
posted at 23:40:51

聴覚も失われ始めた。ダークニンジャ、マスター・クレイン、マスター・トータスの言葉が、ネンブツめいた断片となって聞こえてくる……。
posted at 23:44:38

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」 #2 「ダークニンジャ・リターンズ」#2終わり #3へと続く
posted at 23:57:26

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #7

110514

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」 #2 「ダークニンジャ・リターンズ」#3
posted at 15:30:20

タタミに這いつくばり、致死性の麻痺毒に耐えるニンジャスレイヤー。彼のことなどもはや眼中にないかのように会話を続けるダークニンジャ、マスター・クレイン、マスター・トータス。その声が断片となって聞こえてくる……。
posted at 15:43:52

「三種の神器を探すのです、ダークニンジャ=サン。ひとつでも手に出来れば」……「私は過去を見ました。それにはベッピンと同じ金属が」……「三種の神器?ソード、ジュエル、ミラーか?」……「いいえ、それは捏造された歴史」……「真の三種の神器とは」……「メンポ、ヌンチャク、ブレーサー」……
posted at 15:54:45

「キョート」……「ザイバツ」………………「サンダーフォージ=サン」……「ベッピン」………………「ショーグン・オーヴァーロード」………………「カツ・ワンソー」……「ハイク」………………「ガイオン」……「カマユデ」…………
posted at 15:57:17

…………「…………ヌンジャ…………」…………
posted at 15:57:35

ニンジャスレイヤーの意識が薄らいでゆく……視界の先に、うっすらとサンズ・リヴァーが見え始める。サンズ・リヴァーの船を待つ川原では、ホタルじみた青い光を放つススキが揺れていた。うつぶせに倒れるニンジャスレイヤーは、ススキの穂がメンポをくすぐるのを微かに感じた。
posted at 16:08:54

チリン、チリンと鈴の音。どこからかネンブツの声。舟が近いのか。異様なほど大きな満月から、心地良い光が注がれる。ああ、まるでフートンの中にいるようだ。
posted at 16:10:21

「ニンジャスレイヤー=サン、今はまだその時ではない」不意に、編み笠を被り、真っ白なハカマとジュー・ウェアを身に付けた老人が現れ、這いつくばるフジキドの前にアグラをかいた。笠の陰になり、老人の顔は判別しがたい。だが、その声には懐かしさがあった。
posted at 16:13:23

「ドラゴン=センセイ……」フジキドは血の涙を流した。同時に、自分の慢心を呪った。己は孤立無援だなどと、どの口が言ったのか。何たる未熟か。 「言葉は要らぬ。フーリンカザン。チャドー。そしてフーリンカザン」それだけ言い残し、老人の亡霊……あるいはニューロンの残留ノイズ……は消失した。
posted at 16:21:46

フジキドは、今何をなすべきなのか、全てを悟った。彼は静かに目を閉じ、空気を吸った。全身がただ、呼吸と化学反応のためだけに存在するマシナリーのように純化されてゆく。オーガニック・タタミの香りが鼻腔に忍び込む。完全なるチャドーの呼吸だ。「……スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!」
posted at 16:29:39

一方、三者の密議はいよいよ結論に達そうとしていた。「……駄目だ、やはり今はキョートには行けぬ。ソウカイヤとザイバツの外交問題に発展するだろう。それに、俺にはまだラオモト=サンから与えられた任務が……」「ダークニンジャ=サン、私は未来を見ました。その心配はもはや不要なのです」
posted at 16:37:47

「あのような俗悪な支配欲にまみれた男が、本当にあなたの君主にふさわしいでしょうか?ニンジャソウルを宿したる刃、妖刀ベッピンの所持者となる定めを背負った暗き英雄にふさわしい主でしょうか?」マスター・クレインは、壁のディスプレイを指し示す。いつの間にか放送が始まっていたようだ。
posted at 18:49:38

「ドーモ、ミッドナイト・オイランニュースの時間です」蛍光グリーンの刺激的な髪を持つオイランリポーターが、競泳ボディスーツめいたPVCコスチュームを着て姿を現す。目元はクールなサイバーサングラスに隠され、液晶面には提供各社の社名とスローガンが赤いLEDとなって右から左へ流れていた。
posted at 18:56:33

レポーターはバイオLAN端子にジャックインする仕草をとる。3D技術で作り出された3000畳の広大な茶室にダイヴ。タタミ、ショドー、いけす、岩、そして漆塗りの椅子が2つ。もちろん、これはTV的な演出だ。ブルースクリーンとリアルタイム3D描画を使った、高度なSFXテクノロジーである。
posted at 19:11:21

レポーターが2つの椅子の前に奥ゆかしく正座してドゲザすると、極小の010101010101がたくさん現れてらせんを巻き始めた。左の椅子のところに出現した010101010101は、次第に白いアルマーニを着た男を形作る。「ドーモ、ラオモト=カンです」
posted at 19:17:58

右の椅子には、紫色の上等な法衣を着て金縁サイバーサングラスをかけたボンズが出現した。「ドーモ、カスミガセキ教区のアークボンズ、タダオです」。実際のラオモトがトコロザワ・ピラーにいるのと同様、タダオもまた自らのジンジャ・カテドラル内にあるスタジオのグリーンスクリーン前にいるわけだ。
posted at 19:23:16

「ドーモ、本日はお忙しい中、大変恐れ入ります」正座の状態から顔を上げたオイランレポーターは、視聴者にその艶めかしい尻を向けたまま、マイクを持って質問を開始した。「本日付でラオモト=サンをブディズムの名誉聖人に認定されたとのことですが、今回のネオサイタマ市長選挙との関係は?」
posted at 19:36:13

「ムハハハハ、全くありません」ラオモトは笑いながらキューバ産の葉巻を吹かした。「時期が偶然重なっただけのことです」。TV画面の右下には、ジンジャ・カテドラル内に新たに追加された、聖ラオモトのマンダラ・ステンドグラスの最新映像がカットインしてきていた。
posted at 19:45:53

「ラオモト=サンの仰るとおり以前から決まっていたことです」とタダオ大僧正「常日頃からの彼の貧民救済活動などを評価してのことです」。これを聞き、ラオモトは肘掛け部分に隠したボタンを何回か叩いた。キャバァーン!キャバァーン!キャバァーン!小さな電子音がアークボンズのイヤホンに流れる!
posted at 19:53:22

タダオ大僧正の口元が微かに緩む。サイバーサングラスで隠された細い目は、より一層細まっていたことだろう。内側の液晶面には赤い数字が並び、ラオモトがボタンを叩くたびにその数字が跳ね上がってゆく。これはタダオの預金口座だ。ボタンが叩かれるたびに数千万単位のマネーが振り込まれているのだ!
posted at 19:57:32

「ラオモト=サンはほとんどブッダに近い」タダオのさらなるリップサービス「以前、匿名でネオサイタマ市内の孤児院や養護施設に寄付があったが、あれも実は…」「ムハハハハ、実はワシなのです」キャバァーン!キャバァーン!さらに2千万円!タダオはサイバーサングラスの奥で満面の笑みを浮かべる!
posted at 20:35:46

ナムアミダブツ!こうした汚い裏金工作は高度に隠蔽されており、ネオサイタマ一般市民がそれを知ることは絶対に無いのだ!名誉聖人の権利を買うためにラオモトからタダオ大僧正に渡された巨額のマネーと極上大トロ粉末、その事実を知る者といえば…それを運んだダークニンジャ本人くらいのものである!
posted at 20:48:09

…「さあ、ダークニンジャ=サン、急ぎましょう」「ダークニンジャ=サン、いつまでもこんな所にいては、ベッピンが泣きます」「だが……いや……わかった」意を決したダークニンジャは静かにベッピンの血を払い、折れたる刃をカーボン容器に戻した。そしてモニタ内のラオモトへ無表情に一瞥をくれた。
posted at 20:59:01

「スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!」一方、チャドー呼吸を続けるニンジャスレイヤーの体からは徐々に麻痺毒が消え始めていた。ナムアミダブツ!これこそが、太古の暗殺術チャドーの真髄である!ただでさえ強力なニンジャ新陳代謝がさらに促進され、この程度の毒ならば無毒化してしまうのだ!
posted at 22:00:05

指、掌、腕……徐々に筋肉の異常緊張が解けていく。突き刺さっていたバルカンスリケンの弾がポロポロと落ちていく。(((ドラゴン=センセイ、あなたのお陰でまた命を拾いました……!)))そしてフジキド・ケンジは再び立ち上がり、不撓不屈の精神を見せ付けるかのごとくジュー・ジツの構えを取る。
posted at 22:07:06

「奴を仕留めねば……!」ダークニンジャが身構えようとする。だが再びマスター・クレインとマスター・トータスが彼の前に立った。「「時間の無駄です、ダークニンジャ=サン」」足元からつむじ風が巻き起こる。現れた時と同じように。そしてそのつむじ風は、今度はダークニンジャをも巻き込んでいた。
posted at 22:10:32

逃がすものか!ニンジャスレイヤーは身を沈め、タメを作って跳躍の予備動作をとった。そこから繰り出される動きは、きりもみ状に回転しながら両脚をカマのように振り、敵の首を狩る血も涙もない暗殺技、タツマキケン!前回ダークニンジャを戦闘不能に追い込んだ技だ!「イイヤアアァァァァーッ!」
posted at 22:19:35

ニンジャスレイヤーはタツマキケンの軌道をコントロールし、軍用ヘリコプターのようなスピードで敵に迫る!(((百発のスリケンで倒せぬ相手だからといって、一発の力に頼ってはならぬ。一千発のスリケンを投げるのだ!)))……かつてドラゴン・ゲンドーソーから授かったインストラクションが蘇る!
posted at 22:25:22

一見無謀に思えるこの攻撃も、実はインストラクション・ワンの極意を忠実に実行したものであった。正面からスピードで戦うと決めたならばその方針を崩してはならない。より速く動き、スリケンバルカンを受けたとしても毒が体を巡り出す前に敵を仕留める!その答えがタツマキケンだったのだ!ナムサン!
posted at 22:29:10

スポスポスポスポスポスポ!スポスポスポスポスポスポ!予想通り、マスター・クレインとマスター・トータスの指先から放たれるスリケンバルカン!だがニンジャスレイヤーは速い!死の迷いを捨てさらに飛行速度を速める!「Wasshoi!!」回転するカマのごとき足先が敵に迫った!だが、その時!
posted at 22:32:26

つむじ風が一層強く巻き起こり、その中にいたダークニンジャたち3人が忽然と姿を消したのだ!切断されたフロシキ・マントの切れ端だけが、虚しく宙を舞う。ブッダ!これはいかなるトリックか!?ニンジャスレイヤーはタタミ上に着地し、そのまま流れるような動きでアグラを組みチャドー呼吸に入った。
posted at 22:38:46

今回の傷は浅い。敵が放ったスリケンバルカンは先程よりも遥かに少ないからだ。メディテーションを行ったニンジャスレイヤーは、もはやこのセレモニーホールには、自分以外に一切のニンジャソウルが存在しないことを感じ取っていた。
posted at 22:46:43

(((おのれ、逃がしたか……!)))またしてもニンジャスレイヤーとダークニンジャの決着はつけられなかった。だがいずれ、そう遠くない未来に、再びダークニンジャとは戦うことになるだろう……フジキドはそう直感していた。そしてそのためにはまず、ラオモトとの死闘を生き延びねばならぬことも。
posted at 22:50:09

ニンジャスレイヤーは立ち上がり、次なる道を探した。恐らくは、両脇を大ニンジャ像によって守られた門が、次の階へと続くエントランスだろう。(((クウッ…!)))デス・キリの傷が痛む。だが休んでいる暇はない。こうしている間にも、ナンシーがどのような陵辱を受けているかわからないからだ。
posted at 22:54:39

「ナンシー=サン、無事でいてくれ……」ニンジャスレイヤーは鋼鉄メンポの奥で小さく祈った。そして、ユカノ=サンの顔も同時にニューロンをよぎる。先程の夢の中でドラゴン=センセイがユカノ=サンのことを話さなかったのは、きっと自分にかけてくれた慈悲なのだ、とフジキドは思った。
posted at 22:57:35

自分にもはや家族は無い。だが、守らねばならぬものや、共に戦う信頼の置ける同志はいる。これ以上それらを失うのは、何としてでも避けねばならない。「必ずや……」ニンジャスレイヤーは誰かに誓うように、ただそれだけ独りごちながら、門のところへと歩いてゆく。
posted at 23:02:17

その時、不思議な感覚が彼のニューロンを引っ張った。この感触には覚えがある。バーバヤガと出会った時に感じたものだ。誰かが自分を呼んでいる?だが何処から?ニンジャスレイヤーはセレモニーホール内を見渡す。そして西側の壁の高い所に掲げられた、ラオモト・カンの直筆ショドーに視線を注いだ。
posted at 23:07:20

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」 #2 「ダークニンジャ・リターンズ」#3終わり #4へ続く
posted at 23:08:32

RT @no_ten: pixivに投稿しました 「ラスト・ガール・スタンディング」 #NJSLYR #pixiv http://t.co/jHDlGZ7
posted at 23:29:40

RT @ItoBek: マスター・トータス=サンとマスター・クレイン=サンの外見が凄かったので描いてみました…… #NJSLYR http://twitpic.com/4xi39u
posted at 23:30:05

RT @ItoBek: これいつ見ても「どこがシックスだよwwwwww」ってなる #NJSLYR http://t.co/vYONZUh via @twitpic
posted at 23:33:45

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 14:46:57

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #8

110515

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」 #2 「ダークニンジャ・リターンズ」#4
posted at 14:47:05

ニンジャスレイヤーはセレモニーホールの壁に並ぶ大型ディスプレイの端を足場代わりに使って跳躍し、「成せば成る」と縦書きされた大型ショドーを切り裂く。思った通り、キンコめいた漆塗りのシークレット鋼鉄扉が姿を現した。「イヤーッ!」ニンジャ筋力で四個のバルブを強引に破壊し、内部へと潜入。
posted at 14:57:41

その先には、カチグミ料亭を思わせる、細く上品な木製の廊下が続いていた。キィ、キィとヒノキ材の床が軋み、その音が暗闇に吸い込まれてゆく。天井の電子ボンボリが柔らかい桜色の光を放っていた。左右にはショウジ戸やフスマが並んでいる。奥行きはどれだけあるのか解らない。
posted at 15:03:56

ニンジャスレイヤーはまるでSWAT隊員のように中腰の姿勢を取り、両手を小さく横に広げてバランスを保ちながら、音を立てぬよう廊下を進んだ。(((ここか……?)))直感が彼を導く。そして、金箔地に鯉の絵が描かれたフスマのひとつを勢い良く蹴り破った。「イヤーッ!」
posted at 15:06:34

「アイエエエエエエ!」その先は調理場だった。マグロをさばいていた老イタマェが、驚きの声を上げる。(((間違いか……)))ニンジャスレイヤーは振りかぶっていたスリケンを収め、間違いを詫びるオジギをすると、ふたたび密やかに廊下を奥へ奥へと進んでいった。
posted at 15:11:50

01001011111……ニューロンが引っ張られる。目的のもの、すなわちナンシー=サンに近づいているという確信が強まる。それと同時に、彼女がどんな仕打ちを受けているのかという恐れも。((焦りは禁物だ……平常心を保たねば……)))フジキドはさらにSWAT的隠密動作で先へと進んだ。
posted at 15:19:25

音もなく影のように忍び歩くニンジャスレイヤー。(((ここか……!)))直感が彼を導く。そして、金箔地にライオンの絵が描かれた重厚なフスマのひとつを、勢い良く蹴り破った!「イヤーッ!」
posted at 15:21:16

(((何だここは?)))そこは全面黒漆塗りと金装飾が施された、数十畳ほどの異様な子供部屋だった。架けられたスーツやコートのサイズでそれが解る。シャンデリアのロウソクの灯りが、武者鎧、勉強机、ソロバン、株式チャートが映った大型ディスプレイ、ヤリ、エグゼグティヴ机などを照らし出した。
posted at 15:27:27

部屋の隅には、フェニックスの装飾が施された鋼鉄製のトリカゴめいた檻がある。静かに近づくニンジャスレイヤーは、その中で正座し、赤い漆塗りのオボンに載せられたスシを食べるナンシー・リーの姿を認めた。ターコイズと黒のオイラン装束を着せられている。「ナンシー=サン、無事だったか……!」
posted at 15:35:37

ニンジャスレイヤーは手早く鍵を破壊する。ナンシーはニヒルな笑みを浮かべながらマッチャを呑み切った。「無事の基準にもよるけど、私のニューロンにダメージは無いわ」檻を出ると、壁に架けられたチャカ、ベルト、ナイフなどで武装する。檻を出た後どうするかを完璧にシミュレートしていたのだろう。
posted at 15:43:32

ナンシーはニンジャスレイヤーの顔を見た。相当なダメージを負っているのだろう。顔は死体のように蒼ざめ、目の周りにはユーレイ・ゴスめいた黒く深いクマ。「……ありがとう、私のミスのせいで……」とナンシー。「……ヨロコンデー」ニンジャスレイヤーは掌を前に出し、静かに彼女の言葉を遮った。
posted at 15:48:35

ナンシーの無事を確認したことで、緊張の糸が緩んだのか、一瞬ニンジャスレイヤーの意識が遠くなり、その場で立膝の姿勢を取った。そして檻に背中を預ける。駆け寄るナンシー「オーガニック・スシがあるわ。オハギも」。ニンジャスレイヤーは静かに頷いた。「ヨロコンデー」とナンシーは静かに答える。
posted at 15:57:44

ナンシーはキンコ型冷蔵庫を開け、中に収められたスシ、ショーユ、オハギなどを取り出して、ニンジャスレイヤーの前に運んだ。チャドー暗殺拳は相当なカロリーを消費する。ニンジャは神ではない。爆発的に代謝速度を増したということは、それに見合う良質なエネルギー補給が必要だ。即ちスシである。
posted at 16:01:17

「誰だお前は?」不意に幼い声が聞こえた。上等なアルマーニのスーツを着た少年が、部屋の隅にあるトイレのドアを開けて出てきたのだ。キョート・コケシめいた髪型の髪毛はややグレーがかり、目の色も群青色だ。ハーフだろうか。フジキドはトチノキを想起した。だがこの少年はそれよりいくらか年上だ。
posted at 16:26:37

ニンジャスレイヤーは反射的にスリケンを投擲しかける。だが、この少年からニンジャソウルは感じられない。「僕の部屋に勝手に入ってくるとは、いい度胸だな。フジオを呼ぶぞ!」細身の少年は、驚くほど朗々とした声で言い放つ。若くして王者の風格と、線の細いヒステリックな危うさを併せ持っていた。
posted at 16:30:26

「出よう……」ニンジャスレイヤーは手短にスシを咀嚼し終えると、オハギを残したまま立ち上がった。「ムハハハハ!そうだ、それでいいんだ!でも、後でケジメさせるからな!」少年は相手の動きを警戒しているのか、体の半分をトイレのドアに隠しながら言い放つ。
posted at 16:47:35

フジキドとナンシーは少年に一瞥をくれ、破壊されたフスマへと足早に歩む。「おい、待て!それは僕のだぞ。置いていけ!フジオを呼ぶぞ!フジオ!今すぐ来い!フジオ!」少年は限定ウサギモチヤッコ型の形態IRCトランスミッターに向かって叫ぶ。「おい、待て!おい…!」少年の声が遠ざかってゆく。
posted at 16:50:48

ニンジャスレイヤーはナンシーを抱き上げて廊下を駆け、シークレットドアから脱出してセレモニーホールのタタミへと飛び降りる。「ラオモトの息子よ」ナンシーが自分の足で立ちながら言う「正確には、何人もの息子の一人」。「そうか」ニンジャスレイヤーは無表情に返す。それ以上の思考は危険だった。
posted at 16:53:48

「ナンシー=サン、独力で脱出できるか?」とニンジャスレイヤー。「できるわ、足手まといにはならない。それに……」とナンシー「おそらく、この近くに電脳制御室があるはず。ハッキングして、天守閣への通路のロックを解除するわ。これで貸し借りは無し。あとは…」ナンシーはディスプレイを指差す。
posted at 17:04:00

「あの生放送をハッキングしたら、さぞ面白いことになるんじゃないかしら?」ナンシーは疲れた顔に笑みを作り、右手でキツネ・サインを作った。「ソウカイ・シンジケートのこれまでの悪事は、全て私の脳内記憶領域にバックアップされているわ」「ナンシー=サン、油断するなよ」 そして二者は別れた。
posted at 17:06:52

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」 #2 「ダークニンジャ・リターンズ」終わり #3「アンド・ユー・ウィル・ノウ・ヒム・バイ・ザ・トレイル・オブ・ニンジャ」に続く
posted at 17:08:29

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posted at 18:59:44

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #9

110515

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #3「アンド・ユー・ウィル・ノウ・ヒム・バイ・ザ・トレイル・オブ・ニンジャ」 #1
posted at 19:00:52

「総会六門」と威圧的なオスモウ・フォントでモールドされたカンバンが、重々しい扉の上に掲げられている。さらに、扉の表面には赤い丸と大きく「一」の文字。ナンシーが掴んだ情報によれば、ここからの6フロアはソウカイ・シックスゲイツの部屋が続く。ニンジャスレイヤーは意を決して扉を開けた。
posted at 19:07:02

タダーン!電子合成されたドラの音が鳴り響く。セレモニーホールと同様、数百畳サイズの薄暗いタタミ部屋が現れる。部屋の中には四本の円柱が立てられ、そこからボンボリが吊り下げられている。部屋の中央には黒い斑点入りの白ニンジャ装束を着た一人のニンジャが、アグラを組んで彼を待ち構えていた。
posted at 19:20:13

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、デビルフィッシュです」「ドーモ、デビルフィッシュ=サン、ニンジャスレイヤーです、イヤーッ!」オジギ終了から僅か0コンマ1秒!ニンジャスレイヤーはその右腕をムチのようにしならせてスリケンを4連発で投擲していた!タツジン!
posted at 19:22:33

「俺にその程度のスリケンは効かんぞ、ニンジャスレイヤー=サン!」デビルフィッシュは腕を組み余裕の表情を見せたまま、その場で仁王立ちした。四枚のスリケンが両目、喉、股間を狙って猛スピードで迫る!コワイ!
posted at 19:24:19

シュッシュッシュッシュッ!金属質の物体がデビルフィッシュの前を高速移動する。直後、四枚のスリケンはデビルフィッシュの斜め後方へと逸らされていた!指先でスリケンを逸らすのはニンジャの常套手段だが、デビルフィッシュは腕を組んだままである。ゴウランガ!一体何が起こったというのか?!
posted at 19:27:46

「イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは3連続の側転とバク転を決めて仕切りなおしてから、右腕をムチのようにしならせてスリケンを4連発で投擲していた!ほぼ同時に左腕をムチのようにしならせて、さらにスリケンを4連発で投擲!合計8枚!
posted at 19:31:13

シュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッシュッ!金属質の物体がデビルフィッシュの前を高速移動する。直後、8枚のスリケンは斜め後方へと逸らされていた!シュッシュッ!ほぼ同時に、今度は2枚のスリケンがデビルフィッシュ側から投擲される!ニンジャスレイヤーは辛うじてこれを指で逸らした!
posted at 19:33:56

「グワーッハッハッハッハ!無駄だ!ニンジャスレイヤー=サン!無駄なのだ!その理由をお見せしよう!」デビルフィッシュは腕組みを解き、ジュー・ジツの構えを取る。すると背中にインプラントされたランドセル状マシーンから、銀色に光る触手状メカアームが十本飛び出し、不気味に蠢いた!コワイ!
posted at 19:38:57

デビルフィッシュはオムラ・インダストリの秘密研究所で改造手術を受け、高級オート・スシアームに使われる握り技術を応用したサイバネアーム十本をその背中にインプラントしたおそるべきニンジャである。これに彼自身が持つ2本の手を加えて……今、合計12枚のスリケンが投擲される!「イヤーッ!」
posted at 20:16:25

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは連続側転を打って紙一重でスリケンを回避しながら、柱の陰に隠れる。そこから両腕でガードを固めながら、大砲の砲弾のごとき勢いで一気にデビルフィッシュへと接近!「「イヤーッ」」両者のカラテが激突し、火花が散る!
posted at 22:13:57

「「イヤーッ!イヤーッ!」」流石に至近距離でのカラテならば、ニンジャスレイヤーが圧倒的に有利。徐々に押され、ガードを弾かれてゆくデビルフィッシュ。だが背中から生えた十本の触手状メカアームがニンジャスレイヤーの死角である頭上と背後からスリケンを投擲する!「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 22:18:54

「イヤーッ!」スリケンの激痛に耐えながら、ニンジャスレイヤーの右ストレートが繰り出される!だが、インパクトの直前、デビルフィッシュの体がワイヤーアクションめいて後方に飛んでいった!タツジン!彼は触手状メカアームの一本を後方の柱に突き刺し、収縮動作によって自らの体を引っ張ったのだ!
posted at 22:23:13

「グワーッハハハハハ!無駄だ!ニンジャスレイヤー=サン!無駄なのだ!この俺の支配する領域で、お前に勝ち目は無い!イカニンジャ・クランの恐ろしさを思い知るがいい!」着地したデビルフィッシュは、合計12本の腕でジュー・ジツの構えを取り、ニンジャスレイヤーを挑発した!
posted at 22:27:54

---------------
posted at 22:28:03

一方その頃、ネコソギ・ファンド社のメインオフィスでは社員全員が起立し、軍隊めいた直立不動の姿勢を取りながら、大型ディスプレイに見入っていた。その理由はもちろん、CEOラオモト・カンが生出演しているミッドナイト・オイランニュースを見るためだ。
posted at 22:34:05

「次のゲストは、選挙評論家のモタニ=サンです」オイランリポーターが右肩をはだけながらコールする。「ドーモ、モタニです」。タダオ大僧正は消え、続いてグレーのスーツにサイバーサングラスという出で立ちの猫背の学者が、ラオモトの右の席に現れた。
posted at 22:37:50

「独自に調査した投票結果予想です。母集団はネオサイタマのIRCネット上で無作為に10万人ほど抽出」モタニは用意してきたボードを起こす。「誰に投票するか」という質問と、棒グラフが並んでいた。「実際8割がラオモト=サンです」モタニはサイバーグラスを得意げにクイッとやる。キャバァーン!
posted at 22:42:21

「ムハハハハ!これはチョージョー!大変お世話になっております!ムッハハハハハハ!」ラオモトが肘掛のボタンを叩きながら哄笑する。「聖人認定でラオモト=サンは聖徳太子などと肩を並べることになったわけですが」とレポーター「皆さんはラオモト=サンに投票しますか?答えは今すぐIRC投票!」
posted at 22:47:13

ズッパンズパパンズッパンズパパンズッパンズパパンズッパンズパパンイヨォー!ダンサブルな電子音楽が流れ、オイランレポーターが際どい姿勢でサイバーダンスを踊る。30秒ほどでダンスは終わり、IRC投票受付時間も終了。リアルタイム描画グラフ上の「実際投票したい」は、70%を超えていた。
posted at 22:55:46

「ラオモト=サン、バンザイ!」ネコソギファンドのオフィスでは、残業していた社員全員が大型モニタに万雷の拍手を捧げていた。番組はヨロシサン製薬のCMに切り替わる。「さあモドリ社長、ビジネスを再会しようぜ」クルーカットは、重厚なバンブーソード3本をメジャーリーガーのように素振りした。
posted at 23:03:30

「無理です、金がありません…」と四つん這い姿勢で拘束されたモドリ。「社員の給料をさらに減らせ、成せば成る!」とクルーカット。「こ、これ以上下げたら、基盤工場で暴動が起こります。それだけは無理です」と怯えた豚のような声でモドリ社長。
posted at 23:08:40

「貴様!先週の日刊コレワ経済を読んでないのか?ネオサイタマの給与月額平均は下落しているだろうが!皆頑張ってるんだ!ブルジョワ気取りか?!成せば成る!」バンブーソードがモドリの尻をしたたかに打擲!スパーン!スパーン!スパーン!「ンアーッ!!」コワイ!モドリ社長はもはや失禁寸前だ!
posted at 23:12:14

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posted at 23:12:23

スパーン!スパーン!スパーン!ニンジャスレイヤーのシャープな蹴りが、頭を掴まれ強制オジギの姿勢を取らされたデビルフィッシュの顔面に叩き込まれる!「グワーッ!グワーッ!グワーッ!」しかし抵抗はできない。彼の両腕は切断され、火花を散らす十本のメカアームとともに床に転がっているからだ。
posted at 23:15:12

流石はシックスゲイツ、恐ろしい相手だった。だがニンジャスレイヤーは敵の最大の武器である触手状アームを一本ずつカラテで切断し、グラップル技に持ち込んだのだ!「ニンジャ殺すべし!イヤーッ!」容赦ない顔面蹴りから首元へのチョップ!ついにデビルフィッシュは爆発四散を遂げた!「サヨナラ!」
posted at 23:21:30

顔とメンポに飛び散った返り血をぬぐいながら、ニンジャスレイヤーは黙々と上への階段を目指す。まるでツキジだ。あとには、血まみれになったタタミと黒焦げの死体、浜に打ち上げられたマグロめいて痙攣する両腕、そして破壊された十本のサイバネアームだけが残されていた。
posted at 23:29:34

階段を上ると、再び新たな門が彼の前に現れた。「総会六門」と威圧的なオスモウ・フォントでモールドされたカンバンが、重々しい扉の上に掲げられている。さらに、扉の表面には赤い丸と大きく「二」の文字。ソウカイ・シックスゲイツの2人目が、この先で彼を待ち構えているのだ……。
posted at 23:37:14

扉を押し開けようとするニンジャスレイヤー。その瞬間、上下左右から赤漆塗りの見事なヤリが勢い良く突き出してきた!ナムサン!だがこの程度のトラップに引っかかるニンジャスレイヤーではない!余人ならばいざ知らず、彼は回避動作を取ることすらなくカラテで全てのヤリを叩き折った!「イヤーッ!」
posted at 23:49:14

タダーン!電子合成されたドラの音が鳴り響く。セレモニーホールと同様、数百畳サイズの薄暗いタタミ部屋が現れる。部屋の中には四本の円柱が立てられ、そこからボンボリが吊り下げられている。部屋の中央にはスリムフィット黒ニンジャ装束を着た一人のニンジャが、アグラを組んで彼を待ち構えていた。
posted at 23:52:06

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、レイザーエッジです」「ドーモ、レイザーエッジ=サン、ニンジャスレイヤーです、イヤーッ!」オジギ終了から僅か0コンマ1秒!ニンジャスレイヤーはその右腕をムチのようにしならせてスリケンを4連発で投擲していた!タツジン!
posted at 23:53:36

【NINJASLAYER】
posted at 23:59:34

(親愛なる新規読者の皆さんへ) 【NINJASLAYER】というアイキャッチが出現すると、エピソード内での「つづく」となります。これは、翻訳担当者がリアルタイム翻訳連載中にスシ切れを起こして停止し、そのまま1日以上ツイートが止まるという現象を回避するために導入されたシステムです。
posted at 00:02:20

【NINJASLAYER】
posted at 22:25:18

「イヤーッ!」レイザーエッジがジュー・ジツを構えると同時に、両腕の骨に沿って左右に展開式のセラミック・カタナが飛び出し、スリケンを切断した!タツジン!だがニンジャスレイヤーも、この程度の防御は予測済みである!スリケン投擲と同時に、すでにタタミを強く蹴って突撃を繰り出していた!
posted at 22:34:19

「馬鹿め、ニンジャスレイヤー=サン、貴様の負けだ!」レイザーエッジも真正面から突き進む。ニンジャスレイヤーの構えはカラテチョップ。走り抜けながら一撃で相手の首の骨を切断する構えである。(((あの程度のセラミック・カタナならば、一撃で破壊した上に首をへし折れるはず……!)))
posted at 22:38:24

猛烈なスピードで接近する2人のニンジャ!その距離はタタミ5枚、3枚、1枚!ここでニンジャスレイヤーの本能が危険を察知する!「イヤーッ!」即座に彼はブリッジを決めた!直後、レイザーエッジの腰の両側面からカタナが展開され、紙一重の高さでニンジャスレイヤーの腹の上を通過!ゴウランガ!
posted at 22:41:47

「チィーッ!」レイザーエッジは暴走するローマ式チャリオットのごとく走り抜け、柱の一本を深々と切り裂きながらターンした。彼はサイバネ手術により、全身に何百本ものカタナを仕込んでいる。特にこの必殺突撃は、左右に一列に並んだクローンヤクザ20人、合計40人を一度に切断できるほど強力だ!
posted at 22:46:32

ならば正面からとばかりに、ニンジャスレイヤーが鋭角のトビゲリを仕掛ける!レイザーエッジはこれを素早くガードし、激しいカラテの応酬が始まった!「「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」」ここで突如、レイザーエッジの両胸から前方へセラミックカタナが勢い良く展開!「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 22:53:00

アンブッシュ的に突き出したセラミック・カタナは、ソバットを繰り出そうとしていたニンジャスレイヤーの左腿を深々と切り裂いた!ナムサン!タタミに落下したニンジャスレイヤーはブレイクダンスめいた動きで隙を消してから、ネックスプリングと5連続バク転、そして3連続側転で仕切り直しをはかる。
posted at 22:58:12

「見たか!ニンジャスレイヤー=サン!カクシ・キリの前に敵は無い!」レイザーエッジは両手を広げてのけぞり、肋骨に沿って仕込まれた全セラミック・カタナを一斉に展開して、ガシャガシャと動かし威嚇する!コワイ!だが、体勢を整えたフジキドは臆することなく突き進んだ!「ニンジャ、殺すべし!」
posted at 23:05:02

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posted at 23:05:18

一方その頃、ネコソギ・ファンド社のメインオフィスでは、ふたたび社員全員が起立し、軍隊めいた直立不動の姿勢を取りながら、大型ディスプレイに見入っていた。その理由はもちろん、CEOラオモト・カンが生出演しているミッドナイト・オイランニュースを見るためだ。
posted at 23:05:53

「次のゲストは、アンタイブディズム・ブラックメタルバンド『カナガワ』のドラマー、ヘルゲート=サンです」リポーターが左肩をはだけながらコールする。「ドーモ、ヘルゲートです」。黒いハカマに上半身裸、ブラックメタルメイクに極細サイバーサングラスという極悪な出で立ちの男が椅子に現れた。
posted at 23:12:26

「先日、ギタリストにしてヴォーカリストのアーマゲドン=サンが突如脱退し、メンバーが数人死んだわけですが、今後もその音楽性に変わりはないのですか?」オイランレポーターが的確な質問をする。「無い」と不吉なボイスで答えた。体中の傷跡から時折血がしたたる。「新作のレコーディングも順調だ」
posted at 23:16:52

「では、そんなヘルゲート=サンは誰に投票するのでしょう?」「ラオモト=サンだ」「それは何故?彼はブディズムの名誉聖人に認定されたのですよ?」「彼はほとんどブッダ……ゆえに、反ブッダであるからだ……」スタジオの観客席から凄まじい歓声!「ワースゴーイ!!」キャバァーン!キャバァーン!
posted at 23:20:56

「ムッハハハハ!いつもお世話になっております!ムッハハハハハ!!」ラオモトはグンバイで顔を扇ぎながら、肘掛に隠された振込ボタンを叩く!キャバァーン!キャバァーン!ヘルゲートの極細サイバーサングラスの内側液晶面で口座の金額が跳ね上がる!ヘルゲートの黒い唇が醜く歪んだ!キャバァーン!
posted at 23:23:40

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posted at 23:30:08

スリムフィット黒ニンジャ装束を剥かれ、上半身裸になったレイザーエッジの体は、キリストめいた姿勢で柱に磔にされていた。両掌と両膝にはカタナが釘代わりに突き刺され、身動きが取れない。数百本のカタナは全て叩き折られ、体中には無数の傷が走る。「イヤーッ!」痛烈なストレート!「グワーッ!」
posted at 23:36:37

カタナ・メンポからぼたぼたと血を流しながら、レイザーエッジは呻く。「俺を殺しても、四人のシックスゲイツがお前を……」「イヤーッ!」顔面へと容赦なく叩き込まれる蹴り!あれは伝説のカラテ技、サマーソルトキック!「グワーッ!」レイザーエッジの首が飛び、体が爆発四散する!「サヨナラ!」
posted at 23:41:46

ニンジャスレイヤーは宙をくるりと一回転し、体操選手のような着地を決めた。ボンボリの灯りが揺れ、焼け焦げた十字の死体を照らす。流石はソウカイ・シックスゲイツ、手強い相手であった。両耳からセラミック・カタナが展開された時は死の予感がニューロンをよぎったが、最後はカラテの力量差が出た。
posted at 23:48:43

ニンジャスレイヤーは階段を登る。一年以上に渡ってソウカイ・ニンジャを殺害してきたためか、ここまでの二人は初期のシックスゲイツに比べて明らかに質が低かった。フジキドは、アースクエイクやヒュージシュリケンといった強敵の顔を想起する。彼の行動はソウカイヤに明らかな打撃を与えていたのだ。
posted at 23:55:25

階段の壁に貼られたショドーが、ふとフジキドの目に留まる。「飛んで火に入る夏の虫」平安時代の剣豪にして詩聖ミヤモト・マサシが詠んだ有名なコトワザだ。サツバツとした空気がいっそう張り詰める。この先の敵は、これまでほど容易には倒せまい。ニンジャスレイヤーは静かにメンポの紐を締め直した。
posted at 00:05:09

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #3「アンド・ユー・ウィル・ノウ・ヒム・バイ・ザ・トレイル・オブ・ニンジャ」 #1終わり #2へ続く
posted at 00:09:04

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posted at 07:35:29

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #10

110517

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #3「アンド・ユー・ウィル・ノウ・ヒム・バイ・ザ・トレイル・オブ・ニンジャ」-2
posted at 07:40:31

フゥーン。ニンジャスレイヤーは突然、暗闇に包まれた。空調機器が停止する呻き声めいた音。彼はジュー・ジツを構え、ニンジャ聴覚を研ぎ澄ませてアンブッシュに備えた。だが数秒の沈黙を経て、照明・空調ともにすぐに復旧した。ニンジャスレイヤーは淡々と階段をふたたび駆け上がる。
posted at 07:49:13

辿り着いた扉は金庫を思わせる大仰なロック式の隔壁だ。そこに「二重機構」「施錠される」と書かれている。これを破るのは一手間かかるやもしれぬ。ニンジャスレイヤーは岩をも砕く渾身のポン・パンチを構える。……と、その時。
posted at 07:56:45

イヨォー、という認証音が鳴り、「施錠される」の液晶表示が消滅。「権限ドスエ」と合成マイコ音声が告げる。液晶表示にあらためて浮かび上がった文言にニンジャスレイヤーは目を細めた。「進んで。NtoNS」……ナンシー=サンか。
posted at 08:00:47

(ドーモ)心中でニンジャスレイヤーは礼をした。表示が再び切り替わった。「この先シックスゲイツ」「なんらかの大掛かりなカラクリ」「こちらからアスセス難」「オフライン可能性」……(十分だ、ナンシー=サン。何とかする)ニンジャスレイヤーはロック扉を開いた。
posted at 08:04:52

扉の先に、さらに扉!二重隔壁である。いかなる理由であろうか。「総会六門」と威圧的なオスモウ・フォントでモールドされたカンバンが、重々しい扉の上に掲げられている。さらに、扉の表面には赤い丸と大きく「三」の文字。ニンジャスレイヤーは意を決して扉を開けた。
posted at 08:18:26

彼を迎えたのはキューブ状の巨大な空間であった。先の二戦と比べると小さいが、異様である。床はタタミではなくむき出しのコンクリートだ。壁も同様である。気になるのは床の複数の排水溝と、壁一面にペイントされたフジサンの絵だ。
posted at 08:25:53

赤と黄色で表現された曙の光を背後に、口にナスをくわえたイーグルが飛び立つ躍動的な絵画……たちの悪い冗談めいている。そして絵でいえばフジサンの火口のあたりに、入ってきたのと同様のロック式ドアがある。当然、歩いて行ける高さではない。まるでトリックアートか設計ミスのようである。
posted at 08:40:49

ビーッ。警告音が鳴り、背後のドアーが強制ロックされた。そして壁の四隅に設置されたライオンの口から、滝のように水が流れ出す!水責めだ!
posted at 09:02:42

水はあっという間に床を満たす。水位はニンジャスレイヤーの膝下まで上がってきた。だが彼はうろたえない。この巨大な玄室のもの言いたげな様子から、ある程度予想はできていた。ニンジャ肺活量の持ち主を水で殺す事など不可能だ。十分な水位を確保して、あの天井近くのドアを通って先に進むのだ。
posted at 09:08:08

ドブン!ライオンの口の中から水とともに落ちてきた影をニンジャスレイヤーは警戒した。当然ながらそれはニンジャだ。シュノーケルめいたメンポとウェットニンジャ装束!すでに水はニンジャスレイヤーの胸のあたりまで来ている。「コーッ。ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ウォーターボードです」
posted at 09:16:13

「ドーモ、ウォーターボード=サン。ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーはアイサツを返した。水位は首まで来ている。ウォーターボードはニンジャスレイヤーを指差した。「コーッ。トラップ群とゲートをどう破ったか知らんが、うぬぼれるなよ。この水槽が貴様の棺となる」
posted at 09:30:03

水位はすでにニンジャスレイヤーの身長を超えた。立ち泳ぎをしながら、ウォーターボードの出方を窺う。「コーッ。コーッパ。デビルフィッシュ?レイザーエッジ?俺をあの程度のニュービーめいたサンシタと一緒くたにするなよ。シックスゲイツにウォーターボードあり!」
posted at 09:35:58

「成る程、つまりオヌシが言うサンシタでもシックスゲイツの六人になれるのか。ソウカイヤも知れたものよな」ニンジャスレイヤーは不敵に指摘した。「コーッ。ああ言えばこう言う!黙れニンジャスレイヤー=サン!貴様などアクアカラテのサンドバッグだ!イヤーッ!」ウォーターボードが水中に潜った!
posted at 09:40:24

ドブン!ニンジャスレイヤーもまたウォーターボードを追って水中に潜行した。ウォーターボードは身をねじり、矢のようにニンジャスレイヤーへ突進する。「イヤーッ!」速い!ウェットニンジャ装束の脚部等になんらかの推進機構があるに違いない。マグロめいた高速突進からの蹴りが襲いかかる!
posted at 10:15:08

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはチョップを合わせてガードを試みる。「ヌウッ!」蹴りが重い!ウォーターボードの装束から細かく空気が噴き出し、反動をつけた再度の回し蹴りが襲いかかる!「イヤーッ!」
posted at 10:26:53

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはチョップを合わせてガードを試みる。「ヌウッ!」蹴りが重い!ニンジャスレイヤーはウォーターボードの胸板めがけ前蹴りを放つ。「イヤーッ!」「イヤーッ!」ウォーターボードの胸から空気が噴き出し、蹴りの間合いの外へ後退!
posted at 10:35:36

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの両腕がムチのようにしなり、二枚のスリケンを投擲した。だが水の抵抗に阻まれ、その速度はニンジャを仕留めるには不十分!「イヤーッ!」ウォーターボードは両手の人差し指と中指を使って二枚のスリケンを易々と挟み取る!
posted at 10:56:58

「コーッ。これがアクアカラテだニンジャスレイヤー=サン」ウォーターボードのメンポにはスピーカーが内蔵されている。彼は笑いながら勝ち誇った。「コーッ。水中にいる限り貴様に勝ち目はない。ここへ来た時点で貴様は負けているのだ。地形を味方につければ無敵。これぞフーリンカザンよ」
posted at 11:09:33

ニンジャスレイヤーは水面を見上げた。水位は天井近くまで上がっている。フジサン絵の火口付近のドアも既に水の中だ。どちらにせよ、あのドアがどんな機構で開閉するのかわからぬ以上、このウォーターボードを排除しない事には話は始まらぬ。
posted at 11:41:35

「コーッパ。余所見のヒマは無いぞ!イヤーッ!」ウォーターボードが両腕をニンジャスレイヤーへ向けて突き出す。逆棘のついたハープーン(銛)が二発同時に射出された!ナムサン!
posted at 12:05:22

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posted at 12:14:39

「ワー!スゴーイ!」「それでは一旦CMに入りましょう。チャンネルはそのまま!ミッドナイト・オイラン……」高級オフィスチェアに腰を下ろすシバタの端正な顔に猥雑なモニタ内の光景が照り返し、深夜のネオンめいた小宇宙を浮かび上がらせる。灰色の瞳は虚無的で、感情を読み取る事は不可能だ……。
posted at 14:23:34

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posted at 14:25:19

「……だとよ……」深夜立ち飲み囲炉裏バー「不夜城」の囲炉裏カウンターに寄りかかってショチューを飲みながら、無精髭の男は隣の男に暗く呟いた。安モニタに流れるドンブリ・ポン社のヒステリックなCM映像が発するストロボライトが、陰気な横顔を照らす。
posted at 14:38:40

「……」ツバ広の帽子を被ったもうひとりの男は、無精髭の男の知り合いと言う事では無いようだ。帽子を目深にかぶっているため、ほとんど顔はわからない。神職めいた黒いカソック衣装が異様である。彼もまたショチューをちびりちびりと飲んでいる。
posted at 14:51:20

CMが明け、数人のコメンテーター……フリー記者や経済学者、辛口で知られる中年大御所芸能人とラオモト・カンがパネリストとなり、パネルディスカッション形式の対談が始まった。無精髭とカソックの二人は会話も無く、安酒を飲み続ける。
posted at 14:58:02

「……小さな政府……」「……民間の市場原理に任せれば何もかもうまく……」「……無駄なお金は……」「さすがラオモト=サン!」「ワー!スゴーイ!」
posted at 15:07:44

「やっぱりラオモト=サンしかないねえ」「俺ぁ政治の事はわからないがよう、あの決断力!なんでもズバリズバリと決めてくれそうだ!」「無駄をなくす!サスガ!」奥で飲んでいる老人達がにこやかに頷きあう。無精髭の男はそれを見て顔をしかめる。
posted at 15:10:50

老い先短い彼らは、いずれ何らかの介護を要する体となるだろう。その時、彼らを助けるものは何もない。ラオモトは細々と運営を続ける公営の福祉施設全廃を公約している。無駄だからだ。「インガオホーってやつか……」酒を置き、片手でオーデンの皿を取る。もう片方の手はトレンチコートの中だ。
posted at 15:14:42

「……規制を緩和……」「……そうです、すべてを成果報酬にして、頑張れば給料アップ……ダメなら無給……ゲーム感覚の楽しい仕事……」「労働者に配慮してカイシャが潰れては……」無精髭の男はバイオイカを噛みちぎった。「ま、あいつが当選するんだろうさ」
posted at 15:19:44

無精髭の男はカソックの男を見て、「アンタ投票どうするんだい」と訊いた。カソックの男は酒臭い声で返す。「政治なんて、なんだって構わねえ。俺にあれこれ指図する奴は全員許さねえ。今までもそうして来た」無精髭の男は肩をすくめた。「……怖いねえ」
posted at 15:24:29

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posted at 15:30:54

「グワーッ!」
posted at 16:12:18

吹き飛ばされたのはニンジャスレイヤーだ!「コーッ。コーパッ!ニンジャスレイヤー=サン恐るるに足らず!」ウォーターボードはアクアカラテを構え直す。壁のあちこちにハープーンが突き刺さり、展開する戦闘の激しさを物語っている。
posted at 16:16:21

吹き飛んだニンジャスレイヤーの体はコンクリート床に叩きつけられた。「グワーッ!」「コーッ。トドメを喰らえニンジャスレイヤー=サン!イヤーッ!」再びジェット気流を生み出したマグロめいた突進からの蹴りが襲いかかる!
posted at 16:28:31

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはチョップを合わせてガードを試みる。「ヌウッ!」蹴りが重い!ウォーターボードの装束から細かく空気が噴き出し、反動をつけた再度の回し蹴りが襲いかかる!「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは咄嗟に両脚を上げてウォーターボードの蹴り足を受けた!
posted at 17:00:25

壁まで吹き飛ぶニンジャスレイヤー!そこへさらにウォーターボードは追撃する。「イヤーッ!」マグロめいた突進からの蹴りが襲いかかる!
posted at 17:02:43

だが、これはウォーターボードのウカツであった。ニンジャスレイヤーはあえて自らの意思でウォーターボードの蹴りを足で受けた。蹴りの勢いに自らのバネの力を乗せて壁まで吹っ飛んだのだ。突っ込んでくるウォーターボードを迎撃すべく、ニンジャスレイヤーは壁を蹴る!
posted at 17:06:04

「イヤーッ!」「グワーッ!?」壁を蹴って十二分な反動力を載せたニンジャスレイヤーのバンザイ・パンチが、ウォーターボードの横面と脇腹に二点同時の激烈な打撃を加える!ウォーターボード自身の突進力もインガオホー的に加わった等比級数的な物理的ダメージ乗算の程度は計り知れない!
posted at 17:12:36

「グワッゴボッ……グワッグワー!グワーッ!」螺旋のあぶくを発しながらウォーターボードが吹っ飛んだ!「ゴボババーッ!」これは!シュノーケルメンポがニンジャスレイヤーのバンザイ・パンチによって破損!「ゴボボッ!息ゴボボボッ!」吹き飛ぶウォーターボードが苦しげにもがく。
posted at 17:20:31

ナムアミダブツ!ウォーターボードはシュノーケルメンポの酸素供給に頼り切っていた。突然それが奪われた事により彼はほとんどパニック状態であった。ニンジャ肺活量を生かす水中呼吸法が確保できないのだ!そしてこれを見逃すニンジャスレイヤーではない!
posted at 17:24:47

「イイイ……イイイヤァーッ!」ニンジャスレイヤーが再度壁を蹴った!チョップを前方で交差させ、両脚で恐るべき勢いで水をかく。そして一直線にウォーターボードへ突進する!「グワーッ!ゴボーッ!」ウォーターボードの体が壁とニンジャスレイヤーにサンドされた!
posted at 17:34:27

「ゴボボボッ!ゴボボボッ!」突進チョップのダメージはしかしさほどでは無い。狙いはこの後にあった。彼はウォーターボードの破損したシュノーケルメンポを掴み、引き剥がす!「イヤーッ!」「グワッゴボッゴボーッ!」さらに後ろからその首を肘の内側でガッチリと固定、締め上げる!「イヤーッ!」
posted at 17:38:11

「ゴボボボッ!ゴボボボー!」ウォーターボードが両足の推進機構を働かせ、爆発的に加速!ニンジャスレイヤーを振り落としにかかる。しかしニンジャスレイヤーは締め上げる腕を離さない!「ゴボボボーッ!」反対側の壁へロケット突進!ウォーターボードの脳天が壁に激突!「ゴボボボーッ!」
posted at 17:50:15

「ゴボボボッ!ゴボボボー!」ウォーターボードが両足の推進機構を働かせ、再度加速!ニンジャスレイヤーを振り落としにかかる。しかしニンジャスレイヤーは締め上げる腕を離さない!「ゴボボボーッ!」反対側の壁へロケット突進!ウォーターボードの脳天がふたたび壁に激突!「ゴボボボーッ!」
posted at 17:56:27

恐らくウォーターボードの頭蓋骨に損傷!これでは自らを死に追いやるばかりだ!しかし締め上げられてパニック状態の彼にそんな判断はできぬ。両足の推進機構を働かせ、再度加速!ニンジャスレイヤーは離さない!「ゴボボボーッ!」反対側の壁へウォーターボードの脳天がまた激突!「ゴボボボーッ!」
posted at 17:59:47

再度加速!ニンジャスレイヤーは離さない!「ゴボボボーッ!」反対側の壁へウォーターボードの脳天がまた激突!「ゴボボボーッ!」再度加速!ニンジャスレイヤーは離さない!「ゴボボボーッ!」反対側の壁へウォーターボードの脳天がまた激突!「ゴボボボーッ!」
posted at 18:08:40

ナムアミダブツ!なんたる死のドルフィン・ロデオめいた光景!巨大水槽と化した玄室の中を激しく跳ね返り自らを傷つけ続けたウォーターボードは遂にニンジャスレイヤーを振り落とし、そのままひときわ加速して壁に激突!「サヨナラ!」爆発四散した!
posted at 18:15:22

ニンジャスレイヤーは水中で回転しバランスを取った。ニンジャ肺活量を引き出す水中活動も限界に近い。じつに15分近くの時間を彼は無酸素戦闘に費やしたのだ。彼は床に設置された複数の排水口を見やる。水責めの開始に伴い、排水口はカバーで覆われている。これを破壊すべし!
posted at 18:22:36

だが、排水口のシャッターはそのとき一斉に開いたのであった。ウォーターボードの死に伴う悪趣味なカラクリか?いや、ナンシー=サンのハッキング操作と考えるのが自然であろう。水流に引き込まれぬよう注意して、ニンジャスレイヤーは天井近くにわずかにうまれた水面上へ浮上した。
posted at 18:33:43

「スゥーッ!ハァーッ!」思い切り空気を吸い込み、全身に酸素を循環させる。ここまでの長時間潜水は当然ニンジャスレイヤーにとって未知であった。だが、ニンジャを殺すと決めれば、殺すのだ。それだけの事だ。水位がちょうど良い高さまで下がった事を見計らい、彼はフジサン近くのドアへ向かう。
posted at 18:45:53

ドアの液晶表示が点滅した。「NtoNS」「排水機能奪取」「ロック機構解除重点」「解除した」(……ドーモ)ニンジャスレイヤーは心中でオジギした。ロック式ドアが開きニンジャスレイヤーを迎え入れる。二重隔壁システムを越えると、再び薄暗い廊下そして階段だ。シックスゲイツは残り三人。
posted at 19:03:59

ニンジャスレイヤーは粛々と階段を昇る。次はいかなるニンジャが立ちはだかるのか?彼は自分の負傷状態をニンジャ自律神経によってつぶさに確認した。軽傷が中心であるが、ラオモトへ至るまでにどれだけ戦闘が残っているか予測できぬ。ニンジャ治癒力を最大限に働かせるべし。敵は速やかに殺すべし!
posted at 19:20:43

((ニンジャ……スレイヤー……))
posted at 19:24:23

ニンジャスレイヤーは階段の途上で足を止めた。ニューロンを騒がせる不快なノイズ。ナラク=ニンジャ?いや違う……。
posted at 19:28:03

((ニンジャ…………スレイヤー……))
posted at 19:29:43

「ヌウッ!」ニンジャスレイヤーは壁に手を突いて己を支えた。吐き気を伴う被侵食の感覚が襲ってくる。((ニンジャ……スレイヤー……私は誰だ……私は誰だ……お前のせいだ……お前のせいで……))震えながらニンジャスレイヤーは足を踏み出す。一歩!二歩!
posted at 19:32:39

((ニンジャ……スレイヤー……私は誰だ……お前のせいで……教えろ……私は……))一歩!二歩!
posted at 22:28:42

((おお、おお、この寒さ、見える、私には見える、キンカクテンプル、ホホホハ……アッハハハハハ!アッハハハハ!))一歩!二歩!
posted at 22:40:08

((早く!早く私のところへ来てくれ!憎い!アハハハハ!この寒さ!アッハハハハ!ホホホハハハハ!))一歩!二歩!
posted at 22:44:58

ニンジャスレイヤーは苦労して階段の先を見上げた。「な……」ニンジャスレイヤーは目を疑った。階上で振り返りながら見下ろすのは、トチノキ……?「トチノキ!トチノキ!?」ニンジャスレイヤーは階段を駆け上がろうとして、よろめいた。
posted at 22:48:37

((0010101001110010101011!!!))「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは頭を抱え、階段上でうずくまった。((010010100110111110111100!!!))「グワーッ!」((010111010101110110101010!!!))「グワーッ!」
posted at 22:50:23

((0010……))……「……」ニンジャスレイヤーは震えながら立ち上がった。ノイズは去った。唐突に。先を見上げる。トチノキの姿も消え失せた。幻だったのだ。ニンジャスレイヤーはゆっくりと踏み出した。一歩。二歩。
posted at 23:00:47

目の前に第四のゲートが立ち塞がる。「総会六門」と威圧的なオスモウ・フォントでモールドされたカンバンが、重々しい扉の上に掲げられている。さらに、扉の表面には赤い丸と大きく「四」の文字。ニンジャスレイヤーは意を決して扉を開けた。
posted at 23:06:28

タダーン!電子合成されたドラの音が鳴り響く。数百畳サイズの薄暗いタタミ部屋が現れる。部屋の中には四本の円柱が立てられ、そこからボンボリが吊り下げられている。部屋の中央の天井には円い陰陽マークが意味ありげに描かれている。待ち受けるニンジャは……どこだ?
posted at 23:30:15

迷う間も無し!その時だ!陰陽マークがスライドし円い穴が現れた。そこから球体が落下してきた。球体?然り。重量感をもったそれがニンジャスレイヤーめがけて回転してくる。彼の背丈ほどもある巨大球体である。アブナイ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは側転して球体を回避!
posted at 23:33:11

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!球体はそのままボーリングめいて転がり、ドリフトしながら停止した。そして、おお、なんたることか!その球体が見る間にダンゴムシめいて変態し、装甲ニンジャ装束に身を固めたニンジャが正体をあらわした!「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。アルマジロです」
posted at 23:35:28

「ドーモ、アルマジロ=サン。ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーはアイサツを返した。「それで?そうやって愚鈍に転がるのがオヌシのカラテか」不敵に挑発する。「やってみるがいい」「ぬかせ!イヤーッ!」ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!
posted at 23:57:21

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは側転して体当たりを回避しつつ、スリケンを四連続投擲!ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!硬質のアルマジロ装甲は無傷でスリケンを弾き返してしまう。「ニンジャスレイヤー=サン!その程度の攻撃で俺が倒せるものか!」転がる球体の内部から声が轟く!
posted at 00:07:01

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!球体は再びニンジャスレイヤーに襲いかかる。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは側転して体当たりを回避しつつ、スリケンを16連続投擲!ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!硬質のアルマジロ装甲は四倍のスリケンもやはり跳ね返してしまう!「グッハハハハ!」
posted at 00:24:12

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!ドリフトしながら方向転換した球体が再びニンジャスレイヤーに襲いかかる。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは側転して体当たりを回避しつつ、スリケンを32連続投擲!ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!ナムサン!やはり無効!「グッハハハハハハハ!」
posted at 00:25:57

アルマジロはそのまま部屋の隅まで転がり、変身を解いてニンジャスレイヤーの立ち位置を再確認した。「ニンジャスレイヤー=サン、口程にも無い奴!スリケンを投げるしか能のないサンシタ・ニンジャがよくもまあこのトコロザワ・ピラー・アッパー・エリアのセキュリティを突破して来られたものよ」
posted at 00:37:10

「……」「……貴様、いったい何の用でここまで来た?あのコーカソイド女か!残念だがこの先にあの女はおらん!あの女はな!……しかしつまらん女だったことよ!ハハッハハハ!」「……」
posted at 00:53:32

「あの女は我々のもとには既に無い、既にな!ハハハハッ!今頃はラオモト=サンのご子息のもとよ!……悔しいか?悔しんでジゴクへ行くがよい」「……」ニンジャスレイヤーは中腰姿勢を取った。チャドーだ。「……来い」無感情に言った。「望むところよ!イヤーッ!」アルマジロが転がり迫る!
posted at 00:59:56

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!突進しながらアルマジロが叫ぶ!「このままノシモチめいて潰れた死体にしてくれる!それを鞣してカーペットにでも」「イヤーッ!」「……え?」
posted at 01:02:12

ニンジャスレイヤーの右腕は肩先まで、アルマジロの球体装甲に埋めこまれていた。踏み込みながらのチョップ突きは冷たい怒りを伴い、アルマジロの装甲を貫通。当然、中の人体にまで届いていた。「……グワーッ……?」
posted at 01:04:48

ニンジャスレイヤーは右腕を引きぬいた。「グ、グ、グワーッ!」アルマジロはたまらず変身を解いた。腹部に穴が開いている!身悶えしてタタミの上を痙攣しながらのたうちまわるアルマジロ。うつ伏せのその体をニンジャスレイヤーは馬乗りになって押さえつける。そして顎先へ後ろから手をかけた。
posted at 01:10:23

「内側に丸まるのは得意のようだな、アルマジロ=サン」「グワーッ?」「この際、逆向きに丸まるジツも覚えるがよかろう」「グ、グワーッ!?」ニンジャスレイヤーは顎にかけた両手に力を込め、無理矢理にアルマジロの体をエビ反りにしてゆく!ナムアミダブツ!キャメルクラッチめいた残虐な技だ!
posted at 01:12:50

「グワッアバッアバッババババーッ!助けアバーッ!」「……イヤーッ!」メキメキ、ミシミシと嫌な音が鳴る。背骨が逆向きに曲げられてゆく音だ。ニンジャスレイヤーは装甲につつまれたアルマジロの体を淡々と反らせてゆく。「アバババーッ!アバババババーッ!」
posted at 01:15:53

ゴウランガ!ニンジャスレイヤーの無色透明な憤怒の苛烈さを見よ!アルマジロはニンジャスレイヤーの怒りを買ったのだ……まさにこれは……インガオホー!「アババババーッ!許しアバババババーッ!アバババババーッ!」「……イヤーッ!」「アババババババババーッ!」
posted at 01:18:29

「許し……許し……」「許しはナンシー=サンに乞うがいい。生き延びることができるのならな……イヤーッ!」「アバグワーッアバッアバババババババーッ!」メキメキ、ミシミシ、アルマジロのメンポから血泡が溢れ出す。ボギン。ついに背骨が音を立てて折れた。だがニンジャスレイヤーは手を止めぬ。
posted at 01:25:01

「アバッ……アバッ……」痙攣するアルマジロ体を逆向きに折り曲げ終えると、ニンジャスレイヤーはゆらりと立ち上がった。先へ進むゲートを見出し、そちらへ歩き出す。背後でアルマジロのニンジャソウルが爆発した。
posted at 01:30:12

ふいにニンジャスレイヤーは足を止めた。そして天井の陰陽の穴を振り返った。「イヤーッ!」バク転を繰り出し距離を取る。その直後、陰陽の穴から新手の影が落ちてきて、膝立ちに着地!
posted at 01:45:07

「……五人目か」ニンジャスレイヤーはジュー・ジツの構えを取った。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ニンジャスレイヤーです」落ちてきた赤黒のニンジャがオジギした。「何」「ニンジャスレイヤーです、ニンジャスレイヤー=サン」ゆっくりと進み出る。「……!」
posted at 02:01:12

ニンジャスレイヤーを名乗る敵が一歩踏み出すと、その姿がぼやけ、茶色の忍者装束となった。「バンディットです」さらに一歩。やはり姿がぼやけ、背中に巨大なスリケンを背負ったニンジャとなる。「ヒュージシュリケンです」さらに一歩。「……センチピードです」一歩。「コッカトリスです」
posted at 02:04:00

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げた。ザザッ!進み出る姿は砂嵐めいたノイズとなり、スリケンが透過してしまう。「ビホルダーです」さらに一歩。「インターラプターです」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは再度スリケンを投擲!進み出る姿がスリケンに触れ、ノイズとなって散る!
posted at 02:07:47

なんたる妖しのジツ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは警戒し、六連続のバク転で距離を取る。「アースクエイクです」一歩。「バジリスクです」「ドーモ」「ドーモ」「ドーモ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを構える。ザザッ!さらに一歩踏み出す。その姿は……「……フユコ?」
posted at 02:10:14

最愛の妻……ソウカイ・シンジケートの手によってトチノキとともに命を奪われたフユコが、今、彼の目の前に立っている。ニンジャスレイヤーは己の正気を疑った。そして恐れた。「フユコ」フユコは無言のままニンジャスレイヤーに近づいてくる。ニンジャスレイヤーは後ずさった。「フユコ」
posted at 02:13:32

「ニンジャスレイヤー=サン、では私は?私は誰だ?」フユコの顔がぼやけ、やがてその姿が不定形の影となった。「私は誰だニンジャスレイヤー=サン?私は誰だ……」「やめろ!」「私は誰だ……お前のせいで……」「やめろ!」「お前のせいで……」「グワーッ!」
posted at 02:15:44

【NINJASLAYER】
posted at 02:16:51

【NINJASLAYER】
posted at 22:51:04

しばしの静寂。フジキドの叫び声だけが木霊する。少しして、ぽた、ぽたと血がタタミに滴る音。
posted at 22:58:47

片膝立ちで立つニンジャスレイヤーは、息を荒げながら目を開く。謎の攻撃者は消えていた。周囲には黒焦げになったアルマジロの死体しか見えない。幻覚だったのか?あるいは精神攻撃の類か?いずれにせよ、とっさに左掌にスリケンを突き刺し漢字を書いたことで、彼はどうにか正気を保つことができた。
posted at 23:00:57

(((敵だとすれば、恐るべき相手だった……次にふたたび攻撃を仕掛けてくるとしたら、果たして耐えきれるだろうか……)))フジキドは首を左右に振って迷いを振り払い、立ち上がった。そして歩き出す。5人目のシックスゲイツが待つフロアへと向かって。
posted at 23:03:03

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #3「アンド・ユー・ウィル・ノウ・ヒム・バイ・ザ・トレイル・オブ・ニンジャ」#2 終わり #3へ続く
posted at 23:03:24

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 23:03:42

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #11

110518

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #3「アンド・ユー・ウィル・ノウ・ヒム・バイ・ザ・トレイル・オブ・ニンジャ」#3
posted at 23:03:51

「成せば成る……五十歩百歩……虻蜂取らず……」大きな凧(カイト)を背負ったそのニンジャは、アグラを組み目を閉じてメディテーションを行っていた。口に唱えるのはネンブツではなく、首領ラオモト・カンが好むコトワザの数々である。
posted at 23:10:43

バイオバンブーと強化和紙で作られたその凧には、「キリステ」「ムテキ」「ヤリで刺す」など、彼の決意のほどを表すショドーがしたためられている。彼こそはヘルカイト。現在では、ソウカイ・シックスゲイツの最古参となったニンジャだ。
posted at 23:20:12

ヘルカイトの脳裏では、ソウカイニンジャとなってからこれまでの記憶が、ファンタズマゴリアめいた回転を見せていた。シックスゲイツらに虫扱いされたニュービー時代……その中でも最低の屑であったガーゴイルを任務の中で事故に見せかけて殺し、まんまと自分がシックスゲイツに昇格……
posted at 23:29:48

与えられる任務を忠実に実行……次第に高まる斥候ニンジャとしての評価……シックスゲイツ温泉旅行……ヒュージシュリケンとの確執……生存を確認しながらも任務の中で無慈悲にヒュージシュリケンを見捨て抹殺……やがてシックスゲイツの最古参に……。理想的キャリアアップの道を辿っているはずだった
posted at 23:34:53

だが、ヘルカイトには解っていた。ニンジャスレイヤーを倒さねば、ラオモトから最大の信頼を勝ち取ることはできないことを。また同時に、自分が最古参のシックスゲイツとなれたのは、ニンジャスレイヤーとの直接対決を巧みに回避し続けてきたからでもあることを。
posted at 23:40:34

ヘルカイトは、かっと目を見開いた。下の階から爆発音が聞こえてくる。「アルマジロまでもが……」胃が鉛の塊になったかのような緊張感。奴がすぐそこまで迫っている。ということは、ダークニンジャが敗れ、さらに四人のシックスゲイツが殺されたのだ。
posted at 23:48:24

(((ラオモト=サンは気付いていないのか?ならば天守閣まで飛翔し報せるべきでは?……ノー、ノー、ノーだ。そんな指示は受けていない。あえて選挙放送に集中しているのかもしれん)))苦い失敗の味がこみあげる。狡猾な彼はしばしば、任務以上の仕事をこなそうとし、ラオモトの不興を買ってきた。
posted at 23:53:50

「虻蜂取らず……虻蜂取らずになってはならない」ヘルカイトは頭を抱えながら苦悩した。「俺に与えられた任務は、このフロアを守り抜き、ニンジャスレイヤーを始末すること。エグザクトリー!ヘルカイトよ、真のシックゲイツの矜持を奴に見せつけるのだ!」ヘルカイトは腰溜めの姿勢で自らを鼓舞した。
posted at 00:06:49

ヘルカイトは腰に吊ったパウチの中から、違法麻薬シャカリキ・タブレットの粉を人差指に取り出し、鼻で吸い上げる。清涼感と昂揚感。恐れが消えてゆく。遥かに良くなってきた。「思えば、あの頃がシックスゲイツの黄金時代だった。俺の手でニンジャスレイヤーを殺し、シックスゲイツの劣化を止める!」
posted at 00:13:23

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posted at 00:16:26

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは体重を乗せた前蹴りで、「五」と書かれた扉を破壊する。凄まじい突風が前方から吹きつけた。「……これは……!」ナムアミダブツ!ニンジャスレイヤーの眼前に広がるのは、これまでのどのシックスゲイツ・フロアとも違う、ジゴクめいた光景であった!
posted at 00:20:47

まず目に飛び込んできたのは、部屋の上下左右に多数埋め込まれた、巨大なCPUファンを思わせるマシーナリーだった。床はジゴクの第3ディストリクトめいた針山で埋め尽くされ、コケシじみた立石で作られた小さな足場や、攻撃訓練用モクジンなどが飛び石状に点在する。まるで、巨大なUNIX基盤だ。
posted at 00:28:59

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、ヘルカイトです」部屋の中心部にそびえ立つコケシ状足場の上で、ヘルカイトはオジギを繰り出した。「ドーモ、ヘルカイト=サン、ニンジャスレイヤーです。イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの両腕がムチのようにしなり、二枚のスリケンが投擲された!
posted at 00:35:01

「イヤーッ!」ヘルカイトは高く跳躍し、背中に負った凧を大きく展開すると、巨大ファンが巻き起こす上昇気流に乗ってニンジャスレイヤーのスリケンを回避した!タツジン!強化和紙にしたためられた「ムテキ」のショドーがニンジャスレイヤーを嘲笑う!
posted at 00:40:39

一方のニンジャスレイヤーは、ネコの額ほどの足場をリズミカルに飛び渡りながらヘルカイトに接近していった。上半身は少しもブレず、淡々とスリケンを投げ続ける。ヘルカイトは巧みに巨大ファンの回転を遠隔IRC制御し、自由自在に室内を飛び回って、ニンジャスレイヤーの接近とスリケンを回避した!
posted at 00:47:19

「イヤーッ!」ヘルカイトも空中からスリケンを投げつけてくるが、ニンジャスレイヤーはこれをアクロバティックな跳躍で巧みに回避する。(((敵の軌道は読めた。あと少し……次の跳躍で奴が乗っていたコケシ足場に飛び渡って、さらに壁へ飛ぶ。そこから壁を走り、奴のカイトに飛びかかる!)))
posted at 00:51:17

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがコケシ足場へと跳躍した!おお、ナムサン!その直前にコケシの上空を飛行していったヘルカイトが、秘かに非人道兵器マキビシを足場に仕掛けていたことに、彼は気付かなかったのだ!「グワーッ!」ウカツ!棘が深々と刺さる!さらにバランスを崩し針山に落下する!
posted at 00:55:07

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは空中回転で体勢を立て直し、足裏から着地することで針山によるダメージを最小限しようと試みる。だがそれを読んでいたヘルカイトは、天井の巨大ファンの回転スピードをMAXにして高速飛来し、上空からヤリでニンジャスレイヤーの左肩を貫いたのだ!「グワーッ!」
posted at 01:01:39

「どうだニンジャスレイヤー=サン!これが真のシックスゲイツの力だ!」直後、西側の壁に備わった巨大ファンの回転速度がMAXとなり、ヘルカイトの極悪非道のヒット&アウェイ戦法が完成する!ヘルカイトの凧は、下のバンブー・フレームワークにつけられた細長いショドーをはためかせて飛び去った!
posted at 01:07:41

「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは危険な針山へ背中から落下する!全身に無数の激痛が走った!『インガオホー!』感知センサーが作動し、電子ヤクザ音声が落下者を嘲笑う!「グワーッ!グワーッ!」苦悶の絶叫を上げるニンジャスレイヤー!さらに左肩からは血が流れ、彼の体力を容赦なく削ぎ落とす!
posted at 01:13:48

【NINJASLAYER】
posted at 01:13:58

【NINJASLAYER】
posted at 22:31:48

(((勝てる、勝てるぞ!奴はここまで昇ってくるのに体力と精神力を消費しきっている!)))赤漆塗りのヤリを構えながら急降下をしかけるヘルカイト!その強化チタン製の穂先は、針山の上で仰向けに倒れているニンジャスレイヤーの心臓に狙いを定めていた!「イヤーッ!」
posted at 22:39:58

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはとっさに左手でヤリの穂先を掴む。ゴウランガ!刃は心臓の1センチ手前で停止した。「イヤーッ!」さらに右腕から繰り出すカラテで、ヤリの柄を破壊!「イヤーッ!」さらに激痛をこらえながらスプリングキック!両足がヘルカイトの胸板をとらえた!「グワーッ!」
posted at 22:46:16

ニンジャスレイヤーの痛烈なダブルキックを受けたヘルカイトは、糸の切れたタコのように回転しながら、猛スピードで壁に向かって飛んでゆく!ニンジャスレイヤーはスプリングキックの勢いのままジャンプし、三回転ひねりを加えながら、近くの足場に着地した。姿勢がやや乱れる。ダメージが大きいのだ。
posted at 22:48:09

#6gates:Hellkite:左3番ファン速度5、右5,6番ファン速度2、下8番ファン速度MAX重点、上17番ファン速度MAX重点/// ここまでのタイプ速度、わずか0コンマ1秒!ヘルカイトは脳内インプラントされたIRCトランスミッター機能を使い、室内ファンの回転を制御する!
posted at 22:53:59

するとどうだ!上下左右から巧妙にコントロールされた突風が吹きつけ、ヘルカイトを空中静止状態にしたのである!ゴウランガ! (((ヒュウ!危うくこの世とサヨナラするところだったな。ウカツだったぜ。ニンジャスレイヤーを殺すには、まだまだ気力と体力を削らなくてはいけないというのか!)))
posted at 22:59:11

下から投げつけられたヤリを回避すると、ヘルカイトは再び上空を旋回し始めた。ホワー!ホワー!ホワー!首から吊るした手巻き式サイレンを鳴らして敵の聴覚と精神を責めさいなみながら、ヘルカイトは卑劣なスリケン攻撃を繰り返す。獲物が力尽きて死ぬのを待つ、砂漠の猛禽類のような無慈悲さで!
posted at 23:05:10

数分ほどして、ニンジャスレイヤーの動きが精彩を欠き始めた。時折、肩の傷を狙ったスリケンが命中し、フジキドの体力を容赦なく奪う。ヘルカイトの見立てどおり、彼の気力と体力は限界に達しつつあったのだ。もしここにフートンがあれば、彼はすぐにでも包まって寝るだろう。それほど過酷な状態だ。
posted at 23:09:54

「どうした、ニンジャスレイヤー=サン!センセイがいないと駄目か?!」部屋の中心部にそびえ立つコケシ状足場の上に着地すると、ヘルカイトは両手でキツネサインを作り、相手を挑発した。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの両腕がムチのようにしなり、怒りに満ちた二枚のスリケンが投擲される!
posted at 23:14:10

「イヤーッ!」ヘルカイトは高く跳躍し、背中に負った凧を大きく展開すると、巨大ファンが巻き起こす上昇気流に乗ってニンジャスレイヤーのスリケンを回避した!タツジン!強化和紙にしたためられた「アブナイ」のショドーがニンジャスレイヤーを嘲笑う!
posted at 23:16:27

逆にヘルカイトが空中からナパームのごとく投下したクナイは、ニンジャスレイヤーの背に次々と突き刺さる。(((このままでは体力が持たない。チャンスはあと一度きりだ。次の跳躍で奴が乗っていたコケシ足場に飛び渡って、さらに壁へ飛ぶ。そこから壁を走り、奴のカイトに飛びかかる!)))
posted at 23:20:40

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーがコケシ足場へと跳躍!だが何たるデジャヴか!その直前にコケシの上空を飛行していったヘルカイトが、秘かに非人道兵器マキビシを足場に仕掛けていたことに、彼は気付かなかったのだ!「グワーッ!」ウカツ!棘が深々と刺さる!さらにバランスを崩し針山に落下する!
posted at 23:22:04

「グワーッ!」ニンジャスレイヤーはバランスを崩し、危険な針山へと背中から落下する。そしてインパクト!全身に無数の激痛が走った!『インガオホー!』床に仕込まれた震動感知センサーが作動し、電子スモトリ音声がニンジャスレイヤーに対して精神的ダメージを与える!「グワーッ!」
posted at 23:26:29

(((今なら殺せるか?)))一瞬の迷いの後、ヘルカイトは部屋の四隅に仕掛けられた記録カメラに目をやる。(((今ここで劇的なカイシャクを加えれば…)))彼の脳裏に、ラオモトの真の副官へと続く黄金のキャリアパスが浮かぶ!彼は壁に掛けられたサスマタを手に取り、止めを刺すべく急降下した!
posted at 23:46:02

ヘルカイトは遠隔IRCで天井のファン回転速度をMAXにする。猛烈な突風が背中のタコを後押しし、凄まじいGが全身にかかった!赤漆塗りのサスマタに全膂力をこめ、急降下攻撃を繰り出す!だが!サスマタがニンジャスレイヤーの首に命中する直前、彼は微かな違和感を感じた!(((減速?!)))
posted at 23:52:08

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは霞む目をかっと見開き、紙一重でサスマタを掴んだ。ゴウランガ!インパクト直前に起こった不可解なファン回転の不具合が、ヘルカイトの突撃速度をわずかに殺し、カイシャク攻撃の直撃を防いだのである。
posted at 23:59:38

ヘルカイトは仰向けに倒れる敵の胸の上に着地し、膂力と体重だけでサスマタを押し込もうとする。一方、ニンジャスレイヤーはサスマタを押し返しながらも、ヘルカイトの顔の向こう、天井に備わった大型ディスプレイのひとつを見た。TV画面が消え、黒いUNIX画面を緑色の文字が超高速で流れていた。
posted at 00:06:18

画面はNetHackじみた図形に代わり、テンサイ級ハッカーでもなければ認識しきれないほどの速度で動き始めた。モニタに繋がるケーブルや大型ファンの一部がバチバチと火花を散らす。やがて画面に現れるUNIX文字だけで作られたナンシーの顔!トコロザワ・ピラーの電脳空間がハックされたのだ!
posted at 00:14:45

「オヌシの負けだ、ヘルカイト=サン!イイイヤアアアァーッ!」ニンジャスレイヤーは渾身の力をこめてサスマタをへし折った。続けざま、激痛をこらえながらスプリングキック!両足がヘルカイトの胸板をとらえた!「グワーッ!」
posted at 00:17:13

再び猛スピードで弾き飛ばされてゆくヘルカイト。「無駄だ!この部屋にいる限り俺は……ワッツ!?」ファンが制御不能だ!ヘルカイトは回転したまま壁に痛烈に叩きつけられる。「グワーッ!」激突による脳震盪の中、ふと天井を見たヘルカイトは、そこに映ったUNIX画面を見て瞬時に全てを悟った。
posted at 00:25:36

そして一瞬後、彼の目の前にはロケットのような勢いで高く跳躍するニンジャスレイヤーの姿が現れた。違法薬物が脳内麻薬の分泌をうながし、世界がスローモーションに変わる。だがヘルカイトの体は反応しない。ニンジャスレイヤーの上昇が止まり、彼の目の前で体をひねり、回転回し蹴りを……放った!
posted at 00:30:18

なんたるカラテ!かろうじて動いたヘルカイトの右腕の骨を粉々に粉砕しながら、右の胸板にニンジャスレイヤーの足裏が命中する。「ハイクを詠め」無慈悲なる言葉が、蒸気のような吐息と共に鋼鉄メンポから吐き出された!直後、衝撃波が走り、トコロザワ・ピラーの壁が砕ける!
posted at 00:37:55

「サヨナラ!」ヘルカイトの体が、トコロザワ・ピラーの高層階から落下する。遠ざかってゆくその声を聞きながら、ニンジャスレイヤーはコケシ足場の上に着地し、天井にオジギをした。ナンシーに礼を言うかのように。するとUNIX画面の高速スクロールが一瞬止まり、「ヨロコンデー」とタイプされた。
posted at 00:41:22

ニンジャスレイヤーは足場を素早く飛び渡って針山ジゴクを越え、最後のシックスゲイツが待つフロアへの階段を駆け上った。もはや体力と精神力が限界に近いことを、彼は悟っていたからだ。休息を取る時間も、最終的には命取りになる。今はただひたすら突き進み、ラオモトを仕留めるしかないのである。
posted at 00:43:55

一方、白目を剥いて気絶しながら数十メートルの高さを落下したヘルカイトは、かろうじて正気を取り戻し、傷ついた背負い式カイトを再展開した。「ムテキ」の文字が書かれた部分の強化和紙が、ひどく痛んでいる。右腕と胸骨も破壊されてしまった。「ラオモト=サンに伝えねば……」
posted at 00:47:08

ヘルカイトはうわごとのように繰り返しながら、タコを必死で操り、どうにかビル風を利用して上昇に成功した。風圧で全身が軋む。今にも体が空中分解しそうだ。覚束ないタコの軌道は、片羽をもがれた蚊のように無様だったが、真のシックスゲイツにふさわしい執念深さでもあった。「ラオモト=サン……」
posted at 00:50:22

重金属酸性雨に打たれ、ふらふらと旋回しながら、ヘルカイトはトコロザワ・ピラーの天守閣を目指し舞い上がる。黒雲の隙間からは、天頂に輝くドクロじみた月が顔をのぞかせ、ソウカイ・シックスゲイツの崩壊を暗示するかのように天守閣の黄金シャチホコを青白く照らすのだった。
posted at 00:53:22

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #3「アンド・ユー・ウィル・ノウ・ヒム・バイ・ザ・トレイル・オブ・ニンジャ」#3終わり #4へ続く
posted at 00:53:36

◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 14:34:50

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #12

110521

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #3「アンド・ユー・ウィル・ノウ・ヒム・バイ・ザ・トレイル・オブ・ニンジャ」-4
posted at 14:35:36

「六」!ひときわ巨大な両開き式のドア……いや、これはもはや門である……をニンジャスレイヤーは前にしていた。シックスゲイツ最後の一人がこの奥に待ち受ける。それは果たしていかなるニンジャであろうか?
posted at 14:44:34

ニンジャスレイヤーが手をかけるまでも無く、巨大な門は音を立てて開いた。まるで誘うように!「よかろう」ニンジャスレイヤーはツカツカと歩を進める。立ち止まり警戒する時間も理由も無い。行く手を阻むニンジャは全て殺し、最後にラオモトの脳天をチョップするだけだ。
posted at 14:48:59

後にしてきたトレーニンググラウンド・アスレチックエリアのように、フロアは断崖めいた吹き抜けとなっていた。フォレスト・サワタリとの戦闘も遠い昔のようだ。ニンジャスレイヤーの足元は崖めいており、トリイがその先の道を示唆している。手すりの無い、人二人がすれ違う事も難しそうな、狭い橋だ。
posted at 14:58:36

手すりの無い橋めいたコンクリートの足場は、そのまま吹き抜けの対岸まで伸びている。そこにもやはりトリイがある。不気味にライトアップされたそのトリイの奥には、おそらくさらに上階へ向かう出口があるはずだ。
posted at 15:03:29

ドオン、ドオン、ドオン。巨大な太鼓音が鳴り響く。ニンジャスレイヤーはジュー・ジツの構えを取った。対岸のトリイの奥から一人のニンジャが姿をあらわし、この一直線の橋めいた足場を進み出てくる。数フィートごとに橋の側面に設置されたボンボリが、ミラーめいたニンジャ装束を照らす。
posted at 15:18:46

「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。ゲイトキーパーです」ミラーめいたニンジャ装束のニンジャは自信に満ちたオジギでアイサツした。「ドーモ、ゲイトキーパー=サン。ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーはオジギを返した。「オヌシが最後の一人だ。ニンジャ殺すべし」
posted at 15:21:19

「……実に残念だ」ゲイトキーパーは言った。「まさか私が手を汚す事態にまでなろうとは。ヘルカイト=サンは抜け目ない男であったが」「……」「私がシックスゲイツの創設者だ。君がシックスゲイツのニンジャを殺すたび、私は心を痛めてきた」
posted at 15:25:05

「その心配も今日で終わりだ。私がオヌシをジゴクへ送る」「……ラオモト=サンは完璧な統治者だ」ゲイトキーパーは静かに続けた。ニンジャスレイヤーはゲイトキーパーの殺気を察知している。これまでのニンジャとの格の違いは明白。無闇に襲いかかるべきではない。まずは耳を傾けながら隙を探るべし。
posted at 15:42:03

「君には想像できないのだろう。ラオモト=サンの統治力こそ、混迷のネオサイタマが必要とするものだ。弱者は強者の絶対権力の繁栄下にあって、初めて、生きながらえる事ができるのだ。君の想像力の欠如は、完成されつつある正義の統治をいたずらに乱すテロリズムだ」「……」
posted at 15:47:25

「私は確固たる理念の元でシックスゲイツを創設した。シックスゲイツは秩序だ。ニンジャに憑依され、ともすれば無軌道な暴力に駆られてしまう者たちに、目的と秩序を与える。そう、ラオモト=サンという、清濁併せ呑む大樹のごとき器のもとで」「……」
posted at 15:53:49

「私は哀しくてならない。君のような愚かなイレギュラーが、我が組織を乱し、この私みずからが事態の収束に務めねばならないという、このマッポー的な現実そのものが」「くだらん感傷の垂れ流しはいつまで続くのだ、ゲイトキーパー=サン」ニンジャスレイヤーが遮った。
posted at 15:58:09

「……私は長らくシックスゲイツの名誉構成員であった。今こうして再び暴力の現場へ降りる事には大変な抵抗がある。だが、」「オヌシの目は節穴だ。世界を数字でしか見ない愚か者の目だ。オヌシが片付ける無機質な数字の中に、私の妻子の、センセイの死が隠れている。憎き敵。殺すべし」「……狂人め」
posted at 16:03:59

ゲイトキーパーは腰のホルスターから二本の得物を同時に引き抜いた。鋼鉄のトンファーだ!両腕を伝って暗い紫の輝きが流れ込み、不吉なオーラとなってトンファーを包む!「ミヤモト・マサシ曰く、死人に口なし!望み通り君の相手をしてやろう。だが残念ながら死ぬのは君だ!」
posted at 16:11:55

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの両腕がムチのようにしなり、二枚のスリケンが口火を切った。「イヤーッ!」ブゥン!トンファーが回転し空中でスリケンを粉々に砕く。「来い!君のカラテを評価してやろう!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが仕掛ける!槍のごときサイドキックだ!
posted at 16:16:26

「フンッ!」鉄骨すらも断ち切る激烈な蹴りを、ゲイトキーパーのトンファーは造作無く受け止める。さらにもう一方の手がトンファーを振り抜きスナップを効かせると、鉄棒が回転してニンジャスレイヤーの頭部を襲撃!「イヤーッ!」
posted at 16:33:24

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは咄嗟にブリッジ姿勢を取ってトンファーを回避した。タツジン!細い足場でブリッジするのは本来大変に危険だ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはさらにバック転を繰り出し間合いを取る。細い足場をものともしない流麗な着地!
posted at 16:45:46

「それだけ全身にダメージを負いながら見事な動きだ」ゲイトキーパーは余裕を見せた。「だが、どこまで保つかな」二本のトンファーを構えたゲイトキーパーの構えには隙が無い。
posted at 16:48:44

トンファーは実際危険な武器である。オキナワ由来のこの武器は攻防一体の性質が重宝され、あっという間に世界中に拡がった。特に江戸時代、モンゴルとの戦争において日本のサムライが使用したトンファー・ジツは一人十殺と敵味方に恐れられ、大英博物館にも当時のウキヨエが残っている……!
posted at 17:19:42

太古のトンファー・ジツは、現代において汚職警官が貧民を痛めつけるやり方とは天と地の開きがある。ゲイトキーパーのカラテは本物だ。油断は死につながる……ニンジャスレイヤーは一度の切り結びで十分にそれを理解していた。
posted at 18:19:28

「イヤーッ!」ゲイトキーパーが踏み込み、右手のトンファーをスナップ回転させた。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは身を沈めて回避しつつ、足払いを仕掛ける。転ばせて足場から叩き落としてしまえばジ・エンドだ!しかしゲイトキーパーはその場で軽くジャンプし足払いを回避!
posted at 18:27:38

「イヤーッ!」ゲイトキーパーは空中で回し蹴りを繰り出す!ニンジャスレイヤーは身をそらせ蹴りを回避!だが反撃は危険!ゴウランガ!そのまま回転の勢いをつけてトンファーが振り抜かれる!「イヤーッ!」「ヌウッ!」ニンジャスレイヤーは腕を上げてトンファーをガードした。クオーン!鈍い金属音!
posted at 18:37:25

ニンジャスレイヤーは顔をしかめた。なんたる打撃力!ニンジャスレイヤーはニューロンを総動員して己のニンジャ耐久力を働かせ、激痛に耐える。「イヤーッ!」コンパクトな動作でチョップ突きを繰り出しゲイトキーパーの心臓を狙う!
posted at 18:43:17

「イヤーッ!」ゲイトキーパーはもう片方のトンファーを腕に添わせてニンジャスレイヤーの手を横から打ち、突きをそらす。「イヤーッ!」そして頭突きだ!「グワーッ!」思いがけぬ攻撃を額に受け、ニンジャスレイヤーがよろめく。ダメージはさほどではない。むしろこれは目くらましだ!
posted at 18:49:52

「食らえ!」ゲイトキーパーは両腕を振り上げスナップした。トンファーが回転!同時にニンジャスレイヤーへ振り下ろす!クオーン!「グワーッ!」ガードしてもなおニンジャスレイヤーを痛めつけるこの打撃力!「イヤーッ!」さらにゲイトキーパーは踏み込む。前蹴りだ!「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 18:57:05

ニンジャスレイヤーは前蹴りを受け、たたらを踏んで後退する。足場は細い。アブナイ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは至近距離からスリケンを投げつける。「フンッ!」ゲイトキーパーは風車めいてトンファーを回転させ、スリケンを防御!「苦し紛れだな。いまだ私は無傷だぞ」
posted at 19:01:02

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは後退しながらスリケンを激しく連射!「フンッ!フンッ!フンッ!フンッ!」ゲイトキーパーは左手のトンファーを風車めいて振り回す。それは残像によってまるで紫の円盾だ!64発のスリケンを全弾防御!
posted at 19:06:38

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは後退しながらスリケンを激しく連射!「フンッ!フンッ!フンッ!フンッ!」ゲイトキーパーは左手のトンファーを風車めいて振り回す。それは残像によってまるで紫の円盾だ!累計128発のスリケンを全弾防御!
posted at 19:23:01

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは後退しながらスリケンを激しく連射!「フンッ!フンッ!フンッ!フンッ!」ゲイトキーパーは左手のトンファーを風車めいて振り回す。それは残像によってまるで紫の円盾だ!累計256発のスリケンを全弾防御!
posted at 19:28:10

「イヤーッ!」やがてゲイトキーパーは回転の隙間から右手のトンファーを繰り出した!タツジン!少しでもタイミングがずれれば二本のトンファーはぶつかり合ってしまうところだ!盾と槍で攻め立てるファランクスめいた無敵の攻撃に、ニンジャスレイヤーはスリケンの投擲を断念せざるを得ない!
posted at 19:30:34

「イヤーッ!」突き出されるトンファーをニンジャスレイヤーは危うく回避!だが風車めいて回転する左手のトンファーが退路を塞ぎにかかる。ナムサン!トンファーの回転に巻き込まれれば最後!ネギトロめいた運命が待つであろう!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはニンジャ背筋力で無理やりに回避!
posted at 19:39:17

「イヤーッ!」さらに右手のトンファーが襲いかかる。今度は振り下ろし攻撃だ!クオーン!「グワーッ!」ついに回避が間に合わず、肩にトンファーを受けたニンジャスレイヤーは膝をついた!「イヤーッ!」つづけて振り下ろされる左手のトンファー!
posted at 19:49:21

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは後ろへ転がって左手のトンファーを危うく回避!クオーン!トンファーが足場を殴りつける!「イヤーッ!」転がるニンジャスレイヤーめがけ、ゲイトキーパーは容赦無くトンファーを交互に振り下ろす!ナムアミダブツ!
posted at 20:56:13

【NINJASLAYER】
posted at 20:56:41

【NINJASLAYER】
posted at 10:30:53

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは後ろへ転がって右手のトンファーを危うく回避!クオーン!トンファーが足場を殴りつける!「イヤーッ!」転がるニンジャスレイヤーめがけ、ゲイトキーパーは左手のトンファーを振り下ろす!ニンジャスレイヤーは転がって回避!クオーン!足場を殴るトンファー!
posted at 10:35:08

「それでは遅かれ早かれ死ぬことになる」トンファーを交互に振り下ろしながら、ゲイトキーパーは冷徹に言い放つ。実際その通りだ。ギリギリの回避をこの細い足場で繰り返すニンジャスレイヤーのスタミナ消耗速度は計り知れない。どうするニンジャスレイヤー!
posted at 10:42:46

「イヤーッ!」転がりながらニンジャスレイヤーはスリケンを投擲。テクニカルな四枚同時投擲だ。「フンッ!」ゲイトキーパーはしかし左手のトンファーを風車めいて回転させ、スリケンをまとめて撃ち落とす。「私のトンファー・ジツはスリケンを受け付けない」
posted at 10:54:20

スリケン投擲によって一瞬の猶予を作り出したニンジャスレイヤーは足場の上に素早く立ち上がり、体勢を立て直した。そして足場を蹴ってゲイトキーパーに襲いかかる!「イヤーッ!」右手でチョップ!「フンッ!」ゲイトキーパーは左手のトンファーを掲げてそれをガード!
posted at 11:00:58

ニンジャスレイヤーは攻撃を休めない!「イヤーッ!」右脚の蹴りだ。だがこれもゲイトキーパーの左手のトンファーがガード!トンファーはそのロッド部分を肘先に添わせることで、小手めいた強靭な防御手段となるのだ。だがニンジャスレイヤーは攻撃を続ける。さらに右手のチョップだ!「イヤーッ!」
posted at 11:04:47

同じ方向からの攻撃を、ゲイトキーパーは左手のトンファーでほとんど無雑作にガードする。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」だがニンジャスレイヤーは右手のチョップをさらに乱打!ゲイトキーパーは当然それら全てを難なくガード!「血迷ったか?無駄だ」ゲイトキーパーが目を細める。
posted at 11:10:47

「反対側がお留守だぞ!イヤーッ!」ナムサン!繰り出される右手のトンファー!クオーン!「グワーッ!」左脇腹に鋼のロッドが叩き込まれる。だがニンジャスレイヤーは右手のチョップを休めない!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ゲイトキーパーは左手のトンファーで全てガード!「無駄だ!」
posted at 11:13:44

「無駄ではない!」ニンジャスレイヤーは叫んだ。左手の拳をかため、ゲイトキーパーの左手のトンファーを殴りつける!「イヤーッ!」「フンッ!」クオーン!さらに上半身に思い切りねじりを加え、そこから渾身の右手チョップを叩き込む!「イヤーッ!」「無駄だ!」「無駄ではない!」
posted at 11:18:24

ゲイトキーパーは左手のトンファーでチョップを受ける。しかし、おお、刮目せよ!ニンジャスレイヤーのチョップはそのままゲイトキーパーのトンファーロッドを切断した!「グワーッ!?」
posted at 11:24:29

ゲイトキーパーは思わず唖然!奈落へ吸い込まれるトンファーロッドの切れ端を見る。ニンジャスレイヤーはその瞬間を捉え、脇腹へ膝蹴りを叩き込む!「イヤーッ!」「グワーッ!」初の有効打!「イヤーッ!」ゲイトキーパーはもう片方のトンファーを繰り出しニンジャスレイヤーを牽制、間合いを取る!
posted at 11:28:30

ナムアミダブツ!まさにこれはドラゴン・ゲンドーソーの鉄の教えである。10発のスリケンが駄目なら50発。50発が駄目なら100発。100発が駄目ならさらにその倍、その十倍!
posted at 11:31:54

オーラをまとったゲイトキーパーの鋼鉄トンファーは確かにおそるべき防御力を誇っていた。しかしニンジャが投げるスリケンを数百枚弾き飛ばし、なおかつ渾身のカラテ技を受け続け、無傷で済もう筈もない。攻撃者はそこらのサンシタ・ニンジャではない……ニンジャスレイヤーなのだ!
posted at 11:42:30

ゲイトキーパーは使い物にならなくなった左手のトンファーを投げ捨て、片手トンファー・ジツの構えに切り替えた。「ここまで来るカラテとはこれほどのものか。讃えよう」ニンジャソウルの輝きが一本のトンファーに集中し、紫のオーラが一際色濃くなる。「だが二度できる芸当ではない。君は満身創痍だ」
posted at 11:52:05

ニンジャスレイヤー自身もそれを自覚している。ゲイトキーパーのトンファー一本を破壊するのにこれほどのダメージを負ったのだ。同じ事を繰り返す余裕などありはしない。「スゥーッ!ハァーッ!」ニンジャスレイヤーはチャドー呼吸を整える。ゲイトキーパーを凝視する。次の一手で全てを決める!
posted at 14:07:27

「次の一手で決めようと思っているな?」ゲイトキーパーはじりじりと前進する。「その判断は適切だ。そして私は君を次の一手で叩き潰すつもりだ」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは踏み込んだ!中腰姿勢から拳を突き出すポン・パンチだ!
posted at 14:11:42

「イヤーッ!」ゲイトキーパーは半身になってニンジャスレイヤーの拳を避け、トンファーを繰り出した。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはトンファーを避け……ナ、ナムアミダブツ!足場から足を滑らせた!
posted at 14:20:51

「ヌウッ!」ゲイトキーパーは足場の淵から見下ろし、落下して行くニンジャスレイヤーを目視しようとする。いない!
posted at 14:27:45

ゲイトキーパーは背後からの攻撃に備える。警戒が的中!いつのまにか足場の反対側にいたニンジャスレイヤーが至近距離からチョップ突きを繰り出し、背後から心臓を抉りにかかったのだ!「イヤーッ!」「イヤーッ!」電撃的速度で振り向きながらのトンファーがチョップ突きを弾いた!「グワーッ!」
posted at 14:31:03

ニンジャスレイヤーはいかなる動きをとったのか?足場の淵から滑り落ちた彼はそのまま淵にぶらさがった。そこから足場の下をくぐり、反対側に移動すると、己の身体を引き上げて背後をとったのである!なんたる特異なアンブッシュ!しかしゲイトキーパーには通用せず!
posted at 14:33:39

腕を弾かれてバランスを崩すニンジャスレイヤーの胸を、ゲイトキーパーのサイドキックが捉え、押し出す!「イヤーッ!」「グワーッ!」蹴りを受けたニンジャスレイヤーは思い切り吹っ飛んだ!ナムアミダブツ!そのまま奈落へ真っ逆さまだ!
posted at 14:37:23

ハイウェイでの死闘!ブラックヘイズ!「ラオモトの声」!アスレチックエリアでのフォレストとの闘い!モータードクロ!ダークニンジャ!デビルフィッシュ!レイザーエッジ!ウォーターボード!アルマジロ!ヘルカイト!この連戦は、真っ逆さまに転落する為に積み上げられた虚しい勝利だったのか!?
posted at 14:41:41

違う!断じてそうではない!見よ!吹き飛ばされるニンジャスレイヤーが手にとったそれを!ドウグ社のフック付きロープを!「イヤーッ!」
posted at 14:44:15

まっすぐに飛んだロープのフックは足場下のライトアップボンボリに巻き付き、ガッチリとくわえ込んだ。ニンジャスレイヤーは振り子めいた勢いをつけ、足場の下をターザンめいてくぐり抜ける!円形の軌道を描き、そのまま足場の反対側、上へと跳ね上がる!
posted at 14:49:16

起動する巻き上げ機構!ニンジャスレイヤーは円を描きながら、中心点に位置するゲイトキーパーへ空中突撃!「イイイイイイイヤァーーーーッ!」恐るべき勢いを乗せた飛び蹴りがゲイトキーパーの首を捉える!ゲイトキーパーのニンジャ反射神経を持ってしてもトンファー・ガードは間に合わない!
posted at 14:54:34

「グワーッ!?」ゲイトキーパーがメンポ内で血を吐き、よろめく。遠心力とニンジャ筋力を乗算した蹴りは、延髄を切断しかかるほどの衝撃だ!両手にトンファーがあれば、あるいは防げた攻撃であったやも知れぬ。しかし……!
posted at 15:17:07

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは叫んだ!まだだ!右脚をゲイトキーパーの首に叩き込んだ姿勢のまま、今度は左脚で首の反対側を蹴りつける!「グワーッ!」両脚がカニめいてゲイトキーパーの頭を挟み込む!そこからニンジャスレイヤーは上半身を屈伸させた。そして……
posted at 15:20:59

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは己の身体に反動をつけ、ゲイトキーパーの頭を挟んだまま、足場に手をついてバク転!ゲイトキーパーの頭を弧を描いて叩きつけた!「グワァァァーッ!」
posted at 15:23:09

ビシィ!ゲイトキーパーの頭部が叩きつけられた足場に亀裂が走った。ゲイトキーパーの手から力が抜け、トンファーを取り落とす。カラン、カラン。トンファーは細い足場の淵から転がり落ちていく。ニンジャスレイヤーはすぐさま立ち上がり、仰向けに倒れるゲイトキーパーの胸板を容赦無く踏みつける!
posted at 15:28:07

「グワーッ!」「オヌシのカラテに敬意を払おう。ゲイトキーパー=サン。オヌシの負けだ。ハイクを詠むがいい!」ニンジャスレイヤーは荒い息を吐きながら宣告する。勝負は一瞬の交錯で決した。長い膠着状態を耐え忍び、わずかな機会を捉え、致命傷を与えてトドメを刺す……これがニンジャのいくさだ!
posted at 15:34:00

「アバッ……見事なり……」ゲイトキーパーが震えた。脳天から血が染み出し、足場にロールシャッハ・テストめいた模様を作る。「だが、君がラオモト=サンに勝てる見込みはない。君はラオモト=サンの偉大さを思い知り、ドゲザして死ぬ事だろう。これは予言ではない……確定した未来だ」
posted at 15:39:28

「……ハイクを詠め」「……ラオモト=サン、バンザイ、インガオホー」ゲイトキーパーが震えながらハイクを詠み終えると、ニンジャスレイヤーは身を沈め、「イヤーッ!」電撃的なチョップで彼の首を切断した。「サヨナラ!」首をつかんだニンジャスレイヤーが飛び離れるや否や、その体は爆発四散した。
posted at 15:51:10

トリイをくぐり、上階へ続く出口の前に立ったニンジャスレイヤーは、トリイの脇に設置された定点カメラを睨みつけた。ニンジャスレイヤーはゲイトキーパーの首を定点カメラの前に縛りつけると、出口の奥にあるエレベーターに足を踏み入れた。
posted at 16:55:57

「このエレベーターの到達階は天守閣を臨む空中庭園ドスエ」滑らかなマイコ音声が流れ、シリンダーめいたエレベーターは上昇を開始する。リラグゼーション効果のあるオレンジの照明とバンチャ・インセンスが漂う。オコトBGMが単調な調べをリフレインする……
posted at 21:55:52

((ニンジャスレイヤー!))
posted at 21:56:58

ザザッ!オレンジの照明が点滅し、闇が降りる。ニンジャスレイヤーは身構えた。これで三度目だ。「来るがいい!まやかしには屈さぬぞ!」ニンジャスレイヤーの叫びがシリンダーめいた狭い闇の中に反響する。
posted at 22:03:43

((マヤカシ……マヤカシだと?))
posted at 22:08:15

カッ!ニンジャスレイヤーの眼前に、苦悶するオバケめいた輪郭が浮かび上がる!「マヤカシではないぞニンジャスレイヤー=サン!私の苦しみを知れ!お前のせいだ!お前のせいなのだ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは頭をマンリキめいた力で締め付けられる感覚に悶える!
posted at 22:13:06

「あなたのせいよ!あなたの!」カッ!背後に新たな気配!フユコの声だ。ニンジャスレイヤーは振り返らぬよう努めた。「あなたのせいよ!あなたがあの日私たちを……あんな場所に!」「グワーッ!」「パパ……?」ぞっとするほど冷たく柔かい手がニンジャスレイヤーの脚をつかむ。「グワーッ!?」
posted at 22:20:15

「パパのせいなの?ここは寒くて怖いよ!パパ?」「トチノキ……トチノキ……」「どうしてパパは生きているの?パパだけどうして!パパのせいだ!」「グワーッ!」
posted at 22:23:42

「さよう、オヌシのせいだ!」ニンジャスレイヤーの目の前の顔が老人の形を取る!「セ、センセイ」「ワシもユカノも、オヌシの身勝手な復讐の犠牲となった!オヌシのせいで!」「あなたのせいで私は記憶を!それだけに飽き足らず!あなたのせいで婚約者が死んだ!」ユカノの顔が横に!「グワーッ!」
posted at 22:30:30

落ち着け!落ち着くのだ!ニンジャスレイヤーは己に言い聞かせる。こんなものはマヤカシにすぎない。なぜならユカノは生きているからだ、だからオバケやユーレイなどという超自然存在になるわけがないのだ。わかる、わかる!
posted at 01:43:16

ではフユコは?トチノキは?センセイは?本物のユーレイでは?まさか!そんな!ユーレイ!「グワーッ!」フジキドは血の涙を流し、頭を抱えた。そしてシリンダーめいた狭い闇の中、助けを求める者も無く、力無くしゃがみ込むのだった。「ニンジャスレイヤー……ニンジャスレイヤー……お前のせい……」
posted at 01:47:00

(第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #3「アンド・ユー・ウィル・ノウ・ヒム・バイ・ザ・トレイル・オブ・ニンジャ」-4終わり。#3-5へ続く)
posted at 01:48:11

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #13

110524

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #3「アンド・ユー・ウィル・ノウ・ヒム・バイ・ザ・トレイル・オブ・ニンジャ」-5
posted at 22:14:07

今やフジキドの周囲には、フユコ、トチノキ、ドラゴン=センセイばかりでなく、これまで殺したニンジャ、あるいは彼が死を看とっていった善意の人々が際限なく立ち現れ、彼の事をひどく罵り、責めさいなむのであった。
posted at 22:20:27

「お前のせいで私は死んだのだ」「お前がいなければ」「ニンジャスレイヤー……」「お前のカラテで私は」「私はむごたらしく殺された」「私は真っ二つにされた」「私はスクラップに」「私は四肢切断」「私は心臓を摘出」「私は首をはねられた」「私は寸刻みに」「お前がいなければ、お前がいなければ」
posted at 22:29:37

「黙れ……黙れ……ニンジャ殺すべし……!」フジキドはネンブツめいて呟いた。「オヌシらは死んで当然……憎き敵……」「ニンジャでない我々はどうなのだ」市井の誰かが責める。「お前のその勝手な判断でどれだけの人間が死んだ?お前が勝手なことをしなければ、私達は生きながらえていたに違いない」
posted at 22:34:29

「そうだ!」「そうだ!」「そうだ!」「グワーッ!」フジキドはメンポを開き、嘔吐した。だがフジキドを取り囲む影は去らない。「オヌシの行いは無駄なのだ。何も変えられない!ただイタズラに多くの命が奪われた!」ドラゴン・ゲンドーソーの憤怒の形相がフジキドを苛む!
posted at 22:38:57

「そうよ、あなた!」フユコ!「そうだよパパ!」トチノキ!「許せない!」ユカノ!「ゲボッ!アバッ、ゲボーッ!」フジキドはさらに嘔吐!胃酸が喉を焼く!やがて、ひときわはっきりとした輪郭が一人、膝まづくフジキドの前に立ち、冷酷に見下ろすのだった。「……さあ、私は誰?私は誰ですか?」
posted at 22:42:40

フジキドは声の主を見上げる。「……」「知るまい、なにせあなたは私の姿を見ていないのだから。あなたはインターラプター=サンを殺し、それにより私はボスの怒りを買った。私のクーデター計画をめちゃくちゃにした。バジリスクを殺した。私はそのせいで……私は……私は誰だ……アハハホホホホホ!」
posted at 22:47:19

ナムアミダブツ!フジキドは実際この男を知らぬ!この男は常に己のザゼン空間に身を置き、影から糸を引いていた……フジキド、ダークニンジャ、そしてこの男の辿った運命は、偶然と必然が複雑に絡み合うタペストリーである。この男はフジキドによって死んだのか?一概にそうとは言い切れぬ……。
posted at 23:19:24

「さあ!私は誰だ?私に教えてくれ……私はそれだけが思い出せぬ……お前のせいなのだ……!」「グワーッ!」フジキドは嘔吐しながら思い出そうとした……だが、踏みとどまった。この敵のペースに乗るべからず!
posted at 23:41:41

フジキドはダークニンジャとの戦いの中で見たサンズ・リバーの光景を思い浮かべた。あの時、死の淵に追いやられた彼を導いた存在こそ、ドラゴン・ゲンドーソーではなかったか。今のフジキドを取り囲む忌まわしい幻を恐怖のままに受け入れる事は、師を汚すことでもあるのだ。
posted at 00:51:47

「フ……フーリンカザン……チャドー……そして……フーリンカザン……!」ニンジャスレイヤーは口を拭い、震えながら立ち上がる。「私はなんと愚かだった事か。己の不明を恥じよ!」「何だと?」フジキドの前に立つ姿がぼやけた。その顔が憤怒のドラゴン・ゲンドーソーとなる。「わからぬか!」
posted at 00:57:21

老人は口汚く罵った。「オヌシのせいでどれだけ多くの……」「黙れ!マヤカシめ!」ニンジャスレイヤーは撥ねつけた。「私は私のセンセイを知っている。このイクサは確かに私怨が発端だ。だがセンセイはそんな私にインストラクションを託し、導いてくれた。私はそれに応える!」「グワーッ!?」
posted at 01:01:21

「私のこの殺戮がどこへ行き着くか、それが正しき事か、わかりはしない。だが今は進むのみ!ましてやそれは、どこの誰とも知れぬオヌシが断ずる事では無い!オバケめ!」「グワーッ!」ドラゴン・ゲンドーソーの顔が吹き飛び、目の前の姿はフユコとトチノキになった。「あなたのせい……」「パパ……」
posted at 01:06:10

「スゥーッ!ハァーッ!」ニンジャスレイヤーは祈るような気持ちでチャドー呼吸を繰り返した。フユコとトチノキは目の前でみるみるうちに腐敗した死体となり、ぼろぼろと肉が崩れて骨となる。コワイ!だがニンジャスレイヤーはもはや嘔吐はしない!「スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!」
posted at 01:09:25

「あなた……」隣で声がした。美しい鈴のような、安らぎを誘う声だった。「パパ」その隣で幼い子どもの声。ニンジャスレイヤーは新たな声の方向を振り返った。そこには、穏やかな笑みをたたえたフユコとトチノキがいた。「フユコ……トチノキ……?」母子は微笑み、うなずいた。そして消えた。
posted at 01:12:37

「到着ドスエ」ふいにマイコ音声が鳴り響いた。エレベーター内の照明が復帰し、音を立ててドアが開く。夜の清冽な空気が、淀んだエレベーター内に入り込んでくる。まるで邪気を洗い流すかのように。
posted at 01:16:50

どこかで微かに((グワーッ!))という断末魔が聞こえたようだった。もはや彼を煩わせるユーレイの気配は無い。「……フユコ。トチノキ」ニンジャスレイヤーはメンポを閉じ、エレベーターの外へ確かな歩みを踏み出した。
posted at 01:20:33

彼が立つのはトコロザワ・ピラー、ビル部の屋上階。マイコ音声によれば「空中庭園」である。たしかにここは空中庭園と呼ぶにふさわしい。バビロンめいた厳かな水路や広場、ツバキの植え込み、生垣、無数のシシオドシ、トリイ。奥にはさらに天高く聳えるキョートめいた瓦屋根の塔がある。……天守閣!
posted at 01:25:33

ニンジャスレイヤーは天守閣の威容を、そして、上空の曇天に威圧的な光を投げかけ旋回する漢字サーチライトを見上げた。「成長」「繁栄」「大手腕」「制空権」というオスモウ・フォントをしばし凝視した彼は、ある種のインスピレーションに動かされ、そのサーチライトの根本へ走った。
posted at 01:31:25

空中庭園の端の高台に、サーチライト装置は集められていた。グイングインと音を立てて動く邪悪なサーチライト装置はいわばラオモトの権力の象徴といえた。ニンジャスレイヤーはまっすぐにその装置へ向けてダッシュすると、チョップを振り上げた。
posted at 01:35:17

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「ピガガー!」チョップを振り下ろし、振り上げ、振り下ろし、彼はあっという間に漢字サーチライトのランプ部を根こそぎに破壊した。もはや曇天を照らし出しネオサイタマを脅かす不吉なメッセージは存在しない。
posted at 01:37:43

「ラオモト=サン」ニンジャスレイヤーは天守閣を睨んだ。「待っておれ」
posted at 01:40:23

もうすぐラオモトは知ることになるだろう。ただ一人のニンジャがあらゆる障害を突破し、己のもとへいよいよ迫ろうとしているということを。ニンジャの死骸が連なるサツバツたる道筋によって。
posted at 01:46:05

(第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #3「アンド・ユー・ウィル・ノウ・ヒム・バイ・ザ・トレイル・オブ・ニンジャ」終わり。 #4「ダークダスク・ダーカードーン」に続く)
posted at 01:59:56

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #14

110525

(第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #4「ダークダスク・ダーカードーン」 #1
posted at 22:35:31

オツヤめいた雰囲気で、重金属酸性雨がしとしとと降り続く。コケシ工場での夜勤を終えたそのモヒカン労働者は、猥雑なネオンサインの灯りの下でサイバーブルゾンと破れたジーンズのポケットを順に探り、硬貨をかき集めた。「ゲホッ、ゲホーッ!」体調は芳しくない。マグロが必要だ、と彼は強く思った。
posted at 22:49:53

多層ハイウェイの下の暗がりに並ぶ、ごみごみとしたファストフード店の列。ウシミツ・アワーも近いというのに、無軌道な学生、パンクス、マイコ、ユーレイ・ゴス、浮浪者、今にもカロウシしそうなサラリマンなどで通りはごった返している。モヒカン労働者は、二店並んだドンブリ・ショップを発見した。
posted at 22:54:33

片方はイタマエ崩れの老人が営む老舗ドンブリ・ショップだ。「おいしい」と書かれた薄汚い布製ノボリが立つ。もう片方はドンブリ・ポン社のチェーン店第512号。「実際安い!」「実際安い!」「実際安い!」と書かれたPVCノボリが雄雄しくはためく。しかし、実際の一杯の値段は両者とも同じだ。
posted at 23:01:26

モヒカン労働者は、タケノコめいたサイバーゴーグルで両店を見比べ、どちらに入るかしばし思案する。「実際安いなら…」最終的に彼は、ドンブリ・ポン社のチェーン店を選んだ。自動フスマが開き、ブラックメタルバンド「カナガワ」の最新チューン「ツキジ・チェーンソー・マサカー」が耳に飛び込む。
posted at 23:11:13

モヒカンはカウンターに座り、硬貨を置いてオーダーを通す。「マグロで」「ハイヨロコンデー!」黄色いジュー・ウェアを着たメキシコ人のイタマエが威勢よく返事をし、カウンターの陰でなにやらモージョーを行った。その数秒後には、七色に光り輝くマグロ・ドンブリがカウンター上に置かれていた。
posted at 23:21:21

合成マグロ粉末が熱された時に放つあの独特の異臭を消すために、モヒカン労働者は慣れた手つきでカウンター上のショーユ・サーバーを3プッシュ、ワサビ・サーバーを5プッシュする。本当はスシが食いたい。マグロやタマゴやイカを思う存分食って栄養をつけたい。だが、彼の工場の給料は下がる一方だ。
posted at 23:25:54

「ラオモト=サンだ」隣に座る白塗りのアンタイブディストらが、店の奥の大型モニタを指差す「ヘルゲート=サンが投票するっていうんだから、俺たちも投票しなきゃな」。モヒカンもモニタを見た。「…ファストフード企業への税金を安くすることで、価格を下げさせ…」と黄金メンポの男が演説していた。
posted at 23:34:23

------------
posted at 23:38:00

「ラオモト=サン、ありがとうございました」番組の進行とともに競泳水着めいたボディースーツのボタンをあちこち外し、ほとんど半裸の状態になったオイランリポーターが、ラオモト候補にドゲザしていた。モニタの下にはリアルタイム予想得票率のバーが光り、すでにラオモト候補が90%を超えている。
posted at 23:38:12

「今夜のニュースもお別れの時間が近づいて参りました。最後の対談ゲストは、もし人権があったらラオモト候補に投票したいというネコネコカワイイのお2人です」リポーターがコールすると、オイランドロイド・アイドルデュオが姿を現した。凄まじい歓声がスタジオに巻き起こる!「カワイイヤッター!」
posted at 23:44:43

しかし、ここで不可解なアクシデントが起こる。最先端グリーンスクリーン技術と3D合成によって、ラオモトの横の椅子に出現するはずだったネコネコカワイイの2人が、いつまで経っても現れないのだ。その代わり、コマンドプロンプトめいたUNIX画面が2つ、椅子の上に浮かんでいるのだった。
posted at 00:00:19

「おや……アクシデントでしょうか?」思わぬ事態に、オイランリポーターはボディースーツのボタンをさらに外して視聴者の気を逸らす。その直後、3Dインタビュー空間のそこかしこに、厚みのない無数のUNIX画面が出現し、雪崩を起こしたように緑色の文字列が流れ始めた。
posted at 00:04:11

「えっ?」オイランリポーターが何か言おうとした瞬間、それら全ての画面に、ナンシー・リーがこれまでに入手してきた隠し撮り映像や極秘ドキュメントなどが、惜しみなく映し出された。ラオモトが全裸になったオイランの上でサシミを食す映像、積み上げられた大金を前に市警要人と握手をしている映像…
posted at 00:09:41

「ハッキングよ!止めて!早く!」ナムアミダブツ!何たる事態か!オイランリポーターはパニックを起こす!堅牢で知られるNSTV社のUNIXサーバーがハッカーの侵入を許すなど前代未聞だ!番組の強制終了すらできない!「ムハハハハ!ヨイデワ・ナイカ!」隠し撮り映像の中のラオモトが笑う!
posted at 00:16:52

「マグロはコストが高い」ドンブリ・ポン社の重役と会談するラオモトの映像がズームアップされる。ポン社もまた、ソウカイヤの息がかかった暗黒メガコーポのひとつなのだ。「有害成分含有のバイオ・マンボウを使え。粉末にすれば愚民どもに見分けはつくまい!ムハハハハハ!」ブッダ!何たる暴挙か!
posted at 00:24:40

ラオモト候補得票率はみるみるうちに減少し、30%を切ろうとしていた!ネコソギ・ファンド社の株価もチャートが打てないほど急激な下降線を描いている!「ヌヌウウウーッ!」ラオモトはグンバイをへし折り、カタナのように鋭い目つきとともに席を立った。3D空間内に合成されていた彼の姿が消える。
posted at 00:30:25

ラオモトは肩から湯気を発するほどの憤怒を露にしてスタジオルームを出ると、大股で天守閣の中心部にあるオペレーションルームに戻った。(((TVの件など、後でいくらでも情報操作できる。問題は、あれほどのハッキングを行えるUNIXサーバーは、このトコロザワピラーにしか存在せぬ事…!)))
posted at 00:33:57

「これは!?バカなー!?この僅かな時間で!?」ラオモトは絶句した。オペレーションルームのマルチモニタに映し出されたトコロザワピラー断面図では、ダークニンジャを配したセレモニーホールのみならず、シックスゲイツの全フロアが、突破済みを示すレッドアラートを示していたからだ!ゴウランガ!
posted at 00:38:00

「ハァーッ!ハァーッ!ラオモト=サン、緊急事態です!」ショウジ戸を開けて、満身創痍のヘルカイトがドゲザの姿勢で姿を現した。「ニンジャスレイヤーがこの天守閣に向かってきております!」
posted at 00:39:48

「この無能めが!」ラオモトはヘルカイトの横に立ち、その頭を掴んでぐいと引き上げ、モニタのひとつを仰がせた。そこにはゲイトキーパーの生首を捉えた定点カメラの映像が映し出されていた!コワイ!「アイエエエエエ!ゲイトキーパー=サンまでもがすでに…!」ヘルカイトは悲鳴にも近い声をあげる!
posted at 00:43:28

「何故もっと早く報告せんのだ!」ラオモトはやり場のない怒りをぶつけるように、ドゲザするヘルカイトの頭を踏みにじった。「アイエエエエエ!すみません!すみません!」このままでは爆発四散してしまう!「助けてください!どうかもう一度、ラオモト=サンのために戦わせてください!チャンスを!」
posted at 00:47:06

「…奴と決着をつけるぞ」ラオモトはストンピングを止めて、不意に恐ろしいほど冷酷な声を発した。怒りがニューロンの閾値を超えたのだ。怒りのオーラが波のように伝わり、ヘルカイトは静かに失禁する。「ヘルカイト=サンよ、貴様は上空に待機しワシを援護しろ。最後のチャンスだ」「ヨロコンデー!」
posted at 00:49:36

(第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #4「ダークダスク・ダーカードーン」 #1終わり #2へ続く
posted at 00:50:10

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 11:51:37

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #15

110526

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #4「ダークダスク・ダーカードーン」  #2
posted at 11:52:39

ドォン……背後の門が重苦しい音とともにひとりでに閉じた。天守閣エントランスは寺院めいて、巨大な柱とブッダデーモンの巨大な木彫り彫刻の数々がニンジャスレイヤーを見下ろしていた。無数のボンボリは紫の光を放ち、それら彫刻をまるで生き物のように照らす。
posted at 11:59:54

ニンジャスレイヤーは天井を見上げた。沢山の鎖が四方八方から伸び、一人のニンジャ……そう、ニンジャだ!……を縛りつけ、吊り下げている。そのニンジャはすでに絶命している。装束からのぞく肌は枯れ木のように乾燥している。まるでミイラだ。コワイ!
posted at 12:05:41

ニンジャスレイヤーは一瞬、警戒した。だがもはやそのニンジャからアクティブなニンジャソウルを感知することができなかった為、構えを解いた。異様な拘束状態におかれたこのミイラ状のニンジャは何であろうか?……彼は直感的に理解した。先程あれだけ自分を苦しめた相手だ、わからぬわけがない。
posted at 12:10:07

天井には魔方陣めいたザゼン数式がミイラを囲むように描かれている。ニンジャスレイヤーはそこから「シックスゲイツ・モービッド」と書かれた部分を読み取った。敵の事情はわからぬ。創設者ゲイトキーパーはシックスゲイツの六人ではなく、本来このモービッドがあの場を守るはずだったのかも知れない。
posted at 12:17:36

ニンジャスレイヤーの精神に三度に渡り直接攻撃をしかけた恐るべき邪悪ニンジャとの戦いは、こうしてお互い相対する前に、既に決着している。いずことも知れぬニューロン空間の果てで魂を爆発四散させたモービッドのこの抜け殻めいた死体に、ニンジャスレイヤーはある種の無常を感じた。
posted at 12:30:41

と、その時だ。グゴゴゴ、グゴゴゴゴ!音を立てて正面奥の大仏が左右真っ二つに割れ開き、中からエレベーターのショウジ戸が現れた。鳴り響くマイコ合成音。「ニンジャスレイヤー=サン。この天守閣の七割は掌握したわ」「ナンシー=サンか」「あいつはオフライン領域にいる。そこまでの道は作った」
posted at 12:48:39

ショウジ戸がゆっくりと展開する。「直通ドスエ」ニンジャスレイヤーはマイコ合成音声にどことなくおどけた響きを錯覚した。
posted at 12:52:25

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posted at 12:52:33

「ドーモ」ドアがノックされ、黒スーツの男が入室した。「ドーモ」シバタは顔を上げた。テレビモニターには「しばらくお待ちしてください」とだけ書かれた青いスクリーンが映っている。黒スーツの男はテレビを一瞥したのち、小声で報告した。「フォレスト・サワタリの反応をトレスできなくなりました」
posted at 12:58:27

「そうか」シバタは無感情に頷いた。「ヤツがどこまで役に立ったのか知る由も無いが、サイオー・ホースとしよう。所詮は狂人だ。せいぜい好きに動いて死ねばよい」「テレビは」「実際、想定外だ。大変な混乱が起こっている。ニンジャスレイヤー……敵に回せば恐ろしい相手となろう」
posted at 13:04:55

「では選挙は……」シバタは微笑した。だが目は無感情のままである。「我々のセンセイの当選も見えてきたやも知れん」そして付け加える。「どうなろうと問題無いが」
posted at 13:21:50

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posted at 13:25:32

エレベーターから降り立つと、黄金のフスマがニンジャスレイヤーの目の前を遮った。ニンジャスレイヤーは迷わず踏み出し、両手でフスマを力強く引き開けた。ターン!その奥もまたフスマだ。ニンジャスレイヤーは迷わず踏み出し、力強く引き開ける。ターン!その奥もまたフスマだ。
posted at 14:57:05

ニンジャスレイヤーは迷わず踏み出し、両手でフスマを力強く引き開けた。ターン!その奥もまたフスマだ。ニンジャスレイヤーは迷わず踏み出し、力強く引き開ける。ターン!その奥もまたフスマだ。ターン!その奥もまたフスマだ。ニンジャスレイヤーは迷わず踏み出し、力強く引き開ける。ターン!
posted at 14:58:18

その奥もまたフスマだ。ニンジャスレイヤーは迷わず踏み出し、力強く引き開ける。ターン!その奥もまたフスマだ。ニンジャスレイヤーは迷わず踏み出し、力強く引き開ける。ターン!その奥もまたフスマだ。ニンジャスレイヤーは迷わず踏み出し、力強く引き開ける。ターン!
posted at 14:59:24

目の前が開けた。なんたる大広間!広間中央にはタタミが台座めいて厳かに積み上げられ、その上に、黄金メンポとアルマーニのダブルのスーツを身につけたニンジャがアグラをかいている。奥の壁は丸々一面、つなぎ目の無い一枚の強化ガラス。ウシミツアワーのネオサイタマの夜景を一望する造りだ。
posted at 15:03:59

タタミ玉座のもとには四人のオイランが、それぞれ青、緑、紫、赤……淫靡なデザインの着物を着、艶めかしく侍る。「アーレ、ウフフフ」「いらしたドスエ」口々に嬌声をあげる女達は四人ともブロンドの白人女性で、ラオモトの嗜好を反映している。顔は皆美しいが、それぞれ違う。クローンでは無いのだ。
posted at 15:13:22

「……」ニンジャスレイヤーはタタミ玉座のニンジャを睨みつけた。玉座のニンジャも無言でその視線を受け止めた。背後の夜景を一枚の凧が横切り、旋回しながら上昇して、見えなくなった。やがてニンジャスレイヤーはゆっくりとオジギした。「……ドーモ。ラオモト=サン。ニンジャスレイヤーです」
posted at 15:18:21

「ムッハハハハハハ!」ラオモトは哄笑した。だがその笑いには拭い難い憤怒が込められている。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ネズミ一匹の分際で、よくぞここまで我が庭を荒らしてくれたものよな」
posted at 15:26:12

ニンジャスレイヤーは眉一つ動かさず答えた。「ネズミは二度噛めばライオンをも倒す。すなわちアナフィラキシー・ショックなり」ポエット!平安ハイクと近代医学を融合させた見事な比喩だ!ラオモトは唸った。「減らず口ばかり叩くドブネズミめが……一つ聞いておくか。貴様の動機を話してみよ」
posted at 15:31:57

「罪なき妻子を殺した憎き敵」ニンジャスレイヤーは答えた。「私はオヌシが虫けらのように踏み殺してきた無数の者たちに紛れた一匹に過ぎぬ。だがオヌシは今、その取るに足らぬ一匹の怒りを受けて、全てを失い、死ぬのだ」
posted at 15:46:17

「フン!」ラオモトは鼻を鳴らした。「ではまず、せいぜいワシのもとへ辿り着いてみよ」アグラをかいたまま、彼は冷たく言い放った。それに呼応して、四人のオイランが一斉に立ち上がった。「アーレ、ウフフフ」「いきり立っているアリンス」「激しく前後するドスエ」「ウフフフ」
posted at 15:54:46

ナムサン!この期に及んでハニートラップか!?だがニンジャスレイヤーは素早くジュー・ジツを構えた。その警戒は正しい!四人のオイランは一斉にスリットを開き、艶めかしい太腿をあらわにした。太腿のホルスターから小型マシンガンを取り出し、ニンジャスレイヤーへ向けて連射を開始する!
posted at 16:03:16

「Wasshoi!」ニンジャスレイヤーは回転しながら高く跳躍した。「イヤーッ!」目にもとまらぬ早さで投げつけるスリケンが銃弾を怒涛のごとく弾き返す!四人のオイランは弾の切れたサブマシンガンを投げ捨て、反対の太腿をスリットからはみ出させた。そちらのホルスターには小振りのカタナ!
posted at 16:11:16

「キエーッ!」オイランは手に手にカタナを構え、落下するニンジャスレイヤーへ斬りかかる!「イヤーッ!」「アレーッ!」落下しながら繰り出した裏拳が赤オイランのカタナを一撃で粉砕!赤オイランはバック転を繰り出して飛び離れる!すぐに紫オイランが続けて斬りかかる!「キエーッ!」
posted at 16:14:27

「イヤーッ!」「アレーッ!」着地ざまの回し蹴りが紫オイランのカタナを一撃で粉砕!「キエーッ!」紫オイランはバック転を繰り出して飛び離れる!そこへ割り込みニンジャスレイヤーへ斬りかかるのは緑オイランだ!「キエーッ!」
posted at 16:34:22

「イヤーッ!」「アレーッ!」回し蹴りの勢いで回転しながらの裏拳が緑オイランのカタナを一撃で粉砕!「キエーッ!」緑オイランはバック転を繰り出して飛び離れる!青オイランがニンジャスレイヤーの背中へカタナを突き刺しにかかる!「キエーッ!」
posted at 16:35:59

「イヤーッ!」「アレーッ!」裏拳を出した勢いで回転しながらの回し蹴りが青オイランのカタナを一撃で粉砕!青オイランはバック転を繰り出して飛び離れる!ナムアミダブツ!なんたる一矢乱れぬ波状攻撃!そして四人のオイランはニンジャスレイヤーを前後左右で包囲した形となった!
posted at 16:39:25

このオイラン達の身体能力は只事では無い。ニンジャであろうか?ニンジャスレイヤーは実際オイラン達の動きの軌跡からニンジャソウル痕跡を感じ取っている。しかし考える猶予は無い!オイラン達は一斉に足下のタタミを叩いた。タタミが跳ね上がる!その下に格納されていた武器を四人は同時に取り出す。
posted at 16:43:51

危険!四人のオイランが取り出したそれは、RPG(対戦車ロケットランチャー)である!波状攻撃によって彼女らはニンジャスレイヤーを集中砲火の射線上に誘導し、自らは、あらかじめ配置された兵器の格納場所へ移動したということであろうか!なんたるショーギめいた立体的戦術!
posted at 17:07:22

ニンジャスレイヤーは低く身を沈めた。「イイィ……」その上半身、装束ごしに縄の如き筋肉が浮かび上がる!オイランはロケットランチャーを一斉に構える!「キエーッ!」四方向からロケットが同時に発射された!ナムアミダブツ!
posted at 17:10:56

ニンジャスレイヤーは!?「……イイイヤァーッ!」投げた!スリケンを!天井に!なんたるアサッテ!?だがそのスリケン速度は通常の数倍!これはかつてあの特殊ニンジャ、アゴニィを葬ったジュー・ジツの奥の手「ツヨイ・スリケン」に他ならない!狙いは何だ!?「グワーッ!??」
posted at 17:43:14

天井から悲鳴!そしてオイランがどういうわけか一斉に悲鳴をあげる!「アーレーッ!?」ニンジャスレイヤーは瞬時にうつ伏せとなり、広間に敷き詰められたタタミ上にぴったりと寝そべった。その上を交差して通過するロケット弾!
posted at 17:46:27

それぞれの対角から放たれた砲弾が各オイランに迫る!だがオイラン達はそれを避ける事もせず苦しむばかりである!「アーレーッ!アーレーッ!」KABOOOOM!!ナ……ナムアミダブツ!!オイランは四人同時に対戦車ロケットを受けて爆散した!
posted at 17:50:18

ニンジャスレイヤーはすぐさま立ち上がり、備える。悲鳴の上がった天井でバチバチと音が鳴り、ステルス装束を着たニンジャが火花と共に姿をあらわす!「グワーッ!」
posted at 17:53:23

ナムサン!黄色と黒の縞模様ニンジャ装束のニンジャだ!背中にスリケンが刺さった彼は苦悶し、張り付いていた天井から剥がれ落ちる!「イ、イヤーッ!」破れかぶれの落下しながらのチョップが襲いかかるが、「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーの蹴りで叩き落され、首の骨を折って即死!
posted at 17:59:47

ゴウランガ!もはや顧みられることも無いこのニンジャの名を読者の皆さんにお伝えしておこう。彼の名はスパイダー。ラオモトのみがその存在を知る闇のニンジャであった。彼は天井で ステルスし、フドウカナシバリ・ジツの亜種を用いてオイランをコントロール。ニンジャスレイヤーを襲わせたのである。
posted at 18:11:00

ニンジャスレイヤーはオイランのニンジャソウル痕跡を電撃的速度で辿り、ニンジャソウルをジョルリ人形の糸めいて操る天井のスパイダーを察知したのである!奥義ツヨイ・スリケンは、かつてナラク・ニンジャにその身を任せねば放てぬ大技であった。だが成長を経た今のフジキドはその限りではない!
posted at 18:17:34

「さあ、これでオヌシの元に辿り着いたか?ラオモト=サン」ニンジャスレイヤーはタタミ玉座の上で依然アグラするラオモトへ人差し指を突きつけた。「他にくだらぬ余興があるなら出してみよ。全て受けて立つ。オヌシの寿命が数分延びるだけだ」「ヌウウーッ!」ラオモトが唸る!
posted at 18:24:23

グイン!グイン!グイン!音を立ててタタミ玉座が下がってゆき、広間のタタミに収納されて平らな高さになる。ラオモトはゆっくりとアグラを解いて立ち上がった。冷酷な目がギラギラと輝く。そのスーツが一瞬で燃え上がり、灰燼となって足下へ散らばる!スーツの下は四聖獣を刺繍したニンジャ装束!
posted at 18:32:57

「よかろうニンジャスレイヤー=サン。その前にひとつ教えてやる」ラオモトの声は低く、尊大である。「……」「ワシは七つのニンジャソウルをこの身に宿す。七つだ。ゆえにワシはこの世で最も強い。そんなワシがなぜこれだけ多くのニンジャを配下に抱えておったか、わかるか」「……」
posted at 18:37:21

「ワシに勝てるものはいない。貴様もワシの敵ではない。ではなぜここまで多くのニンジャやトラップで防御を固め、外敵を阻まんとするか。わかるか?」「……」「面倒だからだ!」ラオモトは言い放った。
posted at 18:40:08

「よいか?仮にワシが、視察先で財布を落としたとする。ワシはそれを拾わん。SPも拾わん。捨て置くのだ。何故かわかるか?なぜならそれを拾う動作に費やされる時間!その損失!ワシが回しておる経済規模を鑑みれば、それは落とした財布のくだらん中身とはまるで比べ物にならんからだ!」
posted at 18:48:37

「……」「ワシがこうして貴様と遊んでやる時間!こうして話してやっておる時間!こうしておる間に、ワシの貴重な才覚は一体どれだけ有意義なビジネスに活用できた事か。こんな面倒は本来堪え難いことだ。ワシがこんな面倒をせずに済むよう、シックスゲイツがあるのだ」
posted at 18:53:23

「……だがそんなシックスゲイツも今は無い」ニンジャスレイヤーは口を挟んだ。「私が全員殺したからだ。今や、オヌシ一人。オヌシを守る者などおらぬ。面倒?同感だ。私にも、延々使い古されたくだらん財布の寓話など聞いてやる時間は無い。今すぐにでもオヌシを痛めつけ、惨たらしく殺す」
posted at 18:58:29

「ムッハハハハハハ!やはり噛み合わん!」ラオモトは笑った。「所詮、地べたを這いずる虫に、イーグルの思考は理解できん。もう一度繰り返しておこう。ワシは最も強い。貴様よりも遥かに強い。単に、面倒なだけなのだ。それを、身を持ってわからせてやろう」
posted at 19:02:37

ラオモトは荘厳な仕草で両手を高く掲げた。その両手が光り、迸り出たエネルギーの筋が周囲のタタミを剥がし、裏返す。ゴウランガ!なんたる強力なサイコキネシス!タタミの下にはタケダ・シンゲンめいた甲冑のパーツが隠されていた。それらが浮かび上がる!
posted at 19:16:20

「ムッハハハハハハ!ムッハハハハハハ!」ラオモトの周囲を、金で縁取られた黒い鋼の甲冑パーツが旋回!一つ一つ、まるで磁石で吸い寄せられるように、ラオモトの体に装着されて行く!脚部!腰!胸!腕!両肩!
posted at 19:18:50

そしてラオモトの頭上に、バッファローめいた巨大な頭飾りをあしらった兜が浮かぶ。ゆっくりと降下し、装着!ナムアミダブツ!全身を江戸戦争の甲冑で覆った姿はまさに、当時の最強戦士、タケダ・シンゲンの生き写しか!?
posted at 19:25:36

そして右手には「ナンバン」!左手に「カロウシ」!ミヤモト・マサシその人が用いた正真正銘の文化財にして並ぶもの無きツガイの名刀、ラオモトが権力を駆使してその手に収めた伝説の武器が刃を光らせる!ゴウランガ!ゴウランガ!ゴウランガ!
posted at 19:27:41

「来い!ニンジャスレイヤー=サン!赤子めいて捻ってくれる。貴様はサンズ・リバーをメソメソ泣きながら渡り、妻子と傷を舐め合うのだ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは飛びかかった!「ムウン!」左手のカロウシが迎え撃つ!チョップとカタナの側面がぶつかり合い、火花を散らす!
posted at 19:39:56

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは懐へ潜り込み、左手でラオモトの脇腹を殴りつけようとした。装甲が薄いからだ。「ムウン!」ラオモトの右手のナンバンが唸る。速い!柄頭がニンジャスレイヤーの延髄を直撃!「グワーッ!」
posted at 19:44:02

「イヤーッ!」さらにラオモトはひるんだニンジャスレイヤーを左足で蹴り上げる!「グワーッ!」なんとか両腕でガードしつつも、ニンジャスレイヤーは反動で吹き飛んだ。ニンジャスレイヤーはその勢いでバック転を三連続で繰り出し、スリケンを16枚連続投擲する!「イヤーッ!」
posted at 19:47:35

「ムウン!」ラオモトはナンバンとカロウシを高速で振り回し、飛来するスリケンすべてを弾き飛ばした。「イヤーッ!」そして右手の ナンバンをいきなりニンジャスレイヤーへ投げつける!ナムサン!まるでスリケンめいた超音速の投擲だ!「!?イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはブリッジして回避!
posted at 19:51:36

「ムウン!」ラオモトが右手を突き出すと、手の平から伸びた光がナンバンを絡め取り、再び瞬時にラオモトの手の中へ手繰り寄せた!己の得物を惜しげもなく投げたのはこのテレキネシス=ジツあってこそなのだ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが反撃する間も与えず、今度は左手のカロウシを投擲!
posted at 19:55:27

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは側転でカロウシを回避しつつスリケン32枚を投げ返す!「ムッハハハハハハ!」ラオモトはナンバンただ一本を激しく動かして32枚のスリケン全てを弾き飛ばし、もう一方の手で戻って来たカロウシを受け止める。「ムハハハハハ!」
posted at 19:59:54

ニンジャスレイヤーはなおもスリケンを連続投擲、ラオモトを防御に専念させながら円形にスプリント!側面を取りにかかる!しかし「イヤーッ!」ラオモトは即座にその動きに対応!スリケンを弾き返しながらまっすぐにニンジャスレイヤーへ間合いを詰める!甲冑の重さを感じさせぬニンジャ敏捷性!
posted at 20:04:16

「イヤーッ!」二本のカタナが同時に上から振り下ろされる。狙うは両肩だ。ナムサン!ニンジャスレイヤーの両腕をネコソギにかかった!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはヤバイ級のニンジャ反射神経を発揮、その太刀筋を見切り、瞬時にその体を半身にして、振り下ろされる二本の刀の間へ潜り込む!
posted at 20:10:59

「イヤーッ!」カタナをくぐり抜けたニンジャスレイヤーはワン・インチ距離へ踏み込み、ポン・パンチを繰り出した。「グワーッ!」ラオモトの腹部にジゴクめいた拳が叩き込まれる!ラオモトがよろめく!今だ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは跳躍し追撃!飛び蹴りを胸に叩き込む!「グワーッ!」
posted at 20:13:45

おお、しかし、なんたる踏みとどまり!ラオモトは鉄板をも撃ち抜く蹴りを胸に受けながら倒れない!甲冑の恩恵か?非凡なニンジャ耐久力か!「イヤーッ!」前蹴りが空中のニンジャスレイヤーをとらえる!「グワーッ!」吹き飛びタタミに叩きつけられるニンジャスレイヤー!
posted at 20:16:20

「ムッハハハ非力!アクビが出るぞ!」ラオモトが哄笑した。「シックスゲイツとカラテ遊びをしたところで、ワシのリアルカラテの小指の先にも及ばぬ!貴様はいわば、ブッダの掌の上を無限に飛び続けるマジックモンキーだ!ワシがブッダなのだ!」ラオモトが二刀を構え突き進む!
posted at 20:37:00

「ヌウウ……」ニンジャスレイヤーは起き上がりジュー・ジツを再び構える。ナムサン!ラオモトの接近が異常に速い!既に目の前だ!「イヤーッ!」振り下ろされるカロウシ!ニンジャスレイヤーは危うくそれを避ける。退路を断つように繰り出される右足の蹴り!「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 20:53:07

ニンジャスレイヤーは蹴りを脇腹に受け、横ざまに吹っ飛んだ。なんたる重い蹴り!並のニンジャ耐久力であれば今の一撃で臓器が一つ二つ破壊されているところだ。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは側転して間合いを取ろうとする。「ムハハハハハ!イヤーッ!」そこへラオモトがナンバンを投擲!
posted at 20:58:54

ニンジャスレイヤーは体をねじって回避を試みる。ダメだ!「グワーッ!」スリケンめいた超音速で飛来したナンバンがニンジャスレイヤーの左肩を切り裂いた!「イヤーッ!」すかさずラオモトがカロウシを投げつける!「グワーッ!」超音速で飛来したカロウシがニンジャスレイヤーの胸を浅く切り裂いた!
posted at 21:28:50

「ヌウウッ……」ニンジャスレイヤーは体勢の立て直しをはかる、しかし、ナムアミダブツ!ラオモトの恐るべき速さの踏み込みにより、すでにワン・インチ距離!「イヤーッ!」ラオモトが右拳でニンジャスレイヤーを殴りつける!肩の傷が災いしガードが間に合わない!「グワーッ!」
posted at 21:31:53

「イヤーッ!」今度は左拳のパンチだ!よろめくニンジャスレイヤーはガードが間に合わない!「グワーッ!」さらに右拳!「イヤーッ!」「グワーッ!」左拳!「イヤーッ!」「グワーッ!」右拳!「イヤーッ!」「グワーッ!」ナムアミダブツ!サンドバッグめいた一方的打撃だ!
posted at 21:35:05

「ムハハハハハ!イヤーッ!」「グワーッ!」左拳!「イヤーッ!」「グワーッ!」右拳!「イヤーッ!」「グワーッ!」左拳!「イヤーッ!」「グワーッ!」右拳!「イヤーッ!」「グワーッ!」左拳!
posted at 21:36:58

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 21:38:13

ニンジャスレイヤーは立っているのがやっとだ!「ムッハハハハハハ!ゴジュッポ・ヒャッポ!」ラオモトは嘲り笑い、ニンジャスレイヤーの首を掴んだ。そして頭を反らし……おお、おお、ナムアミダブツ!渾身の頭突きを見舞う!「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 21:43:37

ニンジャスレイヤーはタタミ上に仰向けに打ち倒された。ラオモトはその胸を無慈悲に踏みつけ、抑えつける。「グワーッ!」「これが……ワシに楯突く愚か者のたどる末路だ」ナンバンとカロウシが宙を飛んで戻り、ラオモトの手に収まる。「ハイクを詠むがいいニンジャスレイヤー=サン!」
posted at 21:48:23

「断る……断る!」ニンジャスレイヤーは息も絶え絶えに言った。「私はオヌシを殺す!必ず殺す!」「ムハハハ!なんたるジョークか!」ラオモトは笑った。「じつに、口ばかり達者な男であった!貴様の闘いは無駄に終わる!ニンジャなど幾らでも集められる。シックスゲイツも来週には元通りよ!」
posted at 21:58:13

「私は貴様を……グワーッ!」「ムハハハハハ!」ラオモトが足に力を込める。「我こそはカラテを極め七つのニンジャソウルを支配するリアルニンジャ、デモリション・ニンジャだ!ワシはいずれ八つ目のニンジャソウルをも宿し、ニンジャを超えたニンジャとなるであろう。神にも等しいニンジャに!」
posted at 22:04:24

「グワーッ!」「……フム、貴様のニンジャソウルには多少、興味がある。貴様のごとき取るに足らぬサンシタを、少なくともワシの目の前にまでは辿り着かせたのだからな」「グワーッ!」「四肢を切断し、生かしたままリー先生の元へ運ぶとしよう。そしてニンジャソウルを抽出し、試してやろう」
posted at 22:11:13

ナムサン!ラオモト=カン恐るべし!ニンジャスレイヤーにもはや打つ手は無いのだろうか?彼は震える手を上げかけては下ろし、上げては下ろした。「殺すべし……殺すべし……ニンジャ……殺すべし……」「ムハハハハ!」「殺すべし……殺すべし……!」「ムハハハハハ!くだらぬ!」「殺すべし……!」
posted at 22:18:46

震える手がラオモトの足首を掴んだ。「殺すべし……殺すべし……」「その腕から切ってほしいか」「殺すべし……やめろ……やめろフジキド……フジキド……何を……何を考えている……」「何?フジキド?」うわ言めいた呟きにラオモトは耳を止めた。
posted at 22:20:44

「何をする…やめろ許さぬぞ……あああ!フジキドやめろ!」ラオモトの足の下でニンジャスレイヤーが暴れ出す!その瞳孔は点のように縮まり、あるいは開き、また縮まる。「……ニンジャソウルの暴走か。興醒めだ。くだらぬぞ」「殺すべし……殺すべし……やめろフジキド……頼むやめろ!やめてくれ!」
posted at 22:24:52

「ヌウッ!?」ラオモトの足首を掴む手に力がこもる。ラオモトは一層の体重をかけ、ニンジャスレイヤーを抑えつける。「クドイ!黙れニンジャスレイヤー!」「殺すべし!やめてくれフジキド!これではワシが!グワーッ!やめろ!フジキド!フジキド!フジキド!ニンジャ!ニンジャコロスベシ!」
posted at 22:30:07

「何だ!これは!」ラオモトは狼狽した。足首から煙が上がる。ニンジャスレイヤーの手の平に陽炎が滲む!ラオモトはたまらずその手を振り払った。「ニンジャコロスベシ!ニンジャコロスベシ!ニンジャコロスベシ!」ニンジャスレイヤーはラオモトを押し払い、バネじかけのごとき勢いで立ち上がった!
posted at 22:36:20

「ニンジャコロスベシ!ニンジャコロスベシ!」「黙れ!イヤーッ!」ラオモトが右手のナンバンを横薙ぎに打ち振り、胴体を切断しにかかる!ニンジャスレイヤーはカタナ持つ手を拳で殴りつけた!「ニンジャ!」「グワーッ!?」速い!親指を激しく打たれ、ラオモトはナンバンを取り落とす!
posted at 22:42:08

「イヤーッ!」左手のカロウシが袈裟懸けに斬り下ろす。ニンジャスレイヤーは一歩踏み込み、中腰のポン・パンチを叩き込む!「イヤーッ!」「グワーッ!?」ラオモトの体が弾き飛ばされる!ラオモトはしかし倒れはしない。踏みとどまり右手を伸ばすとナンバンが飛んで戻り、再び二刀流となった。
posted at 22:45:40

「何だ?それは?」「ニンジャ!」ニンジャスレイヤーは叫んだ。そしてゆっくりとジュー・ジツの構えを取る。「……べし……ニンジャ殺すべし。妻子を殺めた憎き敵。オヌシに私は殺せぬ。今日がオヌシの命日だ、ラオモト=サン」言い放つニンジャスレイヤーの双眸に、暗い理性と冷たい殺意が……宿る!
posted at 22:58:59

(第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #4「ダークダスク・ダーカードーン」-2 終わり。#4-3へ続く)
posted at 23:02:50

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #16

110528

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #4「ダークダスク・ダーカードーン」 #3
posted at 23:54:12

ネコソギ・ファンド社のメインオフィスで、社員たちは固唾を呑みながら大型ボンボリ3Dモニタを見つめていた。NSTVのインタビュー番組ハッキング直後から、ラオモトの予想得票率が下落。これを受け、彼がCEOをつとめるネコソギ・ファンド社および各種系列グループの株も暴落を開始したのだ。
posted at 23:57:42

「ナムアミ・ダ・ラオモト=サン……ナムアミ・ダ・ラオモト=サン……!」クルーカットのニュービー社員は、まるでオブツダンを礼拝するような姿勢で、モニタとラオモトの写真に繰り返し祈りを捧げていた。現在の株価は、彼が入社した頃とほぼ同じ。間もなく、急激な暴落に対する反発が起こるはずだ。
posted at 00:03:30

周りの先輩サラリマンたちを見渡す。全員蒼ざめた顔つきだが、徐々にデスクに戻り、業務を再開し始めた。皆、ラオモトの勝利を信じているのだ。(((まだいける、まだ俺が入社した頃とほぼ同じ株価だ……急激に上がりすぎたんだよな)))クルーカットも机に座り、引き出しの中の株券の束を見つめる。
posted at 00:06:58

栄光のカチグミを目指してネコソギ・ファンド社に入ったクルーカットにとって、株券は命よりも大切なものだ。実際、給料の5割近くは株券で支払われている。「ナムアミ・ダ・ラオモト=サン!」クルーカットはバリキゴールドドリンクを3本飲み干し、ピラミッド上に積まれた瓶の山にそれを追加した。
posted at 00:11:35

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posted at 00:11:51

一方その頃。ネコソギ・ファンド社のメインオフィスが存在するトコロザワ・ピラー最上階の天守閣では、ニンジャスレイヤーとラオモト・カンの死闘が佳境を迎えていた。
posted at 00:15:14

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーのハンマーフックがラオモトに襲い掛かる!「ヌウーッ!」ラオモトはダッキングでこれを回避!頭上の空気が蜃気楼のように揺らめいた。ニンジャスレイヤーの右手の甲は、黒い炎によってうっすらと包まれかけている!かつてダークニンジャを追い込んだナラクの炎か!?
posted at 00:21:37

ニンジャスレイヤーことフジキド・ケンジは、ナラク・ニンジャと呼ばれる正体不明のニンジャソウルに憑依されている。彼はしばしば暴走し、ナラクによって意識を乗っ取られてきたが、ナラクの炎を腕に纏えるのはナラク状態の場合にのみ限られていた。これは何を意味するのか?フーリンカザンである!!
posted at 00:24:25

「イヤーッ!」相手の懐に入る形となったラオモトは、そのままニンジャスレイヤーを背後へと高く投げ飛ばす。タツジン!ニンジャスレイヤーの直線的カラテを、ジュー・ジツが巧みに受け流した形である!しかしラオモトの目に余裕は無い……あの黒い炎が七つのニンジャソウルをざわつかせていたからだ!
posted at 00:34:08

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは前方三回転で体勢を整えた後、室内に据えられたムードの良い御影石トウロウの上にひらりと着地する。ダメージは皆無!すぐに向き直り、ジャンプキックを繰り出そうとする。…しかし、ラオモトの目的は、ニンジャスレイヤーにダメージを与えることではなかったのだ!
posted at 00:37:50

ラオモトは一時的に二本のカタナを収めた。それからニンジャスレイヤーが繰り出すドラゴンのごときトビゲリを高い垂直ジャンプでかわすと、いつの間にか天井から垂れ下がってきていたカーボンナノチューブ製の縄ハシゴを掴んだのである!「ムハハハハ!追って来るがよい、ニンジャスレイヤー=サン!」
posted at 00:43:05

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posted at 00:44:33

「イヤーッ!」ラオモトは間欠泉のように高く飛翔し、空中で一度回転してから、片膝立ちで天守閣の黄金カワラの上に舞い降りた。右手には携帯IRCトランスミッターが握られている。「ネコソギ・ファンド社の株を全て売却しろ」ラオモトは冷酷に言い放つと端末を収め、素早くカタナを握った!スゴイ!
posted at 00:50:12

「イヤーッ!」ラオモトとは反対側の黄金カワラ屋根が粉砕され、ジゴクから黒い翼とともに飛び立つブッダディーモンめいた螺旋跳躍をみせながら、ニンジャスレイヤーが姿を現した!黄金シャチホコの上に着地し、ラオモト=カンと向かい合う。空には髑髏じみた満月が浮かび、ヘルカイトが舞っていた。
posted at 00:56:22

ブッダ!明らかに不利!再び地の利はラオモトの側に大きく傾いた!だがニンジャスレイヤーにとってそんなことは問題ではない。アガタの家を飛び出した時から、いや、もしかするとソウカイヤに対する孤独な戦いを開始したあの日から既に、彼に勝利の算段など無いのだ。ただ目の前のニンジャを殺すのみ!
posted at 01:01:35

2人はほぼ同時に駆け込み、高速で投擲された2枚のスリケンのごとく屋根の中心で交錯した!「「イヤーッ!」」ラオモトの二刀流がニンジャスレイヤーの首元をかすめ、ニンジャスレイヤーの燃える拳もラオモトの漆塗りブレーサーに焦げ痕を残す!すぐさまターンし、至近距離でのカラテの応酬に入る!
posted at 01:09:50

圧倒的ニンジャ反射神経によってラオモトの懐や側面を取ろうとするニンジャスレイヤーが、徐々に優勢になり始めた!一定の距離以上に近づかれると、カタナはとたんに不利になる。チャドーにより精神の均衡を得たフジキドは、極めて冷静に、かつ冷酷に、ナラク・ニンジャの力を消費し始めていたのだ!
posted at 01:14:20

だが、ラオモトの無慈悲なるリスク回避マネジメントもまた実を結ぼうとしていた!おお、見よ!上空を舞うヘルカイトのサイバーサングラスから、小型赤外線センサーの光が放たれ、ニンジャスレイヤーの装束にソウカイヤの紋章が刻まれるのを!その直後、夜闇を切り裂き青白いレーザー光線が射出された!
posted at 01:28:07

「グワーッ!」フジキドの肩に突然の激痛!負傷箇所を狙う、血も涙もない一撃だ!このサイバーサングラス・レーザーはオムラ・インダストリの開発した試作兵器であり、最終決戦に備えてラオモトからヘルカイトへと下賜されていたものである。一瞬の隙をつき、ラオモトの蹴りがクリーンヒットする!!
posted at 01:32:05

ニンジャスレイヤーの体はボールのように弾き飛ばされ、屋根の上にまで伸びた見事な松の木の幹に激突してこれをへし折った!「グワーッ!」さらに極細レーザーの一撃!「グワーッ!」ラオモトへの誤射を警戒し、レーザーの出力は最低限だが、ニンジャスレイヤーの体力と集中力を奪うには十分すぎた!
posted at 01:36:51

「ハァーッ!ハァーッ!」ニンジャスレイヤーの視覚が揺らぎ、屋根の上のラオモトの姿がぼやけ始めた。ナラクの力を引き出しそれを削り取りながら戦うことは、想像を絶するほどの精神力を要する。長時間はとても続かない。ラオモトが屋内戦闘を中断したのは、これを見越したリスク回避でもあったのだ!
posted at 01:42:12

「ニンジャ……殺す……べし…!」ニンジャスレイヤーは折れた松の幹を蹴って、ふたたびラオモトへと駆け込んでいった!矢のようにまっしぐらに!「「イヤーッ!」」再び両者はカラテに入る!「卑怯と思うか?ニンジャスレイヤー=サン!戦闘はビジネス同じだ!ロマンなど不要!より卑劣な側が勝つ!」
posted at 01:50:07

そこへ再び上空からレーザー攻撃が降り注ぐ!「グワーッ!」姿勢を崩し方膝立ちになるニンジャスレイヤー!もはや精神集中は途切れ、黒い炎は消え失せていた!「死ね!ニンジャスレイヤー=サン!死ね!」ラオモトがXの字にカタナを振り下ろす!フジキドは両腕でそれを受け止めた!肉が裂け骨が軋む!
posted at 01:58:33

一瞬の膂力比べと膠着!両腕からおびただしい流血!レーザー照射が1秒に1度背中や肩口に降り注ぐも、ニンジャスレイヤーは持ちこたえる!「ヌウウウーッ!」そして5秒後、改めて十分な距離から斬りつけるべきと判断したラオモトは、不満そうにニンジャスレイヤーの腹に蹴りを入れて弾き飛ばした!
posted at 02:05:02

「グワーッ!」蹴り飛ばされたニンジャスレイヤーは、ロッキード山脈を転げ落ちる犬の死骸めいてカワラ屋根の上を転がり、黄金シャチホコの一体に背中から激突した!「……殺す……べし……」がくりとうなだれ、両腕からは致命的なまでの流血!レーザー光線が降り注ぐも、もはや叫び声すら上がらない!
posted at 02:11:43

「イイイイヤアアアーーーッ!!」ラオモトは二本のカタナを頭上に高く投げ、その間に高速カラテ演舞を行ってから、落下してきたカタナを再び掴み突撃姿勢を取った!タツジン!これぞイアイドーの奥義、マキアゲである!二本の切っ先をバッファローのように前方に突き出して、ラオモトは突進する!
posted at 02:16:20

シャチホコに背中を預けたまま、うなだれるニンジャスレイヤー!ラオモトの操るカタナ、ナンバンとカロウシの切っ先が、満月の光を浴びて鋭い軌跡を描く!その距離はあとタタミ10枚、5枚、1枚……ゼロ枚!!ナムサン!カタナがニンジャスレイヤーを両胸を貫通し、シャチホコにまで突き刺さった!!
posted at 02:21:51

からん、からんと音を立て、ニンジャスレイヤーの鋼鉄メンポが黄金カワラの上に落ちる。「ムッハハハハハハ!!サヨナラだ、ニンジャスレイヤー=サン!爆発するがいい!ムッハハハハハハ!!」ラオモトの哄笑がネオサイタマの空に高らかに響き渡る!その時!
posted at 02:23:56

「ヌウーッ!?これは?!」ラオモトは己の目を疑った。確かに手ごたえはあったはず。だが、二本のカタナによって貫かれたはずの体は……いや、フジキドの赤黒い血で織られたニンジャ装束は、再び元の動脈血に戻り、カタナからずるりと滑り落ちてカワラ屋根を流れたのだ!そしてそこに…彼の体は無い!
posted at 02:28:20

ブンシン・ジツだ!「ドーモ、ラオモト=サン…」ジゴクの最下層から響いてくるような不吉な声が、ラオモトの後方10メートルの位置から聞こえる!ゴウランガ!大シャチホコの上に人影!赤黒いニンジャ装束!両腕には業々と燃える黒い炎!センコのごとく赤く小さい両の瞳!「…ナラク・ニンジャです」
posted at 02:39:21

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #4「ダークダスク・ダーカードーン」 #3終わり #4に続く
posted at 02:40:23

RT @pa_so: ニンジャスレイヤーファンジンは無事完成しました!本日の五月祭(コミックアカデミー・C12)にて100円で頒布します。実際安い!#NJSLYR
posted at 09:52:49

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #17

110529

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #4「ダークダスク・ダーカードーン」 #4
posted at 13:49:16

「ドーモ、ナラク・ニンジャ=サン、ラオモト・カンです」ラオモトがオジギをした瞬間、ナラクは駆け込んだ。ニンジャスレイヤーの動きとはまるで別人!ジゴクの悪鬼を思わせる身のこなしで素早く左右に飛び跳ねながら、ラオモトへの距離を一気に詰める!ラオモトも二本のカナタを構えこれを迎え撃つ!
posted at 13:51:47

「イイイヤアァーーッ!」ラオモトが再びカタナを×の字に振り下ろす!ナムサン!先程フジキドの両腕に大ダメージを負わせた必殺のイアイドーだ!ミヤモトマサシが乗り移ったかのような冴え渡る太刀筋!「イヤーッ!」だがナラクは、炎を纏った両腕でこれを弾き返した!響き渡る金属音!これは一体!?
posted at 13:55:25

ラオモトのニンジャ動体視力はその一部始終を見ていた!ナラクの両腕に深々と刻まれた傷跡が黒い炎になめつくされ、焼けただれるように傷が塞がった直後、そこに黒鉄のブレーサーが出現したのだ!キィィィンという甲高い金属音とともに、弾かれたナンバンがラオモトの手を離れてカワラ屋根に転がる!
posted at 14:01:45

続けざま、懐に潜り込んだナラクは、カタナを弾かれた反動でがら空きになったラオモトのボディめがけて痛烈なボディーブローを叩き込む!右、左、右、左、右、左!黒い炎が空気を焦がし、ラオモトの纏う胴鎧を砕く!さらに冷たい熱と衝撃が鎧を貫通してラオモトのニンジャ腹筋を襲った!「グワーッ!」
posted at 14:04:58

ラオモトが微かに姿勢を前に崩したのを見逃さず、ナラクは痛烈なアッパーカットを敵のみぞおちめがけて繰り出した!「サツバツ!」「グワーッ!」胴鎧が木っ端微塵に砕け、ラオモトの体が十数メートルの高さまで浮いた!下では無慈悲な追加攻撃を繰り出すべく、ナラクがカラテ演舞とともに待ち構える!
posted at 14:15:13

だが、この程度で終わるラオモトではない!「ヌウウゥーッ!」ラオモトは周囲を飛んでいたヘルカイトの凧をテレキネシス・ジツで引き寄せ、彼の背中を踏み台にして跳躍!余人ならばいざ知らず、流石はソウカイ・シンジケートの首領にして七つのニンジャソウルを憑依させた男、ラオモト・カンである!
posted at 14:18:17

「ヨロコンデー!」ヘルカイトの声を背に、ラオモトは回転跳躍しながら屋根に着地。それと同時にカラテの力を集中させ、転がっていたナンバンを手元に引き寄せる。「こんな、こんなバカなことが…!ニンジャソウルの暴走というだけでは説明がつかん!奴に憑依したニンジャソウルの正体は何なのだ!?」
posted at 14:27:09

ラオモトに思考の暇すら与えず、ナラク・ニンジャが駆け込んでくる!ハヤイ!「「イヤーッ!」」ナラクの繰り出した必殺のチョップを、ラオモトはカタナを交差させて受け止める!刃に直撃したナラクの手から血が流れるが、それはすぐに新たな炎の燃料と、ブラスナックルめいた黒鉄の指輪に変わった!
posted at 14:33:05

「イヤーッ!」ナラクは黒鉄の指輪に覆われた右拳で、防御姿勢を取るラオモトのカタナを殴り続ける!カタナが軋む!ゴウランガ!「バカなー!何というジツだ!!」「ジツではない!」ナラクはさらに左腕のストレートも加える!「こわっぱめ、知らぬのか!?ニンジャの血は鉄と硫黄で出来ている事を!」
posted at 14:45:15

平安時代のカタナ鍛冶が鍛えた名刀が砕け始める!レーザーが射出されるも、ナラクは一瞬のサイドステップでかわし、黄金カワラに反射したレーザーがヘルカイトに命中!「アイエエエ!」「何たる理不尽!」防戦一方のラオモトが叫ぶ!「理不尽が道理を殺すのだ!これぞインガオホー也!」ナラクが叫ぶ!
posted at 14:50:02

「イイイヤアァーッ!」振りかぶった渾身のストレートが、遂にナンバンとカロウシを破壊する!「バカなー!?」ラオモトがバックステップで回避しようとするも、体が動かない!右足をナラクの右足に踏まれていたのだ!「!…ウカツ…!」「イヤーッ!」ナラクの暗黒カラテがラオモトの顔面をとらえる!
posted at 14:55:22

「グワーッ!」ラオモトの体が黄金カワラに叩きつけられる!だが踏まれた右足のせいで、後転回避すらままならない!起き上がり式サンドバッグのごとくラオモトの体が跳ね返る!そこへすかさずナラク・ニンジャの再ストレート!「イヤーッ!」「グワーッ!」さらに情け容赦ないサンドバッグ攻撃が続く!
posted at 14:58:24

右!「イヤーッ!」「グワーッ!」 左!「イヤーッ!」「グワーッ!」 右!「イヤーッ!」「グワーッ!」 左!「イヤーッ!」「グワーッ!」 右!!「イヤーッ!」「グワーッ!」 左!!「イヤーッ!」「グワーッ!」 右!!「イヤーッ!」「グワーッ!」 左!!「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 15:00:05

「イイイヤアアァァーッ!」最後にナラク・ニンジャは足を離し、全体重を乗せた痛烈なストレートをラオモトの胸元に浴びせる!「グワーッ!」ラオモトの体が弾き飛ばされ、そのまま勢いよく大シャチホコに叩きつけられた!インガオホー!砕け散る赤漆塗りのブレストプレート!まさにインガオホー!
posted at 19:16:25

「これでもなお死なぬか……やはりフジキドの脆弱な肉体では、ワシのニンジャ筋力を完全に発揮することは不可能……」ナラク・ニンジャは不服げに呟きながら、シャチホコに背を預けるラオモトへと威圧的に歩み寄る。黒鉄のブレーサーとアーマーリングは、ひときわ大きな黒い炎と化して消えていた。
posted at 19:21:52

ラオモトは素早く起き上がり、ジュー・ジツの構えでナラクニンジャを迎え撃つ!「「イヤーッ!」」二者のカラテがぶつかり合った!ラオモトの回し蹴りをジャンプで回避してから、ナラク・ニンジャの裏拳が繰り出される!ラオモトは金ブチの黒い鋼鉄ガントレットでこれを防ぐも……ヒビが入り砕け散る!
posted at 19:31:32

右手裏拳のインパクトの衝撃を生かして左側に回転したナラク・ニンジャは、そのまま左手で首元を狙った水平カラテチョップを繰り出す!「イヤーッ!」「ヌウーッ!」ラオモトは鋼鉄の肩パッドでこれを辛くも回避するも、やはり猛烈な衝撃によって肩パッドは粉々に粉砕されてしまった!何たる破壊力!
posted at 19:34:40

ナラク・ニンジャの優勢で続く死闘。だが果たして、我らがニンジャスレイヤーこと、フジキド・ケンジの精神はどこに行ってしまったのか?賢明なる読者諸君ならば、すでに察しはついているだろう……彼の精神は、ニューロンのフートンの中に引きこもっているのだ!
posted at 19:39:55

フートンの中で、フジキドの精神は永遠の悪夢にうなされていた。カスミガセキ抗争の夜、床に這いつくばり、背中をテーブルに潰されて身動きが取れない。硝煙の中、すぐ近くで聞こえるフユコとトチノキの泣き声。(((私はここだ、フユコ、トチノキどこにいる……泣くな、大丈夫だ!私はここだ!)))
posted at 19:44:05

「民間人の生き残りです、いかがしますか?」硝煙の奥に、黒いニンジャの姿が浮かび上がる。今ならば、フジキドはその者の名を知っている……ダークニンジャだ。「目撃者は全て殺せ」別な声が命じる「このフロアにいるのはどうせ、カチグミフロアに行けない貧民どもだ。ネオサイタマ経済に影響はない」
posted at 19:47:57

かつてのフジキドならば、あの悪夢の夜の記憶は、これ以上鮮明に蘇ることはなかっただろう。だがニンジャとなった彼は今、望むならば、より鮮明に、より詳細に海馬に蓄積された情報を咀嚼できる。カシャッ!カシャッ!とニューロンの中でズーム音が鳴る。硝煙の奥の人影がズームアップされる!
posted at 19:51:57

拡大とともに、脳内に浮かんだ映像のドットが粗くなり、すぐにまた滑らかになる。どこまででも拡大できそうなほど鮮明だ。カシャッ!カシャッ!ダークニンジャの背後にいる男の影が、さらにズームされる。腕を組んだ威圧的な姿勢。黄金メンポ。金縁の兜。腰に下げた二本の刀。ラオモト・カン!
posted at 19:54:49

「御意」ダークニンジャが答え、くるくると妖刀ベッピンを回し、刃を下にして持ち直す。(((やめろ!やめてくれ!フユコ!トチノキ!逃げろ!逃げろ!)))フジキドが叫ぶ!だがダークニンジャは容赦なく、感情なき殺戮マシーンめいて素早く2回ベッピンを床に突き立てる!2つの泣き声が、消えた。
posted at 19:57:59

(((ニンジャだと!?馬鹿な!ニンジャが実在するはずはない!それに、私たち一家が何をしたというんだ!ブッダ!このような不条理が許されるのか!このような非道がまかり通るのか!!……許さん!許さんぞ、ニンジャどもめ!殺す!殺してやる!ニンジャを全て殺す!力をくれ!誰か!力を!!)))
posted at 20:05:34

フジキドの魂を、黒い憎悪の炎が包み込んでゆく。あのカスミガセキ抗争の夜のように。フジキドは呻いた!ニューロンのフートンの中で呻き、もがき、苦しんでいた!……その直後、新たな悪夢がフジキドの目の前に広がる。
posted at 20:11:51

「揚げた美味しさが」「テンプラ」「DIY」などと極太オスモウ・フォントで縦書きされたノボリが、広い店内でイナセに躍っている。クリスマス装飾の電子ボンボリが、年の瀬感を演出する。 流石はクリスマス・イブ、満席だ。フジキド家の3人は、1ヶ月前から予約していたから、どうにか席を取れた。
posted at 20:12:14

「今年も、ここに来れて良かったわ」と、油の入ったカーボン土鍋を前に静かに笑う妻フユコ。「ニンジャだぞー! ニンジャだぞー!」と、椅子の上で狂ったようにジャンプする幼いトチノキ。 「やれやれ、トチノキはニンジャが大好きだな」とフジキド・ケンジ。「一体何処で、ニンジャなんて覚えた?」
posted at 20:12:40

「あなたが買ってきたヌンチャクじゃない」と、フユコは子を座らす。 「去年のクリスマスに買ったやつか」「ずっとお気に入りなのよ。それで先日、初めて、箱の絵に気付いたの」 「ニンジャー!」「静かになさいトチノキ、危ないわよ。…それに」その先は小声で言った「ニンジャなんて、いないのに」
posted at 20:13:00

(((やめろ!やめてくれ!もう見たくない!もう見たくない!)))フジキドの精神が悲鳴を上げる!ナムアミダブツ!なんたる暗黒ファンタズマゴリアか!ナラク・ニンジャに完全にコントロール権を奪われたフジキドは、永遠にリピートされる悪夢を見せられ、憎悪の力を搾り取られていたのだ!
posted at 20:14:46

悪夢の中で再びフユコとトチノキを殺され、フジキドは叫びにならない叫び声をあげる!満悦至極といったナラクの笑い声が、ニューロン内のチャノマに響き渡った!(((フジキドよ!未熟者めが!ワシの力を削り取ろう等とは百年早い!このまま永遠にワシがお前の体を操ってやろう!インガオホー!)))
posted at 20:17:15

「イヤーッ!」フジキドの憎悪から力を得たナラク・ニンジャは、両足にも黒い炎を纏い、ムエタイめいたローキックをラオモトに叩き込む!「グワーッ!」脛当てにヒビが入り、衝撃が骨に響いてくる!ラオモトは素早くバク転を打って距離を取った「ヘルカイトよ!何をしておる、無能めが!支援を急げ!」
posted at 20:21:18

(((フジキドよ、案ずるな。妻子の仇はこのワシが討ってくれるわ。そして全ニンジャを殺す!お前はそのまま、精神のフートンの中で永遠に悶え続けておれ!怒り狂え!狂うのだ!)))ナラクが哄笑する!フジキドは抵抗を試みようとするが、再びあの夜の悪夢がリピートされてしまうのだった!
posted at 20:26:10

ナムサン!スゴイタカイ・ビルの悪夢の後、フジキドを襲った暗黒の七日間が再来しようとしている!ナラク・ニンジャに憑依され死の淵から蘇った彼は、七日七晩に渡って暴走を続けた。当時の記憶は未だにおぼろげだ。唯一覚えているのは、ドラゴン・ゲンドーソーのジュー・ジツによって止められたこと。
posted at 20:30:11

だが、もはやゲンドーソーはいない。再び完全暴走すれば、止める手立てはないだろう。フジキド・ケンジの精神と肉体は完全にナラクに隷属し、終わりなき永遠の悪夢に苦しむこととなるのだ。ならばどうする?!……悪夢と悪夢の合間、一瞬だけ取り戻される正気の中で、ニンジャスレイヤーは策を練った!
posted at 20:33:08

「イヤーッ!」ナラク・ニンジャが立膝姿勢から繰り出した右ストレートが、ラオモトの股間をえぐる!「グワーッ!」ナムサン!股間部を守る鋼鉄の甲冑が、辛うじて致命打を防ぐ!
posted at 20:38:00

……ここで両者は、奇妙な感覚を覚えた。先程までの勢いならば、ナラク・ニンジャのストレートは甲冑を軽々と粉砕できたはず……だが、今回の一撃は明らかに手ごたえが無い。(((フジキドの肉体が限界か?)))ナラクが一抹の不安を覚えて右手を見ると……ブッダ!何故か炎の勢いが弱まっている!?
posted at 20:39:51

「イヤーッ!」ここに一瞬の勝機を見たラオモトは、膝蹴りでナラク・ニンジャを浮かせた後、強烈なサマーソルト・キックを繰り出す!「グワーッ!」ナラク・ニンジャの体がキリモミ回転しながら吹っ飛び、黄金カワラを何枚か砕きながら屋根の中央部に落下した!ナムアミダブツ!
posted at 20:42:04

(((フジキドめ、一体何を!?)))ナラク・ニンジャは肉体に防御姿勢を取らせながら、ニューロン内の様子を探った。(((これは!?)))そこには、フートンを脱し、ザゼンを組んでチャドー呼吸を繰り返すフジキド・ケンジの姿があった!(((スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!)))
posted at 20:44:45

フジキドの脳内では、永遠の悪夢がなおも続いていた。だが彼は、それら全ての憎悪と怒りと悲しみを受け入れながら、チャドー呼吸を繰り返していたのだ!!「あなた!」「パパ!」「殺せ!」「御意」「全ニンジャを殺す!」(((スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!)))閉じた瞳からは血の涙!
posted at 20:48:34

(((やめろ!フジキドよ!何をしておる!憎悪こそがお前の力の源だ!憎悪を燃やせ!死んでしまうぞ!仇を討ちたくはないのか!)))ナラクが切羽詰った叫び声をあげる。(((スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!)))だがフジキドは答えない。
posted at 20:50:41

先程、屋内でラオモトと死闘を繰り広げていた時も、これと似たような状況に陥った。あの時、瀕死の状態に陥ったフジキドは、ニューロンの奥に封印していたナラクを呼び出し、その力を冷たい理性で奪い取ろうと試みた。(((だが、それは間違いだった…)))フジキドはチャドー呼吸とともに思考する。
posted at 20:53:27

(((フーリンカザン、チャドー、そしてフーリンカザン……ドラゴン=センセイ、ありがとうございます。今ならば全てが解る……!)))フジキドはさらにチャドー呼吸を続ける。(((フジキド!死にたいか!)))防御体勢を取る肉体は、ラオモトの繰り出す左右のストレートの前にもはや失禁寸前だ!
posted at 20:59:01

(((ナラク・ニンジャよ!ニューロンの同居者よ!オヌシに精神を乗っ取らせるわけにはゆかん!愛する者を忘れ憎悪に狂った先の復讐など、何の意味も無い!だが、オヌシを呼んだのは、あの日のフジキド・ケンジだ!我らは一蓮托生!同じ肉体に宿った2つのソウルだ!今は力を貸せ!ナラクよ!)))
posted at 21:07:52

(((駄目だ!させるものか!何たるワガママ!ようやく手に入れかけた肉体を…返すものか!憎悪を否定するのか、フジキドよ!?)))(((ナラクよ!お前を受け入れよう!あの夜、私は確かにお前を呼んだ!私の中のどす黒い狂気と復讐の憎悪が、お前を呼んだ!否定しようが無い、私の一部だ!)))
posted at 21:12:47

フジキド・ケンジはチャドーの果てに、ひとつの真実を見た。……むろん、完全なる真理ではなかろう。完全なる真理はブッダのみぞ知る。彼が悟ったのは、自らの中に宿る暗黒を拒絶することなく、かといってそれに隷属し操られることもなく、ただ、愛しき妻子の記憶と同じように、受け入れることだった。
posted at 21:17:56

「イイイイヤアアアァーッ!」ラオモトは、ほぼ棒立ち状態の相手に対して必殺のチョップを繰り出した!鋼鉄すらも切断する手刀が、首元へと迫る!アブナイ!ニンジャスレイヤーの首が飛ぶかと思われたその直前……左目がナラク状態からフジキドの力強い黒目に戻り、素早いブリッジでこれを回避!!
posted at 21:27:17

「イヤーッ!」続けざまニンジャスレイヤーはバク転を5連続で決め、高く飛び上がる!口から吐き出された血を掌に取り、両頬に塗りつけた!すると血が燃え上がり、禍々しい「忍」「殺」の鋼鉄メンポを形作る!そのまま彼は、大シャチホコの上に腕を組んだ直立不動のポーズで着地!「Wasshoi!」
posted at 21:37:25

「死にぞこないめが!」ここが勝負所と見たラオモトは、ついに自らのニューロンに宿る全ニンジャソウルを順番に引き出し始めた!この猛攻は彼にとって最後の奥の手である!全てのニンジャソウルのジツを使い切る前に勝たねば、反動でしばし休眠状態に入る!あと数分で決着をつける覚悟を決めたのだ!
posted at 21:40:15

血のメンポを装着したニンジャスレイヤーは、暗黒の七日間を想起する。スゴイタカイ・ビルの殺戮から脱した彼は、気がつくと赤黒いニンジャ装束と「忍」「殺」メンポを身に付けていた。それらが炎に変わって消え去った後、そこに何らかの深い意味を感じ、同じ意匠の装束とメンポを自分でも作ったのだ。
posted at 22:00:26

あの頃と今……多くのことが異なっているが、変わらぬものもある。それは、ニンジャに対する猛烈な憎悪!いまや、フジキドはナラク・ニンジャの存在を受け入れ、まさに一心同体の状態にあった!「来るがいい!ラオモト=サン!」ニンジャスレイヤーとナラクの声が、重なってネオサイタマの夜空に響く!
posted at 22:04:19

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #4「ダークダスク・ダーカードーン」 #4終わり #5に続く
posted at 22:05:38

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 22:06:04

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #18

110529

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #4「ダークダスク・ダーカードーン」 #5
posted at 22:06:21

「アバーッ!アバーッ!アバーッ!」クルーカットはデスクの引き出しに嘔吐を繰り返していた。数分前に起こったネコソギ・ファンド社の株価大暴落により、彼の所有する株券は紙切れ同然へと変わっていたからだ!ナムサン!だが、まだここから脅威の大反発があると言い聞かせ、必死で正気を保つ!
posted at 22:08:49

「テメッコラー!最初の暴落時に売り抜けていただと?ザッケンナコラー!」室内でヤクザめいた怒声が響く。「成せばなるだろ!ラオモト=サンを裏切る気か?!皆がんばってるんだ!スッゾコラー!」密かに株券を売り抜けていた副係長が、周囲の者たちに気付かれ、袋叩きにあっているのだ!コワイ!!
posted at 22:10:48

「アバーッ!もう駄目だ!もう駄目だーッ!!」また誰かが叫ぶ。窓際でブラインドを上げ、外の様子を眺めていた先輩が、発狂したような叫び声をあげたのだ!クルーカットは慌てて窓際に走る。暴徒か何かが殺到したか?否!トコロザワ・ピラー周辺を完全包囲するケンドー機動隊とデッカー部隊が見えた!
posted at 22:13:47

「ビルから出る者は、一人たりとも逃がすでないぞ!」ネオサイタマ市警が誇る装甲ビークル『ハニワ』の指揮台にはノボセ老が立ち、サイバー拡声器で周囲のデッカー部隊に対し命令を下していた。「万が一、この作戦中にニンジャらしきものを発見した場合……一方的な射殺を許可する!」
posted at 22:17:03

ノボセ老は数週間前、タマチャン・ジャングルにて謎のジャーナリストからソウカイヤの謀略を収めたデータ素子を受け取っていた。ソウカイヤの息のかかった人間は市警内にも多く、行動が起こせない状態が続いていたが、今夜のインタビュー番組ハッキングが、彼にまたとない好機をもたらしたのだ。
posted at 22:19:15

「漢字サーチライト照射!」ノボセ老が再び命令を下す!「「漢字ライト照射用意!」」装甲車両の上に乗ったスモトリ・デッカーたちが、その怪力でサーチライトのハンドルを回す!キコキコキコキコ!角度が上がり、「御用」の漢字が何個も、トコロザワ・ピラーの壁面や窓ガラスに容赦なく浴びせられた!
posted at 22:21:36

「アイエエエエエ!!」漢字サーチライトの直撃を受けたクルーカットは、もんどりうってフロアの床に倒れ、失禁した!そしてうわごとのように、自らの敬愛するCEOの名を唱え続けるのだった!「ナムアミ・ダ・ラオモト=サン!ナムアミ・ダ・ラオモト=サン!助けて!苦しい!苦しい!」
posted at 22:23:20

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posted at 22:23:54

「ヌウウウウゥーッ!」突撃とともにラオモトがまず引き出したのは、ビッグ・カラテ・ジツを操るビッグニンジャ・クランのグレーター・ニンジャソウルであった!かつてのシックスゲイツの一人、アースクエイクをも遥かに凌駕する凄まじいパワーで、殺人的カラテが繰り出される!「イヤーッ!」
posted at 22:24:36

(((フジキドよ、敵のソウルはビッグニンジャ・クラン…力ではなくスピードでカタを付けるぞ)))フジキドのニューロン内で、ナラク・ニンジャの声が響く。(((望むところだ!)))フジキドは素直に、ナラクのアドバイスを受け入れた。「イヤーッ!」シャチホコをも砕くラオモトのキックが迫る!
posted at 22:27:11

ニンジャスレイヤーは紙一重の側転でキックを回避する!そしてラオモトの側面から至近距離でスリケンを投擲した!「イヤーッ!」「グワーッ!」黒い炎をまとった四枚のスリケンが、ラオモトの肩、わき腹、腿、脛に命中!
posted at 22:29:18

虚しくシャチホコを粉砕したラオモトは、足を引いて体勢を立て直してから、今度はニンジャスレイヤーめがけて頭からの突進を繰り出す!「イイイイヤアアーッ!」ナムアミダブツ!ビッグニンジャ・クランの代名詞である頭突き攻撃だ!ガードを試みれば最後、全身の骨を砕かれネギトロにされるだろう!
posted at 22:32:41

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは迫ってくるラオモトの両肩に手を乗せるようにして、前方回転ジャンプを繰り出しこの突進を回避した!タツジン!さらに一瞬だけナラク・ニンジャが右半身をコントロールし、回転しながら炎スリケンを四連射する!「グワーッ!」ラオモトの背中に激痛が走った!
posted at 22:35:18

さらにニンジャスレイヤーはラオモトの背後へと駆け込み、八連続の回し蹴りを繰り出す!だがインパクトの直前、ラオモトの構えが変わった!「ヌウウーッ!」ラオモトが中腰姿勢を取る!(((離れろフジキド!これはイタミニンジャ・クランの打撃吸収の構え!今攻撃すれば、苦痛が奴の力となる!)))
posted at 22:37:44

これを聞き、ニンジャスレイヤーの足先が、ラオモトの背中にヒットする直前で止まった!その反応速度、ミリ秒以下!スゴイハヤイ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはバク転を打って距離を取る!(((イタミニンジャ・クランへの対処の仕方は覚えておるな?)))(((ああ、無論だ)))
posted at 22:40:30

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは黄金カワラの上に転がったカロウシの刃先を掴む。(((何故打ってこない?)))ラオモトは不審に思い、打撃吸収の構えを解いてニンジャスレイヤーに向き直ろうとする(((まさか、ワシのジツが見抜かれているのか?!)))
posted at 22:43:17

その瞬間、数メートル離れた場所にいるはずのニンジャスレイヤーの姿が、突然揺らいで消えた。右眼の赤い光だけが軌跡となって超高速で迫る!「ヌウーッ!?」ラオモトは咄嗟にガードと打撃吸収の構えを取った!直後、ニンジャスレイヤーが側面を駆け抜け、ラオモトの左手首の腱を痛みもなく切断する!
posted at 22:48:16

「グワーッ!バカな!!」ラオモトの左手首から血が噴出する!この戦略的不利を知ったラオモトは、思わず絶叫を上げずにはいられなかった!「まさか、まさか!ワシの七つのソウルを見抜いているとでも……」ラオモトはイタミニンジャ・クランの構えを捨て、オーソドックスなジュー・ジツの構えに戻る。
posted at 22:53:30

(((今だフジキド!一気に勝負を付けるのだ!)))ナラク・ニンジャの戦術指南を受けたニンジャスレイヤーは、大シャチホコを蹴って三角飛びを繰り出し、イナズマめいたトビゲリを繰り出す!「イイイヤアアアーッ!」だがここでラオモトは、両腕をカニのように広げ、不気味な中腰の戦闘姿勢を取る!
posted at 22:56:09

「ムハハハハ!もらった!」ラオモトはそのままドゲザめいた姿勢を取り、メキシコドクサソリの尾のように足を高く伸ばして、トビゲリしてくるニンジャスレイヤーを撃墜した!「グワーッ!?」回避が間に合わない!ニンジャスレイヤーは交錯時にわき腹に痛烈な蹴りを打ち込まれた!アバラが数本折れる!
posted at 22:58:20

ニンジャスレイヤーは激痛をこらえながら前方回転でラオモトと距離を取る。両者はカラテの構えで向き合った。(((フジキドよ、何とウカツな!あれはサソリニンジャ・クランの必殺技!スコルピオンとの戦いを忘れたのか!馬鹿めが!)))(((ナラクよ、次はせいぜい早くそれを見抜くことだな)))
posted at 23:01:11

しかし、サソリニンジャ・クランのジツでもニンジャスレイヤーを殺しきれなかったことには、ラオモトにとって痛手であった。彼はすでに三個のニンジャソウルのジツを使い切ってしまったからだ。「ヌウウウウーッ!」ラオモトは両手を横に広げた新たな構えを取り、その場で小さく跳躍を始める!
posted at 23:10:39

(((ナラクよ、あの構えは?)))ニンジャスレイヤーが脂汗を滲ませながらニューロンの中で問う。(((あの構えは見覚えがある……ツルニンジャ・クラン…?いや、トブニンジャ・クラン…?昔の事過ぎて、思い出せぬわ)))ナラクが答えた(((いずれにせよ足技よ。奴は左手を失ったがゆえ)))
posted at 23:32:27

ラオモトは上空十数メートルの高さへ跳躍!そしてヘルカイトの胸板を蹴りながら空中反転すると、恐るべき勢いで急降下攻撃を繰り出した!「イヤーッ!」さらにラオモトの足裏に仕込まれたダイヤモンドチタン製の仕込みスパイクが展開される!(((フジキドよ!これはモズニンジャ・クランだ!)))
posted at 23:59:15

【NINJASLAYER】
posted at 00:00:09

(親愛なる読者の皆さんへ:本日はクライマックス手前の翻訳に興奮した担当翻訳者が、終始ビールを飲みながら半泥酔状態で作業を進めたため、あらぬ場所で宣伝コピペが入る、ケジメ級の誤字脱字が続く、など数々の問題が生じました。深くお詫び申し上げます。担当翻訳者は急遽、メキシコへ送られます)
posted at 00:05:05

【無意味】 翻訳チームから皆さんへ息抜きスクリプト「カワイイヤッター」をご提供いたします。あなたがニンジャとなってミッション重点。なおこの「カワイイヤッター」は、本編、原作者とは一切の関係がありません。 http://shindanmaker.com/124861 【アソビ】
posted at 00:06:42

RT @gen_jitsu: #NJSLYR 「荒れ狂う」「因果応報」 フランスのヤンク・ハードコアバンドが忍殺に登場しそうな感じでスゴイ 日本の漫画に影響されて大マジメに学ラン着て演奏してる http://www.myspace.com/riseofthenorthstar
posted at 18:59:31

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #19

110601

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #4「ダークダスク・ダーカードーン」 #6
posted at 22:22:56

「ヌウウーッ!」ラオモトの背中に浮かんでいた光球の群、すなわちカラテ・ミサイルが、死の流線型を描きながら上空に磔にされたニンジャスレイヤーへと次々に飛んでゆく!ZAP!ZAP!ZAP!ZAP!ZAP!耳をつんざくような高速射出音!これぞラオモトの最後の切り札、ヒサツ・ワザである!
posted at 22:26:39

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはグラップルから脱出すべく、背後のヘルカイトに対して力任せにエルボーを叩き込み続ける!CRAAASH!!頭蓋骨がついに砕けるが、ヘルカイトのニンジャ筋力は衰えない!「アバッ!ラオモト=サン!アバーッ!」カラテ・ミサイルが迫る!!
posted at 22:30:19

(((カラテ・ミサイルは自動追尾!今ここでヘルカイトを殺しても間に合わぬわ!)))ナラク・ニンジャは、フジキドの肉体を再び強引に奪った!(((何をする、ナラク?!)))意図を読めず困惑するフジキド!一瞬にして彼の体はナラクの手に落ち、両の瞳は燃え盛るセンコのごとく細く赤く変じた!
posted at 22:34:41

「イイイヤアアァァーッ!!」ナラク・ニンジャは、自らの魂をグラインダーで削るかのるような壮絶な叫びを発しながら、空中で両手両脚を×の字に交差させた!ナムサン!カラテ・ミサイルの命中まであと1メートル!瞬時に両手両脚が黒いヘルファイアに包まれ、フジキドの肉体を護る炎の盾を成す!
posted at 22:42:16

ZAP!ZAP!ZAP!ZAP!握りこぶし大の光球が次々と黒い炎の盾に命中し、爆ぜて消える!!「ヌウウウウウウーッ!!」ラオモトは目を血走らせながら、両腕を空中に向けて突き出し、さらにカラテを集中させる!ジツを使い終えた他の6ソウルからも、残った力をすべて搾り出すつもりなのだ!!
posted at 22:46:14

ラオモトの背中から、カラテ・ミサイルがとめどなく生み出される!0.1秒たりとも途切れぬ連続射出!ニンジャスレイヤーとヘルカイトの視界は光の線によって飲み込まれてゆく!次第に炎の盾に綻びが生じ、体の前で組んだ両手両脚の物理的ガードすらも超え、フジキドの体に命中し始めた!
posted at 22:56:50

「グワーッ!」凄まじい激痛!一発一発が雷撃のようなショックをもたらし、物理的衝撃もラオモトの渾身のストレートに匹敵する重さ!それが数百発単位で撃ち込まれているのだ!「イイイヤアアアアーッ!」ナラクもまた、己のソウルを限界まで振り絞る!腕や脚から流れた血が、黒鉄の盾を形成してゆく!
posted at 22:59:57

「アッ!アバッ!アババアババアババッ!!」ナラク・ニンジャの手足を包む黒い炎と、カラテ・ミサイルの流れ弾によって、ヘルカイトの腕が焼け焦げ炭と化してゆく!「アバババババババババババーッ!!!」ついに、彼は穴だらけになった凧ごと斜め上方に弾き飛ばされ、さらに流れ弾が全身に命中する!
posted at 23:03:20

「アイエエエエエエエ!!」カラテ・ミサイルの直撃を受け、ヘルカイトは空中で死のダンスを踊る!一発ごとに骨が砕け、肉が焼けただれ、臓器が破壊されてゆく!まさにネギトロ!「…サヨナラ!!」壮絶な爆発四散!ニンジャスレイヤーも、炎と鉄の護りが失われれば、たちまち同じ運命を辿るだろう!!
posted at 23:07:22

「イイイヤアアァァーッ!!」ナラクは防御姿勢を解かず、暗黒カラテを振り絞る!ヘルカイトの束縛からは脱していたが、斜め下から絶え間なく射出され続けるカラテ・ミサイルの猛攻によって、物理的に空中に浮かび上がっているのだ!「ヌウウウウウーッ!!」ラオモトも吐血しながら精神集中を続ける!
posted at 23:12:21

「イイイヤアアァァーッ!!」「ヌウウウウウウーッ!!」壮絶なソウルとソウルの激突!!ミヤモトマサシならば、この光景を見て何というコトワザを詠むであろう?!ナムアミダブツ!ゴウランガ!ブッダ!ナムサン!次第に鉄の盾にも穴が開き、再びフジキドの体をヒサツ・ワザが襲う!「グワーッ!!」
posted at 23:16:43

ニンジャスレイヤーの体が、死のダンスを踊り始める!「イイヤアアァァーッ!!」ナラクはなおも!なおも!自らのソウルすらも省みず!フジキドの肉体を護るべく黒い炎と血の盾を生み出し続ける!そしてヒサツ・ワザの開始から1分後……永劫とも思えるような時間の果てに……ついに決着の時が訪れた!
posted at 23:20:26

「グワーッ!!」ナラクが断末魔めいた叫びを放つ!両目がフジキドの黒目に戻り、炎と黒鉄は血の霧と化して消滅!ナムアミダブツ!!「グワーッ!!」だが同時に、ラオモトもまたニンジャソウルの力を枯渇させ、その場にくずおれ吐血した!制御を失った十数個のカラテ・ミサイルが四方八方に飛散する!
posted at 23:25:18

絶叫もないまま、ぼろぼろのジョルリのように、ニンジャスレイヤーは頭から黄金カワラ屋根へと墜落した。そしてうつぶせに倒れ、血みどろの手足をピクピクと痙攣させる。赤黒いニンジャ装束は数百年の時を経た骸布のごとくぼろぼろになり、再生すらもかなわない。
posted at 23:28:18

「ム……ムハハハハハ!勝った!!」ラオモトは立膝状態からゆっくり立ち上がり、動く死体のようにぎこちなくニンジャスレイヤーへと近づいてくる。カイシャクを行い、全てに終止符を打つために。「このワシを……デモリッション・ニンジャを……ソウカイ・シンジケートの首領を、殺せると思うたか!」
posted at 23:32:46

だがその時、ラオモトの目に信じがたい光景が映る。ニンジャスレイヤーもまた、大きな吐血とともに辛うじて息を吹き返し、糸につられたジョルリのごとくその身をもたげたのだ!そして酔歩するようなブザマな動きでジュー・ジツを構え、ラオモトにすり足で接近してゆく!「ニンジャ……殺す…べし……」
posted at 23:35:12

「「イヤーッ!」」666ラウンドを戦い抜いたボクサー同士のごとき、力無きカラテの応酬が始まった!ブッダもご照覧あれ!!いまやこの2人のニンジャは、肉体の限界とニンジャソウルの限界をとうに超え、精神力のみで動き続けているのだ!!ロウソク・ビフォア・ザ・ウィンドのコトワザの如く!!
posted at 23:40:17

「イヤーッ!」ラオモトの顔を狙ったニンジャスレイヤーのストレートが真横に逸れ、そこへラオモト自身ももつれて転倒しそうな前蹴りが命中!「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは腹を押さえてよろめきながら歩き、ラオモトの背中へとチョップを叩き込む!「イヤーッ!」「グワーッ!」
posted at 23:43:16

「オゴーッ!」ラオモトは苦痛にあえぎ、のけぞりながらグルグルとその場を回る。急性バリキ中毒者のように目玉は回転し、視線が定まらない。それはニンジャスレイヤーも同じだった。前かがみになり腹を押さえながら、吐血を繰り返してよたよたと酔歩する。少しでも気を抜けば、顔が黄金カワラに沈む。
posted at 23:47:09

タタミ3枚分ほど離れた場所で向かい合うと、2人は再びジュー・ジツを構える。ほとんど、構えの体をなしていない。トチノキにも笑われるほどブザマなカラテだ。だが、彼ら2人を笑える者はいないだろう。よたよたと相手に向かって駆け込み、顔面を狙った前蹴りを同時に繰り出す!「「グワーッ!」」
posted at 23:49:57

両者の視界がスパークする。LAN直結ハッキングされてニューロンを焼き切られる犠牲者が死ぬ寸前に見るという、無限の星空のごとき世界が視界いっぱいに広がる。両者は再びよろめき、8の字を描くようによたよたと歩き回る。あと一発、先に決めたほうが勝利するだろう。先に復帰したのは…ラオモト!
posted at 23:55:10

「ヌウウウウーッ!」ラオモトは体勢を整える間も惜しみ、最後の力を振り絞ると、ニンジャスレイヤーの顔面を蹴り上げて首を切断すべく殺人的キックを繰り出した!ナムサン!だが、フジキドも無策ではない!彼はあえて頭を上げず、無防備な姿勢をさらしたまま、チャドーの呼吸を整えていたのだ!
posted at 23:59:48

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの右手がほぼ無意識のうちにすっと動き、ラオモトのキックを受け止めた。ゴウランガ!そしてニンジャ握力をこめ、右足の甲を掴む。「ヌウウーッ!?」片足を取られ、ブザマに姿勢を崩すラオモト!「イヤーッ!」フジキドの蹴りがラオモトの左膝を破壊!「グワーッ!」
posted at 00:03:03

ラオモトの膝があり得ない方向に折れ曲がる!勝機!フジキドは握っていた右足を離し、その右膝へと蹴りを放つ!「イヤーッ!」「グワーッ!」右肩!「イヤーッ!」「グワーッ!」左肩!「イヤーッ!」「グワーッ!」四肢を破壊されたラオモトは、糸の切れたジョルリのように無防備に立ち尽くす!
posted at 00:06:08

「殺す…べし*」ニンジャスレイヤーはラオモトに体の正面を向けたまま、すり足でゆっくりと後ずさる。ラオモトの目には、それが何を意味しているのかすぐに解った。フィニッシュムーブを繰り出すための助走距離を作っているのだ。「待て…ワシの負けだ…!貴様の望むものをやろう!」精神的ドゲザだ!
posted at 00:09:05

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posted at 00:09:16

「ヒッ!」暗い座敷牢の中で、何かを感じ取ったかのように、痩躯のニンジャの体がびくりと痙攣する。背中の肉を吊った何本もの細いフックと鎖、それらを天井や壁で繋ぎ交錯させ、蜘蛛の巣のように複雑怪奇に繋ぐ滑車の数々が、キイキイ、チャリチャリと鳴った。ボンボリの炎が不気味に揺らめく。
posted at 00:14:51

タタミの上30センチの場所に吊られたそのニンジャは、ヨガ業者めいた姿勢で細く長い両脚を肩の上から前に出し、手の指先と合わせた二十本の繊細な指で、タタミの上に敷かれた花札タロットの表面を撫でた。そして、一枚をめくる。「…禿山にドラゴン…」赤い翼を広げる竜が、黒い山の上を舞っていた。
posted at 00:18:25

そのニンジャは黒目がちな瞳をぎらぎらと輝かせて、2枚目のカードをめくる。「……塔……」。そして最も重要な3枚目。「……逆位置の……ライオン……」
posted at 00:20:08

薄暗い広間に十数人のニンジャが正座し、占いの光景を3Dボンボリモニタを通して見守っている。一座の首領が座るべきキモンの方角には、ミコシめいた平安風玉座……果たして彼は何者か!?その顔は紫色の高貴なノレンに覆い隠され、窺い知ることはできない。ただ、純白の手袋をはめた手だけが見える!
posted at 00:25:20

「……かかれ……」その正体を秘匿するエフェクト過多な電子音声が、ノレンの暗闇の向こうから静かに漏れ出した。直後、十数名のニンジャが一斉に散る。ビュウ、という死の風がフスマの隙間から忍び込み、キョート城の風鈴をしめやかに鳴り響かせた。
posted at 00:29:57

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posted at 00:30:12

「ラオモト=サン……何が欲しいかだと……?」ニンジャスレイヤーは、無慈悲なジュー・ジツの構えを取りながら訊く。「そうだ!望むもの全てをくれてやる!あのコーカソイド女は犯してはおらん!ソウカイヤが望みか!?力か!?金か!?何があれば、お前の復讐心を鎮められる!?何だ!?」
posted at 00:32:01

あの暗黒の帝王、ラオモト・カンが、ここまでブザマな姿をさらすとは……。フジキドの心に一瞬の迷いが生じた。一瞬、彼のニューロンに、隠し部屋で見た子供の顔が浮かびかけたからだ。「私が……求めるものは…!」ニンジャスレイヤーは、憎悪の炎でその記憶を塗りつぶした。「……オヌシの命だ!」
posted at 00:34:15

「Wasshoi!Wasshoi!Wasshoi!ニンジャ、殺すべし!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは無防備に立ち尽くすラオモトへと駆け込み、全身全霊をこめたトラースキックを放つ!「グウウウウウウウウワアアアアアアアーーーーーッ!」ラオモトの体がワイヤーアクションめいて吹っ飛ぶ!
posted at 00:35:59

弾丸のように弾き飛ばされたラオモトの体は、天守閣のカワラ屋根から水平方向に数十メートル真横に飛び、2秒ほど空中に浮いた。ラオモトの目と、天頂に浮かぶ髑髏めいた満月の目が合う。「インガオホー」月が確かにそう言い放った。直後、ラオモトの体は落下する。四肢が破壊され、身動きが取れない!
posted at 00:38:37

「ヌウウウウウーッ!おのれーッ!ニンジャスレイヤー!このワシが!このワシがーッ!?」ラオモトの体は仰向けの姿勢で、数百メートルの距離を落下してゆく!「アグッ!!」そして停止!ラオモトは背から心臓を貫通する剣を見た。トコロザワピラーの前で、ミヤモトマサシ像が天に向かって掲げる剣を!
posted at 00:42:39

インガオホー!ネオサイタマの闇の帝王ラオモト・カンは、自らが崇拝するミヤモトマサシ像の剣によって心臓を串刺しにされ、最期の時を迎えたのである!!「ヌウウウアアアーッ!!サ!ヨ!ナ!ラ!!」直後、猛烈な爆発が夜のネオサイタマを照らした!ついにフジキドのインガオホーは果たされたのだ!
posted at 00:46:23

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #4「ダークダスク・ダーカードーン」 #6終わり #7へ続く
posted at 00:47:15

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
posted at 11:57:39

NJSLYR> ネオサイタマ・イン・フレイム #20

110602

第一巻「ネオサイタマ炎上」 最終エピソード「ネオサイタマ・イン・フレイム」  #4「ダークダスク・ダーカードーン」 -7
posted at 11:58:44

フジキドは激しい苦痛にニューロンを揺さぶられた。そして目を開いた。目に入ったのは天井、蛍光灯。安アパートの内装。「……殺すべし……?」フートンを跳ね除け身を起こす。朝?台所から漂ってくるミソスープの匂い。ここは。
posted at 12:03:46

フジキドは己の身体を見下ろす。包帯。適切な処置が施されている。どこだ。いや、ここは。わかる。「お目覚めかしら」台所からアガタが顔を見せた。「アガタ=サン。これは……私は」アガタは静かな笑みをたたえて頷く。
posted at 12:06:51

「私は……どうやってここへ」「あなたって、いつもこうなのかしらね」アガタはコブチャをフートンの脇に置きながら穏やかに言った。「でも、何があったのかは訊かないわ、今は」「ラオモト……」フジキドはぼんやり呟いた。アガタはかぶりを振った。「終わったのよ、きっとね」「……終わった……」
posted at 12:12:02

フジキドの脳裏を、壮絶極まる最後のイクサの映像の断片が駆ける。トコロザワ・ピラー天守閣から真っ逆さまに落ちてゆくラオモト。その映像はスローモーションになってゆき、やがて停止する……そして視界は暗転し……終わった……?終わったのか。フジキドは呆然とした。
posted at 12:31:35

いや。フジキドは謎の二人のニンジャとともに不敵に消えたダークニンジャを思う。終わってなどいない。なんの落ち度もないフジキドの妻子に直接手をかけたのはダークニンジャだ。ドラゴン=センセイを殺したのも。必ず探し出し、復讐する。探し出して殺すべし。惨たらしく。殺すべし。
posted at 12:34:46

「怖い顔をしているわ」アガタの言葉にフジキドは我に返る。「……ドーモ」「終わったのよ。きっと。何もかも」「何もかも……」「恐ろしいことはもう終わりにして、ゆっくり休んで、そしてあなたの人生を取り戻しなさい」「私の人生?」アガタはフジキドの目を見た。どこか超然としたその瞳……
posted at 12:38:06

「あなたは充分すぎるほどに苦しんだ」「……」「充分すぎるほどに」「……」「あなたの人生を取り戻しなさい」……人生を取り戻す……フユコ……
posted at 12:44:42

「ニンジャスレイヤー!」「グワーッ!」「shit、このままじゃ……」「グワーッ!」「許してよね。これしかない」首筋に針の痛み。瞬時に歪んだ活力が血中を駆け巡り、ニューロンを激しく刺激する。「ヌウッ!」ニンジャスレイヤーはバネじかけめいてジャンプしながら覚醒した!
posted at 12:52:05

「ナンシー=サン!?」ニンジャスレイヤーはナンシーを見た。ナンシーは注射針を捨て、肩をすくめた。「ご名答」
posted at 12:59:54

「ここは……天守閣だな。そのままか。そうか」ニンジャスレイヤーは素早く状況判断した。「悪いわね。今打ったのはズバリ・アドレナリン……あなた、インプラントも無いし、ナチュラリストか何かかも知れないって、ちょっとね」「いや、助かった。感謝する」ニンジャスレイヤーは礼をし、「時間は」
posted at 13:06:38

「もうすぐ夜が明ける」ナンシーは言った。「悪いけど、もうひと頑張り要るわ。ここから逃げなきゃいけない」「……」「デッカーがこのトコロザワピラーを制圧にかかっている」「デッカーか」「色々とイタズラさせてもらったし、そのせいかしらね?」
posted at 13:19:34

「ナンシー=サン」ニンジャスレイヤーは唐突に訊いた。「私は……やったのか」一瞬の沈黙。ナンシーは天守閣の屋根のへりを示す。踏み砕かれた黄金カワラが道めいて、ラオモトを蹴り落とすまでの道筋を無言で示唆している。ニンジャスレイヤーはそこを歩き、はるか下を見下ろした。
posted at 13:26:41

フジキドのニンジャ視力は確かに認めた。爆散したミヤモト・マサシ像。そして、それらに紛れて散乱する、惨たらしく四散した人体を。ラオモトの死のしるしを。「……インガオホー」同時に、周囲に展開する武装デッカーや漢字サーチライト、ヤブサメ、ケンドー機動隊のボンボリ……「成る程な」
posted at 13:32:41

「どうしたものか、ってところだけど。考える時間もあまり無いわ」ナンシーが隣に立った。ニンジャスレイヤーは答えようと口を開きかけた……その時だ。
posted at 13:55:25

遠方で空が光った。マルノウチ?ニンジャスレイヤーは目を凝らした。スゴイタカイビル!炎につつまれている。高層階が爆発炎上したのだ。松明めいて燃え上がるスゴイタカイビルに己の体験をフラッシュバックさせる時間も無く、今度はカスガ区で爆発炎上の火柱!カブーン!「何が!?」
posted at 14:01:17

次は……トコシマ区!まるで狼煙めいて、方々で次々に上がってゆく爆発炎上の火柱と黒煙!ナムアミダブツ!一体この古事記アポカリプスめいた光景は!?「わかっていると思うけど、私の計画じゃないわよ」冗談めかして言ったナンシーの声は震えていた。するうち、さらにまた遠方で爆発炎上!
posted at 14:05:34

不気味に照らし出されるネオサイタマの空。それは夜明けの徴ではない。ソウカイ・シンジケートの崩壊に呼応するかのような、この光景……ゲイトキーパーの詭弁がフジキドの脳裏をよぎる。フジキドの復讐は統治機構のバランスを崩し、ネオサイタマを巻き込みインガオホーしたのだろうか?
posted at 14:41:04

それを考えはすまい。フジキドに後悔は無い。すべき事を、すべき時にした。それだけだ。後悔など死んでからすればよい……では、これからは?これから彼はどうするのか。
posted at 14:47:52

ダークニンジャだ。ダークニンジャを追い、殺す。夢での自問自答の再現だ。……では、その後は?ダークニンジャを殺し、その後は。その次は?「あなたは充分過ぎるほどに苦しんだ」。夢の中でアガタが発した言葉はフジキドの意志をすり抜け、ニューロンの深淵へ沈んでいった。
posted at 14:51:32

ネオサイタマが。炎上している。
posted at 14:51:50

第一巻「ネオサイタマ炎上」完
posted at 14:52:37

-------
posted at 15:26:04

(ブラッドレー・ボンドによる第一話の後書き)
posted at 15:26:37

私はナチョ・スシを自分で用意する。友人のイタマエ、ヒロ=サンのゼンめいた手つきには遠く及ばないが、少なくとも腹はふくれる。そしてコブチャを飲みつつ、最後のセンテンスを書き上げる。ナムサン。フジキド同様、わたしもこうして、何も片付いていない状況で次の朝を迎えつつあるわけだ。
posted at 15:29:49

フジキドは枕元に夜な夜な立ち、悩ませる。もっと先へ。早く。早くわたしの未来を記せ。そうネンブツしてくるのだ。
posted at 15:31:31

知っての通り本書は長大なサーガ「ニンジャスレイヤー」の断片を編纂し、ラオモト・カンとの決着がつくまでの一区切りを第一巻ないし第一話と銘打ったシリーズである。一「巻」などといいつつ、なんともインガオホーだ。
posted at 15:33:45

もう一つ我々を悩ませる問題がある。トラッフルホッグ!君は決戦の数日前にソウカイヤに加わったばかりの新人なのか?それとも少なくとも暫くはスカウト担当としてレオパルドらを見出した末端エージェントであったのか?いや、いい。私は気にしない。読者の皆さんもその種の矛盾は気にしないだろう。
posted at 15:45:53

第二話において果たしてダークニンジャの謎は解けるのか。フジキドの復讐の行方は。遂に姿を明らかにしたザイバツ・シャドーギルド。そして僅かに姿を見せたジェノサイドやヤモトはフジキドとを交えるのか?わかっている事もあるし、わからぬ事もある。いや、モーゼスは知っているやも?ナムサン!
posted at 16:01:57

とにかく我々は、背後に立つ謎のニンジャソウルがなかば脅しめいて語るサーガを、書いては出し、書いては出して、のちに、それらを死にそうになりながら編纂するばかりだ。命とスシの続く限り!読者の皆さんにも、もうしばらくお付き合いいただこう。
posted at 16:04:20

第二話「キョート殺伐都市」は、第一話「ネオサイタマ炎上」ラストシーンの三分後から幕を開ける事になるだろう。で、あるからして、貴方も是非、ニューロン時間を停止させてお待ちください。……Wasshoi! (某日、ブルックリンの自宅にて)
posted at 16:22:55

■■取説■■ (翻訳チームより)皆さんの暖かいお力添えの甲斐あって、当アカウントは無事、第一話「ネオサイタマ炎上」のラストエピソードを完了致しました。直接フォロワー数1500人超、推定読者数は約57万人に達しているもようです。 ■■初見■■
posted at 17:09:21

■■取説■■ この機会に、当アカウント「ニンジャスレイヤー」をご存知ない方、最近知ったという方へ、取扱説明書的なツイート重点させていただきます。 ■■初見■■
posted at 17:11:54

■■取説■■ 当アカウントでは、B・ボンドとP・モーゼスの共著「ニンジャスレイヤー」の日本における全ての権利を取得し、Twitter上で翻訳物の連載を行っています。フォローすることにより、あなたのTLには興奮するニンジャ・アトモスフィアがシナジーします。 ■■初見■■
posted at 17:14:24

■■取説■■ 掲載は「エピソード連載」という形をとっています。エピソードが始まると、#1,2,3,4……と進みます。そのエピソードが完結すると、新たなエピソードの連載がまた#1,2,3,4...と始まります。 ■■初見■■
posted at 17:26:37

■■取説■■ 翻訳チームは2ユニット存在しているため、基本的に、2つのエピソードが同時に並行して連載されている状態となります。(先程まで一ヶ月に渡り連載された1話の最終エピソードは、最終テンション重点のため、並行連載方式は一時的にストップしていました。) ■■初見■■
posted at 17:30:03

■■取説■■ 各エピソードは時間軸がバラバラです。これは「蛮人コナン」をリスペクトしたパルプ的な神話的方式です。たとえば最初にTwitter上に掲載された「ゼロ・トレラント・サンスイ」は、後に掲載された「ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ」よりも後の出来事です。 ■■初見■■
posted at 17:38:00

■■取説■■ エピソードの時系列をあえて不統一にしているのは原作者の意図であり、かつ、Twitterにおける連載方式にも非常に適した方法であります。どのエピソードからも読める、そして同時に、他のエピソードとの繋がりを踏まえるとより深い事実が見える、という仕組みです。 ■■初見■■
posted at 17:49:01

■■取説■■ (もちろん、単一のエピソード内で、作品演出・進行上の意図と無関係なシャッフルが行われるような事は、一切ありません。) ■■初見■■
posted at 17:52:43

■■取説■■ 連載済みのエピソードは、国内公式サイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」に単行本めいてリンクされていきます。 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ (有志の方によるトゥギャッタまとめを使わせて頂いており、大感謝の極みです) ■■初見■■
posted at 18:38:37

■■取説■■ リアルタイム連載中の実況等に、公式ハッシュタグ #njslyr をご活用ください。 ■■初見■■
posted at 18:45:56

■■取説■■ 当アカウントには「@によるリプライに個別に返信する事ができない」という鉄のオキテがあります。しかし頂いた暖かい@お言葉は涙を流して感謝しつつ受け取っております。本当に本当にありがとうございます。☆も一日150回目視チェックするシステムを構築しています。 ■■初見■■
posted at 18:51:46

■■取説■■ 当アカウントはより多くの方に認知されたい欲求を持ちます。「これは」と感じたツイートをRTすると翻訳オフィスでキャバァーン音が鳴り、ボーナススシが翻訳チームに補給されるシステムが構築済です。フォロワー数増加は皆さんのおかげです。大変ありがとうございます。 ■■初見■■
posted at 19:10:54

■■取説■■ 当アカウントの「お気に入り」欄は資料アーカイブです。見ていただくと現時点で130人を超えるニンジャがファイルされていることがわかるでしょう。なおこれは翻訳チーム独自の文書であり、本編との矛盾が出た場合は名鑑が単に原典参照ミス等の間違いでありケジメです。 ■■初見■■
posted at 19:18:42

■■取説■■ 【NINJASLAYER】←と連載中に呟く事があります。これはスシ切れ等のインシデントにより連載中途で翌日へまたがる中断が起こる場合に表示されます。これが出たらそのエピソードは当日の更新はありません。(これを出す事すらできず力尽きる場合もあります) ■■初見■■
posted at 19:32:15

■■取説■■ コンベンションでの当日版権:コンベンションでのニンジャスレイヤーをテーマとした二次創作・ファンジンの販売は、原作出典として当アカウントと国内公式サイトURLを明記して頂ければ自由にやっていただいて大丈夫です。当方への許可取りは特に要りません。 ■■初見■■
posted at 19:59:14

■■取説■■ 商業作品としての展開は、当翻訳チームが日本国内におけるニンジャスレイヤー全権利を所持していますので、当方へまずご連絡ください。 ■■初見■■
posted at 20:01:15

■■取説■■ では本日これより第二話「キョート殺伐都市」エピソードの更新を開始します。(なお、引き続き第一話エピソードの更新も今後も行われる予定です。お楽しみに)Wasshoi! ■■初見■■
posted at 20:08:30

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posted at 20:17:15

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